IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-圧電デバイス 図1
  • 特許-圧電デバイス 図2
  • 特許-圧電デバイス 図3
  • 特許-圧電デバイス 図4
  • 特許-圧電デバイス 図5
  • 特許-圧電デバイス 図6
  • 特許-圧電デバイス 図7
  • 特許-圧電デバイス 図8
  • 特許-圧電デバイス 図9
  • 特許-圧電デバイス 図10
  • 特許-圧電デバイス 図11
  • 特許-圧電デバイス 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】圧電デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20240326BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G01N29/24
H04R17/00 330G
H04R17/00 330J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020151977
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022046102
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】中川 佑太
(72)【発明者】
【氏名】星野 純一
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-212084(JP,A)
【文献】特開昭60-113597(JP,A)
【文献】再公表特許第2007/145073(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0010125(US,A1)
【文献】特開2016-025611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-G01N 29/52
H04R 17/00-H04R 17/10
H04R 31/00
H04R 1/00-H04R 1/46
H01L 29/84
A61B 8/00-A61B 8/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
IEEE Xplore
ACS PUBLICATIONS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物に対して超音波を発信するとともに該検査対象物において反射された超音波を受信する圧電デバイスであって、
前記検査対象物に対向する対向面を有する弾性素体と、
前記弾性素体の内部に設けられ、前記対向面に対して平行に延在するとともに厚さ方向に伸縮する圧電層と、前記対向面の側とは反対側において前記圧電層に積層された保持層と、を含む積層体と
を備え、
前記圧電層および前記保持層の厚さをそれぞれT、Tとし、前記弾性素体、前記圧電層および前記保持層の引張弾性率をそれぞれE、E、Eとしたときに、下記の式(1)
【数1】

を満たす、圧電デバイス。
【請求項2】
前記積層体が、前記対向面の側において前記圧電層に積層された音響整合層をさらに含む、請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記弾性素体の引張弾性率Eが0.5~1000MPaであり、前記圧電層の引張弾性率Eが3~10GPaであり、前記保持層の引張弾性率Eが2~82.7GPaである、請求項1または2に記載の圧電デバイス。
【請求項4】
前記圧電層が、電気機械結合係数が0.1以上である高分子を含む材料で構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項5】
前記圧電層が、ポリフッ化ビニリデンを含む材料で構成されている、請求項4に記載の圧電デバイス。
【請求項6】
前記圧電層が、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、ニオブ酸リチウム、窒化アルミニウムの少なくとも一つを含む材料で構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の圧電デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検査対象物に対して超音波を発信するとともに検査対象物内において反射された超音波を受信する超音波プローブを備え、超音波プローブで受信した超音波から像を形成する超音波診断装置が知られている。
【0003】
超音波プローブは、通常、検査対象物に対する密着性を高めることで、検査対象物との間の超音波の伝送効率が高まる。そのため、超音波プローブの検査対象物と接触する接触面を、検査対象物の表面形状に合致するように設計して、検査対象物に対する密着性を高めることが考えられる。しかしながら、特定の検査対象物の表面形状に合致するように超音波プローブを設計した場合、超音波プローブの汎用性が低下し、また、時間の経過とともに表面形状が変化する検査対象物(たとえば、人体等)には適さない。
【0004】
下記特許文献1、2には、弾性素体内に圧電層が埋設されたシート状の超音波プローブが開示されている。このような超音波プローブによれば、弾性素体が弾性変形することで、超音波プローブの接触面が検査対象物の表面形状にある程度追従することができ、時間の経過とともに表面形状が変化する検査対象物にも適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6139136号公報
【文献】米国特許出願公開第2019/0328354号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術に係る圧電デバイスにおいては、検査対象物の表面形状に追従するように超音波プローブの弾性素体が変形すると、弾性素体内の圧電層が曲げ変形が生じ、その結果、超音波の照射エリアが変化してしまう。
【0007】
本発明は、圧電層の曲げ変形が抑制された圧電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る圧電デバイスは、検査対象物に対して超音波を発信するとともに該検査対象物において反射された超音波を受信する圧電デバイスであって、検査対象物に対向する対向面を有する弾性素体と、弾性素体の内部に設けられ、対向面に対して平行に延在するとともに厚さ方向に伸縮する圧電層と、対向面の側とは反対側において圧電層に積層された保持層と、を含む積層体とを備え、圧電層および保持層の厚さをそれぞれT、Tとし、弾性素体、圧電層および保持層の引張弾性率をそれぞれE、E、Eとしたときに、下記の式(1)
【数1】

を満たす。
【0009】
発明者らは、式(1)を満たす圧電デバイスによれば、圧電層の曲げ変形が有意に抑制できることを見出した。
【0010】
他の形態に係る圧電デバイスでは、積層体が、対向面の側において圧電層に積層された音響整合層をさらに含む。
【0011】
他の形態に係る圧電デバイスでは、弾性素体の引張弾性率Eが0.5~1000MPaであり、圧電層の引張弾性率Eが0.1~10GPaであり、保持層の引張弾性率Eが2~82.7GPaである。
【0012】
他の形態に係る圧電デバイスでは、圧電層が、電気機械結合係数が0.1以上である高分子を含む材料で構成されている。
【0013】
他の形態に係る圧電デバイスでは、圧電層が、ポリフッ化ビニリデンを含む材料で構成されている。
【0014】
他の形態に係る圧電デバイスでは、圧電層が、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、ニオブ酸リチウム、窒化アルミニウムの少なくとも一つを含む材料で構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧電層の曲げ変形が抑制された圧電デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態に係る圧電デバイスの概略断面図である。
図2図2は、圧電層に曲げ変形が生じたときの様子を示した図である。
図3図3は、異なる形態の圧電デバイスを示した概略断面図である。
図4図4は、異なる形態の圧電デバイスを示した概略断面図である。
図5図5は、異なる形態の圧電デバイスを示した概略断面図である。
図6図6は、異なる形態の圧電デバイスを示した概略断面図である。
図7図7は、異なる形態の圧電デバイスを示した概略断面図である。
図8図8は、異なる形態の圧電デバイスを示した概略断面図である。
図9図9は、異なる形態の圧電デバイスを示した概略断面図である。
図10図10は、異なる形態の圧電デバイスを示した概略断面図である。
図11図11は、実施例に係る試料を示した表である。
図12図12は、比較例に係る試料を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0018】
図1に示すように、圧電デバイス10は、弾性素体20と、弾性素体20の内部に設けられ積層体30とを備えて構成されている。実施形態に係る圧電デバイス10は、超音波診断装置に用いられる超音波プローブである。圧電デバイス10は、検査対象物1に対して超音波を発信するとともに、検査対象物1内において反射された超音波を受信する。
【0019】
弾性素体20は、シート状の外形形状を有し、検査対象物1と接触する接触面20a(対向面)と、接触面20aの反対に位置する上面20bとを有する。接触面20aは、検査対象物1に対向する対向面であり、検査対象物1の表面に直接的に(または間接的に)接触する。弾性素体20は、たとえばポリエステル、シリコーンゴム等で構成される。弾性素体20は、たとえばモールド成形で得ることができる。弾性素体20の構成材料は、0.5~1000MPaの引張弾性率(E)を有する。本実施形態において、弾性素体20は、平面視において矩形状を呈する。
【0020】
積層体30は、圧電層32と、保持層34と、音響整合層36とを含んで構成されている。積層体30の各層32、34、36は、圧電デバイス10の厚さ方向(図1の上下方向)に沿って積層されている。積層体30の各層32、34、36は、たとえば塗布成形や貼り合わせによって形成される。積層体30は、上下面を含む全面が、弾性素体20により覆われている。
【0021】
圧電層32は、たとえば有機圧電材料や圧電セラミックス等の圧電材料で構成される。圧電層32を構成する有機圧電材料は、電気機械結合係数が0.1以上である高分子を含む材料であることが好ましく、たとえばポリフッ化ビニリデン(PVDF)である。圧電層32を構成する圧電セラミックスは、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、ニオブ酸リチウム、窒化アルミニウムの少なくとも一つを含む材料で構成される。圧電層32の構成材料は、3~10GPaの引張弾性率(E)を有する。本実施形態において、圧電層32は、平面視において10mm×10mmの矩形状を呈し、弾性素体20の接触面20aに対して平行に延在している。圧電層32は、実質的に均一な厚さを有し、その厚さ(T)はたとえば10~5000μm(一例として100μm)である。圧電層32の上下両側には図示しない一対の電極層が設けられており、一対の電極層の間にパルス電圧が繰り返し印加されたときに、圧電層32はその厚さ方向に伸縮を繰り返すように発振して、超音波を出力する。
【0022】
保持層34は、圧電層32を保持する層であり、圧電層32の上側(すなわち、接触面20aの側とは反対側)に積層されている。保持層34は、たとえばポリアミド樹脂やメタクリル樹脂等の樹脂材料、または、はんだによって構成される。保持層34の構成材料は、2~82.7GPaの引張弾性率(E)を有する。本実施形態において、保持層34は、平面視において圧電層32と同一形状(すなわち、矩形状)および同一寸法を有する。保持層34は、実質的に均一な厚さを有し、その厚さ(T)はたとえば10~20000μm(一例として360μm)である。
【0023】
音響整合層36は、検査対象物1への超音波の入射効率を上げるための層であり、圧電層32の下側(すなわち、接触面20aの側)に積層されている。音響整合層36は、たとえばポリスチレン等の樹脂材料によって構成される。本実施形態において、音響整合層36は、平面視において圧電層32と同一形状(すなわち、矩形状)および同一寸法を有する。音響整合層36は、実質的に均一な厚さを有し、その厚さ(T)はたとえば2~1000μm(一例として20μm)である。
【0024】
発明者らは、下記の式(1)を満たす圧電デバイス10によれば、圧電層32の曲げ変形が有意に抑制できることを見出した。圧電デバイス10では、保持層34が、圧電層32の曲げ変形の抑制に寄与していると考えられる。
【数2】
【0025】
図2は、圧電層32に曲げ変形が生じたときの様子を示している。図2に示すように、検査対象物1の表面が圧電デバイス10側に向かって突出するように湾曲している場合、弾性素体20は、検査対象物1の表面形状に追従するように弾性変形する。このとき、弾性素体20の内部に設けられた圧電層32には、弾性素体20の接触面20a側から上面20b側に向かって突出するような曲げ変形が生じる。
【0026】
図2に示すような曲げ変形が圧電層32に生じた場合には、圧電層32から発信される超音波の照射エリアAが収束し(すなわち、検査対象物1の内部に向かうに従って漸次狭くなり)、その結果、検査領域が狭まってしまう。
【0027】
反対に、圧電層32に、弾性素体20の上面20b側から接触面20a側に向かって突出するような曲げ変形(図2に示した曲げ変形とは逆の曲げ変形)が生じた場合には、圧電層32から発信される超音波の照射エリアAが発散し(すなわち、検査対象物1の内部に向かうに従って漸次拡大し)、その結果、圧電層32において検査対象物1内で反射された超音波を受信することができなくなる。
【0028】
上述した圧電デバイス10では、圧電層32の曲げ変形が抑制されることで、超音波の収束および発散が抑制され、超音波の送受信を適切におこなうことができる。
【0029】
圧電デバイス10は、上記の式(1)を満たす限りにおいて、様々な形態をとり得る。圧電デバイス10の変形例を図3~10に示す。
【0030】
図3に示した圧電デバイス10Aは、圧電デバイス10とは、音響整合層36を備えない点で異なる。すなわち、圧電デバイスは、必要に応じて音響整合層を省略することができる。
【0031】
図4に示した圧電デバイス10Bは、圧電デバイス10とは、圧電層32の幅Wに比べて保持層34の幅Wが狭い点で異なる。図5に示した圧電デバイス10Cは、圧電デバイス10Bとは、保持層34がさらに薄膜化されている点で異なる。
【0032】
図6に示した圧電デバイス10Dは、圧電デバイス10とは、圧電層32の幅Wに比べて保持層34の幅Wが広い点でのみ異なる。図7に示した圧電デバイス10Eは、圧電デバイス10とは、圧電層32の幅Wに比べて音響整合層36の幅Wが広い点でのみ異なる。図8に示した圧電デバイス10Fは、圧電デバイス10とは、圧電層32の幅Wに比べて、保持層34の幅Wおよび音響整合層36の幅Wが広い点でのみ異なる。圧電デバイス10Fにおいて、保持層34の幅Wと音響整合層36の幅Wとは同じであってもよく、異なっていてもよい。図9に示した圧電デバイス10Gは、圧電デバイス10とは、圧電層32の幅Wに比べて、保持層34の幅Wが狭く、かつ、音響整合層36の幅Wが広い点で異なる。
【0033】
図10に示した圧電デバイス10Hは、圧電デバイス10とは、積層体30が上面20b側に偏倚している点で異なる。圧電デバイス10Hでは、積層体30と接触面20aとの離間距離は積層体30と上面20bとの離間距離より長くなっている。なお、積層体30と接触面20aとの離間距離d(すなわち、積層体30の接触面20a側における弾性素体20の厚さ)は、超音波の減衰を抑える観点からは、短いほうが好ましい。積層体30と接触面20aとの離間距離dは、たとえば10~2000μmである。
【実施例
【0034】
発明者らは、圧電層および保持層のそれぞれの厚さ、および、弾性素体、圧電層および保持層のそれぞれの引張弾性率が、圧電層の曲げ変形に及ぼす影響を確認する実験をおこなった。具体的には、上述した圧電デバイス10(または圧電デバイス10A)と同じ構成を有し、かつ、各層の構成材料および膜厚が異なる複数の試料それぞれについて、曲率半径を求めた。各試料の構成材料および膜厚は、図11、12に示したとおりである。なお、本実施例における弾性素体の膜厚は、上述した離間距離d(積層体と接触面との離間距離)に相当する。また、各試料の平面視における寸法を、圧電層10mm×10mm、弾性素体20mm×20mmとした。
【0035】
(実施例1~11)
実施例1~11に係る各試料は、ポリフッ化ビニリデン(1)(図11の表におけるPVDF1)で構成された圧電層を備える。実施例1~11に係るポリフッ化ビニリデン(1)は、2.1GPaの引張弾性率を有する。
【0036】
実施例1~4に係る各試料は、圧電層に加え、音響整合層、弾性素体および保持層を備える。実施例1~4に係る試料においては、音響整合層、弾性素体および保持層はいずれも同一材料で構成されており、音響整合層はポリスチレン(引張弾性率2.7GPa)で構成され、弾性素体はポリエステルで構成され、保持層はポリアミドで構成されている。実施例1~4に係るポリエステルは、東レデュポン社製のポリエステル(型番:ハイトレイル3046)であり、その引張弾性率は0.019GPaである。実施例1~4に係るポリアミドは、ユニチカ社製のポリアミド(型番:RUN35-C25)であり、その引張弾性率は18.4GPaである。
【0037】
実施例1~4に係る試料においては、圧電層、音響整合層、弾性素体および保持層は互いに異なる膜厚を有する。すなわち、実施例1に係る圧電層、音響整合層、弾性素体、保持層の膜厚はそれぞれ42μm、10μm、20μm、125μmである。実施例2に係る圧電層、音響整合層、弾性素体、保持層の膜厚はそれぞれ100μm、25μm、50μm、375μmである。実施例3に係る圧電層、音響整合層、弾性素体、保持層の膜厚はそれぞれ400μm、250μm、400μm、400μmである。実施例4に係る圧電層、音響整合層、弾性素体、保持層の膜厚はそれぞれ2000μm、1250μm、1000μm、1000μmである。
【0038】
実施例5に係る試料は、圧電層に加え、弾性素体および保持層を備える。実施例5に係る試料は、音響整合層を備えないこと以外は実施例3に係る試料と同じ構成である。
【0039】
実施例6~8に係る各試料は、圧電層に加え、音響整合層、弾性素体および保持層を備える。実施例6~8に係る試料においては、音響整合層および保持層はいずれも同一材料で構成されており、音響整合層はポリスチレン(引張弾性率2.7GPa)で構成され、保持層はポリアミド(引張弾性率18.4GPa)で構成されている。実施例6~8に係る試料においては、音響整合層の膜厚はいずれも25μmであり、保持層の膜厚はいずれも500μmである。
【0040】
実施例6~8に係る試料においては、弾性素体の膜厚は同一(50μm)であり、弾性素体の構成材料が互いに異なる。実施例6に係る試料において、弾性素体はポリアミドエラストマーで構成されている。実施例6に係るポリアミドエラストマーは、ダイセル社製のポリアミドエラストマー(型番:E40-S1)であり、その引張弾性率は80MPaである。実施例7に係る試料において、弾性素体はポリイミドシリコーンで構成されている。実施例7に係るポリイミドシリコーンは、信越化学社製のポリイミドシリコーン(型番:SMP-7004)であり、その引張弾性率は160MPaである。実施例8に係る試料において、弾性素体はポリオレフィンで構成されている。実施例8に係るポリオレフィンは、住友化学社製のポリオレフィン(型番:S131)であり、その引張弾性率は650MPaである。
【0041】
実施例9~11に係る各試料は、圧電層に加え、音響整合層、弾性素体および保持層を備える。実施例9~11に係る試料においては、音響整合層および弾性素体はいずれも同一材料で構成されており、音響整合層はポリスチレン(引張弾性率2.7GPa)で構成され、弾性素体はポリエステル(引張弾性率0.019GPa)で構成されている。実施例9~11に係る試料においては、音響整合層の膜厚はいずれも25μmであり、弾性素体の膜厚はいずれも50μmである。
【0042】
実施例9~11に係る試料においては、保持層が互いに異なる。実施例9に係る試料において、保持層はメタクリル樹脂で構成されており、その膜厚は400μmである。実施例9に係るメタクリル樹脂は、旭化成グループ社製のメタクリル樹脂(型番:デグラスA)であり、その引張弾性率は3.2GPaである。実施例10に係る試料において、保持層はエポキシ樹脂で構成されており、その膜厚は400μmである。実施例10に係るエポキシ樹脂は、セメダイン社製のエポキシ樹脂(型番:EP811)であり、その引張弾性率は6.6GPaである。実施例11に係る試料において、保持層ははんだで構成されており、その膜厚は100μmである。実施例11に係るはんだは、ハリマ化成社製のはんだ(型番:PS48BR-600-LSP)であり、その引張弾性率は51GPaである。
【0043】
(実施例12~15)
実施例12~15に係る試料は、圧電層に加え、音響整合層、弾性素体および保持層を備える。実施例12~15に係る圧電層は、互いに異なり、かつ、実施例1~11に係る圧電層とも異なる。
【0044】
実施例12に係る試料において、圧電層はポリフッ化ビニリデン(2)(図11の表におけるPVDF2)で構成されている。実施例12に係るポリフッ化ビニリデン(2)は、0.38GPaの引張弾性率を有する。実施例12に係る圧電層の膜厚は100μmである。実施例12に係る試料において、音響整合層はポリスチレン(引張弾性率2.7GPa)で構成されており、その膜厚は20μmである。実施例12に係る試料において、弾性素体はポリエステル(引張弾性率0.019GPa)で構成されており、その膜厚は50μmである。実施例12に係る試料において、保持層はポリアミド(引張弾性率18.4GPa)で構成されており、その膜厚は200μmである。
【0045】
実施例13に係る試料において、圧電層はセラミックスを含む材料で構成されている。実施例13に係るセラミックスは、ポリフッ化ビニリデン(1)とチタン酸ジルコン酸鉛との混合物(引張弾性率3.5GPa)で構成されており、チタン酸ジルコン酸鉛の含有率は58wt%である。実施例13に係る圧電層の膜厚は150μmである。実施例13に係る試料において、音響整合層はポリスチレン(引張弾性率2.7GPa)で構成されており、その膜厚は40μmである。実施例13に係る試料において、弾性素体はポリイミドシリコーン(引張弾性率0.16GPa)で構成されており、その膜厚は50μmである。実施例13に係る試料において、保持層はポリアミド(引張弾性率18.4GPa)で構成されており、その膜厚は300μmである。
【0046】
実施例14に係る試料において、圧電層はセラミックスを含む材料で構成されている。実施例14に係るセラミックスは、ポリフッ化ビニリデン(1)とチタン酸バリウムとの混合物(引張弾性率3.0GPa)で構成されており、チタン酸バリウムの含有率は10wt%である。実施例14に係る圧電層の膜厚は65μmである。実施例14に係る試料において、音響整合層はポリスチレン(引張弾性率2.7GPa)で構成されており、その膜厚は16μmである。実施例14に係る試料において、弾性素体はポリイミドシリコーン(引張弾性率0.16GPa)で構成されており、その膜厚は100μmである。実施例14に係る試料において、保持層はエポキシ樹脂(引張弾性率6.6GPa)で構成されており、その膜厚は300μmである。
【0047】
実施例15に係る試料において、圧電層はセラミックスを含む材料で構成されている。実施例15に係るセラミックスは、エポキシ樹脂とチタン酸ジルコン酸鉛との混合物(引張弾性率11GPa)で構成されており、チタン酸ジルコン酸鉛の含有率は69wt%である。実施例15に係る圧電層の膜厚は100μmである。実施例15に係る試料において、音響整合層はポリスチレン(引張弾性率2.7GPa)で構成されており、その膜厚は25μmである。実施例15に係る試料において、弾性素体はポリイミドシリコーン(引張弾性率0.16GPa)で構成されており、その膜厚は100μmである。実施例15に係る試料において、保持層はエポキシ樹脂(引張弾性率6.6GPa)で構成されており、その膜厚は500μmである。
【0048】
(比較例1~3)
比較例1~3に係る各試料は、実施例1~11同様、ポリフッ化ビニリデン(1)で構成された圧電層を備える。比較例1~3に係る圧電層の膜厚は100μmである。比較例1~3に係る各試料は、圧電層に加え、音響整合層、弾性素体および保持層を備える。比較例1~3に係る音響整合層は、ポリスチレン(引張弾性率2.7GPa)で構成されており、その膜厚は25μmである。
【0049】
比較例1に係る弾性素体は、実施例8に係る弾性素体の構成材料と同じポリオレフィン(引張弾性率0.65GPa)で構成されており、その膜厚は50μmである。比較例1に係る保持層は、実施例1~8に係る保持層の構成材料と同じポリアミド(引張弾性率18.4GPa)で構成されており、その膜厚は100μmである。比較例1に係る試料は、実施例8に係る試料とは、保持層の膜厚のみ異なる。
【0050】
比較例2に係る弾性素体は、シリコーンゴムで構成されており、その膜厚は50μmである。比較例2に係るシリコーンゴムは、信越化学社製のシリコーンゴム(型番:KER-4301)であり、その引張弾性率は2.5GPaである。比較例2に係る保持層は、実施例1~8、12、13に係る保持層の構成材料と同じポリアミド(引張弾性率18.4GPa)で構成されており、その膜厚は125μmである。比較例2に係る試料は、実施例6~8に係る試料とは、弾性素体の構成材料および保持層の膜厚のみ異なる。
【0051】
比較例3に係る弾性素体は、ポリエステル(引張弾性率0.019GPa)で構成されており、その膜厚は50μmである。比較例3の保持層は、実施例9に係る保持層の構成材料と同じメタクリル樹脂(引張弾性率3.2GPa)で構成されており、その膜厚は50μmである。比較例3に係る試料は、実施例2に係る試料とは、保持層の構成材料および膜厚のみ異なる。
【0052】
(比較例4)
比較例4に係る試料は、実施例13に係る試料同様、ポリフッ化ビニリデン(1)とチタン酸ジルコン酸鉛との混合物(引張弾性率3.5GPa)で構成された圧電層を備える。比較例4に係る圧電層の膜厚は150μmである。比較例4に係る試料は、圧電層に加え、音響整合層、弾性素体および保持層を備える。比較例4に係る音響整合層は、ポリスチレン(引張弾性率2.7GPa)で構成されており、その膜厚は40μmである。比較例4に係る弾性素体は、比較例2に係る弾性素体の構成材料と同じシリコーンゴム(引張弾性率2.5GPa)で構成されており、その膜厚は50μmである。比較例4に係る保持層は、実施例1~8、12、13に係る保持層の構成材料と同じポリアミド(引張弾性率18.4GPa)で構成されており、その膜厚は300μmである。比較例4に係る試料は、実施例13に係る試料とは、弾性素体の構成材料のみ異なる。
【0053】
上述した実施例1~15および比較例1~4に係る各試料を、曲率半径30mmの湾曲した表面形状を有する検査対象物に貼り付けたときの圧電層の曲率半径を側面方向からの形状観察により求めた。具体的には、円筒状を有する検査対象物の外周曲面に各試料を貼り付けてエポキシ樹脂中に封入した供試体を準備し、供試体を研磨することにより各試料の中心断面を露出させた。そして、露出した試料の中心断面を光学顕微鏡で観察して、圧電層下面における複数の特徴点の座標を取得し、複数の特徴点の座標から圧電層の曲率半径を得た。
【0054】
検査対象物の曲率半径を30mmとしたのは、たとえば前腕や上腕などの湾曲した表面形状の曲率半径を想定してのことである。圧電デバイス(実施形態における超音波プローブ)が装着されると考えられる前腕や上腕の曲率半径は約30mmであるため、検査対象物の曲率半径は30mmで妥当であると考えた。また、このとき、圧電層の曲率半径が50mm以上であれば、圧電層から放射した超音波は、検査対象物の外周曲面における試料が貼付された貼付面から貼付面と対向する面まで収束することはなく伝搬し、十分な深度まで超音波を伝搬させることが可能である。従って、圧電層の曲率半径が50mm以上であれば圧電層の変形を抑制できると判断した。
【0055】
上記の式(1)を満たす実施例1~15に係る試料では、圧電層の曲率半径がいずれも50mm以上であった。一方、式(1)を満たさない比較例1~4に係る試料では、圧電層の曲率半径がいずれも50mmより小さかった。この結果から、式(1)を満たす圧電デバイスでは圧電層の曲げ変形が有意に抑制されることがわかった。また、実施例6~8の比較から、弾性素体の引張弾性率が小さいほど、圧電層の曲率半径が大きくなる(すなわち、曲げ変形が抑制される)ことがわかった。さらに、実施例9~11の比較から、保持層の引張弾性率が大きいほど、圧電層の曲率半径が大きくなることがわかった。
【0056】
なお、本発明は、上述した実施形態に限らず、様々な態様をとり得る。たとえば、圧電デバイスは、超音波プローブに限らず、たとえば圧力センサー等であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
10、10A~10H…圧電デバイス、20…弾性素体、20a…接触面、30…積層体、32…圧電層、34…保持層、36…音響整合層。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12