(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】温度を求める装置
(51)【国際特許分類】
G01K 13/08 20060101AFI20240325BHJP
【FI】
G01K13/08 Z
(21)【出願番号】P 2022549555
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 EP2021051975
(87)【国際公開番号】W WO2021165009
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】102020104194.2
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597007363
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Nutzfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80, D-80809 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ クルフティンガー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ヴィンディッシュ
(72)【発明者】
【氏名】フェリックス ティールフェルダー
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-031906(JP,A)
【文献】特開2002-022543(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第1211500(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
G01P 3/481
G01D 5/00-5/252
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
規定のプロトコルに従い時間的に区切られた電気パルス(210)によりセンサ情報を伝送するように構成されたセンサデバイス(200)から、温度情報(130)を求める装置(100)において、
データ処理ユニット(110)が設けられており、該データ処理ユニット(110)は、
前記電気パルス(210)のパルス持続時間(215)と前記センサデバイス(200)内の熱作用との関係について、基準データ(120)を呼び出し、
前記電気パルス(210)のうちの少なくとも1つにおいて前記パルス持続時間(215)を測定し、
該測定の少なくとも1つの結果と前記基準データ(120)とに基づき前記温度情報(130)を求めるように構成されていることを特徴とする、
温度情報(130)を求める装置(100)。
【請求項2】
前記データ処理ユニット(110)は、以下の特徴のうちの少なくとも1つを有する基準データ(120)に基づき、前記温度情報(130)を求めるように構成されており、すなわち、
前記基準データ(120)は、前記電気パルス(210)の少なくとも1つのパルス持続時間(215)について、該パルス持続時間(215)に割り当てられた温度を記述し、
前記基準データ(120)は、ある温度と前記電気パルス(210)の前記パルス持続時間(215)との線形の関係を記述し、
前記基準データ(120)は、ある温度と前記電気パルス(210)の前記パルス持続時間(215)との量子化されたまたは非線形の関係を記述し、
前記基準データ(120)は、センサに依存する補正データを記述し、該補正データは前記センサデバイス(200)について、ある温度と前記電気パルス(210)の前記パルス持続時間(215)との予め定義された関係からの偏差を規定する、
請求項1記載の装置(100)。
【請求項3】
前記データ処理ユニット(110)は、前記温度情報(130)を求めた後、該温度情報(130)を少なくとも1つの閾値(70)と比較し、該閾値(70)の超過後に少なくとも1つのアラームをトリガするように構成されている、
請求項1または2記載の装置(100)。
【請求項4】
車両における回転数を求めるための回転数センサ(200)を備えたセンサシステムであって、当該センサシステムは、規定のプロトコルに従い時間的に区切られた電気パルス(210)により回転数センサ(200)からセンサ情報を伝送するように構成されている、回転数センサ(200)を備えたセンサシステムにおいて、
前記回転数センサ(200)または該回転数センサ(200)の周囲から温度情報(130)を求めるために、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置(100)が設けられていることを特徴とする、
回転数センサ(200)を備えたセンサシステム。
【請求項5】
センサ情報の伝送は、温度情報の伝送を想定していないプロトコルに従い行われ、または特にプロトコル“Requirement Specifications for Standardized Interface for Wheel Speed Sensors with Additional Information-AK-Protocol Version:4.0”に従い行われる、
請求項4記載のセンサシステム。
【請求項6】
請求項4または5記載の少なくとも1つのセンサシステムが設けられていることを特徴とする、車両。
【請求項7】
センサデバイス(200)から温度情報(130)を測定する方法であって、前記センサデバイス(200)は、規定のプロトコルに従い時間的に区切られた電気パルス(210)によりセンサ情報を受信機に伝送するように構成されており、前記受信機は、前記電気パルス(210)のパルス持続時間(215)と、前記センサデバイス(200)内の熱作用との関係について基準データ(120)を有する、センサデバイス(200)から温度情報(130)を測定する方法において、
前記電気パルス(210)のうちの少なくとも1つにおいて前記パルス持続時間(215)を測定するステップ(S10)と、
少なくとも測定された前記パルス持続時間(215)と前記基準データ(120)とから前記温度情報(130)を求めるステップと、を有することを特徴とする、
センサデバイス(200)から温度情報(130)を測定する方法。
【請求項8】
1つのセンサデバイス(200)に関して、時間的に区切られた電気パルス(210)のパルス持続時間(215)と熱作用との関係について、基準データ(120)を生成する方法であって、前記センサデバイス(200)は、かかる電気パルス(210)によりセンサ情報を受信機に伝送するように構成されていて、製造プロセス中に加熱され、次いで冷却される、基準データ(120)を生成する方法において、
前記センサデバイス(200)から前記受信機にセンサ情報を伝送し、これと同時に、前記加熱およびこれに続く前記冷却の間、前記センサデバイス(200)内の少なくとも1つの温度を継続的に測定するステップ(S50)と、
センサ情報を伝送する前記ステップし、前記センサデバイス(200)内の温度を測定する前記ステップ(S50)に基づき、前記パルス持続時間(215)と前記センサデバイス(200)内の熱作用との前記関係を測定するステップ(S60)と、
前記測定ステップ(S60)の少なくとも1つの結果から、前記基準データ(120)を求めるステップと、を有することを特徴とする、
基準データ(120)を生成する方法。
【請求項9】
前記基準データ(120)を求める前記ステップは、以下のステップのうちの少なくとも1つを含む、すなわち、
1つのセンサデバイス(200)に関して、前記パルス持続時間(215)と前記熱作用との前記関係の複数の測定ステップ(S60)の結果について平均するステップと、
複数のセンサデバイス(200)に関して、前記パルス持続時間(215)と前記熱作用との前記関係の測定ステップ(S60)の結果について平均するステップと、
前記パルス持続時間(215)と前記熱作用との前記関係について、曲線適合計算により関数関係を求めるステップと、のうちの少なくとも1つを含む、
請求項
8記載の方法。
【請求項10】
データ処理機械によってソフトウェアコードが実行されると、請求項
7記載の方法が実施されるように構成されている、ソフトウェアコードが記憶されたコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサのデータ伝送におけるパルス幅を介して温度を求める装置および方法に関し、特に能動型回転数センサにおける温度センシングに関する。
【0002】
センサからのデータの伝送は典型的には、規定のデータ伝送プロトコルに従い時間的に区切られた電気パルスのシーケンスによって行われる。たとえば乗用車および商用車における能動型回転数センサの場合には、ドイツ自動車工業会VDAおよびDaimler AGが執筆し、“Requirement Specifications for Standardized Interface for Wheel Speed Sensors with Additional Information-AK-Protocol Version:4.0”という名称で、2008年2月13日にVDA勧告として公開されたプロトコルが使用されている。このプロトコルは、2つの電流強度によるマンチェスター符号化を用いてセンサデータを伝達し、その際に速度、回転方向、空隙およびセンサコンディションに関する情報が出力される。AKプロトコルは特に、センサ自体がたとえば自身の内部センサによってセンサ内の温度を検出する場合であっても、かかる温度について情報の伝送を想定していない。このため、さらなるハードウェアを用いることなく、あるいは定められた規格から逸脱したりまたはそれを変更したりすることなく、回転数センサから温度情報を伝送することが不可能になっている。
【0003】
しかしながら上述のような事例では、回転数センサおよび/またはその周囲からの温度の測定値に対するニーズがある。つまりたとえば、ブレーキシステムまたは車両電子装置の一般的な部分の領域における制御装置は、商用車の車軸またはトレーラにおける軸受内の温度の指標を必要とする場合がある。その際にたとえば、回転数センサまたはその周囲における温度のできるかぎり正確な指示が、または温度が高すぎるならば警告も、望まれる可能性がある。ただし、技術的な構成条件ゆえに、またはコスト上または効率上の理由から、直接的な温度測定のためにさらなるセンサまたは部品を設けるのを回避したいし、また、確立されたデータ伝送プロトコルからの逸脱も同様に回避するのが望ましい。
【0004】
上述の問題点のうちの少なくとも一部は、請求項1記載の装置、請求項4記載のセンサシステム、請求項6記載の車両、請求項8記載の方法、請求項9記載の方法、および請求項11記載のコンピュータプログラム製品によって解決される。従属請求項によれば、独立請求項の保護対象のさらなる有利な実施形態が定義されている。
【0005】
本発明は、規定のプロトコルに従い時間的に区切られた電気パルスによりセンサ情報を伝送するように構成されたセンサデバイスから、温度情報を求める装置に関する。この装置は、電気パルスのうちの少なくとも1つにおいて電気パルスのパルス持続時間を測定するように構成されたデータ処理ユニットが設けられていることを特徴としている。かかるパルス持続時間は特に、プロトコルによって定義されている可能性がある。さらにデータ処理ユニットは、パルス持続時間とセンサデバイス内の熱作用との関係について、基準データを呼び出し、少なくとも1つの測定結果と基準データとに基づき温度情報を求めるように構成されている。
【0006】
その際に温度情報をたとえば1つの値とすることができるが、たとえばセンサデバイスの内部または近傍の温度または温度範囲の変化もしくは上昇率とすることもできる。センサデバイスは、検出されたデータをセンサ情報として出力する少なくとも1つのセンサと、出力されたセンサ情報を伝送プロトコルに変換するデバイスまたはモジュールとを、必須の構成として含む。伝送は、たとえば電流線路の、適切な電気的接続によって行われる。プロトコルを特に既述のAKプロトコルとすることができるけれども、たとえば、センサ情報自体をパルス幅によって符号化する伝送パターンとすることもできる。実施例は特に、伝送されるセンサ情報が温度情報自体を含まない、ということを想定している。しかしながらこのような制約は、有利な用途のために必須のものではない。むしろ温度情報をたとえば、装置においてデータ処理ユニットによって求めることもでき、かつセンサ情報に含めることもでき、かくして冗長的に存在させることができる。したがってこの装置は温度情報を、たとえばセンサの機能正常性を監視する目的で使用することができる。
【0007】
電気パルスのパルス持続時間とかかるセンサデバイス内の熱作用との間において、測定可能でありかつ再現可能な関係が観察された。この関係は、センサデバイス内に設けられた電気回路部品または半導体素子の動作態様の、個別には詳しく特定されない依存性によって総合的に成り立つものであり、特に、ダイオード、トランジスタまたは発振器におけるPN接合部は、それぞれが温度ドリフトを有する。この温度ドリフト、もしくはこれによって複数の部品から生じてパルス幅に及ぼされる作用が、センサ内の温度の推定を得るために装置によって利用される。
【0008】
この装置はデータ処理ユニットのほか、さらなる部品または接続素子を含むことができる。実施例ではデータ処理ユニットはたとえば、車両用ブレーキシステムの制御装置に組み込まれている。
【0009】
基準データを呼び出す装置の構成については、幅広く解釈されたい。つまり基準データをたとえば、リスト、テーブル(または英語ではlook-up tableとも)、特性線、または関数の形態で、装置のメモリユニット内に格納しておくことができる。ただしこれにかかわりなく、基準データの呼び出しはたとえば、比較温度の伝送、かかる温度の測定および/または記憶を含むこともできる。たとえば装置は、センサデバイス内またはセンサデバイスにおける温度と、記憶されて存在しているパルス幅との少なくとも部分的に線形の関係について、1つまたは複数の勾配値にアクセスすることができ、たとえば予め定義された時点でパルス幅を測定することによって、温度を求めるための基準点を取得して記憶させることができ、このようにすれば、予め定義された時点の間に測定されたパルス幅から、記憶されているこの基準データに基づき温度を算出することができる。
【0010】
オプションとして、基準データは以下の特徴のうちの少なくとも1つを有する。すなわち、
・基準データは、電気パルスの少なくとも1つのパルス持続時間について、このパルス持続時間に割り当てられた温度を記述する。
・基準データは、ある温度と電気パルスのパルス持続時間との線形の関係を(たとえば勾配値を介して)記述する。
・基準データは、ある温度と電気パルスのパルス持続時間との量子化された(たとえば断片的な)または非線形の関係を記述する。
・基準データは、センサに依存する補正データを記述し、この補正データは、ある温度と電気パルスのパルス持続時間との予め定義された関係からのセンサデバイスの偏差を規定する。
【0011】
この場合、基準データを特にリストまたはテーブルの形態で、パルス幅値およびこれと相関する温度値または補正値から成るものとすることができるが、ただし基準データは、これとは無関係に、またはこれと組み合わせて、たとえば抽象的な態様でも温度に関する特性線を規定することができ、したがってたとえば既述のように、線形関係に関する勾配値または変化率の形態で規定することができる。パルス幅の測定からの温度情報の換算もしくは特定を、完全なまたは制限された温度範囲またはパルス幅範囲にわたって行うことができる。
【0012】
オプションとしてデータ処理ユニットは、温度情報を求めた後、この温度情報を少なくとも1つの閾値と比較し、この閾値の超過後に少なくとも1つのアラームをトリガするように構成されている。
【0013】
この場合、警告機能をたとえば、一例として商用車におけるセンサの近傍の温度を監視するために用いることができ、この警告機能によって、比較的高い温度のときに(たとえば商用車の1つの車軸において180℃を超えたときに)、警告を1回または段階的に出力することができる。
【0014】
実施例は、車両内の回転数を求めるための回転数センサを備えたセンサシステムにも関する。このセンサシステムは、規定のプロトコルに従い時間的に区切られた電気パルスにより回転数センサからセンサ情報を伝送するように構成されており、回転数センサからまたは周囲から温度情報を求める装置が設けられていることを特徴としている。
【0015】
この場合、オプションとして、それ自体は温度情報の伝送を想定していないプロトコルに従って、センサ情報の伝送が行われる。特にこのプロトコルを、既述のプロトコル“Requirement Specifications for Standardized Interface for Wheel Speed Sensors with Additional Information-AK-Protocol Version:4.0”とすることができる。オプションとして、本発明による実施形態は、PSI5(Peripheral Sensor Interface 5、「ペリフェラルセンサインターフェース5」)のような他のセンサプロトコルにも適している。
【0016】
実施例はさらに、少なくとも1つのかかるセンサシステムが設けられていることを特徴とする車両に関する。
【0017】
特にかかるセンサシステムを、車輪の回転数を測定するための回転数センサが組み込まれた商用車またはトレーラにおいて使用することができる。その際に回転数センサのデータは、たとえばブレーキシステムの制御装置に伝送される。この場合にはたとえば、商用車の車軸またはトレーラにおいて監視される車輪の軸受内の温度を監視することが重要である。この装置を用いることで、回転数センサ内の温度を監視することにより、軸受内の温度を推定することができる。既述のように、能動型回転数センサデバイスはその際に、それ自体で内部温度センサを往々にして有するけれども、それらに属する情報を、この環境において使用されることが多いAKプロトコルを介して利用することができない。提示された解決手段によれば、プロトコルの標準から逸脱することなく、またはセンサデバイスにおいて、またはその近傍において、付加的なハードウェアを使用することなく、回転数センサからの温度情報を利用することができる。
【0018】
オプションとして、回転数センサ近傍の予め定義された車両内ポジションにおける温度を求めるために、予め定義されたシステマティックな補正も、温度情報を求める際に含めるように、データ処理ユニットが構成されている。
【0019】
かかる予め定義されたポジションが、既述のようにたとえば商用車の車軸の軸受内にあるものとすることができる。パルス幅から求められた温度情報を補正するための規則を、たとえばデータ処理ユニットにプログラムとして組み込むことができるし、またはたとえば基準データにおけるさらなるリストまたはテーブルの形態で記憶させておくこともできる。
【0020】
実施例は、センサデバイスから温度情報を測定する方法にも関する。この場合、センサデバイスは、規定のプロトコルに従い時間的に区切られた電気パルスによりセンサ情報を受信機に伝送するように構成されており、その際に受信機は、電気パルスのパルス持続時間とセンサデバイス内の熱作用との関係について基準データを有する。この方法は、以下のステップを有することを特徴としている。すなわち、
・電気パルスのうちの少なくとも1つにおいてパルス持続時間を測定するステップ。
・少なくとも測定されたパルス持続時間と基準データとから温度情報を求めるステップ。
【0021】
この場合、温度情報を求めるステップを、上述のように間接的にもしくは補正を用いて、行うこともできる。受信機は、基準データを自身で記憶することができ、または遠隔記憶装置から伝送によって呼び出すこともできる。
【0022】
さらに実施例は、1つのセンサデバイスに関して、時間的に区切られた電気パルスのパルス持続時間と熱作用との関係について、基準データを生成する方法に関する。この場合、センサデバイスは、かかる電気パルスによりセンサ情報を受信機に伝送するように構成されていて、たとえばプラスチックによるオーバーモールドの一環として、製造プロセス中に加熱され、次いで冷却される。この方法は以下のステップを含む。すなわち、
・製造プロセス中、センサデバイスを準備するステップ。
・センサ情報を受信し、パルス持続時間を測定するように構成された受信機を準備するステップ。
・センサデバイスから受信機にセンサ情報を繰り返し伝送し、これと同時に、たとえばプラスチックによるオーバーモールドの一環としての加熱およびこれに続く冷却の間、センサデバイス内の少なくとも1つの温度を継続的に測定するステップ。
・伝送されたセンサ情報およびセンサデバイス内の温度の測定に基づき、パルス持続時間とセンサデバイス内の熱作用との関係を測定するステップ。
・少なくとも1つの測定結果から、基準データを求めるステップ。
【0023】
センサは、製造時にプラスチックによってオーバーモールドされるので、まさに製造時に、センサ内の温度をパルス幅と比較する機会がある。この場合、センサ情報の内容は重要ではない。特に商用車向けの回転数センサシステムにおいて、製造プロセスにそのまま組み込むことができることから、この方法の直接的な利点がもたらされ、較正のためにさらなる温度チャンバは必要とされない。つまりオーバーモールドプロセスおよび冷却プロセスを経るだけで、たとえばセンサ特性線が生じるのである。
【0024】
センサデバイスの製造と、たとえば車両へのその取り付けとの間の時間に、基準データをたとえばデータベースに、または内部センサメモリが存在するならばセンサ自体に、格納することができる。特に車両分野では、回転数センサは、このために使用可能な顧客特有のメモリ領域を有することが多い。離散的な測定系列を、データ処理ユニットまたは装置のさらなる要素における計算プロセスを介して、たとえば部分的に線形のまたは多項式による内挿または外挿によって、改善することができる。
【0025】
データ処理ユニットもしくは装置のメモリ素子へのデータの伝送を、たとえば機能試験の一環として、車両分野であればたとえばエンドオブライン試験中に、行うことができる。特に車両分野であれば、修理工場においても、センサメモリからの伝送、または中央データベースへのアクセスによる伝送が提供される。このようにすれば、たとえ車両内のセンサを交換したとしても、引き続き温度センシングを行うことができる。
【0026】
オプションとして、基準データを求めるステップは、以下のステップのうちの少なくとも1つを含む。すなわち、
・1つのセンサデバイスに関して、パルス持続時間と熱作用との関係の複数の測定ステップの結果について平均するステップ。
・複数のセンサデバイスに関して、パルス持続時間と熱作用との関係の測定ステップの結果について平均するステップ。
・パルス持続時間と熱作用との関係について、曲線適合計算により関数関係を求めるステップ。
【0027】
これらのステップは、複数の実装のためにセンサタイプ特有であるにすぎない特性線を作成する場合に特に重要であり、これは必要に応じてセンサ特有の補正データによって、またはセンサ特有の補間支持データによっても、改善されるように、かつ/または完全なものとされるように、データ処理ユニット内に格納される。
【0028】
実施例は、データ処理機械によってソフトウェアコードが実行されると、先に述べたようなセンサデバイスから温度情報を測定する方法が実施されるように構成されている、ソフトウェアコードが記憶されたコンピュータプログラム製品にも関する。
【0029】
いくつかの有利な用途および実施形態を以下にまとめる。
【0030】
とりわけ自動車分野ではブレーキシステムにおいて、たとえば回転数センサからのセンサ情報のために、温度の伝送を想定していない伝送プロトコルが使用されている。特にこのことは、AKプロトコルについて当てはまる。たとえば、さらなる電気線路またはさらなる温度センサといったさらなるハードウェアの取り付けは、プロトコルの変更と同様に手間がかかる。そこで現れた基本思想とは、センサデバイスにより伝送される電気パルスの、センサデバイス内の熱運動により生じる有効な拡幅を利用する、というものである。温度に依存するパルスの拡幅について格納された基準データとの比較によって、センサ内またはその近傍の温度を推定することができる。
【0031】
1つの用途分野として挙げられるのは、既述のようにAKプロトコルに従いデータを伝送するシステムである。ただし、たとえパルス幅の変調によって動作するプロトコルであっても、先に述べた基本思想の適用から先験的に排除されるものではない。つまりパルス幅変調(Pulse Width Modulation PWM)の標準プロトコルは、たとえば1つの周期の開始をマーキングするためにそれぞれスタートパルスによってシグナリングされる1つの周期長を想定している。この周期も熱作用によって変化する可能性があるため、これを先に述べた基本思想による温度の測定に利用することもできよう。
【0032】
用途分野の拡張において、たとえばパルス幅の測定から、センサ近傍の温度をシステマティックに推定することができる。このことはたとえば、制動される車輪の回転数センサの温度ではなく、車輪の車軸軸受内の温度が着目対象となるブレーキシステムにおいて、重要な役割を果たす。回転数センサの構造的な配置に基づき、軸受内の温度と回転数センサ内の温度との相関関係が生じる。軸受内の種々の温度に対するパルス幅のコントロールされた測定によってたとえば、基準データもしくは温度を求めるステップに関与する補正値を求めることができる。
【0033】
同様に、互いに相対的に固定配置された複数のポジションのところで、センサデバイスの温度を求めることにより、たとえば温度勾配または温度プロフィル求めることができる。
【0034】
最後に、たとえばセンサがすでに温度を測定しセンサ情報内で伝送するケースであれば、実施例は冗長的に温度を求めるためにも適している。この場合には、温度を測定および伝送するためのセンサの構成には左右されない本発明による方法を、たとえばセンサの機能正常性を監視するために利用することができる。つまり温度または温度情報を、オプションとしてすでに設けられている温度センサから、パルス幅変調または他の伝送プロトコルを利用して(たとえば他の情報と併せて)伝送することができる。パルス幅変調の場合には、個々のパルスの幅が所期のように予め定められた手法で変化させられる。ただし温度が変化すると、予め定められたこれらのパルス変化がそれにもかかわらず温度に依存して変化するようになり、さらなる実施例はこれを付加的な温度検出として利用する。これによる1つの利点は、たとえば温度センサがパルス幅変調用の電子装置とは別の場所に存在している場合に、2つの温度検出を効果的に別の場所で行うことができる、ということである。これによっても、温度勾配または温度プロフィル(つまり温度の空間的依存性)を求めることができる。
【0035】
車両におけるブレーキシステムの例を用いた、先に述べた方法の実装例として、たとえば以下のパターンを用いることができる。すなわち、
・センサが、有利にはその製造プロセス中に加熱され、冷却され、その際に伝送パルス幅と温度との関係について特有のセンサパラメータが記録される。
・記録されたデータから、たとえばセンサタイプ特有の特性線が存在しているならば、補正パラメータが計算され、これらの補正パラメータは、センサデータメモリおよび/またはデータベースに格納される。
・センサの組み込みが行われるときに、補正パラメータがセンサメモリまたはデータベースから読み取られることにより呼び出され、センサに接続された制御ユニットに記憶される。別の選択肢として、測定要求があまり精密でないのであれば、制御装置において1つの特性線または標準パラメータのみを使用することができる。
・制御ユニットは、パルス幅を測定するように構成されており、これによりセンサまたは軸受における温度を推定することができる。この場合、制御ユニットは特に、標準関係に基づくだけで求められた温度を、記憶されている補正パラメータを用いて補正することができる。
・制御ユニットはさらに、特に軸受について、予め定義された閾値を超えた温度に対し警告を出力することができる。
【0036】
単純な警告閾値の実装をたとえば、回転数センサが車輪回転数を測定し、センサまたはセンサ近傍の車輪軸における温度を監視すべき商用車のために、以下のステップに従うものとすることができる。すなわち、
・商用車のエンジンがたとえば一晩停止させられ、これによりセンサ内、車軸もしくはブレーキシステムにおける温度が緩和される。
・センサからの情報の伝送により、装置は、たとえばパルス幅の測定および外部からの温度情報との比較によって、パルス幅と温度との相関に関する基準点を確定することができる。
・データ処理ユニットが基準データとして利用可能な、パルス幅と温度との線形関係に関する勾配値を用いて、パルス幅を後続の動作において温度と相関させることができる。このようにした場合、たとえば180℃の温度のときに(したがってたとえば55μsのパルス持続時間のときに)警告を出力することができる。
【0037】
様々な実施例の以下の詳細な説明および添付の図面から、本発明の実施例の理解が深められるが、それらの実施例は、それらが本開示を特定の実施形態に限定するものであると解されるべきではなく、説明および理解のために用いられるにすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の1つの実施例に関する概略図である。
【
図2】AKプロトコルに従った典型的なパルス列を示す図である。
【
図3】パルス幅とセンサデバイス内の温度との関係について測定系列の結果を示す図である。
【
図4】車両における回転数センサの状況を示す図である。
【
図5】パルスの拡幅を介してセンサから温度情報を測定する方法のステップを示す図である。
【
図6】基準データを生成する方法のステップを示す図である。
【0039】
図1には、センサデバイス200から温度情報130を求める装置100が概略的に示されている。センサデバイス200は、規定のプロトコルに従い時間的に区切られた電気パルス210によりセンサ情報を伝送する装置100と電気的に接続されている。装置100はデータ処理ユニット110を含み、このデータ処理ユニット110は、パルス持続時間215とセンサデバイス200内の温度との関係について基準データ120にアクセスすることができる。図示されている概略図では、基準データはデータ処理ユニット自体のメモリ内に格納されているが、これをたとえば装置内の別の場所に記憶させることもできる。データ処理ユニット110は、電気パルス210のうちの少なくとも1つにおけるパルス持続時間215を測定する。データ処理ユニット110は、測定結果と基準データ120とに基づき温度情報130を求めるために、基準データ120を呼び出す。
【0040】
図2には、AKプロトコルに従った電気パルス210の典型的なシーケンスが示されており、このプロトコルは特に、車両における車輪のための回転数センサ200(ここには図示せず)からセンサ情報を伝送するために用いられる。回転数センサ200は、典型的には磁極ホイール330(ここには図示せず)のところで、たとえばスポークまたは歯の通過に基づき、車輪の回転数を測定する。この場合、通過によって、車輪の回転数に比例する割合で速度パルス211が引き起こされる。
【0041】
回転数センサ200から伝送されるパルス210は、電流パルスである。伝送は、基本電流強度217よりも上方で2つの電流強度により行われる。たとえば28mAである高い電流強度219は、パルス列もしくはデータパケットの始端において速度パルス211を表す。速度パルス211には、それよりも低い電流強度218(output currentまたは出力電流)で、0~8のビットセル数(bit cell number)の番号が振られて、9個のビットの情報が続く。電気パルス210は、その際に典型的にはマンチェスター符号化でビットを伝送する。ビットセルは、典型的には速度パルス211の持続時間もしくは幅によって定められている持続時間(文献ではしばしばtpと称される)によって、時間的に区切られている。ビットセル内では、電流強度の変化によってビットが符号化されている。すなわち、たとえば、増加する電流強度により論理値1が表され、減少する電流強度により論理値0が表される。プロトコルの情報内容は典型的には、回転数センサ200またはその周囲からの温度情報を含まない。
【0042】
そこで、速度パルス211もしくはビットセルの持続時間をパルス持続時間215として用いることができ、データ処理ユニット110(ここには図示せず)において測定することができる。パルス持続時間215は、回転数センサ200における温度に依存して、50μs±10μsの範囲内にある。回転数センサ200は、車両においては通常、約-40℃~約200℃の温度を示す周囲の中で動作する。したがってこの温度範囲全体が利用される場合にはたとえば、マイクロ秒あたり約12℃の分解能を達成することができる。
【0043】
ここで提示した温度センシングを有利に利用するために、符号化を変更してもまたは他のプロトコルであっても支障はない。温度情報130を求めるためには、パルス持続時間215だけを測定できればよい。
【0044】
図3には、AKプロトコルのパルス持続時間215と、車両領域において使用されているような回転数センサ200のための温度との関係について(ここではそれぞれを図示せず)、測定結果30の一例が示されている。測定結果30のほか、この測定結果30から計算された線形化直線60ならびに温度警告閾値70が示されている。
【0045】
線形化直線60は、測定結果30からの曲線適合計算により求められたものであり、たとえば回転数センサ200のために、または同じ構造タイプの別の回転数センサのためにも、特性線として用いることができる。線形化直線60を特に、より正確に適合された曲線、たとえば多項式、によって置き換えることもできる。
【0046】
回転数センサ200の動作中に求められた温度130が警告閾値70を超えて上昇すると、データ処理ユニット110もしくは温度を求める装置100は、このことをたとえば上位のシステムに通報するか、もしくはたとえばアラームまたは警告を出力することができる。
【0047】
図4には、車両におけるブレーキシステムのために車輪に設けられた回転数センサ200の状況が示されている。車輪軸310ならびに車輪支持体もしくは車輪軸受ユニット320の一部分の断面が、車輪回転軸線を含む平面内に示されている。右側には、センサデバイスが回転数センサ200の形態で描かれており、この回転数センサ200は、たとえば金属薄板から打ち抜かれた磁極ホイール330の開口部335の通過を介して車輪の回転数を求め、それをここには図示されていないたとえばアンチロックブレーキシステムの電子制御ユニット100に転送する。軸受325はここではたとえば、2列の円錐ころ軸受として形成されており、またはアンギュラ玉軸受としても形成されている。
【0048】
軸受325内の温度を監視するために、電子制御ユニット100内のここには図示されていないデータ処理ユニット110が、軸受近傍の回転数センサ200内の温度を求めることができる。しかもデータ処理ユニット110をさらに、この温度の予め定義された補正により軸受内の温度を推定するように、構成することができる。これに対し、たとえば回転数センサ200自体における測定および符号化された伝送によって、またはさらなるセンサによって、温度を測定するとしたならば、そのために必要とされる伝送プロトコルの変更に起因して、または車輪モジュールの複雑さに鑑みさらなるハードウェアを使用することに起因して、そのような温度測定は煩雑となりコストが嵩むであろう。
【0049】
図5には、センサデバイス200から温度情報130を測定する方法のステップが示されており、センサデバイス200は、規定のプロトコルに従い時間的に区切られた電気パルス210によりセンサ情報を受信機に伝送するように構成されており、その際に受信機は、電気パルスのパルス持続時間215とセンサデバイス200内の熱作用との関係について基準データ120を有する。この方法の第1の特徴的なステップは、電気パルス210のうちの少なくとも1つにおけるパルス持続時間215を測定するステップS10である。この測定ステップS10は、有利には受信機において行われる。この方法の第2の特徴的なステップは、少なくとも測定されたパルス持続時間215と基準データ120とから温度情報130を求めるステップS20である。この場合、求めるステップには、さらなる補正を含めることができる。
【0050】
図6には、電気パルス210のパルス持続時間215とセンサデバイス200内の熱作用との関係について、センサデバイス200のための基準データを生成する方法のステップが示されており、センサデバイス200は、電流の時間的に区切られた電気パルス210によりセンサ情報を受信機に伝送するように構成されており、さらにこのセンサデバイス200は、製造プロセス中にプラスチックによってオーバーモールドされ、その際に加熱され、次いで冷却される。センサデバイス200は製造プロセス中、準備された受信機と接続された状態にされ、この受信機は、センサ情報を受信し、パルス持続時間215を測定するように構成されている。特徴的なステップはこの場合には最初に、プラスチックによるオーバーモールドの一環としての加熱およびこれに続く冷却の間、センサデバイス200内の少なくとも1つの温度を継続的に測定すると同時に、センサデバイス200から受信機にセンサ情報を繰り返し伝送するステップS50を含む。得られたデータを用いて次のステップとして、センサ情報を伝送し、センサデバイス200内の温度を測定するステップS50に基づき、パルス持続時間215とセンサデバイス200内の熱作用との関係を測定するステップS60もしくは求めるステップが行われる。最後に、測定ステップS60の少なくとも1つの結果から、基準データ120を求めるステップS70が行われる。
【0051】
センサ情報を伝送し、センサデバイス200内の温度を測定するステップS50において、情報の内容は少なくとも必ずしも重要ではない。基準データ120を、センタタイプについてのパルス幅215と温度との関係のたとえば特性線に関する基本データとすることができ、かつ/またはセンサ特有のデータとすることができる。
【0052】
明細書、特許請求の範囲および図面に開示されている本発明の特徴は、単独でも任意の組み合わせでも、本発明を実現するために重要なものとなり得る。
【符号の説明】
【0053】
30 測定結果
60 計算された線形化直線
70 警告閾値
100 温度情報を求める装置
110 データ処理ユニット
120 基準データ
123 特性線
127 補正データ
130 温度情報
200 センサデバイス
210 電気パルス
211 速度パルス
215 パルス持続時間
217 基本電流
218 低い電流
219 高い電流
310 車輪軸
320 車輪軸受ユニット
325 車輪軸受
330 磁極ホイール
335 磁極ホイール開口部
S10 パルス持続時間を測定するステップ
S20 温度情報を求めるステップ
S50 センサ情報を伝送し、センサデバイス内の温度を測定するステップ
S60 温度とパルス幅との関係を測定するステップ
S70 基準データを求めるステップ