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特許7459371リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240325BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240325BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023507246
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2022027496
(87)【国際公開番号】W WO2023286793
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2021115519
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】沖山 陽彦
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 有志
(72)【発明者】
【氏名】片山 慶一
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特許第6860740(JP,B1)
【文献】国際公開第2021/066174(WO,A1)
【文献】特開2020-189770(JP,A)
【文献】特開2004-090335(JP,A)
【文献】特開2018-127397(JP,A)
【文献】特開2016-028109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散樹脂(A)、カーボンナノチューブ(B)、及び水を含有するカーボンナノチューブ分散液であり、前記分散樹脂(A)が、極性官能基含有樹脂(a)を含有し、
前記極性官能基含有樹脂(a)がイオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)を含み、
前記イオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)が、スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1)であって、該スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1)におけるスルホン酸基を有するモノマー単位の含有割合が、前記イオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)を構成するモノマー単位の総質量に対し、0.1~30質量%であり、前記スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1)のケン化度が90~99.9%であることを特徴とするリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
前記極性官能基含有樹脂(a)が、カルボキシメチルセルロース類(a2)を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ(B)のBET比表面積が50~1800m/gであり、カーボンナノチューブ(B)のラマンスペクトルにおいて、1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際のG/D比が5~200であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ(B)のBET比表面積が50~1800m/gであり、カーボンナノチューブ(B)のラマンスペクトルにおいて、1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際のG/D比が70~130であり、
インピーダンス測定により得られる、縦軸にリアクタンス、横軸に周波数をプロットしたBodeプロットにおいて、周波数170~600kHzの範囲にリアクタンスの極小値が存在し、周波数170~600kHzの範囲に存在する前記リアクタンスの最小値が、周波数1kHzにおけるリアクタンスの値の1.8倍以上である、請求項1に記載のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ(B)が単層カーボンナノチューブである、請求項1に記載のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ(B)のBET比表面積が50~1800m/gである、請求項に記載のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液に、さらに電極活物質を配合してなるリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
【請求項8】
請求項に記載のカーボンナノチューブ分散液から形成されるリチウムイオン電池用電極層。
【請求項9】
請求項に記載のリチウムイオン電池用電極層と、金属集電体と、を有するリチウムイオン電池用電極。
【請求項10】
請求項に記載のリチウムイオン電池用電極を正極及び/又は負極に有するリチウムイオン電池。
【請求項11】
請求項に記載のリチウムイオン電池用電極を正極に有するリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液に関する。
本願は、2021年7月13日に、日本に出願された特願2021-115519号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、二次電池の一種であって、電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う二次電池である。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いこと、充電エネルギーの保持特性が優れていること、見た目上の容量が減るいわゆるメモリー現象が小さいこと等の優れた特性を有する。従って、リチウムイオン二次電池は、携帯電話、スマートフォン、パーソナルコンピュータ、ハイブリッド自動車、電気自動車等の幅広い分野で使用されている。
ここで、リチウムイオン二次電池は、主に正極板、負極板等を備えている。上記正極板及び負極板は、電極芯材(集電体とも言う)の表面に電極層(電極合材層)が形成されたものである。当該電極層は、導電助剤(カーボンナノチューブ等)、バインダー及び溶媒を含むカーボンナノチューブ分散液に電極活物質を混和した分散液を電極芯材の表面に塗布し、これを乾燥することで製造することができる。
上記のように電極層の製造は、電極芯材の表面に、電極活物質を含有するリチウムイオン電池電極用リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液を塗布することにより行われるため、カーボンナノチューブ分散液は、低粘度であることが求められる。
かかる状況の下、特許文献1では、アニオン性界面活性剤(A)、ノニオン性界面活性剤(B)およびアニオン性界面活性剤(A)とは異なる化合物であるアニオン性界面活性剤(C)を含有する水溶液中で、多層カーボンナノチューブが分散していることを特徴とする多層カーボンナノチューブ水分散液が開示されている。また、特許文献2は(a)多糖類と、(b)カーボンナノチューブと、(c)パーフルオロアルキル基を有する水溶性化合物とからなるカーボンナノチューブ水分散液が開示されている。
【0003】
しかしながら、これらの発明はカーボンナノチューブの分散性または貯蔵安定性が劣る場合があり、分散剤を大量に配合すると電池性能(内部抵抗、容量)に影響してしまうためその配合量には制限がある。従って、少ない配合量で導電ペーストの粘度を低下させることができる分散剤が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2010/041750号
【文献】特開2012-56788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決すべき課題は、分散樹脂の配合量が比較的少なくても塗布しやすい粘度を有するリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる状況の下、本発明者らは鋭意検討した結果、極性官能基含有樹脂(a)を一定量含む分散樹脂(A)を用いることにより上記課題を解決できることを見出した。本発明はかかる新規の知見に基づくものである。
従って、本発明は以下の項を提供する。
[1] 分散樹脂(A)、カーボンナノチューブ(B)、及び水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、前記分散樹脂(A)が、極性官能基含有樹脂(a)を含有することを特徴とするリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
[2] 前記極性官能基含有樹脂(a)が、イオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)及び/又はカルボキシメチルセルロース類(a2)であることを特徴とする[1]に記載のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
[3] 前記イオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)が、スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1)及び/又はカルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-2)であることを特徴とする[2]に記載のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
[4] 前記イオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)が、スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1)であって、該スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1)におけるスルホン酸基を有するモノマー単位の含有割合が、前記イオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)を構成するモノマー単位の総質量に対し、0.1~30質量%であることを特徴とする[3]に記載のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
[5] 前記イオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)のケン化度が50~100mol%であることを特徴とする[2]に記載のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
[6] 前記カーボンナノチューブ(B)のBET比表面積が50~1800m/gであり、カーボンナノチューブ(B)のラマンスペクトルにおいて、1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際のG/D比が5~200であることを特徴とする[1]に記載のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
[7] インピーダンス測定により得られる、縦軸にリアクタンス、横軸に周波数をプロットしたBodeプロットにおいて、周波数170~600kHzの範囲にリアクタンスの極小値が存在し、周波数170~600kHzの範囲に存在する前記リアクタンスの最小値が、周波数1kHzにおけるリアクタンスの値の1.8倍以上である、[1]に記載のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
[8] 分散樹脂(A)、カーボンナノチューブ(B)、及び水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、
前記分散樹脂(A)が、極性官能基含有樹脂(a)を含有することを特徴とするカーボンナノチューブ分散液であり、
インピーダンス測定により得られる、縦軸にリアクタンス、横軸に周波数をプロットしたBodeプロットにおいて、周波数170~600kHzの範囲に前記リアクタンスの極小値が存在する、リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
[9] 前記インピーダンス測定により得られる、縦軸にリアクタンス、横軸に周波数をプロットしたBodeプロットにおいて、周波数170~600kHzの範囲にリアクタンスの極小値が存在し、周波数170~600kHzの範囲に存在する前記リアクタンスの最小値が、周波数1kHzにおけるリアクタンスの値の1.8倍以上である、[8]に記載のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
[10] [1]~[9]のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液に、さらに電極活物質を配合してなるリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液。
[11] [10]に記載のカーボンナノチューブ分散液から形成されるリチウムイオン電池用電極層。
[12] [11]に記載のリチウムイオン電池用電極層と、金属集電体と、を有するリチウムイオン電池用電極。
[13] [12]に記載のリチウムイオン電池用電極を正極及び/又は負極に有するリチウムイオン電池。
[14] [12]に記載のリチウムイオン電池用電極を正極に有するリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液に配合される分散樹脂(A)は、従来リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液に用いられていた顔料分散樹脂よりも比較的少ない配合量で充分にペーストの粘度を低下させることができ、貯蔵安定性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】カーボンナノチューブ(B)のストラクチャーの成長の度合いとBodeプロットとの相関を示した説明図である。
図2】カーボンナノチューブ(B)の一次粒子の凝集体の粒度分布と値(Y)に対する最小値(X)の割合との相関を示した説明図である。
図3】リチウムイオン電池用電極層を有するリチウムイオン電池用電極の一例を示した断面図である。
図4】リチウムイオン電池の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
また、本明細書において、「リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液」を「カーボンナノチューブ分散液」、「カーボンナノチューブ」を「CNT」と短縮して記載する場合がある。
【0010】
≪リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液≫
本発明は、分散樹脂(A)、カーボンナノチューブ(B)、及び水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、分散樹脂(A)が、極性官能基含有樹脂(a)を含有するリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液である。
なお、本願の「カーボンナノチューブ分散液」は、溶媒として水を必ず含有するため「カーボンナノチューブ水分散液」と言い換えることもできる。
【0011】
<分散樹脂(A)>
本発明で用いることができる分散樹脂(A)は、極性官能基含有樹脂(a)を含有する。
【0012】
<極性官能基含有樹脂(a)>
上記極性官能基含有樹脂(a)としては、高極性の官能基を含有する樹脂であり、極性官能基としては、イオン性及び/又はノニオン性の官能基である。イオン性官能基としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基、メルカプト基等の酸性官能基、一級、二級及び三級アミノ基、アンモニウム基、イミノ基、並びに、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、イミダゾール、トリアゾール等の含窒素ヘテロ環基等の塩基性官能基が挙げられる。ノニオン性官能基としては、例えば、アミド基、ポリオキシアルキレン基、ピロリドン基などが挙げられる。
なかでも、極性官能基含有樹脂(a)としては、イオン性極性官能基含有樹脂(a)が好ましく、イオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)及び/又はカルボキシメチルセルロース類(a2)がより好ましく、カルボキシメチルセルロース類(a2)がさらに好ましい。
【0013】
[イオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)]
上記イオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)としては、前述のイオン性官能基を有するポリビニルアルコール樹脂である。なかでも、イオン性官能基として酸性官能基を有することが好ましく、スルホン酸基又はカルボキシル基を有することがより好ましく、スルホン酸基を有することが特に好ましい。
上記酸性官能基は遊離の酸の形であっても、あるいはナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等の形であってもよい。
イオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)としては、スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1)及び/又はカルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-2)が好ましく、スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1)がより好ましい。
【0014】
(スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1))
上記スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1)は、例えば、以下の方法で製造することができる。
(1)スルホン酸基及び重合性不飽和基を含有する化合物と、酢酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルとを共重合し、得られる重合体を更にケン化する方法。
(2)ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等をポリビニルアルコールにマイケル付加させる方法。
(3)ポリビニルアルコールを硫酸化合物溶液(硫酸水溶液や亜硫酸ナトリウム水溶液等)で加熱する方法。
(4)ポリビニルアルコールをスルホン酸基含有アルデヒド化合物でアセタール化する方法。
(5)スルホン酸基を有するアルコール、アルデヒド及びチオール等の官能基を有する化合物を連鎖移動剤として共存させ、ポリビニルアルコールの重合をする方法。
【0015】
いずれの製造方法でも好適に用いることができるが、特に(1)のスルホン酸基及び重合性不飽和基を含有する化合物と酢酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルとを共重合し、得られる重合体を更にケン化する方法が好ましい。
上記スルホン酸基及び重合性不飽和基を含有する化合物としては、脂肪酸ビニルエステルと共重合が可能な化合物であれば特に制限なく用いることができ、具体的には、例えば、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸;ナトリウムスルホプロピル2-エチルヘキシルマレート、ナトリウムスルホプロピルトリデシルマレート、ナトリウムスルホプロピルエイコシルマレート等のスルホアルキルマレート;2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、N-スルホイソブチレンアクリルアミドナトリウム等のスルホアルキル(メタ)アクリルアミド;3-メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4-メタクリロイルオキシブタンスルホン酸、3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、メタクリル酸ナトリウム-4-スチレンスルホネート、ナトリウム2-スルホエチルアクリレート等のスルホアルキル(メタ)アクリレート;アリルオキシベンゼンスルホン酸、メタアリルオキシベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、オレイル2-ヒドロキシ-〔3-アリルオキシ〕-プロピルスルホサクシネートアンモニウム塩等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0016】
スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂中におけるスルホン酸基を有する重合性不飽和モノマー単位の含有割合は、スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を構成するモノマー単位の総質量に対し、0.1~30質量%が好ましく、より好ましくは0.2~10質量%である。
【0017】
本発明において、「樹脂(a1-1)におけるスルホン酸基を有するモノマー単位の含有割合」とは、樹脂(a1-1)の原料となるモノマー混合物中のスルホン酸基を有するモノマーの含有割合を意味する。従って、樹脂(a1-1)中のスルホン酸基を有するモノマーの含有割合が、前記樹脂(a1-1)を構成するモノマー単位の総質量に対し、0.1~30質量%である、とは、樹脂(a1-1)が、原料モノマーの総質量に対し、スルホン酸基を有するモノマーを0.1~30質量%含む原料モノマーの共重合体であることを意味する。同様に、「樹脂Y中のモノマー単位Xの含有割合」とは、樹脂Yの原料となるモノマー混合物中のモノマーXの含有割合を意味する。従って、樹脂Y中の重合性不飽和基含有モノマー単位Xの含有割合が、前記樹脂Yを構成するモノマー単位の総質量に対し、a質量%である、とは、樹脂Yが、原料モノマーの総質量に対し、モノマーXをa質量%含む原料モノマーの共重合体であることを意味する。また、ケン化により加水分解した場合はケン化後の質量に換算する。
【0018】
上記スルホン酸基及び重合性不飽和基を含有する化合物と共重合する脂肪酸ビニルエステルとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプロン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、クロトン酸ビニル、アジピン酸ジビニル、及びその誘導体が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。なかでも酢酸ビニルが好ましい。
【0019】
その他の共重合可能な重合性不飽和モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;アルキル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有モノマー;アリルグリシジルエーテル等のアリルエーテル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル系化合物;アルキルビニルエーテル、4-ヒドロキシビニルエーテル等のビニルエーテル等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0020】
スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1)の重合度としては、100~4,000であることが好ましく、100~3,000であることがより好ましい。
なお、本明細書において、重合度は、樹脂の分子量を基に算出することができる。
上記分子量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。具体的には、ゲルパーミュエーションクロマトグラフとして、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G-4000HXL」、「TSKgel G-3000HXL」、「TSKgel G-2500HXL」および「TSKgel G-2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の4本を使用し、移動相テトラヒドロフラン、測定温度40℃、流速1mL/minおよび検出器RIの条件下で測定することができる。
【0021】
スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1)のケン化度としては、60~100mol%の範囲内であることが好ましく、70~100mol%の範囲内であることがより好ましく、80~100mol%の範囲内であることが更に好ましく、90~99.9mol%の範囲内であることが特に好ましい。
なお、本明細書において、ケン化度は、JIS K6726-1994に準拠した測定方法、或いは当該測定方法を基に樹脂組成に合わせて修正計算した測定方法により測定することができる。
通常、低ケン化度(低極性)になると水性溶媒への溶解性が悪くなる。また、高ケン化度(高極性)になると水性溶媒への溶解性は良いものの、水性溶媒中に樹脂が溶け易くなるためカーボンナノチューブへの吸着性が悪くなり立体反発層が形成できず分散液の分散性や貯蔵安定性は劣ることとなる。しかし、本発明において、イオン性ポリビニルアルコール樹脂(スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂及びカルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂等)がカーボンナノチューブ分散液の分散性や貯蔵安定性に効果を奏する理由としては、適度な極性を有する樹脂の主鎖により水性溶媒への溶解性を確保しつつ、樹脂の側鎖に特定のイオン性官能基を導入することにより、カーボンナノチューブへの吸着性を向上できるため、水性溶媒への溶解性と顔料への吸着性が両立できたと考えられる。
【0022】
上記樹脂(a1-1)の重合方法としては、それ自体既知の重合方法、例えば、有機溶媒中で溶液重合する方法により製造することができるが、これに限られるものではなく、例えば、バルク重合や乳化重合や懸濁重合等でもよい。溶液重合を行う場合には、連続重合でもよいしバッチ重合でもよく、モノマーは一括して仕込んでもよいし、分割して仕込んでもよく、あるいは連続的又は断続的に添加してもよい。
【0023】
溶液重合において使用する重合開始剤は、特に限定するものではないが、具体的には、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルパレロニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルパレロニトリル)等のアゾ化合物;アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物;ジイソプピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t-ブチルパーオキシネオデカネート、クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリル等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0024】
重合反応温度は、特に限定するものではないが、通常30~200℃程度の範囲で設定することができる。
【0025】
ケン化をする場合の条件としては、特に限定されず、公知の方法でケン化することができる。例えば、メタノール等のアルコール溶液中において、アルカリ触媒又は酸触媒の存在下で、分子中のエステル部を加水分解することで行うことができる。
アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物や、アルコラート等を用いることができる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p-トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができるが、水酸化ナトリウムを用いることが望ましい。
ケン化反応の温度は、特に限定されないが、好ましくは10~70℃、より好ましくは30~40℃の範囲であることが望ましい。反応時間は、特に限定されないが、30分~3時間の範囲で行なうことが望ましい。
【0026】
上記樹脂(a1-1)は、合成終了後に脱溶媒及び/又は溶媒置換することで、固体又は任意の溶媒に置き換えた樹脂溶液にすることができる。
脱溶媒の方法としては、常圧で加熱により行ってもよいし、減圧下で脱溶媒してもよい。
溶媒置換の方法としては、脱溶媒前、脱溶媒途中、又は脱溶媒後のいずれの段階で置換溶媒を投入してもよい。
【0027】
(カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-2))
上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-2)としては、カルボキシル基を含有しており、かつケン化度が60~100mol%であることが好ましく、70~100mol%の範囲内であることがより好ましく、80~100mol%の範囲内であることが更に好ましく、90~99.9mol%の範囲内であることが特に好ましい。
【0028】
上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-2)の重合度としては、100~4,000であることが好ましく、100~3,000であることがより好ましい。
【0029】
上記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-2)は、それ自体既知の重合方法、例えば、カルボキシル基及び重合性不飽和基を含有する化合物と、酢酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルとを共重合し、得られる重合体を更にケン化する方法により得ることができる。
また、ポリビニルアルコール樹脂を合成した後に変性してカルボキシル基を導入(含有)することもできる。
【0030】
カルボキシル基を有する重合性不飽和モノマー単位の含有割合は、前記カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-2)を構成するモノマー単位の総質量に対し、0.1~30質量%が好ましく、より好ましくは0.2~10質量%であり、さらに好ましくは0.2~5質量%である。
【0031】
樹脂(a1-2)の合成方法等に関しては、樹脂(a1-1)で記載した方法を好適に用いることができる。
【0032】
(その他のイオン性官能基を含むポリビニルアルコール樹脂(a1-3))
前記イオン性ポリビニルアルコール樹脂(a1)としては、前述のスルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-1)及びカルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(a1-2)以外に、スルホン酸基及びカルボキシル基以外のイオン性官能基を含むポリビニルアルコール樹脂(a1-3)を用いることができる。
スルホン酸基及びカルボキシル基以外のイオン性官能基については、前述した酸性官能基及び塩基性官能基を好適に用いる事ができ、なかでも酸性官能基が好ましい。
【0033】
上記樹脂(a1-3)としては、スルホン酸基及びカルボキシル基は非含有であり、かつケン化度が60~100mol%であることが好ましく、70~100mol%の範囲内であることがより好ましく、80~100mol%の範囲内であることが更に好ましく、90~99.9mol%の範囲内であることが特に好ましい。
【0034】
スルホン酸基及びカルボキシル基以外のイオン性官能基を含むポリビニルアルコール樹脂(a1-3)の重合度としては、100~4,000であることが好ましく、100~3,000であることがより好ましい。
【0035】
上記スルホン酸基及びカルボキシル基以外のイオン性官能基を含むポリビニルアルコール樹脂(a1-3)は、それ自体既知の重合方法、例えば、スルホン酸基及びカルボキシル基以外のイオン性官能基及び重合性不飽和基を含有する化合物と、酢酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルとを共重合し、得られる重合体を更にケン化する方法により得ることができる。
【0036】
スルホン酸基及びカルボキシル基以外のイオン性官能基を有する重合性不飽和モノマー単位の含有割合は、前記ポリビニルアルコール樹脂(a1-3)を構成するモノマー単位の総質量に対し、0.1~30質量%が好ましく、より好ましくは0.2~10質量%であり、さらに好ましくは0.2~5質量%である。
【0037】
樹脂(a1-3)の合成方法等に関しては、樹脂(a1-1)で記載した方法を好適に用いることができる。
【0038】
[カルボキシメチルセルロース類(a2)]
上記カルボキシメチルセルロース類(a2)は、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部または全部がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を持つ化合物であり、塩の形態であってもよい。カルボキシメチルセルロースの塩としては、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム塩などの金属塩などを挙げられる。
【0039】
上記カルボキシメチルセルロース類の重量平均分子量としては、5,000~500,000が好ましく、10,000~100,000がより好ましい。
なお、本明細書において、重量平均分子量は、前述の「重合度の測定方法」で記載したゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いた分子量の測定方法により測定することができる。
【0040】
上記カルボキシメチルセルロース類のエーテル化度としては、0.5~1.5であることが好ましく、0.6~1.2であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、エーテル化度は、灰化測定法を用いて測定される。具体的には、カルボキシメチルセルロース類0.6gを105℃で4時間乾燥する。乾燥物の質量を精秤した後、ろ紙に包んで磁製ルツボ中で灰化する。灰化物を500mLビーカーに移し、水250mLおよび0.05mol/Lの硫酸水溶液35mLを加えて30分間煮沸する。冷却後、過剰の酸を0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液で逆滴定する。なお、指示薬としてフェノールフタレインを用いる。測定結果を用いて、下記式よりエーテル化度を算出する。
エーテル化度=162×A/(10000-80A)
式中、A=(af-bf1)/乾燥物の質量(g)
A:試料1g中の結合アルカリに消費された0.05mol/Lの硫酸水溶液の量(mL)
a:0.05mol/Lの硫酸水溶液の使用量(mL)
f:0.05mol/Lの硫酸水溶液の力価
b:0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液の滴定量(mL)
f1:0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液の力価
【0041】
上記カルボキシメチルセルロース類の製造方法は特に限定はされず、それ自体既知の製造方法により製造することができる。例えば、セルロースにアルカリを反応させ、該アルカリ変性セルロースにエーテル化剤を添加してエーテル化反応を行うことで製造することができる。
【0042】
<その他の樹脂>
分散樹脂(A)には、上記の樹脂(a)以外の樹脂を任意選択で配合してもよい。
例えば、樹脂(a)以外のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩素系樹脂、フッ素系樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びこれらの複合樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
なかでも、少なくとも1種のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いることが好ましい。
また、これらの樹脂は、顔料分散樹脂として、又は顔料分散後の添加樹脂としてカーボンナノチューブ分散液に配合することができる。
【0043】
<カーボンナノチューブ(B)>
上記カーボンナノチューブ(B)としては、単層カーボンナノチューブ、又は多層カーボンナノチューブをそれぞれ単独で、又は組合せて使用することができる。特に粘度、導電性及びコストの関係から、単層カーボンナノチューブを用いることが好ましい。
【0044】
上記カーボンナノチューブ(B)の外径の平均値としては、0.5~30nmであることが好ましく、0.7~20nmであることがより好ましく、1~10nmであることが特に好ましい。
なお、本明細書において、カーボンナノチューブ(B)の外径の平均値は、任意に抽出した100個のカーボンナノチューブを透過型電子顕微鏡によって観測し、それぞれの外径を計測し、その平均値を求めることにより得られた値である。
【0045】
上記カーボンナノチューブ(B)の長さの平均値としては、1~100μmであることが好ましく、5~80μmであることがより好ましく、10~60μmであることが特に好ましい。
なお、本明細書において、カーボンナノチューブ(B)の長さの平均値は、任意に抽出した100個のカーボンナノチューブを透過型電子顕微鏡によって観測し、それぞれの長さを計測し、その平均値を求めることにより得られた値である。
【0046】
カーボンナノチューブ(B)の一次粒子の凝集体の平均粒子径(D50)としては、7μm未満であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、4μm未満であることが特に好ましい。
なお、本明細書において、平均粒子径(D50)は、カーボンナノチューブ分散液を水で測定濃度に希釈及び攪拌し、レーザー回折散乱法を用いた粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、製品名:マイクロトラックMT3000)で体積基準の粒度分布測定を行い、算出した値である。
【0047】
上記カーボンナノチューブ(B)のBET比表面積としては、粘度及び導電性の関係から、50~1800m/gの範囲内であることが好ましく、600~1600m/gの範囲内であることがより好ましく、800~1400m/gの範囲内であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、BET比表面積は、「JIS Z8830 ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に準拠した測定方法により得られた値である。
【0048】
一般的に単層カーボンナノチューブは比表面積が大きく、多層カーボンナノチューブは比表面積が小さいため、電極用途としては、比表面積が大きい単層カーボンナノチューブが好適である。
【0049】
また、上記カーボンナノチューブ(B)のラマンスペクトルにおいて、1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際のG/D比が、通常5~200であり、20~180であることが好ましく、40~150であることがより好ましく、70~130であることがさらに好ましい。
ここで、G/D比が5以上であると結晶性が高く導電性に優れ、上限としては、例えば200程度である。
なお、本明細書において、カーボンナノチューブのラマンスペクトルは、ラマン顕微鏡(XploRA、株式会社堀場製作所社製)にカーボンナノチューブを設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行い得られた値である。G/D比は、得られたピークの内、スペクトルで1560~1600cm-1の範囲内で最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内で最大ピーク強度をDとした際のG/Dの比をカーボンナノチューブのG/D比として算出した値である。
【0050】
上記カーボンナノチューブ(B)は1種類のカーボンナノチューブであることが好適である。
【0051】
<カーボンナノチューブ(B)以外の導電性顔料>
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブ以外の導電性顔料を含んでいてもよい。具体的には、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、グラフェン、黒鉛等の導電性カーボン(B-2)が挙げられる。これらの導電性カーボン(B-2)は、2種以上を組み合せて用いることもできる。
【0052】
上記導電性カーボン(B-2)の平均1次粒子径としては、粘度及び導電性の関係から、10~80nmの範囲内であることが好ましく、20~50nmの範囲内であることがさらに好ましい。
ここで、上記平均1次粒子径とは、顔料を電子顕微鏡で観察し、100個の粒子について、それぞれ投影面積を求めてその面積に等しい円を仮定したときの直径を求め、100個の粒子の直径を単純平均して求めた1次粒子の平均径をいう。なお、顔料が凝集状態になっていた場合は、凝集粒子を構成している1次粒子で計算をする。
【0053】
上記導電性カーボン(B-2)のBET比表面積としては、粘度及び導電性の関係から、1~500m/gの範囲内であることが好ましく、30~150m/gの範囲内であることがさらに好ましい。
【0054】
上記導電性カーボン(B-2)は、顔料分散性の関係から、塩基性であることが好ましく、具体的には、pHが7.5以上であることが好ましく、8.0~12.0であることがより好ましく、8.5~11.0であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、導電性カーボン(B-2)のpHは、ASTM D1512により測定することができる。
【0055】
また、上記導電性カーボン(B-2)は、導電性の観点から、1次粒子が鎖状構造(ストラクチャー)を形成している状態が好ましく、ストラクチャー指数が1.5~4.0の範囲内であることがより好ましく、1.7~3.2の範囲内であることが特に好ましい。
ストラクチャー自体は電子顕微鏡で撮影した画像でも比較的容易に観察できるが、ストラクチャー指数はストラクチャーの度合いを定量化した数値である。ストラクチャー指数は一般的にDBP吸油量(ml/100g)を比表面積(m/g)で割った値で定義することができる。ストラクチャー指数が1.5以上であると、ストラクチャーが発達し、十分な導電性が得られやすくなる。また、ストラクチャー指数が4.0以下であると、DBP吸油量に対して粒子径が適度な大きさとなり、導電経路を確保しやすくなるため、十分な導電性を示すことができ、かつカーボンナノチューブ分散液の粘度を適度なものにしやすくなる。
【0056】
<溶媒>
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、溶媒として水を含有するが、水以外の溶媒(特に水に溶解する水性溶媒)を含んでもよい。
上記水性溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。これらの溶媒は、水と共に、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0057】
<その他の添加剤>
本発明のカーボンナノチューブ分散液には、上記成分(A)、(B)、及び水以外の成分(その他の添加剤と示すこともある)を配合してもよい。その他の添加剤としては、例えば、中和剤、pH調整剤、顔料分散剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤、可塑剤、結着剤(バインダー)等を挙げることができる。
【0058】
カーボンナノチューブ分散液の初期粘度は、15Pa・s未満であることが好ましく、13Pa・s以下であることがより好ましく、12Pa・s未満であることが特に好ましい。
なお、本明細書において、カーボンナノチューブ分散液の初期粘度は、カーボンナノチューブ分散液を、コーン&プレート型粘度計(HAAKE社製、商品名:Mars2、直径35mm、2°傾斜のコーン&プレート)を用い、せん断速度5.0sec-1で測定した値である。なお、測定に用いたカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブ分散液を製造した直後から60分以内のものを使用する。
【0059】
カーボンナノチューブ分散液から形成されるリチウムイオン電池用電極層の体積抵抗率は、12Ω・cm未満であることが好ましく、10Ω・cm未満であることがより好ましく、9Ω・cm以下であることが特に好ましい。
なお、本明細書において、リチウムイオン電池用電極層の体積抵抗率は、前記電極層の膜厚を測定した後、ASPプローブ(株式会社三菱化学アナリテック製、商品名「MCP-TP03P」)を用いて、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製、商品名「Loresta-GP MCP-T610」)で抵抗値を測定し、得られた抵抗値に抵抗率補正係数(RCF)4.532及び前記膜厚を乗じて体積抵抗率を算出した値である。
【0060】
≪リチウムイオン電池用電極≫
本発明のリチウムイオン電池用電極は、本発明のカーボンナノチューブ分散液を、金属集電体に塗布してリチウムイオン電池用電極層を形成することにより得られる。
図3は、リチウムイオン電池用電極層を有するリチウムイオン電池用電極の一例を示した断面図である。図3においては、金属集電体101に、本発明のカーボンナノチューブ分散液を塗布し、リチウムイオン電池用電極層102を形成して、リチウムイオン電池用電極100を形成している。
【0061】
≪リチウムイオン電池≫
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用電極層を正極のみ、負極のみ、又は正極と負極との両方に有する。
図4は、リチウムイオン電池の一例を示した断面図である。図4においては、金属集電体(負極)101b、リチウムイオン電池用電極層(負極)102b、セパレータ103、リチウムイオン電池用電極層(正極)102a、及び金属集電体(正極)101aの順に積層して、リチウムイオン電池を形成している。金属集電体(負極)101b、及びリチウムイオン電池用電極層(負極)102bでリチウムイオン電池用負極100bを構成しており、金属集電体(正極)101a、及びリチウムイオン電池用電極層(正極)102aでリチウムイオン電池用正極100aを構成している。リチウムイオン電池用電極層(負極)102b、及びリチウムイオン電池用電極層(正極)102aのうち少なくとも一方は、本発明のカーボンナノチューブ分散液から形成されていてもよく、他方は本発明のカーボンナノチューブ分散液から形成されていなくてもよい。セパレータ103には、電解質(図示せず)が保持されている。
【0062】
≪カーボンナノチューブ分散液の製法≫
本発明の第一の態様であるカーボンナノチューブ分散液(単に「カーボンナノチューブ分散液」ともいう。)中の固形分含有量は、通常、カーボンナノチューブ分散液の総質量に対し、50質量%未満であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。なお、本発明の第一の態様であるカーボンナノチューブ分散液は、電極活物質を含まず、後述する本発明の第二の態様であるリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液は、電極活物質を含むものである。
本発明のカーボンナノチューブ分散液固形分中の分散樹脂(A)の固形分含有量の合計量は、カーボンナノチューブ分散液固形分の総質量に対し、通常、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以下であることが、顔料分散時の粘度、顔料分散性、分散安定性及び生産効率等の面から好適である。
本発明のカーボンナノチューブ分散液中の分散樹脂(A)の含有量は、通常、カーボンナノチューブ分散液の総質量に対し、0.2質量%以上、かつ10質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上、かつ5質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上、かつ3質量%以下であることが特に好ましい。
本発明のカーボンナノチューブ分散液固形分中のカーボンナノチューブ(B)の固形分含有量は、通常、カーボンナノチューブ分散液固形分の総質量に対し、好ましくは30質量%以上、かつ85質量%未満であり、より好ましくは40質量%以上、かつ80質量%未満であり、さらに好ましくは50質量%以上、かつ75質量%未満であることが、電池性能の点から好適である。
本発明のカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブ(B)の含有量は、通常、カーボンナノチューブ分散液の総質量に対し、0.2質量%以上、かつ5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上、かつ3質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上、かつ1.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0063】
また、本発明のカーボンナノチューブ分散液中の溶媒の含有量は、通常、カーボンナノチューブ分散液の総質量に対し、好ましくは50質量%以上、かつ100質量%未満であり、より好ましくは70質量%以上、かつ99質量%未満であり、さらに好ましくは80質量%以上、かつ98.5質量%未満であることが、乾燥効率及びペースト粘度の点から好適である。
なお、本発明のカーボンナノチューブ分散液に含まれる各成分の含有量の合計は、カーボンナノチューブ分散液の総質量に対し、100質量%を超えない。
【0064】
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、以上に述べた各成分を、例えば、スキャンディクス、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、ペブルミル、LMZミル、DCPパールミル、遊星ボールミル、ホモジナイザー、二軸混練機、薄膜旋回型高速ミキサー等の従来公知の分散機を用いて均一に混合、分散させることにより調製することができる。
【0065】
具体的には、本発明のカーボンナノチューブ分散液は、分散樹脂(A)、カーボンナノチューブ(B)、及び水を混合し、分散機(エム・テクニック社製・クレアミックスCLM-2.2S)を用いて14,000rpmの速度で全体が均一になり、分散粒度(D50)が90μm以下になるまで分散を行い、続いて、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製・ナノヴェイタ)を用いて60MPaで12パス分散後、さらに特定の分散条件(パス回数)にて分散を行い製造することが好ましい。
前記パス回数は、5超70未満であることが好ましく、7.5以上50以下であることがより好ましく、8以上45以下であることが特に好ましい。
尚、パス回数とは理論処理回数を示す単位であり、以下の計算式より求められる。
1パスに必要な処理時間(h)=ペースト液量(L)÷分散機の処理速度(L/h)
パス回数(理論処理回数)=処理時間(h)÷1パスに必要な処理時間(h)
【0066】
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、後述するように、電極活物質と混和してリチウムイオン電池電極用電極層を製造するために用いることができる。
【0067】
また、本発明において、波長(268nm)における吸光度の値により、カーボンナノチューブ分散液の分散性の度合についての情報を得ることを見出した。カーボンナノチューブ分散液の吸光度(波長:268nm)が、1.3以上であることが好ましく、1.3~2.0であることがより好ましく、1.3~1.8であることが特に好ましい。
吸光度が1.3以上であると、分散性が適度に進んだ状態であり、2.0以下であると、分散過多の状態となるのを防ぎやすくなる。
なお、本明細書において、カーボンナノチューブ分散液の吸光度は、カーボンナノチューブ分散液を脱イオン水で希釈してCNT濃度0.001質量%に調製し均一になるまで攪拌し、次いで試料をセルに充填し、U-1900(商品名、分光光度計、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて波長(268nm)の吸光度を計測した値である。
【0068】
<インピーダンススペクトル>
本発明の第一の態様であるカーボンナノチューブ分散液は、インピーダンス測定により得られる、縦軸にリアクタンス、横軸に周波数をプロットしたBodeプロットにおいて、周波数170~600kHzの範囲に前記リアクタンスの極小値が存在することを特徴する。リアクタンスの極小値は、周波数180~600kHzの範囲に存在することが好ましく、周波数200~400kHzの範囲に存在することがより好ましい。
なお、本発明において、リアクタンスとは複素インピーダンスの虚数部を意味する。
なお、本明細書において、Bodeプロットは、表面が金メッキ処理された厚さ0.3mmの銅板を対向させた電極間距離9mmの2極式の電極を用い、電極の大きさは100mmとし、20mlの円筒状容器に、カーボンナノチューブ分散液を15ml充填し、電極がペーストに完全に埋没するよう挿入する。続いて、カーボンナノチューブ分散液に、25℃で、インピーダンスアナライザ(Keysight社製、商品名「4294A」)を用いて、ピーク間電圧が0.1Vの正弦交流電圧を印加し、周波数を100Hz~100MHzの間で掃引しながら500点、複素インピーダンスと位相差を測定する。得られたデータから、縦軸にリアクタンス、横軸に周波数をプロットして得られる。
【0069】
下記式で表される、周波数1kHzにおけるリアクタンスに対する、リアクタンスの極小値の倍率(割合)は、1.5超5.0以下であることが好ましく、1.6以上4.0以下であることがより好ましく、1.7以上3.5以下であることが特に好ましい。
周波数1kHzにおけるリアクタンスに対する、リアクタンスの極小値の倍率(割合)=[リアクタンスの極小値]÷[周波数1kHzにおけるリアクタンス]
【0070】
Bodeプロットにおいては、リアクタンスの極小値が2点以上存在することもある。特にカーボンナノチューブ(B)を2種以上併用した場合や、カーボンナノチューブ(B)と他の導電性カーボンを併用した場合、カーボンナノチューブ分散液の分散時間が極端に短い場合などにこの傾向は顕著である。また、使用するカーボンナノチューブ(B)の種類によっても、リアクタンスの極小値が2点以上存在することがある。リアクタンスの極小値が2点以上存在する場合、少なくとも一方の極小値が周波数170~600kHzの範囲に存在すればよい。
カーボンナノチューブ(B)はカーボンナノチューブ分散液中でストラクチャーを形成しているが、Bodeプロットおけるリアクタンスの極小値は、カーボンナノチューブ(B)のストラクチャーの成長の度合い、すなわちカーボンナノチューブ(B)の一次粒子の凝集体の大きさによって移動する。例えば、図1に示すように、一次粒子10の相互作用が強く、ストラクチャーの成長の度合いが高くなるほど、すなわちカーボンナノチューブ(B)の一次粒子の凝集体が大きくなるほど、Bodeプロットおけるリアクタンスの極小値は、低周波領域に移動しやすくなる傾向にある。
【0071】
なお、図1中、(a)はストラクチャーの成長の度合いが高い場合のBodeプロットであり、図1中、(b)はストラクチャーの成長の度合いが中程度である場合のBodeプロットであり、図1中、(c)はストラクチャーの成長の度合いが低い場合のBodeプロットである。
Bodeプロットにおいて、周波数170~600kHzの範囲にリアクタンスの極小値が存在していれば、カーボンナノチューブ(B)のストラクチャーが適度に成長している、すなわち、カーボンナノチューブ分散液中でカーボンナノチューブ(B)の一次粒子が適度にストラクチャーを保持しながら分散していることを意味する。よって、本発明のカーボンナノチューブ分散液を用いて電極層を形成したときに、電極層中でカーボンナノチューブ(B)の一次粒子が適度にストラクチャーを保持しながら分散する。そのため、効率的に導電パスが形成され、導電性に優れる電極を形成できる。加えて、カーボンナノチューブ分散液の粘度も低くなる傾向にある。
Bodeプロットは、例えば以下に示すインピーダンス測定により得られる。
【0072】
(測定セルの準備)
表面が金メッキ処理された厚さ0.3mmの銅板を対向させ、電極間距離9mmの2極式の電極を用いる。電極の大きさは100mmとする。20mlの円筒状容器に、カーボンナノチューブ分散液を15ml充填し、電極がペーストに完全に埋没するよう挿入する。
【0073】
(インピーダンス測定)
カーボンナノチューブ分散液に、25℃で、インピーダンスアナライザを用いて、ピーク間電圧が0.1Vの正弦交流電圧を印加し、周波数を100Hz~100MHzの間で掃引しながら500点、複素インピーダンスと位相差を測定する。得られたデータから、縦軸にリアクタンス、横軸に周波数をプロットしてBodeプロットを作成する。
【0074】
前記Bodeプロットにおいて、周波数170~600kHzの範囲に存在するリアクタンスの最小値(X)は、周波数1kHzにおけるリアクタンスの値(Y)の1.8倍以上であることが好ましく、2.0倍以上であることがより好ましく、2.0~3.5倍であることがさらに好ましく、2.3~3.2倍であることが特に好ましい。
前述のとおり、Bodeプロットにおいては、リアクタンスの極小値が2点以上存在することもある。170~600kHZの範囲に複数の極小値が存在する場合にも、170~600kHZの範囲における最小値にて計算(X/Y)を行えばよい。
【0075】
前記値(Y)に対する前記最小値(X)の割合は、カーボンナノチューブ(B)の一次粒子の凝集体の粒度分布に影響される。例えば、図2中、(a)に示すように、カーボンナノチューブ(B)の一次粒子の凝集体の粒子径が均一になる、すなわち揃っているほど、前記値(Y)に対する前記最小値(X)の割合は大きくなる傾向にある。一方、図2中、(b)に示すように、カーボンナノチューブ(B)の一次粒子10の凝集体30の粒子径が不均一になるほど、前記値(Y)に対する前記最小値(X)の割合は小さくなる傾向にある。
前記最小値(X)が前記値(Y)の1.8倍以上であれば、カーボンナノチューブ分散液中におけるカーボンナノチューブ(B)の一次粒子の凝集体の粒子径が均一であることを意味する。よって、本発明の電極活物質を含有するリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液を用いて電極層を形成したときに、電極層中でカーボンナノチューブ(B)の一次粒子がより均一に分散する。そのため、より効率的に導電パスが形成され、導電性により優れる電極層を形成できる。
【0076】
≪リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液≫
本発明の第二の態様として、上記カーボンナノチューブ分散液に、さらに後述する電極活物質(単に「活物質」と呼ぶ場合もある)を配合してなるリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液(単に「リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液」ともいう。)を提供する。
なお、本発明において、「カーボンナノチューブ分散液を塗布して得られる塗膜」を「電極層」と呼ぶ場合がある。
【0077】
<電極活物質>
電極活物質としては、それ自体既知のものを好適に用いることができる。
例えば、正極活物質としては、例えば、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等のリチウム複合酸化物等が挙げられる。これらの電極活物質は、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、負極活物質としては、例えば、Li系化合物、Sn系化合物、Si系化合物、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、低結晶性カーボン(ハードカーボン、ソフトカーボン)等が挙げられる。これらの電極活物質は、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0078】
本発明のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液中の固形分含有量は、通常、リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液の総質量に対し、70質量%以上、かつ100質量%未満であることが好ましく、80質量%以上、かつ99質量%未満であることがより好ましく、90質量%以上、かつ98質量%未満であることが特に好ましい。
電極活物質を含有する本発明のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液固形分中の電極活物質の固形分含有量は、リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液固形分の総質量に対し、通常90質量%以上、かつ100質量%未満、好ましくは95質量%以上、かつ100質量%未満、さらに好ましくは98質量%以上、かつ100質量%未満であることが、電池容量、電池抵抗等の面から好適である。
本発明のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液中の電極活物質の含有量は、通常、リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液の総質量に対し、30質量%以上、かつ100質量%未満であることが好ましく、40質量%以上、かつ99質量%未満であることがより好ましく、50質量%以上、かつ98質量%未満であることが特に好ましい。
【0079】
≪リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液の製法≫
本発明のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液は、前述の成分(A)、成分(B)、及び水を含む本発明の第一の態様であるカーボンナノチューブ分散液をまず調製し、当該カーボンナノチューブ分散液に電極活物質を配合することにより得ることができる。
また、本発明のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液は、前述の成分(A)、成分(B)、水、及び電極活物質を同時に混和して調製してもよい。
【0080】
本発明の電極活物質を含有するリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液固形分中の分散樹脂(A)の固形分含有量の合計量は、通常、リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液固形分の総質量に対し、0.001~20質量%、好ましくは0.005~10質量%であることが、電池性能、ペースト粘度等の面から好適である。
【0081】
本発明の電極活物質を含有するリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液の固形分中のカーボンナノチューブ(B)の固形分含有量は、通常、リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液固形分の総質量に対し、0.01~30質量%、好ましくは0.05~20質量%、より好ましくは0.1~15質量%が電池性能の点から好適である。
【0082】
また、本発明の電極活物質を含有するリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液中の溶媒の含有量は、通常、リチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液の総質量に対し、0.1~60質量%、好ましくは0.5~50質量%、より好ましくは1~45質量%が電極乾燥効率、ペースト粘度の点から好適である。
【0083】
≪リチウムイオン電池用電極の製法≫
前述したように、リチウムイオン二次電池の電極は、電極活物質を含有するリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液を電極芯材(金属集電体)の表面に塗布し、これを乾燥することで製造することができる。
また、本発明のリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液の用途としては、電極芯材と電極層との間のプライマー層としても用いることができる。
電極活物質を含有するリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液の塗布方法は、ダイコーター等を用いたそれ自体公知の方法により行うことができる。電極活物質を含有するリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液の塗布量は特に限定されないが、例えば、乾燥後の電極層の厚みが0.001~0.5mmの範囲(好ましくは0.01~0.4mmの範囲)となるように設定することができる。乾燥工程の温度としては、例えば、80~200℃、好ましくは100~180℃の範囲内で適宜設定することができる。乾燥工程の時間としては、例えば、5~1200秒、好ましくは5~120秒の範囲内で適宜設定することができる。
【0084】
≪リチウムイオン電池の製法≫
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン二次電池の電極を、正極のみ、負極のみ、又は正極と負極との両方に用い、正極と負極との間にセパレータを積層して積層体を形成し、続いて得られた積層体に電解質を注入して製造することができる。
【0085】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら特定の実施形態に限定されるものではない。
【実施例
【0086】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。各例中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0087】
<分散樹脂の製造>
製造例1 スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂の製造
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル92質量部及びアリルスルホン酸ナトリウム8.0質量部、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥した。最終的に、重合度300、ケン化度90モル%、スルホン酸基含有モノマー単位(イオン性官能基含有モノマー単位)含有のポリビニルアルコール樹脂No.1(PVA1)を得た。
【0088】
製造例2 スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂の製造
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル92質量部及びアリルスルホン酸ナトリウム2.0質量部、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥した。最終的に、重合度300、ケン化度90モル%、スルホン酸基含有モノマー単位(イオン性官能基含有モノマー単位)含有のポリビニルアルコール樹脂No.2(PVA2)を得た。
【0089】
製造例3 カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂の製造
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル92質量部及びアクリル酸2.0質量部、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥した。最終的に、重合度300、ケン化度90モル%、カルボキシル基含有モノマー単位(イオン性官能基含有モノマー単位)含有のポリビニルアルコール樹脂No.3(PVA3)を得た。
【0090】
製造例3 極性官能基を含まないポリビニルアルコール樹脂の製造
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥した。最終的に、重合度500、ケン化度88モル%の極性官能基を含まないポリビニルアルコール樹脂No.4(PVA4)を得た。
【0091】
≪カーボンナノチューブ分散液の製造≫
実施例1~12、比較例1~3
表1に記載した種類及び量の分散樹脂(A)、カーボンナノチューブ(B)、及び水を混合し、分散機(エム・テクニック社製・クレアミックスCLM-2.2S)を用いて14,000rpmの速度で全体が均一になり、分散粒度(D50)が90μm以下になるまで分散を行った。続いて、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製・ナノヴェイタ)を用いて60MPaで12パス分散後、さらに表1に記載の分散条件(パス回数)にて分散を行い、カーボンナノチューブ分散液(X-1)~(X-15)を得た。表1中の樹脂配合量は固形分の値である。
尚、パス回数とは理論処理回数を示す単位であり、以下の計算式より求められる。
1パスに必要な処理時間(h)=ペースト液量(L)÷分散機の処理速度(L/h)
パス回数(理論処理回数)=処理時間(h)÷1パスに必要な処理時間(h)
【0092】
【表1】
【0093】
上記表1中の各原料の記号は下記の通りである。
【0094】
[分散樹脂]
CMC1:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、重量平均分子量56000、エーテル化度0.7
CMC2:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、重量平均分子量18000、エーテル化度0.7
メチルセルロース:重量平均分子量30000、エーテル化度1.5
[カーボンナノチューブ]
SWCNT1:単層カーボンナノチューブ、比表面積1100m/g、外径1.56nm、G/D比100
SWCNT2:単層カーボンナノチューブ、比表面積1070m/g、外径1.3nm、G/D比87
MWCNT:多層カーボンナノチューブ、比表面積170m/g、外径9nm、G/D比0.96
なお、カーボンナノチューブのG/D比、カーボンナノチューブ分散液のインピータンス、及びカーボンナノチューブ分散液の吸光度は、下記方法で測定した。
【0095】
[カーボンナノチューブのG/D比測定]
カーボンナノチューブのラマンスペクトルは、ラマン顕微鏡(XploRA、株式会社堀場製作所社製)にカーボンナノチューブを設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行った。得られたピークの内、スペクトルで1560~1600cm-1の範囲内で最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内で最大ピーク強度をDとした際のG/Dの比をカーボンナノチューブのG/D比とした。
【0096】
[カーボンナノチューブ分散液のインピーダンス測定]
(測定セルの準備)
表面が金メッキ処理された厚さ0.3mmの銅板を対向させ、電極間距離9mmの2極式の電極を用いた。電極の大きさは100mmとした。20mlの円筒状容器に、実施例及び比較例で得られた各カーボンナノチューブ分散液を15ml充填し、電極がペーストに完全に埋没するよう挿入した。
(インピーダンス測定)
実施例及び比較例で得られた各カーボンナノチューブ分散液に、25℃で、インピーダンスアナライザ(Keysight社製、商品名「4294A」)を用いて、ピーク間電圧が0.1Vの正弦交流電圧を印加し、周波数を100Hz~100MHzの間で掃引しながら500点、複素インピーダンスと位相差を測定した。得られたデータから、縦軸にリアクタンス、横軸に周波数をプロットしてBodeプロットを作成した。
次いで、リアクタンスの極小値(実施例及び比較例では、極小値は全て1点であった)を確認し、周波数1kHzにおけるリアクタンスとの倍率を下記式により計算した。
1kHzとの倍率=[リアクタンスの極小値]÷[周波数1kHzにおけるリアクタンス]
【0097】
[カーボンナノチューブ分散液の吸光度測定]
カーボンナノチューブ分散液を脱イオン水で希釈してCNT濃度0.001質量%に調製し均一になるまで攪拌した。次いで試料をセルに充填し、U-1900(商品名、分光光度計、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて波長(268nm)の吸光度を計測した。
【0098】
<評価試験>
上記の製造方法で作成されたカーボンナノチューブ分散液について、下記評価方法によって評価試験を行った。評価試験の結果は、上記表1に記載する。本発明においては、評価試験における全項目の性能に優れていることが重要であり、いずれか1つに不合格の評価がある場合、そのカーボンナノチューブ分散液は不合格となる。
【0099】
[平均粒子径(D50)]
得られたカーボンナノチューブ分散液について、水で測定濃度に希釈及び攪拌し、レーザー回折散乱法を用いた粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、製品名:マイクロトラックMT3000)で体積基準の粒度分布測定を行い、平均粒子径(D50)を算出した。下記基準により評価した。平均粒子径(D50)は基本的に小さいほど好ましく、A、Bを合格、Cを不合格とする。
A(非常に良好):平均粒子径(D50)が、4μm未満である。
B(良好):平均粒子径(D50)が、4μm以上、かつ7μm未満である。
C(劣る):平均粒子径(D50)が、7μm以上である。
【0100】
[初期粘度(分散性)]
得られたカーボンナノチューブ分散液について、コーン&プレート型粘度計(HAAKE社製、商品名:Mars2、直径35mm、2°傾斜のコーン&プレート)を用い、せん断速度5.0sec-1で初期粘度を測定し、下記基準により評価した。同じ濃度の粘度は低いほど好ましく、A、Bを合格、Cを不合格とする。なお、測定に用いたカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブ分散液を製造した直後から60分以内のものを使用した。
A(非常に良好):初期粘度が、12Pa・s未満である。
B(良好):初期粘度が、12Pa・s以上、かつ15Pa・s未満である。
C(劣る):初期粘度が、15Pa・s以上である。
【0101】
≪電極活物質を含有するリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液及び電極層の製造
実施例Y1~Y12、比較例Y1~Y3(CNT分散液)
実施例Z1~Z12、比較例Z1~Z3(電極層)
電極活物質〔(組成式LiFePOで表されるオリビン構造のリン酸鉄リチウム粒子(平均粒径1.3μm、BET比表面積12.0m/g)〕59.1部とSBR(スチレンブタジエンゴム、JSR社製、商品名 TRD102A、固形分48.5wt%)1.8部とをミキサーで混合し、次いで実施例1~12及び比較例1~3で得られたカーボンナノチューブ分散液10部、及び水50部をそれぞれ混合して電極活物質を含有するリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液(実施例Y1~Y12、比較例Y1~Y3)を製造した。
続いて、厚さ100μmのOHPフィルム(PPC/レーザー用PETフィルム、富士フイルムビジネスイノベーション社製)上にアプリケーターを用いて塗布し、これを80度で乾燥させてリチウムイオン電池の電極層(正極層)を得た。(実施例Z1~Z12、比較例Z1~Z3)
【0102】
[体積抵抗率]
得られた電極層(実施例Z1~Z12、比較例Z1~Z3)について膜厚を測定した後、ASPプローブ(株式会社三菱化学アナリテック製、商品名「MCP-TP03P」)を用いて、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製、商品名「Loresta-GP MCP-T610」)で抵抗値を測定し、得られた抵抗値に抵抗率補正係数(RCF)4.532及び塗膜の膜厚を乗じて体積抵抗率を算出した。体積抵抗率は下記基準により評価した。体積抵抗率は低いほど好ましく、A、Bを合格、Cを不合格とする。
A(非常に良好):体積抵抗率が、10Ω・cm未満である。
B(良好):体積抵抗率が、10Ω・cm以上、かつ12Ω・cm未満である。
C(劣る):体積抵抗率が、12Ω・cm以上である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、分散樹脂の配合量が比較的少なくても塗布しやすい粘度を有するリチウムイオン電池電極用カーボンナノチューブ分散液を提供するができる。
【符号の説明】
【0104】
10 カーボンナノチューブ(B)の一次粒子
30 カーボンナノチューブ(B)の一次粒子の凝集体
100 リチウムイオン電池用電極
100a リチウムイオン電池用正極
100b リチウムイオン電池用負極
101 金属集電体
101a 金属集電体(正極)
101b 金属集電体(負極)
102 リチウムイオン電池用電極層
102a リチウムイオン電池用電極層(正極)
102b リチウムイオン電池用電極層(負極)
103 セパレータ
200 リチウムイオン電池
図1
図2
図3
図4