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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ガス検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/40 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
G01N1/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021188820
(22)【出願日】2021-11-19
(65)【公開番号】P2023075735
(43)【公開日】2023-05-31
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 忠司
(72)【発明者】
【氏名】溝下 倫大
(72)【発明者】
【氏名】山寺 秀哉
(72)【発明者】
【氏名】勝野 高志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏一
(72)【発明者】
【氏名】郡司島 造
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-225842(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0186776(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 ー 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体試料の流入口および第1排出口を備えた第1室と、
前記第1室の内部に配置されており、前記気体試料中の特定ガス成分を吸着可能であるとともに、所定温度以上に加熱されることで吸着した前記特定ガス成分を脱離可能な吸着材であって、膜形状を有する前記吸着材と、
前記吸着材を加熱可能に構成されているヒータと、
前記第1室に隣接して配置されており、第1連通路によって前記第1室に接続されている第2室と、
前記第2室の内部に配置されており、前記吸着材から脱離した前記特定ガス成分を検出可能な検知部と、
を備え、
前記吸着材の膜面と前記検知部の検知面とが前記第1連通路を介して対向して配置されており、
前記吸着材は気体を通過させることが可能に構成されており、
前記吸着材は前記第1連通路を塞ぐように配置されている、
ガス検知装置。
【請求項2】
前記流入口から前記第1排出口へ向かう方向である第1方向に対して、前記吸着材の膜面が略平行であり、
前記第1方向に対して、前記第1連通路の方向が略垂直である、請求項1に記載のガス検知装置。
【請求項3】
前記第2室は、前記第1連通路と対向して配置されている第2排出口を備えており、
前記第1連通路から前記第2排出口へ至る流路上に前記検知部が配置されている、請求項1または2に記載のガス検知装置。
【請求項4】
前記第1排出口および第2排出口に接続されており、前記第1排出口および前記第2排出口の一方を択一的に外部に接続する切換部をさらに備える、請求項3に記載のガス検知装置。
【請求項5】
前記第1連通路を開閉可能な開閉部をさらに備え、
前記開閉部は、前記第1排出口が外部に接続されている場合に前記第1連通路を閉状態にするとともに、前記第2排出口が外部に接続されている場合に前記第1連通路を開状態にすることが可能に構成されている、請求項4に記載のガス検知装置。
【請求項6】
前記第1連通路は開口部を備えており、
前記開閉部は板状部材を備えており、
前記板状部材は、前記開口部の外周全体に接触する状態と、前記開口部の外周の少なくとも一部に接触していない状態と、の間で変化することが可能に構成されている、請求項5に記載のガス検知装置。
【請求項7】
前記吸着材は、前記第1連通路を塞いでいる第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、を備えており、
前記第1面側の方が前記第2面側よりも密度が低い、請求項に記載のガス検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、気体試料中の一つ以上のガス成分を検知することが可能なガス検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、温度変化によって被検知ガスが吸着脱離する吸着部、および、吸着部より脱離した被検知ガスを検知する検知部を備えたガス検知ユニットが開示されている。低濃度の被測定成分を含有する被検知ガスを一定量流し、吸着部に被測定成分を吸着させて濃縮することができる。次に、吸着部を加熱して被測定成分を脱離させ、脱離ガスを検知部側に流下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第62253569号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、吸着部の上流側と下流側との間で、検知部までの距離に差が存在している。すると、吸着部の上流部からの脱離ガスと下流部からの脱離ガスとの間で、検知部への到達時間に差が発生するため、効率的な濃縮が困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するガス検知装置の一実施形態は、気体試料の流入口および第1排出口を備えた第1室を備える。ガス検知装置は、第1室の内部に配置されており、気体試料中の特定ガス成分を吸着可能であるとともに、所定温度以上に加熱されることで吸着した特定ガス成分を脱離可能な吸着材を備える。吸着材は膜形状を有する。ガス検知装置は、吸着材を加熱可能に構成されているヒータを備える。ガス検知装置は、 第1室に隣接して配置されており、第1連通路によって第1室に接続されている第2室を備える。ガス検知装置は、第2室の内部に配置されており、吸着材から脱離した特定ガス成分を検出可能な検知部を備える。吸着材の膜面と検知部の検知面とが第1連通路を介して対向して配置されている。
【0006】
吸着面と検知面とが対向して配置されているため、吸着面と検知面との距離を、面内の何れの位置においてもほぼ等しくすることができる。吸着面から離脱した特定ガス成分が検知面に到達する時間を、面内で同一とすることができるため、特定ガス成分の効率的な濃縮と検知感度向上が可能となる。
【0007】
流入口から第1排出口へ向かう方向である第1方向に対して、吸着材の膜面が略平行であってもよい。第1方向に対して、第1連通路の方向が略垂直であってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
第2室は、第1連通路と対向して配置されている第2排出口を備えていてもよい。第1連通路から第2排出口へ至る流路上に検知部が配置されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
第1排出口および第2排出口に接続されており、第1排出口および第2排出口の一方を択一的に外部に接続する切換部をさらに備えていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
第1連通路を開閉可能な開閉部をさらに備えていてもよい。開閉部は、第1排出口が外部に接続されている場合に第1連通路を閉状態にするとともに、第2排出口が外部に接続されている場合に第1連通路を開状態にすることが可能に構成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0011】
第1連通路は開口部を備えていてもよい。開閉部は板状部材を備えていてもよい。板状部材は、開口部の外周全体に接触する状態と、開口部の外周の少なくとも一部に接触していない状態と、の間で変化することが可能に構成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0012】
吸着材は気体を通過させることが可能に構成されていてもよい。吸着材は連通路を塞ぐように配置されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0013】
吸着材は、連通路を塞いでいる第1面と、第1面の反対側の第2面と、を備えていてもよい。第1面側の方が第2面側よりも密度が低くてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1のガス検出システム1の断面模式図である。
図2】実施例1のガス検出システム1の平面図である。
図3】実施例2のガス検出システム1aの断面模式図である。
図4】開閉部51aの拡大上面図である。
図5】開閉部51aの断面図である。
図6】開閉部52の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
(ガス検出システム1の構成)
図1に、実施例1のガス検出システム1の断面模式図を示す。図2に、本体5を+z方向から見た平面図を示す。なお図1は、図2のI-I線における断面図である。また図2では、ガス通路12および14、吸着室AC、吸着材16、複数の第1連通路21を点線で示している。
【0016】
ガス検出システム1は、ガス検知装置2、試料ガス容器3、ポンプ4、演算装置7を備えている。ガス検知装置2は、本体5および三方バルブ6を備えている。本体5の流入口11には、配管61を介して試料ガス容器3が接続されている。本体5の第1排出口13および第3排出口42は、配管62および63を介して三方バルブ6に接続されている。三方バルブ6の出口は、配管64を介してポンプ4に接続されている。
【0017】
試料ガス容器3は、試料ガスを保持するための容器である。試料ガス容器3は、例えば樹脂フィルム製のパックであってもよい。三方バルブ6は、第1排出口13および第3排出口42の一方を択一的にポンプ4に接続するバルブである。ポンプ4は、吸引することでガスの流れを発生させる部位である。演算装置7は、試料ガス中の特定ガス成分の濃度を算出する装置である。演算装置7は、不図示の配線によって検知部31~33に接続されていてもよい。演算装置7は、例えばPCなどであってもよい。
【0018】
(本体5の構成)
本体5は、容器10、20、30、40が互いに積層されて接合されている構造を有している。容器10、20、30、40は、不図示の接合層を介して接合していてもよい。容器10には、吸着室ACが形成されている。容器10の-x方向端部には流入口11が形成されている。流入口11は、ガス通路12を介して吸着室ACに接続されている。図2に示すように、ガス通路12は分岐している。これにより、吸着室ACのy方向幅に均一に試料ガスを導入することができる。容器10の+x方向端部には、第1排出口13が形成されている。第1排出口13は、ガス通路14を介して吸着室ACに接続されている。図2に示すように、ガス通路14は分岐している。これにより、吸着室ACから均一に試料ガスを排出することができる。
【0019】
吸着室ACの内部には、吸着材16が配置されている。吸着材16は、試料ガス中の特定ガス成分を吸着可能であるとともに、所定温度以上に加熱されることで吸着した特定ガス成分を脱離可能である。吸着材16は、膜形状を有しており、下面16Lと、下面16Lの反対側の上面16Uとを備えている。下面16Lは、第1連通路21を塞ぐように、底面20Lに接触している。すなわち、流入口11から第1排出口13へ向かう方向(+x方向)に対して、吸着材16の膜面が略平行である。ここで略平行とは、完全な平行のみでなく、30°程度の角度を有して対向している状態を含む概念である。
【0020】
吸着室ACの底面20Lには、複数の第1連通路21が形成されている。複数の第1連通路21は、z方向に延びている。すなわち、流入口11から第1排出口13へ向かう方向(+x方向)に対して、第1連通路21の方向(z方向)は略垂直である。ここで略垂直とは、完全な垂直のみでなく、垂直方向に対して30°程度の角度を有して傾いている状態を含む概念である。
【0021】
吸着材16は気体を通過させることが可能に構成されている。例えば、多孔質体であってもよい。これにより、吸着材16から離脱した特定ガス成分を、第1連通路21を介して裏面側(-z方向側)へ放出することが可能となる。
【0022】
また吸着材16は、下面16L側の方が上面16U側よりも密度が低い。例えば、第1連通路21に接する下面16Lの気孔率(物質の全体積に占める空間の体積の割合)を、上面16U(最上面)に比べて大きくしてもよい。これにより、離脱した特定ガス成分を裏面側へ放出しやすくすることが可能となる。
【0023】
吸着材16は、加熱時に特定ガス成分を膜面と略垂直方向へ速やかに脱離することが求められるため、可能な限り薄いことが好ましい。例えば、吸着材16の厚さは10μm以下であってもよい。また吸着材16の面積は、10mm×10mm以下であってもよい。これにより、本体5の小型化が可能となる。吸着材16の材料としては、メソポーラス材料(例:メソポーラスシリカ、メソポーラス有機シリカ、メソポーラスカーボン等)、金属有機構造体(MOF:Metal-Organic Framework)、ゼオライト、活性炭等のミクロポーラス材料、を用いることができる。
【0024】
容器10の上面には、ヒータ15が配置されている。ヒータ15は、吸着材16を加熱可能に構成されている部材である。図2に示すように、平面視においてヒータ15は、吸着材16と少なくとも一部が重複して配置されている。ヒータ15は、抵抗発熱体で形成されており、通電することで発熱する。抵抗発熱体としては、例えば、白金、タングステン、タンタル、NiCr合金、FeCrAl合金、CuNi合金などの金属や、SiC、TiN、MoSiなどの非金属を用いることができる。
【0025】
容器20および30には、センサ室SCが形成されている。センサ室SCは、吸着室ACの下方側に、吸着室ACと隣接して配置されている。センサ室SCは、複数の第1連通路21によって吸着室ACに接続されている。
【0026】
センサ室SCの底面30Lには、検知部31~33が配置されている。すなわち、吸着材16の膜面と検知部31~33の検知面とが、第1連通路21を介して対向して配置されている。検知部31~33は、吸着材16から脱離した特定ガス成分を検出可能な部位である。検知部31~33は、互いに異なる種類であってもよい。検知部のセンサとしては、特定ガス成分の吸着により抵抗、容量、共振周波数、応力等が変化するタイプのセンサを用いることができる。検知部31~33の出力は演算装置7へ送信される。演算装置7は、センサ出力から特定ガス成分濃度を算出する。
【0027】
センサ室SCの底面30Lには、複数の第2排出口34が形成されている。複数の第2排出口34は、検知部31~33の側面に開口部を有している。そして互いに合流し、容器30の底面を-z方向に貫通して排出室ECに通じている。すなわち、複数の第2排出口34は、複数の第1連通路21と対向して配置されている。そして、複数の第1連通路21から複数の第2排出口34へ至る流路上に、検知部31~33が配置されている。これにより後述するように、複数の第1連通路21から放出された特定ガス成分を、検知部31~33の検知面に効率よく暴露することができる。
【0028】
容器40には、排出室ECが形成されている。排出室ECは、センサ室SCの下方側に、センサ室SCと隣接して配置されている。容器40の+x方向端部には、第3排出口42が形成されている。第3排出口42は、ガス通路43を介して排出室ECに接続されている。ガス通路43は、ガス通路12およびガス通路14と同様に、分岐していてもよい。
【0029】
(本体5の製造方法)
本体5は、マイクロマシニング技術により作製することができる。第1ステップにおいて、シリコンウエハを用いて、容器10、20、30、40の各々を作製する。例えば、複数の第1連通路21は、反応性イオンエッチングにより形成することができる。第2ステップにおいて、検知部31~33、吸着材16、ヒータ15の各々を形成する。第3ステップにおいて、容器10、20、30、40を作製したウエハを、ウエハ接合することにより一体化する。第4ステップにおいて、接合したウエハから本体5を切り出す。
【0030】
マイクロマシニング技術により本体5を製造できるため、本体5を小型化することができる。ガス検知装置2のコンパクト化が可能となる。
【0031】
(ガス検出システム1のガス検出動作)
まず、吸着ステップが行われる。第1排出口13がポンプ4に接続されるように、三方バルブ6が切り換えられる。ポンプ4の吸引動作を開始すると、試料ガスは、試料ガス容器3から流入口11およびガス通路12を介して吸着室ACに導入される。吸着材16によって第1連通路21が塞がれているため、吸着室ACに導入された試料ガスは、吸着材16の膜面に略平行に、+x方向へ流れる。(点線の矢印Y1を参照)。すなわち吸着材16は、試料ガスがセンサ室SCへ流入することを防止する部材としても機能する。そして、吸着材16の表面を試料ガスに暴露することで、吸着材16に特定ガス成分を選択的に吸着させることができる。吸着室ACを通過した試料ガスは、ガス通路14、第1排出口13、配管62、三方バルブ6を介してポンプ4により排気される。
【0032】
次に、測定ステップが行われる。第3排出口42がポンプ4に接続されるように、三方バルブ6が切り換えられる。ポンプ4の吸引動作を開始すると、吸着材16の下面16Lからセンサ室SC、第2排出口34を介して排出室ECへ至る流路が形成される(実線の矢印Y2を参照)。このとき、流入口11からNなどのキャリアガスを供給してもよい。
【0033】
そしてヒータ15による吸着材16の加熱を開始する。吸着材16が所定温度以上に加熱されると、特定ガス成分が吸着材16から離脱する。離脱した特定ガス成分は、吸着材16の下面16Lから第1連通路21を介して-z方向へ放出され、検知部31~33で検知される。
【0034】
検知部31~33に到達した特定ガス成分は、第2排出口34を介して排出室ECに排出される。排出室EC内の特定ガス成分は、ガス通路43、第3排出口42、配管63、三方バルブ6を介してポンプ4により排気される。
【0035】
(効果)
本明細書の技術では、吸着ステップにおいて、試料ガスを吸着材16の膜面に略平行に流すことができる。これにより、吸着材16の-x方向端部から+x方向端部までの全域をまんべんなく試料ガスに暴露できるため、吸着効率を高めることができる。その結果、ガス検出システム1の検知感度を高めることができるため、ppbオーダの低濃度ガスの検知が可能となる。
【0036】
本明細書の技術では、吸着材16の膜面と検知部31~33の検知面とが対向して配置されているため、両膜面の間の距離を、面内の何れの位置においてもほぼ等しくすることができる。吸着材16から離脱した特定ガス成分が検知部31~33に到達する時間を、面内で同一とすることができるため、特定ガス成分の効率的な濃縮が可能となり、ガス検出システム1の検知感度を高めることが可能となる。また、離脱した特定ガス成分の移動遅れを防止することができるため、検知部31~33の応答性を高めることができる。ppbオーダの低濃度ガスの検知において、応答速度を向上させることができる。
【0037】
複数の検知部を、特定ガス成分の流路に沿って並べる場合には、複数の検知部が特定ガス成分に暴露されるタイミングに時間差が発生するため、複数の検知部の応答に差が生じる場合がある。本明細書の技術では、複数の検知部31~33を、特定ガス成分の流路に対して垂直に並べているため、複数の検知部31~33を同時に特定ガス成分に暴露することができる。複数の検知部31~33の応答を均等にすることができる。
【実施例2】
【0038】
図3に、実施例2のガス検出システム1aの断面模式図を示す。実施例2のガス検出システム1aは、実施例1のガス検出システム1をz方向にひっくり返した構造を有する。また開閉部51aを備える。実施例1のガス検出システム1と実施例2のガス検出システム1aとで共通する部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また実施例2に特有の部位については、符号の末尾に「a」を付すことで区別する。
【0039】
吸着材16は、吸着室ACの底面20La上に配置されている。吸着材16は、第1連通路21aから離れて配置されており、第1連通路21aを塞いでいない。また吸着材16は、上面16U側の方が下面16L側よりも密度が低い。例えば、上面16U(最上面)の気孔率を、下面16Lに比べて大きくしてもよい。これにより、離脱した特定ガス成分を表面側へ放出しやすくすることが可能となる。
【0040】
吸着室ACの上面20Uaには、複数の第1連通路21aが形成されている。複数の第1連通路21aは、z方向に延びている。複数の第1連通路21aの各々には、開閉部51aが備えられている。開閉部51aは、第1連通路21aを開閉可能な部位である。
【0041】
(開閉部51aの構造および動作)
図4に、1つの開閉部51aの拡大図を示す。図4は+z方向から見た上面図である。図5(A)および(B)は、図4のV-V線における断面図である。図5(A)は開状態、図5(B)は閉状態を示している。
【0042】
第1連通路21aは、センサ室SCの底面30Laに開口部OPを備えている。開閉部51aは、板状部材51p、梁部51b、基部51fを備えている。基部51fは、底面30Laに固定されている。梁部51bは、基部51fと板状部材51pとを接続している。これにより板状部材51pは、z方向に移動可能に支持されている。板状部材51pの周囲には、通気口VHが形成されている。板状部材51pおよび容器20aは、不図示の制御回路に接続されており、電圧を印加可能とされている。
【0043】
図5(A)の開状態を説明する。板状部材51pと底面30Laとの間に電圧を印加しない状態では、板状部材51pに静電力が加わらない。板状部材51pは、底面30Laから離れた状態となる。すなわち、板状部材51pが、開口部OPの外周の少なくとも一部に接触していない状態となる。開口部OPから通気口VHを介してセンサ室SCへ至る流路が形成される。
【0044】
図5(B)の閉状態を説明する。板状部材51pと底面30Laとの間に電圧を印加している状態では、両者の間に静電引力が働く。梁部51bが変形し、板状部材51pは-z方向へ移動する。これにより、板状部材51pが開口部OPの外周全体に接触する状態となる。板状部材51pによって開口部OPが塞がれ、吸着室ACからセンサ室SCへ至る流路が遮断される。
【0045】
(ガス検出システム1aの動作および効果)
吸着ステップでは、板状部材51pに電圧が印加され、板状部材51pが閉状態とされる。また、第1排出口13がポンプ4に接続されるように、三方バルブ6が切り換えられる。板状部材51pは、試料ガスがセンサ室SCへ流入することを防止する部材として機能する。従って、吸着室ACに導入された試料ガスは、吸着材16の膜面に略平行に、+x方向へ流れる。(図3、点線の矢印Y1aを参照)。これにより、吸着効率を高めることができる。
【0046】
測定ステップでは、板状部材51pに電圧が印加されず、板状部材51pが開状態とされる。また、第3排出口42がポンプ4に接続されるように、三方バルブ6が切り換えられる。第1連通路21aが開放されているため、吸着室ACから第1連通路21a、センサ室SC、第2排出口34aを介して排出室ECへ至る流路が形成される(実線の矢印Y2aを参照)。ヒータ15の加熱により吸着材16から離脱した特定ガス成分は、第1連通路21aを介して略垂直上方向(+z方向)へ放出され、検知部31~33で検知される。これにより、特定ガス成分の効率的な濃縮が可能になるとともに、検知部31~33の応答性を高めることが可能となる。
【0047】
(開閉部51aの変形例)
開閉部52(図6)は、開閉部51a(図5)の変形例である。図6(A)は開状態、図6(B)は閉状態を示している。開閉部52は、板状部材52pおよび固定部52fを備えている。板状部材52pはバイメタルである。板状部材52pの端部52Eは、固定部52fによって底面30Laに固定されている。
【0048】
図6(A)の開状態を説明する。ヒータ15による吸着材16の加熱と同時に、板状部材52pも加熱される。加熱により板状部材52pは+z方向へ反るように変形し、底面30Laから離れた状態となる。開口部OPが開放され、吸着室ACから第1連通路21aを介してセンサ室SCへ至る流路が形成される。
【0049】
図6(B)の閉状態を説明する。板状部材52pが加熱されていない状態では、板状部材52pは真っ直ぐな形状となる。板状部材52pは、開口部OPの外周全体に接触する状態となる。板状部材52pによって開口部OPが塞がれ、第1連通路21aが遮断される。
【0050】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0051】
(変形例)
吸着材16は複数配置してもよい。また吸着材16の種類を異ならせてもよい。例えば図1のガス検出システム1において、検知部31~33の各々に対向するように、3種類の吸着材16a~16cを配置してもよい。これにより、3種類の特定ガス成分について濃縮および検出が可能となる。また検知部31および32に対向させて吸着材16aを配置するとともに、検知部33に対向させて吸着材16bを配置してもよい。
【0052】
検知部の数は3つに限られない。検出対象に応じた任意の数とすることができる。
【0053】
図1のガス検出システム1において、吸着材16の配置態様は様々であってよい。例えば、吸着室ACの上面20Uに吸着材16を配置することで、吸着材16で第1連通路21を塞がない形態としてもよい。
【0054】
開閉部51a(図5)には、開口部OPの周囲を囲うように、高さが均一な突起部が設けられていても良い。これにより、板状部材51pの底面30Laへの静電力によるステイッキングを回避することが可能となる。
【0055】
開閉部52(図6)において、板状部材52pの加熱方法は様々であってよい。板状部材52pに接続されている不図示の制御回路によって、板状部材52pが加熱可能とされていてもよい。
【0056】
吸着室ACは、第1室の一例である。センサ室SCは、第2室の一例である。+x方向は、第1方向の一例である。三方バルブ6は、切換部の一例である。
【符号の説明】
【0057】
1:ガス検出システム 2:ガス検知装置 3:試料ガス容器 4:ポンプ 5:本体 6:三方バルブ 10、20、30、40:容器 11:流入口 13:第1排出口 15:ヒータ 16:吸着材 21:第1連通路 31~33:検知部 34:第2排出口 42:第3排出口 AC:吸着室 SC:センサ室 EC:排出室
図1
図2
図3
図4
図5
図6