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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】板紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/18 20060101AFI20240326BHJP
   D21H 17/37 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
D21H21/18
D21H17/37
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020168348
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2021066989
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2019192274
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿野山 恵多
(72)【発明者】
【氏名】大塚 真理子
(72)【発明者】
【氏名】小林 由典
(72)【発明者】
【氏名】柿▲崎▼ 成
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-131922(JP,A)
【文献】特開2014-088644(JP,A)
【文献】特開2007-301532(JP,A)
【文献】特開2009-114588(JP,A)
【文献】国際公開第2008/123493(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0300633(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料パルプを含有するパルプスラリーに紙力増強剤を添加する工程、および前記工程の前または前記工程と同時に、重量平均分子量が500万以上2000万以下であるポリマー成分を含有する凝結剤を前記パルプスラリーに添加する工程を含み、前記ポリマー成分がアニオン性であり、前記凝結剤の電荷密度が-0.5meq/g~-4.0meq/gである、板紙の製造方法。
【請求項2】
原料パルプを含有するパルプスラリーに紙力増強剤を添加する工程、および前記工程の前または前記工程と同時に、重量平均分子量が500万以上2000万以下であるポリマー成分を含有する凝結剤を前記パルプスラリーに添加する工程を含み、前記凝結剤を添加する工程の前のパルプスラリーの濾液濁度が、100NTU以上である、板紙の製造方法。
【請求項3】
原料パルプを含有するパルプスラリーに紙力増強剤を添加する工程、および前記工程の前または前記工程と同時に、重量平均分子量が500万以上2000万以下であるポリマー成分を含有する凝結剤を前記パルプスラリーに添加する工程を含み、前記原料パルプが、古紙を80質量%以上含有する、板紙の製造方法。
【請求項4】
前記ポリマー成分がポリアクリルアミド系ポリマーである、請求項2または3に記載の板紙の製造方法。
【請求項5】
前記古紙が、段ボール古紙および雑誌古紙を合計して90質量%以上含有する、請求項に記載の板紙の製造方法。
【請求項6】
前記パルプスラリーに前記紙力増強剤を添加する工程の前60秒以内に、前記凝結剤を該パルプスラリーに添加する、請求項1~のいずれか1項に記載の板紙の製造方法。
【請求項7】
前記凝結剤を前記パルプスラリーに添加した後420秒以内に、該パルプスラリーを抄紙ワイヤー上に抄き出す工程を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の板紙の製造方法。
【請求項8】
重量平均分子量が500万以上2000万以下であるポリマー成分を含有し、前記ポリマー成分がアニオン性であり、電荷密度が-0.5meq/g~-4.0meq/gであり、紙力増強剤の添加前または添加と同時に、原料パルプを含有するパルプスラリーに添加される、板紙製造用凝結剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、板紙の製造プロセスにおいてクローズド化が進んでおり、それに伴い、抄紙系内の濾液濁度の増加や電気伝導度の上昇をはじめとする水質の低下、水温の上昇など、抄紙条件が悪化している。そのため、抄紙条件を改善するために、種々の方法が提案されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、古紙再生処理工程から配合チェストに流送される古紙再生パルプスラリーに、配合チェストに供給される前に、所定のカチオン系凝結剤を添加することで、古紙再生パルプスラリーの濁度等を低減する、古紙再生パルプの製造方法が記載されている。
特許文献2には、再生パルプを含有する紙の製造において、(A)特定の加水分解酵素、(B)硫酸、および(C)特定のカチオン性ポリマーを、再生パルプを含有するパルプスラリーに添加し、硫酸によりパルプスラリーのpHを特定の範囲に調整することで、粘着性異物やピッチが原因となる紙の品質低下や操業トラブル、マシン欠陥を低減することができると記載されている。
特許文献3には、抄紙前の製紙原料の白水による希釈前の製紙原料中に、特定の有機凝結剤を添加後、白水によって製紙原料を希釈した後に、特定の重合系両性水溶性高分子を特定量添加することで、歩留あるいは濾水性を向上させ、紙力も一定程度維持、向上させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4776878号公報
【文献】特許第5588111号公報
【文献】特許第5717278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、抄紙系内に、濁度を増加させる濁度成分であって、紙力増強剤のパルプへの定着を阻害する夾雑物が多量に存在する場合、紙力増強剤の効果が十分に発現しないという課題がある。
【0006】
特許文献1ないし3では、紙力向上の効果が不十分であり、濾液濁度が高い原料パルプスラリーを用いたとしても紙力増強剤による紙力向上の効果を高めることができる板紙の製造方法の開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、紙力増強剤による紙力向上の効果を高めることができる板紙の製造方法、および板紙製造用凝結剤を提供することを目的とする。なお、本明細書において、紙力とは、紙の機械的強度のことであり、特に比破裂強さのことをいう。また、本明細書において、板紙には、紙が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、原料パルプを含有するパルプスラリーに紙力増強剤を添加する工程、および前記工程の前または前記工程と同時に、特定の重量平均分子量を有するポリマー成分を含有する凝結剤をパルプスラリーに添加することにより、紙力増強剤による紙力向上の効果を高めることができることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の<1>~<9>に関する。
<1> 原料パルプを含有するパルプスラリーに紙力増強剤を添加する工程、および前記工程の前または前記工程と同時に、重量平均分子量が500万以上2000万以下であるポリマー成分を含有する凝結剤を前記パルプスラリーに添加する工程を含む、板紙の製造方法。
<2> 前記ポリマー成分がポリアクリルアミド系ポリマーである、<1>に記載の板紙の製造方法。
<3> 前記ポリマー成分がアニオン性であり、前記凝結剤の電荷密度が-0.5meq/g~-4.0meq/gである、<1>または<2>に記載の板紙の製造方法。
<4> 前記凝結剤を添加する工程の前のパルプスラリーの濾液濁度が、100NTU以上である、<1>~<3>のいずれかに記載の板紙の製造方法。
<5> 前記原料パルプが、古紙を80質量%以上含有する、<1>~<4>のいずれかに記載の板紙の製造方法。
<6> 前記古紙が、段ボール古紙および雑誌古紙を合計して90質量%以上含有する、<5>に記載の板紙の製造方法。
<7> 前記パルプスラリーに前記紙力増強剤を添加する工程の前60秒以内に、前記凝結剤を該パルプスラリーに添加する、<1>~<6>のいずれかに記載の板紙の製造方法。
<8> 前記凝結剤を前記パルプスラリーに添加した後420秒以内に、該パルプスラリーを抄紙ワイヤー上に抄き出す工程を含む、<1>~<7>のいずれかに記載の板紙の製造方法。
<9> 重量平均分子量が500万以上2000万以下であるポリマー成分を含有し、紙力増強剤の添加前または添加と同時に、原料パルプを含有するパルプスラリーに添加される、板紙製造用凝結剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、紙力増強剤による紙力向上の効果を高めることができる板紙の製造方法、および板紙製造用凝結剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[板紙の製造方法]
本発明の板紙の製造方法は、原料パルプを含有するパルプスラリーに紙力増強剤を添加する工程、および前記工程の前または前記工程と同時に、重量平均分子量が500万以上2000万以下であるポリマー成分を含有する凝結剤を前記パルプスラリーに添加する工程を含む。
【0011】
本発明によれば、原料パルプを含有するパルプスラリーに紙力増強剤を添加する工程、および前記工程の前または前記工程と同時に、特定の重量平均分子量を有するポリマー成分を含有する凝結剤をパルプスラリーに添加することにより、濁度を増加させる濁度成分であって、紙力増強剤のパルプへの定着を阻害する夾雑物を除去でき、紙力増強剤の効果が十分に発現する板紙の製造方法、および板紙製造用凝結剤が提供される。
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0012】
本発明の板紙の製造方法により得られる板紙は、原料としてパルプを含む。
<原料パルプ>
板紙の原料パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、晒しクラフトパルプ(BKP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンター、コットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、竹、バガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。原料パルプは、上記の1種を単独でも2種以上混合して用いてもよい。なお、原料パルプに、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の有機合成繊維、ポリノジック繊維等の再生繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、カーボン繊維等の無機繊維を混用してもよい。
【0013】
原料パルプは、入手のしやすさという観点から、木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、原料パルプは、脱墨パルプの中でも、古紙を原料とするものが好ましく、より好ましくは古紙を80質量%以上含有すると、抄紙系内の濁度が増加する傾向にあるため、本発明により、濁度を増加させる濁度成分であって、紙力増強剤のパルプへの定着を阻害する夾雑物を除去でき、紙力増強剤による紙力向上の効果が顕著となる。
【0014】
古紙は、段ボール古紙および雑誌古紙のいずれか1種以上を含有することが好ましく、より好ましくは段ボール古紙および雑誌古紙を合計して90質量%以上含有し、さらに好ましくは段ボール古紙および雑誌古紙を合計して95質量%以上含有し、段ボール古紙および雑誌古紙を合計して100質量%含有してもよい。
【0015】
<紙力増強剤>
紙力増強剤としては、乾燥紙力増強剤および湿潤紙力増強剤が挙げられる。紙力増強剤の重量平均分子量は500万未満であることが好ましい。なお、紙力増強剤の重量平均分子量の下限は特に制限されないが、紙力増強剤の効果を顕著に発揮する観点から、5万以上であることが好ましい。
乾燥紙力増強剤としては、カチオン化澱粉、未変性あるいはカチオン性または両性のポリアクリルアミド系ポリマー、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。乾燥紙力増強剤の含有量は、特に限定されないが、原料パルプ(絶乾質量)100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.07質量部以上であり、そして、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.7質量部以下である。
絶乾質量とは、試料を105℃の乾燥機中に放置し恒量とした質量をいい、電子天秤により測定される。
湿潤紙力増強剤としては、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。湿潤紙力増強剤の含有量は、特に限定されない。湿潤紙力増強剤の含有量は、特に限定されないが、湿潤紙力増強剤を添加する場合、原料パルプ(絶乾質量)100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.07質量部以上であり、そして、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.7質量部以下である。
なお、上記紙力増強剤の中から、1種単独で使用してもよく、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0016】
<板紙製造用凝結剤>
本発明の板紙の製造方法に用いられる凝結剤は、重量平均分子量が500万以上2000万以下であるポリマー成分を含有する。凝結剤は、たとえば、ポリマー成分を有効成分として含有する水系溶液として用いられる。ここで、「有効成分」とは、系内の濁度成分を凝結させるための成分を指す。
ポリマー成分の重量平均分子量が、上記範囲内であると、抄紙系内の濁度を低下させ、紙力増強剤のパルプへの定着を阻害する夾雑物を除去し、地合を維持しつつ、紙力向上の効果を高めることができる。上記観点から、ポリマー成分の重量平均分子量は、好ましくは550万以上、より好ましくは600万以上であり、そして、好ましくは1900万以下、より好ましくは1800万以下であり、さらに好ましくは1700万以下である。
凝結剤に含有されるポリマー成分の重量平均分子量は、実施例に記載のように測定される。
【0017】
凝結剤のポリマー成分は、好ましくはポリアクリルアミド系ポリマーである。ポリアクリルアミド系ポリマーとしては、未変性ポリアクリルアミド系ポリマー、両性ポリアクリルアミド系ポリマー、カチオン性ポリアクリルアミド系ポリマー、アニオン性ポリアクリルアミド系ポリマーが挙げられる。これらの中でも、凝結剤のポリマー成分は、好ましくはカチオン性ポリアクリルアミド系ポリマー、アニオン性ポリアクリルアミド系ポリマーであり、より好ましくはアニオン性ポリアクリルアミド系ポリマーである。
なお、ポリアクリルアミド系ポリマーにカチオン性を付与するためには、たとえば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミンおよびそれらの塩、およびそれらの4級化物等を共重合させる方法が挙げられる。
また、アニオン性を付与するためには、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸およびそれらの塩、またはビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸類およびそれらの塩等を共重合させる方法が挙げられる。
なお、上記凝結剤のポリマー成分の中から、1種単独で使用してもよく、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
凝結剤のポリマー成分がカチオン性ポリアクリルアミド系ポリマーである場合、凝結剤の電荷密度は、抄紙内の濁度を低下させ、紙力向上の効果を高める観点から、好ましくは1.0~4.0meq/gであり、より好ましくは1.5~3.5meq/gである。
凝結剤のポリマー成分がアニオン性ポリアクリルアミド系ポリマーである場合、凝結剤の電荷密度は、抄紙内の濁度を低下させ、紙力向上の効果を高める観点から、好ましくは-0.5meq/g~-4.0meq/gであり、さらに好ましくは-1.0meq/g~-3.0meq/gである。
凝結剤の電荷密度は、実施例に記載される方法により測定される。
【0019】
凝結剤として、市販品を用いてもよく、たとえば、星光PMC(株)製の「ACシリーズ」、ソマール(株)製の「リアライザーAシリーズ」、「リアライザーFXシリーズ」、ハイモ(株)製の「ハイモロックRXシリーズ」、「ハイモロックFAシリーズ」等が挙げられる。
【0020】
本発明の板紙の製造方法は、上述した原料パルプを含有するパルプスラリーに、上述した紙力増強剤を添加する工程(紙力増強剤添加工程)と、紙力増強剤添加工程の前または該工程と同時に、上述した凝結剤をパルプスラリーに添加する工程(凝結剤添加工程)とを含む。
すなわち、本発明の板紙の製造方法は、紙力増強剤添加工程の前に凝結剤添加工程が実施されてもよいし、紙力増強剤添加工程と同時に凝結剤添加工程が実施されてもよい。紙力向上の効果をより高める観点から、紙力増強剤添加工程の前に、凝結剤添加工程が実施されることがより好ましい。
本発明の板紙の製造方法において、紙力増強剤添加工程の前に凝結剤添加工程が実施される場合、具体的には、凝結剤の添加は、好ましくは紙力増強剤が添加される前60秒以内に、より好ましくは紙力増強剤が添加される前30秒以内に、さらに好ましくは紙力増強剤が添加される前10秒以内に実施される。
また、紙力増強剤添加工程と凝結剤添加工程とが同時に実施されるとは、紙力増強剤の添加のタイミングと凝結剤の添加のタイミングとの差が、好ましくは5秒間以下、より好ましくは3秒間以下であることを意味する。
【0021】
なお、パルプスラリー中の原料パルプ(絶乾質量)100質量部に対する凝結剤の添加量は、紙力増強剤による紙力向上の効果を十分に発現させる観点から、ポリマー成分換算で、好ましくは100質量ppm以上、より好ましくは150質量ppm以上、さらに好ましくは180質量ppm以上であり、そして、好ましくは600質量ppm以下、より好ましくは550質量ppm以下、さらに好ましくは500質量ppm以下である。
【0022】
本発明の板紙の製造方法では、凝結剤を添加する前のパルプスラリーの濾液濁度が、100NTU以上の場合、紙力向上の効果をより顕著に高めることができる。凝結剤を添加する前のパルプスラリーの濾液濁度が上記値以上であると、濁度を増加させる濁度成分であって、紙力増強剤のパルプへの定着を阻害する夾雑物が多量に存在する傾向にあるが、本発明の板紙の製造方法によれば、凝結剤により該夾雑物を除去でき、紙力増強剤による紙力向上の効果が顕著となる。上記観点から、凝結剤を添加する前のパルプスラリーの濾液濁度は、500NTU以上であってもよく、600NTU以上であってもよく、700NTU以上であってもよく、800NTU以上であってもよく、その上限は、特に限定されないが、1000NTUである。
濾液濁度は、JIS K 0101:2017に準拠して測定し、比濁法濁度単位(NTU:Nephelometric Turbidity Unit)として表す。
【0023】
凝結剤添加工程後のパルプスラリーの濾液濁度は、500NTU未満であることが好ましく、より好ましくは475NTU以下、さらに好ましくは450NTU以下、よりさらに好ましくは400NTU以下である。凝結剤添加工程後のパルプスラリーの濾液濁度が上記範囲内であると、紙力増強剤による紙力向上の効果が十分に発現する。なお、凝結剤添加工程後のパルプスラリーの濾液濁度の下限値は、特に限定されないが、50NTUである。
【0024】
凝結剤添加工程が実施された後、または紙力増強剤添加工程と同時に凝結剤添加工程が実施された後、好ましくは500秒以内に、より好ましくは450秒以内に、さらに好ましくは420秒以内に、よりさらに好ましくは390秒以内に、よりさらに好ましくは360秒以内に、パルプスラリーを抄紙機の抄紙ワイヤー上に抄き出す工程を含むことが好ましく、凝結剤添加工程が実施されてから抄き出す工程が実施されるまでの時間の下限は特に限定されないが、10秒である。抄紙方法については、特に限定されず、たとえばpHが4.5付近で抄紙を行う酸性抄紙法、pHが約6~約9で抄紙を行う中性抄紙法等が挙げられる。抄紙機についても、特に限定されず、たとえば長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、またはこれらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。乾燥方法についても、特に限定されない。
【0025】
本発明によれば、紙力増強剤添加工程の前または該工程と同時に、凝結剤を添加することにより、紙力増強剤のパルプへの定着を阻害する夾雑物を除去できるので、パルプスラリーの濾液濁度が高い場合であっても、紙力増強剤による紙力向上の効果を高めることができる。
【0026】
<板紙の特性>
(地合指数)
凝結剤が添加されると、板紙の地合が悪化する傾向にあるが、本発明の板紙の製造方法により得られる板紙は、凝結剤を添加しても地合を維持しつつ、紙力増強剤による紙力増強の効果が十分に発揮される。板紙の地合指数は、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上である。なお、地合指数が高いほど地合が良好である。
板紙の地合指数は、3Dシートアナライザーを用いて測定される。
【0027】
(比破裂強さ)
本発明の板紙の製造方法により得られる板紙の比破裂強さは、好ましくは2.50kPa/(g/m)以上である。
板紙の比破裂強さは、JIS P 8112:2008に準拠して測定される。
【0028】
(坪量)
板紙の坪量は、好ましくは130g/m以上、より好ましくは150g/m以上であり、そして、好ましくは340g/m以下、より好ましくは320g/m以下、さらに好ましくは300g/m以下である。
板紙の坪量は、JIS P 8124:2011に準拠して測定される。
【0029】
(厚さ)
板紙の厚さは、好ましくは0.13mm以上、より好ましくは0.15mm以上であり、そして、好ましくは0.30mm以下、より好ましくは0.28mm以下である。
板紙の厚さは、板紙の厚さは、JIS P 8118:2014に準拠して測定される。
【実施例
【0030】
以下に実施例と比較例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0031】
[評価および分析]
実施例および比較例の凝結剤、原料パルプを含有するパルプスラリーおよび板紙について、以下の評価および分析を行った。
【0032】
<凝結剤>
(重量平均分子量)
凝結剤に含有されるポリマー成分の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)に多角度光散乱検出器を接続したGPC-MALS法により得た。なお、重量平均分子量は凝結剤に含まれるポリマー成分を用いて測定した。
使用したHPLCはAgilent1100シリーズであり、使用したカラムは昭和電工(株)製SHODEXSB806MHQである。測定条件は以下のとおりである。
検出器1:ワイアットテクノロジー社製 多角度光散乱検出器DAWN
検出器2:昭和電工(株)製示差屈折率検出器RI-101
溶離液:硝酸ナトリウムを含むリン酸緩衝液(pH3)、流速:1.0ml/分
【0033】
(電荷密度)
凝結剤の電荷密度は、0.01質量%濃度に希釈した後、希釈液の電荷密度を、1/1000規定のポリビニル硫酸カリウム水溶液および1/1000規定のポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド水溶液を用いた滴定によって、チャージアナライザーII(Rank Brothers社製)にて測定した。その測定値より試料の電荷密度を求めた。なお、電荷密度は凝結剤を用いて測定した。
【0034】
<原料パルプを含有するパルプスラリー>
(濾液濁度)
原料パルプを含有するパルプスラリーの濾液濁度は、JIS K 0101:2017に準拠し、HACH社製の濁度計「2100Q」を用いて測定した。なお、濾過の際の濾紙は、ADVANTEC社製定性濾紙No.2を使用した。比濁法濁度単位(NTU:Nephelometric Turbidity Unit)として表した。
【0035】
<板紙>
(地合指数)
板紙の地合指数は、3Dシートアナライザー(M/Kシステム社製)を用いて測定した。測定条件として、絞りを黒:直径2.0mmにし、レンジを2にして測定した。
【0036】
(比破裂強さ)
板紙の比破裂強さは、JIS P 8112:2008に準拠して測定した。
【0037】
(坪量)
板紙の坪量は、JIS P 8124:2011に準拠して測定した。
【0038】
(厚さ)
板紙の厚さは、JIS P 8118:2014に準拠して測定した。
【0039】
[実施例1]
古紙(段ボール古紙および雑誌古紙を合計して80質量%含有)97質量%および針葉樹クラフトパルプ3質量%からなる原料パルプを使用し、パルプスラリーを調製した。濾液濁度が802NTUであるパルプスラリーに、表1に記載の凝結剤Aを、ポリマー成分換算で、原料パルプ(絶乾質量)100質量部に対して400質量ppm添加し、濾液濁度の測定を行った。
その後、紙力増強剤のポリアクリルアミド系ポリマー(重量平均分子量300万)を原料パルプ(絶乾質量)100質量部に対して0.3質量部添加(具体的には、紙力増強剤を添加する30秒前に、凝結剤をパルプスラリーに添加)し、凝結剤を添加してから390秒後に抄紙機の抄紙ワイヤーに抄き出して抄紙し、乾燥して板紙を作製した。得られた板紙の地合指数、比破裂強さ、坪量、および厚さの測定を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
[実施例2~4]
実施例1において、凝結剤Aを、それぞれ、表1に記載された凝結剤B~Dとした以外は、実施例1と同様にして板紙を作製し、実施例1と同様に測定を行った。その結果を表1に示す。
【0041】
[実施例5]
実施例1において、凝結剤Aの添加量を、ポリマー成分換算で、原料パルプ(絶乾質量)100質量部に対して200質量ppmとした以外は、実施例1と同様にして板紙を作製し、実施例1と同様に測定を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
[実施例6~8、および11]
実施例1において、凝結剤を表1に記載されたタイミングで添加し、凝結剤を添加してから抄き出すまでの時間を表1に記載された時間とした以外は、実施例1と同様にして板紙を作製し、実施例1と同様に測定を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
[実施例9]
実施例1において、凝結剤添加前のパルプスラリーの濾液濁度を表1に記載された濾液濁度とした以外は、実施例1と同様にして板紙を作製し、実施例1と同様に測定を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
[実施例10]
実施例5において、凝結剤添加前のパルプスラリーの濾液濁度を表1に記載された濾液濁度とした以外は、実施例5と同様にして板紙を作製し、実施例5と同様に測定を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
[参考例]
古紙(段ボール古紙および雑誌古紙を合計して80質量%含有)90質量%および針葉樹クラフトパルプ10質量%からなる原料パルプを使用し、濾液濁度50NTUであるパルプスラリーを調製した。パルプスラリーに、紙力増強剤のポリアクリルアミド系ポリマーを添加し、紙力増強剤を添加してから390秒後に抄紙機の抄紙ワイヤーに抄き出して抄紙し、乾燥して板紙を作製した。得られた板紙の地合指数、比破裂強さ、坪量、および厚さの測定を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
[比較例1]
実施例1において、凝結剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして板紙を作製し、実施例1と同様に測定を行った。その結果を表2に示す。
【0048】
[比較例2~4]
実施例1において、凝結剤Aを、それぞれ、表2に記載された凝結剤E~Gとし、該凝結剤を表2に記載されたタイミングで添加した以外は、実施例1と同様にして板紙を作製し、実施例1と同様に測定を行った。その結果を表2に示す。
【0049】
[比較例5]
実施例1において、凝結剤Aを紙力増強剤を添加した30秒後に添加した以外は、実施例1と同様にして板紙を作製し、実施例1と同様に測定を行った。その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
実施例および比較例の結果から、本発明の板紙の製造方法によれば、濾液濁度が高い原料パルプスラリーを用いたとしても、地合を維持しながら、紙力増強剤による紙力向上の効果を高めることができていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の板紙の製造方法は、濾液濁度が高い原料パルプスラリーを用いたとしても、地合を維持しながら、紙力増強剤による紙力向上の効果を高めることができるので、非常に有用である。