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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】脱酸素剤組成物
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240326BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20240326BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240326BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240326BHJP
   A23L 3/3436 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
B01D53/14 311
B01J20/02 A
B01J20/28 A
B01J20/30
A23L3/3436 501
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020049572
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021146292
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大揮
(72)【発明者】
【氏名】井上 敦
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-024634(JP,A)
【文献】特開2008-264665(JP,A)
【文献】国際公開第2007/046449(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169015(WO,A1)
【文献】特開昭55-159837(JP,A)
【文献】特開昭52-094886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 - 20/34
B01D 53/14
A23L 3/3436
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を含み、
保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を含む組成物の混合造粒物を含み、
前記膨潤剤が、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルシウムベントナイト及びナトリウムベントナイトからなる群より選択される少なくとも1種を含有し、
前記混合造粒物の外側に多孔性粒子を含む層を有し、
前記混合造粒物中の全体に鉄が分散している、脱酸素剤組成物。
【請求項2】
前記アンモニウム塩がハロゲン化アンモニウム及び硫酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の脱酸素剤組成物。
【請求項3】
前記保水剤が、珪藻土、シリカ及び活性炭からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載の脱酸素剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物の製造方法であって、
加圧成形を行うことなく前記混合造粒物を製造する、脱酸素剤組成物の製造方法
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物の製造方法であって、
保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を一括混合して造粒する工程を含む、脱酸素剤組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物と、該脱酸素剤組成物を収容した通気性包装材とを備える、脱酸素剤包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱酸素剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品等の保存技術として、脱酸素剤を用いる方法が知られている。この方法では、ガスバリア性の密封容器内に被保存物品と脱酸素剤とを封入して密封することで、密封容器内の酸素を脱酸素剤に吸収させ、密封容器内の雰囲気を実質的に無酸素状態に保つことができる。脱酸素剤の機能として、小型であり、かつ、多くの酸素を吸収することが必要とされる。言い換えれば、単位体積当たりの酸素吸収量が高い脱酸素剤組成物が必要とされる。
【0003】
代表的な脱酸素剤としては、鉄(鉄粉)を主剤とする鉄系脱酸素剤、アスコルビン酸やグリセリン等を主剤とする非鉄系脱酸素剤が挙げられる。脱酸素剤は用途に応じて適宜選択されるが、酸素吸収性能の観点からは鉄系脱酸素剤が広く使用されている。
このような状況において、鉄系脱酸素剤の小型化、酸素吸収量を改善する試みがなされている。
【0004】
例えば特許文献1には、酸素吸収物質、水及び膨潤剤を含み、加圧成形により固形化することで粉粒体間の隙間を消失させ、体積を縮小しコンパクト化を図った脱酸素剤組成物が開示されている。
また、特許文献2には、酸素吸収量が優れた脱酸素剤組成物を提供することを目的として、保水剤、膨潤剤、金属塩及び水を含むα層と、鉄を含むβ層と、多孔性担体を含むγ層と、を有する粉粒体を含み、前記粉粒体は、該粉粒体の内側から外側に向かって、前記α層、前記β層、前記γ層の順に層構造を形成している脱酸素剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/046449号
【文献】国際公開第2017/169015号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食品や医薬品等の包装の多様化に伴い、脱酸素剤を小型化することは望まれているが、脱酸素剤を小型化すると容器中の空間と接触させる面積が限定される傾向がある。そうすると、酸素の吸収に時間を要してしまうという問題がある。
脱酸素剤の形状の自由度を確保し、密封容器内の被保存物品の酸化を防ぐ観点から、酸素吸収速度が速く、短時間で密封容器内の酸素を吸収する鉄系脱酸素剤に用いられる脱酸素剤組成物が求められている。
そこで、本発明は、酸素吸収速度が極めて速い脱酸素剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、鉄系の脱酸素剤組成物が、保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水を含むことで、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、以下の脱酸素剤組成物に関する。
<1> 保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を含む脱酸素剤組成物。
<2> 前記アンモニウム塩がハロゲン化アンモニウム及び硫酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、上記<1>に記載の脱酸素剤組成物。
<3> 前記保水剤が、珪藻土、シリカ及び活性炭からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、上記<1>又は<2>に記載の脱酸素剤組成物。
<4> 前記膨潤剤が、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルシウムベントナイト及びナトリウムベントナイトからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
<5> 保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を含む組成物の混合造粒物を含む、上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
<6> 前記混合造粒物の外側に多孔性粒子を含む層を有する、上記<5>に記載の脱酸素剤組成物。
<7> 前記混合造粒物が加圧成形物ではない、上記<5>又は<6>に記載の脱酸素剤組成物。
<8> 前記混合造粒物中の全体に鉄が分散している、上記<5>~<7>のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
<9> 保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を一括混合して造粒する工程を含む、脱酸素剤組成物の製造方法。
<10> 上記<1>~<8>のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物と、該脱酸素剤組成物を収容した通気性包装材とを備える、脱酸素剤包装体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の脱酸素剤組成物は、酸素吸収速度が極めて速く、短時間で酸素を吸収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明の内容は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、数値の記載に関する「A~B」という用語は、「A以上B以下」(A<Bの場合)又は「A以下B以上」(A>Bの場合)を意味する。また、本発明において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0010】
〔脱酸素剤組成物〕
本発明の脱酸素剤組成物は、保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を含む。
本発明の脱酸素剤組成物は、保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を含むものであれば、その形状や製造方法に制限はないが、保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を含む組成物の混合造粒物を含むことが好ましく、本発明における混合造粒物は、混合造粒物中の全体に鉄が分散していることがより好ましい。本発明の脱酸素剤組成物は、前記混合造粒物のみからなるものでもよいが、前記混合造粒物の外側に多孔性粒子を含む層を有することが更に好ましい。
このような混合造粒物とすることで、造粒物中の全体に鉄が分散し、鉄と水とが近接して存在するため、鉄の酸化反応の反応初期の反応量が大きく、その結果として反応初期の酸素吸収速度が大きくなるものと推定される。
【0011】
(保水剤)
本発明の脱酸素剤組成物に含まれる保水剤は、その内部に水を含浸し、水を染み出さずに保持できる物質である。
保水剤としては、水を保持できるものであれば特に限定されないが、一般的に入手できる多孔性物質や高吸水性樹脂を使用できる。多孔性物質としては、例えば、珪藻土、ゼオライト、セピオライト、クリストバライト、多孔質ガラス、シリカ、活性白土、酸性白土、活性炭、バーミキュライト及び木粉が挙げられる。高吸水性樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸塩系樹脂、ポリスルホン酸塩系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、澱粉系樹脂、セルロース系樹脂、及びポリアルギン酸系樹脂が挙げられる。保水剤は、珪藻土、シリカ及び活性炭からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。上述した保水剤は、1種を単独で用いることができ、又は必要に応じて2種以上を併用して用いることもできる。また、これらの保水剤は、市販品を用いてもよい。
【0012】
上記の保水剤の中でも活性炭は、保水機能に加えて、鉄の酸化反応を促進する機能を有するため特に好ましい。活性炭の種類は特に限定されず、木質、ヤシ殻、石炭等のいずれであってもよい。
【0013】
保水剤の性状は特に限定されないが、脱酸素剤の製造時の取り扱い性の観点から流動性が高い粉体状のものが好適に用いられ、形状は球形に近いものがより好ましい。また、保水剤の平均粒子径は、脱酸素剤の製造時の取り扱い性の観点から、好ましくは10μm以上1000μm以下であり、より好ましくは100μm以上500μm以下である。保水剤の粒子は、上記範囲の粒度を有するものであれば、一次粒子、凝集粒子、造粒物の別を問わず用いることができる。上記範囲の粒度を有する保水剤は一種単独で用いることもでき、異なる粒度を有する複数種を任意の割合で混合して用いることもできる。
【0014】
脱酸素剤組成物中の保水剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは10質量%以上40質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下である。また、水100質量部に対して、好ましくは20質量部以上300質量部以下、より好ましくは50質量部以上200質量部以下である。保水剤の含有量が当該範囲内であれば、脱酸素剤組成物が水を十分に保持することができるとともに、脱酸素剤組成物の単位体積当たりの酸素吸収量を高くすることができる。
【0015】
(膨潤剤)
本発明の脱酸素剤組成物に含まれる膨潤剤は、水分により膨潤し、造粒物の形状を保持するための粘結機能を有する物質である。膨潤剤は、実質的に乾燥状態で用いるか又は少量乃至必要量の水を吸収した半膨潤あるいは膨潤した状態で用いることが好ましい。
【0016】
膨潤剤としては、一般に知られている膨潤剤であれば特に制限はなく、食品等に用いられている公知の膨潤剤、結着剤、粘着剤、及びバインダーを使用できる。
無機膨潤剤としては、ナトリウムベントナイト、カルシウムベントナイト、ナトリウムモンモリロナイト等の粘土鉱物が挙げられる。有機膨潤剤としては、有機ベントナイト;脱脂凍豆腐、寒天、澱粉、デキストリン、アラビアゴム、ゼラチン、カゼイン等の天然物;結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシエチルセルロース、リグニンスルホン酸、ヒドロキシエチル化澱粉等の半合成品;水不溶化したポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル等の合成品等が挙げられる。上述した膨潤剤は、1種を単独で用いることができ、必要に応じて2種以上を併用して用いることもできる。また、これらの膨潤剤は、市販品を用いてもよい。
【0017】
前記膨潤剤のなかでも、粘土鉱物及びセルロース系半合成品からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
粘土鉱物は安価で性能的にも優れているので好ましい。粘土鉱物は、無機石鹸としても知られており潤滑剤としての機能を有する。また、水によって膨潤した粘度鉱物は高いチキソトロピー性を示すことが知られており、粘結性も示すので好ましい。また、セルロース系半合成品は優れた膨潤性を示し好ましい。これらの中でも、安価でかつ粘結力が強いことから、カルシウムベントナイト、ナトリウムベントナイト等のベントナイト類及びカルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム等が好ましい。このように本発明の脱酸素剤組成物に含まれる膨潤剤は、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルシウムベントナイト及びナトリウムベントナイトからなる群より選択される少なくとも1種を含有することがより好ましい。
【0018】
膨潤剤の平均粒子径は、粉塵の発生を抑制する観点及び粘結機能の観点から、好ましくは0.001μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.01μm以上1.0μm以下である。
【0019】
脱酸素剤組成物中の膨潤剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上15質量%以下である。また、鉄100質量部に対して、好ましくは1質量部以上15質量部以下、より好ましくは3質量部以上10質量部以下である。膨潤剤の含有量が当該範囲内であれば、脱酸素剤組成物の形状を維持しやすくなるとともに、保水剤の割合が小さくなりすぎず、鉄への水分供給量が低下せず、酸素吸収量がより高くなる傾向にある。
【0020】
(アンモニウム塩)
本発明の脱酸素剤組成物に含まれるアンモニウム塩は、鉄の酸化反応に触媒的に作用し、鉄の活性を向上させる物質である。また、アンモニウム塩は、脱酸素剤組成物に含まれる水が蒸散して脱酸素剤組成物から失われるのを防止する役割を果たす。脱酸素剤組成物にアンモニウム塩を存在させることで酸素吸収速度が速くなる詳細な機構は不明であるが、アンモニウム塩が強酸と弱塩基の塩のため、脱酸素剤表面が酸性寄りになり鉄の酸化被膜の生成が起こりにくくなるためと推定される。
【0021】
アンモニウム塩は特に限定されないが、無機酸のアンモニウム塩であることが好ましい。
アンモニウム塩の具体例としては、ハロゲン化アンモニウム塩、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等が挙げられる。
ハロゲン化アンモニウム塩としては、塩化アンモニウム、フッ化アンモニウム、臭化アンモニウム及びヨウ化アンモニウムが挙げられ、塩化アンモニウム及び臭化アンモニウムが好ましい。
これらアンモニウム塩のなかでも、取り扱い性、安全性等の点から、ハロゲン化アンモニウム及び硫酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム及び硫酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有することがより好ましく、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム及び硫酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
アンモニウム塩は、1種を単独で用いることができ、必要に応じて2種以上を併用して用いることもできる。また、これらのアンモニウム塩は、市販品を用いてもよい。
【0022】
アンモニウム塩を水溶液として原料とする場合における水溶液中のアンモニウム塩の濃度は、好ましくは5質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上20質量%以下である。塩の濃度が5質量%以上であることにより、鉄の酸化を触媒する作用が小さくなることを抑制し、また、塩の濃度が30質量%以下であることにより、水分の蒸気圧が低下することを抑制できる。鉄に充分な水分が供給されずに酸素吸収量が少なくなることを抑制できる。
【0023】
脱酸素剤組成物中のアンモニウム塩の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.5質量%以上15質量%以下、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。また、鉄100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上20質量部以下、より好ましくは2質量部以上10質量部以下である。
【0024】
(水)
鉄系脱酸素剤が酸素吸収性能を発揮する観点から、本発明の脱酸素剤組成物は水を含む。脱酸素剤組成物中の水の含有量は、特に限定されないが、好ましくは10質量%以上40質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下である。また、酸素吸収性能の観点から、鉄100質量部に対して、好ましくは20質量部以上50質量部以下、より好ましくは25質量部以上40質量部以下である。
【0025】
(鉄)
本発明の脱酸素剤組成物に含まれる鉄の形状は特に限定されないが、酸素吸収性能、入手容易性及び取扱い容易性の観点から、好ましくは鉄粉である。鉄粉は、鉄の表面が露出したものであれば特に限定されるものではなく、還元鉄粉、電解鉄粉、噴霧鉄粉等を好適に用いることができる。また、鋳鉄等の粉砕物、切削品を用いることもできる。
鉄粉は、1種を単独で用いることができ、必要に応じて2種以上を併用して用いることもできる。また、これらの鉄粉は、市販品を容易に入手することもできる。
【0026】
鉄粉の平均粒子径は、酸素との接触を良好にする観点から、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは200μm以下であり、そして、粉塵の発生を抑制する観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上である。なお、ここで言う粒子径とは、ISO 3310-1:2000(JIS Z8801-1:2006相当)に準拠する標準篩を用いて、5分間振動させた後の篩目のサイズによる重量分率から測定される粒子径を示す。
【0027】
また、鉄粉の比表面積は、酸素吸収能の観点から、好ましくは0.05m2/g以上、より好ましくは0.1m2/g以上である。鉄粉の比表面積は、BET多点法にて測定することができる。
【0028】
本発明の脱酸素剤組成物は、主剤として鉄を含む。脱酸素剤組成物中の鉄の含有量は、40質量%以上90質量%以下が好ましく、45質量%以上80質量%以下が好ましく、50質量%以上70質量%以下が特に好ましい。
【0029】
<混合造粒物>
本発明の脱酸素剤組成物は、保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を含むものであるが、保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を含む組成物の混合造粒物を含むことが好ましい。
ここで、本発明において「造粒」とは、単一もしくは多成分からなる原料粉体を、結合剤等を用いて混合することにより、原料粉体の状態と比べて微粉の存在比率を減らし、原料粉体より大きな粒状に加工する操作をいう。「造粒物」とは、造粒操作により得られた粉粒体であって、原料粉体の状態と比べて微粉の存在比率が減少し、原料粉体より大きな粒状に加工された粉粒体をいう。本発明における混合造粒物は、加圧成形物ではない。すなわち、本発明の脱酸素剤組成物に含まれる造粒物は、加圧成形を行うことなく混合するだけで、簡便に低コストで製造することができる。前記混合造粒物が、加圧成形物でないことで、混合造粒物中に空間が存在し、酸素と鉄の接触が容易になるため、酸素吸収速度の向上に寄与できるものと考えられる。
また、本発明における混合造粒物は、混合造粒物中の全体に鉄が分散していることが好ましい。
【0030】
本発明の脱酸素剤組成物中の前記混合造粒物の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上であり、更に好ましくは実質的に100質量%である。
【0031】
(多孔性粒子)
本発明の脱酸素剤組成物は、前記混合造粒物のみからなるものでもよく、前記混合造粒物の外側に多孔性粒子を含む層を有するものであってもよい。
本発明に使用され得る多孔性粒子は、多孔質の形状を有している粒子であれば特に限定されない。ここで、多孔質とは、電子顕微鏡にて確認できる程度の多数の細孔を表面及び内部に有している状態をいう。多孔性粒子は、上述した保水剤に用いる多孔性物質を適宜用いることができるが、シリカ類であることが好ましい。シリカ類とは、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とするものを意味する。シリカ類を用いることにより、得られる粉粒体の嵩密度が増大し、酸素吸収量が高くなる。
多孔性粒子は混合造粒物表面に付着して、混合造粒物から染み出した水分を吸収することで、混合造粒物の流動性を改善する。多孔性粒子の粒径が混合造粒物と比較して大きい場合、混合造粒物に付着しにくくなる。このことから多孔性粒子の平均粒子径は好ましくは0.5mm以下であり、より好ましくは0.3mm以下であり、更に好ましくは0.1mm以下である。
【0032】
シリカ類としては、特に限定されないが、例えば、疎水性シリカ、湿式シリカ、乾式シリカ、シリカゲル、珪藻土、酸性白土、活性白土、パーライト、カオリン、タルク及びベントナイトが挙げられる。上述した多孔性粒子は、1種を単独で、又は、必要に応じて2種以上を併用して用いることができる。また、これらの多孔性粒子は、市販品としても容易に入手することができる。
【0033】
本発明の脱酸素剤組成物が多孔性粒子を含む層を有する場合、多孔性粒子を含む層中の多孔性粒子の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
【0034】
本発明の脱酸素剤組成物が多孔性粒子を含む層を有する場合、脱酸素剤組成物中の多孔性粒子の含有量は、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上3質量%以下である。多孔性粒子の含有量がこのような範囲にあることにより、脱酸素剤組成物の嵩密度が増大し、酸素吸収量がより高くなる傾向にあるとともに、脱酸素剤組成物の流動性が向上して脱酸素剤包装体の製造時の取扱い性を向上させることができる。
【0035】
<脱酸素剤組成物の形状>
本発明の脱酸素剤組成物の形状は、特に限定されないが、例えば、球形、略球形、楕円形、及び円柱が挙げられ、充填性により優れ、嵩密度がより高くなる傾向にあることから、略球形、球形が好ましく、球形がより好ましい。
【0036】
本発明の脱酸素剤組成物の平均粒子径は、好ましくは0.3mm以上5.0mm以下であり、より好ましくは0.5mm以上2.0mm以下である。上記平均粒子径が0.3mm以上であることにより、充填包装時に包装機の粉粒体接触部に静電気等で付着することを抑制し、また、上記平均粒子径が5.0mm以下であることにより、粉粒体間の隙間が大きくなりすぎて、単位体積当たりの酸素吸収量が低下することを抑制する傾向にある。平均粒子径が上記範囲にある脱酸素剤組成物を得るためには、例えば、目開き0.3mm及び2mmの篩を用いて篩分けすればよい。平均粒子径は、例えば市販のレーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-960」)等により測定することができる。
【0037】
本発明の脱酸素剤組成物の嵩密度は、特に限定されないが、好ましくは1.0g/mL以上であり、より好ましくは1.3g/mL以上であり、更に好ましくは1.5g/mL以上である。嵩密度が1.0g/mL以上であることにより、単位体積当たりの酸素吸収量により優れる傾向にある。また、実用上、2.5g/mL以下である。嵩密度が上記範囲にある脱酸素剤組成物を得るためには、例えば、比重分級機器(株式会社東京製粉機製作所製「ハイスピードアスピレータ」等)により、目的とする嵩密度のものを選別すればよい。嵩密度は、JIS Z8901に準拠して測定することができる。
【0038】
〔脱酸素剤組成物の製造方法〕
本発明の脱酸素剤組成物を製造する方法は特に限定されないが、次の方法によって製造することが好ましい。
すなわち、本発明の好適な脱酸素剤組成物の製造方法は、保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を一括混合して造粒する工程を含む。
本発明の製造方法によれば、保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を均一に分散するまで混合することで混合造粒物を調製し、脱酸素剤組成物を効率的に調製することができる。
また、上述の好ましい脱酸素剤組成物である、保水剤、膨潤剤、アンモニウム塩、水及び鉄を含む組成物の混合造粒物を含む脱酸素剤組成物を得ることができる。更に本発明の脱酸素剤組成物に含まれる混合造粒物は、加圧成形を行うことなく混合するだけで、簡便に低コストで製造することができる。
混合装置は特に限定されないが具体例として、ナウターミキサー(ホソカワミクロン株式会社製)、コニカルミキサー(大野化学機械株式会社製)、バーチカルグラニュレータ(株式会社パウレック製)、ハイスピードミキサ(株式会社アーステクニカ製)及び造粒機(アキラ機工株式会社製)を使用することができる。
【0039】
また、多孔性粒子を含む層を有する脱酸素剤組成物を製造する方法としては、前記混合造粒物に疎水性シリカを投入して混合し、前記混合造粒物の外側に多孔性粒子を含む層を形成して脱酸素剤組成物を調製することができる。
【0040】
脱酸素剤の主剤である鉄は酸素と反応するので、水やアンモニウム塩等がない場合にも酸素との反応は徐々に進行する。そのため、混合は、不活性雰囲気中(実質的に密閉系とする場合には、通常、系内を酸素のない還元性雰囲気にする)で行い、適宜、除熱手段を講じるのが好ましい。
【0041】
[脱酸素剤包装体]
本発明の脱酸素剤包装体は、上述した脱酸素剤組成物と、該脱酸素剤組成物を収容した通気性包装材とを備える。
【0042】
(包装材)
包装材としては、2枚の通気性包装材を貼り合わせて袋状としたものや、1枚の通気性包装材と1枚の非通気性包装材とを貼り合わせて袋状としたもの、1枚の通気性包装材を折り曲げ、折り曲げ部を除く縁部同士をシールして袋状としたものが挙げられる。
【0043】
ここで、通気性包装材及び非通気性包装材が四角形状である場合には、包装材は、2枚の通気性包装材を重ね合わせ、4辺をヒートシールして袋状としたものや、1枚の通気性包装材と1枚の非通気性包装材とを重ね合わせ、4辺をヒートシールして袋状としたもの、1枚の通気性包装材を折り曲げ、折り曲げ部を除く3辺をヒートシールして袋状としたものが挙げられる。また包装材は、通気性包装材を筒状にしてその筒状体の両端部および胴部をヒートシールして袋状としたものであってもよい。
【0044】
(通気性包装材)
通気性包装材としては、酸素と二酸化炭素を透過する包装材が選択される。なかでも、ガーレ式試験機法による透気抵抗度が600秒以下、より好ましくは90秒以下のものが好適に用いられる。ここで、透気抵抗度とは、JIS P8117(1998)の方法により測定された値を言うものとする。より具体的には、ガーレ式デンソメーター(株式会社東洋精機製作所製)を使用して100mLの空気が通気性包装材を透過するのに要した時間を言う。
【0045】
上記通気性包装材としては、紙や不織布の他、プラスチックフィルムに通気性を付与したものが用いられる。プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネート等のフィルムと、シール層としてポリエチレン、アイオノマー、ポリブタジエン、エチレンアクリル酸コポリマー、エチレンメタクリル酸コポリマーまたはエチレン酢酸ビニルコポリマー等のフィルムとを積層接着した積層フィルム等が使用できる。また、これらの積層物も通気性包装材として使用することができる。
【0046】
通気性を付与する方法としては、冷針、熱針による穿孔加工の他、種々の方法が採用可能である。穿孔加工により通気性を付与する場合、通気性は、穿孔する孔の径、数、材質等により自由に調整することができる。
【0047】
また、積層フィルムの厚さは、50~300μmであることが好ましく、60~250μmであることが特に好ましい。この場合、厚さが上記範囲を外れる場合に比べて、強度を保持しヒートシール性や包装適性に優れた包装材とすることができる。
【実施例
【0048】
以下、実施例及び比較例を用いて本実施形態を詳しく説明するが、本実施形態は本発明の作用効果を奏する限りにおいて適宜変更することができる。なお、実施例及び比較例中の「部」は、特に明記しない場合は質量部を意味する。
【0049】
(脱酸素剤組成物の平均粒子径)
脱酸素剤組成物の平均粒子径は、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-960」)により測定した。
【0050】
(脱酸素剤組成物の嵩密度)
脱酸素剤組成物の嵩密度(単位:g/mL)は、JIS Z8901に準拠して測定した。
【0051】
(脱酸素剤組成物の製造)
実施例1
珪藻土(イソライト工業株式会社製「CG-2U」)1100部、活性炭(フタムラ化学株式会社製「S-W50」)1100部、カルシウムベントナイト(クニミネ工業株式会社製「ネオクニボンド」)200部、カルボキシルメチルセルロースナトリウム(日本製紙ケミカル株式会社製「F350HC-4」)2220部、水2000部に塩化アンモニウム400部を溶かした塩化アンモニウム水溶液及び鉄粉(平均粒子径100μm)6000部を、ハイスピードミキサ(株式会社アーステクニカ製「SPG20L」)に投入し、3分間混合して、混合造粒物を得た。
【0052】
さらに、表面処理シリカ(東ソー・シリカ株式会社製「SS-30P」)70部を投入し、30秒間混合して、混合造粒物の外側に多孔性粒子層が形成された脱酸素剤組成物を得た。得られた脱酸素剤組成物の平均粒子径は0.95mmであった。
【0053】
実施例2
塩化アンモニウム410部を、臭化アンモニウム410部に変更した以外は、実施例1と同様にして、脱酸素剤組成物を得た。得られた脱酸素剤組成物の平均粒子径は0.95mmであった。
【0054】
実施例3
塩化アンモニウム410部を、硫酸アンモニウム410部に変更した以外は、実施例1と同様にして、脱酸素剤組成物を得た。得られた脱酸素剤組成物の平均粒子径は0.83mmであった。
【0055】
比較例1
珪藻土(イソライト工業株式会社製「CG-2U」)1240部、活性炭(フタムラ化学株式会社製「S-W50」)1120部、カルシウムベントナイト(クニミネ工業株式会社製「ネオクニボンド」)225部及びカルボキシルメチルセルロースナトリウム(日本製紙ケミカル株式会社製「F350HC-4」)20部を、ハイスピードミキサ(株式会社アーステクニカ製「SPG20L」)に投入し、30秒間混合した。続いて、水2000部に塩化ナトリウム400部を溶かした塩化ナトリウム水溶液を混合しながら30秒間かけて投入し、更に60秒間混合して、α層の原料である粉粒体を得た。
【0056】
次に、鉄粉(平均粒子径100μm)6000部を投入し、3分間混合して、α層の原料である粉粒体の外側にβ層が形成された粉粒体(α層/β層)を得た。
【0057】
さらに、表面処理シリカ(東ソー・シリカ株式会社製「SS-30P」)110部を投入し、30秒間混合して、粉粒体(α層/β層)の外側にγ層が形成された粉粒体(α層/β層/γ層)を含む脱酸素剤組成物を得た。得られた脱酸素剤組成物の平均粒子径は0.9mmであった。
【0058】
(脱酸素剤組成物の酸素吸収量)
各実施例及び比較例で製造した脱酸素剤組成物の酸素吸収量を次の方法で測定し、酸素吸収速度について評価した。
各実施例及び比較例で製造した脱酸素剤組成物を外寸45mm×46.5mmの複合フィルムからなる袋状の包装材に0.8gずつ充填し、脱酸素剤(脱酸素剤包装体)とした。前記複合フィルムとして、50g/m2の耐水耐油紙と、厚さ25μmの有孔ポリエチレンフィルムから成る熱溶着層とから成り、ガーレ式透気度が400秒/100ml空気のものを用いた。空気1500mlを封入した脱酸素剤入りの密封袋を各実施例及び比較例毎にそれぞれ用意した。各密封袋を室温(25℃)で保管し、2時間および4時間経過したときに、各密封袋内の酸素濃度(%)をジルコニア式酸素濃度計(CheckMate3、MOCON Europe社製)を用いて測定し、酸素濃度の減少量から酸素吸収量を算出した。表1には、各実施例及び比較例の脱酸素剤組成物の単位質量(g)あたりの酸素吸収量(mL)を示した。
【0059】
【表1】
【0060】
表1から明らかなように、アンモニウム塩を用いた実施例の脱酸素剤組成物は、短時間での酸素吸収量が多い。特に2時間後の酸素吸収量が顕著に多く、酸素吸収速度が極めて速いことが分かる。すなわち、実施例の脱酸素剤組成物は短時間で密閉容器内の酸素を吸収できることが分かる。