(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】複合粒子、コアおよび電子部品
(51)【国際特許分類】
H01F 1/20 20060101AFI20240326BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20240326BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20240326BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240326BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20240326BHJP
【FI】
H01F1/20
H01F1/26
H01F1/24
H01F27/255
B22F1/16 100
(21)【出願番号】P 2020079622
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 保英
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 晋亮
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-152557(JP,A)
【文献】特開2019-071417(JP,A)
【文献】特開2011-233860(JP,A)
【文献】特開2017-188678(JP,A)
【文献】特開2009-010180(JP,A)
【文献】特開2019-220609(JP,A)
【文献】特開2019-201155(JP,A)
【文献】特開2016-092403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/20
H01F 1/26
H01F 1/24
H01F 27/255
B22F 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性を有する大粒子と、前記大粒子の表面に直接的または間接的に付着してあり前記大粒子よりも平均粒径が小さい小粒子と、前記大粒子の周りに存在する小粒子の間に位置する前記大粒子の表面を少なくとも覆う相互緩衝膜と、を有し、
前記大粒子の平均粒径をRとし、前記小粒子の平均粒径をrとし、前記相互緩衝膜の平均厚みをtとしたとき、
(r/R)が0.0012以上0.025以下であり、
(t/r)が0より大きく、0.7以下であり、
前記rが12nm以上100nm以下である複合粒子。
【請求項2】
前記小粒子が非磁性および絶縁性を有する請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記小粒子は、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ビスマス、酸化イットリウム、酸化カルシウム、酸化ケイ素およびフェライトからなる群から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記小粒子がSiO
2粒子である請求項1~3のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項5】
前記相互緩衝膜が非磁性および絶縁性を有する請求項1~
4のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項6】
前記相互緩衝膜がテトラエトキシシラン
由来のケイ素の酸化物を含む請求項1~
5のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の複合粒子が観察される断面または表面を持つコア。
【請求項8】
請求項
7に記載のコアを有する電子部品。
【請求項9】
磁性を有する大粒子と、前記大粒子の表面に直接的または間接的に付着してあり前記大粒子よりも平均粒径が小さい小粒子と、前記大粒子の周りに存在する小粒子の間に位置する前記大粒子の表面を少なくとも覆う相互緩衝膜と、を有し、
前記大粒子の平均粒径をRとし、前記小粒子の平均粒径をrとし、前記相互緩衝膜の平均厚みをtとしたとき、
(r/R)が0.0012以上0.025以下であり、
(t/r)が0より大きく、0.7以下であり、
前記rが12nm以上100nm以下であり、
前記相互緩衝膜が、金属アルコキシドの前駆体または非金属アルコキシドのいずれか一方または両方を組み合わせたゾルゲル反応によって得られる複合粒子の製造方法。
【請求項10】
前記小粒子が非磁性および絶縁性を有する請求項9に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項11】
前記小粒子は、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ビスマス、酸化イットリウム、酸化カルシウム、酸化ケイ素およびフェライトからなる群から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする請求項9または10に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項12】
前記小粒子がSiO
2
粒子である請求項9~11のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項13】
前記相互緩衝膜が非磁性および絶縁性を有する請求項9~12のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項14】
前記相互緩衝膜がテトラエトキシシラン由来のケイ素の酸化物を含む請求項9~13のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタ素子などの電子部品に係り、電子部品に用いるコアと、コアを構成する複合粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ素子などの電子部品には、磁性粒子とバインダを圧縮成形して得られるコアが用いられる。特に金属磁性粒子には防錆性および絶縁性を付与させるために、金属磁性粒子の表面に10~100nm程度の厚さのコーティングが施されている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、Fe系の軟磁性粉末粒子の表面にリン酸塩被覆層が形成され、その外方にシリカ系絶縁被膜が形成されている。
【0004】
また、特許文献2の軟磁性粉体は、Feを含み、さらにAlやSiなどを含む粉体本体部と、AlやSiなどの酸化物被膜と、Bの酸化物被膜とを有する。
【0005】
しかし、従来の被膜を有する磁性粒子を用いて製造されたコアを有する電子部品は直流重畳特性および耐圧が不十分であると共に、高温環境下での耐圧の低下が顕著であるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-188678号公報
【文献】特開2009―10180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされ、直流重畳特性および耐圧が高く、高温環境下における耐圧の低下が抑制されているインダクタ素子などの電子部品と、その電子部品に用いるコアと、そのコアを構成する複合粒子と、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る複合粒子は、磁性を有する大粒子と、前記大粒子の表面に直接的または間接的に付着してあり前記大粒子よりも平均粒径が小さい小粒子と、前記大粒子の周りに存在する小粒子の間に位置する前記大粒子の表面を少なくとも覆う相互緩衝膜と、を有し、
前記大粒子の平均粒径をRとし、前記小粒子の平均粒径をrとし、前記相互緩衝膜の平均厚みをtとしたとき、
(r/R)が0.0012以上0.025以下であり、
(t/r)が0より大きく、0.7以下であり、
前記rが12nm以上100nm以下である。
【0009】
本発明者は、本発明に係る複合粒子が上記の構成であることにより、該複合粒子を用いて成形したコアを有するインダクタ素子などの電子部品は、直流重畳特性および耐圧が高く、なおかつ透磁率も高く、高温環境下における耐圧の低下が抑制されていることを見出した。
【0010】
本発明の複合粒子は上記のような構成であることにより、高圧で成形されても大粒子同士が接触しにくいと考えられる。なぜならば、大粒子の間で小粒子がスペーサーとしての役割を果たすからである。これにより、大粒子間に所定の距離ができ、大粒子間の距離を一定以上にすることができると考えられる。大粒子間の距離を一定以上にできることにより、高圧で成形しても、大粒子同士が接触することを防ぎ、体積抵抗率の低下を防ぎ、耐圧を高めることができると考えられる。
【0011】
また、大粒子同士が接触することを防ぐことにより、磁界集中を防ぐことができ、それにより磁気飽和の発生を防ぐことができる。これにより、直流重畳特性を高められると考えられる。
【0012】
さらに、大粒子の表面は相互緩衝膜で覆われていることにより、成形時に、大粒子の表面の小粒子が大粒子の表面に沿って移動することを防ぐことができると考えられる。これにより、高圧で成形された場合において、大粒子の間で小粒子がスペーサーとして機能する確実性をより高められると考えられる。また、大粒子の表面が相互緩衝膜で覆われていることにより、磁界集中をより防げるため、直流重畳特性をより高められると考えられる。
【0013】
また、本発明の複合粒子は、上記のような構成であることにより、比較的高圧で成形することができる。このため、透磁率を高くすることができる。
【0014】
さらに、本発明では、相互緩衝膜の平均厚みを所定の範囲内にすることで、高い透磁率も確保でき、製造コストを低くすることができる。
【0015】
また、本発明では、小粒子により大粒子間の距離を一定以上にできるため、高温環境下における耐圧の低下を抑制することができる。
【0016】
本発明に係る複合粒子は、前記小粒子が非磁性および絶縁性を有することが好ましい。
【0017】
本発明に係る複合粒子では、前記小粒子は、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ビスマス、酸化イットリウム、酸化カルシウム、酸化ケイ素およびフェライトからなる群から選択される少なくとも1種からなっていてもよい。
【0018】
本発明に係る複合粒子は、前記小粒子がSiO2粒子であってもよい。
【0019】
SiO2粒子は安価であるというメリットがある。また、SiO2粒子は数nmから数100nmまでの粒度のラインナップがある。さらに、SiO2粒子は粒度分布が狭い傾向があることから、粒子間において均一なスペーサーとなり得る。
【0020】
本発明に係る複合粒子は、相互緩衝膜が非磁性および絶縁性を有することが好ましい。
【0021】
本発明に係る成形体では、前記相互緩衝膜が、金属アルコキシドの前駆体および非金属アルコキシドのいずれか一方または両方を組み合わせたゾルゲル反応によって得られてもよい。
【0022】
本発明に係る複合粒子は、前記相互緩衝膜がテトラエトキシシラン(TEOS)であってもよい。
【0023】
本発明では、相互緩衝膜がTEOSであることにより、耐圧をより高くすることができる。また、TEOSは材料コストが安価であるというメリットがある。さらに、相互緩衝膜としてTEOSを用いることにより、相互緩衝膜の厚みを温度、時間またはTEOSの仕込み量で調整することができる。
【0024】
本発明に係るコアは、上記の複合粒子が観察される断面または表面を持つ。
【0025】
本発明に係る電子部品は、上記の複合粒子を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る複合粒子の模式断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るインダクタ素子の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係るコアの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[
第1実施形態]
<
複合粒子>
図1に示すように、本実施形態に係る複合粒子12では、大粒子14の表面に、大粒子14よりも平均粒径が小さい小粒子16が直接的または間接的に付着してある。すなわち、大粒子14の表面に小粒子16が直接的に付着していてもよいし、大粒子14の表面に小粒子16が後述する相互緩衝膜18を介して間接的に付着していてもよいし、大粒子14の表面に1以上の小粒子16を介して他の小粒子16が付着していてもよい。
【0028】
また、本実施形態では、相互緩衝膜18が大粒子14の周りに存在する小粒子16の間に位置する大粒子14の表面を少なくとも覆っている。なお、相互緩衝膜18は大粒子14の周りに存在する小粒子16の間に位置する大粒子14の表面を覆い、さらに小粒子16の表面を覆っていてもよい。
【0029】
<大粒子>
本実施形態における大粒子14は磁性を有する。本実施形態における大粒子14は、金属磁性粒子またはフェライト粒子であることが好ましく、金属磁性粒子であることがより好ましく、Feを含むことがさらに好ましい。
【0030】
Feを含む金属磁性粒子としては、具体的には、純鉄、カルボニルFe、Fe系合金、Fe-Si系合金、Fe-Al系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si-Cr系合金、Fe-Co系合金、Fe系アモルファス合金、Fe系ナノ結晶合金などが例示される。
【0031】
フェライト粒子としては、Ni-Cu系などのフェライト粒子が挙げられる。
【0032】
また、本実施形態では、大粒子14として、材質が同じ複数の大粒子14を用いてもよいし、材質が異なる複数の大粒子14が混在して構成されていてもよい。たとえば、大粒子14としての複数のFe系合金粒子と、大粒子14としての複数のFe-Si系合金粒子とを混合して用いてもよい。
【0033】
本実施形態の大粒子14の平均粒径(R)は、400nm以上100000nm以下であることが好ましく、3000nm以上30000nm以下であることがより好ましい。大粒子14の平均粒径(R)が大きいと、透磁率がより高くなる傾向となる。
【0034】
大粒子14が、2種類以上の異なる材質の大粒子14で構成されている場合、ある材質で構成されている大粒子14の平均粒径と、別の材質で構成されている大粒子14との各平均粒径が上記範囲内となればよいが、それらは異なっていてもよい。
【0035】
なお、異なる材質とは、金属または合金を構成する元素が異なる場合または構成する元素が同じであってもその組成が異なる場合などが例示される。
【0036】
<小粒子>
本実施形態における小粒子16は大粒子14に比べて小さい。本実施形態では、大粒子14の平均粒径をRとし、該大粒子14に付着している小粒子16の平均粒径をrとしたとき、(r/R)は0.0012以上0.025以下であり、好ましくは0.002以上0.015以下である。
【0037】
また、小粒子16の平均粒径(r)は、12nm~100nmであり、好ましくは12nm~60nmである。
【0038】
複合粒子12の断面において、大粒子14の円周の長さをLとし、
図1に示すように、大粒子14の円周上において隣接する2つの小粒子16の間隔をa1、a2・・・とする。この場合に、大粒子14に対する小粒子16の被覆率を{L-(a1+a2・・・)}/Lと表す。本実施形態では、大粒子14に対する小粒子16の被覆率は、30%以上100%以下であることが好ましい。
【0039】
大粒子14に付着している小粒子16の数は特に限定されない。大粒子14の概ね直径部分において複合粒子12の断面を観察した場合に、小粒子16が6個以上観察されることが好ましく、12個以上観察されることがより好ましい。
【0040】
本実施形態では、小粒子16の材質は特に限定されないが、非磁性および絶縁性を有することが好ましく、たとえばSiO2粒子、TiO2粒子、Al2O3粒子、SnO2粒子、MgO粒子、Bi2O3粒子、Y2O3粒子および/またはCaO粒子等の金属酸化物またはフェライトから構成される粒子であることがより好ましく、SiO2粒子であることがさらに好ましい。
【0041】
また、本実施形態では、小粒子16として、材質が同じ複数の小粒子16を用いてもよいし、材質が異なる複数の小粒子16が混在しているものを用いてもよい。
【0042】
なお、本実施形態の小粒子16のD90は、大粒子14のD10よりも小さいことが好ましい。
【0043】
ここで、D10とは、粒径の小さな方から数えて累積頻度が10%となる粒子の粒径である。
【0044】
また、D90とは、粒径の小さな方から数えて累積頻度が90%となる粒子の粒径である。
【0045】
なお、大粒子14のD10はレーザー回折式粒度分布測定機 HELOS(株式会社日本レーザー)などの粒度分布測定機により測定されることができる。また小粒子16のD90は、湿式の粒度分布測定機 ゼータサイザーナノZS(スペクトリス株式会社)などにより測定することができる。
【0046】
小粒子16が、2種類以上の異なる材質の小粒子16で構成されている場合、ある材質で構成されている小粒子16の平均粒径と、別の材質で構成されている小粒子16の平均粒径とが異なっていてもよい。
【0047】
<相互緩衝膜>
本実施形態では、相互緩衝膜18が大粒子14の周りに存在する小粒子16の間に位置する大粒子14の表面を少なくとも覆っている。
【0048】
本実施形態では、小粒子16の平均粒径をrとし、相互緩衝膜18の平均厚みをtとしたとき、(t/r)は0より大きく、0.7以下であり、好ましくは0.1以上0.5以下である。
【0049】
本実施形態の相互緩衝膜18の材質は特に限定されないが、非磁性および絶縁性を有することが好ましく、大粒子14に防錆性を付与できることがより好ましい。本実施形態の相互緩衝膜18は、ゾルゲル法によって生成されることが好ましく、金属アルコキシドの前駆体および非金属アルコキシドのいずれか一方または両方を組み合わせたゾルゲル反応によって得られることが好ましい。
【0050】
金属アルコキシドの前駆体としては、アルミン酸、チタン酸およびジルコン酸が挙げられ、非金属アルコキシドとしては、アルコキシシラン類またはアルコキシホウ酸塩などが用いられ、たとえばテトラメトキシシラン(TMOS:Tetramethoxysilane)およびテトラエトキシシラン(TEOS:Tetraethoxysilane)などが挙げられる。アルコキシシラン類のアルコキシ基としては、エチル基、メトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基またはその他の長鎖炭化水素アルコキシ基が用いられる。
【0051】
本実施形態の相互緩衝膜18の材質は、具体的には、たとえばTEOS、酸化マグネシウム、ガラス、樹脂または、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムもしくはリン酸鉄などのリン酸塩が挙げられる。本実施形態の相互緩衝膜18の材質は、TEOSであることが好ましい。これにより耐圧をより高くすることができる。
【0052】
本実施形態の相互緩衝膜18の平均厚み(t)は、好ましくは0nmより厚く、70nm以下であり、より好ましくは5nm以上20nm以下である。なお、相互緩衝膜18の平均厚みは小粒子16の平均粒径に比べて小さいことが好ましい。相互緩衝膜18の厚みが薄いほど透磁率が高くなる傾向となり、製造コストを低くすることができる。
【0053】
たとえば相互緩衝膜18がTEOSである場合、相互緩衝膜18の平均厚みは、大粒子14と後述する相互緩衝膜原料液との反応時間および反応温度を変化させたり、相互緩衝膜原料液中のTEOSの濃度を変化させたりすることにより調整できる。
【0054】
<
インダクタ素子>
本実施形態における複合粒子12は、たとえば
図2に示すインダクタ素子2のコア6を構成する粒子として用いることができる。
図2に示すように、本発明の一実施形態に係るインダクタ素子2は、巻線部4と、コア6と、を有する。巻線部4では、導体5がコイル状に巻回してある。コア6は、粒子およびバインダで構成されている。
【0055】
図3に示すように、コア6は、たとえば複合粒子12とバインダ20とを圧縮して成形される。このようなコア6は大粒子14同士がバインダ20を介して結合することにより、所定の形状に固定されている。なお、
図3では、簡略化のため、相互緩衝膜18を図示していないが、
図3の複合粒子12においても相互緩衝膜18が大粒子14の周りに存在する小粒子16の間に位置する大粒子14の表面を少なくとも覆っている。
【0056】
なお、本実施形態では、コア6の少なくとも一部(たとえばコア6の中心部6
a)がたとえば
図1に示す所定の複合粒子12により構成されていればよい。
【0057】
好ましくは、コア6の少なくとも一部(たとえばコア6の中心部6
a)を構成する粒子、その他の粒子およびバインダ20の合計量を100質量%としたとき、
図1に示す所定の複合粒子12が10質量%以上99.5質量%以下である。
【0058】
ここで、その他の粒子としては、所定の複合粒子12およびバインダ20以外の粒子を意味し、所定の複合粒子12とは組成が異なるもの、相互緩衝膜18が形成されていないもの等を意味する。その他の粒子の例としては純鉄、カルボニルFe、Fe系合金、Fe-Si系合金、Fe-Al系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si-Cr系合金、Fe-Co系合金、Fe系アモルファス合金、Fe系ナノ結晶合金などが用いられる。
【0059】
コア6を構成するバインダ20となる樹脂としては、公知の樹脂を用いることができる。具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、フラン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが例示され、好ましくはエポキシ樹脂である。また、コア6を構成するバインダとなる樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよいが、好ましくは熱硬化性樹脂である。
【0060】
本実施形態の複合粒子12は上記のような構成であることにより、高圧で成形されても大粒子14同士が接触しにくい。なぜならば、
図3に示すように、大粒子14同士の間に、大粒子14よりも小さい1以上の小粒子16がスペーサーとして存在するからである。これにより、大粒子14間に所定の距離ができ、大粒子14間の距離を一定以上にすることができる。
【0061】
なお、「大粒子14同士の間に、大粒子14よりも粒径が小さい1以上の小粒子16がスペーサーとして存在する」とは、隣接する2つの大粒子14のうち一方の大粒子14の表面に直接的または間接的に付着してあり、なおかつ、他方の大粒子14の表面にも直接的または間接的に付着している1以上の小粒子16が存在することを意味する。この他、隣接する2つの大粒子14のうち一方の大粒子14の表面に直接的または間接的に付着してあり、なおかつ、他の小粒子16を介して他方の大粒子14の表面にも直接的または間接的に付着している1以上の小粒子16が存在することも意味する。
【0062】
たとえば、
図3では、点線で囲んだスペーサー領域22において、大粒子14同士の間に、大粒子14よりも粒径が小さい小粒子16がスペーサーとして存在している。
【0063】
さらに、
図1に示すように、大粒子14の表面は相互緩衝膜18で覆われていることにより、成形時に、大粒子14の表面の小粒子16が大粒子14の表面に沿って移動することを防ぐことができる。これにより、高圧で成形された場合において、大粒子14の間で小粒子16がスペーサーとして機能する確実性をより高めることができる。本実施形態の相互緩衝膜18は、大粒子14および小粒子16のそれぞれの表面を連続的に覆っていることが好ましいが、必ずしも連続している必要は無い。
【0064】
図3に示すように、大粒子14同士の間に、大粒子14よりも小さい小粒子16がスペーサーとして存在することにより、大粒子14間に所定の距離ができ、大粒子14間の距離を一定以上に保持することができる。したがって、高圧で成形されても大粒子14同士が接触しにくいことから、複数の大粒子が集合体となることを防ぐことができ、体積抵抗率が高くなり、耐圧が高くなる。
【0065】
また、大粒子同士が接触することを防ぐことにより、磁界集中を防ぐことができ、それにより磁気飽和の発生を防ぐことができる。これにより、直流重畳特性を高められると考えられる。
【0066】
また、上記の通り、本実施形態の複合粒子12では、大粒子14の表面に付着した小粒子16および相互緩衝膜18は剥離しにくいため、より磁界集中を防ぐことができ、磁気飽和の発生がより抑制されている。その結果、このような複合粒子12を用いたコア6は、直流重畳特性がより高くなる傾向となる。
【0067】
さらに、大粒子14の表面に付着させる小粒子16の平均粒径を変えることで、大粒子14の間の距離を狙い通りに、かつ、一定に保つことができる。その結果、所望の直流重畳特性、耐圧および透磁率を得ることができ、製品特性としての直流重畳特性、耐圧および透磁率を安定的に調整することができる。
【0068】
また、本実施形態の複合粒子12は上記のような構成であることにより、比較的高圧で成形することができる。このため透磁率を高くすることができる。
【0069】
さらに、相互緩衝膜18の平均厚みを所定の範囲内にすることで、高い透磁率も確保することができ、製造コストを低くすることができる。
【0070】
また、本実施形態では、小粒子16により大粒子14間の距離が一定以上になるため、高温環境下における耐圧の低下を抑制することができる。たとえばインダクタ素子2は車載用途では耐熱温度が150℃以上であることが求められる。これに対して、本実施形態の複合粒子12が観察される断面または表面を持つインダクタ素子2は、上記の通り、高温環境下においても、耐圧の低下を抑制することができるため、耐熱温度が150℃以上の車載用途に好適に用いることができる。
【0071】
<複合粒子の製造方法>
大粒子14および小粒子16を準備し、大粒子14の表面に小粒子16を付着させる。大粒子14の表面に小粒子16を付着させる方法は特に限定されず、たとえば静電吸着により大粒子14の表面に小粒子16を付着させてもよいし、メカノケミカル法により大粒子14の表面に小粒子16を付着させてもよいし、大粒子14表面に小粒子16を合成により析出させる方法により大粒子14の表面に小粒子16を付着させてもよいし、樹脂などの有機材料を介して大粒子14に小粒子16を付着させてもよい。
【0072】
本実施形態では、静電吸着により大粒子14の表面に小粒子16を付着させることが好ましい。なぜなら、静電吸着の場合は、低エネルギーで大粒子14の表面に小粒子16を付着させることが可能だからである。静電吸着はメカノケミカル法に比べて、低エネルギーで大粒子14の表面に小粒子16を付着させることが可能であることから、粒子のひずみが発生しにくいため、コアロスを小さくすることができる。また、静電吸着では、大粒子14と小粒子16にそれぞれ反対の電荷を帯びさせた後、吸着させるため、大粒子14に付着する小粒子16の量を制御することが容易であるというメリットもある。
【0073】
次に、小粒子16が付着した大粒子14に相互緩衝膜18を形成する。相互緩衝膜18を形成する方法は特に限定されず、たとえば相互緩衝膜18を構成することとなる化合物またはその前駆体などを溶解した溶液に小粒子16が付着した大粒子14を浸漬する、または、当該溶液を小粒子16が付着した大粒子14に噴霧する。次に、当該溶液が付着した大粒子14および小粒子16に対して熱処理などを行う。これにより大粒子14および小粒子16に相互緩衝膜18を形成することができる。
【0074】
具体的には、下記の方法により大粒子14と小粒子16に相互緩衝膜18を形成することができる。まず、小粒子16が付着した大粒子14と、相互緩衝膜原料液と、を混合する。
【0075】
ここで、相互緩衝膜原料液とは、相互緩衝膜18を構成する成分を含む液である。本実施形態では、たとえば、相互緩衝膜18がTEOSである場合には、TEOS、水、エタノールおよび塩酸を含む液を相互緩衝膜原料液とすることができる。
【0076】
小粒子16が付着した大粒子14と、相互緩衝膜原料液と、の混合液を密閉圧力容器内において加熱し、ゾルゲル反応によりTEOSの湿潤ゲルを得る。加熱温度は特に限定されないが、たとえば20℃~80℃である。加熱時間も特に限定されないが、5時間~10時間である。TEOSの湿潤ゲルをさらに65℃~75℃で、5~24時間加熱し、乾燥ゲル体、すなわち複合粒子12を得る。
【0077】
<コアの製造方法>
本実施形態では、上記の複合粒子12を用いてコア6を製造する。
【0078】
図2に示すように上記の複合粒子12と、導体(ワイヤ)5を所定回数だけ巻回して形成された空心コイルとを、金型内に充填して圧縮成型しコイルが内部に埋設された成形体を得る。圧縮方法は特に限定されず、一方向から圧縮してもよいし、WIP(Warm Isostatic Press)、CIP(Cold Isostatic Press)などによって等方的に圧縮してもよいが、好ましくは等方的に圧縮する。これにより、大粒子14および小粒子16の再配列と内部組織の高密度化を達成できる。
【0079】
得られた成形体に対して、熱処理を行うことにより、大粒子14および小粒子16が固定されており、コイルが埋設された所定形状のコア6が得られる。このようなコア6は、その内部にコイルが埋設されているので、インダクタ素子2などのコイル型電子部品として機能する。
【0080】
[第2実施形態]
本実施形態は、以下に示す以外は、第1実施形態の複合粒子12と同様である。図示していないが、本実施形態では、大粒子14の表面の少なくとも一部にコーティング層を有している。本実施形態の大粒子14は、
図2に示すコア6の製造工程において、コーティング層を有することにより酸化を防止することができる。また、コーティング層を有することにより、大粒子14の表面に非磁性および絶縁性を有する層を付与することができ、その結果、磁気特性(直流重畳特性および耐圧)を向上させることができる。
【0081】
コーティング層の材質は特に限定されず、TEOS、酸化マグネシウム、ガラス、樹脂または、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムもしくはリン酸鉄などのリン酸塩が挙げられ、TEOSであることが好ましい。これにより耐圧をより高く維持することができる。
【0082】
大粒子14の表面を覆うコーティング層は、大粒子14の表面の少なくとも一部を覆っていればよいが、表面の全部を覆っていることが好ましい。さらに、コーティング層は大粒子14の表面を連続的に覆っていてもよいし、断続的に覆っていてもよい。
【0083】
なお、すべての大粒子14がコーティング層を有していなくてもよく、たとえば50%以上の大粒子14がコーティング層を有していてもよい。
【0084】
本実施形態のように、大粒子14がコーティング層を有する場合には、第1実施形態において大粒子14の平均粒径(R)として記載している値は、大粒子14の粒径にコーティング層が含まれるとして理解される。
【0085】
同様に、本実施形態のように、大粒子14がコーティング層を有する場合には、第1実施形態において大粒子14のD10として記載している内容は、大粒子14の粒径にコーティング層が含まれるとして理解される。
【0086】
大粒子14の表面にコーティング層を形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。たとえば、大粒子14に対して湿式処理を行うことによりコーティング層を形成することができる。
【0087】
具体的には、コーティング層を構成することとなる化合物またはその前駆体などを溶解した溶液に大粒子14を浸漬する、または、当該溶液を大粒子14に噴霧する。次に、当該溶液が付着した大粒子14に対して熱処理などを行う。これにより大粒子14にコーティング層を形成することができる。
【0088】
本実施形態の複合粒子12は上記のような構成であることにより、大粒子同士が接触し圧迫され、変形することにより、コーティング層が剥離したり、コーティング層に亀裂が入ったとしても、大粒子14同士が接触しにくい。なぜならば、
図3に示すように、大粒子14同士の間に、大粒子14よりも小さい小粒子16がスペーサーとして存在するからである。これにより、大粒子14間に所定の距離ができ、大粒子14間の距離を一定以上にすることができる。
【0089】
このように、絶縁性を有するコーティング層の剥離および亀裂を防ぐことができることから、体積抵抗率の低下をより防ぐことができ、耐圧をより高くすることができる。
【0090】
また、コーティング層は非磁性層として機能することにより直流重畳特性をより良好なものとしている。本実施形態では、コーティング層の剥離および亀裂を防ぐことができることから、直流重畳特性がより高くなる傾向となる。
【0091】
また、本実施形態では、高温環境下において、大粒子14とコーティング層との線膨張係数の違いにより、仮にコーティング層に剥離や亀裂が生じても、小粒子16により大粒子14間の距離を一定以上にできるため、耐圧の低下を抑制することができる。
【0092】
[第3実施形態]
本実施形態は下記に示す以外は、第1実施形態と同様である。すなわち、第1実施形態では、相互緩衝膜18としてTEOSを用いたが、本実施形態では、相互緩衝膜18は樹脂である。本実施形態において相互緩衝膜を形成する方法は特に限定されない。本実施形態において相互緩衝膜を形成する方法の一例は下記の通りである。
【0093】
小粒子16が付着した大粒子14と、樹脂が溶解してある樹脂可溶性溶液と、を混合し、第1溶液を生成する。
【0094】
次に、第1溶液に樹脂不溶性溶液を添加し、第2溶液を生成する。ここで、樹脂不溶性溶液とは、前の工程で溶解された樹脂に不溶であり、なおかつ、樹脂可溶性溶液に可溶な溶液である。
【0095】
第1溶液に樹脂不溶性溶液を添加して第2溶液を生成することにより、樹脂可溶性溶液が樹脂不溶性溶液に溶解する。このため、樹脂可溶性溶液に溶解していた樹脂を相互緩衝膜18として析出させることができる。
【0096】
次に、第2溶液を乾燥する。これにより、析出した相互緩衝膜18(樹脂)が大粒子14の表面に付着し、大粒子14の表面に相互緩衝膜18(樹脂)が付着した複合粒子12を得ることができる。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変してもよい。
【0098】
たとえば上記では、インダクタ素子2として、
図2に示すように所定形状のコア6の内部に、導体5が巻回された空芯コイルが埋設された構造を示したが、その構造は特に限定されず、所定形状のコアの表面に導体が巻回された構造であればよい。
【0099】
また、コアの形状としては、FT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、ドラム型、トロイダル型、ポット型、カップ型などを例示することができる。
【0100】
また、上記ではコア6に用いられる複合粒子12を説明したが、本発明の複合粒子12の用途はコア6に限られず、粒子を含むその他の電子部品などに用いることができ、たとえば誘電体ペーストまたは電極ペーストなどを用いて形成される電子部品、磁性粉末を含む磁石、リチウムイオン電池及び全固体型リチウム電池、または磁気シールドシートに用いることができる。
【0101】
本実施形態の複合粒子12を誘電体ペーストの誘電体粒子として用いる場合、大粒子14の材質としては、たとえばチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられ、小粒子16の材質としては、ケイ素、希土類元素、アルカリ土類金属などが挙げられる。
【0102】
本実施形態の複合粒子12を電極ペーストの電極粒子として用いる場合、大粒子14の材質としては、たとえばNi、Cu、AgもしくはAu、またはこれらの合金の他、カーボンなどが挙げられる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
(実施例1)
静電吸着により、小粒子16が表面に付着した大粒子14を準備した。
【0105】
大粒子14の材質はFeであり、平均粒径は4000nmであった。
【0106】
小粒子16の材質はSiO2であり、平均粒径は表1に記載の通りであった。
【0107】
次に、TEOS、水、エタノールおよび塩酸を含む相互緩衝膜原料液を準備し、小粒子16が付着した大粒子14と混合した。
【0108】
ここで、小粒子16の平均粒径rと相互緩衝膜の厚みtの比率である(t/r)が表1に記載の通りとなるように、相互緩衝膜18の厚みを調整した。具体的には、相互緩衝膜原料液の添加量、後述の加熱温度および加熱時間を調整することによって相互緩衝膜18の厚みを調整した。
【0109】
小粒子16が付着した大粒子14と、相互緩衝膜原料液と、の混合液を密閉圧力容器内において加熱し、TEOSの湿潤ゲルを得た。加熱温度は50℃、加熱時間は8時間とした。TEOSの湿潤ゲルをさらに約100℃で、1週間加熱し、複合粒子12を得た。
【0110】
このようにして得られた複合粒子12 100質量部に対してエポキシ樹脂の固形分が3質量部になるようにエポキシ樹脂を秤量して、複合粒子12とエポキシ樹脂を混合し、攪拌して、顆粒を生成した。
【0111】
得られた顆粒を所定のトロイダル形状の金型内に充填し、成型圧力6t/cm2の圧力で加圧しコアの成形体を得た。作製したコアの成形体を200℃で4時間、大気中での熱硬化処理を行い、トロイダルコア(外径17mm、内径10mm)を得た。
【0112】
トロイダルコアに巻数32で銅線を巻き、サンプルを作製した。
【0113】
得られたサンプルに対して、直流電流を0から印加していき、電流0の時のインダクタンス(μH)に対して、80%に低下する時に流れる電流の値(アンペア)をIdc1とし、Idc1の数値で評価した。Idc1が30.0A以上の場合を「A」と評価し、Idc1が20.0A以上30.0A未満の場合を「B」と評価し、Idc1が20.0A未満の場合を「C」と評価した。結果を表2に示す。
【0114】
得られたサンプルの端子電極間にKEYSIGHT製 DC POWER SUPPLYおよびLCRメータを用いて電圧を印加し、0.5mAの電流が流れたときの電圧を耐圧とした。耐圧が2.0kVを超える場合を「A」と評価し、耐圧が1kV以上2.0kV未満である場合を「B」と評価し、耐圧が1kV未満である場合を「C」と評価した。結果を表2に示す。
【0115】
得られたサンプルに対して、LCRメータ(HP社製LCR428A)によって透磁率を測定した。透磁率が25以上の場合を「A」と評価し、透磁率が20以上25未満の場合を「B」と評価し、透磁率が20未満の場合を「C」と評価した。結果を表2に示す。
【0116】
得られたサンプルを切断した。その切断面のコア6の部分を走査型透過電子顕微鏡(STEM)により観察し、相互緩衝膜18の平均厚み(t)を測定したところ、30nmであった。また、同じ断面における大粒子14に対する小粒子16の平均被覆率は50%であった。
【0117】
【0118】
【0119】
(実施例2)
大粒子14の平均粒径を10000nmとして、小粒子16の平均粒径を表3に記載の通りとした以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製し、直流重畳特性、耐圧および透磁率を測定した。結果を表4に示す。
【0120】
【0121】
【0122】
表1~表4より、(r/R)が0.0012以上0.025以下であり、(t/r)が0より大きく、0.7以下であり、rが12nm以上100nm以下である場合(試料番号3~7および13~16)は、rが200nm以上であり、(r/R)が0.030以上である場合(試料番号1、2および11)に比べて、透磁率が良好であることが確認できた。
【0123】
表1~表4より、(r/R)が0.0012以上0.025以下であり、(t/r)が0より大きく、0.7以下であり、rが12nm以上100nm以下である場合(試料番号3~7および13~16)は、rが9nm以下であり、(t/r)が0.889以上である場合(試料番号8および17)に比べて、耐圧が良好であることが確認できた。
【0124】
(実施例3)
大粒子14の平均粒径(R)を4000nmとして、小粒子16の平均粒径(r)および相互緩衝膜18の平均厚み(t)を表5および表7の通り変化させた。なお、相互緩衝膜18の平均厚みは大粒子14に対する相互緩衝膜原料液の反応時間を変化させることにより調整した。それ以外は、実施例1と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルに関して、実施例1と同様にして相互緩衝膜18の厚みおよび透磁率を測定した。
【0125】
さらに、得られたサンプルについて、加熱前(室温の雰囲気)における耐圧と、加熱後(雰囲気温度175℃)における耐圧を実施例1と同様にして測定した。なお、加熱後における耐圧は、サンプルを175℃で48時間以上放置した後、室温に戻し、室温雰囲気で測定した。本発明では、加熱前の耐圧が2.0kV以上であり、加熱後の耐圧が1kV以上である場合は「A」と評価し、加熱前の耐圧が1.8kV以上2.0kV未満であり、加熱後の耐圧が1kV以上である場合は「B」と評価し、加熱後の耐圧が1kV未満である場合は「C」と評価した。結果を表6および表8に示す。
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
表5~表8より、(r/R)が0.0012以上0.025以下であり、(t/r)が0より大きく、0.7以下であり、rが12nm以上100nm以下である場合(試料番号22~26、42~49)は、rが200nmである場合(試料番号21)および(t/r)が0.83である場合(試料番号41)に比べて透磁率が高いことが確認できた。
【0131】
また、表5~表8より、(r/R)が0.0012以上0.025以下であり、(t/r)が0より大きく、0.7以下であり、rが12nm以上100nm以下である場合(試料番号22~26、42~49)は、rが9nm以下である場合(試料番号27~35)、(t/r)が0である場合(試料番号50)に比べて高温環境下における耐圧の低下が抑制されていることが確認できた。
【符号の説明】
【0132】
2… インダクタ素子
4… 巻線部
5… 導体
6… コア
6a… コアの中心部
12… 複合粒子
14… 大粒子
16… 小粒子
18… 相互緩衝膜
20… 樹脂
22… スペーサー領域