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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】端子材料および端子
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20240325BHJP
   C25D 3/46 20060101ALI20240325BHJP
   C25D 3/64 20060101ALI20240325BHJP
   C25D 5/10 20060101ALI20240325BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20240325BHJP
   C25D 15/02 20060101ALI20240325BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D3/46
C25D3/64
C25D5/10
C25D5/12
C25D15/02 H
C25D15/02 J
H01R13/03 A
H01R13/03 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022151505
(22)【出願日】2022-09-22
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】鶴 将嘉
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】桂 翔生
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘高
(72)【発明者】
【氏名】湖山 貴之
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0032479(US,A1)
【文献】特開平06-272090(JP,A)
【文献】特開2021-119257(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0254231(US,A1)
【文献】特開平10-223290(JP,A)
【文献】特開2013-129902(JP,A)
【文献】特開2014-118632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00~18/54
C23C 24/00~30/00
C25D 3/46
C25D 3/64
C25D 5/10~ 5/12
C25D 7/00~ 7/12
C25D 15/00~15/02
H01M 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金からなる母材と、Ni、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上から構成される1層以上である下地層と、銀含有膜とをこの順に有し、
前記銀含有膜は、銀を50質量%以上含む銀めっき層と、前記銀めっき層に接触させた円相当直径が50μm以下の非導電性有機化合物からなる粒子と、を含み、
下記微摺動摩耗試験を施したときの銀含有膜側表面の接触抵抗が1mΩ以下であ
前記非導電性有機化合物が、単位分子構造内に、カルボニル基(-C(=O)-)を含み、かつ環構造を有しない、端子材料。

微摺動摩耗試験:試験対象の前記端子材料と、当該端子材料の銀含有膜側表面に対して曲率半径R=1.8mmの半球状の突起を形成した相手材と、を準備し、前記相手材の前記突起を有する表面を、前記試験対象の前記端子材料の銀含有膜側表面に対し、印加する垂直荷重:3N、摺動距離:50μm、摺動速度:100μm/秒で往復摺動させることを1サイクルとして、10000サイクル摺動させる。
【請求項2】
前記銀めっき層は銀を90質量%以上含む、請求項1に記載の端子材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の端子材料を用いた端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は端子材料および端子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車軽量化に伴い、自動車に使用されるワイヤハーネスの使用量を低減することが求められている。例えば、エンジン、モーターなどの機器を、それらを制御する電子部品(「ECU」と称する)に直接接続することで、ワイヤハーネスを低減できる。
【0003】
エンジンおよびモーターなどの機器は、激しく振動するため、接続に使用されるコネクタおよびそれを構成する端子は激しい振動にさらされる。振動により、端子において微摺動摩耗(すなわち、微小な摺動が繰返されて接点のめっき等が摩耗する現象)が生じ得る。近年の端子の小型化による接圧の低下および振動環境の悪化により、微摺動摩耗が生じる可能性はさらに高まっている。
【0004】
微摺動摩耗に対して、特許文献1は、銅合金の母材を粗面化し、その上にNiめっき、Cuめっき、及びSnめっきを施してリフロー処理を行い、所定のCu-Sn層をSn層表面に露出させる技術を開示している。この技術によれば、微摺動摩耗が生じにくくなるものの、いったん微摺動摩耗が生じると素材露出まで至りやすいおそれがある。
【0005】
耐摩耗性を向上させるために、Agめっき膜の適用も検討されている。古くからAgめっき膜の高硬度化による耐摩耗性の改善を目的とし、
(1)結晶粒微細化によるAgめっき膜の高硬度化
(2)Agと、Se(セレン)またはSb(アンチモン)等との合金化による高硬度化
等の検討が行われている。しかしながら、上記(1)および(2)のいずれの手法によっても微摺動摩耗に対しては効果が不十分である。また、SeおよびSbは有毒な元素であり、管理に注意を要するうえ、合金化に伴って導電性の低下を招くという問題もある。
【0006】
また、めっき膜の高硬度化以外の着想による耐摩耗性の改善も種々検討されており、主には、非特許文献1および2に開示されるように、
(3)炭素系粒子のAgめっき膜中への共析(分散めっき)による耐摩耗性の改善
の検討も行われている。これらの検討には、主に固体潤滑剤として作用するグラファイト、カーボンブラック(CB)、又はカーボンナノチューブ(CNT)が用いられてきた。実際、非特許文献1においては、Agめっき液中にグラファイト粒子を懸濁させてめっき処理を行ったAg-グラファイト複合めっき膜により、Agめっき膜だけでなく、硬質Ag-Sb合金めっき膜と比較しても良好な耐摩耗性を実現できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-208904号
【非特許文献】
【0008】
【文献】まてりあ、第58巻、第1号(2019)、p41-43
【文献】表面技術協会、第81回講演大会要旨集、27A-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1および2に開示されるような上記(3)に係る先行技術では、炭素粒子分散めっきを端子材料に適用して摺動(挿抜)を繰り返すと、接点部の摩耗に従ってめっき膜中に保持されていた炭素粒子が脱落し得る。炭素系粒子は良好な導電性をもつため、端子表面から脱落して接点周囲に堆積すると、接点の短絡を招くおそれがある。また、上記(3)に係る先行技術では、微摺動摩耗を十分に抑制できないおそれもある。
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、導電性粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制でき、かつ十分な耐微摺動摩耗性および導電性を有する端子材料および端子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様1は、
銅または銅合金からなる母材と、Ni、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上から構成される1層以上である下地層と、銀含有膜とをこの順に有し、
前記銀含有膜は、銀を50質量%以上含む銀めっき層と、前記銀めっき層に接触させた円相当直径が50μm以下の非導電性有機化合物からなる粒子と、を含み、
下記微摺動摩耗試験を施したときの銀含有膜側表面の接触抵抗が1mΩ以下である、端子材料である。

微摺動摩耗試験:試験対象の前記端子材料と、当該端子材料の銀含有膜側表面に対して曲率半径R=1.8mmの半球状の突起を形成した相手材と、を準備し、前記相手材の前記突起を有する表面を、前記試験対象の前記端子材料の銀含有膜側表面に対し、印加する垂直荷重:3N、摺動距離:50μm、摺動速度:100μm/秒で往復摺動させることを1サイクルとして、10000サイクル摺動させる。
【0012】
本発明の態様2は、
前記銀めっき層は銀を90質量%以上含む、態様1に記載の端子材料である。
【0013】
本発明の態様3は、
前記非導電性有機化合物が、単位分子構造内に、カルボニル基(-C(=O)-)を含み、かつ環構造を有しない、態様1または2に記載の端子材料である。
【0014】
本発明の態様4は、
態様1~3のいずれか1つに記載の端子材料を用いた端子である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、導電性粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制でき、かつ十分な耐微摺動摩耗性および導電性を有する端子材料および端子を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態に係る端子材料の一例の模式断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る端子材料の他の一例の模式断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る端子材料の他の一例の模式断面図である。
図4図4は、No.1の端子材料の耐微摺動摩耗性評価結果である。
図5図5は、No.2の端子材料の耐微摺動摩耗性評価結果である。
図6図6は、No.3の端子材料の耐微摺動摩耗性評価結果である。
図7図7は、No.4の端子材料の耐微摺動摩耗性評価結果である。
図8図8は、No.5の端子材料の耐微摺動摩耗性評価結果である。
図9図9は、No.6の端子材料の耐微摺動摩耗性評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、導電性粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制でき、かつ十分な耐微摺動摩耗性および導電性を有する端子材料を実現するべく、様々な角度から検討した。その結果、銀めっき層と、銀めっき層に接触(担持)させた円相当直径が50μm以下の非導電性有機化合物からなる粒子と、を含む銀含有膜、を有する所定の層構成にすることにより、十分な耐微摺動摩耗性および導電性が得られることを見出した。これは、微摺動(およびそれによる発熱等)により、例えば非導電性有機化合物の一部が分解して端子材料表面近傍に拡散移動し、及び/又は、非導電性有機化合物の一部が端子材料表面近傍の銀めっき層と反応し、端子材料表面近傍の摩擦係数を下げる等により、耐微摺動摩耗性が高まるためであると考えられる。なお、当該分解物及び反応物は少量であり、端子材料の導電性を低下させないと考えられる。また、非導電性有機化合物は、膜形態ではなく粒子形態で銀めっき層に接触していることにより、銀めっき層が端子材料表面に露出し得るため、端子材料としての初期の導電性も維持できる。
以上により、導電性粒子の脱落による接点の短絡のおそれを十分に抑制でき、かつ十分な耐微摺動摩耗性および導電性を有する端子材料を実現することができた。
なお、上記メカニズムは、本発明の実施形態の技術的範囲を制限するものではない。
【0018】
以下に、本発明の実施形態が規定する各要件の詳細を示す。
【0019】
本発明の実施形態に係る端子材料は、銅または銅合金からなる母材と、Ni、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上から構成される1層以上である下地層と、銀含有膜とをこの順に有し、前記銀含有膜は、銀を50質量%以上含む銀めっき層と、前記銀めっき層に接触させた円相当直径が50μm以下の非導電性有機化合物からなる粒子と、を含み、下記微摺動摩耗試験を施したときの銀含有膜側表面の接触抵抗が1mΩ以下である。
微摺動摩耗試験:試験対象の前記端子材料と、当該端子材料の銀含有膜側表面に対して曲率半径R=1.8mmの半球状の突起を形成した相手材と、を準備し、前記相手材の前記突起を有する表面を、前記試験対象の前記端子材料の銀含有膜側表面に対し、印加する垂直荷重:3N、摺動距離:50μm、摺動速度:100μm/秒で往復摺動させることを1サイクルとして、10000サイクル摺動させる。
上記により、導電性粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制でき、かつ十分な耐微摺動摩耗性および導電性を示すことが可能である。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る端子材料の一例の模式断面図を示す。図1において、端子材料1は、銅または銅合金からなる母材2(以下単に「母材2」と称することがある)と、Ni、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上から構成される1層以上である下地層3と、銀含有膜4とをこの順に含み、銀含有膜4は、銀めっき層4aと、銀めっき層4aに接触(付着)した円相当直径が50μm以下の非導電性有機化合物からなる粒子4b(以下単に「粒子4b」と称することがある)とを含む。端子材料1は、上記微摺動摩耗試験を施したときの銀含有膜4側表面の接触抵抗が1mΩ以下となる。
【0021】
母材2の材料には、無酸素銅(OFC)等の純銅に加えて、CuFeP系、CuNiSi系、CuTiCr系、CuSnP系、CuMg系等の銅合金のうち一種以上が適用され得る。なお、端子材料は、使用場所によって要求される特性(導電率、バネ性、強度等)も異なる。そのため、要求される特性に応じて母材2の材料(およびその調質条件)が適宜選定され得る。
【0022】
母材2を含む端子材料1(及びそれを用いた端子)は、例えば、内燃機関エンジンのエンジンルーム内、又は電気自動車のバッテリーの接続部分等の高温環境下で使用され得る。高温環境下では、母材2のCuが銀含有膜4の方に拡散して銀含有膜4表面に達し、さらにCu酸化物を生成して端子材料1の接触抵抗を増大させるおそれがある。
そのため、母材2と、銀含有膜4との間に、Ni、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上から構成される1層以上である下地層3を設ける。これにより、母材2からCuが銀含有膜4に拡散するのを抑制することができる。
下地層3は、Niを含むことがめっき施工性等の点で特に好ましい。また、下地層3は複数層であってもよい。
【0023】
下地層3の平均厚さ(例えば、端子材料の任意の2箇所以上の断面から取得した下地層3の平均の厚さ)は、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。これにより、ピンホールなどが抑制され、銅の拡散を効果的に防止できる。一方、下地層3は厚くなると、Cuの拡散抑制効果が飽和し得る。生産性、コストおよび端子成形時の加工性の観点から、下地層3の平均厚さは、3.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは2.0μm以下である。
【0024】
銀めっき層4aは、銀を50質量%以上含む層である。銀めっき層4aとしては、通常の端子表面処理に使用される軟質Agめっき、硬質Agめっき、光沢Agめっきおよび半光沢Agめっき等の他に、銀含有膜4の耐食性(耐硫化性など)改善および耐微摺動摩耗性改善等を目的としてSn及び/又はNi等を含有するAg合金めっきを使用することも可能である。ただし、耐微摺動摩耗性は、主に非導電性有機化合物からなる粒子4bにより付与できるため、耐食性改善等他の目的がない場合は、導電性に優れる純Agめっき層を担体として使用することが好ましく、例えば銀を90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、99質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0025】
銀めっき層4aの平均厚さ(例えば、端子材料の任意の2箇所以上の断面から取得した銀めっき層4aの平均の厚さ)は特に制限されず、用途に応じて適宜調整され得るが、例えば100μm以下、さらには50μm以下の厚さであってもよい。
【0026】
非導電性有機化合物からなる粒子4bについて、「非導電性」とは、導電性を示さないことを意味し、例えばASTM D257に基づき測定した体積抵抗率が、概ね10[Ω・cm]以上の値を示すものをいう。
【0027】
非導電性有機化合物からなる粒子4bについて、「有機化合物」とは、炭素を含む化合物のうち、一酸化炭素、二酸化炭素、炭酸塩、青酸、シアン酸塩、チオシアン酸塩、BCおよびSiC等のように簡単な構造の化合物を除いたものを指す。例えばシロキサン結合(-Si-O-Si-)が主鎖であって側鎖に有機基を有するシリコーン樹脂は、本明細書における「有機化合物」に含むものとする。
【0028】
非導電性有機化合物は、単位分子構造内に、フルオロ基(-F)、メチル基(-CH)、カルボニル基(-C(=O)-)、アミノ基(-NRであって、RおよびRは水素または炭化水素基であり、RおよびRは同じでも異なっていてもよい)およびヒドロキシ基(-OH)からなる群から選択されるいずれか1種以上を含むことが好ましい。より好ましくは、単位分子構造内に、カルボニル基(-C(=O)-)を含み、かつ環構造を有しないことである。これにより、耐微摺動摩耗性をより高めることができる。
ここで、「単位分子構造」とは、高分子(重合体)の場合にはその1繰り返し単位、非重合体の場合には個々の分子を意味する。
【0029】
非導電性有機化合物からなる粒子4bについて、「粒子」とは、円相当直径が50μm以下の比較的小さな物質を意味し、形状はどのようなものであってもよい。本発明の一実施形態では、導電性の観点から、粒子4bの平均粒径(平均円相当直径)は10μm以下としてもよい。また、本発明の一実施形態では、耐微摺動摩耗性の観点から、粒子4bの平均粒径は0.1μm以上としてもよい。
【0030】
図2は、本発明の実施形態に係る端子材料の他の一例の模式断面図を示しており、端子材料11において、粒子4bは銀めっき層4a中に埋没している。ここで「埋没」とは、各粒子4bにつき、全て銀めっき層4a中に埋没しているか、又は一部が銀めっき層4a中に埋没し、残りの部分が銀めっき層4a表面に露出していることを意味する。
【0031】
図3は、本発明の実施形態に係る端子材料の他の一例の模式断面図を示しており、端子材料21において、粒子4bは、銀めっき層4a中に全て埋没している。図3の場合、粒子4bは、銀めっき層4a中に全て埋没しうる大きさであり得、すなわち、粒子4bの平均粒径は、銀めっき層4aの厚さ未満であり得る。
【0032】
本発明の実施形態に係る端子材料において「粒子が接触している」とは、例えば図1のように粒子4bが銀めっき層4a表面に接触(付着)していてもよく、例えば粒子4bが銀めっき層4a中に共析して(埋没して)いてもよい。その場合、各粒子4bは、図3のように銀めっき層4a中に全て埋没していてもよく、図2のように、各粒子4bの一部が銀めっき層4a表面に露出していてもよい。なお「粒子が接触している」か否かは、例えば、端子材料1(11、21)の断面を観察することで判断できる。
【0033】
導電性をより高める(接触抵抗をより低下させる)観点では、図2のように粒子4bが銀めっき層4a中に共析して(埋没して)いる形態か、図3のように銀めっき層4a中に全て埋没している形態が好ましい。一方で、耐微摺動摩耗性をより高める観点では、図1のように粒子4bが銀めっき層4a表面に接触(付着)している形態か、または、図2のように粒子4bが銀めっき層4a中に共析して(埋没して)いる形態が好ましい。
【0034】
本発明の実施形態に係る端子材料1、11および21は、場合によっては導電性粒子が銀めっき層4aに接触していてもよいが、導電性粒子が少なければ少ない程、その脱落による接点の短絡を抑制でき好ましい。そのため、本発明の実施形態に係る端子材料1、11および21に接触している粒子の、50体積%以上が非導電性有機化合物からなる粒子4bであることが好ましく、60体積%以上、70体積%以上、80体積%以上、90体積%以上がより好ましく、全て(100体積%)が非導電性有機化合物からなる粒子4bであることがさらに好ましい。また、本発明の実施形態に係る端子材料1、11および21は、場合によっては無機粒子が接触していてもよい。
【0035】
本発明の実施形態に係る端子材料1、11および21は、本発明の目的を達成する上で他の層(例えばストライクめっき層等)を含んでいてもよい。
【0036】
本発明の実施形態に係る端子材料1の製造方法としては、例えば、まず銅板などの母材2上に、一般的な条件で、銅拡散抑制効果を有する材料であるNi、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上を含む所定のめっき液に通電して、下地層3を形成する。その後、一般的な条件で銀(または銀合金)めっき液に通電して銀めっき層4aを形成する。そして非導電性有機化合物からなる粒子4bの分散液を表面に塗布する。これにより、端子材料1が得られる。なお、場合によっては、銀めっき処理を施す前に、ストライク銀めっき処理を施してもよい。
【0037】
上記製造方法において、銀(または銀合金)めっき液中に非導電性有機化合物からなる粒子4bを分散させて、攪拌しながら電気めっき処理を行うことで、非導電性有機化合物からなる粒子4bが銀めっき層4a中に共析した端子材料(銀めっき層4a表面に粒子4bの一部が露出した端子材料11または銀めっき層4a中に粒子4bが全て埋没した端子材料21)が得られる。
【0038】
めっき液中に粒子4bを分散させて電気めっきを行い、銀めっき層4a中に粒子4bを共析させるプロセスにおいては、以下の反応(A)および(B)が同時に進行する。
(A)基材表面に、液中分散粒子が静電気的または物理的に吸着(接触)する反応
(B)基材表面に、銀めっき層4aが堆積(成長)する反応
(A)で吸着した粒子4bが(B)の銀めっき層4a中に取り込まれることで「共析」が生じる。共析めっきが定常的に進行する条件においては、反応初期に吸着した粒子4bが銀めっき層4a中に取り込まれるのと同時に、新たな粒子4bの吸着が発生する。このため、めっき処理を停止した場合にも、多くの場合で最表面に粒子4bの露出が見られ、通常の共析めっきプロセスにおいて、銀めっき層4a表面に粒子4bの一部が露出した端子材料11を容易に製造することができる。
ここで、銀めっき層4a中への粒子4bの共析量は、(A)の吸着頻度と(B)のめっき膜成長速度とのバランスで決定されるため、めっき条件(およびめっき浴条件)を変化させることで共析量を変化させることが可能となる。例えば、めっき処理の終盤において、めっき液中に分散した粒子4bを含まないめっき液を用いて処理を行う、あるいはめっき液の攪拌速度を変化させて(A)の吸着頻度を低下させるなどにより、めっきの最表面側に粒子4bを共析させない層を設けることで、銀めっき層4a中に粒子4bが全て埋没した端子材料21を製造することが可能となる。
【0039】
本発明の実施形態に係る端子材料1、11および21は、十分な導電性だけでなく、十分な耐微摺動摩耗性を有する。具体的には、本発明の実施形態に係る端子材料1、11および21は、初期の接触抵抗を1.0mΩ以下にでき、且つ下記微摺動摩耗試験10000サイクル後においても接触抵抗を1.0mΩ以下にできる。本発明の実施形態に係る端子材料1、11および21は、下記微摺動摩耗試験20000サイクル後においても接触抵抗を1.0mΩ以下にできることが好ましい。
<微摺動摩耗試験>
試験対象の端子材料と、当該端子材料の銀含有膜側表面に対して例えばハンドプレス等によって曲率半径R=1.8mmの半球状の突起を形成した相手材と、を準備し、相手材の前記突起を有する表面を、試験対象の端子材料の銀含有膜側表面に対し、印加する垂直荷重:3N、摺動距離:50μm、摺動速度:100μm/秒で往復摺動させることを1サイクルとして、所定サイクル摺動させる。摺動試験機としては、例えば山崎精機研究所製CRS-B1050CHOを用いることができる。
【0040】
本発明の実施形態に係る端子は、本発明の実施形態に係る端子材料1、11および21を含む。本発明の実施形態に係る端子は、本発明の実施形態に係る端子材料1、11および21を端子形状に成形するか、又は先に母材2を端子形状に成形した後、その母材2にNi、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上から構成される1層以上である下地層3ならびに銀含有膜4(銀めっき層4aおよび非導電性有機化合物からなる粒子4b)を形成すること等により製造できる。本発明の実施形態に係る端子は、エンジン、モーターなどの機器をECUに直接接続するために使用され得る。
【実施例
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【0042】
厚さ0.3mmの純銅(銅含有量99質量%以上)を母材とし、アセトン洗浄にて母材表面を脱脂した後、無光沢Niワット浴を用い、Ni板を対極として、5A/dmの電流密度で2分間の通電を行い、厚さ1μmの下地層(Ni含有量99質量%以上)を形成した。その後市販のストライクAgめっき液(大和化成株式会社製ダインシルバーGPE-ST)を用い、5A/dmの電流密度で1分間の通電を行い、厚さ約0.1μmのストライクAgめっき層(銀含有量99質量%以上)を形成した。その後、市販の非シアン系半光沢Agめっき液(大和化成株式会社製ダインシルバーGPE-SB)を用い、表1に示す種々の円相当直径50μm以下の非導電性有機化合物からなる粒子と界面活性剤(分散剤)をめっき液中に所定量分散させ、攪拌を行いながら、純Ag板を対極として3A/dmの電流密度で5分間の通電を行い、厚さ約10μmの半光沢Agめっき層(銀含有量99質量%以上)中に各粒子が共析した(埋没した)銀含有膜を含む、No.1~4の端子材料を得た。なお、No.1~3の界面活性剤としては、サーフロンS231(AGCセイミケミカル製)を用い、添加量は50g/Lとした。またNo.4は、界面活性剤としてナフタレンスルホン酸ソーダ、分散剤(安定剤)としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。
【0043】
No.1~4の端子材料の比較として、非導電性有機化合物からなる粒子を含まないNo.5および6の端子材料を作製した。No.5はNo.1~4とは異なり、半光沢Agめっき液中に種々の非導電性有機化合物からなる粒子と界面活性剤(分散剤)を分散させずに、厚さ約10μmの半光沢Agめっき層(銀含有量99質量%以上)を形成した。No.6は、No.1~4とは異なり、ストライクAgめっき液をシアン浴のものとして、厚さ約0.1μmのストライクAgめっき層(銀含有量99質量%以上)を形成した後、半光沢Agめっき液を光沢Agめっき液(メタローテクノロジーズ製N-BRIGHT)に変更し、光沢Agめっき液中に種々の非導電性有機化合物からなる粒子と界面活性剤(分散剤)を分散させずに、純Ag板を対極として1.5A/dmの電流密度で15分間の通電を行い、厚さ約10μmの光沢Agめっき層(銀含有量99質量%以上)を形成した。
【0044】
【表1】
【0045】
No.1~No.6の端子材料に対して、初期の接触抵抗評価および耐微摺動摩耗性評価を行った。
【0046】
<初期の接触抵抗評価>
No.1~6の端子材料の銀含有膜側表面に対して、電気接点シミュレータ(山崎精機研究所製)を使用して、四端子法により、解放電圧20mV、電流10mA、荷重3Nの条件にて5回測定を実施し、その平均値を初期の接触抵抗値とした。接触抵抗が1.0mΩ超となるものを、導電性が不良(×)であるとし、1.0mΩ以下となるものを、導電性が十分(〇)であるとした。
【0047】
<耐微摺動摩耗性評価>
No.1~6の端子材料(サイズ10cm×10cm)と、当該端子材料の銀含有膜側表面に対してハンドプレスによって曲率半径R=1.8mmの半球状の突起を形成した相手材(サイズ0.5cm×5cm)とを準備し、相手材の前記突起を有する表面を、No.1~6の端子材料の銀含有膜側表面に対し、摺動試験機として、山崎精機研究所製CRS-B1050CHOを用いて、印加する垂直荷重:3N、摺動距離:50μm、摺動速度:100μm/秒で往復摺動させることを1サイクルとして、所定サイクル摺動させ、各サイクル後の接触抵抗を上記と同様の方法で測定した。結果を図4図9に示す。図4図9は、それぞれ、試験No.1~6の端子材料に対して微摺動摩耗試験をN=2で行った結果である。
接触抵抗が1.0mΩ超となるサイクル数であって、N=2のうちサイクル数の短い方が、10000未満のものを不良(×)、10000以上20000未満のものを〇(十分)、20000以上のものを◎(良好)とした。また、20000サイクル後に摩耗痕を観察し、母材(または下地層)の露出の有無を評価した。
【0048】
以上の結果を表2にまとめた。なお、「短絡防止」の欄には、銀めっき層に接触している粒子の50体積%以上が非導電性粒子である場合、粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制できる(〇)とし、銀めっき層に接触している粒子の50体積%未満が非導電性粒子である場合(すなわち銀めっき層に接触している粒子の50体積%超が導電性粒子である場合)、粒子の脱落による接点の短絡のおそれがある(×)とした。「総合判定」の欄には、「短絡防止」、「導電性」および「耐微摺動摩耗性」の欄において全て「〇」判定の場合、「〇」と記載し、その上で「耐微摺動摩耗性」の欄が「◎」判定の場合「◎」と記載し、「短絡防止」、「導電性」および「耐微摺動摩耗性」の欄において「×」判定が1つでもある場合、「×」と記載した。
【0049】
【表2】
【0050】
表2の結果より、次のように考察できる。表2のNo.1~4の端子材料は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件を満足しており、導電性粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制でき、かつ十分な導電性および耐微摺動摩耗性を有していた。そのうちNo.1~3の銀含有膜は、非導電性有機化合物が、単位分子構造内に、カルボニル基(-C(=O)-)を含み、且つ環構造を有しないという好ましい要件を満たしていたため、接触抵抗が1.0mΩ超となるサイクル数が20000以上であった。
【0051】
No.5および6の端子材料は、微摺動摩耗試験10000サイクル未満で接触抵抗が1.0mΩ超となった。これは、No.5および6の端子材料において、非導電性有機化合物からなる粒子が銀めっき層に接触しておらず、微摺動摩耗によって容易に母材(または下地層)が露出し、その母材等が酸化して接触抵抗が増大したことに起因すると考えられる。なお、No.6は、No.5よりも光沢剤の作用により銀めっき層が硬質化しており、接触抵抗が増大するタイミングが若干遅くなっているものの、大幅な改善は認められなかった。
【符号の説明】
【0052】
1 端子材料
2 母材
3 下地層
4 銀含有膜
4a 銀めっき層
4b 非導電性有機化合物からなる粒子
11 端子材料
21 端子材料
【要約】      (修正有)
【課題】導電性粒子の脱落による接点の短絡を十分に抑制でき、かつ十分な耐微摺動摩耗性および導電性を有する端子材料を提供する。
【解決手段】銅または銅合金からなる母材と、Ni、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上から構成される1層以上である下地層と、銀含有膜とをこの順に有し、前記銀含有膜は、銀を50質量%以上含む銀めっき層と、前記銀めっき層に接触させた円相当直径が50μm以下の非導電性有機化合物からなる粒子と、を含み、下記微摺動摩耗試験を施したときの銀含有膜側表面の接触抵抗が1mΩ以下である、端子材料。[試験対象である端子材料の銀含有膜側表面に対して曲率半径R=1.8mmの半球状の突起を形成した相手材を、端子材料の銀含有膜側表面に対し、印加する垂直荷重:3N、摺動距離:50μm、摺動速度:100μm/秒で往復摺動させることを1サイクルとして、10000サイクル摺動させる。]
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9