IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブルー スパーク テクノロジーズ インコーポレイテッドの特許一覧

特許7459242体温ロギングパッチを使用するシステムおよび方法
<>
  • 特許-体温ロギングパッチを使用するシステムおよび方法 図1
  • 特許-体温ロギングパッチを使用するシステムおよび方法 図2
  • 特許-体温ロギングパッチを使用するシステムおよび方法 図3
  • 特許-体温ロギングパッチを使用するシステムおよび方法 図4
  • 特許-体温ロギングパッチを使用するシステムおよび方法 図5
  • 特許-体温ロギングパッチを使用するシステムおよび方法 図6
  • 特許-体温ロギングパッチを使用するシステムおよび方法 図7
  • 特許-体温ロギングパッチを使用するシステムおよび方法 図8
  • 特許-体温ロギングパッチを使用するシステムおよび方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】体温ロギングパッチを使用するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/01 20060101AFI20240325BHJP
【FI】
A61B5/01
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022520997
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 US2020054476
(87)【国際公開番号】W WO2021071874
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】62/934,188
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/911,850
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516171274
【氏名又は名称】ブルー スパーク テクノロジーズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Blue Spark Technologies, Inc.
【住所又は居所原語表記】806 Sharon Drive, Suite G, Westlake, OH 44145, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ギャノン
(72)【発明者】
【氏名】マット リーム
(72)【発明者】
【氏名】フランク フェドリックス
(72)【発明者】
【氏名】ルース フィリップス
(72)【発明者】
【氏名】アダム ピーラー
(72)【発明者】
【氏名】サシ コーリ
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0302671(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0213559(US,A1)
【文献】米国特許第09183738(US,B1)
【文献】玉田耕治,CAR-T細胞にがん免疫細胞療法の進展と将来展望,医学のあゆみ,2016年07月30日,Vol. 258, No. 5,pp. 480-484
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械学習システムとして少なくとも部分的に構成されたコンピュータシステムであって、
所定の収集期間中に5分ごとに自動的に患者から収集された1つ以上の温度を含む温度データを、連続温度モニタから受信
受信した前記温度データの前記機械学習システムへの入力に応じて、将来の期間における対応する複数の時点の予測される温度値を含む患者の予測温度プロフィルを出力し
前記将来の期間における複数の時点の少なくとも1つにおける発熱の指標について前記予測温度プロフィルを分析
前記分析の結果の通知を、前記患者のパーソナルデバイスおよび/または臨床医に送信
前記分析の結果が前記発熱を示しているならば、前記通知は警告を含み、
前記通知は、前記温度データの受信および前記分析の結果と実質的にリアルタイムで送信される、
コンピュータシステム
【請求項2】
前記コンピュータシステムは、ネットワークを介して前記連続温度モニタおよび前記臨床医に遠隔接続されている、請求項1記載のコンピュータシステム
【請求項3】
前記患者は、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法を受けているかまたは受けたことがあり、前記発熱はサイトカイン放出症候群に起因するものである、請求項1記載のコンピュータシステム
【請求項4】
前記機械学習システム、サイトカイン放出症候群の発熱中に患者から収集された温度データを用いてトレーニングされている、請求項1記載のコンピュータシステム
【請求項5】
当該コンピュータシステムは、受信した前記温度データ前記機械学習システムへの入力前に、予め定められた閾値を下回る値を有する受信した温度データポイントを補正する請求項1記載のコンピュータシステム
【請求項6】
前記発熱に関する前記予測温度プロフィルを分析することは、前記予測プロフィルを予め定められた閾値と比較することを含む、請求項1記載のコンピュータシステム
【請求項7】
前記発熱に関する前記予測温度プロフィルを分析することは、前記予測温度プロフィル増加速度を予め定められた閾値と比較することを含む、
請求項1記載のコンピュータシステム
【請求項8】
前記収集期間は3時間であり、前記将来の期間は1時間である、請求項1記載のコンピュータシステム
【請求項9】
前記分析の結果が前記発熱を示しているならば、前記通知は、療機関を受診するようにという患者向けの指示をさらに含む、請求項1記載のコンピュータシステム
【請求項10】
前記機械学習システムは、マルチステップ多層パーセプトロンネットワークを含む、請求項1記載のコンピュータシステム
【請求項11】
前記機械学習システムは、単変量マルチステップ畳み込みニューラルネットワークを含む、請求項1記載のコンピュータシステム
【請求項12】
前記機械学習システムは長短期記憶モデルを含む、請求項1記載のコンピュータシステム
【請求項13】
前記機械学習システムはシーケンス・トゥ・シーケンスモデルを含む、請求項1記載のコンピュータシステム
【請求項14】
前記発熱に関する前記予測温度プロフィルを分析することは、前記予測温度プロフィルが予め定められた閾値温度よりも大きい期間を決定することを含む、請求項1記載のコンピュータシステム。
【請求項15】
前記機械学習システムは、前記患者と同じ医療状態を有する被験者からの温度データを用いてトレーニングされている、請求項1記載のコンピュータシステム。
【請求項16】
前記通知は、さらに、前記将来の期間における対応する複数の時点の前記予測される温度値の時系列グラフを含む、請求項1記載のコンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年10月7日出願の米国特許仮出願第62/911,850号、発明の名称“SYSTEM AND METHOD OF USING BODY TEMPERATURE LOGGING PATCH”、および2019年11月12日出願の米国特許仮出願第62/934,188号、発明の名称“SYSTEM AND METHOD OF USING BODY TEMPERATURE LOGGING PATCH”の優先権を主張するものであり、これらすべてはここで参照したことにより本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
背景技術
最近の癌治療には様々な免疫療法が含まれている。それらのうち、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法は、患者から採取した自家T細胞にキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子を発現させる操作を含む。CAR遺伝子は、患者の癌細胞の表面上の特別なタンパク質に結合するT細胞上の受容体の成長を誘発する。採取され、次いで操作された細胞は、試験管内で増殖され、その後、患者に再び注入される。いったん患者の体内に入ると、細胞はさらに対数的に増殖し続け、CAR受容体が標的とする患者の癌細胞を攻撃する。
【0003】
CAR-T療法は、液性腫瘍(たとえば白血病およびリンパ腫といった血液癌)の治療に特に成功することが証明されている。同様のT細胞免疫療法には、T細胞が遺伝子操作されて、癌細胞内の抗原を標的とするTCRタンパク質が生成されるT細胞受容体(TCR)療法や、採取したT細胞が固形腫瘍の生検に由来するものであり、したがってすでに癌細胞を認識している腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法が含まれる。
【0004】
しかしながらこれらの治療の場合、T細胞の数が増加することで患者におけるサイトカイン濃度が上昇する。かかるサイトカイン上昇により、結果としてサイトカイン放出症候群(CRS)が引き起こされるおそれがあり、これはこれらの治療を受ける患者によく見られる毒性である。CRSは、初期段階では発熱を特徴とし、この発熱は急速に悪化して進行し、生命を脅かす血管拡張性ショック、毛細血管漏出、低酸素症、および末梢臓器の機能不全に至るおそれがある。以下の表1は、CRSの進行度を示している。
【0005】
【表1】
【0006】
以上のことから、CAR-T治療のためには、CRS緩和策を採用することが求められる。
【0007】
発明の概要
本開示の第1の実施例によれば、方法は以下のステップを含む。すなわち、所定の収集期間中に患者から収集された温度データを、連続温度モニタから受信するステップと、将来の期間について予測温度データを出力するようにトレーニングされた機械学習システムに、受信した温度データを入力するステップと、発熱の指標について予測温度データを分析するステップと、分析の結果の通知を、患者のパーソナルデバイスおよび/または臨床医に送信するステップとを含む。
【0008】
上述の実施例の様々な実施形態によれば、機械学習システムは、ネットワークを介して連続温度モニタおよび臨床医に遠隔接続されている。患者は、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法を受けているかまたは受けたことがあり、発熱はサイトカイン放出症候群に起因するものである。機械学習システムを、サイトカイン放出症候群の発熱中に患者から収集された温度データを用いてトレーニングする。この方法はさらに、受信した温度データを機械学習システムに入力する前に、予め定められた閾値を下回る値を有する温度データポイントを補正するステップを含む。発熱に関する予測温度データを分析するステップは、予測温度データの値を予め定められた閾値と比較するステップを含む。発熱に関する予測温度データを分析するステップは、予測温度データの特性を予め定められた閾値と比較するステップを含み、この特性は、予測温度データの増加速度、または予測温度データが予め定められた閾値よりも大きい期間を含む。収集期間は3時間であり、将来の期間は1時間である。通知は予測温度データの時系列グラフを含む。分析の結果が発熱を示しているならば、通知は、警告と、医療機関を受診するようにという患者向けの指示とを含む。機械学習システムは、マルチステップ多層パーセプトロンネットワーク(multi-step multi-layer perceptron network)を含む。機械学習システムは、単変量マルチステップ畳み込みニューラルネットワーク(univariate multi-step convolutional neural network)を含む。機械学習システムは長短期記憶モデル(long-short-term memory model)を含む。機械学習システムはシーケンス・トゥ・シーケンスモデル(sequence to sequence model)を含む。温度データを受信すると実質的にリアルタイムに通知を送信する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1のCAR-T患者からの例示的なCRS温度プロフィルを示す図である。
図2図1の発熱プロフィル各々を、2つの回帰分析の結果を重ね合わせて別々に示す図である。
図3図1の発熱プロフィル各々についての線形回帰結果を、1つの共通のタイムライン上で比較して示す図である。
図4】第2のCAR-T患者からの例示的なCRS温度プロフィルを示す図である。
図5図4の発熱プロフィル各々を、2つの回帰分析の結果を重ね合わせて別々に示す図である。
図6図4の発熱プロフィル各々についての線形回帰結果を、1つの共通のタイムライン上で比較して示す図である。
図7】機械学習システムからの例示的な温度予測結果を示す図である。
図8】温度の予測および監視のための例示的なシステムを示す図である。
図9】温度の予測および監視のための例示的な方法を示す図である。
【0010】
詳細な説明
上述の記載を考慮すると、CRSは、その初期段階では治療可能であるが、特に進行度4まで進んでしまうと致命的なものとなるおそれがある。表1に示したように、CRSは初期段階では発熱を特徴とする。したがって、CRSの影響を受けやすい患者における発熱の早期検出を、CRS発症の識別に役立たせることができ、それによってCRSを適時に治療することができる。通例、温度監視に対する目下の看護標準は、患者の温度を4時間ごと、または1日に(すなわち24時間の期間につき)約6回記録することである。しかしながらこのような比較的低い頻度での温度チェックでは、CRS発症の早期兆候を見逃してしまう可能性が高い。
【0011】
本開示の1つの実施形態によれば、CRS発熱の早期検出を、連続温度監視によって達成することができる。かかる連続温度監視はたとえば、2013年6月25日出願の米国特許出願第13/926,508号、現在は米国特許第9,782,082号明細書として交付、2014年12月31日出願の米国特許出願第14/587,626号、現在は米国特許第9,693,689号明細書として交付、さらに2018年5月25日出願の米国特許出願第15/989,674号、現在は米国特許出願公開第2019/0046033号明細書として公開、に記載されている体温ロギングパッチによって実現することができ、これらすべてはここで参照したことにより本明細書に組み込まれるものとする。
【0012】
連続温度モニタリングを使用することによって、患者温度のいっそう高い頻度の収集がもたらされる。いくつかの非限定的な例によれば、上述の体温ロギングパッチは、患者の温度を10秒ごとに1回、または1日あたり(すなわち24時間の期間につき)約8,640回の頻度で記録することができる。30秒ごとに1回(すなわち1日あたり2,880回)、1分ごとに1回(すなわち1日あたり1,440回)、または5分ごとに1回(すなわち1日あたり288回)といったような、他の様々な頻度のレートが考慮される。温度データ収集のこれ以外の頻度も考えられる。容易に見て取れるように、自動化された連続的な温度モニタリングによって、患者の健康状態の分析に利用可能なデータ量の大幅な増大がもたらされる。以下では、「連続」温度監視とは、温度データを所定のインターバルで自動的に収集することを指し、これは好ましくは規則的なインターバルであるが、不規則なインターバルも考えられる。
【0013】
かかるモニタを用いた温度データ収集量の大幅な増大に基づき見出されたのは、CRSに関連する発熱が、CRSの識別/診断および/または発熱発症について一般的に使用することのできる特定の識別特性を有する、ということである。換言すれば、CRSの温度および発熱のプロフィル(たとえば以下に示し論じるもの)は、他の既知の疾患状態および/または治療に起因する他の既知の温度および発熱のプロフィルとは異なっており、たとえば、CAR-T療法を受けておらず、したがってCRS事象を患っていない移植患者のプロフィル、または化学療法を受けており発熱性好中球減少事象を患っている癌患者のプロフィルとは異なる。それゆえに、CRSの発熱(および他の原因に関連づけられた発熱)は、上述の温度モニタにより収集された温度データを分析することによって識別可能な(つまりはCRSまたは他の原因を識別する)プロフィルを有する。
【0014】
これらの特性を、温度モデルにより収集された温度データの分析によって識別することができる。かかる分析として挙げられるのは、たとえば持続時間、変化速度、大きさ(たとえば最高温度)、周期性などを含む温度プロフィルの何らかの分析である。さらに、特定の種類の発熱および疾患を識別および診断するために、温度プロフィルおよび危険因子プロフィルを用いて、機械学習システムをトレーニングすることができる。
【0015】
たとえば、温度データによるCRSの識別/診断を、上述の連続温度モニタを用いて、特定の期間にわたって蓄積される温度データに少なくとも部分的に基づくものとすることができる。かかるデータを、CRS状態に関する主要な指標を識別するための少なくとも1つの基礎として、コンピュータ分析によって自動的に処理することができ、または臨床医による視覚分析のためにグラフィックフォーマットとなるように組み立てることができる。好都合なことには、自動コンピュータ分析の確認のために、医師、看護師またはその他の病院スタッフによって、グラフィックフォーマットを容易に閲覧することができ、理解することができる。
【0016】
典型的なCRS反応を患っているCAR-T患者に関する例示的な温度プロフィルが、図1に示されている。ここでは、38℃の温度閾値を上回る4つの異なる発熱(F1~F4)を識別することができる。低い温度(たとえば34℃の閾値を下回る温度)は、たとえば連続温度モニタが取り外されたときまたは交換されたときのノイズ読み取りに対応する。図1の温度プロフィルからの個々の発熱(F1~F4)プロフィルが、それぞれ図2および図3に示されている。
【0017】
ここでは、温度の低下を治療の成果とすることができるため、温度が上昇している期間について発熱プロフィルF1~F4が示されている。図2には、2つの回帰分析の結果すなわち線形回帰と二次多項式回帰とを重ね合わせた、各発熱プロフィルが別々に示されている。ここで留意されたいのは、連続温度監視データから温度プロフィルの顕著な特徴を識別するために、たとえば他の回帰、モデルおよび/または機械学習システムを含む、任意の他の定量的または定性的な分析を利用してもよい、ということである。個々のR係数および各回帰分析について結果として得られた式も、図面に示されている。これらの分析から判明したのは、線形回帰は、より単純な分析および結果として得られた式を用いて十分な結果を生成することができると思われているけれども、二次多項式回帰がいくらか良好な相関係数を有する、ということである。図3には、各発熱プロフィルについてのこれらの線形回帰が示されている。図4図5および図6には、第2の例示的な患者に関する同様の温度および発熱のプロフィルが示されている。
【0018】
以下、図1図6およびさらに2人の付加的な患者について、上述のCRSの温度および発熱のプロフィルが、ひとまとめに表2に要約されている。
【0019】
【表2】
【0020】
要約すると、CRSは一連の発熱によって特徴づけられる。(合計3回または4回の)初期発熱は、持続時間が最も長く(約9~10時間)、温度上昇率が最も低い(約0.22℃/時または0.40°F/時)。第2および第3の発熱は、約半分の持続時間(約5時間)を有するが、発症中の温度上昇速度は約2倍(約0.5℃/時または1.0°F/時)であり、CRS患者のための最も一般的な発熱プロフィルを表している。最後の発熱は一般に最も重症であるが、最も短い時間(約2時間)で最も速く発症する(約1~2℃/時または3~4°F/時)。各発熱について示された勾配は、線形回帰分析によって導出された勾配に相応する。
【0021】
このことを考慮すると、目下の看護基準により2~4時間に1回しか行われない従来の温度測定は、所望の水準の看護を提供するには不十分である。その理由は、そのような測定値では、急上昇するまで発熱発症を検出できない場合があるか、または発熱イベントを完全に見逃す場合があるためである。しかしながら、かかる温度および発熱のプロフィルを認識するために、上述のような連続温度モニタリングおよび上述の係数の分析を利用することができる。
【0022】
CRSおよび/または発熱の同定/診断をさらに、付加的な危険因子によって特徴づけることができ、それら付加的な危険因子として、以下に限定されるものではないが、(急性リンパ芽球性白血病における)高い疾患負担、高い点滴量、リンパ球枯渇を含むフルダラビン、併発する感染症、早期のサイトカイン上昇が挙げられる。さらに、以下のいずれかまたはすべてを含む他の基準がCRSを示す可能性がある。すなわち、患者をここ数日/数週間のうちにCAR-T治療で処置したこと、CRS熱に対するリスクが高まった状態に患者があること、他の疾患に対するリスクが比較的低い状態に患者が目下あること。
【0023】
よって、CRS発熱の上述の特徴および他の認識された特徴を、CRSの発症または存在を識別するために、リアルタイム(またはほぼリアルタイム)の分析として、連続温度監視中に記録された温度データと比較することができる。CRSについて付加的に述べた危険因子も、分析の一部として考慮することができる。かくしてこの分析の結果として、CRSの診断またはCRSの尤度を臨床医または患者に出力することができる。換言すれば、連続温度モニタによって収集された熱プロフィル、関連する危険因子、および患者に存在する付加的な基準の分析を利用して、CRS発熱を識別し(したがってCRSを診断し)、かつ/またはそのような識別および/または診断の信頼レベルを識別することができる。このことに加えかかる情報を、患者が実際に発熱を患う前にCRSの発症を(たとえば特定の信頼レベルで)予測するために使用することができる。
【0024】
上述のように、回帰を使用するのではなく機械学習システムによって、温度データの分析および決定を実施することができる。たとえば機械学習システムは、マルチステップ多層パーセプトロン(MLP)ネットワークを含むことができる。MLPはフィードフォワードニューラルネットワークの一種であり、これはノイズの多い入力データに対してロバストであり、トレーニングデータにおける線形および非線形の関係を学習することができる。さらに、MLPは複数の出力を供給することができるので、MLPは複数の将来の時点に関する予測を生成することができる。ただし、MLPは固定された入力および出力を有することから、MLPは予め定められた時間的依存関係を有する。換言すれば、入力温度データおよび出力温度データの期間(入力ポイントおよび出力ポイントの個数)が予め決定される。
【0025】
MLPネットワークの1つの実施形態によれば、時間的依存性は3時間入力(収集期間)および1時間出力(将来の期間)である。6分ごとに1つの測定の頻度を有する温度モニタの場合、これは30個の入力ポイント(30個の時点入力×6分のインターバル=180分=3時間)および10個の出力ポイント(10個の時点出力×6分のインターバル=60分=1時間)に相応する。換言すれば、先行する3時間のデータが与えられると、MLPは、次の1時間の温度データを予測するようにトレーニングされる。自明のとおり、これ以外の入力期間および出力期間も本開示の範囲内である。たとえば他の実施形態によれば、入力データポイントおよび出力データポイントの個数を、たとえば5~60の間で変化させることができる。
【0026】
1つの実施形態によれば、MLPは、正規化線形ユニット活性化関数を用いた200ユニットの単一の隠れ層と、30個の時間ステップ(または所与の収集頻度に対する所望の入力期間に対応する他の時間ステップ)の入力サイズとを有する。別の実施形態によれば、隠れ層のユニットの数を、たとえば50~2000とすることができる。さらに、2つ以上の隠れ層を含むことができる。隠れ層に続いて、10個の時間ステップ(または所与の収集頻度のための所望の出力期間に対応する他の時間ステップ)の出力サイズを有する出力層が続く。MLPは、アダム最適化アルゴリズムを用いた確率的勾配降下を使用して、250エポックにわたり適合され、損失関数として平均二乗誤差を使用する。別の実施形態によれば、MLPは50~2000エポックを有することができる。次いで連続する30個のデータポイント(または所与の収集頻度に対する所望の入力期間に対応する適切な個数のデータポイント)を通過させることによって予測が行われ、出力は、予測された10個の後続のデータポイント(または所与の収集頻度に対する所望の出力期間に対応する適切な個数のデータポイント)である。
【0027】
連続温度モニタにより収集された温度データは、予め定められた閾値(たとえば34℃または0℃)以下の温度を有するすべてのデータポイントを除去するために前処理される。これは、たとえば、モニタが患者に不適切に取り付けられているか、取り外されているなどの結果として、かかる低い読み取りを不適切であると見なすことができるからである。次いで、低温が除去されたデータが、シーケンスアレイとなるように組み立てられる。さらに、1人の患者からの温度データが2台以上の温度モニタから収集される場合もあるので、それらのデータが組み合わされて一時的に配置された単一のアレイが形成される。除去されたデータポイント(予め定められた閾値未満のもの)および/または温度データが収集されない時間(たとえばモニタ使用の間の時間)に由来する欠落したデータポイントを、NULLとして扱うことができ、補間などの統計的技術によって推定することができ、または別の手法で補正することができる。MLPは、既知のCAR-T患者からの既存の温度データを用いてトレーニングされる。いっそう多くの患者から付加的なデータが収集され、それによってグラウンドトゥルースの温度および発熱のプロフィルを識別する履歴データのいっそう大きなコレクションが確立されるので、そのデータを用いてMLPをさらにトレーニングすることができる。
【0028】
図7には、このような機械学習システムの例示的な出力が示されている。ここでは、合計58000列の非ゼロ温度データを有する13人の患者から得られた温度データを用いて、MLPがトレーニングされた。図7のグラフには、1人の患者について記録された非ゼロ温度データ100(濃い黒線)が示されており、この場合、読み取りは、月曜日の午後12時に開始され、木曜日の午後12時に終了し、対応する予測された温度102がMLPによって出力されている。この図から見て取れるように、予測された温度プロフィル102(明るい灰色の線)は、グラウンドトゥルースを表す実際に記録された温度データ100に密接に追従している。
【0029】
さらに別の実施例によれば、機械学習システムは畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を含むことができ、これには単変量マルチステップCNNおよび時間的畳み込みネットワーク(TCN)、長期短期記憶(LTSM)モデル(時間依存性を学習可能)、および/またはシーケンス・トゥ・シーケンス(S2S)モデルが含まれる。かかるシステムを、MLPに関して上述したものと同様のトレーニングデータによってトレーニングすることができる。
【0030】
図8および図9を参照すると、使用中、患者側で、患者202における連続温度モニタ200から温度データが収集される(ステップ300)。患者202は、パーソナルデバイス204(たとえば携帯電話、コンピュータなど)において、以前に検出された温度データ、傾向などとともに、収集された温度データをリアルタイムに監視することができる。パーソナルデバイス204は、たとえばブルートゥース、近距離無線通信などを含む任意の短距離通信を介して、モニタ200と通信することができる。
【0031】
次いで、収集された温度データが、ネットワーク(たとえばインターネット)206を介してサーバ側コンピュータシステム208に送信される(ステップ302)。コンピュータシステム208は、プロセッサ、データベース/メモリなどを有する。コンピュータは、少なくとも部分的に、上述のMLPのような機械学習システムとして構成されており、かつ/または別の態様によれば、受信した温度データに対して分析を実施するように構成されている。データベース/メモリは、モニタ200から受信した温度データを格納するように構成されており、プロセッサは、上述のように受信した温度データを前処理し(ステップ304)、モニタ200から収集された/格納された温度データを、機械学習システムによって処理する(ステップ306)ように、構成されている。別の実施形態によれば、温度データを、機械学習システム/コンピュータ208から遠隔のデータベース210に格納することができる。別の実施形態によれば、付加的または代替的に、任意のデータ処理および/または分析を含むコンピュータシステム208の一部または全体を、ローカルで患者側において、たとえば患者のパーソナルデバイス204上で、実装することができる。
【0032】
1つの形態によれば、オプションとして上述の前処理(ステップ304)が施された後、受信された温度データを閾値温度と比較して、患者202が目下発熱を患っているか(または以前に発熱を患っていたか)否かを判定することができる。患者202が発熱しているならば、コンピュータシステム208はネットワーク206を介して、患者側の患者のパーソナルデバイス204および/または臨床側の医師212、病院214または同様の臨床医に警告を送信することができる。これらの警告にはさらに、たとえば医療機関を受診するようにという患者への指示を含めることができる。臨床側の医師212によるレビューおよび分析のために、出力は受信した温度および/または温度プロフィルを含むこともできる。
【0033】
機械学習システムの時間的依存性(たとえば3時間の温度データ)を満たすのに十分な温度データが収集された後、受信した温度データが機械学習システムに入力され、機械学習システムによってサーバ側で処理される(ステップ306)。1つの実施形態によれば、患者側から受信された温度データが、機械学習システムに入力される。たとえば上述の説明に従い、モニタ200による温度データ収集の頻度に応じて、温度データを6分ごとに受信して入力することができる。別の実施形態によれば、最も新しく収集された温度データを用いて、これ以外のインターバルで(たとえば1時間ごとに)データを機械学習システムに入力することができる。
【0034】
コンピュータシステム208の機械学習システムの出力は、システムの時間的依存性(たとえば1時間の温度データ)に対応する期間について予測された温度データ(予測された温度プロフィル)である。出力された予測データは、医師212または患者202によるレビューに適した形態をとるために、コンピュータシステム208によってさらに分析され(ステップ308)、次いで通知として、ネットワーク206を介して臨床側の医師212、病院214などに、かつ/または患者側の患者のパーソナルデバイス204に、送信することができる(ステップ310)。
【0035】
たとえば、予測された温度プロフィルを、患者202、医師212および/または病院214への通知として、時系列グラフの形態で、または患者の目下のまたは予測された将来の状態を示すナレーションの形態で、出力することができる。機械学習システムの出力の分析に基づき発熱が予測される場合には、通知の一部としてさらに警告を送信することができる。
【0036】
この発熱予測を、将来の温度と発熱閾値との比較、予測されたデータにおける温度上昇速度が予め定められた閾値を超えたことの識別、予測されたデータにおける温度が予め定められた閾値を超えている期間などから、結果として生じさせることができる。いくつかの実施形態によれば、予測された温度データに基づく発熱予測を、既知の発熱に対し予測された温度プロフィルについての、患者についての、さらに上述のものや表2に呈示したものなど治療特性についての分析に基づくものとすることができる。いくつかの実施形態によれば、サーバ側のコンピュータシステム208の第2の機械学習システムは、予測された温度データを潜在的な発熱発症として分類するようにトレーニングされている。かかるケースでは、予測された温度プロフィルを第2の機械学習システムに供給することができ、この第2の機械学習システムの出力は、予測された温度プロフィルが発熱プロフィルに相応している/相応していない、という判定である。換言すれば、収集された温度データおよび/または予測された温度データを分析して、将来の発熱発症を判定することができる。さらに、発熱の存在または予測を識別することにより、CRSの診断を下し、通知において示すことができる。
【0037】
予測された温度プロフィルに基づきタスクを実行する(たとえば医療処置を受ける)こと、所定の期間(過去または将来)にわたる平均温度を示すこと、温度における最近のまたは予測された何らかの傾向(たとえば温度上昇または温度低下の速度)を示すこと、温度データが予め定められた閾値温度を上回る(過去または将来)期間を示すことなどを、出力によってユーザに指示することもできる。さらに、モニタ200からの温度データの受信における何らかのエラー、または異常データの発生(たとえば低い温度の読み取り)に関する警告を、患者側および/または臨床側に送信することができる。かくして、モニタ200の操作、接続または同様の問題について、さらにそれらの問題をどのように修正できるのかについて、患者202に認識させることができる。
【0038】
本明細書で説明した出力のいずれも、実用上可能なかぎりリアルタイムに近い形態で供給することができる。つまりコンピュータシステム208を、受信すると何らかの温度データ306を処理し、何らかの後続の分析を実行し、(たとえば機械学習システムからの)予測温度データの判定に応じて、所望の出力のいずれかを生成するように、構成することができる。たとえば上述のように、モニタ200による温度収集の頻度に応じたインターバルで、温度データをモニタ200からコンピュータシステム208に送信することができる(ステップ302)。受信したときにこの受信した温度データを処理することによって、患者202、医師212および/または病院214に対し実質的に同じ頻度で、出力(たとえば更新された予測された温度プロフィルまたは発熱警告)を通知することができる。このようにして、温度データが収集されたときに、患者および臨床医に患者の状態をリアルタイムで認識させ続けることができる。
【0039】
上述の説明は、主としてCRSおよびCAR-Tに関するものであるが、本開示の範囲はそれに限定されず、他の状態および疾患に関連する様々な温度プロフィルおよび危険因子に関するものであるとすることができる。たとえば、それらの他の状態および疾患として挙げられるのは、関節リウマチ、クローン病/クローン結腸炎、狼瘡、ベーチェット症候群、血栓、深部静脈血栓症および肺塞栓症などの自己免疫疾患、脊髄損傷や刺激過量投与などの神経疾患、精神障害、リンパ腫、白血病、副腎腫などの新生物、甲状腺機能亢進症や副腎機能障害などの内分泌疾患、および輸血反応である。よって、結果として生じた温度データおよび対応する危険因子の同様の連続的な温度監視および分析を、それらの状態の診断のために使用することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9