(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】バッテリー診断装置、バッテリー診断方法、バッテリーパック及び電気車両
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20240326BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20240326BHJP
G01R 31/3828 20190101ALI20240326BHJP
G01R 31/3842 20190101ALI20240326BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240326BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240326BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20240326BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240326BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20240326BHJP
B60L 58/16 20190101ALI20240326BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/3828
G01R31/3842
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
H02J7/00 P
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/12
B60L58/16
(21)【出願番号】P 2022569543
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 KR2021019237
(87)【国際公開番号】W WO2022145830
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】10-2020-0185698
(32)【優先日】2020-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨン-ジン
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-40845(JP,A)
【文献】国際公開第2015/080285(WO,A1)
【文献】特開2019-113469(JP,A)
【文献】特表2020-532727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
G01R 19/00
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーの両端にかかる電圧であるバッテリー電圧を測定し、測定されたバッテリー電圧を示す電圧信号を生成する電圧センサーと、
前記バッテリーを介して流れる電流であるバッテリー電流を測定し、測定されたバッテリー電流を示す電流信号を生成する電流センサーと、
前記電圧信号及び前記電流信号を単位時間毎に収集する制御回路と、を含み、
前記制御回路は、
前記バッテリーが所定の設定電圧範囲にかけて所定の電流レートで放電または充電される定電流期間の間に単位時間毎に収集された前記電圧信号及び前記電流信号に基づき、前記設定電圧範囲に対する前記バッテリー電圧と残存容量との関係を示す測定容量カーブを決定し、
前記測定容量カーブに基づいて前記設定電圧範囲に対する前記バッテリー電圧と微分容量との関係を示す測定微分カーブを決定し、前記微分容量は前記バッテリー電圧の単位時間当りの変化に対する前記残存容量の単位時間当りの変化の割合であり、
前記測定微分カーブと基準微分カーブを比較して、前記バッテリーの負極屈曲度の異常増加の有無を判定し、前記基準微分カーブは前記バッテリーが新品状態であったときの前記設定電圧範囲に対する前記バッテリー電圧と前記微分容量との関係として予め与えられ
、
前記バッテリーの負極屈曲度は、前記バッテリーの負極内で反応イオンの移動経路が捩れている程度を示す、バッテリー診断装置。
【請求項2】
前記制御回路は、
前記測定容量カーブを多項式に関数化して近似測定容量カーブを決定し、
前記近似測定容量カーブの前記残存容量を前記バッテリー電圧に対して微分して前記測定微分カーブを決定する、請求項1に記載のバッテリー診断装置。
【請求項3】
前記制御回路は、
前記バッテリーの総使用期間にかけた前記バッテリーの累積充放電容量を決定し、
前記累積充放電容量に基づいて基準距離を決定し、
前記測定微分カーブと前記基準微分カーブとの前記微分容量の差が最大になる電圧である第1関心電圧を決定し、
前記第1関心電圧から前記第1関心電圧より大きい第2関心電圧までの関心電圧範囲に対する、前記測定微分カーブと前記基準微分カーブとの信号距離を決定し、
前記信号距離が
前記基準距離以上である場合、前記バッテリーの負極屈曲度が異常増加したと判定する、請求項1または2に記載のバッテリー診断装置。
【請求項4】
前記制御回路は、
前記第1関心電圧と基準電圧の和及び上限電圧のうち、より小さいものと同一に前記第2関心電圧を決定する、請求項3に記載のバッテリー診断装置。
【請求項5】
前記制御回路は、
動的時間伸縮法を用いて前記信号距離を決定する、請求項3または4に記載のバッテリー診断装置。
【請求項6】
前記制御回路は、
下記の数式を用いて、前記基準距離を決定するバッテリー診断装置であって、
【数1】
mは所定の自然数、C[i]は第i所定の正の係数、xは前記累積充放電容量、yは前記基準距離である、請求項
3から5のいずれか一項に記載のバッテリー診断装置。
【請求項7】
請求項
1から6のいずれか一項に記載のバッテリー診断装置を含む、バッテリーパック。
【請求項8】
請求項
7に記載のバッテリーパックを含む、電気車両。
【請求項9】
請求項
1から6のいずれか一項に記載のバッテリー診断装置によって実行可能なバッテリー診断方法であって、
前記バッテリーが所定の設定電圧範囲にかけて所定の電流レートで放電または充電される定電流期間の間に単位時間毎に収集された前記電圧信号及び前記電流信号に基づいて、前記設定電圧範囲に対する前記バッテリー電圧と残存容量との関係を示す測定容量カーブを決定する段階と、
前記測定容量カーブに基づいて、前記設定電圧範囲に対する前記バッテリー電圧と微分容量との関係を示す前記測定微分カーブを決定する段階であって、前記微分容量は、前記バッテリー電圧の単位時間当りの変化に対する前記残存容量の単位時間当りの変化の割合である段階と、
前記測定微分カーブと前記基準微分カーブを比較して、前記バッテリーの負極屈曲度の異常増加の有無を判定する段階であって、前記基準微分カーブは、前記バッテリーが新品であったときの前記設定電圧範囲に対する前記バッテリー電圧と前記微分容量との関係として予め与えられたことである段階と、を含むバッテリー診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリーの異常退化を診断するための技術に関する。
【0002】
本出願は、2020年12月29日出願の韓国特許出願第10-2020-0185698号に基づく優先権を主張し、該当出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
最近、ノートブックPC、ビデオカメラ、携帯電話などのような携帯用電子製品の需要が急増し、電気自動車、エネルギー貯蔵用蓄電池、ロボット、衛星などの開発が本格化するにつれ、反復的な充放電の可能な高性能バッテリーについての研究が活発に進行しつつある。
【0004】
現在、商用化したバッテリーとしては、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、ニッケル亜鉛電池、リチウムバッテリーなどがあり、このうち、リチウムバッテリーは、ニッケル系のバッテリーに比べてメモリー効果がほとんど起こらず、充放電が自由で、自己放電率が非常に低くてエネルギー密度が高いという長所から脚光を浴びている。
【0005】
バッテリーは、出荷時点から、充放電及び放置によって、経時によって徐々に退化していく。バッテリーの退化は、最大充電可能容量の低下、内部抵抗の増加などのように多様な形態で現われる。
【0006】
内部抵抗増加の主な原因の一つは、バッテリーの負極の屈曲度(tortuosity)の増加である。負極屈曲度は、負極内で反応イオンの移動経路が捩れている程度を示すパラメーターである。本明細書において、負極の屈曲度は、反応イオンが負極活物質層を通過することにおいて、最短移動距離(負極活物質層の厚さ)に対する反応イオンの実際の移動距離の割合として定義され得る。バッテリーがリチウムイオンバッテリーである場合、反応イオンはリチウムイオンである。
【0007】
バッテリーの退化は、負極の屈曲度の増加を誘発し、負極の屈曲度が増加するほど負極で充放電反応が不均一に起こり、バッテリーの退化が加速化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の発明者は、バッテリーの負極の屈曲度の増加によってバッテリーの電圧と残存容量との関係を示す容量カーブの変化が誘発されるという点を認識するようになった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、定電流過程及び/または定電流充電過程によって、新品状態よりも退化したバッテリーの容量カーブを得た後、得られた容量カーブを用いて、バッテリーの負極の屈曲度が異常増加した状態であるか否かを判定できるバッテリー診断装置、バッテリー診断方法、バッテリーパック及び電気車両を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的及び長所は、下記の説明によって理解でき、本発明の実施例によってより明らかに理解されるであろう。また、本発明の目的及び長所は、特許請求の範囲に示される手段及びその組合せによって実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一面によるバッテリー診断装置は、バッテリーの両端にかかる電圧であるバッテリー電圧を測定し、測定されたバッテリー電圧を示す電圧信号を生成するように構成される電圧センサーと、前記バッテリーを介して流れる電流であるバッテリー電流を測定し、測定されたバッテリー電流を示す電流信号を生成するように構成される電流センサーと、前記電圧信号及び前記電流信号を単位時間毎に収集するように構成される制御回路と、を含む。前記制御回路は、前記バッテリーが所定の設定電圧範囲にかけて所定の電流レートで放電または充電される定電流期間の間に単位時間毎に収集された前記電圧信号及び前記電流信号に基づき、前記設定電圧範囲に対する前記バッテリー電圧と残存容量との関係を示す測定容量カーブを決定するように構成される。前記制御回路は、前記測定容量カーブに基づいて、前記設定電圧範囲に対する前記バッテリー電圧と微分容量との関係を示す測定微分カーブを決定するように構成される。この際、前記微分容量は、前記バッテリー電圧の単位時間当りの変化に対する前記残存容量の単位時間当りの変化の割合である。前記制御回路は、前記測定微分カーブと基準微分カーブを比較して、前記バッテリーの負極屈曲度の異常増加の有無を判定するように構成される。この際、前記基準微分カーブは、前記バッテリーが新品状態であったときの前記設定電圧範囲に対する前記バッテリー電圧と前記微分容量との関係として予め与えられたことである。
【0012】
前記制御回路は、前記測定容量カーブを多項式に関数化して近似測定容量カーブを決定するように構成され得る。前記制御回路は、前記近似測定容量カーブの前記残存容量を前記バッテリー電圧に対して微分して前記測定微分カーブを決定するように構成され得る。
【0013】
前記制御回路は、前記測定微分カーブと前記基準微分カーブとの前記微分容量の差が最大になる電圧である第1関心電圧を決定するように構成され得る。前記制御回路は、前記第1関心電圧から前記第1関心電圧より大きい第2関心電圧までの関心電圧範囲に対する、前記測定微分カーブと前記基準微分カーブとの信号距離を決定するように構成され得る。前記制御回路は、前記信号距離が基準距離以上である場合、前記バッテリーの負極屈曲度が異常増加したと判定するように構成され得る。
【0014】
前記制御回路は、前記第1関心電圧と基準電圧の和及び前記上限電圧のうち、より小さいものと同一に前記第2関心電圧を決定するように構成され得る。
【0015】
前記制御回路は、動的時間伸縮法(Dynamic time warping)を用いて前記信号距離を決定するように構成され得る。
【0016】
前記制御回路は、前記バッテリーの総使用期間にかけた前記バッテリーの累積充放電容量を決定するように構成され得る。前記制御回路は、前記累積充放電容量に基づいて前記基準距離を決定するように構成され得る。
【0017】
前記制御回路は、下記の数式を用いて前記基準距離を決定するように構成され得る。
【0018】
【0019】
(mは所定の自然数、C[i]は第i所定の正の係数、xは前記累積充放電容量、yは前記基準距離である。)
【0020】
本発明の他面によるバッテリーパックは、前記バッテリー診断装置を含む。
【0021】
本発明のさらに他面による電気車両は、前記バッテリーパックを含む。
【0022】
本発明のさらに他面によるバッテリー診断方法は、前記バッテリー診断装置によって実行可能である。前記バッテリー診断方法は、前記バッテリーが所定の設定電圧範囲にかけて所定の電流レートで放電または充電される定電流期間の間に単位時間毎に収集された前記電圧信号及び前記電流信号に基づいて、前記設定電圧範囲に対する前記バッテリー電圧と残存容量との関係を示す測定容量カーブを決定する段階と、前記測定容量カーブに基づいて、前記設定電圧範囲に対する前記バッテリー電圧と微分容量との関係を示す前記測定微分カーブを決定する段階であって、この際、前記微分容量は、前記バッテリー電圧の単位時間当りの変化に対する前記残存容量の単位時間当りの変化の割合である段階と、前記測定微分カーブと前記基準微分カーブを比較して、前記バッテリーの負極屈曲度の異常増加の有無を判定する段階であって、この際、前記基準微分カーブは、前記バッテリーが新品であったときの前記設定電圧範囲に対する前記バッテリー電圧と前記微分容量との関係として予め与えられたことである段階と、を含み得る。
【発明の効果】
【0023】
本発明の実施例の少なくとも一つによると、新品状態から退化したバッテリーに対する定電流過程及び/または定電流充電過程によって得られた容量カーブを用いて、バッテリーの負極の屈曲度が異常増加した状態であるか否かを判定することができる。
【0024】
本発明の実施例の少なくとも一つによると、退化したバッテリーから得られた容量カーブに対応する微分カーブと新品状態に関わる他の微分カーブとの特定の電圧範囲に対する類似度(後述する「信号距離」参照)に基づいて、退化したバッテリーの負極の屈曲度が異常増加した状態であるか否かを判定することができる。
【0025】
本発明の実施例の少なくとも一つによると、退化したバッテリーの累積充放電容量に基づき、退化したバッテリーの負極の屈曲度が異常増加した状態であるか否かを判定するのに用いられる基準値(後述する「基準距離」参照)を設定することができる。
【0026】
本発明の効果は上述した効果に制限されず、言及されていない本発明の他の効果は請求範囲の記載から当業者により明らかに理解されるだろう。
【0027】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の望ましい実施例を例示するものであり、発明の詳細な説明とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明による電気車両の構成を示した図である。
【
図2】
図1に示したバッテリーの定電流過程によって得られた容量カーブを示す図である。
【
図3】
図2に示した容量カーブに関わる微分カーブを示す図である。
【
図4】
図3に示した微分カーブ同士の微分容量差を示す図である。
【
図5】
図1に示したバッテリー診断装置によって実行可能なバッテリー診断方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図5の段階S540の下位段階を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付された図面を参照して本発明の望ましい実施例を詳しく説明する。これに先立ち、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。
【0030】
したがって、本明細書に記載された実施例及び図面に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0031】
第1、第2などのように序数を含む用語は、多様な構成要素のうちいずれか一つを残りと区別する目的として使用され、このような用語によって構成要素が限定されることではない。
【0032】
なお、明細書の全体にかけて、ある部分が、ある構成要素を「含む」とするとき、これは特に反する記載がない限り、他の構成要素を除くことではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。また、明細書に記載の「制御部」のような用語は、少なくとも一つの機能や動作を処理する単位を示し、これはハードウェアやソフトウェア、またはハードウェアとソフトウェアとの結合せにより具現され得る。
【0033】
さらに、明細書の全体に亘って、ある部分が他の部分と「連結(接続)」されているとするとき、これは、「直接的に連結(接続)」されている場合のみならず、その中間に他の素子を介して「間接的に連結(接続)」されている場合も含む。
【0034】
図1は、本発明による電気車両の構成を示した図である。
【0035】
図1を参照すると、電気車両1は、バッテリーパック2、インバーター3、電気モーター4、充放電回路5及び車両コントローラー6を含む。
【0036】
バッテリーパック2は、バッテリーB、スイッチSW及びバッテリー管理システム100を含む。
【0037】
バッテリーBは、バッテリーパック2に設けられた一対の電源端子によってインバーター3及び/または充放電回路5に結合し得る。バッテリーBは、再充電可能なバッテリーであって、例えば、リチウムイオンバッテリーであり得る。
【0038】
インバーター3は、バッテリー管理システム100からの命令に応じて、バッテリーBからの直流電流を交流電流に切り替えるように提供される。電気モーター4は、例えば、三相交流モーターであり得る。電気モーター4は、インバーター3からの交流電力を用いて駆動する。
【0039】
スイッチSWは、バッテリーBに直列に接続される。スイッチSWは、バッテリーBの充放電のための電流経路に設けられる。スイッチSWは、バッテリー管理システム100からのスイチング信号に応じて、オンオフ制御される。スイッチSWは、コイルの磁気力によってオンオフされる機械式リレーであるか、またはMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect transistor)のような半導体スイチングデバイスであり得る。
【0040】
充放電回路5は、制御回路230からの命令に応じて、バッテリーBに対する充電電力及び放電電力を調節するように提供される。制御回路230は、バッテリーBのバッテリー電圧が後述する設定電圧範囲の下限電圧VL以下である場合、充放電回路5へ定電流充電を命令し得る。制御回路230は、バッテリーBのバッテリー電圧が設定電圧範囲の上限電圧VU以上である場合、充放電回路5へ定電流放電を命令し得る。
【0041】
バッテリー管理システム100は、バッテリーBの充放電に関わる全般的な制御を担当するように提供される。バッテリー管理システム100は、バッテリー診断装置200を含む。バッテリー管理システム100は、温度センサー310及び通信回路320の少なくとも一つをさらに含み得る。以下では、バッテリー管理システム100が、バッテリー診断装置200、温度センサー310及び通信回路320を共に含むと仮定する。
【0042】
バッテリー診断装置200は、電圧センサー210、電流センサー220及び制御回路230を含む。
【0043】
電圧センサー210は、バッテリーBに並列に接続され、バッテリーBの両端にかかる電圧であるバッテリー電圧を検出し、検出されたバッテリー電圧を示す電圧信号を生成するように構成される。
【0044】
電流センサー220は、電流経路を通してバッテリーBに直列に接続される。電流センサー220は、バッテリーBを介して流れる電流であるバッテリー電流を検出し、検出されたバッテリー電流を示す電流信号を生成するように構成される。
【0045】
温度センサー310は、バッテリーBの温度を検出し、検出された温度を示す温度信号を生成するように構成される。
【0046】
制御回路230は、ハードウェア的に、ASIC(application specific integrated circuit,特定用途向け集積回路)、DSP(digital signal processor,デジタルシグナルプロセッサ)、DSPD(digital signal processing device,デジタル信号処理デバイス)、PLD(programmable logic device,プログラマブルロジックデバイス)、FPGA(field programmable gate array,フィールドプログラマブルゲートアレイ)、マイクロプロセッサ(microprocessor)、その他の機能遂行のための電気的ユニットの少なくとも一つを用いて具現され得る。
【0047】
制御回路230は、メモリーデバイスを有し得る。メモリーデバイスは、フラッシュメモリー(登録商標)タイプ(flash memory type)、ハードディスクタイプ(hard disk type)、SSDタイプ(Solid State Disk type,ソリッドステートディスクタイプ)、SDDタイプ(Silicon Disk Drive type,シリコンディスクドライブタイプ)、マルチメディアカードマイクロタイプ(multimedia card micro type)、RAM(random access memory,ランダムアクセスメモリー)、SRAM(static random access memory,スタティックランダムアクセスメモリー)、ROM(read‐only memory,リードオンリーメモリー)、EEPROM(electrically erasable programmable read‐only memory,エレクトリカリーイレーサブルプログラマブルリードオンリーメモリー)、PROM(programmable read‐only memory,プログラマブルリードオンリーメモリー)の少なくとも一つのタイプの保存媒体を含み得る。メモリーデバイスは、制御回路230による演算動作に求められるデータ及びプログラムを保存し得る。メモリーデバイスは、制御回路230による演算動作の結果を示すデータを保存し得る。
【0048】
制御回路230は、スイッチSW、充放電回路5、電圧センサー210、電流センサー220、温度センサー310及び/または通信回路320に動作可能に結合し得る。二つの構成が動作可能に結合するということは、単方向または双方向に信号を送受信可能に二つの構成が接続されていることを意味する。制御回路230は、周期的または非周期的にセンシング信号を反復して収集し得る。センシング信号は、同期検出された電圧信号、電流信号及び/または温度信号を指す。
【0049】
制御回路230は、バッテリーBの充放電中に、所定の時間毎にセンシング信号に基づいてバッテリーBのSOCを決定し得る。SOCを決定することにおいて、アンペアカウンティング、SOC-OCVカーブ、カルマンフィルターなどのような公知のアルゴリズムが用いられ得る。
【0050】
通信回路320は、制御回路230と車両コントローラー6(例えば、ECU: Electronic Control Unit)との間の有線通信または無線通信を支援するように構成される通信回路を含み得る。 有線通信は、例えば、CAN(contoller area network)通信であり、無線通信は、例えば、ジグビー(登録商標)やブルートゥース(登録商標)通信であり得る。勿論、通信回路320と制御回路230との間の有無線通信を支援するものであれば、通信プロトコールの種類は特に限定されない。
【0051】
通信回路320は、車両コントローラー6及び/または制御回路230から受信された情報を使用者が認識可能な形態で提供する出力デバイス(例えば、ディスプレイ、スピーカー)を含み得る。車両コントローラー6は、バッテリー管理システム100との通信によって収集されるバッテリー情報(例えば、電圧、電流、温度、SOC)に基づき、インバーター3を制御し得る。
【0052】
図2は、
図1に示したバッテリーの定電流過程によって得られた容量カーブを示した図である。
【0053】
図2を参照すると、測定容量カーブ201は、定電流過程から得られる退化したバッテリーBのバッテリー電圧と残存容量との関係を示す。基準容量カーブ202は、定電流過程によって得られる新品状態のサンプルバッテリーのバッテリー電圧と残存容量との関係を示す。サンプルバッテリーは、バッテリーBと同じ電気化学的仕様を有するように製造されたものである。新品状態とは、完全に新しい製品でありながら不良のない状態を称する。
【0054】
定電流過程は、バッテリー電圧が所定の設定電圧範囲の上限電圧VU及び下限電圧VLのいずれか一つと同じ時点から他の一つに到達する時点までの定電流期間の間、所定の電流レート(例えば、0.1C-rate)を用いてバッテリーBを放電または充電するイベントである。上限電圧VU(例えば、4.2V)は、バッテリーBの充電が許容される所定の充電終止電圧以下に予め決められたものである。下限電圧VL(例えば、3.0V)は、バッテリーBの放電が許容される所定の放電終止電圧以上に予め決められたものである。
【0055】
図2の二つの容量カーブ201、202は、定電流期間の間の放電イベントによって得られたことを示している。制御回路230は、定電流期間にかけて単位時間毎に収集及び記録される電圧信号及び電流信号に基づき、測定容量カーブ201を決定し得る。バッテリーBは、退化するほど完全充電容量が減少するので、測定容量カーブ201が下限電圧V
Lに到達する時点t
Bが、基準容量カーブ202が下限電圧V
Lに到達する時点t
Cより早い。バッテリーBが退化するほど、測定容量カーブ201の概形が変化するため、基準容量カーブ202と測定容量カーブ201との差は、徐々に大きくなる。
【0056】
図3は、
図2に示した容量カーブに関わる微分カーブを示す図であり、
図4は、
図3に示した微分カーブ同士の微分容量差を示す図である。
【0057】
図3を参照すると、測定微分カーブ301は、
図2の測定容量カーブ201から取得可能なデータセットであって、測定容量カーブ201を定義する時系列が含まれた(i)バッテリー電圧Vと(ii)微分容量dQ/dVとの関係を示す。微分容量dQ/dVとは、バッテリー電圧Vの単位時間当りの変化dVに対する残存容量Qの単位時間当りの変化dQの割合である。一例で、制御回路230は、
図2の測定容量カーブ201のバッテリー電圧と残存容量との関係をカーブフィッティングによって多項式に関数化した結果である近似容量カーブを決定し得る。測定容量カーブ201が近似容量カーブに変換されることによって、測定容量カーブ201に存在するノイズ成分が除去される。その後、制御回路230は、近似容量カーブを入力変数であるバッテリー電圧に対して微分した結果として測定微分カーブ301を獲得し得る。
【0058】
基準微分カーブ302は、
図2の基準容量カーブ202から取得可能な時系列のデータセットであって、基準容量カーブ202を定義する時系列が含まれた(i)バッテリー電圧と(ii)微分容量との関係を示す。即ち、基準微分カーブ302は、基準容量カーブ202の残存容量をバッテリー電圧に対して微分した結果であって、予め与えられ得る。
【0059】
前述した各々のカーブ201、202、301、302は、信号(時系列)の一種として取り扱い可能である。制御回路230は、測定微分カーブ301と基準微分カーブ302を比較して、バッテリーBの負極屈曲度の異常増加の有無を判定し得る。制御回路230は、上限電圧V
Uから下限電圧V
Lまでの設定電圧範囲に対して、微分カーブ301、302間の微分容量の差を算出し得る。
図4は、設定電圧範囲にかけて、測定微分カーブ301の微分容量から基準微分カーブ302の微分容量を減算した結果を示している。
【0060】
制御回路230は、微分容量の差が最大になる電圧である第1関心電圧を決定し得る。第1関心電圧は、測定微分カーブ301が基準微分カーブ302より小さい微分容量を有する電圧範囲内で決定され得る。
図4では、設定電圧範囲内の電圧V
1で、測定微分カーブ301と基準微分カーブ302との微分容量の差が最小値になるので、制御回路230は、電圧V
1を第1関心電圧として決定し得る。そして、制御回路230は、第1関心電圧V
1に基づいて第2関心電圧V
2を決定する。第2関心電圧V
2は、(i)第1関心電圧V
1と基準電圧V
refの和及び(ii)上限電圧V
Uのうち、小さいものと同一であり得る。
【0061】
基準電圧Vrefは、二つの微分カーブの類似度を測定するために要求される関心電圧範囲の適正の幅(例えば、0.3V)であって、予め与えられ得る。
【0062】
または、制御回路230は、バッテリーBが累積充放電容量に基づいて、基準電圧Vrefを決定することも可能である。メモリーデバイスには、累積充放電容量と基準電圧との所定の対応関係を定義するルックアップテーブルが予め記録され得る。ルックアップテーブルにおいて、基準電圧は、累積充放電容量に対して線形または非線形に反比例する関係を有し得る。即ち、ルックアップテーブルで、より大きい累積充放電容量は、より小さい基準電圧に関連し得る。バッテリーBが退化するほど、測定微分カーブ301が基準微分カーブ302から大きい差を有するようになる。これによって、バッテリーBの累積充放電容量の増加に応じて関心電圧範囲の幅である基準電圧Vrefを減少させると、類似度の測定のための演算量を低減しながらも微分カーブ301と基準微分カーブ302を高い正確度で比較可能である。
【0063】
制御回路230は、第1関心電圧V1から第2関心電圧V2までの関心電圧範囲にかけて、測定微分カーブ301と基準微分カーブ302との信号距離を決定し得る。関心電圧範囲で測定微分カーブ301と基準微分カーブ302が互いに類似であるほど、信号距離は減少する関係にある。信号距離の決定には、ピアソンの相関係数などのような公知の多様な類似度算出方式の一つまたは二つ以上の組合せが活用され得る。因みに、バッテリーBの内部抵抗でよって、バッテリーBが退化するほど、放電過程におけるバッテリー電圧は低電圧側へシフトされる一方、充電過程におけるバッテリー電圧は高電圧側へシフトされる特性を有する。したがって、信号距離を決定することにおいて、充放電によるバッテリー電圧のシフトを相殺するために、相異なるパターンを有する二つの信号間の信号距離を類似度として出力する関数である動的時間伸縮法を用いることが有用であり得る。
【0064】
制御回路230は、信号距離と基準距離を比較して、信号距離が基準距離以上である場合、バッテリーBの負極屈曲度が異常増加したと判定し得る。バッテリーBの負極屈曲度が異常増加したということは、バッテリーBの負極屈曲度がバッテリーBの累積充放電容量に対応する負極屈曲度の上限値以上であることを意味する。累積充放電容量は、バッテリーBが出荷された時点から定電流期間の開始時点(または終了時点)までの総使用期間の間、バッテリーBを介して流れた放電電流の積算値と充電電流の積算値の和であり得る。信号距離はバッテリーBの負極屈曲度に対応し、基準距離はバッテリーBの累積充放電容量に対応する負極屈曲度の上限値に対応する。信号距離と基準距離の比較のために、制御回路230は、メモリーデバイスに予め記録されている下記の数式を用いて、基準距離を決定し得る。
【0065】
【0066】
上記数式に置いて、mは所定の自然数、C[i]は第i所定の正の係数、xは累積充放電容量、yは基準距離を各々示す。上記の数式は、バッテリーBと同じ電気化学的仕様を有するサンプルバッテリーの累積充放電容量と負極屈曲度の関係を得るテスト(またはコンピュータシミュレーション)によって予め決められ得る。
【0067】
制御回路230は、バッテリーBの負極屈曲度が異常増加したと判定される場合、所定の安全機能を行い得る。一例で、制御回路230は、通信回路320を介して車両コントローラー6へ警告メッセージを伝送し得る。他の例で、制御回路230は、充電電流及び/または放電電流の最大許容値を減少させ得る。最大許容値の減少量は、信号距離と基準距離との差に比例し得る。
【0068】
図5は、
図1に示したバッテリー診断装置によって実行可能なバッテリー診断方法を示したフローチャートであり、
図6は、
図5の段階S540の下位段階を示すフローチャートである。
【0069】
図1~
図5を参照すると、段階S500において、制御回路230は、充放電回路5へ定電流期間の開始を命令する。定電流期間とは、バッテリーBが所定の設定電圧範囲V
L~V
Uにかけて所定の電流レートで放電または充電される期間である。
【0070】
段階S510で、制御回路230は、定電流期間の間に単位時間毎に電圧信号及び電流信号を収集する。即ち、制御回路230は、定電流期間にかけたバッテリー電圧の時系列及びバッテリー電流の時系列を生成する。
【0071】
段階S520で、制御回路230は、定電流期間の間に収集された電圧信号及び電流信号に基づき、設定電圧範囲に対するバッテリー電圧と残存容量との関係を示す測定容量カーブ201を決定する。
【0072】
段階S530で、制御回路230は、測定容量カーブ201に基づき、設定電圧範囲に対するバッテリー電圧と微分容量との関係を示す測定微分カーブ301を決定する。微分容量は、バッテリー電圧の単位時間当りの変化に対する残存容量の単位時間当りの変化の割合dQ/dVである。
【0073】
段階S540で、制御回路230は、測定微分カーブ301と基準微分カーブ302を比較して、バッテリーBの負極屈曲度の異常増加の有無を判定する。段階S540の値が「はい」である場合、段階S550へ進み得る。
【0074】
段階S550で、制御回路230は、所定の安全機能を実行する。
【0075】
図6を参照すると、段階S610で、制御回路230は、測定微分カーブ301と基準微分カーブ302との微分容量の差が最大になる電圧である第1関心電圧V
1を決定する。
【0076】
段階S620で、制御回路230は、第1関心電圧V1に基づき、第2関心電圧V2を決定する。第2関心電圧は、(i)第1関心電圧V1と基準電圧Vref(例えば、0.3V)の和及び(ii)上限電圧VUのうち一つ(例えば、より小さい方)と同一であり得る。
【0077】
段階S630で、制御回路230は、第1関心電圧V1を下限にし、第2関心電圧V2を下限にする関心電圧範囲に対する、測定微分カーブ301と基準微分カーブ302との信号距離を決定する。
【0078】
段階S640で、制御回路230は、バッテリーBの累積充放電容量に基づき、基準距離を決定する(数式参照)。または、前述したように、基準電圧Vrefが累積充放電容量に基づいて決定される場合、段階S640は省略され、所定の値が基準距離として用いられ得る。
【0079】
段階S650で、制御回路230は、信号距離が基準距離以上であるか否かを判定する。信号距離が基準距離以上であることは、バッテリーBの負極屈曲度がバッテリーBの累積充放電容量から期待される上限値以上に異常増加した状態であることを示す。
【0080】
以上で説明した本発明の実施例は、必ずしも装置及び方法を通じて具現されることではなく、本発明の実施例の構成に対応する機能を実現するプログラムまたはそのプログラムが記録された記録媒体を通じて具現され得、このような具現は、本発明が属する技術分野における専門家であれば、前述した実施例の記載から容易に具現できるはずである。
【0081】
以上、本発明を限定された実施例と図面によって説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の属する技術分野で通常の知識を持つ者によって本発明の技術思想と特許請求の範囲の均等範囲内で多様な修正及び変形が可能であることは言うまでもない。
【0082】
また、上述の本発明は、本発明が属する技術分野における通常の知識を持つ者によって本発明の技術思想から脱しない範囲内で多様な置換、変形及び変更が可能であるため、上述の実施例及び添付された図面によって限定されず、多様な変形が行われるように各実施例の全部または一部を選択的に組み合わせて構成可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 電気車両
2 バッテリーパック
100 バッテリー管理システム
200 バッテリー診断装置
210 電圧センサー
220 電流センサー
230 制御回路
B バッテリー