(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法、および架橋体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 8/20 20060101AFI20240326BHJP
C08G 8/00 20060101ALI20240326BHJP
C08L 61/12 20060101ALI20240326BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20240326BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240326BHJP
【FI】
C08G8/20 A
C08G8/00 B
C08L61/12
C08K5/17
C08K3/013
(21)【出願番号】P 2020035919
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2023-02-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25-31年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】郷 義幸
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-118298(JP,A)
【文献】特開2008-156601(JP,A)
【文献】特開2018-165316(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190171(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/179820(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 8/00-8/38
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて、第一の反応生成物
と前記酸触媒とを
含む第一の反応混合物を得る第一の工程と、
前記第一の反応混合物にノボラック型フェノール樹脂を添加して、前記第一の反応生成物と、
前記ノボラック型フェノール樹脂とを
、前記酸触媒の存在下で反応させて、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る第二の工程と、を含む、
リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記第一の工程において、前記フェノール類に対する前記アルデヒド類のモル比(F/P)が、0.45以上1.0以下である、請求項1に記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量が、4,000以上、30,000以下である、請求項1または2に記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量が、10,000以上、30,000以下である、請求項1~3のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記第二の工程において、前記ノボラック型フェノール樹脂が、前記フェノール類と前記リグニン類との合計量に対して、10質量%以上、50質量%以下の量である、請求項1~4のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記第一の工程および前記第二の工程が、加熱下で実施される、請求項1~5のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記第一の工程が、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて前記第一の反応生成物
と前記酸触媒とを含む第一の反応混合物を得る工程、および前記第一の反応混合物から水を除去する工程を含む、請求項1~6のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記第一の工程が、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて前記第一の反応生成物
と前記酸触媒とを含む第一の反応混合物を得る工程、および前記第一の反応混合物から、未反応の前記フェノール類を除去する工程を含む、請求項1~7のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記リグニン類が、リグニンまたはリグニン誘導体を含む、請求項1~
8のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記アルデヒド類が、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドを含む、請求項1~
9のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記フェノール類が、フェノール、クレゾール、キシレノール、アルキルフェノールおよびビスフェノールからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1~
10のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項12】
前記
リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂のリグニン変性率が、10%以上40%以下である、請求項1~
11のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれかに記載の方法によりリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る第一の工程と、
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂に、硬化剤を混合して、架橋型樹脂組成物を得る第二の工程と、
前記架橋型樹脂組成物を加熱処理して、前記架橋型樹脂組成物の架橋体を得る第三の工程と、
を含む、架橋体の製造方法。
【請求項14】
前記硬化剤が、ヘキサメチレンテトラミンを含む、請求項
13に記載の架橋体の製造方法。
【請求項15】
前記第二の工程が、充填剤を混合する工程をさらに含む、請求項
13または
14に記載の架橋体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法、およびリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂から架橋体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでリグニン変性フェノール樹脂の製造方法において様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、リグニンとフェノール反応させた後、ホルムアルデヒドを添加する手順が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の方法で得られたリグニン変性フェノール樹脂を用いた成形材料は、射出成形が困難であったり、射出成形できたとしても硬化性や成形性が悪く、精密な成形が困難であったりする場合があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、リグニン変性フェノール樹脂の製造プロセスを適切に調整することで、精密な射出成形が可能なリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂が得られることを見出した。またさらに、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類との反応により得られる反応生成物に、ノボラック型フェノール樹脂をさらに反応させて得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、その硬化物が優れた機械的特性を有することを見出した。
【0006】
本発明によれば、
リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて、第一の反応生成物と前記酸触媒とを含む第一の反応混合物を得る第一の工程と、
前記第一の反応混合物にノボラック型フェノール樹脂を添加して、前記第一の反応生成物と、前記ノボラック型フェノール樹脂とを、前記酸触媒の存在下で反応させて、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る第二の工程と、を含む、
リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法が提供される。
【0007】
また本発明によれば、
上記方法によりリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る第一の工程と、
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂に、硬化剤を混合して、架橋型樹脂組成物を得る第二の工程と、
前記架橋型樹脂組成物を加熱処理して、前記架橋型樹脂組成物の架橋体を得る第三の工程と、
を含む、架橋体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形性が改善されたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を製造する方法、および当該リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂から架橋体を製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法を説明する。
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて、第一の反応生成物を得る第一の工程と、前記第一の反応生成物と、ノボラック型フェノール樹脂とを反応させて、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る第二の工程とを含む。
【0010】
本発明者の知見によれば、このような製造方法で得られたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール樹脂が本来有する耐熱性や強度等の優れた特性を維持しつつ、優れた成形性を有し、また当該リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を、架橋剤により架橋(硬化)して得られる架橋体(硬化体)は、優れた機械的物性を備える。
【0011】
以下、本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法について詳述する。
【0012】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、以下の工程1および工程2を含む。
(工程1)リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて、第一の反応生成物を得る第一の工程。
(工程2)第一の工程で得られた第一の反応生成物と、ノボラック型フェノール樹脂とを反応させて、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る第二の工程。
【0013】
本実施形態において、工程1(第一の工程)は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて、第一の反応生成物を含む第一の反応混合物を得る工程を含む。ここで第一の反応生成物は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類との反応生成物であり、リグニン変性フェノール樹脂である。
【0014】
本実施形態において、工程2(第二の工程)は、工程1で得られた第一の反応生成物であるリグニン変性フェノールと、未変性ノボラック型フェノール樹脂とを反応させて、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る工程である。
【0015】
<フェノール類>
本実施形態の工程1で用いられるフェノール類としては、フェノール、フェノール誘導体及びこれらの組み合わせが挙げられる。フェノール誘導体としては、ベンゼン環に任意の置換基が導入されたフェノールを使用できる。置換基としては、ヒドロキシ基;メチル基、エチル基等の低級アルキル基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;アミノ基;ニトロ基;カルボキシ基等が挙げられる。用いることができるフェノール類としては、フェノール、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-フルオロフェノール、m-フルオロフェノール、p-フルオロフェノール、o-クロロフェノール、m-クロロフェノール、p-クロロフェノール、o-ブロモフェノール、m-ブロモフェノール、p-ブロモフェノール、o-ヨードフェノール、m-ヨードフェノール、p-ヨードフェノール、o-アミノフェノール、m-アミノフェノール、p-アミノフェノール、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、2,4-ジニトロフェノール、2,4,6-トリニトロフェノール、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。フェノール類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
フェノール類としてはまた、炭素数が2~18のアルキルフェノール類を用いることができる。アルキルフェノール類は、アルキル鎖に分岐鎖を有していても良いし、不飽和結合を有していても良い。またベンゼン環上のアルキル鎖の置換位はオルト、メタ、パラ置換のいずれであってもよい。アルキルフェノール類の例としては、例えば、エチルフェノール、プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、セカンダリーブチルフェノール、ターシャリーブチルフェノール、アミルフェノール、ターシャリーアミノフェノール、ヘキシルフェノール、へプチルフェノール、オクチルフェノール、ターシャリーオクチルフェノール、ノニルフェノール、ターシャリーノニルフェノール、デシルフェノール、ウンデシルフェノール、ドデシルフェノール、トリデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ペンタデシルフェノール、カルダノール、カードル、ウルシオール、ヘキサデシルフェノール、メチルカードル、ヘプタデシルフェノール、ラッコール、チオール、オクタデシルフェノールが挙げられる。またアルキルフェノール類として、カシューナット殻液(カシューオイル)、ウルシ抽出物などの植物油を用いることができる。
【0017】
これらの中でも、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、アルキルフェノールおよびビスフェノールからなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましく、製造コストの観点より、フェノール、クレゾール、ブチルフェノール、ビスフェノールAを用いることが好ましい。
【0018】
<リグニン類>
本実施形態の工程1で用いられるリグニン類は、リグニンおよびリグニン誘導体から選択される少なくとも1つを含む。
リグニンは、セルロース及びヘミセルロースとともに、植物体の構造を形成する主要成分であり、また、自然界に最も豊富に存在する芳香属化合物の1つである。リグニンとしては、クラフトリグニン、リグニンスルホン酸、ソーダリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン等のパルプリグニン;オルガノソルブリグニン;爆砕リグニン;リグノフェノール;フェノール化リグニン等が挙げられる。リグニンの由来は特に限定されず、リグニンを含み木質部が形成される木材や草本類等が挙げられ、スギ、マツ及びヒノキ等の針葉樹、ブナ、白樺、ナラ及びケヤキ等の広葉樹、イネ、ムギ、トウモロコシ及びタケ等のイネ科植物(草本類)が挙げられる。
【0019】
本実施形態において、「リグニン誘導体」とは、リグニンを構成する単位構造、又はリグニンを構成する単位構造に類似する構造を有する化合物をいう。リグニン誘導体は、フェノール誘導体を単位構造とする。この単位構造は化学的及び生物学的に安定な炭素-炭素結合や炭素-酸素-炭素結合を有するため、化学的な劣化や生物的分解を受け難い。
【0020】
リグニン誘導体としては、下記式(1)の式(A)で表わされるグアイアシルプロパン(フェルラ酸)、下記式(B)で表わされるシリンギルプロパン(シナピン酸)、及び下記式(C)で表わされる4-ヒドロキシフェニルプロパン(クマル酸)等が挙げられる。リグニン誘導体の組成は、原料となるバイオマスによって異なる。針葉樹類からは主にグアイアシルプロパン構造を含むリグニン誘導体が抽出される。広葉樹類からは主にグアイアシルプロパン構造及びシリンギルプロパン構造を含むリグニン誘導体が抽出される。草本類からは主にグアイアシルプロパン構造、シリンギルプロパン構造及び4-ヒドロキシフェニルプロパン構造を含むリグニン誘導体が抽出される。
【0021】
【0022】
リグニン誘導体は、バイオマスを分解して得られたものが好ましい。バイオマスは光合成の過程で大気中の二酸化炭素を取り込み固定化したものであることから、バイオマスは大気中の二酸化炭素の増加抑制に寄与しており、バイオマスを工業的に利用することによって、地球温暖化の抑制に寄与することができる。バイオマスとしては、リグノセルロース系バイオマスが挙げられる。リグノセルロース系バイオマスとしては、リグニンを含有する植物の葉、樹皮、枝及び木材、並びにこれらの加工品等が挙げられる。リグニンを含有する植物としては、上述の広葉樹、針葉樹、及びイネ科植物等が挙げられる。
【0023】
バイオマスの分解方法としては、薬品処理する方法、加水分解処理する方法、水蒸気爆砕法、超臨界水処理法、亜臨界水処理法、機械的に処理する方法、硫酸クレゾール法、パルプ製造法等が挙げられる。環境負荷の観点からは、水蒸気爆砕法、亜臨界水処理法、機械的に処理する方法が好ましい。コストの観点からは、パルプ製造法が好ましい。またコストの観点からは、バイオマス利用の副生成物を用いることが好ましい。リグニン誘導体は、バイオマスを、溶媒存在下で150~400℃、1~40MPa、8時間以下で分解処理することにより調製できる。また、リグニン誘導体は、特開2009-084320号公報及び特開2012-201828号公報等に開示された方法で調製できる。
【0024】
リグニン誘導体としては、リグニンとセルロースとヘミセルロースとが結合したリグノセルロースを分解したもの等が挙げられる。リグニン誘導体は、リグニン骨格を有する化合物を主成分とするリグニン分解物、セルロース分解物及びヘミセルロース分解物等を含み得る。
【0025】
リグニン誘導体は、芳香環への親電子置換反応によって硬化剤が作用する反応サイトを多く有することが好ましく、反応サイト近傍の立体障害が少ない方が反応性に優れる点から、フェノール性水酸基を含む芳香環のオルト位及びパラ位の少なくとも一方が無置換であることが好ましく、リグニンの芳香族単位としてグアイアシル核や4-ヒドロキシフェニル核の構造を多く含む、針葉樹や草本類由来のリグニンが好ましい。リグニン誘導体としては、特開2009-084320号公報及び特開2012-201828号公報等に開示されたものが使用できる。
【0026】
また、リグニン誘導体は、上記基本構造の他、リグニン誘導体に官能基を有するもの(リグニン二次誘導体)であってもよい。
【0027】
リグニン二次誘導体が有する官能基としては、特に限定されないが、例えば2個以上の同じ官能基が互いに反応し得るもの、又は他の官能基と反応し得るものが好適である。具体的には、エポキシ基、メチロール基の他、炭素-炭素不飽和結合を有するビニル基、エチニル基、マレイミド基、シアネート基、イソシアネート基等が挙げられる。このうち、メチロール基が導入された(メチロール化された)リグニン誘導体が好ましく用いられる。このようなリグニン二次誘導体は、メチロール基同士の自己縮合反応により自己架橋が生じるとともに、下記架橋剤中のアルコキシメチル基や水酸基に対して架橋する。その結果、特に均質で剛直な骨格を有し、耐溶剤性に優れたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂が得られる。
【0028】
さらに、本開示におけるリグニン誘導体は、カルボキシル基を有してもよい。カルボキシル基を有するリグニン誘導体から得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、下記に記載する架橋剤に対する架橋点を多く有するため、得られる架橋体の架橋密度を向上させることができ、結果として耐溶剤性に優れた架橋体を得ることができる。
【0029】
なお、上述したリグニン誘導体中がカルボキシル基を有する場合は、そのカルボキシル基は、カルボキシル基に帰属する13C-NMR分析に供されたとき、172~174ppmのピークの吸収の有無によって確認することができる。
【0030】
<アルデヒド類>
本実施形態の工程1で用いられるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、パラキシレンジメチルエーテル等が挙げられる。好ましくは、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、ポリオキシメチレン、アセトアルデヒド、パラキシレンジメチルエーテル及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。アルデヒド類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、生産性および安価な観点から、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドを用いることが好ましい。
【0031】
<酸触媒>
本実施形態の工程1で用いられる酸触媒としては、反応の触媒として使用できるものであればよく、有機酸、無機酸及びこれらの組み合わせを使用することができる。有機酸としては、酢酸、ギ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸、サリチル酸、スルホン酸、フェノールスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硫酸エステル、リン酸、リン酸エステル等が挙げられる。
【0032】
上記工程1において、フェノール類(P)に対するアルデヒド類(F)のモル比(F/Pモル比)は、たとえば、0.45~1.0であり、好ましくは0.6~0.9である。アルデヒド類を上記範囲で用いることにより、未反応の残存フェノール類の量を少なくすることができる。
【0033】
上記工程1の反応温度は、例えば、60℃~120℃としてもよく、好ましくは80℃~100℃としてもよい。これにより、効率よく反応を十分に進めることができる。なお、反応時間は、特に制限はなく、出発原料の種類、配合モル比、触媒の使用量及び種類、反応条件に応じて適宜決定すればよい。
【0034】
上記工程1に用いる原料としては、フェノール類やアルデヒド類以外の成分が含まれていてもよく、原料成分は、一括で添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。
【0035】
上記工程1は、無溶媒下で実施することが好ましいが、溶媒として有機溶媒や水を用いてもよい。有機溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素類が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸アミル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等が挙げられる。エーテル類としては、プロピルエーテル、ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテートが挙げられる。炭化水素類としては、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ソルベントナフサ、工業ガソリン、石油エーテル、石油ベンジン、リグロイン等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
工程1の後、かつ工程2の前に、工程1で得られた第一の反応生成物を含む第一の反応混合物に対して脱水を実施する脱水工程を行ってもよい。脱水方法としては、減圧脱水を用いてもよいが、常圧脱水を用いてもよい。例えば、減圧脱水時の真空度は、例えば、110torr以下としてもよく、さらに好ましくは80torr以下としてもよい。
【0037】
工程1の後、かつ工程2の前に、工程1で得られた反応液中に残存している未反応のフェノール類を除去する除去工程を行ってもよい。除去工程としては、通常の脱モノマー工程により未反応のフェノール類を除去する工程を用いることができる。
【0038】
工程1の後、工程2が実施される。工程2は、工程1で得られた第一の反応生成物に、ノボラック型フェノール樹脂を混合する工程を含む。ノボラック型フェノール樹脂は、工程1で得られた第一の反応生成物を含む反応混合物に対して、一度に添加されてもよいし、複数回に分けて添加されてもよい。
【0039】
工程2において、ノボラック型フェノール樹脂を混合する工程は、加熱下で実施することが好ましい。工程1で得られた第一の反応生成物であるリグニン変性フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを加熱溶融せずに単に固体で混合した場合、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、架橋剤との架橋反応が均一に進行せず、得られる架橋体の機械的強度が低下する場合がある。これに対して、好ましい本実施形態によれば、工程1で得られた加温された状態のリグニン変性フェノール樹脂に、未変性ノボラック型フェノール樹脂を反応させることにより、これらが均一に混合され、分子間の絡み合いや分子間の作用により、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、均一に硬化し得、よって寸法精度に優れた成形を実現することができる。
【0040】
ここで、フェノール類とリグニン類とアルデヒド類の反応比率を調整してリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の分子量を高めた場合、反応物の粘度が高くなることや、脱水がしにくくなるため、プロセス時間が長くなる恐れがある。また、未反応フェノール類が多く残存する恐れがある。
これに対して、本実施形態は、上記のフェノール類とリグニン類とアルデヒド類の反応比率で分子量を高める場合と比較して、プロセス時間が短くすることや、樹脂の収率を高めることができる。また、未変性ノボラック型フェノール樹脂の分子量、分子量分布、添加量を調整することによって、得られるリグニン変性フェノール樹脂の特性や樹脂材料の物性を目的に応じて容易に調整することができる。
【0041】
本実施形態において、工程1と工程2との間に、工程1で得られた反応混合物を、室温25℃まで低下させる工程を含まない構成とすることができる。すなわち、本実施形態の製造方法において、工程1と工程2とを加熱下で実施することが好ましい。
【0042】
工程1と工程2とを加熱下で実施することにより、固形のノボラック型フェノール樹脂とリグニン変性フェノール樹脂とを溶融混合する場合と比較して、生産性に優れるのみならず、機械的物性や寸法精度に優れた成形材料用のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得ることができる。詳細なメカニズムは不明だが、本実施形態の製造方法により得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、未変性ノボラック型フェノール樹脂へのリグニン変性フェノール樹脂の分散性が高まり、ノボラック型フェノール樹脂とリグニン変性フェノール樹脂の分子間の絡み合いや分子間の反応により硬化反応が均一となり、寸法精度に優れた成形が可能であり、さらに得られる成形体は優れた機械的強度を有する。
【0043】
また、工程2において、工程1で得られた第一の反応混合物に対して、未変性ノボラック型フェノール樹脂を添加してもよい。すなわち、工程1で得られた、未反応の原料、残存する酸触媒、および生成したリグニン変性フェノール樹脂(第一の反応生成物)を含む反応混合物に対して、酸触媒の中和処理や、リグニン変性フェノール樹脂の単離または抽出処理などの後処理を何ら行うことなく、未変性ノボラック型フェノール樹脂を添加してもよい。
【0044】
<ノボラック型フェノール樹脂>
本開示において用いるノボラック型フェノール樹脂(本明細書において、「未変性ノボラック型フェノール樹脂」と称する場合がある)の具体例としては、フェノール類とアルデヒド類とを無触媒または触媒存在下で反応させて得られるフェノール樹脂、クレゾール樹脂、キシレノール樹脂およびナフトール樹脂などが挙げられ、ランダムノボラック型でもハイオルソノボラック型でも用いることができる。またビスフェノールF(4,4-メチレンビスフェノール、2,4-メチレンビスフェノール、2,2-メチレンビスフェノール)、ビスフェノールA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールS(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン)、ビスフェノールE(4,4-エチリデンビスフェノール)、ビスフェノールフルオレン(4,4-(9H-フルオレン-9-イリデン)ビスフェノール)、4,4-メチリデンビス(2,6-ジメチルフェノール)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタノンなどのビスフェノール類をそのまま用いることもできる。
【0045】
本実施形態で用いる未変性ノボック型フェノール樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10,000以上、30,000以下であり、より好ましくは、12,000以上、20,000以下である。前記下限値以下では、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の硬化性や、硬化物の物性の向上効果が低く、また前記上限値以上では、工程2における未変性ノボラック型フェノール樹脂の添加工程で、得られた混合物の溶融粘度が上昇し、目的のフェノール樹脂の生産性が低下する。また、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の粘度が上昇することにより、成形時の樹脂の流動性が低下し、成形性や加工性の低下を招く。
【0046】
工程2において、未変性ノボック型フェノール樹脂の添加量は、フェノール類とリグニン類の合計数量に対して、10質量%以上、50質量%以下であり、より好ましくは、20質量%以上、40質量%以下である。前記下限値以下では、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の硬化性や硬化物の物性の向上効果が低く、また前記上限値以上では、工程2における未変性ノボラック型フェノール樹脂の添加工程で、得られた混合物の溶融粘度が上昇し、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の粘度が上昇することにより、成形時の樹脂の流動性が低下し、成形性や加工性の低下を招く場合がある。
【0047】
本実施形態の製造方法において、工程1と工程2とは、連続して行われてもよいし、工程1と工程2との間に他の工程が含まれていてもよい。
【0048】
以上の工程で得られた反応混合物より、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を単離することができる。上記反応工程において、酸性条件下、適当なF/Pの値を選択することで、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、工程1で得られるリグニン変性フェノール樹脂由来の構造と、工程2で用いられたノボラック型フェノール樹脂由来の構造との双方を有し得る。
【0049】
上記工程1および工程2を経て得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、その重量平均分子量が、例えば、4,000~30,000であり、好ましくは、5,000~25,000である。リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量は、反応条件を適宜変更することにより、調整することができる。
【0050】
上記リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は、10%以上、40%以下、好ましくは12%以上、35%以下、より好ましくは15%以上、30%以下である。
【0051】
上述のようにして得られたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、例えば、射出成形用の樹脂材料として好適に用いられる。本実施形態の方法により得られたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、精密な射出成形が可能であり、寸法精度に優れた成形品を得ることができるとともに、その成形品は、強度および弾性率などの機械的物性において優れる。
【0052】
本実施形態の方法により得られたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、架橋体との架橋反応に供することにより、架橋体を形成し得る。当該架橋体は、成形体として任意の用途に使用することができる。
【0053】
本実施形態の架橋体を製造する方法は、上述の方法によりリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る第一の工程と、前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂に、硬化剤を混合して、架橋型樹脂組成物を得る第二の工程と、前記架橋型樹脂組成物を加熱処理して、この架橋型樹脂組成物の架橋体を得る第三の工程と、を含む。
【0054】
上記硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤を用いることができる。アミン系硬化剤としては、具体的には、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミンなどを用いることができる。アミン系硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンテトラミンを用いることが好ましい。
【0055】
上記硬化剤の含有量は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、例えば、7質量部~30重量部であり、好ましくは、10質量部~25質量部である。上記数値範囲内とすることにより、良好な硬化性を有する架橋型樹脂組成物を得ることができる。なお、本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0056】
本実施形態の架橋体の製造方法における第二の工程は、充填材をさらに混合する工程を含むことができる。すなわち、上記架橋型樹脂組成物は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂、硬化剤および充填材を含むことができる。
【0057】
上記充填材としては、例えば、繊維基材、有機充填材、無機充填材等を用いることができる。繊維基材は、繊維状の形態を有する充填材である。有機充填材および無機充填材は、それぞれ、粒状充填材または板状充填材のいずれでもよい。板状充填材はその形状が板状である充填材である。粒状充填材は、不定形状を含む繊維状・板状以外の形状の充填材である。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
上記粒状充填材としては、例えば、粒形の無機充填材を用いることができ、ガラスビーズ、ガラスパウダー、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、水酸化アルミニウム、クレーおよびマイカなどを用いることができる。
【0059】
上記繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、金属繊維、ワラストナイト、アタパルジャイト、セピオライト、ロックウール、ホウ酸アルミニウムウイスカー、チタン酸カリウム繊維、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、セラミック繊維などの繊維状無機充填材;アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などの繊維状有機充填材;が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0060】
また、上記板状充填材、粒状充填材としては、例えば、タルク、カオリンクレー、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸カルシウム水和物、マイカ、ガラスフレーク、ガラス粉、炭酸マグネシウム、シリカ、酸化チタン、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、上記繊維状充填材の粉砕物などが挙げられる。
【0061】
架橋型樹脂組成物中の上記充填材の含有量は、上記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、例えば、120質量部~500質量部であり、好ましくは、130質量部~400質量部、より好ましくは150質量部~300質量部である。上記下限値以上とすることにより、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を含む樹脂組成物は、寸法精度に優れた成形が可能となる。また得られる硬化物の機械的強度を高めることができる。上記上限値以下とすることにより、架橋体(成形体)の製造安定性を高めることができる。
【0062】
本実施形態の架橋体を製造するための架橋型樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分を含むことができる。この他の成分としては、例えば、エラストマー、硬化促進剤、樹脂成分、離型剤、顔料、難燃剤、密着向上剤、カップリング剤等の添加剤が挙げられる。なお、架橋型樹脂組成物は溶剤を含み得る。
【0063】
上記エラストマーとしては、特に限定されないが、アクリルニトリルブタジエンゴム、イソプレン、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム等が挙げられる。この中でもアクリルニトリルブタジエンゴムが好ましい。エラストマーを用いることで特に靱性を付与することができる。
【0064】
上記硬化促進剤としては、特に限定されず、通常の硬化促進剤を用いることが出来、例えば、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、サリチル酸、安息香酸などの芳香属カルボン酸を例示することができる。上記硬化促進剤はリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、例えば、0.5質量部~20質量部の量で用いられる。
【0065】
上記樹脂成分としては、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂が挙げられる。また必要によりこれらの複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0066】
上記離型剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0067】
上記顔料としては、例えば、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0068】
架橋型樹脂組成物は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂、硬化剤、および使用する場合は充填剤をニーダー、ロール等で予め溶融混練し、次いで上記他の成分と均一に混合した後、あるいは、配合する全原料成分をロール、コニーダ、二軸押出し機等の混練装置単独またはロールと他の混合装置との組み合わせで溶融混練した後、造粒または粉砕して得られる。本実施形態において、架橋型樹脂組成物は、
例えば、粉粒状、顆粒状、タブレット状またはシート状等の形態で提供される。
【0069】
得られた架橋型樹脂組成物を加熱処理して成形することにより、この樹脂組成物の硬化物からなる成形品(架橋体)を得ることができる。
【0070】
成形品の成形方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、トランスファー成形、コンプレッション成形、射出成形等を用いることができる。
【0071】
本実施形態の成形品としては、例えば、自動車、航空機、鉄道車両、船舶、汎用機械、家庭用電化製品やこれらの周辺部品に用いられる成形品、またはこれらの筺体、構造・機構部品、電気・電子部品に用いられる成形品が挙げられる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、実施形態の例を付記する。
1. リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて、第一の反応生成物を得る第一の工程と、
前記第一の反応生成物と、ノボラック型フェノール樹脂とを反応させて、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る第二の工程と、を含む、
リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
2. 前記第一の工程において、前記フェノール類に対する前記アルデヒド類のモル比(F/P)が、0.45以上1.0以下である、1.に記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
3. 前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量が、4,000以上、30,000以下である、1.または2.に記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
4. 前記ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量が、10,000以上、30,000以下である、1.~3.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
5. 前記第二の工程において、前記ノボラック型フェノール樹脂が、前記フェノール類と前記リグニン類との合計量に対して、10質量%以上、50質量%以下の量である、1.~4.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
6. 前記第一の工程および前記第二の工程が、加熱下で実施される、1.~5.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
7. 前記第一の工程が、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて前記第一の反応生成物を含む第一の反応混合物を得る工程、および前記第一の反応混合物から水を除去する工程を含む、1.~6.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
8. 前記第一の工程が、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて前記第一の反応生成物を含む第一の反応混合物を得る工程、および前記第一の反応混合物から、未反応の前記フェノール類を除去する工程を含む、1.~7.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
9. 前記第一の工程が、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて、前記第一の反応生成物を含む第一の反応混合物を得る工程を含み、
前記第二の工程が、前記第一の反応混合物に、前記ノボラック型フェノール樹脂を添加する工程を含む、1.~8.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
10. 前記リグニン類が、リグニンまたはリグニン誘導体を含む、1.~9.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
11. 前記アルデヒド類が、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドを含む、1.~10.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
12. 前記フェノール類が、フェノール、クレゾール、キシレノール、アルキルフェノールおよびビスフェノールからなる群より選ばれる1種以上を含む、1.~11.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
13. 前記フェノール変性ノボラック型フェノール樹脂のリグニン変性率が、10%以上40%以下である、1.~12.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
14. 1.~13.のいずれかに記載の方法によりリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る第一の工程と、
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂に、硬化剤を混合して、架橋型樹脂組成物を得る第二の工程と、
前記架橋型樹脂組成物を加熱処理して、前記架橋型樹脂組成物の架橋体を得る第三の工程と、
を含む、架橋体の製造方法。
15. 前記硬化剤が、ヘキサメチレンテトラミンを含む、14.に記載の架橋体の製造方法。
16. 前記第二の工程が、充填剤を混合する工程をさらに含む、14.または15.に記載の架橋体の製造方法。
【実施例】
【0073】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0074】
<樹脂材料の作製>
(樹脂材料A1の合成)
撹拌機及び温度計を備えた三口フラスコにフェノール900質量部、リグニン307質量部、シュウ酸12質量部を仕込み、100℃になるまで加熱して、37%ホルマリン450質量部を30分間かけて滴下し、滴下終了後、100℃で1時間撹拌した。次に昇温させながら減圧蒸留にて縮合水及び未反応フェノールを留去し、残留フェノールが2%以下になったところで、数平均分子量(Mn)1,520、重量平均分子量(Mw)14,500のノボラック型フェノール樹脂490質量部をフラスコ内に添加し混合した。溶融状態で30分間撹拌した後にフラスコから生成物を取り出し、リグニン変性率20%のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂材料A1)1,535質量部を得た。収率は82%であった。なお、ノボラック型フェノール樹脂の使用量は、フェノールとリグニンとの合計量に対して、41質量%であった。
【0075】
(樹脂材料A2の合成)
撹拌機及び温度計を備えた三口フラスコにフェノール900質量部、リグニン376質量部、シュウ酸13質量部を仕込み、100℃になるまで加熱して、37%ホルマリン457質量部を30分間かけて滴下し、滴下終了後、100℃で1時間撹拌した。次に昇温させながら減圧蒸留にて縮合水及び未反応フェノールを留去し、残留フェノールが2%以下になったところで、数平均分子量(Mn)1,280、重量平均分子量(Mw)12,400のフェノールノボラック樹脂381質量部をフラスコ内に添加し混合した。溶融状態で30分間撹拌した後にフラスコから生成物を取り出し、リグニン変性率25%のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂材料A2)1,505質量部を得た。樹脂収率は82%であった。なお、ノボラック型フェノール樹脂の使用量は、フェノールとリグニンとの合計量に対して、30質量%であった。
【0076】
(樹脂材料A3の合成)
撹拌機及び温度計を備えた三口フラスコにフェノール900質量部、リグニン455質量部、シュウ酸14質量部を仕込み、100℃になるまで加熱して、37%ホルマリン456質量部を30分間かけて滴下し、滴下終了後、100℃で1時間撹拌した。次に昇温させながら減圧蒸留にて縮合水及び未反応フェノールを留去し、残留フェノールが2%以下になったところで、数平均分子量(Mn)1,250、重量平均分子量(Mw)8,800のフェノールノボラック樹脂356質量部をフラスコ内に添加し混合した。溶融状態で30分間撹拌した後にフラスコから生成物を取り出し、リグニン変性率30%のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂材料A3)1,520質量部を得た。樹脂収率は81%であった。なお、ノボラック型フェノール樹脂の使用量は、フェノールとリグニンとの合計量に対して、26質量%であった。
【0077】
(樹脂材料B)
樹脂材料Bとして、ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製、製品名:PR-53195)を使用した。
【0078】
(樹脂材料C1の調製)
撹拌機及び温度計を備えた三口フラスコに300質量部(20質量%)のリグニンと1,200質量部(80質量%)のフェノール樹脂(住友ベークライト社製、製品名:PR-53195)とを仕込み、加熱溶融下で撹拌混合を行った後、フラスコから溶融状態で取り出し、リグニンとフェノール樹脂との混合物(樹脂材料C1)を得た。
【0079】
(樹脂材料C2の調製)
撹拌機及び温度計を備えた三口フラスコに450質量部(30質量%)のリグニンと1,050質量部(70質量%)のフェノール樹脂(住友ベークライト社製、製品名:PR-53195)とを仕込み、加熱溶融下で撹拌混合を行った後、フラスコから溶融状態で取り出し、リグニンとフェノール樹脂との混合物(樹脂材料C2)を得た。
【0080】
(樹脂材料D1の合成)
撹拌機及び温度計を備えた三口フラスコにフェノール1,380質量部、シュウ酸17質量部を添加後、リグニン300質量部を仕込み、100℃になるまで加熱して、37%ホルマリン810質量部を30分間かけて滴下し、滴下終了後、100℃で1時間撹拌した。次に昇温させながら減圧蒸留にて縮合水及び未反応フェノールを留去し、残留フェノールが2%以下になったところでフラスコから生成物を取り出し、リグニン変性率20%のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂材料D1)1,510質量部を得た。樹脂収率は76%であった。
【0081】
(樹脂材料D2の合成)
撹拌機及び温度計を備えた三口フラスコにフェノール1,200質量部、シュウ酸17質量部を添加後、リグニン450質量部を仕込み、100℃になるまで加熱して、37%ホルマリン700質量部を30分間かけて滴下し、滴下終了後、100℃で1時間撹拌した。次に昇温させながら減圧蒸留にて縮合水及び未反応フェノールを留去し、残留フェノールが2%以下になったところでフラスコから生成物を取り出し、リグニン変性率30%のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂材料D2)1,502質量部を得た。樹脂収率は79%であった。
【0082】
得られた樹脂材料A1~D2を用いて成形体を作製し、得られた成形体を下記の項目について評価した。
【0083】
<成形品の作製>
樹脂材料(得られた樹脂材料A1~D2)100質量部にヘキサメチレンテトラミン(硬化剤)15質量部を常温で添加し、粉砕混合して樹脂組成物を調製した。
得られた架橋型樹脂組成物に対し、ガラス繊維(充填材、ガラスミルドファイバー、日東紡績(株)製、基準繊維径10±1.5μm、平均繊維長90μm)160重量部、添加剤(ステアリン酸(日本油脂社製)、カーボンブラック(三菱化学社製、#5))8重量部を配合し、約90℃の加熱ロールで約5分間混練し、冷却後粉砕して、成形材料を得た。
得られた成形材料を、175℃、20MPa、3minの条件で、トランスファー成形し、さらに180℃、8hで加熱処理し、成形品(樹脂材料の硬化物)を得た。得られた成形品を以下の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0084】
・機械的特性(室温曲げ特性)
JIS K 6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して、25℃において、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。具体的には、精密万能試験機(島津製作所社製 オートグラフAG-Xplus)にて、2mm/分の速度で荷重をかけて三点曲げ試験を行った。
・機械的特性(熱時曲げ特性)
150℃において、上記と同様にして、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。
・機械的特性(衝撃強度)
JIS K 6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠してシャルピー衝撃強度を測定した。
・電気的特性(絶縁抵抗)
JIS K 6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して絶縁抵抗を測定した。
・寸法精度特性(成形収縮率)
JIS K 6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して成形直後の成形収縮率を測定した。
【0085】
【0086】
実施例1~3の樹脂材料は、比較例1~5と比較して、機械的物性(曲げ強度、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度)や電気的特性(絶縁抵抗値)が同等以上を示し、成形品の寸法精度特性に優れる結果が示された。