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特許7459298細胞透過性核酸複合体を有効成分として含有する黄斑変性の予防又は治療用組成物
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  • 特許-細胞透過性核酸複合体を有効成分として含有する黄斑変性の予防又は治療用組成物 図1
  • 特許-細胞透過性核酸複合体を有効成分として含有する黄斑変性の予防又は治療用組成物 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】細胞透過性核酸複合体を有効成分として含有する黄斑変性の予防又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/64 20170101AFI20240325BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240325BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20240325BHJP
   A61K 47/56 20170101ALI20240325BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240325BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20240325BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20240325BHJP
【FI】
A61K47/64
A61K31/713
A61K48/00
A61P27/02
A61K47/69
A61K47/56
C12N15/113 Z ZNA
C07K7/08
C07K7/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022567023
(86)(22)【出願日】2021-01-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 KR2021000102
(87)【国際公開番号】W WO2021141368
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】10-2020-0001256
(32)【優先日】2020-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0000730
(32)【優先日】2021-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519045000
【氏名又は名称】シーサン・セラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】イ ドンイン
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒェジュ
(72)【発明者】
【氏名】ユ ジヨン
(72)【発明者】
【氏名】カン ユソン
(72)【発明者】
【氏名】パク ヒギョン
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/156365(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/074884(WO,A1)
【文献】特表2014-528700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
Registry/CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4の配列で表示される配列を含む生理活性核酸(Bioactive Nucleic Acid)と、配列番号7~11からなる群から選ばれるいずれか一つの配列で表示される配列を含むキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した細胞透過性核酸複合体を、有効成分として含有する、黄斑変性の予防、改善又は治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記生理活性核酸又はキャリアペプチド核酸は、それぞれの核酸の5’末端又は3’-末端にエンドソーム脱出を助ける物質がさらに結合していることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記エンドソーム脱出を助ける物質は、ペプチド、脂質ナノ物質(lipid nanoparticles)、接合体ナノ物質(polyplex nanoparticles)、高分子ナノ球(polymer nanospheres)、無機物ナノ物質(inorganic nanoparticles)、陽イオン脂質ナノ物質(cationic lipid-based nanoparticles)、陽イオン高分子(cationic polymer)及びpH感応高分子(pH sensitive polymers)からなる群から選ばれるいずれか一つ以上であることを特徴とする、請求項に記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記ペプチドは、GLFDIIKKIAESF(配列番号12)又はヒスチジン(10)であることを特徴とする、請求項に記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記生理活性核酸は、全体的に陰電荷又は中性を有することを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項6】
前記キャリアペプチド核酸は、全体的に陽電荷を有することを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項7】
前記核酸複合体は、全体的に陽電荷を有することを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞透過性核酸複合体を有効成分として含有する黄斑変性の予防又は治療用組成物に関し、より詳細には、NLRP3遺伝子を標的する生理活性核酸とキャリアペプチド核酸とが相補的に結合した細胞透過性核酸複合体を含有する黄斑変性の予防、改善又は治療用薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障、糖尿病性網膜病症と共に3代失明疾患とされる黄斑変性は、大きく、湿性黄斑変性と乾性(非滲出性)黄斑変性とに分類される。網膜中心部に位置する神経組織である黄斑は、視力に重要な働きをする部位であり、特に、乾性黄斑変性は、加齢によりドルーゼ(drusen)が蓄積して網膜及び脈絡膜の萎縮が発生する疾患であり、視力には影響を与えないが、湿性黄斑変性に進行することがあり、注意が必要な疾患である。一般に加齢による老人性疾患とされているが、最近では青壮年層でも発病が増加しつつあり、2011~2015年の黄斑変性患者は5年間で49%程度増加した(健康保険審査評価院)。黄斑変性の主要原因は老化であり、その次に遺伝的な要因があり、環境的要因としては紫外線、喫煙、高脂肪・高熱量の西欧化した食生活などが挙げられている。
【0003】
一般の乾性(非滲出性)黄斑変性の治療方法としては、黄斑変性の進行を減少させるものと知られた抗酸化ビタミン剤を服用し、黄斑変性の危険因子である高血圧、高脂血症などの治療と喫煙及び紫外線遮断のような生活治療が並行されている。乾性(非滲出性)黄斑変性から湿性黄斑変性に進行される場合には、視力保存のための積極的な治療が必要である。変性が起きた部位の境界が明確に分かる場合には熱レーザー光凝固術を施し、光力学治療、抗体注射、硝子体切除術などを施すが、まだ完全な治療法はなく、それに関する活発な研究が進行中である。
【0004】
乾性(非滲出性)黄斑変性から湿性黄斑変性に進行される場合の治療は、一般に熱レーザー凝固術を施して長期的な視力低下を予防するが、レーザー治療後に直ちに網膜が損傷し、視力が低下する問題点がある。そこで、かかる問題点を補完するために薬物とレーザーを併用する光力学治療(Photodynamic therapy,PDT)が開発され、新生血管性病変を安定化させることに役立っているものの、治療の適応に限界があり、治療薬が高価であり、再治療を要する場合が多いという欠点がある。
【0005】
最近では、抗血管内皮成長因子抗体(Anti-VEGF antibody)を眼内に注射する方法が主に用いられている。代表的な薬物には、アフリベルセプト(アイリーア)、ラニビズマブ(ルセンティス)、ベバシズマブ(アバスチン)がある。前述の治療に比べて多数の患者において視力維持が可能であり、一部の患者では視力の好転が可能であると報告されている。しかしながら、4週~8週の単位で反復して注射しなければならないため不便であり、高価であるという欠点がある。
【0006】
一方、NLRP3は、炎症反応に関与するタンパク質であり、IL-1β、IL-18発現に主要な役割を担う。NLRP3(NOD-like receptor family,pyrin domain-containing 3)は、カスパーゼ-1(caspase-1)活性化複合タンパク質複合体であるインフラマソーム(Inflammasome)を構成する。前記インフラマソームは、感覚タンパク質(sensor protein)であるNLRP3(NOD-like receptor family,pyrin domain-containing 3);連結タンパク質(adaptor protein)であるASC(adaptor protein apoptosis-associated spec-like protein containing a caspase-recruitment domain);及び、エフェクタータンパク質であるプロ-カスパーゼ-1(pro-caspase-1)で構成されるものと知られており、組立によって活性化したインフラマソームは、カスパーゼ-1を活性化させてIL-1_又はIL-18を分泌し、炎症反応を誘発する。NLRP3インフラマソーム活性化と網膜疾患(乾性、湿性の加齢黄斑変性)との連関性は、従来の様々な文献に報告されている(Lucia Celkova,et al.,NLRP3 Inflammasome and Pathobiology in AMD,J Clin Med.2015 Jan;4(1):172-192)。また、乾性(非滲出性)黄斑変性は過量のドルーゼが存在するという特徴があり、Sarah Doyle及びMatthew Campbellは、黄斑に蓄積したドルーゼが炎症反応によってIL-18、IL-1βの生成につながることがあり、IL-18などによって乾性黄斑変性から湿性黄斑変性に進行することもあると報告したことがある。また、NLRP3は、AluRNAの蓄積、Dicer-1の損失と関連しており、また、NLRP3インフラマソームと共にカスパーゼ-1の活性化によって網膜色素上皮萎縮(retinal pigment epithelial degeneration)を起こし、これはin vivo上で地図状萎縮に非常に類似する様相を示すと報告されたことがある(Valeria Tarallo et al.,Cell 2012 May 11;149(4):847-59)。
【0007】
一方、伝統的な薬剤と違い、核酸薬剤は、標的特異的伝令RNA(messenger RNA,mRNA)の発現を抑制するので、タンパク質を標的とする既存薬剤では治療不可能だった研究領域を扱うことが可能になった(Kole R.et al.,Nature Rev.Drug Discov.2012;11;125-140.,Wilson C.et al.,Curr.Opin.Chem.Bio.2006;10:607-614.)。薬剤としての性能及び長所から、核酸を用いた様々な臨床試験が行われており、増加しつつある核酸ベース治療剤の用途にもかかわらず、細胞内導入のための運搬体の使用は極めて制限的である。例えば、ナノ粒子(nanoparticle)、陽性リポソーム(cationic liposome)及びポリマーナノ粒子(polymeric nanoparticle)を使用するオリゴ核酸に基づく薬剤の細胞又は組織内への運搬戦略(方法)を用いた臨床試験が行われているが、大多数の場合、運搬システムを含んでおらず、非経口的な方法である筋肉注射、眼球(ocular)投与、皮下注射などの投与経路(administration route)による核酸の直接導入が主に行われている。
【0008】
また、オリゴ核酸自体の細胞膜透過能力は非常に低く、特に、DNA又はRNAは陰電荷を帯びているため、細胞の疎水性リン脂質二重膜を通過できず、単純拡散による細胞内伝達が難しい。レトロウイルス(Retrovirus)或いはAAV(adeno-associated virus)などのウイルス運搬体の使用は、オリゴ核酸の細胞内導入を可能にするが、意図しない免疫活性と発癌遺伝子(oncogene)の組換え可能性などといった危険性がある(Couto L.B.et al,.Curr.Opin.Pharmacol.2010,5;534-542.)。
【0009】
このような理由から、細胞毒性が少なく、免疫活性が低い非ウイルス性オリゴ核酸に基づく核酸運搬体の開発の重要性がさらに大きくなっており、その結果として、陽電荷性脂質(cationic lipid)、リポソーム(liposome)、安定した核酸脂質粒子(stable nucleic acid lipid particle,SNALP)、ポリマー及び細胞-透過粒子(cell-penetrating peptide)を用いた細胞導入手法が開発されている(Zhi D.et al,.Bioconjug.Chem.2013,24;487-519.,Buyens K.et al,.J.Control Release,2012,158;362-70.,ROSSI,J.J.et al,.Gene Ther.2006,13:583-584.,Yousefi A.et al,.J.Control Release,2013,170;209-18.,Trabulo S.et al,.Curr.Pharm.Des.2013,19;2895-923.)。
【0010】
このような核酸伝達手法は、機能性残基を直接の結合によって有しており、複合体形成のための段階を含み、リポソーム(liposome)構造のエンドソーム脱出(endosome escape)効率及び生体毒性などの問題点を抱えているため、オリゴ核酸導入機能の向上と、製造手順及び副作用に関連した問題点の解消が必要である。
【0011】
これと関連して、本発明者らは、生理活性核酸と全体的に陽電荷を有するように修飾されたキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体の細胞透過性(cell permeability)が驚くべきほど向上し、これを用いて標的遺伝子の発現を非常に効率的に調節できることを確認し、このような細胞毒性が低く、生理活性核酸の細胞透過性及び遺伝子発現調節能力が向上した新しい構造体に対する特許登録を受けたことがある(大韓民国特許第10-1963885号)。
【0012】
前記構造体及び治療用薬物などの細胞伝達機能の向上に関する研究を持続して行った結果、本発明者らは、生理活性核酸(Bioactive Nucleic Acid)と全体的に陽電荷を有するように修飾されたキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体が皮膚及び細胞を非常に効率的に通過する特性を有しており、このような核酸複合体が細胞透過性に優れていることを確認した。
【0013】
そこで、本発明者らは、眼球細胞透過性を向上させ、直接の注射投与無しで、眼球点眼液投与のような簡単な方法で黄斑変性を効果的に治療できる核酸複合体を開発するために鋭意努力した結果、NLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸とキャリアペプチド核酸とが相補的に結合した細胞透過性核酸複合体が黄斑変性の予防又は治療に優れた効果を示すことを究明し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、細胞透過性が高く、黄斑変性の予防又は治療効果に優れた核酸複合体を有効成分として含有する黄斑変性の予防、改善又は治療用薬学組成物を提供することにある。
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明は、NLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸(Bioactive Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した細胞透過性核酸複合体を有効成分として含有する、黄斑変性の予防、改善又は治療用薬学組成物を提供する。
【0016】
本発明は、また、前記細胞透過性核酸複合体を投与する段階を含む、黄斑変性の予防又は治療方法を提供する。
【0017】
本発明は、また、前記細胞透過性核酸複合体を黄斑変性の予防又は治療に使用する用途を提供する。
【0018】
本発明は、また、黄斑変性の予防又は治療用薬剤の製造のための前記細胞透過性核酸複合体の用途を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】核酸複合体の投与後、時間(24時間、48時間、72時間、96時間及び120時間)によるNLRP3及び下位段階の遺伝子発現変化を確認したウェスタンブロット分析結果である。各レーンの複合体(1、2、3、4、5)は表4に示されている。
図2A】表5の核酸複合体を乾性ヒト由来網膜色素上皮細胞株に処理した後、時間(1日、3日及び5日)によるNLRP3の発現変化を確認した免疫細胞化学染色法で分析した結果である。
図2B】表5の核酸複合体を乾性ヒト由来網膜色素上皮細胞株に処理した後、時間(1日、3日及び5日)による下位段階遺伝子(Caspase-1)の発現変化を確認した免疫細胞化学染色法で分析した結果である。
図3】黄斑変性が誘導されたマウスにおいて、表6の核酸複合体を含有する眼球点眼液を投与した後、2週後に光学顕微鏡で観察した網膜組織写真である。核酸複合体処理群において網膜色素上皮細胞の損傷が抑制され、外顆粒層と内顆粒層の崩壊現象が緩和されている。
図4】黄斑変性が誘導されたマウスにおいて、表6の核酸複合体を含有する眼球点眼液を投与した後、4週後に光学顕微鏡で観察した網膜組織写真、及び眼底撮影によって確認したドルーゼの蓄積と脈絡膜萎縮部位をimage Jで数値化したグラフである。
図5A】黄斑変性が誘導されたマウスにおいて、表7の核酸複合体を含有する眼球点眼液を投与した後、2週後に光学顕微鏡で観察した網膜組織写真である。
図5B】黄斑変性が誘導されたマウスにおいて、表7の核酸複合体を含有する眼球点眼液を投与した後、2週後に確認した網膜切片写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
特に断らない限り、本明細書で使われる技術的及び科学的用語はいずれも、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書に使われている命名法及び以下に記述する実験方法は、本技術分野でよく知られており、通常使われるものである。
【0021】
黄斑変性は依然として失明原因1位とされており、これは健康な老年の生活を脅かしている。乾性黄斑変性は、ドルーゼの存在有無、ドルーゼのサイズ及び個数、そして地図状萎縮の存在有無と侵犯範囲によって初期、中期、後期の黄斑変性に区分する。乾性黄斑変性患者の約10%は湿性黄斑変性に進行されると知られており、最終的には失明につながることがあるため、乾性黄斑変性治療剤の開発が非常に重要である。現在は、乾性黄夜変性が発病した場合に、抗酸化ビタミン剤の服用、黄斑変性の危険因子である高血圧、高脂血症などの治療、及び喫煙及び紫外線遮断のような生活治療のように、疾患の治療よりは現状維持及び湿式黄斑変性などへの進行を抑制することに重点を置いており、効果的な治療剤は皆無な実情である。
【0022】
本発明では、NLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸とキャリアペプチド核酸とが相補的に結合した細胞透過性核酸複合体を黄斑変性の予防及び治療に活用できることを確認した。
【0023】
本発明の一実施例において、本発明者らの大韓民国登録特許第10-1963885号に基づき、NLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸とキャリアペプチド核酸とが相補的に結合した細胞透過性核酸複合体をヒト網膜色素上皮細胞に処理した場合に、効果的にNLRP3及び下位段階遺伝子の発現が抑制されることを確認し、また、本発明の他の実施例において、前記核酸複合体を眼球に投与したマウスにおいて網膜色素上皮細胞の損傷が抑制される他、外顆粒層と内顆粒層の崩壊現象も緩和されることを確認した。
【0024】
したがって、本発明は、一観点において、NLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸(Bioactive Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した細胞透過性核酸複合体を有効成分として含有する、黄斑変性の予防、改善又は治療用薬学組成物に関する。
【0025】
本発明において、生理活性核酸とキャリアペプチドとが相補的に結合した核酸複合体は、下記構造式(1)の構造を有することを特徴とし得る。
【0026】
構造式(1)
[A≡C(+)]
【0027】
前記構造式(1)において、
Aは、目的とする遺伝子と結合可能な配列を有する生理活性核酸(Bioactive Nucleic Acid)であり、
Cは、生理活性核酸と結合可能なキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)であり、
‘≡’は、生理活性核酸とキャリアペプチド核酸との相補的な結合を意味し、
Aで表示される生理活性核酸は、全体的に陰電荷又は中性を有し、
C(+)は、キャリアペプチド核酸が全体的に陽電荷を有するということを意味し、
キャリアペプチド核酸は、キャリアペプチド核酸が全体的に陽電荷を帯びるように修飾されたペプチド核酸単量体を一つ以上含む。
【0028】
本発明に係る核酸複合体における生理活性核酸とキャリアペプチド核酸は、逆平行結合(anti-parallel binding)又は平行結合(parallel binding)形態を有することができる。本発明において、前記核酸の相補的な結合形態は、生理活性核酸の目的配列(生理活性核酸と相補的な配列)存在下で分離されてよい。
【0029】
本発明において、前記キャリアペプチド核酸は、キャリアペプチド核酸が全体的に陽電荷を帯びるように1個以上のガンマ-又はアルファ-バックボーン修飾ペプチド核酸単量体を一つ以上含むことが好ましく、前記ガンマ-又はアルファ-バックボーン修飾ペプチド核酸単量体は、陽電荷を有するアミノ酸を有する単量体が、陰電荷を有するアミノ酸を有する単量体に比べてより多く含まれ、全体的なキャリアペプチド核酸の電荷が陽性となるようにすることがより好ましい。
【0030】
本発明において、“生理活性核酸”は、生体外(in vitro)又は生体内(in vivo)で標的遺伝子、及びこれを含む塩基配列と結合して当該遺伝子の固有機能(例えば、転写体(transcript)発現又はタンパク質発現)を活性化又は阻害させ、pre-mRNAのスプライシング(splicing)を調節(例えば、エクソンスキッピング(exon skipping)するなどの機能を果たし、前記塩基配列は遺伝子調節部位(gene regulatory sequence)又は遺伝子部位(gene coding sequence)又はスプライシング調節部位(splicing regulatory sequence)であることを特徴とし得る。好ましくは、前記生理活性核酸は、発現を減少させようとする目的とする標的遺伝子と結合可能な相補的な配列、特に、このような目的とする標的遺伝子のmRNAに結合可能な相補的な配列を有する核酸であって、当該遺伝子の発現を抑制するなどの遺伝子発現調節に関与する核酸を意味し、発現を減少させようとする標的遺伝子に相補的な配列を有する核酸であってよい。
【0031】
したがって、本発明における“生理活性核酸(Bioactive Nucleic Acid)”は、黄斑変性の関連標的遺伝子であるNLRP3(NOD-like receptor family,pyrin domain-containing 3)遺伝子のアンチセンスペプチド核酸であることが好ましく、より好ましくは、下記表1の配列番号4の配列を含むことができるが、それに限定されるものではない。
【0032】
【表1】
【0033】
前記生理活性核酸は、DNA、RNA、又は修飾された核酸であるPNA(peptide nucleic acid)、PMO(phosphorodiamidate morpholino oligonucleotide)、LNA(locked nucleic acid)、GNA(glycol nucleic acid)及びTNA(threose nucleic acid)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotide)、アプタマー(aptamer)、siRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、リボザイム(ribozyme)及びDNAzymeからなる群から選ばれてよく、好ましくは、前記生理活性核酸は、DNA、RNA、又は修飾された核酸であるPNA(peptide nucleic acid)、PMO(phosphorodiamidate morpholino oligonucleotide)、LNA(locked nucleic acid)、GNA(glycol nucleic acid)及びTNA(threose nucleic acid)からなる群から選ばれてよい。
【0034】
本発明において、“キャリアペプチド核酸”は、生理活性核酸と一部或いは全部の塩基が相補的に結合して機能性を付与する核酸を意味し、本発明で使用されるキャリアペプチド核酸は、ペプチド核酸(PNA:Peptide Nucleic Acid)の他に、これと類似の修飾された核酸も使用することができ、ペプチド核酸が好ましいが、それに限定される意味ではない。
【0035】
特に、本発明において、前記キャリアペプチド核酸は、下記表2の配列番号5~11からなる群から選ばれる配列で表示されることが好ましいが、それに限定されるものではない。
【0036】
【表2】
【0037】
本発明において、前記生理活性核酸とキャリアペプチド核酸は、ホスホジエステル(phosphodiester)、2’0-メチル(2’0-methyl)、2’メトキシ-エチル(2’ methoxy-ethyl)、ホスホロアミダート(phosphoramidate)、メチルホスホネート(methylphosphonate)及びホスホロチオエート(phosphorothioate)からなる群から選ばれる一つ以上の官能基をさらに含むことを特徴とし得る。
【0038】
本発明において、“細胞透過性核酸複合体”は、細胞外処理を用いて生理活性物質を体内、究極として細胞内に浸透させることができ、具体的に、細胞内にNLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸を伝達できる能力を有する。
【0039】
本発明に係る細胞透過性核酸複合体における正味の電荷量(net charge)及び/又は核酸複合体における生理活性核酸及び/又はキャリアペプチド核酸の個数などによって眼球に残留するか、細胞を通過して体内に伝達されてよい。
【0040】
これにより、本発明において、前記核酸複合体は眼球残留性を有することを特徴とし得る。
【0041】
特に、本発明に係る“細胞透過性核酸複合体”は、細胞内への直接投与の他にも、眼球上点眼、網膜内投与、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与又は経皮投与などによって目的とする細胞内、本発明では眼球細胞内に伝達され得る特性を有し、前記核酸複合体を含有するいかなる形態も利用可能である。
【0042】
本発明において、前記細胞透過性核酸複合体は、配列番号2で表示される生理活性核酸;及び配列番号3~7からなる群から選ばれるいずれか一つの配列で表示されるキャリアペプチド核酸を含むことが好ましいが、それに限定されるものではない。
【0043】
また、前記NLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸との結合力(融解温度、melting temperature,Tm)は、生理活性核酸と生理活性核酸の標的であるNLRP3遺伝子との結合力よりも低いことを特徴とし得る。
【0044】
前記結合力は、生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸はそれぞれの核酸の5’-方向性及び3’-方向性によって平行結合(Parallel binding)又は部分特異結合(Partial specific binding)することにより、生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸の結合力(融解温度、melting temperature,Tm)を生理活性核酸と生理活性核酸の目的とする遺伝子との結合力よりも低くすることができる。
【0045】
本発明において、生理活性核酸又はキャリアペプチド核酸は、それぞれの核酸の5’末端又は3’末端にエンドソーム脱出を助ける物質がさらに結合したことを特徴とし得る。すなわち、生理活性核酸とキャリアペプチド核酸のエンドソーム脱出(endosome escape)を助ける物質をさらに含み、下記構造式(2)の構造を有することを特徴とし得る。
【0046】
[構造式(2)]
[mA≡mC(+)]
【0047】
前記構造式(2)において、
‘m’は、生理活性核酸とキャリアペプチド核酸のエンドソーム脱出(endosome escape)を助ける物質を意味する。
【0048】
本発明において、“エンドソーム脱出を助ける物質”は、エンドソーム内部の浸透圧を増加させる、又はエンドソームの膜を不安定化させる方法により、生理活性核酸のエンドソームからの脱出を助けることを特徴とし得る。生理活性核酸がより効率的且つ迅速に核や細胞質に移動し、標的遺伝子に出会って作用するように助けることを意味する(D.W.Pack,A.S.Hoffman,S.Pun,P.S.Stayton,“Design and development of polymers for gene delivery”,Nat.Rev.Drug.Discov.,4,581-593(2005))。
【0049】
本発明において、前記エンドソーム脱出を助ける物質は、ペプチド、脂質ナノ物質(lipid nanoparticles)、接合体ナノ物質(polyplex nanoparticles)、高分子ナノ球(polymer nanospheres)、無機物ナノ物質(inorganic nanoparticles)、陽イオン脂質ナノ物質(cationic lipid-based nanoparticles)、陽イオン高分子(cationic polymer)及びpH感応高分子(pH sensitive polymers)からなる群から選ばれるいずれか一つ以上であることを特徴とし得る。
【0050】
本発明において、前記エンドソーム脱出を助ける物質として、生理活性核酸には、ペプチド(GLFDIIKKIAESF、配列番号12)がリンカー媒介で連結されてよく、キャリアペプチド核酸には、ヒスチジン(10)(Histidin(10))がリンカー媒介連結方法で結合することを特徴とし得るが、それに制限されるものではない。
【0051】
本発明において、前記脂質ナノ物質(lipid nanoparticles)は、脂質(Lipid)、リン脂質(phospholipids)、パルミチン酸アセチル(acetyl palmitate)、poloxamer 18、Tween 85、トリステアリングリセリド(tristearin glyceride)及びTween 80からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0052】
本発明において、前記接合体ナノ物質(polyplex nanoparticles)は、ポリ(アミドアミン)(poly(amidoamine))又はポリエチレンイミン(polyethylenimine,PEI)であることを特徴とし得る。
【0053】
本発明において、前記高分子ナノ球(polymer nanospheres)は、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)、 ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(poly(lactide-co-glycolide))、ポリラクチド(polylactide)、ポリグリコリド(polyglycolide)、ポリ(d,l-ラクチド)(poly(d,l-lactide))、キトサン(chitosan)及びPLGA-ポリエチレングリコール(PLGA-polyethylene glycol))からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0054】
本発明において、前記無機物ナノ物質(inorganic nanoparticles)は、FeFe、WO及びWO2.9からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0055】
本発明において、前記陽イオン脂質ナノ物質(cationic lipid-based nanoparticles)は、1-(アミノエチル)イミノビス[N-(オレイックイルシステイニル-1-アミノ-エチル)プロピオンアミド](1-(aminoethyl)iminobis[N-(oleicylcysteinyl-1-amino-ethyl)propionamide])、PTAのN-アルキル化誘導体(N-alkylatedderivativeofPTA)、及び3,5-ジドデシルオキシベンズアミジン(3,5-didodecyloxybenzamidine)からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0056】
本発明において、前記陽イオン高分子(cationic polymer)は、ビニルピロリドン-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩(vinylpyrrolidone-N,N-dimethylaminoethyl methacrylate acid copolymer diethyl sulphate)、ポリイソブチレン(polyisobutylene)及びポリ(N-ビニルカルバゾール)(poly(N-vinylcarbazole))から構成される群から選ばれることを特徴とし得る。
【0057】
本発明において、前記pH感応性高分子(pH sensitive polymers)は、ポリ酸(polyacids)、ポリ(アクリル酸)(poly(acrylic acid))、ポリ(メタクリル酸)(poly(methacrylic acid))、及び加水分解されたポリアクリルアミド(hydrolyzed polyacrylamide)からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0058】
本発明において、前記生理活性核酸とキャリアペプチド核酸はそれぞれ2~50個、好ましくは5~30個、より好ましくは10~25個、最も好ましくは15~17個の核酸単量体を含むことを特徴とし得る。
【0059】
前記生理活性核酸は、天然(natural)核酸塩基及び/又は修飾された核酸単量体からなっていることを特徴とし得る。
【0060】
本発明において、前記生理活性核酸に使用された単量体がPNAである場合に、生理活性核酸といい、他の単量体が使用された場合にも同じ方式で呼ぶ。
【0061】
本発明において、前記生理活性核酸とキャリアペプチド核酸は、ホスホジエステル(phosphodiester)、2’0-メチル(2’0-methyl)、2’メトキシ-エチル(2’ methoxy-ethyl)、ホスホルアミデート(phosphoramidate)、メチルホスホネート(methylphosphonate)及びホスホロチオエート(phosphorothioate)からなる群から選ばれるいずれか一つ以上の官能基をさらに含むことを特徴とし得る。
【0062】
本発明において、前記キャリアペプチド核酸は、前記生理活性核酸と塩基配列の一部或いは全部が相補的な配列で構成されることを特徴とし得る。特に、キャリアペプチド核酸は、ユニバーザル塩基(universal base)を一つ以上含むことができ、キャリアペプチド核酸の全てがユニバーザル塩基からなってもよい。
【0063】
本発明において、前記細胞透過性核酸複合体内の前記生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸のそれぞれは、電気的特性が全体的に、陽電荷(陽性)、陰電荷(陰性)又は中性電荷を有することを特徴とする複合体であってよい。
【0064】
前記電気的特性の表現において、“全体的に”との意味は、個別塩基の電気的特性ではなく全体的な生理活性核酸又はキャリアペプチド核酸のそれぞれの電荷が外部から見て全体的な電気的特性であることを意味し、例えば、生理活性核酸内の一部の単量体が陽性を有しても、陰性を有する単量体の個数が相対的に多く存在する場合には、生理活性核酸は“全体的に”電気的特性からして陰電荷を有するものであり、キャリアペプチド核酸内の一部の塩基及び/又はバックボーン(backbone)が陰性を有しても、陽性を有する塩基及び/又はバックボーンの個数が相対的に多く存在する場合には、キャリアペプチド核酸は“全体的に”電気的特性からして陽電荷を有するものである。
【0065】
このような観点から、本発明の核酸複合体は、全体的に陽電荷を有することが好ましい。前記核酸複合体において、好ましくは、前記生理活性核酸は全体的に電気的特性からして陰電荷又は中性の特性を有し、前記キャリアペプチド核酸は全体的に電気的特性からして陽電荷特性を有することを特徴とし得るが、それに制限されるものではない。
【0066】
本発明において、前記生理活性核酸とキャリアペプチド核酸の電気的特性の付与は、修飾されたペプチド核酸単量体を使用することができ、修飾されたペプチド核酸単量体は、陽電荷を有するキャリアペプチド核酸として、リジン(Lysine,Lys,K)、アルギニン(Arginine,Arg,R)、ヒスチジン(Histidine,His,H)、ジアミノ酪酸(Diamino butyric acid,DAB)、オルニチン(Ornithine,Orn)及びアミノ酸類似体からなる群から選ばれるいずれか一つ以上の陽電荷のアミノ酸を含み、陰電荷を有するキャリアペプチド核酸として、陰電荷のアミノ酸であるグルタミン酸(Glutamic acid,Glu,E)又はアミノ酸類似体の陰電荷のアミノ酸を含むことを特徴とし得る。
【0067】
本発明において、前記キャリアペプチド核酸は、全体的に陽電荷を有するように、1個以上のガンマ-又はアルファ-バックボーン修飾ペプチド核酸単量体を含むことを特徴とし得る。
【0068】
前記ガンマ-或いはアルファ-バックボーン修飾ペプチド核酸単量体は、電気的陽性を有するように、リジン(Lysine,Lys,K)、アルギニン(Arginine,Arg,R)、ヒスチジン(Histidine,His,H)、ジアミノ酪酸(Diamino butyric acid,DAB)、オルニチン(Ornithine,Orn)及びアミノ酸類似体からなる群から選ばれるいずれか一つ以上の陽電荷を有するアミノ酸をバックボーンに含むことを特徴とし得る。
【0069】
本発明において、電荷付与のためのペプチド核酸単量体の修飾は、前記バックボーン修飾の他にも、ヌクレオ塩基(nucleobase)が修飾されたペプチド核酸単量体を使用することができる。好ましくは、電気的陽性を有するようにアミン、トリアゾール、イミダゾール残基をヌクレオ塩基に含む、或いは電気的陰性を有するようにカルボン酸を塩基に含むことを特徴とし得る。
【0070】
本発明において、前記キャリアペプチド核酸の修飾ペプチド核酸単量体は、陰電荷をバックボーン或いはヌクレオ塩基にさらに含んでもよいが、修飾ペプチド核酸単量体は、陽電荷を有する単量体が陰電荷を有する単量体に比べて多く含まれ、全体的にキャリアペプチド核酸の電荷が陽性になることが好ましい。
【0071】
好ましくは、本発明に係る前記核酸複合体は、全体的に陽の電荷を有することを特徴とする。
【0072】
本発明に係る前記核酸複合体において、疎水性残基(hydrophobic moiety)、親水性残基(hydrophilic moiety)、標的抗原特異的抗体、アプタマー又は蛍光/発光標識子などからなる群から選ばれる一つ以上の物質が生理活性核酸及び/又はキャリアペプチド核酸に結合していることを特徴とし、好ましくは、前記疎水性残基(hydrophobic moiety)、親水性残基(hydrophilic moiety)、標的抗原特異的抗体、アプタマー及びイメージングのための蛍光/発光標識子などからなる群から選ばれる一つ以上の物質は、前記キャリアペプチド核酸に結合したものであり得る。
【0073】
本発明において前記疎水性残基(hydrophobic moiety)、親水性残基(hydrophilic moiety)、標的抗原特異的抗体、アプタマー、消光子、蛍光標識子及び発光標識子からなる群から選ばれる一つ以上の物質と生理活性核酸及び/又はキャリアペプチド核酸の結合は、単純共有結合又はリンカー媒介の共有結合であることを特徴とし得るが、それに限定されるものではない。好ましくは、前記核酸運搬体に結合した細胞透過、溶解度、安定性、運搬及びイメージング関連物質(例えば、疎水性残基など)は、標的遺伝子の発現を調節する生理活性核酸と独立して存在する。
【0074】
本発明において、先に述べたように、前記生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸の相補的な結合形態は、大きく、逆平行結合(antiparallel binding)と平行結合(parallel binding)の形態を有することを特徴とし得る。前記相補的な結合形態は、生理活性核酸の目的配列(生理活性核酸と相補的な配列)の存在下で分離される構造を有する。
【0075】
前記逆平行結合と平行結合は、DNA-DNA又はDNA-PNAの結合方式において、5’-方向性と3’-方向性によって決定される。逆平行結合は、一般のDNA-DNA又はDNA-PNAの結合方式であり、本発明に係る核酸複合体を取り上げて説明すると、生理活性核酸は5’から3’方向に、キャリアペプチド核酸は3’から5’方向に互いに結合する形態を意味する。平行結合は、逆平行結合に比べては結合力が多少劣る形態であり、生理活性核酸とキャリアペプチド核酸の両方とも5’から3’方向に又は3’から5’方向に互いに結合する形態を意味する。
【0076】
本発明に係る核酸複合体において、好ましくは、前記生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸の結合力は、生理活性核酸と生理活性核酸の目的する遺伝子、特に目的遺伝子のmRNAとの結合力よりも低いことを特徴とし得る。前記結合力は、融解温度、melting temperature又はTmによって決定される。
【0077】
前記生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸の結合力(融解温度、melting temperature、Tm)を生理活性核酸と生理活性核酸の目的する遺伝子、特に目的遺伝子のmRNAとの結合力よりも低くするための具体的な方法は、例えば、前記生理活性核酸とキャリアペプチド核酸とが平行結合(Parallel binding)又は部分特異結合(Partial specific binding)することを特徴とし得るが、それに限定されるものではない。
【0078】
他の例として、前記キャリアペプチド核酸がリンカー、ユニバーザル塩基(universal base)及び生理活性核酸の対応する塩基と相補的でない塩基を有するペプチド核酸塩基から構成された群から選ばれる一つ以上のペプチド核酸塩基を有することを特徴とし得るが、それに限定されるものではない。
【0079】
本発明において、前記ユニバーザル塩基(universal base)は、アデニン(adenine)、グアニン(guanine)、シトシン(cytosine)、チミン(thymine)、ウラシル(Uracil)などの天然塩基と選択性無しで結合し、相補的な結合力よりも低い結合力を有する塩基としてイノシンPNA(inosine PNA)、インドールPNA(indole PNA)、ニトロインドールPNA(nitroindole PNA)及び無塩基(abasic)からなる群から選ばれる一つ以上を使用でき、好ましくは、イノシンPNAを使用することを特徴とし得る。
【0080】
本発明において、前記核酸複合体の機能調節のための核酸の結合形態と電気的性質の組合せを提供し、前記核酸の結合形態と電気的性質の組合せで粒子サイズ及び作用時点を調節し、細胞透過性、溶解度及び特異度を向上させることを特徴とし得る。
【0081】
本発明において、前記生理活性核酸とキャリアペプチド核酸との結合力調節により、目的遺伝子の存在下で、生理活性核酸が目的配列と結合する時点(生理活性核酸の目的配列への置換される時点、標的特異的分離及び結合時点)などの調節が可能である。
【0082】
本発明に係る核酸複合体において、生理活性核酸の目的遺伝子への置換(strand displacement)時点、標的特異的分離及び結合(target specific release and bind)時点の調節は、複合体の非特異結合のためのキャリアペプチド核酸の非特異塩基、ユニバーザル塩基及びリンカーの有無、個数及び位置によって調節が可能であることを特徴とし得る。前記ペプチド複合体の相補的な結合の形態である平行(parallel)又は逆平行(antiparallel)形態の結合などと前記条件との組合せによって調節が可能であることを特徴とし得る。
【0083】
本発明において、前記核酸複合体の粒子は、5nm~300nm、好ましくは10nm~200nm、最も好ましくは15nm~100nmのサイズを有することを特徴とし得る。
【0084】
本発明において、前記核酸複合体の粒子サイズは、生理活性核酸とキャリアペプチド核酸の電荷バランス(charge balance)を調節することによって調節されることを特徴とし得る。具体的には、キャリアペプチド核酸の陽電荷が増加すると粒子のサイズが小さくなるが、キャリアペプチド核酸の陽電荷が一定レベルを超えると粒子のサイズが大きくなる特徴を有する。また、粒子サイズを決定する他の重要な要素として、複合体をなす生理活性核酸電荷による全般的なキャリアペプチド核酸との適切な電荷バランスによって粒子サイズが決定される。
【0085】
本発明に係るキャリアペプチド核酸の陽電荷は、1個~7個(陽電荷を有する単量体が1個~7個含まれることを意味する。)、好ましくは2個~5個、最も好ましくは2個~3個であり、生理活性核酸の電荷は、電荷バランスの正味電荷(net charge)が陰電荷0個~5個、好ましくは0個~3個である。
【0086】
本発明において、前記核酸複合体は、生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸が適切な条件で混成化されることによって製造されてよい。
【0087】
本発明の“混成化”は、相補的な一本鎖核酸が二本鎖核酸を形成することを意味する。混成化は、2本の核酸鎖間の相補性が完全な場合(perfect match)に起きるか或いは一部の不整合(mismatch)塩基が存在しても起きてよい。混成化に必要な相補性の程度は混成化条件によって変わってよく、特に、結合温度によって調節されてよい。
【0088】
本発明の“標的遺伝子”は、活性、抑制又は標識しようとする核酸配列(塩基配列)を意味し、用語“標的核酸”と相違がなく、本明細書で同じ意味で使われる。
【0089】
本発明において、標的遺伝子を含む標的核酸(塩基配列)が生体外(in vitro)又は生体内(in vivo)で前記複合体と接触(結合)すると、キャリアペプチド核酸から生理活性核酸が分離され、生物学的活性を示す。
【0090】
本発明において、前記核酸複合体を用いて予防、治療できる疾病は、前記核酸複合体内の生理活性核酸の標的遺伝子によって決定されてよい。本発明では、生理活性核酸の標的遺伝子はNLRP3であることを特徴とし得る。
【0091】
したがって、本発明において、前記核酸複合体を用いて予防、治療できる疾病は、好ましくは黄斑変性(Macular Degeneration)でよく、前記黄斑変性は、加齢黄斑変性、乾性黄斑変性及び湿性黄斑変性を含み、最も好ましくは、本発明の核酸複合体は、乾性黄斑変性(Dry Macular Degeneration)の予防、改善又は治療が可能である。
【0092】
本発明の一実施例では、乾性黄斑変性に対する予防及び治療効果を確認したが、NLRP3タンパク質に関連したカスパーゼ-1活性化複合タンパク質複合体であるインフラマソームは、乾性黄斑変性から湿性黄斑変性に進行されることに主要な役割を担うものと知られているので、本発明の治療用組成物は、湿性黄斑変性の予防、改善又は治療、特に、乾性黄斑変性から湿性黄斑変性への進行を予防するためにも使用されてよい(Alexander G.Marneros,9445-958,2013;Lucia Celkova,et.al.,Journal of Clinical Medicine 4(1)、172-192,2015;Yerramothu,P.,et al.,Eye32,491-505,2018)
【0093】
一方、本発明において、用語“治療用組成物”は、“医薬(薬剤学的、薬学的)組成物(pharmaceutical composition)”と同じ意味で使われてよく、本発明の生理活性核酸及び前記核酸と結合するキャリアペプチド核酸を含む核酸複合体を有効成分として含み、さらに、前記核酸複合体に、目的とする疾患を治療するための治療用薬物が結合した形態であってよい。
【0094】
前記薬学組成物が剤形化して投与される場合に、通常の方法によって生成された製剤の形態で投与されてよい。
【0095】
投与される製剤の形態は、例えば、点眼剤(eye drop)、眼軟膏、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、注射剤、軟膏などでよく、好ましくは、点眼液又は皮膚伝達形態の製剤であるが、それに制限されるものではない。このような製剤は、当該分野における一般の方法によって製造されてよい。眼科的局所投与形態として、点滴、スプレー又はゲル形態が可能であり、さらに他の方法として、リポソームを用いて眼に投与してもよい。また、ポンプ-カテーテル(pump-catheter)システムによって涙膜に注入されてよい。更なる具体例として、眼上のコンタクトレンズに含まれてよく、それによって運搬されるか或いはそれに付着してよい。他の具現例として、眼球表面に適用可能なスポンジ又は綿棒に含有される形態が用いられてもよく、眼球表面に適用可能な液体スプレーが用いられてもよい。
【0096】
好ましくは、本発明に係る組成物は、点眼液、水性液、ゲル、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、塗抹剤又はパッチの形態で剤形化してよい。
【0097】
最も好ましくは、水性液の形態で剤形化してよく、このとき、水性液は、蒸留水及びバッファー溶液の形態が使用されてよい。
【0098】
これらの剤形は、有効成分の他にも、薬学的に許容される、例えば、眼球又は皮膚に適用可能な形態の剤形に適した担体、賦形剤、補助剤又は希釈剤などの添加物を含有することができる。
【0099】
上記において“薬学的に許容される”とは、生理学的に許容され、ヒトに投与されるときに、一般に胃腸障害、目眩のようなアレルギー反応又はこれと類似の反応を起こさない組成物のことを指す。前記担体、賦形剤及び希釈剤の例には、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油を挙げることができる。前記薬学組成物は、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤などをさらに含むことができる。また、本発明の薬学組成物は、哺乳動物に投与された後に活性成分の迅速、持続又は遅延された放出を提供できるように当業界に公知の方法を用いて剤形化してよい。剤形は、滅菌注射溶液などの形態であってよい。
【0100】
用語“担体(carrier)”とは、細胞又は組織内への核酸複合体の付加を容易にする化合物と定義される。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、生物体の細胞又は組織内への多くの有機化合物の取り込みを容易にする通常の担体である。
【0101】
用語“希釈剤(diluent)”とは、対象化合物の生物学的活性形態を安定化させる他、化合物を溶解させる水で希釈される化合物と定義される。バッファー溶液に溶解されている塩は、当該分野で希釈剤として用いられる。一般に用いられるバッファー溶液は、リン酸塩バッファー食塩水であり、これはヒト溶液の塩状態を摸倣しているためである。バッファー塩は低い濃度で溶液のpHを制御できるので、バッファー希釈剤が化合物の生物学的活性を修飾することは稀である。
【0102】
本発明における核酸複合体を含有する物質は、ヒト患者に、それ単独で又は併用療法(combination therapy)のように他の活性成分と併用して又は適当な担体や賦形剤と共に混合された医薬組成物として投与できる。
【0103】
本発明における使用に適する医薬組成物には、活性成分がそれらの意図した目的を達成するのに有効な量で含まれている組成物が含まれる。より具体的に、治療的有効量は、治療される客体の生存を延長する、或いは疾患の症状を防止、軽減又は緩和させるのに有効な化合物の量を意味する。治療的有効量の決定は、特に、ここに提供された詳細な開示内容の側面において、通常の技術者の能力範囲内にある。
【0104】
本発明で使われる用語“予防”は、前記細胞透過性核酸複合体を含む治療用組成物の投与(又は、塗布)により疾患の発病を防ぐか、それの進行を抑制するあらゆる行為を意味する。
【0105】
本発明における用語“改善”とは、前記細胞透過性核酸複合体を含む治療用組成物の投与(又は、塗布)により疾患が治療される状態と関連したパラメータ、例えば、症状の程度を少なくとも減少させるあらゆる行為を意味する。
【0106】
また、本発明で使われる用語“治療”は、前記細胞透過性核酸複合体を含む治療用組成物の投与(又は、塗布)により疾患の症状が好転又は完治するあらゆる行為を意味する。
【0107】
本発明の核酸複合体の投与(又は塗布)において、当業界に公知の任意の核酸伝達方法が用いられてよい。これに制限されるものではないが、適切な伝達試薬は、例えば、ミラストランジットTKO脂肪親和性試薬(Mirus Transit TKO lipophilic reagent)、リポフェクチン(lipofectin)、リポフェクタミン(lipofectamine)、セルフェクチン(cellfectin)、ポリカチオン(polycations)(例えば、ポリリジン(polylysine))、アテロコラーゲン(atelocollagen)、ナノプレックス(nanoplexes)及びリポソームがある。核酸分子の伝達運搬体としてアテロコラーゲン(atelocollagen)の使用は、Minakuchi et al.Nucleic Acids Res.,32(13):e109(2004);Hanai et al.Ann NY Acad Sci.,1082:9-17(2006);及びKawata et al.Mol Cancer Ther.,7(9):2904-12(2008)に記述されている。例示的な干渉核酸伝達システムは、米国特許第8,283,461号、第8,313,772号、第8,501,930号に提供されている。
【0108】
本発明において、前記細胞透過性核酸複合体は、リポソーム(liposome)などの伝達体を用いて投与(又は、塗布)してもよい。前記リポソームは、リンパ組織のような特定組織に対して前記複合体を標的化するか、感染細胞に対して選択的に標的化することを助けることができ、また、前記複合体が含まれた組成物の半減期を増加させることに役立ち得る。リポソームとしては、エマルジョン、フォーム(foam)、ミセル(micelle)、不溶性単層、液晶、リン脂質分散物、ラメラ層(lamellar layer)などがある。このような製剤において、送達される前記複合体は、単独で、又は特定細胞を対象に、CD45抗原に結合するモノクローナル抗体のようなリンパ細胞のうち優勢な受容体に結合する分子と共に或いはその他治療組成物と共に、リポソームの一部として混入させる。したがって、本発明の所定の複合体で充填又は塗布されて(decorated)前記核酸複合体組成物を送達するリポソームは、リンパ細胞の前記部位に指向され得る。
【0109】
本発明によって使用するためのリポソームは、一般に、中性及び陰電荷リン脂質及びコレステロールなどのステロールをはじめとする標準ベシクル(vesicle)形成脂質から形成される。一般に、例えば、血流中のリポソームの安定性、酸不安定性(acid lability)及びリポソームのサイズなどを考慮して脂質を選択する。リポソームの製造には様々な方法を利用することができる。例えば、文献[Szoka,et al.,Ann.Rev.Biophys.Bioeng.,9:467,1980)、及び米国特許第4,235,871号、第4,501,728号、第4,837,028号及び第5,019,369号]に記載されているのと同じ方法を利用できる。
【0110】
本発明は、さらに他の観点において、NLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸(Bioactive Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した細胞透過性核酸複合体を個体に投与する段階を含む黄斑変性の予防又は治療方法に関する。
【0111】
本発明に係る核酸複合体を含む組成物は、黄斑変性を治療するために又は黄斑変性の症状を抑制(又は、緩和)するために、医薬として効果的な量で眼球に適用されてよい。黄斑変性の種類、患者の年齢、体重、症状の特性及び度合、現在治療法の種類、治療回数、適用形態及び経路などの様々な要因によって変わってよく、当該分野の専門家によって容易に決定されてよい。本発明の組成物は、前記の薬理学的又は生理学的成分を共に適用するか或いは順次に適用してよく、また、追加の従来の治療剤と併用して適用してもよく、従来の治療剤とは順次に又は同時に適用してもよい。このような適用は、単回又は多回の適用であってよい。
【0112】
本発明において、“個体”は、本発明に係る細胞透過性核酸複合体を投与(塗布)して軽減、抑制又は治療可能な状態又は疾患を持っている或いはその危険がある哺乳動物を意味し、好ましくは、人を意味する。
【0113】
また、本発明の化合物の人体への投与量(塗布量)は、患者の年齢、体重、性別、投与形態、健康状態及び疾患程度によって変わってもよく、体重が70kgである成人患者を基準にする時、一般に0.001~1,000mg/日であり、好ましくは0.01~500mg/日であり、医師又は薬剤師の判断によって一定時間間隔で1日1回又は数回に分割して投与(塗布)してもよい。
【0114】
本明細書に記載の細胞透過性核酸複合体を含む組成物の毒性と治療効率性は、例えば、LD50(群集の50%に対する致死量)、ED50(群集の50%に対して治療効果を有する線量)、IC50(群集の50%に対して治療抑制効果を有する線量)を決定するために、細胞培養又は実験動物における標準製薬過程によって算定されてよい。毒性と治療効果間の線量比が治療指数であり、これは、LD50とED50(又は、IC50)との比率として表現されてよい。高い治療指数を示す化合物が好ましい。これらの細胞培養分析から得られたデータは、ヒトに使用する線量の範囲を算定するために利用することができる。当該化合物の投与量(dosage)又は塗布量は、好ましくは、毒性がない或いは殆どない状態でED50(又は、IC50)を含む循環濃度の範囲内にある。
【0115】
本発明における用語“投与”とは、いずれか適切な方法で個体に本発明の薬学組成物を導入する行為を意味し、投与経路は、目的組織に到達できる限り、経口又は非経口の様々な経路を通じて投与されてよい。
【0116】
本発明の薬学組成物の投与経路は、目的組織に到達できれば如何なる一般経路でも投与可能である。本発明の薬学組成物は特にこれに制限されないが、目的とする所に応じて眼球上点眼、網膜内投与、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与されてよい。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動できる任意の装置によって投与されてよい。
【0117】
本発明の前記薬学組成物は薬学的に有効な量で投与されてよいが、本発明における用語“薬剤学的に有効な量”とは、医学的治療又は予防に適用可能な合理的な受恵/危険の割合で、疾患を治療又は予防するのに十分な量を意味し、有効容量レベルは、疾患の重症度、薬物の活性、患者の年齢、体重、健康、性別、患者の薬物に対する敏感度、使用された本発明の組成物の投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、使用された本発明の組成物と配合又は同時使用される薬物を含む要素、及びその他医学分野によく知られた要素によって決定されてよい。
【0118】
本発明の薬学組成物は、個別治療剤として投与されるか、他の治療剤と併用して投与されてよく、従来の治療剤とは順次に又は同時に投与されてよい。そして、単回又は多回投与されてよい。前記要素を全て考慮し、副作用無しで最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要である。
【0119】
本発明の薬学組成物の投与量は、使用目的、疾患の重症度、患者の年齢、体重、性別、既往力、又は有効成分として使用される物質の種類などを考慮して当業者が決定してよい。例えば、本発明の薬学組成物を、ヒトを含む哺乳動物に1日間10~100mg/kg、より好ましくは10~30mg/kgで投与でき、本発明の組成物の投与頻度は、特にこれに制限されないが、1日1回~3回投与してもよく、或いは容量を分割して数回投与してもよい。
【0120】
本発明はさらに他の観点において、NLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸(Bioactive Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した細胞透過性核酸複合体を黄斑変性の予防又は治療に使用する用途に関する。
【0121】
好ましくは、前記黄斑変性は、乾性黄斑変性又は湿性黄斑変性であってよく、最も好ましくは乾性黄斑変性であってよい。
【0122】
本発明はさらに他の観点において、黄斑変性の予防又は治療用薬剤の製造のためのNLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸(Bioactive Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した細胞透過性核酸複合体の用途に関する。
【0123】
好ましくは、前記黄斑変性は、乾性黄斑変性又は湿性黄斑変性であってよく、最も好ましくは乾性黄斑変性であってよい。
【実施例
【0124】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されると解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0125】
実施例1:生理活性核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)及びキャリアペプチド核酸、並びにそれらを用いた複合体の製造
本発明の核酸複合体の乾性黄斑変性に対する効果を検定するために、標的遺伝子としてNLRP3遺伝子を使用し、乾性黄斑変性の治療効果を確認するために、NLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)としてアンチセンスペプチド核酸(antisense PNA)を使用した。
【0126】
本発明の対照群として使用した生理活性ペプチド核酸(antisense PNA)は、配列番号1~2で表示される配列から構成されており、乾性黄斑変性治療効果を確認するために使用した生理活性ペプチド核酸(antisense PNA)は、配列番号3~4で表示される配列から構成されている。
【0127】
本実施例で使用されたペプチド核酸ベースの生理活性核酸のうち、配列番号1及び3のエンドソーム脱出能を助けるためのペプチドGLFDIIKKIAESF(配列番号12)を5’に結合し、配列番号2及び4は、エンドソーム脱出能を助けるペプチドがない形態で合成した。本実施例で使用されたキャリアペプチド核酸は、配列番号6と11以外は全てエンドソーム脱出能を助けるためのペプチドを5’~3’末端に結合し、記載の配列から構成されている。塩基配列、単量体修飾及び構造は、下記表3の通りである。
【0128】
本発明で使用したペプチド核酸はいずれも、パナジン(PANAGENE、韓国)でHPLC精製方法を用いて合成した(表3)。
【0129】
【表3】
【0130】
前記表3は、NLRP3遺伝子を標的とする乾性黄斑変性治療剤としての効果を確認するために使用された生理活性核酸とキャリアペプチド核酸、及び対照群として使用された生理活性核酸とキャリアペプチド核酸の配列情報を示している。
【0131】
単量体の修飾は、電気的な性質を付与するために、ペプチド核酸のバックボーンを、電気的陽性はリジン(Lysine,Lys,K,(+)と表記)に、電気的陰性はグルタミン酸(Glutamic acid,Glu,E,(-)と表記)に修飾されたペプチドバックボーンを有するように作製した。
【0132】
それぞれの生理活性核酸とキャリアペプチド核酸との組合せは、DMSO下で混成化し、その結果、生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸を含む複合体を製造した。
【0133】
実施例2:核酸複合体を用いた乾性黄斑変性の治療効果分析
実施例1によって製造されたNLRP3遺伝子を標的遺伝子とする生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸を含む核酸複合体を用いて乾性黄斑変性の治療効果を分析した。
【0134】
実施例2-1:細胞培養
ATCC(American Type Culture Collection、米国)から入手したヒト網膜色素上皮(ARPE-19,ATCC NO.CRL-2302)を、DMEM:F-12培養培地(Dulbecco Modified Eagle Medium Nutrient Mixure F-12(Ham)、Gibco BRL,Grand Island,NY,USA)に10%(v/v)ウシ胎児血清、ペニシリン100units/ml、ストレプトマイシン100μg/mlを添加し、37℃、5%(v/v)COの条件下で培養した。乾性黄斑変性類似細胞モデルを作るためにIL(Interleukin)-1α 4ng/mlとLPS(Lipopolysaccharide)50ng/mlを処理し、24時間培養した。
【0135】
実施例2-2:ウェスタンブロット分析(Western blot assay)を用いた遺伝子発現の分析
ヒト由来網膜色素上皮細胞株を、6ウェルプレートに1×10で細胞をシードし、24時間培養後に実施例2-1の条件で実験を行って生理活性ペプチド核酸及びキャリアペプチド核酸を含む複合体を処理し、24、48、72、96、120時間培養した後、RIPAバッファーを各ウェルに30μLずつ添加してタンパク質溶解物(protein lysate)を得た。タンパク質溶解物をBCAアッセイキット(Thermo Fisher、米国)を用いてタンパク質の量を定量し、タンパク質30μgを電気泳動によってサイズ別に分離し、PVDFメンブレンにタンパク質を移した後、1次抗体であるNLRP3(abcam、米国)、ASC(SantaCruz Biotechnology、米国)、プロカスパーゼ-1、カスパーゼ-1(SantaCruz Biotechnology、米国)、proIL-1beta、IL-1beta(Abcam、米国)を1:1000で処理し、4℃で一日放置した。
【0136】
1X TBS-Tを用いて洗浄し、2次抗体である抗ウサギ(Cell signaling Technology、米国)、抗マウス(Santa cruz Biotechnology、米国)を1:2000で処理し、常温で1時間放置した。SupersignalTM West Femto Maximum Sensitivity Substrate(Thermo Fisher、米国)を処理し、Image600(Amersham、ドイツ)装備を用いてヒト網膜色素上皮細胞株で標的遺伝子の発現抑制効率を分析した。
【0137】
本実施例では、IL-1alphaを用いた乾性黄斑変性類似細胞モデルにおけるNLRP3及び下位段階遺伝子発現変化を分析した。使用した核酸複合体組合せは、表4の通りである。
【0138】
【表4】
【0139】
その結果、図1示すように、配列番号3と配列番号8の組合せ、及び配列番号3と配列番号10の組合せの核酸複合体により、標的遺伝子の発現及び下位経路遺伝子の発現が経時的に最も多く抑制されることを確認した。
【0140】
実施例2-3:免疫細胞化学(Immunocytochemistry)染色分析
ヒト由来網膜色素上皮細胞株を、8ウェルプレートに5×10で細胞をシードし、24時間培養後に実施例2-1の条件で実験を行って、生理活性ペプチド核酸及びキャリアペプチド核酸を含む複合体を処理し、24、48、72時間培養した後、4%パラホルムアルデヒド(parafomaldehyde)に固定させた後、0.1%トリトン(Triton)X-100と正常ロバ血清(normal donkey serum)をブロッキング(blocking)後に、1次抗体であるNLRP3(abcam、米国)、カスパーゼ-1(SantaCruz Biotechnology、米国)を1:200で処理し、4℃で一日放置した。
【0141】
その後、2次抗体であるロバ抗ヤギIgG H&L(Alexa Fluor(R) 647)(abcam、米国)、ヤギ抗マウスIgG H&L(Alexa Fluor(R) 488)(abcam、米国)を1:200で処理して常温で1時間放置し、DAPIが含まれたマウンティング剤を用いて固定させた後、顕微鏡で結果を確認した。
【0142】
本実施例では、LPSを用いた乾性黄斑変性類似細胞モデルにおけるNLRP3及び下位段階遺伝子発現変化を分析した。使用した核酸複合体組合せは表5の通りである。
【0143】
【表5】
【0144】
その結果、図2A及び図2Bに示すように、配列番号3と配列番号10の核酸複合体組合せが、乾性黄斑変性類似細胞モデルにおいてNLRP3発現及び下位経路遺伝子の発現が経時的に最も多く抑制されることを確認した。
【0145】
実施例3:核酸複合体を用いた乾性黄斑変性類似NaIO誘導動物モデルにおいて治療効果分析
本実施例では、実施例2で効果が検証された核酸組合せ体を選別し、NaIOを用いた乾性黄斑変性類似動物モデルにおいて表現型及び組織学的所見を分析した。使用した核酸複合体組合せは、表6の通りである。
【0146】
【表6】
【0147】
実施例3-1:実験動物飼育及び実験デザイン
5週齢雄B6マウスを1週間馴化後に使用した。黄斑変性に見られる変化の一つとして網膜色素上皮細胞の選択的な変性及び損傷を誘発するために、NaIO(Sigma、米国)35mg/kgを静脈注射した。
【0148】
NaIOを3週誘導させた後、核酸複合体(1,2)を眼球点眼液の形態で用い、対照群(核酸複合体1)は60μg/1dropで1日に1回で14日間処理した群、試験薬物群(核酸複合体2)では60μg/1dropで1日に1回で14日間処理した群に分けて実験を行った。
【0149】
核酸複合体(1,2)を14日間投与した後、Micron IV(Phoenix Research Laboratories、米国)で眼底撮影を行った。
【0150】
剖検して眼球を摘出し、4%パラホルムアルデヒド(parafomaldehyde)に固定後にパラフィンで包埋し、スライド切片を作製した。スライド切片は、H&E(Hematoxylin & Eosin)染色し、光学顕微鏡下で網膜組織を評価した。
【0151】
その結果、図3示すように、NaIO投与によって網膜色素上皮細胞が損傷し、真上に位置する光受容体細胞の核が密集している外顆粒層(outer nuclear layer)と内顆粒層(inner nuclear layer)で歪み現象が観察された。眼球点眼液を用いた核酸複合体処理群において網膜色素上皮細胞の損傷を抑制し、外顆粒層の崩壊する現象を抑制することを確認した。
【0152】
実施例3-2:NLRP3標的遺伝子の核酸複合体(60ug)4週投与効果
実施例3-1における実験条件で核酸複合体(1,2)を眼球点眼液を用いて60μg/1drop/1dayで28日間処理し、網膜色素上皮の損傷予防効果を進行した。
【0153】
核酸複合体(1,2)を28日間投与した後、Micron IV(Phoenix Research Laboratories、米国)で眼底撮影を施した。
【0154】
剖検して眼球を摘出し、4%パラホルムアルデヒド(parafomaldehyde)に固定後にパラフィンで包埋し、スライド切片を作製した。スライド切片は、H&E(Hematoxylin & Eosin)染色し、光学顕微鏡下で網膜組織を評価した。
【0155】
その結果、図4に示すように、NaIO投与によって網膜色素上皮細胞が損傷し、真上に位置する光受容体細胞の核が密集している外顆粒層(outer nuclear layer)と内顆粒層(inner nuclear layer)で歪み現象が観察された。眼球点眼液を用いた核酸複合体処理群において網膜色素上皮細胞の損傷を抑制し、外顆粒層の歪み現象を抑制することを確認した。
【0156】
実施例3-3:核酸複合体を用いたNaIO誘導動物モデルの治療効果分析
実施例3-1における実験条件で表7の核酸複合体(6,7)を眼球点眼液の形態で用い、網膜色素上皮の損傷抑制効果を評価した。核酸複合体6番は30μg/1drop/1dayで14日間投与し、核酸複合体7番は30μg/1drop/1day、核酸複合体7-1番は10μg/1drop/1day、核酸複合体7-2番は5μg/1drop/1dayで14日間投与し、抑制効果を確認した。陽性対照群では、NLRP3抑制剤であるMCC950(InvivoGen、米国)を10mg/kgの容量で14日間毎日経口投与した。
【0157】
【表7】
【0158】
核酸複合体(6,7)を14日間投与した後、Micron IV(Phoenix Research Laboratories、米国)で眼底撮影を行った。
【0159】
剖検して眼球を摘出し、4%パラホルムアルデヒド(parafomaldehyde)に固定後にパラフィンで包埋し、スライド切片を作製した。スライド切片はH&E(Hematoxylin & Eosin)染色し、光学顕微鏡下で網膜組織を評価した。
【0160】
その結果、図5に示すように、NaIO投与により酸化的ストレスによる網膜色素上皮細胞の退行を誘発し、網膜変性を誘導したことを観察したし、核酸複合体(PNA7,30μg/1drop/1day)では陽性対照群(Positive control,PC)に比べて網膜色素上皮細胞の変性が減少したことを確認した。核酸複合体(PNA7-1:10μg/1drop/1day、PNA7-2:5μg/1drop/1day)においても陽性対照群と類似の抑制効果を確認した(図5A)。
【0161】
図5Bの網膜切片写真のように、網膜において光受容体細胞(photoreceptor cell)の核が密集している外顆粒層(outer nuclear layer)の厚さが、眼球点眼液を用いた核酸複合体処理群(PNA7)において光受容体細胞の損傷を有意に抑制し、乾性黄斑変性治療効果を確認した。
【0162】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界の通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は単に好ましい実施態様であるだけで、これによって本発明の範囲が制限されるものでない点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付する請求項及びそれらの等価物によって定義されるといえよう。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明に係るNLRP3を標的とする生理活性核酸とキャリアペプチド核酸とが相補的に結合した細胞透過性核酸複合体は、細胞透過性が高いので、直接の注射投与の他にも、点眼液又は皮膚塗布などを含む様々な方法で投与可能であり、NLRP3の発現を抑制することによって黄斑変性の予防、改善又は治療に有用である。
【0164】
[配列目録フリーテキスト]
電子ファイルとして添付。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
【配列表】
0007459298000001.app