(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/06 20060101AFI20240326BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20240326BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240326BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F02D41/06
F01N3/20 D
F02D45/00 360A
F01N3/28 J
(21)【出願番号】P 2020184276
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀朗
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-002174(JP,A)
【文献】特開2010-185348(JP,A)
【文献】特開2011-027018(JP,A)
【文献】特開2017-036702(JP,A)
【文献】特開2007-071101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 - 45/00
F01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
要求出力に応じた燃料量に対して空気量を変化可能な内燃機関の排気浄化装置であって、
前記内燃機関の排気通路に設けられた排気浄化触媒の触媒温度を取得する温度取得部と、
所定燃料量に対して空気量を変化させたときの前記内燃機関における排気温度と排気エネルギとの関係に基づいて、暖機される前記排気浄化触媒を流れる排気ガスの目標排気温度を当該排気浄化触媒の触媒温度よりも高い温度に設定する目標排気温度設定部と、
暖機される前記排気浄化触媒における排気温度が前記目標排気温度となるように前記内燃機関の空気量を制御する制御部と、を備え
、
前記目標排気温度設定部は、暖機される前記排気浄化触媒における触媒温度と排気温度との差及び排気流量に基づいて、当該排気浄化触媒を流れる排気ガスから当該排気浄化触媒への熱交換量を推定し、前記熱交換量に基づいて前記目標排気温度を設定する、排気浄化装置。
【請求項2】
前記目標排気温度設定部は、前記関係のもとで複数の仮定排気温度に対する複数の前記熱交換量を推定し、前記熱交換量が最大となる前記仮定排気温度を前記目標排気温度として設定する、請求項
1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
前記排気通路には複数の前記排気浄化触媒が設けられており、
前記温度取得部は、複数の前記排気浄化触媒のそれぞれの触媒温度を取得し、
それぞれの前記触媒温度と所定の目標触媒温度との比較結果に基づいて、優先的に暖機される前記排気浄化触媒である暖機対象触媒を特定する暖機対象触媒特定部を更に備え、
前記制御部は、前記暖機対象触媒における排気温度が前記目標排気温度となるように前記内燃機関の空気量を制御する、請求項1
又は2に記載の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の排気浄化装置として、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1に記載の技術では、触媒温度の推定値と目標となる触媒活性化温度との比較結果に基づいて、エンジンの燃焼状態に関与する制御パラメータを変化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、要求出力に応じた燃料量に対して空気量を変化可能な内燃機関にあっては、所定燃料量に対して空気量を大きくして排気エネルギを大きくすると排気温度が低くなるという関係があり得る。そのため、効率的に触媒を暖機するためには、このような関係を考慮して内燃機関の空気量を制御することが望ましい。
【0005】
本発明は、要求出力に応じた燃料量に対して空気量を変化可能な内燃機関において効率的に排気浄化触媒を暖機することが可能となる排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る排気浄化装置は、要求出力に応じた燃料量に対して空気量を変化可能な内燃機関の排気浄化装置であって、内燃機関の排気通路に設けられた排気浄化触媒の触媒温度を取得する温度取得部と、所定燃料量に対して空気量を変化させたときの内燃機関における排気温度と排気エネルギとの関係に基づいて、暖機される排気浄化触媒を流れる排気ガスの目標排気温度を当該排気浄化触媒の触媒温度よりも高い温度に設定する目標排気温度設定部と、暖機される排気浄化触媒における排気温度が目標排気温度となるように内燃機関の空気量を制御する制御部と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る排気浄化装置では、暖機される排気浄化触媒を流れる排気ガスの目標排気温度が、当該排気浄化触媒の触媒温度よりも高い温度に設定される。暖機される排気浄化触媒における排気温度が目標排気温度となるように、内燃機関の空気量が制御される。ここで、目標排気温度は、所定燃料量に対して空気量を変化させたときの内燃機関における排気温度と排気エネルギとの関係に基づいて算出されるため、例えば排気エネルギを大きくしたために排気温度が過剰に低くなるような事態を回避しつつ排気浄化触媒を暖機することができる。したがって、本発明の一態様に係る排気浄化装置によれば、要求出力に応じた燃料量に対して空気量を変化可能な内燃機関において効率的に排気浄化触媒を暖機することが可能となる。
【0008】
一実施形態において、目標排気温度設定部は、暖機される排気浄化触媒における触媒温度と排気温度と排気流量とに基づいて、当該排気浄化触媒を流れる排気ガスから当該排気浄化触媒への熱交換量を推定し、熱交換量に基づいて目標排気温度を設定してもよい。この場合、排気ガスから排気浄化触媒への熱交換量を排気浄化触媒の暖機の指標として用いて目標排気温度を設定することができる。
【0009】
一実施形態において、目標排気温度設定部は、上記関係のもとで複数の仮定排気温度に対する複数の熱交換量を推定し、熱交換量が最大となる仮定排気温度を目標排気温度として設定してもよい。この場合、複数の仮定排気温度における熱交換量のうち最も効率的に排気浄化触媒を暖機できる目標排気温度を設定することができる。
【0010】
一実施形態において、排気通路には複数の排気浄化触媒が設けられており、温度取得部は、複数の排気浄化触媒のそれぞれの触媒温度を取得し、排気浄化装置は、それぞれの触媒温度と所定の目標触媒温度との比較結果に基づいて、優先的に暖機される排気浄化触媒である暖機対象触媒を特定する暖機対象触媒特定部を更に備え、制御部は、暖機対象触媒における排気温度が目標排気温度となるように内燃機関の空気量を制御してもよい。この場合、複数の排気浄化触媒のうち暖機対象触媒として特定した排気浄化触媒を優先的に暖機することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、要求出力に応じた燃料量に対して空気量を変化可能な内燃機関において効率的に排気浄化触媒を暖機することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態の排気浄化装置を備えたエンジンシステムの概略構成図である。
【
図2】
図1の排気浄化装置のECUに関する構成を示すブロック図である。
【
図3】排気温度と排気エネルギとの関係の一例を示す図である。
【
図4】熱交換量及び暖機対象触媒の特定を説明するための図である。
【
図6】
図1の排気浄化装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図7】
図1のECUの処理を例示するフローチャートである。
【
図8】
図1の排気浄化装置の他の動作例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一又は同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、実施形態の排気浄化装置を備えたエンジンシステムの概略構成図である。
図1に示されるように、排気浄化装置100は、エンジン(内燃機関)1に適用される。エンジン1は、一例としてコモンレール式の4気筒直列ディーゼルエンジンである。エンジン1は、シリンダブロック及びシリンダヘッド等で構成されたエンジン本体2を備えている。エンジン本体2には、4つのシリンダ3が設けられている。各シリンダ3には、燃焼室4内に燃料を噴射するインジェクタ5が配設されている。各インジェクタ5は、コモンレール6に接続されている。インジェクタ5には、コモンレール6に貯留された高圧燃料が供給される。
【0015】
エンジン本体2には、燃焼室4内に空気を吸入するための吸気通路7がインテークマニホールド8を介して接続されている。吸気通路7には、吸入空気の流れ方向上流側から順にエアクリーナ9、ターボチャージャ21のコンプレッサ23、インタークーラ10、及びスロットルバルブ11が設けられている。スロットルバルブ11は、例えば電子制御バタフライバルブである。
【0016】
エンジン本体2には、燃焼室4で燃焼後の排気ガスを排出するための排気通路12がエキゾーストマニホールド(排気通路)13を介して接続されている。排気通路12には、排気浄化触媒として、例えば、排気ガスの流れ方向の上流側から順に、DOC[Diesel Oxidation Catalyst]14aと、DPF[Diesel Particulate Filter]14bと、SCR[Selective Catalytic Reduction]14cと、が設けられている。すなわち、排気通路12には複数の排気浄化触媒が設けられている。なお、以下の説明では、「排気浄化触媒」を単に「触媒」と記すことがある。
【0017】
エンジン1は、燃焼後の排気ガスの一部を排気再循環(EGR)ガスとして燃焼室4内に還流するEGRユニット15を備えている。EGRユニット15は、吸気通路7とエキゾーストマニホールド13とを繋ぐように設けられている。ここでのEGRユニット15は、エンジン本体2とDOC14aとの間のエキゾーストマニホールド13を流れる排気ガスを還流させる。EGRユニット15は、EGRガスを流通させるEGR通路16と、EGRガスの還流量を調整するEGRバルブ17と、EGRガスを冷却するEGRクーラ18と、EGRクーラ18をバイパスするバイパス通路19と、EGRガスの流路をEGRクーラ18側又はバイパス通路19側に切り替える切替弁20とを有している。
【0018】
エンジン1は、エンジン本体2とDOC14aとの間に設けられたターボチャージャ21を備えている。ターボチャージャ21は、排気通路12側に配設されたタービン22と、吸気通路7側に配設されたコンプレッサ23とを有している。
【0019】
ターボチャージャ21は、可変容量式ターボチャージャとして構成されている。ターボチャージャ21は、タービン22側に可変ノズル22aを有している。可変ノズル22aは、周知の構成を有しており、タービンハウジングのスクロール通路から排出通路に流れる排気ガスの向き及び流速を調整可能に構成されている(図示省略)。
【0020】
タービン22では、例えば、ある可変ノズル22aの開度に対して可変ノズル22aの開度が閉じ側に変化すると、タービン22の回転数が増加するように排気ガスの向き及び流速が調整される。また、ある可変ノズル22aの開度に対して可変ノズル22aの開度が開き側に変化すると、タービン22の回転数が減少するように排気ガスの向き及び流速が調整される。可変ノズル22aの開度は、後述のECU[Electronic Control Unit]30によって制御される(詳しくは後述)。
【0021】
排気浄化装置100は、可変ノズル22aの開度の調整によりエンジン1の吸入空気量(空気量)を制御するECU30を備えている。
図2は、
図1の排気浄化装置のECUに関する構成を示すブロック図である。
図2に示されるように、排気浄化装置100は、エンジン回転数センサ24と、アクセルセンサ25と、エアフロセンサ26と、排気温度センサ27と、ECU30と、を備えている。ECU30には、上記各センサ24~27、EGRバルブ17、可変ノズル22a、スロットルバルブ11、及びインジェクタ5が接続されている。
【0022】
エンジン回転数センサ24は、例えばエンジン1のクランクシャフトの回転数をエンジン1の回転数(以下、エンジン回転数という)として検出する検出器である。エンジン回転数センサ24は、検出したエンジン回転数の検出信号をECU30に送信する。
【0023】
アクセルセンサ25は、例えば車両のアクセルペダルに併設されている。アクセルセンサ25は、アクセルペダルのアクセル開度を検出する。アクセルセンサ25は、検出したアクセル開度の検出信号をECU30に送信する。
【0024】
エアフロセンサ26は、エンジン1の吸入空気量を検出する検出器である。エアフロセンサ26は、例えば吸気通路7におけるエアクリーナ9とコンプレッサ23との間に設けられている。エアフロセンサ26は、検出した吸入空気量の検出信号をECU30に送信する。
【0025】
排気温度センサ27は、排気通路12におけるDOC14aの上流側の排気ガスの温度である排気温度Tex1を取得する検出器である。排気温度センサ27は、取得した排気温度Tex1の検出信号をECU30に送信する。
【0026】
ECU30は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECU30では、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECU30は、複数の電子制御ユニットから構成されていてもよい。
【0027】
ECU30は、可変ノズル22aに制御信号を送信することで、タービンハウジングのスクロール通路から排出通路に流れる排気ガスの向き及び流速を調整するように可変ノズル22aの開度を制御する。なお、ECU30は、EGRバルブ17に制御信号を送信することで、EGRガスの還流量を調整するようにEGRバルブ17の開度を制御してもよい。ECU30は、スロットルバルブ11に制御信号を送信することで、エンジン1の吸入空気量を調整するようにスロットルバルブ11の開度を制御してもよい。ECU30は、インジェクタ5に制御信号を送信することで、燃焼室4への燃料噴射量及び燃料噴射時期を調整するようにインジェクタ5を制御してもよい。
【0028】
ECU30は、機能的構成として、エンジン状態取得部(温度取得部)31と、暖機対象触媒特定部32と、目標排気温度設定部33と、エンジン制御部(制御部)34と、を有している。
【0029】
エンジン状態取得部31は、上記各センサ24~27の検出結果に基づいて、エンジン状態を取得する。エンジン状態取得部31は、エンジン状態として、例えば、エンジン回転数センサ24で検出されたエンジン回転数、アクセルセンサ25で検出されたアクセル開度、エアフロセンサ26で検出された吸入空気量、及び、排気温度センサ27で検出された排気温度を取得する。
【0030】
エンジン状態取得部31は、エンジン回転数及びアクセル開度に応じて、公知の手法によりエンジン1の燃料噴射量、燃料噴射時期、及び目標空燃比を算出してもよい。エンジン状態取得部31は、例えば、エアフロセンサ26の検出信号に基づいて、排気ガス流量(排気流量)としてエンジン1の吸入空気量を取得する。
【0031】
エンジン状態取得部31は、アクセル開度に基づいて、エンジン1がアイドリング状態であるか否かを判定してもよい。本実施形態では、例えばエンジン1の始動直後のアイドリングなどで触媒を暖機する場面に着目している。そのため、エンジン1がアイドリング状態である場合、エンジン1の要求出力としては、エンジン回転数が所定の目標回転数となるようにフィードバック制御によって算出されたトルク値であってもよい。このエンジン1では、要求出力を実現するように燃料噴射量(燃料量)が算出される。
【0032】
エンジン状態取得部31は、エンジン回転数及びアクセル開度に応じて、可変ノズル22aのノズル開度の基本値を算出する。可変ノズル22aのノズル開度の基本値は、例えば、エンジン回転数及び燃料噴射量を軸とするマップで規定されていてもよい。
【0033】
エンジン状態取得部31は、エンジン1の排気通路12に設けられた複数の触媒のそれぞれの触媒温度を取得する。エンジン状態取得部31は、例えば、エアフロセンサ26及び排気温度センサ27の検出結果に基づいて、予め設定された温度推定モデルを用いて、DOC14aの触媒温度Tcat1、DPF14bの触媒温度Tcat2、及びSCR14cの触媒温度Tcat3を推定することができる。
【0034】
暖機対象触媒特定部32は、それぞれの触媒温度と所定の目標触媒温度との比較結果に基づいて、優先的に暖機される触媒である暖機対象触媒を特定する。目標触媒温度は、各触媒が活性化するための触媒の温度である。目標触媒温度は、予めECU30に記憶されていてもよい。なお、目標触媒温度は、各触媒が活性化するための触媒の温度より所定温度だけ高い温度であってもよいし、所定温度だけ低い温度であってもよい。
【0035】
暖機対象触媒特定部32は、例えば、DOC14a、DPF14b、及びSCR14cのうち、目標触媒温度に対する触媒温度の未達分が最も大きい触媒を暖機対象触媒として特定する。目標触媒温度に対する触媒温度の未達分とは、目標触媒温度よりも触媒温度が小さい場合の目標触媒温度と触媒温度との差分を意味する。
【0036】
目標排気温度設定部33は、所定燃料量に対して空気量を変化させたときのエンジン1における排気温度と排気エネルギとの関係に基づいて、暖機される触媒を流れる排気ガスの目標排気温度を当該排気浄化触媒の触媒温度よりも高い温度に設定する。
【0037】
図3は、排気温度と排気エネルギとの関係の一例を示す図である。ここでのエンジン1では、上述のように要求出力を実現するように算出された燃料噴射量に対して吸入空気量を増減することにより、空気過剰率を変更可能である。つまり、エンジン1は、要求出力に応じた燃料量に対して空気量を変化可能である。例えば、多量の吸入空気量によって燃焼ガスが多く(排気エネルギが大きく)なると、燃焼ガス温度(排気温度)が低下する傾向にある。また、少量の吸入空気量によって燃焼ガスが少なく(排気エネルギが小さく)なると、排気温度が高くなる傾向にある。
図3に示されるように、所定燃料量に対して空気量を変化させたときのエンジン1における排気温度と排気エネルギとの間には、吸入空気量が大きくなるほど排気温度が低くなると共に排気エネルギが大きくなり、且つ、吸入空気量が小さくなるほど排気温度が高くなると共に排気エネルギが小さくなる関係が存在する。
【0038】
目標排気温度設定部33は、暖機される触媒における触媒温度と排気温度と排気流量とに基づいて、当該触媒を流れる排気ガスから当該触媒への熱交換量を推定する。触媒の暖機は、触媒を通過する排気ガスとの熱交換によって行われる。ここで、触媒内の排気ガスについて公知の流れモデル(例えば円管内乱流モデル)を想定した場合、排気ガスから触媒への熱交換量Qは、以下の(1)式で与えられる。
【数1】
ここで、Cは触媒内の受熱面積に関する定数、Vは排気ガス流量、Prはプラントル数、Tcatは触媒温度、Texは排気温度である。なお、排気ガス流量Vは、エアフロセンサ26で検出した吸入空気量と排気温度とで算出することができる。
【0039】
図4は、熱交換量及び暖機対象触媒の特定を説明するための図である。
図4において、Eexは、最上流に位置する触媒1(DOC14a)とエンジン1との間の排気エネルギである。Tcat1は、触媒1の触媒温度である。Tcat2は、触媒2の触媒温度である。Tcat3は、触媒3の触媒温度である。Tex1は、最上流に位置する触媒1とエンジン1との間の排気温度である。Tex2は、触媒1の下流に位置する触媒2(DPF14b)と触媒1との間の排気温度である。Tex3は、触媒2の下流に位置する触媒3(SCR14c)と触媒2との間の排気温度である。Q1は、触媒1における触媒と排気ガスとの熱交換量である。Q2は、触媒2における触媒と排気ガスとの熱交換量である。Q3は、触媒1における触媒と排気ガスとの熱交換量である。
【0040】
図4に示されるように、本実施形態の排気浄化装置100では、それぞれの触媒を通過する排気ガスとの熱交換を順次計算することで、複数の触媒において暖機される触媒だけでなく熱を奪われる触媒があるとしても、一連の熱の授受の計算を通して、暖機される触媒(上述の暖機対象触媒特定部32で特定された触媒)の目標排気温度を与える形でエンジン1をどのように運転すべきかを決定することができる。
【0041】
目標排気温度設定部33は、排気通路12に設けられている複数の触媒のそれぞれについて、熱交換量Qを算出する。一例として、目標排気温度設定部33は、上記
図3の関係のもとで複数の仮定排気温度に対する複数の熱交換量Qを推定し、熱交換量Qが最大となる仮定排気温度を目標排気温度として設定する。仮定排気温度は、目標排気温度を求めるための演算で用いる仮想的に定めた複数の排気温度を意味する。仮定排気温度は、触媒の暖機のためのエンジン1の運転で使用可能な吸入空気量の範囲を表す運転可能範囲に含まれる排気温度から例えばn個選択される態様であってもよい。なお、nは、2以上の自然数であってもよい。
【0042】
図5は、複数の仮定排気温度の一例を示す図である。
図5には、
図3の関係において、空気上限と空気下限とが示されている。空気上限と空気下限とで挟まれる範囲が、運転可能範囲に相当する。目標排気温度設定部33は、例えば、エンジン1の最大過給状態及び空燃比限界の吸入空気量の制約と下限触媒温度とに対応する吸入空気量の制約に基づいて、触媒の暖機のためのエンジン1の運転で使用可能な吸入空気量の範囲を運転可能範囲として算出する。
【0043】
エンジン1の最大過給状態は、予め設定された最大過給圧でターボチャージャ21が過給している状態を意味し、運転可能範囲における吸入空気量の上限を規定する。空燃比限界は、空気過剰率が小さいことで燃焼室4での燃焼が不安定となる境界を意味し、運転可能範囲における吸入空気量の下限を規定する。下限触媒温度は、例えば、複数の触媒の全てを暖機する場合に、いずれの触媒よりも排気温度を高くするために設けられる触媒温度の下限値であり、運転可能範囲における吸入空気量の上限を規定する。
【0044】
更に、
図5の例では、目標排気温度設定部33は、n個の仮定空気量を運転ポイントとして算出する。運転ポイントは、算出した運転可能範囲に属する吸入空気量のうちから選択したn個の吸入空気量の値に対応する
図5の曲線上の座標点である。n個の運転ポイントは、任意に設定でき、例えば運転可能範囲の上限から下限までを吸入空気量の値について等間隔に分割する座標点としてもよいし、予め設定された座標点のうち運転可能範囲に含まれるものとしてもよい。
【0045】
目標排気温度設定部33は、運転ポイントのn個の仮定空気量の値と、排気温度と排気エネルギとの関係とに基づいて、仮定排気温度及び仮定排気エネルギを運転ポイントごとに推定する。
【0046】
仮定排気温度は、目標排気温度を求めるための演算で用いるために仮定空気量に応じて算出された仮想的な排気温度を意味する。仮定排気温度は、例えば
図5の例では、排気温度と排気エネルギとの関係を表す曲線上における仮定空気量の値に対応する座標の横軸の成分として求めることができる。
【0047】
仮定排気エネルギは、目標排気温度を求めるための演算で用いるために仮定空気量に応じて算出された仮想的な排気エネルギを意味する。仮定排気エネルギは、例えば
図5の例では、排気温度と排気エネルギとの関係を表す曲線上における仮定空気量の値に対応する座標の縦軸の成分として求めることができる。
【0048】
目標排気温度設定部33は、熱交換量Qに基づいて目標排気温度を設定する。より詳しくは、目標排気温度設定部33は、それぞれの触媒を通過する排気ガスとの熱交換量Qを順次計算する。目標排気温度設定部33は、例えば、DOC14aについて、排気温度、触媒温度、及び、熱交換量Qを運転ポイントごとに推定し、続いてDPF14bについて、排気温度、触媒温度、及び、熱交換量Qを運転ポイントごとに推定し、続いてSCR14cについて、排気温度、触媒温度、及び、熱交換量Qを運転ポイントごとに推定する。目標排気温度設定部33は、特定した暖機対象触媒に着目し、暖機対象触媒において複数の運転ポイントに対応する複数の熱交換量Qのうち、熱交換量Qが最大となる運転ポイントの仮定排気温度を目標排気温度に設定する。
【0049】
エンジン制御部34は、暖機対象触媒(暖機される触媒)における排気温度が目標排気温度となるようにエンジン1の吸入空気量を制御する。エンジン制御部34は、暖機対象触媒における排気温度が目標排気温度よりも低い場合、暖機対象触媒における排気温度が目標排気温度よりも高い場合と比べて可変ノズル22aのノズル開度を開くようにターボチャージャ21を制御する。エンジン制御部34は、暖機対象触媒における排気温度が目標排気温度よりも高い場合、暖機対象触媒における排気温度が目標排気温度よりも低い場合と比べて可変ノズル22aのノズル開度を閉じるようにターボチャージャ21を制御する。エンジン制御部34は、例えば、排気温度と目標排気温度との差分に応じて可変ノズル22aのノズル開度を調整してもよい。エンジン制御部34は、例えば、所定のマップで規定された補正値を用いて可変ノズル22aのノズル開度を調整してもよい。このマップは、エンジン1の実機を用いた試験等により予め設定されていてもよい。
【0050】
図6は、
図1の排気浄化装置の動作例を示すタイミングチャートである。
図6(a)では、横軸に時間が示され、縦軸に触媒温度が示されている。
図6(b)では、横軸に排気温度が示され、縦軸に排気エネルギが示されている。
図6では、例えば、エンジン1の始動直後のアイドリングにおいて、効率的な触媒の暖機が図られた例が示されている。
【0051】
図6(a)には、破線L1、一点鎖線L2、及び実線L3が示されている。破線L1は、例えば運転ポイントP1のように、相対的に排気エネルギが大きい状態で触媒の暖機を行った場合の触媒温度の推移を示す。一点鎖線L2は、例えば運転ポイントPnのように、相対的に排気温度が高い状態で触媒の暖機を行った場合の触媒温度の推移を示す。実線L3は、例えば
図6(b)のように運転ポイントをP1からPnに移動させるようにエンジン1の吸入空気量を減少させることで、相対的に排気エネルギが大きい状態から相対的に排気温度が高い状態へと変化させながら触媒の暖機を行った場合の触媒温度の推移を示す。
【0052】
破線L1では、運転ポイントPnよりも排気エネルギが大きいが排気温度は低いため、破線L1は、一点鎖線L2よりも初期の温度上昇勾配が大きいものの、一点鎖線L2よりも低い温度に収束していく。一点鎖線L2では、運転ポイントP1よりも排気エネルギが小さいが排気温度は高いため、一点鎖線L2は、破線L1よりも初期の温度上昇勾配がゆるやかであるものの、破線L1よりも高い温度に収束していく。
【0053】
ここで、排気浄化装置100によれば、例えば
図6(b)のように、当初は暖機対象触媒において熱交換量Qを最大とするには排気エネルギが大きい運転ポイントP1が対応し、エンジンの始動後に触媒の暖機が進むにつれて熱交換量Qを最大とするには排気温度が高い運転ポイントPnが対応するように、効率的に触媒を暖機するための運転ポイントが変化する。そのため、
図6(a)のように、実線L3では、相対的に排気エネルギが大きい状態から相対的に排気温度が高い状態へと変化させられ、一点鎖線L2よりも初期の温度上昇勾配が大きく、その後、破線L1よりも高い温度への収束が実現されることとなる。
【0054】
[ECUによる処理]
次に、ECU30による処理の一例について、
図7を参照して説明する。
図7は、
図1のECUの処理を例示するフローチャートである。ECU30は、例えば始動直後などのエンジン1の運転中において、
図7に示される処理を、例えば一定周期ごとに繰り返し実行する。
【0055】
図7に示されるように、ECU30は、S01において、暖機対象触媒特定部32により、触媒温度と目標触媒温度との比較を行う。暖機対象触媒特定部32は、例えば、DOC14a、DPF14b、及びSCR14cのそれぞれについて、触媒温度と予め設定された目標触媒温度とを比較する。暖機対象触媒特定部32は、触媒温度として、エンジン状態取得部31によって推定された触媒温度を用いる。エンジン状態取得部31は、例えば、エアフロセンサ26及び排気温度センサ27の検出結果に基づいて、DOC14a、DPF14b、及びSCR14cの触媒温度(ここではTcat1,Tcat2,Tcat3)を公知の方法により推定する。
【0056】
ECU30は、S02において、暖機対象触媒特定部32により、触媒の暖機が必要であるか否かを判定する。ECU30は、暖機対象触媒特定部32により、例えば、DOC14a、DPF14b、及びSCR14cのうちの少なくとも何れか1つの触媒の触媒温度が目標触媒温度未満である場合(S02:YES)、触媒の暖機が必要であると判定し、S03に移行する。ECU30は、暖機対象触媒特定部32により、例えば、DOC14a、DPF14b、及びSCR14cの全ての触媒温度が目標触媒温度以上である場合(S02:NO)、触媒の暖機が不要であると判定し、
図7の処理を終了する。
【0057】
ECU30は、S03において、暖機対象触媒特定部32により、暖機対象触媒の特定を行う。暖機対象触媒特定部32は、例えば、DOC14a、DPF14b、及びSCR14cのうち、目標触媒温度に対する触媒温度の未達分が最も大きい触媒を暖機対象触媒として特定する。
【0058】
ECU30は、S04において、目標排気温度設定部33により、運転可能範囲及び運転ポイントの算出を行う。目標排気温度設定部33は、例えば、最大過給状態及び空燃比限界の吸入空気量の制約と下限触媒温度とに対応する吸入空気量の制約に基づいて、触媒の暖機のためのエンジン1の運転で使用可能な吸入空気量の範囲を運転可能範囲として算出する。
図5の例では、目標排気温度設定部33は、算出した運転可能範囲に属する吸入空気量のうちから選択したn個の仮定空気量の値に対応する
図5の曲線上の座標点を運転ポイントとして算出する。
【0059】
ECU30は、S05において、目標排気温度設定部33により、排気温度及び排気エネルギの推定を運転ポイントごとに行う。
図5の例では、目標排気温度設定部33は、運転ポイントのn個の仮定空気量の値と、排気温度と排気エネルギとの関係とに基づいて、仮定排気温度Tex1(1)~Tex1(n)及び仮定排気エネルギEex1(1)~Eex1(n)を運転ポイントごとに推定する。
【0060】
なお、仮定排気温度Tex1(1)~Tex1(n)は、最上流に位置するDOC14aとエンジン1との間の排気温度の仮定値であって、運転ポイントの1~n番目の仮定空気量にそれぞれ対応する排気温度の仮定値である。仮定排気エネルギEex1(1)~Eex1(n)は、最上流に位置するDOC14aとエンジン1との間の排気エネルギの仮定値であって、運転ポイントの1~n番目の仮定空気量にそれぞれ対応する排気エネルギの仮定値である。
【0061】
ECU30は、S06において、目標排気温度設定部33により、排気温度、触媒温度、及び、熱交換量を運転ポイントごとに推定する。目標排気温度設定部33は、例えば、DOC14a、DPF14b、及びSCR14cのそれぞれについて、排気温度、触媒温度、及び、熱交換量を運転ポイントごとに順次推定する。
【0062】
具体的には、DOC14aについて、目標排気温度設定部33は、S01で推定したDOC14aの触媒温度Tcat1と、1~n番目の仮定空気量と、S05で推定した仮定排気温度Tex1(1)~Tex1(n)とに基づいて、上述の式(1)を用いてDOC14aにおける熱交換量Q1(1)~Q1(n)を推定する。目標排気温度設定部33は、推定した熱交換量Q1(1)~Q1(n)を仮定排気エネルギEex1(1)~Eex1(n)からそれぞれ減算することによって、DOC14aとDPF14bとの間の仮定排気エネルギEex2(1)~Eex2(n)を算出する。すなわち、Eex2(1)はEex1(1)-Q1(1)で求められ、Eex2(n)はEex1(n)-Q1(n)で求められる。目標排気温度設定部33は、推定した熱交換量Q1(1)~Q1(n)と仮定排気温度Tex1(1)~Tex1(n)とに基づいて、DOC14aとDPF14bとの間の仮定排気温度Tex2(1)~Tex2(n)を算出する。
【0063】
また、DPF14bについて、目標排気温度設定部33は、S01で推定したDPF14bの触媒温度Tcat2と、1~n番目の仮定空気量と、上記推定した仮定排気温度Tex2(1)~Tex2(n)とに基づいて、上述の式(1)を用いてDPF14bにおける熱交換量Q2(1)~Q2(n)を推定する。目標排気温度設定部33は、推定した熱交換量Q2(1)~Q2(n)を仮定排気エネルギEex2(1)~Eex2(n)からそれぞれ減算することによって、DPF14bとSCR14cとの間の仮定排気エネルギEex3(1)~Eex3(n)を算出する。すなわち、Eex3(1)はEex1(1)-Q1(1)-Q2(1)で求められ、Eex3(n)はEex1(n)-Q1(n)-Q2(n)で求められる。目標排気温度設定部33は、推定した熱交換量Q2(1)~Q2(n)と仮定排気温度Tex2(1)~Tex2(n)とに基づいて、DPF14bとSCR14cとの間の仮定排気温度Tex3(1)~Tex3(n)を算出する。
【0064】
また、SCR14cについて、目標排気温度設定部33は、S01で推定したSCR14cの触媒温度Tcat3と、1~n番目の仮定空気量と、上記推定した仮定排気温度Tex3(1)~Tex3(n)とに基づいて、上述の式(1)を用いてSCR14cにおける熱交換量Q3(1)~Q3(n)を推定する。目標排気温度設定部33は、推定した熱交換量Q3(1)~Q3(n)を仮定排気エネルギEex3(1)~Eex3(n)からそれぞれ減算することによって、SCR14cの下流の仮定排気エネルギEex4(1)~Eex4(n)を算出してもよい。すなわち、Eex4(1)はEex1(1)-Q1(1)-Q2(1)-Q3(1)で求められ、Eex4(n)はEex1(n)-Q1(n)-Q2(n)-Q3(n)で求められてもよい。目標排気温度設定部33は、推定した熱交換量Q3(1)~Q3(n)と仮定排気温度Tex3(1)~Tex3(n)とに基づいて、SCR14cの下流の仮定排気温度Tex4(1)~Tex4(n)を算出してもよい。
【0065】
ECU30は、S07において、目標排気温度設定部33により、熱交換量Qが最大となる運転ポイントの排気温度を目標排気温度に設定する。目標排気温度設定部33は、例えば、S03で特定した暖機対象触媒において熱交換量Qが最大となる運転ポイントの仮定排気温度を目標排気温度に設定する。
【0066】
具体的には、目標排気温度設定部33は、例えば、S03で暖機対象触媒としてDOC14aを特定した場合、推定した熱交換量Q1(1)~Q1(n)のうち最大の熱交換量Q1(m)を特定し、仮定排気温度Tex1(m)を目標排気温度に設定する。目標排気温度設定部33は、例えば、S03で暖機対象触媒としてDPF14bを特定した場合、推定した熱交換量Q2(1)~Q2(n)のうち最大の熱交換量Q2(m)を特定し、仮定排気温度Tex2(m)を目標排気温度に設定する。目標排気温度設定部33は、例えば、S03で暖機対象触媒としてSCR14cを特定した場合、推定した熱交換量Q3(1)~Q3(n)のうち最大の熱交換量Q3(m)を特定し、仮定排気温度Tex3(m)を目標排気温度に設定する。なお、mは、1~nに含まれる整数であって熱交換量が最大となる値である。
【0067】
ECU30は、S08において、エンジン制御部34により、排気温度が目標排気温度となるようにエンジン1の制御を行う。エンジン制御部34は、例えば、S03で特定した暖機対象触媒において排気温度が目標排気温度となるようにエンジン1の制御を行う。
【0068】
具体的には、目標排気温度設定部33は、例えば、S03で暖機対象触媒としてDOC14aを特定した場合、DOC14aの排気温度(例えば入口温度)が仮定排気温度Tex1(m)となるようにするため、エンジン1の吸入空気量がm番目の仮定空気量となるように可変ノズル22aを制御する。目標排気温度設定部33は、例えば、S03で暖機対象触媒としてDPF14bを特定した場合、DPF14bの排気温度(例えば入口温度)が仮定排気温度Tex2(m)となるようにするため、エンジン1の吸入空気量がm番目の仮定空気量となるように可変ノズル22aを制御する。目標排気温度設定部33は、例えば、S03で暖機対象触媒としてSCR14cを特定した場合、SCR14cの排気温度(例えば入口温度)が仮定排気温度Tex3(m)となるようにするため、エンジン1の吸入空気量がm番目の仮定空気量となるように可変ノズル22aを制御する。その後、ECU30は、
図7の処理を終了する。
【0069】
以上説明したように、排気浄化装置100では、暖機される触媒を流れる排気ガスの目標排気温度が、当該触媒の触媒温度よりも高い温度に設定される。暖機される触媒における排気温度が目標排気温度となるように、エンジン1の吸入空気量が制御される。ここで、目標排気温度は、所定燃料量に対して吸入空気量を変化させたときのエンジン1における排気温度と排気エネルギとの関係に基づいて算出されるため、例えば排気エネルギを大きくしたために排気温度が過剰に低くなるような事態を回避しつつ触媒を暖機することができる。したがって、排気浄化装置100によれば、要求出力に応じた燃料量に対して空気量を変化可能なエンジン1において効率的に触媒を暖機することが可能となる。
【0070】
排気浄化装置100では、目標排気温度設定部33は、暖機される触媒における触媒温度と排気温度と排気流量とに基づいて、当該触媒を流れる排気ガスから当該触媒への熱交換量を推定し、熱交換量に基づいて目標排気温度を設定する。これにより、排気ガスから触媒への熱交換量を触媒の暖機の指標として用いて目標排気温度を設定することができる。
【0071】
排気浄化装置100では、目標排気温度設定部33は、上記関係のもとで複数の仮定排気温度に対する複数の熱交換量を推定し、熱交換量が最大となる仮定排気温度を目標排気温度として設定する。これにより、複数の仮定排気温度における熱交換量のうち最も効率的に触媒を暖機できる目標排気温度を設定することができる。
【0072】
排気浄化装置100では、排気通路12には複数の触媒(DOC14a、DPF14b、及びSCR14c)が設けられている。エンジン状態取得部31は、複数の触媒のそれぞれの触媒温度を取得する。排気浄化装置100は、それぞれの触媒温度と所定の目標触媒温度との比較結果に基づいて、優先的に暖機される触媒である暖機対象触媒を特定する暖機対象触媒特定部32を更に備える。エンジン制御部34は、暖機対象触媒における排気温度が目標排気温度となるようにエンジン1の吸入空気量を制御する。これにより、複数の触媒のうち暖機対象触媒として特定した触媒を優先的に暖機することができる。
【0073】
[変形例]
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限られるものではない。
【0074】
例えば、複数の触媒のうち上流側から2つめ以降の触媒を優先的に暖機するために、最上流側の触媒を流れる排気ガスの排気温度が、最上流側の触媒の触媒温度よりも低くなってもよい。
図8は、
図1の排気浄化装置の他の動作例を示すタイミングチャートである。
図8(a)及び
図8(b)では、横軸に時間が示され、縦軸に触媒温度が示されている。
【0075】
図8(a)には、破線L4、破線L5、一点鎖線L6、及び実線L7が示されている。破線L4は、複数の触媒の活性温度(例えば共通の温度)を示す。破線L5は、最上流側の触媒の触媒温度を示し、2つめ以降の触媒の活性温度よりも高い。一点鎖線L6は、エンジン1からの排気ガスの排気温度を示し、最上流側の触媒の触媒温度よりも高い。そのため、エンジン1からの排気ガスが最上流側の触媒に流入しても、最上流側の触媒の熱は奪われない。しかしながら、この場合、一点鎖線L6の排気温度が高いのに対して排気エネルギが相対的に小さくなることから、最上流側の触媒を通過した後に排気ガスの排気温度が低下してしまい、2つめ以降の触媒に対する熱交換量が小さくなることがある。その結果、実線L7のように、2つめ以降の触媒の温度上昇がゆるやかになることがある。
【0076】
これに対し、
図8(b)には、破線L4、破線L8、一点鎖線L9、及び実線L10が示されている。
図8(b)では、2つめ以降の触媒を優先的に暖機するために、2つめ以降の触媒を暖機対象触媒として目標排気温度が設定されている。その結果、
図8(b)では、
図8(a)よりもエンジン1からの排気エネルギが相対的に大きくされ、排気温度は低くなっている。破線L8は、最上流側の触媒の触媒温度を示す。一点鎖線L9は、エンジン1からの排気ガスの排気温度を示し、
図8(a)よりも低くなっている。よって、最上流側の触媒から排気ガスに熱を奪われる。しかし、熱を奪った排気ガスにより、当該熱が2つめ以降の触媒に運ばれる。したがって、
図8(a)よりも大きい排気エネルギに加え、奪った熱を利用できるため、実線L10のように、2つめ以降の触媒の温度上昇を早期化することが可能となる。
【0077】
上記実施形態では、排気通路12にDOC14a、DPF14b、及びSCR14cが設けられていたが、これらの少なくとも一つが省略されていたり、順番が入れ替わっていたり、一体的に構成されていたりしてもよい。
【0078】
上記実施形態では、暖機対象触媒特定部32が、DOC14a、DPF14b、及びSCR14cのうち、目標触媒温度に対する触媒温度の未達分が最も大きい触媒を暖機対象触媒として特定したが、これに限定されない。例えば目標触媒温度に対する触媒温度の未達分に所定の重み付けを行うなど、別の特定手法で暖機対象触媒を特定してもよい。なお、例えば複数の排気浄化触媒のうちの1つが暖機対象触媒として予め定められている場合、複数の排気浄化触媒が一体的に構成されている場合、あるいは排気通路12に設けられた排気浄化触媒が1つのみの場合など、暖機対象触媒特定部32が暖機対象触媒を特定しなくてもよい。この場合、暖機対象触媒特定部32が省略されてもよい。
【0079】
上記実施形態では、可変ノズル22aの調整によりエンジン1の吸入空気量を増減させたが、可変ノズル22aの調整に加えてスロットルバルブ11を閉じ側に補正することで吸気のエントロピを増加させ、吸気加熱をしてもよい。また、例えば、燃料噴射時期の遅角、排気バルブの早開きなどにより、排気温度を高めてもよい。これらの場合においても、
図3及び
図5の曲線が右側(排気温度の高温側)に移動するため、移動後の曲線上で運転ポイント及び仮定排気温度などの演算をすることができる。
【0080】
上記実施形態では、排気温度センサ27で排気温度Tex1を取得したが、例えばエンジン回転数及びアクセル開度に基づいて所定のマップ等を用いて排気温度Tex1を推定してもよい。また、上記実施形態では、触媒温度Tcat1~Tcat3及び排気温度Tex2,Tex3を推定したが、これらの温度をそれぞれ温度センサで取得してもよい。この場合、温度センサで検出した検出値を用いて推定値を用いなくてもよいし、並行して推定値を求めておいて温度センサで検出した検出値を用いて推定値のフィードバック制御を行ってもよい。
【0081】
上記実施形態では、運転可能範囲及び運転ポイントを用いたが、必ずしもこれらを用いなくてもよい。
【0082】
上記実施形態では、目標排気温度設定部33は、所定燃料量に対して空気量を変化させたときのエンジン1における排気温度と排気エネルギとの関係関係のもとで複数の仮定排気温度に対する複数の熱交換量Qを推定し、熱交換量Qが最大となる仮定排気温度を目標排気温度として設定したが、これに限定されない。例えば、目標排気温度設定部33は、エンジン1の運転状態の変化がゆるやかとなるように熱交換量Qが最大となる仮定排気温度に向かって徐々に目標排気温度を近付けるように目標排気温度設定してもよい。なお、目標排気温度設定部33は、必ずしも熱交換量Qを推定しなくてもよい。
【0083】
上記実施形態では、アクセルセンサ25でエンジン1のアイドリングを検出したが、その他の車載センサを用いてエンジン1のアイドリングを検出してもよい。また、上述の触媒の暖機は、アイドリング中以外に実行してもよい。
【0084】
上記実施形態では、内燃機関としてディーゼルエンジンを例示したが、要求出力に応じた燃料量に対して空気量を変化可能なものであれば、例えばガソリンエンジン等、その他の内燃機関であってもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…エンジン(内燃機関)、12…排気通路、13…エキゾーストマニホールド(排気通路)、31…エンジン状態取得部(温度取得部)、32…暖機対象触媒特定部、33…目標排気温度設定部、34…エンジン制御部(制御部)、100…排気浄化装置。