(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】インパクト工具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/02 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
B25B21/02 G
(21)【出願番号】P 2020165413
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村上 卓宏
(72)【発明者】
【氏名】中澤 茉奈美
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-188612(JP,A)
【文献】特開2014-069266(JP,A)
【文献】特開2002-046078(JP,A)
【文献】実開平03-055161(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0038816(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B21/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータによって駆動される打撃機構と、
前記モータ及び前記打撃機構を収容するインパクト工具であって、
前記打撃機構は、
回転方向に駆動されるスピンドルと、
前記スピンドルに対して所定の範囲内で軸方向及び回転方向に相対的に移動可能であってカム機構とスプリングによって前方に付勢されるハンマと、
前記ハンマの前方において回転可能に設けられ、前記ハンマが前方に移動しながら回転したときに前記ハンマによって打撃されるアンビルと、
前記ハンマの後方への移動を制限するストッパと、を有し、
前記ハンマは前記ハンマの後部に第1の段差部を有し、前記スピンドルは前記ストッパを保持する第1の規制
部を有し、前記ハンマが後方に移動したときに前記第1の段差部が前記ストッパを圧縮した状態で前記第1の規制
部に接触するよう構成し、及び/又は、
前記ハンマは前記ハンマの後部に第2の段差部を有し、前記打撃機構は前記スピンドルと前記スプリングの間に挟まれるように設けられた第2の規制部材を有し、前記第2の規制部材が前方に移動したときに前記第2の規制部材が前記スプリングを圧縮した状態で前記第2の段差部に接触するよう構成した、
ことを特徴とするインパクト工具。
【請求項2】
前記第1の段差部は、前記ハンマが前記アンビルを打撃してから後方に移動した際に、前記第1の規制
部と接触することを特徴とする請求項1に記載のインパクト工具。
【請求項3】
前記ハンマは、内側筒部と、外側筒部と、前記内側筒部と前記外側筒部の前端を接続する接続部を有し、
前記内側筒部に前記第1の段差部が形成され、又は/及び、
前記外側筒部に前記第2の段差部が形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のインパクト工具。
【請求項4】
前記第2の規制部材はリング状であって、
前記第2の規制部材と前記外側筒部が軸線方向にオーバーラップすることを特徴とする請求項3に記載のインパクト工具。
【請求項5】
前記第2の規制部材は、前方に延出する円筒部を有し、前記円筒部は前記第2の段差部と接触することを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のインパクト工具。
【請求項6】
前記第1の
規制部は、前記スピンドルに設けられ、前記ハンマが後退した際に係合可能な突起であることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載のインパクト工具。
【請求項7】
前記突起と前記第1の段差部の係合状態において、
前記スピンドルの前記ハンマの前記第1の段差部と対向する前面部と前記第1の段差部との間にはすき間があり、
前記すき間は、前記ストッパの所定以上の圧縮を抑制する機能を果たすことを特徴とする請求項6に記載のインパクト工具。
【請求項8】
前記第1の段差部は、前記スピンドル側と接触する面が凹むように形成された段差であることを特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載のインパクト工具。
【請求項9】
前記ストッパは、前記ハンマが第1後退量だけ後退したときに前記スピンドルと前記ハンマの間で挟まれるよう構成され、
前記第1の
規制部は、前記ハンマが前記第1後退量よりも大きい第2後退量だけ後退したときに前記ハンマに当たるよう構成され、
前記モータを回転させて先端工具でねじを締め付ける際に、前記ハンマが前記第2後退量まで後退するよう構成したことを特徴とする請求項1から8の何れか一項に記載のインパクト工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネジやボルト等の締結具を締め付けるためのインパクト工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ネジ等を締め付けるための打撃工具として、モータにより回転打撃機構部を駆動し、アンビルに回転と打撃を与えることによって先端工具に回転打撃力を間欠的に伝達してネジ締め等の作業を行うインパクト工具が知られている。インパクト工具は、モータと、モータに接続された動力伝達機構と、動力伝達機構に接続された先端工具を備えている。作業者が、先端工具をネジなどの締結具に接続し、モータを回転させることによって、インパクト工具は、打撃を伴いながら締結具を締め付ける。このようなインパクト工具として、特許文献1の技術が知られている。特許文献1では、動力伝達機構として、回転力を回転方向の打撃力に変換する打撃機構を有し、打撃機構には、スピンドルの後方の遊星キャリア部の前面に、ハンマの後退時にハンマ後端部と接触する弾性体を設け、防振・防音を図ることが開示されている。ここで
図10を用いて従来のインパクト工具101の構造を説明する。
【0003】
図10は従来のインパクト工具101を示す図であり、(A)は胴体部の部分縦断面図である。インパクト工具101のハウジング2は、モータや動力伝達機構を収容するための略円筒状の筒状の胴体部2aを有する。胴体部2aの前方側の開口部は金属製のハンマケース5に接続される。モータ3は胴体部2aの後方側に収容される。モータ3の回転軸4は胴体部2aの回転軸線A1と同心に配置され、前側及び後側において2つの軸受16a、16bによってハウジング2に軸支される。ステータ3bの後方側には、3つの位置検出素子13や6つの半導体スイッチング素子14等を搭載するための略円環状のインバータ回路基板12が配置される。
【0004】
ハンマケース5は、内部に減速機構20と打撃機構(打撃機構部)125を収容するものであって、ハウジング2の胴体部2aの前方側に設けられる。打撃機構125は遊星歯車による減速機構20の出力側に設けられるもので、スピンドル130とハンマ140を備え、後端が軸受18b、前端が軸受18aにより回転可能に保持される。減速機構20は、モータ3の回転軸4の先端に固定されるサンギヤ21と、サンギヤ21の外周側に距離を隔てて取り囲むように設けたリングギヤ23と、サンギヤ21とリングギヤ23の間の空間に配置され、これら双方のギヤに噛み合わされる複数のプラネタリーギヤ22を含んで構成される。リングギヤ23は、アウターギヤとも呼ばれるもので、リング状部材の内周面にギヤが形成される。リングギヤ23はハウジング2によってその外周面が保持されるもので、リングギヤ23自体は回転しない。
【0005】
スピンドル130とハンマ140とはカム機構によって連結される。カム機構は、スピンドル130の外周面に形成されたV字状のスピンドルカム溝133と、ハンマ140の内周面に形成されたハンマカム溝144と、これらのカム溝133、144に係合する2つのカムボール36によって構成される。ハンマ140は、ハンマスプリング29によって常に前方に付勢される。ハンマ140はスピンドル130に対して軸線A1を中心として所定の角度だけ相対回転が可能であり、かつ、軸方向にも相対移動が可能である。
図10(A)の状態はスピンドル130に対してハンマ140が最も前側に位置している状態である。
【0006】
図10(B)は、ハンマ140が最も後方側の位置まで後退した状態を示す部分断面図である。ハンマスプリング29は圧縮スプリングであり、その前方側には複数のスチールボール27が前側ワッシャ28に押さえられた状態で配置され、その後方側は段差付きのワッシャ160によってスピンドル130のフランジ部137にて保持される。ワッシャ160の内周側においては、中央をハンマ140の内側の筒状部分141の後端部が貫通できるようにくり抜き孔163(符号は後述の
図11参照)が形成される。段差付きのワッシャ160の内周側にゴム等の弾性体で構成されるストッパゴム39が配置され、ハンマ140の最大後退時におけるハンマ140とフランジ部137との衝突による衝撃を抑制する。ハンマ140とフランジ部137との衝突を回避するようにすれば、スピンドルカム溝133内においてカムボール36が端部に衝突することも回避できる。
【0007】
図11は従来のアンビル50とハンマ140とスピンドル130の展開斜視図である。ここでは、ハンマスプリング29とストッパゴム39の図示を省略している。インパクト工具101の打撃機構は、ハンマ140、アンビル50、スピンドル130、カム機構(133、36、144等)、ハンマスプリング29(
図10参照)、ストッパゴム39(
図10参照)、ワッシャ160を含んで構成される。前方側からアンビル50、ハンマ140、スピンドル130が同軸に配置され、ハンマ140とスピンドル130は、ハンマカム溝144とスピンドルカム溝133の間に介在する2つのカムボール36により保持される。
【0008】
アンビル50はインパクト工具1の出力軸を形成すると共に、ハンマ140の被打撃部を形成するものであって、出力軸と被打撃部が一体に形成される。アンビル50は金属の鋳造又は鍛造後に切削加工をすることにより製造され、その円筒形の出力軸部51の後方に、3つの羽根部56~58(図では58は見えない)による被打撃爪が形成されたものである。出力軸部51の前側端部から内側部分には、断面形状が六角形であって先端工具を装着するための装着孔53が形成される。装着孔53が形成される細径部51bには装着機構70(
図10参照)が取り付けられる。出力軸部51の外周側は研磨された円筒面とされ、ニードル式の軸受18a(
図10参照)が配置される。羽根部56~58は、回転方向に見て120度ずつ隔てるように均等に配置され、径方向外側に伸びるように配置される。羽根部56~58の回転方向の側面は、ハンマ140の打撃爪によって締め付け方向の回転時に打撃される被打撃面(56a、57a等)と、その反対側に形成され緩め方向の回転時に打撃される被打撃面(56b、57b等)が形成される。被打撃部の後方側には、円筒状の軸部55が形成され、軸部55がスピンドル130の嵌合孔132に係合することよってアンビル50とスピンドル130が相対回転可能な状態で接続される。
【0009】
ハンマ140はアンビル50を打撃する部材であって、ハンマ140の前面の外周側の3カ所には、軸方向の前方側(アンビル50側)に突出する3つの打撃爪146~148が形成される。打撃爪146~148は、回転方向に見てその中心位置が回転角で120度ずつ隔てるように均等に配置される。打撃爪146~148には、アンビル50の3つの羽根部56~58と衝突時に良好に面接触するように打撃面が形成される。ハンマ140は外筒部141と内筒部143(符号は
図10(B)参照)の前面を、前面連結部142により接続された形状とされ、内筒部143の内周側であって、スピンドル130のスピンドルカム溝133と対向する位置には、ハンマカム溝144が形成される。ハンマカム溝144は、ハンマ140の内周面を平面に展開した際に略台形状の輪郭を有する窪みであって、スピンドルカム溝133と共にカムボール36の動きを制限する空間を形成する。ハンマ140の内周面の周方向の一箇所において、隣接するハンマカム溝144の辺部を分離する壁部45が形成される。壁部145は前端側のスピンドル130の外周面と隣接又は当接する箇所となり、ハンマカム溝144の前端側の一部には、組立時にハンマカム溝144内にカムボール36を挿入するための挿入溝144aが形成される。
【0010】
スピンドル130の円柱部分、即ちスピンドル軸部131の外周面には、スピンドルカム溝133が2つ形成される。スピンドルカム溝133は、ハンマ140の内周面に形成されたハンマカム溝144に対向する位置に設けられる。スピンドル130とハンマ140は、スピンドルカム溝133とハンマカム溝144によって所定の空間が形成されるように組み合わされる。カム機構によってハンマ140はスピンドル130とほぼ連動するように回転する。
【0011】
スピンドル軸部131の後方側には、減速機構20の遊星キャリア部となるフランジ部137、138が形成される。フランジ部137は回転軸線A1(符号は
図10参照)とは直交する円盤状であって、回転方向には均等間隔で3つの嵌合穴137a~137cが形成される。フランジ部137と所定の距離を隔てて後方側には、フランジ部137と平行となるように円盤状のフランジ部138が設けられる。フランジ部138にも回転方向には均等間隔で3つの嵌合穴138a~138c(図では138aしか見えない)が形成され、フランジ部137の嵌合穴137a~137cと共に、プラネタリーギヤ22を軸支するシャフトを固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の構成では、打撃機構の組立時にハンマスプリング29を圧縮させるようにワッシャ160を前方(ハンマ側)に移動させるが、この移動の際にワッシャ160の移動範囲の規制を行っていないため、ワッシャ160の前方側への移動に伴って圧縮されたハンマスプリングが密着高さを超えて圧縮されることが起こり、打撃機構が破損する虞があった。また、インパクト工具を用いた作業時の打撃によって、ハンマ140のスピンドル130に対する後退量が、弾性体たるストッパゴム39の許容圧縮量を超えると、ストッパゴム39の劣化が起こり、打撃機構が破損する虞があった。
【0014】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、打撃機構の耐久性を一層向上させたインパクト工具を提供することにある。
本発明の他の目的は、ワッシャとハンマの接触によるハンマスプリングの破損防止を図ったインパクト工具を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、スピンドルとハンマの接触によるストッパの破損防止を図ることにより打撃機構の耐久性を向上させたインパクト工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、モータと、モータによって駆動される打撃機構と、モータ及び打撃機構を収容するインパクト工具であって、打撃機構は、回転方向に駆動されるスピンドルと、スピンドルに対して所定の範囲内で軸方向及び回転方向に相対的に移動可能であってカム機構とスプリングによって前方に付勢されるハンマと、ハンマの前方において回転可能に設けられ、ハンマが前方に移動しながら回転したときにハンマによって打撃されるアンビルと、ハンマの後方への移動を制限するストッパと、を有する。(1)ハンマは後部に第1の段差部を有し、スピンドルはストッパを保持する第1の規制部を有し、ハンマが後方に移動したときに第1の段差部がストッパを圧縮した状態で第1の規制部に接触するよう構成する。第1の段差部は、ハンマがアンビルを打撃してから後方に移動した際に、第1の規制部と接触するように構成される。(1)の構成に替えて、又は、(1)の構成に加えて、(2)ハンマは後部に第2の段差部を有し、打撃機構はスピンドルとスプリングの間に挟まれるように設けられた第2の規制部材を有し、第2の規制部材が前方に移動したときに第2の規制部材がスプリングを圧縮した状態で第2の段差部に接触するよう構成した。
【0016】
本発明の他の特徴によれば、ハンマは、内側筒部と、外側筒部と、内側筒部と外側筒部の前端を接続する接続部を有し、(3)内側筒部に第1の段差部が形成されるか、又は/及び、(4)外側筒部に第2の段差部が形成されるように構成した。第2の規制部材はリング状であって、第2の規制部材と外側筒部が軸線方向にオーバーラップするように構成される。また、第2の規制部材は、前方に延出する円筒部を有し、円筒部は第2の段差部と接触するように構成される。第1の規制部はスピンドルに設けられ、ハンマが後退した際に係合可能な突起で構成される。
【0017】
本発明のさらに他の特徴によれば、突起と第1の段差部の係合状態において、スピンドルのハンマの第1の段差部と対向する前面部と第1の段差部との間にはすき間があり、すき間は、ストッパの所定以上の圧縮を抑制する機能を果たす。第1の段差部はスピンドル側と接触する面が凹むように形成された段差である。また、ストッパは、ハンマが第1後退量だけ後退したときにスピンドルとハンマの間で挟まれるよう構成され、第1の規制部は、ハンマが第1後退量よりも大きい第2後退量だけ後退したときにハンマに当たるよう構成され、モータを回転させて先端工具でねじを締め付ける際にハンマが第2後退量まで後退するよう構成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ハンマスプリング後方のワッシャの形状を変更して、ハンマの後退時にワッシャとハンマが当接するように構成したので、打撃機構の破損を大幅に抑制することが可能である。また、ワッシャとハンマの近接を制限できるため、ハンマスプリングの過圧縮を抑制することが可能となり、組み立て製造時におけるハンマスプリングの破損、へたりを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施例のインパクト工具1の全体構造を示す縦断面図である。
【
図3】
図1の打撃機構25付近の部分拡大図である。
【
図4】本発明の第2の実施例に係る打撃機構25Aを示す図であり、破損抑制部と規制部材の動作を説明するための部分断面図である。
【
図5】本発明の第3の実施例に係る打撃機構25Bを示す図であり、破損抑制部、規制部材の動作を説明するための部分断面図である。
【
図6】本発明の第4の実施例に係る打撃機構25Cを示す図であり、破損抑制部、規制部材の動作を説明するための部分断面図である。
【
図7】本発明の第5の実施例に係る打撃機構25Dを示す図であり、破損抑制部、規制部材の動作を説明するための部分断面図である。
【
図8】本発明の第6の実施例に係る打撃機構25Eを示す図であり、破損抑制部、規制部材の動作を説明するための部分断面図である。
【
図9】本発明の第7の実施例に係る打撃機構25Fを示す図であり、破損抑制部、規制部材の動作を説明するための部分断面図である。
【
図10】従来のインパクト工具101を示す図であり、(A)は胴体部2aの部分縦断面図であり、(B)はハンマ140の後退動作を説明するための部分断面図である。
【
図11】従来のインパクト工具101の打撃機構125の展開斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、従来のインパクト工具101と同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施例に係るインパクト工具1の全体構造を示す縦断面図である。インパクト工具1は、充電可能なパック式のバッテリ200を電源とし、モータを駆動源として出力軸(アンビル50)に回転力と打撃力を与え、装着機構70にて装着孔53に保持されるドライバビット等の図示しない先端工具に回転打撃力を間欠的に伝達してねじ締めやボルト締め等の作業を行う。インパクト工具1の広義のハウジングは、合成樹脂製のハウジング2と金属製のハンマケース5によって構成される。ハウジング2は、略円筒状の胴体部2aの前後方向略中央付近から回転軸線A1と略直交方向に延在するものであって、作業者が片手で把持するためのハンドル部2bを有する略T字状の形状を成す。ハンドル部2bの端部のうち、胴体部2aと反対側に位置する下方側端部(反胴体部側端部)には、バッテリ取付部2cが形成される。
【0022】
モータ3はブラシ(整流用刷子)の無いDC(直流)モータであり、永久磁石を備えたロータ(回転子)3aと、3相巻線等の複数相の電機子巻線(固定子巻線)を備えたステータ(固定子)3bを含む。ロータ3aは、永久磁石によって形成される磁路を形成する。ステータ3bは、円環状の薄い鉄板の積層構造で製造され、内周側には6つのティース(図示せず)が形成され、各ティースにはエナメル線が巻かれてコイルが形成される。本実施例では、コイルをU、V、W相の3相を有するスター結線又はデルタ結線としている。モータ3は、ロータ3aの永久磁石の磁力を検出してロータ位置を検出する複数のホールICより構成された位置検出素子13の出力を用いて、電池パック200から供給される直流電圧を複数の半導体スイッチング素子14によってスイッチングされることにより動作する。本実施例では、モータをブラシレスDCモータとしているが、ブラシ付きのモータやその他のモータであっても良い。
【0023】
インバータ回路基板12はモータ3の外径とほぼ同径の略円環状の両面基板である。半導体スイッチング素子14は6つ設けられてインバータ回路を形成し、各相の固定子巻線への通電を切換える。半導体スイッチング素子14としてFET(電界効果トランジスタ)やIGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)等が用いられる。インバータ回路はマイクロコンピュータ(マイコン)により制御され、位置検出素子13によるロータ3aの位置検出信号に基づいて各相の電機子巻線の通電タイミングを設定するので、高度な回転制御が容易となる。
【0024】
回転軸線A1方向に見てロータ3aと軸受16bの間には、冷却ファン15が回転軸4に取り付けられる。冷却ファン15は、例えばプラスチックのモールドにより一体成形されるものであり、冷却ファン15によって胴体部2aのインバータ回路基板12の左右両側方付近に形成される図示しない空気取入口から空気が吸引される。吸引された空気は、インバータ回路基板12の周囲を流れて半導体スイッチング素子14等を冷却し、モータ3の内部及び周囲を流れることによりモータ3を冷却し、冷却ファン15の側方に形成された空気排出用のスリット(図示せず)から外部に排出される。
【0025】
ハウジング2の胴体部2aの前方側にはカップ状に形成されたハンマケース5が設けられる。ハンマケース5は金属の一体品にて製造され、カップ状の底部にあたる前方部分にはアンビル50を貫通させるための貫通穴5aが形成される。ハンマケース5の外側であって、アンビル50の先端部分に図示しない先端工具を装着又は取り外しできるための装着機構70が設けられる。
【0026】
装着機構70は、アンビル50の前側端部から軸方向後方に延びる断面形状が六角形の装着孔53と、周方向の2箇所に形成されスチールボール74を配置するための径方向に貫通する2つの穴部と、外周側に設けられるスリーブ71を含んで構成される。スリーブ71の内側には、スリーブ71を後方側に付勢するスプリング72が装着され、装着機構70の前方側は止め輪73にてアンビル50に保持される。装着機構70の下側には、図示しない先端工具の先端付近を照射するための照明装置9が設けられる。照明装置9としては、1つ又は複数のLED(発光ダイオード)が用いられ、照明装置9の前方側は光を透過する照射窓が設けられる。
【0027】
ハウジング2の胴体部2aから略直角に一体に延びるハンドル部2b内の上部にはトリガレバー7aが前方側に突出するように配設され、トリガレバー7aの後方にはトリガスイッチ7が設けられる。使用者はハンドル部2bを片手で把持し、人差し指等によってトリガレバー7aを後方に引くことによって、トリガ押込量(操作量)を調整し、モータ3の回転数を調整できる。モータ3の回転方向は、正逆切替レバー8を操作することによって切り替え可能である。
【0028】
ハンドル部2b内の下部は、ハンドル部2bの長手方向と略直交する左右及び前後方向に拡径するバッテリ取付部2cが設けられる。バッテリ取付部2cには、モータ3の駆動電源となるバッテリ200が着脱可能に装着される。バッテリ200を取り外すには、ラッチボタン201を押しながらバッテリ200をインパクト工具1の本体部から前方側に相対移動させる。バッテリ200の上部には、モータ3のインバータ回路基板12を制御するための制御回路基板10が設けられる。制御回路基板10は、前後左右方向に延びるように水平に配置され、モータ3の回転制御を行うマイクロコンピュータ(図示せず)が搭載される。制御回路基板10は、信号線を介してインバータ回路基板12と接続される。制御回路基板10の近傍であって、バッテリ取付部2cの上面には、バッテリ200の残量チェックスイッチと残量表示用のLED表示装置と、照明装置9の点灯スイッチを配置するためのスイッチパネル11が設けられる。
【0029】
ハウジング2の胴体部2aは、ハンドル部2b及びバッテリ取付部2cと共に合成樹脂材料の一体成形により製造され、モータ3の回転軸4を通る鉛直面で左右に2分割可能に形成される。組立の際にはハウジング2の左側部材と右側部材を準備し、予め、
図1の断面図で示すような一方のハウジング2(例えば左側のハウジング)に、減速機構20、打撃機構25を組み込んだハンマケース5とモータ3等の組込みを行い、しかる後、他方のハウジング2(例えば右側のハウジング)を重ねて、複数のネジで締め付ける方法が取られる。
【0030】
打撃機構25は遊星歯車による減速機構20の出力側に設けられるもので、スピンドル30とハンマ40を備え、後端が軸受18b、前端が軸受18aによりハンマケース5に対して回転可能に保持される。減速機構20は、サンギヤ21と、リングギヤ23と、複数のプラネタリーギヤ22を含んで構成される。サンギヤ21は、減速機構20の入力部となる平歯車である。サンギヤ21の外周側ギヤ面と、リングギヤ23の内周側ギヤ面の間に、複数(ここでは3つ)のプラネタリーギヤ22が配置される。3つのプラネタリーギヤ22は、スピンドル30の後端部に形成された遊星キャリア(
図2で後述するフランジ部37、38)に軸支され、プラネタリーギヤ22が遊星キャリアに軸支されるシャフト24の回りを自転しながらサンギヤ21の周りを公転する。モータ3の回転軸4が回転すると、それに同期してサンギヤ21も回転する。サンギヤ21の回転力は、所定の比率で減速されてスピンドル30の回転力として伝達させる。
【0031】
インナカバー19は合成樹脂の一体成形で製造される部品であって、ハウジング2の胴体部2aによって、左右方向から挟持されるようにして固定される。インナカバー19によって保持される軸受16aはモータ3の回転軸4を軸支するためであって、例えばボールベアリングが用いられる。インナカバー19によって保持される軸受18bは、スピンドル30の後端の嵌合軸35(符号は
図3(A)参照)を軸支するためであって、例えばボールベアリングが用いられる。
【0032】
減速機構20と打撃機構25が、モータ3によって先端工具を駆動するための動力伝達機構を構成する。トリガレバー7aが引かれてモータ3が起動されると、正逆切替レバー8で設定された方向にモータ3が回転を始め、その回転力は減速機構20によって減速されてスピンドル30に伝達され、スピンドル30が所定の速度で回転する。ここで、スピンドル30とハンマ40とはカム機構によって連結される。カム機構は、スピンドル30の外周面に形成されたV字状のスピンドルカム溝33と、ハンマ40の内周面に形成されたハンマカム溝44と、これらのカム溝33、44に係合する2つのカムボール36によって構成される。ハンマ40は、ハンマスプリング29によって常に前方に付勢される。ハンマ40とアンビル50の対向する回転平面上の3箇所には回転軸線A1方向に凸状に突出するハンマ爪(打撃爪)46等(符号は
図2参照)と、打撃爪によって打撃される羽根部(被打撃爪)56等(符号は
図2参照)が回転対称に形成される。
【0033】
ハンマスプリング29は圧縮スプリングであり、その前方側には複数のスチールボール27が前側ワッシャ28に押さえられた状態で配置され、その後方側はワッシャ60を介してスピンドル30のフランジ部37の円環面に当接することにより保持される。ワッシャ60は、ハンマ40の後方側への移動量を規制する規制部材となる。ワッシャ60の内周側にはストッパゴム39が設けられる。
【0034】
スピンドル30が回転駆動されると、その回転はカム機構を介してハンマ40に伝達され、ハンマ40が半回転しないうちにハンマ40の打撃爪がアンビル50の被打撃爪に係合してアンビル50を回転させる。回転時のハンマ40とアンビル50の係合反力によってスピンドル30とハンマ40との間に相対回転が生ずると、ハンマ40はカム機構のスピンドルカム溝33に沿ってハンマスプリング29を圧縮しながらモータ3側へと後退を始める。そして、ハンマ40の後退動によってハンマ40の打撃爪(46等)がアンビル50の被打撃爪(56等)を乗り越えて両者の係合が解除されると、ハンマ40は、スピンドル30の回転力に加え、ハンマスプリング29に蓄積されていた弾性エネルギーとカム機構の作用によって回転方向及び前方に急速に加速されつつ、ハンマスプリング29の付勢力によって前方へ移動し、ハンマ40の打撃爪(46等)がアンビル50の被打撃爪(56等)に再び係合して一体に回転し始める。ハンマ40がアンビル50に対して相対的に1回転すると、ハンマがアンビルを打撃する打撃数は3回となるか(低速打撃)、又は、1.5回(2回転に3回)となる(高速打撃)。このように強力な回転打撃力がアンビル50に加えられるため、アンビル50と一体に形成された装着孔53に装着される図示しない先端工具に回転打撃力が伝達される。以後、同様の動作が繰り返されて先端工具に回転打撃力が間欠的に繰り返し伝達され、例えば、木ネジが木材等の図示しない被締め付け部材にねじ込まれる。
【0035】
図2は打撃機構25の展開斜視図である。である。従来の打撃機構125と同様にインパクト工具1の打撃機構25は、ハンマ40、アンビル50、スピンドル30、カム機構(33、36、44等)、ハンマスプリング29(
図1参照)、ストッパ(後述の
図3参照)、ワッシャ60を含んで構成される。尚、
図2ではハンマスプリング29とストッパゴム39の図示を省略している。アンビル50は
図11で示した打撃機構125で用いられるものと同一部品である。アンビルの出力軸部51の後方に、3つの羽根部56~58による被打撃爪が形成される。羽根部56~58の回転方向の側面は、ハンマ40の打撃爪によって締め付け方向の回転時に打撃される被打撃面56a、57a、58aと、その反対側に形成され緩め方向の回転時に打撃される被打撃面56b、57b、58bが形成される。被打撃部の後方側には、円筒状の軸部55(後述の
図3参照)が形成され、軸部55がスピンドル30の嵌合孔32に係合することよってアンビル50とスピンドル30が相対回転可能な状態で接続される。
【0036】
ハンマ40は従来のインパクト工具101と一部を除いて同じ形状であり、
図3~
図4にて後述する破損抑制部の形状が異なる。ハンマ40は、軸方向の前方側(アンビル50側)に突出する3つの打撃爪46~48、打撃爪46~48の回転方向に打撃爪46a、47a、48aと、打撃爪46b、47b、48bが形成される。スピンドル30のスピンドルカム溝33と対向する位置には、ハンマカム溝44が形成される。ハンマカム溝44は、ハンマ40の内周面を平面に展開した際に略台形状の輪郭を有する窪みであって、スピンドルカム溝33と共にカムボール36の動きを制限する空間を形成する。ハンマ40の内周面の周方向の一箇所において、隣接するハンマカム溝44の辺部を分離する壁部45が形成される。壁部45は前端側のスピンドル30の外周面と隣接又は当接する箇所となり、ハンマカム溝44の前端側の一部には、組立時にハンマカム溝44内にカムボール36を挿入するための挿入溝44aが形成される。
【0037】
スピンドル30は、前方側にカム機構を介してハンマ40を保持するのと、後方側にて3つのプラネタリーギヤ22(
図1参照)を保持する機能を果たし、基本的な形状は、
図11で示した従来のスピンドル130と同じである。スピンドル30は綱材にて製造される。スピンドル30の円柱部分、即ちスピンドル軸部31の外周面には、略V字状に形成されたスピンドルカム溝33が2つ形成される。スピンドルカム溝33は、ハンマ40の内周面に形成された2つハンマカム溝44に対向する位置に設けられる。スピンドル30とハンマ40は、スピンドルカム溝33とハンマカム溝44によって所定の空間を形成し、その空間内をカムボール36が移動するようにしてカム機構が構成される。カム機構によって、アンビル50からの反力が小さいうちはハンマ40とスピンドル30がほぼ連動するように回転するが、アンビル50からの反力が大きくなるとハンマ40とスピンドル30の相対回転が生じ位置関係が変動する。
【0038】
スピンドル軸部31の後方側には、減速機構20の遊星キャリア部となるフランジ部37、38が形成される。フランジ部37、38には、シャフト24を保持するためにそれぞれ3つの嵌合穴37a~37c(図では37cは見えない)と38a~38c(図では38cは見えない)が形成される。フランジ部37の前方には平坦な円環面34が形成され、円環面34にストッパゴム39(
図1参照)の後面が当接する。
【0039】
ワッシャ60は、外筒部64と内筒部62を有し、これらの後端縁が円環状の後壁部61にて接続されたような部材である。ワッシャ60の内筒部62の内側には、径方向内側に延出する円環状のフランジ部63が形成される。ワッシャ60は、例えば鋼板を用いてプレス加工により製造される。
【0040】
図示しないハンマスプリング29の前端部は、前側ワッシャ28が当接する。前側ワッシャ28はハンマ40の窪み部42b(後述する
図3参照)に配置される多数のスチールボール27を押さえる部材であり、スチールボール27によってハンマ40のスピンドル30に対する相対回転が容易となり、ハンマスプリング29の伸縮時にハンマスプリング29の動作をスムーズにすると共にハンマ40のハンマスプリング29との当接部位(ここでは窪み部42b)の摩耗を防止する。
【0041】
図3は打撃機構25の部分拡大図である。
図3(A)はハンマ40が最大量の後退をした状態である。ハンマ40は外筒部41と内筒部43(符号は後述の
図3参照)の前面を、前面連結部42により接続された形状とされる。ハンマ40の外筒部41の内側には段差部41bが形成され、内筒部43の内側には段差部43bが形成される。ワッシャ60はハンマスプリング29の後端とスピンドル30の間に介在される。また、ストッパゴム39は、ワッシャ60の後端とスピンドル30の間に配置される。ストッパゴム39は、ハンマスプリング29に保持されたワッシャ60により脱落防止を図り、一方で、スピンドルカム溝33の最後端位置にカムボール36が衝撃的に接触することを回避する役目を果たす。ハンマ40が最後端位置に移動する際、ハンマ40と共に最後端位置に移動したカムボール36はスピンドルカム溝33の最後端位置に接触する直前に、ハンマ40がストッパゴム39に接触する構成となっており、スピンドル30とハンマ40との直接接触を回避することで振動低減を図り、かつ、スピンドルカム溝33の耐久性向上も図っている。これにより、ハンマスプリング29の伸縮時にハンマスプリング29の動作をスムーズにすると共にスピンドル30の摩耗を防ぐ。ハンマ40が前端位置からストッパゴム39に接触するまでの後退量(L1)が本発明における第1後退量に該当し、ハンマ40が前端位置からストッパゴム39に接触した後、さらにハンマ40が後退してストッパゴム39を後方に押し込んだ状態の後退量(L2)が第2後退量に該当する(L1<L2)。
【0042】
本発明のインパクト工具1の組み立て工程において、ハンマ40、ハンマスプリング29をスピンドル30に組み立て、その後にハンマスプリング29を圧縮させながらハンマ40を最後方にまで移動させ、矢印26のように挿入溝44a(
図2参照)から2つのカムボール36をスピンドルカム溝33とハンマカム溝44の間に挿入する。
図10(B)に示した従来のインパクト工具101では、ハンマ140の最後退位置を制限するのがストッパゴム39だけであるため、ハンマスプリング29が規定の最も縮めたときの長さL(例えば、密着高さ=11.8mm)を越えて縮められる虞があり、この過変形によるスプリングのへたりを防ぐための製造工程での工夫が必要であった。本実施例では組み立て製造時においてハンマ40を最後方位置に移動させた際に、ハンマ40がワッシャ60に当接するように構成し、ハンマ40が規定の後退位置からさらに後方側には移動できないように構成した。また、ハンマ40が最後方位置に移動した際に、ストッパゴム39の圧縮量(変形量)が最適になるように設定し、インパクト工具1の経年使用によるストッパゴム39の劣化を効果的に防止できるようになった。
【0043】
図3(A)に示すように、ハンマ40を最大まで後退させた際にはワッシャ60の外筒部64の前側端部64aはハンマ40の段差部41bと当接する。同時に、ワッシャ60の内筒部62の前側端部62aはハンマ40の段差部43bと当接する。この際、ワッシャ60(第2の規制部材)と外筒部64が軸線方向に占める部分がオーバーラップするような位置関係にある。段差部41b、43bは、ハンマ40が最大量の後退時にワッシャ60の一部と当接する部分であり、本願発明の破損抑制部に相当する。この時のハンマスプリング29の全長Lは、規定の密着高さLよりも大きい関係に有るので、組み立て製造時において誤ってハンマスプリング29を過圧縮させてしまう虞がない。また、
図3(A)の状態ではハンマ40の内筒部43の後端面43aは、ストッパゴム39を圧縮している状態である。ハンマ40に段差部43bを形成したことにより後端面43aに向けて軸方向に延在する円筒部分は、円環状のフランジ部63の外周側を通過できるように構成される。ワッシャ60を設けたことによりハンマ40の最大後退位置が制限されるので、ストッパゴム39の最大圧縮量も同様に制限されることになる。最大圧縮量をどの程度にするまで認めるかは、ワッシャ60の外筒部64の前後長さと、内筒部62の前後長さで調整できる。
【0044】
図3(B)はハンマスプリング29を圧縮させながら前方側に移動させた状態を示す図である。この状態は製造組み立て時において、ストッパゴム39を装着する際に位置づける状態である。製造組み立て時のストッパゴム39の取り付けは、ワッシャ60を前方(ハンマ40側)に移動させた後に、ストッパゴム39を取り付けるという工程で行われる。つまり、ワッシャ60とスピンドル30のフランジ部37との間を空けた状態で、C形形状のストッパゴム39をスピンドル軸部31の後端に装着する。ワッシャ60を前方に移動させると、移動によりハンマスプリング29が圧縮されることになるが、従来のインパクト工具101とは違って、ワッシャ60によってハンマスプリング29の最大圧縮量Lが制限されるため、ハンマスプリング29が密着高さ以上に圧縮されることがない。これは、ワッシャ60を最前位置まで移動させるとワッシャ60の外筒部64の前縁(前側端部64a)がハンマ40の段差部41bと当接し、ワッシャ60の内筒部62の前縁(前側端部62a)がハンマ40の段差部43bと当接するためである。尚、
図3(B)ではワッシャ60が最前位置になった状態を例示するにあたり位置関係の比較のためにハンマケース5も図示しているが、製造組み立て時において、ストッパゴム39の取り付けは、ハンマケース5の内部に組み込む前に行われる。
【0045】
以上のように本実施例では、ワッシャ60のうち、外筒部64の前側端部64a、又は/及び、内筒部62の前側端部62aがハンマスプリング29を最大圧縮させた際にハンマ40と当接する部分となるので、ハンマ40の後退時の最大位置をワッシャ60により効果的に制限できるようになった。また、ハンマ40の後退位置がワッシャ60で制限される際にストッパゴム39の圧縮による制震作用も得られるので、ストッパ作用時の衝撃を大きく低減させることができる。
【実施例2】
【0046】
図4は本発明の第2の実施例に係る打撃機構25Aを示す図であり、破損抑制部(41b、43b、43c)と規制部材(ワッシャ60)の動作を説明するための部分断面図である。ワッシャ60、ストッパゴム39は、
図1~
図3で示したものと同一部材である。ここで、異なる点は、ハンマ40Aの形状であり、内筒部43の後端内側に段差部43cが形成されていることである。また、スピンドル30Aにも突起状の段差部34aが形成されている。この結果、
図4(B)に示すようにハンマ40Aが最大限に後退した際に、ワッシャ60と段差部41b及び段差部43b、スピンドル30Aの段差部34aとハンマ40Aの段差部43cが当接することになる。この際、ストッパゴム39の圧縮量が最適な量となるように、外筒部64の前側端部64aと内筒部62の前側端部62aの位置を規定することにより、ハンマ40Aの最大後退可能位置に到達する際の振動を大きく抑制できる。
図4(C)はストッパ設置時においてワッシャ60を最前位置まで移動させた状態を示す図である。
【実施例3】
【0047】
図5は本発明の第3の実施例に係る打撃機構25Bを示す図であり、破損抑制部(43b、43c)と規制部材(ワッシャ75)の動作を説明するための部分断面図である。ストッパゴム39は、
図1~
図3で示した第1の実施例で使用するものと同一部材である。ハンマ40Aは
図4で示したものと同一部材である。ここで、異なる点は、ワッシャ75の形状であり、第1及び第2の実施例のワッシャ60のうち、外筒部64を取り外した形状である。つまり、ワッシャ75は、後壁部76と内筒部77とフランジ部78により構成される。従って、ハンマの段差部43bと段差部43cがストッパゴム39とハンマスプリング29の破損抑制を行うことになる。この形状は、
図10で示した従来のワッシャ160の形状に近い形である.しかしながら、ワッシャ75には段差部43bと当接する前側端部77aが形成されることになる。このように
図2の実施例の3カ所の当接部のうち、いずれか1つ(ここではワッシャの外筒部)を省略しても第1及び第2の実施例と同様の効果を達成することができる。
図5(C)はストッパ設置時におけるワッシャ75の位置を示す図である。この際、ハンマの段差部43bと前側端部77aが当接することにより、ハンマスプリング29の圧縮量が制限される。
【実施例4】
【0048】
図6は本発明の第4の実施例に係る打撃機構25Cを示す図であり、破損抑制部(41b、43c)、規制部材(ワッシャ80)の動作を説明するための部分断面図である。ストッパゴム39は、
図1~
図3で示した第1の実施例で使用するものと同一部材である。ハンマ40Aは
図4で示したものと同一部材である。ここで、異なる点は、ワッシャ80の形状であり、第1及び第2の実施例のワッシャ60の内筒部62において、フランジ部63よりも前方側を切り離したような形状である。つまり、ワッシャ80は、後壁部81と内筒部82と、内筒部82の先端付近から径方向内側に延在するフランジ部83により構成される。従って、ストッパゴム39とハンマスプリング29の破損抑制をハンマ40Aの段差部41bと段差部43cが行うことになる。即ち、ワッシャ80に外筒部84が設けられ、外筒部84の前側端部84aと段差部41bが接触する。また、スピンドル30Aの段差部34aとハンマ40Aの段差部43cが当接する。このように第2の実施例の3カ所の当接部のうち、いずれか1つ(ここではワッシャ60の内筒部の前側端部62a付近)を省略したが、この構成でも第3の実施例と同様の効果を達成できる。
図6(C)はストッパ設置時におけるワッシャ80の位置を示す図である。ワッシャ80の外筒部84の前側端部84aが段差部41bに接触することで、ハンマスプリング29の圧縮量を制限できる。
【実施例5】
【0049】
図7は本発明の第5の実施例に係る打撃機構25Dを示す図であり、破損抑制部(43c)、規制部材(75、85)の動作を説明するための部分断面図である。ストッパゴム39は、
図1~
図3で示した第1の実施例で使用するものと同一部材である。ハンマ40Aは第2~第4の実施例と同一部材である。ワッシャ75は、
図5で示した第3の実施例と同一部材である。ここで、異なる点は前側のワッシャ85の形状であり、ここではハンマスプリング29の径方向内側と径方向外側を覆うように、回転軸線A1を通る断面形状が2重の円筒状の部分を追加した形状である。つまり、ワッシャ85は、前側ワッシャ86と、前側ワッシャ86の外縁から後方に接続された外筒部88と、前側ワッシャ86の内縁から後方に接続された内筒部87によって構成される。外筒部88の後端位置と内筒部87の後端位置は同位置にある。ハンマスプリング29は、前方側にてワッシャ85に収容され、後方縁部がワッシャ75の後壁部76に当接することになる。
【0050】
図7(B)はハンマ40Aが最大限後退した状態(第2後退量まで後退した状態)を示している。ハンマ40Aが後退すると、それに伴いワッシャ85も後退することによりワッシャ85の内筒部87の後縁87aと、外筒部88の後縁88aがワッシャ75に当接する。この結果、ハンマスプリング29の圧縮量が制限されることになるので、ハンマスプリング29が圧縮許容量を超えて圧縮されることがなくなる。この状態ではワッシャ75と85は、スピンドル30のフランジ部37とハンマ40Aに挟まれるため、ハンマ40Aの後退が制限されることになる。その際、ストッパゴム39は通常状態から所定量だけ圧縮することになる。この圧縮量はワッシャ85の軸線方向の長さを調整することにより任意に設定できるので、ストッパゴム39の変形範囲を任意に設定することができ、ストッパゴム39の過圧縮の発生を抑制でき、長寿命化を図ることができる。
【0051】
図7(C)は、ストッパゴム39の設置時の状態を示す図である。この際、ワッシャ75を前方に押しつけることによりハンマスプリング29を圧縮させることになるが、ワッシャ75がワッシャ85と当接することによりハンマスプリング29の圧縮量が正確に規定される。また、ワッシャ75の内筒部77の前側端部77aがハンマ40Aの段差部43bと当接するので、ハンマスプリング29が過剰に圧縮されることを回避できる。
【実施例6】
【0052】
図8は本発明の第6の実施例に係る打撃機構25Eを示す図であり、破損抑制部(41a、43b、43c)、規制部材(ワッシャ90)の動作を説明するための部分断面図である。ストッパゴム39は、
図1~
図3で示した第1の実施例で使用するものと同一部材である。ハンマ40Bは第2~第4の実施例と外筒部41Bの形状が異なり、後端面41aが平坦であり、内周側に段差が形成されない。ワッシャ90は、
図3で示した第1の実施例のワッシャ90の外筒部94の軸方向長を短くした形状である。ハンマ40Bの内筒部43の後端側の形状は、第2~第4の実施例のハンマ40Aの形状と同じであり、段差部43b、43cが形成される。
【0053】
図8(B)はハンマ40Bが最大限後退した状態を示している。ハンマ40Bが後退すると、外筒部41Bの後端面41aがワッシャ90に当接し、内筒部43の段差部43bがワッシャ90に当接する。同時に、ハンマ40Bの内筒部43の段差部43cが、スピンドル30Aの段差部34aと当接する。このようにして、ハンマスプリング29の圧縮量が制限されるので、ハンマスプリング29が圧縮許容量を超えて圧縮される虞がなくなる。
【0054】
図8(C)は、ストッパゴム39の設置時の状態を示す図である。この際、ワッシャ90を前方に押しつけることによりハンマスプリング29を圧縮させることになるが、ワッシャ90がハンマ40Bと当接することによりハンマスプリング29の圧縮量が制限される。また、ワッシャ90の内筒部92の前側端部92aがハンマ40Aの段差部43bと当接し、外筒部41Bの後端面41aがワッシャ90の前側端部94aに当接するので、ハンマスプリング29の圧縮量を制限できる。第6の実施例では外筒部41Bに段差部を形成していないので、ハンマ40Bのイナーシャが増えることで、ハンマ40Bによる打撃エネルギーを増加させることが可能である。また、同じサイズの段差を設ける場合であっても、段差部をハンマの内側筒部(41)に設ける方が、外側筒部(41B)を加工した場合と比較してイナーシャを稼ぐことが可能となる。
【実施例7】
【0055】
図9は本発明の第7の実施例に係る打撃機構25Fを示す図であり、破損抑制部(43c)、規制部材(スピンドル30Aの段差部34a)の動作を説明するための部分断面図である。ストッパゴム39は、
図1~
図3で示した第1の実施例で使用するものと同一部材である。ハンマ40Aは第2~第4の実施例と同一であり、内筒部43の内周側に段差部43cが形成される。ワッシャ95は、
図10で示した従来のインパクト工具101のワッシャ160と似たような形状であり、内側と外側の円盤部分を前後にずらすように連結させた形状である。即ち、ワッシャ95はハンマスプリング29の後端の突き当て面になる後壁部96とフランジ部98と、後壁部96とフランジ部98を接続する円筒部97により構成される。
【0056】
図9(B)はハンマ40Aが最大限後退した状態を示している。ハンマ40Aが最後位置まで後退してもハンマ40Aはワッシャ95とは当接しない。しかしながら、ハンマ40Aの内筒部43の段差部43cが、スピンドル30Aの段差部34aと当接するので、ハンマスプリング29の圧縮量を制限することができる。また、この当接時の位置は第1~第6の実施例のハンマ40A、40Bの後端位置と同じなので、ハンマスプリング29が圧縮許容量を超えて圧縮されることを効果的に防止できる。
【0057】
図9(C)は、ストッパゴム39の設置時の状態を示す図である。この際、ワッシャ95を前方に押しつけることによりハンマスプリング29を圧縮させることになるが、本実施例のワッシャ95ではハンマスプリング29の圧縮量を規定することができない。しかしながら、
図9(C)の状態は製造組み立て時に1度だけ生じるだけなので、ハンマスプリング29の圧縮量を制限するような専用の治具を準備することで、ハンマスプリング29の圧縮量を規定することが可能である。
【0058】
以上、第1~第7の実施例で説明したように、ハンマスプリング29の後端に設けられるワッシャの形状を変更し、ハンマ側にも破損抑制部(段差部41b、43b、43c)を形成することにより、ワッシャ60とハンマ40との当接によってハンマスプリング29の最大圧縮量、または、スピンドル30とハンマ40との当接によってストッパゴム39の最大圧縮量を規定量に制限できる。また、ワッシャの形状を変更したことによって、製造組み立て時において、ハンマスプリング29を過剰圧縮させることを回避できるので、組み立て品質の向上を図ることが可能となった。さらに、ユーザにより締め付け作業時に、打撃によるハンマ40、40A,40Bの後退量が制限されるので、弾性体たるストッパゴム39の許容圧縮量を超えた変形を回避できるので、ストッパゴム39の耐久性を大きく向上させることができる。さらに、スピンドル30とハンマ40を係合させる破損抑制機構(34a、43c)も併用したので、これらの機構によってハンマ40の過剰後退による弊害、例えばカムボール36がスピンドルカム溝33の端部に衝突や、スピンドルカム溝33の破損等を防止でき、スピンドル30の寿命を向上させることができる。段差部43cが本発明における第1の段差部に該当する。また、段差部41b、43bが本発明における第2の段差部に該当する。また、スピンドル30が第1の規制部材に該当し、段差部34aが第1の規制部材に設けられた第1の規制部に該当する。また、ワッシャ60、75、80、85、90、95が本発明における第2の規制部材に該当し、前側端部62a、64a、77a、84a後壁部76が第2の規制部材に設けられた第2の規制部に該当する。
【0059】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、ハンマスプリング29のばね定数を小さくして、かつ、モータ回転数を低くした小形のインパクト工具の場合では、ワッシャ60に加わる負荷は小さくなるため、ワッシャ60の材質を樹脂材、アルミ材等の非鉄材にしても良い。
【符号の説明】
【0060】
1…インパクト工具、 2…ハウジング、 2a…胴体部、 2b…ハンドル部、
2c…バッテリ取付部、 3…モータ、 3a…ロータ、 3b…ステータ、
4…回転軸、 5…ハンマケース、 5a…貫通穴、 7…トリガスイッチ、
7a…トリガレバー、 8…正逆切替レバー、 9…照明装置、
10…制御回路基板、 11…スイッチパネル、 12…インバータ回路基板、
13…位置検出素子、 14…半導体スイッチング素子、 15…冷却ファン、
16a,16b…軸受、 18a,18b…軸受、 19…インナカバー、
20…減速機構、 21…サンギヤ、 22…プラネタリーギヤ、
23…リングギヤ、 24…シャフト、 25、25A~25F…打撃機構、
27…スチールボール、 28…前側ワッシャ、 29…ハンマスプリング、
30,30A…スピンドル、 31,31A…スピンドル軸部、 32…嵌合孔、
33…スピンドルカム溝、 34…円環面、 34a…段差部、 35…嵌合軸、
36…カムボール、 37…フランジ部、 37a~37c…嵌合穴、
38…フランジ部、 38a~37c…嵌合穴、 39…ストッパゴム、
40,40A,40B…ハンマ、 41,41B…外筒部、 41a…後端面、
41b…段差部、 42…前面連結部、 42b…窪み部、 43…内筒部、
43a…後端面、 43b…段差部(第2の段差)、
43c…段差部(第1の段差)、 44…ハンマカム溝、 44a…挿入溝、
45…壁部、 46,47,48…ハンマ爪、
46a,47a,48a…打撃面(正回転時)、
46b,47b,48b…打撃面(逆回転時)、 50…アンビル、
51…出力軸部、 51b…細径部、 53…装着孔、 55…軸部、
56,57,58…羽根部、 56a,57a,58a…被打撃面(正回転時)、
56b,57b,58b…被打撃面(逆回転時)、 60…ワッシャ、
61…後壁部、 62…内筒部、 62a…前側端部、 63…フランジ部、
64…外筒部、 64a…前側端部、 70…装着機構、 71…スリーブ、
72…スプリング、 73…止め輪、 74…スチールボール、
75…ワッシャ、 76,81…後壁部、 77,82,…内筒部、
77a…前側端部、 78…フランジ部、 80…ワッシャ、 81…後壁部、
82…内筒部、 83…フランジ部、 84,94…外筒部、
84a…前側端部、 85…ワッシャ、 86…前側ワッシャ、
87…内筒部、 87a…後縁、 88…外筒部、 88a…後縁、
90…ワッシャ、 92…内筒部、 92a…前側端部、 94…外筒部、
95…ワッシャ、 96…後壁部、 97…円筒部、 98…フランジ部、
101…インパクト工具、 125…打撃機構、 130…スピンドル、
131…スピンドル軸部、 132…嵌合孔、 133…スピンドルカム溝、
137…フランジ部、 137a…嵌合穴、 138…フランジ部、
138a…嵌合穴、 140…ハンマ、 141…外筒部、
142…前面連結部、 143…内筒部、 144…ハンマカム溝、
144a…挿入溝、 146…打撃爪、 160…ワッシャ、
163…くり抜き孔、 200…バッテリ、 201…ラッチボタン、
A1…回転軸線