IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社富士通ゼネラルの特許一覧

<>
  • 特許-モータ制御装置 図1
  • 特許-モータ制御装置 図2
  • 特許-モータ制御装置 図3
  • 特許-モータ制御装置 図4
  • 特許-モータ制御装置 図5
  • 特許-モータ制御装置 図6
  • 特許-モータ制御装置 図7
  • 特許-モータ制御装置 図8
  • 特許-モータ制御装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/14 20160101AFI20240326BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H02P21/14
H02P27/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022138681
(22)【出願日】2022-08-31
(65)【公開番号】P2024034451
(43)【公開日】2024-03-13
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 侑大
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-034897(JP,A)
【文献】特開2009-261101(JP,A)
【文献】特開2008-086124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加するインバータと、
前記直流電源と前記インバータとの間に接続された抵抗を用いて前記インバータの母線電流を検出する検出部と、
前記母線電流に基づいて前記モータに流れるモータ電流を算出する算出部と、
前記モータ電流に含まれるノイズ成分を前記モータ電流から抽出する抽出部と
具備し、
前記抽出部は、前記モータ電流から前記ノイズ成分と異なる非ノイズ成分を除去することにより前記ノイズ成分を抽出する、
モータ制御装置。
【請求項2】
前記ノイズ成分に基づいて前記母線電流のノイズの大きさを判定する判定部、をさらに具備する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加するインバータと、
前記直流電源と前記インバータとの間に接続された抵抗を用いて前記インバータの母線電流を検出する検出部と、
前記母線電流に基づいて前記モータに流れるモータ電流を算出する算出部と、
前記モータ電流に含まれるノイズ成分を前記モータ電流から抽出する抽出部と、
前記ノイズ成分に基づいて前記母線電流のノイズの大きさを判定する判定部と、
を具備し、
前記判定部は、
前記ノイズ成分が閾値未満であるときに前記母線電流の前記ノイズが小さいと判定し、
前記母線電流の前記ノイズが小さいと判定したときの前記ノイズ成分に基づいて前記閾値を更新する、
モータ制御装置。
【請求項4】
前記判定部は、所定期間において前記母線電流の前記ノイズが小さいと判定したときの前記所定期間における前記ノイズ成分のピーク値に基づいて前記閾値を更新する、
請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記所定期間は、前記モータの回転に伴って前記モータの負荷が脈動する周期である負荷脈動周期である、
請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
記抽出部は、前記モータの回転数に依存する高調波成分を含む周波数成分を前記非ノイズ成分として前記モータ電流から除去することにより前記モータ電流に含まれる前記ノイズ成分を前記モータ電流から抽出する、
請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
記抽出部は、前記モータの負荷の脈動に起因する周波数成分を前記非ノイズ成分として前記モータ電流から除去することにより前記モータ電流に含まれる前記ノイズ成分を前記モータ電流から抽出する、
請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
記抽出部は、前記モータ電流の平均値であるオフセット成分を前記非ノイズ成分として前記モータ電流から除去することにより前記モータ電流に含まれる前記ノイズ成分を前記モータ電流から抽出する、
請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加するインバータと、
前記直流電源と前記インバータとの間に接続された抵抗を用いて前記インバータの母線電流を検出する検出部と、
前記母線電流に基づいて前記モータに流れるモータ電流を算出する算出部と、
前記モータ電流に含まれるノイズ成分を前記モータ電流から抽出する第一抽出部と、
前記ノイズ成分に基づいて前記母線電流のノイズの大きさを判定する判定部と、
を具備し、
前記第一抽出部は、前記モータ電流から前記ノイズ成分と異なる非ノイズ成分を除去することにより前記ノイズ成分を抽出し、
前記インバータは、PWM制御によって前記交流電圧を前記モータに印加し、
前記判定部は、前記ノイズ成分が閾値以上であるときに前記母線電流の前記ノイズが大きいと判定し、
前記第一抽出部は、前回のキャリア周期で算出された前記モータ電流と、前回のキャリア周期で抽出した前記ノイズ成分と、今回のキャリア周期で算出された前記モータ電流とに基づいてフィルタ処理を行うことにより、前記モータ電流から前記非ノイズ成分を除去して前記モータ電流に含まれる前記ノイズ成分を前記モータ電流から抽出し、
前回のキャリア周期において前記判定部によって前記母線電流の前記ノイズが大きいと判定されたときに、今回のキャリア周期で、前記ノイズの影響が低減された仮想モータ電流と、前記仮想モータ電流に含まれる仮想ノイズ成分とを前記第一抽出部へ出力する第二抽出部、をさらに具備する、
モータ制御装置。
【請求項10】
前記第一抽出部は、所定のフィルタ定数を用いて前記フィルタ処理を行い、
前記第二抽出部は、前記所定のフィルタ定数と同一のフィルタ定数を用いて、前記仮想モータ電流に基づいてフィルタ処理を行うことにより前記仮想モータ電流に含まれる前記仮想ノイズ成分を前記仮想モータ電流から抽出する、
請求項9に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
前記第一抽出部は、前回のキャリア周期において前記判定部によって前記母線電流の前記ノイズが大きいと判定されたときに、今回のキャリア周期では、前回のキャリア周期で算出された前記モータ電流及び前回のキャリア周期で抽出した前記ノイズ成分を、今回のキャリア周期で前記第二抽出部から入力された前記仮想モータ電流及び前記仮想ノイズ成分に置き換えて前記フィルタ処理を行う、
請求項9に記載のモータ制御装置。
【請求項12】
前記第二抽出部は、前々回のキャリア周期で算出された前記モータ電流に所定の加算値を加えることにより前記仮想モータ電流を算出し、
前記所定の加算値は、前記第一抽出部が抽出したノイズ成分の符号と同一の符号を有し、かつ、前記所定の加算値の絶対値は前記閾値の絶対値より小さい、
請求項9に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの駆動を制御するモータ制御装置は、モータに印加される3相の交流電圧(以下では「3相電圧」と呼ぶことがある)を生成するインバータを有する。インバータは、複数のスイッチング素子から構成される。
【0003】
また、モータ制御装置に対してベクトル制御を用いる場合、モ-タ制御装置は、モータの回転速度が速度指令値(目標速度)に一致するようにd軸電流指令値及びq軸電流指令値を生成し、d軸電流指令値及びq軸電流指令値からd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を生成する。さらに、モータ制御装置は、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を3相の電圧指令値へ変換する。
【0004】
3相の電圧指令値に基づいてインバータを制御する技術としてPWM(Pulse Width Modulation)が知られている。PWMは、インバータを構成する複数のスイッチング素子のオン/オフ時間の長さを調節することによりインバータの出力電圧(つまり、3相電圧)を変化させる技術である。スイッチング素子のオン/オフを制御する信号(以下では「PWM信号」と呼ぶことがある)は、PWMの搬送波であるキャリアと変調波との比較結果に基づいて生成される。PWM信号に応じてスイッチング素子のオン/オフが制御されることにより、モータに3相電圧が印加されてモータの駆動が制御される。
【0005】
また、モータのロータの回転位置(以下では「ロータ位置」と呼ぶことがある)を検出するためのセンサ(以下では「位置センサ」と呼ぶことがある)を使用せずにモータの駆動を制御する技術(以下では「位置センサレス方式」と呼ぶことがある)が知られている。位置センサレス方式では、モータに流れる3相の電流(以下では「モータ電流」と呼ぶことがある)を検出することにより、位置センサを使用せずに、ロータ位置を推定する。
【0006】
また、モータ電流の検出方式として「1シャント検出方式」が知られている。1シャント検出方式では、3相電圧を生成するインバータと直流電源との間に流れる母線電流に基づいてモータ電流のうちの2相分の電流を検出し、残りの1相分の電流を、2相分の電流からキルヒホッフの法則を用いて算出する。
【0007】
ここで、母線電流検出用のシャント抵抗の両端に発生する電圧を増幅した増幅電圧を第一A/D変換器に伝送する第一接続線と、オフセット電圧生成部で生成されるオフセット電圧を第二A/D変換器に伝送する第二接続線とを、ノイズの影響を等しく受けるように配置する先行技術が提案されている。この先行技術では、第一接続線にノイズが重畳した場合には第二接続線にも同じノイズが重畳するため、オフセット電圧が所定の範囲外の電圧であるか否かを判定することにより、母線電流に大きなノイズが重畳されているか否かの判定(以下では「ノイズ判定」と呼ぶことがある)を行っている。また、この先行技術では、オフセット電圧が所定の範囲外の電圧であるときは、検出された母線電流へのノイズによる影響が大きいと判定し、オフセット電圧と同時に検出された増幅電圧を破棄し、オフセット電圧が所定の範囲内であるときに、オフセット電圧と同時に検出された増幅電圧から算出した母線電流に基づいてPWM信号が生成される。こうすることで、ノイズによる影響が小さい電流値(つまり、精度の高い電流値)を用いてモータを制御することが可能になり、ノイズによる影響が大きい電流値を用いてモータを制御することによる制御の不安定化を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-126555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の先行技術では、ノイズ判定を行うにあたり、増幅電圧のサンプリングと同時にオフセット電圧のサンプリングを行う必要があるため、オフセット電圧を取得するための第二接続線や第二A/D変換器が別途必要になる。このため、上記の先行技術では、精度の高い電流値を用いてモータの制御を行う際に、モータ制御装置における部品点数が増加してしまう。
【0010】
そこで、本開示では、モータ制御装置における部品点数の増加を抑えつつ、精度の高い電流値を用いてモータの制御を行うことができる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のモータ制御装置は、インバータと、検出部と、算出部と、第一抽出部と、判定部とを有する。前記インバータは、直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加する。前記検出部は、前記直流電源と前記インバータとの間に接続された抵抗を用いて前記インバータの母線電流を検出する。前記算出部は、前記母線電流に基づいて前記モータに流れるモータ電流を算出する。前記第一抽出部は、前記モータ電流に含まれるノイズ成分を前記モータ電流から抽出する。前記判定部は、前記ノイズ成分に基づいて前記母線電流のノイズの大きさを判定する。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術によれば、モータ制御装置における部品点数の増加を抑えつつ、精度の高い電流値を用いてモータの制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本開示の実施例1のモータ制御装置の構成例を示す図である。
図2図2は、本開示の実施例1のノイズ判定部の構成例を示す図である。
図3図3は、本開示の実施例1の第一抽出部の構成例を示す図である。
図4図4は、本開示の実施例1のモータ電流に含まれるノイズ成分及び非ノイズ成分の一例を示す図である。
図5図5は、本開示の実施例1の抽出されたノイズ成分の一例を示す図である。
図6図6は、本開示の実施例1のノイズ判定に用いられる閾値の更新例を示す図である。
図7図7は、本開示の実施例2のノイズ判定部の構成例を示す図である。
図8図8は、本開示の実施例2の第一抽出部及び第二抽出部の構成例を示す図である。
図9図9は、本開示の実施例2のノイズ判定部における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例において同一の構成には同一の符号を付す。
【0015】
[実施例1]
<モータ制御装置の構成>
図1は、本開示の実施例1のモータ制御装置の構成例を示す図である。図1に示すモータ制御装置100は、位置センサレス方式、1シャント検出方式、及び、PWM制御を用いてモータMの駆動を制御する。図1において、モータ制御装置100は、減算部46,47,52と、d軸電流設定部48と、速度制御部49と、d軸q軸電圧設定部45と、dq/3φ変換部43と、PWM部41と、インバータ10と、直流電源EDCと、シャント抵抗Rsとを有する。また、モータ制御装置100は、DC電圧検出部31と、電流検出部21と、AD変換部71,72と、3φ電流算出部61と、DC電圧算出部32と、3φ/dq変換部42と、位置・速度推定部44と、1/Pn処理部51と、ノイズ判定部80と、電流推定部81とを有する。
【0016】
減算部46,47,52、d軸電流設定部48、速度制御部49、d軸q軸電圧設定部45、dq/3φ変換部43、PWM部41、DC電圧検出部31、電流検出部21、AD変換部71,72、3φ電流算出部61、DC電圧算出部32、3φ/dq変換部42、位置・速度推定部44、1/Pn処理部51、ノイズ判定部80、及び、電流推定部81は、ハードウェアとして、例えばMCU(Micro Control Unit)により実現される。
【0017】
また、インバータ10は、上アームのスイッチング素子SWup,SWvp,SWwpと、下アームのスイッチング素子SWun,SWvn,SWwnとを有する。
【0018】
モータ制御装置100において、d軸電流設定部48は、所定値のd軸電流指令値idを減算部46へ出力する。
【0019】
減算部46には、d軸電流設定部48からd軸電流指令値idが入力され、ノイズ判定部80からd軸電流idが入力される。減算部46は、d軸電流指令値idからd軸電流idを減算することによりd軸電流偏差Δidを算出し、算出したd軸電流偏差Δidをd軸q軸電圧設定部45へ出力する。
【0020】
速度制御部49は、減算部52から入力される速度偏差Δωがゼロに近づくようにq軸電流指令値iqを算出し、算出したq軸電流指令値iqを減算部47へ出力する。
【0021】
減算部47には、速度制御部49からq軸電流指令値iqが入力され、ノイズ判定部80からq軸電流iqが入力される。減算部47は、q軸電流指令値iqからq軸電流iqを減算することによりq軸電流偏差Δiqを算出し、算出したq軸電流偏差Δiqをd軸q軸電圧設定部45へ出力する。
【0022】
d軸q軸電圧設定部45には、減算部46からd軸電流偏差Δidが入力され、減算部47からq軸電流偏差Δiqが入力され、ノイズ判定部80からd軸電流id及びq軸電流iqが入力される。d軸q軸電圧設定部45は、d軸電流偏差Δid及びq軸電流偏差Δiqがゼロに近づくようにd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを算出し、算出したd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを位置・速度推定部44、dq/3φ変換部43及び電流推定部81へ出力する。d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqは、3φ電流算出部61により算出されるモータ電流であるU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwに応じても変化する。
【0023】
位置・速度推定部44には、ノイズ判定部80からd軸電流id及びq軸電流iqが入力され、d軸q軸電圧設定部45からd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが入力される。位置・速度推定部44は、d軸電流id、q軸電流iq、d軸電圧指令値Vd、及び、q軸電圧指令値Vqに基づいて、モータMの電気的な角速度ωeと、回転座標(dq座標)でのモータMの回転位相角θdqとを推定する。位置・速度推定部44は、推定した角速度ωeを1/Pn処理部51、ノイズ判定部80及び電流推定部81へ出力し、推定した回転位相角θdqを3φ/dq変換部42及びdq/3φ変換部43へ出力する。
【0024】
1/Pn処理部51は、角速度ωeをモータMの極対数で除することにより、電気的な角速度ωeをモータMが有するロータの機械的な角速度ωmに変換し、変換後の角速度ωmを減算部52へ出力する。
【0025】
減算部52には、1/Pn処理部51から角速度ωmが入力され、モータ制御装置100の外部から(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラから)速度指令値ωmが入力される。減算部52は、速度指令値ωmから角速度ωmを減算することにより速度偏差Δωを算出し、算出した速度偏差Δωを速度制御部49へ出力する。
【0026】
dq/3φ変換部43は、回転位相角θdqを用いて、回転座標の2相のd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを、固定座標(UVW座標)の3相の電圧指令値Vu,Vv,Vwに変換する。dq/3φ変換部43は、変換後の電圧指令値Vu,Vv,VwをPWM部41へ出力する。
【0027】
PWM部41には、dq/3φ変換部43から電圧指令値Vu,Vv,Vwが入力され、DC電圧算出部32からDC電圧Vdcが入力される。また、PWM部41には、モータ制御装置100の外部から(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラから)、PWMの搬送波であるキャリア信号が入力される。PWM部41は、電圧指令値Vu,Vv,Vwと、DC電圧Vdcと、キャリア信号とに基づいて、3相のPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnを生成し、生成したPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnをインバータ10及び3φ電流算出部61へ出力する。
【0028】
インバータ10には、直流電源EDCから直流電圧が供給され、PWM部41からPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnが入力される。インバータ10は、直流電源EDCから供給される直流電圧をPWM信号Up~Wnに従って3相の交流電圧に変換し、変換後の3相の交流電圧をモータMに印加する。つまり、インバータ10は、PWM制御によって交流電圧をモータMに印加する。3相の交流電圧がモータMに印加されることによりモータMが駆動される。インバータ10では、PWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnに従って各スイッチング素子SWup,SWun,SWvp,SWvn,SWwp,SWwnがオン/オフされることにより、直流電圧が3相電圧に変換される。各スイッチング素子SWup,SWun,SWvp,SWvn,SWwp,SWwnの両端には、還流ダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwnが接続されている。
【0029】
電流検出部21は、直流電源EDCとインバータ10との間に接続されているシャント抵抗Rsを用いて、インバータ10の母線電流Isを検出する。シャント抵抗Rsは、直流電源EDCにおけるN側端子とインバータ10との間のDCラインであるNラインL上に配置されている。なお、シャント抵抗Rsは、直流電源EDCにおけるP側端子とインバータ10との間のDCラインであるPラインL上に配置されても良い。シャント抵抗Rsには、PWM信号に応じて流れるモータ電流であるU相電流、V相電流、W相電流に応じた母線電流Isが流れ、シャント抵抗Rsに母線電流Isが流れるときに、シャント抵抗Rsの両端に電圧降下が生じる。電流検出部21は、この電圧降下の大きさとシャント抵抗Rsの抵抗値とから、シャント抵抗Rsに流れる母線電流Isを検出する。さらに、電流検出部21は、シャント抵抗Rsと母線電流Isとに基づいて、式(1)によって表されるアナログ電圧VA1を算出し、算出したアナログ電圧VA1をAD変換部72へ出力する。式(1)における“k”は所定の増幅率を示す。
VA1=k×(Rs・Is) …(1)
【0030】
AD変換部72は、アナログ電圧VA1に対してサンプリングを行うことにより、アナログ電圧VA1をデジタル電圧値VA2へ変換し、変換後のデジタル電圧値VA2を3φ電流算出部61へ出力する。
【0031】
3φ電流算出部61は、1シャント検出方式を用いてモータ電流を算出する。3φ電流算出部61は、シャント抵抗Rsの抵抗値と、増幅率kと、デジタル電圧値VA2と、PWM信号Up~Wnとに基づいて、モータ電流であるU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwを算出し、算出したモータ電流iu,iv,iwを3φ/dq変換部42へ出力する。
【0032】
3φ/dq変換部42は、位置・速度推定部44から入力される回転位相角θdqを用いて、固定座標の3相の電流ベクトルを示すモータ電流iu,iv,iwを、回転座標の2相の電流ベクトルを示すd軸電流及びq軸電流に変換する。以下では、3φ/dq変換部42での変換後のd軸電流を「検出d軸電流」と呼び、3φ/dq変換部42での変換後のq軸電流を「検出q軸電流」と呼ぶことがある。2相の検出d軸電流及び検出q軸電流は、3φ電流算出部61によって算出される3相のモータ電流に相当する。3φ/dq変換部42は、検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detをノイズ判定部80へ出力する。以下では、検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detを「検出電流i_det」と総称することがある。
【0033】
電流推定部81には、d軸q軸電圧設定部45からd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが入力され、位置・速度推定部44から角速度ωeが入力され、ノイズ判定部80からd軸電流id及びq軸電流iqが入力される。電流推定部81は、d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vq、角速度ωe、d軸電流id及びq軸電流iqに基づいて電流の推定を行い、推定したd軸電流id_est、及び、推定したq軸電流iq_estをノイズ判定部80へ出力する。以下では、電流推定部81によって推定されたd軸電流を「推定d軸電流」と呼び、電流推定部81によって推定されたq軸電流を「推定q軸電流」と呼ぶことがある。また以下では、推定d軸電流id_est及び推定q軸電流iq_estを「推定電流i_est」と総称することがある。
【0034】
ノイズ判定部80には、3φ/dq変換部42から検出電流i_detが入力され、位置・速度推定部44から角速度ωeが入力され、電流推定部81から推定電流i_estが入力される。ノイズ判定部80は、ノイズ判定を行い、ノイズ判定の判定結果に基づいて、位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部46及び電流推定部81へ出力するd軸電流idと、位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部47及び電流推定部81へ出力するq軸電流iqとを決定する。ノイズ判定部80の詳細については後述する。
【0035】
DC電圧検出部31は、PラインLとNラインLとの間の母線電圧を検出し、検出したアナログの母線電圧VB1をAD変換部71へ出力する。
【0036】
AD変換部71は、アナログの母線電圧VB1に対してサンプリングを行うことにより、アナログの母線電圧VB1をデジタルの母線電圧値VB2へ変換し、変換後のデジタルの母線電圧値VB2をDC電圧算出部32へ出力する。
【0037】
DC電圧算出部32は、デジタルの母線電圧値VB2からDC電圧Vdcを算出し、算出したDC電圧VdcをPWM部41へ出力する。
【0038】
<ノイズ判定部の構成>
図2は、本開示の実施例1のノイズ判定部の構成例を示す図である。図2に示すノイズ判定部80aは、図1に示すノイズ判定部80に該当する。図2において、ノイズ判定部80aは、第一抽出部91と、ノイズ量判定部92と、電流決定部93とを有する。
【0039】
第一抽出部91は、モータ電流に含まれるノイズ成分をモータ電流から抽出し、抽出したノイズ成分をノイズ量判定部92へ出力する。第一抽出部91によって抽出されるノイズ成分は、d軸ノイズ成分id_noとq軸ノイズ成分iq_noとから形成される。以下では、d軸ノイズ成分id_no及びq軸ノイズ成分iq_noを「ノイズ成分i_no」と総称することがある。
【0040】
ノイズ量判定部92は、ノイズ成分に基づいて母線電流のノイズの大きさを判定する。ノイズ成分は、正の値になるときと、負の値になるときとがある。そこで例えば、ノイズ量判定部92は、d軸ノイズ成分id_noの絶対値|id_no|またはq軸ノイズ成分iq_noの絶対値|iq_no|の少なくとも一方が閾値±THNの絶対値|±THN|以上であるときに母線電流のノイズが大きいと判定し、|id_no|及び|iq_no|の双方が|±THN|未満であるときに母線電流のノイズが小さいと判定する。そして、ノイズ量判定部92は、母線電流のノイズが大きいと判定され、かつ、ノイズ成分が正の値を有するときは、判定フラグDFを‘+1’にセットし、‘+1’にセットされた判定フラグDFを電流決定部93へ出力する。一方、ノイズ量判定部92は、母線電流のノイズが大きいと判定され、かつ、ノイズ成分が負の値を有するときは、判定フラグDFを‘-1’にセットし、‘-1’にセットされた判定フラグDFを電流決定部93へ出力する。ノイズ量判定部92は、母線電流のノイズが小さいと判定されたときは判定フラグDFを‘0’にセットし、‘0’にセットされた判定フラグDFを電流決定部93へ出力する。
【0041】
電流決定部93には、3φ/dq変換部42から検出電流i_detが入力され、電流推定部81から推定電流i_estが入力され、ノイズ量判定部92から判定フラグDFが入力される。
【0042】
電流決定部93は、判定フラグDFが‘0’にセットされているときは、検出d軸電流id_detを今回のキャリア周期でのモータMの制御に用いるd軸電流idとして決定し、検出d軸電流id_det及び推定d軸電流id_estのうち検出d軸電流id_detを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部46及び電流推定部81へ出力する。キャリア周期は、モータ制御装置100におけるキャリア周波数fcの逆数である。一方で、電流決定部93は、判定フラグDFが‘+1’または‘-1’にセットされているときは、推定d軸電流id_estを今回のキャリア周期でのモータMの制御に用いるd軸電流idとして決定し、検出d軸電流id_det及び推定d軸電流id_estのうち推定d軸電流id_estを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部46及び電流推定部81へ出力する。
【0043】
また、電流決定部93は、判定フラグDFが‘0’にセットされているときは、検出q軸電流iq_detを今回のキャリア周期でのモータMの制御に用いるq軸電流iqとして決定し、検出q軸電流iq_det及び推定q軸電流iq_estのうち検出q軸電流iq_detを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部47及び電流推定部81へ出力する。一方で、電流決定部93は、判定フラグDFが‘+1’または‘-1’にセットされているときは、推定q軸電流iq_estを今回のキャリア周期でのモータMの制御に用いるq軸電流iqとして決定し、検出q軸電流iq_det及び推定q軸電流iq_estのうち推定q軸電流iq_estを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部47及び電流推定部81へ出力する。
【0044】
<電流の推定>
以下、電流推定部81によって行われる電流の推定の一例として、推定例1と推定例2との2つの推定例について説明する。
【0045】
<推定例1>
d軸q軸電圧設定部45から電流推定部81に入力されるd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqは、式(2.1)及び式(2.2)に示すモータモデル式によって表される。式(2.1)及び式(2.2)において、“R”はモータMの巻線抵抗、“id”は前回のキャリア周期で電流決定部93から電流推定部81に入力されたd軸電流(以下では「前回d軸電流」と呼ぶことがある)、“p”は(d/dt)の微分演算子、“Ld”はモータMのd軸インダクタンス、“ωe”は位置・速度推定部44から電流推定部81に入力される角速度、“Lq”はモータMのq軸インダクタンス、“iq”は前回のキャリア周期で電流決定部93から電流推定部81に入力されたq軸電流(以下では「前回q軸電流」と呼ぶことがある)、“Ψ”はモータMの鎖交磁束である。巻線抵抗R、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq及び鎖交磁束Ψは、モータMの特性を決定するパラメータ(以下では「モータパラメータ」と呼ぶことがある)である。
Vd=R・id+p・Ld・id-ωe・Lq・iq …(2.1)
Vq=R・iq+p・Lq・iq+ωe・Ld・id+ωe・Ψ …(2.2)
【0046】
また、モータ制御装置100におけるキャリア周波数fcを用いると、式(2.1)及び式(2.2)は、式(3.1)及び式(3.2)に変形できる。式(3.1)及び式(3.2)において、“ΔId”は、今回のキャリア周期で電流決定部93から出力されると予測されるd軸電流(以下では「予測d軸電流」と呼ぶことがある)の前回d軸電流に対する変化量(以下では「d軸電流変化量」と呼ぶことがある)、“ΔIq”は、今回のキャリア周期で電流決定部93から出力されると予測されるq軸電流(以下では「予測q軸電流」と呼ぶことがある)の前回q軸電流に対する変化量(以下では「q軸電流変化量」と呼ぶことがある)である。
Vd=R・id+Ld・ΔId・fc-ωe・Lq・iq …(3.1)
Vq=R・iq+Lq・ΔIq・fc+ωe・Ld・id+ωe・Ψ …(3.2)
【0047】
式(3.1)及び式(3.2)をd軸電流変化量及びq軸電流変化量について解くと、式(4.1)及び式(4.2)が得られる。
ΔId=(Vd-R・id+ωe・Lq・iq)/(Ld・fc) …(4.1)
ΔIq=(Vq-R・iq-ωe・Ld・id-ωe・Ψ)/(Lq・fc)
…(4.2)
【0048】
そこで、推定例1では、電流推定部81は、前回のキャリア周期で電流決定部93によって決定され電流決定部93から入力された前回d軸電流idと、前回のキャリア周期で電流決定部93によって決定され電流決定部93から入力された前回q軸電流iqとを用いて、式(5.1)及び式(5.2)に従って、推定d軸電流id_est及び推定q軸電流iq_estを算出する。
id_est=id+ΔId …(5.1)
iq_est=iq+ΔIq …(5.2)
【0049】
このようにして、推定例1では、電流推定部81は、モータMのモータモデル式に従って理論的に導出される推定d軸電流id_est及び推定q軸電流iq_estを算出し、算出した推定d軸電流id_est及び推定q軸電流iq_estを電流決定部93へ出力する。
【0050】
<推定例2>
推定例2では、電流推定部81は、前回d軸電流を推定d軸電流id_estとして使用し、前回q軸電流を推定q軸電流iq_estとして使用する。
【0051】
<第一抽出部の構成>
図3は、本開示の実施例1の第一抽出部の構成例を示す図である。図3において、第一抽出部91は、第一ノッチフィルタ911と、第二ノッチフィルタ912と、第一ハイパスフィルタ913とを有する。第一ノッチフィルタ911には、3φ/dq変換部42から検出電流i_detが入力され、位置・速度推定部44から角速度ωeが入力される。第二ノッチフィルタ912には、位置・速度推定部44から角速度ωeが入力される。
【0052】
ここで、検出電流i_detには、ノイズ成分と、ノイズ成分と異なる成分(以下では「非ノイズ成分」と呼ぶことがある)とが含まれる。第一抽出部91は、検出電流i_detから非ノイズ成分を除去することにより検出電流i_detからノイズ成分を抽出し、抽出したノイズ成分をノイズ量判定部92へ出力する。
【0053】
ここで、非ノイズ成分の一例として、負荷脈動成分と、モータMの構造に起因する高周波成分(以下では「モータ構造起因成分」と呼ぶことがある)と、オフセット成分とが挙げられる。負荷脈動成分は、モータMが1回転する間の負荷の脈動によって現れる成分である。モータ構造起因成分は、モータMの回転数に依存する高調波成分を含む周波数成分であり、一例として、コギングトルクによる脈動等が挙げられる。オフセット成分は、モータ電流の平均値に相当し、周波数成分を持たない。
【0054】
第一抽出部91において、まず、第一ノッチフィルタ911が、負荷脈動成分を非ノイズ成分として検出電流i_detから除去する。
【0055】
負荷脈動成分はモータMの負荷の脈動に起因して発生する周波数成分であるため、特定の周波数に出現する。また、負荷脈動成分が出現する周波数は、モータMの回転数によって変化する。
【0056】
そこで、第一ノッチフィルタ911は、例えば、キャリア周波数“fc”と、負荷脈動成分が出現する特定の周波数“ωn”とに基づいて、式(6.1)~(6.7)に従って、検出電流i_detをフィルタ処理することにより、検出電流i_detから負荷脈動成分を除去する。これにより、検出電流i_detから負荷脈動成分が除去された後のノイズ成分が抽出される。負荷脈動成分が出現する特定の周波数ωnは角速度ωeに基づいて算出される。第一ノッチフィルタ911は、検出電流i_detから負荷脈動成分が除去された後のノイズ成分i_noを第二ノッチフィルタ912へ出力する。
【数1】
【0057】
ここで、式(6.1)~(6.7)において、“N”、“N”、“N”、“D”、“D”及び“D”は、ノッチフィルタの所定のフィルタ定数、“d”はノッチフィルタでの減衰量を決めるパラメータ、“σ”はノッチフィルタでの減衰対象の周波数帯域の幅を決めるパラメータである。また、式(6.1)~(6.7)において、“x”は検出電流i_det、“y”はノッチフィルタによって抽出されたノイズ成分である。また、式(6.1)~(6.7)において、“[k]”は今回のキャリア周期、“[k-1]”は前回のキャリア周期、“[k-2]”は前々回のキャリア周期である。よって、式(6.1)~(6.7)において、“x[k]”は今回のキャリア周期での検出電流i_det、“x[k-1]”は前回のキャリア周期での検出電流i_det、“x[k-2]”は前々回のキャリア周期での検出電流i_detであり、“y[k]”は今回のキャリア周期で抽出されたノイズ成分i_no、“y[k-1]”は前回のキャリア周期で抽出されたノイズ成分i_no、“y[k-2]”は前々回のキャリア周期で抽出されたノイズ成分i_noである。
【0058】
次いで、第二ノッチフィルタ912が、モータ構造起因成分を非ノイズ成分として検出電流i_detから除去する。
【0059】
モータ構造起因成分には高調波成分が含まれ、モータ構造起因成分が出現する周波数はモータMの極数、モータMのスロット数及びモータMの回転数によって定まる。例えば、モータMの回転数を基本波周波数として、モータMがX極Yスロットモータである場合には、XとYの最小公倍数の周波数にモータ構造起因成分が出現する。さらに、XとYの最小公倍数の2分の1倍、2倍、3倍、…、n倍の次数の周波数にもモータ構造起因成分が出現する。例えば、モータMが6極9スロットのモータである場合、6と9との最小公倍数である18次の周波数の他、6と9との最小公倍数の2分の1倍の9次の周波数、及び、36次、54次、…という18×n次の周波数にモータ構造起因成分が出現する。よって例えば、モータMの回転数が30[rps]である場合、270[Hz]、540[Hz]、1080[Hz]、1620[Hz]、…、540×n[Hz]の周波数にモータ構造起因成分が出現する。このように、モータ構造起因成分は、モータMの回転数によって決まる特定の周波数に出現する。
【0060】
そこで、第二ノッチフィルタ912は、第一ノッチフィルタ911と同様に、例えば、キャリア周波数“fc”と、モータ構造起因成分が出現する特定の周波数“ωn”とに基づいて、式(6.1)~(6.7)に従って、検出電流i_detをフィルタ処理することにより、検出電流i_detからモータ構造起因成分を除去する。これにより、検出電流i_detからモータ構造起因成分が除去された後のノイズ成分が抽出される。モータ構造起因成分が出現する特定の周波数ωnは角速度ωeに基づいて算出される。第二ノッチフィルタ912は、検出電流i_detからモータ構造起因成分が除去された後のノイズ成分i_noを第一ハイパスフィルタ913へ出力する。
【0061】
ここで、負荷脈動成分または、モータ構造起因成分が出現する特定の周波数ωnはモータMの回転数によって変化するため、式(6.1)~(6.7)における所定のフィルタ定数N,N,N,D,D,DはモータMの回転数に応じて定められる。
【0062】
次いで、第一ハイパスフィルタ913が、オフセット成分を非ノイズ成分として検出電流i_detから除去する。
【0063】
例えば、第一ハイパスフィルタ913は、キャリア周波数“fc”に基づいて、式(7.1)~(7.6)に従って検出電流i_detをフィルタ処理することにより、検出電流i_detからオフセット成分を除去する。これにより、検出電流i_detからオフセット成分が除去された後のノイズ成分が式(7.1)の“y[k]”として抽出される。第一ハイパスフィルタ913は、検出電流i_detからオフセット成分が除去された後のノイズ成分i_noをノイズ量判定部92へ出力する。式(7.1)~(7.6)において、“a1”及び“a0”は第一ハイパスフィルタ913の特性を決めるフィルタ定数である。
【数2】
【0064】
図4及び図5に示すように、第一抽出部91は、以上のようにして、負荷脈動成分、モータ構造起因成分及びオフセット成分を非ノイズ成分として検出電流i_detから除去することによりモータ電流に含まれるノイズ成分をモータ電流から抽出する。図4は、本開示の実施例1のモータ電流に含まれるノイズ成分及び非ノイズ成分の一例を示す図であり、図5は、本開示の実施例1の抽出されたノイズ成分の一例を示す図である。
【0065】
なお、第一抽出部91は、負荷脈動成分、モータ構造起因成分及びオフセット成分のうち一つまたは複数を検出電流i_detから除去しても良い。また、上記では、第一抽出部91が、二次フィルタである第一ノッチフィルタ911、第二ノッチフィルタ912及び第一ハイパスフィルタ913を有する場合について説明したが、開示の技術が適用可能なフィルタは二次フィルタに限定されない。
【0066】
<閾値±THNの更新>
以下、ノイズ量判定部92によって行われる閾値±THNの更新の一例として、更新例1~3の3つの更新例について説明する。
【0067】
<更新例1>
更新例1では、ノイズ量判定部92は、母線電流のノイズが小さいと判定したときのノイズ成分の直近のnキャリア分の移動平均値によって閾値±THNを更新する。
【0068】
<更新例2>
更新例2では、ノイズ量判定部92は、ローパスフィルタを用いて母線電流のノイズが小さいと判定したときのノイズ成分の平均値を算出し、算出した平均値によって閾値±THNを更新する。
【0069】
<更新例3>
更新例3では、ノイズ量判定部92は、母線電流のノイズが小さいと判定したときのノイズ成分に基づいて閾値±THNを更新する。図6は、本開示の実施例1のノイズ判定に用いられる閾値の更新例を示す図である。
【0070】
図6に示すように、例えば、ノイズ量判定部92は、所定期間Iaにおいて母線電流のノイズが小さいと判定したときの所定期間Iaにおけるノイズ成分i_noの絶対値が最大となる正及び負のピーク値P1,P2,P3を随時検出し、各ピーク値P1,P2,P3の絶対値にマージンを加えた値によって閾値±THNを更新する。図6に示すように、例えば、それぞれが同一の所定期間Iaを有する周期T1,T2,T3が設定されている場合、ノイズ量判定部92は、周期T1において負のピーク値P1を検出し、ピーク値P1の絶対値に正の符号を付した値に正のマージンを加えた値を周期T2における閾値+THNとして設定するとともに、ピーク値P1の絶対値に負の符号を付した値に負のマージンを加えた値を周期T2における閾値-THNとして設定する。また、ノイズ量判定部92は、周期T2において正のピーク値P2を検出し、ピーク値P2の絶対値に正の符号を付した値に正のマージンを加えた値を周期T3における閾値+THNとして設定するとともに、ピーク値P2の絶対値に負の符号を付した値に負のマージンを加えた値を周期T3における閾値-THNとして設定する。なお、マージンは、モータMの制御が不安定化しないように、実験等によって求められた所定値に予め設定されている。
【0071】
ここで、所定期間Iaの一例として、モータMの回転に伴ってモータMの負荷が脈動する周期である「負荷脈動周期」が挙げられる。電流値の精度に影響しない定常的なノイズのピーク値は、負荷脈動周期で周期的に出現するため、負荷脈動周期ごとに閾値±THNを更新することで、閾値±THNを適切に設定することができる。つまり、電流値の精度に影響しない定常的なノイズによって母線電流のノイズが大きいと誤判定されてしまうことを防止できる。また、母線電流のノイズが大きなノイズであるにもかかわらず定常的なノイズであると誤判定(ノイズが小さいと誤判定)されてしまうことを防止できる。したがって、ノイズ判定を正確に行うことができる。
【0072】
以上、実施例1について説明した。
【0073】
[実施例2]
ノッチフィルタのような二次フィルタにノイズのような周期性がない単発の信号が入力されると、二次フィルタの出力に振動が生じる。二次フィルタに入力されるノイズが大きいほど、二次フィルタの出力に生じる振動も大きくなり、振動が大きくなるほど振動の収まりが遅くなる。このため、今回のキャリア周期でノイズ量判定部92が母線電流のノイズが大きいと判定した場合、次回以降のキャリア周期で、母線電流に重畳されたノイズが小さいにもかかわらず、ノイズ量判定部92は母線電流のノイズが大きいと誤判定してしまう可能性がある。そこで、実施例2では、ノイズ判定部80は以下の構成を採る。
【0074】
<ノイズ判定部の構成>
図7は、本開示の実施例2のノイズ判定部の構成例を示す図である。図7に示すノイズ判定部80bは、図1に示すノイズ判定部80に該当する。図7において、ノイズ判定部80bは、第一抽出部91と、ノイズ量判定部92と、電流決定部93、第二抽出部94とを有する。
【0075】
<第一抽出部及び第二抽出部の構成>
図8は、本開示の実施例2の第一抽出部及び第二抽出部の構成例を示す図である。
【0076】
図8において、第一抽出部91は、第一ノッチフィルタ911と、第二ノッチフィルタ912と、第一ハイパスフィルタ913と、データ設定部914とを有する。
【0077】
また、図8において、第二抽出部94は、入力制御部941と、第三ノッチフィルタ942と、第四ノッチフィルタ943と、第二ハイパスフィルタ944と、データ出力部945とを有する。入力制御部941には、3φ/dq変換部42から検出電流i_detが入力され、ノイズ量判定部92から判定フラグDFが入力される。第三ノッチフィルタ942及び第四ノッチフィルタ943には、位置・速度推定部44から角速度ωeが入力される。データ出力部945には、ノイズ量判定部92から判定フラグDFが入力される。
【0078】
ここで、第三ノッチフィルタ942は第一ノッチフィルタ911と同一のフィルタ定数を有するフィルタであり、第四ノッチフィルタ943は第二ノッチフィルタ912と同一のフィルタ定数を有するフィルタであり、第二ハイパスフィルタ944は第一ハイパスフィルタ913と同一のフィルタ定数を有するフィルタである。つまり、第三ノッチフィルタ942は、第一ノッチフィルタ911と同様に式(6.1)~(6.7)に従ってフィルタ処理を行い、第四ノッチフィルタ943は、第二ノッチフィルタ912と同様に式(6.1)~(6.7)に従ってフィルタ処理を行い、第二ハイパスフィルタ944は、第一ハイパスフィルタ913と同様に式(7.1)~(7.6)に従ってフィルタ処理を行う。
【0079】
<ノイズ判定部の動作>
以下、ノイズ判定部80bの動作例について、母線電流のノイズが小さい場合と、母線電流のノイズが大きい場合とに分けて説明する。
【0080】
<母線電流のノイズが小さい場合>
ノイズ量判定部92が母線電流のノイズが小さいと判定した場合、つまり、‘0’にセットされた判定フラグDFが入力制御部941及びデータ出力部945に入力された場合、入力制御部941は、第三ノッチフィルタ942への入力として、検出電流i_detを第三ノッチフィルタ942へ出力する。一方、データ出力部945は動作せず、データ出力部945からフィルタデータFDa,FDb,FDcが出力されないため、データ設定部914も動作しない。また、第一ノッチフィルタ911、第二ノッチフィルタ912及び第一ハイパスフィルタ913は、実施例1において説明したフィルタ処理と同一のフィルタ処理を行う。また、第三ノッチフィルタ942には検出電流i_detが入力されるため、第三ノッチフィルタ942は第一ノッチフィルタ911と同一のフィルタ処理を行い、第四ノッチフィルタ943は第二ノッチフィルタ912と同一のフィルタ処理を行い、第二ハイパスフィルタ944は第一ハイパスフィルタ913と同一のフィルタ処理を行う。
【0081】
<母線電流のノイズが大きい場合>
ノイズ量判定部92が前回のキャリア周期で母線電流のノイズが大きいと判定した場合、つまり、‘+1’または‘-1’にセットされた判定フラグDFが前回のキャリア周期で入力制御部941及びデータ出力部945に入力された場合、前回のキャリア周期では、入力制御部941は、記憶しておいた前々回のキャリア周期での検出電流i_detに所定の加算値を加えた電流(以下では「仮想モータ電流」と呼ぶことがある)を算出し、第三ノッチフィルタ942への入力として、仮想モータ電流を第三ノッチフィルタ942へ出力する。入力制御部941は、前回のキャリア周期で入力された判定フラグDFが‘+1’にセットされていた場合は所定の加算値である+aを前々回のキャリア周期での検出電流i_detに加算し、前回のキャリア周期で入力された判定フラグDFが‘-1’にセットされていた場合は所定の加算値である-aを前々回のキャリア周期での検出電流i_detに加算する。また、所定の加算値±aの絶対値|±a|は、閾値±THNの絶対値|±THN|より小さいことが好ましい。二次フィルタの出力の振動は前回のキャリア周期よりも今回のキャリア周期の方が小さくなるため、所定の加算値±aの絶対値|±a|を、閾値±THNの絶対値|±THN|より小さくしておけば、第一ノッチフィルタ911、第二ノッチフィルタ912及び第一ハイパスフィルタ913で行われる後述のフィルタ処理により得られる出力の振動は、今回のキャリア周期で閾値±THNを超えない範囲に抑えられる。つまり、ノイズ量判定部92が母線電流のノイズが大きいと誤判定しない程度までノイズの影響が低減された仮想モータ電流が得られる。また、所定の加算値±aは、更新後の閾値±THNに応じて定められる可変の値であっても良い。このように、母線電流のノイズが大きいと判定されたときの検出電流i_detに所定の加算値±aが加えられることにより、ノイズの影響が低減された仮想モータ電流が得られる。なお、検出電流i_detはキャリア周期毎に時系列にノイズ量判定部92に記憶される。
【0082】
また、ノイズ量判定部92が前回のキャリア周期で母線電流のノイズが大きいと判定した場合、前回のキャリア周期で、第三ノッチフィルタ942及び第四ノッチフィルタ943は、前回のキャリア周期での仮想モータ電流に基づいて式(6.1)~(6.7)に従ってフィルタ処理を行い、第二ハイパスフィルタ944は、前回のキャリア周期での仮想モータ電流に基づいて式(7.1)~(7.6)に従ってフィルタ処理を行う。つまり、ノイズ量判定部92が前回のキャリア周期で母線電流のノイズが大きいと判定した場合、前回のキャリア周期で、第三ノッチフィルタ942、第四ノッチフィルタ943及び第二ハイパスフィルタ944は、式(6.1)~(6.7)及び式(7.1)~(7.6)における“x[k]”を検出電流i_detから仮想モータ電流に替えることにより、仮想モータ電流に基づいて式(6.1)~(6.7)及び式(7.1)~(7.6)に従ってフィルタ処理を行うことにより、仮想モータ電流に含まれるノイズ成分(以下では「仮想ノイズ成分」と呼ぶことがある)y[k]を仮想モータ電流から抽出する。
【0083】
また、ノイズ量判定部92が前回のキャリア周期で母線電流のノイズが大きいと判定した場合、今回のキャリア周期で、データ出力部945は、第三ノッチフィルタ942におけるx[k-1]及びy[k-1]をフィルタデータFDaとしてデータ設定部914へ出力し、第四ノッチフィルタ943におけるx[k-1]及びy[k-1]をフィルタデータFDbとしてデータ設定部914へ出力し、第二ハイパスフィルタ944におけるx[k-1]及びy[k-1]をフィルタデータFDcとしてデータ設定部914へ出力する。データ設定部914は、今回のキャリア周期で、データ出力部945から入力されたフィルタデータFDaを第一ノッチフィルタ911に設定し、データ出力部945から入力されたフィルタデータFDbを第二ノッチフィルタ912に設定し、データ出力部945から入力されたフィルタデータFDcを第一ハイパスフィルタ913に設定する。これにより、今回のキャリア周期では、第一抽出部91において、前回のキャリア周期でのx[k-1]及びy[k-1]が今回のキャリア周期でデータ出力部945から入力されたx[k-1]及びy[k-1]に置き換えられた上で、第一ノッチフィルタ911、第二ノッチフィルタ912及び第一ハイパスフィルタ913によるフィルタ処理が行われる。
【0084】
<ノイズ判定部における処理手順>
図9は、本開示の実施例2のノイズ判定部における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0085】
図9において、ステップS100では、前回のキャリア周期で、第一抽出部91は、検出電流i_detからノイズ成分i_noを抽出する。
【0086】
次いで、ステップS105では、前回のキャリア周期で、ノイズ量判定部92は、ノイズ成分i_noの絶対値が閾値±THNの絶対値以上であるか否か、つまり、母線電流のノイズが大きいか否かを判定する。母線電流のノイズが大きいと判定されたときは(ステップS105:Yes)、処理はステップS110へ進み、母線電流のノイズが小さいと判定されたときは(ステップS105:No)、処理はステップS125へ進む。
【0087】
ステップS110では、入力制御部941は、前々回のキャリア周期での検出電流i_detに所定の加算値±aを加えることにより仮想モータ電流を算出し、検出電流i_detに替えて仮想モータ電流を第三ノッチフィルタ942への入力とする。
【0088】
次いで、ステップS115では、前回のキャリア周期で、第三ノッチフィルタ942、第四ノッチフィルタ943及び第二ハイパスフィルタ944は、前回のキャリア周期での仮想モータ電流に基づいてフィルタ処理を行う。
【0089】
次いで、ステップS120では、今回のキャリア周期で、データ設定部914は、第一ノッチフィルタ911、第二ノッチフィルタ912及び第一ハイパスフィルタ913におけるx[k-1]及びy[k-1]を、前回のキャリア周期で仮想モータ電流に基づいて第三ノッチフィルタ942、第四ノッチフィルタ943及び第二ハイパスフィルタ944がフィルタ処理を行った際のx[k-1]及びy[k-1]に置き換え、第一ノッチフィルタ911、第二ノッチフィルタ912及び第一ハイパスフィルタ913は、置き換えられた後のx[k-1]及びy[k-1]を用いて検出電流i_detに対するフィルタ処理を行う。
【0090】
一方で、ステップS125では、入力制御部941は、検出電流i_detを第三ノッチフィルタ942への入力とする。
【0091】
次いで、ステップS130では、第三ノッチフィルタ942、第四ノッチフィルタ943及び第二ハイパスフィルタ944は、検出電流i_detに基づいてフィルタ処理を行う。
【0092】
以上、実施例2について説明した。
【0093】
以上のように、本開示のモータ制御装置(実施例のモータ制御装置100)は、インバータ(実施例のインバータ10)と、検出部(実施例の電流検出部21)と、算出部(実施例の3φ電流算出部61)と、第一抽出部(実施例の第一抽出部91)と、判定部(実施例のノイズ量判定部92)とを有する。インバータは、直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、変換後の交流電圧をモータ(実施例のモータM)に印加する。検出部は、直流電源とインバータとの間に接続された抵抗(実施例のシャント抵抗Rs)を用いてインバータの母線電流を検出する。算出部は、母線電流に基づいてモータに流れるモータ電流を算出する。第一抽出部は、モータ電流に含まれるノイズ成分をモータ電流から抽出する。判定部は、抽出されたノイズ成分に基づいて母線電流のノイズの大きさを判定する。
【0094】
こうすることで、精度の高い電流値を用いてモータの制御を行うにあたり、母線電流のノイズの大きさを判定するために上記の先行技術が必要としたオフセット電圧が不要になる。そのため、オフセット電圧を取得するための回路や、オフセット電圧をサンプリングするためのA/D変換器が不要になる。よって、モータ制御装置における部品点数の増加を抑えつつ、精度の高い電流値を用いてモータの制御を行うことができる。また、オフセット電圧をサンプリングするためのA/D変換器が不要になるため、オフセット電圧のサンプリングに用いていたA/D変換器を別の用途に使用することが可能になる。
【0095】
また、第一抽出部は、モータ電流からノイズ成分と異なる非ノイズ成分を除去することによりノイズ成分を抽出する。例えば、第一抽出部は、モータの回転数に依存する高調波成分を含む周波数成分を非ノイズ成分としてモータ電流から除去することによりモータ電流に含まれるノイズ成分をモータ電流から抽出する。また例えば、第一抽出部は、モータの負荷の脈動に起因する周波数成分を非ノイズ成分としてモータ電流から除去することによりモータ電流に含まれるノイズ成分をモータ電流から抽出する。また例えば、第一抽出部は、モータ電流の平均値であるオフセット成分を非ノイズ成分としてモータ電流から除去することによりモータ電流に含まれるノイズ成分をモータ電流から抽出する。
【0096】
こうすることで、ノイズ成分を正確に抽出することができる。
【0097】
また、判定部は、ノイズ成分が閾値未満であるときに母線電流のノイズが小さいと判定し、ノイズ成分が閾値以上であるときに母線電流のノイズが大きいと判定する。また、判定部は、母線電流のノイズが小さいと判定したとき、ノイズが小さいと判定したときのノイズ成分に基づいて閾値を更新する。一方で、判定部は、母線電流のノイズが大きいと判定したとき、閾値を更新しない。
【0098】
例えば、判定部は、所定期間において母線電流のノイズが小さいと判定したときの所定期間におけるノイズ成分のピーク値に基づいて閾値を更新する。
【0099】
また例えば、所定期間は、モータの回転に伴ってモータの負荷が脈動する周期である負荷脈動周期である。
【0100】
こうすることで、電流値の精度に影響しない定常的なノイズによって母線電流のノイズが大きいと誤判定されてしまうことを防止できる。また、大きなノイズであるにもかかわらず定常的なノイズであると誤判定(ノイズが小さいと誤判定)されてしまうことを防止できる。したがって、ノイズ判定を正確に行うことができる。
【0101】
また、第一抽出部は、前回のキャリア周期で算出されたモータ電流と、前回のキャリア周期で抽出したノイズ成分と、今回のキャリア周期で算出されたモータ電流とに基づいてフィルタ処理を行うことにより、モータ電流から非ノイズ成分を除去してモータ電流に含まれるノイズ成分をモータ電流から抽出する。
【0102】
こうすることで、ノイズ成分をさらに正確に抽出することができる。
【0103】
また、本開示のモータ制御装置は、第二抽出部(実施例の第二抽出部94)を有する。第二抽出部は、前回のキャリア周期において判定部によって母線電流のノイズが大きいと判定されたときに、今回のキャリア周期で、ノイズの影響が低減された仮想モータ電流と、仮想モータ電流に含まれる仮想ノイズ成分とを第一抽出部へ出力する。
【0104】
例えば、第一抽出部は、所定のフィルタ定数を用いてフィルタ処理を行い、第二抽出部は、第一抽出部における所定のフィルタ定数と同一のフィルタ定数を用いて、仮想モータ電流に基づいてフィルタ処理を行うことにより仮想モータ電流に含まれる仮想ノイズ成分を仮想モータ電流から抽出する。
【0105】
また例えば、第一抽出部は、前回のキャリア周期において判定部によって母線電流のノイズが大きいと判定されたときに、今回のキャリア周期では、前回のキャリア周期で算出されたモータ電流及び前回のキャリア周期で抽出したノイズ成分を、今回のキャリア周期で第二抽出部から入力された仮想モータ電流及び仮想ノイズ成分に置き換えてフィルタ処理を行う。
【0106】
また例えば、第二抽出部は、前々回のキャリア周期で算出されたモータ電流に所定の加算値を加えることにより仮想モータ電流を算出する。また、所定の加算値は、第一抽出部が抽出したノイズ成分の符号と同一の符号を有し、かつ、所定の加算値の絶対値はノイズ成分の閾値の絶対値より小さい。
【0107】
こうすることで、今回のキャリア周期で判定部が母線電流のノイズが大きいと判定した場合であっても、次回以降のキャリア周期で、第一抽出部の出力の振動を抑制することができる。したがって、母線電流に重畳されたノイズが小さいにもかかわらず、母線電流のノイズが大きいと誤判定されてしまうことを防止できる。
【符号の説明】
【0108】
100 モータ制御装置
10 インバータ
21 電流検出部
61 3φ電流算出部
91 第一抽出部
92 ノイズ量判定部
94 第二抽出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9