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特許7459620医療用ゴム組成物、医療用ゴム部品、および、プレフィルドシリンジ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】医療用ゴム組成物、医療用ゴム部品、および、プレフィルドシリンジ
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/22 20060101AFI20240326BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20240326BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20240326BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20240326BHJP
   A61M 5/32 20060101ALI20240326BHJP
   A61M 5/31 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
C08L23/22
C08L9/00
C08K5/14
C08K5/101
A61M5/32 500
A61M5/32 510D
A61M5/31 502
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020063679
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161222
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】松谷 雄一朗
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/052037(WO,A1)
【文献】特公昭55-042104(JP,B1)
【文献】特開平08-112342(JP,A)
【文献】特開昭53-016203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/22
C08L 9/00
C08K 5/14
C08K 5/101
A61M 5/32
A61M 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ブチルゴムと、
(b)ポリブタジエンを含有するジエン系ゴムと、
(c)パーオキサイド系架橋剤と、
(d)共架橋剤とを含有し、
(b)前記ジエン系ゴムの含有量は、(a)ブチルゴムと(b)ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部中、15質量部以上、90質量部以下であり、
(c)前記パーオキサイド系架橋剤と(d)前記共架橋剤との配合量の質量比率((d)/(c))が、1.2以上、25以下であり、
(d)前記共架橋剤は、トリメチロールプロパントリアクリレートおよび/またはトリメチロールプロパントリメタクリレートであることを特徴とする医療用ゴム組成物。
【請求項2】
(a)前記ブチルゴムは、ハロゲン化ブチルゴムである請求項1に記載の医療用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ハロゲン化ブチルゴムは、塩素化ブチルゴムである請求項2に記載の医療用ゴム組成物。
【請求項4】
(b)前記ジエン系ゴムの含有量は、(a)ブチルゴムと(b)ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部中、20質量部以上、90質量部以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の医療用ゴム組成物。
【請求項5】
(c)前記パーオキサイド系架橋剤の含有量は、(a)ブチルゴムと(b)ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、0.05質量部以上、7質量部以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の医療用ゴム組成物。
【請求項6】
(d)前記共架橋剤の含有量は、(a)ブチルゴムと(b)ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上、10質量部以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の医療用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の医療用ゴム組成物を成形してなる医療用ゴム部品。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の医療用ゴム組成物を成形してなるプレフィルドシリンジ用のノズルキャップ。
【請求項9】
請求項に記載のノズルキャップを有することを特徴とするプレフィルドシリンジ。
【請求項10】
前記ノズルキヤップが、シリンジに取り付けられた状態でガス滅菌されるものである請求項に記載のプレフィルドシリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ゴム組成物およびこれを用いた医療用ゴム部品、並びに、プレフィルドシリンジに関するものであり、より詳細には、医療用ゴム部品のガス透過性を改良する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療過誤の防止や使用時の簡便性、衛生性向上等の観点から、滅菌された注射筒内にあらかじめ薬液が充填されたプレフィルドシリンジの用途が拡大する傾向にある。プレフィルドシリンジのシリンジバレルのノズル側の先端には液密性、気密性、無菌性等を確保するためにノズルキャップが取り付けられる。
【0003】
プレフィルドシリンジには、あらかじめシリンジバレルのノズルに針が埋め込まれた針付きシリンジと、使用時にノズルキャップを取り外して注射針をセットする針なしシリンジとがある。ノズルキャップには、針付きシリンジ用の針刺部を有し、当該針刺部に針を数ミリ刺突した状態でノズルに被せるニードルシールドタイプのものと、針なしシリンジのノズルに被せるタイプのものとがある(特許文献1~3等参照)。
【0004】
プレフィルドシリンジは、薬液充てん前の注射筒のノズルに、ノズルキャップを被せた状態で、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、蒸気滅菌、ガンマ線による放射線滅菌等を行い、次いで注射筒に薬液を無菌充填し、滅菌済みのガスケットを打栓したのち、包装して製品として出荷される。
【0005】
EOGや蒸気を用いたガス滅菌では、ノズルキャップを形成するゴムを通してEOGや蒸気などのガスを内部に透過させて、例えば、針付きシリンジの場合は針刺部に刺突した先端部を含む針の全体やノズル等を滅菌できることが求められる。
【0006】
EOG滅菌後は滅菌に用いたエチレンオキサイドやその二次生成物であるエチレングリコール、エチレンクロロヒドリン等の残存物を、脱気エアレーションによって速やかに除去できることが求められる。また、蒸気滅菌後には吸着水分を速やかに乾燥除去できることが求められる。
【0007】
特許文献4には、ハロゲン化ブチルゴム100重量部当り超高分子量ポリエチレン微粉末を5~25重量部配合したハロゲン化ブチルゴムを、亜鉛化合物の不存在下に、2-置換-4,6-ジチオール-s-トリアジン誘導体の少なくとも1種又は有機過酸化物を用いて加硫してなることを特徴とする医薬品容器用ゴム栓が開示されている。
【0008】
特許文献5には、ジエン系ゴムと非ジエン系ゴムとを、前記両ゴムの総量100質量部中に占めるジエン系ゴムの割合が20質量部以上、70質量部以下となるように配合したゴム分を含むゴム組成物からなるプレフィルドシリンジ用のノズルキャップが開示されている。
【0009】
また、シリンジの開口部を密封などする医療用ゴム栓には、非溶出性、高清浄性、耐薬品性、耐針刺性、自己密封性、高摺動性など多くの項目が必須とされている。医療用ゴム栓に要求される品質特性は、その用途上、第17改正日本薬局方の輸液用ゴム栓試験に準拠すべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-112703号公報
【文献】特開2001-340425号公報
【文献】特開2015-62564号公報
【文献】特許第3193895号公報
【文献】国際公開WO2016/052037
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、非溶出特性を維持しながら、ガス滅菌に好適なガス透過性を備える医療用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の医療用ゴム組成物は、(a)ブチルゴムと、(b)ポリブタジエンを含有するジエン系ゴムと、(c)パーオキサイド系架橋剤と、(d)共架橋剤とを含有し、(b)前記ジエン系ゴムの含有量は、(a)ブチルゴムと(b)ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部中、15質量部以上、90質量部以下であり、(c)前記パーオキサイド系架橋剤と(d)前記共架橋剤との配合量の質量比率((d)/(c))が、1.2以上、25以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の医療用ゴム組成物を用いれば、非溶出特性を維持しながら、ガス滅菌に優れるガス透過性を備える医療用ゴム組成物およびこれを用いた医療用ゴム部品が得られる。本発明の医療用ゴム組成物を用いれば、非溶出特性を維持しながら、ガス滅菌に優れるガス減菌性を備えるノズルキャップおよびこれを用いたプレフィルドシリンジが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の医療用ゴム部品の一実施形態(ノズルキャップ)の説明図。
図2】本発明の医療用ゴム部品の一実施形態(ノズルキャップ)の説明図。
図3】EOG滅菌試験のサンプルを説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の医療用ゴム組成物は、(a)ブチルゴムと、(b)ポリブタジエンを含有するジエン系ゴムと、(c)パーオキサイド系架橋剤と、(d)共架橋剤とを含有し、(b)前記ジエン系ゴムの含有量は、(a)ブチルゴムと(b)ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部中、15質量部以上、90質量部以下であり、(c)前記パーオキサイド系架橋剤と(d)前記共架橋剤との配合量の質量比率((d)/(c))が、1.2以上、25以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の医療用ゴム組成物は、ゴム成分として、(a)ブチルゴムと、(b)ポリブタジエンを含有するジエン系ゴムとを含有する。
【0017】
まず、(a)前記ブチルゴムについて説明する。ブチルゴムとしては、例えば、イソブチレンと少量のイソプレンとを重合して得られる共重合体が好ましい。
【0018】
前記ブチルゴムは、ハロゲン化ブチルゴムであることが好ましい。ハロゲン化ブチルゴムとしては、例えば、塩素化ブチルゴム、および、臭素化ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭素化物などが挙げられる。前記ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムが好ましい。前記塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムは、例えば、ブチルゴム中のイソプレン構造部分、具体的には二重結合および/または二重結合に隣接する炭素原子に塩素または臭素を付加または置換反応させたものである。
【0019】
ハロゲン化ブチルゴム中のハロゲン含有率は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましく、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
【0020】
前記塩素化ブチルゴムの具体例としては、例えば日本ブチル社製のCHLOROBUTYL1066〔安定剤:NS、ハロゲン含量率:1.26%、ムーニー粘度:38ML1+8(125℃)、比重:0.92〕;LANXESS社製のLANXESS X_BUTYL CB1240等の少なくとも1種が挙げられる。
【0021】
前記臭素化ブチルゴムの具体例としては、例えば日本ブチル社製のBROMOBUTYL2255〔安定剤:NS、ハロゲン含量率:2.0%、ムーニー粘度:46ML1+8(125℃)、比重:0.93〕;LANXESS社製のLANXESS X_BUTYL BBX2等の少なくとも1種が挙げられる。
【0022】
本発明の医療用ゴム組成物は、ゴム成分として、(b)ポリブタジエンを含有するジエン系ゴムを含有する。ジエン系ゴムは、ジエンモノマーを重合して得られるゴムであり、主鎖に二重結合を有するゴムである。なお、本発明では、イソブチレンと少量のイソプレンとを重合して得られる共重合体である(a)ブチルゴムは、イソプレンを少量共重合しているが、ジエン系ゴムには該当しないものとして取り扱う。
【0023】
前記ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ポリブタジエン(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)が挙げられる。これらは1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてよい。
【0024】
本発明では、ジエン系ゴムとして、(b)ポリブタジエンを含有するジエン系ゴムを使用することが好ましい。ジエン系ゴム中のポリブタジエンの含有率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。また、ジエン系ゴムが、ポリブタジエンのみからなることも好ましい態様である。
【0025】
本発明の医療用ゴム組成物中の(b)前記ジエン系ゴムの含有量は、(a)ブチルゴムと(b)ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部中、15質量部以上であり、20質量部以上であることが好ましく、40質量部以上であることがより好ましく、60質量部以上であることがさらに好ましく、90質量部以下であることが好ましく、85質量部以下であることがより好ましく、80質量部以下であることがさらに好ましく、75質量部以下であることが特に好ましい。(b)ジエン系ゴムの含有量が、前記範囲内であれば、優れた非溶出特性を維持しながら、ガス透過性を大きくすることができる。その結果、例えば、薬液充填前のプレフィルドシリンジのガス滅菌工程の時間を短縮できる。
【0026】
本発明の医療用ゴム組成物は、(c)パーオキサイド系架橋剤を含有する。(c)パーオキサイド系架橋剤は、主として(b)ジエン系ゴムを架橋させるために配合されるものである。
【0027】
本発明で使用する(c)前記パーオキサイド系架橋剤は、有機過酸化物である。有機過酸化物は、熱あるいは光により分解して、ラジカルを発生する。有機過酸化物から発生したラジカルは、(b)ジエン系ゴムから水素を引き抜き、(b)ジエン系ゴムにラジカルを発生させる。(b)ジエン系ゴムのラジカルは、架橋の起点となると考えられる。すなわち、(c)前記パーオキサイド系架橋剤は、(b)ジエン系ゴムの架橋効率を高める作用を有する。
【0028】
一方、(c)前記パーオキサイド系架橋剤は、混練時に(a)ブチルゴムを軟化する作用を有している。すなわち、混練時の機械的な剪断により、ブチルコムのゴム分子が切断する。本発明では、後述する(d)共架橋剤が、切断されたブチルゴム分子と結合し、切断されたゴム分子同士を架橋する作用を有していると考えられる。その結果、ブチルゴム分子の崩壊が抑制され、非溶出性を維持することができる。
【0029】
(c)前記パーオキサイド系架橋剤は、具体的には、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。ジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルペルオキシ、ジ-t-ヘキシルペルオキシ、ジ-t-ブチルペルオキシ、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3などが挙げられる。パーオキシエステルとしては、例えば、t-ブチルペルオキシマレエート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエートなどが挙げられる。パーオキシケタールとしては、例えば、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルペルオキシ)ブタン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,2-ジ(4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。ハイドロパーオキサイドとしては、例えば、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明の医療用ゴム組成物中の(c)前記パーオキサイド系架橋剤の含有量は、(a)ブチルゴムと(b)ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.15質量部以上であることがさらに好ましく、7質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましい。(c)前記パーオキサイド系架橋剤の含有量が、前記範囲内であれば、ブチルゴム成分の軟化を抑制することができ、非溶出性を維持することができるからである。
【0031】
本発明の医療用ゴム組成物は、本発明の効果を損なわない限り、(c)前記パーオキサイド系架橋剤以外の架橋剤を含有することができる。(c)前記パーオキサイド系架橋剤以外の架橋剤としては、例えば、硫黄、金属酸化物、樹脂架橋剤、有機過酸化物、トリアジン誘導体などを挙げることができ、これらは単独で、あるいは2種以上併用して用いることができる。
【0032】
架橋剤として使用される硫黄としては、例えば粉末硫黄、微粉硫黄、沈降性硫黄、コロイド硫黄、塩化硫黄などを挙げることができる。
【0033】
架橋剤として使用される金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などを挙げることができる。
【0034】
樹脂架橋剤としては、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、熱反応性フェノール樹脂、フェノールジアルコール系樹脂、ビスフェノール樹脂、熱反応性ブロモメチルアルキル化フェノール樹脂などのアルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂類を挙げることができる。
【0035】
本発明の医療用ゴム組成物は、(d)共架橋剤を含有する。共架橋剤は、パーオキサイド系架橋剤によって形成された(b)ジエン系ゴムのラジカルに作用して、架橋を形成すると考えられる。また、(c)パーオキサイド系架橋剤による(a)ブチルゴムの切断を抑制して、架橋を形成する。
【0036】
(d)共架橋剤は、多官能(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレート化合物は、二官能以上の(メタ)アクリレート系化合物であることがより好ましく、三官能以上の(メタ)アクリレート系化合物であることがさらに好ましく、八官能以下の(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましく、六官能以下の(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましい。二官能以上の(メタ)アクリレート化合物としては、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を少なくとも2個有する化合物を挙げることができる。なお、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および/または「メタクリレート」を意味する。
【0037】
二官能以上の(メタ)アクリレート系化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。(d)共架橋剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明では、(d)共架橋剤として、トリメチロールプロパントリアクリレートおよび/またはトリメチロールプロパントリメタクリレートを使用することが好ましい。
【0039】
本発明の医療用ゴム組成物中の(d)前記共架橋剤の含有量は、(a)ブチルゴムと(b)ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましく、0.6質量部以上であることがさらに好ましく、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましい。(d)前記共架橋剤の含有量が、前記範囲内であれば、ブチルゴム成分の軟化を抑制することができ、非溶出性を維持することができるからである。
【0040】
本発明の医療用ゴム組成物において、(c)前記パーオキサイド系架橋剤と(d)前記共架橋剤との配合量の質量比率((d)/(c))は、1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2以上であることがさらに好ましく、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。(c)前記パーオキサイド系架橋剤と(d)前記共架橋剤との配合量の質量比率((d)/(c))が、前記範囲内であれば、ブチルゴム成分の軟化を抑制することができ、非溶出性を維持することができるからである。
【0041】
本発明の医療用ゴム組成物は、トリアジン誘導体を含有してもよい。前記トリアジン誘導体は、(a)ブチルゴムに対しては、架橋剤として作用するとともに、(c)パーオキサイド系架橋剤/(d)共架橋剤からなる架橋系対しては、架橋遅延剤として作用すると考えられる。前記トリアジン誘導体としては、例えば一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
[式中、Rは、-SH、-OR、-SR、-NHRまたは―NR(R、R、R、RおよびRは、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基またはシクロアルキル基を示す。RおよびRは、同一であっても異なっていてもよい。)である。MおよびMは、H、Na、Li、K、1/2Mg、1/2Ba、1/2Ca、脂肪族1級アミン、2級アミンもしくは3級アミン、第4級アンモニウム塩またはホスホニウム塩である。MおよびMは、同一または異なってもよい。]
【0042】
一般式(1)において、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、1,1-ジメチルプロピル基、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、またはドデシル基等の炭素数1~12のアルキル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、または2-ペンテニル基等の炭素数1~12のアルケニル基が挙げられる。アリール基としては、単環式または縮合多環式芳香族炭化水素基が挙げられ、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基またはアセナフチレニル基等の炭素数6~14のアリール基等が挙げられる。アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、2,2-ジフェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、5-フェニルペンチル基、2-ビフェニリルメチル基、3-ビフェニリルメチル基または4-ビフェニリルメチル基等の炭素数7~19のアラルキル基が挙げられる。アルキルアリール基としては、例えばトリル基、キシル基またはオクチルフェニル基等の炭素数7~19のアルキルアリール基が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基またはシクロノニル基等の炭素数3~9のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0043】
一般式(1)で表されるトリアジン誘導体の具体例としては、例えば2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-メチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-(n-ブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-オクチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-プロピルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジアリルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジメチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジ(iso-ブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジプロピルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジ(2-エチルヘキシル)アミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジオレイルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ラウリルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンもしくは2-アニリノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、またはこれらのナトリウム塩もしくはジナトリウム塩が挙げられる。
【0044】
これらのなかでも、2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-ジアルキルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-アニリノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンが好ましく、入手の容易さから2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンが特に好ましい。
【0045】
本発明において、トリアジン誘導体としては1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
本発明の医療用ゴム組成物は、加硫促進剤を含まないことが好ましい。最終製品のゴム製品中に加硫促進剤が残存して、シリンジやバイアル瓶中の薬液へ溶出する場合があるからである。前記加硫促進剤としては、例えば、グアニジン系促進剤(例:ジフェニルグアニジン)、チウラム系促進剤(例:テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド)、ジチオカルバミン酸塩系促進剤(例:ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)、チアゾール系促進剤(例:2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド)、スルフェンアミド系促進剤(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド)が挙げられる。
【0047】
本発明の医療用ゴム組成物は、ハイドロタルサイトを含有してもよい。ハイドロタルサイトは、ハロゲン化ブチルゴムの架橋時にスコーチ防止剤として、また、医療用ゴム部品の圧縮永久ひずみが大きくなるのを防止するためにも機能する。さらにハイドロタルサイトは受酸剤として、ハロゲン化ブチルゴムの架橋時に発生する塩素系ガスや臭素系ガスを吸収して、これらのガスによる架橋阻害等の発生を防止するためにも機能する。なお、先述した酸化マグネシウムも受酸剤として機能しうる。
【0048】
ハイドロタルサイトとしては、例えば、Mg4.5Al(OH)13CO・3.5HO、Mg4.5Al(OH)13CO、MgAl(OH)12CO・3.5HO、MgAl(OH)16CO・4HO、MgAl(OH)14CO・4HO、MgAl(OH)10CO・1.7HO等のMg-Al系ハイドロタルサイト等の1種または2種以上が挙げられる。
【0049】
ハイドロタルサイトの具体例としては例えば協和化学工業社製のDHT-4A(登録商標)-2等が挙げられる。
【0050】
医療用ゴム組成物において、ハイドロタルサイトを受酸剤として用いる場合、MgOとセットで用いることが好ましい。この場合、ハイドロタルサイトの配合量は、受酸剤(ハイドロタルサイトとMgO)の総量で考えることが好ましい。受酸剤(ハイドロタルサイトとMgO)としての含有量総量は、(a)ブチルゴムと(b)ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。受酸剤(ハイドロタルサイトとMgO)の含有量総量が、前記範囲内であれば、金型等への錆発生を抑制し、原料自体が白点異物となる不具合を減らすことができるからである。
【0051】
本発明の医療用ゴム組成物には、さらに(e)充填剤を配合してもよい。(e)前記充填剤としては、例えば、クレー、タルクなどの無機充填剤、オレフィン系樹脂、スチレン系エラストマー、または超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の樹脂粉末が挙げられる。これらの中でも、前記充填剤としては、無機充填剤が好ましく、クレーまたはタルクがさらに好ましい。前記充填剤は、医療用ゴム部品のゴム硬さを調整するために機能するとともに、増量材として医療用ゴム部品の生産コストを低減させるためにも機能する。
【0052】
前記クレーとしては、焼成クレーやカオリンクレーを挙げることができる。前記クレーの具体例としては、例えばHOFFMANN MINERAL(ホフマンミネラル)社製のSILLITIN(登録商標)Z、ENGELHARD(エンゲルハード)社製のSATINTONE(登録商標)W、土屋カオリン工業社製のNNカオリンクレー、イメリス スペシャリティーズ ジャパン社製のPoleStar200Rなどが挙げられる。
【0053】
前記タルクの具体例としては、例えば竹原化学工業社製のハイトロンA、日本タルク社製のMICRO ACE(登録商標)K-1、イメリス・スペシャリティーズ・ジャパン社製のミストロン(登録商標)ベーパー等が挙げられる。
【0054】
本発明の医療用ゴム組成物中の(e)充填剤の含有量は、目的とする医療用ゴム部品のゴム硬さ等に応じて適宜設定することが好ましい。本発明の医療用ゴム組成物中の(e)充填剤の含有量は、例えば、(a)ブチルゴムと(b)ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましく、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、100質量部以下がさらに好ましい。
【0055】
本発明の医療用ゴム組成物には、さらに、酸化チタンやカーボンブラックなどの着色剤、ステアリン酸、低密度ポリエチレン(LDPE)の滑剤、加工助剤や、架橋活性剤としてのポリエチレングリコール等を適宜の割合で配合してもよい。
【0056】
本発明には、本発明の医療用ゴム組成物を成形してなる医療用ゴム部品が含まれる。本発明の医療用ゴム部品としては、例えば、液剤、粉末製剤、凍結乾燥製剤等の各種薬剤用の容器のゴム栓やシール部材、真空採血管用ゴム栓、プレフィルドシリンジ用のプランジャストッパー、あるいはノズルキャップなどの摺動もしくはシール部品等が挙げられる。
【0057】
本発明の医療用ゴム組成物は、(a)ブチルゴムと、(b)ポリブタジエンを含有するジエン系ゴムと(c)パーオキサイド系架橋剤と、(d)共架橋剤と、その他、必要に応じて加える配合材料とを混練することにより得られる。混練は、例えば、オープンロール、密閉式ニーダーなどを用いて行うことができる。混練物は、リボン状、シート状、ペレット状などに成形することが好ましく、シート状に成形することがより好ましい。
【0058】
リボン状、シート状、ペレット状の混練物をプレス成型することにより、所望の形状の医療用ゴム部品が得られる。プレス時に医療用ゴム組成物の架橋反応が進行する。成形温度は、例えば、130℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましい。成形時間は、2分間以上が好ましく、3分間以上がより好ましく、60分間以下が好ましく、30分間以下がより好ましい。成形圧力は、0.1MPa以上が好ましく、0.2MPa以上がより好ましく、10MPa以下が好ましく、8MPa以下がより好ましい。
【0059】
プレス成型後の成形品から、不要部分を切除、除去して所定の形状にする。得られた成形品を、洗浄、減菌、乾燥、および、包装して、医療用ゴム部品が製造される。
【0060】
また医療用ゴム部品には、従来同様に樹脂フィルムが積層され、一体化されていてもよい。樹脂フィルムとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、およびこれらの変性体や、超高密度ポリエチレン(UHMWPE)等の不活性樹脂のフィルムが挙げられる。
【0061】
樹脂フィルムは、例えばシート状としたゴム組成物上に重ねた状態でプレス成形することにより、プレス成形後によって形成される医療用ゴム部品と一体化すればよい。
【0062】
本発明の医療用ゴム部品は、ゴム硬さが日本工業規格JIS K6253-3:2012「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム―硬さの求め方-第3部:デュロメータ硬さ」所載の測定方法に則って測定されるデュロメータタイプA硬さ(ショアA硬さ)で表して35以上であるのが好ましく、70以下であるのが好ましい。
【0063】
プレフィルドシリンジ用のプランジャストッパーやノズルキャップなどの摺動もしくはシール部品は、ショアA硬さが40以上であるのが好ましく、70以下であるのが好ましい。なお、針付きシリンジ用のニードルシールドタイプのノズルキャップでは、針刺部に針をより一層刺突しやすくして、針が曲がったりするのをさらに確実に防止するために、ノズルキャップのタイプAデュロメータ硬さは、55以下であるのが特に好ましい。
【0064】
一方、針なしシリンジ用のノズルキャップでは、ノズルキャップをノズルに被せて保管する際のシール性をさらに向上したり、ノズルキャップが緩んでノズルから脱落するのをより一層確実に防止したりするために、ノズルキャップのタイプAデュロメータ硬さは、40以上であるのが特に好ましい。
【0065】
医療用ゴム部品のゴム硬さは、各原料の配合割合を変更することで調整可能である。
【0066】
本発明の医療用ゴム組成物を成形してなる医療用ゴム部品は、日本工業規格JIS K7126-1987「プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法」に規定されたB法(等圧法)によって測定される試料の厚み1mmあたりのガス透過度(cc・cm/cm・sec・cmHg)が、1.5×10-10以上であることが好ましく、3.0×10-10以上であることがより好ましく、5.0×10-10以上であることがさらに好ましく、100×10-10以下であることが好ましく、50×10-10以下であることがより好ましく、30×10-10以下であることがさらに好ましい。ガス透過度を前記範囲に調整するには、各原料の配合割合を変更することで調整可能である。前記ガス透過度は、例えば、Nを用いて測定することが好ましい。
【0067】
ガス透過度が前記範囲内であれば、良好なガス透過性が確保できる。EOG滅菌の際には、EOGをノズルキャップの内部に速やかに透過させて、ノズルや針を短時間で滅菌できる。また、脱気エアレーション時にはエチレンオキサイド、エチレングリコール、エチレンクロロヒドリン等の残存物を速やかに低減することができ、滅菌時間を短縮してプレフィルドシリンジの生産性を向上できる。また、ガス透過性が大きすぎると、滅菌時を除く通常保管時の一般ガスの透過が増えすぎるため、シール性が悪化する。
【0068】
また脱気エアレーション時にノズルキャップの内部に発生する内圧を速やかに逃がして、当該ノズルキャップが緩んでノズルから脱落するのを防止することもできる。
【0069】
本発明の医療用ゴム組成物を成形してなるゴム部品は、プレフィルドシリンジのノズルキャップとして好適に使用できる。また、本発明には、本発明のノズルキャップを有するプレフィルドシリンジが含まれる。本発明のプレフィルドシリンジは、ノズルキャップがシリンジに取り付けられた状態でガス滅菌されることが好ましい。
【0070】
なお、ノズルキャップは、取り付け形態その他に応じて、例えば、ニードルキャップ、ニードルシールド、ゴムキャップ、チップキャップ、ブランジャーチップ、シリンジ密封用栓等の名称で呼ばれる場合がある。
【0071】
前記ガス滅菌としては、例えば、蒸気滅菌、エチエンオキサイドガス(EOG)滅菌処理が挙げられる。
【0072】
EOG滅菌処理とは、エチレンオキサイドガスの雰囲気下で、機器を滅菌する方法である。エチレンオキサイドガスの濃度は、400mg/l~1100mg/lであることが好ましく、450mg/l~900mg/lであることがより好ましく、500mg/l~700mg/lであることがさらに好ましい。エチレンオキサイドガスの濃度が高くなりすぎると、滅菌後、EOGガスの残留濃度が高くなる傾向があるまた、EOG滅菌温度は、35℃から70℃が好ましく、滅菌湿度(相対湿度)は、40%RH以上が好ましい。
【0073】
図1(a)は、本発明のノズルキャップの実施の形態の一例と、それを被せる注射筒のノズルを示す断面図、図1(b)は、図1(a)のノズルキャップをノズルに被せた状態を示す断面図である。
【0074】
ノズルキャップ1は、あらかじめ注射筒2のノズル3に針4が埋め込まれた針付きシリンジ5用のものである。ノズルキャップ1は、その全体が、医療用ゴム組成物によって一体に形成されている。ノズルキャップ1は、内径D1がノズル3の外径D2よりわずかに小さい筒状部6と、当該筒状部6の一端側(図では上端側)に連成された針刺部7とを備えている。
【0075】
針刺部7は、筒状部6と連続した外面を有する柱状に形成されている。筒状部6の他端側(図では下端側)には、ノズル3を筒状部6に挿入してノズルキャップ1をノズル3に被せるための開口8が設けられている。
【0076】
筒状部6の、針刺部7が連成されて閉じられた一端から開口8側の他端までの軸方向の寸法L1は、ノズルキャップ1をノズル3に被せた状態での上記開口8側の他端から針4の先端までの寸法L2に対してL1<L2に設定されており、それによって針4の先端部を針刺部7に約5mm程度刺突させて液密性、気密性、無菌性等を確保するためにシールすることができる。
【0077】
図2(a)は本発明のノズルキャップの実施の形態の他の例と、それを被せる注射筒のノズルを示す断面図、図2(b)は、図2(a)のノズルキャップをノズルに被せた状態を示す断面図である。
【0078】
ノズルキャップ9は、針なしシリンジ10の注射筒11のノズル12に被せるためのものである。ノズルキヤップ9は、上述した医療用ゴム組成物によって一体に形成されている。ノズルキヤップ9は、内径D3がノズル12の外径D4よりわずかに小さい筒状部13を備えている。
【0079】
筒状部13の一端側(図では上端側)は閉じられており、他端側(図では下端側)にはノズル12を筒状部13に挿入してノズルキャップ9をノズル12に被せるための開口14が設けられている。
【0080】
前記ノズルキャップ1、9は最も厚みの小さい領域、すなわち図1(a)(b)の例では筒状部6の厚みT1、図2(a)(b)の例では筒状部13の厚みT2を、それぞれ1.0±0.5mmに設定するのが好ましい。
【0081】
厚みT1、T2がこの範囲を超える場合にはガスや水蒸気の透過が抑制されるため、EOG滅菌や脱気エアレーション、あるいは蒸気滅菌やその後の乾燥に時間がかかってプレフィルドシリンジの生産性が低下するおそれがある。
【0082】
また脱気エアレーション時、あるいは蒸気滅菌時やその乾燥時にノズルキャップ1、9の内部に発生する内圧を速やかに逃がすことができないため、当該内圧の上昇によってノズルキャップ1、9が緩んでノズル3、12から脱落しやすくなったりするおそれがある。一方、厚みT1、T2が上記の範囲未満では剛性が不足して、ノズルキャップ1、9をノズル3、12に被せる打栓時に打栓不良を引き起こしやすくなってプレフィルドシリンジの生産性が低下したりするおそれがある。
【0083】
これに対し、厚みT1、T2を前記範囲とした場合には、ノズルキャップ1、9に良好なガス透過性を付与して、特にEOG滅菌の際にEOGをノズルキャップ1、9の内部に速やかに透過させてノズル3、12や針4を短時間で滅菌できるとともに、脱気エアレーション時にはエチレンオキサイド、エチレングリコール、エチレンクロロヒドリン等の残存物を速やかに除去することができ、プレフィルドシリンジの生産性を向上できる。
【0084】
また脱気エアレーション時にノズルキャップ1、9の内部に発生する内圧を速やかに逃がして、当該ノズルキャップ1、9が緩んでノズル3、12から脱落するのを防止することもできる。
【0085】
さらにノズルキャップ1、9に適度の剛性を付与して当該ノズルキャップ1、9をノズル3、12に被せる打栓時に打栓不良を生じにくくでき、プレフィルドシリンジの生産性を向上できる。
【実施例
【0086】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0087】
[医療用ゴム組成物の調製]
表1に示した材料を混練して医療用ゴム組成物を調製した。混練は、オープンロールを用いて、20℃で約10分間行った。
【0088】
【表1】
【0089】
使用した配合材料の詳細は以下の通りである。
ブチルゴム:エクソンモービル社製HT-1066(塩素化ブチルゴム)
ポリブタジエンゴム:日本ゼオン社製BR-1220
イソプレンゴム:日本ゼオン社製IR-2200
ミペロン:三井化学社製超高分子量ポリエチレンパウダーXM-220
ハイドロタルサイト:協和化学工業社製アルカマイザー1
酸化マグネシウム:協和化学工業社製キョウワマグ
酸化チタン:石原産業社製タイペークA100
シリカ:東ソー・シリカ社製ニップシルLP
タルク:イメリススペシャリティーズ社製ミストロンベーパー
ステアリン酸:日油社製NNA-180
PEG4000:日油社製ポリオキシエチレングリコール(平均分子量3100、凝固点55℃)
カーボンブラック:Cancarb社製サーマルMT
パーオキサイド系架橋剤:日油社製パーヘキサ25B-40
共架橋剤:トリメチロールプロパントリアクリレート:新中村化学工業社製TMPT
トリアジン誘導体:三協化成社製ジスネットDB
【0090】
[評価方法]
(1)ガス透過係数(cc・cm/cm・sec・cmHg)
得られた医療用ゴム組成物から、ガス透過係数測定用の試験片を作製し、ガス透過係数を測定した。測定は、JIS-K6275-1に準じて、GTR社製GTR-30XASRを用いて、差圧法により行った。
試験ガス:N
測定サンプル:ゴム組成物を180℃×6分間プレス成型して、厚みが0.5mm~1.0mmのスラブを作製した。
<相対評価>
ゴム組成物No.1を基準配合としそのN透過係数を1として、N透過係数を指数化した。
○:5以上
△:2以上、5未満
×:2未満
【0091】
(2)溶出物試験
測定サンプル:前記のように配合したゴム組成物を180℃×6分間プレス成型して2mmのスラブを作製した。それをφ17mmのポンチで打ち抜いて試験サンプルとした。
製造したサンプルについて、第17改正日本薬局法「7.03輸液用ゴム栓試験法」所載の「溶出物試験」を実施した。適合条件は、以下の通りとした。
試験液の性状:無色澄明
UV透過率:層長10mmで、波長430nmおよび波長650nmの透過率が99.0%以上
紫外吸収スペクトル:波長220nm~350nmにおける吸光度が0.20以下
pH:試験液および空試験液の差が1.0以下
亜鉛:試料溶液の吸光度が、標準溶液の吸光度以下
過マンガン酸カリウム還元物質:2.0mL/100mL以下(薬局方の規格)
蒸発残留物:2.0mg以下
<相対評価>
表中、過マンガン酸カリウム還元物質濃度が、1.0mL/100mL未満の場合には、「○」を、過マンガン酸カリウム還元物質濃度が、1.0mL/100mL以上、1.4mL/100mL以下の場合には、「△」を、過マンガン酸カリウム還元物質濃度が、1.4mL/100mL超の場合には、「×」を記載している。
【0092】
(3)エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌試験
図3の試験用シリンジを作製した。シリンジ本体(バレル)15の材料としては、大成化成工業社製のシクロオレフィンポリマー(COP)樹脂を使用し、シリンジストッパー17は、ブチルゴムを使用した一般の医療用ゴム組成物から作製した。ノズルキャップ19は、表1の医療用ゴム組成物から成形した。菌として、BI(Bacillus atrophaeus ATCC cell 9372)21を用い、図3に示すようにセットし、ノズルキャップ19を絞めて、EOG滅菌試験用シリンジサンプルを作製した。測定装置としては、CROSSTEX社製STN-062を用い、試験用シリンジサンプルを、50℃、EOG雰囲気下で所定の時間滅菌した後、BI菌数の測定を行った。
<相対評価>
各医療用ゴム組成物について、10検体を用いて滅菌試験を行い、10検体すべてについて、滅菌処理により菌が死滅するのに必要な時間で評価した。表中、滅菌時間が6時間以内の場合には、「〇」を、滅菌時間が6時間超、10時間以内の場合には、「△」を記載している。10時間超の場合には、「×」を示した。
【0093】
ガス透過性、溶出物試験、EOG滅菌試験の結果を、表1に併せて示した。
【0094】
表1より、本発明の医療用ゴム組成物から形成された医療用ゴム部品は、非溶出性およびガス透過性に優れることが分かる。医療用ゴム組成物No.1は、24時間で滅菌ができなかった。医療用ゴム組成物No.2は、10時間で滅菌ができなかった。医療用ゴム組成物No.4は、(c)パーオキサイド系架橋剤と(d)共架橋剤との質量比率((d)/(c))が小さく、ゴム組成物を架橋することができなかった。医療用ゴム組成物No.5は、(c)パーオキサイド系架橋剤と(d)共架橋剤との質量比率((d)/(c))が大きいために、EOG滅菌試験用のサンプルを成形することができなかった。
【符号の説明】
【0095】
1,9:ノズルキャップ、2,11:注射筒、3,12:ノズル、4:針、5,10:シリンジ、6,13:筒状部、7:針刺部、8,14:開口、D,D:内径、D,D:外径、L,L:寸法、T,T:厚み

図1
図2
図3