(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】車両の制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/122 20060101AFI20240326BHJP
B60T 13/18 20060101ALI20240326BHJP
B60T 13/20 20060101ALI20240326BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
B60T13/122 D
B60T13/18
B60T13/20
B60T8/17 Z
(21)【出願番号】P 2020198230
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】飯田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】小久保 浩一
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-213302(JP,A)
【文献】特開2017-165112(JP,A)
【文献】特開2009-012492(JP,A)
【文献】特開2020-189603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に設けられているホイールシリンダ内の液圧を制御する車両の制動装置であって、
液路を介して前記ホイールシリンダ内と接続されている液圧室を有する液圧発生装置と、
前記液路に配置されており、指示値である弁指示値によって当該液路における前記液圧室側の部分と前記ホイールシリンダ側の部分との間に差圧を発生させるべく駆動する電磁弁と、
電動モータを動力源とし、前記液路における前記電磁弁と前記ホイールシリンダとの間の部分である供給液路にブレーキ液を供給するポンプと、
前記電磁弁及び前記電動モータを駆動させて前記差圧を調整することにより、前記ホイールシリンダ内の液圧を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記電磁弁に対する前記弁指示値を所定の値で保持して前記電磁弁が開弁している状態で前記電動モータの回転速度であるモータ回転数を保持しているときにおける、前記供給液路の液圧と前記電動モータに流れる電流の値であるモータ電流値との関係を示す第1特性を取得する第1取得処理と、
前記液圧室の液圧が所定の液圧で保持されている状態で前記モータ回転数を保持しているときにおける、前記電磁弁に対する前記弁指示値と前記モータ電流値との関係を示す第2特性を取得する第2取得処理と、
前記第1特性及び前記第2特性を基に、前記弁指示値と前記差圧との関係を示す前記電磁弁のバルブ特性を導出する導出処理と、を実行する
車両の制動装置。
【請求項2】
前記液圧発生装置は、前記液圧室の液圧を自動的に調整すべく駆動する加圧部を有しており、
前記制御装置は、前記第1取得処理では、前記車両の停止中において前記加圧部を駆動させることによって前記液圧室で液圧を発生させ、当該液圧室での液圧の発生時における前記供給液路の液圧と前記モータ電流値とに基づいて前記第1特性を取得する
請求項1に記載の車両の制動装置。
【請求項3】
前記車両は、自動運転機能を有するものであり、
前記制御装置は、
前記自動運転機能に従った前記車両の自動走行に先立って、前記第1取得処理、前記第2取得処理及び前記導出処理を実行し、
前記車両の自動走行時において前記電磁弁を駆動させる場合、前記バルブ特性を基に前記電磁弁を制御する
請求項1又は請求項2に記載の車両の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールシリンダ内の液圧を制御する車両の制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ホイールシリンダ内の液圧を制御する制動装置の一例が記載されている。この制動装置は、マスタシリンダとホイールシリンダとを繋ぐ液路に設けられている電磁弁と、当該液路における電磁弁とホイールシリンダとの間の部分にブレーキ液を供給する電動式のポンプとを備えている。そして、ポンプからブレーキ液を吐出させつつ、電磁弁を駆動させることにより、液路におけるマスタシリンダ側の部分とホイールシリンダ側の部分とに差圧を発生させることができる。こうした差圧は、電磁弁に対する指示値である弁指示値によって調整できる。そして、差圧を調整することにより、ホイールシリンダ内の液圧を制御できる。
【0003】
特許文献1に記載の制動装置では、差圧と弁指示値との関係を示す特性であるバルブ特性の補正処理が実行される。当該補正処理では、弁指示値を所定値で保持している状況下でポンプの動力源である電動モータの駆動を停止させる。すなわち、所定値に応じた負荷がポンプに加わっている状態で電動モータの駆動が停止される。この際、電動モータの回転速度であるモータ回転数は惰性で低下することになる。つまり、ポンプに加わる負荷が大きいほどモータ回転数の低下速度が大きくなる。そのため、電動モータの駆動停止時におけるモータ回転数の低下速度を基に、上記バルブ特性が補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動モータの駆動を停止させた際におけるモータ回転数の低下速度は、ポンプに加わる負荷の大きさ以外の他のパラメータによっても変化しうる。モータ回転数の低下速度に影響を与える当該他のパラメータとしては、ポンプ及び電動モータの特性の経年変化の度合いを挙げることができる。そこで、ポンプ及び電動モータの現時点の特性も考慮して電磁弁のバルブ特性を導出する技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両の制動装置は、車両の車輪に設けられているホイールシリンダ内の液圧を制御する装置である。この制動装置は、液路を介して前記ホイールシリンダ内と接続されている液圧室を有する液圧発生装置と、前記液路に配置されており、指示値である弁指示値によって当該液路における前記液圧室側の部分と前記ホイールシリンダ側の部分との間に差圧を発生させるべく駆動する電磁弁と、電動モータを動力源とし、前記液路における前記電磁弁と前記ホイールシリンダとの間の部分である供給液路にブレーキ液を供給するポンプと、前記電磁弁及び前記電動モータを駆動させて前記差圧を調整することにより、前記ホイールシリンダ内の液圧を制御する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、前記電磁弁に対する前記弁指示値を所定の値で保持して前記電磁弁が開弁している状態で前記電動モータの回転速度であるモータ回転数を保持しているときにおける、前記供給液路の液圧と前記電動モータに流れる電流の値であるモータ電流値との関係を示す第1特性を取得する第1取得処理と、前記液圧室の液圧が所定の液圧で保持されている状態で前記モータ回転数を保持しているときにおける、前記電磁弁に対する前記弁指示値と前記モータ電流値との関係を示す第2特性を取得する第2取得処理と、前記第1特性及び前記第2特性を基に、前記弁指示値と前記差圧との関係を示す前記電磁弁のバルブ特性を導出する導出処理と、を実行する。
【0007】
弁指示値を所定の値で保持して電磁弁が開弁している状態でモータ回転数を保持する場合、供給液路の液圧が変わると、ポンプに加わる負荷が変わるため、モータ電流値が変わる。この際、ポンプ及び電動モータの現時点の特性に応じた態様でモータ電流値が変化する。
【0008】
液圧室の液圧が所定の液圧で保持されている状態でモータ回転数を保持する場合、弁指示値が変わって供給液路の液圧が変わると、ポンプに加わる負荷が変わるため、モータ電流値が変わる。この際、ポンプ及び電動モータの現時点の特性に応じた態様でモータ電流値が変化する。
【0009】
上記構成では、第1取得処理によって、供給液路の液圧とモータ電流値との関係を示す第1特性が取得される。第2取得処理によって、弁指示値とモータ電流値との関係を示す第2特性が取得される。そして、導出処理では、第1特性及び第2特性を基に、弁指示値と差圧との関係を示す電磁弁のバルブ特性が導出される。第1取得処理で取得した第1特性及び第2取得処理で取得した第2特性は、ポンプ及び電動モータの現時点の特性を反映している。そのため、こうした第1特性及び第2特性を基に導出されたバルブ特性は、ポンプ及び電動モータの特性の経年変化の度合いを反映したものとなる。
【0010】
したがって、ポンプ及び電動モータの現時点の特性を考慮して電磁弁のバルブ特性を導出できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態において、車両の制動装置の概略を示す構成図。
【
図2】第1特性を取得するための処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図3】第2特性を取得するための処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図4】電磁弁のバルブ特性を取得するための処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図5】(a)~(c)は、第1特性を取得する際のタイミングチャート。
【
図7】(a)~(c)は、第2特性を取得する際のタイミングチャート。
【
図9】電磁弁のバルブ特性が変化した様子を示す図。
【
図10】第2実施形態において、車両の制動装置の概略を示す構成図。
【
図11】第1特性を取得するための処理ルーチンを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、車両の制動装置の第1実施形態を
図1~
図9に従って説明する。
図1には、本実施形態の制動装置40と、複数の車輪10に対して個別に設けられている複数の制動機構20とが図示されている。
【0013】
<制動機構20について>
各制動機構20は、ホイールシリンダ21と、車輪10と一体回転する回転体22と、ホイールシリンダ21内の液圧であるWC圧に応じた強さで回転体22に押し付けられる摩擦材23とを備えている。WC圧を高くすると、摩擦材23を回転体22に押し付ける力が大きくなるため、車輪10に付与する制動力が大きくなる。
【0014】
<制動装置40について>
制動装置40は、液圧発生装置50と、各ホイールシリンダ21内のWC圧を個別に調整することのできる制動アクチュエータ60と、制動アクチュエータ60を制御する制御装置100を備えている。
【0015】
<液圧発生装置50について>
液圧発生装置50は、マスタシリンダ51を備えている。マスタシリンダ51は、車両の運転者による制動操作部材53の操作量に応じた液圧が発生する液圧室52を有している。制動操作部材53としては、例えば、ブレーキペダル及びブレーキレバーを挙げることができる。なお、以降の記載において、制動操作部材53を運転者が操作することを、「制動操作」ということもある。
【0016】
運転者が制動操作を行うことにより、液圧室52で液圧が発生する。一方、運転者が制動操作を行っていない場合、液圧室52が大気開放されるため、液圧室52で液圧が発生しない。すなわち、液圧室52で液圧が発生する状態とは、液圧室52の液圧が大気圧よりも高い状態である。
【0017】
<制動アクチュエータ60について>
制動アクチュエータ60は、2系統の液圧回路611,612を備えている。第1液圧回路611には、複数のホイールシリンダ21のうちの2つのホイールシリンダ21が接続されている。また、第2液圧回路612には、残りの2つのホイールシリンダ21が接続されている。
【0018】
第1液圧回路611は、マスタシリンダ51とホイールシリンダ21とを繋ぐ液路62と、液路62に配置されている差圧調整弁63とを備えている。差圧調整弁63は、常開型のリニア電磁弁であり、差圧調整弁63は、差圧調整弁63よりもマスタシリンダ51側の部分と差圧調整弁63よりもホイールシリンダ21側の部分との差圧を調整すべく駆動する。すなわち、差圧調整弁63を駆動させることにより、液圧室52とホイールシリンダ21内との間の差圧を調整できる。
【0019】
第1液圧回路611には、WC圧の増大を規制する際に閉弁される保持弁64と、WC圧を減少させる際に開弁される減圧弁65とが設けられている。第1液圧回路611には、第1液圧回路611に接続されているホイールシリンダ21と同数の保持弁64及び減圧弁65が設けられている。また、第1液圧回路611には、リザーバ66が接続されている。リザーバ66には、減圧弁65を開弁させた際にホイールシリンダ21から流出したブレーキ液が一時的に貯留される。
【0020】
第1液圧回路611には、液路62における差圧調整弁63と各ホイールシリンダ21との間の部分である供給液路62aにブレーキ液を供給するポンプ67が接続されている。詳しくは、ポンプ67は、差圧調整弁63と保持弁64との間の液路にブレーキ液を供給する。ポンプ67は、電動モータ68を動力源とするポンプである。ポンプ67は、リザーバ66内のブレーキ液、及び、マスタシリンダ51内のブレーキ液を汲み上げて供給液路62aに供給できる。
【0021】
なお、第2液圧回路612の構造は、第1液圧回路611の構造とほぼ同一であるため、本明細書では、第2液圧回路612の構造の説明については割愛するものとする。
<制御装置100について>
制御装置100には、各種のセンサの検出信号が入力される。センサとしては、電流センサ121、回転角センサ122、液圧センサ123及び制動スイッチ124を挙げることができる。電流センサ121は、電動モータ68に流れる電流の値であるモータ電流値Imtに応じた検出信号を出力する。回転角センサ122は、電動モータ68の回転速度であるモータ回転数Nmtに応じた検出信号を出力する。液圧センサ123は、液圧室52内の液圧であるMC圧Pmcを検出し、その検出結果に応じた検出信号を出力する。液圧センサ123は、例えば、液路62における差圧調整弁63と液圧室52との間の部分に接続されている。制動スイッチ124は、制動操作が行われているか否かを検出し、その検出結果に応じた検出信号を出力する。
【0022】
制御装置100は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)制御装置100は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
(b)制御装置100は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
(c)制御装置100は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0023】
制御装置100は、WC圧を制御するための機能部として液圧制御部101を有している。液圧制御部101は、差圧調整弁63及び電動モータ68を駆動させて差圧DPを調整することにより、WC圧を制御する。ここでいう差圧とは、液圧室52とホイールシリンダ21内との間に差圧である。液圧制御部101は、電動モータ68を駆動させることによってポンプ67からブレーキ液を吐出させる。この状態で、液圧制御部101は、差圧調整弁63に対する指示値(指示電流値、差圧指示値)である弁指示値Ismを調整する。弁指示値Ismとは、差圧調整弁63の開度の指示値である。例えば、弁指示値Ismとは、差圧調整弁63に入力させる電流を示す値と相関する。そのため、弁指示値Ismを大きくすることにより、差圧DPを大きくでき、ひいてはWC圧を高くできる。
【0024】
液圧制御部101は、差圧DPと弁指示値Ismとの関係を示す差圧調整弁63のバルブ特性を利用して差圧調整弁63を制御する。すなわち、液圧制御部101は、差圧DPの目標値に応じた弁指示値Ismを、バルブ特性を基に導出する。そして、液圧制御部101は、導出した弁指示値Ismに応じた大きさの電流を差圧調整弁63に入力させることにより、差圧調整弁63を駆動させる。
【0025】
制御装置100は、差圧調整弁63のバルブ特性を取得するための機能部として、第1特性取得部102、第2特性取得部103及びバルブ特性導出部104を有している。
第1特性取得部102は、弁指示値Ismを所定の値で保持して差圧調整弁63が開弁している状態でモータ回転数Nmtを保持しているときにおける、供給液路62aの液圧とモータ電流値Imtとの関係を示す第1特性を取得する第1取得処理を実行する。例えば、所定の値として「0」を設定するとよい。弁指示値Ismとして「0」が設定されている場合とは、差圧調整弁63に電流が入力されていない状態である。第1取得処理の具体的な内容については後述する。
【0026】
第2特性取得部103は、液圧室52が所定の液圧で保持されている状態でモータ回転数Nmtを保持しているときにおける、弁指示値Ismとモータ電流値Imtとの関係を示す第2特性を取得する第2取得処理を実行する。例えば、所定の液圧として、大気圧が設定されている。制動操作が行われていないときに、液圧室52の液圧を大気圧と等しいと見なせる。第2取得処理の具体的な内容については後述する。
【0027】
バルブ特性導出部104は、第1特性及び第2特性を基に、差圧調整弁63のバルブ特性を導出する導出処理を実行する。導出処理の具体的な内容については後述する。
<バルブ特性を導出するために制御装置100が実行する処理の流れ>
図2~
図9を参照し、差圧調整弁63のバルブ特性を導出するために制御装置100が実行する処理の流れについて説明する。本実施形態では、バルブ特性を導出するための実行条件が成立すると、制御装置100の第1特性取得部102が、第1取得処理を実行する。第1取得処理によって第1特性が取得されると、制御装置100の第2特性取得部103が、第2取得処理を実行する。第2取得処理によって第2特性が取得されると、制御装置100のバルブ特性導出部104が、導出処理を実行する。
【0028】
はじめに、
図2、
図5及び
図6を参照し、第1取得処理を実行するための処理ルーチンについて説明する。制御装置100は、
図2に示す処理ルーチンを繰り返し実行する。
図2に示すように、本処理ルーチンにおいて、はじめのステップS11では、制御装置100は、差圧調整弁63のバルブ特性を導出するための実行条件が成立しているか否かを判定する。例えば、以下に示す複数の条件(A1)、(A2)及び(A3)が成立している場合は、実行条件が成立していると見なせる。一方、複数の条件(A1)~(A3)のうちの少なくとも一方が成立していない場合は、実行条件が成立していないと見なせる。
(A1)車両が停止していること。
(A2)駐車制動装置の作動によって車両に制動力が付与されていること。
(A3)差圧調整弁63のバルブ特性の前回の導出時点から所定時間以上経過していること。
【0029】
実行条件が成立しているとの判定をなしていない場合(S11:NO)、制御装置100は、本処理ルーチンを一旦終了する。すなわち、制御装置100の第1特性取得部102は、第1取得処理を実行しない。一方、実行条件が成立しているとの判定をなしている場合(S11:YES)、制御装置100は、処理をステップS13に移行する。ステップS13において、制御装置100は、バルブ特性を導出するための処理を実行する旨を車両の運転者に通知する通知処理を実行する。通知処理を実行すると、制御装置100は、処理をステップS15に移行する。すなわち、第1特性取得部102は、第1取得処理を開始する。
【0030】
ステップS15において、第1特性取得部102は、電動モータ68の駆動を開始させる。すなわち、第1特性取得部102は、モータ回転数Nmtが規定回転数NmtTrとなるように電動モータ68を駆動させる。例えば、第1特性取得部102は、モータ回転数Nmtと規定回転数NmtTrとの偏差を入力とするフィードバック制御によって電動モータ68を制御すればよい。
【0031】
続いて、ステップS17において、第1特性取得部102は、液圧室52で液圧を発生させるために制動操作を行うことを運転者に要求する。そして、ステップS19において、第1特性取得部102は、制動操作が開始されたか否かを判定する。例えば、第1特性取得部102は、制動スイッチ124から出力される検出信号を基に、制動操作が開始されたか否かを判定する。また例えば、第1特性取得部102は、MC圧Pmcが増大しているときに制動操作が開始されたと判定してもよい。
【0032】
制動操作が開始されたとの判定をなしていない場合(S19:NO)、第1特性取得部102は、制動操作が開始されたとの判定をなすまでステップS19の判定を繰り返す。一方、制動操作が開始されたとの判定をなしている場合(S19:YES)、第1特性取得部102は、処理をステップS21に移行する。
【0033】
ステップS21において、第1特性取得部102は、MC圧Pmc及びモータ電流値Imtを取得する。続いて、ステップS23において、第1特性取得部102は、MC圧PmcがMC圧判定値PmcThよりも高いか否かを判定する。MC圧判定値PmcThは、第1特性を取得するために必要な数のサンプルが取得できた否かの判断基準として設定されている。ここでいうサンプルとは、ステップS21で取得するMC圧Pmc及びモータ電流値Imtである。
【0034】
ステップS23において、MC圧PmcがMC圧判定値PmcTh以下である場合(NO)、第1特性取得部102は、処理をステップS21に移行する。一方、MC圧PmcがMC圧判定値PmcThよりも高い場合(S23:YES)、第1特性取得部102は、処理をステップS25に移行する。ステップS25において、第1特性取得部102は、第1特性を取得する。
【0035】
すなわち、
図5(a),(b),(c)に示すように、タイミングt11で電動モータ68の駆動が開始される(S15)。モータ回転数Nmtが規定回転数NmtTrとなるようにモータ電流値Imtが調整される。そして、タイミングt12から制動操作が開始されると(S19:YES)、MC圧Pmcが増大し始める。すると、タイミングt13でMC圧PmcがMC圧判定値PmcThよりも高くなる(S23:YES)。
【0036】
図5に示すように、MC圧Pmcが高くなると、モータ電流値Imtが大きくなる。第1取得処理の実行時には、差圧調整弁63には電流が入力されておらず、差圧調整弁63が開弁している。そのため、供給液路62aの液圧はMC圧Pmcと実質的に等しい。供給液路62aの液圧が高くなるということは、ポンプ67の吐出ポート付近の液圧が高いことを意味する。つまり、ポンプ67に加わる負荷が大きくなり、ポンプ67はブレーキ液を吐出しにくくなる。このような場合、モータ回転数Nmtを維持するためには、モータ電流値Imtを大きくしてモータトルクを大きくする必要がある。そのため、MC圧Pmcが高くなるにつれてモータ電流値Imtが徐々に大きくなる。
【0037】
第1特性取得部102は、タイミングt12からタイミングt13までの期間内における、MC圧Pmcの推移及びモータ電流値Imtの推移を監視している。そして、第1特性取得部102は、当該期間内におけるMC圧Pmcの推移とモータ電流値Imtの推移とを基に、
図6に示す第1特性を取得する。すなわち、第1特性では、モータ電流値Imtが大きいほどMC圧Pmcが高くなる。第1特性において、モータ電流値Imtの増大に対するMC圧Pmcの増大量をMC圧Pmcの増大勾配とした場合、MC圧Pmcの増大勾配は、ポンプ67及び電動モータ68の現時点の特性を加味した大きさとなる。
【0038】
図2に戻り、ステップS25において第1特性を取得すると、第1特性取得部102は、処理をステップS27に移行する。ステップS27において、第1特性取得部102は、電動モータ68の駆動を停止する。そして、第1特性取得部102は、本処理ルーチンを終了する。
【0039】
なお、本実施形態では、第1特性を取得すると、電動モータ68の駆動を停止している。しかし、本実施形態では、第1特性を取得すると、直ぐに第2特性を取得するために第2取得処理が開始される。そのため、第1取得処理と第2取得処理とを連続して実行する場合、
図2に示す処理ルーチンにおいて、電動モータ68の駆動を停止させるステップS27を省略してもよい。
【0040】
次に、
図3、
図7及び
図8を参照し、第2特性処理を実行するための処理ルーチンについて説明する。
図2に示した処理ルーチンの実行によって第1特性が取得されると、制御装置100が
図3に示す処理ルーチンを実行する。
【0041】
図3に示すように、本処理ルーチンにおいて、はじめのステップS41において、制御装置100は、制動操作を解除する旨を運転者に通知する通知処理を実行する。続いて、ステップS43において、制御装置100は、制動操作が行われているか否かを判定する。制動操作が行われているとの判定をなしている場合(S43:YES)、制御装置100は、制動操作が行われているとの判定をなさなくなるまでステップS43の判定を繰り返す。一方、制動操作が行われているとの判定をなしていない場合(S43:NO)、液圧室52の液圧が所定の液圧で保持されていると判断できるため、制御装置100は、処理をステップS45に移行する。すなわち、制御装置100の第2特性取得部103は、第2取得処理を開始する。
【0042】
ステップS45において、第2特性取得部103は、電動モータ68の駆動を開始させる。すなわち、第2特性取得部103は、モータ回転数Nmtが規定回転数NmtTrとなるように電動モータ68を駆動させる。例えば、第2特性取得部103は、モータ回転数Nmtと規定回転数NmtTrとの偏差を入力とするフィードバック制御によって電動モータ68を制御すればよい。なお、
図2に示した処理ルーチンにおいてステップS27の処理を省略した場合、本処理ルーチンにおいてステップS45の処理を省略してもよい。
【0043】
続いて、ステップS47において、第2特性取得部103は、差圧調整弁63の駆動を開始させる。すなわち、第2特性取得部103は、差圧調整弁63のバルブ特性を基に差圧調整弁63を駆動させる。この際、第2特性取得部103は、差圧DPが徐々に大きくなるように差圧調整弁63に対する弁指示値Ismを可変させる。本実施形態では、第2特性取得部103は、弁指示値Ismを徐々に大きくする。
【0044】
次のステップS49において、第2特性取得部103は、弁指示値Ism及びモータ電流値Imtを取得する。続いて、ステップS51において、第2特性取得部103は、弁指示値Ismが弁指示判定値IsmThよりも大きいか否かを判定する。ポンプ67からブレーキ液を吐出させている状況下で弁指示値Ismを大きくすると、差圧DPが大きくなる。そして、この際の差圧DP、すなわち供給液路62aの液圧が、MC圧判定値PmcThに達したか否かの判断基準として、弁指示判定値IsmThが設定されている。そのため、弁指示値Ismが弁指示判定値IsmThよりも大きい場合は、供給液路62aの液圧がMC圧判定値PmcThに達したと見なす。一方、弁指示値Ismが弁指示判定値IsmTh以下である場合は、供給液路62aの液圧がMC圧判定値PmcThに達していないと見なす。
【0045】
弁指示値Ismが弁指示判定値IsmTh以下である場合(S51:NO)、第2特性取得部103は、処理をステップS49に移行する。一方、弁指示値Ismが弁指示判定値IsmThよりも大きい場合(S51:YES)、第2特性取得部103は、処理をステップS53に移行する。ステップS53において、第2特性取得部103は、第2特性を取得する。
【0046】
すなわち、
図7(a),(b),(c)に示すように、タイミングt21で電動モータ68の駆動が開始される(S45)。モータ回転数Nmtが規定回転数NmtTrとなるようにモータ電流値Imtが調整される。そして、タイミングt22から差圧調整弁63の駆動が開始される(S47)。すると、弁指示値Ismが徐々に大きくなるため、差圧DPが徐々に大きくなる。すなわち、供給液路62aの液圧が徐々に高くなる。そして、タイミングt23で弁指示値Ismが弁指示判定値IsmThに達する。
【0047】
図7に示すように、弁指示値Ismが大きくなると、供給液路62aの液圧が高くなるため、モータ電流値Imtが大きくなる。供給液路62aの液圧が高くなるということは、ポンプ67の吐出ポート付近の液圧が高いことを意味する。つまり、ポンプ67に加わる負荷が大きくなり、ポンプ67はブレーキ液を吐出しにくくなる。このような場合、モータ回転数Nmtを維持するためには、モータ電流値Imtを大きくしてモータトルクを大きくする必要がある。そのため、弁指示値Ismが大きくなるにつれてモータ電流値Imtが徐々に大きくなる。
【0048】
第2特性取得部103は、タイミングt22からタイミングt23までの期間内における、弁指示値Ismの推移及びモータ電流値Imtの推移を監視している。そして、第2特性取得部103は、当該期間内における弁指示値Ismの推移とモータ電流値Imtの推移とを基に、
図8に示す第2特性を取得する。すなわち、第2特性では、モータ電流値Imtが大きいほど弁指示値Ismが大きくなる。第2特性において、モータ電流値Imtの増大に対する弁指示値Ismの増大量を弁指示値Ismの増大勾配とした場合、弁指示値Ismの増大勾配は、ポンプ67及び電動モータ68の現時点の特性と、差圧調整弁63の現時点の特性との何れをも加味した大きさとなる。
【0049】
図3に戻り、ステップS53において第2特性を取得すると、第2特性取得部103は、処理をステップS55に移行する。ステップS55において、第2特性取得部103は、電動モータ68及び差圧調整弁63の駆動を停止させる。そして、第2特性取得部103は、本処理ルーチンを終了する。
【0050】
次に、
図4及び
図9を参照し、導出処理を実行するための処理ルーチンについて説明する。
図4に示すように、本処理ルーチンにおいて、はじめのステップS71では、制御装置100は、第1特性及び第2特性の取得が完了しているか否かを判定する。第1特性及び第2特性のうちの少なくとも一方の取得が完了していない場合(S71:NO)、制御装置100は、第1特性及び第2特性の何れもが取得できるまでステップS71の判定を繰り返す。一方、第1特性及び第2特性の双方の取得が完了している場合(S71:YES)、制御装置100は、処理をステップS73に移行する。ステップS73において、制御装置100のバルブ特性導出部104は、バルブ特性を導出する導出処理を実行する。
【0051】
すなわち、第1特性は、MC圧Pmcとモータ電流値Imtとの関係を示している。第2特性は、弁指示値Ismとモータ電流値Imtとの関係を示している。そこで、バルブ特性導出部104は、導出処理において、第1特性と第2特性とを基に、MC圧Pmcと弁指示値Ismとの関係である第3特性を導出する。差圧調整弁63が開弁状態である場合、供給液路62aの液圧はMC圧Pmcと実質的に等しい。また、液圧室52に液圧が発生していない場合、供給液路62aの液圧は差圧DPと実質的に等しい。そのため、バルブ特性導出部104は、導出処理において、第3特性におけるMC圧Pmcを差圧DPに置き換えることにより、
図9に示すように差圧DPと弁指示値Ismとの関係を示すバルブ特性を導出する。
【0052】
図9では、前回の導出処理の実行によって導出されたバルブ特性である前回のバルブ特性が破線で示されている。また、今回の導出処理の実行によって導出されたバルブ特性である今回のバルブ特性が実線で示されている。
【0053】
図4に戻り、ステップS73においてバルブ特性を導出すると、バルブ特性導出部104は、本処理ルーチンを終了する。
このようにバルブ特性が新たに導出された以降では、液圧制御部101は、最新のバルブ特性を用いて差圧調整弁63を制御する。
【0054】
なお、バルブ特性は、差圧調整弁毎に用意されている。そのため、制動アクチュエータ60が複数の液圧回路を備えている場合、制御装置100は、差圧調整弁毎にバルブ特性を導出する。
【0055】
<作用効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
本実施形態では、第1取得処理によって第1特性が取得される。第2取得処理によって第2特性が取得される。そして、導出処理では、第1特性及び第2特性を基に差圧調整弁63のバルブ特性が導出される。第1特性及び第2特性は、ポンプ67及び電動モータ68の現時点の特性を反映している。そのため、こうした第1特性及び第2特性を基に導出されたバルブ特性は、ポンプ67及び電動モータ68の特性の経年変化の度合いを反映したものとなる。したがって、ポンプ67及び電動モータ68の現時点の特性を考慮して差圧調整弁63のバルブ特性を導出できる。
【0056】
そして、新たに導出したバルブ特性を用いて差圧調整弁63を駆動させることにより、ホイールシリンダ21内のWC圧を精度良く制御できる。すなわち、車輪10に付与する制動力の制御性を向上させることができる。
【0057】
ここで、ポンプに入力される負荷の大きさは、液圧回路611,612内を循環するブレーキ液の粘度によっても変わりうる。ブレーキ液の温度が低いほど、ブレーキ液の粘度が高くなる。
【0058】
本実施形態では、第1特性を取得すると、直ぐに第2特性が取得される。すなわち、第1取得処理の実行時におけるブレーキ液の温度と、第2取得処理の実行時におけるブレーキ液の温度との相違がほとんどない。すなわち、ブレーキ液の粘度が実質的に同じ状態で第1特性及び第2特性が取得される。そのため、こうした第1特性及び第2特性を基にバルブ特性を導出することにより、バルブ特性の導出精度をより高くできる。
【0059】
(第2実施形態)
車両の制動装置の第2実施形態を
図10及び
図11に従って説明する。以下の説明においては、第1実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、第1実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0060】
図10に示すように、本実施形態の制動装置40Aは、マスタシリンダ51A及び制動アクチュエータ60に加え、液圧発生装置70を備えている。すなわち、マスタシリンダ51Aとは別に液圧発生装置70が設けられており、液圧発生装置70が制動アクチュエータ60に接続されている。なお、マスタシリンダ51A内では、制動操作部材53の操作量に応じた液圧が発生する。
【0061】
<液圧発生装置70について>
液圧発生装置70は、電動シリンダ71と、駆動装置75とを備えている。駆動装置75は、電動シリンダ用モータ76を有している。そして、駆動装置75は、電動シリンダ用モータ76から出力された動力を電動シリンダ71に伝達する。電動シリンダ71内の液圧室72では、駆動装置75から入力された動力に応じた液圧である電動シリンダ圧Pslが発生する。電動シリンダ圧Pslは、電動シリンダ用モータ76の回転量によって調整することができる。液圧室72の電動シリンダ圧Pslが高くなると、電動シリンダ圧Pslに応じた量のブレーキ液が、電動シリンダ71から制動アクチュエータ60の第1液圧回路611及び第2液圧回路612に供給される。
【0062】
すなわち、本実施形態では、駆動装置75が、液圧室72の電動シリンダ圧Pslを自動的に調整すべく駆動する「加圧部」に対応する。また、電動シリンダ71内の液圧室72が、液路を介してホイールシリンダ21内と接続されている。そのため、制動アクチュエータ60の差圧調整弁63が開弁状態である場合、供給液路62aの液圧は電動シリンダ圧Pslと実質的に同圧になる。
【0063】
<制御構成について>
制動装置40Aは、運転者の制動操作部材53の操作量である制動操作量BPinpを検出する制動センサ126を備えている。制動センサ126は、検出した制動操作量BPinpに応じた検出信号を制御装置100に出力する。制動アクチュエータ60に設けられている液圧センサ123は、電動シリンダ圧Pslを検出し、検出した電動シリンダ圧Pslに応じた検出信号を制御装置100に出力する。
【0064】
制御装置100の液圧制御部101は、運転者が制動操作を行っている場合、電動シリンダ用モータ76の回転量の指示値として、制動操作量BPinpに応じた値を設定する。これにより、液圧制御部101は、制動操作量BPinpが大きいほど電動シリンダ圧Pslを高くできる。すなわち、各ホイールシリンダ21内のWC圧を、制動操作量BPinpに応じて可変させることができる。
【0065】
また、液圧制御部101は、駆動装置75を制御することにより、制動操作が行われていない場合であっても各ホイールシリンダ21内のWC圧を調整できる。例えば、液圧制御部101は、電動シリンダ用モータ76の回転量の指示値として、車両の制動力の目標値に応じた値に設定する。これにより、液圧制御部101は、車両の制動力の目標値が大きいほど電動シリンダ圧Pslを高くできる。すなわち、各ホイールシリンダ21内のWC圧を、車両の制動力の目標値に応じた大きさとすることができる。
【0066】
本実施形態の制動装置40Aを備える車両は、自動運転機能を有している。すなわち、車両は、自動運転で車両を走行させる場合に駆動力及び制動力などの各種の指示値を導出する自動運転用制御装置200を備えている。制御装置100には、車両の制動力の指示値に関する情報などが自動運転用制御装置200から入力される。
【0067】
本実施形態では、制御装置100は、自動運転機能に従った車両の自動走行に先立って、第1取得処理、第2取得処理及び導出処理を実行する。すなわち、制御装置100は、車両の自動走行の開始前の準備の一環として、制動アクチュエータ60の差圧調整弁63のバルブ特性を導出する。
【0068】
<差圧調整弁63のバルブ特性を導出するための処理の流れ>
図11には、第1取得処理を実行するための処理ルーチンが図示されている。制御装置100は、本処理ルーチンを繰り返し実行する。
【0069】
本処理ルーチンにおいて、はじめのステップS81では、制御装置100は、自動運転モードが設定されたか否かを判定する。制御装置100は、自動運転用制御装置200から車両の自動走行を開始する旨が入力された場合、自動運転モードが設定されたと判定する。自動運転モードが設定された場合(S81:YES)、制御装置100は、処理をステップS83に移行する。一方、自動運転モードが設定されていない場合(S81:NO)、制御装置100は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0070】
ステップS83において、制御装置100は、運転者の制動操作を無効にする旨を運転者に通知する通知処理を実行する。すなわち、差圧調整弁63のバルブ特性の導出が完了するまで、制御装置100は、運転者によって制動操作が行われても、当該制動操作に応じて駆動装置75を駆動させることをしない。
【0071】
そして、制御装置100の第1特性取得部102は、第1取得処理を開始する。すなわち、ステップS85において、第1特性取得部102は、上記ステップS15と同様に電動モータ68の駆動を開始させる。続いて、ステップS87において、第1特性取得部102は、駆動装置75の駆動を開始させる。第1特性取得部102は、電動シリンダ圧Pslが徐々に高くなるように駆動装置75を駆動させる。すなわち、第1特性取得部102は、車両の停止中において駆動装置75を駆動させることによって電動シリンダ71の液圧室72に液圧を発生させる。
【0072】
そして、ステップS89において、第1特性取得部102は、電動シリンダ圧Psl及びモータ電流値Imtを取得する。次のステップS91において、第1特性取得部102は、電動シリンダ圧Pslが電動シリンダ圧判定値PslThよりも高いか否かを判定する。電動シリンダ圧判定値PslThは、上記第1実施形態におけるMC圧判定値PmcThと同じ意図で設定されている。すなわち、電動シリンダ圧判定値PslThは、第1特性を取得するために必要な数のサンプルが取得できた否かの判断基準として設定されている。ここでいうサンプルとは、ステップS89で取得する電動シリンダ圧Psl及びモータ電流値Imtである。
【0073】
ステップS91において、電動シリンダ圧Pslが電動シリンダ圧判定値PslTh以下である場合(NO)、第1特性取得部102は、処理をステップS89に移行する。一方、電動シリンダ圧Pslが電動シリンダ圧判定値PslThよりも高い場合(S91:YES)、第1特性取得部102は、処理をステップS93に移行する。ステップS93において、第1特性取得部102は、第1特性を取得する。
【0074】
本実施形態では、第1特性取得部102は、車両の停止中において駆動装置75を駆動させることによって電動シリンダ71の液圧室72に液圧を発生させ、液圧室72での液圧の発生時における供給液路62aの液圧とモータ電流値Imtとに基づいて第1特性を取得する。すなわち、第1特性取得部102は、駆動装置75の駆動の開始時点から電動シリンダ圧Pslが電動シリンダ圧判定値PslThに達する時点までの期間内における、電動シリンダ圧Pslの推移及びモータ電流値Imtの推移を監視している。そして、第1特性取得部102は、当該期間内における電動シリンダ圧Pslの推移とモータ電流値Imtの推移とを基に、第1特性を取得する。すなわち、第1特性では、モータ電流値Imtが大きいほど電動シリンダ圧Pslが高くなる。第1特性において、モータ電流値Imtの増大に対する電動シリンダ圧Pslの増大量を電動シリンダ圧Pslの増大勾配とした場合、電動シリンダ圧Pslの増大勾配は、ポンプ67及び電動モータ68のそのときの特性を加味した大きさとなる。
【0075】
なお、弁指示値Ismとして「0」が設定されていて差圧調整弁63が開弁状態である場合、供給液路62aの液圧は、電動シリンダ圧Pslと実質的に同じである。そのため、ステップS93で取得される第1特性は、供給液路62aの液圧とモータ電流値Imtとの関係を示しているといえる。
【0076】
ステップS93で第1特性を取得すると、第1特性取得部102は、処理をステップS95に移行する。ステップS95において、第1特性取得部102は、電動モータ68及び駆動装置75の駆動を停止させる。そして、第1特性取得部102は、本処理ルーチンを終了する。
【0077】
なお、本実施形態では、第1特性を取得すると、電動モータ68の駆動を停止している。しかし、本実施形態では、第1特性を取得すると、直ぐに第2特性を取得するために第2取得処理が開始される。そのため、ステップS95において、電動モータ68の駆動を停止させなくてもよい。
【0078】
上記のように第1特性が取得されると、制御装置100の第2特性取得部103は、第2取得処理を実行して第2特性を取得する。そして、制御装置100のバルブ特性導出部104は、新たに取得された第1特性及び第2特性を基に、差圧調整弁63のバルブ特性を導出する。なお、第2特性を取得するための処理の流れ、及び、バルブ特性を導出するための処理の流れは、第1実施形態の場合と同様である。そのため、ここでは、第2特性を取得するための処理の流れ、及び、バルブ特性を導出するための処理の流れの説明については省略する。
【0079】
制動アクチュエータ60の各差圧調整弁63のバルブ特性の導出が完了すると、制御装置100は、自動運転機能による車両の自動走行を許可する旨を自動運転用制御装置200に出力する。そして、制御装置100の液圧制御部101は、車両の自動走行時において差圧調整弁63を駆動させる場合、自動走行に先立って導出したバルブ特性を基に差圧調整弁63を制御する。
【0080】
<効果>
本実施形態では、上記第1の実施形態における効果に加え、以下の効果をさらに得ることができる。
【0081】
自動運転機能による車両の自動走行の開始に先立って、差圧調整弁63のバルブ特性が導出される。そのため、自動走行中に制動アクチュエータ60の作動によって各ホイールシリンダ21内のWC圧を調整する場合、その調整精度を高くできる。
【0082】
また、運転者に制動操作を行わせることなく、第1特性を取得できる。
(変更例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0083】
・上記各実施形態において、新たに導出したバルブ特性と、前回に導出したバルブ特性との乖離が大きい場合には、制動アクチュエータ60で故障が発生している可能性がある。そのため、このような場合には、制動アクチュエータ60で故障が発生している可能性がある旨を運転者に通知するようにしてもよい。
【0084】
・上記第2実施形態で説明したように液圧発生装置が加圧部を備えている場合、車両の自動走行の開始前とは異なるタイミングで、差圧調整弁63のバルブ特性を導出するための一連の処理を実行するようにしてもよい。例えば、運転者が車両に搭乗していない場合に、第1取得処理、第2取得処理及び導出処理を実行してバルブ特性を導出してもよい。
【0085】
・上記各実施形態では、モータ電流値Imtとして、電流センサ121によって検出される検出値を採用しているが、これに限らない。例えば、電動モータ68の抵抗値及び電動モータ68に印加される電圧を基に導出したモータ電流の算出値を、モータ電流値Imtとしてもよい。この場合、電流センサ121を省略してもよい。
【0086】
・液圧発生装置の液圧室の液圧は、センサによって検出される検出値でなくてもよい。例えば、上記第1実施形態においては、運転者の制動操作量を基に導出されるMC圧の推定値を、MC圧Pmcとして採用してもよい。上記第2実施形態においては、電動シリンダ用モータ76の回転量を基に導出される電動シリンダ圧の推定値を、電動シリンダ圧Pslとして採用してもよい。
【0087】
・第2取得処理の実行時における規定回転数NmtTrが、第1取得処理の実行時における規定回転数NmtTrと実質的に同じであればよい。すなわち、第1取得処理の実行時における規定回転数NmtTrと、第2取得処理の実行時における規定回転数NmtTrとのずれを多少許容してもよい。
【0088】
・上記各実施形態では、第1取得処理の実行時における所定の値として「0」を設定しているが、これに限らない。すなわち、第1取得処理の実行時にあっては、弁指示値Ismを一定の値で保持していればよく、「0」ではない値を所定の値として設定してもよい。
【0089】
・上記各実施形態では、第2取得処理の実行時における所定の液圧として大気圧を設定しているが、これに限らない。すなわち、第2取得処理の実行時にあっては、液圧室の液圧を一定の液圧で保持していればよく、大気圧よりも高い液圧を所定の液圧として設定してもよい。
【0090】
・上記各実施形態において、第2取得処理によって第2特性を取得した後に、第1取得処理によって第1特性を取得するようにしてもよい。
・第2取得処理では、弁指示値Ismを弁指示判定値IsmThよりも大きくした状態から弁指示値Ismを「0」に向けて徐々に減少させるようにしてもよい。そして、このときの弁指示値Ism及びモータ電流値Imtの推移を基に、第2特性を取得してもよい。
【0091】
・上記第1実施形態において、第1取得処理では、MC圧PmcをMC圧判定値PmcThよりも高い状態からMC圧Pmcが減少するように制動動作を運転者に行わせるようにしてもよい。そして、このときのMC圧Pmc及びモータ電流値Imtの推移を基に、第1特性を取得してもよい。
【0092】
・上記第2実施形態において、第1取得処理では、電動シリンダ圧Pslを電動シリンダ圧判定値PslThよりも高い状態から電動シリンダ圧Pslが減少するように電動シリンダ用モータ76を駆動させてもよい。そして、このときの電動シリンダ圧Psl及びモータ電流値Imtの推移を基に、第1特性を取得してもよい。
【0093】
・上記各実施形態では、第1取得処理と第2取得処理とを連続して実行しているが、これに限らない。例えば、第2取得処理の実行時期を、第1取得処理の実行時期と異ならせてもよい。この場合、ブレーキ液の温度が第1取得処理の実行時と同程度であるときに、第2取得処理を実行するとよい。
【0094】
・上記第2実施形態において、液圧発生装置は、加圧部を備えているのであれば、液圧発生装置70とは異なる構成であってもよい。こうした液圧発生装置としては、例えば、「特開2018-90110号公報」に開示されている装置を挙げることができる。
【符号の説明】
【0095】
10…車輪
21…ホイールシリンダ
40,40A…制動装置
50,70…液圧発生装置
52,72…液圧室
62…液路
62a…供給液路
63…電磁弁の一例である差圧調整弁
67…ポンプ
68…電動モータ
75…加圧部の一例である駆動装置
100…制御装置