(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】インクジェット方法および記録物
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20240326BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240326BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240326BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/01 127
B41J2/01 501
B41M5/00 112
B41M5/00 120
C09D11/322
(21)【出願番号】P 2020091102
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 千草
【審査官】高草木 綾音
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/150644(WO,A1)
【文献】特開2015-151430(JP,A)
【文献】特開2012-255072(JP,A)
【文献】特開2013-001903(JP,A)
【文献】国際公開第2015/060397(WO,A1)
【文献】特開2016-069415(JP,A)
【文献】特開2008-208266(JP,A)
【文献】特開2006-063253(JP,A)
【文献】特開2010-095583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線硬化型のインクジェット組成物をインクジェットヘッドから記録媒体に吐出する吐出工程と、
吐出された前記インクジェット組成物に放射線を照射して、前記インクジェット組成物の硬化塗膜を得る硬化工程と、を備え、
前記インクジェット組成物は、重合性化合物と、光重合開始剤と、C.I.ピグメントレッド57:1と、を含み、
前記C.I.ピグメントレッド57:1の含有量は、前記インクジェット組成物の総量に
対して
4.1質量%以上であり、
前記硬化塗膜の最大膜厚は5μm以下であるインクジェット方法。
【請求項2】
前記C.I.ピグメントレッド57:1の含有量は、前記インクジェット組成物の総量に対して8.0質量%以下である、請求項1に記載のインクジェット方法。
【請求項3】
前記重合性化合物は、下記式(1)で表されるビニル基含有(メタ)アクリレートを含む、請求項1または請求項2に記載のインクジェット方法。
H
2C=CR
1-CO-OR
2-O-CH=CH-R
3 ・・・(1)
(式中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2は炭素数2から20の2価の有機残基
であり、R
3は水素原子または炭素数1から11の1価の有機残基である。)
【請求項4】
前記重合性化合物は、芳香環構造、脂環構造、および環状エーテル構造のうちのいずれかを有する単官能(メタ)アクリレートを1種以上含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット方法。
【請求項5】
前記光重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット方法。
【請求項6】
前記硬化工程における酸素濃度は、15vol%以下である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット方法。
【請求項7】
前記記録媒体は、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリオレフィンフィルム、およびナイロンフィルムのうちのいずれかである、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット方法。
【請求項8】
前記記録媒体は、ロール状の記録媒体であり、
前記記録媒体の厚さは、70μm以下である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のインクジェット方法。
【請求項9】
前記重合性化合物は、tertブチルシクロヘキサノールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、または、2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-
イル)メチルアクリレートのいずれかを含む、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のインクジェット方法。
【請求項10】
記録媒体と、前記記録媒体上に形成された、放射線硬化型のインクジェット組成物の硬化塗膜と、を有し、前記硬化塗膜は、C.I.ピグメントレッド57:1を前記硬化塗膜の総量に対して4.1質量%以上含み、
前記硬化塗膜の最大膜厚は5μm以下である記録物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方法および記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線硬化型インクジェット組成物を用いて印刷を行うインクジェット方法が知られていた。このようなインクジェット方法は、非硬化型のインクジェット組成物を用いる方法と比べて、適用可能な記録媒体の種類が多いことが特長のひとつである。例えば、特許文献1には、段ボール基材を記録媒体とするインクジェット記録方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のインクジェット記録方法では、軟包装用の記録媒体に適用すると発色性を確保することが難いという課題があった。詳しくは、軟包装用途の印刷では、ロール状の記録媒体に印刷を施した後に記録物を巻き取る操作を行う。その際に、記録物に形成されたインクの塗膜が厚いと、印刷後に巻き取るロールに巻き太りという現象が生じ、インクの塗膜の膜厚の分だけ厚みが増し、巻き取り効率が悪くなる。したがって、軟包装用途においては塗膜を薄くする必要がある。
【0005】
上記インクジェット記録方法のマゼンタインクには、C.I.(Colour Index Generic Name)ピグメントレッド122やC.I.ピグメントレッド48:4が含まれる。これらの色材では、塗膜を薄くすると十分な発色性が得られないおそれがあった。すなわち、インクの塗膜を薄膜化しても発色性を向上させるインクジェット方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
インクジェット方法は、放射線硬化型のインクジェット組成物をインクジェットヘッドから記録媒体に吐出する吐出工程と、吐出された前記インクジェット組成物に放射線を照射して、前記インクジェット組成物の硬化塗膜を得る硬化工程と、を備え、前記インクジェット組成物は、重合性化合物と、光重合開始剤と、C.I.ピグメントレッド57:1と、を含み、前記C.I.ピグメントレッド57:1の含有量は、前記インクジェット組成物の総量に対して4.0質量%以上であり、前記硬化塗膜の最大膜厚は5μm以下である。
【0007】
記録物は、記録媒体と、前記記録媒体上に形成された、放射線硬化型のインクジェット組成物の硬化塗膜と、を有し、前記硬化塗膜は、C.I.ピグメントレッド57:1を前記硬化塗膜の総量に対して4.0質量%以上含み、前記硬化塗膜の最大膜厚は5μm以下である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態
1.放射線硬化型のインクジェット組成物
本実施形態に係る放射線硬化型のインクジェット組成物は、後述するインクジェット法に適用される。放射線硬化型のインクジェット組成物は、放射線を照射されることにより硬化して硬化塗膜を形成する。放射線としては、紫外線、電子線、赤外線、可視光線、エックス線などが挙げられる。これらの中でも、放射線のピーク波長に対して良好な硬化性を有する材料や、放射線源を入手し易いことから、放射線として紫外線を用いることが好ましい。
【0009】
本実施形態の放射線硬化型のインクジェット組成物は、重合性化合物と、光重合開始剤と、C.I.ピグメントレッド57:1と、を含む。以降の説明において、本実施形態の放射線硬化型のインクジェット組成物を、単にインクということもある。まず、インクに含まれる各種成分について説明する。
【0010】
1.1.重合性化合物
本実施形態のインクは、重合性化合物として、下記式(1)で表されるビニル基含有(メタ)アクリレートと、芳香環構造、脂環構造、および環状エーテル構造のうちのいずれかを有する単官能(メタ)アクリレートの1種以上と、を含むのが好ましい。これらの重合性化合物は、重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を有する。重合性官能基は、後述する硬化工程における硬化性の観点からアクリロイル基であることが好ましい。
H2C=CR1-CO-OR2-O-CH=CH-R3 ・・・(1)
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数2から20の2価の有機残基であり、R3は水素原子または炭素数1から11の1価の有機残基である。)
【0011】
ここで、式(1)で表されるビニル基含有(メタ)アクリレートを、単に式(1)のビニル基含有(メタ)アクリレートともいう。芳香環構造、脂環構造、および環状エーテル構造のうちのいずれかを有する単官能(メタ)アクリレートを、単に環構造を有する単官能(メタ)アクリレートともいう。
【0012】
また、本明細書において、(メタ)アクリロイルは、アクリロイルおよびそれに対応するメタクリロイルのうちの少なくともいずれかを指し、(メタ)アクリレートは、アクリレートおよびそれに対応するメタクリレートのうちの少なくともいずれかを指し、(メタ)アクリルは、アクリルおよびそれに対応するメタクリルのうちの少なくともいずれかを指す。
【0013】
1.1.1.式(1)のビニル基含有(メタ)アクリレート
式(1)において、R2で表される炭素数2から20の2価の有機残基としては、炭素数2から20の直鎖状、分枝状または環状の、置換されていてもよいアルキレン基、構造中にエーテル結合、エステル結合を少なくとも1種有する、置換されていてもよい炭素数2から20のアルキレン基、炭素数6から11の、置換されていてもよい2価の芳香族基が挙げられる。
【0014】
これらの中でも、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、およびブチレン基などの炭素数2から6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn-プロピレン基、オキシイソプロピレン基、およびオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2から9のアルキレン基が好ましい。さらに、インクの低粘度化、およびインクの硬化性向上の観点から、R2が、オキシエチレン基、オキシn-プロピレン基、オキシイソプロピレン基、およびオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2から9のアルキレン基である、グリコールエーテル鎖を有するものがより好ましい。
【0015】
式(1)において、R3で表される炭素数1から11の1価の有機残基としては、炭素数1から10の直鎖状、分枝状または環状の、置換されていてもよいアルキル基、炭素数6から11の、置換されていてもよい芳香族基が挙げられる。これらの中でも、メチル基またはエチル基である炭素数1から2のアルキル基、フェニル基およびベンジル基などの炭素数6から8の芳香族基が好ましい。
【0016】
上記の各有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基および炭素原子を含まない基に分けられる。上記置換基が炭素原子を含む基である場合、該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基としては、特に限定されないが、例えばカルボキシ基、アルコキシ基が挙げられる。炭素原子を含まない基としては、特に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0017】
式(1)のビニル基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、特に限定されないが、例えば(メタ)アクリル酸2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1-ジメチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6-ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、および(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。これらの具体例のうち、インクにおける硬化性および粘度のバランスのとり易さから、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルが特に好ましい。
【0018】
式(1)のビニル基含有(メタ)アクリレートは、比較的に硬化性が良好であるため、硬化工程において、インクの硬化性を向上させることができる。また、インクの粘度を比較的に低くすることができる。
【0019】
インクにおける式(1)のビニル基含有(メタ)アクリレートの含有量は、インクの総量に対して、好ましくは5.0質量%以上70.0質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上40質量%以下であり、さらにより好ましくは10質量%以上30質量%以下である。これによれば、インクが低粘度化されて、インクジェットヘッドからのインクの吐出安定性が向上する。
【0020】
インクにおける式(1)のビニル基含有(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは7質量%以上87質量%以下であり、より好ましくは12質量%以上50質量%以下であり、さらにより好ましくは12質量%以上37質量%以下である。これによれば、インクが低粘度化されて、インクジェットヘッドからのインクの吐出安定性が向上する。
【0021】
1.1.2.環構造を有する単官能(メタ)アクリレート
環構造のうち芳香環構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えばフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アルコキシ化2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、アルコキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、p-クミルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、および2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0022】
これらの中でも、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、フェノキシエチルアクリレート(PEA)がさらにより好ましい。これによれば、芳香環構造を含む光重合開始剤のインクに対する溶解性が向上し、インク塗膜の硬化性が向上する。
【0023】
環構造のうち脂環構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えばイソボルニル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリル酸-1,4-ジオキサスピロ[4,5]デシ-2-イルメチル、ジシクロペンタニルアクリレートなどが挙げられる。
【0024】
これらの中でも、インクの硬化性および硬化塗膜の耐擦過性の観点から、イソボルニルアクリレート(IBXA)、4-tert-ブチルシクロヘキシルアクリレート(tertブチルシクロヘキサノールアクリレート)(TBCHA)が好ましい。
【0025】
環構造のうち環状エーテル構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(CTFA)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートジシクロペンタニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0026】
これらの環構造を有する単官能(メタ)アクリレートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これによれば、上記の環構造を有する単官能(メタ)アクリレートは、比較的に粘度が低いためインクの粘度を低くすることができる。また、記録媒体に対する接触角が比較的に小さいため、吐出工程においてインクが記録媒体に対して濡れ広がり易くなる。これにより、インクの硬化塗膜を容易に薄膜化することができる。
【0027】
インクにおける環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量は、インクの総量に対して、好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは15質量%以上70質量%以下であり、さらにより好ましくは20質量%以上60質量%以下である。
【0028】
インクにおける、環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは12質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは18質量%以上88質量%以下であり、さらにより好ましくは25質量%以上75質量%以下である。
【0029】
1.1.3.その他の重合性化合物
インクは、上記以外のその他の重合性化合物を含んでもよい。その他の重合性化合物が有する重合性官能基としては、放射線によって重合反応が可能であれば特に限定されず、公知の重合性官能基が採用可能である。特に、重合性官能基としては、硬化性の観点から、好ましくは炭素間に不飽和二重結合を有する重合性官能基であり、より好ましくはメタクリロイル基であり、さらにより好ましくはアクリロイル基である。その他の重合性化合物には単官能モノマーまたは多官能モノマーを用いる。
【0030】
1.1.3.1.単官能モノマー
単官能モノマーとしては、特に限定されないが、例えばイソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの直鎖または分岐鎖を有する脂肪属基含有(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルフォルムアミド、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルアセトアミドおよびN-ビニルピロリドンなどの窒素含有単官能ビニルモノマー、アクリロイルモルフォリンなどの窒素含有単官能アクリレートモノマー、(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩などの(メタ)アクリルアミドなどの窒素含有単官能アクリルアミドモノマーが挙げられる。
【0031】
上記以外の単官能モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、およびマレイン酸などの不飽和カルボン酸、該不飽和カルボン酸の塩、不飽和カルボン酸のエステル、ウレタン、アミドおよび無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタンが挙げられる。
【0032】
1.1.3.2.多官能モノマー
多官能モノマーとしては、特に限定されないが、例えばジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジメタアクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、およびカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの3官能以上の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0033】
1.2.光重合開始剤
光重合開始剤は、放射線の照射によって活性種を生じ、該活性種によって重合性化合物の重合反応を進行させる機能を有する。光重合開始剤から生じる活性種は、具体的には、ラジカル、酸、および塩基などである。なお、上述した(メタ)アクリレート系の重合性化合物を用いる場合には、活性種としてラジカルを発生させる光重合開始剤を用いることが好ましい。
【0034】
光重合開始剤としては、上記機能を有していれば特に限定されないが、例えばアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、アルキルフェノン系光重合開始剤、チタノセン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤などの公知の光重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、ラジカルを生じさせるアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤が好ましい。これによれば、インクの硬化性、特にUV-LED(紫外線発光ダイオード)の光による硬化プロセスにおける硬化性が向上する。光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0036】
このようなアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤として市販品を適用してもよい。上記市販品としては、例えば、IGM RESINS B.V.社のOmnirad(登録商標) 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)、Omnirad 1800(ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドと、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトンとの質量比25:75の混合物)、Omnirad TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)、Lambson Group Ltd.社のSpeedcure(登録商標) TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)などが挙げられる。
【0037】
インクに含まれる光重合開始剤の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは3質量%以上12質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上10質量%以下であり、さらにより好ましくは7質量%以上9質量%以下である。これによれば、インクの硬化性が向上すると共に、光重合開始剤の溶解性が確保される。
【0038】
1.3.色材
色材は、インクから形成される硬化塗膜を着色する機能を有する。インクの硬化塗膜が着色されることにより、記録媒体の着色や、記録媒体上へのカラー画像などの形成が可能となる。本実施形態のインクは、色材としてマゼンタ顔料であるC.I.ピグメントレッド57:1を含むマゼンタインクである。
【0039】
C.I.ピグメントレッド57:1は、C.I.ピグメントレッド 122,48:4などの他のマゼンタ顔料と比べて発色性に優れ、特に、明度を表すL値が50以下の高濃度の赤色を表現する場合に色再現域を拡大させる。そのため、インクの硬化塗膜を薄膜化しても、従来と比べて発色性および色再現性が向上する。これにより、サイン用途よりも観察距離が近くなる場面が多い軟包装用途においても、広い色再現域を確保することができる。
【0040】
インクに含まれるC.I.ピグメントレッド57:1の含有量は、インクの総量に対して、4.0質量%以上である。これによれば、インクの硬化塗膜を薄膜化しても、硬化塗膜における発色性を向上させることができる。好ましいC.I.ピグメントレッド57:1の含有量は、4.0質量%以上8.0質量%以下である。これによれば、硬化塗膜の発色性向上の効果に加えて、色材による放射線の吸収が低減され、インクの硬化工程における重合性化合物の光重合反応が促進される。そのためインクの硬化性を向上させることができる。また、インクの粘度の過剰な増大を抑えることができる。
【0041】
C.I.ピグメントレッド57:1の平均粒子径は、300nm以下が好ましく、50nm以上200nm以下であることがより好ましい。これによれば、インクの吐出安定性や分散安定性、および記録媒体上に形成される硬化塗膜から成る画像の画質を向上させることができる。なお、ここでいう平均粒子径とは、動的光散乱法により測定された体積基準粒度分布(50%)を指す。
【0042】
1.4.添加剤
インクは、必要に応じて、分散剤、重合禁止剤、スリップ剤、および光増感剤などの添加剤を含んでもよい。
【0043】
1.4.1.分散剤
分散剤は、顔料に対してインク中における分散性を付与する。分散剤を用いることによって、顔料がインク中に安定的に分散され、インクにおける保管時の耐沈降性やインクジェットヘッドからの吐出安定性などが向上する。
【0044】
分散剤としては、特に限定されないが、例えば高分子分散剤などの、顔料分散液の調製に慣用される公知の分散剤が挙げられる。該分散剤の具体例としては、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマーおよびコポリマー、アクリル系ポリマーおよびコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、およびエポキシ樹脂のうち1種以上を主成分とするものが挙げられる。分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
高分子分散剤としては、市販品を用いてもよく、例えば、味の素ファインテクノ社のアジスパー(登録商標)シリーズ、Lubrizol社のSolsperse36000などのソルスパース(登録商標)シリーズ、BYK Additives&Instruments社のディスパービックシリーズ、楠本化成社のディスパロン(登録商標)シリーズなどが挙げられる。
【0046】
インクに含まれる分散剤の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは0.05質量%以上1.00質量%以下であり、より好ましくは0.10質量%以上0.50質量%以下である。これによれば、インクの保存安定性や吐出安定性がより向上する。
【0047】
1.4.2.重合禁止剤
重合禁止剤は、保管時などにおける重合性化合物の意図しない重合反応の進行を抑えて、インクの保存安定性を向上させる。重合禁止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
重合禁止剤としては、特に限定されないが、例えば4-メトキシフェノール(MEHQ)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、ヒドロキノン、クレゾール、t-ブチルカテコール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-ブチルフェノール)、および4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ヒンダードアミン化合物などが挙げられる。
【0049】
重合禁止剤を添加する場合、インクに含まれる重合禁止剤の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは0.05質量%以上1.00質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上0.50質量%以下である。
【0050】
1.4.3.スリップ剤
スリップ剤は、インクの硬化塗膜の耐擦過性を向上させる。スリップ剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
スリップ剤としては、シリコーン系界面活性剤が好ましく、ポリエステル変性シリコーンまたはポリエーテル変性シリコーンであることがより好ましい。これらのスリップ剤としては、市販品が採用可能であり、例えば、BYK Additives&Instruments社の、BYK(登録商標)-347、-348、BYK-UV3500、-3510、-3530などのポリエステル変性シリコーン、BYK-3570などのポリエーテル変性シリコーンが挙げられる。
【0052】
スリップ剤を添加する場合、インクに含まれるスリップ剤の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは0.01質量%以上2.00質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上1.00質量%以下である。
【0053】
1.4.4.光増感剤
光増感剤は、放射線を吸収して励起状態となり、光重合開始剤からの活性種の発生を促進する。光増感剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
光増感剤としては、脂肪族アミン、芳香族基を含むアミン、ピペリジン、エポキシ樹脂とアミンの反応生成物、およびトリエタノールアミントリアクリレートなどのアミン化合物、アリルチオ尿素、o-トリルチオ尿素などの尿素化合物、ナトリウムジエチルジチオフォスフェート、芳香族スルフィン酸の可溶性塩などのイオウ化合物、N,N-ジエチル-p-アミノベンゾニトリルなどのニトリル系化合物、トリ-n-ブチルフォスフィン、ナトリウムジエチルジチオフォスファイドなどのリン化合物、ミヒラーケトン、N-ニトリソヒドロキシルアミン誘導体、オキサゾリジン化合物、テトラヒドロ-1,3-オキサジン化合物、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドとジアミンの縮合物などの窒素化合物、四塩化炭素、ヘキサクロロエタンなどの塩素化合物などが挙げられる。なお、上述したチオキサントン系光重合開始剤を光増感剤として用いてもよい。このような光増感剤としては、例えば2,4-ジエチルチオキサントンなどが挙げられる。
【0055】
光増感剤を添加する場合、インクに含まれる光増感剤の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは0.5質量%以上3.0質量%以下である。
【0056】
2.インクの調製方法
インクの調製では、上述した各種成分を混合し、各種成分が均一に混合されるよう十分に撹拌する。本実施形態では、調製過程において、光重合開始剤と重合性化合物の少なくとも一部とを混合した混合物に対して、超音波処理および加温処理の少なくとも何れかを施すのが好ましい。これにより、調製されたインクの溶存酸素が低減されて、吐出安定性や保存安定性が向上する。
【0057】
3.インクの物性
インクの20℃における粘度は、10mPa・s(ミリパスカル秒)以上30mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは10mPa・s以上25mPa・s以下であり、さらにより好ましくは10mPa・s以上20mPa・s以下である。これによれば、インクジェットヘッドからインクが適量吐出され、インク液滴の飛行曲がりや飛散を抑えることができる。なお、インクの粘度は、Pysica社の粘弾性試験機MCR-300を用いて、20℃の環境下で、Shear Rateを10から1000に上げていき、Shear Rateが200の時の粘度を読み取ることにより測定される。
【0058】
インクの20℃における表面張力は、好ましくは20mN/m以上40mN/m以下である。これによれば、撥液処理されたインクジェットヘッドのノズル面に対して、インクが濡れ難くなる。そのため、インクジェットヘッドからインクが正常かつ適量吐出されて、インク液滴の飛行曲がりや飛散を抑えることができる。なお、インクの表面張力は、協和界面科学社の自動表面張力計CBVP-Zを用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定される。
【0059】
4.インクジェット装置
本実施形態のインクジェット法に用いるインクジェット装置について説明する。インクジェット装置としては、インクジェットプリンターなどの公知の装置が適用可能であり、具体的には、オンキャリッジ型またはオフキャリッジ型のシリアルプリンター、およびラインヘッドプリンターが挙げられる。
【0060】
インクジェット装置はインクジェットヘッドを備える。インクジェットヘッドは、インクの液滴を吐出して記録媒体などに付着させる。そのため、インクジェットヘッドは駆動手段であるアクチュエーターを有する。アクチュエーターとしては、圧電体の変形を利用する圧電素子、静電吸着による振動板の変位を利用する電気機械変換素子、および加熱によって生じる気泡を利用する電気熱変換素子などが挙げられる。本実施形態では、圧電素子を備えたインクジェットヘッドを有するインクジェット装置を適用する。
【0061】
インクジェット装置は、記録媒体に付着されたインクを硬化させる光源装置を備える。光源装置は、放射線照射装置であり、例えばUV-LED(紫外線発光ダイオード)などの発光素子を含む。光源装置から照射される放射線は、紫外線に限定されず、赤外線、電子線、可視光線、エックス線などであってもよい。また、光源装置には、LED(発光ダイオード)やLD(半導体レーザー)などの発光素子に代えてランプなどを用いてもよい。なお、光源装置は、インクジェット装置に備わることに限定されず、インクジェット装置とは別体であってもよい。
【0062】
記録媒体に付着されたインクの液滴に対して、光源装置から放射線が照射されることにより、インク中の重合性化合物の光重合反応が進行し、インクの液滴が硬化してインクの硬化塗膜が形成される。
【0063】
本実施形態のインクを後述する軟包装用途に用いる場合には、ロール状の記録媒体を保持してインクジェット装置に供給する装置と、インクの硬化塗膜が形成された該記録媒体をロール状に巻き取る装置とを備えることが好ましい。これらの装置としては、公知のものが適用可能である。
【0064】
5.記録媒体
本実施形態のインクは、硬化塗膜を薄膜化しても発色性が良好で印刷後の巻き太りの発生が防止されることから、軟包装用途に好適である。軟包装用の記録媒体としては、軟包装フィルムを用いる。軟包装フィルムとは、比較的に薄く、柔軟性に富んだフィルム材料であり、食品包装およびトイレタリーや化粧品の包装などに用いられる。軟包装フィルムの厚さは、70μm以下であるものが好ましく、50μm以下であるものがより好ましく、30μm以下であるものがさらに好ましい。これによれば、硬化塗膜の膜厚を薄くすることによる、記録物の巻き取り効率の向上が顕著となる。
【0065】
軟包装フィルムの構成する形成材料としては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロンおよびアラミドなどのポリアミド系樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、およびポリアセタール系樹脂などが挙げられる。これらの形成材料の中でも、汎用性や入手の容易さの観点から、軟包装フィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリオレフィンフィルム、およびナイロンフィルムのうちのいずれかを用いることが好ましい。
【0066】
軟包装フィルムには、上記の形成材料を未延伸フィルムまたは1軸方向または2軸方向に延伸した延伸フィルムとして用いる。これらのうち2軸方向に延伸された延伸フィルムが好ましい。また、記録媒体には、上記の形成材料を単票状に成形し、シートとしたものを用いてもよい。さらには、上述のフィルムまたはシートを貼り合わせて積層して用いてもよい。
【0067】
上述した形成材料から成る軟包装フィルムなどの基材には、防曇性や帯電防止性を基材に付与する材料、および酸化防止剤などが含まれてもよい。防曇性や帯電防止性を基材に付与する材料としては、アニオン系、ノニオン系、およびカチオン系の界面活性剤、ビニル系樹脂やアクリル系樹脂などが挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系、チオエーテル系、およびリン酸エステル系などが挙げられる。
【0068】
本実施形態のインクは、軟包装用途以外の記録媒体に適用されてもよく、上述した形成材料の他にガラス、紙、金属、木材を形成材料とするものであってもよい。また、記録媒体は、これらの形成材料を含む基材の表面に処理が施されたものであってもよい。さらに、記録媒体の形態は、フィルムおよびシート状に限定されず、ボードや布帛であってもよい。
【0069】
6.インクジェット法
本実施形態に係るインクジェット法は、上述したインクをインクジェットヘッドから記録媒体に吐出する吐出工程と、吐出されたインクに放射線を照射して、インクの硬化塗膜を得る硬化工程と、を備える。以下、本実施形態のインクジェット方法が備える各工程について説明する。なお、本実施形態のインクジェット法では、インクをインクセットとして用いてもよい。
【0070】
6.1.吐出工程
吐出工程では、インクをインクジェット装置のインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる。詳しくは、圧電素子を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填されたインクを吐出ノズルから吐出させる。このとき、後工程である硬化工程で形成されるインクの硬化塗膜の厚さが、5μm以下となるようにインクを記録媒体に付着させる。これにより、記録媒体の表面にインクの液層が形成される。
【0071】
6.2.硬化工程
硬化工程では、記録媒体に形成されたインクの液層からインクの硬化塗膜を形成する。詳しくは、記録媒体の所定位置に対して、光源装置から放射線を記録媒体に向けて照射する。記録媒体に対する上記放射線の照射領域は、インクが付着された領域が含まれていればよい。放射線の照射によって、記録媒体上のインクの液層においてインク中の重合性化合物の光重合反応が進行し、インクが硬化して硬化塗膜と成る。
【0072】
硬化工程における雰囲気の酸素濃度は、15vol%以下とするのが好ましく、10vol%以下とするのがより好ましく、5vol%以下とするのがさらに好ましい。これによれば、酸素によるインクの光重合反応の阻害が抑えられ、インクの硬化性を向上させることができる。詳しくは、ラジカル重合反応では、光重合開始剤から生じたラジカルと(メタ)アクリレートなどが有するラジカル重合性の二重結合とにより重合反応が進行する。これに対し、酸素はラジカルとの反応性が上記二重結合よりも高いため、反応系における酸素濃度が高いとラジカルが酸素との反応に消費される。酸素とラジカルとの反応で生じる別種のラジカルは、上記二重結合との反応性が低いため、結果として酸素によってラジカル重合反応が阻害される。
【0073】
硬化工程における酸素濃度を15vol%以下とするためには、硬化工程の雰囲気中に窒素や二酸化炭素などの不活性ガスを放散させてもよい。酸素濃度は、公知の酸素濃度計などを用いて測定することが可能である。
【0074】
以上の工程により、記録媒体にインクの硬化塗膜が形成された記録物が得られる。本実施形態の記録物は、記録媒体と、記録媒体上に形成されたインクの硬化塗膜と、を有する。硬化塗膜は、C.I.ピグメントレッド57:1を硬化塗膜の総量に対して4.0質量%以上含む。硬化塗膜の最大膜厚は5μm以下である。これにより、記録物は硬化塗膜の最大膜厚が5μm以下と薄膜化されていながら、発色性が向上し色再現性が良好となる。
【0075】
硬化塗膜の最大膜厚は、例えば以下のようにして測定することが可能である。ミクロトームなどを用いて切片試料または断面試料を作成し顕微鏡にて膜厚を測定する。あるいは、レーザー顕微鏡にて非破壊で膜厚を測定する。これらのいずれかの操作を、記録物におけるドット発生量100%の印刷領域の5箇所以上に対して実施して、最も厚い膜厚を最大膜厚とする。
【0076】
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0077】
最大膜厚が5μm以下に薄膜化されたインクの硬化塗膜において、発色性を向上させることができる。詳しくは、C.I.ピグメントレッド57:1が比較的に発色性に優れることに加えて、含有量を4.0質量%以上としている。そのため、硬化塗膜を薄膜化しても、硬化塗膜における発色性を向上させることができる。すなわち、硬化塗膜の発色性が向上することから、記録物における色再現性を良好にすることができる。
【0078】
また、硬化塗膜の最大膜厚が5μmであることから、軟包装フィルムを記録媒体に用いても、巻き太りの発生を防ぎ、巻き取り性が向上する。これに加えて、硬化塗膜と成るインクの液層も薄くなるために、インクの硬化収縮による記録媒体のしわの発生が低減される。さらには、硬化塗膜が比較的に薄いことから、記録物にラミネートなどの後加工を施す場合に加工性を向上させることができる。以上から、軟包装用途に好適なインクジェット方法、および記録物を提供することができる。
【0079】
7.実施例および比較例
以下、実施例および比較例を示して、本発明の効果をより具体的に説明する。実施例1から実施例13、および比較例1から比較例5の各インクに関する、組成、印刷条件、および評価結果などを表1、表2に示す。表1および表2の組成の欄では、数値の単位は質量%であり、数値の記載がない、-表記の欄は含有しないことを意味する。表1および表2では一部の成分の名称に略称を用いている。各略称については後述する。以降、実施例1から実施例13のインクを総称して実施例のインクということもあり、比較例1から比較例5のインクを総称して比較例のインクということもあり、実施例および比較例のインクを総称してインクということもある。なお、本発明は以下の実施例によって何ら限定されない。
【0080】
7.1.インクの調製
表1および表2の組成にしたがって、各インクを調製した。具体的には、色材である顔料、分散剤、および重合性化合物の一部を秤量して、ビーズミル分散用のタンクに入れた。次いで、該タンクに直径1mmのセラミック製ビーズを入れてビーズミルにて分散させて、顔料が重合性化合物中に分散された各顔料分散液を作製した。
【0081】
上記顔料分散液とは別に、ステンレススチール製の混合物用タンクに、上記顔料分散液に配合した成分以外の、残りの重合性化合物、光重合開始剤、光増感剤、重合禁止剤、およびスリップ剤を計り入れた。次いで、メカニカルスターラーを用いて撹拌し、光重合開始剤などの固形分を重合性化合物に完全に溶解させた。次いで、上記顔料分散液を計り入れて、約20℃の環境下でさらに1時間撹拌した。その後、ポアサイズが5μmのメンブレンフィルターにてろ過を実施して、実施例および比較例のインクを各々調製した。
【0082】
【0083】
【0084】
表1および表2において用いた略称および商品名の詳細は、以下の通りである。
【0085】
式(1)のビニル基含有(メタ)アクリレート
・VEEA:アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル。日本触媒社
環構造を有する単官能(メタ)アクリレート
・PEA:フェノキシエチルアクリレート。商品名ビスコート#192、大阪有機化学工業社
・IBXA:イソボルニルアクリレート。大阪有機化学工業社
・TBCHA:tertブチルシクロヘキサノールアクリレート。商品名SR217、サートマー社
・MEDOL-10:商品名。(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、大阪有機化学工業社
・THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート。大阪有機化学工業社
【0086】
多官能モノマー
・DPGDA:ジプロピレングリコールジアクリレート。サートマー社
【0087】
光重合開始剤
・Omnirad 819:商品名。ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフォンオキサイド。IGM RESINS B.V.社
・Speedcure TPO:商品名。2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフォンオキサイド。Lambson Group Ltd.社
【0088】
分散剤
・Solsperse36000:商品名。Lubrizol社
【0089】
重合禁止剤
・MEHQ:4-メトキシフェノール。関東化学社
【0090】
スリップ剤
・BYK-UV3500:商品名。BYK Additives&Instruments社
【0091】
光増感剤
・Speedcure(登録商標) DETX:商品名。2,4-ジエチルチオキサントン。Lambson Group Ltd.社
【0092】
7.2.評価用記録物の作製および評価
まず、硬化工程の雰囲気について、飯島電子工業社の酸素濃度計 G-103を用いて酸素濃度を測定した。その結果、酸素濃度は21vol%であった。そこで、実施例13のインクにおいてのみ、硬化工程の雰囲気中に窒素ガスの放散を行って酸素濃度を10vol%とした。
【0093】
次に、実施例および比較例のインクについて評価用の記録物を作製した。まず、インクジェット法にて記録媒体にインクを印刷した。具体的には、記録媒体として、フタムラ化学社の二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム FOA(厚さ20μm)を用いた。インクジェット装置として、セイコーエプソン社のインクジェットプリンター PX-G930を用いた。該プリンターには、プラスチックフィルムを記録媒体とするための改造、および紫外線硬化型のインクを吐出するための改造が施されている。
【0094】
実施例5の以外のインクの印刷パターンは、横600dpi(dots per inch)、縦600dpiの記録解像度でベタ画像とした。実施例5のインクの印刷パターンは、横600dpi、縦1200dpiの記録解像度でベタ画像とした。このとき、各インクの比重および消費質量から1ドットあたりのインク体積(pL)を算出して表1および表2に示した。詳しくは、上記インク体積は、実施例4のインクが10pLであり、実施例5のインクが2pLであり、比較例4および比較例5のインクが20pLであった以外は、その他の全水準で4pLであった。上記のインク体積は硬化塗膜の最大膜厚に影響する。なお、ベタ画像とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全てに対してドットを印刷した画像であって、ドット発生量100%の印刷を意味する。
【0095】
7.2.1.硬化性の評価
次に、記録媒体上に形成されたインクの液層について硬化性を評価した。具体的には、光源装置であるUV-LEDにてエネルギーを変えて液層に照射し、インクの液層がタックフリーになって硬化塗膜が形成された照射エネルギーを調査した。液層の硬化に要した照射エネルギーについて、以下の評価基準に従って評価して結果を表1および表2に記載した。
評価基準
AA:照射エネルギーが100mJ/cm2未満であった。
A :照射エネルギーが100mJ/cm2以上150mJ/cm2未満であった。
B :照射エネルギーが150mJ/cm2以上200mJ/cm2未満であった。
C :照射エネルギーが200mJ/cm2以上であった。
【0096】
7.2.2.巻き取り性の評価
巻き取り性の指標として硬化塗膜の最大膜厚を測定した。詳しくは、上記硬化性の評価にてタックフリーとなった照射エネルギーにて評価用の記録物を作製した。該記録物について、キーエンス社のレーザ顕微鏡VK-X1000を用いて各記録物の最大膜厚を測定した。次いで、以下の評価基準に従って最大膜厚を評価して結果を表1および表2に記載した。
評価基準
A:最大膜厚が3μm以下であった。
B:最大膜厚が3μmを超え5μm以下であった。
C:最大膜厚が5μmを超えていた。
【0097】
7.2.3.発色性の評価
上記巻き取り性の評価に用いた記録物について、発色性の指標であるOD(Optical Density)値を測定した。具体的には、コニカミノルタセンシング社の測色機FD-7を用いて、光源D65、視野角10度の測定条件にて各記録物の硬化塗膜のOD値を測定した。測定値を以下の評価基準に従って評価して、結果を表1および表2に記載した。
評価基準
A:OD値が1.8以上であった。
B:OD値が1.4以上1.8未満であった。
C:OD値が1.4未満であった。
【0098】
ここで、実施例1のインクは、環構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしてPEAを適用し、顔料としてのピグメントレッド57:1を総量に対して4.10質量%含む水準である。また、実施例1のインクの硬化塗膜の最大膜厚は2.5μmであった。
【0099】
実施例2のインクは、環構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしてPEAを適用し、顔料としてのピグメントレッド57:1を総量に対して6.50質量%含む水準である。また、実施例2のインクの硬化塗膜の最大膜厚は2.5μmであった。
【0100】
実施例3のインクは、環構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしてPEAを適用し、顔料としてのピグメントレッド57:1を総量に対して8.50質量%含む水準である。また、実施例3のインクの硬化塗膜の最大膜厚は2.5μmであった。
【0101】
実施例4のインクは、実施例1のインクと同様な組成とし、1ドット当たりのインク体積を10pLに増量した水準である。これにより、実施例4のインクの硬化塗膜の最大膜厚は5.0μmであった。
【0102】
実施例5のインクは、実施例2のインクと同様な組成とし、1ドット当たりのインク体積を2pLに減量し、解像度を大きくした水準である。実施例5のインクの硬化塗膜の最大膜厚は2.5μmであった。
【0103】
実施例6のインクは、実施例1のインクに対して、PEAをIBXAに替えた水準である。実施例7のインクは、実施例1のインクに対して、PEAをTBCHAに替えた水準である。実施例8のインクは、実施例1のインクに対して、PEAをMEDOL-10に替えた水準である。実施例9のインクは、実施例1のインクに対して、PEAをTHFAに替えた水準である。実施例10のインクは、実施例1のインクに対して、PEAを減量して、IBXA、TBCHA、MEDOL-10、およびTHFAを併用した水準である。
【0104】
実施例11のインクは、実施例1のインクに対して、PEAを増量して、VEEAを10質量%へ減量した水準である。実施例12のインクは、実施例1のインクに対して、PEAを減量して、VEEAを50質量%へ増量した水準である。実施例13のインクは、実施例1のインクと同様な組成とした上で、硬化工程の酸素濃度を10vol%とした水準である。
【0105】
比較例1のインクは、実施例1のインクに対して、顔料をピグメントレッド122に代えた水準である。比較例2のインクは、実施例1のインクに対して、顔料の含有量を2.50質量%へ減量し、PEAを増量した水準である。比較例3のインクは、実施例1のインクに対して、顔料の含有量を3.50質量%へ減量し、PEAを増量した水準である。
【0106】
比較例4のインクは、比較例1のインクと同様な組成とし、1ドット当たりのインク体積を20pLへ増量した水準である。これにより、比較例4のインクの硬化塗膜の最大膜厚は10.0μmであった。比較例5のインクは、比較例2のインクと同様な組成とし、1ドット当たりのインク体積を20pLに増量した水準である。これにより、比較例5のインクの硬化塗膜の最大膜厚は10.0μmであった。
【0107】
7.2.4.評価結果のまとめ
表1および表2に示したように、全ての実施例のインクでは発色性の評価が可に相当するB評価以上となった。特に、ピグメントレッド57:1の含有量が4.10質量%を超える実施例2、実施例3、および実施例5と、1ドット当たりのインク体積を10pLとした実施例4では、発色性が優に相当するA評価となった。
【0108】
実施例のインクの硬化性は、ピグメントレッド57:1の含有量が8.0質量%を超えた実施例3で劣に相当するC評価となった他は、全ての水準で可に相当するB評価以上となった。特に、硬化工程の酸素濃度を15vol%以下とした実施例13のインクでは、秀に相当するAA評価となった。
【0109】
実施例のインクの巻き取り性は、実施例4以外の全ての水準で硬化塗膜の最大膜厚が2.5μmとなり、優に相当するA評価となった。実施例4のインクでは、上記最大膜厚が5.0μmであり、評価は可に相当するB評価となった。
【0110】
以上から、実施例のインクは、発色性が向上することが示された。また、その多くが硬化性および巻き取り性にも優れるものであることが示された。
【0111】
一方、比較例のインクは、比較例1から比較例3のインクで発色性が劣に相当するC評価となった。比較例4および比較例5のインクは、発色性が可に相当するB評価となったものの、巻き取り性が不可に相当するC評価となった。巻き取り性が不可であると、ロール・ツー・ロール式の印刷が困難となる。以上から、比較例のインクは、発色性または生産性が劣ることが分かった。