(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 5/04 20230101AFI20240326BHJP
【FI】
G06N5/04
(21)【出願番号】P 2021539721
(86)(22)【出願日】2019-08-09
(86)【国際出願番号】 JP2019031718
(87)【国際公開番号】W WO2021028987
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】本浦 庄太
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴志
【審査官】渡辺 一帆
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-044303(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0005633(US,A1)
【文献】COZMAN, F. G. et al.,"Probabilistic logic with independence",International Journal of Approximate Reasoning,2007年,Vol. 49, No. 1,pp. 3-17,<DOI: 10.1016/j.ijar.2007.08.002>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 5/04-5/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取り得る値の範囲の計算対象である条件付確率群を、実数の変数群に変換する変換手段と、
命題論理式の2つの組を受け取って当該2つの組によって表される事象間の条件付確率を返す関数を特徴づける第1の一階述語論理式群と、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方を表した第2の一階述語論理式群とが変換された実数の一階述語論理式群を制約条件として、前記実数の変数群が取り得る値の範囲を計算する計算手段と、
を有する情報処理装置。
【請求項2】
前記第1の一階述語論理式群および第2の一階述語論理式群は、条件付確率の論理式で表現できる高次多項式間の等式および不等式に対してブール結合子および量化子を用いて表現される内容が許容されている、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記変換で使用される命題変数群を記憶する記憶手段
をさらに有する請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記計算手段は、前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲を、指定された精度で評価する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記計算手段は、前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲に関する実数の閉論理式の真偽を判定することで、前記範囲の評価を行う、
請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記計算手段は、前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲を定義する実数の論理式から、量化子を含まず前記実数の論理式よりも簡略化された実数の一階述語論理式を計算する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記計算手段は、前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲を表すグラフを作成する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
取り得る値の範囲の計算対象である条件付確率群を、実数の変数群に変換し、
命題論理式の2つの組を受け取って当該2つの組によって表される事象間の条件付確率を返す関数を特徴づける第1の一階述語論理式群と、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方を表した第2の一階述語論理式群とが変換された実数の一階述語論理式群を制約条件として、前記実数の変数群が取り得る値の範囲を計算する、
コンピュータによって実行される情報処理方法。
【請求項9】
前記第1の一階述語論理式群および第2の一階述語論理式群は、条件付確率の論理式で表現できる高次多項式間の等式および不等式に対してブール結合子および量化子を用いて表現される内容が許容されている、
請求項8に記載の情報処理方法。
【請求項10】
取り得る値の範囲の計算対象である条件付確率群を、実数の変数群に変換する処理と、
命題論理式の2つの組を受け取って当該2つの組によって表される事象間の条件付確率を返す関数を特徴づける第1の一階述語論理式群と、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方を表した第2の一階述語論理式群とが変換された実数の一階述語論理式群を制約条件として、前記実数の変数群が取り得る値の範囲を計算する処理と、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、命題論理式(propositional formula)で記述された事象の確率を計算する手法を開示している。非特許文献1では、取り扱う命題変数の数は有限個であると仮定されている。この命題変数群から構成されるいくつかの命題論理式群について、その各命題論理式の表す事象の生起確率の値の上限及び下限が既知であるとき、指定された命題論理式の表す事象の生起確率がとりうる値の上限と下限を求めるという課題が解決される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】セオドア・ハイルペリン(Theodore Hailperin)著、「ベスト・ポッシブル・インイコーリティーズ・フォー・ザ・プロバビリティ・オブ・ア・ロジカル・ファンクション・オブ・イベンツ(Best Possible Inequalities for the Probability of a Logical Function of Events)」、「ジ・アメリカン・マセマティカル・マンスリ(The American Mathematical Monthly)」、72巻、4号、テイラー・アンド・フランシス(Taylor & Francis)、1965年4月、pp.343-359
【文献】ジーン・ガリアー(Jean H. Gallier)著、「ロジック・フォー・コンピュータ・サイエンス・ファウンデイション・オブ・オートマティック・セオレム・プルーヴィング(Logic for Computer Science: Foundations of Automatic Theorem Proving)」、ドウヴァー出版(Dover Publications)、第2版再出版、2015年
【文献】カール・ポパー(Karls Popper)著、「ザ・ロジック・オブ・サイエンティフック・ディスカバリ(The Logic of Scientific Discovery)」、ラウトレッジ(Routledge)、第2版、2002年、pp.329-355
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1にかかる方法は、条件付確率の取りうる値の範囲の計算を想定したものではない。したがって、非特許文献1にかかる方法では、指定された命題論理式が表す事象間の条件付確率群が取りうる値の範囲を計算することができないおそれがあった。
【0005】
本開示は、上述した課題を鑑み、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方から、指定された条件付確率群の取りうる値の範囲を確実に計算することが可能な情報処理装置、情報処理方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示にかかる情報処理装置は、取り得る値の範囲の計算対象である条件付確率群を、実数の変数群に変換する変換手段と、命題論理式の2つの組を受け取って当該2つの組によって表される事象間の条件付確率を返す関数を特徴づける第1の一階述語論理式群と、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方を表した第2の一階述語論理式群とが変換された実数の一階述語論理式群を制約条件として、前記実数の変数群が取り得る値の範囲を計算する計算手段と、を有する。
【0007】
本開示にかかる情報処理方法は、取り得る値の範囲の計算対象である条件付確率群を、実数の変数群に変換し、命題論理式の2つの組を受け取って当該2つの組によって表される事象間の条件付確率を返す関数を特徴づける第1の一階述語論理式群と、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方を表した第2の一階述語論理式群とが変換された実数の一階述語論理式群を制約条件として、前記実数の変数群が取り得る値の範囲を計算する。
【0008】
本開示にかかるプログラムは、取り得る値の範囲の計算対象である条件付確率群を、実数の変数群に変換する処理と、命題論理式の2つの組を受け取って当該2つの組によって表される事象間の条件付確率を返す関数を特徴づける第1の一階述語論理式群と、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方を表した第2の一階述語論理式群とが変換された実数の一階述語論理式群を制約条件として、前記実数の変数群が取り得る値の範囲を計算する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方から、指定された条件付確率群の取りうる値の範囲を確実に計算することが可能な情報処理装置、情報処理方法及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態にかかる情報処理システムを示すブロック図である。
【
図2A】第1の実施の形態にかかる情報処理システムの動作を示すフローチャートである。
【
図2B】第1の実施の形態にかかる情報処理システムの動作を示すフローチャートである。
【
図3】第1の実施の形態の具体例にかかる情報処理システムを示すブロック図である。
【
図4A】第1の実施の形態の具体例にかかる情報処理システムの動作を示すフローチャートある。
【
図4B】第1の実施の形態の具体例にかかる情報処理システムの動作を示すフローチャートある。
【
図5】第1の実施の形態の具体例にかかる出力装置によって表示される判定結果を例示する図である。
【
図6】第2の実施の形態にかかる情報処理システムを示すブロック図である。
【
図7】第2の実施の形態にかかる情報処理システムの動作を示すフローチャートある。
【
図8】第3の実施の形態にかかる情報処理システムを示すブロック図である。
【
図9】第3の実施の形態にかかる情報処理システムの動作を示すフローチャートある。
【
図10】第3の実施の形態にかかる近似グラフを例示する図である。
【
図11】第3の実施の形態かかる計算部の変形例を示す図である。
【
図12】第4の実施の形態にかかる情報処理装置を示す図である。
【
図13】第4の実施の形態にかかる情報処理装置によって実行される情報処理方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示にかかる実施の形態の概要]
本開示の実施の形態の説明に先立って、本開示にかかる実施の形態の概要について説明する。以下の説明で、「確率」及び「条件付確率」といえば、それぞれ、命題論理式を引数とする確率及び条件付確率であるとする。また、条件付きでない確率(以下、「非条件付確率」)は、条件付確率の特別な場合とみなせる(P(A)=P(A|True))。したがって、以下の説明では、条件付確率という概念は、非条件付確率の概念も含むものとする。
【0012】
(仮定)
本開示では、取り扱う命題変数の数は有限個であると仮定する。この仮定は、本開示がより大きな効果を有するために、必要な仮定であり得る。
【0013】
(背景技術についての説明)
非特許文献1にかかる方法で解決する問題は、以下のよう定式化される。
X1,・・・,Xnをすべての命題変数とする。このとき、いくつかの論理式Ai(i=1,…,I)に対してその論理式があらわす事象の生起確率P(Ai)の上限ai及び下限bi(すなわちai≦P(Ai)≦bi)が与えられているとする。このとき、任意に指定された命題論理式Bの表す事象の生起確率P(B)が取りうる値の最大値及び最小値を求めることを考える。
【0014】
非特許文献1で提案されている解決方法を、例を用いて説明する。命題変数をX1=X及びX2=Yのみとし、A1=X、A2=Y、a1≦P(X)≦b1、a2≦P(Y)≦b2、B=X∧Yの場合を考える。ここで、「∧」は連言を示す記号である。まず、論理式をX∧Y、X∧¬Y、¬X∧Y及び¬X∧¬Yの選言(記号は「∨」)を用いて記述する。このとき、XおよびYは、それぞれ(X∧Y)∨(X∧¬Y)および(X∧Y)∨(¬X∧Y)と記述される。さらにこれを用いて、X及びYの生起確率を、それぞれ、P(X)=P(X∧Y)+P(X∧¬Y)、及び、P(Y)=P(X∧Y)+P(¬X∧Y)のように細分化する。そして、P(X∧Y)、P(X∧¬Y)、P(X∧Y)、P(¬X∧¬Y)を変数とみなす。すると、解くべき問題は、以下に説明する線形計画問題に帰着される。
【0015】
P(B)=P(X∧Y)の最大値及び最小値を、以下の制約条件のもとで求める。
a1≦P(X∧Y)+P(X∧¬Y)≦b1、かつ、a2≦P(X∧Y)+P(¬X∧Y)≦b2、かつ、P(X∧Y)≧0、かつ、P(¬X∧Y)≧0、かつ、P(X∧¬Y)≧0、かつ、P(¬X∧¬Y)≧0、かつ、P(X∧Y)+P(¬X∧Y)+P(X∧¬Y)+P(¬X∧¬Y)=1
【0016】
そして、この線形計画問題を解くと、P(B)の取りうる値の最大値及び最小値が求まる。なお、「各変数の取りうる値が非負である」という制約条件、及び「総和が1である」という制約条件は、Pを、確率を与える関数とみなせるようにするための条件である。
【0017】
(本開示が解決しようとする課題についての説明)
非特許文献1にかかる方法は、条件付確率の取りうる値の範囲の計算に拡張され得ない。反例を以下に述べる。
【0018】
上述したように、命題変数をX1=X及びX2=Yとする。このとき、入力形式を条件付確率まで拡張し、P(X|Y)=1/2(すなわち1/2≦P(X|Y)≦1/2)かつ1/2≦P(Y)(すなわち1/2≦P(Y)≦1)を入力とする。
【0019】
ここで、求めたい確率として指定できる確率も条件付確率まで拡張し、条件付確率P(X|Y)を再計算して求めることを考える。まず、入力時に非条件付確率を用いてP(X∧Y)=1/2P(Y)かつ1/2≦P(Y)とおく。非特許文献1の開示事項そのものにおいては、P(X∧Y)=1/2P(Y)のような条件は入力として許容されていない。しかしながら、線形計画問題の制約条件としてP(X∧Y)=1/2(P(X∧Y)+P(¬X∧Y))を追加することで、この条件も満たす非条件付確率を求めることができる。
【0020】
このとき、非条件付き確率であるP(X∧Y)及びP(Y)の確率の取りうる値の範囲は、それぞれ、1/4≦P(X∧Y)≦1/2及び1/2≦P(Y)≦1となる。したがって、P(X|Y)=P(X∧Y)/P(Y)の上限は、min{(P(X∧Y)の最大値)/(P(Y)の最小値),1}=min{1,1}=1となる。同様に、P(X|Y)=P(X∧Y)/P(Y)の下限は、max{(P(X∧Y)の最小値)/(P(Y)の最大値),0}=1/4となる。しかしながら、これは、入力したP(X|Y)=1/2(すなわち1/2≦P(X|Y)≦1/2)に一致しない。一方、本開示では、以下に説明するように、このような問題を解決できるように構成されている。
【0021】
(定義)
以下、本開示の実施の形態における説明で使用される、いくつかの用語を定義する。
「命題論理式」は、命題変数と呼ばれる記号集合をもとにして、以下のように数学的帰納法を用いて定義される。すなわち、命題変数は命題論理式である。命題論理式Aの否定¬Aも命題論理式である。命題論理式AとBに対してその連言A∧Bも命題論理式である。以上から構成されるもののみが命題論理式である。なお、以下の説明では、選言A∨Bと含意A→Bは、それぞれ、¬(¬A∧¬B)と¬(A∧¬B)の省略記号とみなす。
【0022】
また、上記の命題論理式全体を代数系と見たものが論理式代数である。「論理式代数(formula algebra)」とは(FORM,NOT,AND)の組である。FORMは、命題論理式全体から成る集合である。NOTは、FORMからFORMへの関数であって、NOT(A)=¬Aで定義されるものである。ANDは、直積FORM×FORMからFORMへの関数であって、AND(A,B)=A∧Bで定義されるものである。
【0023】
さらに、論理式代数において、Aと¬¬Aのように論理的に同値な(logically equivalent)論理式を同一視した代数は、Lindenbaum-Tarski(リンデンバウム・タルスキー)代数と呼ばれ、以下のように定義される。すなわち、「Lindenbaum-Tarski代数」は、(FORM/⇔,NOT’,AND’)という組で定義される。ここで、「FORM/⇔」は、論理式全体の論理同値(logical equivalence)の同値関係⇔に関する商集合、すなわち「={[A]|A∈FORM}」、である。ここで、[A]は{B|A⇔B}を表す。たとえば、¬¬A(=B)はAと論理的に同値(すなわちA⇔¬¬A)であるので、¬¬A(=B)は[A]の要素である。一方、¬A(=B)は、Aと論理的に同値でないので、[A]の要素でない。また、「NOT’」及び「AND’」は、この商集合FORM/⇔上の演算であり、それぞれ、NOT’([A])=[¬A]、及び、AND’([A],[B])=[A∧B]で定義されている。なお、上述したように、取り扱う命題変数の数は有限個であると仮定したので、Lindenbaum-Tarski代数の元の数も有限であり、このことは、以下で述べる説明においても用いられる。
【0024】
本実施の形態では、命題論理式を引数として持つ条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方を、一階述語論理式(first-order formula)で記述する。したがって、本実施の形態において、一階述語論理式は、論理式に関する論理式という一種の2重構造になっている。例えば、任意の命題論理式x及びyについて、yで条件付けされたxの確率とyで条件付けされた¬xの確率との和は1であることは、「(∀x:form)(y:form)(P(x|y)+P(¬x|y)=1)」と記述される。この記述形式は、より厳密には、多ソート一階述語論理の言語の具体例として以下のように定義される。なお、以下の定義は、多ソート論理の一般化された(抽象化された)定義を述べている非特許文献2のpp.432-434をもとに、一部変更して、構成されている。
【0025】
本実施の形態において、「一階述語論理式」は、命題論理式のソート「form」及び実数のソート「real」をソートとする多ソート一階述語論理である。なお、「ソート(sort)」とは、種類という意味である。formの定数記号は命題論理式である。また、formのみに関する(定数記号以外の)関数記号は、命題論理の論理式代数の関数NOTとANDにそれぞれ合わせた、「not」と「and」であり、述語記号は、等号「=」のみである。ただし、以下の説明で、not(A)とand(A,B)は、それぞれ、「¬A」および「A∧B」と記載され得る。realの定数記号は「0」と「1」である。また、realのみに関する(定数記号以外の)関数記号は、和と積にそれぞれ対応した「+」と「・」(積の記号は省略することがある)、述語記号は等号「=」及び不等号「≦」である。
【0026】
また、0,1以外の整数及びその逆数、及び有理数を含む論理式は、適切な論理式の省略記法とみなす。また、以降、realの定数記号、関数記号および述語記号のみをもとに構成される一階述語論理式を、「実数の一階述語論理式」もしくは単に「実数の論理式」と呼ぶ。formとrealの両方のソートにまたがる関数記号は、2つの命題論理式の組に対してその条件付確率を与える関数を表す記号pのみとし、この2つの命題論理式がA及びBと記述されている場合、p(A|B)と記述する。なお、両方のソートにまたがる述語記号は取り扱わないものとする。なお、P(A|B)は確率値を表すが、p(A|B)は記号列を表すことに注意されたい。また、このように命題論理式AとBを引数として持つp(A|B)を、「条件付確率を表す閉項」と呼ぶ。
【0027】
また、論理結合子については、命題論理式の定義と同様に、「∧」および「¬」のみを考え、そのほかの論理結合子は省略記号とみなす。量化子については、form及びrealそれぞれについての存在量化子のみを考え、それぞれ「(∃form:x)」及び「(∃real:x)」のようにソートをつけて記述する。なお、全称量化子「(∀form:x)」及び「(∀real:x)」は、それぞれ「¬(∃form:x)¬」及び「¬(∃real:x)¬」の省略記号とする。なお、文脈から明らかな場合は、量化子のソートを省略し、単に「∀」又は「∃」と書くことがある。また、括弧[,]および(,)を読みやすさのための補助記号として適宜使用する。
また、本実施の形態においては、上記で定義した一階述語論理式のうち、formの項がpの引数としてしか現れない一階述語論理式を「条件付確率の論理式」と呼ぶ。したがって、(∃x:form)x=xは条件付確率の論理式ではない。一方、(∃x:form)p(x|x)=1は条件付確率の論理式である。
【0028】
以下の説明では、論理式の変換(写像)を「論理式の構成に関する数学的帰納法」で定義する。これは、論理式の変換先をその部分論理式の変換先で定義する方法である。例えば、以下のように命題論理式の構成ステップごとに条項を与えることで、命題論理式から実数への写像Φを定義する。
Φ(X)=1(Xは命題変数)、
Φ(A∧B)=Φ(A)×Φ(B)(AとBは命題論理式)、
Φ(¬A)=1-Φ(A)(Aは命題論理式)。
【0029】
また、論理式から論理式への写像を定義するときに「準同型的に変換される」と述べ、以下の条項を省略することがある。
変数記号xについては、Ψ(x)=x、
定数記号を含む関数記号fに対して、Ψ(f(t1,・・・,tn))=f(Ψ(t1),・・・,Ψ(tn))(t1,・・・,tnは項)、
述語記号Rに対して、Ψ(R(t1,・・・,tn))=R(Ψ(t1),・・・,Ψ(tn))(t1,・・・,tnは項)、
論理結合子∧に対して、Ψ(φ∧ψ)=Ψ(φ)∧Ψ(ψ)(φとψは論理式)、
論理結合子¬に対して、Ψ(¬φ)=¬Ψ(φ)(φは論理式)、
量化子∃x:sortに対して、Ψ((∃x:sort)φ)=(∃x:sort)Ψ(φ)(sort∈{form,real})(φは論理式)。
【0030】
なお、上記の「命題論理式」および「一階述語論理の論理式」の定義において、「どの記号を定義に組み込み、どの記号を省略記号と考えるか」という選択は、純粋に説明のために選択したものであり、本開示の適用範囲を限定するものではない。
【0031】
[実施の形態の説明]
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
[第1の実施の形態]
(構成の説明)
図1は、第1の実施の形態にかかる情報処理システム100を示すブロック図である。
図1に示されるように、第1の実施の形態にかかる情報処理システム100は、条件付確率計算装置1と、入力装置11と、出力装置15とを有する。また、第1の実施の形態にかかる条件付確率計算装置1は、変換部12と、計算部13と、記憶装置14とを有する。変換部12は、入力装置11と、計算部13と、記憶装置14とに接続されている。計算部13は、変換部12と、記憶装置14と、出力装置15とに接続されている。計算部13は真偽判定部131を含んでいる。
【0033】
条件付確率計算装置1は、情報処理装置として機能する。つまり、条件付確率計算装置1は、コンピュータで実現され得る。入力装置11は、例えばキーボード、マウス、タッチパネル等の入力デバイスである。出力装置15は、例えば、ディスプレイ又は印刷装置等の出力デバイスである。なお、入力装置11及び出力装置15は、入出力装置として物理的に一体に構成されてもよい。また、入力装置11及び出力装置15の少なくとも一方は、条件付確率計算装置1と物理的に一体に構成されてもよい。例えば、条件付確率計算装置1を実現するコンピュータ(情報処理装置)が、入力装置11及び出力装置15を有してもよい。同様に、情報処理システム100は、1つ又は複数のコンピュータで実現され得る。
【0034】
記憶装置14に含まれる情報について以下に説明する。
記憶装置14は、条件付確率関数を特徴づける条件付確率の論理式群(以下、「条件付確率の定義式群」という)を記憶している。「条件付確率の定義式群」は、命題論理式の2つの組を受け取って当該2つの組によって表される事象間の条件付確率を返す関数(条件付確率関数)を特徴づける条件付確率の論理式群である。「条件付確率の定義式」とは、例えば、(∀x:form)(∀y:form)P(x|x)=P(y|y)という論理式のようなものである。なお、この論理式は、「任意の命題論理式xとyに対してxのときにxが起こる確率と、yのときにyが起こる確率は等しい」ことを意味している(実際、これらの確率はともに1であり両者は等しいことが証明される)。
【0035】
また、記憶装置14は、適用する対象に関する確率情報(以下、単に「確率情報」という)を表す条件付確率の論理式群(以下、「確率情報を表す論理式群」という)を記憶している。「確率情報を表す論理式群」は、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方を表した条件付確率の論理式群である。たとえば、「がん診断」を本実施の形態の適用対象とする場合に、記憶装置14は、「肺がんはがんである」という情報を表す「p(がん|肺がん)=1」を記憶する。
【0036】
また、記憶装置14は、条件付確率の引数の命題論理式の構成要素として考慮するすべての命題変数(命題変数群)を記憶している。前述したように、この命題変数の数は有限個とする。さらに、記憶装置14は、自然数(0は含まないものとする)Nを記憶している。このNの逆数が、条件付き確率の評価精度となる。例えばN=100のときは、百分率を用いて評価結果が記述され得る。
【0037】
第1の実施の形態にかかる情報処理システム100の各構成要素は、それぞれ以下のように動作する。入力装置11は、例えばユーザの操作によって、条件付確率を表す閉項群p(Ai|Bi)(i=1,・・・,I)を受け付ける。変換部12は、条件付確率を表す閉項及び条件付確率の論理式を変換する。この変換は非特許文献1の考え方と関連するため、これに沿って説明する。
【0038】
入力された条件付確率を表す閉項群p(Ai|Bi)(i=1,・・・,I)は、変数V([Ai]|[Bi])(i=1,・・・,I)に変換される。ここで、「([Ai]|[Bi])」は、添え字の役割を果たしており、「V([Ai]|[Bi])」全体で1つの変数を表すものとする。また、[A]は、Aを含むLindenbaum-Tarski代数の元である。ただし、このLindenbaum-Tarski代数は、記憶装置14に記憶された命題変数群から構成される命題論理式全体に対して、同値な論理式を同一視して得られるLindenbaum-Tarski代数である。非特許文献1では、同一視の処理は、任意の論理式をX∧Y、X∧¬Y、¬X∧Y、及び¬X∧¬Yの選言に対応させる形で実現されている。また、変数化は、P(X∧Y)、P(X∧¬Y)、P(¬X∧Y)、及びP(¬X∧¬Y)を線形計画問題の変数とみなすことで実現されている。
【0039】
非特許文献1では、条件付確率の定義式群は、変数への実数の割り当てを確率値(条件付確率)とみなすために各変数がみたすべき条件に相当する。つまり、条件付確率の定義式群は、取る値が非負であるという制約条件(P(X∧Y)≧0など)、又は、総和が1という制約条件(P(X∧Y)+P(X∧¬Y)+P(¬X∧Y)+P(¬X∧¬Y)=1)、などに相当する。第1の実施の形態にかかる変換部12は、条件付確率の定義式群の量化子を取り除くなどの処理を行うことで、条件付確率の定義式群を「変数への実数の割り当てを条件付確率とみなすための条件」になるように変換する。
【0040】
例えば、(∀x:form)(∀y:form)p(x|x)=p(y|y)が、Lindenbaum-Tarski代数Lの元を用いて、
【数1】
に変換される。これにより、量化子が取り除かれるとともに、p(x|x)及びp(y|y)が、それぞれV([A]|[A])及びV([B]|[B))という実数の変数に置き換えられる。これにより、条件付確率の定義式群が、全体として実数の変数V([A]|[A])及びV([B]|[B])に関する条件式とみなせるようにする。変換部12は、このような、条件付確率の定義式群から量化子を除去する変換を行う。
【0041】
確率情報を表す論理式は、非特許文献1における上限と下限を表すa1≦P(X)≦b1又はa2≦P(Y)≦b2に相当する。非特許文献1の手法では、上限と下限を、変数P(X∧Y)、P(X∧¬Y)、P(¬X∧Y)、及びP(¬X∧¬Y)に対する制約条件とみなすために、a1≦P(X∧Y)+P(X∧¬Y)≦b1又はa2≦P(X∧Y)+P(¬X∧Y)≦b2と書き換える。これと同様に、変換部12は、確率情報を表す論理式を、変数V([A]|[B])等の制約条件とみなせるように変換する。たとえば、p(がん|肺がん)=1はV([がん]|[肺がん])=1と変換される。なお、非特許文献1の場合は、上限と下限のみ取り扱ったが、変換部12は、高次方程式又は量化子を含む条件付確率の論理式も変換し得る。
【0042】
計算部13は、変換部12が条件付確率の定義式群と確率情報を表す論理式群を変換して得た関係式を制約条件としたときの、入力された確率を表す閉項群を変換部12が変換して得た変数群V([Ai]|[Bi])(i=1,・・・,I)がとりうる値の範囲を計算する。これは、非特許文献1においては、線形計画問題を解くことと対応する。
【0043】
しかしながら、本実施の形態で取り扱う問題は、線形計画問題に限られない。後述するように、条件付確率の定義式の例として、(∀x:form)(∀y:form)(∀z:form)(p(x∧y|z)=p(x|y∧z)p(y|z))という式がある(非特許文献3のp.337参照)。この式は、右辺が2次の項となっている。なお、この式は、よく知られた非条件付確率に基づく条件付確率の定義の一般化に相当する。実際、共通の前提条件となっているzを省略してみるとP(x∧y)=P(x|y)P(y)となり、両辺をP(y)で割るとp(x∧y)/p(y)=p(x|y)が得られる。
【0044】
さらに、この式を繰り返して計算すると、2次だけでなくさらに高次の項が現れうる。そこで、計算部13は、以下に説明するように、V([Ai]|[Bi])(i=1,・・・,I)が取りうる値の範囲を「評価」する。まず、各i=1,・・・,Iに対してp(Ai|Bi)の表す条件付確率が取りうる値、すなわちV([Ai]|[Bi])がとりうる値は、実数直線上の閉区間[0,1]の範囲に収まる。これは条件付確率の定義式群から証明される。
【0045】
ここで、複数のV([Ai]|[Bi])の間に依存関係がありうるので、この[0,1]のI個の直積において、(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))が取りうる値を考える。まず、計算部13は、[0,1]のI個の直積を、NのI乗個の幅1/Nの超立方体(以下「グリッド」という)に分割する(それぞれ境界を含むものとする)。そして、計算部13(真偽判定部131)は、得られた幅1/Nの超立方体Hそれぞれについて、Hの全部が(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))が取りうる値の範囲に含まれているか否かと、Hの一部または全部が(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))が取りうる値の範囲に含まれているか否かと、を判定する。つまり、真偽判定部131は、Hの全部が(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))が取りうる値の範囲に含まれている場合、グリッドHが「内部」に対応すると判定する。真偽判定部131は、Hの全部ではなく一部のみが(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))が取りうる値の範囲に含まれている場合、グリッドHが「境界」に対応すると判定する。真偽判定部131は、Hが全く(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))が取りうる値の範囲に含まれていない場合、グリッドHが「外部」に対応すると判定する。
【0046】
そして、真偽判定部131は、(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))が取りうる値の範囲を、内部グリッド全体の合併集合を含む集合という意味で「内側」から、評価することができる。一方、真偽判定部131は、(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))が取りうる値の範囲を、内部グリッド全体と境界グリッド全体の合併集合に含まれる集合であるという意味で「外側」から、評価することができる。真偽判定部131は、実数の閉論理式についてその真偽を判定する。言い換えると、真偽判定部131は、実閉体の真偽を判定する。ここで、実数の閉論理式は、後述するように、実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの実数の変数群が取りうる値の範囲に関する。
【0047】
出力装置15は、ユーザにとって知覚可能に、判定結果を出力する。詳しくは後述する。
以下、第1の実施の形態の動作の詳細について、
図2を用いて説明する。
【0048】
(動作の説明)
図2A及び
図2Bは、第1の実施の形態にかかる情報処理システム100の動作を示すフローチャートである。なお、以下、
図2A及び
図2Bを総称して、単に
図2と称することがある。まず、入力装置11は、値を得たい条件付確率群を表す閉項群p(Ai|Bi)(i=1,・・・,I)を受け付ける(ステップA1)。
【0049】
次に、変換部12は、以下で説明する変換Tを適用して、変換を行う(ステップA2)。具体的には、変換部12は、変換Tを適用して、入力された閉項群p(Ai|Bi)(i=1,・・・,I)を実数の変数群T(p(Ai|Bi))=V([Ai]|[Bi])(i=1,・・・,I)に変換する。また、変換部12は、変換Tを適用して、条件付確率の定義式群PFj(j=1,・・・,J)を実数の一階述語論理式群T(PFj)(j=1,・・・,J)に変換する。また、変換部12は、変換Tを適用して、確率情報を表す論理式群Conk(k=1,・・・,K)を実数の一階述語論理式群T(Conk)(k=1,・・・,K)に変換する。
【0050】
ここで、変換部12で用いられる変換Tは、以下で説明する3つの写像T1,T2,T3をこの順で適用する合成写像である。それぞれの写像T1,T2,T3は、論理式の構成に基づく数学的帰納法を用いて、以下のように定義される。
【0051】
T1は、命題論理式Aを、対応するLindenbaum-Tarski代数Lの元[A]に置き換える変換である。ただし、Lは、記憶装置14に記憶されている命題変数群全体から構成されるLindenbaum-Tarski代数である。なお、その他の変数記号又は関数記号、述語記号、論理結合子、量化子は、準同型的に変換される。したがって、例えば、p(A|B)は、T1によって、p([A]|[B])に変換される。また、より複雑な論理式(∀x:form)(p(x|A)+p(¬x|A)=1)は、T1によって、(∀x:form)(p(x|[A])+p(¬x|[A])=1)に変換される。
【0052】
T2は、以下の式2に示すように、formの存在量化子を、いわば「具体化」する変換である。
【数2】
【0053】
なお、その他の変数記号又は関数記号、述語記号、論理結合子、量化子は、準同型的に変換される。ここで、T2(φ)[z/x]は、論理式T2(φ)のすべてのxの出現(occurrence)に対して、zを代入した結果を意味する。また、代入操作により新たにLindenbaum-Tarski代数Lの演算を行うことができる箇所が出現した場合は、その演算を行っておく。なお、上述したように、命題変数群が有限個であることから、Lindenbaum-Tarski代数Lの元の個数も有限である。したがって、式2の右辺は有限個の論理式群の選言となることが保証されている。
【0054】
なお、変換の例として、p([A]|[B])はT2(p([A]|[B]))=p(T2([A])|T2([B]))=p([A]|[B])と変換され、結果として同一のものが出力される。また、(∀x:form)(p(x|[A])+p(¬x|[A])=1)は、(∀x:form)φが¬(∃x:form)¬φの省略記号であることから、
【数3】
と変換される。
【0055】
T3は、p([A]|[B])をV([A]|[B])に変換し、その他の場合についても準同型的に変換する。たとえば、上記の式3をT3で変換する場合、T3の変換は以下の式4のように行う。
【数4】
【0056】
ここで、入力された条件付確率を表す閉項をp(Ai|Bi)(i=1,・・・,I)と記載する。また、記憶装置14に記憶されている条件付確率の定義式群を、PFj(j=1,・・・,J)と記載する。同じく記憶装置14に記憶されている確率情報を表す論理式群を、Conk(k=1,・・・,K)と記載する。変換部12は、上記のT1、T2、T3をこの順に適用する合成写像Tを用いて、p(Ai|Bi)(i=1,・・・,I)を、T(p(Ai|Bi))(=V([Ai]|[Bi]))(i=1,・・・,I)に変換する。また、変換部12は、上記のT1、T2、T3をこの順に適用する合成写像Tを用いて、PFj(j=1,・・・,J)を、T(PFj)(j=1,・・・,J)に変換する。さらに、また、変換部12は、上記のT1、T2、T3をこの順に適用する合成写像Tを用いて、Conk(k=1,・・・,K)を、T(Conk)(k=1,・・・,K)に変換する。
【0057】
次に、計算部13は、T(PFj)(j=1,・・・,J)及びT(Conk)(k=1,・・・,K)を制約条件としたもとで、組(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))が取りうる値の範囲を以下のように計算する(ステップA3~A7)。まず、計算部13は、ステップA3において、記憶装置14に記憶されている評価精度のパラメータである自然数Nに対して、I次元単位超立方体をNのI乗個の幅1/NのI次元超立方体群に分割したものを考え、この超立方体群全体上に全順序を定義する。そして、計算部13は、変数Hにこの全順序で最小の超立方体を代入する。
【0058】
具体的には、計算部13は、まず、I次元単位超立方体[0,1]×・・・×[0,1]を、NのI乗個の超立方体[0,1/N]×・・・×[0,1/N],・・・,[((M1)-1)/N,M1/N]×・・・×[((Mi)-1)/N,Mi/N]×・・・×[((MI)-1)/N,MI/N],・・・,[(N-1)/N,1]×・・・×[(N-1)/N,1](Mi=1,・・・,N、i=1・・・,I)に分割する。ここで、各超立方体[((M1)-1)/N,M1/N]×・・・×[((MI)-1)/N,MI/N]をグリッドと呼ぶことにする。計算部13は、次に、各グリッド[((M1)-1)/N,M1/N]×・・・×[((MI)-1)/N,MI/N]を順に選択する。計算部13は、後述の処理(ステップA4~A6)を繰り返し行うために、選択したグリッドを代入する変数Hを用意し、最初のグリッドである[0,1/N]×・・・×[0,1/N]を代入する。つまり、変数Hは、グリッドを示すパラメータである。なお、選択する順序は任意であって、最初(最小)のグリッドが[0,1/N]×・・・×[0,1/N]である必要もない。
【0059】
以下、繰り返しのステップ(ステップA4~A6)について説明する。まず、真偽判定部131は、そのグリッドHが内部、外部、及び境界のいずれに対応するかを判定する。このために、真偽判定部131は、2つの命題の真偽を判定する。なお、以下の説明で、a≦b≦cという記法は、a≦b∧b≦cの省略記法である。
【0060】
真偽判定部131は、第1の判定を行う(ステップA4)。つまり、真偽判定部131は、ステップA2で得られた実数の論理式群を制約条件としたときの変数の組(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))の取りうる値の範囲にHの全部が含まれているか否かを、これを表す実数の閉論理式の真偽を判定することで、判定する。言い換えると、真偽判定部131は、ステップA2で得られた実数の論理式群T(PFj)(j=1,・・・,J)及びT(Conk)(k=1,・・・,K)を制約条件としたときに変数の組(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))が取りうる値の範囲に、H=[((M1)-1)/N,M1/N]×・・・×[((MI)-1)/N,MI/N]が包含されているか否かを、これを表す実数の閉論理式の真偽を判定することで、判定する。
【0061】
具体的には、真偽判定部131は、以下の式5で示される実数の閉論理式の真偽を判定する。
【数5】
【0062】
ここで、上記式5の「((∃V([Ai]|[Bi]))群以外)」は、「(∃V(x|y))」を、([Ai],[Bi])(i=1,・・・,I)を除くすべてのLindenbaum-Tarski代数の元の2つの組(x,y)について並べたものである。そして、この論理式の表す命題は、
「変数の組(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))がH=[((M1)-1)/N,M1/N]×・・・×[((MI)-1)/N,MI/N]に含まれる値をとるならば、他の変数群V(x|y)に割り当てる値を適当に取ることでT(PFj)(j=1,・・・,J)及びT(Conk)(k=1,・・・,K)をすべて満たすことができる」
である。
【0063】
真偽判定部131は、第2の判定を行う(ステップA5)。つまり、真偽判定部131は、ステップA2で得られた実数の論理式群を制約条件としたときの変数の組(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))の取りうる値の範囲にHの少なくとも一部または全部が含まれているか否かを、これを表す実数の閉論理式の真偽を判定することで、判定する。言い換えると、真偽判定部131は、ステップA2で得られた実数の論理式群T(PFj)(j=1,・・・,J)、及びT(Conk)(k=1,・・・,K)を制約条件としたときに変数の組(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))の取りうる値の範囲に、Hの少なくとも一部が含まれているか否かを、これを表す実数の閉論理式の真偽を判定することで、判定する。
【0064】
具体的には、真偽判定部131は、以下の式6で示される実数の閉論理式の真偽を判定する。
【数6】
【0065】
この論理式が表す命題は、
「変数の組(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))に割り当てる値をH=[(M1-1)/N,M1/N]×・・・×[(MI-1)/N,MI/N]から適当にとり、さらに他の変数に割り当てる値を適当に取ることでT(PFj)(j=1,・・・,J)及びT(Conk)(k=1,・・・,K)をすべて満たすことができる」
である。
【0066】
計算部13は、上述した式5及び式6の真偽の判定結果を用いて、グリッドHが内部、外部、及び境界のいずれに対応するかを判定する(ステップA6)。つまり、計算部13は、その幅1/Nの超立方体に対して、ステップA4の判定結果が真ならば「内部」、A4の判定結果が偽でA5の判定結果が真ならば「境界」、A4とA5いずれの判定結果も偽ならば「外部」、と判定する。言い換えると、計算部13は、式5が真であれば、グリッドH=[(M1-1)/N,M1/N]×・・・×[(MI-1)/N,MI/N]を「内部」に対応すると判定する。計算部13は、式5が偽で式6が真であれば、グリッドH=[(M1-1)/N,M1/N]×・・・×[(MI-1)/N,MI/N]を「境界」に対応すると判定する。計算部13は、式5及び式6がともに偽であれば、グリッドH=[(M1-1)/N,M1/N]×・・・×[(MI-1)/N,MI/N]を「外部」に対応すると判定する。
【0067】
その後、計算部13は、ループを終了するか否かを判定する(ステップA7)。具体的には、計算部13は、HがステップA3で定義した全順序で最大(すなわち最後のグリッド)であればループを終了する。一方、そうでなければ、計算部13は、全順序で1つ大きな(すなわち次の)グリッド(超立方体)をHに代入して、再度同じ処理(A4~A6)を行う。
【0068】
出力装置15は、ステップA6で得られたすべての判定結果を出力する(ステップA8)。つまり、出力装置15は、各グリッドが「内部」、「境界」及び「外部」のいずれに対応するかを出力する。なお、I=1,2,3の場合は、単位超立方体およびそれに含まれるグリッド群の次元がそれぞれ1次元、2次元、3次元であるので、位置関係を保つようにグラフィカルに表示することも可能である。このとき、「内部」、「境界」及び「外部」のグリッドを、それぞれ「黒」、「灰色」及び「白」などに着色してもよい(後述する
図5参照)。
【0069】
(効果の説明)
次に、第1の実施の形態の効果について説明する。第1の実施の形態にかかる条件付確率計算装置1は、変換部12を備えている。これにより、条件付確率を表す閉項を実数の変数に変換でき、さらに条件付確率の定義式及び確率情報を表す論理式を、等価な実数の論理式に変換することができる。したがって、条件付確率を求めるという課題を、実数の論理式群を制約条件としたときの実数の変数群がとりうる値の範囲を求めるという問題に帰着させることができる。その結果、確率情報に基づいて条件付確率を計算することができる。そして、計算部13を用いることで、指定された範囲内(グリッド)のすべての点で条件付確率が値を取りうるか(ステップA4)、指定された範囲内(グリッド)のある点で条件付確率が値を取りうるか(ステップA5)、を判定することができる。これにより、条件付確率がとりうる値の範囲を、内側と外側から評価できる。
【0070】
ここで、第1の実施の形態では、確率情報が完全か否かは問われない。したがって、確率情報が不完全な場合でも、与えられている確率情報に基づいて、指定された条件付確率が取りうる値の範囲を計算することができるという効果が得られる。
【0071】
さらに、確率情報の記述形式として条件付確率の論理式を用いるため、条件付確率の論理式で表現できる高次多項式間の不等式及び等式、∧や¬といったブール結合子(Boolean connectives)および量化子を用いて表される情報も確率情報として利用可能である。そして、本実施の形態にかかる条件付確率の定義式群及び確率情報を表す論理式群は、条件付確率の論理式で表現できる高次多項式間の不等式及び等式に対してブール結合子および量化子を用いて表現される内容が許容されている。つまり、本実施の形態にかかる条件付確率の定義式群及び確率情報を表す論理式群は、条件付確率の論理式で表現できる高次多項式間の不等式及び等式に対してブール結合子および量化子を用いた論理式が許容されている。これにより、例えば、独立性p(A∧B|True)=p(A|True)p(B|True)、条件付独立性p(A∧B|C)=p(A|C)p(B|C)、さらには任意の条件に対する条件付独立性(∀z:form)[p(A∧B|z)=p(A|z)p(B|z)]などを、確率的情報として考慮することができる。これは、非特許文献1での入力が特定の論理式の表す命題の生起確率の上限と下限だけであったことと比較して、本実施の形態の顕著な効果の1つである。
【0072】
さらに、第1の実施の形態では、求める条件付確率P(A|B)に対して、条件部Bに成立していることがわかっている事象群を表す命題論理式群C1,・・・,CNの連言を用いることができる。これにより、このときにAが表す事象が生起している確率の取りうる値の範囲を、P(A|C1∧・・・∧CN)が取りうる値の範囲を計算することで、計算できるという効果もある。
【0073】
なお、第1の実施の形態において、評価精度1/Nの設定を入力装置11から随時行えるようにしてもよい。また、ステップA1で入力される条件付確率を表す閉項群P(Ai|Bi)(i=1,・・・,I)の各iに対して、異なる評価精度1/Niを対応付けてもよい。さらに、評価精度のパラメータを自然数Niではなく非負の実数Riとしてもよい。この場合では、例えば、Ri以上の最小の自然数Niを取り、グリッドの幅を1/Niとする方法を採用してもよい。あるいは、基本的にはグリッドの幅を1/Riとし、端のグリッドの幅を1/Ri以下となることを許す方法を採用してもよい。また、評価精度パラメータは評価精度そのものでもよい。この場合、さらにその逆数を取って後の処理を行う。
【0074】
また、命題変数群を記憶することは必須ではない。実際、考慮すべき全ての命題変数が記憶装置14に記憶されている条件付確率の定義式群及び確率情報を表す論理式群に現れるのであれば、これらの現れている命題変数を(重複を除いて)取り出す処理を追加することで、同じ効果を得ることができる。しかしながら、条件付確率の定義式群及び確率情報を表す論理式群に考慮すべき命題変数が全ては現れない可能性もある。この場合は、記憶装置14にこれらの命題変数群を記憶させておくことで、命題論理式の条件付確率の計算時、特に変換部12におけるT2による変換時に、考慮すべきすべての命題変数群を考慮させることができる。
【0075】
なお、本実施の形態は、コンピュータを命題論理式の条件付確率計算システムとして機能させる命題論理式の条件付確率計算プログラムとしても実現することができる(他の実施の形態においても同様)。コンピュータは、中央処理装置(CPU(Central Processing Unit))、記憶装置(ハードディスク等)、キーボードなどの入力部、及び、ディスプレイなどの表示部を備える。中央処理装置は、命題論理式の条件付確率計算プログラムを読み込み実行する。記憶装置は、条件付確率の定義式群、確率情報を表す論理式群、命題変数群、及び評価精度パラメータなどを記憶する。また、記憶装置は、命題論理式の条件付確率計算プログラムを記憶してもよい。本実施の形態を例にとれば、CPUに読み込まれた命題論理式の条件付確率計算プログラムは、コンピュータを、本実施の形態において説明された変換部および計算部として機能させる。
【0076】
[具体例]
次に、具体的な実施例を用いて第1の実施の形態の具体的な構成および動作を説明する。
(構成の説明)
図3は、第1の実施の形態の具体例にかかる情報処理システム200を示すブロック図である。
図3に示されるように、第1の実施の形態の具体例にかかる情報処理システム200は、条件付確率計算装置2と、入力装置21と、出力装置25とを有する。
【0077】
条件付確率計算装置2は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータとしての機能を有する。条件付確率計算装置2は、ハードウェア構成として、CPU201(プロセッサ)、メモリ202、ネットワークインターフェース203(IF)、及び、記憶装置24(ストレージ)を有する。なお、条件付確率計算装置2は、ハードウェア構成として、入力装置21及び出力装置25を有してもよい。なお、ハードウェア構成については、他の実施の形態についても適用可能である。
【0078】
また、条件付確率計算装置2は、変換部22と、計算部23とを有する。変換部22は、入力装置21及び記憶装置24と通信可能に接続されている。計算部23は、変換部22と、記憶装置24と、出力装置25とに接続されている。計算部23は真偽判定部231を含んでいる。ここで、変換部22および計算部23は、コンピュータによって構成可能である。記憶装置24は、フレキシブルディスク又はCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等のコンピュータで読み取り可能な、読み取り装置又は磁気記憶装置を備えてもよい。
【0079】
CPU201は、ネットワークインターフェース203から受信したプログラムコードをメモリ202上に展開してもよい。あるいは、CPU201は、記憶装置24(CD-ROMまたは磁気記憶装置など)に記憶されたプログラムコードを読み出してメモリ202上に展開してもよい。そして、CPU201が、メモリ202に展開されたプログラムコードを解釈し実行することで、
図3に示すような変換部22及び真偽判定部231を含む計算部23として各種機能が実現され得る。また、必要なプログラムを任意の不揮発性記録媒体に記録しておき、必要に応じてインストールすることで、各構成要素(変換部22及び計算部23)を実現するようにしてもよい。あるいは、各構成要素は、プログラムによるソフトウェアで実現することに限ることなく、ハードウェア、ファームウェア、及びソフトウェアのうちのいずれかの組み合わせ等により実現してもよい。また、各構成要素は、例えばFPGA(field-programmable gate array)又はマイコン(Micro Computer)等の、ユーザがプログラミング可能な集積回路を用いて実現してもよい。この場合、この集積回路を用いて、上記の各構成要素から構成されるプログラムを実現してもよい。
【0080】
真偽判定部231は、本実施例では、ReduceのQEツールであるRedlogのrlqeコマンドによって実現され得る。rlqeコマンドは、実数の一階述語論理の量化子除去(QE(Quantifier Elimination))のアルゴリズムを実現する。rlqeコマンドは、自由変数を含まない閉論理式に対しては、その真偽を返す。
【0081】
記憶装置24は、少なくともネットワークインターフェースおよび磁気記憶装置を備える。記憶装置24は、条件付確率の定義式群、確率情報を表す論理式群、命題変数群および評価精度のパラメータを記憶している。本実施例においては、条件付確率の定義式群として以下の論理式PF1~PF6が記憶されているものとする(非特許文献3のp.337参照)。なお、条件付確率の定義を表す条件付確率の論理式群であれば、以下のPF1~PF6以外の論理式群でも適用可能である。
PF1:
(∀x:form)(∀y:form)(∃x’:form)(∃y’:form)p(x|y)≠p(x’|y’)
PF2:
(∀x:form)(∀y:form)[((∀z:form)p(x|z)=p(y|z))→((∀w:form)p(w|x)=p(w|y))]
PF3:
(∀x:form)(∀y:form)p(x|x)=p(y|y)
PF4:
(∀x:form)(∀y:form)(∀z:form)p(x∧y|z)≦p(x|z)
PF5:
(∀x:form)(∀y:form)(∀z:form)p(x∧y|z)=p(x|y∧z)p(y|z)
PF6:
(∀x:form)(∀y:form)[(¬(∀z:form)p(y|y)=p(z|y))→p(x|y)+p(¬x|y)=p(y|y)]
【0082】
PF1~PF3は、∧にも¬にも関係のない性質を示す論理式である。PF4及びPF5は、∧に関する性質を示す論理式である。PF6は、¬に関する性質を示す論理式である。PF1は、すべての引数で同じ値を取る自明な(たとえば、任意の引数で値1を取るような)確率は存在しないことを示す。PF2は、任意の条件zでのxとyの確率p(x|z)とp(y|z)の値が同じならば、xとyは確率的な観点からは同一視でき、xで条件付けることとyで条件付けることは同値であること、つまり任意のwに対して条件確率p(w|x)とp(w|y)は同じ値になること、を示す。PF3は、結局はこれらの6つの公理から最終的にp(x|x)=1であることが証明されるものである。なお、初めから1と書かないのは、非特許文献3の著者Popperが、確率値が実数であることは、この6つの公理(=定義)から独立であることを証明するために、これらの6つの公理を実数に依存しないように記述したためである(非特許文献3のp.347参照)。
【0083】
PF4は、条件z付きで、x∧yの確率がxの確率より小さいということを示す。PF5は、条件付確率と非条件付確率との間の関係を示している。実際、zという条件を無視すればp(x∧y)=p(x|y)p(y)であり、これは一般的な条件付確率の定義p(x|y)=p(x∧y)/p(y)に対して分母p(y)を払ったものである。PF6は、「すべてのzでp(z|y)=1」でない(すべてのyでp(z|y)=1であるとき、yはFalseとみなせるので、これはyがFalseでないことを意味する)ならばその条件yのもとで、xの確率と¬xの確率の和は1であることを示す。
【0084】
また、確率情報を表す論理式群として、p(胃がん|大腸がん)=1/2とp(肺がん|大腸がん)=1/3が記憶されているとする。また、命題変数群として、「胃がん」、「肺がん」、「大腸がん」が記憶されているものとする。さらに、評価精度のパラメータとして、「10」という自然数が記憶されているとする。
【0085】
(動作の説明)
図4A及び
図4Bは、第1の実施の形態の具体例にかかる情報処理システム200の動作を示すフローチャートある。なお、以下、
図4A及び
図4Bを総称して、単に
図4と称することがある。まず、入力装置21は、求めたい条件付確率を表す閉項p(胃がん∧肺がん|大腸がん)を受け付ける(ステップB1)。
【0086】
次に、変換部22は、上述した変換Tを適用して、以下に示すように、変換を行う(ステップB2)。具体的には、変換部22は、入力された条件付確率を表す閉項p(胃がん∧肺がん|大腸がん)を実数の変数V([胃がん∧肺がん]|[大腸がん])に変換する。また、変換部22は、記憶装置24に記憶されている条件付確率の定義式群PF1,・・・,PF6を実数の一階述語論理式群T(PF1),・・・,T(PF6)に変換する。また、変換部22は、p(胃がん|大腸がん)=1/2とp(肺がん|大腸がん)=1/3をそれぞれV([胃がん]|[大腸がん])=1/2とV([肺がん]|[大腸がん])=1/3に変換する。
【0087】
ここで、Lindenbaum-Tarski代数の元は、記憶装置24に記憶されている命題変数群「胃がん」、「肺がん」、「大腸がん」を用いて以下のように記述される。命題変数「胃がん」、「肺がん」、「大腸がん」に対する真偽の割り当ては、(胃がん:真,肺がん:真,大腸がん:真),・・・,(胃がん:偽,肺がん:偽,大腸がん:偽)の8通りある。これらの割り当てについて、真ならそのまま、偽ならその否定とした連言、すなわち(胃がん∧肺がん∧大腸がん),・・・,(¬胃がん∧¬肺がん∧¬大腸がん)、をとる。
【0088】
また、任意の論理式Xに対して、[X]を、Xが真となる割り当ての連言の選言と対応させる。例えば、「胃がん∧肺がん」は、ちょうど(胃がん:真、肺がん:真、大腸がん:真)と(胃がん:真、肺がん:真、大腸がん:偽)で真であるので、[胃がん∧肺がん]は(胃がん∧肺がん∧大腸がん)∨(胃がん∧肺がん∧¬大腸がん)と記述される。同様に、[大腸がん]は、(胃がん∧肺がん∧大腸がん)∨(胃がん∧¬肺がん∧大腸がん)∨(¬胃がん∧肺がん∧大腸がん)∨(¬胃がん∧¬肺がん∧大腸がん)と記述される。
【0089】
この記法を用いて、変換部22は、p(胃がん∧肺がん|大腸がん)を実数の変数V([胃がん∧肺がん]|[大腸がん])に変換する。さらに、変換部22は、条件付確率の定義式群と確率情報を表す論理式群を以下のように変換する。すなわち、変換部22は、p(胃がん|大腸がん)=1/2をV([胃がん]|[大腸がん])=1/2に変換し、p(肺がん|大腸がん)=1/3をV([肺がん]|[大腸がん])=1/3と変換する。なお、論理式PF1,・・・,PF6に関しては、「第1の実施の形態」の「動作の説明」を参照されたい。また、PF3は式1に変換される。
【0090】
次に、計算部23は、評価精度パラメータとして記憶されている自然数10に対して、[0,1]を[0,1/10],・・・,[9/10,1]に10等分し、変数nに1を代入する(ステップB3)。なお、このnは、グリッド[(n-1)/10,n/10]を表すパラメータである。
【0091】
計算部23は、この変数nに対して、以下のループ処理を行う(ステップB4~B6)。まず、真偽判定部231は、以下の式7の真偽を判定する(ステップB4)。
【数7】
【0092】
次に、真偽判定部231は、以下の式8の真偽を判定する(ステップB5)。
【数8】
なお、上記の式7及び式8の真偽の判定には、上述のQEのアルゴリズムが用いられ得る。
【0093】
計算部23は、閉区間[(n-1)/10,n/10]に対して、式7が真ならば「内部」、式7が偽で式8が真なら「境界」、式7も式8も偽なら「外部」と判定する(ステップB6)。計算部23は、n=10ならばループを終了し、n<10ならばnにn+1を代入して再度同じ処理(B4~B6)を行う(ステップB7)。
【0094】
出力装置25は、ステップB6で得られたすべての判定結果を出力する(ステップB8)。つまり、出力装置25は、各閉区間が「内部」、「境界」及び「外部」のいずれに対応するかを出力する。
【0095】
図5は、第1の実施の形態の具体例にかかる出力装置25によって表示される判定結果(ステップB8)を例示する図である。出力装置25は、[(n-1)/10,n/10](n=1,・・・,10)に対して、「内部」であれば黒、「境界」であれば灰色、「外部」であれば白として位置関係を保ちつつ出力する。
図5の各四角がグリッド(閉区間)に対応する。グリッド(閉区間)[0,1/10]、[1/10,2/10]及び[2/10,3/10]については「内部」と判定されたので黒色で表示されている。[3/10,4/10]については「境界」と判定されたので灰色で表示されている。[4/10,5/10]、[5/10,6/10]、[6/10,7/10]、[7/10,8/10]、[8/10,9/10]及び[9/10,10/10]については「外部」と判定されたので白色で表示されている。なお、実際に、P(肺がん∧胃がん|大腸がん)が取りうる値の範囲は、0≦P(肺がん∧胃がん|大腸がん)≦1/3、すなわち0%≦P(肺がん∧胃がん|大腸がん)≦33.33・・・%、である。
【0096】
(効果の説明)
以上より、P(胃がん|大腸がん)=1/2とP(肺がん|大腸がん)=1/3という確率情報から、大腸がんであることが分かっている場合に「肺がん且つ胃がん」である確率が取りうる値の範囲は、内側(内部グリッド全体)からは0%以上30%以下、外側(内部および境界グリッド全体)からは0%以上40%以下であることがわかる。さらにこの評価は、評価精度を本実施例の10から100又は1000などと増やすことで、任意に高精度にすることができる。たとえば、評価精度が100であれば、「胃がん且つ肺がん」である確率が取りうる値の範囲の、内側からの評価は0%以上33%以下であり、外側からの評価は0%以上34%以下であることがわかる。
【0097】
[第2の実施の形態]
(構成の説明)
次に、本開示の第2の実施の形態について図面を参照して説明する。
図6は、第2の実施の形態にかかる情報処理システム300を示すブロック図である。
図6に示されるように、第2の実施の形態にかかる情報処理システム300は、条件付確率計算装置3と、入力装置31と、出力装置35とを有する。また、第2の実施の形態にかかる条件付確率計算装置3は、変換部32と、計算部33と、記憶装置34とを有する。変換部32は、入力装置31と、計算部33と、記憶装置34とに接続されている。計算部33は、変換部32と、記憶装置34と、出力装置35とに接続されている。計算部33は、量化子除去部331及び論理式簡略化部332を含んでいる。
図6を参照すると、第2の実施の形態にかかる計算部33が、第1の実施の形態にかかる計算部13と異なる。計算部33は、量化子除去部331と論理式簡略化部332を含み、真偽判定部131を含まない。第2の実施の形態のそれ以外の構成要素については、第1の実施の形態にかかる構成要素と実質的に同様である。
【0098】
条件付確率計算装置3の各構成要素はそれぞれ概略つぎのように動作する。まず、入力装置31および変換部32は、入力装置11および変換部12と同一のものであり、同一の動作を行う。つまり、計算部33以外の構成要素の動作については、第2の実施の形態にかかる構成要素と実質的に同様である。
【0099】
計算部33がはじめに構成する実数の論理式は、以下の式9である。
【数9】
この式9は、条件付確率の定義式群及び確率情報を表す論理式群が変換された実数の論理式群を制約条件として実数の変数群が取りうる値の範囲を定義する。なお、式9は、入力装置31に入力される閉項群が表す条件付確率群の正確な領域を与え得るが、人間にとって理解し難く、可読性に乏しい。
【0100】
量化子除去部331は、この式9を、量化子を一切含まない同値な実数の論理式に変換する。論理式簡略化部332は、この実数の論理式を簡略化する。その結果、計算部33が出力する実数の論理式は、変数群(V([A1]|[B1]),・・・,V([AI]|[BI]))が条件T(PFj)(j=1,・・・,J)およびT(Conk)(k=1,・・・,K)の制約のもとで取りうる値の範囲を定義している。さらに、この範囲は、条件付確率(P(A1|B1),・・・,P(AI|BI))が、論理式Conk(k=1,・・・,K)で表された制約のもとで、取りうる値の範囲である。
【0101】
(動作の説明)
図7は、第2の実施の形態にかかる情報処理システム300の動作を示すフローチャートある。まず、入力装置31及び変換部32は、それぞれ
図1に示した第1の実施の形態おける入力装置11及び変換部12と実質的に同一のものである。したがって、入力装置31及び変換部32は、それぞれステップA1,A2と実質的に同一の処理を行う(ステップC1,C2)。
【0102】
次に、計算部33は、式9の量化子を含まない同値な実数の論理式ψを計算する(ステップC3)。具体的には、計算部33の量化子除去部331は、変換部32で出力された実数の変数群V([Ai]|[Bi])(i=1,・・・,I)と、実数の論理式群T(PFj)(j=1,・・・,J)及びT(Conk)(k=1,・・・,K)と、記憶装置34に記憶された命題変数群とを用いて、式9を構成する。量化子除去部331は、QEのアルゴリズムなどを用いて、この論理式(式9)と同値であり、かつ量化子を含まない実数の論理式ψを計算する。言い換えると、量化子除去部331は、式9を、式9と同値であり且つ量化子を一切含まない同値な実数の論理式に変換する。
【0103】
論理式簡略化部332は、論理式ψと同値で、より簡略化された論理式ψ’を計算する(ステップC4)。具体的には、この論理式ψは冗長な表現になっていることがあるため、論理式簡略化部332は、この量化子を含まない論理式ψを、この論理式ψと同値であり且つより簡略な論理式ψ’に変換する。簡略な論理式への変換方法は、例えば、QEのアルゴリズムを拡張することで行われてもよい。なお、C4の処理は行われなくてもよい。最後に、出力装置35は、この簡略化された論理式ψ’を出力する(ステップC5)。
【0104】
(効果の説明)
次に、第2の実施の形態の効果について説明する。第2の実施の形態にかかる計算部33は、入力装置31に入力される閉項群が表す条件付確率群の取りうる正確な範囲を定義する、量化子を含まない簡略化された実数の論理式を計算できる。このように、量化子除去及び簡約化という2つの変換を行うことで、複雑な論理式で記述された「取りうる値の正確な範囲」を、より単純で理解しやすい(つまり人間にとって可読性が向上した)形に変形することができる。これにより、入力装置31に入力される閉項群が表す条件付確率群の取りうる範囲が、例えば、0≦P(A|B)≦1/3といった、単純な形に変形され得る。
【0105】
なお、計算部33は、論理式簡略化部332を含まなくてもよい。この場合、計算部33は、簡略化されていないが、量化子を含まない実数の論理式を出力する。このように、量化子除去という変換のみであっても、複雑な論理式で記述された「取りうる値の正確な範囲」を、より単純で理解しやすい(つまり人間にとって可読性が向上した)形に変形することができる。
【0106】
なお、第1の実施の形態の出力は、条件付確率群の取り得る範囲の「評価」であったため、取りうる値の範囲が「内側」及び「外側」からの「評価」であった。つまり、第1の実施の形態では、条件付確率群の取り得る範囲の正確な範囲が得られるわけではない。これに対し、第2の実施の形態では、0≦p(肺がん|大腸がん)≦1/3のように正確な領域が与えられる。
【0107】
なお、その領域が、例えば、以下の式10で示すような、多項式間の不等式で表現される場合もある。
【数10】
この場合は、直観的な理解のしやすさという点で、第1の実施の形態にかかる方法の方が有利であり得る。
【0108】
なお、上述したように、量化子除去をする前の段階の論理式(式9)は、入力装置31に入力される閉項群が表す条件付確率群の正確な領域を与え得る。その上で、量化子除去及び簡約化という2つの変換が、式9に対して同値な変形を行うため、最終結果も、条件付確率群の取り得る値の範囲の正確な領域を与え得る。
【0109】
なお、上述したように、式9は、条件付確率群の正確な領域(範囲)を与え得る一方で、人間にとって理解し難く、可読性に乏しい。これに対し、第1の実施の形態にかかる方法は、任意の精度で条件付確率群の取りうる値の範囲を評価することで、「評価」という点で数学的に正しく、任意の精度という前提で真の値が分かるように構成されている。言い換えると、第1の実施の形態では、条件付確率群の取りうる値の領域(範囲)の正確性を前提としているわけではない。これに対し、第2の実施の形態では、式9に対して同値な変形を行うため、条件付確率群の取り得る値の範囲の正確さを保ちつつ、できる限り人間にとって可読な結果を得ることができる。
【0110】
[第3の実施の形態]
次に、本開示の第3の実施の形態について図面を参照して説明する。第3の実施の形態は、第2の実施の形態で出力される多項式間の不等式(のブール結合、すなわちブール結合子による結合)をさらに処理し、その不等式(のブール結合)が定義する領域を図示するものである。
【0111】
(構成の説明)
図8は、第3の実施の形態にかかる情報処理システム400を示すブロック図である。
図8に示されるように、第3の実施の形態にかかる情報処理システム400は、条件付確率計算装置4と、入力装置41と、出力装置45とを有する。また、第3の実施の形態にかかる条件付確率計算装置4は、変換部42と、計算部43と、記憶装置44とを有する。変換部42は、入力装置41と、計算部43と、記憶装置44とに接続されている。計算部43は、変換部42と、記憶装置44と、出力装置45とに接続されている。計算部43は、量化子除去部431及び近似グラフ作成部432を含んでいる。
図8を参照すると、第3の実施の形態にかかる計算部43が、第2の実施の形態にかかる計算部33と異なる。計算部43は、量化子除去部431と近似グラフ作成部432を含み、論理式簡略化部332を含まない。第3の実施の形態のそれ以外の構成要素については、第2の実施の形態にかかる構成要素と実質的に同様である。
【0112】
条件付確率計算装置4の各構成要素はそれぞれ概略つぎのように動作する。まず、入力装置41および変換部42は、入力装置11および変換部12と同一のものであり、同一の動作を行う。つまり、計算部43以外の構成要素の動作については、第1の実施の形態にかかる構成要素と実質的に同様である。近似グラフ作成部432は、条件付確率群の取りうる値の範囲をグラフィカルに表示する近似グラフを作成する。近似グラフは、条件付確率の定義式群及び確率情報を表す論理式群が変換された実数の論理式群を制約条件として実数の変数群が取りうる値の範囲を表す。
【0113】
(動作の説明)
図9は、第3の実施の形態にかかる情報処理システム400の動作を示すフローチャートある。まず、入力装置41は、値を得たい1つ以上3つ以下の条件付確率を表す閉項p(Ai|Bi)(i=1,・・・,I)の入力を受け付ける(ステップD1)。すなわち、1≦I≦3である。Iは、条件付確率群の取りうる値の範囲をグラフィカルに表示する際の次元数に対応している。つまり、1≦I≦3(3次元以下)とすることで、条件付確率群の取りうる値の範囲のグラフィクス表示が可能となる。
【0114】
変換部42は、第1の実施の形態における変換部12と実質的に同一のものであるので、ステップA2と実質的に同一の処理を行う(ステップD2)。次に、量化子除去部431は、第2の実施の形態における量化子除去部331と同一のものであるので、ステップC3と実質的に同一の処理を行う(ステップD3)。
【0115】
ステップD3で出力される論理式は、たとえば、
【数11】
のように、入力した条件付確率を表す閉項群を変換した実数の変数群に関する多項式間の等式又は不等式を、∧又は¬といったブール結合子で結合した論理式である。なお、条件付確率を表す閉項群を変換した実数の変数群は、式11では、p(A|B)及びp(C|B)をそれぞれ変換した「V([A]|[B])」及び「V([C]|[B])」に対応する。
【0116】
次に、近似グラフ作成部432は、この論理式で定められる領域をグラフィカルに出力できるよう近似グラフを作成する(ステップD4)。つまり、近似グラフ作成部432は、ψの条件の下で変数群(V([Ai]|[Bi]),・・・,V([AI]|[BI])の取りうる値の範囲を示す近似グラフを作成する。次に、出力装置45は、得られた近似グラフをグラフィカルに出力する(ステップD5)。
【0117】
図10は、第3の実施の形態にかかる近似グラフを例示する図である。
図10は、式11の境界を折れ線で近似した例であり、境界を含むハッチングされた領域(矢印Aで示す)が式11で定義される領域である。また、矢印Bで示す下側の曲線は、「V([C]|[B])=V([A]|[B])
2」に対応する。したがって、式11の1つ目の不等式は、この下側の曲線より上の領域を定義する。一方、矢印Cで示す上側の直線は、V([C]|[B])=V([A]|[B])に対応する。したがって、式11の2つ目の不等式は、この上側の直線より下側の領域を定義する。そして、これらの前半の不等式と後半の不等式との連言である式11は、これら2つの領域の共通部分を定義している。
【0118】
(効果の説明)
次に、第3の実施の形態の効果について説明する。第3の実施の形態にかかる計算部43は、入力された閉項群が表す条件付確率群の取りうる値の範囲を示す近似グラフを得ることができる。これにより、入力された閉項群が表す条件付確率群の取りうる値の範囲の概略(近似)を視覚的に把握することが可能となる。なお、視覚的に把握可能とするために、第3の実施の形態にかかる条件付確率群の取りうる値の範囲は、第2の実施の形態にかかる条件付確率群の取りうる値の範囲よりも正確性が劣り得る。
【0119】
図11は、第3の実施の形態かかる計算部43の変形例を示す図である。第3の実施の形態において、
図11に示すように、計算部43は、論理式簡略化部461をさらに備える構成であってもよい。この場合、量化子除去部431が、式9を量化子を含まない同値な論理式に変形し(ステップD3)、さらに論理式簡略化部461がその論理式を簡略化する(ステップC4参照)。近似グラフ作成部432は、その簡略化された論理式で定められる領域の近似グラフを作成する。ただし、簡略化された論理式と簡略化前の量化子を含まない論理式とは同値であるため、計算部43が論理式簡略化部461を含む場合(
図11)も含まない場合(
図8)も、出力される領域(範囲)は互いに同一である。
【0120】
[第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態について説明する。
図12は、第4の実施の形態にかかる情報処理装置500を示す図である。情報処理装置500は、コンピュータとしての機能を有する。情報処理装置500は、変換手段として機能する変換部510と、計算手段として機能する計算部520とを有する。変換部510は、上述した各実施の形態の変換部が有している機能と実質的に同様の機能によって実現できる。また、計算部520は、上述した各実施の形態の計算部が有している機能と実質的に同様の機能によって実現できる。
【0121】
なお、情報処理装置500は、記憶手段として機能する記憶部530を有してもよい。記憶部530は、変換で使用される命題変数群を記憶してもよい。また、上述した実施の形態のように、変換部510、計算部520及び記憶部530は、情報処理装置500が備えるCPUがプログラムを実行することで、実現されてもよい。
【0122】
図13は、第4の実施の形態にかかる情報処理装置500によって実行される情報処理方法を示すフローチャートである。変換部510は、取り得る値の範囲の計算対象である条件付確率群を、実数の変数群に変換する(ステップS102)。ここで、「取り得る値の範囲の計算対象である条件付確率群」とは、上述したステップA1等における、「値を得たい条件付確率群(を表す閉項群)」に対応する。
【0123】
計算部520は、第1の一階述語論理式群と第2の一階述語論理式群とが変換された実数の一階述語論理式群を制約条件として、S102で変換された実数の変数群が取り得る値の範囲を計算する(ステップS104)。ここで、「第1の一階述語論理式群」は、上述した「条件付確率の定義式群」に対応する。したがって、第1の一階述語論理式群は、命題論理式の2つの組を受け取って当該2つの組によって表される事象間の条件付確率を返す関数を特徴づける。また、「第2の一階述語論理式群」は、上述した「確率情報を表す論理式群」に対応する。したがって、第2の一階述語論理式群は、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方を表す。
【0124】
また、「変換された実数の一階述語論理式群」は、上述した変換後の実数の論理式群に対応する。ここで、「変換された実数の一階述語論理式群」は、上述した実施の形態と同様に、変換部510が第1の一階述語論理式群及び第2の一階述語論理式群を変換することによって取得されてもよい。あるいは、「変換された実数の一階述語論理式群」は、予め記憶部530に記憶されていてもよい。つまり、処理が実行されるごとに、第1の一階述語論理式群及び第2の一階述語論理式群を実数の一階述語論理式群に変換する必要はない。このことは、上述した実施の形態においても同様である。
【0125】
計算部520は、第1の実施の形態にかかる計算部13と実質的に同様の方法によって、実数の変数群が取り得る値の範囲を計算してもよい。したがって、計算部520は、実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの実数の変数群が取りうる値の範囲を、指定された精度で評価してもよい。このとき、計算部520は、実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの実数の変数群が取りうる値の範囲に関する実数の閉論理式の真偽を判定することで、前記範囲の評価を行ってもよい。
【0126】
また、計算部520は、第2の実施の形態にかかる計算部33と実質的に同様の方法によって、実数の変数群が取り得る値の範囲を計算してもよい。したがって、計算部520は、実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの実数の変数群が取りうる値の範囲を定義する実数の論理式から、量化子を含まず実数の論理式よりも簡略化された実数の一階述語論理式を計算してもよい。また、計算部520は、第3の実施の形態にかかる計算部43と実質的に同様の方法によって、実数の変数群が取り得る値の範囲を計算してもよい。したがって、計算部520は、実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの実数の変数群が取りうる値の範囲を表すグラフ(近似グラフ)を作成してもよい。
【0127】
第4の実施の形態にかかる情報処理装置500は、上記のように構成されているので、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方から、指定された条件付確率群の取りうる値の範囲を確実に計算することが可能となる。なお、情報処理装置500によって実行される情報処理方法、及び、情報処理方法を実行するプログラムを用いても、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方から、指定された条件付確率群の取りうる値の範囲を確実に計算することが可能となる。
【0128】
(変形例)
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述したフローチャートの各ステップの処理の1つ以上は、省略され得る。また、上述したフローチャートの各ステップの順序は、適宜、変更可能である。例えば、
図2のステップA4及びステップA5の順序は、逆でもよい。同様に、
図4のステップB4及びステップB5の順序は、逆でもよい。
【0129】
上述の例において、プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM)を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0130】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0131】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
取り得る値の範囲の計算対象である条件付確率群を、実数の変数群に変換する変換手段と、
命題論理式の2つの組を受け取って当該2つの組によって表される事象間の条件付確率を返す関数を特徴づける第1の一階述語論理式群と、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方を表した第2の一階述語論理式群とが変換された実数の一階述語論理式群を制約条件として、前記実数の変数群が取り得る値の範囲を計算する計算手段と、
を有する情報処理装置。
(付記2)
前記第1の一階述語論理式群および第2の一階述語論理式群は、条件付確率の論理式で表現できる高次多項式間の等式および不等式に対してブール結合子および量化子を用いて表現される内容が許容されている、
付記1に記載の情報処理装置。
(付記3)
前記変換で使用される命題変数群を記憶する記憶手段
をさらに有する付記1又は2に記載の情報処理装置。
(付記4)
前記計算手段は、前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲を、指定された精度で評価する、
付記1から3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(付記5)
前記計算手段は、前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲に関する実数の閉論理式の真偽を判定することで、前記範囲の評価を行う、
付記4に記載の情報処理装置。
(付記6)
前記計算手段は、前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲を定義する実数の論理式から、量化子を含まず前記実数の論理式よりも簡略化された実数の一階述語論理式を計算する、
付記1から3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(付記7)
前記計算手段は、前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲を表すグラフを作成する、
付記1から3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(付記8)
取り得る値の範囲の計算対象である条件付確率群を、実数の変数群に変換し、
命題論理式の2つの組を受け取って当該2つの組によって表される事象間の条件付確率を返す関数を特徴づける第1の一階述語論理式群と、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方を表した第2の一階述語論理式群とが変換された実数の一階述語論理式群を制約条件として、前記実数の変数群が取り得る値の範囲を計算する、
情報処理方法。
(付記9)
前記第1の一階述語論理式群および第2の一階述語論理式群は、条件付確率の論理式で表現できる高次多項式間の等式および不等式に対してブール結合子および量化子を用いて表現される内容が許容されている、
付記8に記載の情報処理方法。
(付記10)
前記変換で使用される命題変数群が記憶されている
付記8又は9に記載の情報処理方法。
(付記11)
前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲を、指定された精度で評価する、
付記8から10のいずれか1項に記載の情報処理方法。
(付記12)
前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲に関する実数の閉論理式の真偽を判定することで、前記範囲の評価を行う、
付記11に記載の情報処理方法。
(付記13)
前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲を定義する実数の論理式から、量化子を含まず前記実数の論理式よりも簡略化された実数の一階述語論理式を計算する、
付記8から10のいずれか1項に記載の情報処理方法。
(付記14)
前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲を表すグラフを作成する、
付記8から10のいずれか1項に記載の情報処理方法。
(付記15)
取り得る値の範囲の計算対象である条件付確率群を、実数の変数群に変換する処理と、
命題論理式の2つの組を受け取って当該2つの組によって表される事象間の条件付確率を返す関数を特徴づける第1の一階述語論理式群と、既知の条件付確率の値及び条件付確率の相互の関係の少なくとも一方を表した第2の一階述語論理式群とが変換された実数の一階述語論理式群を制約条件として、前記実数の変数群が取り得る値の範囲を計算する処理と、
をコンピュータに実行させるプログラムが格納された非一時的なコンピュータ可読媒体。
(付記16)
前記第1の一階述語論理式群および第2の一階述語論理式群は、条件付確率の論理式で表現できる高次多項式間の等式および不等式に対してブール結合子および量化子を用いて表現される内容が許容されている、
付記15に記載のプログラムが格納された非一時的なコンピュータ可読媒体。
(付記17)
前記変換で使用される命題変数群が記憶されている
付記15又は16に記載のプログラムが格納された非一時的なコンピュータ可読媒体。
(付記18)
前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲を、指定された精度で評価する処理、
をコンピュータに実行させる付記15から17のいずれか1項に記載のプログラムが格納された非一時的なコンピュータ可読媒体。
(付記19)
前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲に関する実数の閉論理式の真偽を判定することで、前記範囲の評価を行う処理、
をコンピュータに実行させる付記18に記載のプログラムが格納された非一時的なコンピュータ可読媒体。
(付記20)
前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲を定義する実数の論理式から、量化子を含まず前記実数の論理式よりも簡略化された実数の一階述語論理式を計算する処理、
をコンピュータに実行させる付記15から17のいずれか1項に記載のプログラムが格納された非一時的なコンピュータ可読媒体。
(付記21)
前記実数の一階述語論理式群を制約条件としたときの前記実数の変数群が取りうる値の範囲を表すグラフを作成する処理、
をコンピュータに実行させる付記15から17のいずれか1項に記載のプログラムが格納された非一時的なコンピュータ可読媒体。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、例えば、医療に関する分析や気象予測などに利用できる。
【符号の説明】
【0133】
100 情報処理システム
1 条件付確率計算装置
11 入力装置
12 変換部
13 計算部
14 記憶装置
15 出力装置
131 真偽判定部
200 情報処理システム
2 条件付確率計算装置
21 入力装置
22 変換部
23 計算部
24 記憶装置
25 出力装置
231 真偽判定部
300 情報処理システム
3 条件付確率計算装置
31 入力装置
32 変換部
33 計算部
34 記憶装置
35 出力装置
331 量化子除去部
332 論理式簡略化部
400 情報処理システム
4 条件付確率計算装置
41 入力装置
42 変換部
43 計算部
44 記憶装置
45 出力装置
431 量化子除去部
432 近似グラフ作成部
461 論理式簡略化部
500 情報処理装置
510 変換部
520 計算部
530 記憶部