(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】スピーカシステム
(51)【国際特許分類】
H04R 1/28 20060101AFI20240325BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
H04R1/28 310D
H04R1/02 101E
(21)【出願番号】P 2023004456
(22)【出願日】2023-01-16
(62)【分割の表示】P 2018211402の分割
【原出願日】2018-11-09
【審査請求日】2023-01-16
(32)【優先日】2018-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514136668
【氏名又は名称】パナソニック インテレクチュアル プロパティ コーポレーション オブ アメリカ
【氏名又は名称原語表記】Panasonic Intellectual Property Corporation of America
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】松村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 周二
【審査官】渡部 幸和
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-205887(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073431(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3196822(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音を出力するスピーカユニットと、
前記スピーカユニットが取り付けられている壁面を有する筐体と、
前記筐体の内部に配置され、一端が開放され、かつ、他端が閉止され、かつ、1本の管状空間を有する音響管と、を備え、
前記音響管は、前記音響管の側壁に形成されている開口部を有する
スピーカシステム。
【請求項2】
前記管状空間は、蛇行した形状を有する
請求項1に記載のスピーカシステム。
【請求項3】
前記音響管の側壁は、前記側壁と前記筐体の内部に生じる定在波の伝搬方向とが交差するように配置される
請求項1または2に記載のスピーカシステム。
【請求項4】
前記開口部は、前記音響管が延びる方向に長いスリットである
請求項1から3のいずれか1項に記載のスピーカシステム。
【請求項5】
前記開口部は、前記音響管が延びる方向に並ぶ複数の孔である
請求項1から3のいずれか1項に記載のスピーカシステム。
【請求項6】
前記音響管は、
第一空間と、
前記第一空間と連通しており、前記第一空間の、前記音響管が延びる方向に略直交する方向側に配置される第二空間と、
前記側壁の一部であり、前記第一空間および前記第二空間が連通している連通部分を除く部分において、前記第一空間および前記第二空間を仕切るように配置されている仕切板と、を有し、
前記開口部は、前記仕切板に形成されている
請求項1から5のいずれか1項に記載のスピーカシステム。
【請求項7】
前記音響管は、さらに、前記開口部に接続されている枝管を有する
請求項1から5のいずれか1項に記載のスピーカシステム。
【請求項8】
さらに、
前記開口部を覆う制動布を備える
請求項1から7のいずれか1項に記載のスピーカシステム。
【請求項9】
さらに、
前記音響管の内部の前記他端に配置されている吸音材を備える
請求項1から8のいずれか1項に記載のスピーカシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スピーカシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スピーカキャビネットの内部に音響管を配置することで、低音域の音圧レベルを低下させることなく、定在波の発生を抑制するスピーカシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献では、更なる改善が必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るスピーカシステムは、音を出力するスピーカユニットと、前記スピーカユニットが取り付けられている壁面を有する筐体と、前記筐体の内部に配置され、一端が開放され、かつ、他端が閉止され、かつ、1本の管状空間を有する音響管と、を備え、前記音響管は、前記音響管の側壁に形成されている開口部を有する。
【0006】
本開示の一態様に係るスピーカシステムは、音を出力するスピーカユニットと、前記スピーカユニットが取り付けられている壁面を有する筐体と、前記筐体の内部に配置され、一端が開放され、かつ、他端が閉止された音響管と、を備え、前記音響管は、前記音響管の側壁に形成されている開口部を有する。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、更なる改善を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係るスピーカシステムの平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に係るスピーカシステムのII-II断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に係るスピーカシステムのIV-IV断面図である。
【
図5】
図5は、音響管の側壁に形成された開口部の一例を示す拡大図である。
【
図6】
図6は、実施の形態1に係るスピーカシステムの音圧周波数特性を示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態2に係るスピーカシステムの平面図である。
【
図8】
図8は、実施の形態3に係るスピーカシステムの平面図である。
【
図9】
図9は、音響管の側壁に形成された開口部の他の一例を示す拡大図である。
【
図10】
図10は、音響管の側壁に形成された開口部の他の一例を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の基礎となった知見)
本発明者は、「背景技術」の欄において記載した、スピーカシステムに関し、以下の問題が生じることを見出した。
【0010】
近年、テレビセットでは液晶画面の薄型化や有機ELの実用化でテレビ本体の薄型化が進み、これに伴って、テレビセットに搭載されるスピーカシステムも薄型となってきている。しかし、薄型スピーカシステムではキャビネット内部を進行する音の伝達方向が、その厚みで制限され、キャビネットの対向する壁面と壁面との間で生じる定在波の影響が、従来の直方体のキャビネットに比べて大きくなる。その結果、スピーカシステムとしての音圧周波数特性に大きな山谷が生じる。
【0011】
この課題を解決する従来技術として、特許文献1に示されるスピーカシステムがある。特許文献1に記載されている従来のスピーカシステムは、スピーカキャビネットの内部に一端が開放、他端が閉止された音響管を備えている。そして、音響管は、音響管の側壁面と、スピーカキャビネットの内部に生じる定在波の伝搬方向とが交差するように、スピーカキャビネットの内部に配置されている。特許文献1のスピーカシステムでは、上記のような構成とすることで、低音域の音圧レベルを低下させることなく、定在波の発生の抑制を図っている。
【0012】
しかしながら、上記従来技術では、音響管の共振作用が大きくなりやすく、低音域の音圧レベルが低下し、音圧ディップが生じる場合がある。
【0013】
そこで、本発明者は、低音域における音圧ディップを改善するために、下記の改善策を検討した。
【0014】
本開示の一態様に係るスピーカシステムは、音を出力するスピーカユニットと、前記スピーカユニットが取り付けられている壁面を有する筐体と、前記筐体の内部に配置され、一端が開放され、かつ、他端が閉止された音響管と、を備え、前記音響管は、前記音響管の側壁に形成されている開口部を有する。
【0015】
これによれば、音響管の側壁に開口部が形成されているため、音響管による共振作用を緩和することができる。このため、例えば、スピーカシステムにおける最低共振周波数f0付近の低音域の音圧における音圧ディップを改善することができ、良好な音圧周波数特性を得ることができる。
【0016】
また、前記開口部は、前記音響管が延びる方向に長いスリットであってもよい。
【0017】
このため、音響管による共振作用を効果的に緩和することができる。また、例えば、スリットの長さを調整することで、スピーカシステムの構成に応じて、音響管による共振作用を容易に調整することができる。
【0018】
また、前記開口部は、前記音響管が延びる方向に並ぶ複数の孔であってもよい。
【0019】
このため、開口部付近の強度を維持したまま、音響管による共振作用を効果的に緩和することができる。また、例えば、複数の孔それぞれの、音響管が延びる方向における長さ、または、複数の孔の数を調整することで、スピーカシステムの構成に応じて、音響管による共振作用を容易に調整することができる。
【0020】
また、前記音響管は、第一空間と、前記第一空間と連通しており、前記第一空間の、前記音響管が延びる方向に略直交する方向側に配置される第二空間と、前記側壁の一部であり、前記第一空間および前記第二空間が連通している連通部分を除く部分において、前記第一空間および前記第二空間を仕切るように配置されている仕切板と、を有し、前記開口部は、前記仕切板に形成されていてもよい。
【0021】
これによれば、音響管による共振作用を効果的に緩和することができる。
【0022】
また、前記音響管は、さらに、前記開口部に接続されている枝管を有してもよい。
【0023】
これによれば、音響管による共振作用を効果的に緩和することができる。
【0024】
また、さらに、前記開口部を覆う制動布を備えてもよい。
【0025】
また、さらに、前記音響管の内部の前記他端に配置されている吸音材を備えてもよい。
【0026】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1に係るスピーカシステムを
図1~
図5に示す。
図1は、本実施の形態1に係るスピーカシステムの表面の一部を切り欠いた平面図である。
図2は、
図1に係るスピーカシステムのII-II断面図である。
図3は、
図2の領域R1の拡大図である。
図4は、
図1に係るスピーカシステムのIV-IV断面図である。
図5は、音響管の側壁に形成された開口部の拡大図である。
図1から
図5において、スピーカシステム100の筐体20の前後方向をZ軸方向とし、Z軸方向から見たときの矩形状の筐体20の長辺方向をX軸方向とし、筐体20の短辺方向をY軸方向とする。
【0028】
スピーカシステム100は、スピーカユニット10と、直方体の薄型の筐体20とを備える。
【0029】
スピーカユニット10は、筐体20の前面板21に取付けられる。スピーカユニット10は、図示しない、振動板と、磁気回路と、ボイスコイルとにより構成される。
【0030】
筐体20は、前面板21と、背面板22と、筐体20のX軸方向の両側に配置される側面板23、24と、筐体20のY軸方向の両側に配置される側面板25、26と、筐体20の内部に配置される仕切板31~37とで構成される。筐体20は、前面側の部分を構成する第一筐体部20aと、後面側の部分を構成する第二筐体部20bとを有する。筐体20は、スピーカキャビネットである。
【0031】
筐体20は、側面板23~26および仕切板31~37が前後に分離する構成である。つまり、第一筐体部20aに形成された側面板23~26および仕切板31~37それぞれの前側の部分と、第二筐体部20bに形成された側面板23~26および仕切板31~37それぞれの後側の部分とが接合されることにより、側面板23~26および仕切板31~37が形成されている。
【0032】
図3に示すように、例えば、仕切板37は、第一筐体部20aに形成された前側仕切部37aと、第二筐体部20bに形成された後側仕切部37bとが接合されることにより構成されている。前側仕切部37aは、前側仕切部37aの前側の端面から突出しており、当該端面の長手方向に沿って突条に形成されている凸部37cを有する。後側仕切部37bは、後側仕切部37bの後側の端面に形成され、前側仕切部37aに形成されている凸部37cと嵌合する溝状の凹部37dを有する。他の仕切板31~36にも、仕切板37と同様に、互いに嵌合する凸部および凹部が形成されている。また、側面板23~26にも、仕切板37と同様に、互いに嵌合する凸部および凹部が形成されていてもよい。なお、凸部および凹部は、互いに嵌合する形状であれば、上記のような突条の形状および溝状の形状に限らない。例えば、凸部は、円柱形状であってもよいし、凹部は、円柱形状の穴であってもよい。このように、第一筐体部20aおよび第二筐体部20bは、凸部および凹部が嵌合することにより接合されるため、接合強度を向上させることができる。
【0033】
仕切板31~37は、筐体20の前面板21および背面板22に連結されている。仕切板31は、側面板25および側面板23から所定の間隔を空けて配置され、側面板25に略平行に配置されている。仕切板32は、側面板26から所定の間隔を空けて配置され、側面板26に略平行に配置されている。仕切板32は、一端が側面板23に連結されている。このように、仕切板31、32は、側面板25、26に平行に配置されており、Y軸方向から見た場合にX軸方向に長い矩形状を有する。このため、X軸方向に長い内部空間を有する筐体20のX軸方向に対する強度(剛性)を向上させることができ、良好な音圧周波数特性を得ることができる。
【0034】
仕切板33~37は、側面板23に略平行に配置され、側面板23を基準として、側面板23から所定の間隔置きに、筐体20のX軸方向に並んで配置されている。また、仕切板33、35では、一端が仕切板31に連結されており、他端が仕切板32から所定の間隔を空けて配置されている。また、仕切板34、36では、一端が仕切板31から所定の間隔を空けて配置されており、他端が仕切板32に連結されている。また、仕切板37では、両端がそれぞれ仕切板31および仕切板32に連結されている。なお、上述において、連結されている2つの部材は、隙間無く連結されているものとする。このように、仕切板33~37は、側面板23に平行に配置されており、X軸方向から見た場合にY軸方向に長い矩形状を有する。また、仕切板33~37は、仕切板31、32の間において、Y軸方向に亘って配置されている。このため、筐体20のY軸方向に対する強度(剛性)を向上させることができ、良好な音圧周波数特性を得ることができる。
【0035】
このように、筐体20の内部が仕切板31~37により仕切られることで、筐体20の内部には、音響管30が構成される。つまり、音響管30は、前面板21および背面板22の間の空間において、側面板25および仕切板31により区切られている第一音響管の空間A1と、側面板23および仕切板32、33により区切られている第二音響管の空間A2と、仕切板31~34により区切られている第三音響管の空間A3と、仕切板31、32、34、35により区切られている第四音響管の空間A4と、仕切板31、32、35、36により区切られている第五音響管の空間A5と、仕切板31、32、36、37により区切られている第六音響管の空間A6とを有する。ここで、音響管30を構成している前面板21、背面板22、および、仕切板31~37は、音響管30の側壁の一例である。
【0036】
空間A1は、X軸方向に長い長尺形状を有する。空間A1は、第一空間の一例である。空間A2~A6は、Y軸方向に長い長尺形状を有する。空間A2~A6は、第二空間の一例である。
【0037】
ここで、第一空間および第二空間は、仕切板31により仕切られている。つまり、仕切板31は、音響管30の側壁の一部であり、第一空間および第二空間が連通している連通部分を除く部分において、第一空間および第二空間を仕切るように配置されている部材である。また、仕切板31には、
図5に示すように、開口部42が形成されている。開口部42は、例えば、音響管30が延びる方向に長いスリットである。開口部42は、仕切板31に設けられているため、本実施の形態ではX軸方向に長いスリットである。開口部42は、仕切板31を貫通しており、第一空間および第二空間を連通させている。仕切板31は、上述したように、第一筐体部20aに形成されている前側仕切部31aと、第二筐体部20bに形成されている後側仕切部31bとにより構成されている。開口部42は、前側仕切部31aに形成されている前側切り欠き部42aと、後側仕切部31bに形成されている後側切り欠き部42bとにより構成されている。前側切り欠き部42aおよび後側切り欠き部42bは、Z軸方向で互いに対向しており、両者が合わさることで開口部42を構成している。なお、開口部42は、前側仕切部31aおよび後側仕切部31bの両方に切り欠きが設けられることで構成されているとしたが、これに限らずに、前側仕切部31aおよび後側仕切部31bのいずれかに、切り欠きが設けられることで構成されていてもよいし、スリット状の貫通孔が設けられることで構成されていてもよい。
【0038】
空間A1の長手方向における両端は、それぞれ、スピーカユニット10が配置されている空間、および、空間A2と連通している。空間A2の長手方向における両端は、それぞれ、空間A1および空間A3と連通している。空間A3の長手方向における両端は、それぞれ、空間A2および空間A4と連通している。空間A4の長手方向における両端は、それぞれ、空間A3および空間A5と連通している。空間A5の長手方向における両端は、それぞれ、空間A4および空間A6と連通している。空間A6の長手方向における一端は空間A5と連通しており、空間A6の長手方向における他端は閉止されている。
【0039】
音響管30は、空間A1~A6が直列に接続されてなる1本の管状の空間を有し、管状の空間は、一端(開口部40)が開放され、かつ、他端(終端部41)が閉止されている。また、空間A2~A6は、仕切板31側および仕切板34側の一方において交互に連通されることで、蛇行した形状を有する。
【0040】
以上のように構成されたスピーカシステム100について、
図4の音圧周波数特性を用いてその動作を説明する。筐体20の前面板21に取り付けられたスピーカユニット10に電気入力が印加されると、スピーカユニット10の振動板が振動して音が放射される。その際に筐体20の内部空間に放射された音は、筐体20の一部および仕切板31~37で構成される音響管30内にも伝達される。ここで、音響管30の終端部41は閉止されており、筐体20の内部の音が音響管30から外空間に放射されるものではない。
【0041】
以上のように、本実施の形態1が従来のスピーカシステムと大きく異なるのは、筐体20の内部に、側壁に開口部42が形成されている音響管30が配置されている点である。そこで、従来の密閉方式の薄型スピーカシステムと比較してその動作を説明する。
【0042】
ここで、
図1~
図3の実施の形態1に係る筐体20の内寸は、縦410mm、横210mm、厚み10mmである。また、動電型のスピーカユニット10は、口径8cm、厚み12mmである。さらに、仕切板31~37は、長さ180mm、お互いの間隔は30mmである。
【0043】
実施の形態1に係る筐体20は、縦寸法及び横寸法に対して厚み寸法の薄い直方体である。例えば、長手方向の寸法(縦方向)に対する厚み寸法の比が10以上、より好ましくは20以上の筐体20に、音響管30を配置するのが望ましい。
【0044】
実施の形態1に係る音響管30は、筐体20の内部の長手方向(この例では筐体20の長辺方向)の見かけ上の長さを減じるように配置される。言い換えれば、音響管30は、音響管30の側壁(仕切板37)と、筐体20の内部に生じる定在波の伝搬方向(長手方向)とが交差(直交)するように配置される。つまり、筐体20におけるスピーカユニット10および音響管30の並び方向(筐体20の長辺方向)に交差するように仕切板37が配置されている。
【0045】
この結果、筐体20の内部は、音響管30の存在する空間と、スピーカユニット10の背面容積A10とに音響的に分割される。なお、スピーカユニット10の背面容積A10とは、筐体20の内部空間のうちの仕切板31~37で囲まれた空間(すなわち、音響管30)を除く空間の容積を指す。
【0046】
これにより、スピーカユニット10からの音は、背面容積A10に放射された後で、音響管30に伝達されることになる。ここで、仕切板31~37の間隔が30mmと狭いので、音響的にみれば、背面容積A10に細長い音響管30が取り付けられた構成とみなせる。より具体的には、実施の形態1における音響管30は、仕切板31~37により折り返される音の通過路として、その全長が約400mm、断面は長方形であるがこれを等価的に円とみなせば直径が約φ20mmとみなせる。
【0047】
これにより、筐体20の長辺方向で対向していた側面板23、24の間には、背面容積A10と音響管30とが併存することになる。これにより、定在波の発生を効果的に抑制することができる。
【0048】
図6は、実施の形態1に係るスピーカシステムの音圧周波数特性を示す図である。
【0049】
図1~
図3で示すスピーカシステム100において、音響管30に開口部42を設けない従来の密閉型スピーカシステムの音圧周波数特性を
図6の特性61で示し、本実施の形態に係るスピーカシステムの音圧周波数特性を
図6の特性62で示す。特性61では、筐体20の音響管30による共振作用が大きくなり過ぎることで100~200Hzにおいて、音圧ディップが生じている。一方で、特性62では、特性61における音圧ディップが改善され、なだらかな形状の音圧周波数特性となっていることが分かる。
【0050】
以上のように、本実施の形態に係るスピーカシステム100によれば、音響管30の側壁に開口部が形成されているため、音響管による共振作用を緩和することができる。このため、スピーカシステム100における最低共振周波数f0付近の低音域の音圧における音圧ディップを改善することができ、良好な音圧周波数特性を得ることができる。
【0051】
また、本実施の形態に係るスピーカシステム100において、開口部42は、音響管30が延びる方向に長いスリットである。このため、音響管30による共振作用を効果的に緩和することができる。また、例えば、スリットの長さを調整することで、スピーカシステム100の構成に応じて、音響管30による共振作用を容易に調整することができる。
【0052】
また、本実施の形態に係るスピーカシステム100によれば、筐体20の内部で発生する定在波による音圧周波数特性の乱れが非常に少ない高音質のスピーカシステムが実現できる。また、音響管30の開口部40に吸音材を設けることがないため、筐体20内の音が吸音材で制動されることがなく、特に低音域での音圧レベルが低下することがない。
【0053】
なお、追加として
図1に示すように、音響管30の終端部41に吸音材50を配置してもよい。これにより、音響管30による共振が大きい場合は、より効果的に共振を抑制して平坦な音圧周波数特性とすることができる。この場合、筐体20の内部に吸音材50が存在することとなるが、吸音材50は、音響管30の閉止された終端部41に位置するため、音の通過が少なく、吸音材50の吸音効果による低音域の音圧レベル低下を抑制することができる。また、吸音材50は、例えば、難燃性の無機繊維などにより構成されていてもよい。
【0054】
なお、本実施の形態1では、音響管30を筐体20の長辺方向の側面板23の近傍に設けたが、さらに、側面板23と対向する側面板24の付近に併設してもよい。この場合、長辺方向で対向する2つの対向面が音響管30で構成されるため、定在波の発生は片側に配置した時よりさらに効果的に抑制できる。
【0055】
なお、上記の例では、縦寸法及び横寸法に対して厚み寸法の薄い直方体の筐体20に音響管30を配置したが、これに限ることなく、例えば、幅寸法及び奥行寸法に対して高さが高い柱状の筐体の内部に音響管を配置してもよい(以降の実施の形態も同様)。この場合、音響管は、筐体内部の見かけ上の高さを減じるように、筐体内部の上面板又は下面板の近傍に配置すればよい。
【0056】
なお、実施の形態1のスピーカシステム100は、密閉型スピーカシステムを例に説明したが、筐体20に、一端が開放され、かつ、他端が閉止された音響管が配置されることにより構成されるバスレフ型のスピーカシステムであっても構わない。バスレフ型のスピーカシステムに採用される音響管は、実施の形態1の音響管30と同様に、音響管の側壁に形成されている開口部を有する。
【0057】
(実施の形態2)
実施の形態2に係るスピーカシステムについて説明する。
【0058】
図7は、実施の形態2に係るスピーカシステムの平面図である。
【0059】
実施の形態2に係るスピーカシステム100Aは、実施の形態1に係るスピーカシステム100と異なり、直線状の空間を有する音響管30Aを備える。
【0060】
スピーカシステム100Aは、スピーカユニット10と、直方体の薄型の筐体20Aとを備える。筐体20Aの内部空間を囲う、前面板21、背面板22、側面板23~26とは、実施の形態1の筐体20が備えるものと同様であるので説明を省略する。筐体20Aは、実施の形態1の筐体20と比較して、仕切板31A~33Aの構成が異なる。
【0061】
仕切板31A~33Aは、筐体20の前面板21および背面板22に連結されている。仕切板31A、33Aは、側面板25、26に略平行に配置されている。仕切板31A、33Aは、側面板23から離れた位置に配置されていてもよい。また、仕切板31Aと仕切板33Aとは、所定の間隔を空けてY軸方向で対向して配置されている。仕切板32Aは、側面板23と略平行に配置されており、両端がそれぞれ仕切板31Aおよび仕切板33AのX軸プラス方向側の端部に連結されている。仕切板31A、33AのX軸マイナス方向側の端部には仕切板が連結されていない。
【0062】
このように、筐体20Aの内部が仕切板31A~33Aにより仕切られることで、筐体20Aの内部には、音響管30Aが構成される。音響管30Aは、前面板21および背面板22の間の空間において、仕切板31A~33Aにより音響管30Aの内部の空間A11と、それ以外の空間A12とに区切られる。音響管30Aは、1本の直線状の管状の空間を有し、管状の空間は、一端(開口部40A)が開放され、かつ、他端(終端部41A)が閉止されている。
【0063】
仕切板33Aには、開口部42Aが形成されている。開口部42Aは、実施の形態1で説明した開口部42と同様に、音響管30Aが延びる方向(X軸方向)に長いスリットである。
【0064】
このような構成のスピーカシステム100Aであっても、音響管30Aの側壁である仕切板33Aに開口部42Aが形成されているため、音響管30Aによる共振作用を緩和することができる。このため、実施の形態2のスピーカシステム100Aであっても、実施の形態1のスピーカシステム100と同様の効果が奏される。
【0065】
(実施の形態3)
実施の形態3におけるスピーカシステムについて説明する。
【0066】
図8は、実施の形態3に係るスピーカシステムの平面図である。
【0067】
実施の形態3に係るスピーカシステム100Bは、実施の形態2に係るスピーカシステム100Aと比較して、開口部42Bに接続されている枝管38Bを音響管30Bが有する点が異なる。
【0068】
スピーカシステム100Bは、スピーカユニット10と、直方体の薄型の筐体20Bとを備える。筐体20Bの内部空間を囲う、前面板21、背面板22、側面板23~26とは、実施の形態2の筐体20が備えるものと同様であるので説明を省略する。筐体20Bは、実施の形態2の筐体20と比較して、仕切板31B~35Bの構成が異なる。
【0069】
仕切板31B~35Bは、筐体20の前面板21および背面板22に連結されている。仕切板31B、33Bは、側面板25、26に略平行に配置されている。仕切板31B、33Bは、側面板23から離れた位置に配置されていてもよい。また、仕切板31Bと仕切板33Bとは、所定の間隔を空けてY軸方向で対向して配置されている。仕切板32Bは、側面板23と略平行に配置されており、両端がそれぞれ仕切板31Bおよび仕切板33BのX軸プラス方向側の端部に連結されている。仕切板31B、33BのX軸マイナス方向側の端部には仕切板が連結されていない。
【0070】
仕切板33Bには、開口部42Bが形成されている。仕切板33Bの開口部42Bが形成されている部分には、仕切板34B、35Bが連結されている。仕切板34B、35Bは、側面板23に略平行である。つまり、仕切板34B、35Bは、仕切板33Bに交差する方向に配置されている。
【0071】
このように、筐体20Bの内部が仕切板31B~35Bにより仕切られることで、筐体20Bの内部には、実施の形態2に係る音響管30Aと同様のX軸方向に長尺形状の内部の空間A21を有する音響管30Bが構成される。また、音響管30Bは、仕切板34B、35Bにより、開口部42Bの周囲が仕切られることで形成される枝管38Bを有する。音響管30Bは、前面板21および背面板22の間の空間において、仕切板31B~35Bにより音響管30Bの内部の空間A21と、それ以外の空間A22とに区切られる。音響管30Bは、1本の直線状の管状の空間と、枝管38Bで囲われた空間とを有し、管状の空間は、一端(開口部40B)が開放され、かつ、他端(終端部41B)が閉止されており、枝管38Bに連通する開口部42Bをさらに有する。
【0072】
このような構成のスピーカシステム100Bであっても、音響管30Bの側壁である仕切板33Bに開口部42Bが形成されているため、音響管30Bによる共振作用を緩和することができる。このため、実施の形態3のスピーカシステム100Bであっても、実施の形態2のスピーカシステム100Aと同様の効果が奏される。
【0073】
(その他の実施の形態)
上記実施の形態1、2では、開口部42、42Aは、スリットであるとしたが、これに限らない。例えば、
図9に示すように、上記実施の形態1、2における開口部42の代わりに、音響管30が延びる方向、つまり、筐体20の長辺方向に並ぶ複数の孔により構成される開口部142を採用してもよい。この場合、仕切板131は、第一筐体部120aに形成されている前側仕切部131aと、第二筐体部120bに形成されている後側仕切部131bとにより構成されている。開口部142は、前側仕切部131aに形成されている複数の前側切り欠き部142aと、後側仕切部131bに形成されている複数の後側切り欠き部142bとにより構成されている。複数の前側切り欠き部142a、および、複数の後側切り欠き部142bは、Z軸方向で互いに対向しており、両者が合わさることで開口部142を構成している。なお、開口部142は、前側仕切部131aおよび後側仕切部131bの両方に切り欠きが設けられることで構成されているとしたが、これに限らずに、前側仕切部131aおよび後側仕切部131bのいずれかに、切り欠きが設けられることで構成されていてもよいし、複数の貫通孔が設けられることで構成されていてもよい。
【0074】
上記実施の形態1~3に係るスピーカシステム100、100A、100Bにおいて、開口部42、42A、42Bには、開口部42、42A、42Bを覆う制動布が配置されていてもよい。例えば、
図10に示すように、スピーカシステム100において開口部42を覆う制動布70が配置されていてもよい。制動布70は、例えば、複数本の繊維が縦横に交差しているメッシュ状の布である。制動布70は、例えば、難燃性の無機繊維により構成されていてもよい。
【0075】
上記実施の形態1~3に係るスピーカシステム100、100A、100Bでは、音響管30、30A、30Bを構成する仕切板31~37、31A~33A、31B~35Bは、側面板25、26または側面板23に略平行に配置されるとしたが、これに限らずに、側面板25、26または側面板23に対して傾いた姿勢で配置されていてもよい。つまり、筐体の内部に配置され、一端が開放され、かつ、他端が閉止された音響管であって、当該音響管の側壁に形成されている開口部を有する構成の音響管を備えるスピーカシステムであればよい。つまり、この構成のスピーカシステムであれば、音圧周波数特性における低音域の音圧ディップを改善する効果が奏される。
【0076】
上記実施の形態1~3に係るスピーカシステム100、100A、100Bは、音響管30、30A、30Bの音響インピーダンスのインダクタンス成分及び筐体20、20A、20Bの音響コンプライアンスによって定まる共振周波数が、筐体20、20A、20Bに取り付けられた状態のスピーカユニット10を音圧のピーク周波数に実質的に一致するように設計されてもよい。この時のピーク周波数は、筐体20、20A、20Bに取り付けられていない状態のスピーカユニット10の最低共振周波数より高い周波数である。すなわち、スピーカユニット10を筐体20、20A、20Bに取付けた場合の最低共振周波数fOBにほぼ一致させてもよい。
【0077】
なお、音響管30、30A、30Bの音響インピーダンスのインダクタンス成分は、音響管30、30A、30Bの長さ(又は、音響管30、30A、30Bの断面積)によって変化する。より具体的には、音響管30、30A、30Bの長さが長い程、インダクタンス成分も大きくなる。また、筐体20、20A、20Bの音響コンプライアンスは、筐体20、20A、20Bの容積によって変化する。より具体的には、筐体20、20A、20Bの容積が大きい程、音響コンプライアンスも大きくなる。
【0078】
そして、音響管30、30A、30Bの音響インピーダンスのインダクタンス成分をM、筐体20、20A、20Bの音響コンプライアンスをCとすると、例えば、下記の式1で共振周波数f0を得ることができる。すなわち、共振周波数f0は、音響管30、30A、30Bの長さ(又は断面積)、及び筐体20、20A、20Bの容積を調整することにより、任意の値に設定することができる。
【0079】
【0080】
また、上記実施の形態1~3に係るスピーカシステム100、100A、100Bでは、筐体20、20A、20Bの内部空間容積に対する音響管30、30A、30Bの内部空間容積の比率を、スピーカユニット10の音圧ピークの帯域幅が大きい程、大きく設計してもよい。
【0081】
以上、一つまたは複数の態様に係るスピーカシステムについて、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の範囲内に含まれてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示は、特に、小型化及び薄型化が進むテレビやオーディオなどのAV機器、携帯端末機器、自動車、鉄道、航空機などの移動体等に搭載されるスピーカシステムとして広範囲な適用が可能である。
【符号の説明】
【0083】
10 スピーカユニット
20、20A、20B 筐体
20a、120a 第一筐体部
20b、120b 第二筐体部
21 前面板
22 背面板
23~26 側面板
30、30A、30B 音響管
31~37、31A~33A、31B~35B、131 仕切板
31a、37a、131a 前側仕切部
31b、37b、131b 後側仕切部
37c 凸部
37d 凹部
38B 枝管
40、42、40A、42A、40B、42B、142 開口部
41、41A 終端部
42a、142a 前側切り欠き部
42b、142b 後側切り欠き部
50 吸音材
61、62 特性
70 制動布
100、100A、100B スピーカシステム
A1~A6、A11、A12、A21、A22 空間
A10 背面容積