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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】固定部材、工具本体及び切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/16 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
B23B27/16 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023174505
(22)【出願日】2023-10-06
【審査請求日】2023-10-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】井田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】佐治 龍一
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-347404(JP,A)
【文献】特開2021-030383(JP,A)
【文献】特表2010-533602(JP,A)
【文献】特表2010-516482(JP,A)
【文献】特開2013-166237(JP,A)
【文献】実開平05-074710(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0067786(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体のインサート取付部に配置させた切削インサートを押圧して固定する固定部材であって、
前記切削インサートを押圧する押圧部を有する固定部材本体と、
前記固定部材本体に形成された貫通ネジ孔と、
前記固定部材本体の底部から前記貫通ネジ孔の軸線に沿って突設され、前記工具本体に形成された係合穴に係合される係合突起と、
を有し、
前記係合突起は、前記固定部材本体における前記貫通ネジ孔の両側に形成されている、
固定部材。
【請求項2】
前記貫通ネジ孔及び前記係合突起の軸線は、互いに平行である、
請求項1に記載の固定部材。
【請求項3】
前記貫通ネジ孔及び前記係合突起の軸線は、前記押圧部を有する前記固定部材本体の底面に対して下方へ向かって前記押圧部と反対側へ傾斜されている、
請求項1に記載の固定部材。
【請求項4】
前記貫通ネジ孔に、一端側と他端側に逆ネジのネジ部が形成されて一端側のネジ部が前記工具本体のめねじにねじ込まれる左右ネジの他端側のネジ部が螺合され、
前記左右ネジの一方の回転方向への回転によって前記工具本体と前記固定部材本体とが互いに引き寄せられ、前記左右ネジの他方の回転方向への回転によって前記工具本体と前記固定部材本体とが互いに引き離される、
請求項1に記載の固定部材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の固定部材と、
一端側と他端側に逆ネジのネジ部を有し、一端側のネジ部が固定部材取付部に形成されためねじにねじ込まれ、他端側のネジ部が前記貫通ネジ孔にねじ込まれる左右ネジと、
を備える、
工具本体。
【請求項6】
請求項5に記載の工具本体と、
前記インサート取付部に配置され、前記固定部材によって固定される切削インサートと、
を備える、
切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定部材、工具本体及び切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物に対して切削加工を行う切削工具は、工具本体と、工具本体の取付部に配置された切削インサートと、切削インサートを工具本体へ固定する固定手段とを備えている(例えば、特許文献1参照)。この切削工具では、固定手段の固定部材に形成された貫通孔へネジを挿し込み、このネジを工具本体のめねじへ螺合して締め付けることにより、切削インサートを固定部材によって工具本体へ押圧して固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/003342号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の切削工具は、ネジを緩めた際に、固定部材を工具本体から押し上げるためのスプリングを備えている。また、この切削工具では、切削加工時における固定部材のネジ回りの回り止めのために、ピンなどの回り止め部材を備える必要がある。このように、この切削工具では、スプリングやピンなどの部品を要するため、コストが嵩んでしまうとともに、工具本体への組付け作業が煩雑である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、コストを抑えつつ、工具本体への組付け作業性に優れた固定部材及び切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る固定部材は、工具本体のインサート取付部に配置させた切削インサートを押圧して固定する固定部材であって、切削インサートを押圧する押圧部を有する固定部材本体と、固定部材本体に形成された貫通ネジ孔と、固定部材本体の底部から貫通ネジ孔の軸線に沿って突設され、工具本体に形成された係合穴に係合される係合突起と、を有する。
【0007】
上記構造の固定部材では、貫通ネジ孔の軸線に沿って突設された係合突起が工具本体の係合穴に係合されて回り止めされるので、切削インサートによる切削加工時における固定部材の変動が抑制され、切削インサートによる良好な切削加工が可能となる。
したがって、工具本体に対して回り止めするためのピンを不要にでき、工具本体への組付け作業性の向上及び部品点数の削減によるコスト低減が図れる。
【0008】
貫通ネジ孔及び係合突起の軸線は、互いに平行であってもよい。
【0009】
貫通ネジ孔及び係合突起の軸線は、押圧部を有する固定部材本体の底面に対して下方へ向かって押圧部と反対側へ傾斜されていてもよい。
【0010】
貫通ネジ孔に、一端側と他端側に逆ネジのネジ部が形成されて一端側のネジ部が工具本体のめねじにねじ込まれる左右ネジの他端側のネジ部が螺合され、左右ネジの一方の回転方向への回転によって工具本体と固定部材本体とが互いに引き寄せられ、左右ネジの他方の回転方向への回転によって工具本体と固定部材本体とが互いに引き離されてもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る工具本体は、上記の固定部材と、一端側と他端側に逆ネジのネジ部を有し、一端側のネジ部が固定部材取付部に形成されためねじにねじ込まれ、他端側のネジ部が貫通ネジ孔にねじ込まれる左右ネジと、を備える。
【0012】
本発明の一態様に係る切削工具は、上記の工具本体と、インサート取付部に配置され、固定部材によって固定される切削インサートと、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コストを抑えつつ、工具本体への組付け作業性に優れた固定部材、工具本体及び切削工具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施形態に係る切削工具の側面図である。
図2図2は、本実施形態に係る切削工具の先端における斜視図である。
図3図3は、切削インサートのクランプ箇所における概略側面図である。
図4図4は、インサート取付部に切削インサートが配置された状態の工具本体の先端における斜視図である。
図5図5は、工具本体の固定部材取付部の斜視図である。
図6図6は、固定部材の側面図である。
図7図7は、固定部材の斜視図である。
図8図8は、固定部材の正面図である。
図9図9は、固定部材の下部後方から視た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(切削工具)
図1図3に示すように、本実施形態に係る切削工具100は、工具本体10と、切削インサート40とを有しており、工具本体10は、固定部材50と、左右ネジ60とを備えている。この切削工具100は、工具本体10の先端に切削インサート40が装着されており、回転する被加工物に対して工具本体10の先端の切削インサート40によって外径切削または内径切削を行う旋削工具である。切削インサート40は、工具本体10の固定部材50によって押圧されて固定される。
【0016】
(工具本体)
工具本体10は、角柱状に形成されており、先端に切削インサート40が装着される。工具本体10は、その先端に、インサート取付部12を有しており、このインサート取付部12に切削インサート40が装着される。この工具本体10は、例えば、鋼材等の金属材料から形成されている。この工具本体10の材質としては、例えば、弾性を有しかつ塑性変形しづらい合金工具鋼鋼材(SKS5)、ダイス鋼(SKD61)、マルエージング鋼などが好ましい。なお、工具本体10の形状は、角柱状に限定されない。
【0017】
インサート取付部12は、装着面13と、装着面13の後部側に装着面13に対して略垂直に立設された側壁面14とを有している。インサート取付部12には、装着面13に敷金15を介して切削インサート40が配置される。なお、敷金15を設けず、装着面13に切削インサート40を配置させる構造としてもよい。
【0018】
工具本体10は、インサート取付部12の後方側が固定部材取付部16とされており、この固定部材取付部16に固定部材50が取り付けられる。固定部材取付部16は、インサート取付部12の側壁面14に繋がる平坦面からなる取付面17を有している。また、固定部材取付部16は、取付面17の後方側に摺動面18を有している。この摺動面18は、取付面17側から後方へ向かって次第に下方へ傾斜する傾斜面とされている。
【0019】
図4及び図5に示すように、固定部材取付部16は、流路付きネジ孔21と、複数(本例では2つ)の係合穴22と、を有している。これらの流路付きネジ孔21及び係合穴22は、それぞれ固定部材取付部16の取付面17に形成されており、係合穴22は、流路付きネジ孔21の両側に形成されている。流路付きネジ孔21は、取付面17に対して、工具本体10の下方へ向かって後方へ傾斜されている。係合穴22は、流路付きネジ孔21の軸線に沿って形成されており、これにより、これらの係合穴22も、取付面17に対して、工具本体10の下方へ向かって後方へ傾斜されている。
【0020】
流路付きネジ孔21は、めねじ27と、このめねじ27の周囲に形成された複数(本例では3つ)のクーラント導入流路23とを有している。具体的には、これらのクーラント導入流路23は、めねじ27の周囲における両側及び後方側において、めねじ27に沿って形成されている。
【0021】
また、固定部材取付部16の取付面17には、凹部24が形成されている。この凹部24は、めねじ27及びクーラント導入流路23からなる流路付きネジ孔21を含む範囲に形成されており、この凹部24の底面24aに対してめねじ27及びクーラント導入流路23が垂直に形成されている。さらに、固定部材取付部16の取付面17には、凹部24の周囲を囲む環状凹部25が形成されており、この環状凹部25には、Oリング26が嵌め込まれて装着されている。
【0022】
図1に示すように、インサート取付部12及び固定部材取付部16を先端部に有する工具本体10は、その内部に、クーラント主流路31、クーラント分岐流路32,33及び複数のクーラント吐出流路34を有している。
【0023】
クーラント主流路31は、工具本体10の長手方向に沿って形成されている。このクーラント主流路31は、複数の流入口35,36,37を有している。流入口35は、工具本体10の後端面に形成され、流入口36は、工具本体10の長手方向の中間における底面に形成され、流入口37は、工具本体10の先端側における底面に形成されている。そして、クーラント主流路31には、これらの流入口35,36,37のいずれか1つからクーラントが供給され、流入口35,36,37のうちのクーラントの供給に用いない箇所は、ホーローセットネジ等によって封止される。
【0024】
クーラント分岐流路32は、工具本体10の先端側における上部に形成されており、一端がクーラント主流路31に連通されている。このクーラント分岐流路32は、他端が、めねじ27の周囲に形成されたクーラント導入流路23に連通されている。このクーラント分岐流路32にはクーラント主流路31に供給されたクーラントが送り込まれる。そして、このクーラント分岐流路32に送り込まれるクーラントがクーラント導入流路23に供給される。なお、クーラント主流路31へ供給する流体としては、クーラントに限らず、各種の潤滑剤や冷却剤が使用可能であり、また、ミストや空気を供給してもよい。
【0025】
クーラント分岐流路33は、工具本体10の先端側における下部に形成されており、一端がクーラント主流路31に連通されている。クーラント分岐流路33には、その他端に、複数のクーラント吐出流路34の一端が連通されている。クーラント吐出流路34は、その他端が工具本体10の先端付近で開口されており、この開口部分が吐出口34aとされている。クーラント分岐流路33には、クーラント主流路31に供給されたクーラントが送り込まれる。そして、このクーラント分岐流路33に送り込まれたクーラントは、クーラント吐出流路34を通り、吐出口34aから吐出され、切削インサート40の逃げ面付近を冷却および潤滑する。
【0026】
(切削インサート)
図4に示すように、工具本体10のインサート取付部12に取り付けられる切削インサート40は、例えば、扁平な略三角形の立体形状に形成されている。切削インサート40は、表裏に端面43を有しており、各端面43は、それぞれ3つのコーナ部41を有している。また、この切削インサート40は、その中心に固定用孔部42を有している。
【0027】
切削インサート40は、互いに対向する略三角形状の端面43と、これらの端面43を接続する3つの周側面44とを有している。そして、この切削インサート40では、各端面43と周側面44との間の稜線45において、各コーナ部41の近傍が切れ刃46とされている。
【0028】
切削インサート40は、いずれか一方の端面43を上方へ向け、3つのコーナ部41のいずれかを先端方向に向けた状態で、工具本体10のインサート取付部12に載置されて固定される。このように、切削インサート40は、各端面43において、それぞれ切れ刃46を有する3つのコーナ部41のいずれかを先端方向に向けて用いることにより、合計6箇所で切削可能とされている。
【0029】
(固定部材)
図6図9に示すように、固定部材50は、固定部材本体51と、貫通ネジ孔52と、係合突起53とを有しており、この固定部材50の貫通ネジ孔52に左右ネジ60が螺合される(図3参照)。貫通ネジ孔52は、固定部材本体51の表裏に貫通するネジ孔であり、工具本体10の流路付きネジ孔21のめねじ27と逆方向の雌ネジを有している。この貫通ネジ孔52には、左右ネジ60がねじ込まれて装着される。
【0030】
係合突起53は、固定部材本体51における貫通ネジ孔52の両側に形成されており、固定部材本体51の底部から突出されている。これらの係合突起53は、貫通ネジ孔52の軸線に沿って突設されており、貫通ネジ孔52及び係合突起53の軸線は、互いに平行とされている。固定部材本体51は、貫通ネジ孔52よりも先端側が押圧部55とされおり、この押圧部55には、下方へ突出する押圧突起56が形成されている。この押圧突起56は切削インサート40を固定するための突起であり、その形状は、切削インサートの固定用孔部42の内周面を押圧できる形状であれば、どのような形状であってもよい。また、固定部材本体51には、貫通ネジ孔52よりも後端部57側に、下方へ向かって次第に後方へ傾斜する摺動面58を有している。貫通ネジ孔52及び係合突起53は、その軸線が、固定部材本体51の底面に対して下方へ向かって押圧部55と反対側へ傾斜されている。
【0031】
固定部材50は、クーラント吐出流路72と、クーラント導入凹部73と、クーラント導出凹部74と有している。クーラント吐出流路72は、本例では2つ形成されている。これらのクーラント吐出流路72は、固定部材本体51の先端側において、例えば、並列に配置されて前後方向に沿って形成されており、固定部材本体51の先端で開口している。そして、これらのクーラント吐出流路72の開口部分が吐出口72aとされている。なお、2つのクーラント吐出流路72は、並列に配置されているものに限らない。
【0032】
クーラント導入凹部73及びクーラント導出凹部74は、互いに連通されている。クーラント導入凹部73は、固定部材本体51の貫通ネジ孔52の下端位置に形成されている。クーラント導出凹部74は、固定部材本体51の貫通ネジ孔52の下端における前方側に形成されている。クーラント導出凹部74には、クーラント吐出流路72が連通されている。
【0033】
図3に示すように、左右ネジ60は、先端側に第1ネジ部(ネジ部)61を有し、後端側に第2ネジ部(ネジ部)62を有している。第1ネジ部61及び第2ネジ部62は、互いに逆ネジの雄ネジである。この左右ネジ60は、第1ネジ部61が工具本体10の流路付きネジ孔21のめねじ27に螺合され、第2ネジ部62が固定部材50の貫通ネジ孔52に螺合される。
【0034】
(切削インサートの固定)
次に、工具本体10のインサート取付部12に配置させた切削インサート40を固定部材50によって固定する場合について説明する。
【0035】
まず、インサート取付部12に切削インサート40を配置させた工具本体10に対して、固定部材取付部16の係合穴22へ固定部材50の係合突起53を挿し込む。また、固定部材取付部16の流路付きネジ孔21のめねじ27へ、固定部材50の貫通ネジ孔52に予め装着した左右ネジ60の第1ネジ部61を挿し込み、固定部材本体51を固定部材取付部16の上部に配置させる。そして、固定部材本体51の押圧部55に形成された押圧突起56を、切削インサート40の固定用孔部42に嵌め込む。
【0036】
この状態において、左右ネジ60を回し、工具本体10の固定部材取付部16の流路付きネジ孔21のめねじ27に左右ネジ60の第1ネジ部61をねじ込む。すると、第1ネジ部61がめねじ27へねじ込まれる左右ネジ60はめねじ27の奥へ移動する。また、左右ネジ60の第2ネジ部62が貫通ネジ孔52に螺合されている固定部材50は、左右ネジ60の先端側である工具本体10側へ移動する。これにより、固定部材50は、一方の回転方向へ回転される左右ネジ60によって工具本体10の固定部材取付部16へ引き寄せられ、固定部材取付部16へ向かって押し付けられる。すると、この固定部材50の押圧部55によって切削インサート40が、押圧力F1によって工具本体10のインサート取付部12の敷金15に押圧される。
【0037】
また、固定部材50が固定部材取付部16へ押し付けられることで、固定部材本体51の摺動面58が工具本体10の摺動面18に接触して摺動する。すると、固定部材50は、工具本体10の摺動面18からの反力F2の分力F3によって工具本体10の後方へ引き寄せられる。これにより、切削インサート40の固定用孔部42に嵌め込まれた押圧突起56が固定用孔部42の内周面に当接しながら後方へ移動する。したがって、固定部材50の押圧突起56によって切削インサート40が工具本体10のインサート取付部12の後方側へ引き寄せられ、側壁面14に押圧される。このように、切削工具100は、固定部材50によって切削インサート40の上方側の端面43及び固定用孔部42の内周面の2箇所を押圧するダブルクランプ式の固定方式を備えている。
【0038】
ここで、固定部材50の貫通ネジ孔52及び係合突起53の軸線は、押圧部55を有する固定部材本体51の底面に対して下方へ向かって押圧部55と反対側へ傾斜されている。したがって、左右ネジ60によって固定部材50を工具本体10へ固定する際に、固定部材50を無理なく工具本体10の後方へ変位させてダブルクランプできる。
【0039】
そして、切削インサート40をインサート取付部12に固定したクランプ状態において、固定部材50は、2つの係合突起53が工具本体10の係合穴22に挿し込まれて係合されている。これにより、固定部材50は、左右ネジ60の軸回りにおける回り止めがなされる。したがって、切削工具100の切削インサート40による切削加工時における固定部材50の変動が抑制され、切削インサート40による良好な切削加工が可能となる。
【0040】
また、切削インサート40をインサート取付部12に固定したクランプ状態において、
工具本体10の取付面17の凹部24がクーラント導入凹部73及びクーラント導出凹部74に連通する。そして、これらの互いに連通した凹部24、クーラント導入凹部73及びクーラント導出凹部74によって、クーラント導入流路23及びクーラント吐出流路72よりも流路断面が大きなクーラント溜まり75が形成される(図3参照)。また、工具本体10の取付面17に装着されたOリング26が固定部材本体51の底面に密着する。これにより、固定部材50の底部と固定部材取付部16の取付面17との間における凹部24とクーラント導入凹部73及びクーラント導出凹部74との連通箇所の周囲がシールされる。
【0041】
そして、この切削インサート40のクランプ状態において、クーラント主流路31からクーラント分岐流路32を介してクーラント導入流路23に送り込まれたクーラントは、互いに連通した凹部24、クーラント導入凹部73及びクーラント導出凹部74からなるクーラント溜まり75を介してクーラント吐出流路72へ送り込まれ、固定部材50の先端の吐出口72aから吐出される。これにより、切削インサート40による切削箇所には、工具本体10の先端の吐出口34aから吐出されるクーラントとともに、固定部材50の先端の吐出口72aから吐出されるクーラントが吹き付けられる。これにより、切削インサート40による切削箇所が良好に冷却及び潤滑される。ここで、クーラント導入流路23とクーラント吐出流路72との間には、流路断面が大きいクーラント溜まり75が設けられている。したがって、クーラント導入流路23から内径が小さなクーラント吐出流路72へ送り込まれる際のクーラントの圧力損失を抑え、クーラントを吐出口72aから良好に吐出させることができる。
【0042】
(切削インサートの取り外し)
次に、固定部材50によって工具本体10のインサート取付部12に固定した切削インサート40を取り外す場合について説明する。
【0043】
切削インサート40を取り外すには、固定部材50を固定している左右ネジ60を、固定時と逆方向である他方の回転方向へ回転させる。すると、左右ネジ60の第1ネジ部61が工具本体10の流路付きネジ孔21のめねじ27から抜け出される。また、左右ネジ60の第2ネジ部62が貫通ネジ孔52に螺合されている固定部材50は、左右ネジ60の後端側である工具本体10と反対側へ移動する。これにより、固定部材50は、他方の回転方向へ回転される左右ネジ60によって工具本体10の固定部材取付部16から離れる方向へ押上げられる。これにより、固定部材50による切削インサート40の固定が解除される。
【0044】
また、固定部材50が左右ネジ60によって押し上げられる際に、係合穴22から係合突起53が引き抜かれる。ここで、固定部材50の貫通ネジ孔52及び係合突起53の軸線は、押圧部55を有する固定部材本体51の底面に対して下方へ向かって押圧部55と反対側へ傾斜されている。したがって、左右ネジ60によって工具本体10から固定部材50を離脱させる際に、固定部材50の後部を工具本体10から円滑に引き離すことができる。そして、左右ネジ60の第1ネジ部61が工具本体10の流路付きネジ孔21から引き抜かれることにより、後部が押上げられた固定部材50を容易に把持して取り外すことができる。
【0045】
以上、説明したように、本実施形態に係る固定部材50によれば、左右ネジ60を一方の回転方向に回転させることによって固定部材50が工具本体10へ引き寄せられる。これにより、押圧部55によって切削インサート40を押圧して固定できる。また、左右ネジ60を他方の回転方向に回転させることによって固定部材50が工具本体10から引き離される。これにより、切削インサート40の押圧を解除して切削インサート40を取り外すことができる。しかも、貫通ネジ孔52の軸線に沿って突設された複数の係合突起53が工具本体10の係合穴22に係合されて回り止めされるので、切削インサート40による切削加工時における固定部材50の変動が抑制され、切削インサート40による良好な切削加工が可能となる。
【0046】
したがって、固定部材50を工具本体10から離脱させるためのスプリング及び工具本体10に対して回り止めするためのピンを不要にでき、工具本体10への組付け作業性の向上及び部品点数の削減によるコスト低減が図れる。
【0047】
なお、上記実施形態では、固定部材50の2つの係合突起53を工具本体10の係合穴22に係合させたが、固定部材50に1つの係合突起53を設け、この係合突起53を工具本体10の係合穴22へ係合させてもよい。この場合も、工具本体10に対して固定部材50を良好に回り止めできる。
【符号の説明】
【0048】
10 工具本体
12 インサート取付部
21 流路付きネジ孔
22 係合穴
27 めねじ
40 切削インサート
50 固定部材
51 固定部材本体
52 貫通ネジ孔
53 係合突起
55 押圧部
60 左右ネジ
61 第1ネジ部(ネジ部)
62 第2ネジ部(ネジ部)
100 切削工具
【要約】
【課題】コストを抑えつつ、工具本体への組付け作業性に優れた固定部材、工具本体及び切削工具を提供する。
【解決手段】切削インサート40を押圧する押圧部55を有する固定部材本体51と、固定部材本体51に形成された貫通ネジ孔52と、固定部材本体51の底部から貫通ネジ孔52の軸線に沿って突設され、工具本体10に形成された係合穴22に係合される係合突起53と、を有する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9