(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】サージ防護素子
(51)【国際特許分類】
H01T 4/12 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
H01T4/12 F
(21)【出願番号】P 2020190718
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2023-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】酒井 信智
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和崇
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-154528(JP,A)
【文献】特開2020-181721(JP,A)
【文献】特開昭62-208581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 4/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス管と、
前記ガラス管の両端開口部を閉塞して内部に放電ガスを封止すると共に放電空間を形成する一対の封止電極とを備え、
前記一対の封止電極が、前記ガラス管に外周面が接合している本体部と、
前記本体部から軸線方向内方に突出した突出部とを備え、
前記突出部が、軸線方向内方に向いた先端面と、
前記先端面と前記本体部の外周面との間で前記放電空間に露出した突出部外周面とを有し、
前記突出部外周面に絶縁膜が形成されていると共に、前記先端面に導体が露出していることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサージ防護素子において、
前記突出部が、前記本体部の軸線を中心軸とした切頭円錐形状であることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
前記本体部の外周面にも前記絶縁膜が形成され、
前記絶縁膜が、亜酸化銅であり、
前記先端面に露出している導体が、銅であることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のサージ防護素子において、
前記ガラス管の前記放電空間内に収納された碍子を備え、
前記碍子の両端が、前記一対の封止電極の前記先端面に接触していることを特徴とするサージ防護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷等で発生するサージから様々な機器を保護し、事故を未然に防ぐのに使用するサージ防護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線との接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージ防護素子が接続されている。サージ防護素子は、一対の電極間で生じるグロー放電により放電が開始され、このグロー放電がアーク放電に移行することで異常電流(サージ電流)をサージ防護素子内に通過させ、機器を保護する。ここで、グロー放電により放電が開始される時のサージ防護素子両端に掛かる電圧は放電開始電圧Vsと呼ばれている。
【0003】
従来、応答性の良好なサージ防護素子として、例えば特許文献1には、
図3に示すように、ガラス管2と、該ガラス管2の両端開口部を閉塞して内部に放電ガスを封止する一対の封止電極103と、両端側に一対の封止電極103を配してガラス管2内に収納された碍子8と、一対の封止電極103のうち少なくとも一方と碍子8との間に介在された金属平板104とを備えたサージアブソーバ100が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
上記従来のサージ防護素子では、
図3に示すように、一対の封止電極103間でアーク放電させているが、放電開始時に一対の封止電極103間でグロー放電が生じることで放電開始電圧Vsが決まる。しかしながら、ガラス管2の内周面を介したルートDの沿面においてグロー放電が生じると、放電開始電圧Vsが不安定になってしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、ガラス管の内周面を介して生じるグロー放電を抑制して安定した放電開始電圧Vsを得ることができるサージ防護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のサージ防護素子は、ガラス管と、前記ガラス管の両端開口部を閉塞して内部に放電ガスを封止すると共に放電空間を形成する一対の封止電極とを備え、前記一対の封止電極が、前記ガラス管に外周面が接合している本体部と、前記本体部から軸線方向内方に突出した突出部とを備え、前記突出部が、軸線方向内方に向いた先端面と、前記先端面と前記本体部の外周面との間で前記放電空間に露出した突出部外周面とを有し、前記突出部外周面に絶縁膜が形成されていると共に、前記先端面に導体が露出していることを特徴とする。
【0008】
このサージ防護素子では、突出部が、軸線方向内方に向いた先端面と、先端面と本体部の外周面との間で放電空間に露出した突出部外周面とを有し、突出部外周面に絶縁膜が形成されていると共に、先端面に導体が露出しているので、封止電極の突出部外周面が絶縁膜で被われていることで、突出部外周面及びガラス管内周面を介した沿面放電が生じ難くなって一対の封止電極の先端面間で直線的なグロー放電が生じ易くなり、安定した放電開始電圧Vsを得ることができる。ここで、導体とは電気抵抗率が10-4Ω・m以下の材料をいい、絶縁膜とは導体と比較し電気抵抗率が100倍以上の材料により形成された膜をいう。
【0009】
第2の発明に係るサージ防護素子は、第1の発明において、前記突出部が、前記本体部の軸線を中心軸とした切頭円錐形状であることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、突出部が、本体部の軸線を中心軸とした切頭円錐形状であるので、本体部から先端面まで先細形状となり、先端面に電界が集中することで、より安定して先端面間で放電が生じる。また、周方向において突出部外周面の長さが一定になることで、突出部外周面及びガラス管内周面を介した一対の先端面間の沿面距離が周方向で均一になり、周方向での沿面放電の発生偏りが無くなって、先端面間でのより安定した放電が得られる。さらに、先細形状の突出部により先端面とガラス管の内周面とが離間することで、放電空間が広くなると共に、放電により飛散した導体がガラス管の内周面に付着し難くなって短絡を抑制することができる。
【0010】
第3の発明に係るサージ防護素子は、第1又は第2の発明において、前記本体部の外周面にも前記絶縁膜が形成され、前記絶縁膜が、亜酸化銅であり、前記先端面に露出している導体が、銅であることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、本体部の外周面にも絶縁膜が形成され、絶縁膜が、亜酸化銅で形成されており、先端面に露出している導体が、銅で形成されているので、亜酸化銅膜が形成された、いわゆるジュメット線を用いることができ、製造コストを低減できると共に、本体部とガラス管との良好な接合を得ることができる。
【0011】
第4の発明に係るサージ防護素子は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記ガラス管の前記放電空間内に収納された碍子を備え、前記碍子の両端が、前記一対の封止電極の前記先端面に接触していることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、碍子の両端が、一対の封止電極の先端面に接触しているので、碍子を介して一対の先端面間でさらに安定して放電し易くなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージ防護素子によれば、突出部が、軸線方向内方に向いた先端面と、先端面と本体部の外周面との間で放電空間に露出した突出部外周面とを有し、突出部外周面に絶縁膜が形成されていると共に、先端面に導体が露出しているので、封止電極の突出部外周面が絶縁膜で被われていることで、突出部外周面及びガラス管内周面を介した沿面放電が生じ難くなって一対の封止電極の先端面間で直線的なグロー放電が生じ易くなり、安定した放電開始電極Vsを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るサージ防護素子の一実施形態を示す一部(ガラス管)を破断した正面図である。
【
図2】本実施形態において、リード線を除く封止電極を示す斜視図である。
【
図3】本発明に係るサージ防護素子の従来例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るサージ防護素子の一実施形態を、
図1及び
図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0015】
本実施形態のサージ防護素子1は、
図1及び
図2に示すように、ガラス管2と、ガラス管2の両端開口部を閉塞して内部に放電ガスを封止すると共に放電空間を形成する一対の封止電極3とを備えている。
上記一対の封止電極3は、ガラス管2に外周面が接合している本体部4と、本体部4から軸線C方向内方に突出した突出部5とを備えている。
【0016】
上記突出部5は、軸線C方向内方に向いた先端面5aと、先端面5aと本体部4の外周面との間で放電空間に露出した突出部外周面5bとを有している。つまり、先端面5aは、軸線Cと直交した平面となる。
また、突出部5は、突出部外周面5bに絶縁膜7が形成されていると共に、先端面5aに導体が露出している。なお、
図1及び
図2の絶縁膜7には、ハッチングを施している。
突出部5は、本体部4の軸線Cを中心軸とした切頭円錐形状(断面台形状)とされている。
【0017】
なお、上記本体部4の外周面にも絶縁膜7が形成されている。
上記絶縁膜7は、亜酸化銅であり、先端面5aに露出している導体は、銅である。
また、本実施形態のサージ防護素子1は、両端側に一対の封止電極3を配してガラス管2内に収納された碍子8を備えている。
上記碍子8の両端は、一対の封止電極3の先端面5aに接触している。
【0018】
上記本体部4は、円柱状に形成されている。
なお、本実施形態では、本体部4の外側にリード線9の一端が溶接、半田付け、埋め込み等により接続されている。
封止電極3は、ガラス管2に嵌め込まれて加熱処理によって融着されて本体部4とガラス管2とが密着状態となって固定されている。
【0019】
なお、封止電極3は、表面が銅(Cu)薄膜で覆われたニッケル合金(Fe-Ni合金)で形成され、上述したように、本体部4の外周面及び突出部5の突出部外周面5bにはさらにCu薄膜上に絶縁膜7が形成されている。
例えば、封止電極3はジュメット線から作られ、突出部5の先端面5aには、厚み20μm以下のCu薄膜が露出状態に形成されている。
【0020】
上記ガラス管2内に封入される放電ガスは、不活性ガス等であって、例えばHe,Ar,Ne,Xe,Kr,SF6,CO2,C3F8,C2F6,CF4,H2,大気等及びこれらの混合ガスが採用される。
上記ガラス管2は、鉛ガラス等で略円筒状に形成され、中央部が、半径方向外側に膨らんでいる。
【0021】
上記碍子8は、アルミナ、ムライト、コランダムムライト等のセラミックス材料で薄板状に形成されている。なお、本実施形態の碍子8は、アルミナで形成されている。
この碍子8の端部は、凸状に形成されている。
また、碍子8の端部は、ガラス管2の端部の内径と略同じ幅とされていると共に中間部の幅がガラス管2の端部の内径よりも狭く設定されている。すなわち、碍子8の中間部が絞られている。
さらに、碍子8の表裏面の中間部には、カーボン等の導電性材料で形成されたトリガ部8aが設けられている。このトリガ部8aは、必要に応じて形成される。
【0022】
次に、このサージ防護素子1の製造方法について説明する。
【0023】
まず、放電ガス雰囲気中において、ガラス管2の下端開口部に一方の封止電極3を突出部5を内方に向けた状態で嵌め込んで閉塞した状態で、ガラス管2の上端開口部からガラス管2内に碍子8を振り込んで収納する。このとき、碍子8の端部がガラス管2の内径と同じ幅に設定されているので、端部がガラス管2の内面に当接して位置決めされ、ガラス管2内の中央に自立状態に収納される。
さらに、ガラス管2の上端開口部を他方の封止電極3で閉塞し、ガラス管2の両端開口部をそれぞれ封止電極3で閉塞して放電ガスを内部に封止して組み立て状態とする。
【0024】
次に、上記組み立て状態のままでガラス管2の軟化点以上に加熱してガラス管2を軟化状態とすると共にガラス管2の内圧よりも外圧を低くして軟化したガラス管2の中間部を外側に膨出させる。すなわち、ガラス管2の外部を減圧することで負圧状態を作り出し、このガラス管2の内部と外部との圧力差によって軟化状態のガラス管2を半径方向外方に膨らんだ状態とする。
この後、冷却することで、ガラス管2の中間部が膨出した状態で硬化されると共に一対の封止電極3の本体部4がガラス管2の両端部に融着されてサージ防護素子1が作製される。
【0025】
このサージ防護素子1では、過電圧又は過電流が侵入すると、まず碍子8のトリガ部8aと封止電極3の先端面5aとの間の
図1のルートAに示すような直線的なルートでトリガ放電が行われる。このとき、突出部外周面5bには絶縁膜7が形成されているため、突出部外周面5b及びガラス管2の内周面を介した沿面であるルートB1、および、ガラス管2の内周面のみを介したルートB2の沿面ではトリガ放電が生じ難くなる。
このトリガ放電をきっかけに、さらに放電が進展して一対の封止電極3の先端面5a間でアーク放電が行われることでサージが吸収される。
【0026】
このように本実施形態のサージ防護素子1では、突出部5が、軸線C方向内方に向いた先端面5aと、先端面5aと本体部4の外周面との間で放電空間に露出した突出部外周面5bとを有し、突出部外周面5bに絶縁膜7が形成されていると共に、先端面5aに導体が露出しているので、封止電極3の突出部外周面5bが絶縁膜7で被われていることで、
突出部外周面5b及びガラス管2の内周面を介した沿面放電が生じ難くなって一対の封止電極3の先端面5a間で直線的なグロー放電が生じ易くなり、安定した放電開始電極Vsを得ることができる。
【0027】
また、突出部5が、本体部4の軸線Cを中心軸とした切頭円錐形状であるので、本体部4から先端面5aまで先細形状となり、先端面5aに電界が集中することで、より安定して先端面5a間で放電が生じる。また、周方向において突出部外周面5bの長さが一定になることで、突出部外周面5b及びガラス管2の内周面を介した一対の先端面5a間の沿面距離が周方向で均一になり、周方向での沿面放電の発生偏りが無くなって、先端面5a間でのより安定した放電が得られる。さらに、先細形状の突出部5により先端面5aとガラス管2の内周面とが離間することで、放電空間が広くなると共に、放電により飛散した導体がガラス管2の内周面に付着し難くなって短絡を抑制することができる。
【0028】
また、本体部4の外周面にも絶縁膜7が形成され、絶縁膜7が、亜酸化銅であり、先端面5aに露出している導体が、銅であるので、亜酸化銅膜が形成された、いわゆるジュメット線を用いることができ、製造コストを低減できると共に、本体部4とガラス管2との良好な接合を得ることができる。
さらに、碍子8の両端が、一対の封止電極3の先端面5aに接触しているので、碍子8を介して一対の先端面5a間でさらに安定して放電し易くなる。
【0029】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1,100…サージ防護素子、2…ガラス管、3,103…封止電極、4…本体部、5…突出部、5a…先端面、5b…突出部外周面、7…絶縁膜、8…碍子