(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】内燃機関の燃料噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
F02M 51/00 20060101AFI20240326BHJP
F02D 41/20 20060101ALI20240326BHJP
F02D 41/22 20060101ALI20240326BHJP
F02D 41/30 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F02M51/00 A
F02D41/20
F02D41/22
F02D41/30
(21)【出願番号】P 2021070629
(22)【出願日】2021-04-19
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇広
(72)【発明者】
【氏名】植田 大治
(72)【発明者】
【氏名】奥野 佳則
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0063694(US,A1)
【文献】特開2008-144749(JP,A)
【文献】特開2009-52414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00-71/04
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により駆動される駆動部(60)と、その駆動部の駆動に応じて噴孔(33)を開放させる弁体(32)とを有し、前記駆動部の通電時間に応じて噴射量を変化させ、かつ前記弁体のリフト量が所定の中間リフト量になる中間リフト状態とすることで最大噴射率を実現する燃料噴射装置(11)を備える燃料噴射システムに適用され、
1回の噴射機会に前記駆動部における断続的な複数回の通電を行い、その前後する各通電を通じて前記中間リフト状態での最大噴射率の燃料噴射が実施されるように前記燃料噴射装置による燃料噴射を行わせる燃料噴射制御装置であって、
1回の噴射機会に少なくとも2段の多段通電を行う場合において、1段目の通電終了後に噴射率低下が生じたことを判定する異常判定部と、
前記異常判定部により噴射率低下が生じたと判定された場合に、2段目以降の通電時間及び各段の通電時間の間のインターバル時間を維持したまま、1段目の通電時間を延長補正し、その補正後の通電時間により前記多段通電を実施する第1通電制御部と、
前記第1通電制御部により前記多段通電を実施した状態で、その多段通電での過剰噴射量を算出する過剰量算出部と、
前記過剰噴射量に基づいて2段目以降の通電時間を補正し、その補正後の通電時間により前記多段通電を実施する第2通電制御部と、
を備える内燃機関の燃料噴射制御装置(20)。
【請求項2】
前記第1通電制御部は、前記異常判定部により噴射率低下が生じたと判定された場合に、1段目の通電開始タイミングを進角側にシフトすることで当該1段目の通電時間を延長補正する、請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記燃料噴射装置は、前記噴孔から噴出される燃料の圧力を検出する圧力検出部(45)を有しており、
前記異常判定部は、前記圧力検出部により検出される燃料圧力を異常判定パラメータとして取得し、その燃料圧力に基づいて、前記噴射率低下の有無を判定する、請求項1又は2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記異常判定部は、前記多段通電を行う場合において、1段目の通電時における最大噴
射率が増加側へ変化する最大噴射率変化が生じているか否かを判定し、
前記第1通電制御部は、前記異常判定部により噴射率低下が生じかつ前記最大噴射率変化が生じていないと判定された場合に、1段目の通電時間を延長補正して前記多段通電を実施する、請求項1~3のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記第1通電制御部は、前記異常判定部により噴射率低下が生じたと判定された場合において、前記1段目の通電時間を所定時間、延長補正して前記多段通電を行った後に、前記異常判定部により噴射率低下が生じていると再び判定されれば、前記1段目の通電時間を再延長する、請求項1~4のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記第1通電制御部は、前記異常判定部により噴射率低下が生じたと判定された場合において、前記弁体の動作速度の低下の程度に基づいて、前記1段目の通電時間を延長するための補正時間を設定する、請求項1~4のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記異常判定部は、前記多段通電を行う場合において、1段目の通電時における最大噴射率が増加側又は減少側へ変化する最大噴射率変化が生じているか否かを判定し、
前記異常判定部により前記最大噴射率変化が生じていると判定された場合に、前記多段通電の実施を禁止する多段通電禁止部を備える請求項1~6のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項8】
前記異常判定部は、前記多段通電を行う場合において、前記駆動部への通電開始及び通電終了の各タイミングに対する前記弁体のリフト動作の遅延が生じたことを判定し、
前記異常判定部により噴射率低下が生じておらずかつ前記弁体のリフト動作の遅延が生じていると判定された場合に、前記弁体のリフト動作の遅延による噴射期間のずれを補正する噴射期間ずれ補正部を備える請求項1~7のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の燃料噴射制御装置では、燃料噴射装置の通電に伴う弁体のリフトにより噴孔を開放し、燃料噴射を行わせるようにしている。また、燃料噴射装置として、弁体を中間リフト状態として燃料噴射を行う、いわゆるフライングニードル構造の燃料噴射装置が知られている。この燃料噴射装置では、弁体を上限ストッパに当接させないことで、弁体のバウンドに起因する噴射量ばらつきや、個体差及び経時変化による上限ストッパ位置のばらつきに起因する噴射量ばらつきを低減できるといったメリットが得られる。
【0003】
また、特許文献1には、1回の噴射機会において、弁体を中間リフト状態としたままで複数回の通電及び通電遮断を行い、これにより燃料噴射装置の大型化を抑制しつつ、多量の燃料噴射が可能になるとした技術が記載されている。この場合、第1通電が遮断された後、弁体が閉弁位置に到達する前に第2通電が開始されることで、第1通電及び第2通電を通じて燃料噴射が継続されるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2020/0063694号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、1回の噴射機会において、弁体を中間リフト状態としたままで複数回の通電及び通電遮断を行う場合に、例えば、弁体に摺動異常が発生すると、弁体のリフトアップ時及びリフトダウン時の動作速度(リフト速度)が低下する。そして、そのリフト速度の変化に起因して1段目の通電終了以降に一時的な噴射率低下が生じる。このように一時的な噴射率低下が生じた場合には、燃料噴射量が意図せず減量される等の不都合が生じることが懸念される。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、1回の噴射機会に多段の通電を行う場合において燃料噴射制御を適正に実施することができる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における内燃機関の燃料噴射制御装置は、通電により駆動される駆動部と、その駆動部の駆動に応じて噴孔を開放させる弁体とを有し、前記駆動部の通電時間に応じて噴射量を変化させ、かつ前記弁体のリフト量が所定の中間リフト量になる中間リフト状態とすることで最大噴射率を実現する燃料噴射装置を備える燃料噴射システムに適用され、
1回の噴射機会に前記駆動部における断続的な複数回の通電を行い、その前後する各通電を通じて前記中間リフト状態での最大噴射率の燃料噴射が実施されるように前記燃料噴射装置による燃料噴射を行わせる燃料噴射制御装置であって、
1回の噴射機会に少なくとも2段の多段通電を行う場合において、1段目の通電終了後に噴射率低下が生じたことを判定する異常判定部と、
前記異常判定部により噴射率低下が生じたと判定された場合に、2段目以降の通電時間及び各段の通電時間の間のインターバル時間を維持したまま、1段目の通電時間を延長補正し、その補正後の通電時間により前記多段通電を実施する第1通電制御部と、
前記第1通電制御部により前記多段通電を実施した状態で、その多段通電での過剰噴射量を算出する過剰量算出部と、
前記過剰噴射量に基づいて2段目以降の通電時間を補正し、その補正後の通電時間により前記多段通電を実施する第2通電制御部と、
を備える。
【0008】
本発明では、弁体のリフト速度の低下に起因する噴射率低下が生じた場合に、2段目以降の通電時間及び各段の通電時間の間のインターバル時間を維持したまま、1段目の通電時間が延長補正され、その補正後の通電時間により多段通電が実施される。これにより、弁体のリフト速度が低下した状況にあっても1段目の通電終了以降における噴射率低下が抑制される。また、1段目の通電時間が延長補正された状態では、多段通電による燃料噴射での噴射量が過剰となるが、その過剰噴射量に基づいて、2段目以降の通電時間が補正され、その補正後の通電時間により多段通電が実施される。これにより、適正量の燃料噴射が可能となる。その結果、1回の噴射機会に多段通電を行う場合において燃料噴射制御を適正に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】燃料噴射の一連の処理を示すタイムチャート。
【
図4】異常時の燃料噴射の様態を示すタイムチャート。
【
図5】異常時の燃料噴射の様態を示すタイムチャート。
【
図6】異常時の燃料噴射の様態を示すタイムチャート。
【
図9】各異常の判定を行うための処理を示すフローチャート。
【
図10】燃料噴射制御の処理手順を示すフローチャート。
【
図11】別例における通電時間の再延長の様態を示すタイムチャート。
【
図12】別例における燃料圧力の低下の傾きと補正時間との関係を示す図。
【
図13】別例における異常時の燃料噴射の様態を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、例えば車載ディーゼルエンジンを制御対象にしたコモンレール式燃料噴射システム(蓄圧式燃料噴射システム)において、燃料噴射装置による燃料噴射を制御する燃料噴射制御装置を具体化するものとしている。
【0011】
図1において、内燃機関としての4気筒ディーゼルエンジン(以下、エンジン10という)には気筒ごとに燃料噴射装置11が配設され、これら燃料噴射装置11は各気筒共通のコモンレール12(蓄圧配管)に接続されている。コモンレール12には燃料ポンプとしての高圧ポンプ13が接続されており、高圧ポンプ13の駆動に伴い燃料が高圧化され、噴射圧相当の高圧燃料がコモンレール12に連続的に蓄圧される。高圧ポンプ13は、エンジン10の回転に伴い駆動され、エンジン回転に同期して燃料の吸入及び吐出が繰り返し行われる。高圧ポンプ13には、燃料吸入部に電磁駆動式の吸入調量弁(SCV)13aが設けられており、フィードポンプ14によって燃料タンク15から汲み上げられた低圧燃料は吸入調量弁13aを介して高圧ポンプ13の燃料室に吸入される。なお、高圧ポンプ13において、吸入調量弁13aに代えて、吐出調量弁(PCV)を設けてもよく、吐出調量弁を設けた場合、高圧ポンプ13の燃料室内の燃料が吐出調量弁を介してコモンレールへ吐出される。
【0012】
ここで、
図2を参照して、燃料噴射装置11の構造について説明する。なお、
図2では、上下方向が燃料噴射装置11の軸方向を示しており、図の下側が燃料噴射装置11の先端側となっている。
【0013】
燃料噴射装置11において、ボディ31の内部には、固定プレート40が一体に設けられており、その固定プレート40よりも先端側に、弁体としてのノズルニードル32が往復動可能な状態で収容されている。ノズルニードル32はボディ31内を摺動状態で移動する。ノズルニードル32は、軸方向先端側の先端側摺動部32aと軸方向後端側の後端側摺動部32bとを有している。なお、先端側摺動部32aは、ノズルニードル32の周方向に複数に分かれて設けられており、各先端側摺動部32aの間には、燃料を流通させる燃料通路が形成されている。
【0014】
ボディ31の先端部には複数の噴孔33が形成されている。噴孔33は、ノズルニードル32の先端面とボディ31との間に形成されたサック室46に通じており、ノズルニードル32のリフト動作に応じてサック室46を介して噴孔33からの燃料噴射が行われる。この場合、ノズルニードル32の先端部がボディ31のシート部31aに当接することにより噴孔33が閉鎖され、燃料噴射が停止される。また、ノズルニードル32の先端部がシート部31aから離れることにより噴孔33が開放され、燃料噴射が行われる。
【0015】
ボディ31及び固定プレート40には、固定プレート40を貫通するようにして高圧通路34が形成されている。高圧通路34は、ノズルニードル32の周囲部分を介して燃料噴射装置11の先端部、すなわち噴孔33に達するまでの範囲で設けられており、この高圧通路34を介して、コモンレール12から供給される高圧燃料が噴孔33に導かれる。
【0016】
燃料噴射装置11には、高圧通路34内における燃料圧力を検出する圧力センサ45が取り付けられている。高圧通路34内に圧力センサ45を取り付けることで、高圧通路34内における燃料圧力の随時の検出が可能となっている。具体的には、この圧力センサ45の出力により、燃料噴射装置11の噴射動作に伴う燃料圧力の変動を検出することができる。
【0017】
固定プレート40の先端側端面(図の下端面)には円筒状のシリンダ35が取り付けられており、そのシリンダ35内に、ノズルニードル32の上端部(後端側摺動部32b)が摺動可能に挿入されている。ノズルニードル32は、シリンダ35の先端側に設けられたスプリング36により、閉弁方向に付勢されている。シリンダ35内においてノズルニードル32の上方に圧力制御室37が設けられている。圧力制御室37には高圧燃料が充填可能になっており、圧力制御室37に高圧燃料が充填されている状態では、その高圧燃料により、ノズルニードル32の閉弁状態が維持されるようになっている。
【0018】
固定プレート40には、圧力制御室37に高圧燃料を流入させる流入通路41と、圧力制御室37から燃料を流出させる流出通路42とが形成されている。流入通路41は、高圧通路34から分岐して設けられており、その下流部分(すなわち圧力制御室37に通じる部分)には燃料流量を制限するオリフィスが形成されている。また、流出通路42の下流部分(すなわち後述する低圧室64に通じる部分)には燃料流量を制限するオリフィスが形成されている。
【0019】
圧力制御室37内には、円板形状の可動プレート50が配置されている。可動プレート50は、固定プレート40の下端面に対向するようにして配置され、かつ圧力制御室37内を図の上下方向に移動可能となっている。可動プレート50には、流出通路42と圧力制御室37とを連通させる連通路51が形成されている。連通路51の下流部分には燃料流量を制限するオリフィスが形成されている。可動プレート50は、固定プレート40に当接した状態で流入通路41の出口部分を閉鎖するが、連通路51のオリフィスを介して圧力制御室37と流出通路42との連通を維持するものとなっている。圧力制御室37内には、可動プレート50を固定プレート40の側に押し付けるスプリング38が設けられている。
【0020】
可動プレート50は、その外径がシリンダ35の内径よりも小さいため、可動プレート50の外周面とシリンダ35の内周面との間には隙間が形成されている。したがって、可動プレート50が固定プレート40から離れた状態では、可動プレート50の外周の隙間を介して、流入通路41内の高圧燃料が圧力制御室37(詳しくはノズルニードル32の上面側)に流入する。
【0021】
また、ボディ31の内部において固定プレート40よりも反先端側には、駆動部としての電気アクチュエータ60が収容されている。電気アクチュエータ60は、ソレノイドコイル61と、弁部材としての制御弁62と、付勢部材としてのスプリング63とを有している。制御弁62は、ボディ31に設けられた貫通孔31bに挿通された状態で設けられており、貫通孔31bの内周面に接した状態で、低圧室64内を図の上下方向に摺動可能となっている。ソレノイドコイル61の非通電時には、スプリング63の付勢力により制御弁62が固定プレート40に押し当てられた状態で保持され、燃料噴射装置11が閉弁状態で保持される。
【0022】
また、ソレノイドコイル61が通電されると、それに伴い、スプリング63の付勢力に抗して制御弁62が固定プレート40から離間する。そして、制御弁62の移動により、固定プレート40の流出通路42と可動プレート50の連通路51とを介して圧力制御室37内の高圧燃料が低圧室64に流出し、それに伴いノズルニードル32が開弁側に移動する。これにより、噴孔33が開状態となり、燃料噴射が開始される。このとき、ノズルニードル32が閉弁位置からリフトすることで噴射率(すなわち単位時間当たりの噴射量)が徐々に増加する。そして、ニードルリフト量が、シート部31aの開口面積(すなわちシート部31aとノズルニードル32との間の隙間面積)と噴孔33の総断面積とが等しくなる所定リフト量になると噴射率が最大噴射率となり、ニードルリフト量が所定リフト量に到達した以後は、最大噴射率となる状態が維持される。
【0023】
本実施形態の燃料噴射装置11では、ニードルリフト量が、最大噴射率が実現される所定リフト量に到達した時点で、ノズルニードル32が開弁側の上限ストッパ(例えば可動プレート50)に当たっておらず、中間リフト状態(フローティング状態)で燃料噴射が行われる。燃料噴射装置11は、ニードルリフト量が所定の中間リフト量になることで最大噴射率となり、その状態での燃料噴射を実現する、いわゆるフライングニードル構造を有するものとなっている。
【0024】
そして、ソレノイドコイル61の通電が停止され、スプリング63の付勢力により制御弁62が固定プレート40に当接すると、流出通路42が閉鎖され、その状態で流入通路41からの高圧燃料により可動プレート50が押し下げられる。これにより、圧力制御室37に高圧燃料が流入し、ノズルニードル32が閉弁側に押し下げられて噴孔33が閉状態に戻る。
【0025】
なお、電気アクチュエータ60において、ピエゾ素子を有してなる駆動部を用いることも可能である。すなわち、燃料噴射装置11として、ピエゾ駆動式の燃料噴射装置を用いることも可能である。
【0026】
図1に戻り、ECU20は、CPUや各種メモリ(RAM、ROM等)からなる周知のマイコン21(マイクロコンピュータ)を備えた電子制御ユニットであり、ROM内に記憶されている制御プログラムにより各種制御を実施する。マイコン21には、上述した圧力センサ45の検出信号の他、エンジン回転速度を検出する回転速度センサや、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ、車速を検出する車速センサなどの各種センサから検出信号が逐次入力される。そして、マイコン21は、エンジン回転速度やアクセル開度等のエンジン運転情報に基づいて、燃料噴射態様として燃料噴射量及び噴射時期を決定し、それに応じて燃料噴射装置11による燃料噴射を制御する。かかる燃料噴射制御により、各気筒において燃料噴射装置11から燃焼室への燃料噴射が制御される。
【0027】
ECU20において、マイコン21は通電指令信号として通電パルスを生成し、その通電パルスを駆動回路22に出力する。周知のとおり、駆動回路22は、高電圧の高圧電源と低電圧の低圧電源とを有しており、通電パルスの立ち上がりに伴う通電開始当初には、燃料噴射装置11を高速で開弁させるべく駆動部(後述する電気アクチュエータ60)に高電圧を印加し、その後、印加電圧を高電圧から低電圧に切り替えることで、燃料噴射装置11を開弁状態に保持する。
【0028】
フライングニードル構造の燃料噴射装置11を用いて燃料噴射を行う構成では、ノズルニードル32を上限ストッパに当接させないことで、ノズルニードル32のバウンドに起因する噴射量ばらつきや、個体差及び経時変化による上限ストッパ位置のばらつきに起因する噴射量ばらつきを低減できるといったメリットが得られる。ただしその反面、1回の噴射機会において噴射可能な燃料量に制限が生じることが懸念される。この場合、ノズルニードル32を上限ストッパに到達させない制約に起因して噴射期間が制限される一方で、噴射期間を長くしようとすれば、閉弁位置から上限ストッパまでのリフト領域の拡張が必要となり、燃料噴射装置11の大型化を招くことが懸念される。
【0029】
本実施形態では、燃料噴射装置11の1回の噴射機会における通電回数を決定し、その通電が行われる噴射期間において、中間リフト状態での最大噴射率の燃料噴射が実施されるように、各段の通電時間Tqとそれら各通電の間のインターバル時間TINTとを設定する。そして、その設定した各段の通電時間Tqとインターバル時間TINTとに基づいて、電気アクチュエータ60に対する通電を実施することとしている。
【0030】
図3は、燃料噴射装置11のノズルニードル32を、リフト上限Lmax以下の中間リフト量でリフト動作させ、その状態で燃料噴射を行わせる際の挙動を説明するためのタイムチャートである。リフト上限Lmaxは、ノズルニードル32が開弁側の上限ストッパに当たる以前の最大リフト量である。
図3では、前後2段の通電期間で燃料噴射装置11の通電を行う際の挙動を示しており、その前後2段の通電により1回分の燃料噴射が行われるものとなっている。ここでは、1段目の通電パルスによる通電時間をTq1、2段目の通電パルスによる通電時間をTq2、1段目及び2段目の通電パルスの間のインターバル時間をTINTとしている。なお、
図3では、圧力センサ45による検出圧力を燃料圧力として示している。
【0031】
図3において、タイミングt1では、1段目の通電パルスが立ち上げられ、その通電開始に伴い燃料噴射が開始される。このとき、通電開始当初には、燃料噴射装置11のノズルニードル32を高速で開弁させるべく、ソレノイドコイル61への高電圧の印加により高電流の通電が行われ、その後、印加電圧を高電圧から低電圧に切り替えることで、ノズルニードル32を開弁状態に保持する保持電流の通電が行われる。なお、1段目の通電が行われてからノズルニードル32のリフトアップが開始されるまでには遅れ時間Td1がある。
【0032】
タイミングt1での通電開始後には、ノズルニードル32のリフト量(ニードルリフト量)が徐々に増加する。このとき、ニードルリフト量は通電の継続時間に比例して増加変化する。また、ノズルニードル32のリフトに伴い噴射率が上昇するとともに、その噴射率の上昇に伴い燃料圧力が低下する。
【0033】
タイミングt2では、ニードルリフト量が、シート部31aの開口面積と噴孔33の総断面積とが等しくなる所定リフト量に到達し、噴射率が最大噴射率となる。なお
図3では、噴射率が最大噴射率となるニードルリフト量(すなわち、シート部31aの開口面積と噴孔33の総断面積とが等しくなるニードルリフト量)をリフト下限Lminとしている。タイミングt2以降、噴射率が最大噴射率のままとなり、燃料圧力が略一定で維持される。
【0034】
通電開始から所定の通電時間Tq1が経過したタイミングt3では、通電パルスの立ち下げに伴い通電が一旦停止される。これにより、タイミングt3から遅れ時間Td2が経過したタイミングでニードルリフト量が上昇から下降に転じる。このとき、ニードルリフト量は、燃料噴射装置11のリフト上限Lmaxを超えることなく、上昇から下降に転じる。
【0035】
タイミングt3以降において、ニードルリフト量は通電停止の継続時間に比例して減少変化する。ただしこの場合、ニードルリフト量がリフト下限Lminよりも大きいリフト量になっているため、1段目の通電停止後も最大噴射率となる状態が維持される。つまり、リフト下限Lminからリフト上限Lmaxまでの範囲が中間リフト領域Rfであり、ニードルリフト量が中間リフト領域Rf内にあることで、最大噴射率となる状態が維持される。
【0036】
その後、通電停止から所定のインターバル時間TINTが経過したタイミングt4では、2段目の通電パルスが立ち上げられ、タイミングt4から遅れ時間Td3が経過したタイミングでニードルリフト量が再び増加に変化する。このとき、タイミングt4では、ニードルリフト量がリフト下限Lminに到達する以前に、ソレノイドコイル61への通電が再開される。2段目の通電時にも、1段目の通電時と同様に、通電開始当初における高電圧の印加と、その後の低電圧印加への切り替えが行われる。タイミングt4の通電再開後において、ニードルリフト量が再び通電の継続時間に比例して増加変化し、最大噴射率となる状態もそのまま維持される。
【0037】
2段目の通電開始から所定の通電時間Tq2が経過したタイミングt5では、通電パルスの立ち下げに伴い通電が停止され、タイミングt5から遅れ時間Td4が経過したタイミングでニードルリフト量が上昇から下降に転じる。その後、タイミングt6でニードルリフト量がリフト下限Lminを下回ると、噴射率が低下し、噴射率の低下に伴い燃料圧力が上昇する。さらにタイミングt7でニードルリフト量がゼロとなり、噴射率がゼロとなる。これにより、1回分の燃料噴射が終了される。噴射率がゼロとなるのに伴い燃料圧力が略一定となる。
【0038】
上記1回分の燃料噴射に際し、1段目の通電開始に伴い燃料噴射が開始されて噴射率が最大噴射率に到達した以後に、2段目の通電終了に伴い噴射率が低下し始めるまでの期間(t2~t6の期間)では、ニードルリフト量がLmin~Lmaxの中間リフト領域Rf内で保持され、その結果として、同期間において噴射率が最大噴射率で保持される。これにより、燃料噴射装置11において、ノズルニードル32の中間リフト状態を保持したままでの噴射期間の延長を可能にし、所望量への燃料噴射量の増量を実現できるものとなっている。
【0039】
上記のとおり、多段通電による燃料噴射が実施される際にはニードルリフトに追従して燃料圧力が変化し、それは噴射率の変化に相応するものとなっている。この場合、燃料圧力の低下の挙動により燃料噴射状態を把握することができる。例えば圧力パラメータとして、燃料圧力が低下し始める圧力変化点P1や、圧力低下時の近似直線の傾きPa、圧力低下幅ΔP、燃料圧力が上昇し始める圧力変化点P2、圧力上昇時の近似直線の傾きPbを取得することにより、噴射率の変化を推測することができ、ひいては燃料噴射量の過不足を把握することができる。ECU20は、上記の圧力パラメータに基づいて、燃料噴射量の増量補正又は減量補正を実施する。
【0040】
なお、図示は略すが、1回分の燃料噴射を、前後3段又はそれよりも多段の通電により実施することも可能である。この場合にも上記同様、各段の通電において、ニードルリフト量が中間リフト領域Rf内で保持され、その結果として、最大噴射率での燃料噴射が継続的に実施されるものであればよい。
【0041】
ところで、上記のように1回の噴射機会において多段の通電を行う際に、燃料噴射装置11の各部位の不良によりノズルニードル32のリフト動作が異常となると、その異常発生に伴い意図せず燃料噴射量が増量又は減量されることが生じうる。例えば、燃料噴射装置11において、以下の3つの異常が生じることが考えられる。
(1)ノズルニードル32の摺動異常
(2)噴孔拡大異常
(3)制御弁62の応答性異常
本実施形態では、上記のいずれかの異常が生じた場合に、その異常に応じて多段通電に関する対応を適宜行うこととしており、以下には、各異常の形態とその対応とについて詳しく説明する。
図4は、ノズルニードル32の摺動異常が発生した場合における燃料噴射の様態を示すタイムチャートであり、
図5は、噴孔拡大異常が発生した場合における燃料噴射の様態を示すタイムチャートであり、
図6は、制御弁62の応答性異常が発生した場合における燃料噴射の様態を示すタイムチャートである。これら各図では、正常時の挙動である
図3の挙動との違いを示しており、正常時におけるノズルニードル量、噴射率及び燃料圧力の推移を実線で示し、異常発生時におけるノズルニードル量、噴射率及び燃料圧力の推移を破線で示している。
【0042】
まずは、(1)のノズルニードル32の摺動異常について説明する。ノズルニードル32の摺動部32a,32bにおいて燃料デポジットが堆積すると、それに起因してノズルニードル32の摺動異常が発生し、ノズルニードル32のリフトアップ時及びリフトダウン時の動作速度が正常時よりも低下することが考えられる。
【0043】
この場合、
図4に示すように、ノズルニードル32のリフトアップ時の動作速度が低下することにより、1段目通電の開始後において噴射率がゼロから上昇する際の傾きが正常時に比べて緩やかになり、燃料圧力の低下の傾きも緩やかになる。また、リフトアップ時の動作速度の低下により、1段目通電の終了時(タイミングt3)におけるニードルリフト量が正常時よりも小さくなり、その通電終了後に、噴射率が最大噴射率よりも低下する。つまり、1段目の通電終了後において、ニードルリフト量がリフト下限Lminを下回り、一時的に噴射率の低下が発生する。この噴射率の低下により一時的な燃料圧力の上昇が発生する。
【0044】
また、2段目通電の開始後には、1段目通電と同様に通電終了時のニードルリフト量が正常時よりも小さくなるため、その通電終了後において、正常時よりも早いタイミングでニードルリフト量がリフト下限Lminを下回る。なお、2段目通電の終了後において、ノズルニードル32のリフトダウン時の動作速度が低下しているために、噴射率低下の傾きが正常時に比べて緩やかになり、燃料圧力の上昇の傾きも緩やかになる。
【0045】
上記のように、ノズルニードル32の摺動異常が生じた場合には、噴射率が正常時とは異なる態様で変化し、燃料噴射量が意図せず減量される。
【0046】
ECU20は、1段目の通電終了後における噴射率低下の有無により、ノズルニードル32の摺動異常が生じた状態であることを判定する。具体的には、ECU20は、1段目の通電終了後の通電休止期間での燃料圧力の上昇変化に基づいて、1段目の通電終了後に噴射率低下が生じているか否かを判定し、噴射率低下が生じている場合に、ノズルニードル32の摺動異常が生じた状態である旨を判定する。噴射率低下の有無は、1段目通電の開始後に燃料圧力が略一定値に保持されている場合に、所定以上の圧力上昇変化が生じたか否かにより判定されるとよい。また、噴射率低下の有無の判定は、燃料圧力の微分値を用いて、燃料圧力の微分値が所定値以上になったことに基づいて判定してもよい。
【0047】
また、ノズルニードル32の摺動異常では、1段目の通電実施時における圧力変化の傾きが正常時よりも小さくなるものの、燃料圧力の低下幅ΔPは正常時と略同じとなる。そこで、1段目の通電終了後における噴射率低下、すなわち通電休止期間での燃料圧力の上昇変化が生じ、かつ1段目通電による圧力低下幅ΔP(通電開始前の圧力からの低下幅)が正常時と略同じであることに基づいて、ノズルニードル32の摺動異常が生じた状態であることを判定するとよい。
【0048】
なお、ノズルニードル32の摺動異常が生じていることの判定条件として、燃料圧力波形における圧力低下時の近似直線の傾きPaが正常時よりも小さいことを追加してもよい。
【0049】
次に、(2)の噴孔拡大異常について説明する。燃料中の異物による流体研磨作用等に起因して噴孔33の拡大が生じると、正常時と比べて、ノズルニードル32のリフトアップ時の動作速度の低下及びリフトダウン時の動作速度の上昇と、最大噴射率での燃料量の増量とが生じることが考えられる。ノズルニードル32のリフトアップ時の動作速度の低下とリフトダウン時の動作速度の上昇とが生じる原理について説明する。噴孔拡大が生じると、ノズルニードル32のリフトアップ開始後において噴孔拡大前(すなわち正常時)よりもサック室46内の圧力が低下する。そのため、ノズルニードル32に対するリフトアップ側(開弁側)への力が小さくなり、ノズルニードル32のリフトアップ時の動作速度が低下する。また、ノズルニードル32のリフトダウン時には、サック室46内の圧力低下によりノズルニードル32に対するリフトダウン側(閉弁側)への力が大きくなるため、リフトダウン時の動作速度が上昇する。
【0050】
この場合、
図5に示すように、ノズルニードル32のリフトアップ時の動作速度が低下することにより、噴射率がゼロから上昇する際の傾きが正常時に比べて緩やかになり、燃料圧力の低下の傾きも緩やかになる。また、ノズルニードル32の摺動異常が生じた場合と同様に、リフトアップ時の動作速度の低下により、1段目通電の終了時におけるニードルリフト量が正常時よりも小さくなり、その通電終了後に噴射率が最大噴射率よりも低下する。この噴射率の低下により一時的な燃料圧力の上昇が発生する。ただし、噴孔拡大が生じている場合には、ノズルニードル32のリフトダウン時の動作速度が正常時よりも上昇するため、ノズルニードル32の摺動異常の場合に比べて、噴射率の低下の度合が大きくなっている。
【0051】
また、噴孔拡大により、噴孔33を通過する単位時間当たりの燃料流量(噴孔流量)が増え、最大噴射率が正常時よりも上昇する。そのため、最大噴射率での燃料圧力が正常時よりも低下するようになっている。
【0052】
図5では、1段目通電の終了後における噴射率低下の度合が大きいために、2段目通電の開始後に噴射率が最大噴射率まで到達せず、2段目通電の終了後に、正常時よりも早いタイミングで噴射率がゼロまで低下する。
【0053】
上記のように、噴孔拡大異常が生じた場合には、噴射率が正常時とは異なる態様で変化し、燃料噴射量が意図せず減量される。
【0054】
ECU20は、1段目の通電終了後における噴射率低下が生じており、かつ1段目通電での最大噴射率が正常時よりも大きいことに基づいて、噴孔拡大異常が生じた状態であることを判定する。この場合、1段目の通電終了後における燃料圧力の上昇変化に基づいて、噴射率低下が生じていることが判定されるとよい。また、1段目の通電実施時における圧力低下幅ΔPが所定の閾値よりも大きいこと、すなわち正常時よりも圧力低下幅ΔPが大きいことに基づいて、1段目通電での最大噴射率が正常時よりも大きいことが判定されるとよい。
【0055】
なお、(1)のノズルニードル32の摺動異常、及び(2)の噴孔拡大異常では、いずれも1段目の通電終了後において噴射率低下が生じる。そのため、噴射率低下が生じる場合には、上記(1)、(2)のいずれの異常に起因するものであるかを判定する必要がある。この点、本実施形態では、上記(1)、(2)の各異常において1段目の通電実施時の最大噴射率が異なることに基づいて、噴射率低下が上記(1)、(2)のいずれの異常に起因するものであるかを判定するようにしている。具体的には、1段目の通電終了後における噴射率低下が生じている場合において、1段目通電による圧力低下幅ΔPが正常時と略同じであれば、噴孔流量の増加による最大噴射率の増加が生じておらず、ノズルニードル32の摺動異常が生じた状態であると判定する。また、1段目通電による圧力低下幅ΔPが正常時よりも大きければ、噴孔流量の増加による最大噴射率の増加が生じており、噴孔拡大異常が生じた状態であると判定する。
【0056】
次に、(3)の制御弁62の応答性異常について説明する。通電パルスに対する制御弁62の開動作及び閉動作の応答性が低下すると、正常時と比べて、ノズルニードル32のリフト動作の遅延が生じる。具体的には、例えば制御弁62において燃料デポジットの堆積に起因して摺動異常が発生すると、通電パルスに対する制御弁62の開動作及び閉動作の応答性が低下し、圧力制御室37内の高圧燃料の流出及び流入に遅れが生じる。そのため、ノズルニードル32のリフトアップ及びリフトダウンの開始タイミングがそれぞれ遅延する。なお、制御弁62の応答性異常の原因としては、ソレノイドコイル61の電磁力が低下する等の電気的要因も考えられる。
【0057】
この場合、
図6に示すように、正常時に比べて遅れ時間Td1~Td4が長くなる。遅れ時間Td1が長くなりリフトアップの開始タイミングが遅延することにより、1段目の通電開始後において、正常時よりも、噴射率の上昇開始のタイミングが遅延するとともに、その遅延に伴い燃料圧力の低下開始のタイミングが遅延する。また、遅れ時間Td4が長くなりリフトダウンの開始タイミングが遅延することにより、2段目の通電終了後において、正常時よりも、噴射率の低下開始のタイミングが遅延するとともに、その遅延に伴い燃料圧力の上昇開始のタイミングが遅延する。つまり、ノズルニードル32のリフト動作の遅延が生じている。ただし、ノズルニードル32のリフトアップ時及びリフトダウン時の動作速度は正常時と略同じとなっている。そして、ノズルニードル32のリフト動作の遅延により、通電期間に対する噴射期間のずれが生じている。また、制御弁62の応答性異常が生じる場合には、他の異常((1)、(2)の異常)とは異なり、1段目の通電終了後において噴射率低下が生じないものとなっている。
【0058】
ECU20は、1段目の通電終了後における噴射率低下が生じておらず、かつノズルニードル32のリフト動作の遅延が生じていることに基づいて、制御弁62の応答性異常が生じた状態であることを判定する。ノズルニードル32のリフト動作の遅延が生じていることは、例えば、燃料圧力波形において燃料圧力が低下し始める圧力変化点P1が正常時よりも遅れていることにより判定されるとよい。また、ノズルニードル32のリフト動作の遅延が生じていることを、燃料圧力波形において燃料圧力が低下し始める圧力変化点P1と、燃料圧力が圧力低下前の圧力に復帰する圧力変化点P3とが正常時よりも遅れていることにより判定することも可能である。なお、ノズルニードル32のリフト動作の遅延が生じていることの判定条件として、圧力低下時の近似直線の傾きPaが正常時と略同じであることを追加してもよい。
【0059】
上記(1)~(3)の各異常が生じた場合のECU20による対応について説明する。まずは、(1)のノズルニードル32の摺動異常が生じた場合の対応を説明する。
【0060】
ECU20は、ノズルニードル32の摺動異常により噴射率低下が生じていると判定した場合に、その摺動異常により生じる燃料噴射量のずれを補正する。本実施形態では、ノズルニードル32の摺動異常による噴射率低下が生じた場合に、その噴射率低下の相当分の噴射量を求めることが困難であることを鑑み、前後2回の通電補正を行うこととしている。
【0061】
この場合、ECU20は、1段目の通電終了後における噴射率低下を解消すべく、1段目の通電開始タイミングを進角側にシフトすることで1段目の通電時間を延長補正し、その補正後の通電時間により多段通電を実施する(第1通電補正)。また、ECU20は、1段目通電の時間延長による燃料噴射量の過剰増量分を減量すべく、2段目以降の通電時間を補正し、その補正後の通電時間により多段通電を実施する(第2通電補正)。
【0062】
この前後2回の通電補正を
図7及び
図8を用いてより具体的に説明する。
図7は、第1通電補正の様態を示すタイムチャートである。
図8は、第1通電補正後に実施される第2通電補正の様態を示すタイムチャートである。これら各図では、通電補正後の挙動を破線で示すとともに、比較のために正常時の挙動を実線で示している。
【0063】
図7に示すように、第1通電補正では、1段目の通電開始タイミングを進角側にシフトしてタイミングt0とし、これにより、ニードルリフトの開始タイミングを早めている。具体的には、ECU20は、1段目の通電開始タイミングを所定時間進角させることで、1段目の通電時間Tq1を延長補正する。延長補正後の1段目の通電時間は「Tq11」であり、その通電時間Tq11による1段目通電と、変更無しの通電時間Tq2による2段目通電とを実施する。インターバル時間TINTも変更無しである。この場合、1段目の通電開始タイミングが進角側にシフトされることにより、ノズルニードル32のリフトアップ速度が低下した状況にあってもニードルリフト量がリフト上限Lmax側に引き上げられ、1段目の通電終了後においてニードルリフト量がリフト下限Lminを下回ることが抑制される。これにより、1段目の通電終了後における噴射率低下が抑制される。
【0064】
1段目の通電開始タイミングを進角させる所定時間は、1段目の通電終了後における噴射率低下を回避できる時間であればよく、例えばインターバル時間TINTであるとよい。又は、適合等によりあらかじめ定められた時間であってもよい。
【0065】
1段目の通電時間Tq1が延長補正された状態では、1段目の通電終了後における噴射率低下が解消されるものの、2段通電による燃料噴射での噴射量が過剰となる。
図7の噴射率波形においてハッチング部分が噴射量の過剰分に相当する。そこで、燃料圧力波形に基づいて過剰噴射量を算出するとともに、その過剰噴射量に基づいて、2段目以降の通電時間を補正し、その補正後の通電時間により多段通電を実施する。
【0066】
この場合、ECU20は、燃料圧力波形において燃料圧力が低下し始める圧力変化点P1と、圧力低下時の近似直線の傾きPaとに基づいて、燃料噴射開始当初における過剰噴射量を算出するとともに、燃料圧力が上昇し始める圧力変化点P2と、圧力上昇時の近似直線の傾きPbとに基づいて、燃料噴射終了直前における過剰噴射量を算出する。より詳しくは、ECU20は、正常時の1段目通電開始による圧力変化点を基準変化点PX1、圧力低下の傾きを基準傾きPY1とする場合に、圧力変化点P1及び基準変化点PX1の差と、傾きPa及び基準傾きPY1の差とに基づいて、燃料噴射開始当初における過剰噴射量を算出する。また、正常時の2段目通電終了による圧力変化点を基準変化点PX2、圧力上昇の傾きを基準傾きPY2とする場合に、圧力変化点P2及び基準変化点PX2の差と、傾きPb及び基準傾きPY2の差とに基づいて、燃料噴射終了直前における過剰噴射量を算出する。ただし、過剰噴射量の減量補正の手法は任意であり、圧力パラメータとして変化点P1,P2、近似直線の傾きPa,Pb以外のパラメータを用いることも可能である。
【0067】
そして、ECU20は、第2通電補正として、燃料噴射開始当初及び燃料噴射終了直前の過剰噴射量に基づいて、2段目の通電時間Tq2の短縮補正を実施する。
【0068】
図8に示すように、第2通電補正では、過剰噴射量に基づいて2段目の通電時間Tq2が短縮補正されている。短縮補正後の2段目の通電時間は「Tq21」である。この場合、延長補正された1段目の通電時間Tq11による1段目通電と、短縮補正された2段目の通電時間Tq21とによる多段通電が実施される。これにより、燃料噴射量が適正量に合わせ込まれる。
【0069】
次に、(2)の噴孔拡大異常が生じた場合の対応を説明する。
【0070】
噴孔拡大異常が生じている場合には、ノズルニードル32のリフトダウン時の動作速度が正常時よりも上昇しており、ノズルニードル32の摺動異常が生じている場合に比べて、1段目の通電終了後における噴射率低下の程度が大きくなる。そのため、仮にノズルニードル32の摺動異常の場合と同様に1段目の通電時間Tq1を延長補正しても噴射率低下が解消されないことが考えられる。そこで本実施形態では、噴孔拡大異常が生じた状態であることが判定された場合に、多段通電の実施を禁止することとしている。
【0071】
次に、(3)の制御弁62の応答性異常が生じた場合の対応を説明する。
【0072】
ECU20は、制御弁62の応答性異常が生じた状態であると判定した場合に、その応答性異常により生じる噴射期間のずれを補正する。具体的には、ECU20は、正常時の1段目通電開始による圧力変化点を基準変化点PX1とする場合に、燃料圧力波形において燃料圧力が低下し始める圧力変化点P1と基準変化点PX1との差により、噴射期間のずれを算出する。そして、ECU20は、噴射期間のずれに基づいて、1段目及び2段目の各通電の期間をそれぞれ進角補正する。
【0073】
図9は、燃料噴射装置11における異常判定の手順を示すフローチャートである。この処理は、ECU20のマイコン21により所定周期で繰り返し実施される。
【0074】
ステップS11では、多段通電の実施中であるか否かを判定し、多段通電の実施中であればステップS12に進む。ステップS12では、1段目の通電終了後における燃料圧力変化の有無に基づいて、1段目の通電終了後における噴射率低下が生じているか否かを判定する。そして、噴射率低下が生じていればステップS13に進み、噴射率低下が生じていなければステップS16に進む。
【0075】
ステップS13では、1段目の通電実施時における圧力低下幅ΔPに基づいて、1段目の通電時における最大噴射率が増加側へ変化する最大噴射率変化が生じているか否かを判定する。そして、最大噴射率変化が生じていなければ、ステップS14に進む。ステップS14では、ノズルニードル32の摺動異常が生じているとみなし、第1異常フラグF1に1をセットする。また、最大噴射率変化が生じていれば、ステップS15に進む。ステップS15では、噴孔拡大異常が生じているとみなし、第2異常フラグF2に1をセットする。
【0076】
ステップS16では、1段目の通電開始後における燃料圧力の変化点(圧力変化点P1)に基づいて、ノズルニードル32のリフト動作の遅延が生じているか否かを判定する。ノズルニードル32のリフト動作の遅延が生じていれば、ステップS17に進む。ステップS17では、制御弁62の応答性異常が生じているとみなし、第3異常フラグF3に1をセットする。ステップS14、S15,S17でそれぞれ異常発生の旨が判定された場合には、異常警告灯の点灯などにより異常発生の旨がユーザに報知されるとよい。
【0077】
なお、ステップS12,S16が共に否定された場合には、燃料噴射装置11において異常が生じていないとして本処理を終了する。
【0078】
図10は、燃料噴射装置11の通電駆動により実施される燃料噴射制御の処理手順を示すフローチャートであり、本処理はECU20のマイコン21により所定周期で繰り返し実施される。
【0079】
図10において、ステップS21では、エンジン回転速度や負荷等のエンジン運転状態に基づいて要求噴射量Qr及び要求圧力(要求レール圧)を算出する。続くステップS22では、通電時間Trと、要求噴射量Qr及び要求圧力との関係を予め定めたマップを用いて通電時間Trを算出する。
【0080】
その後、ステップS23では、第2異常フラグF2が1であるか否か、すなわち噴孔拡大異常が生じているか否かを判定する。また、ステップS24では、要求噴射量Qrが所定の閾値Th1未満であるか否かにより、1段通電を実施するか多段通電を実施するかを判定する。閾値Th1は、今回の燃料噴射を1段通電モードで実施するか、2段以上の多段通電モードで実施するかを切り替える閾値である。
【0081】
ステップS23が否定され、かつステップS24が肯定された場合には、ステップS25に進む。また、ステップS23が肯定された場合には、ステップS24を読み飛ばしてステップS25に進む。ステップS25では、今回、1段通電モードでの燃料噴射を実施する旨を決定する。これに対して、ステップS23,S24が共に否定された場合には、ステップS31に進む。ステップS31では、今回、多段通電モードでの燃料噴射を実施する旨を決定する。
【0082】
ここで、第2異常フラグF2が0である場合には、要求噴射量Qrに基づいて、1段通電を実施するか多段通電を実施するかが決定される。これに対し、第2異常フラグF2が1である場合には、要求噴射量Qrに関係なく、1段通電を実施する旨が決定される。すなわち、第2異常フラグF2が1である場合には、多段噴射の実施が禁止されるようになっている。
【0083】
1段通電モードでの燃料噴射を実施する場合、ステップS26では、ステップS22で算出した通電時間Trに基づいて1段通電の通電パルスを生成し、続くステップS27では、その通電パルスを出力する。この場合、マイコン21から駆動回路22に1段の通電パルスが出力され、駆動回路22において、通電パルスの立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングに応じて燃料噴射装置11の通電と通電遮断とが行われる。
【0084】
また、多段通電モードでの燃料噴射を実施する場合、ステップS32では、要求噴射量Qrに応じて多段通電の段数を決定する。このとき、上述した閾値Th1よりも大きい1又は複数の閾値を定めておき、要求噴射量Qrと各閾値との比較の結果に応じて多段通電の段数を決定する。例えば、閾値Th1に加え、閾値Th2,Th3を定めておき(Th1<Th2<Th3)、要求噴射量QrがTh1~Th2の範囲に入っていれば2段通電モードとし、要求噴射量QrがTh2~Th3の範囲に入っていれば3段通電モードとし、要求噴射量QrがTh3以上であれば4段通電モードとする。なお、多段通電の段数は4以上であってもよい。
【0085】
各閾値Th1~Th3は、各段の通電モードでの燃料噴射を実施する場合の各々の最大噴射量である。つまり、要求噴射量Qrが閾値Th1以上となる場合には、要求噴射量Qrが1段通電モードでの最大噴射量を超えるとして、2段又はそれ以上の段数の通電モードとする。また、要求噴射量Qrが閾値Th2以上となる場合には、要求噴射量Qrが2段通電モードでの最大噴射量を超えるとして、3段又はそれ以上の段数の通電モードとする。
【0086】
その後、ステップS33では、ステップS22で算出した通電時間Trに基づいて、多段通電での各段の通電時間Tqとインターバル時間TINTとを設定する。2段通電モードでは、2つの通電時間Tq1,Tq2と1つのインターバル時間TINTとを設定する。3段通電モードでは、3つの通電時間Tq1,Tq2,Tq3と2つのインターバル時間TINT1,TINT2とを設定する。4段以上の通電モードについても同様である。
【0087】
その後、ステップS34では、第1異常フラグF1が1であるか否か、すなわちノズルニードル32の摺動異常が生じているか否かを判定する。そして、第1異常フラグF1が1であれば、1段目の通電時間Tq1を延長補正する第1通電補正と、1段目通電の時間延長による燃料噴射量の過剰増量分を減量するための2段目以降の通電時間を短縮補正する第2通電補正とを実施する。
【0088】
詳しくは、第1異常フラグF1が1であれば、ステップS35に進み、第1通電補正の実施前であるか否かを判定する。そして、第1通電補正の実施前であれば、ステップS36に進み、1段目の通電時間の延長補正を実施する。また、第1通電補正の実施後であれば、ステップS37に進み、2段目以降の通電時間の短縮補正を実施する。なお、多段通電として3段通電が実施される場合には、3段目の通電時間(最終段の通電時間)が短縮補正されるとよい。
【0089】
また、第1異常フラグF1が0である場合には、ステップS38に進み、第3異常フラグF3が1であるか否か、すなわち制御弁62の応答性異常が生じているか否かを判定する。そして、第2異常フラグF2が1であれば、ステップS39に進む。ステップS39では、制御弁62の応答性異常に起因して生じる噴射期間のずれ補正を実施する。
【0090】
なお、第1異常フラグF1及び第2異常フラグF2がいずれも0であれば、ステップS34,S38を否定して、そのままステップS40に進む。
【0091】
ステップS40では、都度の通電モードに応じて複数の通電パルスを生成する。このとき、各段の通電時間とインターバル時間とに基づいて、段数分の通電パルスを生成する。その後、ステップS41では、その通電パルスを出力する。この場合、マイコン21から駆動回路22に、都度の段数分の通電パルスが出力され、駆動回路22において、各段に通電パルスの立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングに応じて燃料噴射装置11の通電と通電遮断とが行われる。
【0092】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0093】
多段通電を行う際において、ノズルニードル32の摺動異常が生じると、ノズルニードル32のリフトアップ時及びリフトダウン時の動作速度(リフト速度)が低下し、そのリフト速度の低下に起因して、1段目の通電終了後において噴射率低下が生じる。このように噴射率低下が生じた場合には、その噴射率低下の相当分の噴射量を増加する必要があるが、中間段階での噴射量の低下分を求めることは困難である。
【0094】
この点、本実施形態では、ノズルニードル32のリフト速度の低下に起因する噴射率低下が生じた場合に、2段目以降の通電時間及び各段の通電時間の間のインターバル時間を維持したまま、1段目の通電開始タイミングを進角側にシフトすることで1段目の通電時間が延長補正され、その補正後の通電時間により多段通電が実施される。これにより、ノズルニードル32のリフト速度が低下した状況にあっても1段目の通電終了以降における噴射率低下が抑制される。また、1段目の通電時間が延長補正された状態では、多段通電による燃料噴射での噴射量が過剰となるが、その過剰噴射量に基づいて、2段目以降の通電時間が補正され、その補正後の通電時間により多段通電が実施される。これにより、適正量の燃料噴射が可能となる。その結果、1回の噴射機会に多段通電を行う場合において燃料噴射制御を適正に実施することができる。
【0095】
噴射率は燃料圧力と相関性が高く、燃料噴射装置11の異常により噴射率の低下が生じると、それに伴い燃料圧力が上昇する。そのため、燃料圧力に基づいて、噴射率低下の有無を判定することができる。
【0096】
1段目の通電終了後における噴射率低下は、ノズルニードル32の摺動異常が生じている場合と、噴孔拡大異常が生じている場合とにおいて各々発生する。ただし、ノズルニードル32の摺動異常が生じている場合には、中間時点での噴射率低下の程度が比較的小さいために第1通電補正による対応が可能であるのに対し、噴孔拡大異常が生じている場合には、中間時点での噴射率低下の程度が比較的大きいために第1通電補正による対応が困難になると考えられる。
【0097】
この点、1段目の通電終了後における噴射率低下が生じ、かつ1段目の通電時における最大噴射率が増加側へ変化する最大噴射率変化が生じていないと判定された場合に、1段目の通電時間Tq1を延長補正して多段通電を実施するようにした。これにより、1段目の通電終了後における噴射率低下が、噴孔拡大異常に起因するものでなく、ノズルニードル32の摺動異常に起因するものであることを適正に把握でき、第1通電補正を含む燃料噴射補正を適正に実施することができる。
【0098】
燃料噴射装置11において、噴孔拡大異常により正常時よりも噴孔流量が増加すると、1段目の通電終了後に噴射率低下が生じる。この状況では、ノズルニードル32のリフトダウン時の動作速度が正常時よりも上昇しており、ノズルニードル32の摺動異常が生じている場合に比べて、中間時点での噴射率低下の程度が大きくなる。そのため、ノズルニードル32の摺動異常の場合と同様に、第1通電補正により1段目の通電時間を延長補正しても噴射率の低下が解消されないことが考えられる。この点、多段通電の実施を禁止したため、1段目の通電以降に噴射率低下の発生することを避けることができる。
【0099】
燃料噴射装置11において、制御弁62の応答性異常が発生すると、正常時よりも、通電パルスに対するノズルニードル32のリフト動作が遅延し、その遅延により噴射期間のずれが生じる。この点、1段目の通電終了後における噴射率低下が生じておらず、かつノズルニードル32のリフト動作の遅延が生じていると判定された場合に、そのリフト動作の遅延による噴射期間のずれを補正するようにした。これにより、制御弁62の応答性異常に起因する噴射期間のずれを抑制することができ、適切なタイミングで燃料噴射を実施することができる。
【0100】
燃料噴射装置11による燃料噴射に際し、1回の噴射機会における通電回数を決定し、その通電が行われる噴射期間において、中間リフト状態での最大噴射率の燃料噴射を実施するように、各段の通電時間Tqとインターバル時間TINTとを設定するとともに、それら各段の通電時間Tqとインターバル時間TINTとに基づいて各段の通電を実施するようにした。この場合、1回の燃料噴射に対する複数の分割通電によりニードルリフト量の増減を繰り返し行わせることで、燃料噴射装置11の中間リフト領域Rfを拡張することなく、ノズルニードル32を所望の中間リフト状態に維持することができる。また、各段の通電期間において、最大噴射率での噴射を継続して実施することができ、燃料噴射量に線形性を持たせ、高精度な燃料噴射を実施することができる。
【0101】
各段の通電時において、駆動回路22が高電圧の印加と低電圧の印加とをそれぞれ実施する構成にした。これにより、2段目以降の通電開始時においてノズルニードル32がリフトダウンからリフトアップに転じる際のノズルニードル32の応答遅れを抑制できる。そのため、通電時間に対する噴射量応答の線形性を向上させる上で好適な構成を実現できる。
【0102】
(他の実施形態)
上記実施形態を例えば次のように変更してもよい。
【0103】
・ノズルニードル32の摺動異常が生じている場合において、第1通電補正による補正後の通電時間により多段通電を行った後に、噴射率低下が解消されているか否かを判定し、噴射率低下が解消されていなければ、すなわち噴射率低下が生じていると再び判定されれば、1段目の通電時間を再延長する構成としてもよい。
図11は、通電時間の再延長の様態を具体的に示すタイムチャートである。この場合、1段目の通電終了後に噴射率低下が生じていれば、
図11(a)に示す1段目の通電時間Tq1が、
図11(b)に示す通電時間に補正される。また、その補正後の通電時間による多段通電の実施後に、噴射率低下が生じていると再び判定されれば、
図11(b)に示す通電時間が、
図11(c)に示す通電時間に再延長される。この再延長は、噴射率低下が生じなくなるまで繰り返されるとよい。これにより、第1通電補正において、1段目の通電時間の延長補正を適正に実施することができる。
【0104】
・ノズルニードル32の摺動異常が生じている場合の第1通電補正において、1段目の通電時間を延長する補正時間を、ノズルニードル32の動作速度の低下の程度に基づいて設定する構成にしてもよい。この場合、ノズルニードル32の動作速度の低下の程度は、ノズルニードル32のリフトアップ時の燃料圧力の低下の傾き(
図4の傾きPa)から推定され、燃料圧力の低下の傾きが小さいほど、ノズルニードル32の動作速度の低下が大きいと推定される。そして、
図12に示す関係を用いて、燃料圧力の低下の傾きが小さいほど、つまりノズルニードル32の動作速度の低下の程度が大きいほど、補正時間が長く設定されるとよい。
【0105】
ノズルニードル32の動作速度の低下の程度は、動作速度の低下の要因となっているノズルニードル32の摺動異常の程度によって異なり、ノズルニードル32の摺動異常の程度が大きいほど動作速度の低下の程度が大きくなると考えられる。ノズルニードル32の動作速度の低下の程度に応じて1段目の通電時間を延長する補正時間を設定するようにしたため、ノズルニードル32の摺動異常の程度に応じて適正に1段目の補正時間を設定することができる。
【0106】
・上記実施形態では、ノズルニードル32の摺動異常が生じている場合において、1段目の噴射終了後における噴射率低下を抑制すべく、第1通電補正として、1段目の通電開始タイミングを進角側にシフトすることで1段目の通電時間を延長補正する構成としたが、これを変更してもよい。例えば、第1通電補正として、2段目以降の通電時間及び各段の通電時間の間のインターバル時間を維持したまま、1段目の通電終了タイミングを遅角側にシフトすることで1段目の通電時間を延長補正する構成とする。要するに、第1通電補正は、2段目以降の通電時間及び各段の通電時間の間のインターバル時間を維持したまま、1段目の通電時間を延長補正するものであればよい。
【0107】
・上記実施形態では、ノズルニードル32の摺動異常、噴孔拡大異常、及び制御弁62の応答性異常の3つの異常のうちいずれに該当するかを判定し、判定された異常に応じて適宜対応を行っているが、これを変更してもよい。例えば、前述の3つの異常のうちいずれか2つの異常についてのみ判定対象として、判定された異常に応じて適宜対応を行ってもよい。又は、ノズルニードル32の摺動異常のみを判定対象として、その異常に対する対応を行ってもよい。
【0108】
・ノズルニードル32の摺動異常、噴孔拡大異常、及び制御弁62の応答性異常に加えて、噴孔縮小異常の判定を行ってもよい。噴孔縮小異常は、噴孔33の燃料デポジットの堆積等に起因して生じる。この場合、噴孔縮小異常の対応として、噴孔拡大異常の場合と同様に、多段通電の実施を禁止するとよい。噴孔縮小異常の場合について、
図13を用いて説明する。
【0109】
図13に示すように、噴孔縮小異常が生じると、正常時と比べて、ノズルニードル32のリフトアップ時の動作速度の上昇及びリフトダウン時の動作速度の低下と、最大噴射率の低下とが生じる。ノズルニードル32のリフトアップ時の動作速度の上昇及びリフトダウン時の動作速度の低下が生じる原理は以下のとおりである。すなわち、噴孔縮小が生じると、噴孔縮小前(すなわち正常時)よりもサック室46内の圧力が大きくなる。そのため、ノズルニードル32に対するリフトアップ側(開弁側)への力が大きくなり、ノズルニードル32のリフトアップ時の動作速度が上昇する。また、ノズルニードル32のリフトダウン時には、サック室46内の圧力が大きくなることによりノズルニードル32に対するリフトダウン側(閉弁側)への力が小さくなるため、リフトダウン時の動作速度が低下する。
【0110】
ノズルニードル32のリフトアップ時の動作速度が上昇することにより、正常時に比べて燃料圧力の低下の傾きが急になる。また、噴孔縮小異常の場合は、1段目の通電実施時にノズルニードル32がリフト上限Lmaxに到達するため、1段目の通電終了後に噴射率の低下は生じない。また、噴孔縮小により、噴孔33を通過する単位時間当たりの燃料流量(噴孔流量)が減り、最大噴射率が低下する。そのため、最大噴射率での燃料圧力が正常時よりも上昇する。また、2段目通電終了後において、ノズルニードル32のリフトダウン時の動作速度が低下するため、正常時よりも遅いタイミングでニードルリフト量がリフト下限Lminを下回り、正常時よりも遅いタイミングで噴射率がゼロまで低下する。上記のように、噴孔縮小異常が生じた場合には、噴射率が正常時とは異なる態様で変化し、燃料噴射量が意図せず増量される。
【0111】
ECU20は、1段目の通電終了後における噴射率低下が生じておらず、かつ1段目通電での最大噴射率が正常時よりも小さいことに基づいて、噴孔縮小異常が生じた状態であることを判定する。この場合、1段目の通電実施時における圧力低下幅ΔPが所定の閾値よりも小さいこと、すなわち正常時よりも圧力低下幅ΔPが小さいことに基づいて、1段目通電での噴射率の最大値が正常時よりも小さいことが判定されるとよい。噴孔縮小異常が生じた状態であることが判定された場合には、多段通電の実施が禁止されるとよい。
【0112】
・上記実施形態では、1回の噴射機会において多段の通電を実施するための構成として、要求噴射量Qrに対応する通電パルスを複数に分割する構成としたが、これを変更してもよい。通電パルス自体は複数に分割することなく1パルスのままとし、その1パルス内に、インターバル時間TINTに相当する通電休止期間を設ける構成であってもよい。
【0113】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0114】
11…燃料噴射装置、32…ノズルニードル、33…噴孔、60…電気アクチュエータ、20…ECU