IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川澄化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-消化管ステント 図1
  • 特許-消化管ステント 図2
  • 特許-消化管ステント 図3
  • 特許-消化管ステント 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】消化管ステント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/86 20130101AFI20240326BHJP
   A61F 2/04 20130101ALI20240326BHJP
【FI】
A61F2/86
A61F2/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020560107
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2019048174
(87)【国際公開番号】W WO2020122036
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2018233628
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白濱 憲昭
【審査官】星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-000569(JP,A)
【文献】特表2012-517255(JP,A)
【文献】特開2013-052282(JP,A)
【文献】国際公開第2009/028272(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0253410(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/86
A61F 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化管内に留置される消化管ステントであって、
筒形状を有し、軸方向に略直交する径方向に拡縮可能な骨格部と、
前記骨格部における前記軸方向の一の部分を収縮状態に維持したまま、他の部分を前記収縮状態から拡張状態に変換可能な変換手段と、を備え
前記変換手段は、紐状部材で形成され、前記骨格部の周面に螺旋状に巻回して配置されており、
前記紐状部材は、前記骨格部の軸方向における前記他の部分側から前記一の部分側に向かって巻回され、前記消化管ステントの前記一の部分側の第1端部において周方向に沿って前記骨格部の内側と外側を交互に交差しながら縫うように挿通され、さらに折り返されて前記消化管ステントの内側を通って前記他の部分側の第2端部から引き出されている、
消化管ステント。
【請求項2】
前記変換手段は、消化物の流れ方向における下流側に対応する前記他の部分から上流側に対応する前記一の部分に向けて、前記骨格部を順次前記収縮状態から前記拡張状態に変換する、請求項1に記載の消化管ステント。
【請求項3】
前記紐状部材は、前記骨格部の軸方向の両端部において、脱落不能に保持されている、請求項1又は2に記載の消化管ステント。
【請求項4】
前記変換手段は、前記第2端部から引き出されている前記紐状部材が引っ張られることで、消化物の流れ方向における下流側に対応する前記他の部分から上流側に対応する前記一の部分に向けて、前記骨格部を順次前記収縮状態から前記拡張状態に変換する、請求項1から3のいずれか一項に記載の消化管ステント。
【請求項5】
前記紐状部材は、ナイロン繊維又はフッ素繊維からなる縫合糸、ニッケル-チタン合金又はステンレス製の金属細線、若しくは、樹脂製の紐である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の消化管ステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食道、胃、小腸、大腸、胆管などの消化器系管腔(以下、「消化管」と称する)に生じた狭窄部又は閉塞部に留置され、病変部位を拡径して消化管の開存状態を維持する消化管ステントが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4651943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、消化管ステントは、ステント留置システムにより留置目標部位まで送達されるが、径方向に収縮し軸方向に伸長した状態でステント留置システムのシースに収容されている。そのため、シースからの放出を円滑に行いにくい上、シースから放出されて消化管ステントの骨格部が拡張する際に軸方向に短くなるので、消化管内の留置目標部位に精度よく消化管ステントを留置するのが困難である。特に、線材が螺旋状に巻回された骨格部を有する消化管ステントは、短縮率(ショートニング)が大きく、上述した問題が顕著である。
本発明の目的は、消化管の留置目標部位に精度よく留置させることができる消化管ステントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る消化管ステントは、
消化管内に留置される消化管ステントであって、
筒形状を有し、軸方向に略直交する径方向に拡縮可能な骨格部と、
前記骨格部における前記軸方向の一の部分を収縮状態に維持したまま、他の部分を前記収縮状態から拡張状態に変換可能な変換手段と、を備え
前記変換手段は、紐状部材で形成され、前記骨格部の周面に螺旋状に巻回して配置されており、
前記紐状部材は、前記骨格部の軸方向における前記他の部分側から前記一の部分側に向かって巻回され、前記消化管ステントの前記一の部分側の第1端部において周方向に沿って前記骨格部の内側と外側を交互に交差しながら縫うように挿通され、さらに折り返されて前記消化管ステントの内側を通って前記他の部分側の第2端部から引き出されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、消化管の留置目標部位に精度よく留置させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1A図1Bは、実施の形態に係るステント留置システムの構成を示す図である。
図2図2は、実施の形態に係る大腸ステントの構成を模式的に示す外観斜視図である。
図3図3は、第2骨格部における拘束紐の取付状態を示す図である。
図4図4A図4Dは、大腸ステントの留置時の状態変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
本実施の形態では、本発明の一例として、大腸の病変部位(例えば、大腸の閉塞部又は狭窄部)を径方向外側に押し拡げて閉塞(狭窄)の治療を行うべく、大腸内に留置される大腸ステント1について説明する。
【0009】
図1A図1Bは、ステント留置システム100の構成を示す図である。図1Aは、ステント留置システム100を分解した状態を示し、図1Bは、ステント留置システム100を組み立てた状態を示す。なお、図1A図1Bでは、発明の理解を容易にするため、ステント留置システム100を構成する各部材の大きさ(長さ、径寸法など)や形状などを模式的に図示している。
【0010】
ステント留置システム100は、大腸ステント1を大腸内に留置させる際に、例えば、内視鏡の鉗子孔に挿入して使用される。図1A図1Bに示すように、ステント留置システム100は、管状のシース2、シース2の内側に配置されシース2の軸方向(長手方向)に沿ってシース2内を進退可能に構成されたインナーロッド3、及び、シース2内に径方向に拡張可能な収縮状態で収容される大腸ステント1を備える。
【0011】
シース2は、例えば、可撓性を有する材料で形成された管状のシース本体部21と、シース本体部21の基端側(図1A図1Bでは右側)に設けられ、インナーロッド3をシース本体部21に対して固定したり解除したりするためのハブ22と、を有する。
【0012】
インナーロッド3は、例えば、棒状のロッド本体部31と、このロッド本体部31よりも小径に形成され、収縮状態にある大腸ステント1を保持する保持部32と、インナーロッド3の先端部(遠位端部)に設けられた先端チップ33と、を有する。
【0013】
なお、図示を省略するが、ロッド本体部31、保持部32及び先端チップ33には、例えば、ガイドワイヤーを通すためのガイドワイヤー用ルーメンや、収縮状態にある大腸ステント1を患部で拡張させるためのトリガーワイヤーを通すためのトリガーワイヤー用ルーメン等が、インナーロッド3の軸方向に沿って形成されている。
また、ロッド本体部31、保持部32及び先端チップ33は、例えば、樹脂や金属等の適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料から形成されるが、ここでは詳細な説明は省略する。
【0014】
大腸ステント1は、インナーロッド3の保持部32に装着され、外周面に拘束紐13(詳細後述)が巻回されている。拘束紐13の両端部は、例えば、ハブ22に設けられた分岐口22aから引き出される。図2を参照して、大腸ステント1の構成について詳述する。
【0015】
図2は、大腸ステント1を模式的に示す斜視図である。
大腸ステント1は、消化物が流れる管状流路を画成する筒形状を有する。大腸ステント1は、片側フレアタイプのパーシャルカバードステントである。大腸ステント1は、フレア形状に形成された端部1aが消化物の流れ方向上流側(口側)、他端部1bが消化物の流れ方向下流側(肛門側)となるように、大腸内の病変部位に留置される。以下の説明では、図2における左側(フレア形状の端部側)を先端側、右側(ストレート形状の端部側)を後端側として説明する。
なお、大腸ステント1は、抜去時に回収用チューブ等に引き込まれる側の端部に、抜去用のワイヤーを引っ掛けるための抜去補助部を有していてもよい。
【0016】
図2に示すように、大腸ステント1は、骨格部11及び皮膜部12を備える。また、骨格部11には、骨格部11の拡縮状態を制御する変換手段として機能する拘束紐13が巻回されている。さらに、大腸ステント1には、軸方向に沿って伸長規制部14が設けられている。
【0017】
骨格部11は、皮膜部12を所定の拡張状態で保持する補強部材である。また、骨格部11は、拡張状態の形状が記憶されており、いわゆる自己拡張性を有する。すなわち、骨格部11(第1骨格部111及び第2骨格部112)は、軸方向に略直交する径方向において、内側に収縮した収縮状態から、外側に拡張して筒状流路を画成する拡張状態へと自己拡張可能に構成されている。
【0018】
骨格部11を形成する金属線材の材料としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル-チタン合金(ニチノール)、チタン合金等に代表される公知の金属又は金属合金が挙げられる。また、X線造影性を有する合金材料を用いてもよい。この場合、大腸ステント1の位置を体外から確認することができるようになる。なお、骨格部11は、金属材料以外の材料(例えば、セラミックや樹脂等)で形成されてもよい。
【0019】
また、骨格部11(特に、第1骨格部111)は、外面側から加えられる外力に応じて変形可能に構成されている。これにより、大腸ステント1に外面側から外力が加えられても、骨格部11が変形するので、キンクを生じることなく留置部位にとどまりながら、大腸の病変部位を押し拡げ続けることができる。
【0020】
なお、骨格部11を形成する線材の材料、線種(例えば、ワイヤー等の円形線材、又は、レーザー加工による角状線材)、線径(断面積)、周方向における折り返し回数及び折り返し形状(山部の数及び山部の形状)、並びに、軸方向における線材間隔(螺旋ピッチ(単位長さ当たりの骨格量))等は、留置する消化管に応じて必要となる柔軟性を基準として適宜選択される。柔軟性とは、大腸ステント1の曲がり易さのことであり、特に、軸方向の曲げ剛性(直線化力と同義)により規定される。すなわち、骨格部11における、外力に応じて変形可能な構成とは、軸方向の曲げ剛性が適度に低く、消化管やシース内でキンクが生じることなく当該消化管やシースの形状に追従する性質を有することを言う。
【0021】
本実施の形態では、骨格部11は、筒形状の第1骨格部111と、第1骨格部111の一端側に設けられたフレア形状の第2骨格部112と、を有している。大腸ステント1は、第2骨格部112が消化物の流れ方向における上流側となるように、大腸内に留置される。
【0022】
第1骨格部111は、骨格部11の大部分を占める主骨格であり、例えば、金属線材を、軸方向に山部と谷部とが交互に形成されるように屈曲しながら螺旋状に巻回することで、全体として筒状に形成される。
第2骨格部112は、第1骨格部111の先端側に設けられる端部骨格であり、例えば、レーザー加工により形成される。第2骨格部112は、例えば、第1骨格部111の先端側の端部と第2骨格部112の後端側の端部とを近接させてかしめることにより、第1骨格部111と接続される。
【0023】
第1骨格部111(後端側の端部を除く)は皮膜部12に覆われている。つまり、第1骨格部111の後端側の端部及び第2骨格部112は皮膜部12により覆われていない。第1骨格部111の後端側の端部及び第2骨格部112に、周方向に沿って拘束紐13が挿通される。また、第2骨格部112が皮膜部12で覆われていないことにより、大腸ステント1を大腸に留置する際、第2骨格部112が大腸壁に食い込むので、大腸ステント1の先端側端部の位置ずれを抑制することができる。
【0024】
また、骨格部11は、径方向の大きさを維持したまま軸方向に伸縮可能に構成されている。本実施の形態では、金属線材を螺旋状に巻回することにより第1骨格部111が形成されているので、骨格部11は、軸方向に伸縮する際に螺旋方向に捻れることで、径方向の大きさが維持される。これにより、大腸の変形に追従して骨格部11が伸縮しても、骨格部11の拡張力は保持されるので、留置部位に留まりながら、大腸の病変部位を押し拡げることができる。
【0025】
皮膜部12は、消化物の流路を形成する膜体であり、骨格部11の周面に沿って配置される。骨格部11の周面に沿って皮膜部12を配置することで、大腸壁細胞が大腸ステント1の内側へ滲出するのを防止できるので、大腸における病変(閉塞及び狭窄)の再発を防止することができる。
【0026】
皮膜部12は、例えば、ディッピングにより、骨格部11を構成する線材で形成された空間、すなわち骨格部11の周面に膜を張ることにより形成される。また例えば、皮膜部12は、フィルム材で形成され、骨格部11を挟み込むように骨格部11の外周面と内周面に配置されてもよいし、骨格部11の外周面のみ又は内周面のみに配置されてもよい。
【0027】
皮膜部12を形成する材料としては、例えば、シリコーン樹脂、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0028】
伸長規制部14は、例えば、テープ状の長尺部材で形成され、第1骨格部111の軸方向の両端部に亘るように、第1骨格部111の周面(内周面及び外周面の少なくとも一面)に固定(例えば、接着等)されている。また、伸長規制部14は、例えば、周方向に等間隔で5つ配置されている。
また、伸長規制部14は、生体適合性を有する糸(例えば、ポリエステル糸等)又は布地(織物(布帛)や編物)によって形成され、少なくとも大腸ステント1の径方向への拡張性を損なわない範囲で、第1骨格部111の軸方向への伸長を規制可能な強度を有する。
【0029】
伸長規制部14によって、大腸ステント1を径方向に収縮してシース2内に収容する際の、軸方向への伸長が抑制される。これにより、伸長規制部14のないステントに比較して、シース2内に収容したときの大腸ステント1の軸方向の長さが短く、大腸ステント1とシース2との接触面積は小さくなる。したがって、シース2から大腸ステント1を放出する際の摩擦抵抗が小さくなるので、大腸ステント1をシース2から容易に放出することができる。また、大腸ステント1がシース2から放出されて拡張状態となる際の軸方向の短縮率が低減されるので、大腸内の所望の留置部位に大腸ステント1を留置することができる。
【0030】
拘束紐13は、所定の強度と剛性を有する材料で形成され、例えば、ナイロン繊維やフッ素繊維などの縫合糸、ニッケル-チタン合金やステンレス製の金属細線、樹脂製の紐状部材を適用できる。なお、拘束紐13は、幅広のテープ状に形成されていてもよい。
【0031】
拘束紐13は、大腸ステント1の外周面に巻回されている。具体的には、拘束紐13は、例えば、骨格部11の後端部11b、すなわち第1骨格部111の皮膜部12により覆われていない部分において、周方向に沿って第1骨格部111を縫うように挿通され、第1骨格部111の外周面に、例えば、螺旋状に巻回される。また、拘束紐13は、骨格部11の先端部11a、すなわち第2骨格部112まで延在し、周方向に沿って第2骨格部112を縫うように挿通され、例えば、骨格部11の内側を通って後端側に引き出される。
「縫うように挿通する」とは、例えば図3に示すように、第2骨格部112の内側と外側を交互に交差しながら拘束紐13を挿通することである。
【0032】
骨格部11の先端部11a(第2骨格部112)及び後端部11b(第1骨格部111の皮膜部12により覆われていない部分)に拘束紐13が絡まっていることにより、拘束紐13は骨格部11の先端部11a及び後端部11bにおいて脱落不能に保持される。これにより、巻回状態を保持したまま拘束紐13を引き抜くことができ、骨格部11を一端側から順に解放して拡張させることができる。例えば、骨格部11の内側を通って後端側に引き出された端部を引っ張って拘束紐13を引き抜く場合、骨格部11の後端部11b側から順に解放され、拡張することになる。
このように、拘束紐13は、骨格部11における先端部11aを収縮状態に維持したまま、後端部11bを収縮状態から拡張状態に変換可能な変換手段として機能する。
【0033】
なお、骨格部11の両端部11a、11bに拘束紐13を直接取り付けるのではなく、骨格部11の先端部11aや後端部11bにリング状の補助部材(図示略)を設け、この補助部材に拘束紐13を挿通させるようにしてもよい。
【0034】
大腸ステント1は、インナーロッド3の保持部32に装着する際、軸方向に伸長しながら径方向に折り畳むことにより収縮状態とされる。このとき、拘束紐13の一端部13bを固定して、他端部13aを引っ張ることにより、大腸ステント1(骨格部11)の収縮に伴う拘束紐13の緩みを吸収する。これにより、大腸ステント1の収縮状態が拘束紐13によってきつく拘束される。大腸ステント1をシース2に収容する際、拘束紐13の両端部13a、13bは、例えば、ハブ22に設けられた分岐口22aから外部に引き出される(図1A図1B参照)。
【0035】
図4A図4Dは、大腸ステント1の留置時の状態変化を示す図である。なお、図4A図4Dでは、大腸ステント1を模式的に表しており、皮膜部12により被覆されていないフレア部分(第2骨格部112)の図示は省略している。
【0036】
大腸ステント1を大腸Cの病変部位L(留置目標部位)に留置する場合、予め大腸C内に導入されたガイドワイヤー(図示略)に沿って、シース2及びインナーロッド3を肛門側から挿入し、大腸ステント1が病変部位Lに位置するように位置決めする(図4A参照)。
【0037】
次に、位置決めした状態でシース2を肛門側に移動させ、大腸ステント1をシース2から放出する(図4B参照)。本実施の形態では、大腸ステント1の外周面が拘束紐13によって拘束されているので、大腸ステント1は収縮状態のまま維持される。なお、シース2の位置を固定した状態で、インナーロッド3を口側に押し出すように移動させることで、大腸ステント1をシース2から放出してもよい。
【0038】
次に、拘束紐13の一端部13b(ここでは、大腸ステント1内を通って引き出された端部)を引っ張り、拘束紐13を徐々に引き抜く(図4C参照)。拘束紐13の他端部13aは、骨格部11の後端部11bを抜けて、先端側へと移動するので、大腸ステント1の後端側から徐々に拡張状態へと移行する。このとき、大腸ステント1は、伸長規制部14により拡張状態となる際の軸方向の短縮率が低減されているものの、軸方向に短くなるので、インナーロッド3を前後に操作して、大腸ステント1の留置位置を調整する。大腸ステント1の一部(特に、拡張力(引留力)が大きい骨格部11の先端部11a(第2骨格部112))は拘束紐13により収縮状態で維持されており、完全には拡張状態となっていないので、骨格部11の後端部11b側が大腸Cの内壁に当接して径方向に押圧していても、大腸ステント1の留置位置を容易に調整することができる。
【0039】
拘束紐13をすべて引き抜くと、大腸ステント1は完全に拡張状態となり、大腸Cの開存状態が確保される(図4D参照)。その後、図示は省略するが、大腸ステント1とインナーロッド3との係合状態を解放し、インナーロッド3を引き抜くことにより、大腸ステント1が病変部位Lに留置される。拘束紐13を徐々に引き抜きながら大腸ステント1の留置位置を調整することにより、大腸ステント1を病変部位Lに精度よく位置決めし、留置することができる。
【0040】
このように、本実施の形態に係る大腸ステント1(消化管ステント)は、筒形状を有し、軸方向に略直交する径方向に拡縮可能な骨格部11と、骨格部11における軸方向の先端部11a(一の部分)を収縮状態に維持したまま、後端部11b(他の部分)を収縮状態から拡張状態に変換可能な拘束紐13(変換手段)と、を備える。
これにより、拘束紐13によって骨格部11における先端部11a及び後端部11bの拡張タイミングを制御することができ、先端部11aを収縮状態に維持したまま後端部11bを拡張状態とさせつつ、当該大腸ステント1の留置位置の調整を行うことができる。つまり、先端部11aのみが拡張状態の留置途中においては、大腸ステント1が大腸Cの内壁を押圧する力は比較的小さくなって位置合わせを容易に行うことができ、大腸ステント1を大腸Cの留置目標部位に精度よく留置させることができる。
【0041】
また、大腸ステント1において、拘束紐13(変換手段)は、消化物の流れ方向における下流側(肛門側)に対応する後端部11b(他の部分)から上流側(口側)に対応する先端部11a(一の部分)に向けて、骨格部11を順次収縮状態から拡張状態に変換する。
これにより、例えば、留置位置の精度が求められる大腸Cにおける肛門近傍側に当該大腸ステント1を留置する場合であっても、口側に位置する先端部11aを収縮状態に維持したまま肛門側に位置する後端部11bを拡張状態とさせつつ、当該大腸ステント1の留置位置の調整を行うことができ、大腸ステント1を大腸Cの留置目標部位に精度よく留置させることができる。
【0042】
また、変換手段は、骨格部11に巻回された拘束紐13(紐状部材)である。これにより、拘束紐13を引き抜いて徐々に拡張させながら留置位置を調整することができ、拘束紐13を引き抜くという極めて簡単な手技により、骨格部11を収縮状態から拡張状態に変換することができる。また、施術者自身が変換量を制御することができるので、大腸ステント1のショートニングを確認しながら自分のペースで留置術を進行することができる。
【0043】
また、拘束紐13は、骨格部11の先端部11a及び後端部11b(軸方向の両端部)において、脱落不能に保持されている。これにより、拘束紐13を引き抜くだけで、例えば、骨格部11の後端部11bから先端部11aに向けて収縮状態から拡張状態に変換することができる。
【0044】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0045】
実施の形態では、本発明の変換手段として、拘束紐13を適用した場合について説明したが、変換手段は、大腸ステント1を収縮状態で維持することができ、かつ、徐々に拡張状態へと変換できるものであればよい。
例えば、生体親和性及び可溶性を有する線材やテープ材を骨格部11に巻回して、変換手段として機能させてもよい。この場合、変換手段が溶解した部分から大腸ステント1は拡張していく。例えば、大腸ステント1の軸方向における変換手段の線材密度を異ならせることにより、どの部分から拡張状態に移行するかを制御することができる。
【0046】
また、実施の形態では、消化物の流れ方向における下流側(肛門側)から上流側(口側)に向かって大腸ステント1が拡張する場合について説明したが、流れ方向における上流側から下流側に向かって大腸ステント1が拡張するようにしてもよいし、大腸ステント1の中央部から両端部1a、1bに向かって拡張していくようにしてもよい。何れの場合も、大腸ステント1の拡張力、すなわち大腸に対する引留力の最も大きい部分が最後に拡張するように設定されるのが好ましい。
【0047】
また、実施の形態では、第1骨格部111が直筒形状を有している場合を示しているが、一例であってこれに限られるものではない。第1骨格部111は、例えば、留置部位に応じて湾曲した形状を有していてもよいし、留置後に消化管の形状に沿った湾曲形状を有することになってもよい。
【0048】
また、実施の形態では、金属線材を螺旋状に巻回することにより第1骨格部111を形成しているが、第1骨格部111は、金属線材の編込みによって形成してもよいし、レーザー加工により形成してもよい。ただし、レーザーカットタイプのステントは、曲げ剛性が高く直線化力が大きくなるので、外力に対する変形が損なわれないように注意する必要がある。
【0049】
また、実施の形態では、大腸ステント1として、片側フレアタイプのパーシャルカバードステントを例示して説明したが、一例であってこれに限られるものではなく、適宜任意に変更可能である。
本発明は、例えば、片側フレアタイプのベアステント及びフルカバードステント、両側フレアタイプのパーシャルカバードステント、ベアステント及びフルカバードステント、並びに、ストレートタイプのフルカバードステント及びベアステントにも適用することができる。なお、図示は省略するが、骨格部11が皮膜部12により覆われたカバードステントにあっては、拘束紐13を皮膜部12に縫い付けるようにして取り付けてもよい。
【0050】
さらに、本発明は、実施の形態で説明した大腸ステントに限らず、食道や胆管等の消化管に留置される消化管ステントに適用することができる。この場合、消化管を流れる流体は、例えば、全く消化が行われていない摂取された直後の食物、食物が消化管を通過することで分解された物、消化管を通過しても消化されなかった物(例えば、便等)などを含み、物質の状態は問わない。
【0051】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0052】
2018年12月13日出願の特願2018-233628の日本出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【符号の説明】
【0053】
1 大腸ステント(消化管ステント)
11 骨格部
11a 先端部(一の部分)
11b 後端部(他の部分)
13 拘束紐(変換手段、紐状部材)
C 大腸
図1
図2
図3
図4