(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】熱電変換用分散液および塗膜
(51)【国際特許分類】
H10N 10/01 20230101AFI20240326BHJP
H10N 10/855 20230101ALI20240326BHJP
H10K 85/00 20230101ALI20240326BHJP
H10K 85/20 20230101ALI20240326BHJP
H10N 10/851 20230101ALI20240326BHJP
【FI】
H10N10/01
H10N10/855
H10K85/00
H10K85/20
H10N10/851
(21)【出願番号】P 2019156233
(22)【出願日】2019-08-29
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石 智文
(72)【発明者】
【氏名】高田 泰行
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-127210(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021908(WO,A1)
【文献】特開2015-070249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/01
H10N 10/855
H10K 10/00
H10K 85/20
H10N 10/851
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換材料と分散媒と
分散剤とを含んでなる熱電変換用分散液であって、
前記分散媒が、N-メチルピロリドンを含有し、
前記分散剤が、分子量が100以上1,000以下の分散剤、又は、ポリマー鎖を有する塩基性分散剤を含み、
分散液中の不揮発分濃度が0.5質量%である際に、超音波粒度分布計の測定において、20MHzにおける分散液の減衰率をA(/mm)とした時、0.2≦A≦10を満たす熱電変換用分散液。
【請求項2】
超音波粒度分布計の測定において、分散液中の不揮発分濃度が0.5質量%である際に、10MHzにおける分散液の減衰率をB(/mm)とした時、2≦A/B≦20を満たす請求項1記載の熱電変換用分散液。
【請求項3】
熱電変換材料が、カーボンナノチューブを含んでなる請求項1
又は2記載の熱電変換用
分散液。
【請求項4】
請求項1~
3いずれか記載の熱電変換用分散液の塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換用分散液およびその塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、排熱によって生じる温度差を利用し、熱電変換素子により発電を行なう熱電発電が注目されており、自動車、産業機械、電子機器等への適用が進みつつある。熱電変換素子は、素子の両端に生じた温度差をゼーベック効果により電力変換するものである。熱電変換の性能指数は、ゼーベック係数S、導電率σ、熱伝導率κを用いて、Z=S2σκ-1で表される。また、パワーファクターPF(=S2・σ)を用いる場合もある。すなわち、ゼーベック係数S、導電率σが高く、熱伝導率κが低い熱電半導体材料が求められている。
【0003】
非特許文献1に記載されているとおり、ゼーベック係数Sと導電率σは下記式で表される。
S=kB/e(-logn/n0+δ) (式1)
σはσ=Nneμ (式2)
ここで、kBはボルツマン定数、eはネイピア数、nはキャリア密度、n0は最適キャリア密度、δは1程度の大きさの定数、Nはバレーの数、μは移動度である。両者には共通するキャリア密度nが向上すると、導電率σは向上するが、ゼーベック係数Sは低下してしまい、このトレードオフが課題となっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、導電性高分子の一種であるポリ(2-ブトキシ-5-メトキシ-1,4-フェニレンビニレン)のクロロホルム分散液を製膜し、この膜にヨウ素をドーピングすることにより得られる熱電変換材料及び熱電変換素子が開示されている。しかし、分散液の成膜後にドーパントすることでキャリア密度を向上させているため、導電率は向上しているが、ゼーベック係数が低いという問題点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】梶川武信著「熱電変換技術ハンドブック(初版)」エヌ・ティー・エス出版、19頁
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高いゼーベック係数と高い導電率を両立できる熱電変換素子を形成するための熱電変換用分散液およびその塗膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、熱電変換材料と分散媒とを含んでなる熱電変換用分散液であって、分散液中の不揮発分濃度が0.5質量%である際に、超音波粒度分布計の測定において、20MHzにおける分散液の減衰率をA(/mm)とした時、0.2≦A≦10を満たす熱電変換用分散液に関する。
【0009】
また、本発明は、超音波粒度分布計の測定において、分散液中の不揮発分濃度が0.5質量%である際に、10MHzにおける分散液の減衰率をB(/mm)とした時、2≦A/B≦20を満たす上記熱電変換用分散液に関する。
【0010】
また、本発明は、さらに、分散剤を含んでなる上記熱電変換用分散液に関する。
【0011】
また、本発明は、熱電変換材料が、カーボンナノチューブを含んでなる上記熱電変換用インキに関する。
【0012】
また、本発明は、上記熱電変換用分散液の塗膜に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高いゼーベック係数と高い導電率を両立できる熱電変換素子を形成するための熱電変換用分散液およびその塗膜を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。
本発明の熱電変換用分散液は、熱電変換材料と分散媒とを含んでなる熱電変換用分散液であって、分散液中の不揮発分濃度が0.5質量%である際に、超音波粒度分布計の測定において、20MHzにおける分散液の減衰率をA(/mm)とした時、0.2≦A≦10を満たす熱電変換用分散液である。このような所定の減衰率を有する分散液を用いて熱電変換素子を製造することによって、ゼーベック係数と導電性とを両立し高いパワーファクターを示す、優れた熱電変換性能を発揮する熱電変換素子が製造できることを見出した。
【0015】
<熱電変換材料>
熱電変換材料としては、ゼーベック効果を発現し、熱電材料として用いることができる材料であれば、特に限定されないが、例えば、無機熱電変換材料、有機低分子材料、導電性高分子、高分子複合材料等の有機導電性材料、炭素材料などが挙げられる。耐久性や伸縮性の観点から炭素材料が好ましい。ゼーベック係数と導電率との両立の観点で、炭素材料としては、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン(グラフェンナノプレートを含む)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、より好ましくはカーボンナノチューブであり、特に好ましくは単層カーボンナノチューブである。
【0016】
無機熱電変換材料は、熱電変換能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、酸化亜鉛、酸化スズ、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、(Zn,Al)O、NaCo2O4、Ca3Co4O9、Bi2Sr2Co2Oy、及び硫化銀等の金属の酸化物や硫化物;Bi、Sb、Ag、Pb、Ge、Cu、Sn、As、Se、Te、Fe、Mn、Co、及びSiから選択される少なくとも2種以上の元素を含む金属元素複合材料が挙げられる。金属元素複合材料の好適な例としては、BiTe系、BiSb系、BiSbTe系、BiSbSe系、CoSb系、PbTe系、TeSe系、及びSiGe系の材料や、マグネシウムシリサイド系材料(Mg2Si系材料)が挙げられる。
【0017】
導電性高分子は特に制限されず、例えば、ポリアニリン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリアニリン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子が好ましく、導電性の観点から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。導電性高分子は1種又は2種以上を併用することができる。
【0018】
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0019】
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)等が挙げられる。
【0020】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)、ポリ(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-プロパンスルホン酸カリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ヘキシル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-イソプロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-イソブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-イソペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-フルオロ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ブタンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ブタンスルホン酸カリウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸カリウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸ナトリウム)、又はポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸カリウム)等が挙げられる。
【0021】
炭素材料としては、上で挙げたものの他に、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛工業所社製のBF-3AK、FBF、BF-15AK、CBR、CPB-6S、CPB-3、96L、96L-3、K-3、SC-120、SC-60、HLP、CP-150、SB-1、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、K-5、AP-2000、AP-6、300F、150Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のG-4AK、G-6S、G-3G-150、G-30、G-80、G-50、SMF、EMF、SFF、SFF-80B、SS-100、BSP-15AK、BSP-100AK、WF-15C、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。
【0022】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、電気化学工業社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられる。これらは特に限定されることはない。
【0023】
市販の導電性炭素繊維やカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.5,EC1.5-P、OcSiAl社製のTUBALL、ゼオンナノテクノロジー社製のZEONANO等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube7000、FloTube2000、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T、200P等が挙げられる。導電性の観点から、OcSiAl社製のTUBALLが特に好ましい。
【0024】
これらの炭素材料は、必要に応じて置換基を導入して変性したり、電荷移動を促進し得る化合物を共存させて使用したりすることもできる。また、分散液中での熱電変換材料の含有量は、熱電特性の観点から、不揮発分中で30~100質量%であり、好ましくは40~85質量%である。
【0025】
<分散媒>
本発明において使用する分散媒は、熱電変換材料の溶解又は分散に使用され、インキ化による塗工性向上が可能とする。使用できる分散媒としては、熱電変換材料が溶解又は良分散できれば、特に限定されず、有機溶剤や水を挙げることができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1、3-ブチレングリコール、イソボルニルシクロヘキサノール、N-メチルピロリドン等から、必要に応じて適宜選択することができる。熱電変換材料を分散する溶剤としては、溶解性と分散性の観点から、N-メチルピロリドンが特に好ましい。
【0026】
<その他成分>
熱電変換素子の特性を向上させる観点から、熱電変換材料と分散媒以外に、その他成分として、分散剤や半導体、酸化防止剤、レベリング剤、樹脂などを含んでもよい。その他成分は、導電性の観点から、不揮発分中濃度として60質量%以内が好ましく、50質量%以内がより好ましい。
【0027】
(分散剤)
分散剤は、無機材料や有機材料を媒体中に均一に分散させ安定な分散体を調整するために用いるものであり、塗工性、導電性及び熱電特性のさらなる向上が可能となる。分散剤の種類は特に制限されず、熱電変換材料の分散に用いられる従来公知のものを使用することができる。分散剤は、単独又は2種以上を併用して使用してもよい。
【0028】
分散剤としては、酸性分散剤、塩基性分散剤、両性分散剤、非イオン型分散剤等が挙げられる。また、酸性分散剤の酸性官能基としては、カルボン酸基、スルホン酸基及びリン酸基等が挙げられ、塩基性分散剤の極性官能基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基及び4級アンモニウム塩基等が挙げられ、非イオン型分散剤の非イオン性官能基としては、水酸基、アミド基、ケトン基、エポキシ基、及びエステル基等が挙げられる。
【0029】
塩基性分散剤は、市販品として例えば、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE-9000、11200、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、22000、24000、24000SC、24000GR、26000、28000、32000、32500、32550、32600、33000、34750、35100、35200、37500、38500、39000、53095、56000、71000、76500、X300等、ビックケミー・ジャパン社製のDISPERBYK-108、109、112、116、130、161、162、163、164、166、167、168、182、183、184、185、2000、2008、2009、2022、2050、2150、2155、2163、2164、9077、101、106、140、142、145、180、2001、2020、2025、2070、9076等、味の素ファインテクノ社製のアジスパーPB821、PB822、PB824、PB881等、BASF社製のEFKA-4015、4020、4046、4047、4050、4055、4080、4300、4330、4400、4401、4402等が挙げられる。
【0030】
酸性分散剤は、市販品としては例えば、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE-3000、5000、21000、36000、36600、41000、41090、43000、44000、46000、47000、55000等、ビックケミー・ジャパン社製のDISPERBYK-102、110、111、170、171、174、P104、P104S、P105、220S等、味の素ファインテクノ社製のアジスパーPA111等が挙げられる。
【0031】
非イオン型分散剤は、市販品としては例えば、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE-27000、54000等が挙げられる。
【0032】
分散剤は、低分子又は高分子のいずれでもよいが、炭素材料の導電パスを阻害させないために、低分子であることが好ましく、より好ましくは分子量が100以上1,000以下であり、特に好ましくは200以上600以下である。分散剤の分子量が 100以上1,000以下であると、炭素材料表面に一部吸着するだけで分散させることができ、高導電性が効率的に発揮されるため好ましい。なお、分散剤が高分子である場合、質量平均分子量(Mw)の値を分子量とする。また、分散剤として、有機色素誘導体又はトリアジン誘導体を使用してもよい。
【0033】
分散剤の含有量は、分散性の観点から、好ましくは熱電変換材料の全量に対して5~200質量%であることが好ましく、10~150質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることがさらに好ましい。5~200質量%であると、熱電変換材料の経時分散安定性が向上する。
【0034】
(半導体)
半導体は公知のものであれば特に制限されず、ゼーベック係数向上のために用いられる。半導体の含有量を増やすことでゼーベック係数を向上させることができるが、含有量を増やし過ぎると絶縁性が増して導電性が低下する恐れがあるため、ゼーベック係数と導電率との両立の観点から、熱電変換材料の全量に対して、上限値が、400質量%以下が好ましく、200質量%以下より好ましく、120質量%以下が更に好ましく、100質量%以下が特に好ましい。半導体は単独又は2種以上を併用して使用してもよい。また、下限値は、25質量%以上が好ましい。上記の含有量の範囲内であると、ゼーベック係数と経時分散安定性が向上する。
【0035】
熱電変換用分散液の製造方法は、本発明の条件を満たす熱電変換用分散液が得られれば、特に限定されず、適宜選択することができる。例えば、熱電変換材料と分散媒と必要に応じてその他成分とを混合した後、分散機や超音波を用いて分散することで得られる。分散機としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスビーズやジルコニアビーズ等を使用したサンドミル、スキャンデックス、アイガーミル、ペイントコンディショナー、ペイントシェイカー等のメディア分散機、コロイドミル等を使用することができる。
【0036】
<減衰率>
本発明における減衰率とは、超音波粒度分布系における超音波減衰スペクトルの値を表す。20MHzにおける減衰率をA(/mm)とし、10MHzにおける減衰率をB(/mm)として、この比率をA/Bとする。
【0037】
超音波減衰法は、超音波を懸濁液に照射すると、その懸濁液中の粒子が溶媒に対して相対運動を起こすが、その運動に起因する音響エネルギーの減衰率を、発振した音響エネルギーに対して測定し、その特性から粒度分布を求める方法である。超音波減衰法は、濃厚溶液の平均粒径、分布パターンの測定に最適な方法である。また、超音波減衰法を用いた粒度分布測定装置としては、日本ルフト社製の商品名DT-1200等が挙げられる。
【0038】
上記超音波減衰法は、測定チャンバー上部から測定用の懸濁液を注ぎ、基本的には循環させながら行われ、必要に応じて、循環速度を変更できる。また、沈降物の発生がほとんど無いスラリーでは循環を止めて測定される。上記超音波減衰法は、一方に設置された振動子から3~100MHzの超音波をチャンバー中の懸濁液に照射し、他方に設置された振動子でこれを受信して、超音波が懸濁液中を伝播する間に減衰した割合(減衰率)を複数の設定された周波数毎に測定することで減衰率曲線が得られる。この曲線を超音波減衰スペクトルと呼ぶ。この超音波減衰スペクトルの形状、傾きから分散状態や粒子分布状態を算出、評価する方法である。上記超音波減衰法の具体的な測定方法については、「色材、75〔11〕,530-537(2002)武田真一著、岡山大学」に記載されていると同様に測定できる。
【0039】
(分散液の減衰率)
20MHzにおける減衰率A(/mm)は、熱電変換材料の凝集物の密度に対応し、減衰率が高い程、密度が低いことを表す。凝集物の密度が低下すると、より大きな導電パスを形成するため、凝集物の導電性が向上する。したがって、20MHzにおける減衰率は0.2≦A≦10が好ましく、より好ましくは0.3≦A≦5である。
【0040】
10MHzにおける減衰率B(/mm)と20MHzにおける減衰率Aの比であるA/Bは、凝集物のサイズに比例し、凝集物のサイズが小さくなるほどA/Bは大きくなる。熱電変換材料の凝集物は小さくなるほど、製膜した際、凝集物同士がより密に接触するため導電性が向上する。したがって、A/Bは、2≦A/B≦20が好ましい。
【0041】
(熱電変換用分散液の塗膜)
塗膜は、基材上に熱電変換用分散液を塗布して得られる膜であってよい。熱電変換用分散液は優れた成形性を有するため、塗布法によって良好な膜を得ることが容易である。熱電変換膜の形成には、主に湿式製膜法が用いられる。具体的には、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法、ロールコート法、カーテンコート法、バーコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷等の各種手段を用いた方法が挙げられる。塗布する厚み、及び材料の粘度等に応じて、上記方法から適宜選択することができる。
【0042】
塗膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、熱電変換膜の厚さ方向又は面方向に温度差を生じ、かつ伝達できるように、一定以上の厚みを有するように形成されることが好ましい。一実施形態において、熱電特性の点から、熱電変換膜の膜厚は、0.1~200μmの範囲が好ましく、1~100μmの範囲が好ましく、1~50μmの範囲がさらに好ましい。
【0043】
また、熱電変換材料を塗布する基材として、ポリエチレン、ポリエチレンテレフテレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリイミド、ボリカーボネート、及びセルローストリアセテートなどの材料からなるプラスチックフィルム、又はガラス等を用いることができる。
【0044】
基材と熱電変換膜との密着性を向上させる目的で、基材表面に様々な処理を行うことができる。具体的には、熱電変換材料の塗布に先立ち、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理、又は易接着処理を行ってもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、特に明記しない限り、「部」は、「質量部」を表す。また。「NMP」はN-メチルピロリドンを表す。
【0046】
(熱電変換材料分散液の製造)
[実施例1]
単層カーボンナノチューブ(OcSiAl社製、TUBALL)0.2部、NMP39.6部をそれぞれ秤量して混合した。その後、スキャンデックスにより120分間振とうし、熱電変換材料分散液1を得た。
【0047】
[実施例2~19、比較例1]
表1に記載した材料、組成および分散条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、それぞれ分散液2~19、21を得た。尚、表1中の空欄は配合していないまたは操作していないことを表す。また、「PF」とは、下記の測定方法によって得られた体積導電率とゼーベック係数より算出されたパワーファクターを表す。
【0048】
[実施例20]
単層カーボンナノチューブ(OcSiAl社製、TUBALL)0.2部、分散剤A(トリアジン誘導体)0.1部、NMP39.6部をそれぞれ秤量して混合した。超音波水浴を用いて超音波を30分間照射し、熱電変換材料分散液20を得た。
【0049】
表1に記載した材料を以下に示す。
<熱電変換材料>
・TUBALL(OcSiAl社製、単層カーボンナノチューブ)
・ZEONANO(ゼオンナノテクノロジー社製、単層カーボンナノチューブ)
<分散剤>
・下記の構造式で示される分散剤A(トリアジン誘導体)
【0050】
【0051】
・ソルスパーズ24000(Lubrizol社製、分散剤)
<半導体>
・ピレン(東京化成工業社製)
・DETX-S(2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン、東京化成工業社製)
・ローズベンガル(東京化成工業社製)
【0052】
<熱電変換材料分散液の評価>
(減衰率の測定および算出方法)
分散液1~21をそれぞれ一部採取し、NMPで不揮発分濃度が0.5質量%となるように希釈して、超音波減衰法粒度分布測定装置(日本ルフト社製、商品名DT-1200)を用いて25℃で減衰率を測定した。3~100MHzの間で下記の設定周波数毎の減衰率を測定した。設定周波数は、3.0MHz、3.7MHz、4.5MHz、5.6MHz、6.8MHz、8.4MHz、10.3MHz、12.7MHz、15.6MHz、19.2MHz、23.5MHz、28.9MHz、35.5MHz、43.7MHz、53.6MHz、81.0MHzおよび99.5MHzとした。測定は脱気した分散液を用いて複数回行い、各測定点で前回測定との誤差が5%以内となれば測定を終了し最終回の測定値を採用した。脱気は、減圧できる装置の中に分散液を入れ、数回減圧-常圧を繰り返した後に数時間静置してから行った。15.6MHz、19.2MHzおよび23.5MHzにおける減衰率に基づいた最小二乗法により求めた一次関数に基づく近似曲線から算出した20MHzにおける減衰率をA(/mm)とした。また、8.4MHz、10.3MHzおよび12.7MHzにおける減衰率に基づいた最小二乗法により求めた二次関数に基づく近似曲線から算出した10MHzにおける減衰率をB(/mm)とした。これら二つの減衰率の比A/Bを算出した。
【0053】
(経時分散安定性の測定方法)
分散液1~21をそれぞれ目視で確認し、下記評価基準に基づいて分散性を評価した。
【0054】
(評価基準)
◎:分散直後に凝集しておらず、48時間後でも沈殿が生じない(極めて良好)
〇:分散直後に凝集しておらず、24時間後でも沈殿が生じない(良好)
△:分散直後は凝集していないが、24時間後に沈殿が生じる(実用範囲内)
×:分散直後でも凝集物が残っており、均一な分散体が得られない(不良)
【0055】
<実施例1~20、および比較例1の塗膜の膜厚>
分散液1~21をアプリケーター20milを用いて、それぞれポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製、ルミラー(登録商標)E20#75、厚み75μm)に塗工し、80℃で4分間、更に120℃で30分間乾燥してそれぞれ塗膜1~21を得た。
得られた塗膜に対し、日本工業規格(JIS)B7503に規定されたダイヤルゲージを用いて塗工部の膜厚(a)と非塗工部の膜厚(b)をそれぞれ測定し、下記計算式より塗膜の膜厚(c)を求めた。
(c)=(a)-(b)
【0056】
<体積導電率の測定方法>
塗膜1~21について、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタGP MCP-T610型抵抗率計、JIS-K7194準拠、4端子4探針法定電流印加方式)(0.5cm間隔の4端子プローブ)を用いて、体積導電率(S/cm)を測定した。
【0057】
<ゼーベック係数の測定方法>
塗膜1~21について、アドバンス理工株式会社製のZEM-3LWを用いて、80℃におけるゼーベック係数(μV/K)を測定した。
【0058】
【0059】