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特許7459788車両用多芯ケーブル及び車両用多芯ケーブルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】車両用多芯ケーブル及び車両用多芯ケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/36 20060101AFI20240326BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20240326BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20240326BHJP
   H01B 13/34 20060101ALI20240326BHJP
   B60R 16/02 20060101ALN20240326BHJP
   H02G 1/06 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
H01B7/36 Z
H01B7/00
H01B7/02 Z
H01B13/34 Z
B60R16/02 620Z
H02G1/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020520830
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2019049893
(87)【国際公開番号】W WO2020166205
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2019024857
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】田中 成幸
(72)【発明者】
【氏名】松村 友多佳
(72)【発明者】
【氏名】藤田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小堀 孝哉
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-119245(JP,A)
【文献】特開平11-317117(JP,A)
【文献】特開平09-129038(JP,A)
【文献】特開平08-269883(JP,A)
【文献】特開2018-097955(JP,A)
【文献】特開2001-135174(JP,A)
【文献】特開平09-115364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/36
H01B 7/00
H01B 7/02
H01B 13/34
B60R 16/02
H02G 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線を撚り合わせた導体及び上記導体の外周を被覆する絶縁層を有する芯線と、上記芯線の周囲に配設されるシース層とを備える車両用多芯ケーブルであって、
上記シース層の外周面に部分的に形成されるマーキング部を有し、
上記外周面における上記マーキング部の算術平均粗さRa1及び上記マーキング部に隣接する周辺領域の算術平均粗さRa2のうち大きい方の値Aに対する小さい方の値Bの比B/Aが0.48以上0.80以下であり、
走査型電子顕微鏡により上記マーキング部及び上記周辺領域の境界を含む断面を観察した際の上記マーキング部と上記周辺領域との任意の5点同士における高さの差の平均値が10μm以下であり、
上記マーキング部がレーザーマーキング部である車両用多芯ケーブル。
【請求項2】
上記マーキング部の平均面が上記周辺領域の平均面に対して実質的に低位である請求項1に記載の車両用多芯ケーブル。
【請求項3】
上記マーキング部の算術平均粗さRa1が5.0μm以上50.0μm以下である請求項1又は請求項2に記載の車両用多芯ケーブル。
【請求項4】
車両のアンチロックブレーキシステムと電動パーキングブレーキシステムの少なくとも一方に接続される請求項1から請求項のいずれか1項に記載の車両用多芯ケーブル。
【請求項5】
平均外径が3mm以上16mm以下であり、上記導体の横断面における平均面積が0.18mm以上5.0mm以下であり、上記絶縁層の平均厚さが0.1mm以上5mm以下であり、上記絶縁層が主成分としてポリエチレン系樹脂を含有する請求項1から請求項のいずれか1項に記載の車両用多芯ケーブル。
【請求項6】
上記絶縁層において上記ポリエチレン系樹脂が架橋されている請求項に記載の車両用多芯ケーブル。
【請求項7】
上記素線の平均径が40μm以上100μm以下であり、上記素線の数が7本以上2450本以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の車両用多芯ケーブル。
【請求項8】
複数の素線を撚り合わせた導体及び上記導体の外周を被覆する絶縁層を有する芯線と、
上記芯線の周囲に配設されるシース層と
を備える車両用多芯ケーブルの製造方法であって、
上記シース層の外周面の部分的な平滑化又は凹凸化によってマーキング部を形成する工程を備え、
上記マーキング部の算術平均粗さRa1及び上記マーキング部に隣接する周辺領域の算術平均粗さRa2のうち大きい方の値Aに対する小さい方の値Bの比B/Aを0.48以上0.80以下に制御し、
走査型電子顕微鏡により上記マーキング部及び上記周辺領域の境界を含む断面を観察した際の上記マーキング部と上記周辺領域との任意の5点同士における高さの差の平均値を10μm以下に制御し、
上記形成する工程で、上記シース層の外周面をレーザー加工する車両用多芯ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用多芯ケーブル及び車両用多芯ケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーブルの外周面には、長さ、径等の製品規格や、製造元、品番等の情報をマーキングする場合がある。一般に、このマーキングは、インクを用いた印刷によって形成される(特開2009-104879号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-104879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今日、車両のアンチロックブレーキシステム(ABS)等に用いられるセンサや、電動パーキングブレーキシステム等に用いられるアクチュエータと制御装置との接続に多芯ケーブルが用いられている。
【0005】
この多芯ケーブルは、車内での取り回しやアクチュエータの駆動等に伴って複雑に屈曲される。また、この多芯ケーブルは、少なくとも一部分が車外に露出した状態で使用される場合がある。
【0006】
そのため、この多芯ケーブルの外周面に印刷によってマーキングを施した場合、部分的な屈曲、接触や泥水、ガソリン等の有機溶媒の付着等に起因してマーキングの剥がれを生じるおそれがある。
【0007】
本開示は、このような事情に基づいてなされたものであり、耐屈曲性に優れると共に、屈曲、接触や泥水、ガソリン等の有機溶媒の付着等に起因するマーキング部の識別性の低下を防止することができる車両用多芯ケーブル及び車両用多芯ケーブルの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本開示に係る車両用多芯ケーブルは、
複数の素線を撚り合わせた導体及び上記導体の外周を被覆する絶縁層を有する芯線と、上記芯線の周囲に配設されるシース層とを備える車両用多芯ケーブルであって、
上記シース層の外周面に部分的に形成されるマーキング部を有し、
上記外周面における上記マーキング部の算術平均粗さRa1に対する上記マーキング部に隣接する周辺領域の算術平均粗さRa2の比が0.10以上0.90以下である。
【0009】
また、上記課題を解決するためになされた本開示に係る車両用多芯ケーブルの製造方法は、
複数の素線を撚り合わせた導体及び上記導体の外周を被覆する絶縁層を有する芯線と、
上記芯線の周囲に配設されるシース層と
を備える車両用多芯ケーブルの製造方法であって、
上記シース層の外周面の部分的な平滑化又は凹凸化によってマーキング部を形成する工程を備え、
上記マーキング部の算術平均粗さRa1に対する上記マーキング部に隣接する周辺領域の算術平均粗さRa2の比が0.10以上0.90以下に制御する。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る車両用多芯ケーブルは、耐屈曲性に優れると共に、屈曲や接触、泥水やガソリンをはじめとした有機溶媒の付着等によるマーキング部の識別性の低下を防止することができる。また、本開示に係る車両用多芯ケーブルの製造方法は、耐屈曲性に優れると共に、屈曲や接触、泥水やガソリンをはじめとした有機溶媒の付着等によるマーキング部の識別性の低下を防止可能な車両用多芯ケーブルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る車両用多芯ケーブルを示す模式的断面図である。
図2図2は、図1の車両用多芯ケーブルのシース層の外周面を示す模式的部分拡大図である。
図3図3は、図2の車両用多芯ケーブルの模式的A-A線断面図である。
図4図4は、図1の車両用多芯ケーブルの製造装置を示す模式図である。
図5図5は、図1の車両用多芯ケーブルとは異なる実施形態に係る車両用多芯ケーブルを示す模式的断面図である。
図6図6は、実施例での屈曲性試験を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
本開示に係る車両用多芯ケーブルは、
複数の素線を撚り合わせた導体及び上記導体の外周を被覆する絶縁層を有する芯線と、上記芯線の周囲に配設されるシース層とを備える車両用多芯ケーブルであって、
上記シース層の外周面に部分的に形成されるマーキング部を有し、
上記外周面における上記マーキング部の算術平均粗さRa1と上記マーキング部に隣接する周辺領域の算術平均粗さRa2とが相違しており、
上記マーキング部の算術平均粗さRa1に対する上記周辺領域の算術平均粗さRa2の比が0.10以上0.90以下である。
【0014】
当該車両用多芯ケーブルは、マーキング部がこのマーキング部に隣接する領域に対して算術平均粗さRaが相違しているため、屈曲や接触、泥水やガソリンをはじめとした有機溶媒の付着等によるマーキング部の剥がれを防ぎ、このマーキング部の識別性の低下を防止することができる。また、当該車両用多芯ケーブルは、上記外周面における上記マーキング部の算術平均粗さRa1と上記マーキング部に隣接する周辺領域の算術平均粗さRa2とが相違しており、上記マーキング部の算術平均粗さRa1に対する上記周辺領域の算術平均粗さRa2の比が0.10以上0.90以下であるため、上記マーキング部の識別性を確保できると共に、耐屈曲性に優れる。
【0015】
上記マーキング部の平均面が上記周辺領域の平均面に対して実質的に低位であるとよい。この「低位」とは、当該ケーブルの中心軸を基準とした概念である。このように、上記マーキング部がこのマーキング部に隣接する領域に対して実質的に凹んでいない場合でも、上記マーキング部に隣接する領域及び上記マーキング部の算術平均粗さRaを上述のように制御することで、上記マーキング部の識別性を確保することができる。また、上記マーキング部がこのマーキング部に隣接する領域に対して実質的に凹んでいないことで、上記マーキング部とこのマーキング部に隣接する領域との境界に段差が形成されることを抑制し、この段差に起因して当該車両用多芯ケーブルに割れが生じることを防止することができる。
【0016】
当該車両用多芯ケーブルは、車両のアンチロックブレーキシステムと電動パーキングブレーキシステムの少なくとも一方に接続されるとよい。当該車両用多芯ケーブルは、複雑に屈曲した状態でも十分な耐久性を有すると共に、車外に露出された場合でも上記マーキング部の識別性の低下を防止できるので、車両のABS及び/又は電動パーキングブレーキに接続されるのに適している。
【0017】
本開示に係る車両用多芯ケーブルの製造方法は、
複数の素線を撚り合わせた導体及び上記導体の外周を被覆する絶縁層を有する芯線と、
上記芯線の周囲に配設されるシース層と
を備える車両用多芯ケーブルの製造方法であって、
上記シース層の外周面の部分的な平滑化又は凹凸化によってマーキング部を形成する工程を備え、
上記マーキング部の算術平均粗さRa1に対する上記マーキング部に隣接する周辺領域の算術平均粗さRa2の比が0.10以上0.90以下に制御する。
【0018】
当該車両用多芯ケーブルの製造方法は、上記形成する工程で、シース層の外周面の部分的な平滑化又は凹凸化によってマーキング部を形成するので、屈曲や接触、泥水やガソリンをはじめとした有機溶媒の付着等によるマーキング部の剥がれを防ぎ、このマーキング部の識別性の低下を防止可能な車両用多芯ケーブルを製造できる。また、当該車両用多芯ケーブルの製造方法は、上記形成する工程で、上記外周面の上記マーキング部に隣接する領域及び上記マーキング部のうちの一方の算術平均粗さRaに対する他方の算術平均粗さRaの比を上記範囲内に制御するので、上記マーキング部の識別性を確保しつつ耐屈曲性に優れる車両用多芯ケーブルを製造できる。
【0019】
上記形成する工程で、上記シース層の外周面をレーザー加工するとよい。このように、上記形成する工程で、上記シース層の外周面をレーザー加工することによって、上記マーキング部の算術平均粗さRaを所望の範囲内に制御しやすい。
【0020】
なお、本開示において、「マーキング部」とは、シース層外周面において、例えば文字、数字、その他の記号や目印を表す領域を意味する。「算術平均粗さRa」とは、JIS-B0601:2001に準拠して、評価長さ1000μmで測定される値をいう。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の各実施形態に係る車両用多芯ケーブル及び車両用多芯ケーブルの製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
[第一実施形態]
<車両用多芯ケーブル>
図1の車両用多芯ケーブル1は、複数の素線を撚り合わせた導体11及びこの導体11の外周を被覆する絶縁層12を有する芯線2と、芯線2の周囲に配設されるシース層3とを備える。図2及び図3に示すように、当該車両用多芯ケーブル1は、シース層3の外周面に部分的なマーキング部13aを有する。マーキング部13aはシース層3の外周面の部分的な平滑化又は凹凸化によって形成される。当該車両用多芯ケーブル1は、好適には車両のABSや電動パーキングブレーキ(EPB)(不図示)に接続される。当該車両用多芯ケーブル1は、ABSや電動パーキングブレーキのブレーキキャリパーを駆動するモータに電気信号を送信するためのケーブルとして好適に使用できる。ABSや電動パーキングブレーキは、車外から露出し外気に晒されるため、屈曲、振動に加え、泥水やガソリンをはじめとした有機溶媒の付着、砂や小石が衝突する過酷な環境下で使用される。当該車両用多芯ケーブル1は、このような環境下でも、マーキング部13aの識別性の低下を防止することができる。
【0023】
当該車両用多芯ケーブル1の平均外径は、用途により適宜設計されるが、その下限としては、3mmが好ましく、4mmがより好ましい。一方、当該車両用多芯ケーブル1の平均外径の上限としては、16mmが好ましく、14mmがより好ましく、12mmがさらに好ましく、10mmが特に好ましい。
【0024】
(シース層)
シース層3は、芯線2の外側に積層される内側シース層3aと、内側シース層3aの外周面に積層される外側シース層3bとを有する。シース層3は、内側シース層3a及び外側シース層3bの2層構造体である。外側シース層3bの外周面は、シース層3の外周面13、ひいては当該車両用多芯ケーブル1の外周面を構成している。
【0025】
上述のように、シース層3は、その外周面13に部分的なマーキング部13aを有する。シース層3の外周面13のマーキング部13aに隣接する領域(以下、「隣接領域13b」ともいう)の算術平均粗さRaとマーキング部13aの算術平均粗さRaとは相違している。マーキング部13aは、シース層3の外周面13の部分的な平滑化によって形成される平滑部又は部分的な凹凸化によって形成される凹凸部である。図2及び図3に示すように、シース層3は、その外周面13に、部分的な平滑化又は凹凸化によって形成されるマーキング部13aと、表面加工を施していないその他の領域(未加工領域)とを有しており、この未加工領域が隣接領域13bを構成している。なお、マーキング部13aは、例えばシース層3の外周面へのレーザー加工、研磨加工等によって形成可能である。
【0026】
シース層3の外周面13のマーキング部13aに隣接する領域(隣接領域13b)及びマーキング部13aのうちの一方(算術平均粗さRaが大きい方)の算術平均粗さRaに対する他方(算術平均粗さRaが小さい方)の算術平均粗さRaの比の下限としては、0.10であり、0.15が好ましく、0.20がより好ましい。一方、上記比の上限としては、0.90であり、0.85が好ましく、0.80がより好ましい。さらに、当該車両用多芯ケーブル1の耐屈曲性及びマーキング部13aの識別性を両立する観点からは、上記比としては、0.10以上0.90以下であり、0.15以上0.85以下が好ましく、0.20以上0.80以下がより好ましい。当該車両用多芯ケーブル1は、複雑に屈曲された場合でも、マーキング部13aの識別性を十分に確保しつつ、十分な耐久性を維持できるよう上記比が制御されている。この観点において、上記比が下限に満たないと、マーキング部13aの形成が容易でなくなるおそれや、算術平均粗さRaの急激な変化に起因してマーキング部13aと隣接領域13bとの境界に負荷がかかりやすくなり、この境界で割れが生じるおそれがある。逆に、上記比が上限を超えると、マーキング部13aの識別性が不十分となるおそれがある。なお、上記比は、例えばレーザーの加工条件を制御することで調節することができる。
【0027】
マーキング部13aは、未加工領域の部分的な平滑化によって形成されることが好ましい。当該車両用多芯ケーブル1は、マーキング部13aがシース層3の外周面13の部分的な平滑化によって形成されることで、マーキング部13aの識別性を容易に確保することができる。また、この構成によると、マーキング部13aの表面に凹凸が形成されることに起因するシース層3の割れ等をより確実に防止することができる。特に当該車両用多芯ケーブル1は、車両のABS及び/又は電動パーキングブレーキに接続される場合、複雑に屈曲されることが多いため、上記平滑化による割れ防止効果が大きくなる。
【0028】
マーキング部13aの算術平均粗さRaとしては、隣接領域13bの算術平均粗さRaとの関係で設定可能であるが、その下限としては、例えば5.0μmが好ましく、10.0μmがより好ましい。一方、マーキング部13aの算術平均粗さRaの上限としては、例えば50.0μmが好ましく、40.0μmがより好ましい。
【0029】
マーキング部13aは、隣接領域13bに対して実質的に凹んでいないことが好ましい。マーキング部13aが隣接領域13bに対して実質的に凹んでいない場合、マーキング部13aは、例えば図3に示すように、隣接領域13bの表面の微細な凸部を選択的に除去又は溶融することで形成される。当該車両用多芯ケーブル1は、マーキング部13aが隣接領域13bに対して実質的に凹んでいない場合でも、隣接領域13b及びマーキング部13aの算術平均粗さRaの比を上述の範囲内に制御することで、マーキング部13aの識別性を確保することができる。また、当該車両用多芯ケーブル1は、マーキング部13aが隣接領域13bに対して実質的に凹んでいないことで、マーキング部13aと隣接領域13bとの境界に段差が形成されることを抑制し、この段差に起因する割れの発生を防止することができる。
【0030】
マーキング部13aは、隣接領域13bと区別して識別される限り、それ自体が表示する情報については特に限定されるものではない。但し、当該車両用多芯ケーブル1では、マーキング部13aは、文字、数字等の文字列を含むことが好ましい。一般にマーキング部が文字列を含む場合、マーキング部と隣接領域との境界線が多方向に複雑に入り組み、マーキング部と隣接領域との境界線を起点として割れが生じやすくなる場合がある。しかしながら、当該車両用多芯ケーブル1は、隣接領域13b及びマーキング部13aの算術平均粗さRaの比が上述の範囲内に制御することで、当該車両用多芯ケーブル1が複雑に屈曲された場合でも、マーキング部13a及び隣接領域13bの境界線を起点とする割れを十分に防止することができる。
【0031】
マーキング部13aを構成するシース層3の表層(外側シース層3bの表層)は改質されていないことが好ましい。当該車両用多芯ケーブル1は、シース層3の表層が改質されていないことで強度を高めることができる。なお、「改質」とは、その他の領域に対して組成が変化していることをいう。
【0032】
マーキング部13aの配設方向は特に限定されるものではない。マーキング部13aは、当該車両用多芯ケーブル1の軸方向に沿って形成されてもよく、周方向に沿って形成されてもよい。
【0033】
内側シース層3aの主成分としては、柔軟性を有する合成樹脂であれば特に限定されず、例えばポリエチレンやエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー等が挙げられる。これらは2種以上を混合して用いてもよい。なお、「主成分」とは、質量換算で最も含有量の大きい成分をいい、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。
【0034】
内側シース層3aの最小厚さ(芯線2と内側シース層3aの外周との最小距離)の下限としては、0.2mmが好ましく、0.3mmがより好ましい。一方、内側シース層3aの最小厚さの上限としては、0.9mmが好ましく、0.8mmがより好ましい。また、内側シース層3aの平均外径の下限としては、2.0mmが好ましく、3.0mmがより好ましい。一方、内側シース層3aの平均外径の上限としては、10.0mmが好ましく、9.3mmがより好ましい。
【0035】
外側シース層3bの主成分としては、難燃性及び耐摩耗性に優れた合成樹脂であれば特に限定されず、例えばポリウレタン等が挙げられる。
【0036】
外側シース層3bの平均厚さとしては、0.2mm以上0.7mm以下が好ましい。なお、「平均厚さ」とは、任意の10点において測定した厚さの平均値をいう。以下において他の部材等に対して「平均厚さ」という場合にも同様に定義される。
【0037】
内側シース層3a及び外側シース層3bは、それぞれ樹脂成分が架橋されていることが好ましい。樹脂成分を架橋する方法としては、電離放射線を照射する方法、有機過酸化物等の熱架橋剤を用いる方法、シランカップリング剤を添加してシラングラフト反応をさせる方法等が挙げられる。
【0038】
内側シース層3a及び外側シース層3bは、必要に応じて、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、反射付与剤、隠蔽剤、加工安定剤、可塑剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0039】
なお、シース層3と芯線2との間に抑巻部材として、紙等のテープ部材を巻き付けてもよい。
【0040】
(芯線)
当該車両用多芯ケーブル1は、互いに撚り合わされる2本の芯線2を有する。芯線2の横断面形状は特に限定されないが、例えば円形とされる。2本の芯線2の平均外径は略等しい。芯線2の横断面形状を円形とする場合、その平均外径は用途により異なるが、例えば1mm以上10mm以下とできる。芯線2の横断面の平均外径の測定方法としては特に限定されないが、例えば芯線2の任意の3点の外径を、ノギスを用いて測定したときの平均値を平均外径としてもよい。
【0041】
〔導体〕
導体11は、複数の素線を一定のピッチで撚り合わせて構成される。この素線としては、特に限定されないが、例えば銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線等が挙げられる。また、導体11は、複数の素線を撚り合わせた撚素線を用い、複数の撚素線をさらに撚り合わせた撚撚線であるとよい。撚り合わせる撚素線は同じ本数の素線を撚ったものが好ましい。
【0042】
素線の平均径の下限としては、40μmが好ましく、50μmがより好ましく、60μmがさらに好ましい。一方、素線の平均径の上限としては、100μmが好ましく、90μmがより好ましい。素線の平均径が上記下限より小さい、又は上記上限を超えると、当該車両用多芯ケーブル1の耐屈曲性向上効果が十分に発揮されないおそれがある。上記素線の平均径の測定方法としては特に限定されないが、例えば素線の任意の3点の平均径を、両端が円柱のマイクロメータを用いて測定したときの平均値を平均径としてもよい。
【0043】
素線の数は当該車両用多芯ケーブル1の用途や素線の径等にあわせて適宜設計されるが、その下限としては、7本が好ましく、19本がより好ましい。一方、素線の数の上限としては、2450本が好ましく、2000本がより好ましい。また、撚撚線の例としては、28本の素線を撚り合わせた7本の撚素線をさらに撚り合わせた196本の素線を有する撚撚線、42本の素線を撚り合わせた7本の撚素線をさらに撚り合わせた294本の素線を有する撚撚線、20本の素線を撚り合わせた19本の撚素線をさらに撚り合わせた380本の素線を有する撚撚線、32本の素線を撚り合わせた7本の撚素線をさらに撚り合わせた224本の素線を有する7本の撚撚線をさらに撚り合わせた1568本の素線を有する撚撚撚線、50本の素線を撚り合わせた7本の撚素線をさらに撚り合わせた350本の素線を有する7本の撚撚線をさらに撚り合わせた2450本の素線を有する撚撚撚線等を挙げることができる。
【0044】
導体11の横断面における平均面積(素線間の空隙も含む)の下限としては、0.18mmが好ましく、0.25mmがより好ましい。一方、導体11の横断面における平均面積の上限としては、5.0mmが好ましく、4.5mmがより好ましい。導体11の横断面における平均面積を上記範囲とすることで、車両用の多芯ケーブルとして好適に用いることができる。上記導体の横断面における平均面積の算出方法としては特に限定されないが、例えば導体の任意の3点を、導体の撚り構造を押しつぶさないように注意しながらノギスを用いて外径を測定したときの平均値を平均外径とし、この平均外径から算出される面積を平均面積としてもよい。
【0045】
〔絶縁層〕
絶縁層12は、合成樹脂を主成分とする組成物により形成され、導体11の外周に積層されることで導体11を被覆する。絶縁層12の平均厚さとしては、特に限定されないが、例えば0.1mm以上5mm以下とされる。
【0046】
絶縁層12の主成分は、例えばポリエチレン系樹脂である。ポリエチレン系樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体などが挙げられる。また、エチレン-αオレフィン共重合体としては、例えばエチレン-プロピレン共重合体、EVA、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体(EBA)等が挙げられる。ポリエチレン系樹脂としては、これらの中でも低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、EVA、EEAが好ましい。
【0047】
絶縁層12は、必要に応じて、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、反射付与剤、隠蔽剤、加工安定剤、可塑剤等の添加剤を含有していてもよい。また、絶縁層12は、上記ポリエチレン系樹脂以外のその他の樹脂を含有していてもよい。
【0048】
絶縁層12は、樹脂成分が架橋されていることが好ましい。絶縁層12の樹脂成分を架橋する方法としては、電離放射線を照射する方法、有機過酸化物等の熱架橋剤を用いる方法、シランカップリング剤を添加してシラングラフト反応をさせる方法等が挙げられる。
【0049】
<車両用多芯ケーブルの製造方法>
次に、当該車両用多芯ケーブル1の製造方法の一例について説明する。当該車両用多芯ケーブルの製造方法は、複数の素線を撚り合わせた導体11及びこの導体11の外周を被覆する絶縁層12を有する芯線2と、この芯線2の周囲に配設されるシース層3とを備える車両用多芯ケーブルの製造方法であって、シース層3の外周面13の部分的な平滑化又は凹凸化によってマーキング部13aを形成する工程を備える。また、当該車両用多芯ケーブルの製造方法は、複数の芯線2を撚り合わせる工程と、撚り合わせた複数の芯線2の外側にシース層3を被覆する工程とを備える。
【0050】
当該車両用多芯ケーブルの製造方法は、図4の製造装置を用いて行うことができる。この製造装置は、複数のサプライリール102と、撚り合わせ部103と、内側シース層被覆部104と、外側シース層被覆部105と、冷却部106と、マーキング部形成部107と、巻付リール108とを主として備える。複数のサプライリール102、撚り合わせ部103、内側シース層被覆部104、外側シース層被覆部105、冷却部106、マーキング部形成部107及び巻付リール108は、搬送方向上流側から下流側にこの順で設けられている。
【0051】
(撚り合わせる工程)
上記撚り合わせる工程では、複数のサプライリール102に巻き付けられた芯線2をそれぞれ撚り合わせ部103に供給し、撚り合わせ部103で複数の芯線2を撚り合わせる。
【0052】
(被覆する工程)
上記被覆する工程では、内側シース層被覆部104により、撚り合わせ部103による撚り合わせ後の芯線2の外側に貯留部104aに貯留された内側シース層形成用の樹脂組成物を押し出す。これにより、芯線2の外側に内側シース層3aが被覆される。
【0053】
内側シース層3aの被覆後、外側シース層被覆部105により、内側シース層3aの外周に貯留部105aに貯留された外側シース層形成用の樹脂組成物を押し出す。これにより、内側シース層3aの外周に外側シース層3bが被覆される。
【0054】
外側シース層3bの被覆後、芯線2を冷却部106で冷却することでシース層3が硬化し、シース層3の外周面の全面に未加工領域が形成される。
【0055】
(形成する工程)
上記形成する工程では、マーキング部形成部107によってマーキング部13aを形成する。上記形成する工程では、例えばレーザー加工、研磨加工等によってシース層3の外周面13を部分的に平滑化又は凹凸化する。上記形成する工程によるマーキング部13aの形成によって当該車両用多芯ケーブル1が得られる。なお、当該車両用多芯ケーブルの製造方法では、上記形成する工程後の多芯ケーブルを巻付リール108で巻取回収する。
【0056】
上記形成する工程では、シース層3の外周面13のマーキング部13aに隣接する領域(隣接領域13b)及びマーキング部13aのうちの一方の算術平均粗さRaに対する他方の算術平均粗さRaの比を0.10以上0.90以下に制御する。
【0057】
上記形成する工程では、マーキング部13aの算術平均粗さRa等の表面粗さを制御する。上記形成する工程では、上記比やマーキング部13aの算術平均粗さRaを、当該車両用多芯ケーブル1で説明した上述の範囲内に制御することが好ましい。
【0058】
上記形成する工程では、隣接領域13bに対してマーキング部13aが実質的に凹まないようマーキング部13aを形成することが好ましい。上記形成する工程では、マーキング部13aを構成するシース層3の表層を改質しないことが好ましい。また、上記形成する工程では、文字列を含むようマーキング部13aを形成することも好ましい。
【0059】
上記形成する工程で、シース層3の外周面をレーザー加工する場合、加工条件を制御することで所望の算術平均粗さRa等を有するマーキング部13aを形成することができる。
【0060】
上記形成する工程で照射するレーザー光としては、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザー、YVO(イットリウム・バナデイト)レーザー等の固体レーザーや、COレーザー等のガスレーザーなどが挙げられ、COレーザーが好ましい。
【0061】
(その他の工程)
当該車両用多芯ケーブルの製造方法は、シース層3の樹脂成分を架橋する工程をさらに備えるとよい。この架橋する工程は、上記被覆する工程の一部として実施してもよく、上記被覆する工程とは別個に実施してもよい。また、この架橋する工程は、シース層3を形成する組成物の芯線2への被覆前に行ってもよく、被覆後に行ってもよい。
【0062】
上記架橋は、例えば電離放射線の照射により行うことができる。電離放射線の照射線量の下限としては、50kGyが好ましく、100kGyがより好ましい。一方、電離放射線の照射線量の上限としては、300kGyが好ましく、240kGyがより好ましい。照射線量が上記下限より小さいと、架橋反応が十分進行しないおそれがある。逆に、照射線量が上記上限を超えると、樹脂成分の分解が生じるおそれがある。
【0063】
<利点>
当該車両用多芯ケーブル1は、マーキング部13aが隣接領域13bに対して算術平均粗さRaを相違させることで形成されるので、屈曲や接触、泥水やガソリンをはじめとした有機溶媒の付着等によるマーキング部13aの剥がれを防ぎ、このマーキング部13aの識別性の低下を防止することができる。また、当該車両用多芯ケーブル1は、隣接領域13b及びマーキング部13aのうちの一方の算術平均粗さRaに対する他方の算術平均粗さRaの比が上記範囲内であるので、マーキング部13aの識別性を確保できると共に、耐屈曲性に優れる。
【0064】
当該車両用多芯ケーブル1は、複雑に屈曲した状態でも十分な耐久性を有すると共に、車外に露出された場合でもマーキング部13aの識別性の低下を防止できるので、車両のABSや電動パーキングブレーキに接続されるのに適している。
【0065】
当該車両用多芯ケーブルの製造方法は、上記形成する工程で、シース層3の外周面13の部分的な平滑化又は凹凸化によってマーキング部13aを形成するので、屈曲や接触、泥水やガソリンをはじめとした有機溶媒の付着等によるマーキング部13aの剥がれを防ぎ、このマーキング部13aの識別性の低下を防止可能な車両用多芯ケーブル1を製造できる。また、当該車両用多芯ケーブルの製造方法は、上記形成する工程で、隣接領域13b及びマーキング部13aのうちの一方の算術平均粗さRaに対する他方の算術平均粗さRaの比を上記範囲内に制御するので、マーキング部13aの識別性を確保しつつ耐屈曲性に優れる車両用多芯ケーブルを製造できる。
【0066】
当該車両用多芯ケーブルの製造方法は、上記形成する工程でシース層3の外周面13をレーザー加工することで、マーキング部13aの算術平均粗さRa等の表面粗さを所望の範囲内に制御しやすい。
【0067】
[第二実施形態]
<車両用多芯ケーブル>
図5の車両用多芯ケーブル21は、複数の素線を撚り合わせた導体31及びこの導体31の外周を被覆する絶縁層32を有する芯線22と、この芯線22の周囲に配設されるシース層3とを備える。当該車両用多芯ケーブル21は、シース層3の外周面に部分的なマーキング部を有する。このマーキング部はシース層3の外周面13の部分的な平滑化又は凹凸化によって形成される。当該車両用多芯ケーブル21は、図1の車両用多芯ケーブル1と異なり、径の異なる複数の芯線22を有する。当該車両用多芯ケーブル21は、シース層3の外周面13のマーキング部に隣接する領域(上述の隣接領域)の算術平均粗さRaと上記マーキング部の算術平均粗さRaとが相違している。上記隣接領域及び上記マーキング部のうちの一方(算術平均粗さRaが大きい方)の算術平均粗さRaに対する他方(算術平均粗さRaが小さい方)の算術平均粗さRaの比は0.10以上0.90以下である。なお、本実施形態におけるシース層3は、図1の車両用多芯ケーブル1のシース層3と同じであるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0068】
当該車両用多芯ケーブル21は、電動パーキングブレーキの信号ケーブルとしての用途に加え、車両用のABSの動作を制御する電気信号を送信する用途にも好適に使用できる。つまり、当該車両用多芯ケーブル21は、車両のABS及び/又は電動パーキングブレーキに接続され得る。
【0069】
複数の芯線22は、同径の2本の第1芯線22aと、この第1芯線22aよりも径が小さく、かつ同径の2本の第2芯線22bとを含む。2本の第1芯線22a及び2本の第2芯線22bは、互いに撚り合わされている。具体的には、2本の第1芯線22aと、2本の第2芯線22bを対撚りした1本の撚線とが撚り合わされている。当該車両用多芯ケーブル21を電動パーキングブレーキ及びABSの信号ケーブルとして用いる場合、第2芯線22bを撚り合せた撚線がABS用の信号を送信する。
【0070】
第1芯線22aは、図1の芯線2と同様の構成とすることができる。また、第2芯線22bは、導体31及び絶縁層32の径が異なる以外、図1の芯線2と同様の構成とすることができる。
【0071】
<車両用多芯ケーブルの製造方法>
図5の車両用多芯ケーブル21の製造方法は、図1の車両用多芯ケーブル1と同様、シース層3の外周面13の部分的な平滑化又は凹凸化によってマーキング部を形成する工程を備える。また、当該車両用多芯ケーブルの製造方法は、複数の芯線22を撚り合わせる工程と、撚り合わせた複数の芯線22の外側にシース層3を被覆する工程とを備える。
【0072】
<利点>
当該車両用多芯ケーブル21は、図1の車両用多芯ケーブル1と同様、屈曲、接触等による上記マーキング部の剥がれを防ぎ、このマーキング部の識別性の低下を防止することができる。また、当該車両用多芯ケーブル21は、図1の車両用多芯ケーブル1と同様、上記マーキング部の識別性を確保できると共に、耐屈曲性に優れる。
【0073】
当該車両用多芯ケーブルの製造方法は、当該車両用多芯ケーブル21を容易かつ確実に製造することができる。
【0074】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0075】
当該車両用多芯ケーブルは、例えば屈曲しても割れが生じない場合であれば、マーキング部がこのマーキング部に隣接する領域に対して凹んでいる構成を採用することも可能である。
【0076】
上記シース層は、単層でもよく、3層以上の多層構造であってもよい。
【0077】
上記芯線の本数は特に限定されるものではない。また、当該車両用多芯ケーブルは、上述した芯線以外の電線を含んでもよい。
【0078】
上記芯線は、導体に直接積層されるプライマー層を有していてもよい。このプライマー層としては、金属水酸化物を含有しないエチレン等の架橋性樹脂を架橋させたものを好適に用いることができる。このようなプライマー層を設けることにより、絶縁層及び導体の剥離性の経時低下を防止できる。
【実施例
【0079】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
[No.1]
平均径80μm、72本の軟銅の素線を撚った7本の撚素線をさらに撚った導体(平均径2.4mm)の外周にポリエチレンを主成分とする絶縁層形成組成物を押出して外径3mmの絶縁層を形成し第1芯線を得た。また、平均径80μm、60本の銅合金の素線を撚った導体(平均径0.72mm)の外周にポリエチレンを主成分とする絶縁層形成組成物を押出して外径1.4mmの絶縁層を形成し第2芯線を得た。次に、同種の2本の第1芯線と、第2芯線とを撚り合わせた後(撚り合わせる工程)、これらの芯線の周囲にシース層を押出により被覆した(被覆する工程)。さらに、上記シース層の外周面にレーザー光を照射することで文字表示としてのマーキング部を形成し(形成する工程)、No.1の車両用多芯ケーブルを製造した。なお、上記シース層としては、架橋ポリオレフィンを主成分とし、最小厚さが0.45mm、平均外径が7.4mmの内側シース層と、難燃性の架橋ポリウレタンを主成分とし、平均厚さが0.5mm、平均外径が8.4mmの外側シース層とを有するものを形成した。シース層の樹脂成分の架橋は、180kGyの電子線照射により行った。
【0081】
[No.2~No.8]
上記形成する工程におけるレーザー光の照射条件を変えた以外、No.1と同様にしてNo.2~No.8の車両用多芯ケーブルを製造した。
【0082】
<算術平均粗さ>
No.1~No.8の車両用多芯ケーブルについて、マーキング部及びこのマーキング部に隣接する領域(隣接領域)の算術平均粗さRaをJIS-B0601:2001に準拠して、評価長さ(l)1000μm、カットオフ値(λc)1.0mmで測定した。この測定結果を表1に示す。
【0083】
<凹みの有無>
No.1~No.8の車両用多芯ケーブルについて、マーキング部が隣接領域に対して実質的に凹んでいるか否かを測定した。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)によってマーキング部及び隣接部分の境界を含む断面写真を観察し、マーキング部と隣接領域との任意の5点同士における高さの差の平均値を求め凹みの有無を測定した。この測定結果を表1に示す。また、表1では、測定値が10μm以下の場合を凹み無し「A」と判定し、測定値が10μm超の場合を凹み有り「B」と判定した。
【0084】
<マーキング部の視認性>
No.1~No.8の車両用多芯ケーブルについて、マーキング部の視認性を目視にて以下の基準で判定した。この判定結果を表1に示す。
A:マーキング部が文字として視認できる。
B:マーキング部が文字として視認できない。
【0085】
<屈曲試験>
図6に示すように、水平かつ互いに平行に配設された直径60mmの2本のマンドレル間にNo.1~No.8の車両用多芯ケーブルXを鉛直方向に通し、上端を一方のマンドレルA1の上側に当接するよう水平方向に90°屈曲させた後、他方のマンドレルA2の上側に当接するように逆向きに90°屈曲させることを繰り返した。なお、試験条件は、車両用多芯ケーブルXの下端に下向きに2kgの荷重を加え、温度を-30℃、屈曲回数速度を60回/分とした。この試験においてシース層に割れが生じるまでの屈曲回数を計測した。この計測結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
[評価結果]
表1に示すように、No.4及びNo.5は、隣接領域及びマーキングのうちの一方の算術平均粗さRaに対する他方の算術平均粗さRaの比が0.90を超えるため、マーキング部の視認性が不十分となっている。一方、No.6及びNo.7は、隣接領域及びマーキングのうちの一方の算術平均粗さRaに対する他方の算術平均粗さRaの比が0.10に満たないため、屈曲回数が小さくなっており、耐屈曲性が不十分となっている。また、No.8は、マーキング部が隣接領域に対して実質的に凹んでいるため、屈曲回数が小さくなっており、耐屈曲性が不十分となっている。これに対し、No.1~No.3は、耐屈曲性及びマーキング部の視認性についていずれも良好な結果が得られている。
【符号の説明】
【0088】
1,21 車両用多芯ケーブル
2,22 芯線
3 シース層
3a 内側シース層
3b 外側シース層
11,31 導体
12,32 絶縁層
13 外周面
13a マーキング部
13b 隣接領域
22a 第1芯線
22b 第2芯線
102 サプライリール
103 撚り合わせ部
104 内側シース層被覆部
104a,105a 貯留部
105 外側シース層被覆部
106 冷却部
107 マーキング部形成部
108 巻付リール
A1,A2 マンドレル
X 車両用多芯ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6