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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】クローラの異常検出装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/32 20060101AFI20240326BHJP
   B62D 55/24 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
B62D55/32
B62D55/24
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020016657
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021123189
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】上野 吉郎
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-011622(JP,A)
【文献】特開2021-088303(JP,A)
【文献】特開平10-119845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/32
B62D 55/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クローラが装着された車両の走行中に、前記車両に取り付けられた1又は複数のセンサから、前記クローラの回転音及び振動の少なくとも一方の特性を表す検出値を取得する取得部と、
前記1又は複数のセンサにより検出された前記検出値に基づいて、前記クローラ内部の異常を検出する異常検出部と
を備え、
前記1又は複数のセンサは、音の特性を検出するセンサを含み、
前記クローラは、弾性体から構成されるクローラ本体と、前記クローラ本体に保持される複数の芯金とを有し、
前記クローラ内部の異常は、前記クローラ本体による前記複数の芯金のうち少なくとも1つの保持力低下を含む、
異常検出装置。
【請求項2】
クローラが装着された車両の走行中に、前記車両に取り付けられた1又は複数のセンサから、前記クローラの回転音及び振動の少なくとも一方の特性を表す検出値を取得する取得部と、
前記1又は複数のセンサにより検出された前記検出値に基づいて、前記クローラ内部の異常を検出する異常検出部と
を備え、
前記1又は複数のセンサは、音の特性を検出するセンサを含み、
前記クローラは、弾性体から構成されるクローラ本体と、前記クローラ本体内に埋め込まれ、前記クローラの全周にわたって延びる複数の抗張力コードとを有し、
前記クローラ内部の異常は、前記複数の抗張力コードの少なくとも部分的な切断を含む、
常検出装置。
【請求項3】
前記1又は複数のセンサは、振動の特性を検出するセンサを含む、
請求項1または2に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記車両に含まれるスプロケット又はアイドラ、或いはこれらの近傍に取り付けられた前記1又は複数のセンサから、前記スプロケット又は前記アイドラへの前記クローラの巻き掛け時に発生する前記回転音及び前記振動の少なくとも一方の特性を表す前記検出値を取得する、
請求項1からのいずれかに記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記異常検出部は、前記検出値の大きさ及び周波数特性の少なくとも一方に応じて、前記クローラ内部の異常を検出する、
請求項1からのいずれかに記載の異常検出装置。
【請求項6】
前記異常検出部は、前記検出値の時間方向のムラに応じて、前記クローラ内部の異常を検出する、
請求項1からのいずれかに記載の異常検出装置。
【請求項7】
クローラが装着された車両の走行中に、前記車両に取り付けられた1又は複数のセンサから、前記クローラの回転音及び振動の少なくとも一方の特性を表す検出値を取得することと、
前記1又は複数のセンサにより検出された前記検出値に基づいて、前記クローラ内部の異常を検出することと
をコンピュータに実行させ、
前記1又は複数のセンサは、音の特性を検出するセンサを含み、
前記クローラは、弾性体から構成されるクローラ本体と、前記クローラ本体に保持される複数の芯金とを有し、
前記クローラ内部の異常は、前記クローラ本体による前記複数の芯金のうち少なくとも1つの保持力低下を含む、
異常検出プログラム。
【請求項8】
クローラが装着された車両の走行中に、前記車両に取り付けられた1又は複数のセンサから、前記クローラの回転音及び振動の少なくとも一方の特性を表す検出値を取得することと、
前記1又は複数のセンサにより検出された前記検出値に基づいて、前記クローラ内部の異常を検出することと
をコンピュータに実行させ、
前記1又は複数のセンサは、音の特性を検出するセンサを含み、
前記クローラは、弾性体から構成されるクローラ本体と、前記クローラ本体内に埋め込まれ、前記クローラの全周にわたって延びる複数の抗張力コードとを有し、
前記クローラ内部の異常は、前記複数の抗張力コードの少なくとも部分的な切断を含む、
異常検出プログラム。
【請求項9】
車両に装着されるクローラと、
前記車両に取り付けられ、前記車両の走行中に前記クローラの回転音及び振動の少なくとも一方の特性を表す検出値を検出する1又は複数のセンサと、
前記1又は複数のセンサにより検出された前記検出値に基づいて、前記クローラ内部の異常を検出する制御ユニットと
を備え、
前記1又は複数のセンサは、音の特性を検出するセンサを含み、
前記クローラは、弾性体から構成されるクローラ本体と、前記クローラ本体に保持される複数の芯金とを有し、
前記クローラ内部の異常は、前記クローラ本体による前記複数の芯金のうち少なくとも1つの保持力低下を含む、
異常検出システム。
【請求項10】
車両に装着されるクローラと、
前記車両に取り付けられ、前記車両の走行中に前記クローラの回転音及び振動の少なくとも一方の特性を表す検出値を検出する1又は複数のセンサと、
前記1又は複数のセンサにより検出された前記検出値に基づいて、前記クローラ内部の異常を検出する制御ユニットと
を備え、
前記1又は複数のセンサは、音の特性を検出するセンサを含み、
前記クローラは、弾性体から構成されるクローラ本体と、前記クローラ本体内に埋め込まれ、前記クローラの全周にわたって延びる複数の抗張力コードとを有し、
前記クローラ内部の異常は、前記複数の抗張力コードの少なくとも部分的な切断を含む、
異常検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローラの異常を検出する異常検出装置、プログラム及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
クローラは、典型的には、タイヤではスリップして走行できない圃場で使用されるコンバイン等の車両や、ショベル等の建設機械車両、林道や山林、雪上、砕石場等の悪路を走行する大型運搬車両等に装着されている。このようなクローラが切断されたり、クローラに含まれる芯金等の部品が脱落する等すると、車両は走行不能となる。クローラは、通常、足場の悪い場所で使用されることもあり、クローラが突然故障すると、極めて面倒な事態となる。すなわち、クローラの交換作業には、多くの人手が必要になり得るし、クレーン等の重機も必要になり得る。また、クローラの故障による作業の中断時間も長くなる。
【0003】
特許文献1は、クローラの疲労度等の品質を管理するべく、クローラの走行距離や走行方向、走行スピード等のデータを記録し、読み出すことができる管理システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-119845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の管理システムによれば、例えば、記録されている実際の走行距離等が、一般的に故障が生じ得る基準値を超えたときを、クローラの交換時期として判断することができる。従って、クローラの故障前にクローラを交換することができ、クローラの突然の故障を防ぐことができる。しかし、この方法では、クローラに生じている実際の異常を検出するには至らない。従って、この方法では、クローラが予想されるよりも早くに故障してしまった場合には、やはり作業現場で立ち往生してしまうことになる。あるいは、反対に、未だ故障していないにも関わらず安全寄りに早めに交換を行うこととすると、クローラをその寿命まで使用することができない。
【0006】
本発明は、クローラの異常を適切に検出可能な異常検出装置、プログラム及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1観点に係る異常検出装置は、クローラが装着された車両の走行中に、前記車両に取り付けられた1又は複数のセンサから、前記クローラの回転音及び振動の少なくとも一方の特性を表す検出値を取得する取得部と、前記1又は複数のセンサにより検出された前記検出値に基づいて、前記クローラの異常を検出する異常検出部とを備える。
【0008】
第2観点に係る異常検出装置は、第1観点に係る異常検出装置であって、前記1又は複数のセンサは、音の特性を検出するセンサを含む。
【0009】
第3観点に係る異常検出装置は、第1観点又は第2観点に係る異常検出装置であって、前記1又は複数のセンサは、振動の特性を検出するセンサを含む。
【0010】
第4観点に係る異常検出装置は、第1観点から第3観点のいずれかに係る異常検出装置であって、前記取得部は、前記車両に含まれるスプロケット又はアイドラ、或いはこれらの近傍に取り付けられた前記1又は複数のセンサから、前記スプロケット又は前記アイドラへの前記クローラの巻き掛け時に発生する前記回転音及び前記振動の少なくとも一方の特性を表す前記検出値を取得する。
【0011】
第5観点に係る異常検出装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係る異常検出装置であって、前記異常検出部は、前記検出値の大きさ及び周波数特性の少なくとも一方に応じて、前記クローラの異常を検出する。
【0012】
第6観点に係る異常検出装置は、第1観点から第5観点のいずれかに係る異常検出装置であって、前記異常検出部は、前記検出値の時間方向のムラに応じて、前記クローラの異常を検出する。
【0013】
第7観点に係る異常検出プログラムは、クローラが装着された車両の走行中に、前記車両に取り付けられた1又は複数のセンサから、前記クローラの回転音及び振動の少なくとも一方の特性を表す検出値を取得することと、前記1又は複数のセンサにより検出された前記検出値に基づいて、前記クローラの異常を検出することとをコンピュータに実行させる。
【0014】
第8観点に係る異常検出システムは、車両に装着されるクローラと、前記車両に取り付けられ、前記車両の走行中に前記クローラの回転音及び振動の少なくとも一方の特性を表す検出値を検出する1又は複数のセンサと、前記1又は複数のセンサにより検出された前記検出値に基づいて、前記クローラの異常を検出する制御ユニットとを備える。
【発明の効果】
【0015】
クローラの異常としては、例えば、クローラに含まれるゴム製の弾性体による芯金の保持力が低下することや、抗張力コードが切断されること等が考えられる。このような異常が生じると、走行中のクローラの回転音及び振動には、正常時と比べ変化が生じる。この点、上記観点によれば、車両に取り付けられた1又は複数のセンサにより検出される、クローラの回転音及び振動の少なくとも一方の特性を表す検出値に基づいて、クローラの異常が検出される。従って、クローラの異常を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る異常検出装置としての制御ユニットが搭載された車両を正面側から視た模式図。
図2】車両を左側から視た模式図。
図3】本発明の一実施形態に係る異常検出装置としての制御ユニットの電気的構成を示すブロック図。
図4】クローラの一部を外周側から視た図。
図5図4のV-V線断面図。
図6】本発明の一実施形態に係る異常検出処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る異常検出装置、プログラム及びシステムについて説明する。
【0018】
<1.異常検知装置及びこれを備える車両の構成>
図1及び図2は、本実施形態に係る異常検出装置としての制御ユニット5が車両1に搭載された様子を示す模式図である。図1は、車両1を正面側から視た図であり、図2は、これを左側から視た図ある。これらの図においては、本来、外部からは見えない構成の一部が、参考のため適宜点線で示されている。なお、特に断らない限り、ここでの説明において、前後、上下及び左右は、車両1の進行方向を基準に定義される。
【0019】
車両1は、装軌車両であり、典型的には、圃場で使用されるコンバイン等の車両や、ショベル等の建設機械車両、林道や山林、雪上、砕石場等の悪路を走行する大型運搬車両等である。車両1には、左右一対のクローラ2L及び2Rが装着されている。車両1は、運転席11が設けられた車体10を有し、クローラ2L及び2Rは、車体10の下方において左右に分かれて、前後方向に延びるように配置される。
【0020】
車体10内には、車両1の走行を制御する制御ユニット5が搭載されている。図3は、制御ユニット5の電気的構成を示すブロック図である。図3に示される通り、制御ユニット5は、I/Oインターフェース51、CPU52、ROM53、RAM54、及び不揮発性で書き換え可能な記憶装置55を有する。I/Oインターフェース51は、後述される第1センサ61、第2センサ62、表示器7及びスピーカー8等の外部装置との通信を行うための通信装置である。ROM53には、車両1の各部の動作を制御するためのプログラム9が格納されている。プログラム9には、本実施形態に係る異常検出プログラムが含まれる。
【0021】
CPU52は、ROM53からプログラム9を読み出して実行することにより、仮想的に取得部52a、異常検出部52b及び警報部52cとして動作する。各部52a~52cの動作の詳細は、後述する。記憶装置55は、ハードディスクやフラッシュメモリ等で構成される。なお、プログラム9の格納場所は、ROM53ではなく、記憶装置55であってもよい。RAM54及び記憶装置55は、CPU52の演算に適宜使用される。
【0022】
表示器7は、ユーザ(主として、ドライバー)に警報を含む各種情報を出力することができ、例えば、液晶表示素子、液晶モニター、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等、任意の態様で実現することができる。表示器7の取り付け位置は、適宜選択することができ、例えば、運転席11の前方等、ドライバーに見えやすい位置に設けることが好ましい。表示器7としてモニター画面が使用される場合、警報はモニター画面上に表示されるアイコンや文字情報とすることができる。スピーカー8も、ユーザ(主として、ドライバー)に警報を含む各種情報を出力することができる。スピーカー8の取り付け位置も、適宜選択することができ、例えば、運転席11の上方等、運転席に着座するユーザに出力音が聞こえやすい位置に設けることが好ましい。
【0023】
図2に示す通り、車両1は、左右一対のスプロケット3と、左右一対のアイドラ4と、左右複数対の転輪6とを備える。左側の1つのスプロケット3、左側の複数の転輪6、及び左側の1つのアイドラ4には、左側のクローラ2Lが巻き付けられている。同様に、右側の1つのスプロケット3、右側の複数の転輪6、及び右側の1つのアイドラ4には、右側のクローラ2Rが巻き付けられている。クローラ2L及び2Rは、各々、無端帯状で、側面視において環状に構成されている。クローラ2L及び2Rは、同様の構成を有するため、以下では、両者を特に区別せずに、単にクローラ2と呼ぶことがある。以下、片側のクローラ2、並びにその周辺の装備(スプロケット3、アイドラ4、転輪6、第1センサ61及び第2センサ62)について説明するが、同説明は、左右のクローラ2L及び2Rの両方に当てはまる。
【0024】
スプロケット3及びアイドラ4は、前後に分かれて配置される。図2の例では、スプロケット3が前側、アイドラ4が後ろ側に配置されているが、スプロケット3が後ろ側、アイドラ4が前側に配置されてもよい。転輪6は、スプロケット3とアイドラ4との間において前後方向に配列されている。スプロケット3、アイドラ4及び転輪6は、それぞれ、左右方向に延びるシャフト3a、4a及び6a周りに回転自在に支持されている。
【0025】
スプロケット3は、駆動輪であり、シャフト3aを介してエンジン等の動力装置(図示されない)に連結されており、シャフト3a周りを回転駆動される。スプロケット3の外周には、シャフト3aを基準とする周方向に多数の歯31が等間隔に配列されており、これらの歯31にクローラ2が巻き掛けられている。これにより、クローラ2は、スプロケット3の回転に合わせて、側面視において循環駆動される。
【0026】
一方、アイドラ4は、転動輪であり、シャフト4aには、動力装置が連結されていない。しかしながら、アイドラ4は、スプロケット3の回転に合わせて、側面視において循環駆動されるクローラ2から動力を伝達され、シャフト4a周りを従動回転する。転輪6も同様であり、シャフト6aには、動力装置が連結されていない。しかしながら、転輪6も、スプロケット3の回転に合わせて、側面視において循環駆動されるクローラ2から動力を伝達され、シャフト6a周りを従動回転する。クローラ2は、スプロケット3及びアイドラ4に対し、前後方向に折り返されるように巻き掛けられている。転輪6は、クローラ2を路面に対し押し付けるように、クローラ2を挟んで路面と反対側に配置される。
【0027】
クローラ2は、ゴム等の弾性体から構成されるクローラ本体20を有する。クローラ本体20は、無端帯状で、側面視において環状に構成されている。図4は、クローラ2の一部を外周側から視た図である。なお、特に断らない限り、ここでの説明において、外及び内とは、それぞれ、スプロケット3、アイドラ4及び転輪6に巻き付けられたクローラ2の環の外側及び内側を意味する。また、特に断らない限り、周方向とは、クローラ2が循環駆動される方向を意味する。図5は、図4のV-V線断面図である。
【0028】
図2に示す通り、クローラ2には、周方向に沿って所定の間隔で、多数の芯金21が配列されている。なお、図2では、簡単のため、これらの芯金21が3つしか図示されていないが、実際にはクローラ2の全周に亘って等間隔に配列されている。図5に示す通り、これらの芯金21は、クローラ本体20内に部分的に埋め込まれている。芯金21は、典型的には、鋳鉄製、鍛鉄製、又は樹脂製である。芯金21は、左右に延びる中央部211と、中央部211の左右両端からそれぞれ左右に延びる左右一対の翼状部212と、中央部211の左右両端からいずれも内側へ延びる左右一対の突出部213とを有する。中央部211及び左右一対の翼状部212は、クローラ本体20内に埋め込まれており、突出部213は、クローラ本体20の内周面から内側へ突出している。
【0029】
また、図2図4及び図5に示す通り、クローラ2には、周方向に沿って所定の間隔で、多数のラグ22が配列されている。これらのラグ22は、クローラ本体20の外周面から外側へ向かって起立している。なお、図2では、簡単のため、ラグ22も3つしか図示されていないが、実際にはクローラ2の全周に亘って等間隔に配列されている。
【0030】
ラグ22は、クローラ本体20と同様に、ゴム等の弾性体から構成され、本実施形態では、クローラ本体20と一体的に構成されている。ラグ22は、路面に接する部材である。図4に示す通り、ラグ22には、クローラ本体20の左端から右方向へ向かって延びるが、右端に達さないものと、右端から左方向へ向かって延びるが、左端に達さないものとがあり、これらが周方向に沿って互い違いに配列されている。
【0031】
図4に示す通り、クローラ本体20には、周方向に隣接する2つのラグ22どうしの各隙間において、開口23が形成されている。これらの開口23は、各々、クローラ本体20の左右方向の略中央に位置する。また、これらの開口23は、各々、クローラ本体20を貫通しており、周方向に隣接する2つの芯金21どうしの隙間に配置される。これらの開口23は、スプロケット3の外周面に配置される歯31を受け取り、これにより、クローラ2がスプロケット3に巻き掛けられる。一方、芯金21は、左右一対の突出部213の隙間に位置する内側面において、スプロケット3の歯31の根元の面を受け取る。その結果、スプロケット3とクローラ2とが噛み合い、クローラ2は、スプロケット3の回転に合わせて、スプロケット3から循環するための動力を与えられる。
【0032】
クローラ本体20内には、芯金21の中央部211及び翼状部212とともに、周方向全周に亘って延びる多数本の抗張力コード24が埋め込まれている。これらの抗張力コード24は、左右一対の翼状部212の外周側に、開口23の左右に分かれて多数本ずつ配置される。これらの抗張力コード24は、クローラ本体20に抗張力を付与する、又はクローラ本体20の伸長を規制するための部材である。抗張力コード24は、例えば、スチールコードやピアノ線等から構成される。
【0033】
図1及び図2に示す通り、車両1には、左右一対の第1センサ61が取り付けられている。第1センサ61は、走行中のクローラ2の回転音の特性を検出するためのセンサであり、これに限られないが、本実施形態では、音波を検出するマイクロフォンである。また、本実施形態では、第1センサ61は、スプロケット3の近傍に取り付けられており、特にスプロケット3の近傍の軸受けに固定されている。これにより、第1センサ61は、スプロケット3へのクローラ2の巻き掛け時に発生する回転音の特性を検出することができる。この回転音には、例えば、スプロケット3とクローラ2との接触音が含まれる。第1センサ61は、制御ユニット5に接続されており、検出した回転音の特性を表す検出値を制御ユニット5に送信する。
【0034】
また、車両1には、左右一対の第2センサ62も取り付けられている。第2センサ62は、走行中のクローラ2の振動の特性を検出するためのセンサであり、これに限られないが、本実施形態では、加速度センサである。本実施形態では、第2センサ62も、スプロケット3の近傍に取り付けられており、特にスプロケット3の近傍の軸受けに固定されている。これにより、第2センサ62は、スプロケット3へのクローラ2の巻き掛け時に発生する振動の特性を検出することができる。この振動には、例えば、スプロケット3とクローラ2との接触により発生する振動が含まれる。第2センサ62も、制御ユニット5に接続されており、検出した振動の特性を表す検出値を制御ユニット5に送信する。
【0035】
<2.異常検出処理の流れ>
車両1には、クローラ2の異常を検出する異常検出処理を実行する機能が搭載されている。クローラ2の異常としては、例えば、ゴム等の弾性体から構成されるクローラ本体20と芯金21との間の接着剤等による接着性が、芯金21の錆やクローラ本体20の劣化等により低下し、クローラ本体20による芯金21の保持力が低下することが考えられる。また、例えば、多数本の抗張力コード24が少なくとも部分的に切断され、クローラ本体20に適切な抗張力が作用しなくなることも考えられる。クローラ2の内部においてこのような異常が生じると、やがてクローラ2が故障する。具体的には、例えば、クローラ本体20から芯金21等の部品が脱落したり、クローラ本体20が切断される等し、車両1はやがて走行不能になる。クローラ2は、通常、足場の悪い場所で使用されることもあり、クローラ2が突然故障すると、極めて面倒な事態となる。すなわち、クローラ2の交換作業には、多くの人手が必要になり得るし、クレーン等の重機も必要になり得る。また、クローラ2の故障による作業の中断時間も長くなる。この点、本実施形態では、車両1に搭載される異常検出処理を実行する機能により、クローラ2の異常を適切に検出することができる。
【0036】
異常検出処理は、制御ユニット5と、これに接続されている第1センサ61及び第2センサ62とにより実行される。具体的には、クローラ2に以上のような異常が生じると、走行中のクローラ2の回転音及び振動には、正常時と比べ変化が生じる。よって、走行中のクローラ2の回転音及び振動の特性をそれぞれ第1センサ61及び第2センサ62により検出し、このときの検出値に基づいて制御ユニット5が異常を検出する。図6は、本実施形態に係る異常検出処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態では、同処理は、車両1の走行開始時に開始し、これに含まれるステップS1~S5は、車両1の走行中、連続的に繰り返し実行される。しかしながら、ステップS1~S5は、例えば、車両1の走行中に定期的に(1日1回等)実行されるようにしてもよいし、車両1の電気系統に電源が入る度に1回、実行されるようにしてもよい。
【0037】
まず、ステップS1では、取得部52aが、車両1の走行中に、I/Oインターフェース51を介して第1センサ61から、クローラ2の回転音の特性を表す検出値を取得する。また、取得部52aは、これと同時に、I/Oインターフェース51を介して第2センサ62から、クローラ2の振動の特性を表す検出値を取得する。ここでは、所定の時間長分の検出値の時系列データが取得される。
【0038】
続くステップS2では、異常検出部52bが、現在車両1が定速走行状態であるか否かを判断する。具体的には、異常検出部52bは、車両1の現在の進行方向の加速度αを取得し、この大きさが所定値以下の場合には定速走行状態であると判断し、ステップS3に進む。一方、ステップS2で定速走行状態でないと判断される場合には、処理はステップS1に戻る。なお、車両1の加速度αの取得方法としては、様々な方法が知られているが、例えば、車両1に搭載されており、制御ユニット5に接続されている図示されない加速度センサから取得することができる。しかし、車両1の加速度αの取得方法は、特に限定されず、任意の方法を採用することができる。
【0039】
ステップS3では、異常検出部52bは、ステップS1で取得された検出値に基づいて、異常検出のための指標値Eを算出する。本実施形態では、以下に説明する様々な指標値Eが算出される。
【0040】
まず、指標値Eとして、検出値の大きさを表す指標値が算出される。このような指標値Eは、第1センサ61からの検出値に基づく場合、回転音の大きさを表すことができ、第2センサ62からの検出値に基づく場合、振動の大きさを表すことができる。このとき、例えば、クローラ2の1回転分等、所定の時間長分の検出値の時系列データを積分した値を指標値Eとすることができる。或いは、指標値Eとして、クローラ2の1回転分等、所定の時間長分の検出値の時系列データの振幅、最大値、最大値と最小値との差等を算出してもよい。
【0041】
また、指標値Eとして、検出値の時系列データを周波数解析することにより、当該データの周波数特性を表す指標値が算出される。このような指標値Eは、第1センサ61からの検出値に基づく場合、回転音の周波数特性(回転音の音高や音程等)を表すことができ、第2センサ62からの検出値に基づく場合、振動の周波数特性を表すことができる。このとき、例えば、ピーク周波数を指標値Eとすることもできるし、ピーク周波数の周波数成分の大きさを指標値Eとすることもできる。或いは、所定の周波数の周波数成分の大きさ又は所定の周波数帯の周波数成分の大きさ(積分値)を指標値Eとすることもできる。或いは、クローラ2の1回転分等、所定の時間長に対応する期間内にk個の周期が含まれる周期成分を第k成分とするとき、第k成分の実効値を指標値Eとすることができる。このときのkとしては、様々な整数値を設定することができる。
【0042】
また、指標値Eとして、検出値の時間方向のムラを表す指標値が算出される。第1センサ61及び第2センサ62は、それぞれ、スプロケット3の歯31とクローラ2の芯金21及び開口23との噛み合いにより発生する音及び振動を検出することができる。従って、正常時においては、等間隔に配列される歯31の回転の間隔に合わせて、概ね一定の時間間隔で検出値の波のピークが繰り返し検出されることになるが、異常時には、このリズムが崩れる。よって、検出値の時間方向のムラを表す指標値Eは、第1センサ61からの検出値に基づく場合、回転音の一定のリズムが崩れているか否かを表すことができ、第2センサ62からの検出値に基づく場合、振動の一定のリズムが崩れているか否かを表すことができる。このとき、例えば、クローラ2の1回転分等、所定の時間長分の検出値の時系列データに表れる、検出値のピークの時間間隔t1、t2、・・・、tn(nは、3以上の整数)を全て算出することができる。そして、時間間隔t2、t3、・・・、tnの各々からt1を減算し、基準値t1に対する差分の割合(t2-t1)/t1、(t3-t1)/t1、・・・、(tn-t1)/t1を全て算出し、これを記憶装置55に記憶する又はRAM54に一時記憶する。そして、現在のこれらの割合の値列から、それぞれ前回のこれらの割合の値列を減算し、その絶対値を加算したものを、指標値Eとすることができる。
【0043】
以上のような指標値Eが算出されると、処理はステップS4に進む。ステップS4では、異常検出部52bは、複数の指標値Eをそれぞれの閾値E0と比較し、閾値E0を超える指標値Eがm個以上存在する場合には、クローラ2に異常が発生していると判断する。mは、1、2、・・・、指標値Eの数のうち、任意の値に設定し得る。なお、閾値E0は、予め設定されていてもよいし、異常が発生していないことが想定されるクローラ2を装着した初期において、ステップS1~S3までと同様の方法で指標値Eを算出し、これを閾値E0としてもよい。後者の場合、指標値Eを複数回算出し、これらの平均を閾値E0とすることができる。
【0044】
以上のようにして、ステップS4において異常が検出された場合には、処理はステップS5に進み、警報部52cが異常の警報を行う。ステップS5では、警報部52cは、クローラ2に異常が発生していることを知らせる警報を表示器7上に表示させるとともに、同様の警報をスピーカー8から音声出力する。これにより、ユーザ(ドライバー)は、クローラ2に異常が発生していることを適時に知り、クローラ2が故障し、車両1が走行不能になる前に、クローラ2の交換等のメンテナンスを行うことができる。ステップS5の後、処理はステップS1に戻る。また、ステップS4において異常が検出されなかった場合も、処理はステップS1に戻る。図6に示す異常検出処理は、車両1の走行が停止したときに終了する。
【0045】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0046】
<3-1>
第1センサ61の取り付け位置は、上述したものに限られない。一例を挙げると、第1センサ61は、スプロケット3自体、又は、軸受け以外のスプロケット3の近傍に配置される部品に取り付けられてもよい。この場合も、第1センサ61は、スプロケット3へのクローラ2の巻き掛け時に発生する回転音(スプロケット3とクローラ2との接触音)の特性を検出し得る。別の例を挙げると、第1センサ61は、アイドラ4自体、又は、軸受けを含むアイドラ4の近傍に配置される部品に取り付けられてもよい。この場合、第1センサ61は、アイドラ4へのクローラ2の巻き掛け時に発生する回転音(アイドラ4とクローラ2との接触音)の特性を検出し得る。なお、クローラ2の内部異常を検出する観点からは、第1センサ61は、スプロケット3又はアイドラ4へのクローラ2の巻き掛け時の回転音の特性を検出し得る位置に配置されることが好ましい。
【0047】
同様に、第2センサ62の取り付け位置も、上述したものに限られない。一例を挙げると、第2センサ62も、スプロケット3自体、又は、軸受け以外のスプロケット3の近傍に配置される部品に取り付けられてもよい。この場合も、第2センサ62は、スプロケット3へのクローラ2の巻き掛け時にスプロケット3とクローラ2との接触により発生する振動の特性を検出し得る。別の例を挙げると、第2センサ62は、アイドラ4自体、又は、軸受けを含むアイドラ4の近傍に配置される部品に取り付けられてもよい。この場合、第2センサ62は、アイドラ4へのクローラ2の巻き掛け時にアイドラ4とクローラ2との接触により発生する振動の特性を検出し得る。なお、クローラ2の内部異常を検出する観点からは、第2センサ62は、スプロケット3又はアイドラ4へのクローラ2の巻き掛け時の振動の特性を検出し得る位置に配置されることが好ましい。
【0048】
<3-2>
上記実施形態では、1つのクローラ2に第1センサ61及び第2センサ62が1つずつ取り付けられたが、1つのクローラ2に複数の第1センサ61を異なる位置に取り付け、複数の箇所の回転音の特性を検出してもよいし、1つのクローラ2に複数の第2センサ62を異なる位置に取り付け、複数の箇所の振動の特性を検出してもよい。また、第1センサ61及び第2センサ62の一方を省略してもよい。
【0049】
<3-3>
上記実施形態では、クローラ2の1回転分の検出値の時系列データに基づいて、指標値Eを算出する例を示したが、1回転分ではなく、2回転分等、1回転よりも長い時間長の時系列データに基づいて指標値Eを算出してもよいし、半回転等、1回転よりも短い時間長の時系列データに基づいて指標値Eを算出してもよい。
【0050】
<3-4>
上述した指標値Eは、例示であり、他の種類の指標値を適宜採用することができる。また、複数種類の指標値Eを用いず、1つの指標値Eのみから異常を検出してもよい。
【0051】
<3-5>
上記実施形態では、第1センサ61として、音波を検出するマイクロフォンが例示されたが、例えば、音圧センサを用いてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 車両
2、2L、2R クローラ
3 スプロケット
4 アイドラ
5 制御ユニット(異常検出装置、コンピュータ)
52 CPU
52a 取得部
52b 異常検出部
61 音センサ
62 振動センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6