IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー エナジー ソリューション リミテッドの特許一覧

特許7459441シリンダ故障予測システムおよび故障予測方法、シリンダ故障検査システムおよび検査方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】シリンダ故障予測システムおよび故障予測方法、シリンダ故障検査システムおよび検査方法
(51)【国際特許分類】
   F15B 20/00 20060101AFI20240326BHJP
   G01M 13/00 20190101ALI20240326BHJP
【FI】
F15B20/00 D
G01M13/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023514450
(86)(22)【出願日】2022-07-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 KR2022010457
(87)【国際公開番号】W WO2023008801
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0099895
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウォン、ヨウン シク
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-014990(JP,A)
【文献】特開2011-230634(JP,A)
【文献】特開2022-049395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 20/00-21/12
G05B 23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のシリンダの動作時間を設備稼動経過時間に亘って繰り返し検出してそれぞれのシリンダ別に複数個の動作時間データを取得するデータ取得部;
前記動作時間データに基づいてシリンダの故障を示すことができる複数個の統計的劣化指標の劣化指標値を計算する劣化指標値計算部;および
各シリンダに対して計算された前記統計的劣化指標の劣化指標値を大きさにより序列化し、前記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与し、前記所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定する判定部を含む、シリンダ故障予測システム。
【請求項2】
前記データ取得部は、シリンダロッドの前進時間、後進時間、前進時間および後進時間の合算時間のうち一つ以上を前記シリンダの動作時間として採択してデータを取得する、請求項1に記載のシリンダ故障予測システム。
【請求項3】
前記データ取得部は、前記シリンダロッドの前進時間および後進時間をそれぞれ別個の独立的な1個の動作時間データと見なし、
1個のシリンダに備えられたシリンダロッドの1回往復動作時に前進時間および後進時間に該当する2個の動作時間データを取得する、請求項2に記載のシリンダ故障予測システム。
【請求項4】
前記統計的劣化指標は各シリンダの動作時間データの平均、分散、第1四分位数、中位数、第3四分位数、歪度および尖度からなるグループから選択される2個以上である、請求項1に記載のシリンダ故障予測システム。
【請求項5】
各シリンダの動作時間データの平均、分散、第1四分位数、中位数、第3四分位数、歪度および尖度からなるグループから選択される1個以上と、
前記グループから選択される1個以上の統計的劣化指標の変化値を前記統計的劣化指標とする、請求項1に記載のシリンダ故障予測システム。
【請求項6】
前記統計的劣化指標の劣化指標値は、前記シリンダが一定期間繰り返し使われた後の特定時間区間の間動作した各シリンダの動作時間データに基づいて計算される、請求項1に記載のシリンダ故障予測システム。
【請求項7】
前記データ取得部は、複数個の単位時間区間からなる検査対象期間において、各単位時間区間別に各シリンダの動作時間データをグルーピングして個別の動作時間データ群にし、
前記劣化指標値計算部は各前記動作時間データ群に対して各シリンダの劣化指標値を計算する、請求項1に記載のシリンダ故障予測システム。
【請求項8】
前記判定部は、前記検査対象期間のうち、所定単位時間区間だけ動作した後の特定単位時間区間の動作時間データ群に対して計算された終期劣化指標値を各シリンダに対して序列化し、前記序列化された終期劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与し、前記所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定する、請求項7に記載のシリンダ故障予測システム。
【請求項9】
前記判定部は、前記検査対象期間のうち、所定単位時間区間だけ動作した後の特定単位時間区間の動作時間データ群に対して計算された各終期劣化指標値を平均した平均終期劣化指標値を各シリンダに対して序列化し、前記序列化された平均終期劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与し、前記所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定する、請求項7に記載のシリンダ故障予測システム。
【請求項10】
検査対象期間のうち初期の単位時間区間の動作時間データ群に対する初期劣化指標値、または初期の単位時間区間の動作時間データ群に対して求められた初期劣化指標値の平均値から、前記終期劣化指標値を差し引いた差値をシリンダの故障を示すことができる追加的な統計的劣化指標として導入する、請求項8に記載のシリンダ故障予測システム。
【請求項11】
検査対象期間のうち初期の単位時間区間の動作時間データ群に対する初期劣化指標値、または初期の単位時間区間の動作時間データ群に対して求められた初期劣化指標値の平均値から、前記平均終期劣化指標値を差し引いた差値をシリンダの故障を示すことができる追加的な統計的劣化指標として導入する、請求項9に記載のシリンダ故障予測システム。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載されたシリンダ故障予測システム;および
前記判定部によって故障予想シリンダと判定されたシリンダの空気漏洩の有無を測定する検査部を含む、シリンダ故障検査システム。
【請求項13】
複数個のシリンダの動作時間を設備稼動経過時間に亘って繰り返し検出してそれぞれのシリンダ別に複数個の動作時間データを取得する段階;
前記シリンダの故障を示すことができる複数個の統計的劣化指標を選択し、前記動作時間データに基づいて前記選択された統計的劣化指標の劣化指標値を計算する段階;
それぞれの劣化指標値を各シリンダに対して大きさによって序列化する段階;および
前記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与し、前記所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定する段階;を含む、シリンダ故障予測方法。
【請求項14】
前記複数個の統計的劣化指標のうち選択される1個以上の統計的劣化指標の変化値を故障予想シリンダ判定のための追加的な統計的劣化指標として導入する、請求項13に記載のシリンダ故障予測方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載されたシリンダ故障予測方法によって故障予想シリンダと判定されたシリンダを検査する段階;および
検査によって故障が発見されたシリンダを取り替える段階を含む、シリンダ故障検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリンダの故障を予測するためのシステムおよび方法に関するものである。
【0002】
また、本発明は上記故障予測システムおよび予測方法によって故障が予測されたシリンダを検査し取り替えるシリンダ故障検査システムおよび検査方法に関するものである。
【0003】
本出願は2021年7月29日付の韓国特許出願第10-2021-0099895号に基づいた優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【背景技術】
【0004】
最近、充放電が可能な二次電池はワイヤレスモバイル機器のエネルギー源として広範囲に使われている。また、二次電池は、化石燃料を使う既存のガソリン車両、ディーゼル車両などの大気汚染などを解決するための方案として提示されている電気自動車、ハイブリッド電気自動車などのエネルギー源としても注目されている。したがって、二次電池を使うアプリケーションの種類は二次電池の長所により非常に多様化されており、今後は今よりは多くの分野と製品に二次電池が適用されるものと予想される。
【0005】
このような二次電池を製造するためには、構成品である正極、負極の製造のために集電体上に活物質をコーティングして圧延する工程、電極タブを形成するノッチング工程、正極-分離膜-負極を積層して電極組立体を製造するラミネーティング工程、電極タブと電極リードを溶接する溶接工程、電極組立体をスタック用に切断する工程、出荷前に特性付与のための充放電工程などの数多くの細部工程が行われる。上記各工程時には材料や各細部装置あるいはその他システムを稼動させるために多様な種類のアクチュエータが使われる。
【0006】
アクチュエータとは、機器などの稼動体を駆動するための装置であり、具体的にはモータ、ソレノイド、シリンダなどを利用して構成される。アクチュエータの構成要素のうちシリンダは、円筒形のシリンダ本体と上記シリンダ本体内に収容されて先端にピストンを具備したシリンダロッドを具備し、上記シリンダ本体内でのシリンダロッドの直線移動で稼動体に駆動力を付与する。もし、このようなシリンダまたはシリンダロッドの作動に異常があれば、稼動体を設定値の通りに移動させることができないので、工場生産ラインの作動異常、製造品の不良発生が引き起こされる。特に、深刻なシリンダの故障が発生すると、工場の製造システムの一部又は全部の作動が中断(Breakdown)される事態が発生し得る。このような作動中断を防止するためには、シリンダの故障が発生する前にシリンダの故障の前触れまたは異常の前触れを予め把握する必要がある。
【0007】
しかし、従来にはアクチュエータの動作時間を複数の項目に分け、これを分析してアクチュエータの故障の有無を診断したり(特許文献1)、動作時間を正常範囲と比較してシリンダの正常の有無のみを判断するのに留まっているだけであり、シリンダの故障が発生する前に故障の前触れを把握して予め故障発生を予測できる技術がなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本公開特許第2007-010106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような課題を解決するために案出されたもので、シリンダの故障を示すことができる統計的劣化指標を選定し、この劣化指標に基づいて故障の発生前に故障の有無を予測できるシリンダ故障予測システムおよび予測方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は上記故障予測システムおよび予測方法によって故障が予測されたシリンダを検査し取り替えるシリンダ故障検査システムおよび検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明のシリンダ故障予測システムは、複数個のシリンダの動作時間を設備稼動経過時間に亘って繰り返し検出してそれぞれのシリンダ別に複数個の動作時間データを取得するデータ取得部;上記動作時間データに基づいてシリンダの故障を示すことができる複数個の統計的劣化指標の劣化指標値を計算する劣化指標値計算部;および各シリンダに対して計算された上記統計的劣化指標の劣化指標値を大きさにより序列化し、上記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与し、上記所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定する判定部を含む。
【0012】
具体的な例として、上記データ取得部は、シリンダロッドの前進時間、後進時間、前進時間および後進時間の合算時間のうち一つ以上を上記シリンダの動作時間として採択してデータを取得することができる。
【0013】
より具体的な例として、上記データ取得部は、上記シリンダロッドの前進時間および後進時間をそれぞれ別個の独立的な1個の動作時間データと見なし、1個のシリンダに備えられたシリンダロッドの1回往復動作時に前進時間および後進時間に該当する2個の動作時間データを取得することができる。
【0014】
一つの例として、上記統計的劣化指標は各シリンダの動作時間データの平均、分散、第1四分位数、中位数、第3四分位数、歪度および尖度からなるグループから選択される二つ以上であり得る。
【0015】
他の例として、各シリンダの動作時間データの平均、分散、第1四分位数、中位数、第3四分位数、歪度および尖度からなるグループから選択される1個以上と、上記グループから選択される1個以上の統計的劣化指標の変化値を上記統計的劣化指標とすることができる。
【0016】
一つの例として、上記統計的劣化指標の劣化指標値は、上記シリンダが一定期間繰り返し使われた後の特定時間区間の間動作した各シリンダの動作時間データに基づいて計算され得る。
【0017】
具体的な例として、上記データ取得部は、複数個の単位時間区間からなる検査対象期間において、各単位時間区間別に各シリンダの動作時間データをグルーピング(grouping)して個別の動作時間データ群にし、上記劣化指標値計算部は上記各動作時間データ群に対して各シリンダの劣化指標値を計算することができる。
【0018】
一つの例として、上記判定部は、上記検査対象期間のうち、所定単位時間区間だけ動作した後の特定単位時間区間の動作時間データ群に対して計算された終期劣化指標値を各シリンダに対して序列化し、上記序列化された終期劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与し、上記所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定することができる。
【0019】
他の例として、上記判定部は、上記検査対象期間のうち、所定の単位時間区間だけ動作した後の特定単位時間区間の動作時間データ群に対して計算された各終期劣化指標値を平均した平均終期劣化指標値を各シリンダに対して序列化し、上記序列化された平均終期劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与し、上記所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定することができる。
【0020】
他の例として、検査対象期間のうち初期の単位時間区間の動作時間データ群に対する初期劣化指標値、または初期の単位時間区間の動作時間データ群に対して求められた初期劣化指標値の平均値から、上記終期劣化指標値を差し引いた差値をシリンダの故障を示すことができる追加的な統計的劣化指標として導入することができる。
【0021】
別の例として、検査対象期間のうち初期の単位時間区間の動作時間データ群に対する初期劣化指標値、または初期の単位時間区間の動作時間データ群に対して求められた初期劣化指標値の平均値から、上記平均終期劣化指標値を差し引いた差値をシリンダの故障を示すことができる追加的な統計的劣化指標として導入することができる。
【0022】
本発明の他の側面としてシリンダ故障検査システムは、上記シリンダ故障予測システムおよび上記判定部によって故障予想シリンダと判定されたシリンダの空気漏洩の有無を測定する検査部を含む。
【0023】
本発明の別の側面としてシリンダ故障予測方法は、複数個のシリンダの動作時間を設備稼動経過時間に亘って繰り返し検出してそれぞれのシリンダ別に複数個の動作時間データを取得する段階;上記シリンダの故障を示すことができる複数個の統計的劣化指標を選択し、上記動作時間データに基づいて上記選択された統計的劣化指標の劣化指標値を計算する段階;それぞれの劣化指標値を各シリンダに対して大きさによって序列化する段階;および上記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与し、上記所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定する段階;を含む。
【0024】
具体的な例として、上記複数個の統計的劣化指標のうち選択される1個以上の統計的劣化指標の変化値を故障予想シリンダ判定のための追加的な統計的劣化指標として導入することができる。
【0025】
本発明の別の側面としてのシリンダ故障検査方法は、上記シリンダ故障予測方法によって故障予想シリンダと判定されたシリンダを検査する段階;および検査によって故障が発見されたシリンダを取り替える段階を含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、故障の発生前にシリンダの故障の有無を予測して故障が予想されるシリンダを事前に取り替えることができるため、工場や製造システムなどの作動中断を未然に防止することができる。
【0027】
また、本発明によると、点検対象となるシリンダの数量を大幅に減らすことができるため、メンテナンスに必要とされる人員、作業量、作業時間が大幅に短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】通常のシリンダの形状と故障発生個所を示す概略図である。
図2】シリンダの動作時間の推移の変化を示すグラフである。
図3】本発明の故障発生予測の概念を説明するブロック図である。
図4】本発明の一実施例に係るシリンダ故障予測システムを示す概略図である。
図5】シリンダの動作時間データがグルーピングされて統計的に視覚化された状態を示すグラフである。
図6】本発明の一実施例に係るシリンダ故障予測システムによる故障予測メカニズムを示す概略図である。
図7】シリンダ動作時間に基づいた統計的劣化指標の例を示す概略図である。
図8】本発明の一実施例の変形例に係るシリンダ故障予測システムによる故障予測メカニズムを示す概略図である。
図9】本発明の他の実施例に係るシリンダ故障予測システムを示す概略図である。
図10】統計的劣化指標の変化を示す概略図である。
図11】本発明の他の実施例に係るシリンダ故障予測システムによる故障予測メカニズムを示す概略図である。
図12】本発明の他の実施例に係るシリンダ故障予測システムによる故障予測メカニズムを示す概略図である。
図13】本発明に係るシリンダ故障検査システムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について詳細に説明することにする。その前に、本明細書および特許請求の範囲に使われた用語または単語は通常的または辞書的な意味で限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最も最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則って本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されるべきである。
【0030】
本出願で、「含む」または「有する」等の用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加の可能性を予め排除しないものと理解されるべきである。また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」あるとする場合、これは他の部分の「真上に」ある場合だけでなくその中間にさらに他の部分がある場合も含む。反対に層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「下に」あるとする場合、これは他の部分の「真下に」ある場合だけでなくその中間にさらに他の部分がある場合も含む。また、本出願で「上に」配置されるとは、上部だけでなく下部に配置される場合も含むものであり得る。
【0031】
図1は、通常のシリンダの形状と故障発生個所を示す概略図である。
【0032】
図1に図示された通り、通常のシリンダ10はシリンダ本体(ハウジング)11と上記シリンダ本体11内を往復移動するシリンダロッド12を具備する。シリンダロッド12は先端にピストン13を具備している。シリンダ故障の主な原因は、
シリンダ内部のパッキング14の劣化による漏洩(leak)、
シリンダロッド12とハウジング11の摩擦または摩耗による漏洩、
フィッティング部15の割れ/緩みによるホース16の連結異常
などに区分することができる。図1で符号17はシリンダロッド12とハウジング11の摩擦部または摩耗部17を示したものである。シリンダ10に漏洩などが発生すると、同一のシリンダロッド12の移動ストロークを達成するために、油圧や空圧が追加的に供給されなければならない。したがって、追加の油圧/空圧が供給されるまでシリンダロッドの移動が遅延される。すなわち、シリンダおよびシリンダロッドの動作劣化はシリンダロッドの動作時間の遅延で表現され得る。
【0033】
図2は、シリンダの動作時間の推移の変化を示すグラフである。
【0034】
図2は、二次電池の製造工程時に繰り返し使われるシリンダの動作時間が動作回数の増加により変わる推移を示したものである。図示された通り、シリンダの動作時間は動作回数により次第に増加し、具体的にはシリンダ動作時間の平均値が0.54秒から0.62秒に増加することが分かる。このように、シリンダの動作時間はシリンダの動作劣化と密接な関係がある。本発明はこのようなシリンダの動作時間をシリンダの故障を示すことができる因子として選定し、後述するように、上記シリンダの動作時間データに基づいて統計的劣化指標およびその劣化指標値を計算し、この劣化指標値を利用して故障予想シリンダを予測することを特徴としている。上記統計的劣化指標はシリンダの故障を示すことができる動作時間データに基づいたものであるので、同様にシリンダの故障を示すことがすることができる。
【0035】
図3は、本発明の故障発生予測の概念を説明するブロック図である。
【0036】
図3の(a)に示された通り、シリンダの部品(parts)は故障の発生前に異常の前触れが現れる。このような異常の前触れから部品の故障を予測できないと結局故障が発生し、この場合、工場の製造システムの一部又は全部の作動が中断(BM:Breakdown)される事態が発生し得る。作動中断後に部品を取り換えることは非常に非経済的であり、製造効率を低下させることである。
【0037】
反面、本発明は図3の(b)に示された通り、シリンダ部品の異常の前触れの発生時に本発明特有のシリンダ故障予測アルゴリズムを利用したシリンダ故障予測システムまたはシリンダ故障予測方法によって、予め異常の前触れを感知することができる。すなわち、故障の発生前に予めシリンダの故障を予測してシリンダ部品の異常の有無を点検して問題となる部品を取り替えることができるため、従来のようなシステムの作動中断を防止することができる。本発明の技術的思想は、シリンダの故障の有無を診断したり、故障の原因を分析するものではなく、故障の発生前に故障が予想されるか故障可能性が高いシリンダを予め予測することにある。したがって、現在としては故障シリンダでない正常シリンダであっても故障予想シリンダと判定され得る。このような点で、故障を診断するかシリンダの正常の有無のみを判断する従来の技術とは差がある。
【0038】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0039】
(第1実施形態)
図4は、本発明の一実施例に係るシリンダ故障予測システムを示す概略図である。
【0040】
本発明のシリンダ故障検査システム100は、複数個のシリンダ10の動作時間を設備稼動経過時間に亘って繰り返し検出してそれぞれのシリンダ別に複数個の動作時間データを取得するデータ取得部110;上記動作時間データに基づいてシリンダの故障を示すことができる統計的劣化指標の劣化指標値を計算する劣化指標値計算部120;および各シリンダに対して計算された劣化指標値を大きさにより序列化し、上記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダを故障予想シリンダと判定する判定部130を含む。
【0041】
本発明で言及されたシリンダの動作時間は、シリンダロッド12の前進時間、後進時間、前進時間および後進時間の合算時間のうち一つ以上を含む。図1に図示した通り、シリンダ10の動作が劣化すると、シリンダロッド12の前進時間および後進時間それぞれはもちろん、前進時間および後進時間の合算時間もすべて遅延される。したがって、上記前進時間、後進時間それぞれはもちろん、その合算時間または前進時間と合算時間の組み合わせまたは後進時間と合算時間の組み合わせなどもすべて劣化指標値の計算の基礎となる動作時間データと見なすことができる。本実施形態では計算の便宜のために、シリンダロッドの前進時間と後進時間をそれぞれ別個の独立的な1個の動作時間データと見なした。すなわち、通常シリンダの前進時間と後進時間はほぼ同一であるので、シリンダロッド12の1回の往復動作時に得られる上記前進時間と後進時間をそれぞれ別個のデータと見なした。これに伴い、1個のシリンダロッドの往復動作時に2個の動作時間データを取得することができる。例えば、故障予測対象シリンダが50個とすれば、各シリンダのシリンダロッドの往復動作時に100個の動作時間データを取得することができる。すなわち、本実施形態では前進時間と後進時間をそれぞれ一つの統計的データと見なして故障予想シリンダを判定する。もちろん、前進時間のみまたは後進時間のみを動作時間データとして取得して故障を予測することができる。ただし、両者のデータをすべて取得する場合、シリンダロッドの往復動作をすべて包括するデータを含むことになるので、シリンダ故障判定をより厳密に遂行して故障予測性をより高めることができるという長所を有する。
【0042】
動作時間データの取得は例えば、図4に図示された通り、シリンダロッド12が往復移動するハウジング11の始端部と終端部に設置されたセンサS1、S2によって感知され得る。終端部に設置されたセンサS1はシリンダロッド12が前進端に到達したことを感知する。始端部に設置されたセンサS2はシリンダロッド12が後進端に到達したことを感知する。上記センサはシリンダの内側または外側に設置され得る。上記センサは例えばシリンダロッド先端のピストンの位置をスイッチのオン/オフで示すリミットスイッチであり得る。
【0043】
上記データ取得部110は、センサS1、S2のセンシング値がそれぞれ受信された時間間隔をシリンダの前進時間または後進時間の動作時間データとして取得することができる。シリンダは設備稼動経過時間に亘って無数に往復動作するので、1個のシリンダに対してその往復回数だけの前進時間および動作時間のデータを取得することができる。本発明は各シリンダの動作時間を相対比較して故障予想シリンダを判定するものであるので、上記動作時間データは各シリンダ別に複数個取得される。このために、上記データ取得部110はデータ収集装置とデータを保存するデータベースを具備することができる。
【0044】
上記動作時間データは各シリンダ別に設備稼動経過時間に亘って複数個取得される。例えば、1個のシリンダが1,800回往復するのであれば、1時間に3,600個の動作時間データを取得することができ、3時間に10,800個、そして24時間経過時に86,400個のデータを取得することができる。また、シリンダが30日に亘って繰り返し動作するのであれば、86,400×30個の動作時間データを取得することができる。このように多くのデータを一度に使って統計的な指標を計算するのであれば、処理しなければならないデータ量が過度に多くなる。この場合、故障予測のためのアルゴリズムまたはプログラムに大きな負荷がかかって迅速に故障を判定することができない。さらに、故障予測対象シリンダの数が多くなれば、データ処理量がさらに増加して上記のような問題がさらに大きくなる。
【0045】
したがって、故障予測のためのデータ取得時、そしてこれを利用した劣化指標値の計算時には、いわゆるグルーピング(grouping)技法を使う。グルーピングとは、データ数の縮小のための統計的技法の一つであって、データを対象別、期間別あるいは特性別にグループ化し、これを一つのデータ(群)と見なすことによって、処理しなければならないデータ量を減らすことをいう。
【0046】
図5は、シリンダの動作時間データがグルーピングされて統計的に視覚化された状態を示すグラフである。図5の(a)を参照すると、シリンダの動作時間データは一時間当たり3,600個であり、3時間稼動する場合、10,800個となるが、図5の(b)のようにグルーピングをした場合は3個のデータ群にグループ化することができる。図5の(a)のように、シリンダ動作時間に関する全体のデータを示すとその傾向性を明確に把握することができないが、図5の(b)のように、データをグルーピングして視覚的に示すと時間による動作時間データの変化を一目で把握できるという長所がある。また、例えば、平均、分散などの統計的指標を、図5の(a)のように全体のデータ個数に基づいて計算する場合は、上述した通り、データ処理量または演算量が増加する。しかし、図5の(b)のように、各時間別に1個のデータ群ごとに分散などの統計的指標を計算し、3個のデータ群の分散値を平均すれば全体のデータ個数に相応する分散値をデータ処理量を大きく低減しながら求めることができる。
【0047】
図5では、1時間を単位時間として1時間の間取得された動作時間データを1個のデータ群にした。しかし、グルーピングされるデータ群を取得するための基準となる単位時間は、3時間、8時間、24時間あるいはそれ以上となることもある。例えば、24時間の複数の時間を一つの単位時間区間として規定し、各単位時間区間ごとに動作したシリンダの動作時間データをグルーピングして1個のデータ群にすることができる。この場合、1個のデータ群は24時間の設備稼動経過時間に亘って繰り返し動作した1個のシリンダの動作時間データのグループとなる。このような方式で1週、数週または一ヶ月などの特定の検査対象期間に亘って複数個のデータ群を求めることができる。例えば、工場で30日間稼動したシリンダの故障を予測するために、1日(24時間)を単位時間区間としてデータ群を取得すると、上記データ取得部は各シリンダに対して30個のデータ群を取得することができる。
【0048】
図6は、本発明の一実施例に係るシリンダ故障予測システム100による故障予測メカニズムを示す概略図である。
【0049】
上記図面は、検査対象期間を30日とした時、総n個のシリンダ(C1~Cn)に対して動作時間データ群を取得したものを示している。すなわち、この場合は1日(24時間)を単位時間区間として30個の単位時間区間からなる検査対象期間(30日)において、各単位時間区間別に各シリンダの動作時間データをグルーピングして動作時間データ群を取得したものを示している。したがって、C1などの各個別のシリンダに対して30個の動作時間データ群が得られ、このデータ群は上記データ取得部に収集されて保存される。
【0050】
図4を再び参照すると、本発明のシリンダ故障予測システム100は、上記動作時間データに基づいてシリンダの故障を示すことができる複数個の統計的劣化指標の劣化指標値を計算する劣化指標値計算部120を具備する。
【0051】
統計的劣化指標は各シリンダの動作時間データの平均、分散、歪度、尖度、第1四分位数、中位数、第3四分位数、歪度、尖度などが挙げられるが、これに限定されるものではない。複数個のシリンダが同一時間の間動作しても、多様な原因によって故障の前触れを示すシリンダの発生傾向は異なる。このようなシリンダに対して上記のような統計的劣化指標を測定して相対的に劣化するシリンダを選択することができる。すなわち、本発明は個別のシリンダの性能や動作時間を絶対的に比較するものではなく、各シリンダの動作時間データとこれに基づいた統計的劣化指標を対比して故障が発生するものと推測されるシリンダを故障予想シリンダと判定するものである。例えば、特定シリンダの動作時間が平均より長くなるのであれば、性能が劣化して故障予想シリンダと判定される可能性が高くなる。その他動作時間データの分散、歪度、尖度などの他の統計的劣化指標において、特定シリンダが他のシリンダと差を示すのであれば、同様に故障予想シリンダと判定される可能性が高い。
【0052】
上述した統計的劣化指標のうち、分散はデータの散布度を示す特性値である。第1四分位数はデータを低い値から高い値に整列した後に4等分した時、最下部から1/4位置にある値をいう。中位数と第3四分位数はデータを低い値から高い値に整列した後に4等分した時、最下部からそれぞれ1/2位置および3/4位置にある値をいう。
【0053】
図7は、シリンダ動作時間に基づいた統計的劣化指標の例を示す概略図である。図7の(a)には、上述した第3四分位数、中位数、第1四分位数および平均の関係がよく示されている。図7の(b)の上側グラフに示された通り、歪度は正規分布曲線を基準としてデータの非対称性を示す指標であり、尖度は図7の(b)の下側グラフに示された通り、正規分布曲線を基準としてデータの高低を示す尺度である。以上の統計的劣化指標は、各シリンダの動作時間データに基づいて所定のコンピューティングプログラムによって劣化指標値で数値化されて計算され得る。シリンダの動作時間はシリンダの劣化や故障または故障の前触れを反映または示すことができる因子であるので、この動作時間に基づいて計算された上記統計的劣化指標もシリンダの故障を示すことがすることができる。本発明の劣化指標値計算部は所定のコンピューティングプログラムを具備しているため、図6のような各単位時間区間の各動作時間データ群に対して個別のシリンダの統計的劣化指標の劣化指標値を計算することができる。
【0054】
一方、本発明では少なくとも複数個の統計的劣化指標を利用して故障予想シリンダを判定する。故障判定のための基礎となるデータを如何に多く保有しているとしても、1個の統計的劣化指標をシリンダ同士で比較して故障を判定する場合には故障予測確率が低下せざるを得ない。したがって、動作時間データに基づいた統計的劣化指標のうち2個以上の複数個の統計的劣化指標を選択して劣化指標値を計算する。統計的劣化指標の選択時には、できるだけ統計的特性が異なる指標を選択した方が良い。例えば、平均、分散、第1四分位数、中位数、第3四分位数などのデータの数量的変化を示す指標のうち1個以上を選択し、歪度、尖度などのデータの非対称性または変化の推移を示す指標のうち1個以上を選択すれば、故障発生予測に対する正確性をより高めることができる。
【0055】
図4を再び参照すると、本発明は上記統計的劣化指標の劣化指標値に基づいて故障予想シリンダを判定する判定部130を含む。判定部130は複数個のシリンダを相対比較するために、各シリンダに対して計算された上記統計的劣化指標の劣化指標値を大きさにより序列化する。また、序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与し、その所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定する。
【0056】
例えば、複数個の対象シリンダの同一の設備稼動経過時間に亘って動作した動作時間データの平均、歪度値を、各シリンダに対して求めてランキングを付与することができる。上記ランキングのうち上位値を有するシリンダの平均と歪度値に対して、例えば1点のスコアを付与し、平均と歪度値に対してすべてスコアが付与されたすなわち2点のスコアを有するシリンダを故障予想シリンダと判定することができる。ただし、これは一例に過ぎず、選択される統計的劣化指標の種類、上位値を選定する基準、スコアの大きさなどの具体的な判定条件は、評価されるシリンダの特性、設備運転条件、工場稼動条件などの多様な原因を考慮して多様に選択して決めることができる。すなわち、上記判定部による細部的な故障予想アルゴリズムはいくらでも調整することができる。
【0057】
図6を再び参照すると、上記判定部130はC1~Cnの複数個(n個)のシリンダに対して取得した各30個の動作時間データ群の統計的劣化指標に基づいて故障予想シリンダを判定することができる。このとき、検査対象期間である30日全体の各シリンダの全体動作時間データによって計算された統計的劣化指標の劣化指標値を序列化し、所定のスコアを付与して故障予想シリンダを判定することができる。
【0058】
しかし、この場合は上述した通り、処理すべきデータの量が幾何級数的に増えることになるため、システムに過度な負荷がかかり、迅速な計算が困難である。また、30日全体の動作時間データを各シリンダに対して比較するのは、非効率的であるだけでなく、故障予想信頼性を低減させ得る。すなわち、シリンダの故障は一定期間繰り返し使った後に発生することが通常的である。したがって、検査対象期間のうち、初期の単位時間区間に属する動作時間データ群に基づいて計算された劣化指標値によって故障予想シリンダを判定するのは故障発生可能性が大きくないという点で非効率的である。少なくとも一定期間または所定の単位時間区間だけ動作した後の特定(単位)時間区間の間動作した各シリンダの動作時間データに基づいて故障予想シリンダを判定するのが合理的である。すなわち、図6に図示された通り、例えば29日間動作した後の30日目の1日間動作したシリンダの動作時間データに基づいて故障予想シリンダを判定することができる。この場合、すべてのシリンダが同一期間(29日)の間使われたので各シリンダの劣化傾向が明確となり、したがって、終期である30日目の1日間計算された劣化指標値(以下、終期劣化指標値という)を比較すれば、各シリンダの劣化程度または故障発生可能性を確実に把握できるのである。このような側面で、図4に示された通り、本実施形態のシリンダ故障予測システム100のデータ取得部110は、複数個の単位時間区間のうち少なくとも一定期間使った後の終期のデータを取得する必要があり、劣化指標値計算部120もこの終期データ(群)に基づいて終期劣化指標値を計算し、判定部130も上記終期劣化指標値を各シリンダに対して序列化して故障予想シリンダを判定するのである。ただし、本発明で「終期」、「終期劣化指標値」は、一定期間繰り返し使われた後の最終単位時間区間(例えば、図6で30日目の単位時間区間)やその単位時間区間の動作時間データ群D30に基づいて計算された劣化指標値に限定されるものではない。図6を参照すると、例えば27日間シリンダが動作した後のD28、D29、D30のうちいずれか一つの動作時間データ群に基づいて劣化指標値を計算することができる。この場合は28日、29日、30日の中で選択されるいずれか一つが終期となり得、その選択された終期のデータ群に基づいて計算された劣化指標値が終期劣化指標値となる。すなわち、本実施形態での終期とは、一定期間または所定単位時間区間の間シリンダが使用(動作)された後の特定時間区間または特定単位時間区間であればよく、必ずしも一定期間使用直後の最終単位時間区間を意味するものではない。また、使われる「一定期間」も検査または故障予想の目的やシリンダの特性などによって自由に選択することができる。図6では、29日間シリンダが動作したことを前提としたが、それより長いか短い期間使用した後のシリンダの故障を予測することも可能である。
【0059】
また、終期は必ずしも単一の単位時間区間のみを意味するものではない。
【0060】
図8は、本発明の一実施例の変形例に係るシリンダ故障予測システムによる故障予測メカニズムを示す概略図である。図8を参照すると、27日間シリンダが動作した後の28日、29日、30日間のD28、D29、D30の動作時間データ群に基づいてそれぞれ計算した終期の劣化指標値を平均し、この平均の終期劣化指標値を故障予想シリンダ判定のための劣化指標値として採用することができる。したがって、図8の例では厳密に終期は3日間となり、故障予測のための劣化指標値は3日間の各動作時間データ群に基づいて計算された各劣化指標値を平均した平均終期劣化指標値となる。図6のように、単一の単位時間区間またはその単一動作時間データ群に基づいて計算された終期劣化指標値で故障を予測することよりは、複数個の単位時間区間または動作時間データ群に基づいて計算された平均終期劣化指標値で故障を予測することが統計的あるいは数学的なデータの信頼性の面でより有利であり得る。
【0061】
図6を再び参照すると、29日間シリンダが使用(動作)された後、30日目のシリンダ動作時間データに基づいて取得された動作時間データ群に対して、統計的劣化指標として平均A、歪度Bを選択し、その平均値、歪度値の劣化指標値を各シリンダに対して求める過程を示している。このとき、D30は30日目の24時間の間動作したシリンダの動作時間データ群であり、上述した通り、86,400個のデータがグルーピングされたものである。このD30の動作時間データ群に基づいて、平均値、歪度値を各シリンダに対してそれぞれ求めて序列化することができる。
【0062】
図8を再び参照すると、この例では27日間シリンダが使用(動作)された後、28~30日目のシリンダ動作時間データに基づいて取得された各動作時間データ群D28、D29、D30に基づいて統計的劣化指標として平均A、歪度Bを選択し、各動作時間データ群に対して計算された平均値、歪度値を再び平均した平均終期劣化指標値を各シリンダに対して求める過程を示している。上記平均終期劣化指標値を各シリンダに対して序列化し、そのうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与してその所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定することができる。
【0063】
図4および図6の故障予測メカニズムに基づいて故障予想シリンダを判定する具体的な一例を説明する。
【0064】
下記の表1は歪度、尖度、平均、第1四分位数、第3四分位数、分散の6個を統計的劣化指標として採択し、29日間稼動した130個のシリンダに対して30日目の終期劣化指標値を計算して序列化したものを示したものである。ただし、本例ではシリンダの前進時間および後進時間をそれぞれ別個の独立的な動作時間データと見なして、シリンダロッドの1回往復動作時に前進時間および後進時間の2個の動作時間データを取得し、これに基づいて劣化指標値を計算したのである。したがって、実際に30日間稼動したシリンダの個数は65個である。
【0065】
表2は、序列化された終期劣化指標値のうち上位16%(20等)以上のシリンダに1点のスコアを付与したものを示したものである。
【0066】
劣化指標値の序列化
【表1】
【0067】
上位値スコア付与
【表2】
【0068】
表2で、上記スコアの合計が3点以上となるシリンダを故障予想シリンダと判定した。この場合、シリンダ1、3、129番のシリンダが故障予想シリンダと判定される。したがって、上記シリンダは故障可能性があるので点検する必要がある。
【0069】
上記例では、上位16%に対して1点のスコアを付与し、合計3点以上のスコアとなるシリンダを故障予想シリンダと判定した。しかし、上位値の%数値、付与されるスコア点数、故障予想シリンダの判定基準となるスコアの合計は変更され得る。したがって、本発明の故障予測システムでシリンダの故障を予測する場合にも、多様な場合の数の故障予知アルゴリズムが導き出され得る。重要なことは、本発明によると、複数個の動作時間データに基づいて複数個の統計的劣化指標を選択し、これから各劣化指標値を導き出し、この値を序列化して所定のスコアの合計で故障予想シリンダを判定できるということである。したがって、このような故障予測システムまたは故障予測方法の範疇内であれば、統計的な信頼性を高めるために細部的な故障予知アルゴリズムはいくらでも変更可能である。
【0070】
(第2実施形態)
図9は、本発明の他の実施例に係るシリンダ故障予測システム200を示す概略図である。
本実施形態は統計的劣化指標として、平均、歪度、尖度などの個別の統計指標に加え、例えば平均の変化値、歪度や尖度の変化値を追加的な統計的劣化指標として導入したという点が第1実施形態と異なる。
【0071】
すなわち、故障予想シリンダを判定するための劣化指標値のうち、平均値の他に平均がどれほど変化したか、あるいは歪度や尖度の劣化指標がどれほど変化したかということもシリンダの動作の劣化と密接な関連がある。したがって、このような統計的劣化指標の変化値を新しい統計的劣化指標として、既存の統計的劣化指標とともに劣化指標値を求めるのであれば故障予測の信頼性をさらに高めることができる。
図10は、このような統計的劣化指標の変化を示す概略図である。図10の(a)は歪度が変化することを、図10の(b)は尖度が変化することを示している。本実施形態で故障予想のための複数個の統計的劣化指標を選択する時、通常の統計的劣化指標のうち一つ(例えば、平均)またはそれ以上を選択し、統計的劣化指標の変化値(例えば、歪度の変化値)のうち一つまたはそれ以上を新しい統計的劣化指標として選択することができる。
【0072】
統計的劣化指標の変化値を新しい統計的劣化指標に追加するためには、その劣化指標の変化前後の値を知らなければならない。このために、本実施形態の故障予測システム200のデータ取得部210は、各シリンダに対して少なくとも初期の動作時間データと終期の動作時間データをすべて取得する必要がある。
【0073】
図11および図12は、図9の実施例に係るシリンダ故障予測システムによる故障予測メカニズムを示す概略図である。
【0074】
図11に示された通り、30日の検査対象期間のうち初期である第1日目の動作時間データ群D1に基づいて例えば、平均、歪度の統計的劣化指標を選択し、その劣化指標値を計算することができる。また、29日間シリンダが使われた後の30日目の終期の動作時間データ群D30に基づいて平均A、歪度Bの統計的劣化指標を選択し、その劣化指標値を計算することができる。これに加えて、D1のデータ群に基づいた歪度値とD30のデータ群に基づいた歪度値をそれぞれ求め、その差値を歪度の変化値とし、この歪度の変化値Cを平均、歪度の劣化指標とともに新しい統計的劣化指標とすることができる。
【0075】
すなわち、図9および図11によると、終期である30日目の平均A、歪度Bと、1日目と30日目の歪度値差である歪度の変化値Cの3個のパラメータを劣化指標値として劣化指標値計算部220でこれらを計算する。判定部230は、この3個の劣化指標値を序列化し、序列化された値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与し、所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定することができる。
【0076】
一方、統計的劣化指標の変化値を計算するための基礎となる初期データ群または初期データ群に基づいて計算される初期統計的劣化指標値は、単一の単位時間区間やそれに基づいた初期統計的劣化指標値に限定されない。
【0077】
図12を参照すると、例えば1日から7日まで、一週間の7個の単位時間区間の動作時間データ群D1~D7を初期劣化指標値計算のための基礎データとすることができる。この場合、D1~D7のデータ群に対してそれぞれ劣化指標値(例えば、平均、歪度)を求め、その劣化指標値を平均した初期劣化指標値の平均値を初期劣化指標値とする。そして、29日使用後の30日目の終期劣化指標値(平均A、歪度値B)を求め、上記初期劣化指標値の平均値から終期劣化指標値を差し引いた差値(例えば、平均の変化値または歪度の変化値C')を追加的な統計的劣化指標として導入することができる。
【0078】
また、この場合、図8と同様に、上記差値を求める基準となる終期劣化指標値も単一の単位時間区間に基づいたものであるだけでなく、複数個の単位時間区間の複数個の動作時間データ群に基づいた平均終期劣化指標値を採択することができる。したがって、検査対象期間のうち初期の単位時間区間の動作時間データ群に対する初期劣化指標値、または初期の単位時間区間の動作時間データ群に対して求められた初期劣化指標値の平均値から、終期劣化指標値または平均終期劣化指標値を差し引いた差値をシリンダの故障を示すことができる追加的な統計的劣化指標として導入することができる。
【0079】
図9および図12の故障予測メカニズムに基づいて故障予想シリンダを判定する具体的な一例を説明する。
【0080】
第1実施形態での一例と同様に、歪度、尖度、平均、第1四分位数、第3四分位数、分散の6個を統計的劣化指標として採択し、29日間稼動した130個のシリンダに対して30日目の終期劣化指標値を計算して序列化した。シリンダの前進時間および後進時間をそれぞれ別個の独立的な動作時間データと見なしてデータを取得することは、第1実施形態の例と同一である。
【0081】
一方、本例では初期の7日間の単位時間区間の歪度、尖度および平均を平均した値を初期歪度値として計算し、30日目の歪度、尖度、平均値(終期劣化指標値)との差値(絶対値)を求めて、この歪度の変化、尖度の変化および平均の変化を新しい統計的劣化指標としてその劣化指標値を上記6個の統計的劣化指標の劣化指標値と共に序列化して表3に示した。
【0082】
表4はこのような差値を含んだ合計9個の序列化された終期劣化指標値のうち、上位16%(20等)以上のシリンダに1点のスコアを付与したものを示したものである。
【0083】
劣化指標値の序列化
【表3】
【0084】
上位値スコア付与
【表4】
【0085】
表4で上記スコアの合計が4点以上となるシリンダを故障予想シリンダと判定した。この場合、シリンダ1、3、129番のシリンダが故障予想シリンダと判定される。したがって、上記シリンダは故障可能性があるので点検する必要がある。
【0086】
本発明の故障予測システム100、200のデータ取得部110、210は上述した通り、データ収集装置とデータを保存するデータベースを具備することができる。上記データ取得部110、210はデータをグループ別にグルーピングするための所定の統計プログラムを具備することができる。上記劣化指標値計算部120、220は所定のコンピューティングプログラムを具備して選択された統計的劣化指標あるいは統計的劣化指標の差値を演算することができる。上記判定部120、230は計算された劣化指標値を序列化して所定のスコアを付与し、その合計を求めて故障予想シリンダを判定するために、データ読み取り装置、解釈装置、および演算装置などを具備することができる。あるいは上記データ取得部110、210、劣化指標値計算部120、220および判定部130、230は、CPUなどの演算装置、ハードディスクなどの記憶装置を含んだハードウェアを所定のソフトウェアで制御することによって実現されるコンピューティング装置であり得、互いに通信可能に設定される。
【0087】
また、本発明は上述したシリンダ故障予測システムなどを利用するシリンダ故障予測方法を提供する。
【0088】
具体的には、複数個のシリンダの動作時間を設備稼動経過時間に亘って繰り返し検出してそれぞれのシリンダ別に複数個の動作時間データを取得する段階;上記シリンダの故障を示すことができる複数個の統計的劣化指標を選択し、上記動作時間データに基づいて上記選択された統計的劣化指標の劣化指標値を計算する段階;それぞれの劣化指標値を各シリンダに対して大きさによって序列化する段階;および上記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与し、上記所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定する段階;を含むことができる。
【0089】
上記複数個の動作時間データを取得する段階で、シリンダに設置されたセンサなどによってシリンダロッドの前進時間、後進時間、またはその合算時間を動作時間データとして取得することができる。このとき、データ処理量を減らすために検査対象期間が複数個の単位時間区間からなる場合に、各単位時間区間別に各シリンダの動作時間データをグルーピングして個別の動作時間データ群を取得することができる。
【0090】
その後、上記動作時間データに基づいてシリンダの故障を示すことができる複数個の統計的劣化指標を選択する。このような統計的劣化指標としては、例えば各シリンダの動作時間データの平均、分散、第1四分位数、中位数、第3四分位数、歪度および尖度などが挙げられる。統計的劣化指標を選択すると、選択された統計的劣化指標の各劣化指標値を計算する。この場合、動作時間データが上記のようにグルーピングされて個別の動作時間データ群となった場合、各動作時間データ群に対して各シリンダの劣化指標値を計算することができる。
【0091】
次に、計算されたそれぞれの劣化指標値を各シリンダに対して大きさによって序列化する。劣化指標であるので、序列化された劣化指標値のうち上位値を有するシリンダが故障予想シリンダである可能性が高い。
【0092】
以後、上記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有するシリンダに対して所定のスコアを付与し、上記所定のスコアの合計を基準として故障予想シリンダを判定する。
【0093】
故障予想シリンダ判定時にその基礎となる劣化指標値は、シリンダが一定期間繰り返し使われた後の特定時間区間の動作時間データに基づいて計算されることが好ましい。このとき、検査対象期間が複数個の単位時間区間からなる場合、検査対象期間のうち、所定単位時間区間だけ動作した後の特定単位時間区間の動作時間データ群に対して計算された終期劣化指標値、または特定単位時間区間の動作時間データ群に対する終期劣化指標値の平均値を序列化して故障予想シリンダ判定のための基礎とすることができる。
【0094】
一方、上記複数個の統計的劣化指標のうち、選択される1個以上の統計的劣化指標の変化値を故障予想シリンダ判定のための追加的な統計的劣化指標として導入することができる。このとき、上記変化値を求めるために、検査対象期間のうち初期の単位時間区間または動作時間データ群に対して計算された初期劣化指標値または初期の単位時間区間または動作時間データ群に対して計算された初期劣化指標値の平均値から、上記終期劣化指標値または終期劣化指標値の平均値を差し引いた差値を上記統計的劣化指標の変化値として導入することができる。
【0095】
図13は、本発明に係るシリンダ故障検査システム1000を示す概略図である。
【0096】
上記シリンダ故障検査システムは図示された通り、データ取得部110、210、劣化指標値計算部120、220および判定部130、230で構成された本発明のシリンダ故障予測システム100、200を含む。また、上記シリンダ故障予測システム100、200の判定部130、230と連結され、上記判定部によって故障予想シリンダと判定されたシリンダの空気漏洩の有無を測定する検査部300が上記シリンダ故障検査システム1000に備えられる。
【0097】
上記検査部300は例えば超音波音響カメラであり得る。超音波音響カメラは、人には聞こえない超音波を測定してガスの漏れと電気アークをリアルタイムで撮影できる産業用カメラである。空気の漏洩地点に生成される超音波エネルギーをセンサアレイで検出し、この漏洩部位を検査対象部位の可視光線イメージを背景に表示するので漏洩地点を速かに感知することができ、JPEGイメージやMP4の動画形式で保存することもできる。
【0098】
本発明はまた、上記シリンダ故障予測方法を含むシリンダ故障検査方法を提供する。上記検査方法は、上記のようなシリンダ故障予測方法によって故障予想シリンダと判定されたシリンダを検査する段階および検査によって故障が発見されたシリンダを取り替える段階を含む。
【0099】
本発明によって、故障予想シリンダと判定されたシリンダのみを上記検査部で検査することになると、シリンダ点検時間が大幅に短縮されてシリンダの点検に必要とされる費用と人員を大きく減らすことができる。
【0100】
<実施例>
二次電池の電極組立体のタブ間またはタブと電極リードを溶接するタブウェルダ(Tab-Welder)ユニットに使われる複数個のシリンダに対して、本発明のシリンダ故障予測システムで故障予想シリンダを判定した。また、実際のシリンダの故障数も評価した。
【0101】
表5の実施例1は、総65個のシリンダに対して評価日時(評価次数)を異にして判定した結果である。表6の実施例2は検査対象シリンダの個数および評価日時を異にし、シリンダ故障予測システムの細部的な故障予知アルゴリズムの条件(統計的劣化指標の種類、上位%選定条件など)をそれぞれ変更して判定した結果である。
【0102】
(実施例1)
【表5】
【0103】
表5で過検出率、未検出率、検出率は下記の式で表示される。
過検出率=故障推薦数のうち過検出数/総点検数
未検出率=実際の故障数のうち未検出数/総点検数
検出率=実際の故障数/故障推薦数
【0104】
上記表1に示された通り、3次の場合を除いて未検出率は0%であり、点検数量も大幅に減少したことが分かる。
【0105】
(実施例2)
【表6】
【0106】
上記表6に示された通り、最終9次の場合、未検出率は0%であり、故障予想シリンダ(166個のうち37個)の部品のみ点検する場合、点検数量が78%減少するので、シリンダの点検時間を大幅に短縮できることが分かる。
【0107】
以上の説明は本発明の技術思想を例示的に説明したものに過ぎず、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で多様な修正および変形が可能であろう。したがって、本発明に開示された図面は本発明の技術思想を限定するためのものではなく説明するためのものであり、このような図面によって本発明の技術思想の範囲が限定されるものではない。本発明の保護範囲は下記の特許請求の範囲によって解釈されるべきであり、それと同等な範囲内にあるすべての技術思想は本発明の権利範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【0108】
一方、本明細書で上、下、左、右、前、後のような方向を示す用語が使われたが、このような用語は説明の便宜のためのものに過ぎず、対象となる事物の位置や観測者の位置などにより変わり得ることは自明である。
【符号の説明】
【0109】
10:シリンダ
11:シリンダ本体(ハウジング)
12:シリンダロッド
S1、S2:センサ
100:シリンダ故障予測システム
110:データ取得部
120:劣化指標値計算部
130:判定部
200:シリンダ故障予測システム
210:データ取得部
220:劣化指標値計算部
230:判定部
300:検査部
1000:シリンダ故障検査システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10(a)】
図10(b)】
図11
図12
図13