(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】畜産加工品様食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23J 3/00 20060101AFI20240326BHJP
A23L 13/60 20160101ALI20240326BHJP
A23J 3/16 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
A23J3/00 506
A23L13/60 A
A23L13/60 Z
A23J3/16 501
(21)【出願番号】P 2020032119
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長友 晋一郎
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-056976(JP,A)
【文献】特開2012-075358(JP,A)
【文献】特開2010-200627(JP,A)
【文献】特開2020-000001(JP,A)
【文献】特開昭57-043644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
A23J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むことを特徴とする、畜産加工品様食品の製造方法。
(1) トランスグルタミナーゼ、油脂及び乳化剤を含有する水中油型乳化液に、粒状植物性たん白を浸漬する工程
(2)(1)に、粉末状植物性たん白を混合する工程
(3)(2)を成形し、トランスグルタミナーゼを架橋反応させる工程
(4)(3)を70℃以上、5分間以上加熱する工程
【請求項2】
水中油型乳化液の油脂および乳化剤を乳化油脂として配合する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
さらに澱粉を混合する工程を含む、請求項1ないし2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵白を配合せずに植物性原材料のみでも製造可能な、ソーセージ・ハムなどの畜産加工品様食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護への関心が高まり、同時に動物愛護や健康面も含めた様々な配慮を背景とした食の多様化が進むとともに、植物性食品への志向が増加している。ソーセージ、ハム、ハンバーグなどの畜産加工食品類においても、畜肉の代わりに植物性たん白を活用した製品開発が行われている。
【0003】
これらの加工食品類には結着剤、ゲル化剤として卵白が配合されることが多く、植物性原材料主体の製品を製造する場合には卵白の代替、とりわけ特有の硬く脆い食感の実現が課題となることがある。卵白代替の技術としては、ゲルを強化したメチルセルロース(特許文献1)、膨潤抑制澱粉、小麦蛋白を含有する組成物(特許文献2)、トランスグルタミナーゼ及びカラギーナンを含有するピックル液を用いる方法(特許文献3)などが開示されている。
【0004】
特許文献4は、豆腐にトランスグルタミナーゼを作用させた、植物性ソーセージ代替品の製造に関する出願であるが、肉粒感や組織・繊維感に乏しく、代替品としての応用用途が限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-71779号公報
【文献】国際公開WO2016/52712号
【文献】国際公開WO2007/29867号
【文献】特開2001-352911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は植物たん白、特に大豆たん白を主原料とし、卵白を用いずに良好な結着性と食感を有する、ソーセージなどの畜産加工食品様食品を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題について鋭意検討し、まずトランスグルタミナーゼの利用を試み、これを乳化油脂を用いて調製した水中油型乳化液に含有させ、粒状大豆たん白の水戻し液とすることで、一定の結着性とジューシー感が得られることを確認した。さらに検討をすすめ、これを粉末状大豆たん白と組み合わせて加熱時間や各種条件を調整することで、それぞれ単体では得られない、卵白を使用したソーセージと遜色のない物性が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0009】
(畜産加工品様食品)
本発明において畜産加工品様食品とは、主原料として畜肉を用いずに、植物性原材料のみ又は植物性原材料を主体として配合し製造した加工食品のことをいう。形態としてはウインナーソーセージ、フランクフルトソーセージ、ボロニアソーセージなどのソーセージ類、プレスハムなどのハム類、ハンバーグ類、ミートボール、パテなどが例示できる。また、本発明の方法を用いることで、魚介類を用いずに水産加工品様の食品を製造することも可能である。具体的には切り身魚様成形食品およびこれらを具材・中種として用いたフライ、天ぷらなどの総菜類が例示できる。
【0010】
(トランスグルタミナーゼ)
本発明に使用するトランスグルタミナーゼは、市販の製剤を用いることができる。具体的には、例えば味の素株式会社製「アクティバTG-H」「アクティバTG-H-NF」が挙げられる。動物性原料不使用とする場合には賦形剤としての乳糖不使用タイプを用いる等、商品設計により製剤の種類は適宜選択することができる。使用量は製剤中の酵素含有量や活性により適宜調整するが、前述のアクティバTG-Hシリーズ(製剤中のトランスグルタミナーゼ含有量0.4%)を用いる場合、後述する水中油型乳化液中0.2重量%以上1.0重量%以下、好ましくは0.3~0.7重量%となるように配合する。これより少ないと本発明の効果が十分に得られない場合があり、これより多く配合しても効果は変わらずに製造コストのみが増加してしまう場合がある。
【0011】
(粒状植物性たん白)
本発明に用いる粒状植物性たん白とは、大豆、脱脂大豆、分離大豆たん白、小麦、小麦たん白、エンドウ、エンドウたん白に例示される植物性の原材料を配合し、一軸又は二軸押出成型機(エクストルーダー)を用いて高温高圧下に組織化して得られるもので、粒状やフレーク状などの形状がある。本発明には大豆を主原料とする粒状大豆たん白が好適である。また、所望の最終商品形態に応じ、任意の形状や大きさの製品を適宜選択し使用することができる。なお、水戻し済で流通する製品も存在するが、本発明には乾燥品(水分10%以下)を用いることが望ましい。乾燥品を水中油型乳化液で水戻しすることにより、本発明の効果を最大限に発揮することができる。
【0012】
(粉末状植物性たん白)
本発明に用いる粉末状植物性たん白としては、大豆、小麦、エンドウに例示される植物性原材料から製造される市販品を適宜選択することができる。中でも畜産加工食品用途や水産練り製品に用いられる、ゲル形成性を有する製品を用いることで、適度な結着性を得られるため好ましい。配合量は粒状植物性たん白(乾燥品)100重量部に対し30重量部以上80重量部以下、より好ましくは35重量部以上70重量部以下である。これより少ないと最終製品での結着が弱くなる場合があり、これより多いと畜産加工品様の肉粒感・組織感が不足する場合がある。なお、本発明においては大豆由来の粉末状大豆たん白を用いることが好ましい。粉末状大豆たん白とは、大豆のたん白を高純度に抽出、回収、粉末化したものである。
【0013】
(油脂)
本発明には任意の食用油脂を適宜用いることができ、例えば、菜種油、大豆油、ひまわり種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、パーム核油、ヤシ油等の植物性油脂ならびに乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂が例示でき、これらの油脂類の単独または混合油あるいはそれらの硬化分別油、ならびに酵素エステル交換、触媒によるランダムエステル交換等を施した加工油脂が例示できる。
【0014】
(乳化剤)
本発明においては水中油型の乳化物を調製可能な乳化剤を適宜使用することができ、例えばポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンやその部分加水分解物リゾレシチンなどを含むリン脂質、糖脂質、サポニン、及び大豆蛋白やカゼインナトリウムなどを含む蛋白質などが例示できる。
【0015】
(乳化油脂)
前述の油脂および乳化剤は個別に配合することもできるが、これらを含有する乳化油脂を用いることで簡便に乳化液が作成可能であり好ましい。乳化油脂としては製菓・製パン用や総菜用の市販品をいずれも用いることができ、より具体的には「ユニショート」及び「パーミング」製品群(いずれも不二製油(株)製)が例示できる。
【0016】
(水中油型乳化液)
本発明においては、少なくともトランスグルタミナーゼと、油脂と、乳化剤を含む水中油型(O/W型)乳化液を調製する。乳化液の調製方法は常法に従えばよく、原材料をホモミキサー、プロペラ式攪拌機で混合する方法が例示できる。乳化油脂を用いる場合は簡易な攪拌で乳化液が作成でき、例えばスパテラ等を用いて混合攪拌してもよい。乳化液中の油脂ないしは乳化油脂の割合は5~50重量%、より好ましくは10~30重量%、最も好ましくは15~25重量%である。これより少ないと最終製品のジューシー感が不足する場合があり、これより多いと水中油型乳化液の安定性が損なわれたり、最終製品に油浮き・油染みが生じたりする場合がある。
【0017】
(澱粉)
本発明においては、さらに澱粉を混合することで、より良好な結着性を得ることができる。澱粉としては食用の澱粉類をいずれも用いることができ、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、及び/又はこれらの加工澱粉類から選ばれる1種類以上を、単独あるいは適宜組み合わせて用いることができる。配合量は粒状植物性たん白(乾燥品)100重量部に対し20~60重量部、より好ましくは30~50重量部である。これより少ないと最終製品での結着が弱くなる場合があり、これより多いと澱粉由来の食感が強めに出てしまう場合がある。
【0018】
(その他原材料)
本発明には前述の他、塩類、糖類、増粘安定剤、調味料、香辛料、酸味料、着色料、保存料、発色剤、pH調整剤、酸化防止剤等、通常一般の畜産加工品類において配合される原材料を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜用いることができる。ただし、食塩などの塩類は粉末状植物性たん白の溶解性を阻害する場合があるため、水中油型乳化液には加えず、粉末状植物性たん白の混合より後の工程で添加することが望ましい。
【0019】
(粒状植物性たん白の浸漬工程)
前述の水中油型乳化液に、粒状植物性たん白(乾燥品)を加えて浸漬する。粒状植物性たん白100重量部に対し、水中油型乳化液中の水分を200~800重量部、より好ましくは250~700重量部とすることが望ましい。これより少ないと膨潤が不十分になる場合があり、これより多いと最終製品の結着が不十分になったり、柔らかすぎたり水っぽい製品になってしまう場合がある。浸漬時間は、作業スケールや粒状植物性たん白の形状・吸水性にもよるが、1~24時間が望ましい。短いと吸水が不十分となったり、長すぎると酵素反応が進み過ぎたりしてしまう場合がある。また、浸漬の温度は冷蔵温度域(3~10℃)が好ましい。常温以上では酵素反応が進み過ぎて以降の作業が行いにくくなったり、十分な結着性が得られなくなったりする場合がある。
【0020】
(粉末状植物性たん白、澱粉の混合)
浸漬膨潤した粒状植物性たん白に対し、粉末状植物性たん白を加えて均一に混合する。さらに澱粉を混合することもできる。工程中における澱粉の混合時期は成形よりも前であれば良く、粉末状植物性たん白の混合前、同時、又は混合後のいずれでも、さらには分割して何度かに分けて加えることもできるが、粉末状植物性たん白の混合後に添加し混合するのが最も効率的である。
【0021】
ここでの混合手段と得られる畜産加工食品様食品の組織についてより具体的に説明する。ミキサー、ケンウッドミキサー等を用いて全体を練りながら攪拌混合する場合は、粒状植物性たん白の形状が残り、粗挽き様の組織が得られる。サイレントカッター、ロボクープ等を用いて細断しながら練り合わせてもよく、この場合は粒状植物性たん白が細片化し、絹挽き様の組織が得られる。これらを適宜使い分けたり、組み合わせたりして製造することができる。
【0022】
(成形)
生地はさらに所望の商品形態に応じ、常法に従いケーシング充填などを行い成形する。
【0023】
(トランスグルタミナーゼの架橋反応)
続いて、トランスグルタミナーゼを酵素反応すなわち架橋反応させ、組織を結着させる。反応は3~10℃の低温域でも進行するが、作業効率の向上、及びより強い結着性を得るためには加熱を行うことが望ましい。加熱条件は製品の形状やサイズにより適宜調整することができるが、40~65℃で10分間以上、より好ましくは45~60℃、10~100分間が、効率化の観点からも望ましい。
【0024】
(加熱工程)
前項の架橋反応の後に70℃以上で5分間以上、好ましくは70~130℃で5~60分間、より好ましくは80~125℃で5~50分間加熱する。レトルト加熱とすることもできる。この加熱により酵素が失活し、同時に粉末状植物性たん白によるゲル化が進み、より強い結着性を得ることができる。温度や時間がこれ以下では酵素失活が不十分だったり、結着性が弱くなったりする場合がある。
【0025】
なお、本発明の方法によれば畜肉、魚介類、卵、卵白・粉末卵白、乳製品などの動物性原材料を配合せずに製造できるため、ベジタリアンやヴィーガン向けのニーズにも合致した食品が提供できる。
【0026】
(実施例)
以降に本発明をより詳細に説明する。なお、文中部および%は特に断りのない限り重量基準を意味する。
【0027】
(実施例1)
水100部、市販のトランスグルタミナーゼ製剤(アクティバTG-H-NF、味の素株式会社製)0.9部、クチナシ色素0.15部をスパテラで混合し、続いて市販の乳化油脂(ユニショートEF、不二製油株式会社製)25部を加えて混合し、水中油型乳化液を調製した。この水中油型乳化液126部に対し、フレーク形状の粒状大豆たん白(アペックス650、不二製油株式会社製)25部を加え浸漬し、冷蔵庫で1時間静置した。ここに粉末状大豆たん白(フジプロ748、不二製油株式会社製)15部を加え、ロボクープで細断しながら均一に混合した。続いて食塩1.2部、澱粉(商品名:RK-08、タピオカ由来加工澱粉、グリコ栄養食品株式会社製)10部、砂糖、調味料・香辛料類を加えてさらに混合した。なお、調味料・香辛料は動物性原料不使用とした。ソーセージ用ケーシングに充填、真空脱気し、50℃で60分間加熱を行い、トランスグルタミナーゼの架橋反応を行った。続いて90℃で30分間加熱し、絹挽きソーセージ様食品を得た。冷却後一部のサンプルを冷蔵にて保管し、他は急速凍結した。翌日、冷凍品をボイル加熱し、冷蔵保存品とあわせて官能評価を行った。
【0028】
(官能評価基準)
官能評価は熟練したパネラー5名にて行い、食感を主体に評価し、合議により判定した。
◎:通常のソーセージと遜色なく、特に良好
○:ソーセージ様食品として問題なく良好
△:やや劣る
×:ソーセージ様食品としては難あり
【0029】
(実施例2)
実施例1の粒状大豆たん白(アペックス650)を15部とし、顆粒状の粒状大豆たん白であるニューフジニック80N(不二製油株式会社製)10部を加え、ケンウッドミキサーで混合し、粗挽きソーセージ様食品を得た。
【0030】
(実施例3)
乳化油脂を15部とし、他は実施例1と同じ工程でソーセージ様食品を得た。
【0031】
(実施例4)
乳化油脂15部、粉末状大豆たん白10部、澱粉8部とし、他は実施例1と同じ工程でソーセージ様食品を得た。
【0032】
(比較例1)
実施例1の配合工程中、粉末状大豆たん白の添加混合を行わず、他は同じ工程で製造した。
【0033】
(比較例2)
実施例1の配合において、トランスグルタミナーゼ製剤を添加せずに水中油型乳化液を調製し、他は同じ工程で製造した。
【0034】
(結果)
実施例においてはいずれも良好なソーセージ様食品が得られた。実施例2において加熱冷却後に凍結・解凍を行ったものは、冷蔵品よりも更にジューシー感が増し、より好ましいと評価された。粗挽き肉状に残った粒状大豆たん白の組織内に保持された水中油型乳化液の一部が解乳化し、これがジューシー感に関与している可能性が推定された。実施例3、4は、実施例1、2と比較するとややジューシー感が少なく、また実施例4は若干柔らかいが、いずれもソーセージ様食品として良好であった。一方、比較例1は緩く纏まっているのみで結着せず、脆く、ねちゃつく食感であった。比較例2は結着しているが、粉っぽく、弾力に欠け、ソーセージ様食品としての好ましい食感に劣るものであった。
【0035】
【0036】
(実施例5、6)
実施例1、2と同配合で、粒状大豆たん白の浸漬時間を15時間に変更し、同様に製造した。得られたソーセージ様食品の品質(物性、風味、色調)は実施例1、2と大差なく良好であった。
【0037】
(実施例7、8)
実施例1、2と同配合で、粒状大豆たん白の浸漬時間を15時間、成形後の加熱を121℃、10分間(レトルト加熱)に変更し、同様に製造した。得られたソーセージ様食品は実施例1、2と比較すると色調には若干くすみが感じられたが、風味は向上する傾向であった。いずれにしてもソーセージ様食品として問題なく良好なものであった。