(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】広帯域の絶縁作用を有するばね系
(51)【国際特許分類】
B60G 13/16 20060101AFI20240325BHJP
【FI】
B60G13/16
(21)【出願番号】P 2022567336
(86)(22)【出願日】2021-05-03
(86)【国際出願番号】 EP2021061561
(87)【国際公開番号】W WO2021224177
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】102020112209.8
(32)【優先日】2020-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599169003
【氏名又は名称】ハッセ・ウント・ヴレーデ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Hasse & Wrede GmbH
【住所又は居所原語表記】Georg-knorr-Str. 4, D-12681 Berlin, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル シュタイドル
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト ラインスペルガー
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト ケンプゲン
(72)【発明者】
【氏名】マンディ シュトライフラー
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/083446(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108240415(CN,A)
【文献】特開2018-076954(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0162187(US,A1)
【文献】特開2007-285429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00-99/00
F16F 15/00
F16H 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車
両のばね系(1)であって、
a.第1の剛性K1および第1の減衰手段D1を備えた第1のばね/ダンパユニットと、b.第2の剛性K2および第2の減衰手段D2を備えた第2のばね/ダンパユニットと、c.チューンドマスアブソーバTMA(4)としての追加的な質量体と
を有しており、前記チューンドマスアブソーバTMA(4)は、少なくとも1つの負剛性(Kn)に結合されている、ばね系(1)において、
前記チューンドマスアブソーバTMA(4)と、前記少なくとも1つの負剛性(Kn)との間に、並進伝動装置(5)が配置されていることを特徴とする、ばね系(1)。
【請求項2】
前記並進伝動装置(5)は、それぞれ長手方向軸線(6a,7a)を有するバー(6,7)と伝動車(8,9)とを有しており、前記バー(6,7)は、前記伝動車(8,9)に係合している、請求項1記載のばね系(1)。
【請求項3】
前記バー(6,7)と前記伝動車(8,9)とは、歯列を介して係合している、請求項2記載のばね系(1)。
【請求項4】
前記伝動車(8,9)はそれぞれ、共通の回転軸線(10)を中心として回転可能にかつ互いに相対回動不能に結合されて配置されており、前記バー(6,7)はそれぞれ、長手方向支持手段内で、前記バー(6,7)の前記長手方向軸線(6a,7a)上を摺動可能にガイドされかつ支持されて配置されている、請求項2または3記載のばね系(1)。
【請求項5】
前記バー(6,7)の各前記長手方向軸線(6a,7a)における各バー(6,7)の並進運動の比は、前記伝動車(8,9)の半径の比により規定されている、請求項2から4までのいずれか1項記載のばね系(1)。
【請求項6】
他方の前記伝動車(8)に比べてより小さな半径を有する一方の前記伝動車(9)に係合している一方の前記バー(6)は、前記少なくとも1つの負剛性(Kn)に結合されており、他方の前記バー(7)は、より大きな半径を有する前記他方の伝動車(8)に係合しておりかつ前記チューンドマスアブソーバTMA(4)に結合されている、請求項2から5までのいずれか1項記載のばね系(1)。
【請求項7】
前記並進伝動装置(5)は、駆動車(12)を備えた調整駆動装置(11)を有しており、前記駆動車(12)は、前記伝動車のうちの一方(8)に係合している、請求項6記載のばね系(1)。
【請求項8】
前記調整駆動装置(11)は、液圧モータである、請求項
7記載のばね系(1)。
【請求項9】
前記並進伝動装置(5)は、液圧伝動装置である、請求項1記載のばね系(1)。
【請求項10】
液圧伝動装置としての前記並進伝動装置(5)は、複数の液圧ピストンを有しており、該液圧ピストンは、複数の伝達比を実現するためにそれぞれ異なる大きさのピストン面を有している、請求項9記載のばね系(1)。
【請求項11】
液圧伝動装置としての前記並進伝動装置(5)は、液圧ポンプもしくは液圧モータとしての調整駆動装置(11)を有している、請求項9または10記載のばね系(1)。
【請求項12】
前記調整駆動装置(11)は、電気的な駆動コンポーネントと、前記液圧伝動装置と協働する液圧出力部とを有している、請求項11記載のばね系(1)。
【請求項13】
前記少なくとも1つの負剛性(Kn)は、少なくとも1つの皿ばねまたは少なくとも1つの板ばねを有している、請求項1から12までのいずれか1項記載のばね系(1)。
【請求項14】
ホイールとばね系(1)とを有する車
両であって、前記ホイールは、前記ばね系(1)を介して当該車両に結合されている、車両において、
前記ばね系(1)は、請求項1から13までのいずれか1項記載のように形成されていることを特徴とする、車両。
【請求項15】
請求項1から13までのいずれか1項記載の、車
両のばね系(1)の剛性を適合させる方法であって、以下の方法ステップ、すなわち、
(S1)第1の剛性(K1)および第1の減衰手段(D1)を備えた第1のばね/ダンパユニットと、第2の剛性(K2)および第2の減衰手段(D2)を備えた第2のばね/ダンパユニットと、チューンドマスアブソーバTMA(4)としての追加的な質量体とを有するばね系(1)を提供するステップと、
(S2)少なくとも1つの負剛性(Kn)を、並進伝動装置を介して前記チューンドマスアブソーバTMA(4)に結合するステップと、
(S3)前記少なくとも1つの負剛性と共に前記チューンドマスアブソーバTMA(4)に結合された前記並進伝動装置を介して前記ばね系(1)の剛性を適合させると同時に、車体(2)を絶縁するステップと
を特徴とする、方法。
【請求項16】
前記並進伝動装置(5)の動作点の調整および/または前記車体(2)の車高調整を、前記並進伝動装置(5)に係合している調整駆動装置(11)により行う、請求項15記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の、特に商用車用のばね系に関する。本発明は、車両のばね系の剛性を適合させる方法にも関する。
【0002】
商用車、牽引機およびトレーラ用の目下のばね系には、空気ばねが設けられている。これらの空気ばねは、空気ばねの剛性が各商用車の積載量に良好に適合され得る、という利点を有している。これにより、一方では車高調整を実現することができ、かつ他方では絶縁周波数、すなわちそれより上では振動が最早伝達されない周波数を、積載状態に適合させ、これによりほぼ一定に保つことができる。
【0003】
この場合、空気ばねは圧縮された空気を必要とし、このためには圧縮機が必要である、ということが欠点と見なされる。また絶縁も、改良の余地がある。
【0004】
将来的な電気商用車において、空気圧縮機は場合により最早存在しなくなる。このことから、空気ばねも最早使用することはできない、という欠点が生じる。
【0005】
建築物の免震の分野では目下、負剛性を有するKダンパという名称の装置が論じられている。このことは例えば、“Frequency Base Design of the KDamper Concept for Seismic Isolation of Bridges”(Konstantinos A. Kapasakalis, Christos-Habib T. Alamir, Ioannis A. Antoniadis, and Evangelos J. Sapountzakis - Institute of Structural Analysis and Antiseismic Research, School of Civil Engineering, National Technical University of Athens, Zografou Campus, GR-157 80 Athens, Greece, Dynamics and Structures Laboratory, Mechanical Engineering Department, National Technical University of Athens, Zografou Campus, GR-157 80 Athens, Greece)という文献に記載されている。
【0006】
中国特許第108240415号明細書は、負剛性を有する湾曲したバー/プレート構造体から成るダイナミック振動ダンパの高負荷可能な高減衰型振動低減装置に関する。ダイナミック振動ダンパは、振動低減装置に埋め込まれている。振動低減装置は、上部結合部材と、弾性部材と、下部結合部材とを有しており、弾性部材は、上部結合部材と下部結合部材との間に結合されている。ダイナミック振動ダンパは、連続的に配置された弾性体と、マスブロックと、組み立てられた湾曲したバー/プレート構造体とを有しており、弾性体は、上部結合部材に結合されており、組み立てられた湾曲したバー/プレート構造体は、負剛性を有する部材を有しており、負剛性を有する部材は、マスブロックに結合されており、振動低減装置が公称荷重の作用下にあるとき、弾性部材とダイナミック振動ダンパとは同時に圧縮され得、その結果、組み立てられた湾曲したバー/プレート構造体は、負剛性を有する動作点に位置することになる。ダイナミック振動ダンパは、振動低減装置に埋め込まれており、等価慣性力を提供するために、負剛性を有する部材が採用され、技術的手段により、振動低減装置は広帯域の振動絶縁要求を満たすことができ、ピーク値における高減衰が、小さな質量で達成される。
【0007】
中国特許出願公開第111140616号明細書は、負剛性を有する非線形振動ダンパを説明するものであり、緩衝の技術分野に関する。負剛性により改良された非線形振動ダンパは、外側フレームと、ガイドレールと、中空のマスブロックと、負剛性を有するモジュールと、緩衝モジュールと、第1のばねとを有しており、この場合、負剛性を有するモジュールは、中実のマスブロックと、第2のばねとを有している。
【0008】
したがって本発明の課題は、調整可能な空気ばねを有さないと同時に、可能な限りあらゆる積載状態に関して振動絶縁が改良されたばね系を提供することにある。
【0009】
この課題は、請求項1の対象により解決される。
【0010】
この課題は、請求項14の対象および請求項15の対象としての方法によっても解決される。
【0011】
本発明の思想は、一次的なばねおよび減衰手段から成る系を、チューンドマスアブソーバ(TMA)と組み合わせて使用する、ということに基づいている。TMAは、追加的に負剛性を介して結合される。このようなシステムは目下、車両技術の分野では使用されていない。
【0012】
本発明による、車両、特に商用車のばね系は、第1の剛性および第1の減衰手段を備えた第1のばね/ダンパユニットと、第2の剛性および第2の減衰手段を備えた第2のばね/ダンパユニットと、チューンドマスアブソーバTMAとしての追加的な質量体とを有している。チューンドマスアブソーバTMAは、少なくとも1つの負剛性に結合されている。
【0013】
負剛性との結合は、一方ではTMAの質量を小さく保ちかつ他方では絶縁を大幅に改良する、という利点をもたらす。
【0014】
ホイールとばね系とを有しており、ホイールがばね系を介して車両に結合されている本発明による車両、特に商用車は、上述したばね系を有している。
【0015】
1つの特に好適な構成では、チューンドマスアブソーバTMAと少なくとも1つの負剛性との間に、並進伝動装置が配置されている。
【0016】
このことは特に有利である。それというのも、TMAが容易に構成され得かつ高い有効性を有するようにするためには、同時にTMAの最大限の行程が有利であるからである。
【0017】
このようにして有利には、ばね系の実現における主問題が、極めて良好な振動絶縁により、全ての積載状態に関して解決され得る、ということが可能である。この主問題は、機械的な負剛性を実現するために必要とされるコンポーネントが、ハードウェアとして極めて複雑にしか実現され得ない、という点にある。負剛性を有する系は、このことを一般に、極めて限定的な動作範囲でしか行わない。その例は、例えば「降伏点」で作動させられる皿ばねである。より大きな動作範囲またはより大きな横方向行程にわたり負剛性を示す構成は、機械的な挙動を調整により実現する必要があるアクティブな部材である。このようなコンポーネントは極めて高価である。したがって、本発明による構成は大きな利点である。
【0018】
本発明による、請求項1から13までのいずれか1項記載の、車両、特に商用車のばね系の剛性を適合させる方法は、第1の剛性および第1の減衰手段を備えた第1のばね/ダンパユニットと、第2の剛性および第2の減衰手段を備えた第2のばね/ダンパユニットと、チューンドマスアブソーバTMAとしての追加的な質量体とを有するばね系を提供する方法ステップ(S1)と、少なくとも1つの負剛性を、チューンドマスアブソーバTMAに結合する方法ステップ(S2)と、チューンドマスアブソーバTMAに結合された少なくとも1つの負剛性を介してばね系の剛性を適合させると同時に、車体を絶縁する方法ステップ(S3)とを有している。
【0019】
本発明の有利な改良は、従属請求項に記載されている。
【0020】
1つの構成では、並進伝動装置は、それぞれ長手方向軸線を有するバーと伝動車とを有しており、バーは、伝動車に係合している。このことは、有利には簡単な構造を生ぜしめる。
【0021】
バーと伝動車とが歯列を介して噛み合っている場合には、従来の歯列を備えた汎用の構成部材を相応する品質でかつ有利なコストで使用することができる。
【0022】
別の構成では、伝動車はそれぞれ、共通の回転軸線を中心として回転可能にかつ互いに相対回動不能に結合されて配置されており、バーはそれぞれ、長手方向支持手段内で、バーの長手方向軸線上を摺動可能にガイドされかつ支持されて配置されている。これによりコンパクトな構造が可能である。
【0023】
1つのさらに別の構成では、バーの各長手方向軸線における各バーの並進運動の比は、伝動車の半径の比により簡単に規定されている。
【0024】
1つの構成では、他方の伝動車に比べてより小さな半径を有する一方の伝動車に係合している一方のバーは、少なくとも1つの負剛性に結合されており、他方のバーは、より大きな半径を有する他方の伝動車に係合しておりかつチューンドマスアブソーバTMAに結合されている、ということが想定されている。
【0025】
TMAと負剛性との間では、並進伝動装置が使用される。これにより同時に、負剛性を有する部材、つまり例えば皿ばねの小さな行程と、TMAの大きな振幅とが実現され得、この場合、TMAは並進伝動装置を介してさらに、負剛性を有する機械的な部材に直接に作用結合しておりひいては所望の機械的な挙動を調整することができる。
【0026】
1つのさらに別の構成では、並進伝動装置は、駆動車を備えた調整駆動装置を有しており、この場合、駆動車は、伝動車のうちの1つに係合している。
【0027】
調整駆動装置は、例えば電動モータであってよく、電動モータにより駆動車を介して、並進伝動装置ひいてはばね系の動作点が調整される、もしくは例えば傾斜面での積載に必要とされる車高調整が実現される。
【0028】
択一的な構成では、調整駆動装置は液圧モータであってもよい。この液圧モータは、液圧式にまたは/かつ電動モータにより駆動されていてよい。これらの構成部材は、高品質で廉価に入手可能である。
【0029】
1つの択一的な構成では、並進伝動装置は、液圧伝動装置であってよい。このために必要な機能ユニットは市販の構成部材であるため、このことは有利である。
【0030】
1つの構成では、液圧伝動装置としての並進伝動装置は、複数の液圧ピストンを有しており、これらの液圧ピストンは、複数の伝達比を実現するためにそれぞれ異なる大きさのピストン面を有している。このことは簡単に実現され得る。
【0031】
さらに、液圧伝動装置としての並進伝動装置は、液圧ポンプもしくは液圧モータとしての調整駆動装置を有していてもよい。このようにして、コンパクトな構造が可能になる。
【0032】
1つの択一的な構成では、調整駆動装置は、電気的な駆動コンポーネントと、液圧伝動装置と協働する液圧出力部とを有していてよい。このようにして、様々な周辺条件に適合させることで使用範囲の有利な拡張が達成される。
【0033】
当該方法の1つの別の構成では、少なくとも1つの負剛性を、並進伝動装置を介してチューンドマスアブソーバTMAに結合し、少なくとも1つの負剛性に連結された並進伝動装置を介してばね系の剛性を適合させると同時に、車体の絶縁を行う、ということが想定されている。これにより、特に大きな利点が得られる。それというのも、負剛性の小さな行程を、伝動装置により拡大することができるからである。
【0034】
当該方法の1つの別の構成では、並進伝動装置の動作点の調整および/または車体の車高調整を、並進伝動装置に係合している調整駆動装置により行う。
【0035】
1つの構成では、少なくとも1つの負剛性は、少なくとも1つの皿ばねまたは少なくとも1つの板ばねを有している、ということが想定されている。これらの構成部材は市販されており、高品質で廉価に入手可能である。
【0036】
以下に、本発明の実施例を添付の図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】チューンドマスアブソーバを備えた本発明によるばね系の第1の実施例を概略的に示す実体配線図である。
【
図2】チューンドマスアブソーバを備えた本発明によるばね系の第2の実施例を概略的に示す実体配線図である。
【
図3】
図2に示した第2の実施例の変化形を概略的に示す実体配線図である。
【
図4】並進伝動装置の1つの実現例を示す概略図である。
【
図5】並進伝動装置の1つの実現例を示す概略図である。
【
図6】並進伝動装置の1つの別の実現例を示す概略図である。
【
図7】並進伝動装置の1つの別の実現例を示す概略図である。
【
図8】本発明による方法の概略的なフローチャートを示す図である。
【0038】
図1には、車両におけるチューンドマスアブソーバTMA4を備えた本発明によるばね系1の第1の実施例の概略的な実体配線図が示されている。チューンドマスアブソーバ4については引き続き、TMAという略語を用いる。
【0039】
ばね系1は、車両の車体2の質量体とホイール3との間に配置されている。車体2とは、車両のホイールにより支持される車両の部分を意味する。ホイールは、部分的にその懸架部および軸受でもって、車両に公知の方法で可動に取り付けられている。車両は図示されていない。車両は、好適には商用車、牽引機、トレーラである。
【0040】
ばね系1は、ここでは第1の剛性K1および第1の減衰手段D1を備えた第1のばね/ダンパユニットと、第2の剛性K2および第2の減衰手段D2を備えた第2のばね/ダンパユニットと、チューンドマスアブソーバ(TMA)4としての追加的な質量体と、負剛性Knとを有している。
【0041】
第1の剛性K1および第1の減衰手段D1を備えた第1のばね/ダンパユニットは、車体2とホイール3との間に配置されている。チューンドマスアブソーバ4は、一方では第2の剛性K2と第2の減衰手段D2とを介して車体2に枢着されておりかつ他方では負剛性Knを介してホイール3に枢着されている。
【0042】
一次的なばねおよび減衰手段と組み合わせられたTMA4は、このばね系1では追加的に負剛性Knに結合されており、これにより一方ではTMA4の質量を小さく保ちかつ他方では絶縁、すなわち絶縁周波数を大幅に改良することができる。
【0043】
負剛性Knは、第1の実施例では、例えばいわゆる降伏点で作動する皿ばねまたは/および板ばねにより実現され得る。ただしこの場合、作動範囲、すなわち対応付けられた車両の積載状態の範囲は大幅に制限されている。よってこの構成は、小型商用車にも、乗用車にも使用することができる。
【0044】
このような制限は、TMA4を備えた本発明によるばね系1の第2の実施例により解消され得、その実体配線図が
図2に示されている。
【0045】
図1に示した第1の実施例とは異なり、ここではTMA4と負剛性Knとの間に伝動装置5が配置されている。このようにして、負剛性Kn、つまり例えば1つの皿ばね(または複数の皿ばね)を有する部材の小さな距離と、TMA4の大きな振幅とが同時に実現され得る、ということが可能である。この場合、TMA4は伝動装置5を介してさらに、負剛性Knを備えた1つ/複数の機械的な部材に直接に作用結合されており、負剛性Kn自体はホイール3に結合されている。これにより、所望の機械的な挙動を有利に調整することができる。伝動装置5については、以下でより詳しく説明する。この例では、伝動装置5は並進伝動装置として形成されている。
【0046】
図3には、
図2に示した第2の実施例の1つの変化形の概略的な実体配線図が示されている。
【0047】
この変化形は、負剛性Knが車体2とTMA4との間に配置されているという点において、第2の実施例と異なっている。
【0048】
第2の実施例による配置および第2の実施例の変化形により、様々な組込み状況への適合を可能にすることができる。
【0049】
図4に示す構成において、並進伝動装置5の実現手段が示されている。
【0050】
並進伝動装置5は、この例ではそれぞれ長手方向軸線6a,7aを備えた2つのバー6,7を有している。バー6,7は、伝動車8,9に係合している。伝動車8,9は、それぞれ円柱形で概略的に示されているだけに過ぎない。
【0051】
係合部は、ここでは例えば歯列係合部として形成されている。この場合、伝動車8,9は、ここではラックとして形成されたバー6,7の歯列に係合する歯車である。
【0052】
伝動車8,9はさらに、共通の回転軸線10を中心として回転可能にかつ互いに相対回動不能に結合されている。回転軸線10もしくは回転軸線上の伝動車8,9の回転支持手段は図示されていないが、容易に想定可能である。
【0053】
バー6,7はそれぞれ、長手方向支持手段(図示せず)内で、バー6,7の長手方向軸線6a,7a上を摺動可能にガイドされかつ支持されている。
【0054】
各長手方向軸線6a,7aにおける両バー6,7の並進運動の比は、伝動車8,9の半径の比により規定されている。
【0055】
図示の本例では、伝動車8に比べてより小さな半径を有する伝動車9に係合しているバー6が、負剛性Knを有する部材に結合されている。別のバー7は、より大きな半径を有する伝動車8に係合しておりかつTMA4に結合されている。
【0056】
運転時に、伝動車9に係合しているバー6は、バー6の長手方向軸線6aの方向に小さな距離を進むのに対して、伝動車8に係合している別のバー7は、その長手方向軸線7aの方向に大きな距離を移動する。両バー6,7は、伝動車8,9の相対回動不能な結合に基づき、バー6,7の長手方向軸線6a,7a上を同一方向に移動する。
【0057】
しかしまた、伝動車8,9は、例えば大きな伝動車8内に配置された遊星歯車伝動装置のような別の伝動装置を介して結合されている、ということも考えられる。このようにして、例えば限られた構成空間では別の伝達比も可能になり得る。
【0058】
図5には、
図3に示した並進伝動装置5の、バー6,7の長手方向軸線6a,7aに対して垂直な伝動車8,9の回転軸線10の平面における断面図が示されている。
【0059】
回転軸線10は、ここではバー6,7の長手方向軸線6a,7aに対して直角に配置されている。歯列の形式に応じて、回転軸線10と長手方向軸線6a,7aとの間の別の角度位置も可能である。
【0060】
図6には、並進伝動装置5の1つの別の実現例の概略図が示されている。さらに
図7には、
図6に示した並進伝動装置5の、
図5と同様の断面図が示されている。
【0061】
図6では追加的に、駆動車12を備えた調整駆動装置11が設けられている。駆動車12も同様に、円筒として概略的に示されているだけに過ぎず、ここでは第1の伝動車8に係合しており、ここでは歯車である。駆動車12は別の伝動車9に係合可能である、ということも考えられる。
【0062】
調整駆動装置11により、駆動車12を介して伝動装置5の動作点を調整することができる。このようにして、例えば傾斜面での積卸しまたは/および積載状態に関して必要になる、付属する車両の車高調整が実現され得る。
【0063】
1つの想定可能な構成(図示せず)では、並進伝動装置5は、液圧ユニットにより液圧伝動装置として実現されている。つまり、例えばバー6,7は、複数の伝達比を実現するためにそれぞれ異なる大きさのピストン面を有する液圧ピストンに接続されていてよい。
【0064】
この場合、調整駆動装置11は、追加的な液圧ポンプもしくは液圧モータとして形成されていてよい。
【0065】
調整駆動装置11が、電気的な駆動コンポーネントと、液圧伝動装置と協働する液圧出力部とを有している、ということも考えられる。
【0066】
図8には、本発明による、車両、特に商用車のばね系1の剛性を適合させる方法の概略的なフローチャートが示されている。
【0067】
第1の方法ステップS1では、第1の剛性K1および第1の減衰手段D1を備えた第1のばね/ダンパユニットと、第2の剛性K2および第2の減衰手段D2を備えた第2のばね/ダンパユニットと、チューンドマスアブソーバ(TMA)4としての追加的な質量体と、負剛性Knとを有するばね系1を提供する。
【0068】
第2の方法ステップS2は、負剛性Knを、並進伝動装置5を介してTMA4に結合することを想定している。
【0069】
最後に第3の方法ステップS3では、負剛性Knに結合された並進伝動装置5を介してばね系1の剛性を適合させると同時に、車体2を絶縁する。並進伝動装置5の動作点の調整および/または車体2の車高調整は、並進伝動装置5に係合している調整駆動装置11により行われる。
【0070】
図9~
図12には、関数のグラフ表示、特に伝達関数の関数グラフが示されている。
【0071】
本発明によるばね系1の様々な用途のシミュレーションが実施され、以下に
図9~
図12に基づき説明するポジティブな結果がもたらされた。
【0072】
ここには、本発明によるばね系1が設けられている場合と設けられていない場合との比較において、車両、特に商用車の積載状態と空の状態の両方に関する絶縁の改良が示されている。
【0073】
これについて、グラフZAは、ばね系1が設けられていない積載状態を表しており、グラフZBは、ばね系1が設けられている積載状態を表している。ばね系1が設けられていない空の状態にはグラフZCが相応しており、グラフZDは、ばね系1が設けられている空の状態を示している。
【0074】
図9には、ステップ応答16が時間14にわたる振幅15として示されている。
【0075】
つまり、ばね系1が設けられているグラフZBおよびZDの各振幅15は、ばね系1が設けられていないグラフZAおよびZCに比べ、極めて大幅に低下され得、これにより、路面に起因する衝撃および凹凸は、比較的極僅かにしか、荷室もしくは車両車体に到達しないもしくは伝達されない、ということが認められる。
【0076】
図10には、ボード線
図17,18の値15aおよび位相15bが、時間14aにわたり対数スケールで示されている。
【0077】
図11には、ボード線
図19の値15aが、時間14aにわたり線形に示されている。
【0078】
これに関して最後に
図12には、極とゼロ位置20とが、虚部15cおよび実部14bにより示されている。
【0079】
本発明は、上述した実施例により限定されてはおらず、請求項の枠内で変更可能である。
【0080】
複数の負剛性Knは、平行に、または連続して、またはその組合せで配置されていてもよい、ということが考えられる。
【符号の説明】
【0081】
1 ばね系
2 車体
3 走行装置
4 TMA
5 伝動装置
6,7 バー
6a,7a 長手方向軸線
8,9 伝動車
10 回転軸線
11 調整駆動装置
12 駆動車
13 駆動軸線
14 時間
14a 周波数
14b 実部
15 振幅
15a 値
15b 位相
15c 虚部
16 ステップ応答
17,18,19 ボード線図
20 極およびゼロ位置
D1,D2 減衰手段
K1,K2 剛性
Kn 負剛性
S1,S2,S3 方法ステップ
x 行程
ZA,ZB,ZC,ZD グラフ