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特許7459770プリフォーム製造用ミシン及びプリフォームの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】プリフォーム製造用ミシン及びプリフォームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D05B 35/06 20060101AFI20240326BHJP
   D05B 19/14 20060101ALI20240326BHJP
   D05B 23/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
D05B35/06
D05B19/14
D05B23/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020195569
(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公開番号】P2022083927
(43)【公開日】2022-06-06
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】平岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健人
(72)【発明者】
【氏名】梅村 康太
(72)【発明者】
【氏名】赤池 文敏
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-100911(JP,A)
【文献】特開平02-048907(JP,A)
【文献】特開2014-189908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00-97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層と、前記基層に縫着された繊維束と、を有して、複合材の芯材となるプリフォームを製造するためのミシンであって、
前記繊維束が巻かれる複数のボビンと、
複数の前記ボビンから繰り出される前記繊維束を前記基層上に案内する繊維ガイドと、
前記繊維ガイドにより案内される前記繊維束を前記基層に縫い付ける縫い針と、を備え、
前記繊維ガイドは、複数の前記ボビンから繰り出される全ての前記繊維束を並列に並べて前記基層上に案内する状態と、複数の前記ボビンから繰り出される全ての前記繊維束を上下に重ねて前記基層上に案内する状態と、に切替可能に設けられていることを特徴とするプリフォーム製造用ミシン。
【請求項2】
前記繊維ガイドによる前記繊維束の案内状態の切り替えに応じて前記基層に対する前記縫い針の落し位置を制御して縫糸のステッチパターンを変更する制御部を備える請求項1に記載のプリフォーム製造用ミシン。
【請求項3】
前記ボビンから繰り出される前記繊維束の繰り出し量を制御する繰り出し量制御機構を備え
前記繰り出し量制御機構は、前記基層上に並列に並べて供給される前記繊維束をカーブ状に縫い付ける際に、カーブ最外側の前記繊維束がカーブ最内側の前記繊維束よりも大きな繰り出し量となるように制御する請求項1又は2に記載のプリフォーム製造用ミシン。
【請求項4】
前記繰り出し量制御機構は、前記ボビンに制動力を付与するブレーキである請求項3に記載のプリフォーム製造用ミシン。
【請求項5】
前記ボビンから繰り出される前記繊維束を切断して前記基層上への供給を停止するとともに、切断された前記繊維束を前記基層上に再投入する繊維束供給機構を備え
前記繊維束供給機構は、前記基層上に並列に並べて供給される前記繊維束をカーブ状に縫い付ける際に、少なくともカーブ最外側の前記繊維束を切断して再投入する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のプリフォーム製造用ミシン。
【請求項6】
基層と、前記基層に縫着された繊維束と、を有して、複合材の芯材となるプリフォームの製造方法であって、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプリフォーム製造用ミシンを用いて前記プリフォームを得ることを特徴とするプリフォームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリフォーム製造用ミシン及びプリフォームの製造方法に関し、更に詳しくは、プリフォーム製造用ミシン及びそのプリフォーム製造用ミシンを用いるプリフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチックと称される複合材(繊維強化体)が知られている。一般に、繊維強化プラスチックは、繊維集合体(プリフォーム)にマトリックス材である樹脂(マトリックス樹脂)を含浸したのち硬化又は固化して得られる。繊維集合体としては、強化繊維束を製織した織物が利用されることが多い(例えば、特許文献1等を参照)。しかしながら、織物を繊維集合体に用いると、繊維配向性が低く、最終的な製品の形状に応じて織物を裁断する必要があり、加工コストが高くなる。
【0003】
そこで、上記の問題を解決する技術として、刺繍機(ミシン)を使用して基層に繊維束を縫い付けてプリフォームを製造するTFP(Tailored Fiber Placement)技術が提案されている。刺繍機101としては、例えば、図26に示されるように、縫い針108の軸回りに360度制約なく自由に回転する刺繍ヘッドを備え、刺繍ヘッドに、繊維束104が巻かれるボビン105と、ボビン105から繰り出される繊維束104を基層103上に案内する繊維ガイド107と、を搭載してなるものが知られている。このTFP技術では、繊維配向性に優れ、最終的な製品の形状に応じて繊維束を縫い付けることができ、加工コストを抑制できる。さらに、刺繍機の作動部が少なく安価な構造にできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-082229号公報
【文献】特開2007-301299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のTFP技術では、製織等の他の工法に比べて、プリフォームの生産速度(すなわち、刺繍速度)が遅いことが問題となる。ここで、刺繍機においては、繊維の供給量が繊維束の太さに依存するため、比較的細い繊維束を使用すると刺繍速度に制限がかかる。一方、比較的太い繊維束を使用すれば刺繍時間を短縮できるが、太い繊維束は厚みもあるため、トポロジー最適化における最小厚みを満たさず、薄く縫いたい部分に対応できない。さらに、繊維束をカーブ状に縫い付けるカーブ部分(特に、極めて小さな曲率半径を持つカーブ部分)では、カーブ内側に繊維束が集まり偏り易いため、カーブ部分に対応できないことがある。
【0006】
なお、特許文献2には、多品種少量生産に対応することができる刺繍ヘッド多頭化に関する技術であり、360度回転する回転体が個別のモータで駆動し同時並列に異なる刺繍が可能であることが開示されている。しかし、特許文献2の技術では、刺繍ヘッドが大きく複数の刺繍ヘッドで単一製品を同時に刺繍することができない。そのため、特許文献3の技術を利用しても、TFP技術において大型製品の生産の高速化に不適である。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、プリフォームの生産の高速化を図り得るとともに、プリフォームの設計自由度を向上させることができるプリフォーム製造用ミシンを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、そのプリフォーム製造用ミシンを用いてプリフォームを好適に得るプリフォームの製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、基層と、前記基層に縫着された繊維束と、を有して、複合材の芯材となるプリフォームを製造するためのミシンであって、前記繊維束が巻かれる複数のボビンと、複数の前記ボビンから繰り出される前記繊維束を前記基層上に案内する繊維ガイドと、前記繊維ガイドにより案内される前記繊維束を前記基層に縫い付ける縫い針と、を備え、前記繊維ガイドは、複数の前記ボビンから繰り出される前記繊維束を並列に並べて前記基層上に案内する状態と、前記繊維束のうちの少なくとも2本の繊維束を上下に重ねて前記基層上に案内する状態と、に切替可能に設けられていることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記繊維ガイドによる前記繊維束の案内状態の切り替えに応じて前記基層に対する前記縫い針の落し位置を制御して縫糸のステッチパターンを変更する制御部を備えることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記ボビンから繰り出される前記繊維束の繰り出し量を制御する繰り出し量制御機構を備えることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記繰り出し量制御機構は、前記ボビンに制動力を付与するブレーキであることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発明において、前記ボビンから繰り出される前記繊維束を切断して前記基層上への供給を停止するとともに、切断された前記繊維束を前記基層上に再投入する繊維束供給機構を備えることを要旨とする。
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、基層と、前記基層に縫着された繊維束と、を有して、複合材の芯材となるプリフォームの製造方法であって、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプリフォーム製造用ミシンを用いて前記プリフォームを得ることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプリフォーム製造用ミシンによると、繊維束が巻かれる複数のボビンと、複数のボビンから繰り出される繊維束を基層上に案内する繊維ガイドと、繊維ガイドにより案内される繊維束を基層に縫い付ける縫い針と、を備える。そして、繊維ガイドは、複数のボビンから繰り出される繊維束を並列に並べて基層上に案内する状態と、繊維束のうちの少なくとも2本の繊維束を上下に重ねて基層上に案内する状態と、に切替可能に設けられている。これにより、複数のボビンから繰り出される繊維束が基層に同時に縫い付けられるため、繊維束の縫い付けの高速化、すなわちプリフォームの生産の高速化を図ることができる。さらに、必要に応じて繊維ガイドにより繊維束を並列に並べて基層上に供給したり、上下に重ねて基層上に供給したりすることで、繊維束の厚みを変えて縫い付けることができる。よって、複雑形状のプリフォームに対応でき、プリフォームの設計自由度を向上させることができる。さらに、複数のボビンで繊維束の種類を使い分ける場合は、プリフォームの設計自由度を更に向上させることができる。
また、前記繊維ガイドによる前記繊維束の案内状態の切り替えに応じて前記基層に対する前記縫い針の落し位置を制御して縫糸のステッチパターンを変更する制御部を備える場合は、繊維ガイドによる繊維束の案内状態に適したステッチパターンで繊維束を縫い付けることができる。
また、前記ボビンから繰り出される前記繊維束の繰り出し量を制御する繰り出し量制御機構を備える場合は、基層上に並列に並べて供給される繊維束をカーブ状に縫い付ける際に、繰り出し量制御機構による繊維束の繰り出し量の制御によって、周長差による繊維束の偏りを抑制して繊維束を縫い付けることができる。
また、前記繰り出し量制御機構は、前記ボビンに制動力を付与するブレーキである場合は、繊維束に制動力を付与する形態に比べて、繊維束の折損等を防止して繊維束の繰り出し量を制御できる。
さらに、繊維束供給機構を備える場合は、基層上に並列に並べて供給される繊維束をカーブ状に縫い付ける際に、繊維束供給機構により繊維束を切断して基層上への供給を停止することで、周長差による繊維束の偏りを抑制して繊維束を縫い付けることができる。そして、カーブ状の縫い付けの終了時等の適宜タイミングで、繊維束供給機構により切断された繊維束を基層上に再投入できる。その結果、幅広の複雑形状を一気に縫い付けることが可能となり、製作時間及び材料の低減に貢献できる。
本発明のプリフォームの製造方法によると、基層と、基層に縫着された繊維束と、を有して、複合材の芯材となるプリフォームの製造方法であって、上記のプリフォーム製造用ミシンを用いてプリフォームを得る。これにより、プリフォームの生産の高速化を図り得るとともに、プリフォームの設計自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
図1】実施例1に係るプリフォーム製造用ミシンの全体図である。
図2】上記ミシンの動作制御を説明するためのブロック図である。
図3】上記ミシンの要部斜視図である。
図4】上記ミシンを構成する繊維ガイドの平面図であり、(a)は繊維束を並列案内する状態を示し、(b)は繊維束を重ね案内する状態を示す。
図5】上記繊維ガイドの正面図であり、(a)は繊維束を並列案内する状態を示し、(b)は繊維束を重ね案内する状態を示す。
図6】上記ミシンによる縫糸のステッチパターンを説明するための説明図であり、(a)は並列案内された繊維束におけるステッチパターンを示し、(b)は重ね案内された繊維束におけるステッチパターンを示す。
図7】他の形態に係る縫糸のステッチパターンを説明するための説明図であり、(a)は1本の繊維束を跨ぐステッチからなる形態を示し、(b)は1本の繊維束を跨ぐステッチと複数の繊維束を跨ぐステッチとからなる形態を示す。
図8】上記ミシンの作用(直線部分の縫い付け作用)を説明するための説明図である。
図9図8の各部断面図であり、(a)はa-a線断面図を示し、(b)はb-b線断面図を示す。
図10】上記ミシンの作用(カーブ部分の縫い付け作用)を説明するための説明図であり、(a)は並列案内された繊維束をカーブ状に縫い付ける状態を示し、(b)は重ね案内された繊維束をカーブ状に縫い付ける状態を示す。
図11図10の各部断面図であり、(a)はa-a線断面図を示し、(b)はb-b線断面図を示す。
図12】上記ミシンを用いて得られたプリフォームの外観画像処理図である。
図13】実施例2に係るミシンの要部斜視図である。
図14】上記ミシンを構成する繊維ガイドの斜視図であり、(a)は繊維束を並列案内する状態を示し、(b)は繊維束を重ね案内する状態を示す。
図15】上記繊維ガイドの正面図であり、(a)は繊維束を並列案内する状態を示し、(b)は繊維束を重ね案内する状態を示す。
図16】実施例3に係るミシンの要部斜視図である。
図17】上記ミシンを構成する繊維ガイドの斜視図であり、(a)は繊維束を並列案内する状態を示し、(b)は繊維束を重ね案内する状態を示す。
図18】上記繊維ガイドの縦断面図であり、(a)は繊維束を並列案内する状態を示し、(b)は繊維束を重ね案内する状態を示す。
図19】実施例4に係るミシンの要部斜視図である。
図20】上記ミシンを構成する繊維束供給機構の作用を説明するための説明図であり、(a)は繊維束を基層上に供給している状態を示し、(b)はカッターで繊維束を切断保持した状態を示し、(c)は繊維ガイドを後方に跳ね上げた状態を示し、(d)はカッターによる繊維束の保持を解除した状態を示し、(e)は繊維ガイドを前方に振り下ろして繊維束を再投入した状態を示す。
図21】上記ミシンを構成する繊維束供給機構の作用を説明するための説明図であり、(a)は直線部分の縫い付け状態を示し、(b)(c)はカーブ部分の縫い付け状態を示す。
図22】実施例5に係るミシンを構成する繊維束供給機構の作用を説明するための説明図であり、(a)は繊維束を基層上に供給している状態を示し、(b)はカッターで繊維束を切断保持した状態を示し、(c)はカッターによる繊維束の保持を解除して送出部で繊維束を把持した状態を示し、(d)は送出部の前進により繊維束を再投入する状態を示し、(e)は送出部の把持を解除した状態を示す。
図23】実施例6に係るミシンの要部斜視図である。
図24】他の形態に係る繊維ガイドによる繊維束の案内形態を説明するための説明図であり、(a)~(c)は重ね案内された繊維束を示し、(d)は並列案内された繊維束を示す。
図25】他の形態に係るボビン及びブレーキを説明するための説明図である。
図26】従来の刺繍機の要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0012】
<プリフォーム製造用ミシン>
本実施形態に係るプリフォーム製造用ミシンは、基層3と、基層3に縫着された繊維束4と、を有して、複合材の芯材となるプリフォーム2(例えば、図12を参照)を製造するためのミシン1A~1Fであって、例えば、図1に示すように、繊維束4が巻かれる複数のボビン5と、複数のボビン5から繰り出される繊維束4を基層3上に案内する繊維ガイド7A~7Fと、繊維ガイド7A~7Fにより案内される繊維束4を基層3に縫い付ける縫い針8と、を備える。そして、例えば、図4図14及び図17に示すように、繊維ガイド7A~7Fは、複数のボビン5から繰り出される繊維束4を並列に並べて基層3上に案内する状態Aと、繊維束4のうちの少なくとも2本の繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内する状態Bと、に切替可能に設けられている。
【0013】
ボビン5は、少なくとも2つ以上備えられている限り、その構造、材質等は特に問わない。ボビン5は、例えば、図25に示すように、上下に段状に配置されていてもよいが、繊維束4の繰り出し量の均等化等の観点から、隣り合うボビン5の軸端同士が対向するように左右に並んで配置されていることが好ましい(例えば、図8を参照)。この場合、繊維束4と繊維ガイド7A~7Fとの擦れを抑制するために、ボビン5は、各軸が同一の水平面上で交差するように配置されていることが好ましい。
【0014】
複数のボビン5には、例えば、同じ種類の繊維束4が巻かれてもよいが、プリフォーム2の設計自由度の観点から、複数のボビン5には少なくとも2以上の異種の繊維束4が巻かれていることが好ましい。異種の繊維束4としては、例えば、繊維束4を構成する後述の連続繊維の本数、材質、繊維形態、束化形態等のうちの1種又は2種以上の組み合わせが異なる繊維束4が挙げられる。
【0015】
本実施形態に係るプリフォーム製造用ミシンとしては、例えば、図23に示すように、基層3に縫い付けられた状態で繊維束4と区別可能(識別可能)な意匠用繊維58が巻かれるボビン59を備える形態が挙げられる。これにより、プリフォーム2の意匠性を飛躍的に向上させることができる。
意匠用繊維58は、例えば、繊維束4に対して色、表面形状、太さ等のうちの1種又は2種以上の組み合わせで区別できる繊維である限り、その種類等は特に問わない。意匠用繊維58としては、例えば、絹糸、綿糸、毛糸、混紡糸、混撚糸、ノットヤーン、スパイラルヤーン、杢糸、ループヤーン、スラブヤーン、カールヤーン等が挙げられる。さらに、意匠用繊維58としては、例えば、繊維束4と区別可能である限りにおいて、繊維束(例えば、強化繊維を含む繊維束)であってもよい。
ボビン59から繰り出される意匠用繊維58は、通常、繊維束4とともに繊維ガイド7A~7Fにより基層3上に案内される。
【0016】
繊維ガイド7A~7Fは、繊維束4の案内状態(並列案内及び重ね案内)を切替可能である限り、その案内形態、構造等は特に問わない。
繊維ガイド7A~7Fによる繊維束4の並列案内としては、例えば、図5(a)に示すように、隣り合う繊維束4が幅方向に所定間隔で離間するように繊維束4を並列に並べて基層3上に案内する形態が挙げられる。さらに、例えば、図24(d)に示すように、隣り合う繊維束4が幅方向に隙間なく接するように繊維束4を並列に並べて基層3上に案内する形態が挙げられる。
繊維ガイド7A~7Fは、通常、複数のボビン5から繰り出される全ての繊維束4を並列に並べて基層3上に案内する。
【0017】
繊維ガイド7A~7Fによる繊維束4の重ね案内としては、例えば、図5(b)に示すように、繊維束4の幅方向の中心が幅方向に略一致するように繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内する形態が挙げられる。さらに、例えば、図24(a)(b)に示すように、繊維束4の幅方向の中心が幅方向にずれるように繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内する形態(すなわち、繊維束4を長手方向に沿って部分的に上下に重ねて案内する形態)が挙げられる。
繊維ガイド7A~7Fによる繊維束4の重ね案内としては、例えば、図4(b)及び図5(b)に示すように、複数のボビン5から繰り出される全ての繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内する形態が挙げられる。さらに、例えば、図24(c)に示すように、複数のボビン5から繰り出される全ての繊維束4のうちの少なくとも一本の繊維束4を重ねずに他の繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内する形態が挙げられる。
【0018】
繊維ガイド7Aは、例えば、図4及び図5に示すように、繊維束4を導出する複数の導出口32を有するとともに、複数の導出口32が上下方向に重ならない第1位置C1と、複数の導出口32が上下方向に重なる第2位置C2と、の間で回転可能に設けられてていることができる。
これにより、繊維束4の案内状態を円滑且つ確実に切り換えることができるとともに、繊維ガイド7Aの切替機構25を簡素化できる。
なお、第1位置C1と第2位置C2の間の繊維ガイド7Aの回転角度は、図5中では約90度とされているが、これに限定されず、繊維束4の重ね案内や並列案内の形態に応じて適宜選択される。
【0019】
繊維ガイド7Bは、例えば、図14及び図15に示すように、繊維束4を並列に並べて基層3上に案内するための第1繊維ガイド41と、繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内するための第2繊維ガイド42と、を備えることができる。
具体的に、第1繊維ガイド41は、複数の繊維束4を仕切る形状に形成されているとともに、第2繊維ガイド42の案内の上流側で第2繊維ガイド42に対して前進後退可能に設けられており、第2繊維ガイド42は、複数の繊維束4が挿通される拡縮可能な環状体であり、第1繊維ガイド41が前進した状態で第2繊維ガイド42が拡大することで、繊維束4を並列に並べて基層3上に案内するとともに、第1繊維ガイド41が後退した状態で第2繊維ガイド42が縮小することで、繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内することができる。
これにより、繊維束4の案内状態を円滑且つ確実に切り換えることができるとともに、繊維ガイド7Bの上下の動きが必要最小限となるので縫い針8に近い位置に繊維束4を案内することができる。
【0020】
繊維ガイド7Cは、例えば、図17及び図18に示すように、外周に沿って凹部45が形成された回転体であり、凹部45は、第1案内部46と、第1案内部46よりも溝幅が狭く且つ溝深さが深い第2案内部47と、を有し、繊維ガイド7Cは、第1案内部46で繊維束4を並列に並べて基層3上に案内する第1位置C1と、第2案内部47で繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内する第2位置C2と、の間で回転可能に設けられていることができる。
これにより、繊維束4の案内状態を円滑且つ確実に切り換えることができるとともに、繊維ガイド7Cの上下の動きがないので縫い針8に近い位置に繊維束4を案内することができる。さらに、繊維ガイド7Cの切替機構25を簡素化できる。
なお、第1位置C1と第2位置C2の間の繊維ガイド7Cの回転角度は、図18中では約90度とされているが、これに限定されず、繊維束4の重ね案内や並列案内の形態に応じて適宜選択される。
【0021】
本実施形態に係るプリフォーム製造用ミシンとしては、例えば、図6に示すように、繊維ガイド7A~7Fによる繊維束4の案内状態の切り替えに応じて基層3に対する縫い針8の落し位置Pを制御して縫糸18のステッチパターンS1、S2を変更する制御部13を備える形態が挙げられる。
【0022】
制御部13による縫い針8の落し位置Pの制御は、例えば、保持枠12の移動制御、繊維ガイド7A~7Fの千鳥振り制御、回転体15の回転制御及び縫い針8の往復駆動制御のうちの1種又は2種以上の組み合わせの制御により実施できる。
なお、縫い針8の落し位置Pは、例えば、縫い付けられた繊維束4の側方に配置されてもよいし、縫い付けられた繊維束4の裏側に隠れるように配置されてもよい。
【0023】
ステッチパターンS1、S2としては、例えば、図6に示すように、繊維束4の幅方向の千鳥間隔L1及び/又は繊維束4の長手方向の千鳥間隔L2が異なる形態が挙げられる。
ステッチパターンS1は、例えば、図7(a)に示すように、並列に並べられた1本の繊維束4を跨ぐステッチs3のみにより構成されていてもよいが、縫付速度の高速化等の観点から、例えば、図6(a)及び図7(b)に示すように、並列に並べられた複数本の繊維束4を跨ぐステッチs2と並列に並べられた1本の繊維束4を跨ぐステッチs3により構成されていることが好ましい。
ステッチパターンS2としては、例えば、図6(b)に示すように、上下に重ねられた複数の繊維束4を跨ぐステッチs1により構成される形態が挙げられる。
なお、上記ステッチs1~s3とは、縫糸(上糸)18において連続する一対の落し位置Pの間を繋ぐ部分を意図する。
【0024】
本実施形態に係るプリフォーム製造用ミシンとしては、例えば、図10に示すように、ボビン5から繰り出される繊維束4の繰り出し量を制御する繰り出し量制御機構27を備える形態が挙げられる。
【0025】
繰り出し量制御機構27の構造、配置場所等は特に問わない。繰り出し量制御機構27としては、例えば、繊維束4の繰り出し量を減少させる機構、繊維束4の繰り出し量を増加させる機構などが挙げられる。これら機構は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
繰り出し量を減少させる機構としては、例えば、ブレーキ27が挙げられる。ブレーキ27は、例えば、図25に示すように、繊維束4を把持して繊維束4に制動力を付与する形態であってもよいが、繊維束4の折損防止等の観点から、ボビン5に制動力を付与する形態であることが好ましいこの場合、ブレーキ27は、ボビン5を構成する筒軸5aに制動力を付与してもよいし、ボビン5を構成する円板5bに制動力を付与してもよい。
繰り出し量を増加させる機構としては、例えば、繊維束4に送り出し力を付与して繊維束4の繰り出し量を増加させる形態、ボビン5に回転力を付与して繊維束4の繰り出し量を増加させる形態等が挙げられる。
【0026】
繰り出し量制御機構27は、例えば、図10に示すように、複数のボビン5の全てに対応して備えられていることが好ましい。並列案内される繊維束4をカーブ状に縫い付ける際に、カーブ内側からカーブ外側に向かって複数の繊維束4の繰り出し量を段階的に多くなるように制御でき、周長差による繊維束4の偏りを効果的に抑制できるためである。
【0027】
本実施形態に係るプリフォーム製造用ミシンとしては、例えば、図20図22に示すように、ボビン5から繰り出される繊維束4を切断して基層3上への供給を停止するとともに、切断された繊維束4を基層3上に再投入する繊維束供給機構51、55を備える形態が挙げられる。
【0028】
繊維束供給機構51は、例えば、図20に示すように、繊維束4を切断するカッター52を備え、繊維ガイド7Aは、複数の繊維束4のそれぞれを案内する複数の分割ガイド50を備え、各分割ガイド50は、繊維束4の案内方向に沿って揺動可能に設けられていることができる。
繊維束供給機構55は、例えば、図22に示すように、繊維束4を切断するカッター56と、切断された繊維束4を基層3上に送り出す送出部57と、を備えることができる。
【0029】
なお、参考形態に係るプリフォーム製造用ミシンとしては、基層3と、基層3に縫着された繊維束4と、を有して、複合材の芯材となるプリフォーム2(例えば、図12を参照)を製造するためのミシン1A~1Fであって、例えば、図1に示すように、繊維束4が巻かれる複数のボビン5と、複数のボビン5から繰り出される繊維束4を基層3上に案内する繊維ガイド7A~7Fと、繊維ガイド7A~7Fにより案内される繊維束4を基層3に縫い付ける縫い針8と、ボビン5から繰り出される繊維束4を切断して基層3上への供給を停止するとともに、切断された繊維束4を基層3上に再投入する繊維束供給機構51、55(例えば、図20図22を参照)と、を備える形態が挙げられる。
本参考形態に係るプリフォーム製造用ミシンでは、繊維ガイド7A~7Fによる繊維束4の案内状態の切り替えの有無を問わない。さらに、本参考形態に係るプリフォーム製造用ミシンの各構成としては、例えば、上記の実施形態に係るプリフォーム製造用ミシンで説明した各構成を適用することができる。
【0030】
基層3は、繊維束4を縫着するための層である。基層3は、どのような構造を有してもよい。即ち、例えば、繊維集合体(織物、不織布、編物等)、金属シート(箔、板等)、樹脂シート(フィルム、板等)などが挙げられる。
基層3に対して繊維束4を縫着するという観点から、基層3は、織物であることが好ましい。基層3が織物である場合には、繊維束4を縫着し易いこと、縫着した際の縫糸18に対する拘束が高いこと、基層3としての柔軟性に優れること、更には、マトリックス樹脂(未固化物)を層内に含浸させ易いこと等の利点を有する。
尚、繊維束4は、基層3の一面のみに縫着されてもよいが、基層3の両面に縫着されてもよい。
【0031】
基層3が織布であり、繊維束4(強化繊維束)が基層3に縫着されたプリフォームでは、繊維束自体を織物にしたプリフォームに比較して、繊維束4にクリンプを生じることを防止できる。クリンプを有すると、クリンプを介して厚さ方向への力の伝達を生じるが、クリンプが抑制されることで、厚さ方向への力の伝達を抑制できる。従って、得られる複合材の厚さ方向の耐衝撃性をより高くすることができる。
【0032】
また、縫着という手段によれば、縫糸18のテンションによって、繊維束4の拘束の程度を自在に制御できる。従って、例えば、基層3に対して繊維束4を強固に固定しながら、繊維束4の可動性(基層3に対する可動性、及び/又は、繊維束4同士の間の可動性)を、繊維束を製織してなるプリフォームと比較して、より多く確保できる。その結果、基層3と繊維束4とで形成される縫着領域Rの柔軟性を高く保つことができる。
基層3として織布を用いる場合、この織布の構成は限定されないが、縫着される繊維束4よりも、繊度が低い構成糸によって織られた織物であることが好ましい。
【0033】
また、基層3として織布を用いる場合、この織布はどのような組織を有してもよいが、1×1、2×2、3×3等の平組織を有することが好ましい。この平組織は5×5よりも細かい組織が好ましく、4×4又はそれより細かい組織がより好ましく、3×3又はそれより細かい組織が更に好ましく、2×2又はそれより細かい組織が特に好ましい。
【0034】
更に、基層3を構成する構成糸には、繊維束4を構成する強化繊維と同じ繊維を用いてもよいが、異なる繊維を用いることができる。具体的には、各種の樹脂繊維及び植物性繊維等を用いることができる。このうち樹脂繊維を構成する樹脂としては、ポリアミド(脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド等)、ポリエステル(芳香族ジカルボン酸由来の構成単位を有するポリエステル等)等を利用できる。また、植物繊維としては、綿繊維及び麻繊維等を用いることができる。
また、基層3が織布である場合、その目付は、限定されないが、例えば、1g/m以上1000g/m以下(更には、50g/m以上500g/m以下)とすることができる。
【0035】
繊維束4は、連続繊維を束ねてなる繊維の束である。繊維束4を構成する連続繊維としては強化繊維を含むことが好ましい。繊維束4は、強化繊維のみから構成されてもよく、強化繊維以外の繊維(非強化繊維)を含んでもよい。但し、非強化繊維を含む場合、繊維束全体100質量%に対して10質量%以下であることが好ましい。繊維束、及び、この繊維束を構成する連続繊維は、撚りを有してもよいし、有さなくてもよい。
また、繊維束4は、どのように束化されていてもよい。複数の連続繊維が単に引き揃えただけの状態であってもよいし、糸(束化用の糸)を用いて複数の連続繊維が結束されていてもよいし、接着剤、粘着剤、熱融着剤等の他剤を介して連続繊維同士が結着されて束化されていてもよいし、その他の方法によって束化されていてもよい。
【0036】
1本の繊維束4を構成する連続繊維の本数は限定されないが、例えば、3000本以上とすることができる。繊維束4を構成する連続繊維の本数が3000本以上であることにより、柔軟でありながらプリフォームとして優れた強度を発揮させることができる。この本数は限定されないが、例えば、3000本以上100000本以下とすることができ、更に5000本以上70000本以下とすることができ、更に7000本以上50000本以下とすることができ、更に10000本以上30000本以下とすることができる。
【0037】
連続繊維は、無機材料繊維であってもよく、有機材料繊維であってもよく、これらを併用してもよい。無機材料繊維としては、炭素繊維(PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維)、ガラス繊維、金属繊維などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、有機材料繊維としては、芳香族ポリアミド(アラミド繊維、商品名「ケブラー」等)、ポリベンズアゾール樹脂繊維(ポリ-パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、商品名「ザイロン」等)などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0038】
連続繊維の繊維形態は限定されず、スパンヤーンであってもよく、フィラメントヤーンであってもよく、これらの併用形態であってもよいが、これらのなかでは、フィラメントヤーンであることが好ましい。更に、連続繊維は、モノフィラメントであってもよく、マルチフィラメントであってもよく、これらを併用してもよい。
【0039】
<プリフォームの製造方法>
本実施形態に係るプリフォームの製造方法は、例えば、図12に示すように、基層3と、基層3に縫着された繊維束4と、を有して、複合材の芯材となるプリフォーム2の製造方法であって、上記の実施形態に係るプリフォーム製造用ミシン1A~1Fを用いてプリフォーム2を得る。
【0040】
プリフォーム2は、繊維束4が基層3に縫い付けられた縫着領域Rを備える。縫着領域Rは、例えば、並列案内された繊維束4が縫い付けられた薄縫い領域R1と、重ね案内された繊維束4が縫い付けられた厚縫い領域R2と、を含んでいる。ただし、ミシン1A~1Fの繊維ガイド7A~7Fによる繊維束4の案内状態の選択によっては、薄縫い領域R1及び厚縫い領域R2のうちの一方の領域のみを含む場合もある。
【0041】
縫着領域Rにおいては、重ね案内された繊維束4又は並列案内された繊維束4が基層3に対して複列に並ぶように平面状に縫着されている。
縫着領域Rにおいて、繊維束4は、どのように縫着して、基層3に対して複列に並ぶように平面状に配置してもよいが、例えば、所定面を埋めるように繊維束4を引き揃えて縫着することができる。さらに、繊維束4を折りたたんで所定面を埋めるように縫着することができる。具体的には、繊維束4を蛇腹状に折り畳んで配置したり、螺旋状(円螺旋、多角形螺旋等)に巻回することによって折り畳んで配置したりできる。
これらの縫着態様は、1種のみを用いてよく2種以上を併用してもよい。また、当然ながら、これら以外の縫着態様を利用できる。
【0042】
尚、縫着領域Rにおいては、重ね案内された繊維束4又は並列案内された繊維束4が1層として敷き詰めて縫着されていてもよいし、2層以上となるように複層に敷き詰めて縫着されていてもよい。更には、基層3の表裏に各々敷き詰めて縫着されてもよい。
また、上述のように、2層以上に敷き詰めて縫着する場合や、表裏に敷き詰めて縫着する場合には、1層を構成する繊維束4の配列方向と、隣接される他層を構成する繊維束4の配列方向と、は平行に配置してもよいが、配列方向が異なるように、交差させて配置できる。この場合、例えば、交差角度は90度以下(0度<θ≦90度)とすることができる。
【0043】
プリフォーム2は、通常、繊維束4が縫着されていない非縫着領域R3を構成する基層3を切除して複合材の芯材として使用される。この切除は、例えば、刃物(鋏、カッター、切断型等)やレーザーを用いて実施できる。
【0044】
なお、複合材(繊維強化体)は、例えば、プリフォームと、プリフォームを埋設するマトリックス樹脂と、を有することができる。
複合材において、マトリックス樹脂は、プリフォームを埋設している樹脂である。より具体的には、プリフォームの内部に行きわたるように含浸されて固定(硬化性樹脂である場合には硬化、熱可塑性樹脂である場合には固化)された樹脂である。このマトリックス樹脂の含浸方法及び固定方法は、従来公知の各種方法を利用できる。
【0045】
マトリックス樹脂の種類は限定されず、種々の樹脂を利用できる。即ち、硬化性樹脂を用いてもよく、熱可塑性樹脂を用いてもよく、これらを併用してもよい。硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂(硬化性ポリエステル樹脂)、ウレタン樹脂等が挙げられる。一方、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂(熱可塑性ポリエステル樹脂)、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0046】
また、プリフォームは、基層と、基層の一面に縫着された繊維束とで構成された1層の片面プリフォームのみを配置してもよいし、片面プリフォームを基層同士が対向されるように向かい合わせて配置してもよい。このように片面プリフォームを2層用いる場合には、基層同士を対面させることにより、得られる複合材の耐衝撃性を効率的に向上させることができる。
【0047】
複合材の形状、大きさ及び厚さ等の寸法は特に限定されず、その用途も特に限定されない。この複合材は、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の外装材、内装材、構造材(ボディシェル、車体、航空機用胴体)及び衝撃吸収材等として用いることができる。これらのうち自動車用品としては、自動車用外装材、自動車用内装材、自動車用構造材、自動車用衝撃吸収材、エンジンルーム内部品等が挙げられる。
具体的には、バンパー、スポイラー、カウリング、フロントグリル、ガーニッシュ、ボンネット、トランクリッド、カウルルーバー、フェンダーパネル、ロッカーモール、ドアパネル、ルーフパネル、インストルメントパネル、センタークラスター、ドアトリム、クオータートリム、ルーフライニング、ピラーガーニッシュ、デッキトリム、トノボード、パッケージトレイ、ダッシュボード、コンソールボックス、キッキングプレート、スイッチベース、シートバックボード、シートフレーム、アームレスト、サンバイザ、インテークマニホールド、エンジンヘッドカバー、エンジンアンダーカバー、オイルフィルターハウジング、車載用電子部品(ECU、TVモニター等)のハウジング、エアフィルターボックス、ラッシュボックス等のエネルギー吸収体、フロントエンドモジュール等のボディシェル構成部品などが挙げられる。
【0048】
更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。即ち、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥等)の表装材、構造材、更には、ユニットバス、浄化槽などとすることができる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等として用いることもできる。また、家電製品(薄型TV、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、携帯電話、携帯ゲーム機、ノート型パソコン等)の筐体及び構造体などの成形体とすることもできる。
【0049】
複合材は、どのようにして製造してもよく、例えば、RTM(Resin Transfer Molding)法、VaRTM(Vacuum Assisted Resin Transfer Molding)法、オートクレーブ法、熱プレス法等により製造できる。上述のうち、RTM法及びVaRTM法では、プリフォームを成形型内に配置して賦形する賦形工程と、成形型内に熱硬化性樹脂を充填して硬化又は熱可塑性樹脂を充填して固化するマトリックス形成工程と、を備える形態を採用できる。また、VaRTM法は、プリフォーム内への樹脂含浸を補助するためにキャビティ内を減圧する減圧工程を備える点でRTM法と異なる。更に、上述のうち、オートクレーブ法は、熱硬化性樹脂を含浸したプリフォームをオートクレーブ内で加熱硬化する方法であり、熱プレス法は、熱硬化性樹脂を含浸したプリフォームを熱プレスにより加熱加圧硬化させる方法である。
本複合材の製造方法では、上記工程以外にも他工程を備えることができる。他工程としては、例えば、プリフォーム用前駆体を得るプリフォーム用前駆体形成工程、プリフォーム用前駆体からプリフォームを得るための切離工程、樹脂埋設した後、樹脂を固化する固化工程、固化された樹脂の不要部を除去する成形工程等の工程が挙げられる。これらの工程は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【実施例
【0050】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。
【0051】
<実施例1>
実施例1に係るプリフォーム製造用ミシン1Aは、図12に示すように、複合材の芯材となるプリフォーム2を製造するためのミシンである。このプリフォーム2は、基層3(織布3)と、基層3に縫着された繊維束4と、を有している。この繊維束4は、炭素繊維等の強化繊維を含む連続繊維を多数本束ねて構成されている。さらに、繊維束4の縫着領域Rは、後述の並列案内された繊維束4が縫い付けられた薄縫い領域R1と、後述の重ね案内された繊維束4が縫い付けられた厚縫い領域R2と、を含んでいる。
【0052】
なお、プリフォーム2は、繊維束4が縫い付けられていない非縫着領域R3を構成する基層3を刃物、レーザー等で切除して芯材として使用される。このプリフォーム2を成形型内に配置して賦形し、成形型内に熱硬化性樹脂を充填して硬化又は熱可塑性樹脂を充填して固化することで、複合材が得られる。
【0053】
本ミシン1Aは、図1及び図2に示すように、繊維束4が巻かれる複数のボビン5と、複数のボビン5から繰り出される繊維束4を基層3上に案内する繊維ガイド7Aと、繊維ガイド7Aにより案内される繊維束4を基層3に縫い付ける縫い針8と、を備えている。さらに、ミシン1Aは、ミシンヘッド11と、ミシンヘッド11の下方で平面方向に移動可能に設けられるとともに基層3を保持する保持枠12と、ミシン1Aの各部の動作を制御する制御部13と、を備えている。
【0054】
ミシンヘッド11は、縫い針8の軸回りに回転可能な筒状の回転体15を有している。この回転体15には、ボビン5及び繊維ガイド7Aが搭載されている。具体的に、回転体15には、支持アーム16を介してボビン5が水平軸回りに回転自在に支持されている。さらに、回転体15には、支持アーム17を介して繊維ガイド7Aが縫い進み方向の左右に揺動可能に設けられている。
【0055】
制御部13は、先端に縫い針8を有する針棒9を上下に往復駆動させる往復駆動機構21、保持枠12を平面方向に移動させる移動機構22、回転体15を回転させる回転機構23、繊維ガイド7Aを揺動させる揺動機構24、繊維ガイド7Aの案内状態を切り替える切替機構25、及び繊維束4の繰り出し量を制御するためのブレーキ27(例えば、電磁ブレーキ27)に電気的に接続されている。そして、制御部13は、所定の縫いデータに基づいて、針棒9の往復駆動制御、保持枠12の移動制御、繊維ガイド7Aの揺動制御(すなわち、千鳥振り制御)、回転体15の回転制御、繊維ガイド7Aの切替制御、及びブレーキ27の作動制御を行う。
【0056】
なお、制御部13による制御処理は、ハードウェア、ソフトウェアのいずれによって実現されてもよく、好適にはCPU、記憶装置(ROM、RAM等)、入出力回路等を備えるマイクロコントローラ(マイクロコンピュータ)を中心に、入出力インターフェース等周辺回路を備えることにより構成できる。また、図1中の符号18は、縫糸(上糸)を示し、符号19は下糸を示し、符号10は釜を示す。
【0057】
複数(図中3つ)のボビン5は、図8に示すように、隣り合うボビン5の軸端同士が対向するように左右に並んで配置されていている。これら各ボビン5は、各軸が同一の水平面上で交差するように配置されている。また、各ボビン5は、繊維束4が巻き回される筒軸5aと、筒軸5aの軸端側に設けられる円板5bと、を有している(図2参照)。
【0058】
繊維ガイド7Aは、図3に示すように、中空箱状に形成されており、複数本(図中3本)の繊維束4を導入する1つの導入口31と各繊維束4を導出する複数の導出口32とを有している。この繊維ガイド7Aとボビン5との間には、ボビン5から繰り出される繊維束4の上方への移動を抑えるガイドバー33が備えられている。また、繊維ガイド7Aの導出口32の下流側には、導出口32から導出される繊維束4の上方への移動を抑えるガイドバー34が備えられている。このガイドバー34には、複数の繊維束4を案内する凹部35が外周に沿って形成されている。なお、ガイドバー33、34は、回転体15に取り付けられている。
【0059】
繊維ガイド7Aは、図4及び図5に示すように、複数のボビン5から繰り出される複数本の繊維束4を並列に並べて基層3上に案内する状態Aと、複数本の繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内する状態Bと、に切替可能に設けられている。具体的に、繊維ガイド7Aは、複数の導出口32が上下方向に重ならない第1位置C1と、複数の導出口32が上下方向に重なる第2位置C2と、の間で回転可能に設けられている。この繊維ガイド7Aは、繊維束4の案内方向に沿う軸回り又は案内方向に上下に傾斜した方向に沿う軸回りに回転可能に設けられている。
【0060】
なお、繊維ガイド7Aの切替機構25としては、例えば、支持アーム17に繊維ガイド7Aを回転自在に支持し、モータ、シリンダ等の駆動源の駆動力により繊維ガイド7Aを回転させる機構を採用することができる。
【0061】
繊維ガイド7Aは、例えば、図4(a)及び図5(a)に示すように、第1位置C1に位置する状態で、隣り合う繊維束4が幅方向に所定間隔で離間するように繊維束4を並列に並べて基層3上に案内する。また、繊維ガイド7Aは、図4(b)及び図5(b)に示すように、第2位置C2に位置する状態で、複数本の繊維束4の幅方向の中心が幅方向に略一致するように繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内する。
【0062】
制御部13は、繊維ガイド7Aによる繊維束4の案内状態の切り替えに応じて基層3に対する縫い針8の落し位置Pを制御して縫糸18のステッチパターンS1、S2を変更する。これら各ステッチパターンS1、S3においては、図6に示すように、繊維束4の幅方向の千鳥間隔L1及び繊維束4の長手方向の千鳥間隔L2が異なっている。このステッチパターンS1は、並列に並べられた複数の繊維束4を跨ぐステッチs2と1本の繊維束4を跨ぐステッチs3とから構成されている(図6(a)参照)。また、ステッチパターンS2は、上下に重ねられた複数本の繊維束4を跨ぐステッチs1から構成されている(図6(b)参照)。
【0063】
ブレーキ27は、ボビン5から繰り出される繊維束4の繰り出し量(吐き出し量)を制御するためのものである。このブレーキ27は、ボビン5に制動力を付与するように各ボビン5に設けられている。具体的に、ブレーキ27は、ボビン5を構成する筒軸5a内に配置されている。
【0064】
次に、上記のように構成されたミシン1Aの作用について説明する。まず、繊維束4を巻回したボビン5を支持アーム16にセットするとともに、繊維束4をボビン5から繰り出して繊維ガイド7Aに通し、縫い針8の落し位置Pの近傍へ導く。この状態で、制御部13により、所定の縫いデータに基づいて、針棒9の往復駆動制御、保持枠12の移動制御、繊維ガイド7Aの揺動制御(すなわち、千鳥振り制御)、及び回転体15の回転制御が行われて、縫い針8と釜10とによって周知の千鳥縫い動作が行われる。また、制御部13により、所定の縫いデータに基づいて、繊維ガイド7Aの切替制御及びブレーキ27の作動制御が行われる。
なお、上記の千鳥縫い動作中には、繊維ガイド7Aで案内される繊維束4が縫い進み方向を向くように回転体15の回転制御が行われる。
【0065】
本ミシン1Aにより繊維束4を直線状に縫い付けてプリフォーム2の薄縫い領域R1を形成する際には、図8及び図9に示すように、第1位置C1に位置する繊維ガイド7Aにより複数本の繊維束4が並列に並べられた状態で基層3上に案内され、ステッチパターンS1での縫い付けが行われる。
一方、繊維束4を直線状に縫い付けてプリフォーム2の厚縫い領域R2を形成する際には、第2位置C2に位置する繊維ガイド7Aにより複数本の繊維束4が上下に重ねられた状態で基層3上に案内され、ステッチパターンS2での縫い付けが行われる。
なお、繊維束4の直線状の縫い付けの際には、ブレーキ27は通常作動されない。
【0066】
繊維束4をカーブ状に縫い付けてプリフォーム2の薄縫い領域R1を形成する際には、図10(a)及び図11(a)に示すように、第1位置C1に位置する繊維ガイド7Aにより複数本の繊維束4が並列に並べられた状態で基層3上に案内され、ステッチパターンS1での縫い付けが行われる。このとき、ブレーキ27が作動されて各ボビン5に適切な制動力が付与される。具体的に、図10(a)の右端のボビン5に強い制動力が付与され、中央のボビン5に中程度の制動力が付与され、左端のボビン5に弱い制動力が付与される。これにより、カーブ外側からカーブ内側に向かって複数本の繊維束4の繰り出し量が段階的に小さくなることから、周長差による繊維束4の偏りが抑制される。
【0067】
なお、本実施例では、全てのボビン5に制動力を付与するようにブレーキ27を作動させる形態を例示したが、これに限定されず、例えば、カーブ部分の曲率半径等の大きさに応じて作動させるブレーキ27を選択してもよい。
【0068】
繊維束4をカーブ状に縫い付けてプリフォーム2の厚縫い領域R2を形成する際には、図10(b)及び図11(b)に示すように、第2位置C2に位置する繊維ガイド7Aによって、複数本の繊維束4が上下に重ねられた状態で基層3上に案内され、ステッチパターンS2での縫い付けが行われる。このとき、ブレーキ27は通常作動されない。
【0069】
以上より、本実施例のミシン1Aによると、繊維束4が巻かれる複数のボビン5と、複数のボビン5から繰り出される繊維束4を基層3上に案内する繊維ガイド7Aと、繊維ガイド7Aにより案内される繊維束4を基層3に縫い付ける縫い針8と、を備える。そして、繊維ガイド7Aは、複数のボビン5から繰り出される繊維束4を並列に並べて基層3上に案内する状態Aと、繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内する状態Bと、に切替可能に設けられている。これにより、複数のボビン5から繰り出される繊維束4が基層3に同時に縫い付けられるため、繊維束4の縫い付けの高速化、すなわちプリフォーム2の生産の高速化を図ることができる。さらに、必要に応じて繊維ガイド7Aにより繊維束4を並列に並べて基層3上に供給したり、上下に重ねて基層3上に供給したりすることで、繊維束4の厚みを変えて縫い付けることができる。よって、複雑形状のプリフォーム2に対応でき、プリフォーム2の設計自由度を向上させることができる。さらに、複数のボビン5で繊維束4の種類を使い分ける場合は、プリフォーム2の設計自由度を更に向上させることができる。
【0070】
特に、本実施例のミシン1Aによると、プリフォーム2(製品)に使う繊維量を1とすれば、単位時間あたりの縫い付け量が増えれば増えるほど製造時間の短縮に繋がるため、TFP技術の高速化が可能となる。一方、単純に太幅な繊維束4を使った場合との相違点として、繊維束4の厚みが出過ぎて製品に対して不具合がでるような場合を避け、可能な限り薄く縫付を行うモードを縫付中に選択することができる。総括すると、一度に大量の繊維束4を縫い付けることが可能で、製造時間の短縮に貢献することができる。また、製品の厚みを制御することで設計の自由度を上げることができる。
【0071】
また、本実施例では、繊維ガイド7Aによる繊維束4の案内状態の切り替えに応じて基層3に対する縫い針8の落し位置Pを制御して縫糸18のステッチパターンS1、S2を変更する制御部13を備える。これにより、繊維ガイド7Aによる繊維束4の案内状態に適したステッチパターンS1、S2で繊維束4を縫い付けることができる。
【0072】
また、本実施例では、ボビン5から繰り出される繊維束4の繰り出し量を制御するためのブレーキ27を備える。これにより、基層3上に並列に並べて供給される繊維束4をカーブ状に縫い付ける際(特に、極めて小さな曲率半径を持つカーブ状に縫い付ける際)に、ブレーキ27による繊維束4の繰り出し量の制御によって、周長差による繊維束4の偏りを抑制して繊維束4を縫い付けることができる。
【0073】
また、本実施例では、ブレーキ27は、ボビン5に制動力を付与するように設けられている。これにより、繊維束4に制動力を付与する形態に比べて、繊維束4の折損等を防止して繊維束4の繰り出し量を制御できる。
【0074】
さらに、本実施例では、繊維ガイド7Aは、繊維束4を導出する複数の導出口32を有するとともに、複数の導出口32が上下方向に重ならない第1位置C1と、複数の導出口32が上下方向に重なる第2位置C2と、の間で回転可能に設けられている。これにより、繊維束4の案内状態を円滑且つ確実に切り換えることができるとともに、繊維ガイド7Aの切替機構25を簡素化できる。
【0075】
<実施例2>
次に、実施例2に係るプリフォーム製造用ミシン1Bについて説明するが、上記の実施例1に係るミシン1Aと略同様の構成には同符号を付けて詳説を省略し、両者の相違点である繊維ガイド7Bについて主に詳説する。
【0076】
本ミシン1Bは、図13に示すように、複数のボビン5と、複数のボビン5から繰り出される繊維束4を基層3上に案内する繊維ガイド7Bと、繊維ガイド7Bにより案内される繊維束4を基層3に縫い付ける縫い針8と、を備えている。さらに、ミシン1Bは、ミシンヘッド11と、ミシンヘッド11の下方で平面方向に移動可能に設けられるとともに基層3を保持する保持枠12と、ミシン1Bの各部の動作を制御する制御部13と、を備えている。
【0077】
繊維ガイド7Bは、繊維束4を並列に並べて基層3上に案内するための第1繊維ガイド41と、繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内するための第2繊維ガイド42と、を備えている。
【0078】
第1繊維ガイド41は、図14及び図15に示すように、複数の繊維束4を仕切る櫛状に形成されている。この第1繊維ガイド41は、第2繊維ガイド42の上流側で第2繊維ガイド42に対して前進後退可能(すなわち、繊維束4の案内方向に沿ってスライド可能)に設けられている。また、第2繊維ガイド42は、複数本の繊維束4が挿通される拡縮可能な環状体である。この第2繊維ガイド42は、ゴム等の弾性材により形成されており、左右両端を外方に引き伸ばすことで扁平した楕円状に拡大されるとともに、引き伸ばしを解除することで縮小される。
【0079】
なお、繊維ガイド7Bの切替機構25としては、例えば、支持アーム17に第1繊維ガイド41をスライド自在に支持し、モータ、シリンダ等の駆動源の駆動力により第1繊維ガイド41をスライドさせるとともに、支持アーム17に第2繊維ガイド42の左右両端を掴んで引き伸ばす把持部を設け、モータ、シリンダ等の駆動源の駆動力により把持部を作動させる機構を採用することができる。
【0080】
また、本実施例では、弾性体により形成される拡縮可能な環状体(第2繊維ガイド42)を例示したが、これに限定されず、例えば、シャッター機構、リンク機構等により拡縮可能な環状体としてもよい。
【0081】
本ミシン1Bによりプリフォーム2の薄縫い領域R1を形成する際には、図14(a)及び図15(a)に示すように、第1繊維ガイド41が前進した状態で第2繊維ガイド42が拡大することで、第1繊維ガイド41により繊維束4が並列に並べられた状態で基層3上に案内され、ステッチパターンS1での縫い付けが行われる。
一方、プリフォーム2の厚縫い領域R2を形成する際には、図14(b)及び図15(b)に示すように、第1繊維ガイド41が後退した状態で第2繊維ガイド42が縮小することで、第2繊維ガイド42により繊維束4が上下に重ねられた状態で基層3上に案内され、ステッチパターンS2での縫い付けが行われる。
【0082】
以上より、本実施例2のミシン1Bによると、実施例1のミシン1Aと略同様の作用効果を奏するとともに、繊維束4の案内状態を円滑且つ確実に切り換えることができるとともに、繊維ガイド7Bの上下の動きが必要最小限となるので縫い針8に近い位置に繊維束4を案内することができる。
【0083】
<実施例3>
次に、実施例3に係るプリフォーム製造用ミシン1Cについて説明するが、上記の実施例1に係るミシン1Aと略同様の構成には同符号を付けて詳説を省略し、両者の相違点である繊維ガイド7Cについて主に詳説する。
【0084】
本ミシン1Cは、図16に示すように、複数のボビン5と、複数のボビン5から繰り出される繊維束4を基層3上に案内する繊維ガイド7Cと、繊維ガイド7Cにより案内される繊維束4を基層3に縫い付ける縫い針8と、を備えている。さらに、ミシン1Cは、ミシンヘッド11と、ミシンヘッド11の下方で平面方向に移動可能に設けられるとともに基層3を保持する保持枠12と、ミシン1Cの各部の動作を制御する制御部13と、を備えている。
【0085】
繊維ガイド7Cは、外周に沿って環状の凹部45が形成された回転体(具体的に回転ローラ)である。この凹部45は、図17及び図18に示すように、第1案内部46と、第1案内部46よりも溝幅が狭く且つ溝深さが深い第2案内部47と、を有している。これら第1案内部46及び第2案内部47は、凹部45の周方向に離間して配置されている。また、凹部45は、第1案内部46から第2案内部47に向かうに連れて溝幅が狭くなり且つ溝深さが深くなるテーパ状に形成されている。そして、繊維ガイド7Cは、第1案内部46で繊維束4を並列に並べて基層3上に案内する第1位置C1と、第2案内部47で繊維束4を上下に重ねて基層3上に案内する第2位置C2と、の間で回転可能に設けられている。
【0086】
なお、繊維ガイド7Cの切替機構25としては、例えば、支持アーム17に繊維ガイド7Cを水平軸回りに回転自在に支持し、モータ、シリンダ等の駆動源の駆動力により繊維ガイド7Cを回転させる機構を採用することができる。
【0087】
本ミシン1Cによりプリフォーム2の薄縫い領域R1を形成する際には、図17(a)及び図18(a)に示すように、第1位置C1に位置する繊維ガイド7Cの第1案内部46により繊維束4が並列に並べられた状態で基層3上に案内され、ステッチパターンS1での縫い付けが行われる。
一方、プリフォーム2の厚縫い領域R2を形成する際には、図17(b)及び図18(b)に示すように、第2位置C2に位置する繊維ガイド7Cの第2案内部47により繊維束4が上下に重ねられた状態で基層3上に案内され、ステッチパターンS2での縫い付けが行われる。
【0088】
以上より、本実施例3のミシン1Cによると、実施例1のミシン1Aと略同様の作用効果を奏するとともに、繊維束4の案内状態を円滑且つ確実に切り換えることができるとともに、繊維ガイド7Cの上下の動きがないので縫い針8に近い位置に繊維束4を案内することができる。
【0089】
<実施例4>
次に、実施例4に係るプリフォーム製造用ミシン1Dについて説明するが、上記の実施例1に係るミシン1Aと略同様の構成には同符号を付けて詳説を省略し、両者の相違点である繊維ガイド7D及び繊維束供給機構51について主に詳説する。
【0090】
本ミシン1Dは、図19に示すように、複数のボビン5と、複数のボビン5から繰り出される繊維束4を基層3上に案内する繊維ガイド7Dと、繊維ガイド7Dにより案内される繊維束4を基層3に縫い付ける縫い針8と、を備えている。さらに、ミシン1Dは、ミシンヘッド11と、ミシンヘッド11の下方で平面方向に移動可能に設けられるとともに基層3を保持する保持枠12と、ミシン1Dの各部の動作を制御する制御部13と、を備えている。
【0091】
繊維ガイド7Dは、図19に示すように、複数本(図中3本)の繊維束4のそれぞれを案内する複数の分割ガイド50を備えている。各分割ガイド50は、一体として第1位置C1と第2位置C2との間で回転可能に設けられている(図4及び図5参照)。さらに、各分割ガイド50は、繊維束4の案内方向と直交する水平軸回りに揺動可能に設けられている。
【0092】
本ミシン1Dは、ボビン5から繰り出される繊維束4を切断して基層3上への供給を停止するとともに、切断された繊維束4を基層3上に再投入する繊維束供給機構51を備えている。この繊維束供給機構51は、各分割ガイド50で案内される繊維束4を切断するカッター52を備えている。
【0093】
カッター52は、図20に示すように、各分割ガイド50の上方に配置されている。このカッター52は、繊維束4を切断する切断位置と繊維束4から離間した待機位置との間で変位可能(具体的に揺動可能)に設けられている。さらに、カッター52は、複数のボビン5に対応して複数備えられている。
【0094】
なお、繊維束供給機構51としては、例えば、支持アーム18にカッター52及び分割ガイド50を揺動自在に支持し、モータ、シリンダ等の駆動源の駆動力によりカッター52及び分割ガイド50を揺動させる機構を採用することができる。
【0095】
繊維束供給機構51では、カッター52が待機位置に位置する状態で、繊維ガイド7Dの各分割ガイド50により繊維束4が基層3上に案内されて縫い付けが行われる(図20(a)参照)。そして、基層3上に並列に並べて供給される繊維束4をカーブ状に縫い付ける際に、カッター52が切断位置に揺動することで、繊維束4が切断されて保持される(図20(b)参照)。次に、分割ガイド50が後方に揺動して跳ね上げられる(図20(c)参照)。その後、カーブ状の縫い付けの終了時等の適宜タイミングで、カッター52が待機位置に揺動し、分割ガイド50が前方に揺動して勢いよく振り下ろされることで、切断された繊維束4が基層3上に再投入される(図20(d)(e)参照)。
【0096】
繊維束供給機構51によると、基層3上に並列に並べて供給される繊維束4をカーブ状に縫い付ける際に、そのカーブ部分の曲率半径等に応じて繊維束4を切断することで、周長差による繊維束4の偏りを抑制して繊維束4が縫い付けられる(図21(b)(c)参照)。なお、基層3上に並列に並べて供給される繊維束4を直線状に縫い付ける際には、繊維束供給機構51は通常作動されない(図21(a)参照)。
【0097】
以上より、本実施例4のミシン1Dによると、実施例1のミシン1Aと略同様の作用効果を奏するとともに、幅広の複雑形状を一気に縫い付けることが可能となり、製作時間及び材料の低減に貢献できる。
【0098】
なお、本実施例では、複数のボビン5の全てに対応して複数備えられる繊維束供給機構51(すなわち、カッター52及び分割ガイド50)を例示したが、これに限定されず、例えば、複数のボビン5のうちの少なくとも1つ以上のボビン5に対応して繊維束供給機構51が備えられていればよい。例えば、1つのボビン5に対応して1つの繊維束供給機構51が備えられていてもよい。ただし、繊維束供給機構51の機能として本領を発揮するのは、多数のボビン5(例えば、5台、10台等のボビン5)が並んだ際の並列縫い付けにおいてである。
【0099】
<実施例5>
次に、実施例5に係るプリフォーム製造用ミシン1Eについて説明するが、上記の実施例1に係るミシン1Aと略同様の構成には同符号を付けて詳説を省略し、両者の相違点である繊維束供給機構55について主に詳説する。
【0100】
本ミシン1Eは、複数のボビン5と、複数のボビン5から繰り出される繊維束4を基層3上に案内する繊維ガイド7E(繊維ガイド7Aと同じ構成)と、繊維ガイド7Eにより案内される繊維束4を基層3に縫い付ける縫い針8と、を備えている。さらに、ミシン1Eは、ミシンヘッド11と、ミシンヘッド11の下方で平面方向に移動可能に設けられるとともに基層3を保持する保持枠12と、ミシン1Eの各部の動作を制御する制御部13と、を備えている。
【0101】
本ミシン1Eは、図22に示すように、ボビン5から繰り出される繊維束4を切断して基層3上への供給を停止するとともに、切断された繊維束4を基層3上に再投入する繊維束供給機構55を備えている。この繊維束供給機構55は、繊維ガイド7Eで案内される繊維束4を切断するカッター56と、切断された繊維束4を基層3上に送り出す送出部57と、を備えている。このカッター56は、繊維束4を切断する切断位置と繊維束4から離間した待機位置との間で変位可能(具体的に揺動可能)に設けられている。また、送出部57は、繊維束4を把持して送り出すように構成されている。さらに、カッター56及び送出部57は、複数のボビン5に対応して複数備えられている。
【0102】
なお、繊維束供給機構55としては、例えば、支持アーム17にカッター56及び送出部57を変位自在に支持し、モータ、シリンダ等の駆動源の駆動力によりカッター56及び送出部57を変位させる機構を採用することができる。
【0103】
繊維束供給機構55では、カッター56が待機位置に位置する状態で、繊維ガイド7Eにより繊維束4が基層3上に案内されて縫い付けが行われる(図22(a)参照)。そして、基層3上に並列に並べて供給される繊維束4をカーブ状に縫い付ける際に、カッター56が切断位置に揺動することで、繊維束4が切断され保持される(図22(b)参照)。次に、カッター56が待機位置に揺動するとともに、送出部57が繊維束4を把持する(図22(c)参照)。その後、カーブ状の縫い付けの終了時等の適宜タイミングで、送出部57が前進して繊維束4の把持を解除することで、切断された繊維束4が基層3上に再投入される(図22(d)(e)参照)。
【0104】
繊維束供給機構55によると、基層3上に並列に並べて供給される繊維束4をカーブ状に縫い付ける際に、そのカーブ部分の曲率半径等に応じて繊維束4を切断することで、周長差による繊維束4の偏りを抑制して繊維束4が縫い付けられる(図21(b)(c)参照)。なお、基層3上に並列に並べて供給される繊維束4を直線状に縫い付ける際には、繊維束供給機構55は通常作動されない(図21(a)参照)。
【0105】
以上より、本実施例5のミシン1Eによると、実施例1のミシン1Aと略同様の作用効果を奏するとともに、幅広の複雑形状を一気に縫い付けることが可能となり、製作時間及び材料の低減に貢献できる。
【0106】
なお、本実施例では、複数のボビン5の全てに対応して複数備えられる繊維束供給機構55(すなわち、カッター56及び送出部57)を例示したが、これに限定されず、例えば、複数のボビン5のうちの少なくとも1つ以上のボビン5に対応して繊維束供給機構55が備えられていればよい。例えば、1つのボビン5に対応して1つの繊維束供給機構55が備えられていてもよい。ただし、繊維束供給機構55の機能として本領を発揮するのは、多数のボビン5(例えば、5台、10台等のボビン5)が並んだ際の並列縫い付けにおいてである。
【0107】
さらに、本実施例では、繊維束4を把持して前方へ送り出す送出部57を例示したが、これに限定されず、例えば、繊維束4の表面に圧接して前方へ送り出す送出部57としてもよい。さらに、切断された繊維束4の保持は、カッター56で行われてもよいし、送出部57で行われてもよい
【0108】
<実施例6>
次に、実施例6に係るプリフォーム製造用ミシン1Fについて説明するが、上記の実施例1に係るミシン1Aと略同様の構成には同符号を付けて詳説を省略し、両者の相違点である意匠用繊維58及びボビン59について主に詳説する。
【0109】
本ミシン1Fは、複数のボビン5と、複数のボビン5から繰り出される繊維束4を基層3上に案内する繊維ガイド7F(繊維ガイド7Aと同じ構成)と、繊維ガイド7Fにより案内される繊維束4を基層3に縫い付ける縫い針8と、を備えている。さらに、ミシン1Fは、ミシンヘッド11と、ミシンヘッド11の下方で平面方向に移動可能に設けられるとともに基層3を保持する保持枠12と、ミシン1Fの各部の動作を制御する制御部13と、を備えている。
【0110】
本ミシン1Fでは、図23に示すように、基層3に縫い付けられた状態で繊維束4と区別可能な意匠用繊維58が巻かれるボビン59を備えている。この意匠用繊維58は、繊維束4とともに繊維ガイド7F(繊維ガイド7Aと同じ構成)により基層3上に案内される。これにより、ミシン1Fで得られたプリフォーム2の縫着領域Rには、繊維束4と区別される意匠用繊維58の模様が表れる。
【0111】
以上より、本実施例6のミシン1Fによると、実施例1のミシン1Aと略同様の作用効果を奏するとともに、プリフォーム2の意匠性を飛躍的に向上させることができる。
【0112】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。すなわち、上記実施例では、1つのミシンヘッド11を備えるミシン1A~1Fを例示したが、これに限定されず、例えば、複数のミシンヘッド11を備える多頭式ミシン1A~1Fとしてもよい。
【0113】
また、上記実施例では、3つのボビン5を備えるミシン1A~1Fを例示したが、これに限定されず、例えば、2つ又は4つ以上のボビン5を備えるミシン1A~1Fとしてもよい。
【0114】
さらに、上記実施例では、基層3上に並列に並んで案内される繊維束4をカーブ状に縫い付ける際にブレーキ27を作動させる形態を例示したが、これに限定されず、例えば、繊維束4の重ね案内と並列案内とを切り替える際にブレーキ27を作動させて、繊維束4の案内状態をより円滑に切り替えるようにしてもよい。
【0115】
さらに、上記実施例の各構成を組み合わせて使用してもよい。例えば、実施例1のミシン1Aのガイドバー34の代わりに実施例3のミシン1Cの繊維ガイド7Cを採用してもよい。
【0116】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0117】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、複合材の芯材となるプリフォームを製造するTFP(Tailored Fiber Placement)技術として広く利用される。
【符号の説明】
【0119】
1A~1F;プリフォーム製造用ミシン、2;プリフォーム、3;基層、4;繊維束、5;ボビン、7A~7F;繊維ガイド、8;縫い針、13;制御部、18;縫糸、27;ブレーキ、51,55;繊維供給装置、A;重ね案内状態、B;並列案内状態、P;落し位置、S1,S2;ステッチパターン。
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