(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】産業規模での懸濁液中の細胞又は微生物の培養のためのバイオリアクタ又は発酵槽
(51)【国際特許分類】
C12M 1/06 20060101AFI20240325BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
C12M1/06
C12N1/00 D
(21)【出願番号】P 2022521076
(86)(22)【出願日】2020-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2020077797
(87)【国際公開番号】W WO2021069353
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-05-31
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ,トルシュテン・ウィルヘルム
(72)【発明者】
【氏名】ヴーハープフェニッヒ,トーマス
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0078689(US,A1)
【文献】中国実用新案第201678670(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第107619777(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0093050(US,A1)
【文献】特表2009-539408(JP,A)
【文献】特開2008-182899(JP,A)
【文献】中国実用新案第203855575(CN,U)
【文献】国際公開第2006/101074(WO,A1)
【文献】特開平06-098758(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104073430(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積が2000L以上の産業規模で液体培地中の懸濁液中で
好気性細胞又は微生物を培養するためのバイオリアクタ又は発酵槽(100)であって、
決定された充填高さを有する液体培地中の培養物を収容する容器(102)と、
前記液体培地を攪拌するために前記容器内に設けられる攪拌器(120)と、
気泡(10,10.1,10.2,10.3)を前記液体培地に連続的に供給するように設けられる前記容器(102)の底部(105)に配置される第1のスパージャ(150)であって、前記
気泡が空気及び/又は酸素ガスから選択される、第1のスパージャ(150)と、
前記容器(102)内に配置されるとともに、更なる気泡及び/又は更なる酸素気泡(20,20.1,20.
2)を前記液体培地に連続的に供給するために前記第1のスパージャ(150)の上方に設けられる第2のスパージャ(160)と、
を備え、
前記第2のスパージャ(160)は、前記バイオリアクタ内又は発酵槽(100)内の前記第1のスパージャ(150)の上方の距離ηの位置に配置され、
ここで、ηは、前記第1のスパージャ(150)の少なくと
も0.4m上から前記バイオリアクタ又は発酵槽(100)の充填高さの最大0.5m下まで、又は、
前記第1のスパージャ
の0.4m上から前記バイオリアクタ若しくは発酵槽(100)の充填高さ
の2/3まで、又は、
前記第1のスパージャ
の0.4m上から前記バイオリアクタ若しくは発酵槽(100)の充填高さ
の1/2ま
での範囲内にあるように選択される、バイオリアクタ又は発酵槽(100)。
【請求項2】
前記バイオリアクタ又は発酵槽(100)は
、8~20m又
は9~15m又
は9.5
~12m又
は10mの範囲の充填高さを含む
ことを特徴とする
請求項1に記載のバイオリアクタ又は発酵槽(100)。
【請求項3】
前記第2のスパージャ(160)がサイドスパージャである
ことを特徴とする
請求項1又は2に記載のバイオリアクタ又は発酵槽(100)。
【請求項4】
第3のスパージャ(170)及び随意的な1つ又は複数の更なるスパージャが、第1のスパージャ(150)及び第2のスパージャ(160)の上方のバイオリアクタ内又は発酵槽(100)内に設けられ、一方が他方の上方に配置される2つの連続するスパージャ(150,160)(160,170)間の距離がηになるように選択される
ことを特徴とする
請求項1~3のいずれか一項記載のバイオリアクタ又は発酵槽(100)。
【請求項5】
前記攪拌器(120)は、前記バイオリアクタ又は発酵槽(100)を通る中心軸Aの周りに位置される攪拌器半径r
sを有し、
前記第1のスパージャ(150)は、供給される気泡(10,10.1,10.2,10.3)が前記攪拌器半径r
s以下の距離で前記液体培地に入るように、前記バイオリアクタ又は発酵槽(100)の中心軸Aから距離を隔てて配置され
及び/又は、
前記第2のスパージャ(160)及び随意的な更なるスパージャは、供給される気泡(20,20.1,20.
2)が攪拌器半径r
sよりも大きい距離で液相に入るように、前記中心軸Aから距離を隔てて配置される、
ことを特徴とする
請求項1~4のいずれか一項記載のバイオリアクタ又は発酵槽(100)。
【請求項6】
前記攪拌器(120,R1)に加えて1つ又は複数の更なる攪拌器(R2、R3、R4)が設けられ、前記更なる攪拌器(R2、R3、R4)が前記第2のスパージャ(160)の上方及び/又は下方に位置される
ことを特徴とする
請求項1~5のいずれか一項記載のバイオリアクタ又は発酵槽(100)。
【請求項7】
前記第1のスパージャ(150)、前記第2のスパージャ(160)、及び、随意的な更なるスパージャ(170)は、オープンチューブスパージャ、焼結プレート、有孔スラブ、リングスパージャ、スパイダ・タイプ・スパージャ、ディスク・タイプ・スパージャ、シート・タイプ・スパージャ、カップ・タイプ・スパージャ、及び、ブッシング・タイプ・スパージャ
であるチューブ・タイプ・スパージャから選択される静的スパージャである
ことを特徴とする
請求項1~6のいずれか一項記載のバイオリアクタ又は発酵槽(100)。
【請求項8】
前記第1のスパージャ(150)が中央スパージャ又はサイドスパージャであり、前記第2のスパージャ(160)及
び随意的な第3のスパージャ(170)及び更なるスパージャがサイドスパージャである
ことを特徴とする
請求項1~7のいずれか一項記載のバイオリアクタ又は発酵槽(100)。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項記載のバイオリアクタ又は発酵槽(100)で
好気性細胞又は微生物を培養するためのプロセスであって、培養されるべき細胞又は微生物の増殖、生存率、生産性及び/又は任意の他の代謝状態を促進するために、第2のスパージャ(160)及び随意的な第3のスパージャ(170)及び随意的な1つ又は複数の更なるスパージャが前記バイオリアクタ又は発酵槽(100)に設けられる、プロセス。
【請求項10】
第2のスパージャ(160)、随意的な第3のスパージャ(170)、及び、随意的な1つ又は複数の更なるスパージャが
、培養されるべき
好気性細胞又は微生物の増殖、生存率、生産性、及び/又は任意の他の代謝状態を促進するため
に設けられる
、請求項1~8のいずれか一項記載のバイオリアクタ又は発酵槽(100)。
【請求項11】
容積が2000L以上の産業規模で液体培地中の懸濁液中で好気性細胞又は微生物を培養するためのバイオリアクタ又は発酵槽(100)であって、
決定された充填高さを有する液体培地中の培養物を収容する容器(102)と、
前記液体培地を攪拌するために前記容器内に設けられる攪拌器(120)と、
気泡(10,10.1,10.2,10.3)を前記液体培地に連続的に供給するように設けられる前記容器(102)の底部(105)に配置される第1のスパージャ(150)であって、前記気泡が空気及び/又は酸素ガスから選択される、第1のスパージャ(150)と、
前記容器(102)内に配置されるとともに、更なる気泡及び/又は更なる酸素気泡(20,20.1,20.2)を前記液体培地に連続的に供給するために前記第1のスパージャ(150)の上方に設けられる第2のスパージャ(160)と、
を備え、
前記第2のスパージャ(160)は、前記バイオリアクタ内又は発酵槽(100)内の前記第1のスパージャ(150)の上方の距離ηの位置に配置され、
ここで、ηは、前記第1のスパージャの0.4m~3.0m上又は前記第1のスパージャの0.4m~2.5m上又は前記第1のスパージャの0.4m~2.0m上又は前記第1のスパージャの0.4m~1.5m上、の範囲内にあるように選択される、バイオリアクタ又は発酵槽(100)。
【請求項12】
容積が2000L以上の産業規模で液体培地中の懸濁液中で好気性細胞又は微生物を培養するためのバイオリアクタ又は発酵槽(100)であって、
決定された充填高さを有する液体培地中の培養物を収容する容器(102)と、
前記液体培地を攪拌するために前記容器内に設けられる攪拌器(120)と、
気泡(10,10.1,10.2,10.3)を前記液体培地に連続的に供給するように設けられる前記容器(102)の底部(105)に配置される第1のスパージャ(150)であって、前記気泡が空気及び/又は酸素ガスから選択される、第1のスパージャ(150)と、
前記容器(102)内に配置されるとともに、更なる気泡及び/又は更なる酸素気泡(20,20.1,20.2)を前記液体培地に連続的に供給するために前記第1のスパージャ(150)の上方に設けられる第2のスパージャ(160)と、
を備え、
前記第2のスパージャ(160)は、前記バイオリアクタ内又は発酵槽(100)内の前記第1のスパージャ(150)の上方の距離ηの位置に配置され、
ここで、ηは、前記第1のスパージャの0.4~1.0m上又は前記第1のスパージャの0.45~0.90m上又は前記第1のスパージャの0.5~0.80m上又は前記第1のスパージャの0.55~0.70m上又は前記第1のスパージャの0.6m上、の範囲内にあるように選択される、バイオリアクタ又は発酵槽(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業規模での懸濁液中の細胞又は微生物の培養のためのバイオリアクタ又は発酵槽に関する。
【背景技術】
【0002】
生物薬剤学的プロセスでは、産業規模に到達することが常に特別な関心事である。培養状態の維持は大規模培養を行う可能性を制限することが多いため、バイオリアクタ容積の増大度合いは、培養されるべき細胞の細胞性能の低下をもたらすことが多い。大規模生産に加えて、製造される製品の品質基準が満たされなければならず、同時に市場に供給するための信頼できる能力が提供されなければならない。したがって、一貫した高い生成物力価及び高い生成物収率を達成するために、細胞培養性能のサイズ依存性を低減又は排除することが常に関心事である。予期されるように、提供される増大したバイオリアクタ又は発酵槽の容積のより高い容量利用は、生産性の向上をもたらす。
【0003】
細胞の培養のためには、理想的な増殖状態を確保することが極めて重要である。これに関して、所望の溶存酸素含有量、培養pH値、温度などの好ましい物理化学的環境を維持することが重要である。しかしながら、細胞はそれらの環境に代謝的に応答することが知られている。特に、濃度勾配は、大規模バイオリアクタにおける細胞の細胞増殖を阻害し得る。また、例えば、pH値は、周囲の培地に大きな影響を与える。攪拌されたバイオリアクタ又は発酵槽において、代謝的に活性な細胞はCO2を分泌し、このCO2は、周囲の液体培地で溶解し、その環境からO2を吸収して細胞呼吸を完了する。例えば、液体培地中のCO2の以下の反応を観察することができる(pH<8.0):
CO2(ガス)+H2O⇔H2CO3⇔HCO3
-+H+
【0004】
したがって、バイオリアクタ又は発酵槽の液相へのCO2の流入は、pH値の低下に起因する酸性環境をもたらす。逆に、CO2のガス放出はpH値を上昇させる。したがって、「スパージャ」と呼ばれるガス供給源又はガス供給ユニットを介して酸素ガスをバイオリアクタ又は発酵槽に供給することが通常の手段である。
【0005】
したがって、一般に、高い製品品質及び効率を達成するためには、一定の酸素供給並びにいわゆる(CO2-)ストリッピングによる溶存二酸化炭素の明確な枯渇が確保されなければならない。これは、任意のサイズのバイオリアクタ又は発酵槽が培養されるべき任意の細胞又は微生物における信頼できるスケールアップを可能にするために想定し得るべきである。
【0006】
バイオリアクタ内又は発酵槽内の従来のガス供給ユニットは、ガス供給源として純O2が使用される場合、最初は純O2から成る液相に気泡を侵入させる。細胞又は微生物を収容するリアクタ内の気泡の滞留中及び上昇中、O2は気相から液相に移行し(反応(1))、逆に、代謝反応で形成されるCO2は、液相から気相に、すなわち、気泡へと移行する(反応(2))。Henryの法則定数(例えば、Christian SieblistらのInsights into large-scale cell-culture reactors:II.Gas-phase mixing and CO2 stripping、Biotechnol.J.2011、6、1547-1556によって規定される)に起因して、O2及びCO2の転移はそれぞれ異なる速度で起こる。
【0007】
例示として、バイオリアクタ又は発酵槽で行われる対象のプロセス及び反応が
図1に示される。
図1は、例えば、攪拌器(図示せず)に近い底部に純O
2を供給するガス供給源を有する概略的なバイオリアクタ又は発酵槽における溶存CO
2の分布を例示する。
図1に示される気泡10は、液体中で上昇している間の3つの異なる状態で、すなわち、出発単純気泡10.1として、中間セクションでは気泡10.2として、及び、バイオリアクタ又は発酵槽の上側セクションでは気泡10.3として示される。したがって、バイオリアクタの下部におけるガス供給源を発端として、O
2含有気泡10.1が液体培地中を表面まで上昇し始める。
図1の中央セクションでは、発生するプロセス及び反応が概略的に示され、すなわち、O
2ガスが気泡10.2から液相へと移行し(反応(1))、CO
2ガスが液相から気泡10.2へと移動する(反応(2))。O
2ガス及びCO
2ガスのそれぞれに関するヘンリーの法則定数は、著しく異なる(Sieblistら;loc.cit.)。同じ条件下で測定した場合、O
2に関する値は約0.0013mol/(kg*bar)であり、CO
2に関する値は約0.034mol/(kg*bar)であり、すなわち、約25倍高く、つまり、CO
2に関する値が大きくなり、それにより、加速拡散が生じる。したがって、反応(2)の速度は、反応(1)の速度と比較してはるかに速い(
図1に異なる矢印の太さで示される)。CO
2に関するヘンリーの定数はO
2に関する対応する値よりも高いため、気泡の二酸化炭素濃度は、リアクタを通過する途中でO
2に関する値が減少するよりも急速に増大する。その結果、気泡の上昇中にCO
2物質移動の駆動力が低下している。
【0008】
実際に、気泡10は数分間にわたって液相に酸素を供給することができるが、その二酸化炭素取り込みは数秒以内にCO
2飽和に起因して停止する。気泡がCO
2で飽和されると、気泡はもはやCO
2を吸い上げない。これは、
図1に気泡10.3で示される。数秒後、気泡10.3は依然として培養物に酸素を供給するが、それ以上CO
2を吸収する能力はない。したがって、バイオリアクタの液体培地中に供給される気泡は、CO
2ストリッピングのために一部の時間でのみ活性である。したがって、気泡は、バイオリアクタ内又は発酵槽内の特定の上昇高さの後にCO
2の飽和濃度に達する。そのため、
図1の上部では、気泡10.3がもはやCO
2ガスを吸収せず、O
2ガスのみが気泡10.3から液相へ移行する。結果として、
図1の下部から上部に向かって、状態10.1の気泡から状態10.2を経て状態10.3に至るまで、液体培地中へのO
2の送達は減少するが、気泡中のCO
2の濃度は飽和濃度に達するまで増大する。これは、
図1の右側の三角形の矢印に概略的に示され、すなわち、幅広部分から矢じりへと向かう矢印(3)は、培養培地への、すなわち、気相から液相へのO
2の相対的な送達傾向が減少していることを象徴する。
図1の矢印(4)は、矢じりから幅広部分へと向かうCO
2による気泡の飽和の増大を象徴し、それにより、CO
2が液相から気相に移行し、これはO
2の送達よりもはるかに速く進行する。正方形(5)は、気泡10.3がCO
2の飽和濃度に達してしまっているため、液相から気泡10.3への溶解したCO
2の取り込みがそれ以上不可能な領域を示す。
【0009】
したがって、非常に短時間の後、気泡10.3は、CO2ガスで飽和され、もはや液相からより多くのCO2を吸い上げることはできず、気泡10.3は依然としてO2ガスを液体環境に放出することができる。ガス供給が恒久的に行われるバイオリアクタ又は発酵槽では、液相に入って液相内のCO2の勾配に寄与する一連の気泡全体が与えられる。下部では、気泡は、CO2を吸い上げることができる能力、すなわち、気泡が上部に上昇する過程でますます失われる能力を有する。
【0010】
特に大規模生産のバイオリアクタ又は発酵槽において、ストリッピングは、ガス供給システムから上端へと向かうバイオリアクタ又は発酵槽を通じた気泡の移動中の気泡のガス組成の変化によって主に影響を受けるため、培養物からのCO2除去が大きな問題であることが知られている。
【0011】
したがって、前述したように、O2-濃度及びCO2-濃度の管理は、生物薬剤学的プロセス、特に大規模生物薬剤学的プロセスにおいて特に興味深い。大規模システム用のCO2のストリッピングの制御及び調整の改善を可能にする戦略を開発するために、酸素及び二酸化炭素の物質移動性能を詳細に評価しなければならない。CO2ガスに関連して観察されるべきパラメータは、(体積)二酸化炭素物質移動係数kLaCO2であり、式中、kLはCO2における輸送係数であり、aは比界面積であり、a=A/VL、すなわち、培養体積VL当たりの総物質移動断面積A(Christian Sieblistら、loc.cit.を参照)である。O2ガスに関連して観察されるべきパラメータは、(体積)酸素物質移動係数kLaO2である。物質移動係数は、体積に基づくことができ、この場合には体積物質移動係数である。
【0012】
更に、一方では、過剰な濃度レベルの溶存CO2を回避しなければならず、CO2を除去する必要がある。大型バイオリアクタ又は発酵槽(すなわち、気泡が上昇するための高さが大きく、したがって距離が長いもの)におけるCO2ストリッピングが不十分であると、溶存CO2が蓄積することが多く、それにより、液相中のCO2濃度が高くなり、細胞増殖及び生成物形成が阻害される。一方、核酸の合成には二酸化炭素が必要であり、その量は少なすぎてはならない。したがって、CO2のストリッピングは、培養されるべき細胞又は微生物にいかなる悪影響も及ぼさないものとすることに留意すべきである。
【0013】
その結果、酸素物質移動係数kLaO2に大きく影響することなく、大規模システムの二酸化炭素物質移動係数kLaCO2を強化し、制御及び調整できるようにする戦略を開発する必要がある。
【0014】
CO
2及びO
2の物質移動の相互関係を調査及び解明するために、様々な動作条件の影響を特定するために様々な研究を行った。特に、実験室規模及び産業規模でのCO
2の混合効率及び物質移動性能が詳細に検討されてきた。結果を
図2及び
図3に要約する。
【0015】
図2及び
図3は、実験室規模及び産業規模でそれぞれ異なる手動で与えられたガス空塔速度w
0
gに関する2つの異なる体積での体積攪拌器電力入力P/Vの依存性における二酸化炭素に関する体積物質移動係数k
La
CO2を示す。具体的には、
図2は、2L(cm範囲の高さ)の体積を有する曝気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽における実験室規模での実験を示し、
図3は、12,000Lの体積(m範囲の高さ)を有する曝気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽における産業規模での実験を示す。
【0016】
予期され得るように、
図2及び
図3は、二酸化炭素の体積物質移動係数k
La
CO2が、両方の実験、すなわち、実験室規模並びに産業規模で、ガス空塔速度w
0
gが増加するのと同程度に増加することを示す。更に、二酸化炭素の物質移動性能は、産業規模のプロセスと比較して実験室規模でかなり異なることが分かった。しかしながら、体積攪拌器電力入力が実験室規模に大きな影響を及ぼすが、産業規模には最小限の影響しか及ぼさないことは予想外であった。
図2及び
図3から分かるように、産業規模のリアクタの体積物質移動係数k
La
CO2は、実験室規模のリアクタと比較して最大10倍低い。
【0017】
実験室規模の実験と産業規模の実験との間の違いをより良く説明するために、
図4を参照すると、ここには、実験室規模と産業規模との間の二酸化炭素における物質移動係数k
La
CO2の比較が示される。
図4は、体積電力入力P/V=21Wm
-3で測定された体積物質移動係数と比較した、体積二酸化炭素物質移動係数に対する比電力入力の相対的な影響を示す。実験室規模と産業規模との間の体積二酸化炭素物質移動係数k
La
CO2を比較すると、産業規模においては体積電力入力P/Vを増加させても物質移動性能を大幅に向上させることはできないが、実験室規模においてはCO
2における物質移動性能を21から168Wm
-3まで最大70%向上させることができることは明らかである。したがって、
図4は、実験室規模(2Lシステム)では攪拌器入力の増加に伴うk
La
CO2の+70%の増加を実証するが、産業規模ではk
La
CO2の+5%の増加しか観察することができない(12,000Lシステム)。
【0018】
したがって、
図2~
図4に基づく産業規模のバイオリアクタ又は発酵槽においては、体積電力入力P/Vの増加に伴ってCO
2における物質移動性能を大幅に向上させることはできないが、実験室規模では、CO
2の物質移動性能を最大70%向上させることができることが明らかになる(
図4参照)。
【0019】
上記で既に説明したように、2つのシステムの異なる挙動は、基本的に、システム内の気相の滞留時間によって説明することができる。産業規模では、気泡と液体との間のCO2濃度の平衡は、気泡が表面に到達するはるか前に達するが、実験室規模では、滞留時間が短すぎて平衡に達することができない。したがって、攪拌器の周波数を増加させて界面積を増加させると、実験室規模ではより高い物質移動係数が得られるが、大規模では、「死気泡」(すなわち、CO2飽和を伴う気泡)のより強い分散は役に立たない。
【0020】
酸素物質移動の場合、更なる実験により、産業規模であっても平衡に達しないことが分かった。したがって、体積電力入力が高いほど、界面積が大きくなり、したがって、体積物質移動係数kLaO2が大きくなる。したがって、二酸化炭素における体積物質移動係数は、より高いガス流量でのみ著しく向上させることができるが、より高い体積電力入力では向上させることができないと結論付けられる。
【0021】
産業規模での二酸化炭素のストリッピングの困難さは、主に、バイオリアクタ又は発酵槽の底部又はその近くに設けられた水中ガス供給源のすぐ上方でのみ気相が二酸化炭素で既に飽和されるという事実に関連している。したがって、二酸化炭素における物質移動性能を高めるための明らかに最も実現可能な選択肢は、ガス流量を増加させることである。しかしながら、これは、酸素物質移動速度のしばしば望ましくない増加ももたらし、したがって、バイオリアクタ内又は発酵槽内のO2-濃度及びCO2-濃度の独立した管理は不可能である。
【0022】
従来技術では、2つのスパージャを有するリアクタが既に知られており、市販されている。例えば、欧州特許出願公開第0 099 634号明細書には、円筒状容器、ドラフトチューブ、円錐底部、及び、ガススパージャシステムを備える、気相、固相、及び、液相の間の多相接触のための反応装置が記載されている。ガススパージャ16が、粒子状固相が容器内に含まれて懸濁されている連続液相へ気泡形態の少なくとも1つのガスを流入させるために容器の下端で、内壁と円錐形表面周囲との間の隙間に配置される。リングスパージャ34の形態の補助ガススパージャが、ドラフトチューブを取り囲み、その径方向外側から液相へと気泡形態のガスを放出するように構成される。欧州特許出願公開第0 099 634号明細書は、2つのスパージャ間の距離に関しては全く言及していない。
【0023】
国際公開第2002/33048号パンフレットには、発酵容器内で好気条件下で微生物を培養する方法であって、培養液のカオス的挙動を引き起こす不均一な流れで容器の下部に第1の酸素含有ガスを注入することと、第2の酸素含有ガスを容器内に導入することとを含む方法において、注入部位で乱流状態をもたらす培養液の流れの方向とは無関係に、容器内で可能な全ての方向に移動する気泡の不均一な流れとして、及び、不均一なサイズ及び広いサイズ分布の一組の気泡として、第2の酸素含有ガスを導入することを特徴とする方法が開示される。2つのスパージャ間の距離は、明細書本文の4頁20-24行目に概説されているように第2の酸素含有ガス流の入口位置に関して制限がないため、言及されておらず、重要ではない。
【0024】
Sen Xuらの’’A practical approach in bioreactor scale-up and process transfer using a combination of constant P/V and vvm as the criterion’’、Biotechnology Progress,Vol.33,No.4,2017,pp.1146-1159では、モノクローナル抗体(MAb)などの治療用タンパク質の産生における重要な工程としてのバイオリアクタのスケールアップが評価される。例えば、異なるスパージャを有するある範囲のバイオリアクタスケール(3~2,000L)からのスパージャkLa及びkLaCO2(CO2体積物質移動係数)が調べられる。この関係においては、シングルスパージャシステム及びデュアルスパージャシステムがその幾何学的形状に関するいかなる開示もなく記載される。一般に、デュアルスパージャシステムでは、両方のスパージャが、ほぼ同じ位置にあり、異なる高さにはない。
【0025】
更に、有機化学の分野からの米国特許第5 994 567号明細書は、気泡塔リアクタへの直接的な酸素注入、すなわち、第1の酸素含有ガスが酸化可能な有機液体を含有する気泡塔リアクタ容器の下部に注入される液相酸化プロセスを対象としている。第2の酸素含有ガスが、前記注入の前に液体が溶存酸素を実質的に使い果たす1つ以上のポイントでリアクタに更に注入される。第1及び第2の酸素含有ガスの両方からの酸素は、クメン又はシクロヘキサンなどの有機液体を酸化するために使用される。したがって、細胞又は微生物を培養するための攪拌タンクバイオリアクタ又は発酵槽は記載されていないが、化学反応は記載され、それにより、培養された生細胞によって生成されるCO2のストリッピングは重要でない。
【0026】
国際公開第2008/088371号パンフレットの開示は、化学的、生化学的及び/又は生物学的反応を実行するためのリアクタとして使用することができる支持された折り畳み式バッグを伴うシステム及び方法を含む、流体を収容及び操作するためのシステムに関する。一態様において、容器に収容された流体は、例えば、流体が容器のコンテナ内に導かれるようにスパージングすることができ、場合によっては、スパージングは、必要に応じてスパージングの程度を急速に活性化又は変更することによって制御することができる。場合によっては、複数のスパージャが使用されてもよいことが言及される。しかしながら、この文献は、それらの特定の幾何学的配列については言及していない。記載された異なるスパージャ47又は301は、
図1によれば、リアクタの底部において同じ高さに位置されるが、その物理化学的影響に関する特定の教示はない。
【0027】
攪拌器に対するスパージャの想定し得る位置、形態及びサイズは、Sardeingらの’’Gas-liquid mass transfer’’、Chemical Engineering Research and Design,Elsevier,Amsterdam,NL,Vol.82,No.9,2004,pp.1161-1168;Birchらの’’The Influence of Sparger Design and Location on Gas Dispersion in Stirred Vessels’’、Chemical Engineering Research and Design,Elsevier,Amsterdam,NL,Vol.75,No.5,1997,pp.487-496及び、Rewatkar V.B.らの’’Role of sparger design on gas dispersion in mechanically agitated gas-liquid contactors’’、Canadian Journal of Chemical Engineering,1993,Vol.71,No.2,pp.278-291において評価されて論じられている。効果を評価するために、単一のスパージャのみが使用される。同時にリアクタ内に2つのスパージャが存在し、それらの間の距離は関連性がなく、言及されていない。
【0028】
したがって、本発明の目的は、従来技術の欠点を克服するとともに、産業規模で曝気攪拌バイオリアクタ内又は発酵槽内の酸素濃度から独立して二酸化炭素濃度を管理できるようにする改変バイオリアクタ又は発酵槽を提供することである。
【0029】
更に、産業規模で曝気攪拌バイオリアクタ内又は発酵槽内の二酸化炭素濃度及び酸素濃度の独立した管理によって細胞培養又は発酵プロセスを制御する方法を提供することが更なる目的である。
【発明の概要】
【0030】
驚くべきことに、従来技術から知られている欠点を克服でき、特に、第2のガス供給源(又は場合により多くのガス供給源)がバイオリアクタ内の第1のガス供給源から所定の距離を隔てて配置される場合に、産業規模の曝気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽におけるO2-濃度及びCO2-濃度の独立した管理を達成できることが分かった。
【0031】
したがって、前述の欠点を克服するために、産業規模で液体培地中の懸濁液中で細胞又は微生物を培養するための改変され、それにより改善されたバイオリアクタ又は発酵槽が提供される。産業規模で液体培地中の懸濁液中で細胞又は微生物を培養するためのバイオリアクタ又は発酵槽100であって、
決定された充填高さを有する液体培地中の培養物を収容する容器102と、
液体培地を攪拌するために容器内に設けられる攪拌器120と、
気泡10,10.1,10.2,10.3を液体培地に連続的に供給するように設けられる容器102の底部105に配置される第1のスパージャ150であって、気体が空気及び/又は酸素ガスから選択される、第1のスパージャ150と、
容器102内に配置されるとともに、更なる気泡及び/又は更なる酸素気泡20,20.1,20.2,20.3を液体培地に連続的に供給するために第1のスパージャ150の上方に設けられる第2のスパージャ160と、
を備え、
第2のスパージャ160は、バイオリアクタ内又は発酵槽100内の第1のスパージャ150の上方の距離ηの位置に配置され、ここで、ηは、第1のスパージャ150の少なくとも約0.4m上からバイオリアクタ又は発酵槽100の充填高さの最大約0.5m下まで、又は、
第1のスパージャの約0.4m上からバイオリアクタ若しくは発酵槽100の充填高さの約2/3まで、又は、
第1のスパージャの約0.4m上からバイオリアクタ若しくは発酵槽100の充填高さの約1/2まで、又は、
第1のスパージャの約0.4m上~第1のスパージャの約3.0m上又は約0.4m~約2.5m、又は約0.4m~約2.0m又は約0.4m~約1.5m又は約0.4~約1.0m又は約0.45~約0.90m又は約0.5~約0.80m又は約0.55~約0.70mの範囲内にあるように又は約0.6mにあるように選択される、バイオリアクタ又は発酵槽100。
【0032】
したがって、CO2における物質移動性能を向上させ、それと同時にO2の物質移動性能に悪影響を及ぼさないようにするために、本発明によれば、水中スパージャ又は第1のスパージャから供給されるガスと比較して、供給される更なるガスのはるかに短い滞留時間を達成するために、第1のスパージャよりも高い位置にあるバイオリアクタ又は発酵槽内に更なる第2のガススパージャが距離ηで設けられる。第2のスパージャによって注入されるガスの滞留時間が短いため、より少量の酸素が液相に移動する一方で、増加した量のCO2を取り去ることができる。
【0033】
一実施形態によれば、第2のスパージャは、サイドスパージャ、すなわち、側壁の近くに更なる気泡を供給するスパージャであってもよい。
【0034】
従来技術及び本発明の実施形態は、添付の図面を参照して例として説明されるが、添付の図面は概略的なものであり、原寸に関して正確な幾何学的値の仮定を行うことができないように縮尺通りに描かれることを意図していない。本開示の図は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、記載された特定の実施形態に限定されない本発明の実施形態も示す。図面は、一般的な説明及び詳細な説明と共に、本開示の原理を説明するのに役立つ。同じ特徴は、図面全体を通して同じ参照符号で示される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】バイオリアクタ内又は発酵槽内の気泡中で起こるO
2及びCO
2の分配に関するプロセス及び反応の概略図を示す。
【
図2】実験室規模での異なるガス空塔速度w
0
gに関する体積攪拌器電力入力P/Vの依存性における二酸化炭素に関する体積物質移動係数k
La
CO2を示す。
【
図3】産業規模での異なるガス空塔速度w
0
gに関する体積攪拌器電力入力P/Vの依存性における二酸化炭素に関する体積物質移動係数k
La
CO2を示す。
【
図4】
図2及び
図3で得られた値に基づく実験室規模と産業規模との間の二酸化炭素における物質移動係数k
La
CO2の比較を示す。
【
図5】本開示の典型的な実施形態に係る、ガスの追加注入を伴わずに(セクションA)及びガスの追加注入を伴って(セクションB;気泡20)バイオリアクタ内又は発酵槽内の気泡10内で起こるO
2及びCO
2の分配に関するプロセス及び反応の概略図を示す。
【
図6a】本開示の典型的な実施形態に係るバイオリアクタ内又は発酵槽内の第1のスパージャ150及び第2のスパージャ160のそれぞれの位置を示す。
【
図6b】本開示の典型的な実施形態に係るバイオリアクタ内又は発酵槽内の第1のスパージャ150、第2のスパージャ160、及び、第3のスパージャ170のそれぞれの位置を示す。
【
図7】本開示の典型的な実施形態に係るスパージャ150,160,170のタイプを示す。
【
図8】例示的なセクション(実施例1)で説明されており、本開示の例示的な実施形態に係るc
CO2=14%~c
CO2=6%の飽和からのk
La
CO2値の例示的な評価を示す。
【
図9】例示的なセクション(実施例2)で説明されており、本開示の典型的な実施形態に係る、産業規模のバイオリアクタ及び更なる第2のスパージャ(160)の取り付け位置の垂直断面概略図の技術図を示す。
【
図10】例示的なセクション(実施例2及び3)で説明されており、従来技術並びに本開示の典型的な実施形態に係るガス流量の依存性における酸素に関する物質移動係数(k
La
O2)を決定するために実行された4つの測定値の比較を表す。
【
図11】例示的なセクション(実施例3)で説明されており、従来技術並びに本開示の例示的な実施形態に係るガス流量の依存性における二酸化炭素に関する物質移動係数(k
La
CO2)を決定するために実行された4つの測定値の比較を表す。
【
図12a】例示的なセクション(実施例3)で説明され、本開示に係る酸素の物質移動係数(k
La
O2)に関する影響係数C
O2の決定を示す。
【
図12b】例示的なセクション(実施例3)で説明され、本開示に係る二酸化炭素の物質移動係数(k
La
CO2)関する影響係数C
CO2の決定を示す。
【
図13a】例示的なセクション(実施例4)で説明され、従来技術並びに本開示の典型的な実施形態に係るサイドスパージャ型A又はサイドスパージャ型Bを用いてガス流量の依存性における酸素に関する物質移動係数(k
La
O2)を決定するために実行された4つの測定値の比較を示す。
【
図13b】例示的なセクション(実施例4)で説明され、従来技術並びに本開示の典型的な実施形態に係るサイドスパージャ型A又はサイドスパージャ型Bを用いてガス流量の依存性における二酸化炭素に関する物質移動係数(k
La
CO2)を決定するために実行された4つの測定値の比較を示す。
【
図14a】例示的なセクション(実施例5)で説明されており、攪拌器周波数及び水中ガス流量の依存性における二酸化炭素に関する物質移動係数(k
La
CO2)を決定するために実行された測定値を示す。
【
図14b】例示的なセクション(実施例5)で説明されており、攪拌器周波数及び水中ガス流量の依存性における酸素に関する物質移動係数(k
La
O2)を決定するために実行された測定値を示す。
【
図15a】例示的なセクション(実施例5)で説明されており、攪拌器周波数及びサイドガス流量の依存性における二酸化炭素に関する質量伝達係数(k
La
CO2)を決定するために実行された測定値を示す。
【
図15b】例示的なセクション(実施例5)で説明されており、攪拌器周波数及びサイドガス流量の依存性における酸素に関する物質移動係数(k
La
O2)を決定するために実行された測定値を示す。
【
図16a】例示的なセクション(実施例6)で説明され、ステップ応答方法、特にシステムへの入力を示す。
【
図16b】例示的なセクション(実施例6)で説明され、ステップ応答方法、特にシステムの出力を示す。
【
図17】例示的なセクション(実施例6)で説明され、ステップ応答測定で使用される気泡キャッチャ(漏斗)180を例示する。
【
図18】例示的なセクション(実施例6)で説明されており、12kLの曝気攪拌タンクリアクタに適用されるステップ応答法からの典型的な入力及び出力信号を示す。
【
図19】例示的なセクション(実施例6)で説明されており、100%及び50%の投入ステップから生じる気泡キャッチャ(漏斗)180でのステップ応答の比較を示す。
【
図20】例示的なセクション(実施例6)で説明され、産業規模のバイオリアクタ又は発酵槽(12,000L)と比較した実験室規模のバイオリアクタ又は発酵槽(30L)におけるステップ関数応答法(実施例セクションで説明されたような「Sprungantwort-methode」)によって決定された気相滞留時間の測定結果を示す。
【
図21】実施例のセクション(比較例1)で説明されており、市販の12.000lバイオリアクタで11日間にわたって従来のフェドバッチプロセスで抗体誘導体を培養する、バイオリアクタがただ1つのスパージャを備える場合の、生存細胞密度、細胞生存率、力価及びCO
2分圧の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
幾つかの図に対する詳細な説明は、本明細書の最後で行われる。
【0037】
本明細書で具体的に定義されていない用語には、本開示及び文脈に照らして当業者によってそれらに与えられるであろう意味が与えられるべきである。
【0038】
「バイオリアクタ」は、生物、特に細菌及び真核細胞が有用な物質を増殖及び/又は合成し、それによって培養培地から栄養素を消費し、また、好気性細胞又は微生物の場合にはスパージャのような技術的手段によって供給されるO2を消費するデバイス又は装置である。本開示において、バイオリアクタは、産業規模のバイオリアクタである。バイオリアクタは、生物及び/又はそのような生物に由来する生化学的活性物質を含む化学的又は生化学的方法が実行される生体適合性容器からなるか、又はそれを含み得る。バイオリアクタは、細胞の培養及び増殖を特に可能にする更なる機器、例えば攪拌器、バッフル、1つ以上のスパージャ(例えば本発明の対象として)及び/又はポートを使用する。一般に、バイオリアクタは、2つの端部を有する円筒管の形態であり、端部はバイオリアクタの上部及び底部を形成する。バイオリアクタは、リットルから立方メートルのサイズの範囲であり、しばしばステンレス鋼で作られる。本開示に係るバイオリアクタは、大規模生産に用いられる。
【0039】
培養細胞、特にチャイニーズハムスター卵巣(CHO)などの真核細胞又は酵母細胞は、例えば、治療的使用のためのモノクローナル抗体などの抗体及び/又は組換えタンパク質などの組換えタンパク質を産生するために使用される。あるいは、細胞は、例えば、ペプチド、アミノ酸、脂肪酸又は他の有用な生化学的中間体若しくは代謝産物又は任意の他の有用な物質を産生し得る。
【0040】
「発酵槽」は、微生物が有用な物質を合成し、それによって微生物の増殖に適した条件が維持されるデバイス又は装置である。バイオリアクタについての上記の事項は、必要な変更を加えて適用される。本開示の発酵槽は、大規模発酵に使用される。大規模発酵槽の既知の市販品は、例えば、そのような細胞又は微生物によって合成される抗生物質、抗体、ホルモン又は酵素である。
【0041】
産生された微生物は、廃水処理、食品製造のための食品産業、抗生物質若しくはインスリンなどの薬物製造のためのバイオテクノロジー部門、有害生物防除、又は廃棄物、汚染物質、例えば油汚染の生分解などの様々な目的に有用である。
【0042】
本開示において、「産業規模」又は「大規模」という表現は、交換可能かつ同義的に使用され、大量の生産量で得られる製品に関し、この場合、規模が増大するにつれて出力単位当たりのコストが減少するというコスト上の利点があることが多い。大きな製造ユニットは、小さなユニットよりも出力単位当たりのコストが低くなると予想され、他の要因は全て同じである。産業規模は、約2,000L以上の使用されるバイオリアクタの体積を有するように細胞を培養することに関連して理解され得る。産業規模は、約1,000L以上の使用される発酵槽の体積を有するように微生物を培養することに関連して理解され得る。更なる実施形態によれば、産業規模で使用されるバイオリアクタ又は発酵槽の体積は、6,000、8,000、10,000、12,000、15,000L以上であってもよい。
【0043】
「攪拌器」は、マグネチック攪拌器などの攪拌に使用される物体又は機械的装置である。細胞又は微生物の培養に一般的に使用される任意の種類の攪拌器を使用することができる。使用され得る攪拌器は、例えば、インペラ、Rushton-Turbine、攪拌パドル、ピッチドブレード攪拌器などのブレード攪拌器などである。
【0044】
「スパージャ」は、液相中に酸素及び/又は気泡を供給し、細胞又は微生物が培養される液相中に存在するバイオリアクタ又は発酵槽で使用されるガス供給源又は供給装置である。従来技術に係るバイオリアクタ又は発酵槽は、通常その底部に又はその近くに配置されるただ1つのスパージャを有する。本開示では、このスパージャは「第1のスパージャ」又は「水中スパージャ」とも呼ばれ、両方の表現は互換的かつ同義的に使用される。
【0045】
本開示によれば、所定の距離ηで第1のスパージャの上方に配置され、更なる気泡及び/又は更なる酸素気泡を液体培地に連続的に供給する更なるスパージャ、すなわち第2のスパージャを設けると、上記及び以下の説明から当業者には明らかな培養プロセスのための様々な利点を有することが分かった。
【0046】
以下では、本開示に係るバイオリアクタ又は発酵槽で行われるプロセス及び反応をより詳細に説明する。
【0047】
通常はバイオリアクタ又は発酵槽の下部又は底部に1つのガス供給装置のみが存在するバイオリアクタ又は発酵槽では、液相に入る気泡は細胞培養培地からCO2を取り込む能力を有するが、そのような能力は気泡の上昇の過程でますます失われる。バイオリアクタ又は発酵槽の上部又は上部では、上記で説明したように高さに応じて、液相からの気泡の溶解CO2の取り込みはそれ以上起こらない。したがって、CO2含有量は、バイオリアクタ又は発酵槽の底部から上部に向かって増加し、それによって液相内にCO2の勾配をもたらす。
【0048】
バイオリアクタ又は発酵槽の液相に通常存在するCO2勾配及びこのようなCO2の不均一な分布に関連する欠点は、本開示によって克服することができ、本開示によれば、第2のスパージャが、大規模なバイオリアクタ又は発酵槽の液相の第1のスパージャから離間した第1のスパージャの距離η上方に設けられる。第2のスパージャは、もはやCO2を吸収することができない気泡のCO2飽和の確立を打ち消すために設けられる。第2のスパージャは、O2及びCO2を通過するプロセスが第1のスパージャの上方で更に再び進行することができるように、液相に新しい気泡を追加する。
【0049】
例示として、大規模なバイオリアクタ又は発酵槽内の液相で行われる対象のプロセス及び反応を
図5に概略的に示す。
図5は、左側のセクションAにおいて、攪拌器(図示せず)の近くにただ1つのガス供給装置又はスパージャを有する概略的なバイオリアクタ又は発酵槽における溶存CO
2の分布を例示する。スパージャは、バイオリアクタ又は発酵槽の底部又はその近くに配置される。1つのスパージャのみを用いた標準ガス処理は、明らかにCO
2勾配をもたらす。特定の高さに達した後、気泡10.2をCO
2で飽和させる。したがって、
図5の下部(セクションA)では、CO
2のストリッピング性能は良好であるが、上部では、CO
2ストリッピングは不十分で許容できない。
【0050】
図5の右側のセクションBは、第1のスパージャの上に設けられた更なる第2のガス供給装置又は第2のスパージャの結果としての大規模での概略的なバイオリアクタ又は発酵槽内の溶存CO
2の分布を示す。
図5のセクションBから導出され得るように、第2のスパージャは、液体培地中の表面まで上昇し始める気泡20.1を供給する。気泡20.2に示すように、O
2ガスは気泡20.2から液相に移行し(反応(1))、CO
2ガスは液相から気泡20.2に移行する(反応(2))。これにより、異なるヘンリー定数により、反応速度(2)は反応速度(1)(
図5に異なる矢印の太さで示されている)と比較してはるかに速い。したがって、セクションBにおける液相の中央部及び上部におけるCO
2のストリッピングは、セクションAにおける
図5の左側に示されるような液相の下部におけるCO
2ストリッピングと同様である。したがって、液体培地中の上昇する高さ全体にわたるCO
2勾配が回避される。バイオリアクタ又は発酵槽内に存在する細胞又は微生物は、より一貫した環境を経験し、細胞又は微生物の代謝反応に反映され得る液体培地の変動の程度がはるかに低い。
【0051】
第2のスパージャは、気泡が液相を通って上昇する間にCO2で飽和され得ることを回避するように、気泡の絶対上昇高さを短くするために、第1のスパージャの上方に設けられる。加えて、液相内の第2のスパージャから生じる気泡の滞留時間が減少し、気泡は攪拌器によって分散されないため、液面に対して比較的速く上昇する。したがって、CO2ストリッピング性能は、バイオリアクタ又は発酵槽の上部においても良好である。
【0052】
更なる実施形態によれば、第3のスパージャ及び更なるスパージャが第2のスパージャなどの上方に存在してもよく、その結果、3つのスパージャ、4つ以上のスパージャがバイオリアクタ又は発酵槽内に同時に存在する。第2のスパージャについての上記の説明は、それに応じて第3、第4、第5及び更なるスパージャに適用される。
【0053】
その結果、大規模バイオリアクタ又は発酵槽は、液相中のCO2分布に直接影響を及ぼすために、スパージャがそれぞれ配置された異なる部分区画に細分される。この種のより小さな単位での大規模なバイオリアクタ又は発酵槽の「分離」は、比較可能性の改善、したがって実験室規模に対する産業規模での培養の予測可能性の改善、及びその逆、好適には代謝率の上昇、生存率の増加及び/又は生産性の増加をもたらす。
【0054】
大規模な生産規模で稼働するバイオリアクタ又は発酵槽内に第2のスパージャ又は随意的な第3の更なるスパージャを設けると、使用される大容量にもかかわらず、培養される細胞又は微生物の物理化学的環境条件の調和をもたらす。したがって、本概念は、CO2分布が液相全体にわたってより均一であるという点で、産業規模を実験室規模に適合させる手法である。
【0055】
更に、液相中の溶存CO2濃度は、第2のスパージャ又は随意的な第3のスパージャ及び更なるスパージャの存在により、適切な濃度又はレベルに低下させることができる。CO2濃度が特に高濃度で細胞培養性能に影響を及ぼし、それによって高CO2濃度が好気性細胞の増殖を阻害する(David R.Grayet al.,CO2 in large-scale and high-density CHO cell perfusion culture,Cytotechnology 1996,22,65-78参照。)ことに留意して、細胞培養培地自体で高CO2濃度を回避しなければならない。第2のスパージャ及び更なる第3又は更なるスパージャは、液相中のこのような望ましくない高CO2含有量の発生を防止するのに役立つ。
【0056】
更に、更なる気泡及び/又は更なる酸素気泡を液体培地に連続的に供給する更なる第2及び第3及び更なるスパージャはまた、液相全体にわたってより均一なO2分布をもたらす。
【0057】
したがって、更なる実施形態によれば、第1、第2及び第3のスパージャの上方に設けられた1つ又は複数の更なるスパージャが存在してもよい。
【0058】
第2のスパージャ及び更なるスパージャの位置は、液相中のO2-濃度及びCO2-濃度の管理を考慮して、培養の性能及び効率にプラスの影響を及ぼし得ることが分かった。
【0059】
第1のスパージャがバイオリアクタ又は発酵槽の底部又は下部に又はその近くに位置すると仮定すると、第2のスパージャは、常に第1のスパージャの上方、例えばバイオリアクタ又は発酵槽の中央部又は上部に位置する。第2のスパージャの位置を更に検証するために、基本的には、バイオリアクタ又は発酵槽内の第2のスパージャの位置を大規模に変化させるための2つの主な方向が存在する。1つの主な方向は、垂直方向、すなわち、スパージャの位置をバイオリアクタ又は発酵槽の底部から上部に変化させる方向である。すなわち、第2のスパージャは、例えばバイオリアクタ又は発酵槽の底部の近く又は上部の近くに、又はそれらの間の任意の距離に配置することができる。これに関して、気泡は存在する液相内に供給されるため、バイオリアクタ又は発酵槽の充填高さは観察されなければならず、その絶対容積ではない。
【0060】
本発明の一実施形態によれば、バイオリアクタ又は発酵槽は、約8~約20m又は約9~約15m又は約9、5~約12m又は約10mの範囲の充填高さを含む。
【0061】
考慮され得る第2の主方向は、水平方向、すなわち、側壁とバイオリアクタ又は発酵槽の中心軸との間のスパージャの位置である。中心軸は、円筒形状を有すると推定され、周囲の側壁との間隔がどこでも等しいか、又はほぼどこでも等しいバイオリアクタ又は発酵槽内の仮想線である。すなわち、第2のスパージャは、例えば側壁の近くに、又はバイオリアクタ若しくは発酵槽の中心軸の近くに、又はそれらの間の任意の距離に配置されてもよい。
【0062】
更なる実施形態によれば、連続したスパージャを垂直方向に上下に正確に配置することができる。別の実施形態によれば、連続するスパージャはまた、垂直方向に関して互いに横方向にシフトして配置されてもよい。
【0063】
したがって、本発明によれば、第2のスパージャは、第1のスパージャから距離ηだけ離れたバイオリアクタ又は発酵槽の容器内の位置に配置される。距離ηは、第2のスパージャが第1のスパージャの上方の距離ηに位置するように、例えばバイオリアクタ又は発酵槽の側壁に沿った垂直距離として理解されるべきである。距離ηは、第1のスパージャの少なくとも約0.4m上方からバイオリアクタ若しくは発酵槽の充填高さの最大約0.5m下方までの範囲内、又は
第1のスパージャの約0.4m上からバイオリアクタ若しくは発酵槽の充填高さの約2/3までの範囲内、又は
第1のスパージャの約0.4m上からバイオリアクタ若しくは発酵槽の充填高さの約1/2までの範囲内、又は
約0.4m~約3.0m、又は約0.4m~約2.5m、又は約0.4m~約2.0m、又は約0.4m~約1.5mの範囲内、又は
約0.4~約1.0m又は約0.45~約0.90m又は約0.5~約0.80m又は約0.55~約0.70mの範囲内又は第1のスパージャの上方約0.6mのそれぞれ、
となるように選択される。
【0064】
したがって、第1のスパージャと第2のスパージャとの間の距離ηは、第1のスパージャよりも約0.4m高い下限と、バイオリアクタ又は発酵槽の充填高さよりも約0.5m低い上限とを有する。「液体高さ」と同義に使用される「充填高さ」という表現は、培養プロセスの開始時にバイオリアクタ又は発酵槽内に存在する液体の充填レベルを意味すると理解されるべきであり、これは液体の表面又は存在する液体の公称体積によって更に定義される。したがって、バイオリアクタ又は発酵槽の充填高さの0.5m下は、培養プロセスの開始時にバイオリアクタ又は発酵槽内に存在する液体の表面の0.5m下と同義である。
【0065】
例えば、総充填高さが10mである場合、充填高さの0.5m下は9.5mである。次いで、距離ηは、約0.4m~約9.5mの範囲で選択される。この範囲の下限及び上限は、本発明の臨界値であると考えられる。
【0066】
バイオリアクタ自体に2つのスパージャが存在すると、CO2ストリッピングが行われる液体培地の面積が増加する。第2のスパージャが液体の表面付近、例えばバイオリアクタ又は発酵槽の充填高さより約0.5m下に配置される場合、第2のスパージャは下流の領域を取り去ることができ、一方、バイオリアクタの底部付近に配置される第1のスパージャは液体培地の上流の領域を取り去ることができる。要するに、バイオリアクタ又は発酵槽の全充填高さにCO2ストリッピングを施す。
【0067】
距離ηは、第1のスパージャの約0.4m上方からバイオリアクタ又は発酵槽の充填高さの約2/3の範囲内になるように選択することができる。「バイオリアクタ又は発酵槽の充填高さの約2/3」という表現は、第2のスパージャが、全充填高さの約2/3が達成される位置に配置されることを意味すると理解されるべきである。例えば、総充填高さが12mである場合、総充填高さの2/3は8.0mである。次いで、距離ηは、約0.4m~約8.0mの範囲で選択される。
【0068】
また、距離ηは、第1のスパージャの約0.4m上方からバイオリアクタ又は発酵槽の充填高さの約1/2の範囲内になるように選択されてもよい。「バイオリアクタ又は発酵槽の充填高さの約1/2」という表現は、第2のスパージャが、全充填高さの約1/2又は液体体積の約0.5倍が存在する位置に配置されることを意味すると理解されるべきである。例えば、総充填高さが11mである場合、総充填高さの1/2は5.5mである。次いで、距離ηは、約0.4m~約5.5mの範囲で選択される。
【0069】
また、距離ηは、約0.4m~約3.0m又は約0.4m~約2.5m又は約0.4m~約2.0m又は約0.4m~約1.5m又は約0.4~約1.0m又は約0.45~約0.90m又は約0.5~約0.80m又は約0.55~約0.70m又は約0.6mの範囲内にあるように選択されてもよい。したがって、距離ηは、第1のスパージャの約3.0m、約2.9m、約2.8m、約2.7m、約2.6m、約2.5m、約2.4m、約2.3m、約2.2m、約2.1m、約2.0m、約1.9m、約1.8m、約1.7m、約1.6m、約1.5m、約1.4m、約1.3m、約1.2m、約1.1m、約1.0m、約0.95m、約0.90m、約0.85m、約0.80m、約0.75m、約0.70m、約0.65、約0.6m、約0.55、約0.45、及び約0.4m上方となるように選択されてもよい。
【0070】
更なる実施形態では、距離ηは、第1のスパージャの少なくとも約0.6m上方からバイオリアクタ若しくは発酵槽の充填高さの最大約0.5m下方までの範囲内、又は
第1のスパージャの約0.6m上からバイオリアクタ若しくは発酵槽の充填高さの約2/3までの範囲内、又は
第1のスパージャの約0.6m上方又はバイオリアクタ若しくは発酵槽の充填高さの約1/2、又は
第1のスパージャの約0.6m~約3.0m上方又は第1のスパージャの約0.6m~約2.5m上方又は第1のスパージャの約0.6m~約2.0m上方又は第1のスパージャの約0.6m~約1.5m上方、又は
第1のスパージャの約0.6m~約1.0m上方又は第1のスパージャの約0.6m~約0.90m上方又は第1のスパージャの約0.6m~約0.80m上方又は第1のスパージャの約0.6m~約0.70m上方又は第1のスパージャの約0.6m上方、
となるように選択されてもよい。
【0071】
値が続く「約」という用語は、値±5%又は値±4%又は値±3%又は値±2%又は値±1%を意味すると理解されるべきである。
【0072】
距離を決定するために、スパージャのガス出口開口の位置、すなわち気泡が液相に入る開口が重要な基準であることはもちろんである。1つのスパージャに幾つかの開口が存在する場合、平均値を使用して適切な距離を決定することができる。
【0073】
距離ηについての上述の範囲及び値は、様々な実験、計算、及び評価の結果であり、それらにしたがって、第1のスパージャから距離を隔てて又は気泡がCO2気相飽和濃度に到達してしまった又はすぐに到達するであろう第1のスパージャの上方の上行高さでバイオリアクタ又は発酵槽内に第2のスパージャが設けられる。
産業規模の曝気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽の高さにわたるCO2気相飽和濃度の評価は、以下の考慮事項に基づいて行われている。
【0074】
本発明者らの実験(
図2~
図4参照)によれば、12,000Lの産業規模の曝気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽における二酸化炭素に関する体積物質移動係数k
La
CO2は、実験室規模(2L)における二酸化炭素に関する体積物質移動係数k
La
CO2よりも約10倍低い。これに対し、両方のシステムの体積酸素物質移動係数k
La
O2の量は同等である。
【0075】
周知のように、また、酸素物質移動とは対照的に、連続液相から気相への二酸化炭素の物質移動は、短時間後に既に完了している。システム内の気相の滞留時間が気泡の飽和が起こるまでの時間よりも長い場合、これらの気泡はもはやCO2物質移動に利用できない。結果として、この効果は、産業規模ではリアクタでのみ生じるが、実験室規模では生じない。
【0076】
作動中に産業規模のシステム(例えば12,000L)で気泡がCO2で飽和し、気泡がもはやCO2のストリッピングに寄与しない期間を評価するために、比空間境界界面並びにCO2物質移動係数kLaCO2を考慮する必要がある。
したがって、最初に、気相の滞留時間分布の評価を以下のように行った。
【0077】
気相滞留時間は、実験の項で詳細に説明するステップ応答法「Sprungantwortmethodode」によって決定されている。結果の詳細を実験の項に示す。ステップ関数応答法は、2つの異なるガスの使用に基づいており、酸素などの一方のガスを使用して水などの液体を飽和させ、二酸化炭素又は窒素ガスなどの他方のガスを使用してそれを置換し、それを液相から追い出す。ガスの添加は、バイオリアクタ又は発酵槽の底部から行われ、押し出されたガスは、液相内のリアクタの上部付近で測定される。当業者は、気相滞留時間を測定するためのこの方法に精通している。
【0078】
したがって、ステップ関数応答法を使用して、実験室規模(30L)でのバイオリアクタ又は発酵槽の気相滞留時間は5秒であると決定され、産業規模(12,000L)でのバイオリアクタ又は発酵槽の気相滞留時間は21秒であることが分かった。
【0079】
次いで、実験の項に記載される更なる実験的測定及び評価によれば、CO2の物質移動係数は、実験室規模のバイオリアクタ又は発酵槽(2L)において4±0.68h-1であると特定された。
【0080】
12,000L系における気泡の大きさの単分散分布がd=5mmであると仮定して、単一気泡における理論上の二酸化炭素プロファイルを計算することができる。気泡中のCO
2の濃度プロファイルは、二酸化炭素物質移動係数k
La
CO2=4±0.68h
-1が以下のように産業規模にも適用されると仮定して計算することができる。
【数1】
【0081】
実施例6に示す実験(
図20に示す)から、約3.5秒後に約95%の気泡の飽和が観察され得ると推定することができた。
【0082】
同じ実施例に係る産業規模のバイオリアクタ又は発酵槽で測定された約21秒の平均気相滞留時間(
図20)及び3.6mの気泡が移動した決定された総距離に基づいて、平均気泡上昇速度は0.17m/秒であると決定され得る(速度=距離/時間)。結果として、約h=0.6m(3,5s×0.17m/s)の高さの後、気相はCO
2で飽和し、したがって、それ以上のCO
2のストリッピングは観察され得ない。
【0083】
上記の評価、測定及び計算は幾つかの評価及び推定を含むため、得られた0.6mの結果は距離ηの近似値にすぎず、これは、第1のスパージャの少なくとも約0.4m上方からバイオリアクタ又は発酵槽の充填高さの最大約0.5m下方までの範囲によってより良く表される。
【0084】
更に、距離ηに設けられた第2のスパージャの存在は、産業規模で液体培地中の懸濁液中の細胞又は微生物を培養するための特定の利点を有することが実験で見出された。上記範囲で選択された距離ηで第1のスパージャの上方に位置する第2のスパージャの存在は、CO
2ストリッピングにプラスの影響を及ぼすことが予想され得る。第2のスパージャの存在は、バイオリアクタ又は発酵槽の培養物(液体培地)中のCO
2の分圧の低下を引き起こすと推定することができる。すなわち、2つのバイオリアクタ/発酵槽が互いに比較され、それによって両方が同じ液体培地を用いて同じ条件下で動作され、同じ細胞又は微生物がそれぞれ培養され、両方のバイオリアクタ/発酵槽の間の唯一の違いは、一方のバイオリアクタ/発酵槽では1つのスパージャが使用され(したがって、技術水準を反映する)、本発明に係る他方のバイオリアクタ/発酵槽では、距離ηに位置する2つのスパージャが使用されることである。次いで、CO
2の分圧は、2つのスパージャを有するバイオリアクタ/発酵槽において、1つのスパージャを有するものと比較して、少なくとも約0.5%、又は少なくとも約1%、又は少なくとも約2%から約20%まで減少していると予想することができる。CO
2分圧の低下の程度は、バイオリアクタ又は発酵槽の下部、中間部及び上部に存在するO
2及びCO
2の含有量に関する結論を引き出すことを可能にする2つのスパージャが使用された(実施例2~6参照)評価測定に関連して、1つのスパージャ(比較例1及び
図21参照)を用いて行われた実験に基づいて推定することができる。
【0085】
更に、本発明に係るように第2のスパージャが存在する場合、ただ1つのスパージャが使用されるバイオリアクタ又は発酵槽と比較して、より高い生成物力価及びより高い生成物収率が予期され得る。もたらされた生成物力価又は生成物収率は、1つのスパージャのみが使用される同じ条件下などで動作される同じバイオリアクタ又は発酵槽よりも、少なくとも約1%、又は少なくとも約5%、又は少なくとも約10%から約30%高いと推定することができる。生成物力価又は収率の程度は、バイオリアクタ又は発酵槽の下部、中間部及び上部に存在するO
2及びCO
2の含有量に関する結論を引き出すことを可能にする2つのスパージャが使用された(実施例2~6参照)評価測定に関連して、1つのスパージャ(比較例1及び
図21参照)を用いて行われた実験に基づいて推定することができる。大規模に商業的に使用されるプロセスのわずかな改善も、解決されるべき価値のある技術的問題を表すことに留意すべきである。数百万個の例えばタンパク質産生細胞/mlを有する10.000L以上の代表的な大規模バイオリアクタの総体積を考えると、収率又は他の産業的特性のわずかな改善であっても、大規模生産の非常に関連する改善を意味し、重要であるとみなされなければならない。
【0086】
したがって、本発明によれば、記載された1つ以上の範囲における距離ηの選択は、顕著な利点及び技術的効果又は利益を有し、特に、バイオリアクタの培養物(液体培地)中のCO2分圧の減少及び生成物力価の増加がそれぞれ生じることが見出された。
【0087】
本発明に係るバイオリアクタ又は発酵槽に2つのスパージャが存在すると、CO2ストリッピングが行われる液体培地の総面積が増加する。第2のスパージャを距離ηで配置することができ、この場合、ηは、第1及び第2のスパージャによってCO2ストリッピングが実行される領域がある程度重なり合うように選択することができる。一方では、スパージャの面積の重なり合いの程度を増大させることにより、有利な効果が大幅に改善されることが予期され得る。一方、距離ηが0.4m未満又は0.3m未満又は更に小さいなど、2つのスパージャが接近しすぎている場合、第2のスパージャは、第1のスパージャに次第に小さくなる更なる効果を与える可能性が最も高い。
【0088】
距離ηが、第1のスパージャの約0.4m上方からバイオリアクタ又は発酵槽の充填高さの約2/3までの範囲になるように選択される場合、有利な技術的効果がより顕著になることが予期できる。
【0089】
距離ηが、第1のスパージャの約0.4m上方からバイオリアクタ又は発酵槽の充填高さの約1/2までの範囲になるように選択される場合、有利な技術的効果が更に顕著になることが予期できる。
【0090】
距離ηが、第1のスパージャの約0.4m~約3.0m上方、より好ましくは第1のスパージャの約0.4m~約2.5m上方、又は第1のスパージャの約0.4m~約2.0m上方、又は第1のスパージャの約0.4m~約1.5m上方、又は最も好ましくは第1のスパージャの約0.4~約1.0m上方、又は第1のスパージャの約0.45~約0.90m上方、又は第1のスパージャの約0.5~約0.80m上方、又は第1のスパージャの約0.55~約0.70m上方の範囲内、又は第1のスパージャの約0.6m上方にあるように選択される場合、有利な技術的効果が特に強くなることが予期され得る。
【0091】
したがって、第1のスパージャ及び第2のスパージャと、存在する場合には全ての更なるスパージャとの間の距離ηは、それぞれ、上述したような1つ以上の範囲内にあるように選択される。
【0092】
したがって、幾つかのスパージャが存在する場合、一実施形態では、第2のスパージャは、第1のスパージャの0.4~10m上方の距離η1、2に配置されてもよく、第3のスパージャは、第2のスパージャの0.4~10m上方の距離η2、3などに配置されてもよい。異なる距離を区別するために、第1のスパージャと第2のスパージャとの間の距離ηがη1、2で示され、第2のスパージャと第3のスパージャとの間の距離がη2、3などと示される。
【0093】
したがって、一方が他方の上に配置された2つの連続するスパージャ間の距離は、ηになるように選択され得る。
【0094】
距離ηは、存在する全てのスパージャ間で同じであっても異なっていてもよいが、常に開示されている範囲から選択される。
より良く理解するために、以下の例が提示される。
【0095】
バイオリアクタ又は発酵槽は、容器を備え、10mの充填高さを有する。第1のスパージャは、バイオリアクタ又は発酵槽の底部近くに存在する。第2のスパージャは、第1のスパージャと第2のスパージャとの間のη1、2としても示される距離ηで発酵槽のバイオリアクタ内に配置されてもよく、この場合、距離η1、2は、第1のスパージャから約0.6m離間するように選択される(気泡が液相に入る両方のスパージャのそれぞれの開口間の距離として決定される)。
第3のスパージャは、第2のスパージャと第3のスパージャとの間に距離η2、3を伴う位置に配置される。この例では、η2、3も0.6mになる。すなわち、第2のスパージャは、第1のスパージャの位置の0.6m上方に位置し、第3のスパージャは、第2のスパージャの0.6m上方に位置する。したがって、第3のスパージャは、第1のスパージャの2×η上方の距離に配置される。したがって、スパージャ間のη1、2及びη2、3は等しく大きい。存在する更なるスパージャは、η3、4、η4、5、η5、6、...とすることができる距離を有することができる。
【0096】
しかしながら、全ての距離が同じ値を有する必要はなく、上記の開示された範囲から互いに独立して選択されてもよい。換言すれば、η1、2、η2、3、η3、4、η4、5、η5、6、...は、互いに独立して選択されてもよく、同じであっても異なっていてもよい。
【0097】
第2の主方向によれば、第2のスパージャは、第2のスパージャから供給された気泡及び/又は酸素気泡がバイオリアクタ又は発酵槽の側壁に近い又は中心軸に近い液相に入るように、バイオリアクタ又は発酵槽の側壁に近い又は中心軸に近い位置に配置されてもよい。
【0098】
別の実施形態によれば、第2のスパージャはまた、スパージャがバイオリアクタ又は発酵槽の側壁及び中心軸に対して同時にほぼ同じ距離を有する位置に配置されてもよい。
【0099】
したがって、一実施形態によれば、スパージャは、中央スパージャ又はサイドスパージャであってもよい。
【0100】
「中央スパージャ」は、スパージャからの気泡及び/又は酸素気泡が水平方向に関してバイオリアクタ又は発酵槽の側壁よりも中心軸に近い液相に供給されるように中央スパージャが設計されているという意味で、本開示において理解されなければならない。
【0101】
「サイドスパージャ」は、本開示において、気泡及び/又は酸素気泡が水平方向に関してバイオリアクタ又は発酵槽の中心軸よりも側壁の近くに供給されるように設計されたスパージャとして理解されなければならない。
【0102】
一実施形態によれば、第1のスパージャは、中央スパージャ又はサイドスパージャであってもよい。
【0103】
別の実施形態によれば、第1のスパージャは中央スパージャであってもよく、第2のスパージャは中央スパージャであってもよい。
【0104】
別の実施形態によれば、第1のスパージャは中央スパージャであってもよく、第2のスパージャはサイドスパージャであってもよい。
【0105】
更なる実施形態によれば、第1及び第2のスパージャは、それぞれサイドスパージャであってもよい。
【0106】
一実施形態によれば、随意的な第3のスパージャは、中央スパージャ又はサイドスパージャであってもよい。
【0107】
別の実施形態によれば、第1のスパージャは中央スパージャであってもよく、第2のスパージャは中央スパージャであってもよく、随意的な第3のスパージャは中央スパージャであってもよい。
【0108】
別の実施形態によれば、第1のスパージャは中央スパージャであってもよく、第2のスパージャはサイドスパージャであってもよく、第3のスパージャはサイドスパージャであってもよい。
【0109】
別の実施形態によれば、第1のスパージャは中央スパージャであってもよく、他の全てのスパージャはサイドスパージャであってもよい。
【0110】
別の実施形態によれば、第1のスパージャはサイドスパージャであってもよく、他の全てのスパージャはサイドスパージャであってもよい。
【0111】
一実施形態では、第2のスパージャがサイドスパージャである場合、本明細書に開示される有利な技術的効果が大幅に増加し得ることが分かっている。
【0112】
別の実施形態によれば、第2のスパージャは、その開口部が下方に向けられるように、すなわち気泡がバイオリアクタ又は発酵槽の底部への方向に供給されるように構成されてもよい。
【0113】
バイオリアクタ又は発酵槽内のスパージャの総数は、必要に応じて、存在する充填高さに応じて選択することができる。スパージャは、バイオリアクタ又は発酵槽の充填高さ全体にわたって、又はその一部のみにわたって存在してもよい。使用されるスパージャの数は、選択される細胞又は微生物の種類、バイオリアクタ又は発酵槽の寸法、培養条件などに依存する。当業者は、本明細書に開示される説明及び記述に基づいて、使用される任意の培養システムに適した数のスパージャを容易に選択することができる。
【0114】
更なる実施形態によれば、バイオリアクタ又は発酵槽内に存在する攪拌器の位置が、第1及び/又は第2及び随意的な更なるスパージャに関して考慮されることが有利であることが分かった。使用される攪拌器は何ら限定されないが、選択されるいずれの攪拌器も、バイオリアクタ又は発酵槽を貫く中心軸Aの周りに位置する攪拌器半径rsを有する。幾つかの実験によれば、供給された気泡が攪拌器半径rs以下の距離で液体培地に入るように第1のスパージャがバイオリアクタ又は発酵槽の中心軸Aから一定の距離に配置されることが好ましいことが分かった。これに関連して、第1のスパージャが中央スパージャであるかサイドスパージャであるかは問題ではない。そのような場合、スパージャは、攪拌器の翼端に最大の乱流がもたらされるように、攪拌器の近くに気泡を供給する。このような液体と気体の高エネルギー混合は、細胞や微生物の培養に有利であると考えられている。
【0115】
更なる実験によれば、供給される気泡が攪拌器の動きの外側又は明らかに外側にあるように第2のスパージャ及び随意的な更なるスパージャが攪拌器の半径rsよりも大きな距離で中心から取り付けられることが好ましいことが分かった。すなわち、第2のスパージャ及び随意的な更なるスパージャは、供給された気泡が攪拌器半径rsよりも大きい距離で液相に入るように、中心軸Aから距離を置いて配置される。これに関連して、第2のスパージャ(及び更なるスパージャ)が中央スパージャであるかサイドスパージャであるかは問題ではない。この場合、第2のスパージャは、供給された気泡を変形又は損傷する可能性がある乱流が回避されるように、攪拌器から離間した気泡を供給する。したがって、液体と気体との高エネルギー混合は、CO2ストリッピングの性能及び生成物の収率などの有益な技術的効果が悪影響を受ける可能性があるため、第2及び随意的な更なるスパージャの有効性にとって不利であると考えられる。
【0116】
図6aでは、バイオリアクタ又は発酵槽100の容器102内の第1のスパージャ150及び第2のスパージャ160の位置が例示的に示されている。バイオリアクタ又は発酵槽100は、底部105及び側壁110を有し、直径Dを有する。ガス供給管140又は幾つかのガス供給管(図示せず)が、第1のスパージャ150及び第2のスパージャ160を形成するように設計及び設置される側壁110の近くに配置される。第1のスパージャ150は、バイオリアクタ又はその下部の発酵槽100の底部105又はその近くに配置される。図示の実施形態では、第1のスパージャ150は中央スパージャであり、すなわち、気泡は、水平方向に関して側壁110よりも中心軸Aに近い液相に入る。しかしながら、既に説明したように、第1のスパージャ150がサイドスパージャであってもよいことも想定し得る。
【0117】
第2のスパージャ160は、第1のスパージャ150の上方に設けられている。図示の実施形態では、第2のスパージャ160はサイドスパージャであり、すなわち、液相に入る気泡は、水平方向に関して中心軸Aに対する間隔と比較して、バイオリアクタ又は発酵槽100の側壁110の近くに位置する。しかしながら、既に説明したように、第2のスパージャ160が中央スパージャであってもよいことも想定し得る。
【0118】
図7は、サイドスパージャ150,160,170として使用され得る例示的なタイプのスパージャの概略図を示す。もちろん、他の有用なスパージャタイプも市販されており、使用することができる。
【0119】
図6aでは、第2のスパージャ160は、バイオリアクタ又は発酵槽100内の第1のスパージャ150の上方の高さ又は距離η
1、2に配置される。距離η
1、2は、第1のスパージャ150の少なくとも約0.4m上方からバイオリアクタ若しくは発酵槽100の充填高さの最大約0.5m下方の範囲内、又は
第1のスパージャの約0.4m上からバイオリアクタ若しくは発酵槽100の充填高さの約2/3までの範囲内、又は
第1のスパージャの約0.4m上からバイオリアクタ若しくは発酵槽100の充填高さの約1/2までの範囲内、又は
第1のスパージャの約0.4m~約3.0m上方又は第1のスパージャの約0.4m~約2.5m上方又は第1のスパージャの約0.4m~約2.0m上方又は第1のスパージャの約0.4m~約1.5m上方又は第1のスパージャの約0.4~約1.0m上方又は第1のスパージャの約0.45~約0.90m上方又は第1のスパージャの約0.5~約0.80m上方又は第1のスパージャの約0.55~約0.70m上方の範囲内又は第1のスパージャの約0.6m上方にあるように選択される。
図6aにおいて、第2のスパージャ160は、バイオリアクタ又は発酵槽100の充填高さの約1/2に位置される。
図6aに示すように、第2のスパージャ160は、液相からCO
2を吸収することができる「新たな」気泡を利用可能にする。結果として、溶解したCO
2のより良好な除去が可能である。液相では、CO
2の全体的な勾配が大幅に回避される。したがって、産業規模のバイオリアクタ又は発酵槽内の環境条件は、気泡が上方に向かってCO
2飽和濃度に達しない小規模のバイオリアクタ又は発酵槽により類似するように調整される。したがって、培養懸濁液からの成長阻害溶解CO
2のストリッピングがより効率的に行われる。したがって、
図6aの右側では、幅広部分から矢じりまでの2つの矢印(6)はそれぞれ、液相から気相へのCO
2の吸収能力を記号化しており、これは減少している。
図6aの矢印(7)は、矢じりから幅広部分へのCO
2による気泡の飽和度の増加を表しており、この場合、CO
2は液相から気相に移行し、この移行はO
2の送達よりもはるかに速く進行する。更なるスパージャの存在により、培養される細胞又は微生物の環境は、より均一に調整される。
【0120】
更に、
図6a及び図示の典型的な実施形態を参照すると、攪拌器半径r
sを有する攪拌器120が設けられ、この場合、攪拌軸又は回転軸は中心軸Aに対応する。攪拌器120は、3つの攪拌器R1、R2、及びR3から構成される。第1の攪拌器R1は、バイオリアクタ又は発酵槽100の底部105又は下部に位置付けられる第1のスパージャ150の上方に位置される。また、第1の攪拌器R1に加えて2つの更なる攪拌器R2,R3が設けられており、更なる攪拌器R2,R3は第2のスパージャ160の上下に位置される。別の実施形態によれば、第1の攪拌器R1のみを設けること、又は第1の攪拌器R1及び第2の攪拌器R2を同時に設けることも可能である。3つを超える攪拌器を有する実施形態も可能である。
【0121】
図6aに示す実施形態では、攪拌器120は、攪拌器直径d
sをもたらす、バイオリアクタ又は発酵槽100を通る中心軸Aの周りに対称的に配置された攪拌器半径r
sを有する。第1のスパージャ150は、
図6aの破線d1及びd2で概略的に示されているように、供給された気泡が攪拌器直径d
s又は攪拌器半径r
s以下の距離で液相に入るように、中心軸Aから距離を隔てて配置される(すなわち、第1のスパージャの開口が距離を隔てて配置される)。この知見は、Klaas Van’t Riet,Review of Measuring Methods and Results in Mass Transfer in Stirred Vessels Nonviscous Gas-Liquid,Ind.エンジニア化学プロセスDes.Dev.,Vol.18,No.3,1979,p.357~364に記載されており、スパージャは、中心から攪拌器半径よりも大きい距離を隔てて取り付けられなくてもよい。第1のスパージャが中心軸から攪拌器半径r
s以下の距離を隔てて取り付けられる場合、最大の乱流が攪拌器の翼端にもたらされることが有利であると考えられる。また、液体と気体の高エネルギー混合は、細胞や微生物の培養に有利であると考えられる。したがって、本実施形態には利点があると考えられる。
【0122】
図6aでは、全ての攪拌器R1、R2、及びR3は同じ寸法を有し、その結果、攪拌器半径r
s及び直径d
sは、バイオリアクタ又は発酵槽100の全体積にわたって3つ全ての攪拌器R1、R2、及びR3について同じである。他の実施形態も可能である。
【0123】
図示の例示的な実施形態では、攪拌器は、攪拌器半径rs、したがってバイオリアクタ又は発酵槽100を通る中心軸Aの周りに対称的に配置された攪拌器直径dsを有し、それにより、第2のスパージャ160は、供給された気泡が攪拌器半径rs又は攪拌器直径dsよりも大きい距離で液相に入るように、中心軸Aから距離を隔てて配置される。第2の随意的な更なる1つ又は複数のスパージャが攪拌器から離間した気泡を供給する場合には、供給された気泡を変形又は損傷する可能性がある乱流が回避される。したがって、液体と気体との高エネルギー混合は、CO2ストリッピングの性能及び生成物の収率などの有益な技術的効果が悪影響を受ける可能性があるため、第2及び随意的な更なるスパージャの有効性にとってあまり有利ではないと考えられる。
【0124】
幾つかの攪拌器が存在する場合、攪拌器の半径又は直径は、通常、対象のスパージャの隣に位置する攪拌器に関連する。
【0125】
図6bを参照すると、第1のスパージャ150及び第2のスパージャ160に加えて、第3のスパージャ170が設けられ、第3のスパージャ170は、バイオリアクタ又は発酵槽100内の第2のスパージャ160の上方の高さ又は距離η
2、3に配置される。距離η
2、3は、第2のスパージャ160の上に規定された本明細書の範囲から選択されてもよい。
図6bにおいて、第2のスパージャ160は、充填高さの約1/3に位置し、第3のスパージャ170は、バイオリアクタ又は発酵槽100の充填高さの約2/3に位置する。
【0126】
本発明に係る第2のスパージャの存在は、(最新技術を反映して)ただ1つのスパージャを有するバイオリアクタ/発酵槽と比較して、CO2の分圧を少なくとも約0.5%、又は少なくとも約1%、又は少なくとも約2%から最大約20%有意に減少させることが予想される。更に、1つのスパージャのみが使用されるバイオリアクタ又は発酵槽と比較して、少なくとも約1%又は少なくとも約5%又は少なくとも約10%から最大約30%の増加した生成物力価及び増加した生成物収率が得られると予想される。上記のように、本発明のように産業規模で使用されるプロセスのわずかな改善でさえ、例えばプロセス全体の可能な期間(フェドバッチプロセスの数時間から最大1日、2日又は更には3日までの延長)、生細胞密度(細胞の生存率)又は生成物の得られた力価に関して有意な改善を表す。
【0127】
更に、大規模に動作されるバイオリアクタ又は発酵槽において、第1のスパージャに加えて、第2のスパージャ及び場合により更なるスパージャを設けることにより、バイオリアクタ又は発酵槽内のO2-濃度及びCO2-濃度の独立した管理を確立できる可能性を既に与えることが分かっている。
【0128】
したがって、液体培地中の培養物を収容する容器102を備える産業規模で懸濁液中で細胞又は微生物を培養するためのバイオリアクタ内又は発酵槽100内の液体培地中の溶存CO2の含有量及び溶存O2の含有量を制御及び調整するプロセスであって、
液体培地を攪拌するステップと、
容器102の底部105に配置される第1のスパージャ150から液体培地に気泡10,10.1,10.2,10.3を連続的に供給するステップであって、気体が空気及び/又は酸素ガスから選択される、ステップと、
容器102内に配置される第2のスパージャ160から液体培地に気泡20,20.1,20.2,20.3を連続的に供給するステップであって、気体が空気及び/又は酸素ガスから選択され、第2のスパージャ160が第1のスパージャ150の上方に配置され、第2のスパージャ160がサイドスパージャである、ステップと、
水中スパージャ又は第1のスパージャ150のガス流量qsubとサイドスパージャ又は第2のスパージャ160のガス流量qsideとに基づいて、いずれも培養プロセスに適した、修正ガス流量qmod(O2)を選択及び調整し、修正ガス流量qmod(CO2)を選択及び調整するステップと、
を含み、以下の方程式、すなわち、
qmod(O2)=qsub+CO2×qside [1a]
及び
qmod(CO2)=qsub+CCO2×qside [1b]
が適用され、
ここで、
qsubは、水中又は第1のスパージャ150のガス流量を表し、
qsideは、サイド又は第2のスパージャ160のガス流量を表し、
CO2は体積酸素物質移動の影響係数Cを表し、
CO2=0.15であり、及び、
CCO2は、体積二酸化炭素物質移動の影響係数Cを表し、
CCO2=0.6である、
プロセスが提供される。
【0129】
産業規模で懸濁液中の細胞又は微生物を培養するためのバイオリアクタ又は発酵槽内の液体培地中の溶存CO2の含有量及び溶存O2の含有量を制御及び調整する上記のプロセスを以下に詳細に説明する。
【0130】
産業規模の曝気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽の酸素物質移動性能及び二酸化炭素物質移動性能のより正確な予測は、詳細な研究に基づいてのみ行うことができることが認識されてきた。したがって、第1のスパージャのみが存在する多数の実験が行われてきた。あるいは、更なる第2のスパージャの影響が調べられている。酸素物質移動係数kLaO2は、スパージャが1つしか存在しない場合、ガス流量に正比例することが分かっている。すなわち、ガス流量を2倍にすると、物質移動係数もほぼ2倍になる。すなわち、1つのスパージャは、培養物の酸素要求量を満たすのに十分な酸素物質移動(kLaO2を特徴とする)を既にもたらし得る。
【0131】
更に、驚くべきことに、更なるサイドスパージャ、したがって更なるサイドエアレーションの存在は、酸素物質移動係数kLaO2にほとんど影響を及ぼさないか、又はわずかな影響しか及ぼさないことが分かった。したがって、バイオリアクタ又は発酵槽内の水中又は第1のスパージャのガス流量のみが、酸素の物質移動係数kLaO2に関して重要である。その結果、水中曝気の影響が酸素物質移動に支配的であると考えられる。
【0132】
更に、サイド注入は、酸素に関する物質移動性能のわずかな増加をもたらすが、二酸化炭素に関する物質移動性能は著しく増加することが観察されている。本発明の別の態様を実証するこの発見もまた、完全に予想外であった。実際に、サイドスパージャは、二酸化炭素に関する物質移動係数に非常に強い影響を及ぼし、これはサイド注入の増加に伴ってはるかに強く増加する。その結果、二酸化炭素の物質移動にとってサイドエアレーションの影響は支配的であると考えられる。
【0133】
産業規模の曝気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽におけるガスのサイド注入は、酸素及び二酸化炭素の物質移動係数に異なる影響を及ぼすため、酸素濃度及び二酸化炭素濃度の独立した管理を行うことが可能である。独立した管理は、2つの原理、すなわち、総ガス流量が一定であればCO2物質移動がほぼ一定であること、及び側方通気がCO2物質移動及びO2物質移動に異なる影響を及ぼすことに基づいてもよい。
【0134】
幾つかの評価測定では、ガスの側方噴射のガス流量を単に水中ガス流量に加えることはできないことが分かっている。実際には、「修正」ガス流量が想定されなければならない。したがって、二酸化炭素に関する修正ガス流量(q
mod(CO
2))及び酸素に関する修正ガス流量(q
mod(O
2))は、それぞれ物質移動係数(k
La
O2又はk
La
CO2)に比例すると考えられる修正ガス流量を考慮に入れなければならない。したがって、ガス流量は、培養プロセスのCO
2物質移動及びO
2物質移動にそれぞれ直接的な影響を与えるために使用され得る。実験(
図10及び
図11により示される)によれば、「修正」ガス流量を以下の式で表すことができることが分かった。
酸素の場合:
q
mod(O
2)=q
sub+C
O2×q
side [1a]
ここで、C
O2=0.15である。
二酸化炭素の場合:
q
mod(CO
2)=q
sub+C
CO2×q
side [1b]
ここで、C
CO2=0.6である。
【0135】
前記修正ガス流量は、水中曝気qsubと、影響係数Cで変更及び重み付けされた側方曝気qsideとを含む。係数Cが高いほど、物質移動性能に対する側方曝気の影響が高い。係数Cは、物質移動が溶存ガス流量に比例すると仮定して計算することができる。影響係数Cの詳細な計算は、実施例セクション(実施例3)で説明及び実証される。
【0136】
結果は、ガスのサイド注入が0.15の影響係数CO2だけ酸素の物質移動係数の増加をもたらす一方で、二酸化炭素の物質移動係数は0.6の影響係数CCO2によって高めることができることを示している。すなわち、酸素に関する物質移動性能のわずかな増加が観察されるが、二酸化炭素に関する物質移動性能は著しく増加する。
【0137】
この手法により、産業規模の曝気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽における二酸化炭素及び酸素の独立した管理が可能になる。言い換えれば、二酸化炭素の影響係数(kLaCO2)は、ガスの側方噴射では、水中曝気と比較して約4倍高い。したがって、酸素及び二酸化炭素の実際のガス流量又は修正ガス流量は、培養システムにおいて最適な条件を有するように選択及び調整され得る。
【0138】
以下の典型的な事例は、上記の知見を以下のように明らかにする。
水中又は第1のスパージャのガス流量qsubは、以下の値を有するように選択される:qsub=120L/min。
第2のスパージャ又はサイドスパージャのガス流量qsideは、以下の値を有するように選択される:qside=60L/min。
【0139】
次に、酸素物質移動に関する修正ガス流量qmod(O2)は、以下の式[1a]に従って計算することができる。
qmod(O2)=120L/min+0.15×60L/min=129L/min
【0140】
更に、二酸化炭素物質移動に関する修正ガス流量qmod(CO2)は、以下の式[1b]に従って計算することができる。
qmod(CO2)=120L/min+0.6×60L/min=156L/min
【0141】
qmod(O2)は、物質移動係数kLaO2に比例すると考えられる修正された総ガス流量を表すので、当業者は、酸素の物質移動に対する影響について直接的な尺度を有する。更に、qmod(CO2)は、物質移動係数kLaCO2に比例すると考えられる修正された総ガス流量を表し、当業者は二酸化炭素の物質移動への影響についても直接的な尺度を有する。結果として、上記の式[1a]及び式[1b]は、それぞれ選択されたガス流量に基づいてO2含有量及びCO2含有量を制御及び調整することを可能にする。当業者は、個々の培養プロセスに最適であって細胞又は微生物の培養性能に直接的な影響を与える適切で所望のqmod(O2)及びqmod(CO2)を容易に選択及び調整することができる。
【0142】
したがって、この手法では、サイドスパージャの形態の第2のスパージャが設けられる場合、産業規模の通気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽で二酸化炭素及び酸素の独立した管理を実行することが可能である。更に、当業者は、kLaO2及びkLaCO2が細胞又は微生物の培養の任意の特定のプロセスのために制御及び調整され得るように、第1及び第2のスパージャのガス流量を調整及び選択する可能性を有する。
【0143】
本発明の一実施形態によれば、第1のスパージャのガス流量qsubは、第2のスパージャのガス流量qsideよりも大きくなるように選択されてもよいが、qsubがqsideよりも大きくなるように調整される(qside>qsub)ことを選択することも可能である。
【0144】
一実施形態によれば、既に説明したように、第1の水中スパージャと第2のサイドスパージャとの間の距離η1、2は、本明細書で定義される範囲内にあるように選択されてもよい。したがって、第2のスパージャを、気泡がCO2気相飽和濃度に到達したか又はすぐに到達する第1のスパージャの上方の高さに配置することが可能である。
【0145】
更なる実施形態では、第3のスパージャ170及び随意的な1つ又は複数の更なるスパージャが、第1のスパージャ150及び第2のスパージャ160の上方のバイオリアクタ又は発酵槽100に設けられ、一方が他方の上方に配置された2つの連続するスパージャ150,160及び/又は160,170の間の距離は、ηになるように選択される。
【0146】
第1の水中スパージャ及び第2のサイドスパージャに加えて、既に説明したように、バイオリアクタ又は発酵槽内に更なるスパージャが存在してもよい。スパージャ間の距離η1、2、η2、3、η3、4は、既に開示されているように上記範囲で選択されてもよい。更なるスパージャは、各スパージャに対して個別に決定される中央スパージャ又はサイドスパージャであってもよい。CO2及びO2の独立した管理に関する上記の知見及び説明に基づいて、一実施形態によれば、更なるスパージャは全てサイドスパージャである。
【0147】
したがって、更なる実施形態によれば、第1のスパージャは中央スパージャ又はサイドスパージャであり、第2のスパージャ及び随意的な第3のスパージャ及び更なるスパージャはサイドスパージャである。更なる実施形態によれば、第1のスパージャは中央スパージャであり、第2のスパージャ及び随意的な第3のスパージャ及び更なるスパージャはサイドスパージャである。
【0148】
使用されるスパージャのガス流量の変化に加えて、例えば、温度、pH又は特定の栄養素の濃度、攪拌器の種類、攪拌器の速度、スパージャの種類、スパージャのサイズ、スパージャの形状...など、細胞又は微生物の培養性能を改善するのを助けることができる他のパラメータ及び条件が存在する。当業者は、これらのパラメータ及びそれらを変更する方法に精通している。
【0149】
当業者は、細胞又は微生物の培養プロセスに使用される、先行技術から公知の任意のスパージャを選択し得る。しかしながら、使用されるスパージャのタイプは、酸素及び二酸化炭素の物質移動性能に影響を及ぼし得る。存在する開口の数及びサイズ、選択されたスパージャの幾何学的形状及びサイズは、一部を果たし得る。より大きな開口、高い気泡上昇速度、したがってガスと媒体との間の短い接触時間の結果としてのより大きな気泡は、弱い酸素供給のみで二酸化炭素のより強い除去を可能にすると推定される。したがって、当業者は、各培養プロセスに有利な当業者の平均的な技術に基づいて適切なスパージャを容易に選択することができる。
【0150】
一実施形態によれば、第1、第2及び随意的な更なるスパージャは、パイプ形状を有するスパージャ、例えば、オープンチューブスパージャ、焼結プレート、有孔スラブ、リングスパージャ、スパイダ・タイプ・スパージャ、ディスクタイプのスパージャ、シートタイプのスパージャ、カップタイプのスパージャ、及びブッシング・タイプ・スパージャなどのチューブタイプのスパージャから選択される静的スパージャである。
【0151】
更なる実施形態では、第1、第2及び随意的な更なるスパージャは、同じ又は異なるスパージャである。
【0152】
更なる実施形態によれば、第1、第2及び随意的な更なるスパージャは、パイプ形状を有するスパージャ、例えばオープンチューブスパージャなどのチューブ型スパージャである。
【0153】
更なる実施形態では、第1の更なるスパージャ、第2の更なるスパージャ、及び随意的な更なるスパージャは、それぞれ三日月管型スパージャである。
【0154】
更なる実施形態によれば、第1の更なるスパージャ、第2の更なるスパージャ、及び随意的な更なるスパージャは、それぞれ三日月形のオープンチューブスパージャである。
【0155】
チューブ型スパージャ、特に三日月形オープンチューブスパージャなどのオープンチューブスパージャは、良好な洗浄能力の利点を有し、また、所定位置でのより容易な洗浄(CIP)及び所定位置での滅菌(SIP)の利点を与える。
【0156】
更に、バイオリアクタ又は発酵槽は、本開示に従って限定されない。既知の任意の通気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽を使用することができる。また、気泡塔トリクルベッドリアクタ、ループリアクタなどを使用してもよい。
【0157】
また、使用される細胞は、本開示に従って限定されない。本開示の一実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞、特に酵母(出芽酵母(S.cerevisia)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris))、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト細胞(例えば、HEK 293)又は昆虫細胞などの真核細胞であり得る。また、他の細胞を用いてもよい。
【0158】
微生物も本開示に従って限定されない。本開示の一実施形態では、微生物は、大腸菌又は枯草菌などの原核細胞であり得る。
【0159】
本開示はまた、既に記載されたようなバイオリアクタ内又は発酵槽内で細胞又は微生物を培養するプロセスであって、培養されるべき細胞又は微生物の増殖、生存率、生産性及び/又は任意の他の代謝状態を促進するために規定された距離ηで第2のスパージャがバイオリアクタ内又は発酵槽内に設けられるプロセスに関する。
【0160】
本開示はまた、既に記載されたように、バイオリアクタ内又は発酵槽内で細胞又は微生物を培養するプロセスであって、第1及び第2のスパージャに加えて、培養されるべき細胞又は微生物の増殖、生存率、生産性及び/又は任意の他の代謝状態を促進するために、バイオリアクタ内又は発酵槽内にそれぞれ規定されるように、1つ又は複数の更なるスパージャが距離ηで設けられるプロセスに関する。
【0161】
本開示はまた、既に記載されたように、細胞又は微生物を培養するためのバイオリアクタ内又は発酵槽内に設けられる第2のスパージャであって、第2のスパージャが、培養されるべき細胞又は微生物の増殖、生存率、生産性及び/又は任意の他の代謝状態を促進するためにバイオリアクタ内又は発酵槽内に設けられ、第2のスパージャが、第1のスパージャよりも距離γだけ上方のバイオリアクタ内又は発酵槽内の位置に配置され、ηが、第1のスパージャよりも少なくとも約0.4m上方からバイオリアクタ又は発酵槽の充填高さよりも最大で約0.5m下方まで、又は、第1のスパージャの約0.4m上からバイオリアクタ若しくは発酵槽の充填高さの約2/3まで、又は、
第1のスパージャの約0.4m上からバイオリアクタ若しくは発酵槽の充填高さの約1/2まで、又は、
それぞれ、第1のスパージャの約0.4m~約3.0m上、又は、第1のスパージャの約0.4m~約2.5m上、又は、約0.4m~約2.0m上、又は、約0.4m~約1.5m上、又は、約0.4~約1.0m上、又は、約0.45~約0.90m上、又は、約0.5~約0.80m上、又は、約0.55~約0.70m上、又は、約0.6m上、
になるように選択される、第2のスパージャに関する。
【0162】
本開示はまた、既に記載されたように、細胞又は微生物を培養するためのバイオリアクタ又は発酵槽内に設けられる第2のスパージャ及び更なる1つ又は複数のスパージャであって、第2のスパージャ及び更なる1つ又は複数のスパージャが、培養されるべき細胞又は微生物の増殖、生存率、生産性及び/又は任意の他の代謝状態を促進するためにバイオリアクタ内又は発酵槽内に設けられ、第2のスパージャが、第1のスパージャよりも距離ηだけ上方のバイオリアクタ内又は発酵槽内の位置に配置され、ηが、第1のスパージャの少なくとも約0.4m上方からバイオリアクタ又は発酵槽の充填高さの最大約0.5m下方まで、
又は第1のスパージャの約0.4m上からバイオリアクタ若しくは発酵槽の充填高さの約2/3まで、又は
第1のスパージャの約0.4m上からバイオリアクタ若しくは発酵槽の充填高さの約1/2まで、又は
それぞれ、第1のスパージャの約0.4m~約3.0m上方、又は第1のスパージャの約0.4m~約2.5m、又は約0.4m~約2.0m、又は約0.4m~約1.5m、又は約0.4~約1.0m、又は約0.45~約0.90m、又は約0.5~約0.80m、又は約0.55~約0.70m上方、又は約0.6m上方、
になるように選択される、第2のスパージャ及び更なる1つ又は複数のスパージャに関する。
【0163】
その結果、例えば大きな気泡、高い気泡上昇速度、したがってガスと培地との間の短い接触時間を伴う更なるサイド注入などの、より高い位置でのガスの更なる注入は、細胞培養プロセスにおける性能の改善をもたらす。
【0164】
更に、本発明によれば、酸素物質移動係数kLaO2に大きく影響することなく、大規模システムの体積二酸化炭素物質移動係数kLaCO2を高めることが可能である。したがって、単純化された形態では、第1のスパージャを使用してO2物質移動を制御及び調整し、また、サイドスパージャの形態を成す第2のスパージャ及び随意的な更なる1つ又は複数のスパージャを使用してCO2物質移動を制御及び調整することができる。詳細には、第1のスパージャは、培養プロセスにより多くのO2を供給するために主に使用されてもよく、一方、第2及び随意的な1つ又は複数の更なるスパージャは、CO2含有量を低下させるために主に使用されてもよい。
【0165】
実施例
実施例1:k
La
CO2の決定
体積物質移動係数k
La
CO2の決定には、動的方法が使用される。使用される方法では、バイオリアクタは、15%の飽和に達するまで二酸化炭素でガス化される。続いて、所望の攪拌器周波数n及び所望のガス発生速度qを設定し、二酸化炭素濃度の減少を記録している。対応する時間tに対する記録された二酸化炭素レベルのプロットは、体積物質移動係数k
La
CO2及び飽和濃度c*を伴う以下の式[2]であり、以下に従って説明することができる。
【数2】
この式は、時刻t’における濃度c’
CO2及び時刻t’’における濃度c’’
CO2を伴う以下のような対数式に変換することができる。
【数3】
式[3]は、二酸化炭素プロットの対数関数の傾きとしてk
La
CO2の値を与える。例示的な評価を
図8に見出すことができる。
図8を参照すると、k
La
CO2値の評価は、c
CO2=14%の濃度からc
CO2=6%まで行った。したがって、CO
2の減少が起こるため、k
La
CO2は負の値であることが示される。その結果、決定された曲線の対数表現の傾きからk
La値が導出される。
【0166】
実施例2:第1の評価測定
産業規模の曝気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽の酸素物質移動性能を調べるために、サイドスパージャの形態の第2のスパージャが設計され、リアクタに設置されている。測定は、0.9%(w/v)NaCl/H
2Oを約12kL(以下の表1を参照)充填した15kLバイオリアクタで行った。使用した15kLバイオリアクタの技術図及び更なるサイドスパージャの取り付け位置を
図9に示す。これらの測定において、更なるサイドスパージャ160は、充填高さがリアクタ容積の半分に相当する位置に取り付けられる。V
Fillは、バイオリアクタ100の容器の充填容積を表す。すなわち、サイドスパージャ160は、充填容積(1/2V
Fill)の0.5倍に相当する位置に配置され、充填容積(1/2V
Fill)の0.5倍は、この場合には、バイオリアクタ又は発酵槽の形状は円筒形であるため、バイオリアクタ又は発酵槽の充填高さの約1/2である。
【0167】
これらの測定に使用される水中又は第1のスパージャ(図示せず)は、31×2mmのドリル、すなわち31個の開口を有するチューブ型スパージャの形態のサイドスパージャであり、各開口は2mmの直径を有する。
【0168】
これらの測定に使用される第2のスパージャはまた、15×3mmのドリル、すなわち15個の開口を有するチューブ型スパージャの形態のサイドスパージャであり、各開口は3mmの直径を有する。
【0169】
水中スパージャ(第1のスパージャ)及びサイドスパージャ(第2のスパージャ)で使用されるガスは空気である。
【0170】
最初の評価測定は、n=60rpmの攪拌器周波数でガス流量に依存して酸素の物質移動速度を測定するために行われた。調査した動作条件及びガス化戦略の詳細な概要を表1に示す。
【0171】
【0172】
したがって、測定1~4では、攪拌器の速度を一定に維持しながら、ガス流量を変化させた。
【0173】
測定1では、水中スパージャ又は第1のスパージャのガス流量は、120L/分に設定されている。サイドスパージャ又は第2のスパージャは、液体培地に空気を供給しない、すなわち、第2のスパージャのガス流量は、0L/分である。したがって、測定1の全体又は全体のガス流量(qtotal)は、以下の通りである。
qsub+qside=120mL/min+0mL/min=120mL/min
【0174】
測定2では、水中スパージャ又は第1のスパージャのガス流量は100L/分に設定されている。サイドスパージャ又は第2のスパージャのガス流量は20L/分に設定されており、その場合、総ガス流量は120L/分である。
【0175】
測定3では、水中スパージャ又は第1のスパージャのガス流量は120L/分に設定されている。サイドスパージャ又は第2のスパージャのガス流量は20L/分に設定されており、ガス流量の合計は140L/分である。
【0176】
測定4では、水中スパージャ又は第1のスパージャのガス流量は120L/分に設定されている。サイドスパージャ又は第2のスパージャのガス流量は60L/分に設定されており、ガス流量の合計は180L/分である。
【0177】
側面ガス処理が発生しない測定1を標準とし、この標準測定に関連して測定2~4の体積物質移動係数kLaO2を決定した。体積物質移動係数kLaO2は、酸素の物質移動速度の直接的な尺度を表す。
【0178】
更なる測定では、物質移動係数kLaO2はガス流量に正比例することが分かった。ガス流量が2倍になると、物質移動係数もほぼ2倍になる。この知見は、水中スパージャのガス流量が120L/minから100L/minに減少した測定2で確認されている。測定1及び測定2では、それぞれ総ガス流量が120l/minの一定レベルに維持されているが、測定2では、測定1と比較して物質移動係数kLaO2が-18%の値に減少している。ガス流量が20L/minのサイドスパージャは、物質移動係数kLaO2に実質的に影響を与えない。したがって、水中スパージャ(第1のスパージャ)のガス流量のみがkLaO2の役割を果たす。したがって、水中曝気の影響は、酸素物質移動にとって支配的であると考えられる。
【0179】
実際に、測定1~4において、物質移動係数は、ガスの更なるサイド注入によって大きく影響されない。そのため、酸素物質移動係数kLaO2に対する影響は、ほとんどないか、又は小さいことが確認された。
【0180】
例示目的のために、表1で得られた結果を
図10に示し、実施された4つの測定値の比較を示す。
図10では、測定1と比較して測定2で水中曝気を16%減少させると、総曝気速度が測定1及び2で一定であっても、O
2の物質移動係数に大きな影響を及ぼすことが分かる。しかしながら、測定1と比較して測定3における16%のサイド注入の向上は、測定3における2%の酸素物質移動係数k
La
O2の増加のみを示し、測定4におけるたった8%の50%の向上のみを示す。
【0181】
したがって、第1の評価測定は、空気のサイド注入が酸素物質移動性能にわずかな影響しか及ぼさないことを確認する。
【0182】
実施例3:第2の評価測定
第1の評価測定と同じ測定を行ったが、二酸化炭素の体積物質移動係数k
La
CO2を決定した(
図11参照)。
図11から、二酸化炭素の物質移動係数は、酸素の物質移動係数(8%)(
図10参照)と比較して、サイド注入が増加するにつれて(測定4で最大23%)はるかに強く増加していることが導き出され得る。
【0183】
第1及び第2の評価測定は、サイド注入が酸素及び二酸化炭素の物質移動係数に異なる影響を及ぼすため、水中ガス流量に単純に追加することはできないことを確認する。結果として、産業規模の通気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽へのガスのサイド注入は、それぞれ酸素濃度及び二酸化炭素濃度の独立した管理を可能にする。
【0184】
上記の評価から、「修正」ガス流量が存在すると結論付けることができる。「修正」ガス流量のより良い説明については、以下の式で表すことができる。
qmod=qsub+C×qside [1]
【0185】
すなわち、影響係数Cで重み付けされた水中曝気q
sub及び側方曝気q
sideを含む修正ガス流量を導入することができる。係数Cが高いほど、物質移動性能に対する側方曝気の影響が高い。係数Cは、物質移動が溶存ガス流量に比例すると仮定して計算することができる。この知見は、
図12a及び
図12bに示されている。
図12a及び
図12bから、C
O2=0.15のサイド注入係数を、酸素の体積物質移動係数k
La
O2について計算することができるが、二酸化炭素の係数(k
La
CO2)は、C
CO2=0.6で4倍高いことが導出され得る。
【0186】
その結果、更なるサイド注入は、酸素に対する物質移動性能のわずかな増加をもたらすが、二酸化炭素に対する物質移動性能は著しく増加する。実際には、ガスのサイド注入は、酸素の物質移動係数の0.15倍の増加のみをもたらすが、二酸化炭素の物質移動係数は0.6倍増加させることができる。
【0187】
実施例4:第3の評価測定
第1及び第2の評価測定と同じ測定を行ったが、異なるサイドスパージャ(第2のスパージャ)を使用した。サイドスパージャ型Aは10×3mmのドリルを有し、サイドスパージャ型Bは32×5mmのドリルを有する。サイドスパージャタイプBは、タイプAと比較してより多くの開口を有し、各開口はより大きい直径を有する。
【0188】
得られた結果を
図13a及び
図13bに示す。
図13a及び
図13bを参照すると、総ガス流量が一定である場合、CO
2物質移動もほぼ一定であることが確認される。更に、側方通気は、O
2物質移動と比較して、CO
2物質移動に対してより大きな効果を有する。詳細には、サイドスパージャ型Bの二酸化炭素の体積物質移動係数k
La
CO2は、二酸化炭素の物質移動係数の第2の評価測定値と比較して、サイド注入(
図13bを参照:測定4で最大30%)の増加と共にはるかに強く増加している。すなわち、スパージャ型Bを選択することにより、CO
2の物質移動を更に増加させることができる。
【0189】
したがって、より多数のより大きな気泡、すなわちより高い気泡上昇速度を有するより高い位置でのガスの更なるサイド注入、したがってガスと培地との間の短い接触時間が、細胞培養プロセスにおける改善された性能をもたらすと推定される。
【0190】
実施例5:第4の評価測定
二酸化炭素の物質移動係数k
La
CO2及び酸化物の物質移動係数k
La
O2の攪拌器周波数及びガス流量に対する依存性を検証するために、更なる測定を行った。結果を
図14a及び
図14b並びに
図15a及び
図15bに示す。
図14a、
図14b、
図15a、
図15bの凡例(説明の最後に提供)において、結果は、プラス記号(「+」)を使用して要約されている。凡例のプラス記号は、以下の意味を有する。
+.........影響小
+++.......影響大
【0191】
図14a及び
図14bでは、1つのスパージャのみが使用され、これは容器の底部に配置された水中スパージャである。
【0192】
他の実験によれば、
図14aでは、比電力入力は、プラス記号(+)で表される二酸化炭素の物質移動係数k
La
CO2に対する影響が小さいが、ガス空塔流量は、二酸化炭素の物質移動係数k
La
CO2に対する影響が大きい(+++)ことが分かった。
【0193】
図14bを参照すると、酸化物k
La
O2の物質移動係数は、比電力入力の増加及びガス空塔流量の増加と共に上昇する。
【0194】
図15a及び
図15bでは、使用される第2のスパージャはサイドスパージャである。他の実験によれば、
図15aでは、比電力入力は、プラス記号(+)で表される二酸化炭素の物質移動係数k
La
CO2に対する影響が小さいが、ガス空塔流量は、二酸化炭素の物質移動係数k
La
CO2に対する影響が大きい(+++)ことが分かった。
【0195】
図15bを参照すると、酸化物k
La
O2の物質移動係数は、比電力入力が増加するにつれて上昇する。しかしながら、ガス空塔流量の増加は、酸化物k
La
O2の物質移動係数にわずかな影響しか及ぼさない。
【0196】
この手法に基づいて、産業規模の曝気攪拌バイオリアクタ又は発酵槽における二酸化炭素及び酸素の独立した管理が可能である。独立した管理は、2つの原理、すなわち、総ガス流量が一定であればCO2物質移動がほぼ一定であること、及び側方通気がCO2物質移動及びO2物質移動に異なる影響を及ぼすことに基づいてもよい。
【0197】
実施例6:距離ηの評価
第1のスパージャと第2のスパージャとの間の距離ηは、η1、2とも呼ばれ、気泡のCO2飽和濃度と、産業規模で気泡がバイオリアクタ又は発酵槽内のCO2飽和濃度に達する時間とによって決定される。したがって、リアクタの高さにわたる気相滞留時間は、ステップ応答法(「スプランガントワーム(Sprungantwortmethode)」)によって決定されており、この方法の本質的な問題を以下に説明する。
【0198】
6.1.ステップ応答法による曝気攪拌タンクリアクタ内の気相滞留時間の測定
気相滞留時間の決定を扱うごく少数の刊行物しか入手できない(Wachi S.and Nojima Y.,Gas-Phase Dispersion in Bubble Columns,Chemical Engineering Science,Vol.45,No.4,pp.901-905,1990;Yianatos J.B.及びBergh L.G.、International Journal of Mineral Processing、36(1992)、p.81-91)。二相流中の気相滞留時間分布は、インパルス又はステップ応答法によって決定することができる。しかしながら、記載されたインパルス応答法は、放射性又は毒性トレーサガスのいずれかが使用されるため、適応することが困難である。更に、曝気攪拌タンクリアクタにおける気相滞留時間分布に関する調査はこれまで公開されていない。したがって、本明細書では、気相滞留時間を決定するためのステップ応答法に基づく修正された測定技術が使用される。
【0199】
制御理論によれば、システムの挙動は、インパルス応答法又はステップ応答法のいずれかによって決定することができる。両方の方法の違いは、システムに関する取得された情報である。滞留時間分布はインパルス応答法で求めることができ、滞留時間自体はステップ応答法で求めることができる。例えば、ステップ入力に応じたシステムの出力が
図16a及び
図16bに示されている。
図16a及び
図16bは、ステップ応答方法を示しており、Leigh,J.R.(2004).Control Theory 2.ed.,IET control engineering series,Londonにしたがったシステムへの入力(
図16a)及びシステムの出力(
図16b)が示されている。
【0200】
システムの出力で測定された信号として、放射性ガストレーサの放射(Yianatos J.B.,Bergh,L.G.,Duran,O.U.,Diaz,F.J.,Heresi,N.M.(1994)、Measurement of Residence Time Distribution of the Gas Phase in Flotation Columns,Minerals Engineering Vol.7,p.333-344)又はDichlorodifluoromethane(Wachi S.及びNojima Y.,loc.cit.)が使用される。実用上の理由から、放射性ガストレーサを使用して入力インパルスを実現することはできないことが多い。更に、この場合、滞留時間(分布ではなく)に関する情報のみで十分である。
【0201】
したがって、12kLのアクリルガラス攪拌タンクリアクタでの本発明者らの用途では、通気中にガスの種類のみを変更して、システムにステップ信号を誘導する。
【0202】
ステップ応答法を適用するために、曝気攪拌タンクリアクタは、溶存酸素濃度の平衡に達するまで、安定したプロセス条件、例えば曝気下で動作すべきである。定常運転中、続いて通気は純粋な窒素に変換される。酸素濃度は、リアクタの入口及び出口で連続的に測定される。リアクタのヘッドスペース内のガス混合の影響を最小限に抑えるために、漏斗が水面上の「気泡キャッチャ」として設置される。リアクタのヘッドスペースの影響を最小限に抑えるそのような気泡キャッチャ(漏斗)180が、
図17に例示的に示されている。気泡キャッチャ(漏斗)180は、断面にわたって気泡を取り込み、収集されたガスをガスセンサに導くように設計されている。リアクタの入口及び出口のガスセンサとして、t
response<2秒の非常に低い応答時間を伴う光学酸素センサスポット(PreSens Precision Sensing GmbH)がこの場合に使用されている。
図17の図示の気泡キャッチャ(漏斗)180には、PreSensポート185及びオフガス189が示されている。
【0203】
水中スパージャ及び漏斗それぞれの酸素濃度から12kLの曝気攪拌タンクリアクタに適用されるステップ応答法からの対応する出力信号を有する典型的な入力信号を
図18に示す。
【0204】
滞留時間スケールが物質移動時間スケールよりも著しく小さいと仮定すると、気相滞留時間は、ステップ入力と排気中の酸素濃度が1%を超えて低下した時間との間の時間として定義される。この仮定は、100%及び50%のステップ入力から生じるシステム応答を比較することによって証明することができる。
図19には、100%及び50%の投入ステップから生じる漏斗でのステップ応答の比較がそれぞれ示されている。
図19に関して、出力酸素信号が最初に低下する時間に関して応答信号の差を検出することはできない。
【0205】
応答ステップ方法は、幾つかの欠陥に関連しており、これらは、この場合、以下の理由のために重要ではない。
第1の気泡が漏斗に到達している場合、信号は低下し始める。気泡サイズ分布に応じて、これは非常に早期に(大きなサイズの気泡によって)起こり得るが、最大量の小さな気泡はシステム内ではるかに長く留まる可能性がある。しかし、溶媒(リン酸緩衝生理食塩水+1g/L Pluronic)としてPBS及びPluronicを使用するため、気泡サイズ分布は非常に狭く、この方法は許容可能な精度を有するべきである。
不均一な流れ条件下では、主気泡プルームが漏斗によって捕捉されないことが起こり得る。この場合、滞留時間は過大評価される。
酸素気泡と窒素気泡との間の溶存酸素と窒素の交換が起こり、更に融着及び崩壊が起こり得る。この効果は無視できるものとする。
【0206】
要約すると、気相滞留時間を決定するためのステップ応答方法は、記載されたシステム及び条件に対して許容可能な精度を有する容易に適用可能な方法である。
【0207】
ステップ応答法で使用した溶媒は、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)及び1,0g/L Pluronicであった。
【0208】
ステップ応答法の結果を
図20に示す。
図20では、酸素濃度[%]がサンプリング時間t[s]に対してプロットされている。30Lを有する実験室規模のバイオリアクタ又は発酵槽を、12,000Lを有する産業規模のバイオリアクタ又は発酵槽と比較した。[rpm]の攪拌器周波数n及び[L h
-1]のガス流量は、各システムの同等の電力入力を得るために実験室規模から産業規模に変更されている。したがって、産業規模システムの攪拌器周波数は300rpmであり、実験室規模の攪拌器周波数は80rpmである。実験室システムのガス流量は1L min
-1であり、産業規模のガス流量は60L min
-1である。
【0209】
図20には、実験室規模(30L)の2つの曲線及び産業規模(12,000L)の2つの曲線がそれぞれ示されている。曲線1及び2は産業規模の測定値を示し、曲線3及び4は実験室規模の測定値を示す。ガス濃度は、バイオリアクタ又は発酵槽の底部(供給部)及びバイオリアクタ又は発酵槽の上部(上部)のガス供給部で測定される。曲線から導き出され得るように、滞留時間t
rは以下の通りである。
t
r,30L=5s
t
r,12kL=21s.
【0210】
したがって、実験室規模でのバイオリアクタ又は発酵槽の気相滞留時間は5秒であると決定され、産業規模でのバイオリアクタ又は発酵槽の気相滞留時間は21秒であることが分かった。
【0211】
6.2.CO2物質移動係数kLaCO2の評価
CO2物質移動係数kLaCO2の評価は以下のように行った:
2Lバイオリアクタ又は発酵槽における比ガス境界界面及び体積CO2物質移動係数kLaCO2の測定を行った。結果を以下の表2にまとめた。
【0212】
【0213】
上記の測定に基づいて、CO2の物質移動係数は、2Lのバイオリアクタ又は発酵槽において4±0.68h-1であると特定された。
【0214】
6.3.平均気泡上昇速度の推定
12,000L系における気泡の大きさの単分散分布がd=5mmであり、上記のような二酸化炭素物質移動係数k
La
CO2=4±0.68h
-1が産業規模にも適用されるという仮定の下で、37℃での単一気泡における理論的な二酸化炭素プロファイルは、以下のように計算することができる。
【数4】
C
CO2 二酸化炭素の濃度
C*
CO2 二酸化炭素の飽和濃度
k
L 物質移動係数
a 比界面積、ここでa=A/V、
A
bubble 気泡の表面
V
bubble 気泡の体積
t 時間
【0215】
約3.5秒後に気泡の95%飽和に達すると推定することができる。
【0216】
したがって、約21秒の産業規模のバイオリアクタ又は発酵槽における測定された平均気相滞留時間及び3.6mの気泡が移動した総測定距離に基づいて、平均気泡上昇速度を以下のように計算することができる。
速度u=距離/時間:u=0.17m/s。
【0217】
結果として、約h=0.6m(3.6m×0.17m/s)の高さの後、気相はCO2で飽和し、したがって、それ以上のCO2のストリッピングは観察され得ない。
【0218】
上記の評価、測定及び計算は幾つかの評価及び推定を含むため、0.6mの得られた結果は、特許請求されるような範囲によってより良く表される距離ηの近似値にすぎない。
【0219】
比較例1:1つのスパージャのみを備えるバイオリアクタ
抗体様タンパク質を発現する独自のBI HEX(Boehringer-Ingelheim High Expression)CHO-DG 44由来細胞株を、市販の12.000Lバイオリアクタ内で従来のフェドバッチプロセスで11日間培養した。バイオリアクタは、ラシュトン及びピッチブレードアジテータを含み、2:1のH/D(高さ/直径比)を有していた。下側インペラと上側インペラとの間の距離は1.8mであった。公称体積では、バイオリアクタ内の液体高さ(=充填高さ)は4.2mであった。スパージャは、最も低い攪拌器の下に位置していた。独自のBI-HEX(登録商標)プラットフォームに由来する増殖培地、生産培地及び供給培地をこの実験に使用した。培養は9,000Lで開始し、飼料の添加によって約1,100Lで終了した。プロセス全体を通して、培養温度を36.5±0.5℃に制御し、pHを7±0.6の範囲に維持し、グルコース濃度を0~10g/Lの範囲に維持した。酸素供給は、空気及び酸素をスパージングすることによって行われた。溶存酸素濃度は30%に維持した。
【0220】
結果を以下の表A~Dに示し、
図21A~Dにグラフで示す。細胞は5日目まで指数関数的に増殖し、その後細胞数はほぼ一定のままであった。細胞生存率は、11日間の培養の間、常に低下し、80%をわずかに下回って終了した。生成物力価を3日目から測定し、11日目まで有意に増加させた。培養のpCO
2プロファイルは約10%で開始し、4日目まで急激に減少し、その後、pCO
2は11日目に開始値に達するまで再び増加した。
【0221】
【0222】
上記の表A~Dの結果を
図21に示す。図は、比較例1による例示的な12,000L製造工程からの培養データを示す。(A)では、正常な生細胞増殖曲線を11日間の培養について示す。データは、この実行で到達した最大細胞密度のパーセントで与えられる。(B)には、培養のための細胞生存率が示されている。(C)細胞によって産生された抗体誘導体の濃度曲線を示す。値は、実行中に到達した最大生成物濃度のパーセントで与えられる。(D)では、バイオリアクタ内のCO
2の分圧が示されている。
【0223】
実施例7:第1のスパージャ及び第2のスパージャを備えるバイオリアクタ
比較例1による実験を行うことができるが、本発明によるように、ただ1つのスパージャの代わりに2つのスパージャを使用することができる。第1のスパージャは、最も低い攪拌器の下方に位置することができ、中央又はサイドスパージャとすることができる。第2のスパージャは、第1のスパージャより距離η上方のバイオリアクタ又は発酵槽内の位置に配置することができ、ηは、バイオリアクタ又は発酵槽の充填高さよりも少なくとも約0.4m~最大約0.5mの範囲内になるように選択される。第2のスパージャは、中央又はサイドスパージャである。
【0224】
バイオリアクタ内に2つのスパージャが存在すると、CO2ストリッピングが行われる液体培地内の面積が増加する。第2のスパージャが液体の表面付近、例えばバイオリアクタ又は発酵槽の充填高さより約0.5m下に配置される場合、第2のスパージャは下流の領域を取り去ることができ、一方、バイオリアクタの底部付近に配置される第1のスパージャは液体培地の上流の領域を取り去ることができる。要するに、バイオリアクタ又は発酵槽の全充填高さにCO2ストリッピングを施す。
【0225】
上記の範囲内で選択された距離ηで第1のスパージャの上方に位置する第2のスパージャの存在は、CO2ストリッピングに大きな影響を与えることが予想され得る。すなわち、比較例1の実施形態と比較して、バイオリアクタの培養物(液体培地)中のCO2分圧の少なくとも約0.5%、又は少なくとも約1%、又は少なくとも約2%から約20%までの減少を推定することができる。
【0226】
更に、比較例1と比較して、より高い生成物力価及びより高い生成物収率が予期される。細胞によって産生される抗体又は抗体誘導体の濃度は、比較例1の実施形態と比較して、少なくとも約1%、又は少なくとも約5%、又は少なくとも約10%から約30%まで増加すると推定することができる。
【0227】
少なくとも約0.5%又は少なくとも約1%など、この場合のように大規模に商業的に使用されるプロセスにおける小さな改善も、意味のある貢献を表す。ストリッピング性能及び歩留まりなどのプロセスの小さな改善でさえ、大規模生産において非常に関連する改善であり、重要であるとみなされなければならない。
【0228】
第2のスパージャがサイドスパージャであるように選択される場合、本明細書に開示される有利な技術的効果、特にバイオリアクタの培養物(液体培地)中のCO2の分圧の減少及び生成物の力価の増加がそれぞれより顕著になることが予想され得る。
【0229】
実施例8:第1のスパージャと第2のスパージャとの間の距離ηの変化
第1のスパージャと第2のスパージャとの間の距離ηを変化させる実施例7による実験を実行することができる。第1のスパージャは、最も低い攪拌器の下方に位置することができ、第2のスパージャは、バイオリアクタ内又は発酵槽内の第1のスパージャの上方の距離ηの位置に配置することができる。第2のスパージャは、バイオリアクタ又は発酵槽の充填高さの約2/3、バイオリアクタ又は発酵槽の充填高さの約1/2、約3.0m、約2.9m、約2.8m、約2.7m、約2.6m、約2.5m、約2.4m、約2.3m、約2.2m、約2.1m、約2.0m、約1.9m、約1.8m、約1.7m、約1.6m、約1.5m、約1.4m、約1.3m、約1.2m、約1.1m、約1.0m、約0.95m、約0.90m、約0.85m、約0.80m、約0.75m、約0.70m、約0.65、約0.6m、約0.55、約0.45及び約0.4mである距離ηで第1のスパージャの上方に配置される。
【0230】
バイオリアクタ内に2つのスパージャが存在すると、CO2ストリッピングが行われる液体培地内の面積が増加する。第2のスパージャを距離ηで配置することができ、この場合、ηは、第1及び第2のスパージャによってCO2ストリッピングが実行される領域がある程度重なり合うように選択することができる。
【0231】
したがって、上述の値のうちの1つを有する距離ηにおいて第1のスパージャの上方に位置する第2のスパージャの存在は、CO2ストリッピングに大きな影響を及ぼすことが予想され得る。すなわち、比較例1の実施形態と比較して、バイオリアクタの培養物(液体培地)中のCO2分圧の少なくとも約0.5%、又は少なくとも約1%、又は少なくとも約2%から約20%までの減少を推定することができる。
【0232】
更に、比較例1と比較して、より高い生成物力価及びより高い生成物収率が予期できる。細胞によって産生された抗体誘導体の濃度は、比較例1の実施形態と比較して、少なくとも約1%、又は少なくとも約5%、又は少なくとも約10%から約30%まで増加すると仮定することができる。
【0233】
少なくとも約0.5%又は少なくとも約1%など、この場合のように大規模に商業的に使用されるプロセスにおける小さな改善も、意味のある貢献を表す。ストリッピング性能及び歩留まりなどのプロセスの小さな改善でさえ、大規模生産において非常に関連する改善であり、重要であるとみなされなければならない。
【0234】
第2のスパージャがサイドスパージャであるように選択される場合、本明細書に開示される有利な技術的効果、特にバイオリアクタの培養物(液体培地)中のCO2の分圧の減少及び生成物の力価の増加がそれぞれより顕著になることが予想され得る。
【0235】
比較例2:2つのスパージャを備えるが、距離ηが特許請求の範囲外であるバイオリアクタ
第1のスパージャと第2のスパージャとの間の距離ηが特許請求の範囲外である実施例7に係る実験を実行することができる。詳細には、距離ηは、0.35m又は0.3m又は0.2m又は0.1mなど、0.4m未満である。第2のスパージャの存在による技術的効果が達成されないこと、すなわち、バイオリアクタの培養物(液体培地)中のCO2の分圧の減少、並びにより高い生成物力価及びより高い生成物収率から生じる利点が得られないことが予期され得る。バイオリアクタ内に同時に存在する2つのスパージャのプラスの効果は生じない。実際には、バイオリアクタの性能は、比較例1に記載されているように、ただ1つのスパージャを有するバイオリアクタに近づく。したがって、下限値の0.4mは臨界値であると考えることができる。
【符号の説明】
【0236】
10,10.1,10.2,10.3 第1のスパージャからの気泡
20,20.1,20.2,20.3 第2のスパージャからの気泡
100 バイオリアクタ又は発酵槽
102 容器
105 底部
110 側壁
120 攪拌器
140 ガス供給管
150 第1のスパージャ
160 第2のスパージャ
170 第3のスパージャ
180 気泡キャッチャ(漏斗)
185 PreSensポート
189 オフガス
A 中心軸
rs 攪拌器半径
ds 攪拌器直径
d1,d2 攪拌器半径rsによって規定される距離
D バイオリアクタ又は発酵槽の直径
R1,R2,R3,R4 攪拌器
η 2つのスパージャ間の距離
η1,2 第1のスパージャと第2のスパージャとの間の距離
η2,3 第2のスパージャと第3のスパージャとの間の距離
η3,4 第3のスパージャと第4のスパージャとの間の距離
【0237】
幾つかの図面の説明
【表7】
物質移動測定値:
システム:0.9% NaCl-水/空気
攪拌器:ラシュトン/ピッチドブレード
容量:2L
温度:37℃
【表8】
物質移動測定値:
システム:0.9% NaCl-水/空気
攪拌器:ラシュトン/ピッチドブレード
容量:12000L
温度:37℃
図4
物質移動測定値:
システム:0.9% NaCl-水/空気
攪拌器:ラシュトン/ピッチドブレード
ガス空塔速度:0.96mm s
-1
容量:12000L、2L
温度:37℃
【表9】
図18
滞留時間の測定値:
充填量:12m
3
攪拌器:ラシュトン/ピッチドブレード
攪拌器周波数:60rpm
ガス流量:60L/min
培地:DI-水
温度:T=37℃
図19
滞留時間の測定値:
充填量:12m
3
攪拌器:ラシュトン/ピッチドブレード
攪拌器周波数:60rpm
ガス流量:60L/min
培地:DI-水
温度:T=37℃
図20
-1- n=300rpm/q=1l min
-1 Feed
-2- n=300rpm/q=1l min
-1 Top
-3- n=80rpm/q=60l min
-1 Feed
-4- n=80rpm/q=60l min
-1 Top