(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20240326BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20240326BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/03 300A
B60C11/12 C
B60C11/13 C
(21)【出願番号】P 2020103863
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐人
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-1804(JP,A)
【文献】特開2016-88344(JP,A)
【文献】特開2012-126214(JP,A)
【文献】特開2018-83543(JP,A)
【文献】特開2014-151855(JP,A)
【文献】特開2015-47947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びる周方向溝に区分された第1陸部と、タイヤ軸方向に対して第1方向に傾斜して前記第1陸部を横断する複数の第1横溝とを含み、
前記第1陸部は、前記第1横溝によって区分された複数の第1ブロックを含み、
前記第1ブロックには、タイヤ軸方向に対して前記第1方向とは逆向きの第2方向に傾斜した少なくとも1本のサイプが設けられ、
前記サイプは、前記第1横溝の最大の深さよりも深い部分と、前記第1横溝の最大の深さよりも浅い部分とを含む、
タイヤ。
【請求項2】
前記第1横溝のタイヤ軸方向に対する角度は、15~25°である、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記サイプのタイヤ軸方向に対する角度は、15~25°である、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記サイプは、その底部からタイヤ半径方向外側に隆起したタイバーを含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記タイバーは、前記サイプの長さ方向の中心と重複する位置に設けられている、請求項4に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記タイバーのタイヤ半径方向の高さは、前記サイプの最大の深さの40%~70%である、請求項4又は5に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記サイプは、その長さ方向にジグザグ状に延び、
前記タイバーのタイヤ軸方向の幅は、前記サイプの波長の10%~40%である、請求項4ないし6のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記第1ブロックには、前記周方向溝に連通しかつ前記第1ブロック内で途切れる第2横溝が設けられ、
前記サイプは、前記第2横溝の最大の深さよりも深い部分と、前記第2横溝の最大の深さよりも浅い部分とを含む、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記サイプの前記第1横溝の最大の深さよりも深い部分の最大の深さは、前記第1横溝の最大の深さの105%~145%である、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記サイプの前記第1横溝の最大の深さよりも浅い部分の最小の深さは、前記第1横溝の最大の深さの30%~70%である、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1には、トレッド部のパターン要素を特定することにより、優れた雪上性能を発揮し得るタイヤを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、タイヤには、雪上性能のさらなる向上が求められている。発明者らは、種々の実験の結果、サイプへの雪詰まりを抑制することにより、雪上性能をより一層向上できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、サイプへの雪詰まりが抑制されたタイヤを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びる周方向溝に区分された第1陸部と、タイヤ軸方向に対して第1方向に傾斜して前記第1陸部を横断する複数の第1横溝とを含み、前記第1陸部は、前記第1横溝によって区分された複数の第1ブロックを含み、前記第1ブロックには、タイヤ軸方向に対して前記第1方向とは逆向きの第2方向に傾斜した少なくとも1本のサイプが設けられ、前記サイプは、前記第1横溝の最大の深さよりも深い部分と、前記第1横溝の最大の深さよりも浅い部分とを含む。
【0007】
本発明のタイヤにおいて、前記第1横溝のタイヤ軸方向に対する角度は、15~25°であるのが望ましい。
【0008】
本発明のタイヤにおいて、前記サイプのタイヤ軸方向に対する角度は、15~25°であるのが望ましい。
【0009】
本発明のタイヤにおいて、前記サイプは、その底部からタイヤ半径方向外側に隆起したタイバーを含むのが望ましい。
【0010】
本発明のタイヤにおいて、前記タイバーは、前記サイプの長さ方向の中心と重複する位置に設けられているのが望ましい。
【0011】
本発明のタイヤにおいて、前記タイバーのタイヤ半径方向の高さは、前記サイプの最大の深さの40%~70%であるのが望ましい。
【0012】
本発明のタイヤにおいて、前記サイプは、その長さ方向にジグザグ状に延び、前記タイバーのタイヤ軸方向の幅は、前記サイプの波長の10%~40%であるのが望ましい。
【0013】
本発明のタイヤにおいて、前記第1ブロックには、前記周方向溝に連通しかつ前記第1ブロック内で途切れる第2横溝が設けられ、前記サイプは、前記第2横溝の最大の深さよりも深い部分と、前記第2横溝の最大の深さよりも浅い部分とを含むのが望ましい。
【0014】
本発明のタイヤにおいて、前記サイプの前記第1横溝の最大の深さよりも深い部分の最大の深さは、前記第1横溝の最大の深さの105%~145%であるのが望ましい。
【0015】
本発明のタイヤにおいて、前記サイプの前記第1横溝の最大の深さよりも浅い部分の最小の深さは、前記第1横溝の最大の深さの30%~70%であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のタイヤは、上記の構成を採用したことによって、サイプへの雪詰まりを効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態のタイヤのトレッド部の展開図である。
【
図4】
図1の第1陸部、第2陸部及び第3陸部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態のタイヤ1のトレッド部2の展開図である。
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、例えば、冬期での使用を前提とした乗用車用の空気入りタイヤとして用いられる。但し、本発明のタイヤ1は、このような態様に限定されるものではない。
【0019】
本実施形態のタイヤ1は、例えば、車両への装着の向きが指定されたトレッド部2を有する。車両への装着の向きは、例えば、サイドウォール部等に文字やマークで表示されている(図示省略)。
【0020】
トレッド部2は、外側トレッド端Toとの内側トレッド端Tiとの間でタイヤ周方向に連続して延びる4本の周方向溝3と、前記周方向溝3に区分された5つの陸部4とで構成されている。すなわち、本発明のタイヤ1は、所謂5リブタイヤとして構成されている。但し、本発明のタイヤ1は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、3本の周方向溝3と4つの陸部4とで構成された所謂4リブタイヤでも良い。
【0021】
外側トレッド端Toは、車両装着時に車両外側に位置することが意図されたトレッド端であり、内側トレッド端Tiは、車両装着時に車両内側に位置することが意図されたトレッド端である。外側トレッド端To及び内側トレッド端Tiは、それぞれ、正規状態のタイヤ1に正規荷重が負荷されキャンバー角0°で平面に接地したときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置に相当する。
【0022】
「正規状態」とは、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。各種の規格が定められていないタイヤや、非空気式タイヤの場合、前記正規状態は、タイヤの使用目的に応じた標準的な使用状態であって無負荷の状態を意味する。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、前記正規状態で測定された値である。なお、本明細書で説明された各構成は、ゴム成形品に含まれる通常の誤差を許容するものとする。
【0023】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0024】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0025】
「正規荷重」は、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。また、各種の規格が定められていないタイヤや、非空気式タイヤの場合、「正規荷重」は、タイヤの標準使用状態において、1つのタイヤに作用する荷重を指す。前記「標準使用状態」とは、タイヤの使用目的に応じた標準的な車両にタイヤが装着され、かつ、前記車両が走行可能な状態で平坦な路面上に静止している状態を指す。
【0026】
周方向溝3は、例えば、外側クラウン周方向溝5、内側クラウン周方向溝6、外側ショルダー周方向溝7及び内側ショルダー周方向溝8を含む。外側クラウン周方向溝5は、タイヤ赤道Cと外側トレッド端Toとの間に設けられている。内側クラウン周方向溝6は、タイヤ赤道Cと内側トレッド端Tiとの間に設けられている。外側ショルダー周方向溝7は、外側クラウン周方向溝5と外側トレッド端Toとの間に設けられている。内側ショルダー周方向溝8は、内側クラウン周方向溝6と内側トレッド端Tiとの間に設けられている。
【0027】
周方向溝3は、タイヤ周方向に直線状に延びるものや、ジグザグ状に延びるもの等、種々の態様を採用し得る。本実施形態では、内側クラウン周方向溝6、内側ショルダー周方向溝8及び外側ショルダー周方向溝7が、タイヤ周方向に平行に直線状に延びている。一方、外側クラウン周方向溝5は、ジグザグ状に延びている。但し、本発明のタイヤ1は、このような態様に限定されるものではない。
【0028】
外側ショルダー周方向溝7又は内側ショルダー周方向溝8の溝中心線からタイヤ赤道Cまでのタイヤ軸方向の距離L1は、例えば、トレッド幅TWの20%~35%である。外側クラウン周方向溝5又は内側クラウン周方向溝6の溝中心線からタイヤ赤道Cまでのタイヤ軸方向の距離L2は、例えば、トレッド幅TWの3%~15%である。望ましい態様では、内側クラウン周方向溝6の溝中心線からタイヤ赤道Cまでのタイヤ軸方向の距離は、外側クラウン周方向溝5の溝中心線からタイヤ赤道Cまでのタイヤ軸方向の距離よりも大きい。なお、トレッド幅TWは、前記正規状態における外側トレッド端Toから内側トレッド端Tiまでのタイヤ軸方向の距離である。
【0029】
周方向溝3の溝幅W1は、少なくとも3mm以上であるのが望ましい。望ましい態様では、周方向溝3の溝幅W1は、トレッド幅TWの2.0%~5.0%である。本実施形態では、4本の周方向溝3の内、内側クラウン周方向溝6が最も大きい溝幅を有している。
【0030】
陸部4は、第1陸部11を含む。本実施形態の第1陸部11は、例えば、外側クラウン周方向溝5と内側クラウン周方向溝6との間に区分されている。但し、第1陸部11の位置は、このような態様に限定されるものではない。
【0031】
図2には、第1陸部11の拡大図が示されている。
図2に示されるように、第1陸部11には、複数の第1横溝14が設けられている。第1横溝14は、タイヤ軸方向に対して第1方向(本明細書の各図では、右上がりである。)に傾斜して第1陸部11を横断している。これにより、第1陸部11は、第1横溝14によって区分された複数の第1ブロック15を含む。
【0032】
第1ブロック15には、タイヤ軸方向に対して前記第1方向とは逆向きの第2方向(本明細書の各図では、右下がりである。)に傾斜した少なくとも1本のサイプ16が設けられている。なお、本実施形態のように、サイプ16がジグザグ状に延びる場合、サイプ16の傾斜の向きは、サイプ16の両端を結ぶ仮想直線の傾斜の向きで決定されるものとする。
【0033】
本明細書において、「サイプ」とは、微小な幅を有する切れ込み要素であって、互いに向き合う2つのサイプ壁の間の幅が1.5mm以下のものを指す。サイプの前記幅は、望ましくは0.1~1.0mmであり、より望ましくは0.2~0.8mmである。本実施形態のサイプは、その全深さに亘って、前記幅が上述の範囲とされている。なお、本明細書では、ある切れ込み要素の横断面において、幅が1.5mm以下の領域をその全深さの50%以上含むものは、幅が1.5mmを超える領域を一部に含むものであっても、サイプ(溝要素を含むサイプ)として扱うものとする。また、ある切れ込み要素の横断面において、幅が1.5mmよりも大きい領域をその全深さの50%以上含むものは、幅が1.5mm以下の領域を一部に含むものであっても、溝(サイプ要素を含む溝)として扱うものとする。
【0034】
図3には、
図2のA-A線断面図が示されている。
図3に示されるように、サイプ16は、第1横溝14(
図2に示され、以下、同様である。)の最大の深さよりも深い部分17(以下、「第1部分17」という場合がある。)と、第1横溝14の最大の深さよりも浅い部分18(以下、第2部分18という場合がある。)とを含む。
図3では、第1横溝14の溝底14dが、破線で示されている。本発明のタイヤは、上記の構成を採用したことによって、サイプへの雪詰まりを効果的に抑制できる。その理由としては、以下のメカニズムが推察される。なお、本明細書において、「雪詰まりの抑制」とは、雪に限らず、細かい氷片がサイプに詰まるのを抑制することも含むものとする。
【0035】
第1横溝14とサイプ16とは、傾斜の向きが異なるため、トレッド部2に接地圧が負荷されるときにおいて、サイプ16は、第1横溝14に近い部分が先に閉じ、遠い部分がその後に閉じる。トレッド部2に負荷される接地圧が小さくなり、サイプ16が開くときにおいても同様である。このようなサイプ16の開閉挙動によって、雪が排出され易くなり、雪詰まりを抑制できる。
【0036】
また、サイプ16が第1部分17と第2部分18とを含むため、サイプ16は、開き量が大きい部分と小さい部分とを含んで上述の開閉挙動を生じる。これにより、サイプ16が波打つように開閉し易くなり、サイプ16内の雪がさらに排出され易くなると考えられる。また、サイプ16の雪詰まりが抑制されると、サイプ16のエッジが十分な摩擦力を発揮して氷上性能が向上する。さらに、前記雪詰まりに起因する、ブロックを区画する溝の溝容積の減少が抑制され、雪上性能が向上し得る。
【0037】
以下、本実施形態のさらに詳細な構成が説明される。なお、以下で説明される各構成は、本実施形態の具体的態様を示すものである。したがって、本発明は、以下で説明される構成を具えないものであっても、上述の効果を発揮し得るのは言うまでもない。また、上述の特徴を具えた本発明のタイヤに、以下で説明される各構成のいずれか1つが単独で適用されても、各構成に応じた性能の向上は期待できる。さらに、以下で説明される各構成のいくつかが複合して適用された場合、各構成に応じた複合的な性能の向上が期待できる。
【0038】
図2に示されるように、第1陸部11は、例えば、タイヤ赤道C上に設けられている。より望ましい態様では、第1陸部11のタイヤ軸方向の中心位置は、タイヤ赤道Cよりも内側トレッド端Ti側に位置している。
【0039】
第1横溝14は、例えば、タイヤ軸方向に対して45°以下の角度で第1方向に傾斜している。第1横溝14のタイヤ軸方向に対する角度θ1は、15~25°である。このような第1横溝14は、雪上での旋回性能の向上に役立つ。なお、本明細書において、溝の角度は、溝中心線で測定されるものとする。
【0040】
さらに望ましい態様として、本実施形態の第1横溝14は、外側クラウン周方向溝5側の端部の溝幅が、外側クラウン周方向溝5側に向かって大きくなっている。このような第1横溝14は、前記端部において雪を強く押し固めることができ、雪上性能を高めることができる。
【0041】
第1横溝14の最大の深さは、例えば、4.0~7.0mmである。本実施形態の第1横溝14は、その全体に亘って一定の深さを有している。但し、第1横溝14は、このような態様に限定されるものではない。
【0042】
第1ブロック15に設けられたサイプ16(以下、第1サイプ16という場合がある。)は、例えば、トレッド平面視において、ジグザグ状に延びている。第1サイプ16のピークトゥピークの振幅は、例えば、0.50~2.00mmであり、望ましくは1.20~1.50mmである。第1サイプ16の波長は、例えば、2.0~5.0mmである。このような第1サイプ16は、互いに向き合うサイプ壁が接触したときに第1ブロック15の見かけの剛性を高めることができる。但し、第1サイプ16は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、直線状に延びるものでも良い。
【0043】
第1ブロック15には、複数の第1サイプ16が設けられている。隣接する第1サイプ16同士の最短距離は、例えば、2.0~5.0mmである。本実施形態のように、ジグザグ状に延びる複数の第1サイプ16が設けられる場合、第1サイプ16の中心線間の最短距離が、3.0~6.0mmであるのが望ましい。これにより、第1ブロック15の剛性を維持しつつ、多くの第1サイプ16を配置することができる。
【0044】
第1サイプ16のタイヤ軸方向に対する角度は、例えば、15~25°である。なお、第1サイプ16がジグザグ状に延びる場合、前記角度は、第1サイプ16の両端を結ぶ仮想直線で測定されるものとする。第1サイプ16と第1横溝14との間の角度は、35~45°であるのが望ましい。
【0045】
図3に示されるように、第1サイプ16は、その深さ方向にもジグザグ状に延びる所謂3Dサイプとして構成されている。これにより、第1ブロック15の剛性がより確実に維持される。なお、
図3では、第1サイプ16の折れ曲がりの頂点が2点鎖線で示されている。
【0046】
第1サイプ16の第1部分17の最大の深さd5は、第1横溝14の最大の深さの望ましくは105%~145%、より望ましくは110%~140%、さらに望ましくは115%~135%である。また、第1サイプ16の第2部分18の最小の深さd6は、第1横溝14の最大の深さの望ましくは30%~70%、より望ましくは35%~65%、さらに望ましくは40%~60%である。
【0047】
第1サイプ16の長さ方向に沿った、第2部分18の合計長さは、第1部分17の前記長さ方向に沿った合計長さよりも小さいのが望ましい。具体的には、第2部分18の合計長さは、第1サイプ16の長さの20%~40%である。第1部分17の合計長さは、第1サイプ16の長さの60%~80%である。このような第1部分17及び第2部分18の配置は、第1ブロック15の剛性を維持しつつ、雪詰まりを確実に抑制できる。
【0048】
第1サイプ16は、その底部からタイヤ半径方向外側に隆起したタイバー20を含む。本実施形態のタイバー20は、第1サイプ16のタイヤ軸方向の一方の端部に設けられた第1タイバー21と、タイヤ軸方向の他方の端部に設けられた第2タイバー22と、第1タイバー21と第2タイバー22との間に設けられた第3タイバー23とを含む。これにより、第1サイプ16の開き量が確実に小さくなり、第1サイプ16の雪詰まりがより一層抑制される。
【0049】
上述の効果をさらに高めるために、第3タイバー23は、例えば、第1サイプ16の長さ方向の中心と重複する位置に設けられているのが望ましい。
【0050】
タイバー20のタイヤ半径方向の最大の高さh1は、第1サイプ16の最大の深さd1の40%~70%である。これにより、氷上性能を維持しつつ、雪詰まりを抑制することができる。
【0051】
同様の観点から、1つのタイバー20のタイヤ軸方向の幅W2は、トレッド平面視における第1サイプ16の波長の10%~40%であるのが望ましい。なお、タイバー20の前記幅W2は、タイバー20の高さ方向の中心位置で測定されるものとする。
【0052】
第3タイバー23のタイヤ軸方向の幅は、第1タイバー21のタイヤ軸方向の幅、又は、第2タイバーのタイヤ軸方向の幅よりも小さいのが望ましい。第3タイバー23の前記幅は、第1タイバー21又は第2タイバー22の前記幅の30%~50%である。また、第3タイバー23のタイヤ半径方向の高さは、第1タイバー21のタイヤ半径方向の高さ、又は、第2タイバーのタイヤ半径方向の高さよりも小さいのが望ましい。第3タイバー23の前記高さは、第1タイバー21又は第2タイバー22の前記高さの75%~95%である。このような第3タイバー23は、第1サイプ16のエッジが提供する摩擦力を大きくでき、氷上性能を高めることができる。
【0053】
第1サイプ16の長さ方向に沿ったタイバー20の合計幅は、例えば、第1サイプ16の長さの15%~35%であり、望ましくは20%~30%である。
【0054】
図2に示されるように、本実施形態の第1陸部11には、周方向溝3に連通しかつ第1ブロック15内で途切れる第2横溝25が設けられている。具体的には、第2横溝25は、外側クラウン周方向溝5に連通する外側第2横溝26と、内側クラウン周方向溝6に連通する内側第2横溝27とを含んでいる。このような第2横溝25は、第1ブロック15の剛性を維持しつつ、氷上性能及び雪上性能を向上させることができる。
【0055】
第2横溝25は、第1陸部11のタイヤ軸方向の中心位置を横切ることなく第1陸部11内で途切れている。第2横溝25のタイヤ軸方向の長さL3は、例えば、第1陸部11のタイヤ軸方向の最大の幅W3の20%~30%である。
【0056】
第2横溝25は、例えば、第2方向に傾斜しているのが望ましい。第2横溝25のタイヤ軸方向に対する角度は、例えば、15~25°である。これにより、第1サイプ16が開閉し易くなり、第1サイプ16の雪詰まりがさらに抑制される。
【0057】
第2横溝25の最大の深さは、例えば、第1横溝14の最大の深さの±2mmとされる。より望ましい態様では、第2横溝25の最大の深さと第1横溝14の最大の深さとが同一とされる。これにより、第1サイプ16は、第2横溝25の最大の深さよりも深い部分と、第2横溝の最大の深さよりも浅い部分とを含む。
【0058】
図1に示されるように、本実施形態のトレッド部2は、上述の第1陸部11に加え、第2陸部12及び第3陸部13を含んでいる。第2陸部12は、第1陸部11の内側トレッド端Ti側に隣接しており、内側クラウン周方向溝6と内側ショルダー周方向溝8の間に区分されている。第3陸部13は、第1陸部11の外側トレッド端To側に隣接しており、外側クラウン周方向溝5と外側ショルダー周方向溝7の間に区分されている。
【0059】
図4には、第1陸部11、第2陸部12及び第3陸部13の拡大図が示されている。
図4に示されるように、第2陸部12には、複数の第3横溝30が設けられている。これにより、第2陸部12は、第3横溝30に区分された複数の第2ブロック32を含んでいる。
【0060】
複数の第3横溝30は、それぞれ、タイヤ軸方向に対して同じ向きに傾斜している。本実施形態の第3横溝30は、それぞれ、第2方向に傾斜している。第3横溝30のタイヤ軸方向に対する角度θ2は、第1横溝14のタイヤ軸方向に対する角度θ1よりも大きいのが望ましい。具体的には、第3横溝30の前記角度θ2は、20~40°である。このような第3横溝30は、雪上でのトラクション性能及び旋回性能を向上させる。
【0061】
本実施形態の第3横溝30は、例えば、一定の溝幅で直線状に延びている。第3横溝30の溝幅は、例えば、1.0~8.0mmであり、望ましくは2.0~6.0mmである。
【0062】
図5には、
図4のB-B線断面図が示されている。
図5に示されるように、第3横溝30の最大の深さd2は、例えば、3.0~11.0mmであり、望ましくは6.0~9.5mmである。第3横溝30の最大の深さd2は、第1横溝14の最大の深さよりも大きいのが望ましく、より望ましくは第1サイプ16の最大の深さよりも大きい。これにより、第3横溝30が開き易くなり、第3横溝30及び内側クラウン周方向溝6(
図4に示す)に雪が保持されるのを防ぐことができる。
【0063】
第3横溝30の溝底面は、例えば、部分的にタイヤ半径方向外側に突出した突出部30aを含む。突出部30aは、例えば、第3横溝30のタイヤ軸方向の端部に設けられており、本実施形態では、第3横溝30の内側クラウン周方向溝6側の端部に設けられている。突出部30aのタイヤ半径方向の高さh2は、例えば、0.5~2.0mmである。突出部30aのタイヤ軸方向の長さは、第3横溝30のタイヤ軸方向の長さの望ましくは30%以下であり、より望ましくは5%~15%である。このような突出部30aは、第3横溝30内に雪や氷の欠片が詰まるのを防ぐことができる。
【0064】
図4に示されるように、第3横溝30の内側クラウン周方向溝6側の端部は、第1横溝14の内側クラウン周方向溝6側の端部をタイヤ軸方向に平行に延長した仮想領域と重複していない。同様に、第3横溝30の内側クラウン周方向溝6側の端部は、内側第2横溝27の内側クラウン周方向溝6側の端部をタイヤ軸方向に平行に延長した仮想領域と重複していない。このような第3横溝30の配置は、内側クラウン周方向溝6に雪が保持されるのを確実に防ぐことができる。
【0065】
第2ブロック32には、第2ブロック32を横断する折れ曲がり溝35が設けられている。折れ曲がり溝35は、例えば、内側クラウン周方向溝6に連なり第1方向に傾斜して延びる第1傾斜部36と、内側ショルダー周方向溝8に連なり第1方向に傾斜して延びる第2傾斜部37と、第1傾斜部36と第2傾斜部37との間に連通して第2方向に傾斜して延びる第3傾斜部38とを含んでいる。
【0066】
第1傾斜部36及び第2傾斜部37は、例えば、タイヤ軸方向に対して第1横溝14よりも大きい角度で傾斜しているのが望ましい。第1傾斜部36及び第2傾斜部37のタイヤ軸方向に対する角度θ3は、例えば、20~40°である。
【0067】
第3傾斜部38は、例えば、タイヤ軸方向に対して第1横溝14よりも大きい角度で傾斜している。第3傾斜部38のタイヤ軸方向に対する角度θ4は、例えば、50~70°である。また、第1傾斜部36と第3傾斜部38との間の角度、及び、第2傾斜部37と第3傾斜部38との間の角度は、それぞれ、80~100°であるのが望ましい。このような第3傾斜部38を含む折れ曲がり溝35は、多方向に摩擦力を発揮して氷上性能を向上させ、かつ、内部で雪を強く押し固めることできるため、雪上性能も向上させる。
【0068】
図6には、
図4のC-C線断面図が示されている。
図6に示されるように、第1傾斜部36及び第2傾斜部37の深さは、第3傾斜部38の深さよりも大きいのが望ましい。また、第1傾斜部36及び第2傾斜部37は、それぞれ、第3傾斜部38側から折れ曲がり溝35の端に向かって、深さが大きくなっている。望ましい態様では、第1傾斜部36の最大の深さd3は、第2傾斜部37の最大の深さd4よりも大きい。これにより、第2ブロック32の剛性が内側トレッド端Ti側に向かって大きくなるため、ドライ路面での操縦安定性が向上する。
【0069】
図4に示されるように、第2ブロック32には、第1方向に傾斜して延びる複数の第2サイプ33が設けられている。本実施形態の第2サイプ33の最大の深さは、第1サイプ16の最大の深さの0.90~1.10倍であり、より望ましい態様ではこれらの深さが同一とされる。これにより、第2サイプ33の雪詰まりが抑制される。
【0070】
より望ましい態様では、各第2サイプ33は、折れ曲がり溝35に連通していないのが望ましい。これにより、第2ブロック32の剛性低下が抑制され、ドライ路面での操縦安定性が向上する。
【0071】
第2サイプ33は、例えば、長さ方向及び深さ方向に振幅して延びる3Dサイプとして構成されている。また、第2サイプ33の各種寸法には、上述の第1サイプ16の寸法を適用することができる。
【0072】
第3陸部13には、第3陸部13を完全に横断する複数の第4横溝40と、外側クラウン周方向溝5に連なり第3陸部13内で途切れる複数の途切れ溝41とが設けられている。
【0073】
第4横溝40は、例えば、第2方向に傾斜している。第4横溝40のタイヤ軸方向に対する角度θ5は、例えば、15~30°である。このような第4横溝40は、雪上でのトラクション性能と旋回性能とをバランス良く向上させる。
【0074】
第4横溝40は、外側クラウン周方向溝5を介して外側第2横溝26と向き合っている。なお、この構成は、第4横溝40をその長さ方向に沿って第1陸部11側に延長した仮想領域が、外側第2横溝26の少なくとも一部と重複する態様を意味する。これにより、第4横溝40、外側クラウン周方向溝5及び外側第2横溝26が協働して固い雪柱を形成でき、ひいては雪上性能がより一層向上する。
【0075】
途切れ溝41は、例えば、第2方向に傾斜している。これにより、途切れ溝41は、タイヤ軸方向に対して第4横溝40と同じ向きに傾斜している。途切れ溝41のタイヤ軸方向に対する角度θ4は、例えば、15~30°である。
【0076】
途切れ溝41のタイヤ軸方向の長さL4は、例えば、第3陸部13のタイヤ軸方向の最大の幅W4の40%~60%である。また、途切れ溝41の最大の溝幅は、第4横溝40の最大の溝幅よりも小さい。このような途切れ溝41は、第2陸部12の剛性を維持しつつ、雪上性能を高めることができる。
【0077】
より望ましい態様では、途切れ溝41の外側クラウン周方向溝5側の端部をタイヤ軸方向に平行に延長した仮想領域が、第1横溝14の外側クラウン周方向溝5側の端部の少なくとも一部と重複する。これにより、途切れ溝41、外側クラウン周方向溝5及び第1横溝14が協働して雪を押し固めることができ、雪上性能が向上する。
【0078】
第3陸部13は、複数の第4横溝40で区分された複数の第3ブロック43を含んでいる。第3ブロック43には、複数の第3サイプ44が設けられている。第3サイプ44は、例えば、第1方向に傾斜している。第3サイプ44には、上述の第1サイプ16の構成を適用することができる。
【0079】
図2に示されるように、ドライ路面での操縦安定性と氷上性能とをバランス良く向上させるために、トレッド部2のランド比は、60%~75%であるのが望ましい。なお、本明細書において、ランド比とは、トレッド部の溝を全て埋めた仮想接地面の総面積に対する、トレッド部2の実際の接地面の総面積の割合を意味する。
【0080】
同様の観点から、トレッド部2を構成するトレッドゴムのゴム硬度は、例えば、45~65°である。ここで、前記ゴム硬度は、JIS-K6253に基づきデュロメータータイプAにより、23℃の環境下で測定されたデュロメータA硬さを指す。
【0081】
以上、本発明の一実施形態のタイヤが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例】
【0082】
図1の基本トレッドパターンを有するサイズ195/65R15のタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。比較例として、
図7に示されるように、第1サイプaにタイバーが設けられていないタイヤが試作された。比較例のタイヤは、第1サイプaの全体が第1横溝の最大の深さよりも大きい。比較例のタイヤは、上述の構成を除き、
図1に示されるものと実質的に同じ構成を有している。各テストタイヤについて、氷上性能及び雪上性能がテストされた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
装着リム:15×6.0JJ
タイヤ内圧:前輪230kPa、後輪230kPa
テスト車両:排気量1500cc、前輪駆動車
タイヤ装着位置:全輪
【0083】
<氷上性能>
上記テスト車両で氷上を走行したときの走行性能が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例を100とする評点であり、数値が大きい程、氷上性能が優れていることを示す。
【0084】
<雪上性能>
上記テスト車両で雪上を走行したときの走行性能が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例を100とする評点であり、数値が大きい程、雪上性能が優れていることを示す。
テストの結果が表1に示される。
【0085】
【0086】
表1に示されるように、各実施例のタイヤは、サイプへの雪詰まりが抑制されることにより、優れた氷上性能及び雪上性能を発揮していることが確認できた。
【符号の説明】
【0087】
2 トレッド部
3 周方向溝
11 第1陸部
14 第1横溝
15 第1ブロック
16 サイプ