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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ムチン変性抑制剤及び眼科用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/133 20060101AFI20240326BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 31/194 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 33/22 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240326BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240326BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240326BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240326BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
A61K31/133
A61K31/137
A61K31/194
A61K31/198
A61K33/22
A61K47/18
A61K47/34
A61P27/02
A61P27/04
A61P43/00 121
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019236023
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104942
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 草太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】椛嶋 恭平
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-312628(JP,A)
【文献】特開昭63-033327(JP,A)
【文献】特表2008-521812(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230834(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記、(A)及び/又は(B)を含有し、(C)第4級アンモニウム塩及び塩酸ポリヘキサニドから選ばれる1種以上によるムチン変性を抑制する、ムチン変性抑制剤。
(A)フェニレフリン及びその塩から選ばれる1種以上
(B)エデト酸、クエン酸、トロメタモール及びこれらの塩、ならびにホウ砂から選ばれる1種以上
【請求項2】
(A)フェニレフリン及びその塩から選ばれる1種以上、
(B)エデト酸、クエン酸、トロメタモール及びこれらの塩、ならびにホウ砂から選ばれる1種以上、及び
(C)第4級アンモニウム塩及び塩酸ポリヘキサニドから選ばれる1種以上
を含有し、
((A)+(B))/(C)で表される、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分との配合質量比が20~2,000である眼科用組成物(但し、アシタザノラストもしくはその塩、アゼラスチン、又はその薬学的に許容される塩もしくはエステルを含有するものを除く。)
【請求項3】
(B)成分の配合量が、0.005~1w/v%である請求項記載の眼科用組成物。
【請求項4】
前記第4級アンモニウム塩が、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム及び塩化セチルピリジニウムから選ばれる1種以上である、請求項2又は3記載の眼科用組成物。
【請求項5】
フェニレフリン塩酸塩0.1w/v%又は0.003w/v%
ホウ酸1.4w/v%、
トロメタモール0.1w/v%、
塩化ナトリウム0.2w/v%、
エデト酸ナトリウム0.1w/v%、
水酸化ナトリウム、
希塩酸、及び
精製水
を含有するものを除く、請求項2~4のいずれか1項記載の眼科用組成物。
【請求項6】
(B)成分が、エデト酸、トロメタモール及びこれらの塩、ならびにホウ砂から選ばれる1種以上である、請求項2~5のいずれか1項記載の眼科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムチン変性抑制剤及びフェニレフリンを含有する眼科用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
涙液は外側から油層(約0.1μm)、水層(約7μm)、ムチン層(約0.4μm)の三層構造を形成している。油層はさらに外側が非極性脂質(コレステロールエステルやワックスエステル等)、内側が極性脂質(リン脂質や(O-acyl)-omega-hydroxy fatty acid-(OAHFA)等)で構成されている。構成割合が多い非極性脂質を、極性脂質が水層との親和性をとりもつとされている。油層は、(1)涙液の表面張力の低下、(2)涙液の蒸発防止等、涙液の構成割合として微量ながら重要な役割を担っている。ムチン層は数千kDaと非常に高分子の糖蛋白質で、アポムチンと呼ばれるコア蛋白に無数の糖鎖が結合している。また、構造から分泌型ムチンと膜型ムチンに分類される。ムチン層は、(1)涙の保持、(2)眼表面を潤滑にし瞬目をスムーズに行う、(3)スムーズな球面を形成し良好な視力を維持する、(4)眼表面のバリア機能、(5)病原体やデブリスを捕獲し、油層同様に涙液の構成割合として微量ながら重要な役割を担っている。しかしながら、様々な要因により、ムチン変性が起こり、これを抑制する技術が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-33327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、ムチン変性を抑制するムチン変性抑制剤、ムチン変性抑制効果を有する眼科用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、(A)フェニレフリン及びその塩、ならびに(B)エデト酸、クエン酸、トロメタモール及びこれらの塩、ならびにホウ砂から選ばれる成分が、ムチン変性抑制効果を有することを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は、下記ムチン変性抑制剤及び下記眼科用組成物を提供する。
1.下記、(A)及び/又は(B)を含有するムチン変性抑制剤。
(A)フェニレフリン及びその塩から選ばれる1種以上
(B)エデト酸、クエン酸、トロメタモール及びこれらの塩、ならびにホウ砂から選ばれる1種以上
2.ムチン変性が、(C)第4級アンモニウム塩及び塩酸ポリヘキサニドから選ばれる1種以上によるムチン変性である1記載のムチン変性抑制剤。
3、(A)フェニレフリン及びその塩から選ばれる1種以上、
(B)エデト酸、クエン酸、トロメタモール及びこれらの塩、ならびにホウ砂から選ばれる1種以上、及び
(C)第4級アンモニウム塩及び塩酸ポリヘキサニドから選ばれる1種以上
を含有する眼科用組成物。
4.(B)成分の配合量が、0.005w/v%以上である3記載の眼科用組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ムチン変性を抑制するムチン変性抑制剤、ムチン変性抑制効果を有する眼科用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
[I]ムチン変性抑制剤
本発明のムチン変性抑制剤は、下記(A)及び/又は(B)を含有する。
(A)フェニレフリン及びその塩から選ばれる1種以上
(B)エデト酸、クエン酸、トロメタモール及びこれらの塩、ならびにホウ砂から選ばれる1種以上
【0009】
[(A)成分]
(A)成分は、フェニレフリン及びその塩から選ばれる1種以上であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。例えば、フェニレフリン塩としては、フェニレフリン塩酸塩等の医薬的に許容される塩が挙げられる。フェニレフリン又はその塩は、涙液層安定化効果及びマイバム分泌促進効果を有し、さらに、ムチン変性抑制効果を有する。
【0010】
(A)成分の配合量は、ムチン変性抑制の点から、ムチン変性抑制剤中0.01~5w/v%(質量/体積%,g/100mL、以下同様であり、以下%で記載する。)が好ましく、0.02~5%がより好ましく、0.05~5%がさらに好ましい。(A)成分は、散瞳作用を有し、眩しく見えることがあるため、涙液層安定化効果を維持したまま、散瞳による眩しさが低減される点から、0.01~0.3%が好ましく、0.02~0.2%がより好ましく、0.05~0.1%がさらに好ましい。
【0011】
[(B)成分]
(B)成分は、エデト酸、クエン酸、トロメタモール及びこれらの塩、ならびにホウ砂から選ばれる1種以上であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。エデト酸塩としては、エデト酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸ナトリウム水和物等、クエン酸塩としてはクエン酸ナトリウムが挙げられる。(B)成分はムチン変性抑制効果を有する。
【0012】
(B)成分の配合量は、エデト酸又はその塩を用いる場合は、ムチン変性抑制剤中0.005~1%が好ましく、0.01~0.5%がより好ましく、0.05~0.2%がさらに好ましい。
クエン酸又はその塩を用いる場合は、ムチン変性抑制剤中0.001~2%が好ましく、0.005~1%がより好ましく、0.01~0.5%がさらに好ましい。
トロメタモール又はその塩を用いる場合は、ムチン変性抑制剤0.005~5%が好ましく、0.01~2%がより好ましく、0.05~1%がさらに好ましい。
ホウ砂を用いる場合は、ムチン変性抑制剤中0.001~2%が好ましく、0.005~1%がより好ましく、0.01~0.5%がさらに好ましい。
【0013】
上記(A)成分、(B)成分はいずれもムチン変性抑制効果を有するが、両者を併用することにより、ムチン変性抑制効果をより得ることができる。
【0014】
ムチン変性は、点眼剤の有効成分や添加物の影響や免疫性疾患等が原因となって起こることが知られている。一方、眼科用組成物には、防腐剤として、(C)塩化ベンザルコニウム等の4級アンモニウム塩等が使用されるが、本発明者らは、ムチンに対する作用を検討した結果、塩化ベンザルコニウムや塩酸ポリヘキサニドはムチンを変性させることを知見した。さらに、上記(A)及び(B)成分はいずれも、ムチン変性に対して、特に上記(C)第4級アンモニウム塩及び塩酸ポリヘキサニドから選ばれる1種以上によるムチン変性に対して、ムチン変性抑制効果が発揮される。
【0015】
[II]眼科用組成物
本発明の眼科用組成物は、(A)フェニレフリン及びその塩から選ばれる1種以上、
(B)エデト酸、クエン酸、トロメタモール及びこれらの塩、ならびにホウ砂から選ばれる1種以上、及び
(C)第4級アンモニウム塩及び塩酸ポリヘキサニドから選ばれる1種以上
を含有するものである。
【0016】
上述したように、上記(A)及び(B)成分はいずれも、上記(C)第4級アンモニウム塩及び塩酸ポリヘキサニドから選ばれる1種以上によるムチン変性に対して、ムチン変性抑制効果が発揮される。したがって、(C)第4級アンモニウム塩及び塩酸ポリヘキサニドから選ばれる1種以上が眼科用組成物に配合されても、ムチンの変性が抑制され、フェニレフリン又はその塩による涙液層安定化効果が維持できる眼科用組成物が得られる。
【0017】
(A)及び(B)成分については、好適な成分は上記と同じである。それぞれの眼科用組成物中の配合量は、上記ムチン変性抑制剤中の配合量と同じである。つまり、(A)成分の配合量は、眼科用組成物中0.01~5%が好ましく、0.02~5%がより好ましく、0.05~5%がさらに好ましい。
(B)成分の配合量は、エデト酸又はその塩を用いる場合は、眼科用組成物中0.005~1%が好ましく、0.01~0.5%がより好ましく、0.05~0.2%がさらに好ましい。
クエン酸又はその塩を用いる場合は、眼科用組成物中0.001~2%が好ましく、0.005~1%がより好ましく、0.01~0.5%がさらに好ましい。
トロメタモール又はその塩を用いる場合は、0.005~5%が好ましく、0.01~2%がより好ましく、0.05~1%がさらに好ましい。
ホウ砂を用いる場合は、眼科用組成物中0.001~2%が好ましく、0.005~1%がより好ましく、0.01~0.5%がさらに好ましい。
【0018】
[(C)成分]
(C)成分は、第4級アンモニウム塩及び塩酸ポリヘキサニドから選ばれる1種以上であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。(B)成分は主に防腐剤として使用される。第4級アンモニウム塩としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等が挙げられる。
【0019】
(C)成分の配合量は、防腐効果の点から、眼科用組成物中0.0001~0.05%が好ましく、0.0005~0.02%がより好ましく、0.001~0.01%がさらに好ましい。
【0020】
(B)/(C)で表される、(B)成分と(C)成分の配合質量比は、ムチンに対する(C)成分の影響低減の点から、0.01~20,000が好ましく、1~10,000がより好ましく、2~2,000がさらに好ましい。具体的には下記の範囲が好ましい。なお、上記比はw/v%比であるが、質量比と同じ値となる。
【0021】
(A)/(C)で表される、(A)成分と(C)成分の配合質量比は、0.1~10,000が好ましく、1~5,000がより好ましく、10~2,000がさらに好ましい。
【0022】
((A)+(B))/(C)で表される、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分との配合質量比は、0.1~50,000が好ましく、0.5~20,000がより好ましく、1~10,000がさらに好ましい。
【0023】
(C)成分が第4級アンモニウム塩の場合
(A)/(C)で表される、(A)成分と(C)成分の配合質量比は、0.1~1,000が好ましく、1~500がより好ましく、10~200がさらに好ましい。
(B)/(C)で表される、(B)成分と(C)成分の好ましい配合質量比は、以下のようになる。
エデト酸又はその塩:0.5~100が好ましく、1~50がより好ましく、2~40がさらに好ましい。
クエン酸又はその塩:0.01~1,000が好ましく、1~400がより好ましく、10~200がさらに好ましい。
トロメタモール又はその塩:1~2,000が好ましく、2.5~1,000がより好ましく、5~500がさらに好ましい。
ホウ砂:0.01~1,000が好ましく、1~400がより好ましく、5~200がさらに好ましい。
【0024】
((A)+(B))/(C)で表される、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分との好ましい配合質量比は、以下のようになる。
エデト酸又はその塩:0.5~200が好ましく、1~100がより好ましく、2~80
がさらに好ましい。
クエン酸又はその塩:0.01~2,000が好ましく、1~1,000がより好ましく、10~200がさらに好ましい。
トロメタモール又はその塩:1~5,000が好ましく、2.5~2,000がより好ましく、5~1,000がさらに好ましい。
ホウ砂:0.01~2,000が好ましく、1~1000がより好ましく、5~200がさらに好ましい。
【0025】
(C)成分が塩酸ポリヘキサニドの場合
(A)/(C)で表される、(A)成分と(C)成分の配合質量比は、0.1~10,000が好ましく、1~5,000がより好ましく、10~2,000がさらに好ましい。
(B)/(C)で表される、(B)成分と(C)成分の好ましい配合質量比は、以下のようになる。
エデト酸又はその塩:0.5~1,000が好ましく、1~500がより好ましく、2~400がさらに好ましい。
クエン酸又はその塩:0.01~10,000が好ましく、1~4,000がより好ましく、10~2,000がさらに好ましい。
トロメタモール又はその塩:1~20,000が好ましく、2.5~10,000がより好ましく、5~5,000がさらに好ましい。
ホウ砂:0.01~10,000が好ましく、1~4,000がより好ましく、5~2,000がさらに好ましい。
【0026】
((A)+(B))/(C)で表される、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分との好ましい配合質量比は、以下のようになる。
エデト酸又はその塩:0.5~2,000が好ましく、1~1000がより好ましく、2~800がさらに好ましい。
クエン酸又はその塩:0.01~20,000が好ましく、1~8,000がより好ましく、10~4,000がさらに好ましい。
トロメタモール又はその塩:1~50,000が好ましく、2.5~20,000がより好ましく、5~10,000がさらに好ましい。
ホウ砂:0.01~20,000が好ましく、1~8,000がより好ましく、5~4,000がさらに好ましい。
【0027】
本発明のムチン変性抑制剤及び眼科用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を適量配合することができる。その他の成分としては、水、油性成分、界面活性剤、(B)成分以外の防腐剤や抗菌剤、糖類、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、(C)成分以外の安定化剤、清涼化剤、多価アルコール、粘稠剤、(A)成分以外の薬物等が挙げられる。これらの成分は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合することができる。下記に示す成分の配合量は、配合する場合の好ましい範囲である。なお、水の配合量は眼科用組成物の残部とすることができる。以下、ムチン変性抑制剤及び眼科用組成物中を「組成物中」と記載する場合がある。
【0028】
油性成分として、例えば、流動パラフィン、ヒマシ油、大豆油、オリーブ油、ゴマ油、コーン油、ヤシ油、アーモンド油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、白色ワセリン、ミックストコフェロール、ラノリン等が挙げられる。油成分を配合する場合、その配合量は組成物中0.001~1.0%が好ましく、0.001~0.5%がより好ましく、0.001~0.25%がさらに好ましい。
【0029】
界面活性剤としては、例えば、下記非イオン界面活性剤が挙げられる。
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(POE硬化ヒマシ油)は、水添したヒマシ油に酸化エチレンを付加重合することによって得られる化合物であり、酸化エチレンの平均付加モル数が異なるいくつかの種類が知られている。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油における酸化エチレンの平均付加モル数については、特に限定はないが、5~100モルが例示される。具体的にはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5(EO平均付加モル数5)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10(EO平均付加モル数10)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20(EO平均付加モル数20)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油30(EO平均付加モル数30)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40(EO平均付加モル数40)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50(EO平均付加モル数50)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(EO平均付加モル数60)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油80(EO平均付加モル数80)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100(EO平均付加モル数100)等が挙げられる。中でも、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が好ましい。
【0030】
ポリオキシエチレンヒマシ油(POEヒマシ油)は、ヒマシ油に酸化エチレンを付加重合することによって得られる化合物であり、酸化エチレンの平均付加モル数が異なるいくつかの種類が知られている。ポリオキシエチレンヒマシ油における酸化エチレンの平均付加モル数については、特に限定はないが、3~60モルが例示される。具体的にはポリオキシエチレンヒマシ油3(数値は酸化エチレンの平均付加モル数、以下同様)、ポリオキシエチレンヒマシ油10、ポリオキシエチレンヒマシ油20、ポリオキシエチレンヒマシ油35、ポリオキシエチレンヒマシ油40、ポリオキシエチレンヒマシ油50、ポリオキシエチレンヒマシ油60等が挙げられる。
【0031】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(POEソルビタン脂肪酸エステル)としては、モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート80)が挙げられる。中でも、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート80)が好ましい。
【0032】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(POEPOPグリコール)は特に限定されるものではなく、医薬品添加物規格(薬添規)に記載されたものを用いることができる。エチレンオキシドの平均重合度は4~200が好ましく、20~200がより好ましく、プロピレンオキシドの平均重合度は5~100が好ましく、20~70がより好ましく、ブロック共重合体でもランダム重合体でもよい。具体的には、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール:Lutrol F127(BASF社製)、ユニルーブ70DP-950B(日本油脂(株)製)等、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコール:プルロニックF-87(BASF社製)、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール:プルロニックF-68(BASF社製)、プロノン#188P(日本油脂(株)製)等、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール:プルロニックP123(BASF社製)、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール:プルロニックP85(BASF社製)、プロノン#235P(日本油脂(株)製)等、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール:プルロニックL-44、テトロニック(BASF社製)等が挙げられる。中でも、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコールが好ましい。
【0033】
ポリエチレングリコール脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸ポリエチレングリコール-25、ステアリン酸ポリエチレングリコール-40等が挙げられ、中でもステアリン酸ポリエチレングリコール-40が好ましい。
【0034】
界面活性剤を配合する場合の配合量は、組成物中0.01~2.0%が好ましく、0.05~1.5%がより好ましく、0.1~1.2%がさらに好ましい。
【0035】
(C)成分以外の防腐剤や抗菌剤としては、アルキル鎖やベンゼン環等の疎水部を有する防腐剤として、チメロサール、フェニルエチルアルコール、アルキルアミノエチルグリシン、クロルヘキシジングルコン酸、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチルが挙げられる。また、ソルビン酸、亜硫酸及びこれらの塩、クロロブタノール等が挙げられる。防腐剤を配合する場合の配合量は、組成物中0.0001~0.5%とすることができるが、組成物中に0.1%以下が好ましく、0.01%以下がさらに好ましい。
【0036】
糖類としては、例えば、グルコース、シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。なお、これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよい。糖類は、湿潤性があるため点眼時の潤いを高める効果を有し、また等張化剤としても使用できる。糖類を配合する場合の配合量は、組成物中0.001~5.0%が好ましく、0.001~1%がより好ましく、0.001~0.1%がさらに好ましい。
【0037】
緩衝剤としては、例えば、リン酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、氷酢酸、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。緩衝剤を配合する場合の配合量は、組成物中0.001~5.0%が好ましく、0.001~2%がより好ましく、0.001~1%がさらに好ましい。
【0038】
pH調整剤としては、無機酸又は無機アルカリ剤が挙げられる。例えば、無機酸としては(希)塩酸が挙げられる。無機アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。組成物のpHは3.5~8.0が好ましく、5.5~8.0がより好ましい。なお、pHの測定は、25℃でpHメータ(HM-25R、東亜ディーケーケー(株))を用いて行う。
【0039】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、乾燥炭酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等が挙げられる。涙液油層不安定化が引き起こす諸症状をより改善する点から、塩化ナトリウム又は塩化カリウムを配合し、等張化されていることが好ましい。組成物の対生理食塩水浸透圧比は、0.60~2.00が好ましく、0.60~1.55がより好ましく、0.83~1.20が最も好ましい。なお、浸透圧の測定は、25℃で自動浸透圧計(A2O、アドバンスドインストルメンツ社)を用いて行う。
【0040】
(B)成分以外の安定化剤としては、例えば、シクロデキストリン、亜硫酸塩、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。(B)成分以外の安定化剤を配合する場合の配合量は、組成物中0.001~5.0%が好ましく、0.001~1%がより好ましく、0.001~0.1%がさらに好ましい。
【0041】
清涼化剤としては、例えば、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、リナロール等が挙げられる。d体、l体、またはdl体のいずれでも使用することができる。清涼化剤を配合する場合、その配合量は組成物中0.0001~0.2%が好ましい。
【0042】
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。多価アルコールは、湿潤性があるため点眼時の潤いを高める効果を有し、また等張化剤としても使用できる。多価アルコールを配合する場合の配合量は、組成物中0.001~5.0%が好ましく、0.001~1%がより好ましく、0.001~0.1%がさらに好ましい。
【0043】
粘稠剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。粘稠剤を配合する場合の配合量は、組成物中0.001~5.0%が好ましく、0.001~1%がより好ましく、0.001~0.1%がさらに好ましい。
【0044】
(A)成分以外の薬物(薬学的有効成分)としては、例えば、充血除去成分(例えば、エピネフリン、メチルノルエピネフリン、ノルエピネフリン、塩酸エピネフリン、エフェドリン、メチルエフェドリン、シュードエフェドリン、エフェドリン塩酸塩、塩酸テトラヒドロゾリン、ナファゾリン塩酸塩、ナファゾリン硝酸塩、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、オキシメタゾリン、メトキサミン、フェニルプロパノラミン、エチレフリン、ミドドリン、トラマゾリン、シネフリン、シラゾリン、キシロメタゾリン及びこれらの薬学的に許容される塩等)、消炎・収斂剤(例えば、ネオスチグミンメチル硫酸塩、イプシロン-アミノカプロン酸、アラントイン、ベルベリン塩化物水和物、ベルベリン硫酸塩水和物、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、リゾチーム塩酸塩等)、抗ヒスタミン剤(例えば、ジフェンヒドラミン塩酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩等)、水溶性ビタミン類(フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、ピリドキシン塩酸塩、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム等)、脂溶性ビタミン類(酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、酢酸トコフェロール等)、アミノ酸類(例えば、(例えば、L-アスパラギン酸カリウム、L-アスパラギン酸マグネシウム、L-アスパラギン酸カリウム・マグネシウム(等量混合物)、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム等)、サルファ剤等が挙げられる。薬物を配合する場合、薬物の配合量は、各薬物の有効な適性量を選択することができるが、組成物中0.001~5%が好ましく、0.001~1%がより好ましく、0.001~0.1%がさらに好ましい。
【0045】
[製造方法]
本発明のムチン変性抑制剤及び眼科用組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、水性成分を精製水に溶解し、pH調整後、総体積を精製水により調整することにより得ることができる。混合方法は、一般的な方法でよく、パルセーター、プロペラ羽根、パドル羽根、タービン羽根等を用いて適宜行われるが、回転数は特に限定されず、激しく泡立たない程度に設定することが好ましい。各液体の混合温度は特に限定しないが、具体的には20~95℃の範囲から適宜選定される。
【0046】
本発明のムチン変性抑制剤及び眼科用組成物は目への適応を容易にする点から液体が好ましく、20℃における粘度は、涙液との混合を容易にする点から、20mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以下がより好ましく、5mPa・s以下がさらに好ましく、2mPa・s以下が特に好ましい。なお、粘度の測定方法はコーンプレート型粘度計(DV2T、英弘精機(株))を用いて行う。下限は特に限定されないが、1mPa・sとすることもできる。
【0047】
本発明の眼科用組成物は、点眼剤、コンタクトレンズ用点眼剤、洗眼剤等として好適に使用できるが、ドライアイ予防又は治療効果の点から、点眼剤、コンタクトレンズ用点眼剤(コンタクトレンズ装着者用点眼剤)等の点眼剤として好適に使用できる。コンタクトレンズとしては、ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ、詳細には、シリコンハイドロゲルソフトコンタクトレンズ、O2ハードコンタクトレンズ、カラーコンタクトレンズ等特に限定されない。
【0048】
点眼剤又はコンタクトレンズ用点眼剤として使用する場合、1回につき10~100μLを1~3滴1日につき1~6回点眼することが好ましく、1回につき10~50μLを1~3滴1日につき1~6回がより好ましく、1回につき10~30μLを1~3滴1日につき1~6回がさらに好ましい。洗眼剤として使用する場合、1回につき3~6mL、1日につき3~6回洗眼することが好ましい。
【0049】
また、得られた眼科用組成物を樹脂製容器に充填後、さらに包装体により密封し、上記容器と上記包装体との間に形成された空間に窒素等の不活性ガスを封入してもよく、組成物を樹脂製容器に充填後、脱酸素剤と共に包装体により密封してもよい。
【0050】
眼科用組成物はムチン変性抑制効果を有するため、ムチン変性抑制用眼科用組成物としても好適である。
【0051】
〈涙液層安定化〉
フェニレフリン又はその塩は、涙液層安定化効果を有するため、本発明の眼科用組成物は涙液層安定化効果を有し、涙液層安定化剤として好適である。涙液層安定化効果の測定は、例えば、NI(Non-invasive)BUT(非侵襲的涙液層破壊時間)で測定できる。
【実施例
【0052】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」はw/v%(g/100mL)、比率は質量比(w/v%比と同じ値)を示す。
【0053】
下記表1の各成分を所定量の精製水に加えて溶解させた後、よく撹拌した。pH調整後、総体積を精製水により100mLとした。なお、得られた眼科用組成物の25℃におけるpHは7である。なお、25℃における組成物の粘度は1~20mPa・s範囲であった。得られた試験液について、下記評価を行った。結果を表中に併記する。
【0054】
〈ムチン変性〉
モデル涙液(ムチン0.1%、塩化ナトリウム0.9%、塩化カリウム0.3%、塩化カルシウム二水和物0.0147%、pH7)を調製した。
モデル涙液1mLに対して、表1の(C)成分を配合した試験液9mLを添加した。添加後のモデル涙液の600nmにおける透過率を測定し、下記式に基づき透過率の変動率(透過率の低下)を算出した。変動率が高いほど、ムチン変性が大きいことを示す。また、比較対象として(C)成分の代わりに生理食塩水を添加した場合の透過率を測定した。
透過率の変動率(透過率の低下)=(A2-A1)/A1×100(%)
A1=「モデル涙液+生理食塩水」の透過率
A2=「モデル涙液+(A)成分」の透過率
【0055】
【表1】
【0056】
塩化ベンザルコニウム、塩酸ポリヘキサニド及び塩化ベンゼトニウムのいずれも透過率が低下し、これらがムチン変性に影響があることが確認された。
【0057】
[実施例、比較例]
下記表2~6の各成分を所定量の精製水に加えて溶解させた後、よく撹拌した。pH調整後、総体積を精製水により100mLとした。なお、得られた眼科用組成物の25℃におけるpHを表中に示す。なお、25℃における組成物の粘度は1~20mPa・s範囲であった。得られたムチン変性抑制剤(実施例I)又は眼科用組成物(実施例II)について、下記評価を行った。結果を表中に併記する。
【0058】
〈ムチン変性抑制〉
モデル涙液1mLに対して下記表中の濃度に調整した(A)成分及び/又は(B)成分及び(C)成分を配合した試験液9mLを添加し、添加後のモデル涙液の600nmにおける透過率を測定して下記式に基づき回復率(透過率の回復)を算出した。
回復率(透過率の回復)=(A3-A2)/(A1-A2)×100(%)
A1=「モデル涙液+生理食塩水」の透過率
A2=「モデル涙液+(A)成分」の透過率
A3=「モデル涙液+(A)成分+(B)及び/又は(C)成分」の透過率
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
上記結果から明らかであるように、上記(A)及び(B)成分はいずれも、上記(C)第4級アンモニウム塩及び塩酸ポリヘキサニドから選ばれる1種以上によるムチン変性に対して、ムチン変性抑制効果が発揮された。(C)第4級アンモニウム塩及び塩酸ポリヘキサニドから選ばれる1種以上が眼科用組成物に配合されても、ムチンの変性が抑制され、フェニレフリン又はその塩による涙液層安定化効果が維持できる眼科用組成物が得られた。
【0065】
下記組成の組成物を上記実施例と同様の方法で調製した。
【0066】
【表7】
【0067】
【表8】
【0068】
【表9】
【0069】
【表10】
【0070】
【表11】
【0071】
【表12】
【0072】
【表13】
【0073】
【表14】
【0074】
【表15】
【0075】
【表16】
【0076】
【表17】
【0077】
上記例で使用した原料を下記に示す。なお、特に明記がない限り、表中の各成分の量は純分換算量である。
ムチン:ムチン、ブタ胃由来(富士フイルム和光純薬工業(株))
塩化ベンザルコニウム:ヂアミトール消毒用液10w/v%(丸石製薬(株))
塩化ベンゼトニウム:(富士フイルム和光純薬工業(株))
塩酸ポリヘキサニド:Polyhexamethylene biguanide hydrochloride(BOC Sciences)
EDTA:クレワットN(ナガセケムテックス)
ホウ砂:ホウ砂「コザカイ・M」500g結晶(小堺製薬(株))
クエン酸ナトリウム水和物:(小松屋(株))
トロメタモール:(関東化学(株))