(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】生体信号取得用具
(51)【国際特許分類】
A61B 5/256 20210101AFI20240326BHJP
A61B 5/27 20210101ALI20240326BHJP
A61B 5/273 20210101ALI20240326BHJP
【FI】
A61B5/256 210
A61B5/27
A61B5/273
(21)【出願番号】P 2021503632
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009263
(87)【国際公開番号】W WO2020179845
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2019039781
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宝田 博美
(72)【発明者】
【氏名】松生 良
(72)【発明者】
【氏名】板垣 一郎
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-175388(JP,A)
【文献】国際公開第2017/013995(WO,A1)
【文献】特開2013-085575(JP,A)
【文献】特表2008-536542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防滑性テキスタイルが配置されているテキスタイル構造体と、
前記テキスタイル構造体の表面に位置する電極と、
前記電極からの信号を取得する電子機器を接続するためのコネクタと、
前記テキスタイル構造体と独立に伸縮可能である伸縮性ベルトであって、前記テキスタイル構造体の前記電極が位置する表面とは異なる面に対向して前記テキスタイル構造体と並列に配置されており、前記電極が位置している部分およびその周辺とはそれぞれ異なる部分で前記テキスタイル構造体に連結されている伸縮性ベルトと、
を備え、
前記テキスタイル構造体は、前記伸縮性ベルトの幅方向に2mm以上10mm以下の範囲で変位可能であることを特徴とする生体信号取得用具。
【請求項2】
前記防滑性テキスタイルは、弾性繊維と非弾性繊維からなる編地であって、前記弾性繊維の表面占有率が30%以上70%以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体信号取得用具。
【請求項3】
前記テキスタイル構造体は筒状をなし、該筒状の内部を前記伸縮性ベルトが通っていることを特徴とする請求項1または2に記載の生体信号取得用具。
【請求項4】
前記テキスタイル構造体は、前記電極の外側であって、並列する前記伸縮性ベルトより内側に、厚み2~10mmのクッション材を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の生体信号取得用具。
【請求項5】
前記テキスタイル構造体と前記伸縮性ベルトは、前記コネクタと前記電極の間において固着一体化していることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の生体信号取得用具。
【請求項6】
前記電極が取り外し可能であって、金属ホックにより前記テキスタイル構造体に固定されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の生体信号取得用具。
【請求項7】
前記電極がナノファイバーからなる導電性テキスタイルで構成されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の生体信号取得用具。
【請求項8】
前記電子機器を前記コネクタに装着した状態で、前記コネクタの裏側の面から前記電子機器の上部および表側の面を被覆する防水カバーを備えることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の生体信号取得用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号取得用具に関する。
【背景技術】
【0002】
人の生体信号は、その人の健康状態や活動状況の観察、疾病の診断、あるいは精神状態の推定などを行うために有益な情報が得られる。生体信号として、例えば人の心臓からの生体信号である心拍や心電図を挙げることが出来る。このような生体信号を取得するため、人体に電極を貼付して電位差を計測する技術が知られている。
【0003】
医療分野では、コードを介して装置と繋がっている電極を人体に貼り付けることで心電図を取得するのが一般的であるが、その場合、被検者はその場から離れることが出来ず、行動が制約される。
【0004】
これに対して、生体信号を長時間にわたって取得する方法として、小型の装置とともに、人体に電極を貼り付けたまま日常生活の中で心電図を取るホルター心電図検査方法が知られている。しかしながらこの検査方法では、電極を貼り付けるための粘着シートがかぶれやすく、かゆみを伴う場合がある。また、適正な貼り付け位置に張り直すことが困難なため、計測期間中は入浴出来ないなどの不便を伴う。
【0005】
スポーツの効率的なトレーニングや安全確認のために心拍のモニタリングをする心拍センサーも知られている。心拍センサーについては、小型装置と電極を備えたベルトやシャツも種々開発が進められている。特にベルト型は、着用が容易でサイズ調整も可能であることから、伸縮性ベルトの内側に電極が貼り付けられたものが広く用いられている。しかしながら、胸部に巻き付けたベルトは、活発な活動や発汗によりノイズが発生したり、ズレ落ちて計測出来なくなったりすることが多い。加えてズレ落ちを防止するために強く締め付けると、圧迫による不快感が強く、長時間使用することが出来ない。
【0006】
このような状況の下、生体信号取得にノイズが発生しにくく、ズレ落ちにくいベルトの検討がなされてきた。例えば、特許文献1では、左右の電極より内側でベルトを接続することで、ベルトが電極を含むパーツを上から押さえつける形状が開示されている。この形状によれば、激しい運動時にも、ユーザの皮膚に電極が接触した状態に保つことが出来る。なお、特許文献1では、電極やベルト固定部を含む基部は可撓性であることが好ましいとされており、使用時にしなって曲がりやすいゴムなどの弾性材料で製造されることが開示されている。
【0007】
また、特許文献2では、伸縮性のストラップと、硬質の連結部材とが互いに連結され、この連結部材に対して電極を含む装置本体が着脱自在に設けられている。この特許文献2によれば、ストラップにより身体への生体情報検出装置の密着性を高めることが出来るとともに、配線を含む装置本体にストラップの引張りの外力が伝わらず、断線やノイズが入りにくいとされている。
【0008】
しかしながら、これらの文献で電極を含むパーツの素材として開示されているゴムやプラスチック等の弾性材料は、しなって人体に沿うことで密着性が得られる一方、通気性や吸水性がないため肌が蒸れやすく、汗をかくとパーツと肌の間に汗が貯まる結果、不快感を与えるだけでなく、ベルトがすべりやすくなり電極がずれてノイズが発生する問題がある。
【0009】
また、特許文献2において、電極を肌面に押しつけるためには、検出装置が接続されたコネクタ部分も肌に密着することになるため、蒸れが生じたり違和感が発生したりする上、電子機器の揺れが電極パーツに伝わりやすい。
【0010】
胸部を一周するベースバンドのずれを抑制するための技術として、特許文献3では、肩部を経由する斜めバンドを備え、それらのバンド上に電極を配置する技術が開示されている。この特許文献3では、バンドの肌面にパッドやスポンジ等の突出部を設け、その上に電極を設置することで、体の陥凹部でも電極を安定して接触させられるとされている。しかしながら、突出部はバンド上に直接設置されているため、体を動かさないときは安定して生体信号が取得出来るものの、体を動かすとバンドが体動により引っ張られたり振動したりすることで動いて電極もずれてしまい、ノイズが発生することを避けられない。
【0011】
特許文献4は、導電部を備えた伸縮性衣類に関する技術である。この技術によれば、身生地に設置された導電部を肌面に押圧するための被覆部を備えることで、体を動かしても電極の接触が保たれるとされている。しかしながら、身生地が伸縮性素材であっても、衣類として着用者の半身を覆っている以上、大きな体動により身生地が引っ張られることで、身生地がずれることは避けがたい。さらに、電極が身生地上にあり、身生地は衣類として体の周囲を連続して取り巻いているため、体動による身生地のずれに対して電極を分離することは出来ない。特許文献4には、電極の周囲に弾性糸や樹脂材による滑り止め材を設けることも記載されている。しかしながら、この滑り止め材も電極と同じく衣類の身生地上に存在する以上、身生地の伸縮性を越える体動による身生地のずれが生じた場合には、電極のずれを押さえることは出来ない。
【0012】
以上のように、公知の技術分野において、人体に圧迫感を与えずに長時間にわたって生体信号を取得することは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2006-187615号公報
【文献】特開2014-13267号公報
【文献】特開2015-77226号公報
【文献】特開2017-31534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、人体に圧迫感を与えずに長時間にわたって生体信号を取得することが出来る生体信号取得用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る生体信号取得用具は、防滑性テキスタイルが配置されているテキスタイル構造体と、前記テキスタイル構造体の表面に位置する電極と、前記電極からの信号を取得する電子機器を接続するためのコネクタと、前記テキスタイル構造体と独立に伸縮可能である伸縮性ベルトであって、前記テキスタイル構造体の前記電極が位置する表面とは異なる面に対向して前記テキスタイル構造体と並列に配置されており、前記電極が位置している部分およびその周辺とはそれぞれ異なる部分で前記テキスタイル構造体に連結されている伸縮性ベルトと、を備え、前記テキスタイル構造体は、前記伸縮性ベルトの幅方向に2mm以上10mm以下の範囲で変位可能であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る生体信号取得用具は、上記発明において、前記防滑性テキスタイルは、弾性繊維と非弾性繊維からなる編地であって、前記弾性繊維の表面占有率が30%以上70%以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る生体信号取得用具は、上記発明において、前記テキスタイル構造体は筒状をなし、該筒状の内部を前記伸縮性ベルトが通っていることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る生体信号取得用具は、上記発明において、前記テキスタイル構造体は、前記電極の外側であって、並列する前記伸縮性ベルトより内側に、厚み2~10mmのクッション材を有することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る生体信号取得用具は、上記発明において、前記テキスタイル構造体と前記伸縮性ベルトは、前記コネクタと前記電極の間において固着一体化していることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る生体信号取得用具は、上記発明において、前記電極が取り外し可能であって、金属ホックにより前記テキスタイル構造体に固定されていることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る生体信号取得用具は、上記発明において、前記電極がナノファイバーからなる導電性テキスタイルで構成されていることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る生体信号取得用具は、上記発明において、前記電子機器を前記コネクタに装着した状態で、前記コネクタの裏側の面から前記電子機器の上部および表側の面を被覆する防水カバーを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、人体に圧迫感を与えずに長時間にわたって生体信号を取得することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る生体信号取得用具の表側の構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る生体信号取得用具の裏側の構成を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態の第1変形例に係る生体信号取得用具の構成を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態の第2変形例に係る生体信号取得用具の構成を示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態の第3変形例に係る生体信号取得用具の構成を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態の第4変形例に係る生体信号取得用具の構成を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態の第5変形例に係る生体信号取得用具の構成を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、実施例1において電子機器が取得した心電図データを示す図である。
【
図11】
図11は、比較例1で使用した生体信号取得用具の構成を示す斜視図である。
【
図12】
図12は、比較例1において電子機器が取得した心電図データを示す図である。
【
図13】
図13は、比較例2において電子機器が取得した心電図データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、図面はあくまで模式的なものである。
【0026】
図1および
図2は、本発明の実施の形態に係る生体信号取得用具の表側および裏側の構成をそれぞれ示す斜視図である。ここでいう表側、裏側とは、生体信号取得用具を人体に装着したときの外側と内側(人体の肌面側)にそれぞれ対応している。
図1および
図2に示す生体信号取得用具101は、伸縮性ベルト1と、コネクタ2と、テキスタイル構造体3と、電極4と、を備える。
【0027】
伸縮性ベルト1は、帯状をなしており、両端には着脱自在なベルト結合部11を有する。伸縮性ベルト1は、ポリウレタンやゴムの弾性体を含み、繊維をテープ状に形成したいわゆる織りゴムや編みゴムを用いて構成される。伸縮性ベルト1は、テキスタイル構造体3の表側の面と対向しており、人体装着時に電極4を人体の肌面に押さえつける。この伸縮性ベルト1には、様々な体系の着用者を想定して、長さを調節するためのカンや留め具等が付いていても良い。この場合、着用者の体の周長に合わせて長さを調節する目安として、伸縮性ベルト1に適切な調節位置を示す印が付けられていれば、ノイズが少ない測定と着用の快適な締め付けを両立出来る長さに合わせることが容易となる。
【0028】
コネクタ2は、生体信号取得用具101の表側の中央部に位置し、生体信号を取得する電子機器201が取り付けられる。コネクタ2の構成は、電子機器201と電気的に出来る仕様であれば、特に限定されるものではないが、例えばテキスタイル構造体3にカシメで固定する金属ボタンを用いることが出来る。この場合には、容易に電子機器201を脱着出来、かつ、柔軟な繊維製品にも固定しやすい。
【0029】
テキスタイル構造体3は、編物または織物からなる布帛を用いて構成される。布帛は吸水性と通気性があるため、ゴムやフィルム等のプラスチック成形品平面に比べ、蒸れ感が少ない。また,布帛は汗を適度に吸収することで、プラスチック平面のように汗がたまってすべることがない。
【0030】
テキスタイル構造体3の裏側の面(肌面側の面)には電極4が配置されている。電極4は、テキスタイル構造体上に縫い付けあるいは接着剤により貼り付けて固定されており、コネクタ2と図示しない配線を介して電子機器201と電気的に接続している。配線は生体信号取得用具101の表面には露出していない。
【0031】
電極4は、導電性テキスタイルを用いて構成される。これにより、人体の液体汗が電極4にも溜まらないため、発汗時の体動によるずれが少なくなる。導電性テキスタイルとして、ナノファイバーに導電性物質を含浸させたものであれば、ナノファイバー自体が肌に対して防滑性を有するために、より体動によるズレに対して強くなる。
【0032】
図3は、
図2のA-A線断面図である。
図3に示すように、テキスタイル構造体3は、筒状の本体部31と、本体部31の内部に設けられたクッション材32とを有する。クッション材32は伸縮性ベルト1に固定されていないため、伸縮性ベルト1の動きに追随しない。したがって、クッション材32は、肌面に押しつけている電極4に伸縮性ベルト1の動きを伝えにくくする効果を奏する。
【0033】
テキスタイル構造体3の電極4の周囲には、弾性繊維と非弾性繊維からなる編地であって弾性繊維の表面占有率が30%以上70%以下である防滑性テキスタイル33が貼付されている。弾性繊維の表面占有率が30%以上であれば、弾性繊維の持つ防滑性の性質が有意に得られる。弾性繊維の表面繊維が50%以上であれば、防滑性能が良好となるのでより好ましい。また、弾性繊維の表面繊維が70%以下であれば、テキスタイルとしての安定性が得られる。
【0034】
このようなテキスタイル構造体3によれば、弾性繊維の表面占有率が上記よりも少ないテキスタイル構造体に比して、装着者の肌面にひっかかって動かないことで電極が固定され、生体信号の取得に体動ノイズが入りにくい。また、防滑性テキスタイル33は、ゴム成形体のような防滑素材に比して吸水性と通気性があるため蒸れにくく、表面に汗が貯まりにくい。このため、発汗中でも防滑性能が極端に落ちることがなく、電極4を肌面に固定出来る。
【0035】
防滑性テキスタイル33は、テキスタイル構造体3の肌面側に配置し、伸縮性ベルト1や衣類と接する外側面は、防滑性が出来るだけ少ないことが望ましい。なぜならば、外側面の防滑性が高いと、伸縮性ベルト1や衣類の動きに対して摩擦で引っかかり、その動きを電極4に伝えてしまうからである。弾性繊維が多く露出した防滑性テキスタイル33は、肌からずれにくいだけでなく、汗をかいても肌との界面に汗を溜めないため、防滑性が低下しない。
【0036】
テキスタイル構造体3は、伸縮性ベルト1の長さ方向に沿って伸縮性ベルト1と並列に配置されている。これにより、伸縮性ベルト1を人体に装着した状態で加わる引張応力がテキスタイル構造体3に直接加わってノイズが増加するのを抑制することが出来る。また、テキスタイル構造体3が伸縮性ベルト1と並列し、肌面側に電極4が接する構成とすることにより、電極4は伸縮性ベルト1により肌面に押しつけられることになる。その結果、電極4と肌界面のインピーダンスが低下し、生体信号の取得性能が良好になる。
【0037】
テキスタイル構造体3は、伸縮性ベルト1とコネクタ2との境界のみで伸縮性ベルト1に固定される一方、伸縮性ベルト1の幅方向に対して変位可能に連結されている。具体的には、テキスタイル構造体3は、伸縮性ベルト1の幅方向に対して2mm以上10mm以下の範囲で上下動可能に連結されている。また、テキスタイル構造体3のうち電極4が設けられている部分やその周辺は、伸縮性ベルト1に固定されていない。以下、このような伸縮性ベルト1とテキスタイル構造体3との連結構造を柔構造ということもある。このような構成を有するテキスタイル構造体3によれば、呼吸や体動による人体の周長変化や振動を受ける伸縮性ベルト1の変位の影響を直接受けることが少なくなり、信号のノイズが減って、測定精度が向上する。
【0038】
本実施の形態の一例では、テキスタイル構造体3に対して伸縮性ベルト1を通すベルト通し34を取り付けている。ベルト通し34は柔軟な素材からなり、伸縮性ベルト1の断面積よりも大きい断面積を有している。したがって、伸縮性ベルト1をベルト通し34に通しても多少の緩みがあるので、伸縮性ベルト1が体動により伸張や変位しても、テキスタイル構造体3は肌に貼り付いたままとなり、ずれの影響を受けることが少なくなる。
【0039】
テキスタイル構造体3は、厚みがあるクッション材を有していると、伸縮性ベルト1によって体に押さえつける力が電極4の部分に集中し、弱い力でも電極4を体に十分押し当てることが出来る。このクッション材としては、軟質ウレタンやゴムスポンジ、発泡ポリエチレン等素材は限定されないが、厚みが2~10mmであることが重要である。厚みが2mm以上であれば、伸縮性ベルト1により構造体を効率的に肌面に押しつけることが可能となる。また、厚みが10mm以下であれば、テキスタイル構造体3が体から大きく突出しないので、テキスタイル構造体3が外力により押されて動き、電極4にノイズが発生する問題が少なくなる。
【0040】
伸縮性ベルト1とテキスタイル構造体3は、出来るだけコネクタ2に近い部分までが分離して並列配置されていることが望ましい。コネクタ2には電子機器201の重さが加わるため、体動により上下にぶれやすいが、伸縮性ベルト1が電子機器201の荷重を支える一方で、変形可能な柔構造でコネクタと接続するテキスタイル構造体3には電子機器201の荷重が加わらないことによって、電極4には体動によるぶれが影響しなくなる。
【0041】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、防滑性テキスタイルが配置されているテキスタイル構造体と、テキスタイル構造体の表面に位置する電極と、電極からの信号を取得する電子機器を接続するためのコネクタと、テキスタイル構造体と独立に伸縮可能である伸縮性ベルトであって、テキスタイル構造体の電極が位置する表面とは異なる面に対向してテキスタイル構造体と並列に配置されており、電極が位置している部分およびその周辺部分とはそれぞれ異なる部分でテキスタイル構造体に連結されている伸縮性ベルトと、を備え、テキスタイル構造体は、伸縮性ベルトの幅方向に2mm以上10mm以下の範囲で変位可能であるため、人体に圧迫感を与えずに長時間にわたって心拍や心電図等の生体信号を取得することが出来る。
【0042】
また、本実施の形態によれば、クッション材と防滑性テキスタイルを使用するとともに、ベルトと電極パーツが別部材であって、ベルト上に電極が固定されていないため、体動の影響を受けにくく、また伸縮性ベルトの伸縮の有効長を十分長く取ることが出来るため、強い締め付け感を与えずに人体を締結することが出来る。これにより、さまざまな体形の人が、歩行、階段昇降などの体動を含む日常生活を営む中で、強い締め付けや蒸れ感を感じず快適かつ簡便に、精度の高い生体情報を取得出来る生体信号測定具を提供することが出来る。
【0043】
また、本実施の形態によれば、胸部に巻き付ける伸縮性ベルトと電極を含む構造体は並列しており、構造体自身には横方向のベルトの引張応力がかからないため、ベルトが体動により振動、伸縮しても、電極に影響が及ばない。また、コネクタに取り付ける電子機器は、その重量により、体動での揺れをベルトに伝えてしまうが、電極とベルトが並列していることで、直接その重量が電極の肌への密着性に影響を与えない効果を奏する。
【0044】
(変形例)
図4は、第1変形例に係る生体信号取得用具の構成を示す斜視図である。
図5は、
図4のB-B線断面図である。これらの図に示す生体信号取得用具102は、ベルト結合部11Aを有する伸縮性ベルト1Aと、筒状をなすテキスタイル構造体3Aと、テキスタイル構造体3Aの裏側の面に位置する電極4とを備える。テキスタイル構造体3Aは、筒状の本体部31Aと、本体部31Aの筒の内面であって伸縮性ベルト1Aと電極4との間に位置する内面に貼付されたクッション材32Aと、本体部31Aの筒の外表面のうち裏側の部分に貼付された防滑性テキスタイル33Aとを有する。電極4は防滑性テキスタイル33Aに貼付されている。本体部31Aの内部に伸縮性ベルト1Aを通すことで
図1のようなベルト通しを用いることなく、伸縮性ベルト1Aより内側の適切な位置に電極4を配置することが出来るとともに、柔構造でベルトと電極を間接的に連結することができる。また、テキスタイル構造体3Aの裏面側を防滑性テキスタイル33Aとすることにより、防滑性テキスタイル33Aは肌面に固定されて電極4が肌面からずれにくくなり、かつ防滑性テキスタイル33Aと伸縮性ベルト1Aがひっかかることがなくなるため、伸縮性ベルト1Aの変位が電極4に伝わることがない。したがって、第1変形例によれば、体動によるノイズ発生を低減出来る。
【0045】
図6は、第2変形例に係る生体信号取得用具の構成を示す断面図である。同図に示す生体信号取得用具103は、外観が
図4に示す生体信号取得用具102と同様であるが、
図4のB-B線断面に相当する断面が第1変形例と異なっている。生体信号取得用具103は、伸縮性ベルト1Aと、筒状をなすテキスタイル構造体3Bと、テキスタイル構造体3Bの裏側の面に位置する電極4とを備える。テキスタイル構造体3Bは、筒状の本体部31Bと、本体部31Bの筒の外表面のうち裏側の部分に貼付されたクッション材32Bと、クッション材32Bの表面のうち裏側の部分(本体部31Bに貼付される面と反対側の部分)に貼付された防滑性テキスタイル33Bとを有する。電極4は防滑性テキスタイル33Bに貼付されている。この場合にも、変形例1と同様の効果を得ることが出来る。
【0046】
図7は、第3変形例に係る生体信号取得用具の構成を示す斜視図である。同図に示す生体信号取得用具104は、伸縮性ベルト1Aと、筒状をなすテキスタイル構造体3Cと、テキスタイル構造体3Cに着脱可能に取り付けられる電極4Aとを備える。テキスタイル構造体3Cの筒の外表面のうち裏側の部分には、内部の配線と電気的に接続される金属製のボタン35が設けられている。また、電極4Aの表面には、テキスタイル構造体3Cのボタン35と嵌合可能な金属製のボタン41Aが設けられている。テキスタイル構造体3Cは、テキスタイル構造体3Aまたは3Bと同様に、本体部31Cと、図示しないクッション材とを有している。このような構成を有する生体信号取得用具104によれば、電極4Aもテキスタイル構造体3Cから取り外すことが出来るため、電子機器201と電極4Aを取り外して洗濯することが出来る。また、電極4Aを適宜取り替えることにより、常に良好な生体信号を取得することが出来る。また、筒状のテキスタイル構造体3Cの裏面側には、一部、防滑性テキスタイル33を配置することが出来る。
【0047】
図8は、第4変形例に係る生体信号取得用具の構成を示す斜視図である。同図に示す生体信号取得用具105は、伸縮性ベルト1Bと、コネクタ2Aと、テキスタイル構造体3Aとを備える。伸縮性ベルト1Bの両端はコネクタ2Aにつながっている。コネクタ2Aは分離しており、電子機器201が装着されると電気的に導通するとともに、生体信号取得用具104と電子機器201が一連の閉じた形状となる。したがって、生体信号取得用具104は、伸縮性ベルト1Bに結合部が不要であり、構造が単純である。また、着用者は体の前面で電子機器201をコネクタ2Aに取り付けるだけで着用が完了するので、装着も容易である。
【0048】
図9は、第5変形例に係る生体信号取得用具の構成を示す斜視図である。同図に示す生体信号取得用具106は、伸縮性ベルト1Bと、コネクタ2Aと、テキスタイル構造体3Aと、防水カバー5とを備える。
図9ではコネクタ2Aが防水カバー5および電子機器201の後方に隠れているが、その構成は
図8に示すのと同様である。防水カバー5は、電子機器201を接続するコネクタ2Aの裏側の面から、電子機器201の上部および表側の面を被覆する。この防水カバー5は、生体信号取得中にユーザが大量の汗をかいた場合に、衣服内で肌を滴る汗が、伸縮性ベルト1Bに取り付けられた電子機器201やコネクタ2Aを濡らすのを防止する。これにより、電子機器201やコネクタ2Aが濡れて導通が発生し、生体信号が計測不能に陥るのを防止する事が出来る。コネクタ2Aに汗等の液体が入り込まないようにするためには、電子機器201およびコネクタ2Aが防水カバー5の内側に収納されることが必要である。そのためには、防水カバー5が、電子機器201の本体ではなく、伸縮性ベルト1Bに設置されていることが望ましい。防水カバー5は、布、フィルム、あるいは樹脂成形品など、特に材質は限定されないが、ユーザの肌に直接触れるものであるため、硬い樹脂やフィルムよりも布の方が好ましい。
【0049】
布に防水性を付与する方法としては、表面に熱圧着性のフィルムを貼る、または、ウレタン樹脂を布にコーティングする、または、防水性のない布に防水性を有するコーティング布を縫い合わせるなど、任意の方法を用いることが出来る。また、防水カバー5の一部をスナップボタン等で伸縮性ベルト1Bに留め付け、衣服のすれ等で防水カバー5が電子機器201から外れないようにしても良い。また、防水カバー5を筒状としてその一部を伸縮性ベルト1Bに縫い付け、電子機器201を横から防水カバー5の内部へ挿入してコネクタ2Aに取り付けてもよい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例によって限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
実施例1として、
図1および2からなる形状の伸縮性ベルトを作成して生体信号を取得した。電子機器としては、トランスミッタ01(NTTドコモ社製)を用いた。テキスタイル構造体中に内蔵したクッション材の厚みは5mmであった。
【0052】
着用者は、5分間のジョギング後、2分間休憩ののち、2分間の階段昇降を行い、その後8時間着用を続けた。
図10は、実施例1において階段昇降時にトランスミッタ01が取得した心電図(ECG)様波形データを示す図である。
【0053】
(比較例1)
比較例1として、
図11に示す生体信号取得用具を用いて、実施例1、2と同様に心拍を取得した。
図11に示す生体信号取得用具301は、伸縮性ベルト311と、コネクタ312と、伸縮性ベルト311の裏面側に直接固定された電極313とを備え、コネクタ312と電極313との間には配線が存在する。したがって、一方の電極313の端からもう一方の電極313の端までは、伸縮性ベルト311の伸縮が電極313や配線の貼り込みによって阻害されている。
【0054】
図12は、比較例1においてトランスミッタ01が取得した心電図様波形データを示す図である。この心電図様波形データを実施例1の心電図様波形データを比較した結果、比較例1の方が実施例1よりもノイズが激しく、体動による影響が大きいことがわかった。
【0055】
(比較例2)
比較例2として、実施例1同様、電極とベルトが並列されているが、電極を配置した構造体がテキスタイルではなく防滑性のゴム成形品で作られているベルトを作成し、実施例1,比較例1と同様に、ジョギング、休憩、階段昇降を行った。
【0056】
図13は、比較例2においてトランスミッタ01が取得した心電図様波形データを示す図である。比較例2の場合、運動前はゴム成型品が肌に対して滑りにくく、ノイズが発生しなかったが、ジョギング中にかいた汗がゴム成型品表面に溜まったため、すべって肌面からずれやすくなった。その結果、比較例1と同様、階段昇降中に体動によるノイズが多く混入していることがわかった。
【符号の説明】
【0057】
1、1A、1B、311 伸縮性ベルト
2、2A、312 コネクタ
3、3A、3B、3C テキスタイル構造体
4、4A、313 電極
5 防水カバー
11 ベルト結合部
31、31A、31B、31C 本体部
32、32A、32B クッション材
33、33A、33B 防滑性テキスタイル
34 ベルト通し
35、41A ボタン
101~106、301 生体信号取得用具
201 電子機器