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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240326BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20240326BHJP
   C04B 35/488 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01G4/30 201L
C04B35/495
C04B35/488
H01G4/30 201N
H01G4/30 201M
H01G4/30 515
H01G4/30 512
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020177263
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2022068525
(43)【公開日】2022-05-10
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】秋場 博樹
(72)【発明者】
【氏名】野村 涼太
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-135872(JP,A)
【文献】特開2007-258280(JP,A)
【文献】特開2015-180588(JP,A)
【文献】特開2018-135254(JP,A)
【文献】特開2018-135258(JP,A)
【文献】特開2019-212932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
C04B 35/495
C04B 35/488
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側セラミック層と内部電極層とが交互に積層してある内層部と、
前記内層部の積層方向と直交する方向において、前記内層部の側方に設けてあるマージン部と、を有し、
前記内側セラミック層は、ゲルマニウム(Ge)を含有する誘電体組成物を含み、
前記マージン部は、Geおよびバナジウム(V)を含有する誘電体組成物を含む補助層を有し、
前記補助層に含まれるGeの含有量をCα1としVの含有量をCα2として、Cα2/Cα1が、3以上,100以下である積層セラミック電子部品。
【請求項2】
前記内層部の積層方向の両側から、前記内層部を挟み込むように積層してある一対の外層部を、さらに有し、
一対の前記外層部は、それぞれ、GeおよびVを含有する誘電体組成物を含み、
前記外層部に含まれるGeの含有量をCβ1としVの含有量をCβ2として、Cβ2/Cβ1が、3以上,100以下である請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項3】
前記内側セラミック層に含まれるGeの含有量をC3として、
C3/Cα1が、1.7以上、100以下である請求項1または2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項4】
前記内側セラミック層に含まれるGeの含有量をC3として、
C3/Cβ1が、1.7以上、100以下である請求項2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項5】
前記内側セラミック層における誘電体組成物の主成分が、タングステンブロンズ型の結晶構造を有する請求項1~4のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【請求項6】
前記補助層における誘電体組成物と、前記外層部における誘電体組成物とが、同じ組成である請求項1~5のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【請求項7】
内側セラミック層と内部電極層とが交互に積層してある内層部と、
前記内層部の積層方向の両側から、前記内層部を挟み込むように積層してある一対の外層部と、を有し、
前記内側セラミック層は、ゲルマニウム(Ge)を含有する誘電体組成物を含み、
一対の前記外層部は、それぞれ、GeおよびVを含有する誘電体組成物を含み、
前記外層部に含まれるGeの含有量をCβ1としVの含有量をCβ2として、Cβ2/Cβ1が、3以上,100以下である積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型の電子部品として、複数のセラミック層と複数の内部電極層とを積層した積層セラミック電子部品(たとえば、コンデンサ、バリスタ、サーミスタなど)が知られており、当該積層セラミック電子部品は、情報端末、家電、自動車電装品などの様々な電子機器に搭載されている。
【0003】
この積層セラミック電子部品は、一般的に、セラミックグリーンシートと導電ペーストとを積層したグリーンチップを、所定の条件で焼成することで、製造することができる。ただし、その製造過程において、素子の内部に焼結の斑が生じたり、セラミック層に副次相や偏析などが発生したりすることで、セラミック層の組成が不均一になることがある。セラミック層の組成が不均一であると、比抵抗や、高温負荷寿命などの絶縁特性が低下する虞がある。
【0004】
このような問題を受けて、特許文献1では、セラミック層にガラス成分を添加し、積層体の内側から表層側に向かってガラス成分の含有量を大きくすることで焼結斑を軽減する技術を開示している。また、特許文献2では、セラミック層にSi酸化物およびAl酸化物を添加し、これらの酸化物の含有量を積層体の部位に応じて調製することで、焼結斑に起因するクラックを抑制する技術を開示している。特許文献1および2で開示されている先行技術では、積層体の内側と表層側との間における焼結性(焼結温度)の差を小さくすることで、焼結斑の発生を抑制することができる。
【0005】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、セラミック層中に揮発し易い成分が存在する場合には、上記の先行技術を適用したとしても、揮発成分の消失によって、セラミック層の組成が不均一になり、比抵抗や高温負荷寿命が低下する恐れがあることが判明した。この場合、特に、積層セラミック電子部品が200℃以上の高温環境下に曝されると、比抵抗や、高温負荷寿命などが低下し易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-351712号公報
【文献】特開2012-69575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、揮発成分を含むセラミックを使用する場合において、比抵抗が高く、かつ、高温負荷寿命が優れる積層セラミック電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る積層セラミック電子部品は、
内側セラミック層と内部電極層とが交互に積層してある内層部と、
前記内層部の積層方向と直交する方向において、前記内層部の側方に設けてあるマージン部と、を有し、
前記内側セラミック層は、ゲルマニウム(Ge)を含有する誘電体組成物を含み、
前記マージン部は、Geおよびバナジウム(V)を含有する誘電体組成物を含む補助層(段差解消層16または側面保護層16a)を有し、
前記補助層に含まれるGeの含有量をCα1としVの含有量をCα2として、Cα2/Cα1が、3以上,100以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る積層セラミック電子部品は、上記の構成を有することにより、優れた絶縁特性を示す。特に、200℃以上の高温度域においても、高い比抵抗が得られると共に、高温負荷寿命が良好となる。比抵抗や高温負荷寿命などの絶縁特性が向上する理由は、必ずしも明らかではないが、Geの欠損抑制が関係していると考えられる。すなわち、本発明の積層セラミック電子部品では、内層部の外側に位置するマージン部において、GeとVの含有比を所定の範囲に制御することで、内層部のセラミック層からGeが揮発することを抑制できると考えられる。
【0010】
また、本発明に係る積層セラミック電子部品は、前記内層部の積層方向の両側から、前記内層部を挟み込むように積層してある一対の外層部を、さらに有する。
そして、好ましくは、
一対の前記外層部が、それぞれ、GeおよびVを含有する誘電体組成物を含み、
前記外層部に含まれるGeの含有量をCβ1としVの含有量をCβ2として、Cβ2/Cβ1が、3以上,100以下である。
【0011】
上記のとおり、内層部の積層方向の外側に位置する外層部においても、マージン部と同様に、GeとVの含有比を所定の範囲に制御することで、比抵抗および高温負荷寿命をより向上させることができる。
【0012】
また、内側セラミック層に含まれるGeの含有量をC3とすると、好ましくは、C3/Cα1が、1.7以上、100以下である。このように、内層部におけるGeの含有量を、マージン部よりも多くすることで、比抵抗および高温負荷寿命をさらに向上させることができる。
【0013】
なお、外層部におけるGeの含有量と内側セラミック層におけるGeの含有量との関係性も、上記と同様であり、好ましくは、C3/Cβ1が、1.7以上、100以下である。内層部におけるGeの含有量を、外層部よりも多くすることで、比抵抗および高温負荷寿命をさらに向上させることができる。
【0014】
また、好ましくは、内側セラミック層における誘電体組成物の主成分が、タングステンブロンズ型の結晶構造を有する。主成分をタングステンブロンズ型の誘電体とすることで、高温度域においても、高い比誘電率が得られると共に、比抵抗および高温負荷寿命がより向上する。
【0015】
前記マージン部の前記補助層における誘電体組成物と、前記外層部における誘電体組成物とは、異なる組成であってもよいが、同じ組成であることが好ましい。マージン部の補助層におけるGeおよびVの含有量と、外層部におけるGeおよびVの含有量とが、近似するほど、比抵抗および高温負荷寿命が高くなる傾向となる。また、補助層と外層部とを同じ組成で構成することで、生産効率が向上し、製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミック電子部品を示す斜視図である。
図2A図2Aは、図1に示すIIA-IIA線に沿う断面図である。
図2B図2Bは、図1に示すIIB-IIB線に沿う断面図である。
図3A図3Aは、図1に示す積層セラミック電子部品の製造過程で用いるグリーンチップ400の断面図である。
図3B図3Bは、図3Aに示すグリーンチップの製造過程(ペーストの積層過程)を示す平面図である。
図3C図3Cは、積層セラミック電子部品の製造過程で用いるグリーン積層体を示す平面図である。
図4図4は、本発明の第2実施形態に係る積層セラミック電子部品を示す斜視図である。
図5図5は、図4に示すV-V線に沿う断面図である。
図6A図6Aは、図4に示す積層セラミック電子部品の製造過程で用いるグリーン積層体を示す分解斜視図である。
図6B図6Bは、図4に示す積層セラミック電子部品の製造過程で用いるグリーン積層体を示す平面図である。
図6C図6Cは、側面保護層を形成する工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0018】
第1実施形態
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、略直方体形状(略六面体)からなる素子本体4と、素子本体4の外面に形成してある一対の外部電極6と、を有する。
【0019】
素子本体4は、X軸に略垂直な一対の端面4aと、Z軸に略垂直な一対の主面4bと、Y軸に略垂直な一対の側面4cと、を有する。素子本体4の寸法は、特に限定されず、用途に応じて適当な寸法とすればよい。たとえば、X軸方向の長さを0.6mm~5.7mm、Y軸方向の幅を0.3mm~5.0mm、Z軸方向の高さを0.3mm~3.0mmとすることができる。なお、本実施形態において、X軸、Y軸、Z軸は、相互に垂直である。
【0020】
この素子本体4は、図2Aおよび図2Bに示すように、複数のセラミック層12と複数の内部電極層14とを含む積層体である。複数の内部電極層14は、各層の一方の端部が、素子本体4の2つの端面4aに対して交互に露出するように、積層してある。本実施形態では、端面4aに引き出されている内部電極層14の端部を、引出部14aと称する。この引出部14aの露出端は、端面4aを覆っている外部電極6に対して電気的に接続してあり、複数の内部電極層14は、積層方向に沿って交互に異なる極性を有するように積層してある。このような構成により、内部電極層14と外部電極6とで、コンデンサ回路が形成される。
【0021】
外部電極6は、それぞれ、一方の端面4aを覆い、当該端面4aから主面4bおよび側面4cの一部に跨って形成してあり、一対の外部電極6は、互いに電気的に絶縁してある。この外部電極6は、電気伝導性を有していればよく、その材質や厚みは特に限定されない。また、外部電極6は、単一層で構成してあってもよく、複数層で構成してあってもよい。たとえば、外部電極6は、焼付電極(焼結電極)と樹脂電極とメッキ層とからなる3層構造の電極とすることができる。
【0022】
本実施形態の積層セラミックコンデンサ2において、素子本体4の内部は、いくつかの領域に分けられ、素子本体4は、内層部41と、マージン部42と、外層部43とを有する。
【0023】
内層部41は、素子本体4の内側中央に位置する。この内層部41では、内側セラミック層12aと内部電極層14とが、Z軸方向に沿って交互に積層してあり、各内側セラミック層12aが、極性の異なる2つの内部電極層14で挟まれている。すなわち、内層部41は、電荷の蓄積が可能な容量領域である。
【0024】
この内層部41において、内側セラミック層12aの積層数は、特に限定されないが、たとえば、20以上とすることが好ましく、50以上とすることがより好ましい。なお、内部電極層14の積層数は、内側セラミック層12aの積層数に応じて決定される。また、内側セラミック層12aの平均厚みは、特に限定されないが、たとえば0.3μm~100μmとすることができ、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは2.5μm以下である。内部電極層14の平均厚みについても、特に限定されないが、たとえば、0.3μm~100μmとすることができ、5μm以下とすることが好ましく、2.5μm以下とすることがより好ましい。
【0025】
マージン部42は、X軸方向およびY軸方向において、内層部41の外方に設けてあり、エンドマージン部42aとサイドマージン部42bとに大別される。
【0026】
図2Aに示すように、エンドマージン部42aは、内部電極層14の引出部14aが存在する領域であって、内層部41のX軸方向の外側に位置し、素子本体4の端面4aを構成している。このエンドマージン部42aには、引出部14a以外に、外側セラミック層12bと段差解消層(補助層)16とが含まれており、エンドマージン部42aでは、外側セラミック層12bが、引出部14aと段差解消層16とで挟まれた状態で、複数積層してある。換言すると、エンドマージン部42aにおける外側セラミック層12bは、いずれも、同一極性の引出部14a(内部電極層14)の間に存在している。
【0027】
エンドマージン部42aのX軸方向の幅W1は、X軸方向における引出部14aの幅、および、段差解消層16の幅に相当する。幅W1に対する素子本体4のX軸方向の幅(長さ)Wxの比(Wx/W1)は、2.5~20の範囲内であることが好ましい。
【0028】
図2Bに示すように、サイドマージン部42bは、内部電極層14が積層されていない領域であって、内層部41のY軸方向の外側に位置し、素子本体4の側面4cを構成している。このサイドマージン部42bは、外側セラミック層12bと段差解消層(補助層)16とで構成してあり、これらがZ軸方向に沿って交互に積層してある。
【0029】
サイドマージン部42bのY軸方向の幅W2は、素子本体4の側面4cから内部電極層14のY軸方向における端部までの間隔(もしくは側面4cから内側セラミック層12aのY軸方向における端部までの間隔)に一致する。幅W2に対する素子本体4のY軸方向の幅Wyの比(Wy/W2)は、1.4~18の範囲内であることが好ましい。
【0030】
なお、外側セラミック層12bは、内側セラミック層12aのX-Y平面方向の外側に位置しており、内側セラミック層12aと、外側セラミック層12bとは、一体的に連続している。そのため、外側セラミック層12bの積層数および平均厚みは、内側セラミック層12aと同程度である。また、段差解消層16は、隣接するセラミック層12の間で、内部電極層14が介在していない領域において、当該領域を埋めるように設けられている。換言すると、段差解消層16は、X-Y平面において、内部電極層14の引出部14a以外の周縁を囲むように存在している。そのため、段差解消層16の積層数および平均厚みは、内部電極層14と同程度である。
【0031】
一対の外層部43は、積層方向(Z軸方向)の両側から、内層部41を挟み込むように積層してあり、素子本体4の主面4bを構成している。この外層部43は、コンデンサ回路を構成する電極層を有しておらず、内層部41(容量領域)のセラミック層12よりも厚いセラミック層で構成してあり、内層部41を保護する機能を有する。外層部43の平均厚みtは、15μm~300μmであることが好ましく、15μm~100μmであることがより好ましい。また、素子本体4のZ軸方向の高さTに対する外層部43の平均厚みtの比(t/T)は、0.07~0.55の範囲内であることが好ましく、0.10~0.20の範囲内であることがより好ましい。
【0032】
続いて、素子本体4を構成する各機能層の特徴について詳述する。
【0033】
(セラミック層12)
前述したように、セラミック層12は、内層部41に位置する内側セラミック層12aと、マージン部42に位置する外側セラミック層12bと、を有するが、これらの各部位(12a、12b)は、一体的に連続しており、いずれも同一の材質で構成してある。具体的に、セラミック層12は、所定の副成分を含む誘電体組成物で構成してある。
【0034】
セラミック層12を構成する誘電体組成物の主成分は、常誘電体であっても強誘電体であってもよく、たとえば、ペロブスカイト型の結晶構造を有する誘電体セラミック、および、タングステンブロンズ型の結晶構造を有する誘電体セラミックとすることができる。ペロブスカイト構造の誘電体セラミックとしては、たとえば、(Ba,Ca)(Ti,Zr)O(チタン酸バリウムなど),(Ca,Sr)(Ti,Zr)O(チタン酸カルシウムやチタン酸ストロンチウムなど),(K,Na)NbO,(Bi,Na)TiOなどが挙げられる。また、タングステンブロンズ構造の誘電体セラミックとしては、たとえば、Ba(Nb,Ta)、Ca(Nb,Ta)、(K,Na)SrNb15、BaTiNb15,BaLaTiNb15などが挙げられる。セラミック層12の主成分は、タングステンブロンズ型の結晶構造を有する誘電体セラミックであることが好ましく、その中でも特に、以下の化学式を満たす誘電体セラミックであることがより好ましい。
【0035】
すなわち、化学式:A6-XX+28-x30で表されるタングステンブロンズ構造の誘電体セラミックを、セラミック層12の主成分とすることがより好ましい。上記の化学式において、A成分は、Ba,Ca,およびSrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、B成分がY、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、C成分がTi、Zr,Snからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、D成分がNb、Taからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素である。
【0036】
また、上記の化学式において、XはB成分の置換量であり、その範囲は0≦x≦5であり、好ましくは0≦x≦3である。したがって、本実施形態では、B成分は主成分における任意の成分である。たとえば、主成分は、x=0の場合のA30、x=1の場合のA30、x=2の場合のA30、または、x=3の場合のA30となる。なお、B成分は、上記の中でも、特に、La,Nd,Smであることが好ましい。
【0037】
また、上述したように、Xの範囲は、0~5であるため、上記の化学式で示される誘電体を主成分とした場合、当該主成分には、A成分,C成分,およびD成分が必ず含まれることとなる。上記の化学式で表される誘電体セラミックを主成分とすることで、誘電体組成物の比誘電率を高くすることができる。また、当該誘電体組成物でセラミック層12を構成することで、積層セラミックコンデンサ2の高温負荷寿命および耐電圧を向上させることができる。
【0038】
なお、上述した主成分は、セラミック層12を構成する誘電体組成物100モル%に対して、60.0モル%以上、97.5モル%以下の範囲を占めることが好ましい。
【0039】
本実施形態において、セラミック層12を構成する誘電体組成物には、副成分として、少なくともGeの酸化物(たとえばGeO)が含まれる。セラミック層12におけるGeの含有量C3は、上記の主成分100モルに対して、2.5モル~20モルの範囲内であることが好ましく、5モル~15モルの範囲内であることがより好ましい。セラミック層12におけるGeの含有量が上記の範囲内であることで、高温負荷寿命をより向上させることができる。
【0040】
なお、セラミック層12を構成する誘電体組成物には、Geの酸化物以外に、他の副成分が含まれていてもよい。他の副成分としては、たとえば、Mn,Mg,W,Mo,Si,Li,B,およびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物が挙げられる。他の副成分元素の含有量は、主成分100モルに対して、0.05モル~30.00モルであることが好ましく、0.10モル~20.00モルであることがより好ましい。
【0041】
また、セラミック層12を構成する誘電体組成物には、Vの酸化物が実質的に含まれないことが好ましい。ただし、Vの酸化物は、可避不純物として存在する場合がある。つまり、Vの酸化物が、誘電体組成物の原料に不純物として含まれていたり、積層セラミックコンデンサ2の製造過程で混入したりすることが考えられる。そのため、「実質的に含まれない」とは、誘電体組成物の主成分100モルに対するVの含有量が、0.01モル以下であることを意味する。
【0042】
上記のような組成で構成されるセラミック層12の誘電体組成物は、焼結によって形成された多数の結晶粒子と、当該結晶粒子の粒子間を占める粒界からなる。加えて、粒界には、2つの結晶粒子の間に存在する二粒子粒界相と、3つ以上の結晶粒子の間に存在する粒界多重点とが含まれる。結晶粒子は、主として、前述した主成分で構成され、副成分であるGeについては、粒界に高濃度で存在していることが好ましい。
【0043】
なお、セラミック層12には、比誘電率、比抵抗、耐電圧または高温負荷寿命等の特性を劣化させない程度に、空孔、微量な不純物、およびその他副成分などが含まれていてもよい。例えば、セラミック層12には、Ba、Ni、Cr、Zn、Cu、Ga等が含まれ得る。
【0044】
(内部電極層14)
内部電極層14は、コンデンサ回路の一部として、各セラミック層12に電圧を印加する機能を果たす。そのため、内部電極層14は、導電材を含んで構成される。具体的に、内部電極層14の導電材は、CuやNiなどの卑金属、Ag、Pd、Au、Ptなどの貴金属、もしくは、これらの金属元素のうち少なくとも1種の金属元素を含む合金で構成することができる。より好ましくは、内部電極層14を構成する導電材は、セラミック層12の構成材料が耐還元性を有するため、NiまたはNi系合金である。導電材としてNi系合金を用いる場合、当該Ni系合金には、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の副成分が含まれていることが好ましい。また、Ni系合金におけるNiの含有率は、95wt%以上であることが好ましい。
【0045】
なお、内部電極層14には、上記の導電材の他に、セラミック層12に含まれるセラミック成分が共材として含まれていてもよい。また、S,Pなどの非金属成分が微量(たとえば0.1wt%以下)に含まれていてもよい。
【0046】
(段差解消層16:補助層)
段差解消層16は、前述したように、セラミック層12の間で、内部電極層14が存在しない領域を埋めるように、内部電極層14の周囲に形成してある。すなわち、段差解消層16は、内層部41とマージン部42との間で積層方向に段差が生じることを抑制し、内層部41の内側セラミック層12aを保護する機能を有する。この段差解消層16は、所定の副成分を含む誘電体組成物で構成してある。
【0047】
段差解消層16を構成する誘電体組成物の主成分は、セラミック層12における誘電体組成物の主成分と異なっていてもよいが、セラミック層12と同じ主成分組成であることが好ましい。そのため、段差解消層16における誘電体組成物の主成分も、タングステンブロンズ型の結晶構造を有することが好ましく、所定の化学式で表される誘電体セラミック(化学式:A6-XX+28-x30)であることがより好ましい。段差解消層16とセラミック層12とで、主成分の組成を一致させることで、これらの層(12,16)の間における焼結性の差を小さくすることができる。
【0048】
段差解消層16の誘電体組成物には、副成分として、少なくともGeの酸化物(たとえばGeO)とVの酸化物(たとえばV)とが含まれる。本実施形態では、段差解消層16におけるGeの含有量とVの含有量との比が、所定の範囲に制御してあることを特徴とする。
【0049】
すなわち、段差解消層16において、誘電体組成物の主成分100モルに対するGeの含有量をCα1とし、誘電体組成物の主成分100モルに対するVの含有量をCα2とすると、Geの含有量Cα1に対するVの含有量Cα2の比(Cα2/Cα1)が、3以上、100以下であり、6以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。Cα2/Cα1を上記の範囲内とすることで、内層部41の内側セラミック層12aにおいてGeが揮発することを抑制できる。その結果、積層セラミックコンデンサ2では、高温度域においても、高い比抵抗と、優れた高温負荷寿命とが得られる。
【0050】
より具体的に、段差解消層16におけるGeの含有量Cα1は、誘電体組成物の主成分100モルに対して、0.2モル~1.5モルであることが好ましい。また、段差解消層16におけるVの含有量Cα2は、誘電体組成物の主成分100モルに対して、4.5モル~20モルであることが好ましく、7.5モル~15モルであることがより好ましい。Cα1および/またはCα2を上記の範囲内とすることで、セラミック層12および段差解消層16からGeが揮発することをより好適に抑制することができる。
【0051】
また、段差解消層16では、セラミック層12よりも、Geの含有量が少なくなっていることが好ましい。換言すると、Geの含有量は、段差解消層16(Cα1)よりもセラミック層12(C3)のほうが多いことが好ましく、具体的に、Cα1に対するC3の比(C3/Cα1)は、1.3以上、100以下であることが好ましく、1.7以上、100以下であることがより好ましく、2.0以上、40以下であることがさらに好ましい。C3/Cα1を上記の範囲とすることで、比抵抗および高温負荷寿命がより向上する。
【0052】
なお、エンドマージン部42aにおける段差解消層16と、サイドマージン部42bにおける段差解消層16とで、誘電体組成物の組成が、異なっていてもよい。その場合、少なくとも、サイドマージン部42bの段差解消層16が、3≦Cα2/Cα1≦100を満たしている必要があり、エンドマージン部42aとサイドマージン部42bの両方で、段差解消層16が3≦Cα2/Cα1≦100を満たしていることが好ましい。製造効率を鑑みると、エンドマージン部42aにおける段差解消層16と、サイドマージン部42bにおける段差解消層16とで、誘電体組成物の組成が同じであることがより好ましい。
【0053】
また、段差解消層16においても、セラミック層12と同様に、Geの酸化物およびVの酸化物以外に、その他の副成分(たとえばMn,Mg,W,Mo,Si,Li,B,およびAlなど)や、不純物等の微量成分(Ba、Ni、Cr、Zn、Cu、Gaなど)、空孔などが含まれていてもよい。
【0054】
(外層部43)
外層部43は、内層部41を保護する機能を有し、誘電体組成物で構成してある。外層部43における誘電体組成物は、セラミック層12の誘電体組成物と同じ組成としてもよく、この場合は、セラミック層12と同じ原料で外層部43を形成すればよい。ただし、好ましくは、外層部43の誘電体組成物には、副成分として、Geの酸化物(たとえばGeO)とVの酸化物(たとえばV)とが含まれる。
【0055】
外層部43において、誘電体組成物の主成分100モルに対するGeの含有量をCβ1とし、誘電体組成物の主成分100モルに対するVの含有量をCβ2とすると、Geの含有量Cβ1に対するVの含有量Cβ2の比(Cβ2/Cβ1)が、3以上、100以下であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。段差解消層16だけでなく、外層部43においても、GeとVの含有量の比を上記の範囲内に制御することで、内層部41の内側セラミック層12aにおいてGeが揮発することをより好適に抑制できる。その結果、比抵抗および高温負荷寿命がより向上する。
【0056】
また、Geの含有量は、外層部43(Cβ1)よりもセラミック層12(C3)のほうが多いことが好ましい。具体的に、Cβ1に対するC3の比(C3/Cβ1)は、1.3以上、100以下であることが好ましく、1.7以上、100以下であることがより好ましく、2.0以上、40以下であることがさらに好ましい。C3/Cβ1についても、C3/Cα1と同様に、上記の範囲内に制御することで、セラミック層12および外層部43からGeが揮発することをより好適に抑制することができる。
【0057】
また、段差解消層16と外層部43とで、Geの含有量が異なっていてもよく、たとえば、Cα1に対するCβ1の比(Cβ1/Cα1)は、0.2~1.2とすることができる。ただし、Cβ1/Cα1は、0.9~1.1であることが好ましく、1.0であることがより好ましい。同様に、段差解消層16と外層部43とで、Vの含有量が異なっていてもよく、たとえば、Cα2に対するCβ2の比(Cβ2/Cα2)は、0.6~2.5とすることができる。ただし、Cβ2/Cα2は、0.9~1.1であることが好ましく、1.0であることがより好ましい。
【0058】
すなわち、段差解消層16における誘電体組成物と、外層部43における誘電体組成物とは、同じ組成であることがより好ましく、この場合、外層部43を、段差解消層16と同じ原料で形成すればよい。
【0059】
また、外層部43においても、セラミック層12や段差解消層16と同様に、Geの酸化物およびVの酸化物以外に、その他の副成分、不純物などの微量成分、および空孔などが含まれていてもよい。
【0060】
なお、素子本体4を構成する各機能層(特に12,16,43)の成分は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)、蛍光X線分析(XRF)、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)などにより分析することができ、特に、EPMAで分析することが好ましい。EPMAで各機能層の成分分析を行う場合、観測用の試料は、たとえば、図2Aまたは図2Bに示す素子本体4の断面を鏡面研磨し、その後、収束イオンビーム(FIB)を用いたマイクロサンプリング法により、各領域41~43から薄片試料を採取することで作製することができる。そして、当該薄片試料を、走査透過型電子顕微鏡(STEM)、もしくは、電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)を用いて観察し、その観察時に、EPMAによる成分分析(点分析等)を行う。この際、EPMAのX線分光器としては、EDS(エネルギー分散型分光器)、もしくはWDS(波長分散型分光器)を使用することができる。
【0061】
Geの含有量(Cα1,Cβ1,C3)およびVの含有量(Cα2,Cβ2)は、上記の成分分析を各層12,16,43において、それぞれ、少なくとも5箇所以上で実施し、その平均値として算出することが好ましい。また、本実施形態において、Geの含有量およびVの含有量は、いずれも、酸化物換算した含有量ではなく、主成分に対するGe元素もしくはV元素の含有量で表す。
【0062】
また、各層12,16,43における誘電体組成物の結晶構造は、X線回折(XRD)、または、STEM観察やTEM観察における電子線回折で得られる回折パターンにより確認することができる。
【0063】
次に、図1に示す積層セラミックコンデンサ2の製造方法の一例を説明する。
【0064】
本実施形態の積層セラミックコンデンサ2は、ペーストを用いた印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、得られた積層体に一対の外部電極6を形成することで製造できる。以下、製造方法について詳述する。
【0065】
まず、セラミック層12を形成するための第1誘電体ペーストと、段差解消層16を形成するための第2誘電体ペーストと、外層部43を形成するための第3誘電体ペーストと、内部電極層14を形成するための導電性ペーストと、を準備する。
【0066】
具体的に、第1誘電体ペーストは、以下の手順で調製することができる。はじめに、主成分の出発原料と、副成分であるGeを含む出発原料と、を準備し、これらの出発原料を、焼成後に所定の組成比となるように秤量する。主成分の出発原料は、誘電体組成物の主成分を構成する元素を含む酸化物粉末や複合酸化物粉末、もしくは、焼成後に酸化物となる化合物粉末(たとえば炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、有機金属化合物など)を用いることができる。たとえば、セラミック層12を構成する誘電体組成物の主成分を、BaCaZrNbTa30とする場合には、当該主成分の出発原料として、BaCO粉末と,CaCO粉末と、ZrO粉末と、Nb粉末と、Ta粉末とを準備すればよい。なお、主成分の出発原料は、平均粒子径が1.0μm以下であることが好ましい。
【0067】
また、Geを含む出発原料についても、酸化物であるGeO粉末、もしくは、焼成後にGeOとなる化合物粉末を用いることができる。Geを含む出発原料は、平均粒子径が2.0μm以下であることが好ましい。
【0068】
次に、秤量した主成分の出発原料を、ボールミルなどの混合機に投入し、所定時間、湿式で混合する。そして、得られた混合粉末を乾燥し、所定の条件で仮焼きする。仮焼きの条件は、目的とする誘電体組成物の主成分によって適宜決定すればよく、たとえば、上述した所定の化学式で表されるタングステンブロンズ型の誘電体セラミックの場合、雰囲気を大気雰囲気とし、保持温度を700~1000℃とし、保持時間を1~10時間とすればよい。得られた仮焼き粉末については、適宜、解砕、分級などの処理を行い、その後、主成分の仮焼き粉末と、Geを含む出発原料とを混合することで、誘電体原料粉末を得る。なお、仮焼き粉末の解砕処理は、Geを含む出発原料を混合した後に実施してもよい。また、この誘電体原料粉末は、平均粒径が0.5μm~2.0μmの範囲内であることが好ましい。
【0069】
なお、Geの酸化物以外に他の副成分を添加する場合には、その他の副成分の出発原料を、主成分の出発原料と一緒に混合し、仮焼きしてもよい。もしくは、その他の副成分の出発原料のみを混合し仮焼きし、その他の副成分の仮焼き粉末を得た後、別途仮焼きした主成分の仮焼き粉末と、その他の副成分の仮焼き粉末と、Geを含む出発原料と、を混ぜ合わせることで、誘電体原料粉末を得てもよい。その他の副成分の仮焼き粉末を製造する場合は、仮焼き条件は、たとえば、雰囲気を大気雰囲気とし、保持温度を700℃~800℃とし、保持時間を1~5時間とすればよい。
【0070】
次に、上記工程で得られた誘電体原料粉末を、有機ビヒクルもしくは水性ビヒクルに加えて混錬することで、第1誘電体ペーストを得る。ここで、有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解した塗料である。有機ビヒクルに用いられるバインダは、特に限定されず、たとえば、エチルセルロース、ポリビニルブチラールなどの各種バインダを用いることができる。また、有機ビヒクルに用いられる有機溶剤も、特に限定されず、たとえば、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトンなどの各種有機溶媒を用いることができる。一方、水性ビヒクルとは、水溶性のバインダを水に溶解させた塗料である。この場合、水溶性バインダとしては、特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いることができる。なお、第1誘電体ペーストには、上記のバインダや溶媒の他に、可塑剤や分散剤などのその他の添加物が含まれていてもよい。
【0071】
段差解消層16を形成するための第2誘電体ペーストの調製では、副成分の出発原料として、Geを含む出発原料と、Vを含む出発原料とを準備し、GeとVの含有量の比が所定の範囲となるように秤量する。なお、Vを含む出発原料についても、酸化物であるV粉末、もしくは、焼成後にVとなる化合物粉末を用いることができ、その平均粒子径が2.0μm以下であることが好ましい。第2誘電体ペーストの調製方法は、Vを含む出発原料を必ず使用すること以外は、第1誘電体ペーストの調製方法と同様であり、上述した方法で第2誘電体ペーストを得ればよい。
【0072】
なお、エンドマージン部42aの段差解消層16と、サイドマージン部42bの段差解消層16とで、誘電体組成物を異なる組成とする場合には、出発原料の配合比が異なる2種類の第2誘電体ペーストを準備すればよい。
【0073】
外層部43を形成するための第3誘電体ペーストについても、第1誘電体ペーストもしくは第2誘電体ペーストと同様に調製すればよい。すなわち、外層部43におけるGeの含有量やVの含有量は、第3誘電体ペーストを調製する際の出発原料の配合比により制御すればよい。また、外層部43の組成をセラミック層12と同等とする場合は、第3誘電体ペーストとして、第1誘電体ペーストを転用すればよい。同様に、外層部43の組成を段差解消層16と同等とする場合、第3誘電体ペーストについては、別途調製することなく、第2誘電体ペーストを転用すればよい。
【0074】
一方、内部電極層14を形成するための導電性ペーストは、誘電体ペーストと同様の方法で調製でき、導電性原料と有機ビヒクルとを混錬して塗料化することで得られる。この際、導電性原料としては、上述した各種導電性金属または合金からなる導電材粉末、もしくは、焼成後に導電材となる各種金属酸化物、有機金属化合物、レジネートなどの粉末を用いることができる。
【0075】
次に、上記で準備した各ペーストを用いて、図3Aに示すようなグリーンチップ400を製造する。たとえば、印刷法でグリーンチップ400を製造する場合は、PETなどの基材500の上に、各ペーストを順次印刷する。具体的に、まず、第3誘電体ペーストを基材500の上に印刷し、乾燥させることで、外層部43となる前駆体層430を形成する。この際、第3誘電体ペーストを複数回にわたって印刷し、前駆体層430を複数積み重ねてもよい。第3誘電体ペーストを複数回、塗り重ねることで、外層部43の厚みtを最適な範囲に調整することができる。
【0076】
そして、導電性ペーストと第1誘電体ペーストとを、前駆体層430の上に、交互に印刷し、内部電極層14となる電極前駆体層140と、セラミック層12となる前駆体層120とを交互に積層する。この際、電極前駆体層140は、たとえば、図3Bに示すような所定の電極パターンで形成する。すなわち、電極前駆体層140は、Z軸下方に位置する前駆体層120,430よりも、積層面積が小さくなるように形成する。そして、電極前駆体層140が形成されていない領域には、第2誘電体ペーストを印刷し、段差解消層16となる前駆体層160を形成する。なお、導電性ペーストおよび第2誘電体ペーストは、いずれも、前駆体層120,430の上に、印刷するが、印刷する順序は、導電性ペーストが先であてもよいし、第2誘電体ペーストが先であってもよい。また、各ペーストの印刷後は、適宜乾燥処理を行い、乾燥処理の後に、次のペーストを印刷する。
【0077】
上記の手順で、前駆体層120,160および電極前駆体層140を積層した後、さらに、第3誘電体ペーストを複数回にわたって印刷し、グリーンチップ400のZ軸方向の最上部に前駆体層430を形成する。これにより、図3Aに示すグリーンチップ400が得られる。
【0078】
なお、グリーンチップ400は、シート法で製造してもよい。シート法で製造する場合、第1誘電体ペーストを用いてグリーンシートを形成した後、当該グリーンシートの上に、導電性ペーストと第2誘電体ペーストとを所定のパターン(たとえば図3B)で印刷する。そして、当該グリーンシートを、複数積層するとともに、積層方向の両端に、第3誘電体ペーストを用いて形成しておいたシートを所定の枚数、積層する。なお、全てのグリーンシートを積層した後、得られた積層体を加圧し、各グリーンシート間を接着させることが好ましい。このシート法によっても、図3Aに示すようなグリーンチップ400が得られる。
【0079】
また、グリーンチップ400は、図3Cに示すようなグリーン積層体4000を用いて製造することもできる。グリーン積層体4000は、印刷法もしくはシート法で製造でき、その製造過程では、破線で示すような電極パターンで導電性ペーストを印刷し、その電極パターン間を埋めるように第2誘電体ペーストを印刷する。そして、得られたグリーン積層体4000を、一点鎖線に沿って切断することで、複数のグリーンチップ400が得られる。
【0080】
こうして得られたグリーンチップ400に対しては、焼成前に脱バインダ処理を施すことが好ましい。脱バインダ処理は、各前駆体層120,140,160,430に含まれるバインダや有機溶剤が揮発するような条件で行うことが好ましく、たとえば、加熱や減圧などの処理により実施することができる。より具体的に、脱バインダ処理を加熱により実施する場合は、昇温速度を好ましくは5℃/時間~300℃/時間とし、保持温度を好ましくは180℃~500℃とし、温度保持時間を好ましくは0.5時間~24時間とする。また、加熱による脱バインダ処理の雰囲気は、空気もしくは還元雰囲気とする。加熱による脱バインダ処理において、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5℃~75℃程度が好ましい。
【0081】
次に、グリーンチップ400を焼成する。焼成の条件は、昇温速度を200℃/時間~5000℃/時間とすることが好ましく、保持温度を1100℃~1400℃とすることが好ましく、温度保持時間を0.5時間~2.0時間とすることが好ましく、冷却速度を100℃/時間~500℃/時間とすることが好ましい。また、焼成時の雰囲気としては、加湿したNとHとの混合ガスを用いることが好ましく、酸素分圧を、たとえば1.0×10-14MPa~1.0×10-2MPaとすることができ、1.0×10-14MPa~1.0×10-10MPaとすることが好ましい。なお、内部電極層14の主成分をNiとする場合には、酸素分圧を、上記範囲内において、なるべく低くすることが好ましいが、当該内部電極層14にMn,Cr,Co,およびAlなどの副成分が含まれていれば、酸素分圧を上記の範囲内で高く設定してもよい。上記の条件で、焼成することで焼結体である素子本体4が得られる。
【0082】
焼成後の素子本体4に対しては、必要に応じて、アニール処理を施す。アニール処理の条件は、特に限定されない。たとえば、アニール処理時の酸素分圧は、焼成時の酸素分圧よりも高くし、保持温度を1000℃以下とすることが好ましい。なお、上述した脱バインダ処理、焼成、およびアニール処理は、独立して実施してもよいし、連続して実施してもよい。
【0083】
最後に、上記で得られた素子本体4に一対の外部電極6を形成する。外部電極6は、たとえば、ガラス成分などの無機焼結助剤を含む外部電極用ペーストを、素子本体4の表面に塗布し、焼成することで形成することができる。このような方法で形成される外部電極を焼結電極と称する。もしくは、外部電極6は、熱硬化性樹脂などの樹脂成分を含む外部電極用ペーストを、素子本体4の表面に塗布し、樹脂成分を硬化させることで、形成することもできる。このような方法で形成される外部電極を樹脂電極と称する。上述した焼結電極もしくは樹脂電極の表面には、必要に応じて、適宜、メッキ層を形成してもよく、このメッキ層は単層であっても複数層であってもよい。さらに、外部電極6は、焼結電極と樹脂電極とメッキ層とによる積層構造を有していてもよく、この場合、下地電極として焼結電極を形成し、その下地電極の上に樹脂電極を形成し、最表面側にメッキ層(単層もしくは複数層)を形成することが好ましい。
【0084】
以上の工程により、図1に示す積層セラミックコンデンサ2が得られる。
【0085】
(第1実施形態のまとめ)
本実施形態の積層セラミックコンデンサ2では、内層部41を構成する内側セラミック層12aに添加物としてGeが含まれており、内層部41の外側に位置するマージン部42の段差解消層16(補助層)に添加物としてGeおよびVが含まれている。そして、段差解消層16において、Geの含有量Cα1に対するVの含有量Cα2の比が、3以上、100以下である(好ましくは6以上、より好ましくは10以上)。なお、Cα2/Cα1は、少なくともサイドマージン部42bの段差解消層16において上記の条件を満たしている必要があり、エンドマージン部42aの段差解消層16とサイドマージン部42bの段差解消層16の両方において、上記の条件を満たしていることが好ましい。
【0086】
上記の特徴を有することで、本実施形態の積層セラミックコンデンサ2では、高い比抵抗と優れた高温負荷寿命が得られる。特に、積層セラミックコンデンサ2は、200℃以上の高温環境に曝した場合であっても、優れた絶縁特性を示す。比抵抗や高温負荷寿命などの絶縁特性が良好となる理由は、必ずしも明らかではないが、たとえば、以下に示す事由が考えられる。
【0087】
一般的に、Geは、還元雰囲気での焼成時に揮発しやすい。Geを含む従来の積層セラミックコンデンサにおいて、内層部からGeが揮発すると、これに伴い酸素(O)も同時に消失し、内層部のセラミック層で酸素欠陥が多く発生すると考えられる。従来の積層セラミックコンデンサでは、内層部における酸素欠陥が、比抵抗や高温負荷寿命の劣化要因になっていると考えられる。
【0088】
一方、本実施形態の積層セラミックコンデンサ2では、Cα2/Cα1を所定の範囲に設定することで、段差解消層16においてGeよりもVが多量に存在している。この場合、段差解消層16では、アクセプター(すなわちV元素)がドナーより多く存在することとなり、多くの酸素欠陥が発生する。酸素欠陥を、段差解消層16において多く形成することで、段差解消層16よりも素子本体4の内側に位置する内層部41では、かえって酸素欠陥が形成され難くなると考えられる。すなわち、内層部41からGeや酸素Oが消失し難くなると考えられる。その結果、比抵抗や高温負荷寿命の劣化を抑制でき、本実施形態の積層セラミックコンデンサ2では、絶縁特性が良好になる。
【0089】
本実施形態では、マージン部42の段差解消層16のみならず、外層部43においても、GeとVとの含有量の比(Cβ2/Cβ1)が、3以上、100以下であることが好ましい(より好ましくは6以上、さらに好ましくは10以上)。このような条件を満たすことで、比抵抗および高温負荷寿命がより向上する。さらに、外層部43のCβ1,Cβ2が、それぞれ、段差解消層16のCα1,Cα2に近似するほど、比抵抗および高温負荷寿命が向上する傾向となり、段差解消層16の組成と外層部43の組成とを同一とすることで、比抵抗および高温負荷寿命がさらに向上する。また、段差解消層16の組成と外層部43の組成を一致させる場合、それぞれ同じ誘電体ペーストで形成することが可能となり、製造効率が良好となる。
【0090】
本実施形態では、Geの含有量は、段差解消層16(Cα1)よりもセラミック層12(C3)のほうが多いことが好ましく、Cα1に対するC3の比(C3/Cα1)は、1.7以上、100以下であることがより好ましく、2.0以上、40以下であることがさらに好ましい。このような条件を満たすことで、比抵抗および高温負荷寿命がより向上する。なお、外層部43のCβ1とセラミック層12のC3との関係性も、上記と同様にすることが好ましく、これにより、比抵抗および高温負荷寿命がより向上する。
【0091】
(第2実施形態)
次に、図4図6Cに基づいて、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態では、サイドマージン部の構成が異なること以外は、第1実施形態と同様であり、第1実施形態と共通する構成に関しては、説明を省略し、同様の符号を使用する。
【0092】
図4および図5に示すように、第2実施形態の積層セラミックコンデンサ2aでは、素子本体4の側面4cが、側面保護層16a(補助層)で構成してある。すなわち、内層部41の側面を覆うように、側面保護層16aが形成してある。換言すると、Y軸方向の両端から内層部41を挟み込むように、側面保護層16aが形成してある。第2実施形態のサイドマージン部42b1は、側面保護層16aのみで構成してあり、外側セラミック層12bが存在しない。
【0093】
この側面保護層16aは、所定の副成分を含有する誘電体組成物を含んでおり、第1実施形態の段差解消層16と同様の組成で構成する。すなわち、側面保護層16aの誘電体組成物には、副成分としてGeの酸化物とVの酸化物とが含まれ、これらの副成分の比率が、所定の範囲に制御してある。
【0094】
具体的に、側面保護層16aにおいて、誘電体組成物の主成分100モルに対するGeの含有量をCα1とし、誘電体組成物の主成分100モルに対するVの含有量をCα2とすると、Geの含有量Cα1に対するVの含有量Cα2の比(Cα2/Cα1)が、3以上、100以下であり、6以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。第1実施形態と同様に、Cα2/Cα1を上記の範囲内とすることで、高温度域においても、高い比抵抗と優れた高温負荷寿命とが得られる。
【0095】
側面保護層16aにおけるGeの含有量Cα1は、誘電体組成物の主成分100モルに対して、0.2モル~1.5モルであることが好ましい。また、側面保護層16aにおけるVの含有量Cα2は、誘電体組成物の主成分100モルに対して、4.5モル~20モルであることが好ましく、7.5モル~15モルであることがより好ましい。Cα1および/またはCα2を上記の範囲内とすることで、セラミック層12および側面保護層16aからGeが揮発することをより好適に抑制することができる。
【0096】
また、側面保護層16aでは、セラミック層12よりも、Geの含有量が少なくなっていることが好ましい。換言すると、Geの含有量は、側面保護層16a(Cα1)よりもセラミック層12(C3)のほうが多いことが好ましく、具体的に、Cα1に対するC3の比(C3/Cα1)は、1.3以上、100以下であることが好ましく、1.7以上、100以下であることがより好ましく、2.0以上、40以下であることがさらに好ましい。C3/Cα1を上記の範囲とすることで、比抵抗および高温負荷寿命がより向上する。
【0097】
また、側面保護層16aにおいても、第1実施形態の段差解消層16と同様に、Geの酸化物およびVの酸化物以外に、その他の副成分(たとえばMn,Mg,W,Mo,Si,Li,B,およびAlなど)や、不純物等の微量成分(Ba、Ni、Cr、Zn、Cu、Gaなど)、空孔などが含まれていてもよい。
【0098】
なお、第2実施形態の積層セラミックコンデンサ2aにおいても、エンドマージン部42aは、第1実施形態と同様の構成とすることができ、段差解消層16が積層してあることが好ましい。そして、第2実施形態において、エンドマージン部42aの段差解消層16と、サイドマージン部42b1の側面保護層16aとで、誘電体組成物の組成が異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0099】
次に、図4に示す積層セラミックコンデンサ2aの製造方法について説明する。第2実施形態においても、印刷法もしくはシート法により、図6Aおよび図6Bに示すグリーン積層体4001を製造する。グリーン積層体4001の製造では、図6Aに示すような電極パターンで導電性ペーストを印刷し、電極前駆体層141を形成する。そして、電極パターン間を埋めるように第2誘電体ペーストを印刷することで、エンドマージン部42aで段差解消層16となる前駆体層160を形成する。なお、グリーン積層体4001の製造においても、第1実施形態と同様の方法で、第1~第3誘電体ペーストおよび導電性ペーストを準備すればよい。
【0100】
上記で得られたグリーン積層体4001を、図6Bに示す一点鎖線に沿って切断することで、複数のグリーンチップ401が得られる。このグリーンチップ401では、図6Cの上段に示すように、X軸と略垂直な端面401aだけでなく、Y軸と垂直な側面401cにおいても、内部電極層14となる電極前駆体層141が露出している。
【0101】
次に、図6Cの下段に示すように、得られたグリーンチップ401の側面401cに側面保護層16aとなる前駆体層160aを形成する。この際、側面保護層16aの原料は、段差解消層16と同様に、GeとVを副成分として含む第2誘電体ペーストを用いればよい。前駆体層160aは、たとえば、グリーンチップ401の側面401cに対して、第2誘電体ペーストを印刷し、乾燥することで形成できる。もしくは、前駆体層160aは、第2誘電体ペーストを用いて作成したグリーンシートを、グリーンチップ401の側面401cに貼り付けることで形成することもできる。
【0102】
上記の方法で、グリーンチップ401に前駆体層160aを形成した後、当該グリーンチップ401に対して、適宜、脱バインダ処理、焼成、アニール処理などを施し、素子本体4を得る。さらに、その素子本体4に一対の外部電極6を形成することで図4に示す積層セラミックコンデンサ2aが得られる。なお、側面保護層16aとなる前駆体層160aは、グリーンチップ401の焼結後に、形成してもよい。また、上記で省いた詳細な製造条件は、第1実施形態と同様とすればよい。
【0103】
第2実施形態の積層セラミックコンデンサ2aでは、サイドマージン部42b1において、外側セラミック層12bが存在せず、Cα2/Cα1が、サイドマージン部42b1の全域にわたって、所定の範囲内(3以上、100以下)に制御してある。そのため、積層セラミックコンデンサ2aでは、第1実施形態の積層セラミックコンデンサ2よりもさらに、比誘電率および高温負荷寿命を向上させることができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0105】
たとえば、本発明における積層セラミック電子部品としては、実施形態で示した積層セラミックコンデンサであることが最も好ましいが、これに限定されない。たとえば、積層セラミック電子部品は、積層インダクタ、積層バリスタ、積層NTCサーミスタ、積層PTCサーミスタ、もしくは、コンデンサ領域とインダクタ領域とを兼ね備えるLCフィルタなどであってもよく、これらの電子部品の場合でも本発明の効果が期待できる。
【0106】
また、上述した実施形態では、外部電極6が端面4aから主面4bの一部にかけて跨って形成してあったが、一対の主面4bのうちの一方には、外部電極6が形成されていなくてもよい。
【0107】
また、上述した実施形態では、マージン部の段差解消層16もしくは側面保護層16aが、3≦Cα2/Cα1≦100を満たしていたが、外層部43が3≦Cβ2/Cβ1≦100を満たす場合には、マージン部のCα2/Cα1が上記の要件を満たしていないことがあってもよい。この場合、上述した実施形態よりは劣るが、ある程度の絶縁特性は確保でき、本発明の効果が期待できる。
【0108】
さらに、上記の実施形態において、一対の外層部43は、いずれも同じ組成であったが、互いに異なる組成であってもよい。一対のエンドマージン部42a、および、一対のサイドマージン部42b,42b1についても同様である。
【実施例
【0109】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。なお、表1~4において、※印を付した試料は、本発明の範囲外である。
【0110】
(実験1)
実験1では、副成分の含有量を表1に示す値として、図1図2Bに示す構造を有する積層セラミックコンデンサ2の試料1~27を製造し、これら試料1~27の特性(比抵抗や高温負荷寿命など)を評価した。具体的に、実験1では、以下に示す手順でコンデンサ試料を製造した。
【0111】
まず、主成分の出発原料として、いずれも平均粒径が1.0μm以下である、BaCO粉末、CaCO粉末、ZrO粉末、Nb粉末、Ta粉末を準備し、副成分の出発原料として、いずれも平均粒径が2.0μm以下である、GeO粉末、および、V粉末を準備した。
【0112】
セラミック層12を形成するための第1誘電体ペーストは、主成分の出発原料と副成分の出発原料とからなる誘電体原料粉末を塗料化することで得た。この際、焼成後の主成分の組成が、タングステンブロンズ構造のBaCaZrNbTa30となるように、上記の主成分の出発原料を秤量した。また、第1誘電体ペーストには、副成分の出発原料としてGeO粉末のみを用い、セラミック層12におけるGeの含有量C3が所定の値となるように、GeO粉末を秤量した。なお、第1誘電体ペーストは、第1実施形態で示した製造条件に従って調製した。
【0113】
ここで、実験1において、段差解消層16および外層部43は、いずれも、同じ原料ペースト(第2誘電体ペースト)を用いて形成した。すなわち、実験1では、段差解消層16の組成と外層部43の組成とを略同一とした。第2誘電体ペーストの調製においても、焼成後の誘電体組成物の主成分が、セラミック層12と略同一となるように、第1誘電体ペーストと同じ比率で主成分の出発原料を配合した。ただし、第2誘電体ペーストの調製においては、副成分の出発原料としてGeO粉末とV粉末を用い、GeとVの含有比率が所定の値となるように、これらの粉末を配合した。なお、第2誘電体ペーストの詳細な製造条件は、第1誘電体ペーストと同様とした。
【0114】
一方、内部電極層14を形成するための導電性ペーストは、Niの含有量が95wt%以上の導電性粉末を用い、これを塗料化することで得た。
【0115】
次に、上記で調製した各ペーストを用いて、印刷法により、図3Cに示すようなグリーン積層体4000を製造した。具体的に、PETフィルム上に、外層部43となる第2誘電体ペーストを複数回にわたって印刷した後、その上に、導電性ペーストと第1誘電体ペーストとを交互に印刷した。この際、導電性ペーストによる各電極パターンの間を埋めるように、段差解消層16となる第2誘電体ペーストを印刷した。そして、Z軸方向の最上部に外層部43となる第2誘電体ペーストを複数回にわたって印刷し、適宜乾燥させることで、グリーン積層体4000を得た。そして、このグリーン積層体4000を所定のサイズに切断することで、複数のグリーンチップ400を得た。
【0116】
次いで、得られたグリーンチップ400に対して、脱バインダ処理、焼成、アニール処理を施し、素子本体4を得た。なお、脱バインダ処理、焼成、アニール処理は、第1実施形態で示した条件で実施した。
【0117】
そして、素子本体4の端面4aをサンドブラストにて研磨した後、外部電極6としてIn-Ga共晶合金を塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサ2と同形状の試料1~27に係るコンデンサ試料を得た。なお、コンデンサ試料は、各試料につき少なくとも300個製造した。また、これらのコンデンサ試料は、いずれも、サイズが3.2mm×1.6mm×1.2mmであり、セラミック層12の平均厚みが10μm、内部電極層の平均厚みが2μm、内部電極層14に挟まれたセラミック層12の積層数が50層であった。
【0118】
なお、各試料1~27において、各層12,16,43を構成する誘電体組成物の主成分を、EPMAおよびICPを用いて分析した。その結果、実験1の全ての試料1~27では、各層12,16,43の主成分が、いずれも、狙い通りBaCaZrNbTa30となっていることが確認できた。また、XRDにより、各層12,16,43を構成する誘電体組成物の結晶構造解析を行った。その結果、実験1の全ての試料1~27では、各層12,16,43の誘電体組成物が、いずれも、タングステンブロンズ型の結晶構造を有していることが確認できた。
【0119】
得られた試料1~27のコンデンサ試料について、GeおよびVの含有量、比誘電率(εs)、比抵抗,および、高温負荷寿命を下記に示す方法により測定した。結果を表1に示す。
【0120】
[GeおよびVの含有量の測定]
各層12,16,43に含まれるGeおよびVの含有量は、FE-TEM-EPMAにより分析した。その際、各含有量(Cα1,Cα2,Cβ1,Cβ2,C3)の分析は、いずれも、5箇所で実施し、各含有量はその平均値として算出した。また、セラミック層12に含まれるVの含有量については、実験1の全ての試料1~27において、主成分100モルに対して0.01モル以下であることが確認できた。すなわち、全ての試料1~27で、セラミック層12には、Vが実質的に含まれていなかった。表1における「-」の表記は、該当する成分が実質的に含まれていないことを意味する。
【0121】
[比誘電率(εs)]
各試料1~27の比誘電率(単位なし)は、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)を利用して測定した。具体的に、上記のデジタルLCRメータを用いて、コンデンサ試料に対して、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、25℃における静電容量Cを測定した。そして、セラミック層12の厚みと、有効電極面積と、上記の測定で得られた静電容量Cとに基づき、比誘電率を算出した。比誘電率は高いほうが好ましく、200以上を良好と判断した。
【0122】
[比抵抗]
本実施例では、250℃の高温度域において、従来よりも高い負荷をかけて、比抵抗を測定した。具体的に、250℃の環境下にコンデンサ試料を設置し、デジタル抵抗メータ(ADVANTEST社製R8340)を用いて、コンデンサ試料の絶縁抵抗を測定した。その際、コンデンサ試料に対して、電界強度が80V/μmとなる直流電圧を印加し、測定時間60秒の条件で測定を行った。そして、得られた絶縁抵抗と、コンデンサ試料の電極面積と、セラミック層12の厚みとに基づいて、比抵抗の値を算出した。コンデンサの場合、比抵抗が低いと、漏れ電流が大きくなり、その結果として電気回路で誤作動を起こす恐れがある。そのため、比抵抗は高いことが好ましい。比抵抗に関する良否の判断基準は、主成分の組成によっても異なるが、実験1(および実験2,4)の主成分組成の場合、1.00×1011Ωm以上を良好と判断しm、3.00×1011Ωm以上をさらに良好と判断する。
【0123】
[高温負荷寿命]
高温負荷寿命試験についても、従来よりも高い負荷をかけて実施した。具体的に、高温負荷寿命試験では、250℃の温度環境下において、コンデンサ試料に対して電界強度が80V/μmとなる直流電圧を印加し続け、絶縁抵抗の経時変化を測定した。当該高温負荷寿命試験を、各試料に付き200個のコンデンサ試料に対して実施した。本実施例では、絶縁抵抗が1桁劣化するまでの時間を故障時間として、故障時間のワイブル解析から50%の平均故障時間(MTTF)を求め、当該平均故障時間(MTTF)を高温負荷寿命とした。高温負荷寿命は、長い方が好ましく、10時間以上を良好と判断し、12時間以上をさらに良好と判断する。
【0124】
【表1】
【0125】
表1に示す評価結果から、段差解消層16におけるGeとVの含有比:Cα2/Cα1が、3以上、100以下である場合に、比抵抗が高く、かつ、高温負荷寿命が長くなっていることが確認できた。特に本実施例では、従来よりも高い負荷をかけて絶縁特性を評価しており、上記のGeとVの含有比を満たす場合には、250℃の高温度域においても、優れた絶縁特性を実現できることが立証できた。なお、Cα2/Cα1は、6以上、40以下であることが好ましく、6以上、20以下であることがより好ましいことがわかった。
【0126】
また、表1に示す試料4~11の結果を比較することで、段差解消層16におけるGeの含有量Cα1は、主成分100モルに対して0.2モル~1.5モルであることが好ましく、0.5モル~1.25モルであることがより好ましいことが確認できた。また、表1に示す試料12~19の結果を比較することで、段差解消層16におけるVの含有量Cα2は、主成分100モルに対して4.5モル~20モルであることが好ましく、6モル~16モルであることがより好ましいことが確認できた。
【0127】
試料5,10,20~27の結果を比較すると、Cα2/Cα1を所定範囲内としたうえで、C3/Cα1が1.7以上、100以下の条件を満たすことで、比抵抗や高温負荷寿命がより向上する傾向が確認できる。また、C3/Cα1は、2以上、40以下であることがより好ましく、5以上、12以下であることがさらに好ましいこともわかった。さらに、セラミック層12におけるGeの含有量C3は、主成分100モルに対して2.5モル~20モルであることが好ましく、5モルから15モルであることがさらに好ましいことも確認できた。
【0128】
(実験2)
実験2では、外層部43を、段差解消層16とは、異なる原料ペースト(第3誘電体ペースト)で形成し、試料32~35,37~40に係るコンデンサ試料を得た。また、実験2では、外層部43を、セラミック層12と同じ原料ペースト(第1誘電体ペースト)で形成し、段差解消層16を、所定のCα2/Cα1となる第2誘電体ペーストで形成することで、試料41に係るコンデンサ試料を得た。さらに、実験2では、試料41とは逆に、段差解消層16を、セラミック層12と同じ原料ペースト(第1誘電体ペースト)で形成し、外層部43を、所定のCα2/Cα1となる第2誘電体ペーストで形成することで、試料42に係るコンデンサ試料を得た。
【0129】
なお、実験2における上記以外の実験条件は、実験1と共通しており、実験1と同様の方法で、得られたコンデンサ試料の評価を行った。結果を表2に示す。なお、表2に示す試料31,36は、外層部43と段差解消層16とを同じ組成で形成した実施例であり、それぞれ、表1の試料9,15と対応している。
【0130】
また、実験2の全ての試料では、実験1と同様に、各層12,16,43の主成分が、いずれも、タングステンブロンズ型のBaCaZrNbTa30であった。また、表2では、省略したが、セラミック層12のVの含有量を測定したところ、実験2の全ての試料において、Vが実質的に含まれないことが確認できた。
【0131】
【表2】
【0132】
表2に示すように、段差解消層16と外層部43とで、GeとVの含有比を変更した試料32~35,37~40であっても、比抵抗および高温負荷寿命の基準値を満足していることが確認できる。この結果から、段差解消層16と外層部43とを異なる組成とした場合であっても、高い比抵抗と優れた高温負荷寿命が得られることがわかった。ただし、表2に示す試料の中で、試料31,36の特性が最も良好であり、段差解消層16と外層部43の組成が近いほど、比抵抗および高温負荷寿命が良好となる傾向が確認できた。具体的に、Cβ1/Cα1およびCβ2/Cα2は、1.0もしくは、1.0に近似することが好ましいことがわかった。
【0133】
また、試料41および42の結果から、段差解消層16と外層部43のいずれか一方で、GeとVの含有比が所定の範囲内(3以上100以下)となっていれば、ある程度、比抵抗および高温負荷寿命の向上が図れることが確認できた。また、試料41,42と表2に示す他の試料とを比較すると、段差解消層16と外層部43の両方で、GeとVの含有比が所定の範囲内(3以上100以下)となっていることで、比抵抗および高温負荷寿命がより良好となることが確認できた。
【0134】
(実験3)
実験3では、誘電体組成物の主成分を実験1~2から変更して、試料51~73に係るコンデンサ試料を製造した。ただし、実験3の各試料において、セラミック層12の主成分、段差解消層16の主成分、および外層部43の主成分は、表3に示す主成分組成で共通している。なお、表3で示す主成分組成は、EPMAおよびICPを用いて同定した測定結果である。
【0135】
より具体的に、試料51~68の主成分は、化学式:A6-XX+28-x30(0≦X≦5)で表されるタングステンブロンズ構造の誘電体セラミックに該当する。試料69~71の主成分は、タングステンブロンズ構造の誘電体セラミックであるが、上記の化学式を満たさない。さらに、試料72の主成分は、比誘電率が高い、ペロブスカイト構造の強誘電体セラミックであり、試料73の主成分は、比誘電率が低い、ペロブスカイト構造の常誘電体セラミックであった。
【0136】
実験3の各試料については、主成分組成を変更した以外は、実験1と同様の条件で製造し、実験1と同様の評価を行った。評価結果を表3に示す。なお、実験3の全ての試料では、段差解消層16と外層部43とを同じ原料ペースト(第2誘電体ペースト)で形成しており、略同一の組成である。そのため、表3では、外層部43におけるGeとVの含有量の測定結果を省略した。また、表3では記載を省略しているが、実験3の全ての試料では、セラミック層12にVが実質的に含まれていなかった。
【0137】
【表3】
【0138】
表3に示すように、誘電体組成物の主成分を変更した場合であっても、高い比抵抗と長い高温負荷寿命が得られることが確認できた。特に、上述した化学式を満たす誘電体セラミックを主成分とすることで、絶縁特性がより向上する傾向が確認でき、さらに、化学式中のB元素が含まれている試料59~68において、絶縁特性がさらに向上する傾向が確認できた。
【0139】
(実験4)
実験4では、図4および図5に示す構造を有する積層セラミックコンデンサ2aの試料81および82を製造し、その特性を評価した。具体的に、試料81および82のコンデンサ試料は、図6A図6Bに示すグリーン積層体4001を用いて製造した。すなわち、グリーン積層体4001を所定のサイズに切断し、複数のグリーンチップ401を得た後、このグリーンチップ401の側面401cに、第2誘電体ペーストで形成したグリーンシートを貼り付けることで、サイドマージン部42b1を構成する側面保護層16aを形成した。なお、実験4における上記以外の実験条件は、実験1と同様であり、実験1と同様の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0140】
表4では、比較として、実験1の試料9および試料15の結果も記載している。なお、実験4の全ての試料では、段差解消層16と側面保護層16aと外層部43とを同じ原料ペースト(第2誘電体ペースト)で形成しており、これらは略同一の組成である。そのため、表4における「補助層」との記載は、段差解消層16と側面保護層16aとの両方を示す呼称である。また、表4では、外層部43におけるGeとVの含有量の測定結果を省略した。さらに、表4では記載を省略しているが、実験4の全ての試料では、セラミック層12にVが実質的に含まれていなかった。
【0141】
【表4】
【0142】
表4に示すように、サイドマージン部42b1の形成方法を変更した場合であっても、実験1の試料9,15と同様に、高い比抵抗と、長い高温負荷寿命が得られた。特に、実験4の試料81,82は、実験1の試料9,15よりもさらに比抵抗および高温負荷寿命が向上していることが確認できる。試料81,82では、サイドマージン42b1が側面保護層16aのみで構成してあり、素子本体4の側面4cにセラミック層12が露出していないため、内層部41からのGeの揮発をより好適に抑制できたと考えられる。
【符号の説明】
【0143】
2,2a … 積層セラミックコンデンサ
4 … 素子本体(積層体)
4a … 端面
4b … 主面
4c … 側面
41 … 内層部
42 … マージン部
42a … エンドマージン部
42b,42b1 … サイドマージン部
43 … 外層部
12 … セラミック層
12a … 内側セラミック層
12b … 外側セラミック層
14 … 内部電極層
14a … 引出部
16 … 段差解消層(補助層)
16a … 側面保護層(補助層)
6 … 外部電極
400,401 … グリーンチップ
120,430,160,160a … 前駆体層
140 … 電極前駆体層
4000,4001 … グリーン積層体
500 … 基材
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図6C