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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】車両の前部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 19/04 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
B60R19/04 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020113722
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012130
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】楢原 隆志
(72)【発明者】
【氏名】澁武 信行
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖
(72)【発明者】
【氏名】守田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】藤本 賢
(72)【発明者】
【氏名】山口 雄作
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0040398(US,A1)
【文献】特開2014-088125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部車体構造であって、
車幅方向に互いに離間して配置され、車両前後方向に延びる一対のフロントフレームと、
前記一対のフロントフレームの前端に固定され、車両前後方向に延びる一対のクラッシュカンと、
前記一対のクラッシュカンの前端に固定され、車幅方向に延びるバンパービームと、
を備える車両の前部車体構造であって、
前記バンパービームは、車幅方向両側において、前記クラッシュカンに固定されるクラッシュカン固定部と、前記クラッシュカン固定部よりも車幅方向外側に延びる延長部と、を備え、
前記クラッシュカン固定部と前記延長部の車幅方向の各位置における曲げ剛性は、前記延長部に車両後方に向かう衝突荷重が入力された際に前記バンパービームに生じる曲げモーメントが、衝突荷重が入力された側の前記クラッシュカン固定部の車幅方向内側端部で最も高く、前記車幅方向内側端部から車幅方向外側に離れるにしたがって当該曲げモーメントが連続的に低下するように、設定されている、
ことを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
前記バンパービームにおける車幅方向の各位置における断面積のうち、前記クラッシュカン固定部の前記車幅方向内側端部の断面積が最も大きく、
前記バンパービームは、前記バンパービームの車両前方側に取り付けられたフロントプレートで形成された閉断面を有する、
請求項1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
車両の前部車体構造であって、
車幅方向に互いに離間して配置され、車両前後方向に延びる一対のフロントフレームと、
前記一対のフロントフレームの前端に固定され、車両前後方向に延びる一対のクラッシュカンと、
前記一対のクラッシュカンの前端に固定され、車幅方向に延びるバンパービームと、
を備える車両の前部車体構造であって、
前記バンパービームは、車幅方向両側において、前記クラッシュカンに固定されるクラッシュカン固定部と、前記クラッシュカン固定部よりも車幅方向外側に延びる延長部と、を備え、
前記バンパービームの車幅方向の各位置における曲げ剛性は、前記延長部に車両後方に向かう衝突荷重が入力された際に前記バンパービームに生じる曲げモーメントが、衝突荷重が入力された側の前記クラッシュカン固定部の車幅方向内側端部で最も高く、前記車幅方向内側端部から車幅方向に離れるにしたがって当該曲げモーメントが連続的に低下するように、設定され、
前記バンパービームにおける車幅方向の各位置における車両前後方向の幅のうち、前記クラッシュカン固定部の前記車幅方向内側端部の幅が最も大きい、
請求項1または2に記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
前記バンパービームにおける車幅方向の各位置における高さのうち、前記クラッシュカン固定部の前記車幅方向内側端部の高さが最も大きい、
請求項1~3のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
前記バンパービームは、当該バンパービームの内部において、車幅方向に延びるとともにコ字状断面を有する補強部材を有し、
前記コ字状断面は、当該コ字状断面で区画される面積が前記クラッシュカン固定部の前記車幅方向内側端部と同じ車幅方向位置で最も大きくなるように、形成されている、
請求項1~4のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造。
【請求項6】
前記バンパービームは、車幅方向に延びる上面部および下面部を有し、
前記上面部および前記下面部のうちの少なくとも一方は、車幅方向両側の前記車幅方向内側端部の間において、上下方向に折れ曲がるとともに車幅方向に延びる段差部が形成されている、
請求項1~5のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両の前部車体構造には、車両前方からの衝突荷重を吸収するために、バンパーの車両後方側にバンパーよりも変形しやすいクラッシュボックス(以下、本明細書ではクラッシュカンと呼ぶ)が設けられた構造がある。
【0003】
例えば、特許文献1記載の前部車体構造は、車両前後方向に延びる一対のサイドメンバ(以下、本明細書ではフロントフレームと呼ぶ)と、フロントフレームの前端に固定された一対のクラッシュカンと、クラッシュカンの前端に固定され、車幅方向に延びるバンパーとを備えている。また、中空のバンパーの両端部の内部にはバンパー補強用の補強部材が収容されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-130972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、スモールオーバーラップ衝突、すなわち、バンパーにおけるフロントフレームよりも車幅方向外側の端部に対して車両前方から物体(対向車や路上設置物など)が部分的に衝突する場合において、車室内の安全性確保などの観点から、バンパーが座屈せずにある程度形状を維持しながらクラッシュカンおよびフロントフレームに衝突荷重を伝達して、当該クラッシュカンおよびフロントフレームの変形によって衝突時のエネルギーを吸収することが要求されてきている。
【0006】
ここで、バンパーにおけるクラッシュカンに固定された固定部分を考えた場合、バンパーの固定部分の車幅方向内側端部は、バンパーの車幅方向端部における衝突荷重入力点からの距離が車幅方向外側端部よりも長くなる。そのため、バンパーの車幅方向いずれかの端部に車両後方に向かう衝突荷重が部分的に入力された際には、バンパーの固定部分の車幅方向内側端部は、最も座屈しやすくなる。
【0007】
また、上記のように中空のバンパーの両端部の内部に補強部材が収容された構造では、バンパーの車幅方向端部に衝突荷重が入力された場合には、補強部材の端部に衝突荷重が入力されることによって、補強部材がバンパーの内部で車両前後方向に旋回することにより、上記のバンパーの固定部分の車幅方向内側端部は、座屈する方向の荷重を補強部材の内側端部から局部的に受けることになり、さらに座屈しやすくなる。
【0008】
このように、スモールオーバーラップ衝突時においてバンパーの固定部分の車幅方向内側端部が座屈した場合には、バンパーの車両後方側のクラッシュカンおよびフロントフレームへ衝突荷重を伝達することが困難になる。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、スモールオーバーラップ衝突時においてバンパービームが座屈することを抑制してクラッシュカンおよびフロントフレームへ衝突荷重を確実に伝達することが可能な車両の前部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る車両の前部車体構造は、車両の前部車体構造であって、車幅方向に互いに離間して配置され、車両前後方向に延びる一対のフロントフレームと、前記一対のフロントフレームの前端に固定され、車両前後方向に延びる一対のクラッシュカンと、前記一対のクラッシュカンの前端に固定され、車幅方向に延びるバンパービームと、を備える車両の前部車体構造であって、前記バンパービームは、車幅方向両側において、前記クラッシュカンに固定されるクラッシュカン固定部と、前記クラッシュカン固定部よりも車幅方向外側に延びる延長部と、を備え、前記クラッシュカン固定部と前記延長部の車幅方向の各位置における曲げ剛性は、前記延長部に車両後方に向かう衝突荷重が入力された際に前記バンパービームに生じる曲げモーメントが、衝突荷重が入力された側の前記クラッシュカン固定部の車幅方向内側端部で最も高く、前記車幅方向内側端部から車幅方向外側に離れるにしたがって当該曲げモーメントが連続的に低下するように、設定されていることを特徴とする。
【0011】
バンパービームにおけるクラッシュカン固定部の車幅方向内側端部は、衝突荷重入力点からの距離が車幅方向外側端部よりも長いため、延長部に車両後方に向かう衝突荷重が入力された際(すなわち、スモールオーバーラップ衝突の際)に最も座屈しやすい。そこで、上記のようにバンパービームのうちクラッシュカン固定部と延長部の車幅方向の各位置における曲げ剛性が設定されることにより、バンパービームに生じる曲げモーメントが、衝突荷重が入力された側のクラッシュカン固定部の車幅方向内側端部で最も高く(すなわち、バンパービームの曲げ剛性が最も大きく)、車幅方向内側端部から車幅方向外側に離れるにしたがって当該曲げモーメントが連続的に低下するようになる(すなわち、バンパービームの曲げ剛性が連続的に低下するようになる)。これにより、バンパービームは、車幅方向内側端部を含むバンパービームの全幅において応力集中を抑制できる曲げモーメント特性を有することが可能になり、その結果、バンパービームの座屈を抑制することが可能である。
【0012】
すなわち、上記の構成では、スモールオーバーラップ衝突時において、バンパービームのクラッシュカン固定部の車幅方向内側端部での座屈を抑制しつつ、バンパービームの車幅方向における隣接する位置間の剛性差を小さくすることにより、バンパービームにおける応力集中を抑制してバンパービームの座屈を抑制し、バンパービームが受ける衝突荷重をクラッシュカンおよびフロントフレームに確実に伝達することが可能になる。
【0013】
上記の車両の前部車体構造において、前記バンパービームにおける車幅方向の各位置における断面積のうち、前記クラッシュカン固定部の前記車幅方向内側端部の断面積が最も大きく、前記バンパービームは、前記バンパービームの車両前方側に取り付けられたフロントプレートで形成された閉断面を有するのが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、クラッシュカン固定部の車幅方向内側端部の断面積が最も大きいことにより、車幅方向内側端部の曲げ剛性を向上することが可能になり、バンパービームの座屈を抑制することが可能になる。
【0015】
本発明の請求項3に係る車両の前部車体構造は、車両の前部車体構造であって、
車幅方向に互いに離間して配置され、車両前後方向に延びる一対のフロントフレームと、前記一対のフロントフレームの前端に固定され、車両前後方向に延びる一対のクラッシュカンと、前記一対のクラッシュカンの前端に固定され、車幅方向に延びるバンパービームと、を備える車両の前部車体構造であって、前記バンパービームは、車幅方向両側において、前記クラッシュカンに固定されるクラッシュカン固定部と、前記クラッシュカン固定部よりも車幅方向外側に延びる延長部と、を備え、前記バンパービームの車幅方向の各位置における曲げ剛性は、前記延長部に車両後方に向かう衝突荷重が入力された際に前記バンパービームに生じる曲げモーメントが、衝突荷重が入力された側の前記クラッシュカン固定部の車幅方向内側端部で最も高く、前記車幅方向内側端部から車幅方向に離れるにしたがって当該曲げモーメントが連続的に低下するように、設定され、前記バンパービームにおける車幅方向の各位置における車両前後方向の幅のうち、前記クラッシュカン固定部の前記車幅方向内側端部の幅が最も大きいことを特徴とする。
【0016】
かかる構成によれば、クラッシュカン固定部の車幅方向内側端部の車両前後方向の幅が最も大きいことにより、車幅方向内側端部の曲げ剛性を向上することが可能になり、バンパービームの座屈を抑制することが可能になる。
【0017】
上記の車両の前部車体構造において、前記バンパービームにおける車幅方向の各位置における高さのうち、前記クラッシュカン固定部の前記車幅方向内側端部の高さが最も大きいのが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、クラッシュカン固定部の車幅方向内側端部の高さが最も大きいことにより、車幅方向内側端部の曲げ剛性を向上することが可能になり、バンパービームの座屈を抑制することが可能になる。
【0019】
上記の車両の前部車体構造において、前記バンパービームは、当該バンパービームの内部において、車幅方向に延びるとともにコ字状断面を有する補強部材を有し、前記コ字状断面は、当該コ字状断面で区画される面積が前記クラッシュカン固定部の前記車幅方向内側端部と同じ車幅方向位置で最も大きくなるように、形成されているのが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、バンパービームがその内部に補強部材を有する構成において、補強部材のコ字状断面で区画される面積がクラッシュカン固定部の車幅方向内側端部と同じ車幅方向位置で最も大きくなっている。これにより、バンパービームの車幅方向内側端部を補強部材によって補強する効果が最も高くなり、当該車幅方向内側端部の曲げ剛性を最も向上することが可能になる。その結果、バンパービームの座屈をさらに抑制することが可能になる。
【0021】
上記の車両の前部車体構造において、前記バンパービームは、車幅方向に延びる上面部および下面部を有し、前記上面部および前記下面部のうちの少なくとも一方は、車幅方向両側の前記車幅方向内側端部の間において、上下方向に折れ曲がるとともに車幅方向に延びる段差部が形成されているのが好ましい。
【0022】
かかる構成によれば、バンパービームの上面部および下面部のうちの少なくとも一方は、車幅方向両側の車幅方向内側端部の間において、上下方向に折れ曲がるとともに車幅方向に延びる段差部が形成されている。この段差部によって、バンパービームが車幅方向において連続的に曲げ剛性が補強されて、バンパービームの車幅方向における隣接する位置間の剛性差を小さくすることが可能になる。その結果、バンパービームにおける応力集中をさらに抑制してバンパービームの座屈をさらに抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の車両の前部車体構造によれば、スモールオーバーラップ衝突時においてバンパービームが座屈することを抑制してクラッシュカンおよびフロントフレームへ衝突荷重を確実に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る車両の前部車体構造の全体構成を示す斜め前方かつ上方から見た斜視図である。
図2図1の前部車体構造の平面図である。
図3図1の前部車体構造のうち、バンパーのフロントプレートを取り外した状態の斜視図である。
図4図1の前部車体構造を斜め後方かつ上方から見た斜視図である。
図5図1の前部車体構造のうち、バンパーのフロントプレートを取り外した状態を前方かつ上方から見た拡大斜視図である。
図6図1の前部車体構造のうち、バンパーのバンパービームおよびその周辺部を後方かつ上方から見た拡大斜視図である。
図7図6のバンパービームを後方から見た図である。
図8図7のバンパービームの右側の延長部に対してスモールオーバーラップ衝突の衝突荷重が作用した場合において、バンパービームの車幅方向の各位置に発生する曲げモーメントの分布を示す棒グラフであり、棒グラフIは、本実施形態のバンパービームで発生する曲げモーメントの分布を示し、棒グラフIIは、比較例として車幅方向の各位置における曲げ剛性がほぼ一様な従来のバンパービームで発生する曲げモーメントの分布を示す。
図9】(a)~(g)は、図7のバンパービームを位置A~Gでそれぞれ切断したときの断面図である。
図10図2のバンパービームの端部およびクラッシュカンの拡大平面図である。
図11図10のバンパーに収容された補強部材の端部を拡大した拡大平面図である。
図12図3の補強部材の斜視図である。
図13図1のクラッシュカンの拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0026】
図1~6に示される本実施形態の車両の前部車体構造1は、車両前方X1からの物体(対向車や路上設置物など)との衝突時において衝突荷重を受ける部品の集合体によって構成され、具体的には、一対のフロントフレーム2と、一対のクラッシュカン3と、バンパービーム5を含むバンパー4とを備えている。
【0027】
なお、図1~2に示される符号8は、ラジエータのシュラウドを取り付けるためのブラケットを示す。このブラケット8は、衝突荷重を受けることに寄与しない部品であるので省略してもよい。
【0028】
一対のフロントフレーム2は、車幅方向Yに互いに離間して配置され、車両前後方向Xに延びている。フロントフレーム2の前端2aには、クラッシュカン3を固定するための取付フランジ9が設けられている。なお、フロントフレーム2の後端は、図示されていないヒンジピラーなどの車体構成部品に固定される。
【0029】
一対のクラッシュカン3のそれぞれは、一対のフロントフレーム2のそれぞれの前端2aに固定され、車両前後方向Xに延びている。
【0030】
本実施形態のクラッシュカン3の前端3aは、バンパービーム5に溶接などによって固定され、後端3bには取付フランジ10が設けられている。クラッシュカン3の後端3bの取付フランジ10をフロントフレーム2の前端2aの取付フランジ9に重ね合わせ、ボルトなどの締結具を用いて当該取付フランジ9、10を互いに連結することによって、クラッシュカン3は、フロントフレーム2の前端2aに固定される。
【0031】
なお、本発明ではクラッシュカン3の形状についてはとくに限定しないが、例えば、図13に示されるように、クラッシュカン3の形状は、中空の筒状体であり、十字形の断面形状を有していてもよい。さらに、クラッシュカン3の前端3aには、バンパービーム5が嵌合可能な凹部3cを形成してもよい。
【0032】
バンパー4は、バンパー4の本体部であるバンパービーム5と、当該バンパービーム5の車両前方側X1に取り付けられたフロントプレート6とを備えている。バンパービームおよびフロントプレート6は、スチールなどの金属の板材で製造される。
【0033】
バンパービーム5は、車幅方向Yに延びており、一対のクラッシュカン3の前端3aに溶接などによって固定されている。
【0034】
バンパービーム5は、図3~7に示されるように、車幅方向Yに延びる長尺の部材であり、上下方向Zにおける中間の領域が車両後方X2に突出しており、図9(a)~(g)に示されるように、略山形の断面形状を有する。
【0035】
さらに詳細に言えば、バンパービーム5は、図9(a)~(g)に示されるように、上面部5aと、当該上面部5aの後端から下方に延びる後面部5bと、後面部5bの下端から前方に延び、上面部5aの下方に位置する下面部5cと、上面部5aおよび下面部5cの前端から上下方向Zに突出する一対のフランジ部5dとを有する。これら上面部5a、後面部5b、下面部5c、および一対のフランジ部5dによって、ハット断面形状のバンパービーム5が構成される。
【0036】
また、図6~7および図9(a)~(b)に示されるように、本実施形態のバンパービーム5では、上面部5aおよび下面部5cのうちの少なくとも一方(本実施形態では両方)は、車幅方向Yの両側の車幅方向内側端部13の間において、上下方向に折れ曲がる(言い換えれば、ステップ状に折れ曲がる)とともに車幅方向Yに延びる段差部5e、5fが形成されている。具体的には、上面部5aには、当該上面部5aの補強のために下向きに折れ曲がる段差部5eが形成されている。下面部5cには、当該下面部5cの補強のために上向きに折れ曲がる段差部5fが形成されている。
【0037】
バンパービーム5は、図2図4図6~7、図10に示されるように、車幅方向Yの両側において、クラッシュカン3に固定されるクラッシュカン固定部11と、クラッシュカン固定部11よりも車幅方向Yの外側に延びる延長部12とを備えている。
【0038】
また、バンパービーム5は、図3図5図9図11~12に示されるように、当該バンパービーム5の内部において、車幅方向Yに延びるとともにコ字状断面を有する補強部材7を有する。補強部材7は、スチールなどの金属の板材によって製造され、車両前方X1に開放されたコ字状断面を有する。図9(a)~(g)に示されるように、補強部材7は、バンパービーム5とフロントプレート6によって形成された閉空間15に収容されている。補強部材7は、バンパービーム5の上面部5aおよび後面部5bに溶接などによって固定されている。例えば、補強部材7は、車幅方向Yに離間する複数の位置でバンパービーム5の上面部5aおよび後面部5bにスポット溶接されていればよい。
【0039】
つぎに、図7~8を用いて本実施形態のバンパービーム5の座屈抑制のための特徴についてさらに詳細に説明する。
【0040】
図8は、図7のバンパービーム5の右側の延長部12に対してスモールオーバーラップ衝突の衝突荷重CFが作用した場合において、バンパービームの車幅方向Yの各位置に発生する曲げモーメントの分布を示す棒グラフであり、棒グラフIは、本実施形態のバンパービームで発生する曲げモーメントの分布を示し、棒グラフIIは、比較例として車幅方向の各位置における曲げ剛性がほぼ一様な従来のバンパービームで発生する曲げモーメントの分布を示す。
【0041】
図8に示される棒グラフI、IIで示される「曲げモーメント」は、具体的には、スモールオーバーラップ衝突時の衝突荷重CFの入力点(図7~8の位置G付近の位置)からの各位置の距離を各位置で生じた実際の荷重に乗じることにより得られるモーメント値で表されており、言い換えれば、各位置において衝突時に許容可能なモーメント値を示す。
【0042】
この図8は、図7のバンパービーム5の車幅方向Yに互いに離間した複数の位置(BL-650~BL650までの19か所)においてそれぞれ曲げモーメントが測定される。
【0043】
図7~8に示される位置A~Gは、バンパービーム5の車幅方向Yの中間位置(位置A)から右側のクラッシュカン固定部11および延長部12付近の複数の位置を示している。とくに、位置Dは、クラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13の位置であり、位置Fは、クラッシュカン固定部11の車幅方向外側端部14の位置であり、位置Gは、クラッシュカン固定部11の外側に位置する延長部12の範囲内の位置である。
【0044】
本実施形態のバンパービーム5は、図7~8に示されるように、スモールオーバーラップ衝突時に車幅方向Yの一方の側の延長部12(具体的には、図7~8の位置G付近の位置)に車両後方X2に向かう衝突荷重CFが入力された際に、衝突荷重が入力された側のクラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13(具体的には、図7~8の位置D)でバンパービーム5が座屈しない構造として、バンパービーム5に生じる曲げモーメントが図8の棒グラフIに示されるように、車幅方向内側端部13(図7~8の位置D)を頂点としたなだらかに連続する山形のモーメント特性になるような曲げ剛性を有する。
【0045】
すなわち、本実施形態のバンパービーム5の車幅方向Yの各位置における曲げ剛性は、延長部12に車両後方X2に向かう衝突荷重が入力された際にバンパービーム5に生じる曲げモーメントが、衝突荷重が入力された側のクラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13(図7~8の位置D)で最も高く、車幅方向内側端部13(図7~8の位置D)から車幅方向Yの内側および外側に離れるにしたがって当該曲げモーメントが連続的に低下するように、設定されている(とくに、図8の棒グラフIの群における各棒グラフIの頂点を結ぶことにより形成されるなだらかな山形形状を参照)。これにより、バンパービーム5は、車幅方向内側端部13を含むバンパービーム5の全幅において応力集中を抑制できる曲げモーメント特性を有することが可能になり、その結果、バンパービーム5の座屈を抑制することが可能である。
【0046】
一方、図8の棒グラフIIは、比較例として車幅方向Yの各位置における曲げ剛性がほぼ一様な従来のバンパービームで発生する曲げモーメントの分布が示されているが、スモールオーバーラップ衝突時の入力点(図7~8の位置G付近の位置)から近い位置F、Gでは近隣の位置Eと比較して曲げモーメントが不連続に急激に低下している。
【0047】
この図8の棒グラフIIの位置F、Gにおける曲げモーメントの急激な低下は、上記のクラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13(図7~8の位置D)において曲げ剛性を超える大きな曲げモーメントが局部的に作用して座屈が生じたことが原因になっている。
【0048】
したがって、図8の棒グラフI、IIを比較検討すれば、本実施形態のバンパービーム5に作用する曲げモーメントを示す棒グラフIのように、クラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13(図7~8の位置D)で最も高く、車幅方向内側端部13(図7~8の位置D)から車幅方向Yに離れるにしたがって当該曲げモーメントが連続的に低下するような曲げモーメントの特性になるようにバンパービーム5の車幅方向Yの各位置における曲げ剛性を設定すれば、バンパービーム5の車幅方向内側端部13における座屈を抑制することが可能になるという結論が導き出される。
【0049】
ここで、上記のようにバンパービーム5の車幅方向内側端部13における曲げ剛性を向上させるために、本実施形態では、以下のような具体的な特徴を有している。
【0050】
図9(d)に示されるように、バンパービーム5における車幅方向Yの各位置における断面積のうち、クラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13の断面積S1が最も大きくなっている。これにより、車幅方向内側端部13の断面二次モーメントが大きくなり、車幅方向内側端部13の曲げ剛性を向上することが可能になる。
【0051】
また、図10に示されるように、バンパービーム5における車幅方向Yの各位置における車両前後方向Xの幅のうち、クラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13の幅t1が最も大きくなっている。これによっても、車幅方向内側端部13の断面二次モーメントが大きくなり、車幅方向内側端部13の曲げ剛性を向上することが可能になる。
【0052】
しかも、図7に示されるように、バンパービーム5における車幅方向Yの各位置における高さのうち、クラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13の高さ(すなわち、上下方向Zの幅)が最も大きくなっている。これによっても、車幅方向内側端部13の断面二次モーメントが大きくなり、車幅方向内側端部13の曲げ剛性を向上することが可能になる。
【0053】
さらに、図8(d)に示されるように、補強部材7のコ字状断面は、当該コ字状断面で区画される面積S2がクラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13と同じ車幅方向Yの位置(図11~12の位置16参照)で最も大きくなるように、形成されている。この構成では、図11に示される補強部材7の位置16において、車両前後方向Xの幅t2が最大になる。この特徴では、車幅方向内側端部13に対応する位置で補強部材7の断面二次モーメントが大きくなり、車幅方向内側端部13に対する補強部材7による補強効果が増大するので、車幅方向内側端部13の曲げ剛性を向上することが可能になる。
【0054】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の車両の前部車体構造1は、車幅方向Yに互いに離間して配置され、車両前後方向Xに延びる一対のフロントフレーム2と、一対のフロントフレーム2の前端2aに固定され、車両前後方向Xに延びる一対のクラッシュカン3と、一対のクラッシュカン3の前端3aに固定され、車幅方向Yに延びるバンパービーム5とを備える。バンパービーム5は、車幅方向Yの両側において、クラッシュカン3に固定されるクラッシュカン固定部11と、クラッシュカン固定部11よりも車幅方向Yの外側に延びる延長部12とを備えている。
【0055】
バンパービーム5の車幅方向Yの各位置における曲げ剛性は、延長部12に車両後方X2に向かう衝突荷重が入力された際にバンパービーム5に生じる曲げモーメントが、衝突荷重が入力された側のクラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13で最も高く(図8の棒グラフIの位置D参照)、車幅方向内側端部13から車幅方向Yの内側および外側に離れるにしたがって当該曲げモーメントが連続的に低下するように、設定されている。
具体的には、図8の棒グラフIの位置D~Gに示されるように、バンパービーム5のうちクラッシュカン固定部11と延長部12の車幅方向の各位置における曲げ剛性は、車幅方向内側端部13から車幅方向外側に離れるにしたがって当該曲げモーメントが連続的に低下するようになるように、設定されている。
【0056】
バンパービーム5におけるクラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13は、衝突荷重入力点からの距離が車幅方向Yの外側端部よりも長いため、延長部12に車両後方X2に向かう衝突荷重が入力された際(すなわち、スモールオーバーラップ衝突の際)に最も座屈しやすい。そこで、上記のようにバンパービーム5の車幅方向Yの各位置における曲げ剛性が設定されることにより、バンパービーム5に生じる曲げモーメントが、衝突荷重が入力された側のクラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13で最も高く(すなわち、バンパービーム5の曲げ剛性が最も大きく)、車幅方向内側端部13から車幅方向Yに離れるにしたがって当該曲げモーメントが連続的に低下するようになる(すなわち、バンパービーム5の曲げ剛性が連続的に低下するようになる)。これにより、バンパービーム5は、車幅方向内側端部13を含むバンパービーム5の全幅において応力集中を抑制できる曲げモーメント特性を有することが可能になり、その結果、バンパービーム5の座屈を抑制することが可能である。
【0057】
すなわち、上記の構成では、スモールオーバーラップ衝突時において、バンパービーム5のクラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13での座屈を抑制しつつ、バンパービーム5の車幅方向Yにおける隣接する位置間の剛性差を小さくすることにより、バンパービーム5における応力集中を抑制してバンパービーム5の座屈を抑制し、バンパービーム5が受ける衝突荷重をクラッシュカン3およびフロントフレーム2に確実に伝達することが可能になる。
【0058】
(2)
本実施形態の車両の前部車体構造1では、図9(d)に示されるように、バンパービーム5における車幅方向Yの各位置における断面積のうち、クラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13の断面積S1が最も大きい。
【0059】
かかる構成によれば、クラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13の断面積S1が最も大きいことにより、車幅方向内側端部13の曲げ剛性を向上することが可能になり、バンパービーム5の座屈を抑制することが可能になる。また、この構成では、車幅方向内側端部13の断面積S1を大きくするだけで、曲げ剛性を部分的に向上することが可能になり、製造コストを抑制することが可能になる。
【0060】
(3)
本実施形態の車両の前部車体構造1では、図10に示されるように、バンパービーム5における車幅方向Yの各位置における車両前後方向Xの幅のうち、クラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13の幅t1が最も大きい。
【0061】
かかる構成によれば、クラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13の車両前後方向Xの幅t1が最も大きいことにより、車幅方向内側端部13の曲げ剛性を向上することが可能になり、バンパービーム5の座屈を抑制することが可能になる。また、この構成では、車幅方向内側端部13の車両前後方向Xの幅t1を厚くするだけで、車両前方X1からの衝突荷重に対する曲げ剛性を部分的に確実に向上することが可能になり、製造コストを抑制することが可能になる。
【0062】
(4)
本実施形態の車両の前部車体構造1では、図7に示されるように、バンパービーム5における車幅方向Yの各位置における高さ(すなわち、上下方向Zの幅)のうち、クラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13の高さが最も大きい。
【0063】
かかる構成によれば、クラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13の高さが最も大きいことにより、車幅方向内側端部13の曲げ剛性を向上することが可能になり、バンパービーム5の座屈を抑制することが可能になる。また、この構成では、車幅方向内側端部13の高さを大きくするだけで、曲げ剛性を部分的に向上することが可能になり、製造コストを抑制することが可能になる。
【0064】
(5)
本実施形態の車両の前部車体構造1では、図3図5図9図11~12に示されるように、バンパービーム5は、当該バンパービーム5の内部において、車幅方向Yに延びるとともにコ字状断面を有する補強部材7を有する。コ字状断面は、当該コ字状断面で区画される面積S2(図9(d)参照)がクラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13と同じ車幅方向Yの位置(図11~12の位置16参照)で最も大きくなるように、形成されている。
【0065】
かかる構成によれば、バンパービーム5がその内部に補強部材7を有する構成において、補強部材7のコ字状断面で区画される面積S2がクラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13と同じ車幅方向Yの位置で最も大きくなっている。これにより、バンパービーム5の車幅方向内側端部13を補強部材7によって補強する効果が最も高くなり、当該車幅方向内側端部13の曲げ剛性を最も向上することが可能になる。その結果、バンパービーム5の座屈をさらに抑制することが可能になる。
【0066】
(6)
本実施形態の車両の前部車体構造1では、図9(a)、(b)に示されるように、バンパービーム5は、車幅方向Yに延びる上面部5aおよび下面部5cを有する。上面部5aおよび下面部5cのうちの少なくとも一方(本実施形態では両方)は、車幅方向Yの両側の車幅方向内側端部13の間において、上下方向に折れ曲がる(言い換えれば、ステップ状に折れ曲がる)とともに車幅方向Yに延びる段差部5e、5fが形成されている。
【0067】
かかる構成によれば、バンパービーム5の上面部5aおよび下面部5cのうちの少なくとも一方は、車幅方向Yの両側の車幅方向内側端部13の間において、上下方向に折れ曲がるとともに車幅方向Yに延びる段差部5e、5fが形成されている。これらの段差部5e、5fによって、バンパービーム5が車幅方向Yにおいて連続的に曲げ剛性が補強されて、バンパービーム5の車幅方向Yにおける隣接する位置間の剛性差を小さくすることが可能になる。その結果、バンパービーム5における応力集中をさらに抑制してバンパービーム5の座屈をさらに抑制することが可能になる。
【0068】
なお、段差部5e、5fは、いずれか一方のみ設けることも可能であるが、上面部5aおよび下面部5cの両方に段差部5e、5fを設けた構成の方が、バンパービーム5を車幅方向Yにおいて連続的に曲げ剛性を補強する効果が高くなるので好ましい。
【符号の説明】
【0069】
1 前部車体構造
2 フロントフレーム
3 クラッシュカン
4 バンパー
5 バンパービーム
7 補強部材
11 クラッシュカン固定部
12 延長部
13 車幅方向内側端部
14 車幅方向外側端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13