(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/00 20060101AFI20240326BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240326BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20240326BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240326BHJP
【FI】
B23B27/00 D
B23B27/14 Z
B23Q17/00 F
B23K26/00 B
(21)【出願番号】P 2020052939
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】久保 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 涼太
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-235607(JP,A)
【文献】特開2006-167828(JP,A)
【文献】国際公開第2019/094997(WO,A1)
【文献】特開2003-181768(JP,A)
【文献】特開2003-011004(JP,A)
【文献】稲田勝美,可視光の波長域と境界帯域の名称について,生物環境調節,東京大学出版会,1973年,第11巻, 第1号,p.41-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00
B23B 27/14
B23B 51/00
B23Q 17/00
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結合金製の工具本体と、
前記工具本体の表面にレーザ照射により形成された工具情報表示部と、を備え、
前記工具情報表示部は、
前記工具本体の表面のうち前記工具情報表示部以外の部分よりも、バインダー金属成分を含む金属酸化物の単位面積あたりの占有面積が大きい第1照射部と、
400~700nmの大きさの凹凸および空孔
が重なり合った多孔質構造の第2照射部と、を有する、
切削工具。
【請求項2】
前記第2照射部は、
表面が凹凸形状である第1凹凸部と、
前記第1凹凸部の表面に形成され、前記第1凹凸部よりも小さな凹凸形状とされた第2凹凸部と、を有する、
請求項
1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記第2照射部は、フラクタル状の多孔質構造である、
請求項1
または2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記第2照射部は、10nm~5μmのスケール範囲における表面モホロジーがフラクタル構造である、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項5】
前記工具本体の表面のうち前記工具情報表示部以外の部分における前記金属酸化物の単位面積あたりの占有面積に比べて、前記第1照射部における前記金属酸化物の単位面積あたりの占有面積が、2倍以上である、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項6】
前記第2照射部は、W,C,O,CoおよびNiを主成分とする元素により構成される、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項7】
前記第1照射部は、測定波長400~700nmにおける反射率が45%以上であり、
前記第2照射部は、測定波長400~700nmにおける反射率が5%以下である、
請求項1から
6のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記第1照射部は、L
*a
*b
*色空間の明度L
*が75以上であり、
前記第2照射部は、L
*a
*b
*色空間の明度L
*が20以下である、
請求項1から
7のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項9】
前記第1照射部は、L
*a
*b
*色空間の彩度a
*および彩度b
*が10以下の白色であり、
前記第2照射部は、L
*a
*b
*色空間の彩度a
*および彩度b
*が10以下の黒色である、
請求項1から
8のいずれか1項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の切削工具では、再研磨によるリサイクルの履歴の管理などの目的で、個体識別コード等の工具情報の刻印を行う場合がある。工具情報の刻印には、切削加工中に消えないことからレーザ刻印が用いられる場合が多い。しかしながら、汎用のレーザマーカーによる刻印では、刻印部と非刻印部とで反射率や明度の差が小さく、つまりコントラストが低く、輪郭が不明瞭であり、工具情報を安定して読み取ることができない。
例えば、特許文献1のドリルの識別記号付与方法では、レーザスキャンスピードを3段階に変えて照射することにより、刻印のコントラストを高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の切削工具は、工具情報を表示する部分(以下、工具情報表示部と呼ぶ)のコントラストや輪郭の明瞭さをより高める点に改善の余地があった。すなわち現状では、例えば、切削インサートや小径ドリル等のように、工具表面にレーザ刻印するスペースが少ない切削工具は、工具情報を正確に読み取ったり、工具情報量を増大させることは難しい。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、工具情報表示部のコントラストを高めて輪郭を明瞭化でき、これにより工具情報を正確に読み取ることができ、工具情報量を増大できる切削工具を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切削工具の一つの態様は、焼結合金製の工具本体と、前記工具本体の表面にレーザ照射により形成された工具情報表示部と、を備え、前記工具情報表示部は、前記工具本体の表面のうち前記工具情報表示部以外の部分よりも、バインダー金属成分を含む金属酸化物の単位面積あたりの占有面積が大きい第1照射部と、400~700nmの大きさの凹凸および空孔が重なり合った多孔質構造の第2照射部と、を有する。
【0007】
本発明の切削工具において、工具本体はその表面に、工具情報表示部と、工具情報表示部以外の部分と、を有する。工具情報表示部は、レーザ照射により識別コードや識別マーク等が刻印された部分であり、工具情報を表示する。例えば、工具情報表示部のうち、第1照射部は白色であり、第2照射部は黒色である。第1照射部をブランクパターンとし、第2照射部を要素パターンとして、第1照射部と第2照射部とを適宜組み合わせることにより、二値化パターンとされた例えばQRコード(登録商標)等の識別コードや、識別マーク等が形成される。
【0008】
本発明によれば、工具情報表示部以外の部分に比べて、工具情報表示部の第1照射部は、例えばCoまたはNiなどのバインダー金属成分を含む金属酸化物の、単位面積あたりの占有面積が大きい。このため、第1照射部は、工具情報表示部以外の部分に比べて、反射率および明度が高くなる。
【0009】
これに対し、工具情報表示部の第2照射部は、可視光(以下、単に光と呼ぶ場合がある)の波長スケールの大きさを含む様々な大きさの凹凸および空孔を有する多孔質構造であるので、光を吸収する作用が得られ、反射率および明度が低くなる。このため、第1照射部と第2照射部とを組み合わせて識別コードや識別マーク等を構成することにより、工具情報表示部のコントラストを高めて輪郭を明瞭化できる。
【0010】
したがって本発明によれば、例えば、切削インサートや小径ドリルなどのように、工具本体の表面にレーザ刻印するスペースが少ない(スペースを確保しにくい)切削工具であっても、読み取り装置等で工具情報を正確に読み取ることが可能になり、工具情報表示部に含まれる工具情報量を増大させることができる。
また、レーザ照射によって工具情報表示部を形成することで、切削加工中に工具情報表示部の表示が消えにくくなり、工具情報を長期にわたり安定して読み取ることができる。またレーザ照射によって工具情報表示部を形成することで、例えば、工具本体の表面が曲面等を有している場合でも、工具情報を容易に刻印でき、また製造のタクトタイムを短縮できる。
【0012】
第2照射部は、多孔質構造を構成する凹凸および空孔の直径が1μm以下と小さくされているので、光を吸収する作用がより安定して高められる。また、凹凸および空孔の直径が小さく抑えられているため、第2照射部の外観の美観性が良好に維持される。
【0013】
上記切削工具において、前記第2照射部は、表面が凹凸形状である第1凹凸部と、前記第1凹凸部の表面に形成され、前記第1凹凸部よりも小さな凹凸形状とされた第2凹凸部と、を有することが好ましい。
【0014】
この場合、大きな凹凸形状の第1凹凸部と、この第1凹凸部の表面に形成された微細な凹凸形状の第2凹凸部とにより、光を吸収する作用がより高められる。
詳しくは、光が第1凹凸部によりトラップされ、トラップされた光が第2凹凸部により散乱されることで、可視光の波長(色)や入射方位に関わらず、反射率および明度を低下させることができる。このため第2照射部を鮮明な黒色とすることが可能になる。
【0015】
上記切削工具において、前記第2照射部は、フラクタル状の多孔質構造であることが好ましい。
【0016】
上記切削工具において、前記第2照射部は、10nm~5μmのスケール範囲における表面モホロジーがフラクタル構造であることが好ましい。
【0017】
この場合、10nm~5μmのスケール範囲、具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)の倍率で例えばx20,000倍の二次電子像に相当するスケール範囲において、第2照射部の表面モホロジーがフラクタル状である。すなわち、第2照射部の表面を部分的に見たときに、一部(例えば数nm~数十nmオーダー、以下ミクロな部分と呼ぶ)と、全体(例えば数百nm~数μmオーダー、以下マクロな部分と呼ぶ)とが、自己相似(再帰)になっている。このため、光を吸収する作用がより高められる。
詳しくは、光がマクロな部分によりトラップされ、トラップされた光がミクロな部分により散乱されることで、可視光の波長(色)や入射方位に関わらず、反射率および明度を低下させることができる。このため第2照射部を鮮明な黒色とすることが可能になる。
【0018】
上記切削工具は、前記工具本体の表面のうち前記工具情報表示部以外の部分における前記金属酸化物の単位面積あたりの占有面積に比べて、前記第1照射部における前記金属酸化物の単位面積あたりの占有面積が、2倍以上であることが好ましい。
【0019】
第1照射部は、工具本体の表面をナノ秒レーザでレーザ照射することにより作られる。第1照射部をレーザ照射するときに、工具本体のバインダー金属成分(主にCoとNi)がレーザの熱により融点を超えて沸騰し、周囲に飛散する。周囲に飛散して第1照射部の表面上に拡がったバインダー金属成分を含む金属酸化物は、光を乱反射させる。
上記構成によれば、第1照射部における金属酸化物の単位面積あたりの占有面積が、工具本体の表面のうち工具情報表示部以外の部分における金属酸化物の単位面積あたりの占有面積の2倍以上であるので、第1照射部の反射率および明度が安定して高められる。このため、第1照射部を鮮明な白色とすることが可能になる。
【0020】
上記切削工具において、前記第2照射部は、W,C,O,CoおよびNiを主成分とする元素により構成されることが好ましい。
【0021】
この場合、工具本体は超硬合金製である。第2照射部は、工具本体の表面をフェムト秒レーザでレーザ照射することにより作られる。第2照射部をレーザ照射するときに、バインダー金属成分はアブレーションされ、見かけ上消失するが、実際にはデブリ状となって第2照射部の表面上に略均一に分布する。
【0022】
上記切削工具において、前記第1照射部は、測定波長400~700nmにおける反射率が45%以上であり、前記第2照射部は、測定波長400~700nmにおける反射率が5%以下であることが好ましい。
【0023】
この場合、可視光の波長範囲である400~700nmにおいて、第1照射部の反射率と第2照射部の反射率との差が、40%以上である。このため、第1照射部と第2照射部とのコントラストが安定して高められる。
【0024】
上記切削工具において、前記第1照射部は、L*a*b*色空間の明度L*が75以上であり、前記第2照射部は、L*a*b*色空間の明度L*が20以下であることが好ましい。
【0025】
反射率のスペクトルから算出したL*a*b*色空間の明度L*は、0(最も暗い値、最小値)から100(最も明るい値、最大値)までの数値範囲により表される。上記構成では、第1照射部の明度L*と第2照射部の明度L*との差が、55以上である。このため、第1照射部と第2照射部とのコントラストが安定して高められる。
【0026】
上記切削工具において、前記第1照射部は、L*a*b*色空間の彩度a*および彩度b*が10以下の白色であり、前記第2照射部は、L*a*b*色空間の彩度a*および彩度b*が10以下の黒色であることが好ましい。
【0027】
上記構成では、第1照射部が鮮明な白色であり、第2照射部が鮮明な黒色である。このため、第1照射部と第2照射部とのコントラストが安定して高められる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一つの態様の切削工具によれば、工具情報表示部のコントラストを高めて輪郭を明瞭化でき、これにより工具情報を正確に読み取ることができ、工具情報量を増大できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、一実施形態の切削工具である切削インサート、旋削工具および切刃状態管理システムを示す図である。
【
図2】
図2は、一実施形態の切削工具である切削インサートを示す斜視図である。
【
図3】
図3は、工具情報表示部の第1照射部を拡大して示す図である。
【
図4】
図4は、工具本体の表面のうち工具情報表示部以外の部分のEDX元素マッピングを示す図である。
【
図5】
図5は、工具情報表示部の第1照射部のEDX元素マッピングを示す図である。
【
図6】
図6は、工具情報表示部の第2照射部の二次電子像(SEM像)を示す図である。
【
図7】
図7は、工具情報表示部の第2照射部のレーザ照射前の状態を示す断面図である。
【
図8】
図8は、工具情報表示部の第2照射部のレーザ照射後の状態を示す断面図である。
【
図9】
図9は、
図6の二次電子像を二値化画像として示す図である。
【
図10】
図10は、
図9の二値化画像のボックスカウンティング法による解析を示すグラフである。
【
図11】
図11は、一実施形態の変形例の切削工具である切削インサート、転削工具および切刃状態管理システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施形態の切削工具1、旋削工具2および切刃状態管理システムSについて、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の切削工具1は、切削インサートである。切削工具1は、被削材に旋削加工を施す旋削工具2に用いられる。本実施形態の旋削工具2は、例えば、刃先交換式バイト等である。旋削工具2は、ホルダ3と、ホルダ3の先端部に配置されるインサート取付座3aと、インサート取付座3aに着脱可能に取り付けられる切削工具1つまり切削インサートと、インサート取付座3aに切削工具1を固定するクランプネジ4と、を備える。
【0031】
図2に示すように、切削工具1は、板状である。具体的に、切削工具1は多角形板状であり、図示の例では四角形板状である。なお切削工具1は、四角形板状以外の多角形板状や円板状等であってもよい。
【0032】
本実施形態では、切削工具1の中心軸Jが延びる方向、つまり中心軸Jと平行な方向を、軸方向と呼ぶ。切削工具1の平面視において、中心軸Jは、切削工具1の中心に位置する。中心軸Jは、切削工具1の厚さ方向に沿って延びる。
中心軸Jと直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Jに近づく向きを径方向内側と呼び、中心軸Jから離れる向きを径方向外側と呼ぶ。
中心軸J回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。
【0033】
切削工具1は、焼結合金製の工具本体5と、一対の主面10と、外周面20と、貫通孔15と、切刃11と、を備える。一対の主面10、外周面20、貫通孔15および切刃11は、それぞれ、工具本体5の表面の一部を構成する。また切削工具1は、工具本体5の表面にレーザ照射により形成され、外部に露出される工具情報表示部6と、工具本体5の表面のうち工具情報表示部6以外の部分7と、を備える。
【0034】
工具本体5は、上述した切削工具1の形状と同じ形状を有する。工具本体5は、周期律表の4a,5a,6a族金属の炭化物、窒化物およびこれらの相互固溶体の中の少なくとも1種の硬質相と、バインダー金属成分である例えばNi,CoまたはNi-Co合金と、を有する焼結合金製である。工具本体5は、前記硬質相と、前記バインダー金属成分と、を主成分として構成される。本実施形態では工具本体5が、超硬合金製である。具体的に、工具本体5は、WC基の超硬合金製であり、WCからなる硬質相と、前記バインダー金属成分と、を主成分として構成される。なお工具本体5は、例えばTiC基またはTi(C,N)基等のサーメット製でもよい。
【0035】
一対の主面10は、多角形状であり、中心軸Jの軸方向を向く。本実施形態では、一対の主面10がそれぞれ四角形状である。一対の主面10は、一方の主面10と、他方の主面10と、を有する。一方の主面10と他方の主面10とは、軸方向に互いに離れて配置され、軸方向において互いに反対側を向く。
【0036】
一対の主面10のうち、少なくとも一方の主面10は、主面10の一部(コーナ部を含む部分)が切削加工時に図示しない被削材と対向する。
一対の主面10のうち、少なくとも一方の主面10は、すくい面19と、ブレーカ溝12と、平坦面13と、を有する。すくい面19は、主面10の複数(本実施形態では4つ)のコーナ部にそれぞれ配置される。複数のコーナ部は、中心軸Jを中心として互いに回転対称となる位置に配置される。
【0037】
ブレーカ溝12は、主面10の外周縁部に配置される。ブレーカ溝12は、主面10の外周縁部に沿って延びる。本実施形態ではブレーカ溝12が、主面10の外周縁部に周方向の全周にわたって配置される。各すくい面19の少なくとも一部は、ブレーカ溝12に配置される。
平坦面13は、ブレーカ溝12の径方向内側に配置される。平坦面13は、中心軸Jと垂直な方向に拡がる平面状である。
【0038】
外周面20は、一対の主面10と接続され、径方向外側を向く。外周面20は、軸方向の両端部が一対の主面10と接続される。外周面20は、切削工具1の周方向全周にわたって延びる。
外周面20は、逃げ面29を有する。逃げ面29は、外周面20のうち各すくい面19と隣接する部分にそれぞれ配置される。
【0039】
貫通孔15は、切削工具1を軸方向に貫通する。貫通孔15は、一対の主面10に開口し、軸方向に延びる。貫通孔15の中心軸は、切削工具1の中心軸Jに相当する。図示の例では、貫通孔15が円孔状である。貫通孔15には、クランプネジ4が挿入される。
貫通孔15は、開口部15aを有する。開口部15aは、貫通孔15の軸方向の端部に配置される。開口部15aは、テーパ面状の部分を有する。開口部15aは、主面10から軸方向に沿って切削工具1の内側へ向かうに従い縮径する。開口部15aには、クランプネジ4の頭部が接触する。
【0040】
切刃11は、すくい面19と逃げ面29とが接続される稜線部、つまりすくい面19と逃げ面29との交差稜線部に形成される。切刃11は、主面10の複数のコーナ部にそれぞれ配置される。
【0041】
切刃11は、コーナ刃部11aと、一対の直線刃部11bと、を有する。コーナ刃部11aは、径方向外側に向けて突出する凸曲線状である。直線刃部11bは、直線状であり、コーナ刃部11aと接続される。本実施形態では、コーナ刃部11aの刃長方向の両端部に、一対の直線刃部11bが接続される。なお刃長方向とは、切刃11が延びる方向であり、具体的には切刃11の各刃部11a,11bが延びる方向である。コーナ刃部11aおよび一対の直線刃部11bの組は、軸方向から見て、全体に略V字状である。
【0042】
工具情報表示部6は、一対の主面10のうち、少なくとも一方の主面10に配置される。工具情報表示部6は、主面10のうち、切刃11が位置するコーナ部以外の部位に配置される。工具情報表示部6は、第1照射部21と、第2照射部22と、を有する。第1照射部21は、白色であり、第2照射部22は、黒色である。
【0043】
第1照射部21および第2照射部22は、工具本体5の表面にそれぞれ所定のレーザ照射を施すことにより形成される。このため工具情報表示部6は、レーザ加工部またはレーザ照射部と言い換えてもよい。これに対し、工具本体5の表面のうち工具情報表示部6以外の部分7は、所定のレーザ照射を施すことなく形成される。このため工具情報表示部6以外の部分7は、非レーザ加工部または非レーザ照射部と言い換えてもよい。以下の説明では、工具本体5の表面のうち工具情報表示部6以外の部分7を、単に非レーザ加工部7と呼ぶ場合がある。なお特に図示しないが、インサート全体にコーティングが施されており、超硬合金基体が表面に露出している箇所がない場合などは、インサート内部の切断面、つまり工具本体5の内部の切断面を非レーザ加工部7として比較に用いても良い。
【0044】
図2および
図3に示すように、第1照射部21は、工具本体5の表面にナノ秒レーザを照射することで、CoやNiなどのバインダー金属成分がレーザの熱により融点を超えて沸騰し、周囲に飛散して表面に拡がって形成される。本実施形態では、第1照射部21のレーザ処理を、工具情報表示部6全域に施した後、後述する識別コード30および識別マーク41,42等の配置に合わせて、第2照射部22のレーザ処理を選択的に施すことにより、第1照射部21および第2照射部22が形成される。このため、第1照射部21のレーザ処理は、工具情報表示部6の下地処理と言い換えてもよい。
【0045】
第1照射部21のレーザ照射条件の一例を、下記に示す。
・波長 1064nm
・パルス幅 30ns(ナノ秒)
・繰り返し周波数 50kHz
・出力 5W
・走査速度 300mm/s
・走査ピッチ 10μm
・スポット直径 120μm
【0046】
第1照射部21は、非レーザ加工部7よりも、バインダー金属成分を含む金属酸化物の単位面積あたりの占有面積が大きい。
図4は、非レーザ加工部7のEDX(エネルギー分散型X線分析、Energy dispersive X-ray spectroscopy)元素マッピングを示し、
図5は、第1照射部21のEDX元素マッピングを示す。
図4および
図5において、バインダー金属成分(を含む金属酸化物)が検出された領域を、二値化パターンのうち符号Bで示す。本実施形態では、
図4の非レーザ加工部7におけるバインダー金属成分を含む金属酸化物の単位面積あたりの占有面積に比べて、
図5の第1照射部21におけるバインダー金属成分を含む金属酸化物の単位面積あたりの占有面積が、2倍以上である。
【0047】
第1照射部21は、非レーザ加工部7よりも反射率および明度が高い。つまり第1照射部21は、非レーザ加工部7よりも鮮明な白色である。
具体的に、第1照射部21は、可視光の波長範囲である測定波長400~700nmにおける反射率が、45%以上である。なお、本実施形態の反射率は、例えば、分光光度計(日立ハイテク社製、型式UH4150)を用いて、工具本体5の表面の測定対象部分における可視光範囲の全反射光スペクトル(正反射+拡散反射)を用いて測定することができる。
【0048】
また第1照射部21は、L*a*b*色空間の明度L*が75以上である。なお明度は、反射率のスペクトルから算出したL*a*b*色空間の明度の次元L*の値であり、0(最も暗い値、最小値)から100(最も明るい値、最大値)までの数値範囲により表される。また第1照射部21は、L*a*b*色空間の彩度a*および彩度b*が10以下の白色である。
また、第1照射部21の表面粗さは、非レーザ加工部7の表面粗さよりも小さい(つまり滑らかである)。
【0049】
図6は、第2照射部22を示す電子顕微鏡像(二次電子像)である。この二次電子像を撮像した装置は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM、Carl Zeiss Ultra55)であり、倍率は2万倍である。
図6に示すように、第2照射部22は、直径1μm以下の大きさの凹凸および空孔が重なり合った多孔質構造である。第2照射部22は、可視光の波長範囲つまり400~700nmの大きさの凹凸および空孔を含む多孔質構造である。
【0050】
第2照射部22は、第1照射部21を形成するレーザ条件よりもパルス幅が短いレーザ条件で、レーザ照射することにより形成される。第2照射部22は、工具本体5の表面にフェムト秒レーザを照射することで、バインダー金属成分をアブレーションさせて硬質相のWC粒子の凹凸形状を表面に露出させ、かつ、露出したWC粒子の表面に微細な凹凸形状を付与することにより形成される。
【0051】
第2照射部22のレーザ照射条件の一例を、下記に示す。
・波長 320nm
・パルス幅 500fs(フェムト秒)
・繰り返し周波数 50kHz
・出力 10W
・走査速度 10mm/s
・走査ピッチ 30μm
・スポット直径 80μm
【0052】
具体的には、
図7に示す工具本体5の表面に対して、フェムト秒レーザを照射すると、WC粒子とバインダー金属成分Bとではバインダー金属成分Bの方がレーザアブレーションされやすいため、表面のバインダー金属成分Bが除去される。これにより、
図8に示すように、WC粒子の形状に倣った0.1μm~数μm程度のスケールの凹凸形状(後述する第1凹凸部23)が表面に露出する。また、フェムト秒レーザのエネルギー密度を適切に調整することにより、露出したWC粒子の表面に、上記凹凸形状よりも微細な凹凸形状(後述する第2凹凸部24)が形成される。
すなわち、第2照射部22は、表面が凹凸形状である第1凹凸部23と、第1凹凸部23の表面に形成され、第1凹凸部23よりも小さな凹凸形状とされた第2凹凸部24と、を有する。
【0053】
第2照射部22は、フラクタル状の多孔質構造である。第2照射部22は、10nm~5μmのスケール範囲における表面モホロジーがフラクタル構造である。上記10nm~5μmのスケール範囲は、具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)の倍率で例えばx20,000倍の二次電子像、つまり
図6に相当する。このスケール範囲において、第2照射部22の表面モホロジーがフラクタル状である。すなわち、第2照射部22の表面を部分的に見たときに、一部(例えば数nm~数十nmオーダー、以下ミクロな部分と呼ぶ)と、全体(例えば数百nm~数μmオーダー、以下マクロな部分と呼ぶ)とが、自己相似(再帰)になっている。すなわち、上記マクロな部分である第1凹凸部23と、上記ミクロな部分である第2凹凸部24とが、自己相似になっている。
【0054】
本実施形態のフラクタルの定義について、説明する。
図9は、
図6の二次電子像を画像処理により二値化した画像である。
図9の二値化画像について、画像処理ソフトウェアを用いたボックスカウンティング法により解析を実施した。その結果を、
図10のグラフに示す。
図10に示すように、両対数グラフにおける直線の最小二乗法における決定係数(R
2、直線フィッチングの尺度)は、R
2=0.99と高かった。このR
2をフラクタルの度合いと見なすことができる。すなわち、R
2=1であれば理想的なフラクタルであり、それよりも低くなるに従いフラクタル性は失われてゆく。本実施形態では、両対数プロットの直線性が高く(つまりフラクタルの度合いが高く)、フラクタル次元はD=1.86となった。なお、フラクタルでない場合には、
図10の両対数プロットは上側に凸の曲線状となり、同一の直線上には位置しない。このため、本実施形態の第2照射部22は、フラクタル状の多孔質構造であると言える。なお、本実施形態とは別の手法として、3次元プロファイルを取得し、そのプロファイルから3次元に拡張したボックスカウンティング法により次元を求める(例えばD=2.5次元などになる)こととしてもよい。
【0055】
なお、フェムト秒レーザの照射によりアブレーションされたバインダー金属成分は、見かけ上消失するが、実際にはデブリ状となって第2照射部22の表面上に略均一に分布する。このため、本実施形態の第2照射部22は、W,C,O,CoおよびNiを主成分とする元素により構成される。
【0056】
第2照射部22は、非レーザ加工部7および第1照射部21よりも反射率および明度が低い。第2照射部22は、鮮明な黒色である。
具体的に、第2照射部22は、可視光の波長範囲である測定波長400~700nmにおける反射率が、5%以下である。このため、上述した第1照射部21の反射率と、第2照射部22の反射率との差は、40%以上である。
【0057】
また第2照射部22は、L*a*b*色空間の明度L*が20以下である。このため、上述した第1照射部21の明度L*と第2照射部22の明度L*との差は、55以上である。また第2照射部22は、L*a*b*色空間の彩度a*および彩度b*が10以下の黒色である。
また、第2照射部22の表面粗さは、非レーザ加工部7の表面粗さよりも大きい(つまり粗い)。
【0058】
本実施形態の工具情報表示部6の第1照射部21、第2照射部22および非レーザ加工部7の、反射率、L*a*b*色空間の明度L*、彩度a*および彩度b*の測定結果を、下記表1に実施例として示す。また、従来のレーザマーカーによる刻印の場合を比較例として示す。なお従来のレーザマーカーは、単にレーザの熱による変色や酸化を利用した茶色のレーザ刻印である。
【0059】
【0060】
また
図2に示すように、工具情報表示部6は、識別コード30と、複数の識別マーク41,42と、を有する。つまり識別コード30と複数の識別マーク41,42とは、工具情報表示部6に配置される。識別コード30および識別マーク41,42は、第1照射部21と第2照射部22とを所定のパターンで組み合わせることにより、それぞれ構成される。
識別コード30は、一対の主面10のうち、少なくとも一方の主面10に設けられる。識別コード30は、切削工具1を識別するために設けられる。識別コード30には、例えば切削工具1の型番、製造日、製造ロット番号、摩耗量の上限値(工具交換の推奨値)など各種の工具情報が含まれる。なお本実施形態では、工具情報を識別情報、個体情報等と呼ぶ場合がある。また、切削工具1の個体ごとに異なる識別コード30が付されていてもよい。本実施形態によれば、切削工具1に識別コード30が設けられることで、切削工具1のトレーサビリティ性を向上させることができる。
【0061】
識別コード30は、例えば後述する撮像装置Cやスマートフォンのカメラ等の読み取り装置によって読み取られる。識別コード30が設けられることで、切削工具1の情報を容易に、オペレータおよび工作機械に伝達することができる。
【0062】
図1に示すように、識別コード30は、切削工具1をホルダ3に取り付けた状態においても、読み取り装置によって読み取らせることができる。すなわち、識別コード30は、切削工具1をホルダ3に取り付けるためのクランプネジ4によって隠れない位置に設けられる。切削工具1がホルダ3に取り付けられた状態で、読み取り装置が切削工具1の識別コード30を読み取ることで、例えば、個別の切削工具1の使用時間等を容易に算出することができる。また識別コード30は、例えば、切削工具1をロボットで着脱する際の位置認識のマーカーとしても使用可能である。
【0063】
図2に示すように、識別コード30は、円形状に配置される。識別コード30は、中心軸Jを中心とする仮想円の内部に配置される。この仮想円は、主面10の平坦面13内に位置する。識別コード30は、仮想円の外周部に沿って配列される。
【0064】
本実施形態によれば、識別コード30を円形に配列することで、識別コード30を回転対称形状の主面10の限られた領域に配置しやすい。また、切削工具1は平面視多角形状であるため、識別コード30を円形に配列することで、識別コード30を主面10のコーナ部から遠ざけて配置することができる。これにより、切削中にコーナ部から発生する切屑が、識別コード30に接触することを抑制することができる。結果的に、識別コード30が切屑によって除去されることを抑制できる。
【0065】
本実施形態において、識別コード30は、主面10の平坦面13に設けられる。このように、識別コード30が設けられる領域は、平坦であることが好ましい。これにより、識別コード30の読み取り容易性を高めることができる。また、識別コード30が設けられる領域である平坦面13は、切刃11よりも軸方向に突出していることが好ましい。これにより、切削時に切刃11で形成される切屑が、識別コード30に接触しにくくなり、切削時に識別コード30に傷が生じることを抑制できる。結果的に、識別コード30の読み取り容易性を安定して高めることができる。なお、平坦面13のうち、識別コード30が表示された領域のみを軸方向に凹ませることで、識別コード30への切屑の接触を更に防ぐことが出来、好ましい。
【0066】
なお、識別コード30の読み取り容易性は、識別コード30のリーダー(読み取り装置)の簡便さの点から重要となる。例えば、高倍率のマイクロスコープを備えたリーダーでのみ、読み取り可能な精密な(すなわち、読み取り容易性が低い)識別コードを用いる場合、装置の導入に多大な投資費用を要する。一方、読み取り容易性が高い識別コードを用いる場合、例えばスマートフォンのカメラを用いて、識別コード30を読み取ることが可能となり、新たな設備を導入することなく、オペレータが容易に識別コード30から個体の情報を利用することができる。識別コード30から読み取られた個体の情報は、インターネット上のデータベースと照合することで、例えば、切削インサートの推奨切削条件の取得や工具の在庫管理、使用済の刃先の判別などに利用される。
【0067】
本実施形態によれば、識別コード30は、仮想円に沿う全周に亘って設けられる。これにより、識別コード30の全長を長くして、識別コード30が含む情報量を増加させることができる。
【0068】
本実施形態の識別コード30は、仮想円に沿って二値化パターンが配列されるバーコードである。具体的に、識別コード30は、白色の第1照射部21と、黒色の第2照射部22とにより構成される。識別コード30をバーコードとすることで、識別コード30の読み取りを容易とすることができる。
【0069】
本実施形態の識別コード30は、仮想円の径方向および周方向に、それぞれ複数段の二値化パターンが配列された二次元バーコードである。本実施形態によれば、識別コード30を二次元バーコードとすることで、識別コード30が含む情報量を増加させることができる。二次元バーコードの一例としては、QRコード(登録商標)が採用できる。より具体的には、識別コード30は、QRコードを周方向に湾曲させたコードである。したがって、識別コード30は、複数の略四角形状の黒色の区画である要素パターン30aを有する。要素パターン30aは、仮想円に沿って配列される。読み取り装置は、例えば、
図1に示す撮像装置Cであり、後述する解析部Aにおいて撮像した識別コード30を画像処理により四角形状のQRコードに変換して、QRコードから識別情報を読み出す。
【0070】
図2に示すように、識別コード30の二値化パターンは、工具情報表示部6に付与された要素パターン30aと、ブランクパターン30bと、から構成される。要素パターン30aは、第2照射部22により構成される。ブランクパターン30bは、周方向において要素パターン30a同士の間に位置する領域であり、第1照射部21により構成される。
【0071】
要素パターン30aの周方向に沿う寸法は、読み取り容易性の観点から0.5mm以上とすることが好ましい。また、要素パターン30aの周方向に沿う寸法は、識別コード30に十分な情報量を付与するために、1.5mm以下とすることが好ましい。本実施形態において、ブランクパターン30bは、要素パターン30aと同形状である。したがって、ブランクパターン30bの周方向に沿う寸法は、要素パターン30aと同様に、0.5mm以上、1.5mm以下とすることが好ましい。
【0072】
本実施形態において、要素パターン30aは、仮想円に沿って若干湾曲する略正方形である。本実施形態において、それぞれの要素パターン30aの一辺の長さは、上述の理由から、0.5mm以上1.5mm以下とすることが好ましい。なお、複数の要素パターン30aが隣接して配置される場合、隣接する複数の要素パターン30aは互いに繋がって視認される。上述の寸法範囲は、あくまで個別の(つまり単位あたりの)要素パターン30aの寸法範囲である。
【0073】
本実施形態では、四角形状の要素パターン30aを有する識別コード30について説明した。しかしながら、要素パターン30aの形状は四角形状に限らない。一例として、要素パターン30aは、平面視で円形であってもよい。要素パターン30aが円形である場合、それぞれの要素パターン30aの直径は、上述の理由から、0.5mm以上1.5mm以下とすることが好ましい。
【0074】
レーザ刻印により形成された識別コード30は、切削時に切屑が接触したり切削オイル又はクーラントが噴射されたりしても除去され難い。このため、識別コード30をレーザ刻印により形成することで、切削工具1を長時間使用しても識別コード30の読み取り性が低下することを抑制できる。また、識別コード30をレーザ刻印によって形成することで、多様な識別コード30を高速で形成することができる。
【0075】
要素パターン30aのレーザ刻印による形成工程では、レーザ光のON/OFF制御を行いながら、レーザ光を仮想円に沿って円形に走査させることが好ましい。要素パターン30aの周方向に沿う輪郭は、円弧状である。このため、レーザ光を直線状に走査させると、要素パターン30aの円弧状の輪郭を形成させることが困難となる。レーザ光を円形に走査させることで、要素パターン30aの輪郭を滑らかにすることができ、識別コード30の読み取り容易性を高めることができる。加えて、レーザ光を円弧状に走査させることで、レーザ光のパスを短くすることができ、直線状に走査させる場合と比較して、加工時間を短縮することができる。
【0076】
本実施形態によれば、識別コード30は、貫通孔15の開口の周囲、つまり開口部15aの径方向外側に配置される。このため、貫通孔15にクランプネジ4を挿入した状態においても、識別コード30がクランプネジ4の頭部で隠れることを抑制できる。
【0077】
識別マーク41,42は、白色の第1照射部21および黒色の第2照射部22のうち、少なくとも第2照射部22により構成される。本実施形態では、識別マーク41が第2照射部22により構成され、識別マーク42が第1照射部21および第2照射部22により構成される。複数の識別マーク41,42は、径方向から見て主面10の各コーナ部と重なる位置に配置される。すなわち、切刃11が設けられた各コーナ部の径方向内側に、各識別マーク41,42が設けられる。識別マーク41,42は、識別コード30とともにレーザ刻印によって形成される。複数の識別マーク41,42は、一対の第1の識別マーク41と、第2の識別マーク42と、を有する。
【0078】
第1の識別マーク41および第2の識別マーク42は、識別コード30の径方向外側に位置する。第1の識別マーク41と第2の識別マーク42とは、互いに形状が異なる。すなわち、複数の識別マーク41,42は、互いに区別される。より具体的には、第1の識別マーク41は平面視円形状であり、第2の識別マーク42は平面視円形リング状である。4つのコーナ部は、一対の第1の識別マーク41および第2の識別マーク42の各径方向外側に位置する3つのコーナ部と、識別マークが設けられないコーナ部と、で互いに識別される。
【0079】
なお、本実施形態では、4つのコーナ部のうち、3つのコーナ部に識別マーク41,42が設けられる場合について説明した。しかしながら、切刃11が設けられた主面10には、当該主面10の複数のコーナ部のうち少なくとも1つのコーナ部の内側に位置し、コーナ部を他のコーナ部と識別する識別マークが設けられていればよい。少なくとも1つのコーナ部の内側に識別マークが設けられていれば、当該識別マークから周方向に沿って順番にコーナ部を識別することができる。
【0080】
本実施形態によれば、コーナ部の内側に識別マーク41,42が設けられることで、複数のコーナ部のうちどのコーナ部の切刃11が切削に用いられているかを容易に判別、判定することができる。
【0081】
また、複数の識別マーク41,42のうち少なくとも一つの識別マークは、識別コード30の読み取り時の基準点とされる。識別コード30がバーコードである場合に、識別コード30は、読み取り開始位置が指定されることが好ましい。一般的なバーコードは、一方向に二値のパターンであるため、バーコードの端部を読み取り開始位置として認識させることができる。しかしながら、本実施形態の識別コード30は、仮想円に沿う全周に亘って設けられるため、端部を読み取り開始域とし難い。本実施形態によれば、識別マークを識別コード30の読み取り時の周方向の位置の基準とすることができる。
【0082】
本実施形態の識別マーク41,42は、それぞれ識別コード30の要素パターン30aと外形形状が異なる。より具体的には、識別マーク41,42の外形が円形状であるのに対し、要素パターン30aは略四角形状である。このため、読み取り装置が、識別コード30の要素パターン30aと識別マーク41,42とを読み違うことを抑制できる。
【0083】
以上説明した本実施形態の切削工具1において、工具本体5はその表面に、工具情報表示部6つまりレーザ加工部6と、工具情報表示部6以外の部分7つまり非レーザ加工部7と、を有する。工具情報表示部6においては、第1照射部21をブランクパターン30bとし、第2照射部22を要素パターン30aとして、第1照射部21と第2照射部22とを適宜組み合わせることにより、二値化パターンとされた識別コード30や識別マーク41,42等が形成される。
【0084】
本実施形態によれば、非レーザ加工部7に比べて、工具情報表示部6の第1照射部21は、例えばCoまたはNiなどのバインダー金属成分を含む金属酸化物の、単位面積あたりの占有面積が大きい。このため、第1照射部21は、非レーザ加工部7に比べて、反射率および明度が高くなる。
【0085】
これに対し、工具情報表示部6の第2照射部22は、可視光の波長スケールの大きさを含む様々な大きさの凹凸および空孔を有する多孔質構造であるので、光を吸収する作用が得られ、反射率および明度が低くなる。このため、第1照射部21と第2照射部22とを組み合わせて識別コード30や識別マーク41,42等を構成することにより、工具情報表示部6のコントラストを高めて輪郭を明瞭化できる。
【0086】
したがって、例えば、本実施形態のように切削工具1が切削インサートである場合や、図示しない小径ドリルである場合など、工具本体5の表面にレーザ刻印するスペースが少ない(スペースを確保しにくい)切削工具1であっても、読み取り装置等で工具情報を正確に読み取ることが可能になり、工具情報表示部6に含まれる工具情報量を増大させることができる。
また、レーザ照射によって工具情報表示部6を形成することで、切削加工中に工具情報表示部6の表示が消えにくくなり、工具情報を長期にわたり安定して読み取ることができる。またレーザ照射によって工具情報表示部6を形成することで、例えば、工具本体5の表面が曲面等を有している場合でも、工具情報を容易に刻印でき、また製造のタクトタイムを短縮できる。
【0087】
また本実施形態では、第2照射部22は、直径1μm以下の大きさの凹凸および空孔が重なり合った多孔質構造である。
この場合、第2照射部22は、多孔質構造を構成する凹凸および空孔の直径が1μm以下と小さくされているので、光を吸収する作用がより安定して高められる。また、凹凸および空孔の直径が小さく抑えられているため、第2照射部22の外観の美観性が良好に維持される。
【0088】
また本実施形態では、第2照射部22が、第1凹凸部23および第2凹凸部24を有する。
この場合、大きな凹凸形状の第1凹凸部23と、この第1凹凸部23の表面に形成された微細な凹凸形状の第2凹凸部24とにより、光を吸収する作用がより高められる。
詳しくは、
図8に示すように、光Lが第1凹凸部23によりトラップされ、トラップされた光Lが第2凹凸部24により散乱されることで、可視光の波長(色)や入射方位に関わらず、反射率および明度を低下させることができる。このため第2照射部22を鮮明な黒色とすることが可能になる。
【0089】
また本実施形態では、第2照射部22がフラクタル状の多孔質構造である。第2照射部22は、10nm~5μmのスケール範囲における表面モホロジーがフラクタル構造である。
この場合、第2照射部22の表面を部分的に見たときに、一部(例えば数nm~数十nmオーダー、上記第2凹凸部24に相当)と、全体(例えば数百nm~数μmオーダー、上記第1凹凸部23に相当)とが、自己相似(再帰)になっている。このため、上述と同様に、光Lを吸収する作用がより高められる。第2照射部22を鮮明な黒色とすることが可能になる。
【0090】
なお、フラクタル次元が高いほど、そして決定係数R2が1に近いほど、反射率抑制の効果が高いと考えられる。
【0091】
また本実施形態では、第1照射部21におけるバインダー金属成分を含む金属酸化物の単位面積あたりの占有面積が、非レーザ加工部7におけるバインダー金属成分を含む金属酸化物の単位面積あたりの占有面積の2倍以上であるので、第1照射部21の表面上に拡がったバインダー金属成分を含む金属酸化物が、光を乱反射させる。これにより、第1照射部21の反射率および明度が安定して高められる。第1照射部21を鮮明な白色とすることが可能になる。
【0092】
また本実施形態では、第2照射部22が、W,C,O,CoおよびNiを主成分とする元素により構成される。
この場合、工具本体5は超硬合金製である。第2照射部22は、工具本体5の表面をフェムト秒レーザでレーザ照射することにより作られる。第2照射部22をレーザ照射するときに、バインダー金属成分はアブレーションされ、見かけ上消失するが、実際にはデブリ状となって第2照射部22の表面上に略均一に分布する。
【0093】
また本実施形態では、第1照射部21は、測定波長400~700nmにおける反射率が45%以上であり、第2照射部22は、測定波長400~700nmにおける反射率が5%以下である。
この場合、可視光の波長範囲である400~700nmにおいて、第1照射部21の反射率と第2照射部22の反射率との差が、40%以上である。このため、第1照射部21と第2照射部22とのコントラストが安定して高められる。
【0094】
また本実施形態では、第1照射部21は、L*a*b*色空間の明度L*が75以上であり、第2照射部22は、L*a*b*色空間の明度L*が20以下である。
この場合、第1照射部21の明度L*と第2照射部22の明度L*との差が、55以上である。このため、第1照射部21と第2照射部22とのコントラストが安定して高められる。
【0095】
また本実施形態では、第1照射部21は、L*a*b*色空間の彩度a*および彩度b*が10以下の白色であり、第2照射部22は、L*a*b*色空間の彩度a*および彩度b*が10以下の黒色である。
上記構成によれば、第1照射部21が鮮明な白色であり、第2照射部22が鮮明な黒色である。このため、第1照射部21と第2照射部22とのコントラストが安定して高められる。
【0096】
次に本実施形態の切削工具1の切刃11の状態を管理する切刃状態管理システムSについて説明する。
図1に示すように、切刃状態管理システムSは、撮像装置Cと、解析部Aと、を有する。
【0097】
撮像装置Cは、例えばCCDイメージセンサー(Charge Coupled Device image sensor)を備えたカメラ(いわゆるCCDカメラ)である。撮像装置Cは、切削工具1の主面10と対向して配置される。
【0098】
本実施形態において、撮像装置Cは、切削工具1の識別コード30と、切刃11近傍のすくい面19および逃げ面29の少なくとも一方と、を同時に撮像する。このため、撮像装置Cの光軸は、主面10の法線方向(つまり中心軸Jの軸方向)に対して傾斜する。なお、撮像装置Cは必ずしも1台のカメラから構成されていなくてもよい。例えば、撮像装置Cは、切削工具1の主面10の法線方向から識別コード30を撮像するカメラと、切削工具1の主面10の外周接線に近い方向から逃げ面29を撮像するカメラと、の計2台(複数台)のカメラを有していてもよい。
このように本実施形態の撮像装置Cは、ホルダ3に取り付けられた切削工具1の識別コード30および切刃11近傍を撮像する。
【0099】
解析部Aは、例えばコンピュータである。解析部Aは、識別コード30に付与された識別情報から切削工具1の特性を割り出すデータベースを有することが好ましい。また、解析部Aは、ネットワークを介して外部サーバに格納されたデータベースに接続されていてもよい。解析部Aは、撮像装置Cに接続される。解析部Aは、撮像装置Cで撮像された撮像画像を受信する。解析部Aは、撮像装置Cにより撮像された撮像画像を解析する。
【0100】
解析部Aは、撮像画像を解析して撮像画像中の識別コード30から切削工具1の個体情報を得る。また、解析部Aは、撮像画像を解析して撮像画像中の切削工具1から切削工具1の損傷状態の情報を得る。解析部Aは、撮像画像中の識別コード30から得られる切削工具1の個体情報と、撮像画像中の切削工具1から得られる切削工具1の損傷状態の情報と、を互いに関連付ける。
【0101】
切削工具1の損傷の種類で最も典型的なものは、切刃11の逃げ面摩耗である。逃げ面摩耗が発生すると、切削工具1の切刃11の先端位置が後退する(工具の外径寸法が減少する)ため、逃げ面摩耗量に応じて加工品(最終製品)の寸法誤差が大きくなる。そして、この寸法誤差がユーザーの許容値を超えた場合を基準として工具寿命に達したか否かが判定される。そのため、切削工具1の損傷状態として重要な情報の1つは、切刃11の逃げ面摩耗量の情報である。切削工具1の切刃11は、切削加工を行うことで摩耗する。工具寿命を迎えた切刃11の逃げ面摩耗量は、例えば中仕上げ用のインサートの切刃11で、数十μm~数百μm程度と小さい。そのため、切刃11の逃げ面摩耗量を撮像装置Cで、工具使用前の切刃11の先端位置との差分として直接測定することは困難である。
【0102】
本願の発明者は、切刃11の逃げ面摩耗量が大きくなるに従い、切削工具1の逃げ面29およびすくい面19(
図2参照)に形成される摩耗痕が大きくなる点に着目した。加工精度を良好に維持する上で逃げ面摩耗量が重要であるが、一般に、逃げ面摩耗の増加にしたがってすくい面摩耗も増加するため、すくい面摩耗量も工具寿命を判断する上での指標になる場合が多い。なお、ここで述べる摩耗痕とは、被削材が接触することで変色した領域のことを指す。なお、見た目の変色領域には、摩耗によるもののほか、切削中の熱による変色なども含まれる。しかし、通常それらの色合いは互いに異なるため、機械学習を用いることで高い精度で判別することが可能となる。摩耗痕の大きさは、中仕上げ用のインサートであっても工具寿命に達する際には一辺が数mm程度と大きいため、撮像装置Cを用いて、容易に測定することができる。切刃11の摩耗量と逃げ面29およびすくい面19の摩耗痕の大きさとの相関係数は、切削工具1の特性により変化する。より具体的には、相関係数は、切削工具1の材料、ホーニング形状、逃げ面29の逃げ角およびすくい面19のすくい角などにより決まる。
【0103】
本実施形態によれば、解析部Aは、切削工具1の主面10に設けられた識別コード30から切削工具1の個体情報を取得できる。切削工具1の個体情報には、相関係数を決める切削工具1の特性の情報が含まれる。解析部Aは、逃げ面29およびすくい面19の摩耗痕の大きさ(撮像画像中の切削工具1から得られる切削工具1の損傷状態)と、切削工具1の個体情報と、を関連付けることで、切刃11の逃げ面摩耗量を推定することができる。切刃状態管理システムSは、推定された切刃11の逃げ面摩耗量が、工具寿命に相当する閾値を超えたと判断した場合に、切刃11の交換をユーザーに促すアラートを発する。
【0104】
本実施形態の切刃状態管理システムSにおいて、撮像装置Cは、切削工具1の主面10の識別コード30と、切刃11近傍のすくい面19および逃げ面29の何れか一方と、を同時に撮像する。すなわち、撮像装置Cが、すくい面19又は逃げ面29の摩耗痕の大きさの少なくとも一方と、識別コード30と、を同時に撮像する。このため、解析部Aが摩耗痕の大きさから逃げ面摩耗量を即座に推定できる。
【0105】
また、切刃状態管理システムSは、切刃11の逃げ面摩耗量の推定以外にも、切削に使用する切削工具1および切削条件の選定に用いることができる。解析部Aは、撮像画像中の切削工具1から得られる切削工具1の損傷状態の情報として、例えば切削工具1のチッピングおよび欠損などの異常を検出できる。切削工具1に上述のような異常が生じる原因は、切削工具1の靭性が不足しているか、又は切削負荷が高すぎることが考えられる。また、他の損傷状態の例として、切削工具1の熱亀裂やフレーキング、被削材の溶着など多数のものがあり、それらの原因も通常は、切削工具1の種類、もしくは切削条件が適切でないことによる。解析部Aは、撮像画像中の切削工具1から得られる発生した異常の情報(切削工具1の損傷状態の情報)と、切削工具1の個体情報と、を関連付けることで、発生した異常の原因を分析する。また、切刃状態管理システムSは、解析部Aにおける異常の原因の分析結果を基に、異常を改善するための切削工具1および切削条件の選定をユーザーへ提案する。
【0106】
ホルダ3に取り付けられている切削工具1の個体情報は切削の管理において有益な情報である。従来、切削工具1の個体情報を管理する場合、システムに手入力することが一般的であったが、入力の手間が発生すること、人為的な入力ミスなどが発生するおそれがあるなどの問題があった。加えて、切削工具1の取り付けは、ユーザーの手作業でなされるため、複数の切刃11を有する切削工具1において同じ切刃11を誤って複数回使用してしまうことや、未使用の切刃11を有する切削工具1を誤って廃棄してしまうロスが発生し得る。
【0107】
本実施形態の切刃状態管理システムSによれば、撮像装置Cが切削工具1を撮像し、解析部Aが切削工具1の撮像画像を解析することで、解析部Aは、切削工具1の個体情報を容易に取得することができる。このため、切削工具1の個体情報を手入力する手間や入力ミスをなくすことができる。また、撮像時に、切削工具1の識別マーク41,42を読み取ることで使用している切刃11が分かるため、複数の切刃11を有する切削工具1において、個別の切刃11の使用履歴を管理することができる。
【0108】
切削工具1は、同一の工具型番であっても、個体ごとの形状や品質のわずかなばらつきが存在するため、同一条件で切削を行っても工具寿命に達するまでの時間にばらつきが発生する。このため、切削工具1は、寿命に達すると考えられる切削累計時間に対して、一定のマージンをもって交換されることが一般的である。例えば、一般的なインサートは、寿命の平均値の80%程度の時間で交換される。このため、交換頻度が増すことによる手間の発生や、寿命まで使用しないことによる切削工具1のロスが発生するなどの問題があった。
【0109】
本実施形態において、解析部Aは、人工知能(artificial intelligence、AI)を有する。解析部Aの人工知能は、工具寿命時、および、工具寿命に達するまでの各段階における切刃11の損傷画像のパターンを学習する。その結果により、解析部Aの人工知能は、現在の切刃11の損傷状態の画像から、工具寿命に達するまでの残り使用時間を予測する。また、切刃状態管理システムSは、ユーザーインターフェースのパネルに、全工具寿命に対する現在の切刃11の使用時間を%表示させてもよい。さらに、切刃状態管理システムSは、ホルダ3に取り付けられた切削工具1の個体情報に基づいて、寿命に達した切削工具1のみを交換することが可能となりロスを減らすことができる。
【0110】
また、本実施形態の切刃状態管理システムSによれば、切削工具1の識別コード30により切削工具1のトレーサビリティが得られるため、切削工具1の生産工程において発生した細かなパラメータの変動(例えばCVDコーティング炉内におけるその切削工具1の設置位置の情報から推定されるコーティングの膜厚など)や、型番に載らないマイナーバージョンアップも情報として保持できる。このため、その情報を用いることで、より精度の高い寿命予測が可能となる。また、本実施形態の切刃状態管理システムSによれば、データベースにより全製品が管理されるため、模倣品の対策にもなる。
【0111】
本実施形態では、撮像装置Cが切削装置内の上述した位置に固定されたものとしての例を説明したが、本発明の構成はそれに限定されない。例えば、切削完了後にホルダ3から取り外した切削工具1を、切削装置外部の独立した撮像装置Cにて、識別コード30および切刃11の損傷状態を撮像してもよい。その場合、切削工具1の使用中における切刃11の損傷状態をリアルタイムで取得することはできないが、使用後の切刃11の摩耗量から加工品(最終製品)の寸法をチェックすることや、切削工具1の種類変更や切削条件の最適化のための指標は上述と同様に手に入れることができる。
【0112】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0113】
切削工具1は、工具本体5の表面のうち例えばすくい面19、逃げ面29および切刃11を覆う硬質被膜を備えていてもよい。また切削工具1は、貫通孔15を備えていなくてもよい。この場合、識別コード30は円形状に限らず、多角形状等であってもよい。
【0114】
前述の実施形態では、切削工具1が刃先交換式バイト等の旋削工具2に用いられる例を挙げたが、これに限らない。
図11は、前述の実施形態の変形例である切削工具201、転削工具202および切刃状態管理システムSを示す。この変形例の切削工具201は、切削インサートである。切削工具201は、被削材に転削加工を施す転削工具202に用いられる。この変形例の転削工具202は、例えば、刃先交換式フライスカッタ等である。転削工具202は、切削工具201の切刃211により金属材料等からなる被削材にフライス加工を施す。転削工具202は、工作機械の主軸に取り付けられる。転削工具202は、その工具軸Oが工作機械の主軸の回転軸と同軸に配置された姿勢で主軸に固定され、主軸により工具軸O回りに回転させられる。
【0115】
転削工具202は、工具軸Oを中心とするホルダ203と、ホルダ203の先端外周部に位置し、工具軸O回りに互いに間隔をあけて配置される複数のインサート取付座203aと、各インサート取付座203aに着脱可能に取り付けられる複数の切削工具201と、各インサート取付座203aに各切削工具201を固定する複数のクランプネジ4と、を備える。
【0116】
切削工具201は、焼結合金製の工具本体205と、一対の主面210と、外周面220と、貫通孔(図示略)と、切刃211と、を備える。一対の主面210のうち一方の主面210は、切削工具201がインサート取付座203aに取り付けられた状態で、工具軸O回りのうち工具回転方向を向く。一方の主面210には、識別コード230および識別マークが設けられる。
【0117】
また切削工具201は、工具本体205の表面に露出される工具情報表示部(図示略)と、工具本体205の表面のうち工具情報表示部以外の部分(図示略)と、を備える。切削工具201の工具情報表示部および工具情報表示部以外の部分は、一方の主面210に配置される。切削工具201の工具情報表示部には、識別コード230および識別マークが配置される。切削工具201の工具情報表示部および工具情報表示部以外の部分として、例えば、前述の実施形態で説明した工具情報表示部6および非レーザ加工部7の各構成を用いることができる。
【0118】
この変形例の切刃状態管理システムSは、前述の実施形態と同様に、撮像装置Cと、解析部Aと、を有する。撮像装置Cは、斜め下方から切削工具201の主面210の識別コード230を撮像する。このように斜め下方から撮像することで、1台のカメラで刃先近傍のすくい面と逃げ面を同時に撮像することができるという利点があり、刃先近傍のすくい面と逃げ面の両方が記録された画像が得られるため、それらの摩耗の大きさと逃げ面摩耗量との相関係数を得るための機械学習を効率的に進めることができる。その場合、好ましくは、切削工具201の主面210の法線つまり中心軸Jに対し、斜め45°から撮像するのがよい。
【0119】
また、ホルダ203に、例えば10個以上の多数の切削工具201が取り付けられる場合には、切削工具201の工具回転方向に位置するチップポケットが狭くなるため、撮像装置Cが識別コード230の全体を撮影できない場合がある。このような場合に備えて、切削工具201の識別コード230は、一部のみを撮像して、個体の識別情報を読み取ることができる構成とすることが好ましい。より具体的には、識別コード230は、切削工具201の中心軸J回りの周方向に沿って繰り返し識別情報が載せられる構成を有することが好ましい。
【0120】
また、前述の実施形態および変形例では、切削工具1,201が切削インサートである例を挙げたが、これに限らない。切削工具は、例えばソリッドタイプのドリル、エンドミル、リーマおよびそれ以外の切削工具であってもよい。
【0121】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例およびなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0122】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されない。
【0123】
本発明の製造例(実施例)として、前述の実施形態で説明した切削工具1を製造した。具体的には、WC粒子の平均粒径が2μm、バインダー金属成分の主成分がCo、バインダー金属成分が工具本体5全体に占める重量比が10wt%である工具本体5の超硬合金焼結体を用意し、この工具本体5の表面の工具情報表示部6全域に、ナノ秒レーザを前述の実施形態で説明した第1照射部21のレーザ照射条件で照射した。その結果、工具情報表示部6の表面に、溶融再凝固したCo酸化物が拡がった鮮明な白色の下地が形成された。なおCo酸化物は、工具情報表示部6の表面を50%以上、詳しくは70%程度覆っていた。
【0124】
次に、工具情報表示部6の第2照射部22予定部、つまり識別コード30予定部および識別マーク41,42予定部に対して、フェムト秒レーザを前述の実施形態で説明した第2照射部22のレーザ照射条件で照射した。その結果、第2照射部22には、Coが見かけ上消失し、Wの酸化物またはアモルファス炭素により構成された多孔質状の表面が形成された。この第2照射部22の表面は、EDXにより、W,C,OおよびCoが検出された。なお、第2照射部22の表面のCoは、見かけ上は消失しているが、実際にはレーザ処理前と同程度存在していた。つまり黒色部(第2照射部22)のCoは、アブレーションはされているが、また表面にデブリとして降り積もり、レーザ処理前のように局所的に集中して配置されるのではなく、むしろミクロスケールで略均一に分布したものと考えられる。
【0125】
第2照射部22の表面は、Coがアブレーションされてできたマクロな(Rzが数μmの)凹凸と、ナノスケールのミクロな凹凸との組み合わせで構成されており、光がトラップされて目視で鮮明に黒く見えることが確認された。
【0126】
図2に示すように、本実施例では、硬質被膜を有さない超硬合金製の工具本体5に、円形状の識別コード30、および識別マーク41,42をレーザ刻印した。具体的には、まず、貫通孔15回りの平面視円形状の領域を一様にナノ秒レーザでハッチング走査し、次に、識別コード30予定部および識別マーク41,42予定部に対して、フェムト秒レーザでレーザ刻印した。
図2に示すように、工具本体5の表面に露出する超硬合金は灰色で暗く、また見る角度により環境光の反射の程度が変わるため、その色の濃さも変化してしまうが、本発明の白色処理(ナノ秒レーザによるレーザ照射)を工具情報表示部6に行うことで、明るく一様な白色を付与できた。また、黒色部では鮮明に黒い色が出ており、白色部とのコントラストも高く二値化パターンのエッジが明確なため、より微細なパターンの刻印にも対応可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の切削工具によれば、工具情報表示部のコントラストを高めて輪郭を明瞭化でき、これにより工具情報を正確に読み取ることができ、工具情報量を増大できる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0128】
1,201…切削工具、5,205…工具本体、6…工具情報表示部(レーザ加工部)、7…工具本体の表面のうち工具情報表示部以外の部分(非レーザ加工部)、21…第1照射部、22…第2照射部、23…第1凹凸部、24…第2凹凸部、B…バインダー金属成分、L…可視光、WC…WC粒子