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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】硬度測定方法及び硬度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20240326BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G01N31/00 S
G01N33/18 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021009752
(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公開番号】P2022113472
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】松村 涼
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 裕介
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-201497(JP,A)
【文献】特開2009-075019(JP,A)
【文献】特公昭54-003395(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0156763(US,A1)
【文献】特開2008-082934(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0052742(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102004015387(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00~31/22
G01N 33/18
G01N 21/75~21/83
G01N 21/25
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検水の硬度を測定する硬度測定方法であって、
前記検水への所定量のキレート型の試薬の注入及び前記検水の2波長の測定光における吸光度の測定を複数回繰り返す工程と、
前記2波長の測定光の吸光度に基づいて、前記試薬と硬度成分とが結合したキレート錯体による吸光度の成分である錯体吸光度成分を算出する工程と、
前記試薬の注入に伴う前記錯体吸光度成分の変化に基づいて、前記検水の硬度を算出する工程と、
を備える、硬度測定方法。
【請求項2】
前記試薬の注入に伴う前記錯体吸光度成分の変化を、前記錯体吸光度成分の変化量と前記硬度成分と結合していない前記試薬による吸光度の成分である未錯体吸光度成分の変化量との関係から判断する、請求項1に記載の硬度測定方法。
【請求項3】
前記硬度を算出する工程は、予め設定される近似式に基づいて、前記錯体吸光度成分の複数のデータから、前記試薬の注入回数を増大したときの前記錯体吸光度成分の収束値を推定する工程を含む、請求項1又は2に記載の硬度測定方法。
【請求項4】
前記複数のデータとして、前記試薬の注入回数が小さいものを除外する、請求項3に記載の硬度測定方法。
【請求項5】
前記試薬の注入及び前記吸光度の測定をする工程、前記錯体吸光度成分を算出する工程、並びに前記収束値を推定する工程を繰り返し行い、前記収束値の最新の推定値と前回の推定値との差が予め設定される収束閾値以下となった場合に、前記収束値の最新の推定値から前記硬度を算出する、請求項3又は4に記載の硬度測定方法。
【請求項6】
前記試薬の注入に伴う前記錯体吸光度成分の直近の変化率が予め設定される飽和閾値以下である場合は、前記錯体吸光度成分の最新値を前記硬度に直接換算し、
前記試薬の注入に伴う前記錯体吸光度成分の直近の変化率が前記飽和閾値を超える場合は、前記錯体吸光度成分の収束値を推定する工程を行う、請求項3から5のいずれかに記載の硬度測定方法。
【請求項7】
前記2波長として、前記試薬と前記硬度成分との反応についての等吸収点より短い波長及び前記等吸収点より長い波長を用いる、請求項1から6のいずれかに記載の硬度測定方法。
【請求項8】
検水の硬度を測定する硬度測定装置であって、
前記検水を貯留する測定セルに所定量の試薬を注入する試薬注入部と、
前記測定セルに2波長の測定光を投光して前記検水のそれぞれの前記波長における吸光度を測定する吸光度測定部と、
前記2波長における吸光度に基づいて、前記試薬と硬度成分とのキレート錯体による吸光度の成分である錯体吸光度成分を算出する吸光度成分算出部と、
前記試薬の注入に伴う前記錯体吸光度成分の変化に基づいて、前記硬度を算出する硬度算出部と、
を備える、硬度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬度測定方法及び硬度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
検水中の測定対象の溶質と結合して発色又は変色する呈色反応を示す試薬を用い、試薬の呈色に伴う検水の吸光度の変化を測定することによって検水中の測定対象の濃度を測定する濃度測定方法が利用されている。さらに、このような呈色反応を利用する濃度測定を自動的に行う濃度測定装置も市販されている。一般的な濃度測定装置は、試料を注液した容量数mLの測定セルに対し、試薬の注入及び測定光の投光による吸光度の測定を自動的に行う。
【0003】
試薬は、測定対象に応じて選択されるが、硬度を測定する場合、例えば特許文献1に記載されるように、硬度成分と結合してキレート錯体を形成するキレート型の試薬が用いられ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4168557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特にキレート型の試薬を用いる場合、未反応の試薬も測定光を吸収し得るため、試薬を過剰に注入すると測定誤差が大きくなる可能性がある。また、キレート型の試薬は、硬度や妨害成分の濃度によっては、キレート型生成の反応が定量的に進まずに、未反応の試薬が残っている段階で吸光度の測定が行われ得る。特に、測定する検水の硬度が高い場合、これらの要因による測定誤差が大きくなりやすい。
【0006】
係る実情に鑑みて、本発明は、高硬度まで精度よく硬度を測定できる硬度測定方法及び硬度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る硬度測定方法は、検水の硬度を測定する硬度測定方法であって、前記検水への所定量のキレート型の試薬の注入及び前記検水の2波長の測定光における吸光度の測定を複数回繰り返す工程と、前記2波長の測定光の吸光度に基づいて、前記試薬と硬度成分とが結合したキレート錯体による吸光度の成分である錯体吸光度成分を算出する工程と、前記試薬の注入に伴う前記錯体吸光度成分の変化に基づいて、前記検水の硬度を算出する工程と、を備える。
【0008】
上述の硬度測定方法において、前記試薬の注入に伴う前記錯体吸光度成分の変化を、前記錯体吸光度成分の変化量と前記硬度成分と結合していない前記試薬による吸光度の成分である未錯体吸光度成分の変化量との関係から判断してもよい。
【0009】
上述の硬度測定方法において、前記硬度を算出する工程は、予め設定される近似式に基づいて、前記錯体吸光度成分の複数のデータから、前記試薬の注入回数を増大したときの前記錯体吸光度成分の収束値を推定する工程を含んでもよい。
【0010】
上述の硬度測定方法において、前記複数のデータとして、前記試薬の注入回数が小さいものを除外してもよい。
【0011】
上述の硬度測定方法において、前記試薬の注入及び前記吸光度の測定をする工程、前記錯体吸光度成分を算出する工程、並びに前記収束値を推定する工程を繰り返し行い、前記収束値の最新の推定値と前回の推定値との差が予め設定される収束閾値以下となった場合に、前記収束値の最新の推定値から前記硬度を算出してもよい。
【0012】
上述の硬度測定方法において、前記試薬の注入に伴う前記錯体吸光度成分の直近の変化率が予め設定される飽和閾値以下である場合は、前記錯体吸光度成分の最新値を前記硬度に直接換算し、前記試薬の注入に伴う前記錯体吸光度成分の直近の変化率が前記飽和閾値を超える場合は、前記錯体吸光度成分の収束値を推定する工程を行ってもよい。
【0013】
上述の硬度測定方法において、前記2波長として、前記試薬と前記硬度成分との反応についての等吸収点より短い波長及び前記等吸収点より長い波長を用いてもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る硬度測定装置は、検水の硬度を測定する硬度測定装置であって、前記検水を貯留する測定セルに所定量の試薬を注入する試薬注入部と、前記測定セルに2波長の測定光を投光して前記検水のそれぞれの前記波長における吸光度を測定する吸光度測定部と、前記2波長における吸光度に基づいて、前記試薬と硬度成分とのキレート錯体による吸光度の成分である錯体吸光度成分を算出する吸光度成分算出部と、前記試薬の注入に伴う前記錯体吸光度成分の変化に基づいて、前記硬度を算出する硬度算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高硬度まで精度よく硬度を測定できる硬度測定方法及び硬度測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る硬度測定装置の構成を示す模式図である。
図2】2波長の吸光度と錯体吸光度成分及び未錯体吸光度成分との関係を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る硬度測定方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る硬度測定装置1の構成を示す模式図である。なお、図示する硬度測定装置1の各構成要素の形状は簡略化されており、各構成要素の寸法も見やすいよう調整されている。
【0018】
硬度測定装置1は、本発明の一実施形態に係る硬度測定方法を実行することにより、検水の硬度を測定する。硬度測定装置1は、測定セル2と、試薬注入部3と、吸光度測定部4と、吸光度成分算出部5と、硬度算出部6と、給水部7と、攪拌部8と、調整部9と、を備える。
【0019】
測定セル2は、検水を貯留する容器である。測定セル2は、少なくとも部分的に吸光度測定部4の測定光を透過するよう形成される。測定セル2の容量は、試薬の消費量を抑制するために、精度を担保できる範囲内でできるだけ小さくすることが好ましい。具体的な測定セル2の容量としては、例えば2mL以上10mL以下とすることができる。
【0020】
試薬注入部3は、測定セル2に所定量の試薬を注入するよう構成される。具体例として、試薬注入部3は、試薬を貯留する試薬タンク31と、試薬を送出する薬注ポンプ32と、調整部9からの指令に応じて薬注ポンプを制御する薬注制御部33と、を有する構成とされ得る。
【0021】
試薬注入部3によって注入される試薬としては、検水中の硬度成分とキレート結合してキレート錯体を形成することにより発色又は変色するキレート型の試薬が用いられる。かかるキレート型の試薬としては、例えばカルマガイト、エリオクロムブラックT、HSNN等を含む溶液を挙げることができる。また、試薬は、例えば増感剤、減感剤等をさらに含み得る。
【0022】
吸光度測定部4は、測定セル2に2波長の測定光を投光して検水のそれぞれの波長における吸光度を測定する。吸光度測定部4は、第1の波長の第1測定光を出射する第1発光素子41と、第2の波長の第2測定光を出射する第2発光素子42と、測定セル2を透過した第1測定光の光量を検出する第1受光素子43と、測定セル2を透過した第2測定光の光量を検出する第2受光素子44と、第1受光素子43及び第2受光素子44の測定値から測定セル2中の検水の第1の波長における吸光度及び第2の波長における吸光度を算出する吸光度演算部45と、を有する構成とされ得る。
【0023】
第1の波長及び第2の波長としては、試薬と硬度成分との反応による吸光度の変化率の差が大きくなるような波長が選択されることが好ましい。より好ましくは、第1の波長及び第2の波長として、試薬と硬度成分との反応についての等吸収点より短い波長及び等吸収点より長い波長、つまり、試薬と硬度成分との反応が進むことで吸光度が減少する波長と試薬と硬度成分との反応が進むことで吸光度が増大する波長とが用いられる。このような波長の測定光を用いることによって、後述する吸光度成分算出部5による錯体吸光度成分と未錯体吸光度成分との算出をより正確に行うことができる。具体的には、呈色成分(呈色反応を担う色素成分)としてカルマガイトを含む試薬を用いる場合、例えば第1測定光として波長645nm以上665nm以下の赤色光、第2測定光として波長410nm以上430nm以下の紫色光を用いることができる。
【0024】
吸光度成分算出部5は、吸光度測定部4が測定した2波長における吸光度に基づいて、試薬と硬度成分とのキレート錯体による吸光度の成分である錯体吸光度成分及び硬度成分と結合していない試薬(呈色成分)による吸光度の成分である未錯体吸光度成分を算出する。
【0025】
検水中の錯体吸光度成分及び未錯体吸光度成分の値は、キレート錯体の濃度及び未錯体の濃度にそれぞれ比例し、その比例定数は試薬の種類によって定まる。また、吸光度測定部4の測定値は、錯体吸光度成分と未錯体吸光度成分との単純和と考えることができる。
【0026】
第1測定光における検水の吸光度の測定値をXs、キレート錯体による吸光度をXc、未錯体による吸光度をXb、単位濃度のキレート錯体による吸光度をXc、未錯体による吸光度をXbとし、第2測定光における検水の吸光度の測定値をYs、キレート錯体による吸光度をYc、未錯体による吸光度をYb、単位濃度のキレート錯体による吸光度をYc、未錯体による吸光度をYbとし、錯体吸光度成分をC、未錯体吸光度成分をBとすると、Xs=Xc+Xb=C・Xc+B・Xb、Ys=Yc+Yb=C・Yc+B・Ybとなる。この連立方程式を解くことによって、錯体吸光度成分C及び未錯体吸光度成分Bを算出することができる。
【0027】
図2に、2波長の吸光度と錯体吸光度成分及び未錯体吸光度成分との関係を示す。図では、第1波長(赤色)における吸光度を横軸、第2波長(紫色)における吸光度を縦軸に示す。図には、あるサンプルの検水の吸光度(Xs,Ys)と、単位濃度のキレート錯体のみを含む場合の吸光度(Xc,Yc)と、単位濃度の未錯体のみを含む場合の吸光度(Xb,Yb)と、を示す。検水のキレート錯体による吸光度(Xc,Yc)及び未錯体による吸光度(Xb,Yb)は、図示する座標平面において、検水の吸光度の測定値(Xs,Ys)のベクトルの、単位濃度のキレート錯体のみを含む場合の吸光度(Xc,Yc)の方向のベクトル成分及び単位濃度の未錯体のみを含む場合の吸光度(Xb,Yb)の方向のベクトル成分として把握することができる。
【0028】
硬度算出部6は、試薬の注入に伴う錯体吸光度成分の変化に基づいて硬度を算出する。錯体吸光度成分の変化に基づいて硬度を算出することによって、試薬の過剰な注入を防止して硬度を精度よく測定できる。また、錯体吸光度成分の変化から硬度を算出することによって、必ずしも硬度成分の全量を試薬と反応させなくても硬度を比較的正確に算出できるため、試薬の注入回数を抑制できる。したがって、測定セル2のオーバーフロー(試薬の流出や検水中の硬度成分の希釈)が発生しにくいため、検水の硬度を高硬度まで高精度に測定できる。
【0029】
硬度算出部6は、試薬の注入に伴う錯体吸光度成分の変化を、未錯体吸光度成分の変化量と錯体吸光度成分の変化量との関係から判断してもよい。つまり、錯体吸光度成分を未錯体吸光度成分の関数として表すことによって、全ての硬度成分が試薬と結合した場合のキレート錯体の含有量における錯体吸光度成分を予測することができる。このように、未結合の硬度成分の減少により変化率が増大する未錯体吸光度成分を基準に判断することで、試薬の注入量の誤差が大きい場合等にも、試薬の注入に伴う錯体吸光度成分の変化量の減少を正確に検知できる。なお、「未錯体吸光度成分の変化量と錯体吸光度成分の変化量との関係から判断」とは、試薬の注入による未錯体吸光度成分及び錯体吸光度成分の変化量を算出することを要求するものではない。
【0030】
具体的には、硬度算出部6は、予め設定される近似式に基づいて、錯体吸光度成分の複数のデータから、試薬の注入回数を増大したときの錯体吸光度成分の収束値を推定する収束値推定部61と、錯体吸光度成分の実測値(実測した吸光度から算出した値)又は収束値を硬度に換算する硬度換算部62を有する構成とされ得る。
【0031】
収束値推定部61は、試薬の注入に伴う錯体吸光度成分の変化、つまり錯体吸光度成分の複数のデータを用いて予め設定される近似式の係数を特定するフィッティングを行い、フィッティングした近似式から導出される試薬の注入回数を増大したときの錯体吸光度成分の収束値、つまり全ての硬度成分が試薬と結合した場合のキレート錯体の含有量における錯体吸光度成分の推定値から検水の硬度を算出するよう構成され得る。このように、予め設定される近似式に基づいて錯体吸光度成分の収束値を推定することによって、試薬の注入量を確実に抑制することができ、かつ硬度成分と試薬との反応が定量的に進まない場合であっても、硬度を比較的迅速かつ正確に測定できる。
【0032】
なお、錯体吸光度成分の複数のデータとしては、試薬の注入回数が小さいものを除外することが好ましい。具体的には、試薬の注入回数が所定数に満たないデータを除外してもよく、試薬の注入に伴う錯体吸光度成分の変化率が所定値を超えるデータを除外してもよい。検水中の硬度や妨害成分の濃度が高い場合には、試薬の注入回数が小さいときにキレート反応が定量的に進まずに適切に発色しないことで誤差が大きくなりやすい。このため、試薬の注入回数が小さいときのデータを除外して、試薬の注入回数が大きいときのデータに基づいて収束値を推定することで、硬度や妨害成分の濃度が高い場合でも硬度を比較的正確に測定できる。
【0033】
また、硬度算出部6は、試薬の注入に伴う錯体吸光度成分の直近の変化率が予め設定される飽和閾値以下である場合は、硬度換算部62により実測された吸光度から算出された錯体吸光度成分の最新値を硬度に直接換算してもよく、試薬の注入に伴う錯体吸光度成分の直近の変化率が飽和閾値を超える場合は、収束値推定部61により錯体吸光度成分の収束値を推定し、推定された収束値を硬度換算部62により硬度に換算してもよい。試薬の注入に伴う錯体吸光度成分の変化率が小さく、実質的に全ての硬度成分が既に試薬と結合していると考えられる場合には、その時点での錯体吸光度成分の値を硬度に直接換算することで、演算負荷を軽減し、精度を低下させることなく迅速に硬度を導出できる。一方、錯体吸光度成分の変化率が十分に低下しておらず、検水中に試薬と未結合の硬度成分が残留していると考えられる場合には、錯体吸光度成分の収束値を推定することによって硬度を正確に導出できる。
【0034】
給水部7は、新たな検水を供給し、測定済みの検水を押し出して測定セル2内の検水を入れ換える。給水部7は、給水弁71を有する構成とされ得る。
【0035】
攪拌部8は、検水を攪拌することで、測定セル2に注入された試薬を検水中に分散させる。攪拌部8は、例えばマグネチックスターラ等の公知の構成とされ得る。
【0036】
調整部9は、硬度測定装置1において本発明の一実施形態に係る硬度測定方法を自動的に実行するよう、試薬注入部3、吸光度測定部4、吸光度成分算出部5、硬度算出部6、給水部7及び攪拌部8の動作タイミングを制御する。調整部9は、コンピュータ装置に適切なプログラムを実行させることにより実現することができ、薬注制御部33、吸光度演算部45、吸光度成分算出部5及び硬度算出部6と一体であってもよい。
【0037】
図3に、調整部9によって実行される硬度測定方法の手順を示す。この硬度測定方法は、検水導入工程(ステップS01)、ブランク測定工程(ステップS02)、試薬注入工程(ステップS03)、吸光度測定工程(ステップS04)、吸光度成分算出工程(ステップS05)、飽和確認工程(ステップS06)、実測値硬度換算工程(ステップS07)、データ数確認工程(ステップS08)、収束値推定工程(ステップS09)、推定値数確認工程(ステップS10)、収束値確認工程(ステップS11)、及び収束値硬度換算工程(ステップS12)を備える。
【0038】
ステップS01の検水導入工程では、給水部7により測定セル2の中に新たな検水を導入する。
【0039】
ステップS02のブランク測定工程では、吸光度測定部4によって、検水に試薬を注入する前の測定セル2の2波長における透過光強度を測定する。具体的には、第1発光素子41の発光時に第1受光素子43が受光する第1測定光の光量の検出、及び第2発光素子42の発光時に第2受光素子44が受光する第2測定光の光量の検出を順番に行う。これにより、測定セル2の汚れ、検水中の濁質等により自動調整した透過光強度を確認する。
【0040】
ステップS03の試薬注入工程では、試薬注入部3によって、測定セル2の中に予め設定される一定量の試薬を注入する。
【0041】
ステップS04の吸光度測定工程では、吸光度測定部4によって、試薬を注入した後の検水の2波長における透過光強度を測定し、吸光度を算出する。具体的には、第1発光素子41の発光時に第1受光素子43が受光する第1測定光の光量の検出、及び第2発光素子42の発光時に第2受光素子44が受光する第2測定光の光量の検出を順番に行い、吸光度演算部45により、ブランク測定工程で測定した測定セル2の汚れや検水中の濁質等により自動調整した透過光強度との比率により各波長における検水の吸光度を算出する。
【0042】
ステップS05の吸光度成分算出工程では、吸光度成分算出部5によって、2波長の測定光の吸光度に基づいて、試薬と硬度成分とが結合したキレート錯体による吸光度の成分である錯体吸光度成分C及び硬度成分と結合していない試薬(呈色成分)による吸光度の成分である未錯体吸光度成分Bを算出する。
【0043】
ステップS06の飽和確認工程では、試薬の注入に伴う錯体吸光度成分の直近の変化率に基づいて、検水中の硬度成分と試薬とのキレート反応が飽和している否か、つまり実質的に全ての硬度成分が試薬と結合しているか否かを確認する。キレート反応が飽和していると判断される場合はステップS07に進み、キレート反応が飽和していないと判断される場合はステップS08に進む。
【0044】
具体的には、飽和確認工程では、直近の試薬注入後に測定された最新の吸光度における錯体吸光度成分と前回の試薬注入後に測定された吸光度における錯体吸光度成分との変化率が予め設定される飽和閾値以下である状態が予め設定される確認回数以上連続する場合に、キレート反応が飽和していると判断することができる。このため、試薬注入工程、吸光度測定工程及び吸光度成分算出工程は、少なくとも複数回繰り返される。なお、確認回数は1回であってもよい。
【0045】
ステップS07の実測値硬度換算工程では、硬度換算部62によって、実測された吸光度から算出された錯体吸光度成分の最新値を硬度に直接換算する。
【0046】
ステップS08のデータ数確認工程では、実測された吸光度から算出された錯体吸光度成分のデータ数が次の収束値推定工程で収束値を推定するのに必要な数を満たしているか否かを確認する。つまり、データ数確認工程では、試薬注入工程及び吸光度測定工程の実行回数が予め設定される収束計算可能回数以上であるか否かを確認する。錯体吸光度成分のデータ数が必要数以上である場合にはステップS09に進み、錯体吸光度成分のデータ数が必要数に満たない場合はステップS03に戻る。
【0047】
ステップS09の収束値推定工程では、収束値推定部61によって、予め設定される近似式に基づいて、錯体吸光度成分の複数のデータから、試薬の注入回数を増大したときの錯体吸光度成分の収束値を推定する。
【0048】
ステップS10の推定値数確認工程では、収束値推定工程で算出された錯体吸光度成分の収束値の推定値が複数存在するか否か、収束値推定工程の実行回数を確認する。このため、本実施形態において、錯体吸光度成分の収束値の推定は、少なくとも2回行われる。
【0049】
ステップS11の収束値確認工程では、収束値の推定値が確からしい値であるか否かを判定する。具体例として、収束値確認工程では、収束値の最新の推定値と前回の推定値との差が予め設定される収束閾値以下である場合に、両者の差が十分に小さく、推定値が確からしいと判断する。最新の推定値と前回の推定値との差が十分に小さく、推定値が確からしいと考えられる場合には、ステップS12に進み、最新の推定値とその前回の推定値との差が大きい場合には、試薬注入工程、吸光度測定工程、吸光度成分算出工程、及び収束値推定工程を繰り返すために、ステップS03に戻る。
【0050】
ステップS12の収束値硬度換算工程では、硬度換算部62によって、錯体吸光度成分の収束値の最新の推定値を硬度に換算する。
【0051】
このように、硬度測定装置1では、実測した吸光度により算出した錯体吸光度成分から実測値硬度換算工程において算出される硬度、又は錯体吸光度成分の収束値の推定値から収束値硬度換算工程において算出される硬度を、検水の硬度とする。
【0052】
以上の説明からあきらかなように、本発明に係る硬度測定方法は、検水への所定量のキレート型の試薬の注入及び検水の2波長の測定光における吸光度の測定を複数回繰り返す工程と、2波長の測定光の吸光度に基づいて、試薬と硬度成分とが結合したキレート錯体による吸光度の成分である錯体吸光度成分を算出する工程と、試薬の注入に伴う錯体吸光度成分の変化に基づいて、検水の硬度を算出する工程と、を備える。このように、錯体吸光度成分の変化に基づいて硬度を算出することによって、検水の硬度が高い場合であっても、測定セル2のオーバーフローを抑制して比較的正確に硬度を測定できる。
【0053】
以上、本発明の硬度測定方法及び硬度測定装置の好ましい各実施形態につき説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0054】
例えば、本発明に係る硬度測定方法及び硬度測定装置において、錯体吸光度成分の変化に基づいて硬度を算出する具体的な手順は、上述の実施形態に限られず、任意の変形が可能である。例として、本発明に係る硬度測定方法及び硬度測定装置における錯体吸光度成分の収束値の推定は、錯体吸光度成分を試薬の注入回数(注入量)の関数で表すことによって行ってもよい。
【0055】
また、上述の実施形態では、錯体吸光度成分の収束値を複数回推定して、収束値の推定値が確からしいか否かを判定するものとしたが、本発明に係る硬度測定方法及び硬度測定装置では、近似式と錯体吸光度成分のデータとの相関係数等によって収束値の推定値の適否を判定してもよく、収束値の推定値の適否を判定する工程を省略し、1回の収束値の推定によって硬度を算出するようにしてもよい。
【0056】
上述の実施形態では、錯体吸光度成分及び未錯体吸光度成分を、単位濃度のキレート錯体による吸光度及び単位濃度の未錯体による吸光度でそれぞれ正規化した無次元数として説明したが、錯体吸光度成分及び未錯体吸光度成分は、吸光度の次元を有し、硬度に換算する段階で正規化される値、例えば第1波長における吸光度と第2波長における吸光度との組み合わせ等であってもよい。
【0057】
本発明に係る硬度測定装置は、他の測定機能を実現するために、例えば第3の波長の発光素子及び受光素子等を有してもよい。また、硬度測定装置は、給水部を備えず、予め検水を入れたディスポーザブルセルを使用するものであってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 硬度測定装置
2 測定セル
3 試薬注入部
4 吸光度測定部
41 第1発光素子
42 第2発光素子
43 第1受光素子
44 第2受光素子
45 吸光度演算部
5 吸光度成分算出部
6 硬度算出部
61 収束値推定部
62 硬度換算部
7 給水部
8 攪拌部
9 調整部
図1
図2
図3