(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 15/00 20060101AFI20240326BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240326BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C08L15/00
C08K3/34
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2020071161
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大石 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】鷲頭 健介
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-169504(JP,A)
【文献】特開2013-100448(JP,A)
【文献】特開2012-167217(JP,A)
【文献】特開2012-246429(JP,A)
【文献】特開平02-263883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B60C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を含む酸性官能基を有するポリマーA、及び、窒素を含む塩基性官能基を有するポリマーBを含むゴム成分と、
ケイ酸塩鉱物とを含有するゴム組成物
であって、
前記酸性官能基は、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シラノール基、スルホニル基、及びリン酸基からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記塩基性官能基は、窒素を含む複素環基、及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種であり、
タイヤのトレッドに使用されるゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記ケイ酸塩鉱物の含有量が3~30質量部である請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分100質量%中、前記ポリマーAの含有量が5~95質量%、前記ポリマーBの含有量が5~95質量%である請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記ポリマーA100質量%中、前記酸性官能基の含有量が1~40質量%であり、
前記ポリマーB100質量%中、前記塩基性官能基の含有量が1~40質量%である請求項1~3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載のゴム組成物を用いたトレッドを有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ性能の中でも、グリップ性能は、安全性に直結するという点で特に重要であり、これまで、グリップ性能を改善するための種々の検討が行われている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、乾燥路面及び湿潤路面の両方において優れたグリップ性能を発揮することは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記課題を解決し、乾燥路面及び湿潤路面の両方において優れたグリップ性能を発揮し得るゴム組成物、及びそれを用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、酸素を含む酸性官能基を有するポリマーA、及び、窒素を含む塩基性官能基を有するポリマーBを含むゴム成分と、ケイ酸塩鉱物とを含有するゴム組成物に関する。
【0006】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記ケイ酸塩鉱物の含有量が3~30質量部であることが好ましい。
【0007】
前記ゴム成分100質量%中、前記ポリマーAの含有量が5~95質量%、前記ポリマーBの含有量が5~95質量%であることが好ましい。
【0008】
前記ポリマーA100質量%中、前記酸性官能基の含有量が1~40質量%であり、前記ポリマーB100質量%中、前記塩基性官能基の含有量が1~40質量%であることが好ましい。
【0009】
前記ゴム組成物は、タイヤのトレッドに使用されることが好ましい。
【0010】
本発明はまた、前記ゴム組成物を用いたトレッドを有するタイヤに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、酸素を含む酸性官能基を有するポリマーA、及び、窒素を含む塩基性官能基を有するポリマーBを含むゴム成分と、ケイ酸塩鉱物とを含有するゴム組成物であるので、乾燥路面及び湿潤路面の両方において優れたグリップ性能を発揮し得る特性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、酸素を含む酸性官能基を有するポリマーA、及び、窒素を含む塩基性官能基を有するポリマーBを含むゴム成分と、ケイ酸塩鉱物とを含有するゴム組成物である。
【0013】
通常、乾燥路面の走行時と比較して、湿潤路面の走行時は、グリップ性能が低下する傾向がある。これは、トレッドを構成するゴムの摩擦係数の低下が原因であると考えられる。そして、ゴムの摩擦係数の低下を抑制するためには、硬度(Hs)を小さくする、動的粘弾性の損失正接(tanδ)を大きくするといった手法が考えられるが、上記ゴム組成物では、以下の作用機能により、上述の効果が得られると推測される。
【0014】
まず、酸素を含む酸性官能基を有するポリマーAを配合することで、ポリマー(ゴム成分)間に水素結合が生じる。上記ゴム組成物が水と接触した際(≒湿潤路面の走行時)、この水素結合を介して、ゴム内部に水が移動すると考えられる。より詳細には、水素結合は、イオン結合よりも弱い結合であり、水素結合が切断、再結合を繰り返すことで、ゴム内部まで水が運搬されると考えられる。
次に、窒素を含む塩基性官能基を有するポリマーBを配合することで、ポリマーAとポリマーBとの間にイオン結合が生じる。このイオン結合は水によって切断されるため、上記ゴム組成物が水と接触した際、水素結合を介して移動した水によってイオン結合が切断され、硬度が低下する。
そして、ケイ酸塩鉱物を配合することで、ポリマーAとケイ酸塩鉱物との間に水素結合が、ポリマーBとケイ酸塩鉱物との間にイオン結合が生じるが、前記のとおり、上記ゴム組成物が水と接触した際、水によってイオン結合が切断され、硬度が低下する。
これらにより、湿潤路面の走行時に硬度が低下することで、湿潤路面でのグリップ性能が良好となる。その結果、乾燥路面及び湿潤路面の両方において、優れたグリップ性能を発揮することが可能となると考えられる。
【0015】
また、イオン結合は可逆的な結合であり、水によって一旦切断されても、乾燥路面を走行する等によって水が除去されると再結合する。これにより、硬度が可逆的に変化することができると考えられる。
【0016】
上記ゴム組成物は、ゴム成分として、酸素を含む酸性官能基を有するポリマーAと、窒素を含む塩基性官能基を有するポリマーBとを含む。
なお、本明細書において、ゴム成分とは、常温(25℃)で固体状態のゴムである。
【0017】
酸素を含む酸性官能基としては、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シラノール基、スルホニル基、リン酸基等が挙げられる。なかでも、カルボキシル基が好ましい。
なお、ポリマーAにおいて、酸素を含む酸性官能基は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0018】
窒素を含む塩基性官能基としては、例えば、ピリジン基、ピペリジン基、ピロール基、イミダゾール基、ピリミジン基等の窒素を含む複素環基;アミノ基等が挙げられる。なかでも、窒素を含む複素環基が好ましく、ピリジン基がより好ましい。
なお、ポリマーBにおいて、窒素を含む塩基性官能基は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0019】
ポリマーA100質量%中、酸素を含む酸性官能基の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
同様に、ポリマーB100質量%中、窒素を含む塩基性官能基の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4.5質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、各官能基の含有量は、NMR測定を行い、該当するピークに基いて含有量(質量%)を算出することにより、測定できる。
【0020】
ポリマーA、Bは、ポリマー成分が上述の官能基で変性されたものであり、該ポリマー成分としては、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、グリップ性能の観点から、SBR、BR、イソプレン系ゴムが好ましく、SBRがより好ましい。
【0021】
なお、ポリマーA、Bの変性箇所は特に限定されず、末端のみ、主鎖のみ、末端及び主鎖の両方、のいずれであってもよい。また、変性方法についても特に限定されない。
【0022】
ゴム成分100質量%中、ポリマーAの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは75質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0023】
ゴム成分100質量%中、ポリマーBの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは75質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0024】
ゴム成分100質量%中、ポリマーA、Bの合計含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0025】
上記ゴム組成物は、ポリマーA、B以外のゴム成分を含有してもよい。使用可能なゴム成分としては、例えば、上述のジエン系ゴム等が挙げられる。
【0026】
上記ゴム組成物は、ケイ酸塩鉱物を含有する。
ケイ酸塩鉱物としては、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト、サポナイト等のスメクタイト;セピオライト;バーミキュライト;クロライト;カオリナイト;タルク;マイカ等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、変性されていてもよい。なかでも、スメクタイト等の層状ケイ酸塩鉱物が好ましく、スメクタイトがより好ましく、モンモリロナイトが更に好ましい。
【0027】
ケイ酸塩鉱物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは6質量部以上、更に好ましくは10質量部以上であり、また、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0028】
上記ゴム組成物は、ケイ酸塩鉱物以外のフィラーを含有してもよい。使用可能なフィラーとしては、例えば、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、シリカ、カーボンブラックが好ましい。
【0029】
シリカ、カーボンブラックとしては特に限定されず、ゴム工業において一般的に用いられるものを使用できる。シリカの市販品としては、EVONIK社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を、カーボンブラックの市販品としては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。
【0030】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは100m2/g以上、より好ましくは150m2/g以上、更に好ましくは180m2/g以上であり、また、好ましくは250m2/g以下、より好ましくは220m2/g以下、更に好ましくは200m2/g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0031】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上であり、また、好ましくは100質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは45質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0032】
シリカは、シランカップリング剤と併用してもよい。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。市販品としては、EVONIK社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは6質量部以上であり、また、好ましくは12質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0034】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは50m2/g以上、より好ましくは80m2/g以上、更に好ましくは100m2/g以上であり、また、好ましくは150m2/g以下、より好ましくは130m2/g以下、更に好ましくは125m2/g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0035】
カーボンブラックの含有量は、耐摩耗性の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上であり、また、燃費性能の観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。
【0036】
上記ゴム組成物は、硫黄を含有してもよい。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄等が挙げられる。市販品としては、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは6質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0038】
上記ゴム組成物は、加硫促進剤を含有してもよい。
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N′-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。市販品としては、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは4質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0040】
上記ゴム組成物は、酸化亜鉛を含有してもよい。
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、市販品としては、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.8質量部以上、更に好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0042】
上記ゴム組成物は、粘着性樹脂を含有してもよい。
粘着性樹脂としては、タイヤ工業において慣用されるフェノール系樹脂、アルキルフェノール系樹脂、テルペン系樹脂、クマロン系樹脂、インデン系樹脂、クマロンインデン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂(DCPD系樹脂)等の芳香族炭化水素系樹脂、C5系樹脂、C8系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂等の脂肪族炭化水素系樹脂や、これらの水素添加物等が挙げられる。市販品としては、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、JXTGエネルギー(株)、日本ゼオン(株)、ハリマ化成(株)、東亞合成(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
粘着性樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0044】
上記ゴム組成物は、ワックスを含有してもよい。
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックス等が挙げられる。市販品としては、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0046】
上記ゴム組成物は、オイルを含んでもよい。
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等を用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。市販品としては、出光興産(株)、三共油化工業(株)、JXTGエネルギー(株)、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0048】
上記ゴム組成物は、老化防止剤を含んでもよい。
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤等が挙げられる。市販品としては、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは6質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0050】
上記ゴム組成物は、ステアリン酸を含有してもよい。
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、市販品としては、日油(株)、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0052】
上記ゴム組成物には、上記成分の他、ゴム工業において一般的に用いられている添加剤、例えば、脂肪酸金属塩、短繊維(カーボンファイバー、アラミド繊維等)、ナノ繊維(セルロースナノファイバー等)、有機架橋剤(ランクセス社製のKA9188、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200等)、有機過酸化物等を更に配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~200質量部が好ましい。
【0053】
上記ゴム組成物は、例えば、上述の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー等のゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0054】
混練条件としては、硫黄及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常100~180℃、好ましくは120~170℃である。硫黄、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常120℃以下、好ましくは85~110℃である。また、硫黄、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫等の加硫処理が施される。加硫温度としては、通常140~190℃、好ましくは150~185℃である。加硫時間は、通常5~15分である。
なお、上記ゴム組成物では、イオン結合によって架橋構造を形成できるため、硫黄や加硫促進剤を使用しなくてもよい。硫黄や加硫促進剤を使用しない場合、仕上げ練り工程は不要である。
【0055】
上記ゴム組成物の製造工程では、ポリマーA、Bと、ケイ酸塩鉱物とのマスターバッチを調製し、該マスターバッチをベース練り工程で他の薬品と混練することが好ましい。
上記マスターバッチは、例えば、ケイ酸塩鉱物及び水を、温度25℃以上、圧力101.4kPa以上の条件で機械撹拌し、ケイ酸塩鉱物の濃度が20質量%未満の分散液を調製した後、この分散液を、ポリマーAを含む分散液及びポリマーBを含む分散液とともに、温度25~300℃、圧力100kPa以上の条件で混合する。次いで、得られた混合液のpHを8以下に調整し、生成された固形分(沈殿物)を、温度40℃以上、圧力10kPa以下の条件で乾燥することにより、調製可能である。ポリマーAを含む分散液及びポリマーBを含む分散液において、ポリマーの濃度は、30~70質量%程度であればよい。
【0056】
上記ゴム組成物は、例えば、タイヤのトレッド(キャップトレッド)に好適に使用できる。
【0057】
本発明のタイヤ(空気入りタイヤ等)は、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、上記ゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを得る。
【0058】
上記タイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック、バス等の重荷重用タイヤ、ライトトラック用タイヤ、二輪自動車用タイヤ、レース用タイヤ(高性能タイヤ)等に使用可能である。また、オールシーズンタイヤ、サマータイヤ、スタッドレスタイヤ(冬用タイヤ)等にも使用できる。
【実施例】
【0059】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0060】
以下に、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
【0061】
<ポリマーA>
カルボン酸変性SBR:日本ゼオン(株)製のラテックス(ゴム中のカルボキシル基含有量:30質量%)
<ポリマーB>
ピリジン変性SBR:日本ゼオン(株)製のラテックス(ゴム中のピリジン基含有量:4.5質量%)
<ケイ酸塩鉱物>
モンモリロナイト:クニミネ工業(株)製のクニピア-F
【0062】
(実施例及び比較例)
40℃、0.2MPaの条件で、ケイ酸塩鉱物及び水を8時間機械撹拌し、ケイ酸塩鉱物の濃度が3質量%の水分散液を得た。
次いで、得られた水分散液を、30℃、0.1MPaの条件で、ポリマーAを含むラテックス(ポリマーの濃度:49質量%)、及び/又は、ポリマーBを含むラテックス(ポリマーの濃度:49質量%)と機械撹拌し、混合液を得た。
得られた混合液中にケイ酸塩鉱物の凝集塊が無いことを目視で確認してから、5%硫酸を添加してpHを7以下に調整した後、エタノール2000gを添加することで、沈殿物が生成された。
混合液を濾過して沈殿物を取り出し、40℃、0.1kPa以下の条件で48時間乾燥させることで、ケイ酸塩鉱物及びポリマーで構成されたマスターバッチを得た。
得られたマスターバッチを170℃で10分間、2mm厚の金型でプレスし、試験用ゴムサンプルを得た。
【0063】
上記ゴムサンプルを用いて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
(硬度変化率)
JIS K6253-3(2012)の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-第3部:デュロメータ硬さ」に従って、タイプAデュロメータにより、乾燥時におけるゴムサンプルの硬度(JIS-A硬度)を測定した(乾燥硬度)。測定は25℃で行った。
次いで、測定後のゴムサンプルを水に浸漬してから、6日後、7日後に一時的に取り出し、表面の水分を拭き取った後、同様の条件で硬度を測定した。そして、得られた測定結果から、水浸漬6日目から7日目にかけての硬度変化率(%)を、算出式:(7日目の硬度-6日目の硬度)/6日目の硬度*100から算出した。値が負の方向に大きいほど、水浸漬6日目から7日目にかけて硬度が低下しており、良好である(長期間にわたるウェットグリップ性能の向上効果が期待できる)ことを示す。
【0065】
(質量変化率)
上述の硬度測定において、水浸漬6日後、7日後に加硫ゴム組成物を取り出し、表面の水分を拭き取った後の質量を測定し、浸漬前のゴムサンプルに対する質量変化率(%)を、算出式:(浸漬後の質量-浸漬前(乾燥時)の質量)/浸漬前(乾燥時)の質量*100から算出した。値が大きいほど、ゴムサンプルが吸水しており、軟化現象が生じやすいと考えられる。
【0066】
【0067】
表1より、実施例、比較例のいずれにおいても、乾燥時(初期)から水浸漬6日目にかけて硬度が低下している。これは、ゴム組成物中に水分が取り込まれることで、ゴム組成物が軟化したためであると考えられる。
また、実施例は、水浸漬6日目から7日目にかけて硬度が低下している。これは、ゴム組成物中に取り込まれた水分によってポリマー中のイオン結合が切断されることで、ゴム組成物が更に軟化したためであると考えられる。
一方、比較例は、水浸漬6日目から7日目にかけて硬度が上昇している。これは、ポリマーA、Bのいずれかを含有しない比較例では、ポリマー間にイオン結合が形成されないため、ゴムマトリクス中の水分がケイ酸塩鉱物に取り込まれ、ゴム組成物が硬化したと考えられる。
【0068】
このように、実施例では、水浸漬6日目だけでなく、7日目においても硬度が低下していることから、乾燥路面及び湿潤路面の両方において、長期間、優れたグリップ性能を発揮し得る特性が得られたと考えられる。
一方、比較例では、水浸漬6日目までは硬度が低下しているものの、6日目から7日目にかけて硬度が上昇していることから、一時的にウェットグリップ性能が向上しても、長期間水にさらされる環境下において、再びウェットグリップ性能が低下してしまうことが懸念される。