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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20240326BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240326BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01L29/78 655F
H01L29/78 652J
H01L29/78 653A
H01L29/78 652Q
H01L29/78 652P
H01L29/78 655G
H01L29/78 655B
H01L29/06 301V
H01L29/06 301G
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022576971
(86)(22)【出願日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2021036687
(87)【国際公開番号】W WO2022158053
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2021009648
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野口 晴司
(72)【発明者】
【氏名】桜井 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】伊倉 巧裕
【審査官】石塚 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-91892(JP,A)
【文献】特開2004-95954(JP,A)
【文献】特開2017-28250(JP,A)
【文献】国際公開第2017/064887(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/098169(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/739
H01L 29/78
H01L 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板を備える半導体装置であって、
前記半導体基板は、
活性部と、
上面視において前記活性部を囲む第2導電型の外周ウェル領域と、
前記半導体基板の上面において、前記活性部に設けられるトレンチ部と
を有し、
前記活性部は、
第1導電型のエミッタ領域を有する中央部と、
前記中央部を囲む外周部と
を有し、
前記中央部は、少なくとも2つの前記トレンチ部の底部にわたって設けられた第2導電型の活性側底部領域を有し、
前記外周部は、前記外周ウェル領域と電気的に接続し、前記活性側底部領域に向かい、前記トレンチ部の底部に設けられた第2導電型の外周側底部領域を有し、
前記活性側底部領域と前記外周側底部領域は、離れて設けられていて、
前記外周側底部領域の上面は、前記半導体基板の深さ方向において、前記半導体基板の上面よりも前記半導体基板の下面側に設けられている
半導体装置。
【請求項2】
前記活性側底部領域は、前記外周部にも設けられている
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記活性側底部領域は、電気的にフローティングである
請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記トレンチ部は、上面視においてストライプ状に設けられている
請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記外周側底部領域は、前記トレンチ部の底部で終端している
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記活性側底部領域は、前記トレンチ部の底部で終端している
請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記活性側底部領域と前記外周側底部領域の不純物濃度は、同一である
請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記外周側底部領域の不純物濃度は、前記活性側底部領域の不純物濃度より大きい
請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記外周ウェル領域の不純物濃度は、前記外周側底部領域の不純物濃度より大きい
請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記活性側底部領域と前記外周側底部領域は、前記半導体基板の深さ方向において、同じ深さに設けられている
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記外周側底部領域は、前記半導体基板の深さ方向において、前記活性側底部領域よりも広く設けられている
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記活性側底部領域と前記外周側底部領域の前記トレンチ部の配列方向における距離は、前記トレンチ部のピッチ幅以上でかつ前記トレンチ部のピッチ幅の20倍以下である
請求項1から11のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記活性側底部領域と前記外周側底部領域の前記配列方向における距離は、2μm以上でかつ40μm以下である
請求項12に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記トレンチ部は、
ゲートトレンチ部と、
ダミートレンチ部と
を有し、
前記半導体基板の深さ方向における前記活性側底部領域と前記外周側底部領域の間には、前記ゲートトレンチ部が設けられている
請求項1から13のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記外周側底部領域は、前記トレンチ部の配列方向において、前記外周ウェル領域から前記トレンチ部のピッチ幅の5倍以下の範囲に設けられている
請求項1から14のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記活性側底部領域と前記外周側底部領域の前記配列方向における距離は、前記外周側底部領域が設けられる幅より大きい
請求項15に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記トレンチ部は、前記外周部において前記トレンチ部の配列方向における前記活性側底部領域と前記外周側底部領域の間に設けられ、前記活性側底部領域および前記外周側底部領域よりも深く形成された外周側深化トレンチ部を有する
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記トレンチ部は、少なくとも一部が前記中央部に設けられ、前記活性側底部領域よりも深く形成された活性側深化トレンチ部を有する
請求項17に記載の半導体装置。
【請求項19】
前記中央部は、上面視において前記活性側底部領域に挟まれ、前記半導体基板の深さ方向において前記活性側底部領域と同じ深さに設けられる第1導電型の活性側底部レス領域を有する
請求項17に記載の半導体装置。
【請求項20】
上面視において前記活性部を囲むエッジ終端構造部を更に備え、
前記エッジ終端構造部は、第2導電型の領域を有する
請求項1から19のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体装置において、トレンチ部の底部に、不純物領域を設けた構成が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
特許文献1 特開2019-91892号公報
特許文献2 特開2019-110288号公報
【解決しようとする課題】
【0003】
IGBT装置等の半導体装置においては、ターンオン損失を低減することが好ましい。
【一般的開示】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、半導体基板を備える半導体装置を提供する。半導体基板は、活性部を有してよい。半導体基板は、第2導電型の外周ウェル領域を有してよい。外周ウェル領域は、上面視において活性部を囲んでよい。半導体基板は、トレンチ部を有してよい。トレンチ部は、半導体基板の上面において、活性部に設けられてよい。活性部は、中央部を有してよい。中央部は、第1導電型のエミッタ領域を有してよい。活性部は、外周部を有してよい。外周部は、中央部を囲んでよい。中央部は、第2導電型の活性側底部領域を有してよい。活性側底部領域は、少なくとも2つのトレンチ部の底部にわたって設けられてよい。外周部は、第2導電型の外周側底部領域を有してよい。外周側底部領域は、外周ウェル領域と電気的に接続してよい。外周側底部領域は、活性側底部領域に向かい、トレンチ部の底部に設けられてよい。活性側底部領域と外周側底部領域は、離れて設けられていてよい。
【0005】
活性側底部領域は、外周部にも設けられていてよい。
【0006】
活性側底部領域は、電気的にフローティングであってよい。
【0007】
トレンチ部は、上面視においてストライプ状に設けられていてよい。
【0008】
外周側底部領域は、トレンチ部の底部で終端していてよい。活性側底部領域は、トレンチ部の底部で終端していてよい。
【0009】
活性側底部領域と外周側底部領域の不純物濃度は、同一であってよい。外周側底部領域の不純物濃度は、活性側底部領域の不純物濃度より大きくてよい。外周ウェル領域の不純物濃度は、外周側底部領域の不純物濃度より大きくてよい。
【0010】
活性側底部領域と外周側底部領域は、半導体基板の深さ方向において、同じ深さに設けられていてよい。外周側底部領域は、半導体基板の深さ方向において、活性側底部領域よりも広く設けられていてよい。
【0011】
活性側底部領域と外周側底部領域のトレンチ部の配列方向における距離は、トレンチ部のピッチ幅以上であってよい。活性側底部領域と外周側底部領域のトレンチ部の配列方向における距離は、トレンチ部のピッチ幅の20倍以下であってよい。活性側底部領域と外周側底部領域の配列方向における距離は、2μm以上であってよい。活性側底部領域と外周側底部領域の配列方向における距離は、40μm以下であってよい。
【0012】
トレンチ部は、ゲートトレンチ部を有してよい。トレンチ部は、ダミートレンチ部を有してよい。半導体基板の深さ方向における活性側底部領域と外周側底部領域の間には、ゲートトレンチ部が設けられてよい。
【0013】
外周側底部領域は、トレンチ部の配列方向において、外周ウェル領域からトレンチ部のピッチ幅の5倍以下の範囲に設けられていてよい。
【0014】
活性側底部領域と外周側底部領域のトレンチ部の配列方向における距離は、外周側底部領域が設けられる幅より大きくてよい。
【0015】
トレンチ部は、外周部においてトレンチ部の配列方向における活性側底部領域と外周側底部領域の間に設けられ、活性側底部領域および外周側底部領域よりも深く形成された外周側深化トレンチ部を有してよい。トレンチ部は、少なくとも一部が中央部に設けられ、活性側底部領域よりも深く形成された活性側深化トレンチ部を有してよい。中央部は、上面視において活性側底部領域に挟まれ、半導体基板の深さ方向において活性側底部領域と同じ深さに設けられる第1導電型の活性側底部レス領域を有してよい。
【0016】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】半導体装置100の一例を示す上面図である。
図2図1における領域Dの拡大図である。
図3図2におけるe-e断面の一例を示す図である。
図4図2におけるf-f断面の一例を示す図である。
図5図2におけるg-g断面の一例を示す図である。
図6図2におけるe-e断面の他の例を示す図である。
図7】比較例に係る半導体装置200の一例を示す図である。
図8】比較例に係る半導体装置300の一例を示す図である。
図9】室温時のFWDの順方向電流と逆回復電圧の傾きの関係を示す図である。
図10】FWDの逆回復電圧の傾きの最大値(室温の低電流時)とターンオン損失(高温の定格電流時)の関係を示す図である。
図11】半導体装置100および半導体装置200のゲート電圧0V(OFF)時のコレクタ電流とコレクタ電圧のIV特性を示す図である。
図12】半導体装置100および半導体装置300のゲート電圧15V(ON)時のコレクタ電流とコレクタ電圧のIV特性を示す図である。
図13】他の実施形態に係る半導体装置400の一例を示す上面図である。
図14図13におけるh-h断面の一例を示す図である。
図15図13におけるi-i断面の一例を示す図である。
図16図13におけるj-j断面の一例を示す図である。
図17】他の実施形態に係る半導体装置500の一例を示す上面図である。
図18】他の実施形態に係る半導体装置600の一例を示す上面図である。
図19図18におけるk-k断面の一例を示す図である。
図20】他の実施形態に係る半導体装置700の一例を示す上面図である。
図21図20におけるl-l断面の一例を示す図である。
図22】他の実施形態に係る半導体装置800の一例を示す上面図である。
図23図22におけるm-m断面の一例を示す図である。
図24】他の実施形態に係る半導体装置900の一例を示す上面図である。
図25図24におけるn-n断面の一例を示す図である。
図26図24におけるo-o断面の一例を示す図である。
図27図24におけるp-p断面の一例を示す図である。
図28図24におけるn-n断面の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体装置の実装時における方向に限定されない。
【0020】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸および-Z軸に平行な方向を意味する。
【0021】
本明細書では、半導体基板の上面および下面に平行な直交軸をX軸およびY軸とする。また、半導体基板の上面および下面と垂直な軸をZ軸とする。本明細書では、Z軸の方向を深さ方向と称する場合がある。また、本明細書では、X軸およびY軸を含めて、半導体基板の上面および下面に平行な方向を、水平方向と称する場合がある。
【0022】
また、半導体基板の深さ方向における中心から、半導体基板の上面までの領域を、上面側と称する場合がある。同様に、半導体基板の深さ方向における中心から、半導体基板の下面までの領域を、下面側と称する場合がある。
【0023】
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
【0024】
本明細書においては、不純物がドーピングされたドーピング領域の導電型をP型またはN型として説明している。本明細書においては、不純物とは、特にN型のドナーまたはP型のアクセプタのいずれかを意味する場合があり、ドーパントと記載する場合がある。本明細書においては、ドーピングとは、半導体基板にドナーまたはアクセプタを導入し、N型の導電型を示す半導体またはP型の導電型を示す半導体とすることを意味する。
【0025】
本明細書においては、ドーピング濃度とは、熱平衡状態におけるドナーの濃度またはアクセプタの濃度を意味する。本明細書においては、ネット・ドーピング濃度とは、ドナー濃度を正イオンの濃度とし、アクセプタ濃度を負イオンの濃度として、電荷の極性を含めて足し合わせた正味の濃度を意味する。一例として、ドナー濃度をN、アクセプタ濃度をNとすると、任意の位置における正味のネット・ドーピング濃度はN-Nとなる。本明細書では、ネット・ドーピング濃度を単にドーピング濃度と記載する場合がある。
【0026】
ドナーは、半導体に電子を供給する機能を有している。アクセプタは、半導体から電子を受け取る機能を有している。ドナーおよびアクセプタは、不純物自体には限定されない。例えば、半導体中に存在する空孔(V)、酸素(O)および水素(H)が結合したVOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥を水素ドナーと称する場合がある。
【0027】
本明細書においてP+型またはN+型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P-型またはN-型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が低いことを意味する。また、本明細書においてP++型またはN++型と記載した場合には、P+型またはN+型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。本明細書の単位系は、特に断りがなければSI単位系である。長さの単位をcmで表示することがあるが、諸計算はメートル(m)に換算してから行ってよい。
【0028】
本明細書において化学濃度とは、電気的な活性化の状態によらずに測定される不純物の原子密度を指す。化学濃度(原子密度)は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。上述したネット・ドーピング濃度は、電圧-容量測定法(CV法)により測定できる。また、拡がり抵抗測定法(SR法)により計測されるキャリア濃度を、ネット・ドーピング濃度としてよい。CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度は、熱平衡状態における値としてよい。また、N型の領域においては、ドナー濃度がアクセプタ濃度よりも十分大きいので、当該領域におけるキャリア濃度を、ドナー濃度としてもよい。同様に、P型の領域においては、当該領域におけるキャリア濃度を、アクセプタ濃度としてもよい。本明細書では、N型領域のドーピング濃度をドナー濃度と称する場合があり、P型領域のドーピング濃度をアクセプタ濃度と称する場合がある。
【0029】
また、ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度がほぼ均一な場合等においては、当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度の平均値をドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。本明細書において、単位体積当りの濃度表示にatоms/cm、または、/cmを用いる。この単位は、半導体基板内のドナーまたはアクセプタ濃度、または、化学濃度に用いられる。atоms表記は省略してもよい。
【0030】
SR法により計測されるキャリア濃度が、ドナーまたはアクセプタの濃度より低くてもよい。拡がり抵抗を測定する際に電流が流れる範囲において、半導体基板のキャリア移動度が結晶状態の値よりも低い場合がある。キャリア移動度の低下は、格子欠陥等による結晶構造の乱れ(ディスオーダー)により、キャリアが散乱されることで生じる。
【0031】
CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度から算出したドナーまたはアクセプタの濃度は、ドナーまたはアクセプタを示す元素の化学濃度よりも低くてよい。一例として、シリコンの半導体においてドナーとなるリンまたはヒ素のドナー濃度、あるいはアクセプタとなるボロン(ホウ素)のアクセプタ濃度は、これらの化学濃度の99%程度である。一方、シリコンの半導体においてドナーとなる水素のドナー濃度は、水素の化学濃度の0.1%から10%程度である。本明細書における各濃度は、室温における値でよい。室温における値は、一例として300K(ケルビン)(約26.9℃)における値を用いてよい。
【0032】
図1は、半導体装置100の一例を示す上面図である。図1においては、各部材を半導体基板10の上面に投影した位置を示している。図1においては、半導体装置100の一部の部材だけを示しており、一部の部材は省略している。
【0033】
半導体装置100は、半導体基板10を備えている。半導体基板10は、半導体材料で形成された基板である。一例として半導体基板10はシリコン基板であるが、半導体基板10の材料はシリコンに限定されない。
【0034】
半導体基板10は、上面視において端辺162を有する。本明細書で単に上面視と称した場合、半導体基板10の上面側から見ることを意味している。本例の半導体基板10は、上面視において互いに向かい合う2組の端辺162を有する。図1においては、X軸およびY軸は、いずれかの端辺162と平行である。またZ軸は、半導体基板10の上面と垂直である。
【0035】
半導体基板10には活性部160が設けられている。活性部160は、半導体装置100が動作した場合に半導体基板10の上面と下面との間で、深さ方向に主電流が流れる領域である。活性部160の上方には、エミッタ電極が設けられているが図1では省略している。
【0036】
本例において、活性部160には、IGBT等のトランジスタ素子を含むトランジスタ部70が設けられている。他の例では、トランジスタ部70およびFWD(Free Wheel Diode)等のダイオード素子を含むダイオード部が、半導体基板10の上面における所定の配列方向に沿って、交互に配置されていてもよい。
【0037】
トランジスタ部70は、半導体基板10の下面と接する領域に、P+型のコレクタ領域を有する。また、トランジスタ部70は、半導体基板10の上面側に、N++型のエミッタ領域、P-型のベース領域、ゲート導電部およびゲート絶縁膜を有するゲート構造が周期的に配置されている。
【0038】
半導体装置100は、半導体基板10の上方に1つ以上のパッドを有してよい。本例の半導体装置100は、ゲートパッド164を有している。半導体装置100は、アノードパッド、カソードパッドおよび電流検出パッド等のパッドを有してもよい。各パッドは、端辺162の近傍に配置されている。端辺162の近傍とは、上面視における端辺162と、エミッタ電極との間の領域を指す。半導体装置100の実装時において、各パッドは、ワイヤ等の配線を介して外部の回路に接続されてよい。
【0039】
ゲートパッド164には、ゲート電位が印加される。ゲートパッド164は、活性部160のゲートトレンチ部の導電部に電気的に接続される。半導体装置100は、ゲートパッド164とゲートトレンチ部とを接続するゲート配線130を備える。図1においては、ゲート配線130に斜線のハッチングを付している。
【0040】
ゲート配線130は、上面視において活性部160と半導体基板10の端辺162との間に配置されている。本例のゲート配線130は、上面視において活性部160を囲んでいる。上面視においてゲート配線130に囲まれた領域を活性部160としてもよい。また、ゲート配線130は、ゲートパッド164と接続されている。ゲート配線130は、半導体基板10の上方に配置されている。ゲート配線130は、アルミニウム等を含む金属配線であってよい。
【0041】
外周ウェル領域11は、ゲート配線130と重なって設けられている。つまり、ゲート配線130と同様に、外周ウェル領域11は、上面視において活性部160を囲んでいる。外周ウェル領域11は、ゲート配線130と重ならない範囲にも、所定の幅で延伸して設けられている。外周ウェル領域11は、第2導電型の領域である。本例の外周ウェル領域11はP+型である(図2参照)。外周ウェル領域11の不純物濃度は、5.0×1017atоms/cm以上でかつ5.0×1019atоms/cm以下であってよい。外周ウェル領域11の不純物濃度は、2.0×1018atоms/cm以上でかつ2.0×1019atоms/cm以下であってよい。
【0042】
また、半導体装置100は、ポリシリコン等で形成されたPN接合ダイオードである不図示の温度センス部や、活性部160に設けられたトランジスタ部70の動作を模擬する不図示の電流検出部を備えてもよい。
【0043】
本例の半導体装置100は、上面視において、活性部160と端辺162との間に、エッジ終端構造部90を備える。本例のエッジ終端構造部90は、外周ゲート配線130と端辺162との間に配置されている。エッジ終端構造部90は、半導体基板10の上面側の電界集中を緩和する。エッジ終端構造部90は、活性部160を囲んで環状に設けられたガードリング、フィールドプレートおよびリサーフのうちの少なくとも一つを備えていてよい。
【0044】
図2は、図1における領域Dの拡大図である。領域Dは、トランジスタ部70を含む領域である。本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面側の内部に設けられたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、外周ウェル領域11、エミッタ領域12およびコンタクト領域15を備える。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、それぞれがトレンチ部の一例である。
【0045】
本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面の上方に設けられたエミッタ電極およびゲート配線130を備える。エミッタ電極およびゲート配線130は互いに分離して設けられる。また、エミッタ電極およびゲート配線130と、半導体基板10の上面との間には層間絶縁膜が設けられる。図2において、エミッタ電極、ゲート配線130および層間絶縁膜を省略している。
【0046】
エミッタ電極は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、外周ウェル領域11、エミッタ領域12およびコンタクト領域15の上方に設けられる。エミッタ電極は、コンタクトホールを通って、半導体基板10の上面におけるエミッタ領域12、コンタクト領域15と接触する。また、エミッタ電極は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ダミートレンチ部30内のダミー導電部と接続される。エミッタ電極は、Y軸方向におけるダミートレンチ部30の先端部31において、ダミートレンチ部30のダミー導電部と接続されてよい。
【0047】
ゲート配線130は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ゲートトレンチ部40と接続する。ゲート配線130は、Y軸方向におけるゲートトレンチ部40の先端部41において、ゲートトレンチ部40のゲート導電部と接続されてよい。ゲート配線130は、ダミートレンチ部30内のダミー導電部とは接続されない。
【0048】
エミッタ電極は、金属を含む材料で形成される。例えば、エミッタ電極の少なくとも一部の領域はアルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金、例えばAlSi、AlSiCu等の金属合金で形成される。エミッタ電極は、アルミニウム等で形成された領域の下層に、チタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。さらにコンタクトホール内において、バリアメタルとアルミニウム等に接するようにタングステン等を埋め込んで形成されたプラグを有してもよい。
【0049】
トランジスタ部70は、配列方向に複数配列されたトレンチ部を有する。本例において、トレンチ部は、半導体基板10の上面において、活性部160および外周ウェル領域11に設けられている。トレンチ部は、トランジスタ部70において上面視においてストライプ状に設けられている。トランジスタ部70には、配列方向に沿って1以上のゲートトレンチ部40と、1以上のダミートレンチ部30とが交互に設けられている。本例において、1つのゲートトレンチ部40と、2つのダミートレンチ部30とが交互に設けられている。
【0050】
本例のゲートトレンチ部40は、配列方向と垂直な延伸方向に沿って延伸する2つの直線部分39(延伸方向に沿って直線状であるトレンチの部分)と、2つの直線部分39を接続する先端部41を有してよい。図2における延伸方向はY軸方向である。
【0051】
先端部41の少なくとも一部は、上面視において曲線状に設けられることが好ましい。2つの直線部分39のY軸方向における端部どうしを先端部41が接続することで、直線部分39の端部における電界集中を緩和できる。
【0052】
トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30はゲートトレンチ部40のそれぞれの直線部分39の間に設けられる。それぞれの直線部分39の間には、1本のダミートレンチ部30が設けられてよく、複数本のダミートレンチ部30が設けられていてもよい。本例において、それぞれの直線部分39の間には、2本のダミートレンチ部30が設けられている。ダミートレンチ部30は、延伸方向に延伸する直線形状を有してよく、ゲートトレンチ部40と同様に、直線部分29と先端部31とを有していてもよい。本例において、それぞれのダミートレンチ部30は、直線部分29と先端部31を有する。
【0053】
外周ウェル領域11の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30のY軸方向の端部は、上面視において外周ウェル領域11に設けられる。つまり、各トレンチ部のY軸方向の端部において、各トレンチ部の深さ方向の底部は、外周ウェル領域11に覆われている。これにより、各トレンチ部の当該底部における電界集中を緩和できる。また、半導体装置100は、上面視において全体が外周ウェル領域11に設けられるゲートトレンチ部40またはダミートレンチ部30を備えてもよい。
【0054】
配列方向において各トレンチ部の間には、メサ部が設けられている。メサ部は、半導体基板10の内部において、トレンチ部に挟まれた領域を指す。一例としてメサ部の上端は半導体基板10の上面である。メサ部の下端の深さ位置は、トレンチ部の下端の深さ位置と同一である。本例のメサ部は、半導体基板10の上面において、トレンチに沿って延伸方向(Y軸方向)に延伸して設けられている。本例では、トランジスタ部70にはメサ部60が設けられている。
【0055】
それぞれのメサ部60には、第1導電型のエミッタ領域12および第2導電型のコンタクト領域15の少なくとも一方が設けられてよい。本例のエミッタ領域12はN++型であり、コンタクト領域15はP++型である。エミッタ領域12およびコンタクト領域15は、深さ方向において、ベース領域と半導体基板10の上面との間に設けられてよい。
【0056】
トランジスタ部70のメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したエミッタ領域12を有する。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。ゲートトレンチ部40に接するメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したコンタクト領域15が設けられていてよい。本例において、メサ部60において半導体基板10の上面に露出して、ゲート配線130に最も近く配置された領域は、コンタクト領域15である。
【0057】
メサ部60におけるコンタクト領域15およびエミッタ領域12のそれぞれは、X軸方向における一方のトレンチ部から、他方のトレンチ部まで設けられる。一例として、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿って交互に配置されている。
【0058】
他の例においては、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿ってストライプ状に設けられていてもよい。例えばトレンチ部に接する領域にエミッタ領域12が設けられ、エミッタ領域12に挟まれた領域にコンタクト領域15が設けられる。
【0059】
図2において、エッジ終端構造部90には、ガードリング92が設けられる。エッジ終端構造部90には、複数のガードリング92が設けられてもよい。ガードリング92の不純物濃度は、外周ウェル領域11と同一であってよい。
【0060】
活性部160は、中央部170と外周部180を有する。中央部170は、エミッタ領域12を有する。外周部180は、中央部170を囲む。本例において、外周部180は、上面視において中央部170を囲んでいる。中央部170と外周部180の境界は、X軸方向またはY軸方向において外周ウェル領域11に最も近いエミッタ領域12としてよい。
【0061】
中央部170のそれぞれのメサ部60の上方には、コンタクトホールが設けられている。本例のコンタクトホールは、コンタクト領域15、エミッタ領域12の各領域の上方に設けられる。コンタクトホールは、メサ部60の配列方向(X軸方向)における中央に配置されてよい。本例において、コンタクトホールは省略されている。
【0062】
図2では、半導体基板10内に設けられる活性側底部領域182および外周側底部領域184を示している。活性側底部領域182は、中央部170に設けられる。外周側底部領域184は、外周部180に設けられる。図2に示す通り、活性側底部領域182および外周側底部領域184は、離れて設けられる。
【0063】
図3は、図2におけるe-e断面の一例を示す図である。e-e断面は、中央部170のエミッタ領域12を通過するXZ面である。なお、図3の寸法は、図2の寸法と必ずしも一致しない。本例の半導体装置100は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、コレクタ電極24およびゲート配線130を有する。
【0064】
層間絶縁膜38は、半導体基板10の上面21に設けられている。層間絶縁膜38は、ホウ素またはリン等の不純物が添加されたシリケートガラス等の絶縁膜、熱酸化膜、および、その他の絶縁膜の少なくとも一層を含む膜である。層間絶縁膜38には、図2において説明したコンタクトホール54が設けられている。外周ウェル領域11の上方には、部分的にコンタクトホール54が設けられており、これにより外周ウェル領域11はエミッタ電極に接続されている。
【0065】
エミッタ電極52は、層間絶縁膜38の上方に設けられる。エミッタ電極52は、層間絶縁膜38のコンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面21と接触している。なお、エミッタ電極52は、外周ウェル領域11の上方には設けられていなくてもよい。外周ウェル領域11の上方には、ゲート配線130が設けられていてもよい。ゲート配線130の下には、ゲートポリシリコン46が設けられてよい。
【0066】
コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23に設けられる。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成されている。本明細書において、エミッタ電極52とコレクタ電極24とを結ぶ方向(Z軸方向)を深さ方向と称する。
【0067】
それぞれのメサ部60には、第2導電型のベース領域14が設けられる。エミッタ領域12およびコンタクト領域15は、半導体基板10の上面21とベース領域14の間に設けられる。本例のベース領域14はP-型である。
【0068】
半導体基板10は、第1導電型のドリフト領域18を有する。本例のドリフト領域18はN型またはN-型である。
【0069】
中央部170のメサ部60には、N++型のエミッタ領域12およびP-型のベース領域14が、半導体基板10の上面21側から順番に設けられている。ベース領域14の下方にはドリフト領域18が設けられている。メサ部60には、N+型の蓄積領域16が設けられてもよい。蓄積領域16は、ベース領域14とドリフト領域18との間に配置される。
【0070】
エミッタ領域12は半導体基板10の上面21に露出しており、且つ、ゲートトレンチ部40と接して設けられている。エミッタ領域12は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。エミッタ領域12は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高い。
【0071】
ベース領域14は、エミッタ領域12の下方に設けられている。本例のベース領域14は、エミッタ領域12と接して設けられている。ベース領域14は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。ベース領域14の不純物濃度のピークは、一例として、2.5×1017atоms/cmである。ベース領域14の不純物濃度は、5.0×1016atоms/cm以上でかつ1.0×1018atоms/cm以下であってよい。
【0072】
蓄積領域16は、ベース領域14の下方に設けられている。蓄積領域16は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高いN+型の領域である。蓄積領域16は、リンまたは水素ドナー等のドナーの濃度ピークを有してよい。ドリフト領域18とベース領域14との間に高濃度の蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、オン電圧を低減できる。蓄積領域16は、各メサ部60におけるベース領域14の下面全体を覆うように設けられてよい。
【0073】
外周部180のメサ部60には、P++型のコンタクト領域15およびP-型のベース領域14が、半導体基板10の上面21側から順番に設けられている。ベース領域14の下方にはドリフト領域18が設けられている。蓄積領域16は、外周部180のメサ部60に設けられてもよい。
【0074】
ドリフト領域18の下にはN+型のバッファ領域20が設けられてよい。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高い濃度ピークを有してよい。濃度ピークのドーピング濃度とは、濃度ピークの頂点におけるドーピング濃度を指す。また、ドリフト領域18のドーピング濃度は、ドーピング濃度分布がほぼ平坦な領域におけるドーピング濃度の平均値を用いてよい。
【0075】
バッファ領域20は、水素(プロトン)またはリン等のN型ドーパントをイオン注入することで形成してよい。本例のバッファ領域20は水素をイオン注入して形成される。バッファ領域20は、ベース領域14の下端から広がる空乏層が、P+型のコレクタ領域22に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0076】
バッファ領域20の下には、P+型のコレクタ領域22が設けられる。コレクタ領域22のアクセプタ濃度は、ベース領域14のアクセプタ濃度より高い。コレクタ領域22は、ベース領域14と同一のアクセプタを含んでよく、異なるアクセプタを含んでもよい。コレクタ領域22のアクセプタは、例えばボロンである。アクセプタとなる元素は、上述した例に限定されない。
【0077】
コレクタ領域22は、半導体基板10の下面23に露出しており、コレクタ電極24と接続している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23全体と接触してよい。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成される。
【0078】
半導体基板10の上面21側には、1以上のゲートトレンチ部40、および、1以上のダミートレンチ部30が設けられる。各トレンチ部は、半導体基板10の上面21から、ベース領域14を貫通して、ドリフト領域18に到達している。エミッタ領域12、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられている領域においては、各トレンチ部はこれらのドーピング領域も貫通して、ドリフト領域18に到達している。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0079】
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられる。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に設けられる。つまりゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。
【0080】
ゲート導電部44は、深さ方向において、ベース領域14よりも長く設けられてよい。当該断面におけるゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われる。ゲート導電部44は、ゲート配線130に電気的に接続されている。ゲート導電部44に所定のゲート電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチ部40に接する界面の表層に電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0081】
ダミートレンチ部30は、当該断面において、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21に設けられたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー導電部34は、エミッタ電極52に電気的に接続されている。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられる。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に設けられ、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に設けられる。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミー導電部34は、ゲート導電部44と同一の材料で形成されてよい。例えばダミー導電部34は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ダミー導電部34は、深さ方向においてゲート導電部44と同一の長さを有してよい。
【0082】
本例のゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われている。なお、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40の底部は、下側に凸の曲面状(断面においては曲線状)であってよい。
【0083】
本例の半導体装置100はIGBTであり、FWD等のダイオードと組み合わせて、スイッチング素子として動作させる。用途によっては、低電流時のFWDの逆回復電圧の傾きを抑制しノイズ低減が必要となる。比較例に係る半導体装置200では、逆回復電圧の傾きを抑制するため、ゲート導電部44に接続する外付けのゲート抵抗を大きくすると、定格電流時にIGBTのターンオンのスピードが緩くなり、ターンオン損失が増大する。
【0084】
これに対して本例に係る半導体装置100では、トレンチ部の底部において、第2導電型の底部領域が設けられる。本例において、中央部170には、トレンチ部の底部において、第2導電型の活性側底部領域182が設けられる。本例の活性側底部領域182はP-型である。活性側底部領域182は、トレンチ部の底部を覆っている。活性側底部領域182は、少なくとも2つのトレンチ部の底部にわたって設けられている。活性側底部領域182は、ベース領域14の下方に設けられてよい。第2導電型の活性側底部領域182が設けられることにより、FWDの逆回復電圧の傾きを制御しやすくなる。したがって、ターンオン損失を低減することができる。また、活性側底部領域182を設けることで耐圧を向上することができる。
【0085】
また、外周部180には、トレンチ部の底部において、第2導電型の外周側底部領域184が設けられる。本例の外周側底部領域184はP-型である。外周側底部領域184は、トレンチ部の底部を覆っている。外周側底部領域184は、活性側底部領域182に向かって設けられてよい。つまり、外周側底部領域184は、半導体基板10の深さ方向において、活性側底部領域182と同じ深さに設けられてよい。外周側底部領域184は、外周ウェル領域11と電気的に接続している。本例において、外周側底部領域184は、外周ウェル領域11と直接接続している。したがって、外周ウェル領域11と外周側底部領域184の境界の電界集中を緩和でき、ターンオフ時のアバランシェ耐量を向上することができる。
【0086】
本例において、活性側底部領域182と外周側底部領域184は、離れて設けられている。つまり、外周部180の少なくとも一部において、底部領域が設けられない。活性側底部領域182と外周側底部領域184が離れて設けられていることにより、活性側底部領域182と外周ウェル領域11が同電位になることを防ぐことができる。したがって、半導体装置100が動作しなくなることを防ぐことができる。活性側底部領域182は、電気的にフローティングであってよい。活性側底部領域182が電気的にフローティングであるとは、いずれの電極にも電気的に接続していないことである。また、活性側底部領域182は、活性部160に部分的に設けられなくてもよい。つまり、活性側底部領域182は、活性部160の全体に設けられなくてもよい。
【0087】
活性側底部領域182は、外周部180にも設けられていてよい。つまり、活性側底部領域182は、トレンチ部の配列方向において、エミッタ領域12が設けられる範囲よりも広く設けられている。活性側底部領域182は、外周部180の少なくとも一部に設けられてよい。活性側底部領域182を設ける際の製造工程では、ベース領域14の濃度が変わり、半導体装置100の閾値が変動してしまう。したがって、ベース領域14の濃度が変わった箇所のみにエミッタ領域12を設けることにより、閾値の変動を抑えることができる。活性側底部領域182が外周部180全体に設けられると、活性側底部領域182が外周ウェル領域11と接続してしまう。したがって、活性側底部領域182は、外周部180の少なくとも一部に設けられないことが好ましい。
【0088】
底部領域は、トレンチ部の底部で終端していてよい。つまり、底部領域は、メサ部60で終端していない。本例において、活性側底部領域182は、トレンチ部の底部で終端している。また、外周側底部領域184は、トレンチ部の底部で終端している。底部領域が、トレンチ部の底部で終端することにより、電界分布が急峻になることを防ぐことできる。
【0089】
活性側底部領域182と外周側底部領域184の不純物濃度は、同一であってよい。活性側底部領域182と外周側底部領域184の不純物濃度を同一にすることにより、製造工程を同一にすることができる。また、外周側底部領域184の不純物濃度は、活性側底部領域182の不純物濃度より大きくてもよい。外周側底部領域184の不純物濃度を活性側底部領域182の不純物濃度より大きくすることにより、局所的な電界集中を緩和する効果が大きくなる。外周ウェル領域11の不純物濃度は、外周側底部領域184の不純物濃度より大きくてよい。外周ウェル領域11の不純物濃度を外周側底部領域184の不純物濃度より大きくすることで、電界分布が急峻になることを防ぐことできる。各底部領域の不純物濃度のピークは、一例として、4.0×1015atоms/cmである。各底部領域の不純物濃度のピークは、3.0×1014atоms/cm以上でかつ3.0×1016atоms/cm以下であってよい。各底部領域に注入するイオンのドーズ量は、一例として、1.0×1011ion/cm以上でかつ1.0×1013ion/cm以下であってよい。
【0090】
活性側底部領域182と外周側底部領域184のトレンチ部の配列方向における距離Lは、トレンチ部のピッチ幅W1以上であってよい。トレンチ部のピッチ幅W1とは、トレンチ部の導電部の中心から隣り合うトレンチ部の導電部の中心までの距離である。活性側底部領域と外周側底部領域184のトレンチ部の配列方向における距離Lを、トレンチ部のピッチ幅W1以上にすることにより、活性側底部領域182と外周側底部領域184が近くなり、半導体装置100が動作しないことを防ぐことができる。活性側底部領域182と外周側底部領域184のトレンチ部の配列方向における距離Lは、好ましくは、トレンチ部のピッチ幅W1の2倍以上であってよい。活性側底部領域182と外周側底部領域184のトレンチ部の配列方向における距離Lは、トレンチ部のピッチ幅W1の20倍以下であってよい。このようにすることで、活性側底部領域182の設けられる範囲を広くすることができる。活性側底部領域182と外周側底部領域184のトレンチ部の配列方向における距離Lは、好ましくは、トレンチ部のピッチ幅W1の6倍以下であってよい。本例では、活性側底部領域182と外周側底部領域184のトレンチ部の配列方向における距離Lは、トレンチ部のピッチ幅W1の5倍である。また距離Lをトレンチ部のピッチ幅W1の10倍以上15倍以下としてもよい。
【0091】
活性側底部領域182と外周側底部領域184の配列方向における距離Lは、2μm以上であってよい。活性側底部領域182と外周側底部領域184の配列方向における距離Lは、好ましくは、4μm以上であってよい。活性側底部領域182と外周側底部領域184の配列方向における距離Lは、40μm以下であってよい。活性側底部領域182と外周側底部領域184の配列方向における距離Lは、好ましくは、12μm以下であってよい。活性側底部領域182と外周側底部領域184の配列方向における距離Lは、一例として、10μmである。また距離Lは、30μm以上35μm以下であってもよい。
【0092】
外周側底部領域184は、トレンチ部の配列方向において、外周ウェル領域11からトレンチ部のピッチ幅W1の5倍以下の範囲に設けられていてよい。本例において、外周側底部領域184は、トレンチ部の配列方向において、外周ウェル領域11からトレンチ部のピッチ幅W1の3倍以下の範囲に設けられている。このような構成でも、活性側底部領域182と外周側底部領域184を十分離すことができ、半導体装置100が動作しないことを防ぐことができる。また、活性側底部領域182と外周側底部領域184の配列方向における距離Lは、外周側底部領域184が設けられる幅W2より大きくてもよい。なお、外周側底部領域184が設けられる幅W2は、一例として、7μmである。
【0093】
半導体基板10の深さ方向における活性側底部領域182と外周側底部領域184の間には、ゲートトレンチ部40が設けられることが好ましい。本例において、半導体基板10の深さ方向における活性側底部領域182と外周側底部領域184の間には、1本のゲートトレンチ部40がある。半導体基板10の深さ方向における活性側底部領域182と外周側底部領域184の間に、ゲートトレンチ部40があることにより、グランド電位からの影響を抑制することができる。
【0094】
活性側底部領域182および外周側底部領域184が両方ともゲートトレンチ部40で終端している場合、活性側底部領域182と外周側底部領域184のトレンチ部の配列方向における距離Lは、ゲートトレンチ部40とダミートレンチ部30の比率が1対2の場合、トレンチ部のピッチ幅W1の3倍以上であればよい。またこの場合の距離Lは、ゲートトレンチ部40とダミートレンチ部30の比率が1対Xの場合、1+X倍以上であればよい。また、活性側底部領域182および外周側底部領域184の片方がゲートトレンチ部40で終端し、もう片方がダミートレンチ部30で終端している場合、活性側底部領域182と外周側底部領域184のトレンチ部の配列方向における距離Lは、トレンチ部のピッチ幅W1以上であればよい。活性側底部領域182および外周側底部領域184が両方ともダミートレンチ部30で終端している場合、活性側底部領域182と外周側底部領域184のトレンチ部の配列方向における距離Lは、ゲートトレンチ部40とダミートレンチ部30の比率が1対2の場合、トレンチ部のピッチ幅W1の2倍以上であればよい。またこの場合の距離Lは、ゲートトレンチ部40とダミートレンチ部30の比率が1対Xの場合、X倍以上であればよい。
【0095】
蓄積領域16は、活性側底部領域182より広く設けられることが好ましい。本例において、蓄積領域16は、X軸方向において、活性側底部領域182より広く設けられている。このような構成にすることにより、蓄積領域16および活性側底部領域182を容易に形成することができる。また、蓄積領域16は、外周側底部領域184と深さ方向において重ならないことが好ましい。
【0096】
図4は、図2におけるf-f断面の一例を示す図である。f-f断面は、ゲートトレンチ部40の先端部41およびダミートレンチ部30の先端部31を通過するYZ面である。なお、図4の寸法は、図2の寸法と必ずしも一致しない。本例の半導体装置100は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、コレクタ電極24およびゲート配線130を有する。
【0097】
当該断面において、ゲートトレンチ部40は、ゲート配線130と接続する。当該断面において、ダミートレンチ部30は、コンタクトホール56を介して、エミッタ電極52と接続する。エミッタ電極52の下には、ダミーポリシリコン36が設けられてよい。また、図4においても、図3と同様に外周側底部領域184は、半導体基板10の深さ方向において、活性側底部領域182と同じ深さに設けられてよい。
【0098】
図5は、図2におけるg-g断面の一例を示す図である。g-g断面は、ダミートレンチ部30の直線部分29を通過するYZ面である。なお、図5の寸法は、図2の寸法と必ずしも一致しない。本例の半導体装置100は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、コレクタ電極24およびゲート配線130を有する。図5において、エミッタ電極52とダミートレンチ部30の間には、層間絶縁膜38が設けられている。図5においても、図3と同様に外周側底部領域184は、半導体基板10の深さ方向において、活性側底部領域182と同じ深さに設けられてよい。
【0099】
図6は、図2におけるe-e断面の他の例を示す図である。図6は、外周側底部領域184が、半導体基板10の深さ方向において活性側底部領域182よりも広く設けられている点で、図2とは異なる。図6のそれ以外の構成は図2と同一であってよい。本例では、外周側底部領域184は、活性側底部領域182と比べ、下面23側に広く設けられており、外周ウェル領域11とほぼ同じ深さとなっている。外周側底部領域184が活性側底部領域182よりも広く設けられていることで電界分布を調整することができる。
【0100】
図7は、比較例に係る半導体装置200の一例を示す図である。図7には、活性側底部領域182および外周側底部領域184が設けられない点で、図3とは異なる。図7のそれ以外の構成は、図3と同一であってよい。
【0101】
図8は、比較例に係る半導体装置300の一例を示す図である。図8には、活性側底部領域182および外周側底部領域184が接続している点で、図3とは異なる。図8のそれ以外の構成は、図3と同一であってよい。本例の場合、活性側底部領域182と外周側底部領域184の境界は、中央部170と外周部180の境界であってよい。
【0102】
図9は、室温時のFWDの順方向電流と逆回復電圧の傾きの関係を示す図である。順方向電流は定格電流を1とした場合の割合で示している。図9の半導体装置100と半導体装置200は、順方向電流5~10%時(低電流時)の逆回復電圧の傾きが同一(約5kV/μsec)となるように外付けのゲート抵抗を調整している。図9より、半導体装置100は、半導体装置200と比べて、順方向電流を変化させてもFWDの逆回復電圧の傾きを同程度に保つことができる。したがって、順方向電流100%時(定格電流時)にIGBT側のターンオンのスピードが緩くなることなく順方向電流5~10%時(低電流時)と同程度に速い状態に保つことができるため、ターンオン損失を低減することができる。
【0103】
図10は、FWDの逆回復電圧の傾きの最大値(室温の低電流時)とターンオン損失(高温の定格電流時)の関係を示す図である。図10は、外付けのゲート抵抗を変化させてFWD側の逆回復電圧の傾きの最大値とIGBT側のターンオン損失を1対1でプロットして得ることができる。図10より、FWDの逆回復電圧の傾きの最大値を5kV/μsecとして半導体装置100と半導体装置200を比較した場合、ターンオン損失を約50パーセント低減することができる。
【0104】
図11は、半導体装置100および半導体装置200のゲート電圧0V(OFF)時のコレクタ電流とコレクタ電圧のIV特性を示す図である。コレクタ電圧は半導体装置200を1とした場合の割合で示している。図11に示す通り、半導体装置100は底部領域を有するため、半導体装置200と比べ、耐圧を向上することができる。図12は、半導体装置100および半導体装置300のゲート電圧15V(ON)時のコレクタ電流とコレクタ電圧のIV特性を示す図である。図12に示す通り、活性側底部領域182および外周側底部領域184が接続している場合、半導体装置300は動作しない。
【0105】
図13は、他の実施形態に係る半導体装置400の一例を示す上面図である。図13の半導体装置400は、底部領域190の配置が図2の半導体装置100とは異なる。また図13の半導体装置400は、外周側深化トレンチ部140が設けられる点で図2の半導体装置100とは異なる。図13の半導体装置400のそれら以外の構成は、図2の半導体装置100と同一であってよい。
【0106】
図13では、半導体基板10内に設けられる底部領域190を示している。底部領域190は、活性側底部領域182(図13では不図示)、外周側底部領域184(図13では不図示)および後述する外周側中間底部領域を有する。
【0107】
底部領域190は、活性部160に部分的に設けられなくてよい。本例において、底部領域190は、外周部180に部分的に設けられない。底部領域190が設けられない領域を底部レス領域192とする。底部レス領域192は、半導体基板10の深さ方向において底部領域190と同じ深さに設けられる。底部レス領域192には、第1導電型のドリフト領域18が設けられる。本例において底部レス領域192は、最も中央部170側に設けられた外周側深化トレンチ部140とトレンチ部の配列方向(X軸方向)において接するように設けられる。このように底部レス領域192を配置することにより、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)において中央部170に設けられた底部領域190(活性側底部領域182)と外周部180に設けられた底部領域190(外周側底部領域184)が接続することを防ぐことができる。なお底部レス領域192は、外周側深化トレンチ部140と部分的に重なっていてもよい。
【0108】
トランジスタ部70は、配列方向に複数配列された深化トレンチ部を有する。トレンチ部は、深化トレンチ部を有する。本例において、深化トレンチ部は、半導体基板10の上面において活性部160に設けられている。図13において深化トレンチ部は、外周部180に設けられている。図13において、外周部180に設けられている深化トレンチ部を外周側深化トレンチ部140とする。外周側深化トレンチ部140は、外周ウェル領域11に設けられてよい。外周側深化トレンチ部140は、中央部170に設けられなくてよい。図13では、外周側深化トレンチ部140をハッチングで示している。
【0109】
外周側深化トレンチ部140は、半導体基板10の上面21に設けられたトレンチ、絶縁膜および導電部を有する。外周側深化トレンチ部140は、ダミートレンチ部として機能してよい。外周側深化トレンチ部140の導電部は、エミッタ電極52と接続してよい。外周側深化トレンチ部140は、ゲートトレンチ部として機能してよい。外周側深化トレンチ部140の導電部は、ゲート配線130と接続してよい。
【0110】
外周側深化トレンチ部140は、配列方向と垂直な延伸方向に沿って延伸する2つの直線部分49(延伸方向に沿って直線状であるトレンチの部分)を有してよい。外周側深化トレンチ部140は、2つの直線部分49を接続する先端部51を有してよい。先端部51の少なくとも一部は、上面視において曲線状に設けられることが好ましい。2つの直線部分49のY軸方向における端部どうしを先端部51が接続することで、直線部分49の端部における電界集中を緩和できる。
【0111】
図14は、図13におけるh-h断面の一例を示す図である。h-h断面は、中央部170のエミッタ領域12を通過するXZ面である。なお、図14の寸法は、図13の寸法と必ずしも一致しない。本例の半導体装置400は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、コレクタ電極24およびゲート配線130を有する。
【0112】
外周側深化トレンチ部140は、底部領域190よりも深く形成される。外周側深化トレンチ部140は、ゲートトレンチ部40よりも深く形成されてよい。外周側深化トレンチ部140は、ダミートレンチ部30よりも深く形成されてよい。外周側深化トレンチ部140は、外周ウェル領域11よりも深く形成されてよい。
【0113】
本例において外周側深化トレンチ部140は底部領域190よりも深く形成されるため、底部領域190を分割することができる。図14において、トレンチ部の配列方向において外周側深化トレンチ部140よりも中央部170側に設けられた底部領域190を活性側底部領域182とする。図14において、トレンチ部の配列方向において各外周側深化トレンチ部140の間に設けられた底部領域190を外周側中間底部領域186とする。図14において、トレンチ部の配列方向において外周側深化トレンチ部140と外周ウェル領域11の間に設けられた底部領域190を外周側底部領域184とする。外周側深化トレンチ部140は、外周部180においてトレンチ部の配列方向における活性側底部領域182と外周側底部領域184の間に設けられる。また、外周側深化トレンチ部140は、活性側底部領域182よりも深く形成される。外周側深化トレンチ部140は、外周側底部領域184よりも深く形成される。本例では活性側底部領域182を外周側底部領域184、外周側中間底部領域186から離すことができ、活性側底部領域182を電気的にフローティングにすることができる。したがって、逆回復電圧の傾きの制御性を向上できる。また外周側底部領域184、外周側中間底部領域186を設けることにより、半導体装置400の耐圧のアンバランスを解消することができる。
【0114】
活性側底部領域182外周側底部領域184および外周側中間底部領域186の不純物濃度は、同一であってよい。活性側底部領域182外周側底部領域184および外周側中間底部領域186の不純物濃度を同一にすることにより、製造工程を同一にすることができる。活性側底部領域182外周側底部領域184および外周側中間底部領域186の不純物濃度は、それぞれ異なっていてもよい。また活性側底部領域182と外周側底部領域184の不純物濃度は同じであり、外周側中間底部領域186の不純物濃度のみ他と異なっていてもよい。
【0115】
また、トレンチ部の配列方向において外周側深化トレンチ部140が設けられる幅W3は、5.0μm以上であってよい。トレンチ部の配列方向において外周側深化トレンチ部140が設けられる幅W3は、外周側深化トレンチ部140以外のトレンチ部のピッチ幅W1以上であってよい。外周側深化トレンチ部140以外のトレンチ部のピッチ幅W1は、図3のトレンチ部のピッチ幅W1と同一であってよい。トレンチ部の配列方向において外周側深化トレンチ部140が設けられる幅W3は、外周側深化トレンチ部140以外のトレンチ部のピッチ幅W1の2倍以上であってよい。
【0116】
外周側深化トレンチ部140のピッチ幅W4は、外周側深化トレンチ部140以外のトレンチ部のピッチ幅W1と同一であってよい。外周側深化トレンチ部140のピッチ幅W4とは、外周側深化トレンチ部140の導電部の中心から隣り合う外周側深化トレンチ部140の導電部の中心までの距離である。また外周側深化トレンチ部140のピッチ幅W4は、外周側深化トレンチ部140以外のトレンチ部のピッチ幅W1以下であってよい。外周側深化トレンチ部140のピッチ幅W4を外周側深化トレンチ部140以外のトレンチ部のピッチ幅W1以下にすることにより、耐圧を向上することができる。
【0117】
本例において、外周側深化トレンチ部140は外周ウェル領域11よりも深く形成される。つまり、外周側深化トレンチ部140の深さD1は、外周側深化トレンチ部140以外のトレンチ部の深さD2以上であってよい。なお、外周側深化トレンチ部140の深さが深すぎると、耐圧が下がってしまう場合がある。したがって、外周側深化トレンチ部140の深さD1は、外周側深化トレンチ部140以外のトレンチ部の深さD2の2倍以下とすることが好ましい。
【0118】
なお外周側中間底部領域186は、設けられなくてもよい。つまり、底部レス領域192は、トレンチ部の配列方向において各外周側深化トレンチ部140の間に設けられてもよい。外周側中間底部領域186を設けないことにより、活性側底部領域182と外周側底部領域184を離すことが容易になる。
【0119】
図15は、図13におけるi-i断面の一例を示す図である。i-i断面は、ゲートトレンチ部40の先端部41およびダミートレンチ部30の先端部31を通過するYZ面である。なお、図15の寸法は、図13の寸法と必ずしも一致しない。本例の半導体装置400は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、コレクタ電極24およびゲート配線130を有する。図15は、底部レス領域192を点線で示している点を除いて、図4と同一である。
【0120】
図16は、図13におけるj-j断面の一例を示す図である。j-j断面は、ダミートレンチ部30の直線部分29を通過するYZ面である。なお、図16の寸法は、図13の寸法と必ずしも一致しない。本例の半導体装置400は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、コレクタ電極24およびゲート配線130を有する。図16は、底部レス領域192を点線で示している点を除いて、図5と同一である。
【0121】
図17は、他の実施形態に係る半導体装置500の一例を示す上面図である。図17の半導体装置500は、トレンチ部の構造が図13の半導体装置400とは異なる。図17の半導体装置500のそれ以外の構成は、図13の半導体装置400と同一であってよい。
【0122】
本例において、各トレンチ部は、先端部を有さない。つまり、ゲートトレンチ部40は、先端部41を有さなくてよい。ゲートトレンチ部40は、直線部分39のみを有してよい。ダミートレンチ部30は、先端部31を有さなくてよい。ダミートレンチ部30は、直線部分29のみを有してよい。外周側深化トレンチ部140は、先端部51を有さなくてよい。外周側深化トレンチ部140は、直線部分49のみを有してよい。各トレンチ部が先端部を有さないため、トレンチ部のレイアウトの自由度を高めることができる。
【0123】
図18は、他の実施形態に係る半導体装置600の一例を示す上面図である。図18の半導体装置600は、活性側深化トレンチ部150が設けられる点で図17の半導体装置500とは異なる。図18の半導体装置600のそれ以外の構成は、図17の半導体装置500と同一であってよい。
【0124】
本例において、活性側深化トレンチ部150は、少なくとも一部が中央部170に設けられた深化トレンチ部である。活性側深化トレンチ部150は、外周ウェル領域11に設けられてよい。活性側深化トレンチ部150は、外周部180に設けられてよい。図18では、活性側深化トレンチ部150を外周側深化トレンチ部140と同様にハッチングで示している。
【0125】
活性側深化トレンチ部150は、半導体基板10の上面21に設けられたトレンチ、絶縁膜および導電部を有する。活性側深化トレンチ部150は、ダミートレンチ部として機能してよい。活性側深化トレンチ部150の導電部は、エミッタ電極52と接続してよい。図18において、ダミートレンチ部として機能する活性側深化トレンチ部150を活性側深化トレンチ部150-2としている。活性側深化トレンチ部150は、ゲートトレンチ部として機能してよい。活性側深化トレンチ部150の導電部は、ゲート配線130と接続してよい。図18において、ゲートトレンチ部として機能する活性側深化トレンチ部150を活性側深化トレンチ部150-1としている。活性側深化トレンチ部150-1は、トレンチ部の延伸方向において活性側深化トレンチ部150-2よりも長く延伸してよい。
【0126】
図19は、図18におけるk-k断面の一例を示す図である。k-k断面は、中央部170のエミッタ領域12を通過するXZ面である。なお、図19の寸法は、図18の寸法と必ずしも一致しない。本例の半導体装置600は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、コレクタ電極24およびゲート配線130を有する。図19において半導体装置600の一部を省略して示している。図19において図14と共通の符号は説明を省略する。
【0127】
活性側深化トレンチ部150は、底部領域190よりも深く形成される。図19において、活性側深化トレンチ部150は、活性側底部領域182よりも深く形成されている。活性側深化トレンチ部150は、ゲートトレンチ部40よりも深く形成されてよい。活性側深化トレンチ部150は、ダミートレンチ部30よりも深く形成されてよい。活性側深化トレンチ部150は、外周ウェル領域11よりも深く形成されてよい。活性側深化トレンチ部150は、外周側深化トレンチ部140と同じ深さで形成されてよい。
【0128】
本例において活性側深化トレンチ部150は底部領域190よりも深く形成されるため、底部領域190を分割することができる。図19において、トレンチ部の配列方向において各活性側深化トレンチ部150の間に設けられた底部領域190を活性側中間底部領域188とする。中央部170に活性側深化トレンチ部150を設けることで、中央部170に活性側中間底部領域188を設けることができる。そのため電子の通過領域を設けることができる。したがって、半導体装置600の特性を改善することができる。
【0129】
図20は、他の実施形態に係る半導体装置700の一例を示す上面図である。図20の半導体装置700は、活性側深化トレンチ部150が離散的に設けられる点で図18の半導体装置600とは異なる。図20の半導体装置700のそれ以外の構成は、図18の半導体装置600と同一であってよい。
【0130】
本例において活性側深化トレンチ部150は、中央部170において離散的に設けられている。つまり、活性側深化トレンチ部150は、延伸方向において、一部設けられなくてよい。活性側深化トレンチ部150が離散的に設けられていることにより、活性側底部領域182、活性側中間底部領域188を細かく設けることができる。なお、活性側深化トレンチ部150が設けられない領域には、ゲートトレンチ部40またはダミートレンチ部30と同じ深さのトレンチ部が設けられていてもよい。
【0131】
図21は、図20におけるl-l断面の一例を示す図である。l-l断面は、中央部170のエミッタ領域12を通過するXZ面である。l-l断面は、活性側深化トレンチ部150を通過しないXZ面である。なお、図21の寸法は、図20の寸法と必ずしも一致しない。本例の半導体装置700は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、コレクタ電極24およびゲート配線130を有する。図21において半導体装置700の一部を省略して示している。
【0132】
l-l断面では、活性側深化トレンチ部150が設けられない。したがって、当該断面では中央部170には活性側底部領域182が設けられている。また当該断面では中央部170に活性側中間底部領域188が設けられない。
【0133】
図22は、他の実施形態に係る半導体装置800の一例を示す上面図である。図22の半導体装置800は、活性側底部レス領域194が中央部170に設けられる点で図17の半導体装置500とは異なる。図22の半導体装置800のそれ以外の構成は、図17の半導体装置500と同一であってよい。
【0134】
活性側底部レス領域194は、中央部170に設けられる底部レス領域192である。図22において、活性側底部レス領域194と活性側底部レス領域194以外の底部レス領域192の境界を一点鎖線で示している。活性側底部レス領域194は、上面視において活性側底部領域182に挟まれてよい。活性側底部レス領域194は、上面視において活性側底部領域182に囲まれていてもよい。活性側底部レス領域194は、活性側底部レス領域194以外の底部レス領域192と接続してよい。
【0135】
図23は、図22におけるm-m断面の一例を示す図である。m-m断面は、中央部170のエミッタ領域12を通過するXZ面である。またm-m断面は、活性側底部レス領域194を通過するXZ面である。なお、図23の寸法は、図22の寸法と必ずしも一致しない。本例の半導体装置800は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、コレクタ電極24およびゲート配線130を有する。図23において半導体装置800の一部を省略して示している。
【0136】
活性側底部レス領域194は、半導体基板10の深さ方向において活性側底部領域182と同じ深さに設けられる。活性側底部レス領域194を中央部170に設けることにより、中央部170に活性側深化トレンチ部を設けなくても活性側底部領域182の配置を変更することができる。活性側底部レス領域194には、第1導電型のドリフト領域18が設けられる。
【0137】
図24は、他の実施形態に係る半導体装置900の一例を示す上面図である。図24の半導体装置900は、トレンチ部の配置が図2の半導体装置100とは異なる。図24の半導体装置900のそれ以外の構成は、図2の半導体装置100と同一であってよい。
【0138】
本例において、外周部180のコーナー部181近傍にトレンチ部が設けられない。コーナー部181は、外周部180の端部を接続する角部である。図24では、延伸方向においてコーナー部181とトレンチ部は重ならない。
【0139】
本例において、ゲートトレンチ部40の先端部41は、外周ウェル領域11に設けられない。図24において、ゲートトレンチ部40の先端部41は、外周部180に設けられる。本例において、ダミートレンチ部30の先端部31は、外周ウェル領域11に設けられない。図24において、ダミートレンチ部30の先端部31は、外周部180に設けられる。
【0140】
図25は、図24におけるn-n断面の一例を示す図である。n-n断面は、中央部170のエミッタ領域12を通過するXZ面である。なお、図25の寸法は、図24の寸法と必ずしも一致しない。本例の半導体装置900は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、コレクタ電極24およびゲート配線130を有する。当該断面において、外周側底部領域184にはトレンチ部が設けられない。このような構成でも耐圧のアンバランスを解消することが可能である。
【0141】
図26は、図24におけるo-o断面の一例を示す図である。o-o断面は、ゲートトレンチ部40の先端部41およびダミートレンチ部30の先端部31を通過するYZ面である。なお、図26の寸法は、図24の寸法と必ずしも一致しない。本例の半導体装置900は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、コレクタ電極24およびゲート配線130を有する。当該断面において、外周側底部領域184にはゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30が設けられている。
【0142】
図27は、図24におけるp-p断面の一例を示す図である。p-p断面は、ダミートレンチ部30の直線部分29を通過するYZ面である。なお、図27の寸法は図24の寸法と必ずしも一致しない。本例の半導体装置900は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、コレクタ電極24およびゲート配線130を有する。当該断面において、外周側底部領域184にはダミートレンチ部30が設けられている。また、ダミートレンチ部30と外周ウェル領域11は離れて設けられている。
【0143】
図28は、図24におけるn-n断面の他の例を示す図である。図28は、外周側底部領域184が、半導体基板10の深さ方向において活性側底部領域182よりも広く設けられている点で、図25とは異なる。図28のそれ以外の構成は図25と同一であってよい。本例では、外周側底部領域184は、活性側底部領域182と比べ、下面23側に広く設けられており、外周ウェル領域11とほぼ同じ深さとなっている。外周側底部領域184が活性側底部領域182よりも広く設けられていることで電界分布を調整することができる。また活性側底部領域182は、外周側底部領域184よりも広く設けられてもよい。
【0144】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0145】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0146】
10・・半導体基板、11・・外周ウェル領域、12・・エミッタ領域、14・・ベース領域、15・・コンタクト領域、16・・蓄積領域、18・・ドリフト領域、20・・バッファ領域、21・・上面、22・・コレクタ領域、23・・下面、24・・コレクタ電極、29・・直線部分、30・・ダミートレンチ部、31・・先端部、32・・ダミー絶縁膜、34・・ダミー導電部、36・・ダミーポリシリコン、38・・層間絶縁膜、39・・直線部分、40・・ゲートトレンチ部、41・・先端部、42・・ゲート絶縁膜、44・・ゲート導電部、46・・ゲートポリシリコン、49・・直線部分、51・・先端部、52・・エミッタ電極、54・・コンタクトホール、56・・コンタクトホール、60・・メサ部、70・・トランジスタ部、90・・エッジ終端構造部、92・・ガードリング、100・・半導体装置、130・・ゲート配線、140・・外周側深化トレンチ部、150・・活性側深化トレンチ部、160・・活性部、162・・端辺、164・・ゲートパッド、170・・中央部、180・・外周部、181・・コーナー部、182・・活性側底部領域、184・・外周側底部領域、186・・外周側中間底部領域、188・・活性側中間底部領域、190・・底部領域、192・・底部レス領域、194・・活性側底部レス領域、200・・半導体装置、300・・半導体装置、400・・半導体装置、500・・半導体装置、600・・半導体装置、700・・半導体装置、800・・半導体装置、900・・半導体装置
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