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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】眼科測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/103 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
A61B3/103
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019216887
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021083940
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】滝井 通浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊洋
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 直己
(72)【発明者】
【氏名】清水 一成
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-213125(JP,A)
【文献】特開2012-075647(JP,A)
【文献】特開2003-111727(JP,A)
【文献】特開2017-213124(JP,A)
【文献】特開2018-000290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の眼屈折力を測定する眼科測定装置であって、
前記被検眼に測定光を投光し、前記被検眼で反射した前記測定光を受光することによって、前記眼屈折力に応じたパターン像を取得する測定光学系と、
前記測定光が通過する瞳領域のうち、特定された部分瞳領域に対応する前記パターン像に基づいて前記眼屈折力を算出する演算手段と、を備え、
前記演算手段は、撮影光学系によって取得された被検眼の前眼部画像に基づいて、被検眼に挿入された眼内レンズにおける屈折度数が異なる領域を部分瞳領域として特定することを特徴とする眼科測定装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記部分瞳領域に応じて分割された前記パターン像に基づいて前記眼屈折力を算出することを特徴とする請求項1の眼科測定装置。
【請求項3】
前記演算手段は、複数の前記部分瞳領域にそれぞれ対応する複数の前記眼屈折力を算出可能であることを特徴とする請求項1または2の眼科測定装置。
【請求項4】
前記パターン像は、リング像であることを特徴とする請求項1~3のいずれかの眼科測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検眼の眼屈折力を測定する眼科測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の眼屈折力を他覚的に測定する眼科測定装置としては、例えば、被検眼の眼底に測定光束を投影し、眼底からの反射光束を受光素子で受光し、受光素子の出力に基づいて、被検眼の眼屈折力を測定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-294999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の装置において、例えば、被検眼の瞳孔面において眼屈折力が部分的に変化している場合(例えば、多焦点眼内レンズが挿入されている場合、または角膜が局所的に変形している場合など)、正常な測定値が得られない場合があった。
【0005】
本開示は、従来の問題点に鑑み、被検眼の部分的な眼屈折力を容易に取得できる眼科測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0007】
(1) 被検眼の眼屈折力を測定する眼科測定装置であって、前記被検眼に測定光を投光し、前記被検眼で反射した前記測定光を受光することによって、前記眼屈折力に応じたパターン像を取得する測定光学系と、前記測定光が通過する瞳領域のうち、特定された部分瞳領域に対応する前記パターン像に基づいて前記眼屈折力を算出する演算手段と、を備え、前記演算手段は、撮影光学系によって取得された被検眼の前眼部画像に基づいて、被検眼に挿入された眼内レンズにおける屈折度数が異なる領域を部分瞳領域として特定することを特徴とする眼科測定装置。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、被検眼の部分的な眼屈折力を容易に取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】眼科測定装置の外観構成図である。
図2】光学系及び制御系の概略構成図である。
図3】制御動作を示すフローチャートである。
図4】多焦点眼内レンズの例である。
図5】徹照像の一例である。
図6】徹照像において特定された部分瞳領域の一例である。
図7】撮像素子が受光した測定画像の一例である。
図8】前眼部画像において部分瞳領域を設定するときの例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
本開示に係る実施形態について説明する。本実施形態の眼科測定装置(例えば、眼科測定装置1)は、被検眼の眼屈折力を測定する。眼屈折力は、例えば、球面情報(例えば、球面度数、等)や乱視情報(例えば、柱面度数、乱視軸角度、等)であってもよい。なお、本実施例における眼屈折力は、被検眼の少なくとも乱視情報を含む眼屈折力であってもよい。
【0011】
眼科測定装置は、例えば、測定光学系(例えば、測定光学系200)と、演算部(例えば、制御部70)と、を備える。測定光学系は、被検眼に測定光を投光し、被検眼で反射した測定光を受光することによって、眼屈折力に応じて変化するパターン像を取得する。パターン像は、例えば、被検眼の眼屈折力に応じて変化する。例えば、パターン像は眼屈折力に応じてサイズまたは形状等が変化する。パターン像は、例えば、リング像であってもよい。リング像は、例えば、測定光がリング(円環)状に集光した状態で測定光学系の受光素子によって受光された像である。リング像は、例えば、瞳領域の周方向に関する変化を検出し易い。また、パターン像は複数の点像(例えば、ハルトマン像)であってもよい。
【0012】
演算部は、測定光が通過する瞳領域のうち、特定された部分瞳領域に対応する眼屈折力を算出する。例えば、演算部は、特定された部分瞳領域に対応するパターン像に基づいて眼屈折力を算出する。部分瞳領域は、部分的な瞳領域である。部分瞳領域は、瞳領域に含まれる1つのまとまった領域であってもよいし、複数に分かれた領域であってもよい。瞳領域は、被検眼の瞳孔部分の領域である。瞳領域は、被検眼の瞳孔と略共役な領域であってもよい。本実施形態の眼科測定装置は、上記の構成を備えることによって、部分瞳領域に対応する眼屈折力を容易に取得できる。
【0013】
なお、演算部は、例えば、部分瞳領域に応じて分割されたパターン像に基づいて眼屈折力を算出してもよい。例えば、演算部は、瞳領域全体におけるパターン像から分割された一部のパターン像に基づいて眼屈折力を算出する。これによって、演算部は、部分瞳領域における眼屈折力を精度よく算出できる。
【0014】
なお、演算部は、複数の部分瞳領域にそれぞれ対応する複数の眼屈折力を算出してもよい。例えば、演算部は、複数の部分瞳領域にそれぞれ対応するパターン像に基づいて眼屈折力を算出する。これによって、複数の部分瞳領域にそれぞれ対応する複数の眼屈折力を取得できる。
【0015】
なお、本装置は、撮影光学系(例えば、観察光学系500)を備えてもよい。撮影光学系は、例えば、被検眼の前眼部を撮影することで前眼部画像(例えば、前眼部観察画像)を取得する。この場合、演算部は、前眼部画像に基づいて部分瞳領域を特定してもよい。例えば、演算部は、前眼部画像を解析することによって、部分瞳領域を特定してもよい。これによって、演算部は被検眼毎に適正な部分瞳領域を特定することができる。
【0016】
なお、前眼部画像は、徹照像であってもよい。徹照像は、例えば眼底反射光によって瞳孔内を照明することによって撮影された瞳孔内画像である。演算部は、徹照像に基づいて部分瞳領域を特定してもよい。演算部は、徹照像を用いることによって、例えば、眼内レンズの状態などを検出することができる。例えば、演算部は、多焦点眼内レンズの遠用部、中間部または近用部などの領域を検出することができる。
【0017】
なお、演算部は、パターン像に基づいて部分瞳領域を特定してもよい。例えば、演算部は、パターン像の形状または分布密度の局所的な変化に基づいて部分瞳領域を特定してもよい。これによって、部分瞳領域の特定と眼屈折力の算出の両方をパターン像に基づいて効率的に処理できる。
【0018】
なお、演算部は、被検眼に挿入された眼内レンズの情報に基づいて部分瞳領域を特定してもよい。例えば、多焦点眼内レンズの屈折力分布情報、遠用部、中間部または近用部の位置情報などに基づいて部分瞳領域を特定してもよい。これによって、被検眼に挿入された眼内レンズに適した部分瞳領域を容易に特定することができる。
【0019】
なお、本装置は入力受付部(例えば、制御部70)を備えてもよい。例えば、入力受付部は検者からの操作入力を受け付ける。この場合、演算部は、入力受付部によって受け付けた操作入力に基づいて部分瞳領域を特定してもよい。これによって、検者が任意に指定した部分瞳領域における眼屈折力を取得することができる。
【0020】
<実施例>
以下、眼科測定装置について説明する。本実施例では、眼科測定装置の左右方向をX方向、上下方向をY方向、前後方向をZ方向として表す。
【0021】
図1は眼科測定装置1の外観構成図である。例えば、眼科測定装置1は、基台2、顔支持ユニット3、駆動部4、表示部75、操作部76、測定部100等が設けられている。顔支持ユニット3は、基台2に固定され、被検者の顔を支持する。駆動部4は、測定部100を基台2に対してXYZ方向に駆動させる。表示部75は、各種の情報(例えば、被検眼Eの観察像、被検眼Eの測定結果、等)を表示する。操作部76は、各種の設定を行う。本実施例では、タッチパネル付きの表示部75が操作部76を兼用する。測定部100は、後述する光学系を収納する。
【0022】
図2は眼科測定装置1の光学系及び制御系の概略構成図である。例えば、測定部100は、測定光学系200、固視標呈示光学系300、指標投影光学系400、観察光学系500、等を備える。測定光学系200は、被検眼Eの眼屈折力(例えば、球面度数、柱面度数、乱視軸角度、等)を他覚的に測定する。固視標呈示光学系300は、被検眼Eに対して固視標を呈示する。指標投影光学系400は、被検眼EのZ方向を検出するためのアライメント指標を投影する。観察光学系500は、被検眼Eの前眼部を撮像する。
【0023】
<測定光学系>
例えば、測定光学系200は、投光光学系210と、受光光学系220と、を備える。投光光学系210は、被検眼Eにおける瞳孔Pの中心部を介して、被検眼Eの眼底Efにスポット状の測定光束を投影する。受光光学系220は、眼底Efにより反射された測定光束の反射光束を、瞳孔Pの周辺部を介してリング状に取り出す。
【0024】
例えば、投光光学系210は、光源211、リレーレンズ212、ホールミラー213、プリズム214、駆動部215、対物レンズ216、等を備える。光源211は、測定光学系200の光軸N1上に配置され、眼底Efと光学的に共役な位置関係となっている。例えば、光源211としては、LED(Light Emitting Diode)、SLD(Superluminescent Diode)、等を用いることができる。ホールミラー213の開口部は、瞳孔Pと光学的に共役な位置関係となっている。プリズム214は瞳孔Pと共役な位置から外れた位置に配置され、プリズム214を通過する光束を光軸N1に対して偏心させる。なお、プリズム214に代えて、光軸N1上に平行平面板を斜めに配置してもよい。駆動部215は、光軸N1を中心として、プリズム214を回転駆動させる。
【0025】
測定光源211は、瞳孔を介して眼底Efにスポット状の測定指標を投影するために利用される。光源211は、被検者に眩しさを感じさせにくい赤外域の光を発することが望ましい。但し、必ずしもこれに限られるものではない。また、本実施例において、光源211は、被検眼Eの徹照像を撮影するための照明光源としても用いられる。即ち、光源211から出射された光束(照明光)の眼底反射光によって、被検眼Eの瞳孔内が照明される。
【0026】
例えば、受光光学系220は、対物レンズ216、プリズム214、ホールミラー213、リレーレンズ221、全反射ミラー222、受光絞り223、コリメータレンズ224、リングレンズ225、撮像素子226、等を備える。対物レンズ216、プリズム214、及びホールミラー213は、投光光学系210と共用される。リレーレンズ221及び全反射ミラー222は、ホールミラー213の反射方向に配置される。受光絞り223、コリメータレンズ224、リングレンズ225、及び撮像素子226は、全反射ミラー222の反射方向に配置される。受光絞り223は、眼底Efと光学的に共役な位置関係となっている。リングレンズ225は、瞳孔Pと光学的に共役な位置関係となっている。例えば、リングレンズ225は、円筒レンズがリング状に形成されたレンズ部と、レンズ部以外に遮光用のコーティングが施された遮光部と、から構成される。撮像素子226は、眼底Efと光学的に共役な位置関係となっている。例えば、撮像素子226としては、CCD(Charged-Coupled Devices)、CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)、等を用いることができる。例えば、撮像素子226からの出力信号は、制御部70に入力される。
【0027】
なお、被検眼Eと対物レンズ216との間には、ビームスプリッタ230が配置されている。ビームスプリッタ230は、固視標呈示光学系300からの測定光束を被検眼Eへと導き、被検眼Eの前眼部からの反射光束を観察光学系500へと導く。
【0028】
上記の構成において、光源211から出射された測定光束は、リレーレンズ212、ホールミラー213、プリズム214、対物レンズ216、及びビームスプリッタ230を経て、眼底Ef上にスポット状の測定光束を投影する。これによって、眼底Ef上に点光源像が形成される。このとき、プリズム214が光軸N1周りに回転され、ホールミラー213の開口部の瞳投影像(瞳上での投影光束)は高速に偏心回転される。眼底Efにて測定光束が反射された反射光束は、ビームスプリッタ230、対物レンズ216、及びプリズム214を介して、ホールミラー213に反射される。反射光束は、さらに、リレーレンズ221を介して全反射ミラー222に反射され、受光絞り223の位置に集光する。コリメータレンズ224及びリングレンズ225によって、リング状の像が撮像素子226に結像する。
【0029】
なお、測定光学系200は上記の構成に限らず、被検眼Eの眼底Efに測定光束を投影する投光光学系と、眼底Efにより反射された測定光束の反射光束を受光する受光光学系と、を有する測定光学系であればよい。例えば、測定光学系200は、眼底Efにスポット指標を投影し、シャックハルトマンセンサを用いて、眼底Efにおけるスポット指標の反射光束を検出する測定光学系であってもよい。
【0030】
<固視標呈示光学系>
例えば、固視標呈示光学系300は、光源301、固視標板302、投光レンズ303、駆動部304、ハーフミラー305、対物レンズ306、駆動部307、等を備える。光源301は、ビームスプリッタ230により光軸N1と同軸にされた光軸N2上に配置される。固視標板302は、被検眼Eの他覚眼屈折力を測定する際に用いる。駆動部307は、固視標板302の位置を光軸N2方向へ移動させることによって、被検眼Eに呈示する固視標の呈示位置を移動させることができる。また、駆動部307は、光源301及び固視標板302を光軸N2方向へ移動させることで、被検眼Eに雲霧をかけることができる。例えば、駆動部307としては、アクチュエータ(例えば、ステッピングモータ等)と、基準位置となるフォトインタラプタと、が併用されてもよい。
【0031】
<指標投影光学系>
指標投影光学系400は、第1指標投影光学系と、第2指標投影光学系と、を備える。第1指標投影光学系は、被検眼Eの角膜に無限遠のアライメント指標を投影する。第2指標投影光学系は、被検眼Eの角膜に有限遠のアライメント指標を投影する。
【0032】
例えば、第1指標投影光学系は、点光源401a及び401b、コリメータレンズ402a及び402b、等を有する。なお、便宜上、図2では第1指標投影光学系の一部のみを図示している。点光源401a及び401bは、近赤外光を発する光源であってもよい。コリメータレンズ402a及び402bは、点光源から発せられた光束を平行光束(略平行光束)にする。これらの点光源及びコリメータレンズは、光軸N1を中心とした同心円上に45度間隔で複数個が配置され、光軸N1を通る垂直平面を挟んで左右対称となっている。これによって、被検眼Eの角膜に無限遠のアライメント指標が投影される。
【0033】
例えば、第2指標投影光学系は、点光源403a及び403bを有する。なお、便宜上、図2では第2指標投影光学系の一部のみを図示している。点光源403a及び403bは、近赤外光を発する光源であってもよい。例えば、これらの点光源は、第1指標投影光学系が有する点光源とは異なる位置に配置される。これによって、被検眼Eに有限遠のアライメント指標が投影される。
【0034】
なお、本実施例においては、第1指標投影光学系及び第2指標投影光学系の光源として点状の光源を用いる構成を例に挙げて説明したがこれに限定されない。例えば、光源はリング状の光源やライン状の光源を用いるようにしてもよい。また、第2指標投影光学系は、被検眼Eの前眼部を照明する前眼部照明、被検眼Eの角膜形状を測定する指標、等としても用いることができる。
【0035】
<観察光学系>
例えば、観察光学系500は、対物レンズ306、ハーフミラー305、撮像レンズ501、撮像素子502、等を備える。対物レンズ306及びハーフミラー305は、固視標呈示光学系300と共用される。撮像レンズ501及び撮像素子502は、ハーフミラー305の反射方向に配置される。撮像素子502は、被検眼Eの前眼部と光学的に共役な位置関係となっている。この撮像素子502によって、被検眼Eの前眼部の正面画像が撮像される。前眼部画像の一種である徹照像も、撮像素子502によって撮像される。例えば、撮像素子502からの出力は、制御部70及び表示部75に入力される。なお、観察光学系500は、指標投影光学系400によって被検眼Eの角膜に形成されたアライメント指標像を検出する光学系を兼ね、制御部70によってアライメント指標像の位置を検出する。
【0036】
<制御部>
例えば、制御部70は、CPU(プロセッサ)、RAM、ROM、等を備える。CPUは、眼科測定装置1における各部の駆動を制御する。RAMは、各種の情報を一時的に記憶する。ROMには、CPUが実行する各種プログラム等が記憶されている。なお、制御部70は、複数の制御部(つまり、複数のプロセッサ)によって構成されてもよい。
【0037】
制御部70には、駆動部4、表示部75(操作部76)、不揮発性メモリ74(以下、メモリ74)、等が電気的に接続される。また、制御部70には、測定部100が備える各光源、各撮像素子、各駆動部、等が電気的に接続される。
【0038】
メモリ74は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。例えば、メモリ74としては、ハードディスクドライブ、フラッシュROM、着脱可能なUSBメモリ、等を用いることができる。メモリ74には、後述する被検眼Eの第1眼屈折力、被検眼Eの第2眼屈折力、演算された眼屈折力の差分、等を記憶してもよい。
【0039】
<制御動作>
続いて、被検眼Eの眼屈折力を測定するときの眼科測定装置1の制御動作を図3に基づいて説明する。なお、以下の説明において、被検眼Eには図4に示すような多焦点眼内レンズ(IOL)が挿入されているものとする。図4の多焦点眼内レンズは、異なる2つの単焦点機構(例えば、遠用部W1と近用部W2)を備える分節型の眼内レンズである。被検者は、多焦点眼内レンズの遠用部W1と近用部W2を介することで、遠方と近方の両方で焦点を合わせることができる。
【0040】
<S1:アライメント>
まず、制御部70は、指標投影光学系400が備える点光源を点灯させる。これによって、被検眼Eの角膜にアライメント指標像が投影される。検者は被検者に、顔支持ユニット3に顔を固定し、固視標板302に形成された固視標を観察するよう指示する。被検眼Eの前眼部には、無限遠と有限遠のアライメント指標像が投影される。被検眼Eの前眼部は、観察光学系500が備える撮像素子502により検出され、前眼部画像が表示部75に表示される。制御部70は、前眼部画像から検出されたアライメント指標の位置関係に基づいて、被検眼Eに対する測定部100のアライメントのずれ量を検出する。制御部70は、検出したずれ量に基づいて駆動部4を制御し、測定部100を3次元的に駆動させて被検眼Eに対するアライメントを行う。もちろん、検者が操作部76を操作して、被検眼Eと測定部100との位置合わせを手動で行ってもよい。
【0041】
<S2:徹照像撮影>
アライメントが完了すると、制御部70は、被検眼Eの徹照像を撮影する。徹照像を撮影する場合、制御部70は、徹照像撮影用の光源として機能する光源211を、徹照像が撮影できる光量レベルまで発光させる。光源211からの光束は、眼底に投光される。そして、眼底反射光は、被検眼Eの水晶体内を照明した後に、瞳孔から出射される。瞳孔から出射された眼底反射光は、ビームスプリッタ230,ハーフミラー305によって反射され、撮像素子502に受光される。制御部70は、撮像素子502の受光信号に基づいて図5に示すような徹照像Gを取得する。
【0042】
<S3:部分瞳領域特定>
制御部70は、徹照像Gに基づいて部分瞳領域を特定する。部分瞳領域は、例えば、測定光が通過する瞳領域の一部分である。本実施例において、制御部70は、多焦点眼内レンズの遠用部W1に対応する第1部分瞳領域K1と、近用部W2に対応する第2部分瞳領域K2を特定する(図6参照)。もちろん、制御部70は第1部分瞳領域K1と第2部分瞳領域K2のいずれか一方のみを特定するだけでもよい。図4のような多焦点眼内レンズが挿入されている場合、徹照像Gにおいて遠用部W1と近用部W2との境界部分に輝度変化が生じる(図5参照)。したがって制御部70は、この輝度変化を画像処理によって検出し、その検出位置に基づいて第1部分瞳領域K1と第2部分瞳領域K2を特定する。
【0043】
なお、被検眼Eに挿入された眼内レンズの情報が予め取得されている場合、制御部70は、その情報を利用して部分瞳領域を特定してもよい。例えば、制御部70は、予め取得された眼内レンズの遠用部W1または近用部W2などの位置情報に基づいて部分瞳領域を特定してもよい。これによって、眼内レンズに適した部分瞳領域を容易に特定することができる。
【0044】
なお、検者は、操作部76を操作することによって部分瞳領域を指定(選択)してもよい。例えば検者は、徹照像Gまたは図7に示すような前眼部画像Uなどを確認しながら操作部76を操作することで部分瞳領域Kを指定する。制御部70は操作部76から操作入力を受け付け、受け付けた操作入力に基づいて部分瞳領域を特定する。このように、検者は、操作部76によって部分瞳領域を指定することで、任意の部分瞳領域における眼屈折力を取得することができる。なお、制御部70は、検者によって指定された領域を部分瞳領域として特定してもよいし、検者によって指定されなかった部分を部分瞳領域として特定してもよい。
【0045】
なお、制御部70は、部分瞳領域を特定した場合、表示部75に表示された徹照像Gに、部分瞳領域の位置を重畳して表示させてもよい(図6参照)。これによって、検者は、徹照像Gにおける部分瞳領域の位置を容易に把握することができる。もちろん、制御部70は、表示部75に表示された観察用の前眼部画像Uに部分瞳領域Kの位置を重畳して表示させてもよい(図7参照)。
【0046】
<S4:測定画像取得>
次いで、制御部70は被検眼Eの眼屈折力を測定するための測定画像を取得する。例えば、制御部70は、光源211によって被検眼Eに測定光を照射する。測定光は眼底Efに到達し、眼底Efで反射された後にリングレンズ225を介して撮像素子226に到達する。これによって、撮像素子226は、図8(a)に示すようなパターン像(リング像R)を測定画像として取得する。取得されたリング像Rは、メモリ74に記憶される。リング像Rは、被検眼Eの眼屈折力に応じてサイズまたは形状等が変化する。例えば、被検眼Eが遠視の場合は球面度数に応じて拡大されたリング像Rが取得され、被検眼Eが近視の場合は球面度数に応じて縮小されたリング像Rが取得される。また、被検眼Eが乱視の場合、柱面度数に応じて楕円形状となり、乱視軸角度に応じて傾斜したリング像Rが取得される。なお、多焦点眼内レンズが挿入されている場合、または被検眼の角膜が局所的に変形している場合、図8(a)に示すようにリング像Rも部分的にサイズまたは形状等が変化する。
【0047】
<S5:眼屈折力算出>
制御部70は、特定された部分瞳領域に対応する眼屈折力を算出する。例えば、制御部70は、部分瞳領域に対応するリング像Rのサイズまたは形状等に基づいて眼屈折力を算出する。例えば、徹照像Gとリング像Rの位置は対応付けられており、制御部70は、徹照像G上において特定された部分瞳領域K1,K2の位置に応じてリング像Rを分割する。例えば、制御部70は、図8(b)に示すように第1部分瞳領域K1に対応するリング像R1をリング像Rから切り出し、図8(c)に示すように第2部分瞳領域K2に対応するリング像R2をリング像Rから切り出す。そして、制御部70は、各部分瞳領域K1,K2に応じて切り出したリング像R1,R2のそれぞれに基づいて眼屈折力を求める。例えば制御部70は、リング像R1によって第1部分瞳領域K1における第1眼屈折力を算出し、リング像R2によって第2部分瞳領域K2における第2眼屈折力を算出する。
【0048】
例えば、制御部70は、細線化によって各経線方向におけるリング像R1,R2の位置をそれぞれ特定する。例えば、リング像R1,R2の位置は、輝度信号のピーク値や重心位置等を求めることにより特定してもよい。制御部70は、特定したリング像R1,R2の位置に基づいて、最小二乗法等により楕円フィッティングを行い、近似された楕円の形状から各経線方向の眼屈折力を求める。制御部70は、第1眼屈折力および第2眼屈折力を求めると、メモリ74に記憶させる。
【0049】
なお、リング像R1,R2のように一部が欠けていると、楕円フィッティングの精度が低下する場合がある。そこで、制御部70は、一旦、正円フィッティングすることでリング像の中心を求め、得られた中心座標を利用することで楕円フィッティングの精度を高めてもよい。また、制御部70は、リング像の欠けている部分を、欠けていない部分のデータを用いて補間した状態でフィッティングを行ってもよい。これによって、より精度よく眼屈折力を算出できる。
【0050】
<S6:結果出力>
被検眼Eの第1眼屈折力及び第2眼屈折力を算出すると、制御部70はメモリ74からそれぞれの測定結果を呼び出し、これらを出力する。例えば、制御部70は、第1眼屈折力及び第2眼屈折力を表示部75に表示させる。もちろん、制御部70は、外部メモリ(例えば、USBメモリ等)への保存、別装置への送信、プリンタ等を用いた印刷、等によって出力してもよい。
【0051】
なお、制御部70は、第1眼屈折力と第2眼屈折力を比較可能に出力してもよい。例えば、制御部70は、第1眼屈折力と第2眼屈折力を表示部75に表示してもよい。例えば、制御部70は、第1眼屈折力及び第2眼屈折力として、被検眼Eの球面情報(例えば、球面度数S)と、被検眼Eの乱視情報(すなわち、柱面度数C及び乱視軸角度A)と、を比較可能に表示される。なお、制御部70は、第1眼屈折力と第2眼屈折力との差分を演算子、表示部75に表示してもよい。これによって、検者は測定結果の妥当性を判断できる。また、制御部70は、例えば、部分瞳領域に応じて分離されたリング像R1,R2を表示部75に並べて同時に表示させてもよいし、それぞれ別々に表示させてもよい。これによって、リング像R1,R2の確認が容易となる。
【0052】
以上のように、本実施例の眼科測定装置1は、所望の部分瞳領域に対応する眼屈折力を簡単に取得できる。例えば、被検眼Eに多焦点眼内レンズが挿入されている場合であっても、眼内レンズに設けられた領域ごとに眼屈折力を算出できる。
【0053】
<変容例>
なお、制御部70は、パターン像に基づいて部分瞳領域を特定してもよい。例えば制御部70は、リング像Rの局所的な変化を検出し、その検出結果に基づいて部分瞳領域を特定する。例えば、分節型の眼内レンズを挿入している場合、図8(a)のようにリング像Rの大きさが一部の領域で変化する。制御部70は、画像処理によってリング像Rの大きさが異なる境界部分を検出し、これに基づいて部分瞳領域を特定してもよい。なお、制御部70は、特定した部分瞳領域(例えば、部分瞳領域K1,K2)に対応するリング像(例えば、リング像R1,R2)の大きさに基づいて、部分瞳領域が多焦点眼内レンズの遠用部と近用部のどちらに相当するかを自動で判別してもよい。また、制御部70は、特定された部分瞳領域に基づいて眼屈折力を算出してもよい。これによって、部分瞳領域の特定と眼屈折力の算出の両方をパターン像に基づいて行うことができ、処理が効率的である。例えば、制御部は、部分瞳領域とパターン像の対応付けなどを行う必要がなくなり、処理が簡略化される。
【0054】
なお、以上の実施例において、第1眼屈折力と第2眼屈折力を比較表示したり、差分を算出したりしていたが、制御部70は、部分瞳領域の屈折力と、瞳領域全体の眼屈折力とを比較表示してもよいし、これらの差分を算出して表示部75に表示させるようにしてもよい。これによって、検者は、瞳領域全体における眼屈折力と、部分瞳領域に対応する眼屈折力の違いを容易に確認することができる。また、制御部70は、瞳領域全体におけるリング像Rと、部分瞳領域に対応するリング像R1,R2を表示部75に同時に表示させてもよいし、別々に表示させてもよい。これによって、検者は、瞳領域全体のリング像Rと、部分瞳領域に対応するリング像R1,R2との両方を容易に確認することができる。
【0055】
なお、各部分瞳領域において眼屈折力を測定する場合、制御部70は駆動部307を駆動させて固視標の呈示距離を変更してもよい。例えば、制御部70は、第1部分瞳領域K1に対応する第1眼屈折力を測定する場合、固視標の呈示位置を所定の遠方位置(例えば、光学的に5mとなる位置)に設定し、第2部分瞳領域K2に対応する第2眼屈折力を測定する場合、固視標の呈示距離を所定の近方位置(例えば、光学的に30cmとなる位置)に設定してもよい。これによって、部分瞳領域に対応する多焦点眼内レンズの遠用部W1と近用部W2のそれぞれに適した呈示位置で眼屈折力を測定することができる。
【0056】
なお、以上の実施例のステップS4において、本測定を行う前に、予備測定を行ってもよい。この場合、制御部70は、予備測定の結果に基づいて、光源301及び固視標板302を光軸N2方向に移動させてもよい。例えば、制御部70は、少なくとも第1屈折力および第2屈折力のいずれかでピントの合う位置に固視標の呈示位置を移動させてもよい。これによって、本測定における被検者の固視を安定させることができる。
【0057】
なお、以上の実施例では、多焦点眼内レンズの遠用部W1と近用部W2に対応する部分瞳領域において遠方視力と近方視力を算出したが、中間視力を算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
70 制御部
74 メモリ
75 表示部
76 操作部
100 測定部
200 測定光学系
300 固視標呈示光学系
400 指標投影光学系
500 観察光学系
図1
図2
図3
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図6
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図8