(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/02 20060101AFI20240326BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20240326BHJP
C07K 1/04 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C07K1/02
C07K7/06
C07K1/04
(21)【出願番号】P 2021564322
(86)(22)【出願日】2020-05-04
(86)【国際出願番号】 FR2020000158
(87)【国際公開番号】W WO2020221970
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-11-22
(32)【優先日】2019-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521471187
【氏名又は名称】ストランシェム
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユート テンドゥン ジャン-ジャック
(72)【発明者】
【氏名】セール オードレ
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】ARKIVOC,2005年,vi,pp.191-199,http://www.arkat-usa.org/get-file/20003/参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-17/14
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユニットごとの、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体鎖の、第一級若しくは第二級アミン官能基を有する第2端部の連続伸長による、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の合成方法であって、以下を特徴とする方法:
・前記ユニットはQ
a-E-Q
b型分子から構成される群から選択され、ここで、Q
a基及びQ
b基は同一又は異なっていてもよく、且つ、これらは求電子基及び核性基から選択され、Eはスペーサを表す;
・前記ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の第1端部は、ハロゲン化溶媒(好ましくは塩化メチレン又はクロロホルム)、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、イソオクタン、シクロヘキサン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルtert-ブチルエーテル又はベンゼン若しくはトルエンなどの芳香族溶媒などの、有機溶媒に、可溶なアンカー分子と共有結合により結合している;
・前記方法は、第一級アミン又は第二級アミン官能基の保護基を含まない;
・前記ユニットのQ
a-E-Q
bは、天然又は非天然又は合成α、β若しくはγ-アミノ酸から構成される群から選択される;
・α、β若しくはγ-アミノ酸の前記ユニットは、それぞれ、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサジナン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゼパン-7-オン
、の形態で実施され、
固体支持体を用いない。
【請求項2】
請求項1
に記載の方法において、
α、β若しくはγ-アミノ酸の前記ユニットは、活性化された形態で使用されることを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の方法において、
前記アンカー分子は、少なくとも10個のモノマーユニット、好ましくは15~350個のモノマーユニットを有する、ポリオレフィン鎖を含み又はポリオレフィン鎖若しくはポリオレフィン若しくはポリアルケンオリゴマーであり、好ましくはポリイソブテン鎖であることを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の方法において、
前記ポリオレフィン又はポリオレフィン若しくはポリアルケンオリゴマー鎖は、その末端の少なくとも1つが官能化されていることを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項
3又は
4に記載の方法において、
前記ポリオレフィン又はポリオレフィン若しくはポリアルケンオリゴマー鎖は、5%を超えない、好ましくは3%を超えない数の炭素-炭素不飽和結合を含むことを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項
3~
5のいずれか1項に記載の方法において、
前記アンカー分子は、600~20000、好ましくは700~15000の重量平均分子量を有することを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法において、
前記アンカー分子は、末端が以下から構成される群から選択される少なくとも1つの基である、ポリオレフィン鎖を含み(又はポリオレフィン鎖であり)又はポリオレフィン若しくはポリアルケンオリゴマーを含むことを特徴とする、方法:
・官能基-X
aであって、-OH、-NH
2、-NHR
a(R
a=アルキル又はアリール)、-SHから構成される群から選択される-X
a;
・官能基-Y-C
6H
4X
bであって、
・Yは、O、S、CH
2又は何もなく(absent)、
・X
bは、-OH、-NH
2、-NHR
a、-SH、-CX
aR
aR
b、-C
6H
3R
c(CR
aX
a)から構成される群から選択され、R
bは-H、-アリール、-ヘテロアリール、-アルキルから構成される群から選択され、R
cは、-H、-アルキル、-O-アルキル、-アリール、-O-アリール、-ヘテロアリール、-O-ヘテロアリールから構成される群から選択される;
・官能基-CR
d=CH-CHX
a又は官能基-CR
dH-CH=CH-CHX
aであって、X
aは前記で定義されたものであり、R
dはメチル又はエチルである。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法において、
以下のことを特徴とする方法:
・前記ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体鎖の前記第1端部は、α、β若しくはγ-アミノ酸の第1ユニットであり、
・前記ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体鎖は、α、β若しくはγ-アミノ酸のnユニットから構成され、
・前記ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体鎖の前記第2端部はα、β若しくはγ-アミノ酸の別のユニットである。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法において、
前記連続伸長の間に、α、β若しくはγ-アミノ酸の別のユニットが、それらのそれぞれの活性化された形態から前記第2端部に加えられることを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法において、
前記ペプチド又は前記タンパク質又は前記ペプチド模倣体は、アンカー分子上にアンカーされたペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体と、その側鎖上で適切に保護されたペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の断片との縮合により得られることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項1~1
0のいずれか1項に記載の方法において、
前記アンカー分子に結合した前記ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体鎖を、有機溶媒(例えば、シクロヘキサン、ヘプタン、ヘキサン)中での抽出、水又は水/エタノール若しくは水/アセトニトリル混合物での洗浄又は抽出、又は単純な濾過により、反応媒体から分離する、少なくとも1つのステップを含む、方法。
【請求項12】
請求項1~1
1のいずれか1項に記載の方法において、
前記ペプチド又は前記タンパク質又は前記ペプチド模倣体を、前記アンカー分子から分離するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の化学に関し、より詳細には二官能性分子、特にα、β若しくはγ-アミノ酸及び/又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸及び/又はα、β若しくはγ-メルカプト酸からの、それらの化学合成に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、溶液中でペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を製造するための方法に関する。この方法は、α、β又はγ-アミノ酸のアミン官能基上にtert-ブトキシカルボニル(Boc)又はフルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)などの従来の保護基を使用しない。同様に、α、β若しくはγ-ヒドロキシ酸のヒドロキシル官能基上、又はα、β若しくはγ-メルカプト酸のチオール官能基上に、保護基を使用する必要がない。
【0003】
この方法は、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサジナン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゼパン-7-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキサン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキセパン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチオラン-5-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチオパン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチエパン-7-オン又はこれらの誘導体の形態の、それぞれの活性化されたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸、及びアンカー分子のファミリー、すなわちポリオレフィン、ポリオレフィンオリゴマー又はポリアルキレンの誘導体、の使用に基づく。アンカー分子は、少なくとも2つの求電子基及び/又は求核基を有する分子に、特に、第1のα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸に、結合され、そして、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体をもたらす連続的な伸長/反復ステップが行われる。
【0004】
この方法はより効率的に(すなわち、より少ないステップ数で)、より迅速な方法で、固体支持体上又は溶液中での従来の方法よりも純度が高く又は精製がより容易な、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を得ることを可能にする。それは自動化が容易である。
【背景技術】
【0005】
従来の技術
過去10年間にわたる治療用ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の開発における著しい成長は、市場における新規分子の多数の承認をもたらした(J.Med.Chem.,2018,22,1382-1414、Bioorg.Med.Chem.,2018,26,2700-2707の刊行物を参照);それゆえ、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体に基づく治療は製薬産業における最もダイナミックな部分の1つとなった。癌、代謝性疾患及び中枢神経系疾患は、新しいペプチド又はタンパク質又は治療用ペプチド模倣体の需要を加速する主な治療領域である。
【0006】
しかしながら、治療におけるペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の広範な採用を妨げる多くの障害がある。例えば、それらの短い代謝半減期及びそれらの親水性が挙げられる。ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の治療的適用の成長を遅らせる別の重要な因子、そしてはるかに最も重要な因子は、それらの製造方法である。
【0007】
まさに最初の液相ペプチド合成は、E.Fisher及びE.Fourneau(Ber.Dtsch.Chem.Ges.1901、34、2868-2879)により1世紀以上前に行われた。その後、多くの化学者が改善を行ってきた;それは、Bodansky及びdu Vigneaud(J.Am.Chem.Soc.,1959,51,5688-5691)、Beyermanら(Rec.Trav.Chim.,Netherlands 1973,92,481-492)、R.K.Sharma及びR.Jain(Synlett 2007,603-606)、Nodalら(Nature Chemistry 2017,9,571-577)、Liuら(Org.Lett.,2018,20,612-615)、及びMuramatsuら(ACS Catal.,2018,8,2181-2187)である。
【0008】
最もよく使用されるペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体合成経路は、アミノ酸のアミン官能基(Nα)の一時的な保護を含む。今日、使用される主な保護基は、tert-ブトキシカルボニル基であり、このアプローチは一般に「Boc」ストラテジーと呼ばれ、また、フルオレニルメトキシカルボニル基であり、このアプローチは一般に「Fmoc」ストラテジーと呼ばれる。これらの2つのペプチド合成経路は、当業者に公知である(D.Voet及びJ.G.Voetによる「Biochemistry」マニュアル、第2版、Brussels 2005、セクション7-5を参照)。実際には、アミノ酸は、Fmoc又はBoc基によりアミン官能基(Nα)上が保護された状態で供給され、活性化/カップリング反応と直接関与する。
【0009】
アミノ酸は液相又は固体支持体上で使用できる;後者の場合、アミン官能基(Nα)上が保護されたアミノ酸は有機溶媒に不溶な樹脂に結合され、これはMerrifield(J.Am.Chem.Soc.,1963,85,2149-2154)の合成である。これはよく制御された方法であるが、過剰に使用される試薬のコスト及び合成されるペプチドの均一性の欠如など、いくつかの欠点を有する。このシステムは劣化している(degenerate)と言われ、これは、分取高速液体クロマトグラフィーによる精製のための追加のコストを生じさせる。
【0010】
液相ペプチド合成(LPPS)では、全ての反応は均一溶液中で起こる。この方法論は、Bodansky及びdu Vigneaud(J.Am.Chem.Soc.,1959,51,5688-5691)によって記載されている。出発アミノ酸のカルボン酸官能基(C末端)はメチルエステルの形態で保護され、続くアミノ酸はカルボキシベンジル基(Cbzと略す)によるアミン官能基(Nα)の保護の後、連続的に縮合され、続いてニトロフェニルエステルによるカルボン酸官能基(C末端)の活性化される。全ての合成中間体は、沈殿又は水での洗浄(抽出)により精製される。このペプチド合成方法は長く、退屈であり、低収率のペプチドを生成する。例として、Schwyzer及びSieber(Helve.Chim.Acta 1966,49,134-158)により記載された、総収率が約7%であるACTHの合成が挙げられる。
【0011】
この方法の変形は、Beyermanらにより報告されている(Rec.Trav.Chim.Netherlands 1973,92,481-492)。これは、ベンジルエステルの形態のアミノ酸又はペプチドのカルボン酸官能基(C末端)を保護すること、及び収率を改善する目的で、過剰のNα保護アミノ酸無水物の存在下でカップリング(又は縮合)反応を実施することからなる。最後に、カップリング反応の収率は高くなるが、後者が約5アミノ酸に達すると、有機相中のペプチドの溶解度が失われる。
【0012】
ペプチド合成を容易にするために、アミノ酸の可溶化を可能にする他の戦略が開発されている。ナリタの研究(Bull.Chem.Soc.Jap.,1978,51,1477-1480)、可溶化アジュバントとしてのポリエチレングリコールに関するBayer及びMutterの研究(Nature 1972,237,512-513)、並びにアンカー分子の可溶化に関するEP0017536(Sanofi)及びEP2612845A1及びUS2014/0296483(Ajinomoto Co、Inc.)の特許文献が挙げられる。
【0013】
二官能性基(bifunctional groups)、すなわち、カルボン酸官能基(C末端)を活性化するとともに、アミノ酸のアミン官能基(Nα)を保護し、反応性の高い中間環構造を形成できる基を使用するペプチド合成戦略も知られている。これは、N-カルボキシ無水物(NCAと略される)の場合である(Ber.Dtsch.Chem.Ges.,1906,39,857-861;Ber.Dtsch.Chem.Ges.,1907,40,3235-3249;Ber.Dtsch.Chem.Ges.,1908,41,1721-172;J.Am.Chem.Soc.,1957,79,2153-2159;J.Am.Chem.Soc.,1947,69,1551-1552を参照)。アミノ酸及びジクロロジメチルシラン誘導体から反応性中間体が合成された(S.H.van Leeuwenら,Tetrahedron Letters 2002,43,9203-9207及びWO00/37484A1を参照)。三フッ化ホウ素エーテラートにより活性化されたアミノ酸誘導体が、ペプチドの合成のために発明された(S.H.van Leeuwenら,Tetrahedron Letters 2005,46,653-3656を参照)。ヘキサフルオロアセトンの存在下でのアミノ酸の活性化も記載されている(Chem.Ztg.,1990,114,249-251及びJ.Spenglerら、Chem.Rev.,2006,106,4728-4746を参照)。
【0014】
溶液中又は固体支持体上でペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を合成するためのこれらのすべての方法は、以下の欠点のうちの1つ以上を有する:保護基の使用、過剰な試薬の使用、ラセミ化の可能性、有機溶媒中での合成中のペプチドの低い溶解度、ペプチドのサイズの制限、高価で汚染性の精製、複雑な実験手順又は重合の可能性。一般に、ペプチド合成の分野で利用可能な豊富な文献の試験は、高純度のペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を、良好な収率で、低コストで、そして生態学的な足跡をあまり残さずに製造することが困難であることを示す。
【発明の概要】
【0015】
本願が解決することを提案する課題は、従来技術に残されたそれらの到達又は製造に関連する障害を除去することを可能にする、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の合成のための新規な方法の設計である。
【0016】
本発明の目的
本発明によれば、この課題は、以下に詳述する2つの本質的特徴の組合せを含む、液相中でペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を合成する方法により解決される。
【0017】
本発明の第1の目的は、Qa-E-Qb型分子の第2端部の連続伸長によりペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を合成する方法であって、Qa及びQbは同一又は異なっていてもよく、且つ、これらは求電子基及び/又は核性基を表し、Eはスペーサを表す。前記第2端部は、特に、α、β、γ若しくはδ-アミノ酸又はα、β、γ若しくはδ-ヒドロキシ酸又はα、β、γ若しくはδ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の、第1級若しくは第2級アミン、ヒドロキシル又はチオールであり、前記ユニットは、(天然又は非天然又は合成)α、β、γ若しくはδ-アミノ酸又はα、β、γ若しくはδ-ヒドロキシ酸又はα、β、γ若しくはδ-メルカプト酸から構成される群から選択されることを特徴とする。さらに、前記Qa-E-Qb型分子(例えば、前記α、β、γ若しくはδ-アミノ酸又はα、β、γ若しくはδ-ヒドロキシ酸又はα、β、γ若しくはδ-メルカプト酸)の第1端部、又は前記ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の第1端部は、ハロゲン化溶媒(塩化メチレン、クロロホルム)、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、イソオクタン、シクロヘキサン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルtert-ブチルエーテル又はベンゼン若しくはトルエンなどの芳香族溶媒又は任意の他の好適な溶媒などの、有機溶媒に溶解するアンカー分子と結合している。
【0018】
第1の本質的特徴は、特定のアンカー分子のファミリーの使用である。本発明によれば、アンカー分子は、ポリオレフィン又はポリオレフィンオリゴマー又はポリアルケンである。本発明に係る方法は、高純度の(天然又は非天然又は合成)ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体への到達を提供する。この方法は保護基(主鎖のアミン、ヒドロキシル又はチオール官能基上)及びカップリング剤の使用がないため、ステップ及び原子の節約をもたらし、それゆえ、財政的節約をもたらす。そして、この方法は環境をより尊重する。
【0019】
第2の本質的特徴は、二官能性基のQa-E-Qb型分子の使用であり、ここで基Qa及び基Qbは同一でも異なっていてもよく、また、求電子基及び/又は求核基から選択され、Eはスペーサを表す。有利にはQa及びQbは、アルコール、アルデヒド、第一級アミン、第二級アミン、アジド、エチニル、ハロゲン、チオール、ビニルなどの化学的官能基から構成される群から選択され、及び/又はスペーサEは芳香族、ヘテロ芳香族、飽和アルキル鎖(分岐又は非分岐)、不飽和アルキル鎖(分岐又は非分岐)、グリコール(及び好ましくはポリエチレングリコール)などの構造ユニットから構成される群から選択される。
【0020】
有利なケースとして、二官能性基のQa-E-Qb型分子としてα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸を用いる場合、これらの化合物はその活性化形態、すなわち、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オン、又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサジナン-6-オン、又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゼパン-7-オン、又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-4-オン、又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキサン-4-オン、又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキセパン-4-オン、又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチオラン-5-オン、又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチアン-6-オン、又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチエパン-7-オン、又はそれらの誘導体で使用される。
【0021】
ダイアグラム1は、これらの活性化形態の構造を示す。後者は、対応するα、β若しくはγ-アミノ酸(この表現はここではα-アミノ酸、β-アミノ酸又はγ-アミノ酸を意味する)、又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸(この表現はここではα-ヒドロキシ酸、β-ヒドロキシ酸又はγ-ヒドロキシ酸を意味する)、又はα、β若しくはγ-メルカプト酸(この表現はここではα-メルカプト酸、β-メルカプト酸又はγ-メルカプト酸を意味する)から調製される。
【0022】
【化1】
今日まで、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オンの形態の活性化アミノ酸誘導体を使用して、異なっている又は異なっていない4個を超えるアミノ酸から構成されるペプチドを溶液中で容易に調製する可能性は、実証されていない。
【0023】
本発明の目的は、正確には、液体(又は溶液)相中での高純度のペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の製造を可能にするアンカー分子の存在下での、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサジナン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゼパン-7-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキサン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキセパン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチオラン-5-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチアン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチエパン-7-オン又はそれらの誘導体の形態の活性化酸の使用を提案することにある。
【0024】
本発明に係るペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を合成する方法は、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体鎖の第2端部(第1級又は第2級アミン、ヒドロキシル又はチオール)の連続伸長により進行し、その第1端部は、有機溶媒に可溶な分子アンカーに結合している。前記アンカー分子は、少なくとも10個のモノマーユニット、好ましくは15~350個のモノマーユニットを有するポリオレフィン鎖又はポリオレフィン又はポリアルケンオリゴマーを含む。
【0025】
有利な実施形態では、前記ポリオレフィン鎖はポリイソブテン(PIB)鎖である。特に、前記アンカー分子は、ポリオレフィンであり得る。ポリオレフィン鎖は、その末端の少なくとも1つで官能化されていてもよい。代替的に、ポリオレフィン鎖又はポリオレフィン又はポリアルケンオリゴマーは、5%以下、好ましくは3%以下の多数の炭素-炭素不飽和結合を含んでいてもよく、及び/又はアンカー分子は600~20000、好ましくは700~15000の重量平均分子量を有していてもよい。
【0026】
特定の実施形態では、前記アンカー分子は、末端が以下で構成される群から選択される少なくとも1つの基であるポリオレフィン鎖を含む(又はポリオレフィン鎖である):
・官能基-Xaであって、Xaは-OH、-NH2、-NHRa(Ra=アルキル又はアリール)、-SHから構成される群から選択される、
・官能基-Y-C6H4Xbであって、ここで、
・YはO、S、CH2又は何もなく(absent)、
・Xbは-OH、-NH2、-NHRa、-SH、-CXaRaRb、-C6H3RC(CRaXa)から構成される群から選択され、Rbは-H、-アリール、-ヘテロアリール、-アルキルから構成される群から選択され、RCは-H、-アルキル、-O-アルキル、-アリール、-O-アリール、-ヘテロアリール、-O-ヘテロアリールから構成される群から選択される、
・官能基-CRd=CH-CHXa又は官能基-CRdH-CH=CH-CHXaであって、Xaは前記で定義されたものであり、Rdはメチル又はエチルである。
【0027】
特に、Xaは、第一級又は第二級アミン官能基、アルコール、チオール又はフェノールであり得る。
【0028】
有利な実施形態では末端官能基(例えば、前記定義の-Xa、-Z-C6H4Xb又は-CRd=CH-CHXa)を除いて、アンカー分子の重量平均分子量は600~20000、好ましくは700~15000である。重量平均分子量が約20000を超えると、これらの分子は粘度が高すぎて、カップリング/伸長又は反復ステップに使用される有機溶媒への溶解度を制限するリスクがある。
【0029】
本発明の文脈で使用されるいくつかのPIB誘導体は、均一触媒作用のためのリガンドとして市販されている。例として、2-メチル-3-[ポリイソブチル(12)]プロパノール(末端官能基を含む重量平均分子量757)又は4-[ポリイソブチル(18)]フェノール(末端官能基を含む重量平均分子量1104)を使用でき、これらは、それぞれ、Strem Chemicals社により番号06-1037及び06-1048の下で流通している。これら2つの分子は、鎖末端がそれぞれ基-CH2-C(CH3)(H)-CH2-OH(すなわちイソプロパノール)及び基-CH2-C(CH3)2-C6H4-OH(すなわちフェノール)であるポリイソブテン誘導体である。
【0030】
本発明の1つの特徴によれば、前記のような有機溶媒に可溶なアンカー分子の使用(より詳細には、ポリオレフィンの使用)はまた、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸、又は少なくとも2つの官能基を有する任意の他の分子の、カルボン酸官能基(C末端)任意の他の化学官能基(側鎖)の、保護基又は液体担体として作用し得る。それはまた、有機溶液(ハロゲン化及び/又は非ハロゲン化溶媒)中でのアンカーされたペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の可溶化及びそれらの合成を可能にする。
【0031】
本発明の別の特徴によれば、前記のような有機溶媒に可溶性であり、いくつかの極性溶媒(例えば、水及び/又はエタノール及び/又はアセトニトリル)に不溶性であるアンカー分子の使用(より詳細にはポリオレフィンの使用)は、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はアンカーされたペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の、単純な抽出(洗浄)又はシリカ上での単純な濾過による、精製を容易にする。したがって、単純な抽出又は単純な濾過により、高い化学的純度のアンカーされたペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を得ることが可能になる。
【0032】
本発明のさらに別の特徴によれば、市販のアンカー分子を使用し、又は市販の前駆体、特にいくつかのポリイソブテン(PIB)誘導体、から簡単かつ直接的に合成できるアンカー分子を使用する。
【0033】
本発明のさらに別の特徴によれば、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸は、それぞれ、それらの活性化された形態、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキサラン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチオラン-5-オン又は(2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサジナン-6-オン、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキサン-4-オン、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキチアン-6-オン、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゼパン-7-オン、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキセパン-4-オン、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチエパン-7-オン及びこれらの誘導体で、-20℃から150℃の間の温度で、適切な溶媒(又は溶媒混合物)中で、反応する。一実施形態では、反応は、試薬を溶解できる任意の不活性液体溶媒(又は混合物)中で行われる。適用可能な溶媒はハロゲン化又は非ハロゲン化炭化水素を含むが、これらに限定されない。好ましい溶媒は、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート又はこれらの2つの化学種を溶解できる任意の他の溶媒若しくは溶媒混合物である。
【0034】
本発明のさらに別の特徴によれば、PIB誘導体と、活性化されたα、β若しくはγ-アミノ酸又は活性化されたα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又は活性化されたα、β若しくはγ-メルカプト酸との間の反応は、バッチ化学(特にフラスコ又は槽中)で行われるが、好ましくはそれらは流動化学(連続流動化学とも呼ばれる)で行われる。
【0035】
本発明のさらに別の特徴によれば、アンカー/伸長又は反復の反応条件と適合しない側鎖を有する、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸は、適切な保護基により一時的にマスクされ得る。それは、特に以下で構成される群から選択され得る:
・tert-ブトキシカルボニル(Bocと略す)、
・フルオレニルメトキシカルボニル(Fmocと略す)、
・ベンジル(Bzlと略す)、
・トリチル(Trtと略す)、
・カルボキシベンジル(Cbzと略す)、
・2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル(Pbfと略す)、
・4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル(Mtrと略す)。
【0036】
本方法に適合する任意の他の保護基を使用することも可能である。
【0037】
本発明のさらに別の特徴によれば、前記アンカー分子は第1の活性化されたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸(ここではAAA1と略す)と反応し、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸とアンカー分子との間の共有結合をもたらす。
【0038】
本発明のさらに別の特徴によれば、前記ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体鎖は、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸のnユニットから形成され;その第2端部はα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸の別のユニットであり、ここではAAAnと略される。この方法の過程の間、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体鎖は、伸長又は連続反復により長くなり、そしてこれらの各ステップの間に、活性化されたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸の、ここではAAA(n+1)と略される別のユニットが、前記第2端部(第1級又は第2級アミン、アルコール又は遊離チオール)に加えられる。この反応シーケンスを下記反応ダイアグラムn2に示す。
【0039】
【化2】
本発明のさらに別の特徴によれば、前記ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体鎖において、天然及び/又は非天然及び/又は合成の、α、β若しくはγ-アミノ酸及び/又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸及び/又はα、β若しくはγ-メルカプト酸を使用することが可能である。
【0040】
本発明のさらに別の特徴によれば、前記ペプチド模倣体鎖において、スペーサユニットEにより分離された、同一又は異なる、求電子基及び/又は求核基から選択される、少なくとも2つの官能基を有する、Qa-E-Qb型分子の1つ以上のユニットを、使用できる。基Qa及び/又はQbは末端基であってもなくてもよい。スペーサEは、以下で構成される群から選択されるものであり得る:
・脂肪族鎖(分岐鎖であるか否かを問わず、不飽和であるか否かを問わない);
・アリール又はヘテロアリール(置換されていてもいなくてもよい)。
【0041】
有利には、Qa-E-Qb型の分子は、第一級アミン官能基、第二級アミン官能基、ヒドロキシル基又はチオール基から構成される群から選択される末端官能基を有する。
【0042】
前記α、β若しくはγ-アミノ酸、前記α、β若しくはγ-ヒドロキシ酸及び前記α、β若しくはγ-メルカプト酸は、Qa-E-Qb型の二官能性分子の特定の場合を表すことが容易に分かる。同じことが、前記δ-アミノ酸、前記δ-ヒドロキシ酸及び前記δ-メルカプト酸にも当てはまるが、これらはα、β若しくはγ-アミノ酸、α、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸ではない他の二官能性分子のように、必ずしもそれらの活性化された形態で反応に関与するわけではない。
【0043】
二官能性分子Qa-E-Qbは、特にエポキシド、アジリジン、チイランから選択される分子構造を有し得る。したがって、本発明によれば、ペプチドE-64のようなエポキシ-コハク酸エステル基又はミラジリジンのようなアジリドペプチドを含む、ペプチド模倣体を調製できる。
【0044】
本発明の文脈で使用され得る、二官能性Qa-E-Qb型分子のいくつかの例をここに示す:サルコシン、2-(1-アミノエチル)-1,3-オキサゾール-4-カルボン酸及び(2R,3R,4R)-3-ヒドロキシ-2,4,6-トリメチル-ヘプタン酸。
【0045】
前記二官能性分子Qa-E-Qbは特に、以下に示す定義にしたがうアミノ酸であり得る。それはまた、ペプチド、例えば、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド、ヘキサペプチド、ヘプタペプチド、オクタペプチド、ノナペプチド、デカペプチド又はさらに長いペプチドであり得る。
【0046】
これらの二官能性分子は、公知の化学反応により、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体鎖に導入され得る。それらは、第一級アミン官能基、第二級アミン官能基、ヒドロキシル官能基又はチオール官能基から構成される群から選択される末端官能基上に保護基を有さない。例えば、前記二官能性分子がアミノ酸又はペプチドである場合、それはN末端保護を有さず;その側鎖又は側鎖官能基を保護することが可能であり、それらはペプチドの伸長の間に改質されない。
【0047】
前記したように、前記α、β若しくはγ-アミノ酸、前記α、β若しくはγ-ヒドロキシ酸及び前記α、β若しくはγ-メルカプト酸は、好ましくはそれらの活性化形態で使用される。
【0048】
α、β若しくはγ-アミノ酸、α、β若しくはγ-ヒドロキシ酸及びα、β若しくはγ-メルカプト酸から選択されない二官能性分子に由来するユニットは、有利には、前記ペプチド模倣体のC末端に、又は末端に(特に、第一級又は第二級アミン、ヒドロキシル又はチオール官能基の官能化により)、又は側鎖に(少なくとも1つのα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸の)、又はα、β若しくはγ-アミノ酸、α、β若しくはγ-ヒドロキシ酸及びα、β若しくはγ-メルカプト酸から選択される2つのユニットの間に、加えられ得る。
【0049】
有利な実施形態では、α、β若しくはγ-アミノ酸、α、β若しくはγ-ヒドロキシ酸及びα、β若しくはγ-メルカプト酸から選択されない二官能性分子から生じるユニットの数は、50%を超えず、好ましくは25%を超えない。
【0050】
本発明のさらに別の特徴によれば、少なくとも1つのステップは、前記ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体鎖は、前記アンカー分子に加えられ、水(又は水/エタノール混合物又は水/アセトニトリル混合物)と混和しない有機溶媒(シクロヘキサン、ヘプタン又は任意の他の適切な溶媒など)中での抽出により、又はシリカ上での濾過により、反応媒体から精製される。
【0051】
本発明のさらに別の特徴によれば、本発明は、側鎖の脱保護後(必要であれば)、次いで、最後の反復ステップ後のアンカー分子の分離後に、例えば前臨床試験、臨床ケア又は任意の他の適用のための活性成分として、それらの目的にしたがって使用される、高純度のペプチド又はタンパク質又はペプチドメチティクス(peptidometics)を得ることを可能にする。
【0052】
本発明のさらに別の特徴によれば、アンカー分子は、本発明に係る方法において再利用(リサイクル)され得る。
【0053】
本発明の第2の目的は、本発明に係る方法により得られる分子である。前記分子は、アンカー分子に結合したペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体又はα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸を含む。
【発明を実施するための形態】
【0054】
説明
1.定義
定義本発明の文脈では、「アミノ酸」は、以下を意味する:天然アミノ酸及び非天然又は合成アミノ酸。「天然」アミノ酸は天然由来のタンパク質に見出され得る標準的タンパク質構成アミノ酸(standard proteinogenic amino acids)と呼ばれるタンパク質構成アミノ酸のL型を含み、すなわち以下を含む:アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)。それらはまた、他のタンパク質構成アミノ酸、及び、特にピロリシン及びセレノシステインを含む。
【0055】
「非天然」アミノ酸は、前記で定義した天然アミノ酸のD型、特定の天然アミノ酸(例えば、アルギニン、リジン、フェニルアラニン及びセリン)のホモ形態(the homo forms)、並びにロイシン及びバリンのノル形態(the nor forms)を含む。
【0056】
「非天然」アミノ酸はまた、全ての合成アミノ酸を含む。それらはまた、以下の非天然アミノ酸も含む:
Abu=2-アミノ酪酸 CH3-CH2-CH(COOH)(NH2);
iPr=イソプロピル-リジン (CH3)2C-NH-(CH2)4-CH(COOH)(NH2);
Aib=2-アミノイソ酪酸;
F-trp=N-ホルミルトリプトファン;
Orn=オルニチン;
Nal(2’)=2-ナフチルアラニン。
【0057】
このリストは明らかに網羅的ではない。
【0058】
天然又は非天然の不飽和α及びβアミノ酸を使用することも可能である。
【0059】
本発明の文脈では、用語「活性化アミノ酸」は、ここでは側鎖上に保護基がある可能性があるか否かにかかわらず、それぞれ2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オン又は(2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサジナン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゼパン-7-オン及びそれらの誘導体の形態の、活性化されたα、β又はγ-アミノ酸を指すために使用される。
【0060】
本発明はペプチド模倣体の合成にも適用可能である。この合成に使用される前駆体は、以下のように定義される:
用語「α、β又はγ-ヒドロキシ酸」は当業者に公知のIUPACの用語規則にしたがってここで使用される。例は、天然に見出される乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸又はγ-ヒドロキシ酪酸のような化合物である。本発明の文脈では、すべての合成α、β又はγ-ヒドロキシ酸も含む、すべての「非天然」α、β又はγ-ヒドロキシ酸を使用することも可能である。
【0061】
「活性化されたα、β又はγ-ヒドロキシ酸」という用語は、側鎖に保護基があるか否かにかかわらず、それぞれ2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキサン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキセパン-4-オン及びそれらの誘導体の形態で活性化された、すべての天然及び/又は非天然及び/又は合成α、β又はγ-ヒドロキシ酸を指す。
【0062】
用語「α、β又はγ-メルカプト酸」は、当業者に公知のIUPACの用語規則にしたがってここで使用される。例は、チオグリコール酸、3-メルカプトプロピオン酸、メルカプトブタン酸のような化合物である。本発明の文脈では、全ての合成α、β又はγ-メルカプト酸も含む全ての「非天然」α、β又はγ-メルカプト酸を使用することも可能である。
【0063】
用語「活性化されたα、β又はγ-メルカプト酸」は、側鎖に保護基の可能性があるか否かにかかわらない、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチオラン-5-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチアン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチエパン-7-オン及びそれらの誘導体の形態の、(天然、非天然又は合成)α、β又はγ-メルカプト酸の活性化から生じる、すべての化合物を指す。
【0064】
当業者は、この文脈では、α、β、γ及びδという名称がカルボン酸官能基(C末端)の炭素に関して、(第一級又は第二級)アミン又はヒドロキシル又はチオール官能基により置換された、炭素の位置を指すことを知る。
【0065】
「ペプチド模倣体」という用語は従来技術によれば、特定の受容体との相互作用に関してペプチドを模倣し又はブロックし得る分子の機能的用語として使用される。特に、ペプチド模倣体はアミノ酸ではないユニットを含み得る。
【0066】
化学者によく知られた略称「DMF」、「DMSO」及び「THF」はそれぞれ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びテトラヒドロフランを指す。
【0067】
2.詳細な説明
本発明に係る方法の第1の本質的特徴は、有機溶媒に可溶なアンカー分子の存在下での、それぞれ、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサジナン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゼパン-7-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキサン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキセパン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチオラン-5-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチアン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチエパン-7-オン及びそれらの誘導体での、活性化されたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸の使用である。ここで、「有機溶媒」は、反応物を(高温及び/又は低温で)溶解できる任意の不活性液体溶媒(又は混合物)を意味する。適用可能な溶媒は、ハロゲン化又は非ハロゲン化炭化水素を含むが、これらに限定されない。
【0068】
それぞれ、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オン又は(2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサジナン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゼパン-7-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキサン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキセパン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチオラン-5-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチアン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゼパン-7-オン及びそれらの誘導体の形態の、活性化されたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸は、天然又は非天然の(側鎖(保護されており又は保護されていない)を有する)、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸、及びヘキサフルオロアセトンから、公知の方法にしたがって調製される。反応ダイアグラムn3は、異なる酸の活性化を表す、以下のように知られている反応である:
【0069】
【化3】
以下に詳細に記載する本発明の1つの特徴によれば、アンカー分子(又は保護基又は可溶化分子)はポリオレフィン、又はより具体的にはポリオレフィンオリゴマー(ポリアルケンとも呼ばれるポリオレフィン)及びその誘導体であり、すなわち、それらは官能化されている。
【0070】
本発明の別の特徴によれば、液相中でペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体(それらの側鎖上で保護されているか又は保護されていない)を合成するためのこの方法は、アンカー分子、及びそれぞれ、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オン又は(2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサジナン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゼパン-7-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキサン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキセパン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキチオラン-5-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチアン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチエパン-7-オン又はそれらの誘導体の形態の、活性化されたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸を使用することを特徴とする。そして、これらの2つの分子種の間に共有結合が形成される。伸長/反復ステップは以下の活性化されたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸を付加又は縮合することからなり、これらは、その側鎖上でオプションで保護されている(エステル、エーテル、チオエステル、チオエーテル又は本方法に適合する任意の他の化学官能基の形態で)。したがって、アンカー分子は、第1のα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸のカルボン酸官能基(C末端)の保護基として作用する。
【0071】
本発明の別の特徴によれば、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を合成するためのこの方法は、適切に保護されたペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の断片と、PIB分子上にアンカーされたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体とを使用して、実施でき、これはカップリング後により長いペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を得ることを可能にする。
【0072】
本発明の別の特徴によれば、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を合成するためのこの方法は、同一又は異なっており、求電子基及び/又は求核基から選択される少なくとも2つの官能基Qa及びQbを有する、分子Qa-E-Qbを用いて実施できる。これらの構造の例は、酸化スチレン、アミノチオフェノール又は1-アジド-4-(ブロモメチル)ベンゼンである。これらの分子は、アンカー分子に直接結合でき、又は合成中に(第一級若しくは第二級)アミン官能基又はヒドロキシル若しくはチオール、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はアンカーされたペプチド若しくはタンパク質若しくはペプチド模倣体上に導入できる。
【0073】
本発明に係る方法は、(ハロゲン化又は非ハロゲン化)反応物を溶解できる任意の不活性液体溶媒(又は混合物)中で、典型的には約-20℃~約150℃の温度で、反応器中で(バッチ式又は流動式で)実施できる。
【0074】
本発明の別の特徴によれば、PIB分子にアンカーされたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体は、前記α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体又は少なくとも2つの官能基を有する任意の他の分子の末端官能基が、共有結合(エステル、エーテル、アミド、チオエステル又は任意の他の化学官能基)により結合され、したがって水中で非常に低い溶解度(<30mg/ml)を与えることを特徴とする。この意味で、PIB誘導体は、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の合成のための液体担体又は可溶化分子として作用する。
【0075】
例として、反応ダイアグラムn4は、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オンの形態の活性化アミノ酸と、末端がフェノール官能基であるポリイソブテン誘導体(PIBと略す)との反応を示す。この場合、α-アミノ酸はL-フェニルアラニン(Phe)である。
【0076】
【化4】
したがって、将来のペプチドの第1のα-アミノ酸は、エステル型共有結合を介してアンカー分子に結合される。
【0077】
反応ダイアグラム5は、伸長又は反復ステップ、すなわち、アンカー分子に結合された第1のアミノ酸への第2のアミノ酸ユニットの結合を示す。この場合のその第2のα-アミノ酸はL-トリプトファン(Trp)である。
【0078】
【化5】
この方法は、連続的な反復により、合成の間に、PIB誘導体に付加された、最後のα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体に、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸のユニットを付加して、所望の配列を有するペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を得ることを可能にすることが容易に理解され得る。ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体はアンカー分子に化学的に結合しており、ヘキサン又はシクロヘキサンなどの有機溶媒中及び水中で、又は水/エタノール若しくは水/アセトニトリル混合物中で、抽出することにより、任意の時点で、特に最後の反復ステップの後に、すべての極性生成物から分離できる。この反復シーケンスの終わりに、及びオプションで側鎖の脱保護後に、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体をアンカー分子から分離でき、したがって、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体は、非極性溶媒中でのその溶解性を失い、アンカー分子から分離されて、その意図する目的にしたがって使用できる。
【0079】
本発明の別の特徴によれば、PIB誘導体を用いたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体(その側鎖上で保護されているか又は保護されていない)の誘導(又はアンカー)は、実際、アンカーされた、前記α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の、有機液相中における溶解性の著しい向上をもたらす。より具体的には、PIB誘導体上にアンカーされたこれらのα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体は、有機溶媒(例えば、ハロゲン化溶媒(塩化メチレン、クロロホルム)、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、イソオクタン、シクロヘキサン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルtert-ブチルエーテルプロピレンカーボネート又は芳香族溶媒(例えば、ベンゼン又はトルエン)又は任意の他の適切な溶媒)に可溶性になる。したがって、PIB誘導体上に固定されたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体は、抽出/デカンテーションの間、有機相に対して高い分配係数を有し、したがって、単純かつ迅速な精製を可能にする。同時に、水又は水/エタノール若しくは水/アセトニトリル混合物などの溶媒へのそれらの溶解度は非常に低い。
【0080】
本発明の別の特徴によれば、PIB誘導体と、保護されているか又は保護されていない(エステル、アミド、チオエステル又は任意の他の化学官能基)側鎖をオプションで有する、第1の活性化されたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸との間の反応は、水への溶解度が低い(<30mg/ml)生成物をもたらす。
【0081】
したがって、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体が、PIB誘導体に結合している場合、この反応の生成物は、有機溶媒に可溶性になるが、水又は水/エタノール若しくは水/アセトニトリル混合物などの溶媒には不溶性のままであるため、これは液体担体(又はアンカー分子又は可溶化分子)として作用する;これは相分離による反応混合物からの分離を可能にする。
【0082】
反応ダイアグラムn6は、配列Phe-Tpr-Cys(Bzl)-Trp-Cys(Bzl)-Trp-Trp-Cys(Bzl)-NH2を有するオクタペプチドを、ペプチドがL-フェニルアラニンのカルボン酸官能基(C末端)によりアンカーされているアンカー分子(末端がフェノール官能基であるPIB誘導体)から、分離するステップの例を示す。L-システイン残基の側鎖は、ベンジル基(Bzl)により保護される。遊離ペプチドは非極性溶媒(すなわち、シクロヘキサン、ヘキサン)に不溶性であり、そのためアンカー分子から容易に分離できる。アンカー分子は、本方法において再利用するために回収し得る。
【0083】
【化6】
ペプチドは、エチルエーテル、シクロヘキサン又は任意の他の適切な溶媒などの溶媒中で沈殿する。そして、それは、その意図された目的にしたがい使用できる。
【0084】
本発明に係るペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を調製するための方法の第2の本質的特徴、すなわち、以下のいくつかの有機溶媒に可溶なアンカー分子の使用をここに記載する:酢酸エチル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、イソオクタン、シクロヘキサン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルtert-ブチルエーテル又はハロゲン化溶媒。
【0085】
有利には、本発明に係る方法は、ポリオレフィン又はより具体的にはポリオレフィンオリゴマー(ポリアルケンとも呼ばれるポリオレフィン)、及びそれらの誘導体を、液相中で、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体のカルボン酸官能基(C末端)のためか、又は前記α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体(エステル、アミド、エーテル、チオエステル、チオエーテルの形態又は任意の他の適切な化学的官能基)の側鎖のもののためかどうかにかかわらず、アンカー分子又は液体担体又は保護基として使用する。ポリオレフィン分子は、単結合によりともに結合された炭素原子鎖を含む。それらは、同一又は異なるアルキル基、好ましくは同一のアルキル基から構成される分岐を含んでもよい。好ましくは、そのポリマーは、少なくとも10個、好ましくは15~350個の、多数のモノマーユニットから構成されている。ホモポリマーが好ましいが、(飽和又は不飽和の)コポリマーを使用できる。不飽和ポリマー又はコポリマーの場合、炭素原子鎖中の不飽和結合の数は、有利には5%を超えず、好ましくは3%を超えない。
【0086】
好ましくは、それらはポリイソブテン(PIB)の誘導体であり、前世紀の1930年代から知られているポリマーのクラスであるが、ポリプロピレンの誘導体を使用することも可能である。
【0087】
これらのアンカー分子は、以下に詳細に説明されるように、官能化誘導体の形態で、本発明に係る方法において好ましく使用される。ダイアグラムn7は、本発明を実施するための液体担体として好適な、官能化された多数のPIB誘導体を示す。
【0088】
【化7】
これらの式では:
・X
cは、-OH、-NH
2、-NHR
a(R
a=アルキル又はアリール)、-SHから構成される群から選択される基である;
・Arは、置換されている又は置換されていない、芳香族又はヘテロ芳香族基である;
・Aは、何もないか、CH
2、CH
2-CH
2、Sから構成される群から選択される基である;
・R
fは、H、アリール、ヘテロアリール、アルキル、O-アルキル、O-アリール、O-ヘテロアリールから構成される群から選択される基である;
・R
qは、H、アルキル、O-アルキル、アリール、ヘテロアリール、O-アリール、O-ヘテロアリールから構成される群から選択される基である;
・数nは、典型的には10より大きい、有利には15~350の、整数である。
【0089】
数mは、0又は1のいずれかである。特に、基Xcは、第一級又は第二級アミン、アルコール、チオール又はフェノールにおける官能基であり得る。
【0090】
本発明によれば、これらのアンカー分子は、共有結合を介して、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸のカルボン酸官能基(C末端)、又は少なくとも2つの官能基を有する分子のすべての化学官能基に結合される。これは、アンカー分子が、本明細書において「PIB誘導体」と呼ばれる、適切に官能化された形態で関わっていることを仮定している。この用語はまた、ポリイソブテンの誘導体ではないが、前記で定義されたような他のポリオレフィンの誘導体であるアンカー分子の誘導体を包含する;それは特に、ポリオレフィンオリゴマーの誘導体を包含する。このアンカー分子の官能化は一般に末端官能化であり、好ましくは炭素原子鎖の末端の1つにおけるものである;これは以下に記載される。
【0091】
本発明によれば、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体は、エステル、エーテル、チオエーテル、チオエステル又は本方法に適合する任意の他の化学的官能基の形態で、PIB誘導体を用いて側鎖上で官能化され得る。これは、PIB誘導体に、前記α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の側鎖の保護基の役割を与えることに相当する。
【0092】
アンカー分子として使用されるポリオレフィン又はポリオレフィンオリゴマー又はポリアルケンの鎖は、典型的には重量平均分子量により特徴付けられるが、所定の鎖長の同一分子を含む「均一」鎖として知られるポリオレフィン又はポリオレフィンオリゴマー又はポリアルケンの鎖を使用することも可能である。
【0093】
より具体的には、本発明に係る、液相(溶液)中で、オプションとして側鎖が保護された、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を合成するための方法は、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体が、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体又は少なくとも2つの官能基を有する任意の他の分子の、カルボン酸官能基に結合したPIB誘導体により、有機媒体中に溶解されるという事実によって特徴付けられる。PIB誘導体は、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体又は少なくとも2つの官能基を有する任意の他の分子の、アンカー分子(ここでは「液体担体」又は「可溶化分子」とも呼ばれる)として作用する。このアンカー分子に結合した前記ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体は、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又は少なくとも2つの官能基を有する任意の他の分子を、最後のα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又は少なくとも2つの官能基を有する任意の他の分子に、連続的に付加することによって合成される。したがって、アンカー分子はまた、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の合成の間、連続的な反復において、カルボン酸官能基(C末端)の保護基としての役割を果たす。
【0094】
オプションでその側鎖上が保護された、前記α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体のカルボン酸官能基(C末端)は、エステル、アミド、チオエステル又は任意の他の共有化学結合により、親油性PIB誘導体に結合され、水への溶解度が非常に低くなる(<30mg/ml)。この意味で、PIB誘導体は、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の合成のための液体担体又は可溶化分子として作用する。
【0095】
PIB誘導体を有するα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体(その側鎖上で保護されているか又は保護されていない)のこの誘導体は、有機液相中での前記α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はアンカーされたペプチド模倣体の溶解度を著しくに増大させる。より具体的には、PIB誘導体上にアンカーされたこれらのα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体は、ハロゲン化溶媒(塩化メチレン、クロロホルム)、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、イソオクタン、シクロヘキサン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルtert-ブチルエーテル又はベンゼン若しくはトルエンなどの芳香族溶媒又は任意の他の適切な溶媒などの有機溶媒に可溶性になる。結果として、PIB誘導体に結合したα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体は、シクロヘキサン又はヘキサン及び水又は水/エタノール若しくは水/アセトニトリル混合物の存在下での抽出/デカンテーションの間、有機相に対する高い分配係数を有し、したがって、それらの単純かつ迅速な精製を可能にする。
【0096】
本発明に係る、液相中で、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体(側鎖上で保護されているか又は保護されていない)を合成するための方法の一実施形態では、出発点が、それぞれ2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オン又は(2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキジナン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゼパン-7-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキサン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキセパン-4-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチオラン-5-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチアン-6-オン又は2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサチエパン-7-オン又はそれらの誘導体の形態の、活性化されたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又は少なくとも2つの官能基を有する分子である。これらは、共有結合を介して前記で定義されたアンカー分子の1つに結合され、連続反復により、少なくとも2つの官能基を有する分子、又は、活性化されオプションでその側鎖が保護されている、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸に、付加され又は縮合される。
【0097】
本発明に係る、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を合成する方法は、その側鎖上で適切に保護されたペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の断片、及びPIB分子上にアンカーされたペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体配列を使用して実施でき、これはカップリング後により長いペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を得ることを可能にする
本発明に係る、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の合成方法は、少なくとも2つの官能基、すなわち、同一であっても異なっていてもよく、求電子基及び/又は求核基から選択される基Qa及び基Qbを有する分子を用いて実施できる。例えば、第1実施形態ではQaは求電子基であってもよく、Qbは求核基であってもよく、又はこれに代えて、第2実施形態ではQaが第1の求電子基でありQbが第2の求電子基であってもよく、又はこれに代えて、第3実施形態ではQaが第1の求核基及びQbが第2の求核基であってもよい;変形例では、Qa及びQbは同じ求電子基、又は同じ求核基であってもよい。少なくとも2つの官能基を有するこれらの分子は、アンカー分子上に直接アンカーされ、又は(第一級若しくは第二級)アミン官能基又はヒドロキシル又はチオール、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸又はペプチド又はタンパク質又はアンカーされたペプチド模倣体上に、合成の間に導入され得る。
【0098】
有利には、活性化されたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸のわずかな化学量論的過剰が、各アンカー、伸長及び/又は反復ステップの間に利用される。
【0099】
これらの二官能性分子は、公知の化学反応により、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体鎖に導入され得る。必要な場合は、それらを保護又はマスクし(既知の反応の手段により、その求核基又はそれを必要とする任意の他の化学官能基上で)、既知の技術により活性化できる。
【0100】
α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸から選択されない二官能性分子に由来するユニットは、有利には、前記ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体のC末端に、又はN、O若しくはS末端に(特にアミン、ヒドロキシル又はチオール官能基の官能化により)、又はその他側鎖に、又はα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又は又はα、β若しくはγ-メルカプト酸から選択される2つのユニット間に、付加させ得る。
【0101】
有利な実施形態では、α、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸から選択されない二官能性分子に由来するユニットの数は、ユニット数で50%を超えず、好ましくはユニット数で25%を超えず、さらにより好ましくはユニット数で10%を超えない。
【0102】
例えば、側鎖にα-アミノ酪酸ユニットを含むペプチド模倣体であるセマグルチドは、本発明に係る方法を用いて調製できる。
【0103】
α、β、γ又はδ-アミノ酸型の分子のリストがここに与えられ、これらは、本発明に係る方法の文脈で、前記したアミノ酸に加え、ユニットとして使用できる:δ-アミノレブリン酸、γ-アミノ酪酸、β-アミノ酪酸(頭字語BABAによっても知られている)、β-アラニン、β-リジン、β-アミノイソ酪酸、β-N-メチルアミノ-L-アラニン、(2S,3S,8S,9S)-3-アミノ-9-メトキシ-2,6,8-トリメチル-10-フェニルデカ-4,6-ジエン酸(ADDAとしても知られている)、(2R)-2-(メチルアミノ)ブタンジエン酸(NMDAとしても知られている)及び4-アミノ-3-ヒドロキシ酪酸。
【0104】
α、β、γ又はδ-ヒドロキシ酸型の分子のリストがここに与えられ、これらは、本発明に係る方法の文脈で、ユニットとして使用できる:4-ヒドロキシ酪酸、2-(ヒドロキシメチル)-3-メチルブタン酸及び(2R,3R,4R)-3-ヒドロキシ-2,4,6-トリメチルヘプタン酸。
【0105】
α、β、γ又はδ-メルカプト酸型の分子のリストがここに与えられ、これらは、本発明に係る方法の文脈で、ユニットとして使用できる:4-スルファニルブタン酸、2-シクロプロピル-3-スルファニルプロパン酸、2-シクロブチル-3-スルファニルプロパン酸及び2-(2-スルファニルフェニル)ブタン酸。
【0106】
本発明に係る方法は、多くの利点を有する。
【0107】
第1の利点は、有機液相中でアンカー分子に結合したペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体(それらの側鎖上で保護されているか又は保護されていない)の製造を可能にすることである。
【0108】
第2の利点は、無極性有機溶媒中、水で、又は水/エタノール若しくは水/アセトニトリル混合物中、単純な洗浄(抽出)により、又は濾過により、高純度の、アンカーされたペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体(それらの側鎖上で保護されているか又は保護されていない)を得ることを可能にし、したがって、過剰試薬などの、ポリオレフィン又はポリオレフィンオリゴマー又はポリアルケンの誘導体に、結合していない副生成物(塩、酸又は任意の他の分子種)の除去し得ることである。引火点が15℃未満であるシクロヘキサン、ヘプタン、ヘキサンなどの有機溶媒は、抽出又は洗浄中にポリオレフィン又はポリオレフィンオリゴマー又はポリアルケンの誘導体を可溶化するのに適している。したがって、本発明に係る方法は、先行技術の方法において必要な精製工程を制限することを可能にする。
【0109】
特に重要な第3の利点は、本発明に係る方法が、ポリオレフィン又はポリオレフィンオリゴマー又はポリアルケンの誘導体の長さを調節することにより、すなわち、それらをより親油性にすることにより、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を合成することを可能にすることである。
【0110】
第4の利点は、一定分量を採取し、次いで当業者に公知の種々の技術(例えば、質量分析、高速液体クロマトグラフィー、プロトン又は炭素-13核磁気共鳴)により分析することにより、任意の時点で、合成の間のペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の純度を制御することが可能であることである。
【0111】
第5の利点は、(第一級又は第二級)アミン官能基又はヒドロキシル若しくはチオールのために、それぞれα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸の保護基を用いる必要がないという事実にある。これらの保護基は一般に2ステップ(保護及び脱保護)を要する。より一般的には、本発明に係る方法は、対応する酸の(第一級又は第二級)アミン又はヒドロキシル若しくはチオール官能基に対する保護基、又はカップリング剤のいずれも含まないので、原子の最適な経済性を許容にする。本発明に係る方法の原子及びステップのこの経済性は、これは産業上の現実において、廃棄物の発生を減少させつつ、財政的節約を生み出し、これは現行の手段とは異なる好ましい環境ファクターである。
【0112】
本発明の第6の利点は、カルボン酸官能基(C末端)の活性化が(第一級又は第二級)アミン又はヒドロキシル若しくはチオール官能基の保護に付随するので、ステップ数が減少するという事実にある。
【0113】
本発明の第7の特に興味深い利点は、側鎖の保護基の開裂、次いでアンカー分子の開裂後に、高純度のペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を得ることにある。これは、合成されたペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体を精製することを回避する。その結果、公知の方法に比べてさらなる節約を生む。これは、さらに、ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の製造の環境への影響を抑える。
【0114】
本発明の第8の利点は、液体担体のサイズを調節することにより、又は活性化されたα、β若しくはγ-アミノ酸又はα、β若しくはγ-ヒドロキシ酸又はα、β若しくはγ-メルカプト酸の1つ以上の側鎖上にそれを導入することにより、より大きなサイズのペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体に到達することが可能となることにある。
【0115】
他の利点は、本発明に係る方法を自動化する可能性、並びに抽出溶媒及びアンカー分子(ポリオレフィン又はポリオレフィンオリゴマー又はポリアルケン)を再利用できる可能性である。実際、標的ペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体の配列を得るための一連の反復が完了すると、後者は加水分解、けん化、水素化分解又は本方法に適合する任意の他の反応などの、ペプチド合成で通常利用される反応のうちの1つにより、側鎖の保護基から、最後にアンカー分子の保護基から、脱保護される。
【0116】
その高純度のおかげで、この方法により製造されるペプチド又はタンパク質又はペプチド模倣体は、医薬品(薬剤及びワクチン)、化粧品、植物衛生製品、食品として又はそのような製品を合成するための中間体として使用できる。
【実施例】
【0117】
本発明に係る方法を用いてオクタペプチドを調製した。
【0118】
第1のステップでは、以下のアミノ酸を活性化した:活性化されたL-フェニルアラニン(ここではAAA1と呼ぶ)、活性化されたL-トリプトファン(ここではAAA2と呼ぶ)及び活性化されたL-システイン(ベンジル(Bzl)保護基により保護される)(ここではAAA3と呼ぶ)。この反応は、前記のn3の反応ダイアグラムに対応する。
【0119】
N-N-ジメチルホルムアミド(5mL)中で、アミノ酸(10mmol)の溶液に、ドライアイスガス凝縮器(a dry ice gas condenser)及びバブラー(a bubbler)を用い、室温で、ヘキサフルオロアセトンを過剰に(>2当量)凝縮させた。室温で16時間撹拌した後、反応混合物を濃縮乾固し、その残渣を凍結乾燥した。得られた粗生成物をジクロロメタンに溶解し、濾過し、次いで減圧下で溶媒を除去し、凍結乾燥した(3回)。2,2-ビス(トリフルオロメチル)-1,3-オキサゾリジン-5-オン又は活性化アミノ酸を、オイル又は固体の形態で、80~95%の収率で得た。それらの式を、以下のダイアグラムn8に示す。
【0120】
【化8】
第2のステップでは、活性化アミノ酸(ここではAAA1と呼ぶ活性化L-フェニルアラニン)をアンカー分子、この場合はPIB誘導体に結合させる。この反応は、前記のn4の反応ダイアグラムに対応する。
【0121】
テトラヒドロフラン/ヘキサフルオロイソプロパノール混合物(2mL)中のPIB誘導体(31.1mg、0.028mmol)及び活性化アミノ酸(ここではAAA1)(9.8mg、0.031mmol)の溶液を、2時間、50℃に加熱し、次いで室温まで冷却した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(2mL)を反応媒体に加え、その混合物を室温で30分間撹拌した。その反応媒体を、シクロヘキサンで3回抽出し、ブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮して、H2N-Phe-PIB誘導体を得た。
【0122】
第3のステップでは、別の活性化アミノ酸(ここではAAA2)を付加させることによりペプチドを伸長させる。この反応は、前記のn5の反応ダイアグラムに対応する。
【0123】
H2N-Phe-PIB誘導体(1当量)溶液及び続く活性化アミノ酸(AAA2)(1.1当量)を、テトラヒドロフラン/ヘキサフルオロイソプロパノール(2ml、9/1)中で、2時間、50℃に加熱し、次いで室温に冷却した。その反応混合物を、前記と同様に処理して、アンカーされたジペプチド(H2N-Trp-Phe-PIB)などを得た。このケースでは、同じ条件下で活性化アミノ酸AAA3を用いて反復を繰り返し、対応するアンカーされたトリペプチド(H2N-Cys(Bzl)-Trp-Phe-PIB)を得た。
【0124】
そして、配列H2N-Cys(Bzl)-Trp-Trp-Cys(Bzl)-Trp-Cys(Bzl)-Trp-Phe-PIBのアンカーされたオクタペプチドが得られるまで、さらなる反復を行った。
【0125】
最後のステップにおいて、ペプチドはアンカー分子から分離する。この反応は、前記の反応ダイアグラムのn6に対応する。
【0126】
水酸化リチウム(1M、2mL)の溶液を、テトラヒドロフラン/水の混合物(8:2)(2mL)中のアンカーされたオクタペプチド(H2N-Cys(Bzl)-Trp-Trp-Cys(Bzl)-Trp-Cys(Bzl)-Trp-Phe-PIB)(8mg)の溶液に、室温で添加した。反応混合物を室温で16時間撹拌した。反応媒体をジオキサン/HCl溶液で希釈し、沈殿物をシクロヘキサンで洗浄した。
【配列表】