(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/37 20060101AFI20240326BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240326BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
A61K8/37
A61K8/73
A61Q11/00
(21)【出願番号】P 2019215281
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-08-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川延 勇介
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 侑季
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康彦
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 彩佳
【審査官】▲高▼橋 明日香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-222582(JP,A)
【文献】特開2004-018431(JP,A)
【文献】特開2006-342066(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0040563(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シス-3-ヘキセニルアセテート及びフェニルエチルアセテー
トと、
(B)セルロース系高分子物質及びキサンタンガムから選ばれる1種又は2種以上と、
(C)重量平均分子量1,000以上20,000以下のポリアクリル酸塩と
を含有し、(A)及び(B)成分と(C)成分との量比を示す{(A)+(B)}/(C)が、質量比として1~100であることを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】
(A1)成分と(A2)成分との量比を示す(A2)/(A1)が、質量比として0.025~40である請求項
1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
セルロース系高分子物質が、カルボキシメチルセルロースナトリウム(B1)、ヒドロキシエチルセルロース(B2)及びカチオン化セルロース(B3)から選ばれる請求項1
又は2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
(A)成分の含有量が0.0005~0.1質量%、(B)成分の含有量が0.01~2質量%である請求項1~
3のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項5】
(A)成分と(B)成分との量比を示す(B)/(A)が、質量比として10~500である請求項1~
4のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項6】
(C)成分の含有量が0.01~2質量%である請求項1~
5のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項7】
(A)及び(B)成分と(C)成分との量比を示す{(A)+(B)}/(C)が、質量比として2~80である請求項1~
6のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項8】
歯磨剤組成物である請求項1~
7のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内への潤い実感の付与効果に優れる口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内の乾燥は、口臭、う蝕、歯周疾患等、口腔機能の不全を伴う口腔内トラブルの発生原因になり得る。口腔内を潤すことは、口腔内を爽快に保ち、口腔疾患を予防する上で重要であるため、口腔内へ潤い実感を付与させることは非常に重要である。
口腔内を潤す方法としては、人工唾液、口腔保湿・湿潤剤等による口腔内の保湿等が挙げられる。従来技術では、特許文献1(国際公開第2000/056344号)に示されているように、口腔内乾燥に起因する症状改善のための人工唾液の添加剤としてヒアルロン酸を応用し、ヒアルロン酸の保湿効果により、口腔内に潤いを与えることが行われているが、十分な潤い実感が得られているとはいえなかった。
一方、特許文献2~4(特開2006-117563号公報、特開2009-96748号公報、特開2017-1957号公報)には、口腔用組成物にポリグルタミン酸等の唾液分泌促進剤を添加し、口腔内湿潤効果を発現させる技術が提案されているが、潤い実感、特にその持続性については未だ改善の余地があった。
したがって、口腔内に高い潤い実感を付与する新たな技術の開発が望まれた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2000/056344号
【文献】特開2006-117563号公報
【文献】特開2009-96748号公報
【文献】特開2017-1957号公報
【文献】特開2016-222582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、口腔内への潤い実感付与効果に優れ、また、歯面への光沢付与効果を有する口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、特定の香料種とセルロース系高分子物質及び/又はキサンタンガムとを組み合わせて口腔用組成物に配合すると、口腔内粘膜に潤いを与えると共に、経時においても顕著に持続する高い潤い実感を付与することができ、また、歯面の光沢度を高め改善することもできることを見出した。即ち、本発明によれば、(A)シス-3-ヘキセニルアセテート及びフェニルエチルアセテートから選ばれる1種又は2種と、(B)セルロース系高分子物質及びキサンタンガムから選ばれる1種又は2種以上とを含有する口腔用組成物が、口腔内への潤い実感付与効果に優れ、経時でも持続する高い潤い実感を与え、また、歯面への光沢付与効果を有し、歯面に高い光沢度を与えることを見出し、本発明をなすに至った。
【0006】
本発明では、(A)及び(B)成分を組み合わせることによって、上記格別な作用効果を奏し、かかる作用効果は(A)成分の代わりに他の香料成分を使用した場合には得ることができなかった。
後述の実施例に示すように(A)及び(B)成分が配合された口腔用組成物は、優れた潤い実感付与効果を有し、潤い実感及びその持続性が優れ、かつ歯面への光沢付与効果にも優れた。これに対して、後述の比較例に示すように、(A)成分又は(B)成分を欠くと本発明の作用効果が劣り、(B)成分の単独配合では、(A)成分以外の一般的な口腔用香料成分が添加されていても潤い実感及びその持続性が悪く、歯面への光沢付与効果が劣り(比較例2)、(A)成分の単独配合では、(B)潤い実感及びその持続性が悪く、歯面への光沢付与効果が劣った(比較例1)。この場合、更に粘結剤として一般的でもあるポリアクリル酸ナトリウム(Mw:300,000)が添加されていても、潤い実感が劣っていた(比較例3)。
シス-3-ヘキセニルアセテート、フェニルエチルアセテートは口腔用組成物に用いる香料成分として公知であり、特許文献5(特開2016-222582号公報)では水溶性有効成分配合口腔用組成物に配合され、サッパリとした使用感を付与している。これに対して、本発明は、(A)及び(B)成分による歯面への潤い実感付与効果及び光沢付与効果の向上であり、かかる併用系に特異な作用効果は特許文献5から想起し得ない。
【0007】
従って、本発明は、下記の口腔用組成物を提供する。
〔1〕
(A)シス-3-ヘキセニルアセテート及びフェニルエチルアセテートから選ばれる1種又は2種と、
(B)セルロース系高分子物質及びキサンタンガムから選ばれる1種又は2種以上と
を含有することを特徴とする口腔用組成物。
〔2〕
(A)成分が、シス-3-ヘキセニルアセテート(A1)及びフェニルエチルアセテート(A2)である〔1〕に記載の口腔用組成物。
〔3〕
(A1)成分と(A2)成分との量比を示す(A2)/(A1)が、質量比として0.025~40である〔2〕に記載の口腔用組成物。
〔4〕
セルロース系高分子物質が、カルボキシメチルセルロースナトリウム(B1)、ヒドロキシエチルセルロース(B2)及びカチオン化セルロース(B3)から選ばれる〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔5〕
(A)成分の含有量が0.0005~0.1質量%、(B)成分の含有量が0.01~2質量%である〔1〕~〔4〕のいずれかに項記載の口腔用組成物。
〔6〕
(A)成分と(B)成分との量比を示す(B)/(A)が、質量比として10~500である〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔7〕
更に、(C)重量平均分子量1,000以上20,000以下のポリアクリル酸塩を0.01~2質量%含有する〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔8〕
(A)及び(B)成分と(C)成分との量比を示す{(A)+(B)}/(C)が、質量比として1~100である〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔9〕
歯磨剤組成物である〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、口腔内への潤い実感付与効果に優れ、経時でも持続する高い潤い実感を与え、また、歯面への光沢付与効果を有し、歯面に高い光沢度を与える口腔用組成物を提供できる。この口腔用組成物は、口腔内に潤いを与えると共に優れた潤い実感を与え、歯面の光沢度も高まることから、歯の審美性向上効果に加え、口腔内を爽快に保って口臭、う蝕、歯周疾患等の口腔疾患、特に口腔乾燥症の予防又は抑制用として有効である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明につき更に詳述する。本発明の口腔用組成物は、(A)シス-3-ヘキセニルアセテート及びフェニルエチルアセテートから選ばれる1種以上と、(B)セルロース系高分子物質及びキサンタンガムから選ばれる1種以上とを含有する。
【0010】
(A)成分は、シス-3-ヘキセニルアセテート(A1)、フェニルエチルアセテート(A2)である。これらのうちの1種を単独で使用してもよいが、シス-3-ヘキセニルアセテート(A1)及びフェニルエチルアセテート(A2)を併用し、両者の混合物を用いることが、潤い実感の付与及び歯面の光沢付与の点で好ましい。
(A)成分として(A1)及び(A2)成分を併用する場合、両成分の量比を示す(A2)/(A1)は、質量比として0.025~40が好ましく、より好ましくは0.1~10、更に好ましくは0.2~5である。上記範囲内であると、十分な潤い実感及びその持続性を付与でき、また、歯面の光沢付与効果を十分に与えることができる。
(A1)成分のシス-3-ヘキセニルアセテートは、市販品、例えば日本ゼオン(株)製等の製品を使用できる。(A2)成分のフェニルエチルアセテートは、市販品、例えば豊玉香料(株)製等の製品を使用できる。
【0011】
(A)成分の配合量は、組成物全体の0.0005~0.1%(質量%、以下同様)が好ましく、より好ましくは0.002~0.04%、更に好ましくは0.004~0.02%である。配合量が0.0005%以上であると、十分な潤い実感及びその持続性を付与でき、また、歯面の光沢付与効果を十分に与えることができる。
更に、(A)成分として(A1)及び(A2)成分を併用する場合は、上記(A)成分の配合量の範囲内で、かつ(A2)/(A1)の質量比を満たす量で両成分を配合することが好ましい。この場合、(A1)成分の好ましい配合量は、組成物全体の0.0005~0.05%であり、より好ましくは0.001~0.02%、更に好ましくは0.002~0.01%である。(A2)成分の好ましい配合量は、組成物全体の0.0005~0.05%であり、より好ましくは0.001~0.02%、更に好ましくは0.002~0.01%である。
【0012】
(B)成分は、セルロース系高分子物質、キサンタンガムであり、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
セルロース系高分子物質は、口腔用組成物用として公知のセルロース又はその誘導体を用いることができ、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、カチオン化セルロース等が挙げられる。
セルロース系高分子物質としては、中でも、潤い実感付与の点から、カルボキシメチルセルロースナトリウム(B1)、ヒドロキシエチルセルロース(B2)、カチオン化セルロース(B3)が好ましい。
【0013】
セルロース系高分子物質として、(B1)成分のカルボキシメチルセルロースナトリウムは、エーテル化度が好ましくは0.1~2、特に0.2~2であるものを使用できる。
また、カルボキシメチルセルロースナトリウムは、潤い実感付与及び歯面への光沢付与の点から、25℃における1%水溶液の粘度が75mPa・s未満、特に10~74mPa・s、とりわけ20~70mPa・sであるもの、あるいは25℃における1%水溶液の粘度が75mPa・s以上、特に75~1,000mPa・s、とりわけ80~500mPa・sであるものを好ましく使用できる。
上記粘度は、カルボキシメチルセルロースナトリウムの1%水溶液を25℃においてBM型粘度計(ローターNo.2もしくは3、回転数60rpm、測定時間3分)で測定した値である(以下同様)。
このようなカルボキシメチルセルロースナトリウムは、市販品を使用でき、例えば、日本製紙(株)製、サンローズSLD-F1、SLD-FM、(株)ダイセル製、ダイセル1130、ダイセル1330、ダイセル1310、ダイセル1140、ダイセル1250、ダイセル1260等が挙げられる。
【0014】
(B2)成分のヒドロキシエチルセルロースは、潤い実感付与及び歯面への光沢付与の点から、25℃における1%水溶液の粘度が1,000mPa・s以上10,000mPa・s以下のものが好ましく、より好ましくは1,000~9,000mPa・sである。
上記粘度は、ヒドロキシエチルセルロースの1%水溶液を25℃においてBH型ブルックフィールド粘度計(ローターNo.2、20回転、測定時間1分)を用いて測定した値である(以下同様)。
【0015】
(B3)成分のカチオン化セルロースは、例えばカチオン基として塩化ジメチルジアリルアンモニウム、2-ヒドロキシ-3(トリメチルアンモニオ)プロピル基等を、セルロース誘導体に付加したものが挙げられ、例えば、ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド等のヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウム塩、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース等を用いることができ、特に潤い実感付与の点から、ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウム塩が好ましい。
【0016】
カチオン化セルロースは、特に潤い実感付与の点から、21℃における2%水溶液の粘度が30~3,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは35~350mPa・sである。
上記粘度は、カチオン化セルロースの2%水溶液を21℃においてBH型ブルックフィールド粘度計(ローターNo.2、20回転、測定時間1分)を用いて測定した(以下同様)。
カチオン化セルロースは、窒素含有量が0.1~3%のものが好ましく、0.5~2.5%のものがより好ましい。
カチオン化セルロースの重量平均分子量は、特に限定されないが、ポリエチレングリコールを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法による重量平均分子量(以下同様)が250,000~1,500,000であることが、潤い実感付与の点から、好ましい。
このようなカチオン化セルロースとしては、市販品を使用でき、具体的にヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウム塩としては、日本エヌエスシー(株)製のセルコートL-200(21℃での2%水溶液粘度:35~350mPa・s、重量平均分子量:250,000~350,000)等が挙げられる。
【0017】
キサンタンガムは、特に潤い実感付与の点から、通常、歯磨剤組成物に使用されるものであればいずれのものでもよいが、キサンタンガムを1%の塩化カリウム溶液に1%となるように溶解したときの25℃での粘度が600~2,500mPa・s、特に1,000~2,000mPa・sであるものが好適である。なお、上記粘度は、25℃においてBM型粘度計(ローターNo.3、回転数60rpm、測定時間3分)を用いて測定した値である。
(B)成分としては、特に潤い実感付与の点から、カルボキシメチルセルロースナトリウム(B1)、ヒドロキシエチルセルロース(B2)、カチオン化セルロース(B3)、キサンタンガム(B4)を好ましく使用することができる。
【0018】
(B)成分は、セルロース系高分子物質とキサンタンガムを併用してもよく、特に両者を併用する場合、キサンタンガムとしては、セルラーゼ活性を低減させたものを使用することが、効果発現の点で、より好ましい。セルラーゼ活性を低減させたものとは、キサンタンガムの製造時にセルラーゼの混入を抑えるように製造されたものである。上記粘度を満たし、かつセルラーゼ活性を低減させたキサンタンガムの例としては、CPケルコ社製のケルデント等が挙げられる。
【0019】
(B)成分の配合量は、組成物全体の0.01~2%が好ましい。配合量が0.01%以上であると、十分な潤い実感及びその持続性を付与でき、また、歯面の光沢付与効果を十分に与えることができる。2%以下であることが、製剤の味及び香味立ちの確保には好適である。
更に、(B)成分としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(B1)成分を使用する場合、(B1)成分の好ましい配合量は、組成物全体の0.1~2%、特に0.2~2%、とりわけ0.3~2%である。
(B)成分としてヒドロキシエチルセルロース(B2)を使用する場合、(B2)成分の好ましい配合量は、組成物全体の0.1~2%、特に0.2~2%、とりわけ0.3~2%である。
(B)成分としてカチオン化セルロース(B3)を使用する場合、(B3)成分の好ましい配合量は、組成物全体の0.01~2%、特に0.02~2%、とりわけ0.03~1%である。
(B)成分としてキサンタンガム(B4)を使用する場合、(B4)成分の好ましい配合量は、組成物全体の0.1~2%、特に0.2~2%、とりわけ0.3~2.0%である。
【0020】
本発明において、(A)成分と(B)成分との量比(それぞれの総量比)を示す(B)/(A)は、質量比として10~500が好ましく、より好ましくは40~400、更に好ましくは100~350である。上記範囲内であると、潤い実感の付与効果がより優れ、潤い実感及びその持続性、特に潤い実感の持続性がより高まり、また、歯面への光沢付与効果がより向上する。
【0021】
本発明では、更に、(C)重量平均分子量(Mw)1,000以上20,000以下のポリアクリル酸塩を配合することが好ましい。(C)成分を配合すると、(A)及び(B)成分による潤い実感の付与効果及び歯面への光沢付与効果が更に向上し、潤い実感をより持続させ、歯面の光沢度をより高めることができる。この場合、(C)成分は、特に(B)/(A)の質量比が上記特定範囲内で配合することが、歯面の光沢度を高める点で、好ましい。
【0022】
ポリアクリル酸塩の重量平均分子量は1、000以上であり、好ましくは6,000以上であり、また、20,000以下であり、好ましくは10,000以下である。重量平均分子量が1,000以上であると、潤い実感の付与効果が十分に向上し、特に潤い実感の持続性を十分に高めることができ、また、歯面への光沢付与効果が十分に向上し、光沢度を十分に高めることができる。20,000以下であると、上記効果を十分に維持できる。20,000を超えると、歯面への光沢付与効果が低下傾向になる場合がある。
なお、上記重量平均分子量の測定は、GPC(ゲルパーミェーションクロマトグラフィー法)により、特許第5740859号公報に記載された方法及び測定条件で行った(以下同様)。具体的には下記に示す。
重量平均分子量の測定方法;
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ/多角度レーザー光散乱検出器(GPC-MALLS)を用いて測定された値であり、条件は以下の通りである。
移動相:0.3M NaClO4
NaN3水溶液カラム:TSKgelα-M 2本
プレカラム:TSKguardcolumn α
標準物質:ポリエチレングリコール
【0023】
(C)成分のポリアクリル酸塩は、潤い実感付与及び歯面への光沢付与の点から、直鎖状のポリアクリル酸塩が好ましい。塩としては、一価塩が好ましく、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩がより好ましく、更に好ましくはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩であり、ナトリウム塩が特に好ましい。
(C)成分として、このようなポリアクリル酸塩は、ポリサイエンス社や東亞合成(株)から販売されている市販品を使用し得る。具体的に市販品としては、ポリアクリル酸ナトリウム(Mw:1,000);直鎖状、ポリサイエンス社製、ポリアクリル酸ナトリウム(Mw:6,000);直鎖状、東亞合成(株)製、AC-10NP、AC-10NPD、アロンT-50、ポリアクリル酸ナトリウム(Mw:9,000);直鎖状、ポリサイエンス社製、ポリアクリル酸ナトリウム(Mw:20,000);直鎖状、東亞合成(株)製、アロンA-20UN等を使用できる。
なお、(C)成分のポリアクリル酸塩は、通常、歯磨剤に使用される粘結剤の架橋型のポリアクリル酸塩よりも重量平均分子量が低く、粘結剤として公知のポリアクリル酸塩とは異なるものである。(C)成分に代えて、(C)成分以外のポリアクリル酸塩を使用した場合、あるいは塩の形態ではないポリアクリル酸を使用した場合は、潤い実感の付与効果が劣り、特に潤い実感の持続性が悪くなり、本発明の目的は達成されない。
【0024】
(C)成分の配合量は、潤い実感の付与及び歯面への光沢付与の点から、組成物全体の0.01~2%が好ましく、より好ましくは0.01~1%、更に好ましくは0.03~0.5%である。
【0025】
また、(C)成分を配合する場合、潤い実感の付与効果及び歯面への光沢付与効果の向上の点で、(A)及び(B)成分と(C)成分との量比を示す{(A)+(B)}/(C)は、質量比として1~100が好ましく、より好ましくは2~80、更に好ましくは4~70である。
【0026】
本発明の口腔用組成物は、歯磨剤組成物として好適であり、練歯磨、液状歯磨、潤製歯磨等に調製できるが、特に練歯磨が好ましい。また、上記成分に加えて、その他の公知成分を本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて配合できる。例えば、練歯磨等の歯磨剤組成物では、研磨剤、粘稠剤、粘結剤、界面活性剤、更に必要により甘味料、着色剤、防腐剤、香料、有効成分等を配合できる。なお、配合量は本発明の効果を妨げない範囲で通常量でよい。
【0027】
研磨剤は、例えば沈降性シリカ、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系研磨剤、第2リン酸カルシウム・2水和物又は無水和物、第1リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム等のリン酸カルシウム系化合物、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、合成樹脂系研磨剤等が挙げられる。研磨剤の配合量は、通常、組成物全体の2~50%、特に10~30%である。
【0028】
粘稠剤は、例えばソルビット、キシリット、エリスリトール等の糖アルコール、グリセリン、プロピレングリコール、平均分子量160~400(医薬部外品原料規格2006記載の平均分子量)のポリエチレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。これらの配合量は、通常、組成物全体の5~50%、特に20~45%である。
【0029】
粘結剤は、ゲル化性シリカ、ゲル化性アルミニウムシリカ、ビーガム、ベントナイト、ラポナイト等の無機粘結剤が挙げられる。なお、(B)成分以外の有機粘結剤、例えばカラヤガム等のガム類、カラギーナン、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン等は、本発明の効果を妨げない範囲で配合してもよいが、配合しなくてもよい。これら任意の粘結剤の配合量は、組成物全体の0~10%、特に0.1~5%が好ましい。
【0030】
界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を配合できる。
アニオン性界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、アシルサルコシン酸塩、アシルグルタミン酸塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤は、ショ糖脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル等の糖アルコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルや、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤は、アルキルアンモニウム、アルキルベンジルアンモニウム塩等が挙げられ、両性界面活性剤は、アルキルベタイン、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
界面活性剤の配合量は、組成物全体の0.001~10%、特に0.01~5%が好ましい。
【0031】
甘味料は、サッカリンナトリウム、ステビオサイド等が挙げられる。
着色剤としては、青色1号、黄色4号、二酸化チタン等が挙げられる。
防腐剤としては、メチルパラベン、エチルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル、安息香酸又はその塩等が挙げられる。
【0032】
香料は、(A)成分以外のものを添加できる。例えば、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、グレープフルーツ油、スウィーティー油、柚油、アブソリュートペパーミント、オレンジフラワー等の天然香料や、これら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3-l-メントキシプロパン-1,2-ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N-置換-パラメンタン-3-カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、バターフレーバー、ミルクフレーバー等の調合香料といった、口腔用組成物に用いられる公知の香料素材を組み合わせて使用することができるが、実施例記載の香料に限定されるものではない。
また、配合量も特に限定されないが、上記の香料素材は、組成物中に0.000001~1%使用するのが好ましい。また、上記香料素材を使用した賦香用香料は、組成物中に0.1~2%使用するのが好ましい。
【0033】
有効成分は、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム等の殺菌剤、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、アラントイン等の抗炎症剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、リゾチーム等の酵素、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ化物、水溶性銅化合物、塩化ナトリウム、硝酸カリウム、乳酸アルミニウム、ビタミン類や、タイム、オウゴン等の植物抽出物、歯石防止剤、歯垢防止剤が挙げられる。上記有効成分は、本発明の効果を妨げない範囲で有効量配合できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は特に断らない限りいずれも質量%を示す。
【0035】
[実施例、比較例]
表1~6に示す組成の歯磨剤組成物(練歯磨)を下記方法で調製してチューブ容器(アルミニウムラミネートチューブ)に充填し、後述の方法で評価した。結果を表1~6に併記した。
なお、実施例の歯磨剤組成物は、使用後の口腔内に潤いを与える効果に優れていた。
【0036】
<調製方法>
(1)精製水中に(A)成分と、(B)成分以外(更に(C)成分を配合する場合は(B)及び(C)成分以外)のその他の水溶性成分、酸化チタン及び粘度調整剤を常温で混合溶解させた(混合物X)。
(2)プロピレングリコール中に(B)成分、更には(C)成分を常温で分散させ(混合物Y)、撹拌中の混合物X中に、混合物Yを添加混合して、混合物Zを調製した。
(3)混合物Z中に、香料及び研磨剤を、ニーダーを用いて常温で混合し、減圧(5.3kPa)による脱泡を行い、歯磨剤組成物を得た。
なお、比較例の歯磨剤組成物は、上記方法に準じて調製した。
【0037】
<評価方法>
(1)潤い実感及びその持続性の評価方法
歯磨剤組成物1gを歯ブラシにのせ、3分間ブラッシングして口腔内を洗浄した際の口腔内の潤い実感、及びブラッシングして5分間経過後の口腔内の潤い実感(潤い実感の持続性)について、それぞれ対照品(比較例1)と比較して下記の4段階の評点基準で判定した。10名の平均点を求め、各々の評価基準に従って評価し、◎◎、◎、○、△、×で表に示した。◎◎、◎又は○の評価であるものを潤い実感、潤い実感の持続性が高まっており、潤い実感の付与効果が優れると判断した。
比較例1の歯磨剤組成物は、ブラッシングして口腔内を洗浄した際の口腔内の潤い感が弱く、5分間経過後の口腔内の潤い感も弱いものであった。
【0038】
潤い実感
評点基準
4:対照品と比較して顕著に口腔内の潤い感を感じた。
3:対照品と比較してやや口腔内の潤い感を感じた。
2:対照品と比較して口腔内の潤い感に差が認められなかった。
1:対照品と同等であり、口腔内の潤い感が弱かった。
評価基準
◎◎:平均点3.7点以上4.0点以下
◎ :平均点3.5点以上3.7点未満
○ :平均点3.0点以上3.5点未満
△ :平均点2.0点以上3.0点未満
× :平均点1.0点以上2.0点未満
【0039】
潤い実感の持続性
評点基準
4:対照品と比較して顕著に口腔内の潤い感を感じた。
3:対照品と比較してやや口腔内の潤い感を感じた。
2:対照品と比較して口腔内の潤い感に差が認められなかった。
1:対照品と同等であり、口腔内の潤い感が弱かった。
評価基準
◎◎:平均点3.7点以上4.0点以下
◎ :平均点3.5点以上3.7点未満
○ :平均点3.0点以上3.5点未満
△ :平均点2.0点以上3.0点未満
× :平均点1.0点以上2.0点未満
【0040】
(2)歯面への光沢付与効果の評価方法
ヒ卜モデル歯面として、ヒドロキシアパタイト(HA)(ハイドロキシアパタイトペレット、HOYA(株)製、直径φ7mm)を乳酸緩衝液(pH4.5)に90分間浸漬し、日本電色工業(株)製のGloss Meter VG-2000を用いて、HAの初期光沢度(Gss値)を測定した。更に、HAをサンプル溶液(歯磨剤組成物10g+60%グリセリン30g)に入れ、溶液中で3,000回ブラッシングを行い、蒸留水で洗浄後、乾燥させた。その後、HAの光沢度(歯磨剤組成物で処置後の光沢度、Gsa値)を測定し、光沢付与値(AGs値)を下記式により算出した。算出した値から、下記の評価基準で評価し、◎◎、◎、○、△、×で表に示した。◎◎、◎又は〇の評価であるものを、歯面への光沢付与効果が優れると判断した。
光沢付与値(AGs)=
歯磨剤組成物で処置後の光沢度(Gsa)-初期光沢度(Gss)
光沢付与効果の評価基準
◎◎:光沢付与値が15以上
◎ :光沢付与値が12以上15未満
○ :光沢付与値が10以上12未満
△ :光沢付与値が 5以上10未満
× :光沢付与値が 5未満
【0041】
使用した(B)成分、(C)成分の詳細を下記に示す。
なお、後述の(B)成分の粘度は、それぞれ上記と同様にしてBM型粘度計又はBH型ブルックフィールド粘度計を用いて同条件で測定した。(C)成分について、表中のMwの後の数値は重量平均分子量であり、重量平均分子量は、上記と同様にポリエチレングリコールを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した。
(B)成分
カルボキシメチルセルロースナトリウム(B1-1)
エーテル化度:0.2~2、
25℃での1%水溶液の粘度:10~74mPa・s
カルボキシメチルセルロースナトリウム(B1-2)
エーテル化度:0.2~2、
25℃での1%水溶液の粘度:75~1,000mPa・s
ヒドロキシエチルセルロース(B2)
25℃での1%水溶液の粘度:1,000~9,000mPa・s
ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド(B3)
21℃での2%水溶液の粘度:35~350mPa・s、
重量平均分子量:250,000~350,000、
日本エヌエスシー(株)製、商品名;セルコートL-200
キサンタンガム(B4)
CPケルコ社製、商品名;ケルデント
(C)成分
ポリアクリル酸ナトリウム(C1)(Mw:1,000)
直鎖状、ポリサイエンス社製
ポリアクリル酸ナトリウム(C2)(Mw:6,000)
直鎖状、東亞合成(株)製、商品名;AC-10NP
ポリアクリル酸ナトリウム(C3)(Mw:9,000)
直鎖状、ポリサイエンス社製
ポリアクリル酸ナトリウム(C4)(Mw:20,000)
直鎖状、東亞合成(株)製、商品名;アロンA-20UN
【0042】
【表1】
*;香料の組成は下記の通りである(以下同様)。
アネトール 10
メントール 55
エタノール 35
合計 100%
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】