(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20240326BHJP
B60T 17/22 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F02D29/02 321A
B60T17/22 C
(21)【出願番号】P 2020084633
(22)【出願日】2020-05-13
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】奥村 文博
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-125044(JP,A)
【文献】特開2015-101976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
B60T 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のブレーキ操作に応じて作動しそのブレーキ操作により生じた制動力を維持するブレーキホールド機能と、前記ブレーキ操作とは独立して作動する電動パーキングブレーキ機能とを有し、前記ブレーキホールド機能による制動状態であるブレーキホールド状態において、所定の切替条件の成立に伴い、前記ブレーキホールド状態から、前記電動パーキングブレーキ機能による制動状態であるパーキングブレーキ状態への切り替えを行う車両に適用され、
所定の自動停止条件の成立に伴い車載のエンジンを自動停止させるとともに、自動停止中における所定の再始動条件の成立に伴い前記エンジンを再始動させる自動停止再始動制御を実施するエンジン制御装置(20)であって、
前記エンジンの自動停止中に、前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じることを判定する切替判定部と、
前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じる場合において、前記パーキングブレーキ状態になった後に前記再始動条件が成立するまで前記エンジンの自動停止状態を継続する制御部と、
前記ブレーキホールド機能に異常が生じているか否かを判定するブレーキホールド判定部と、を備え、
前記制御部は、前記ブレーキホールド状態下で前記ブレーキホールド機能に異常が生じていると判定された場合において、前記パーキングブレーキ状態になった後に、運転者のブレーキ操作が行われたことに伴い前記エンジンを再始動させるエンジン制御装置。
【請求項2】
運転者のブレーキ操作に応じて作動しそのブレーキ操作により生じた制動力を維持するブレーキホールド機能と、前記ブレーキ操作とは独立して作動する電動パーキングブレーキ機能とを有し、前記ブレーキホールド機能による制動状態であるブレーキホールド状態において、所定の切替条件の成立に伴い、前記ブレーキホールド状態から、前記電動パーキングブレーキ機能による制動状態であるパーキングブレーキ状態への切り替えを行う車両に適用され、
所定の自動停止条件の成立に伴い車載のエンジンを自動停止させるとともに、自動停止中における所定の再始動条件の成立に伴い前記エンジンを再始動させる自動停止再始動制御を実施するエンジン制御装置(20)であって、
前記エンジンの自動停止中に、前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じることを判定する切替判定部と、
前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じる場合において、前記パーキングブレーキ状態になった後に前記再始動条件が成立するまで前記エンジンの自動停止状態を継続する制御部と、
前記ブレーキホールド機能に異常が生じているか否かを判定するブレーキホールド判定部と、
エンジン自動停止に伴い停止中の車両の状態を示す車両情報を取得する車両情報取得部と、を備え、
前記制御部は、前記ブレーキホールド状態下で前記ブレーキホールド機能に異常が生じていると判定された場合において、前記パーキングブレーキ状態になったことに伴い前記エンジンを再始動させる処理と、前記パーキングブレーキ状態になった後に、運転者のブレーキ操作が行われたことに伴い前記エンジンを再始動させる処理とを、前記車両情報に基づいて選択的に実施するエンジン制御装置。
【請求項3】
前記電動パーキングブレーキ機能が作動可能であるか否かを判定するパーキングブレーキ判定
部を備え、
前記制御部は、前記ブレーキホールド状態下で前記ブレーキホールド機能に異常が生じていると判定され、かつ前記電動パーキングブレーキ機能が作動可能でないと判定された場合に、前記エンジンを再始動させないようにする請求項1
又は2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じる場合において、前記パーキングブレーキ状態になった後に前記再始動条件が成立したことに伴い前記エンジンを再始動させる処理と、前記パーキングブレーキ状態になったことに伴い前記エンジンを再始動させる処理とを、
エンジン自動停止に伴い停止中の車両の状態を示す車両情報に基づいて選択的に実施する請求項1~
3のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
運転者のブレーキ操作に応じて作動しそのブレーキ操作により生じた制動力を維持するブレーキホールド機能と、前記ブレーキ操作とは独立して作動する電動パーキングブレーキ機能とを有し、前記ブレーキホールド機能による制動状態であるブレーキホールド状態において、所定の切替条件の成立に伴い、前記ブレーキホールド状態から、前記電動パーキングブレーキ機能による制動状態であるパーキングブレーキ状態への切り替えを行う車両に適用され、
所定の自動停止条件の成立に伴い車載のエンジンを自動停止させるとともに、自動停止中における所定の再始動条件の成立に伴い前記エンジンを再始動させる自動停止再始動制御を実施するエンジン制御装置(20)であって、
前記エンジンの自動停止中に、前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じることを判定する切替判定部と、
前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じる場合において、前記パーキングブレーキ状態になった後に前記再始動条件が成立するまで前記エンジンの自動停止状態を継続する制御部と、
前記ブレーキホールド機能に異常が生じているか否かを判定するブレーキホールド判定部と、
前記電動パーキングブレーキ機能が作動可能であるか否かを判定するパーキングブレーキ判定部と、を備え、
前記制御部は、前記ブレーキホールド状態下で前記ブレーキホールド機能に異常が生じていると判定され、かつ前記電動パーキングブレーキ機能が作動可能でないと判定された場合に、前記エンジンを再始動させないようにするエンジン制御装置。
【請求項6】
運転者のブレーキ操作に応じて作動しそのブレーキ操作により生じた制動力を維持するブレーキホールド機能と、前記ブレーキ操作とは独立して作動する電動パーキングブレーキ機能とを有し、前記ブレーキホールド機能による制動状態であるブレーキホールド状態において、所定の切替条件の成立に伴い、前記ブレーキホールド状態から、前記電動パーキングブレーキ機能による制動状態であるパーキングブレーキ状態への切り替えを行う車両に適用され、
所定の自動停止条件の成立に伴い車載のエンジンを自動停止させるとともに、自動停止中における所定の再始動条件の成立に伴い前記エンジンを再始動させる自動停止再始動制御を実施するエンジン制御装置(20)であって、
前記エンジンの自動停止中に、前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じることを判定する切替判定部と、
前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じる場合において、前記パーキングブレーキ状態になった後に前記再始動条件が成立するまで前記エンジンの自動停止状態を継続する制御部と、
エンジン自動停止に伴い停止中の車両の状態を示す車両情報を取得する車両情報取得部と、を備え、
前記制御部は、前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じる場合において、前記パーキングブレーキ状態になった後に前記再始動条件が成立したことに伴い前記エンジンを再始動させる処理と、前記パーキングブレーキ状態になったことに伴い前記エンジンを再始動させる処理とを、前記車両情報に基づいて選択的に実施するエンジン制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記ブレーキホールド状態と前記パーキングブレーキ状態とで互いに異なる前記再始動条件に基づいて、前記エンジンを再始動させるものであり、
前記ブレーキホールド状態では、運転者のブレーキ操作及びアクセル操作のうちアクセル操作が行われたことを前記再始動条件として前記エンジンを再始動させ、
前記パーキングブレーキ状態では、運転者のブレーキ操作及びアクセル操作のいずれかが行われたことを前記再始動条件として前記エンジンを再始動させる請求項1
~6のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、エンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が停車中等の所定条件を満たした場合に車両のエンジンを自動停止すること(いわゆるアイドリングストップ)により、車両の燃費向上を図る取り組みがなされている。一方、車両のブレーキスシステムとして、運転者のブレーキペダルの踏み込み操作に応じて作動し、そのブレーキ踏み込み操作により生じた制動力を維持するブレーキホールド機能を有するものが知られており、エンジンの自動停止中においてブレーキホールド機能によって車両を停止状態で維持するようにした技術が存在する。ブレーキホールド機能によれば、運転者がブレーキペダルの踏み込みを解除しても所望の制動状態を継続させることができ、運転者の負荷軽減を図ることができる。
【0003】
例えば特許文献1には、エンジンの自動停止中にブレーキホールド状態となっている場合において、エンジンの再始動条件を通常時とは異なるものとする技術が開示されている。具体的には、エンジンの再始動条件を、運転者によるブレーキ操作の解除から、ブレーキ操作の解除を含まない条件(アクセル操作)に変更している。この場合、アクセル操作によるブレーキホールド状態の解除に伴いエンジンが再始動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両ブレーキに関する技術として、上述したブレーキホールド以外に電動パーキングブレーキが知られている。この電動パーキングブレーキは、運転者のブレーキペダルの踏み込み操作とは独立して作動し、その作動に伴い車両を停止状態で維持できるものとなっている。
【0006】
また、エンジンの自動停止状態において、ブレーキホールド状態から電動パーキングブレーキ状態へ自動で移行させることが考えられる。つまり、例えば油圧式ブレーキシステムでは、ブレーキペダルを踏み込み操作した状態からブレーキホールド状態に移行する場合に、ブレーキペダルの踏み込み操作により生じた油圧が維持されることでブレーキホールド状態となる。この場合、ブレーキホールド状態が長引くことで油圧低下の懸念が生じる等の理由から、ブレーキホールド状態から電動パーキングブレーキ状態への切り替えが行われることが考えられる。
【0007】
ここで、既存技術からすれば、ブレーキホールド状態の解除に伴いエンジンが再始動されることが考えられる。しかしながら、こうしたエンジン再始動は運転者の意思を反映したものでなく、仮に運転者の意思に反して早期にエンジンが再始動されると、エンジンの燃費向上効果が低減されることが懸念される。それ故に、エンジン再始動を行う条件として、技術改善の余地があると考えられる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ブレーキホールド機能と電動パーキングブレーキ機能とを有する車両において、エンジンのアイドリングストップ制御を適正に実施することができるエンジン制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
手段1は、
運転者のブレーキ操作に応じて作動しそのブレーキ操作により生じた制動力を維持するブレーキホールド機能と、前記ブレーキ操作とは独立して作動する電動パーキングブレーキ機能とを有し、前記ブレーキホールド機能による制動状態であるブレーキホールド状態において、所定の切替条件の成立に伴い、前記ブレーキホールド状態から、前記電動パーキングブレーキ機能による制動状態であるパーキングブレーキ状態への切り替えを行う車両に適用され、
所定の自動停止条件の成立に伴い車載のエンジンを自動停止させるとともに、自動停止中における所定の再始動条件の成立に伴い前記エンジンを再始動させる自動停止再始動制御を実施するエンジン制御装置であって、
前記エンジンの自動停止中に、前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じることを判定する切替判定部と、
前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じる場合において、前記パーキングブレーキ状態になった後に前記再始動条件が成立するまで前記エンジンの自動停止状態を継続する制御部と、
を備える。
【0010】
車両のブレーキ機能として、ブレーキホールド機能や電動パーキングブレーキ機能が知られており、エンジンの自動停止中にこれらブレーキホールドや電動パーキングブレーキを作動させることで運転者の負荷軽減が可能となっている。また、エンジンの自動停止中には、所定の切替条件の成立に伴いブレーキホールド機能による制動状態(ブレーキホールド状態)から電動パーキングブレーキ機能による制動状態(パーキングブレーキ状態)への切り替えが行われる。
【0011】
そして、エンジンの自動停止中に、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えが生じることを判定し、その切り替えが生じる場合において、パーキングブレーキ状態になった後に再始動条件が成立するまでエンジンの自動停止状態を継続するようにした。ここで、エンジン自動停止中にブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えが行われる場合、それら各状態ではいずれも、運転者のブレーキ操作が解除されたまま車両に制動力が付与され、かつエンジン再始動に関する運転者の操作が何ら行われていない(すなわち運転者に車両発進意思のない)状況にあり、運転者が車両を現状維持することを意図していると考えられる。そのため、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えの前後においてエンジンの自動停止状態を維持することで、運転者の意思を反映した状態とすることができる。これにより、エンジンを不要に始動させることを抑制できる。その結果、ブレーキホールド機能と電動パーキングブレーキ機能とを有する車両において、エンジンのアイドリングストップ制御を適正に実施することができる。
【0012】
手段2では、手段1において、前記制御部は、前記ブレーキホールド状態と前記パーキングブレーキ状態とで互いに異なる前記再始動条件に基づいて、前記エンジンを再始動させるものであり、前記ブレーキホールド状態では、運転者のブレーキ操作及びアクセル操作のうちアクセル操作が行われたことを前記再始動条件として前記エンジンを再始動させ、前記パーキングブレーキ状態では、運転者のブレーキ操作及びアクセル操作のいずれかが行われたことを前記再始動条件として前記エンジンを再始動させる。
【0013】
ブレーキホールド状態は、運転者のブレーキ操作に引き続いて油圧等により制動力が維持された状態であるのに対し、パーキングブレーキ状態は、運転者のブレーキ操作とは独立して作動するものであり、各々解除条件が異なり、運転者の操作(車両発進意思に応じた操作)も自ずと異なるものとなる。この点、上記のとおりブレーキホールド状態とパーキングブレーキ状態とで再始動条件を互いに異ならせたため、運転者の意思に応じた再始動制御を実施することができる。
【0014】
手段3では、手段1又は2において、前記ブレーキホールド機能に異常が生じているか否かを判定するブレーキホールド判定部を備え、前記制御部は、前記ブレーキホールド状態下で前記ブレーキホールド機能に異常が生じていると判定された場合において、前記パーキングブレーキ状態になったことに伴い前記エンジンを再始動させる。
【0015】
上記構成では、ブレーキホールド状態下でブレーキホールド機能に異常が生じた場合において、パーキングブレーキ状態になったことに伴いエンジンを再始動させるようにした。これにより、ブレーキホールド異常の状態において、電動パーキングブレーキにより車両を停止状態としつつ、エンジンを通常運転状態にして車両移動などの対応を運転者の意思に応じて好適に行わせることができる。この場合、エンジンを運転状態に復帰させておくことで、エンジン始動のための別途の操作が不要となり、異常発生時の運転者の負担軽減を図ることができる。
【0016】
本手段のブレーキシステムでは、2系統のブレーキ機能を有しているため、一方のブレーキホールド機能で異常が生じても、他方の電動パーキングブレーキ機能を用いた制動を行わせることができ、ブレーキシステムの異常時におけるフェイルセーフ処理としてエンジン再始動を行わせることが可能となっている(下記の手段4,5についても同様)。
【0017】
手段4では、手段1又は2において、前記ブレーキホールド機能に異常が生じているか否かを判定するブレーキホールド判定部を備え、前記制御部は、前記ブレーキホールド状態下で前記ブレーキホールド機能に異常が生じていると判定された場合において、前記パーキングブレーキ状態になった後に、運転者のブレーキ操作が行われたことに伴い前記エンジンを再始動させる。
【0018】
上記構成では、ブレーキホールド状態下でブレーキホールド機能に異常が生じた場合において、パーキングブレーキ状態になった後に、運転者のブレーキ操作が行われたことに伴いエンジンを再始動させるようにした。この場合、ブレーキホールド異常の状態において、運転者の意思に応じてエンジンを再始動させることができる。また、運転者のブレーキ操作を条件にエンジン再始動が行われるため、意図しない車両の発進を抑制できる。
【0019】
手段5では、手段1又は2において、前記ブレーキホールド機能に異常が生じているか否かを判定するブレーキホールド判定部と、エンジン自動停止に伴い停止中の車両の状態を示す車両情報を取得する車両情報取得部と、を備え、前記制御部は、前記ブレーキホールド状態下で前記ブレーキホールド機能に異常が生じていると判定された場合において、前記パーキングブレーキ状態になったことに伴い前記エンジンを再始動させる処理と、前記パーキングブレーキ状態になった後に、運転者のブレーキ操作が行われたことに伴い前記エンジンを再始動させる処理とを、前記車両情報に基づいて選択的に実施する。
【0020】
上記構成によれば、ブレーキホールド状態下でブレーキホールド機能に異常が生じていると判定された場合において、エンジン自動停止に伴い停止中の車両の状態を示す車両情報に基づいて、パーキングブレーキ状態になると直ぐにエンジン再始動が行われるか、又は、パーキングブレーキ状態になった後に運転者のブレーキ操作が行われたことを待ってエンジン再始動が行われる。車両情報には、例えば車両の残存燃料量、車載バッテリの蓄電状態、車両停止位置での路面傾斜による車両の傾斜状態の少なくともいずれかが含まれているとよい。
【0021】
エンジン自動停止に伴う停止中の車両の状態によっては、ブレーキホールド異常に伴いパーキングブレーキ状態に切り替えられた場合において、いち早くエンジンを再始動させるとよいか、運転者の車両発進意思に合わせてエンジンを再始動させるとよいかが異なることが考えられる。この点、上記構成によれば、都度の車両状態に応じて適正な処理を実施することができる。
【0022】
手段6では、手段1~5のいずれかにおいて、前記ブレーキホールド機能に異常が生じているか否かを判定するブレーキホールド判定部と、前記電動パーキングブレーキ機能が作動可能であるか否かを判定するパーキングブレーキ判定部と、を備え、前記制御部は、前記ブレーキホールド状態下で前記ブレーキホールド機能に異常が生じていると判定され、かつ前記電動パーキングブレーキ機能が作動可能でないと判定された場合に、前記エンジンを再始動させないようにする。
【0023】
上記構成では、ブレーキホールド機能の異常発生時において、電動パーキングブレーキ機能が正常に作動する状態でなければ、エンジンを再始動させないようにした。これにより、ブレーキホールド機能と電動パーキングブレーキ機能との両方が正常作動しない場合に車両の発進を禁止し、安全性を確保することができる。
【0024】
手段7では、手段1~6のいずれかにおいて、エンジン自動停止に伴い停止中の車両の状態を示す車両情報を取得する車両情報取得部を備え、前記制御部は、前記ブレーキホールド状態から前記パーキングブレーキ状態への切り替えが生じる場合において、前記パーキングブレーキ状態になった後に前記再始動条件が成立したことに伴い前記エンジンを再始動させる処理と、前記パーキングブレーキ状態になったことに伴い前記エンジンを再始動させる処理とを、前記車両情報に基づいて選択的に実施する。
【0025】
上記構成によれば、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えが生じる場合において、エンジン自動停止に伴い停止中の車両の状態を示す車両情報に基づいて、パーキングブレーキ状態になった後に再始動条件の成立を待ってエンジン再始動が行われるか、又は、パーキングブレーキ状態になると直ぐにエンジン再始動が行われる。車両情報には、例えば車両の残存燃料量、車載バッテリの蓄電状態、車両停止位置での路面傾斜による車両の傾斜状態の少なくともいずれかが含まれているとよい。
【0026】
エンジン自動停止に伴う停止中の車両の状態によっては、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態に切り替えられた場合において、いち早くエンジンを再始動させるとよいか、運転者の車両発進意思に合わせてエンジンを再始動させるとよいかが異なることが考えられる。この点、上記構成によれば、都度の車両状態に応じて適正な処理を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】アイドリングストップ制御の処理手順を示すフローチャート。
【
図3】アイドリングストップ制御をより具体的に説明するためのタイムチャート。
【
図4】アイドリングストップ制御をより具体的に説明するためのタイムチャート。
【
図5】アイドリングストップ制御をより具体的に説明するためのタイムチャート。
【
図6】第2実施形態においてアイドリングストップ制御の処理手順を示すフローチャート。
【
図7】別例においてアイドリングストップ制御の処理手順を示すフローチャート。
【
図8】別例においてアイドリングストップ制御の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、ブレーキシステムとしてブレーキホールド機能と電動パーキングブレーキ機能とを備える車両に適用され、その車両において、いわゆるアイドリングストップ制御が実施されるものとしている。
図1は、車両の制御システムの概要を示す構成図である。
【0029】
図1において、エンジン10は、例えば多気筒ガソリンエンジンであり、各気筒での燃料の燃焼に伴いエンジン出力軸が回転する。エンジン10は、図示しない燃料噴射装置や点火装置等を備えている。また、エンジン10には、始動時に初期回転を付与するスタータ11が設けられている。
【0030】
エンジンECU20は、CPU、ROM、RAM、フラッシュメモリ等からなる周知のマイクロコンピュータを備えた電子制御装置である。エンジンECU20は、回転センサや負荷センサ等、各種センサによる検出結果等に基づいて、エンジン10の燃料噴射制御や点火制御等を実施する。エンジンECU20がエンジン制御装置に相当する。
【0031】
また、エンジンECU20は、エンジン10のアイドリングストップ制御を実施する。具体的には、エンジンECU20は、ブレーキペダルの踏込み操作量を検出するブレーキセンサ21や、アクセルペダルの踏込み操作量を検出するアクセルセンサ22、車速を検出する車速センサ23等から検出信号を入力し、これら検出信号に基づいて、エンジン10の自動停止とその自動停止後のエンジン再始動とを適宜実施する。より詳しくは、エンジンECU20は、エンジン10の運転状態下において、所定の自動停止条件が成立するとエンジン10を自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立するとエンジン10を再始動させる。自動停止条件には、車速が所定速度よりも小さいこと又はゼロであること、ブレーキペダルが踏み込み操作されていること等が含まれる。再始動条件には、ブレーキペダルの踏み込み操作が解除されたこと等が含まれる。
【0032】
また、車両は、ブレーキシステムとして2系統のブレーキ装置を備えており、一方は油圧ブレーキ装置31であり、他方は電動ブレーキ装置32である。これら各ブレーキ装置31,32は周知技術として知られているため、図示による詳細な説明は省略するが、以下に簡単に説明する。
【0033】
油圧ブレーキ装置31は、ブレーキペダルの踏力を油圧に変換するマスタシリンダと、マスタシリンダで生じた油圧により作動するホイールシリンダとを備え、ホイールシリンダの作動に伴いブレーキパッドやブレーキシューの摩擦材により制動力を生じさせる構成を有している。油圧ブレーキ装置31によれば、運転者によりブレーキペダルが踏み込み操作された場合に、その踏み込み量(踏力)に応じた制動力生じさせることで、車両の減速又は停止が行われる。
【0034】
また、電動ブレーキ装置32は、電動アクチュエータと摩擦装置とを備え、運転者による作動指令操作に応じて電動アクチュエータが作動し、摩擦装置により車輪に対して制動力が付与される。電動ブレーキ装置32は、運転者によるブレーキペダルの踏み込み操作とは独立して作動し、例えば車両駐車時に車両を停止状態で保持する、いわゆるパーキングブレーキとして機能する。
【0035】
ブレーキECU40は、CPU、ROM、RAM、フラッシュメモリ等からなる周知のマイクロコンピュータを備えた電子制御装置である。ブレーキECU40は、ブレーキセンサ21、アクセルセンサ22、車速センサ23等から検出信号を入力し、これら検出信号に基づいて、車両を減速又は停止させるためのブレーキ制御を実施する。ブレーキECU40は、CAN等の通信手段によりエンジンECU20に接続されており、これら各ECU20,40では相互の送受信が可能になっている。
【0036】
ブレーキECU40によるブレーキ機能について詳しく説明する。ブレーキECU40は、ブレーキ機能として、油圧ブレーキ装置31を用いるブレーキホールド機能と、電動ブレーキ装置32を用いる電動パーキングブレーキ機能とを有している。
【0037】
ブレーキホールド機能は、運転者のブレーキペダルの踏み込み操作(ブレーキ操作)に応じて作動し、そのブレーキ操作を解除した後もブレーキ操作により生じた油圧ブレーキ装置31の制動力を維持する機能である。車両の運転席周辺には、ブレーキホールド機能を有効とする操作スイッチ41が設けられており、その操作スイッチ41の操作信号がブレーキECU40に入力される。ブレーキECU40は、車両が停止していること、運転者による所定のブレーキ操作が行われていること、操作スイッチ41がオンされていることが全て満たされる場合に、車両の制動状態を、ブレーキホールド機能による制動状態であるブレーキホールド状態とする。所定のブレーキ操作として具体的には、ブレーキペダルの踏み込み操作が所定時間継続されたこと、又はブレーキペダルに対して所定以上の踏力が付与されたことが含まれている。
【0038】
ブレーキECU40は、運転者がアクセルペダルを踏み込むことを条件に、ブレーキホールド状態を解除する。ブレーキホールド状態の解除に伴い、油圧ブレーキ装置31の制動力(油圧)が減じられる。なお、運転者がブレーキペダルを踏み込むことを条件に、ブレーキホールド状態が解除される構成であってもよい。
【0039】
また、電動パーキングブレーキ機能は、運転者のブレーキ操作とは独立して作動し、車両を停止状態で保持する機能である。車両の運転席周辺には、電動パーキングブレーキ機能を有効とする操作スイッチ42が設けられており、その操作スイッチ42の操作信号がブレーキECU40に入力される。ブレーキECU40は、ブレーキペダルが踏み込み操作された状態で操作スイッチ42がオン操作されることを条件に、車両の制動状態を、電動パーキングブレーキ機能による制動状態であるパーキングブレーキ状態とする。
【0040】
ブレーキECU40は、運転者がブレーキペダル及びアクセルペダルのいずれかを踏み込むか、操作スイッチ42をオフすることを条件に、パーキングブレーキ状態を解除する。パーキングブレーキ状態の解除に伴い、電動ブレーキ装置32による制動が停止される。
【0041】
なお、ブレーキホールド状態、パーキングブレーキ状態ではそれぞれ、例えばメータパネルにブレーキホールド作動中、電動パーキングブレーキ作動中であることが表示されるとよい。
【0042】
その他、ブレーキECU40は、油圧ブレーキ装置31により作動するブレーキホールド機能の異常の有無を診断する診断機能と、電動ブレーキ装置32により作動する電動パーキングブレーキ機能の異常の有無を診断する診断機能とを有している。
【0043】
ブレーキECU40は、ブレーキシステムのブレーキ作動状況を示すブレーキ作動情報をエンジンECU20に対して適宜送信する。ブレーキ作動情報には、運転者のブレーキペダルの踏み込み操作により制動力が生じているフットブレーキ状態に関する情報と、ブレーキホールド機能により制動力が生じているブレーキホールド状態に関する情報と、電動パーキングブレーキ機能により制動力が生じているパーキングブレーキ状態に関する情報が含まれている。
【0044】
そのうちブレーキホールド状態に関する情報として具体的には、ブレーキホールド状態であるか否かを示す情報や、ブレーキホールド機能の異常診断を示す診断情報が含まれている。また、パーキングブレーキ状態に関する情報として具体的には、パーキングブレーキ状態であるか否かを示す情報や、電動パーキングブレーキ機能が作動可能か否かを示す情報が含まれている。例えば、電動パーキングブレーキ機能が正常であり、かつ操作スイッチ42がオンされている場合に、電動パーキングブレーキ機能が作動可能である判定される構成であるとよい。
【0045】
本実施形態では、エンジン10が自動停止されている状況下において、ブレーキホールドを作動させることを可能としており、さらに、所定の切替条件の成立に伴いブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えを可能としている。
【0046】
エンジン10が自動停止されている状況下でブレーキホールド状態になっている場合には、車両を停止状態で維持する上で安全性の懸念が生じることに基づいて、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への自動切り替えが行われる。具体的には、ブレーキECU40は、以下に示す場合に、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えを実施する。
【0047】
ブレーキECU40は、車両から運転者が降車する、又は降車しようとしていると判定された場合に、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えを行う。なお、運転者の降車判定は、車両の運転席ドアが開放されたこと、運転席のシートベルトが非装着状態になったこと、運転席モニタカメラの映像から運転者の降車が確認されたこと等に基づいて行われるとよい。
【0048】
ブレーキECU40は、ブレーキホールドの作動が開始されてから所定時間(例えば数10秒~数分)が経過した場合に、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えを行う。ブレーキホールド状態が長引くと、油圧ブレーキ装置31での油圧の低下が生じることが懸念される。そのため、所定時間の経過に応じてブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えが行われるとよい。つまり、ブレーキホールド機能と電動パーキングブレーキ機能とを比べると、電動パーキングブレーキ機能の方が停車状態を維持する上での安全性が高いことが考えられる。そのため、停車時間が長引く場合には、電動パーキングブレーキ機能により停車状態が保持される。
【0049】
ブレーキECU40は、ブレーキホールド状態においてブレーキホールド機能に異常が生じたと判定された場合に、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えを行う。
【0050】
本実施形態では特に、エンジンECU20において、エンジン10の自動停止中に、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えが生じることを判定し、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えが生じる場合において、パーキングブレーキ状態になった後に再始動条件が成立するまでエンジン10の自動停止状態を継続することとしている。
【0051】
また、本実施形態では、ブレーキホールド状態とパーキングブレーキ状態とで互いに異なる再始動条件に基づいて、エンジン10を再始動させることとしている。すなわち、ブレーキホールド状態では、運転者のブレーキ操作及びアクセル操作のうちアクセル操作が行われたことを再始動条件としてエンジン10を再始動させる。また、パーキングブレーキ状態では、運転者のブレーキ操作及びアクセル操作のいずれかが行われたことを再始動条件としてエンジン10を再始動させる。
【0052】
図2は、アイドリングストップ制御の処理手順を示すフローチャートである。本フローチャートによる処理は、エンジンECU20により所定周期で実行される。
【0053】
ステップS11では、今現在、エンジン10が自動停止中であるか否かを判定する。ステップS11が肯定されるとステップS12に進み、ステップS11が否定されると本処理を終了する。
【0054】
ステップS12では、ブレーキECU40から、ブレーキシステムの作動状況を示すブレーキ作動情報を取得する。上述したとおりブレーキ作動情報には、ブレーキホールド状態であるか否かを示す情報や、ブレーキホールド機能の異常診断を示す診断情報、パーキングブレーキ状態であるか否かを示す情報、電動パーキングブレーキ機能が作動可能か否かを示す情報が含まれている。
【0055】
ステップS13では、ステップS12で取得したブレーキ作動情報に基づいて、パーキングブレーキ状態(EPB状態)であるか否かを判定する。また、ステップS14では、同じくブレーキ作動情報に基づいて、ブレーキホールド状態であるか否かを判定する。このとき、エンジン自動停止中のブレーキ状態は、フットブレーキ状態、ブレーキホールド状態及びパーキングブレーキ状態のいずれかである。そして、フットブレーキ状態であれば、ステップS13,S14を共に否定してステップS21に進み、ブレーキホールド状態であれば、ステップS13を否定し、かつステップS14を肯定してステップS31に進み、パーキングブレーキ状態であれば、ステップS13を肯定してステップS41に進む。
【0056】
なお、ステップS14によれば、エンジン10の自動停止中にフットブレーキ状態からブレーキホールド状態への切り替えが生じることが判定される。また、ステップS13によれば、エンジン10の自動停止中に、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えが生じることが判定される。
【0057】
ステップS21では、フットブレーキ状態でのエンジン再始動条件が成立したか否か、すなわち運転者のブレーキ踏み込み操作が解除されたか否かを判定する。そして、ステップS21で再始動条件が成立したと判定されると、ステップS22に進み、エンジン10の再始動を実施する。
【0058】
また、ステップS31では、ブレーキ作動情報に含まれるブレーキホールド診断情報に基づいて、ブレーキホールド機能が正常であるか否かを判定する。そして、ブレーキホールド機能が正常であれば、ステップS32に進む。
【0059】
ステップS32では、ブレーキホールド状態でのエンジン再始動条件が成立したか否か、すなわち運転者のアクセル踏み込み操作が行われたか否かを判定する。つまり、エンジン自動停止中においてブレーキホールド状態である場合には、運転者がブレーキペダルから足を離していても車両の停止状態が維持されており、運転者が車両を発進させようとする際には、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作が行われると考えられる。この場合、運転者に車両発進意思があればアクセル踏み込み操作が行われると考えられることから、運転者のアクセル踏み込み操作がエンジン10の再始動条件になっている。そして、ステップS32で再始動条件が成立したと判定されると、ステップS33に進み、エンジン10の再始動を実施する。
【0060】
なお、ブレーキホールド状態で運転者がブレーキ踏み込み操作を行った場合には、エンジン10の再始動は行われない。つまり、ブレーキホールド状態では、ブレーキ踏み込み操作が再始動条件に含まれていない。運転者のブレーキ踏み込み操作が行われた場合にはブレーキホールド状態が解除されることが考えられるが、ブレーキ踏み込み操作に伴いフットブレーキ状態への移行が行われるため、運転者による車両発進意思が生じていないとみなし、エンジン10を提示状態のままとすることとしている。
【0061】
また、ステップS31でブレーキホールド機能に異常が生じていると判定された場合には、ステップS34に進む。ステップS34では、ブレーキ作動情報に基づいて、電動パーキングブレーキ機能が作動可能であるか否かを判定する。そして、電動パーキングブレーキ機能が作動可能であれば、そのまま本処理を終了する。
【0062】
また、電動パーキングブレーキ機能が作動可能でなければ、ステップS35に進む。ステップS35では、現時点以降のエンジン10の再始動を禁止すること、すなわちエンジン10を停止状態のままとすることを決定する。続くステップS36では、運転者に対してブレーキペダルの踏み込み操作を行わせる旨の通知を行う。
【0063】
また、ステップS41では、ブレーキホールド状態下でブレーキホールド機能に異常が生じていたか否かを判定する。この判定は、ブレーキ作動情報に含まれるブレーキホールド診断情報に基づいて行われるとよい。そして、ブレーキホールド機能が正常であれば、ステップS42に進む。
【0064】
ステップS42では、パーキングブレーキ状態でのエンジン再始動条件が成立したか否か、すなわち運転者のブレーキ踏み込み操作と運転者のアクセル踏み込み操作とのいずれかが行われたか否かを判定する。つまり、エンジン自動停止中においてパーキングブレーキ状態である場合には、運転者が車両を発進させようとする際に、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作が行われると考えられる。また、パーキングブレーキ状態になっている場合には、比較的長い時間で車両が停止しており、その状況下ではアクセルペダル及びブレーキペダルがいずれも非操作のままとされるが、運転者に車両発進の意思が生じると、これらいずれかのペダルの踏み込み操作が行われると考えられる。この場合、運転者に車両発進意思に応じてブレーキ踏み込み操作又はアクセル踏み込み操作が行われると考えられることから、運転者のブレーキ踏み込み操作とアクセル踏み込み操作とがエンジン10の再始動条件になっている。そして、ステップS42で再始動条件が成立したと判定されると、ステップS43に進み、エンジン10の再始動を実施する。
【0065】
また、ステップS41でブレーキホールド機能に異常有りと判定された場合には、ステップS44で、次回以降のエンジン自動停止を禁止する旨を決定する。そしてその後、ステップS43に進み、エンジン10の再始動を実施する。ここで、エンジン10が自動停止され、かつブレーキホールド状態になっている場合において、ブレーキホールド機能に異常が生じると、パーキングブレーキ状態への切り替えが行われることに伴いステップS13が肯定される。この場合、パーキングブレーキ状態でのエンジン再始動条件の成否にかかわらず、直ちにエンジン再始動が行われる。また、ブレーキホールド機能が異常であることから、次回以降のエンジン自動停止が禁止される(ステップS44)。
【0066】
次に、上記のアイドリングストップ制御をより具体的に説明する。
図3及び
図4は、車両においてエンジン10の自動停止が行われるとともに、その後エンジン10の再始動が行われる際の各種挙動を示すタイムチャートであり、それら各図では、いずれもパーキングブレーキ状態への移行後にエンジン再始動が行われるものとするが、再始動条件が相違するものとなっている。
【0067】
図3では、タイミングt11以前において、運転者のブレーキ踏み込み操作により車両が減速し、車両が停止することで車速がゼロになる。そして、タイミングt11では、油圧ブレーキ装置31によるブレーキホールドが開始される。
【0068】
その後、タイミングt12では、自動停止条件が成立することに伴いエンジン10が自動停止される。また、タイミングt13では、ブレーキホールド状態であることが運転者により認識され、ブレーキ踏み込み操作が解除される。
【0069】
その後、タイミングt14では、パーキングブレーキ状態への切替条件が成立することに伴い、電動ブレーキ装置32による電動パーキングブレーキが開始される。例えば、ブレーキホールドが開始されてから所定時間が経過したことに基づいて電動パーキングブレーキが作動状態となる。また、電動パーキングブレーキの作動が開始された後、タイミングt15では、ブレーキホールドの作動が解除される。このとき、車両の制動状態がブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態に切り替えられるが、その切り替えの前後を通じてエンジン10の停止状態が維持される。
【0070】
その後、タイミングt16では、運転者によるアクセル踏み込み操作が行われることに基づいて、エンジン10が再始動される。つまり、アクセル踏み込み操作が運転者の車両発進意思を示すものであるとみなされ、エンジン10が再始動される。そして、エンジン10の始動完了後のタイミングt17で電動パーキングブレーキによる制動が解除され、車両が発進する。
【0071】
また、
図4において、タイミングt21~t25は、
図3のタイミングt11~t15と同じである。簡単に説明すれば、タイミングt21では、ブレーキホールドが開始され、タイミングt22では、エンジン10が自動停止され、タイミングt23では、運転者によるブレーキ踏み込み操作が解除され、タイミングt24では、電動パーキングブレーキが開始され、タイミングt25では、ブレーキホールドの作動が解除される。
【0072】
そしてその後、タイミングt26では、運転者によるブレーキ踏み込み操作が行われることに基づいて、エンジン10が再始動される。つまり、ブレーキ踏み込み操作が運転者の車両発進意思を示すものであるとみなされ、エンジン10が再始動される。そして、エンジン10の始動完了後のタイミングt27で運転者によるアクセル踏み込み操作が行われると、電動パーキングブレーキによる制動が解除され、車両が発進する。
【0073】
また、
図5は、エンジン10が自動停止され、かつブレーキホールドが作動している状態下においてブレーキホールド機能に異常が生じていると判定された場合の挙動を示すタイムチャートである。なお、
図5では、車両の停車状態において、電動パーキングブレーキが作動可能であるとしている。
【0074】
図5において、タイミングt31~t33は、
図3のタイミングt11~t13と同じである。簡単に説明すれば、タイミングt31では、ブレーキホールドが開始され、タイミングt32では、エンジン10が自動停止され、タイミングt33では、運転者によるブレーキ踏み込み操作が解除される。
【0075】
そしてその後、タイミングt34では、ブレーキホールド機能に異常が生じたと判定され、タイミングt35では、電動パーキングブレーキが開始される。このとき、パーキングブレーキ状態になったことに伴いエンジン10の再始動が行われる。
【0076】
なお、図示は省略するが、
図5のタイミングt34でブレーキホールド機能に異常が生じたと判定された場合において、仮に電動パーキングブレーキ機能が作動可能でなければ、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えが行われない。そのため、タイミングt34以降において、エンジン10の再始動が禁止される。つまり、エンジン10が停止状態のまま保持される。またこのとき、運転者に対してブレーキ踏み込み操作を促す通知が行われる。
【0077】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0078】
エンジン10の自動停止中に、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えが生じることを判定し、その切り替えが生じる場合において、パーキングブレーキ状態になった後に再始動条件が成立するまでの期間でエンジン10の自動停止状態を継続するようにした。ここで、エンジン自動停止中にブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えが行われる場合、それら各状態ではいずれも、運転者のブレーキ操作が解除されたまま車両に制動力が付与され、かつエンジン再始動に関する運転者の操作が何ら行われていない(すなわち運転者に車両発進意思のない)状況にあり、運転者が車両を現状維持することを意図していると考えられる。そのため、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えの前後においてエンジン10の自動停止状態を維持することで、運転者の意思を反映した状態とすることができる。これにより、エンジン10を不要に始動させることを抑制できる。その結果、ブレーキホールド機能と電動パーキングブレーキ機能とを有する車両において、エンジン10のアイドリングストップ制御を適正に実施することができる。
【0079】
ブレーキホールド状態は、運転者のブレーキ操作に引き続いて油圧により制動力が維持された状態であるのに対し、パーキングブレーキ状態は、運転者のブレーキ操作とは独立して作動するものであり、各々解除条件が異なり、運転者の操作(車両発進意思に応じた操作)も自ずと異なるものとなる。この点、上記のとおりブレーキホールド状態とパーキングブレーキ状態とで再始動条件を互いに異ならせたため、運転者の意思に応じた再始動制御を実施することができる。
【0080】
ブレーキホールド状態下でブレーキホールド機能に異常が生じた場合において、パーキングブレーキ状態になったことに伴いエンジン10を再始動させるようにした。これにより、ブレーキホールド異常の状態において、電動パーキングブレーキにより車両を停止状態としつつ、エンジン10を通常運転状態にして車両移動などの対応を運転者の意思に応じて好適に行わせることができる。この場合、エンジン10を運転状態に復帰させておくことで、エンジン始動のための別途の操作が不要となり、異常発生時の運転者の負担軽減を図ることができる。
【0081】
本実施形態のブレーキシステムでは、2系統のブレーキ機能を有しているため、一方のブレーキホールド機能で異常が生じても、他方の電動パーキングブレーキ機能を用いた制動を行わせることができ、ブレーキシステムの異常時におけるフェイルセーフ処理としてエンジン再始動を行わせることが可能となっている。
【0082】
ブレーキホールド機能の異常発生時に、電動パーキングブレーキ機能が正常に作動する状態でなければ、エンジン10を再始動させないようにした。これにより、ブレーキホールド機能と電動パーキングブレーキ機能との両方が正常作動しない場合に車両の発進を禁止し、安全性を確保することができる。
【0083】
(第2実施形態)
本実施形態では、上記第1実施形態との相違点として、ブレーキホールド状態下でブレーキホールド機能に異常が生じていると判定された場合において、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替え後に、運転者のブレーキ操作に応じてエンジン10を再始動させるものとなっている。
【0084】
図6に、本実施形態におけるアイドリングストップ制御の処理手順を示すフローチャートであり、本処理は上述した
図2の処理に置き換えて実施される。なお、
図6では、
図2と同じ処理については同じステップ番号を付すとともに、その説明を省略する。
【0085】
図6では、パーキングブレーキ状態である場合の処理として、ステップS51,S52の処理を追加している。
【0086】
つまり、ステップS13においてパーキングブレーキ状態であると判定され、かつステップS41でブレーキホールド機能に異常有りと判定された場合には、ステップS44に進み、次回以降のエンジン自動停止を禁止する旨を決定する。また、続くステップS51では、運転者にブレーキペダルの踏み込み操作を行わせる旨の通知を実施する。具体的には、例えばメータパネルにブレーキペダル踏み込みを促すメッセージを表示したり、音声でブレーキペダル踏み込みを促すメッセージを通知したりするとよい。
【0087】
その後、ステップS52では、運転者のブレーキ踏み込み操作が行われたか否かを判定する。そして、ステップS52でブレーキ踏み込み操作が行われたと判定されると、ステップS43に進み、エンジン10の再始動を実施する。
【0088】
上記構成によれば、ブレーキホールド異常の状態において、運転者の意思に応じてエンジン10を再始動させることができる。また、運転者のブレーキ操作を条件にエンジン再始動が行われるため、意図しない車両の発進を抑制できる。
【0089】
(他の実施形態)
上記実施形態を例えば次のように変更してもよい。
【0090】
・ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えが生じる場合において、パーキングブレーキ状態になった後に再始動条件が成立したことに伴いエンジン10を再始動させる処理と、パーキングブレーキ状態になったことに伴いエンジン10を再始動させる処理とを、エンジン自動停止に伴い停止中の車両の状態を示す車両情報に基づいて選択的に実施するようにしてもよい。その具体的な処理を
図7に示す。なお、
図7では、
図2と同じ処理については同じステップ番号を付すとともに、その説明を省略する。
【0091】
図7において、ステップS13でパーキングブレーキ状態であると判定され、かつステップS41でブレーキホールド機能が正常であると判定された場合に、ステップS61に進む。ステップS61では、車両停止状態での車両情報を取得する。このとき、車両情報は、例えば車両の残存燃料量(タンク内燃料量)や、車載バッテリの蓄電状態(バッテリSOC)、車両停止位置での路面傾斜による車両の傾斜状態の少なくともいずれかであるとよい。
【0092】
その後、ステップS62では、車両情報に基づいて、ブレーキホールド状態になった後に直ぐにエンジン10を再始動させるか否かを判定する。そして、ステップS62が肯定されると、ステップS43に進み、エンジン10の再始動を実施する。また、ステップS62が否定されると、ステップS42に進む。ステップS42,S43では、パーキングブレーキ状態でのエンジン再始動条件が成立することを条件に、エンジン10の再始動を実施する。
【0093】
ステップS62の判定について具体的には以下のような構成であるとよい。タンク内燃料量が所定量未満であれば、ステップS62を肯定し、タンク内燃料量が所定量以上であれば、ステップS62を否定するとよい。また、バッテリSOCが所定値未満であれば、ステップS62を肯定し、バッテリSOCが所定値以上であれば、ステップS62を否定するとよい。車両が坂路で停止しており車両の姿勢が傾いていれば、ステップS62を肯定し、車両の姿勢が傾いていなければ、ステップS62を否定するとよい。
【0094】
エンジン自動停止に伴う停止中の車両の状態によっては、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態に切り替えられた場合において、いち早くエンジン10を再始動させるとよいか、運転者の車両発進意思に合わせてエンジン10を再始動させるとよいかが異なることが考えられる。この点、上記構成によれば、都度の車両状態に応じて適正な処理を実施することができる。
【0095】
・ブレーキホールド状態下でブレーキホールド機能に異常が生じていると判定された場合において、パーキングブレーキ状態になったことに伴いエンジン10を再始動させる処理と、パーキングブレーキ状態になった後に、運転者のブレーキ操作が行われたことに伴いエンジン10を再始動させる処理とを、エンジン自動停止に伴い停止中の車両の状態を示す車両情報に基づいて選択的に実施するようにしてもよい。その具体的な処理を
図8に示す。なお、
図8では、
図2と同じ処理については同じステップ番号を付すとともに、その説明を省略する。
【0096】
図8において、ステップS13でパーキングブレーキ状態であると判定され、かつステップS41でブレーキホールド機能に異常有りと判定された場合に、ステップS71に進む。ステップS71では、車両停止状態での車両情報を取得する。その後、ステップS72では、車両情報に基づいて、ブレーキホールド状態になった後に直ぐにエンジン10を再始動させるか否かを判定する。そして、ステップS72が肯定されると、ステップS43に進み、エンジン10の再始動を実施する。また、ステップS72が否定されると、ステップS51に進む。ステップS51,S52では、運転者にブレーキペダルの踏み込み操作を行わせる旨の通知を実施し、運転者のブレーキ踏み込み操作が行われたか否かを判定する。そして、ブレーキ踏み込み操作が行われたと判定されると、ステップS43に進み、エンジン10の再始動を実施する。なお、ステップS71,S72の処理は、
図7のステップS61,S62と同じでよく、ここでは説明を省略する。
【0097】
エンジン自動停止に伴う停止中の車両の状態によっては、ブレーキホールド異常に伴いパーキングブレーキ状態に切り替えられた場合において、いち早くエンジン10を再始動させるとよいか、運転者の車両発進意思に合わせてエンジン10を再始動させるとよいかが異なることが考えられる。この点、上記構成によれば、都度の車両状態に応じて適正な処理を実施することができる。
【0098】
・上記実施形態では、ブレーキシステムとして、油圧ブレーキ装置31と電動ブレーキ装置32とを備える構成とし、油圧ブレーキ装置31によりブレーキホールド機能を実現するとともに、電動ブレーキ装置32により電動パーキングブレーキ機能を実現する構成としたが、これを変更してもよい。例えば、ブレーキシステムとして、2系統の電動ブレーキ装置を設けておき、一方の電動ブレーキ系統でフットブレーキとブレーキホールドとを実現するとともに、他方の電動ブレー系統で電動パーキングブレーキを実現する構成とする。この場合、フットブレーキ及びブレーキホールドを実施する系統では通電に伴い作動状態となる通電作動とし、電動パーキングブレーキを実施する系統では非通電で作動状態になる非通電作動とするとよい。
【0099】
かかる構成であっても、エンジン10が自動停止されている状況下において、ブレーキホールド及び電動パーキングブレーキを作動させることを可能とし、さらに、所定の切替条件の成立に伴いブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えを行うこととする。そして、ブレーキホールド状態からパーキングブレーキ状態への切り替えが生じる場合において、パーキングブレーキ状態になった後に再始動条件が成立するまでエンジン10の自動停止状態を継続するようにするとよい。
【0100】
・上記実施形態では、ブレーキホールド状態とパーキングブレーキ状態とで互いに異なる再始動条件に基づいて、エンジン10を再始動させる構成としたが、これを変更し、それら各状態において再始動条件を同じにすることも可能である。
【符号の説明】
【0101】
20…エンジンECU(エンジン制御装置)。