(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】エステル交換油脂
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240326BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20240326BHJP
A23L 13/40 20230101ALI20240326BHJP
A23D 9/007 20060101ALI20240326BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20240326BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23L13/00 Z
A23L13/40
A23L13/00 A
A23D9/007
A23L35/00
(21)【出願番号】P 2022580358
(86)(22)【出願日】2022-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2022023685
(87)【国際公開番号】W WO2022264977
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2021101718
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大沼 諒
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友則
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-051156(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0189755(US,A1)
【文献】特表2020-507321(JP,A)
【文献】特表2020-528273(JP,A)
【文献】特開2015-089350(JP,A)
【文献】特開昭63-126457(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0343889(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
A23L 13/00
A23L 13/40
A23D 9/007
A23L 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷蔵下(2℃~8℃)で保管した後に使用されるエステル交換油脂であって、構成脂肪酸中のパルミチン酸/ステアリン酸重量比(P/S比)が0.1~0.7、10℃での固体脂含量(SFC)が5%以上、及び30℃でのSFCが25%以下、構成脂肪酸中のステアリン酸含量が17.1~30重量%、構成脂肪酸中のリノール酸とリノレン酸の合計が9質量%以上、及び構成脂肪酸中のオレイン酸、リノール酸及びリノレン酸の合計が55重量%以上である、畜肉加工食品又は畜肉様加工食品用エステル交換油脂。
【請求項2】
畜肉加工食品又は畜肉様加工食品に植物性蛋白質素材を含む、請求項1に記載のエステル交換油脂。
【請求項3】
該植物性蛋白質素材が大豆蛋白質素材である、請求項2に記載のエステル交換油脂。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載のエステル交換油脂を冷蔵下(2℃~8℃)で保管した後に含有し、混練する、畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載のエステル交換油脂を冷蔵下(2℃~8℃)で保管した後に含有し、混練する、畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の風味付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便に畜肉加工食品又は畜肉様加工食品を得ることができ、また畜肉加工食品又は畜肉様加工食品に肉汁溢れるジューシー感を付与することができるエステル交換油脂、該エステル交換油脂を使った畜肉加工食品又は畜肉様加工食品、及びこれら加工食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGs(持続可能な開発目標)の達成を目指す取り組みが世界的に進んでいる。とりわけ、世界的な人口増加により、食資源、特に動物性食資源の不足が予測されており、植物性の食資源への関心が高まっている。中でも、大豆、エンドウ、緑豆などの植物は、畜肉の代替素材として加工食品などに広く利用されている。
畜肉を配合した加工食品は、喫食時に肉汁を感じられる一方で、調理過程で肉汁が失われる場合がある。また畜肉を植物性成分に代替した加工食品では、畜肉不使用であるため、或いは畜肉使用量が少ないため、肉汁を感じにくく、ジューシー感が弱いことがあり、肉汁を感じられるジューシーな畜肉加工食品や畜肉様加工食品が求められている。
【0003】
このような肉汁、ジューシー感などを得る方法として、例えば特許文献1では、蛋白質及び/又はオクテニルコハク酸澱粉ナトリウムと油脂とを含む油脂組成物の使用、特許文献2では、油脂と有機酸モノグリセリドともち米澱粉及び/又はリン酸架橋澱粉とを含有する畜肉加熱食品用油脂組成物の使用が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-69332号公報
【文献】特開2019-83790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、油脂組成物を顆粒状の形態にして使用する必要があり、作業性が煩雑である。また特許文献2は、畜肉加熱食品用油脂組成物中の油脂含量によっては組成物の状態が不安定となったり、油脂組成物を配合した畜肉加熱食品の食感がやや糊っぽい食感となる場合があり、ジューシー感の付与には不十分である。
【0006】
本発明の目的は、畜肉加工食品又は畜肉様加工食品を簡便な方法で調製でき、また畜肉加工食品又は畜肉様加工食品に肉汁溢れるジューシー感を付与できる、エステル交換油脂を提供すること、及び該エステル交換油脂を用いる畜肉加工食品又は畜肉様加工食品とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが更に検討を行ったところ、特定の脂肪酸組成比に調整し、一定の固体脂含量を示すエステル交換油脂の使用により、簡便な方法で畜肉加工食品又は畜肉様加工食品を調製することができ、また畜肉加工食品又は畜肉様加工食品に肉汁溢れるジューシー感を付与することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)構成脂肪酸中のパルミチン酸/ステアリン酸重量比(P/S比)が0.1~10、10℃での固体脂含量(SFC)が5%以上、及び30℃でのSFCが25%以下である、エステル交換油脂、
(2)構成脂肪酸中のステアリン酸含量が3~35重量%である、(1)に記載のエステル交換油脂、
(3)構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸の合計が10~45重量%である、(1)に記載のエステル交換油脂、
(4)構成脂肪酸中のステアリン酸含量が3~35重量%、パルミチン酸とステアリン酸の合計が10~45重量%である、(1)に記載のエステル交換油脂、
(5)構成脂肪酸組成中のリノール酸とリノレン酸の合計が5重量%以上、及び構成脂肪酸組成中のオレイン酸、リノール酸及びリノレン酸の合計が55重量%以上である、(1)~(4)に記載のエステル交換油脂、
(6)動物脂代替用である、(1)に記載のエステル交換油脂、
(7)動物脂代替用である、(2)~(4)のいずれか1項に記載のエステル交換油脂、
(8)動物脂代替用である、(5)に記載のエステル交換油脂、
(9)(1)に記載のエステル交換油脂を含有する、畜肉加工食品、
(10)(2)~(4)のいずれか1項に記載のエステル交換油脂を含有する、畜肉加工食品、
(11)(5)に記載のエステル交換油脂を含有する、畜肉加工食品、
(12)(1)に記載のエステル交換油脂を含有する、畜肉様加工食品、
(13)(2)~(4)のいずれか1項に記載のエステル交換油脂を含有する、畜肉様加工食品、
(14)(5)に記載のエステル交換油脂を含有する、畜肉様加工食品、
(15)(1)に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉加工食品の製造方法、
(16)(2)~(4)のいずれか1項に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉加工食品の製造方法、
(17)(5)に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉加工食品の製造方法、
(18)(1)に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉様加工食品の製造方法、
(19)(2)~(4)のいずれか1項に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉様加工食品の製造方法、
(20)(5)に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉様加工食品の製造方法、
(21)(1)に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉加工食品の風味付与方法、
(22)(2)~(4)のいずれか1項に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉加工食品の風味付与方法、
(23)(5)に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉加工食品の風味付与方法、
(24)(1)に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉様加工食品の風味付与方法、
(25)(2)~(4)のいずれか1項に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉様加工食品の風味付与方法、
(26)(5)に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉様加工食品の風味付与方法、
に関するものである。
また換言すれば、
(31)構成脂肪酸中のパルミチン酸/ステアリン酸重量比(P/S比)が0.1~10、10℃での固体脂含量(SFC)が5%以上、及び30℃でのSFCが25%以下である、エステル交換油脂、
(32)構成脂肪酸中のリノール酸とリノレン酸の合計が5重量%以上、及び構成脂肪酸中のオレイン酸、リノール酸及びリノレン酸の合計が55重量%以上である、(21)に記載のエステル交換油脂、
(33)(21)又は(22)に記載のエステル交換油脂を含有する、畜肉加工食品又は畜肉様加工食品、
(34)(21)又は(22)に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の製造方法、
(35)(21)又は(22)に記載のエステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の食感改良方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、本発明のエステル交換油脂を畜肉加工食品又は畜肉様加工食品に使用することで、これら加工食品を簡便に調製でき、これら加工食品の食感を改良し、肉汁溢れるジューシー感を付与することができる。また、該エステル交換油脂を使用することで、肉汁溢れるジューシー感が付与された畜肉加工食品又は畜肉様加工食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0011】
本発明のエステル交換油脂は、構成脂肪酸中の炭素数16の飽和脂肪酸であるパルミチン酸/炭素数18の飽和脂肪酸であるステアリン酸の重量比(P/S比)が0.1~10である必要がある。この比は、より好ましくは0.2~8.0、さらに好ましくは0.2~6.0である。P/S比が適当な範囲にあることで、簡便に畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の調製ができ、ジューシー感を付与することができる。なお、構成脂肪酸の測定方法は、AOCS Official Method Ce 1h-05の方法に準拠する。
【0012】
本発明のエステル交換油脂は、10℃での固体脂含量(SFC)が5%以上である必要がある。この量は、より好ましくは8%以上、さらに好ましくは10%以上である。10℃でのSFCが適当な範囲にあることで、簡便に畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の調製ができ、ジューシー感を付与することができる。逆に、10℃でのSFCが5%未満である場合には、該油脂が液状となり、ジューシー感が得られないことがある。なお、SFCとは、Solid Fat Contentの略称であり、IUPAC.2 150(a)Solid Content Determination In Fats By NMRに準じて測定して得られる。
【0013】
本発明のエステル交換油脂は、30℃でのSFCが25%以下である必要がある。この量は、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは18%以下である。30℃でのSFCが適当な範囲にあることで、簡便に畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の調製ができ、ジューシー感を付与することができる。逆に、30℃でのSFCが25%を超える場合には、該油脂が硬くなるために、生地に練り込めないことがある。
【0014】
本発明のエステル交換油脂は、構成脂肪酸中の炭素数18の二価不飽和脂肪酸であるリノール酸と炭素数18の三価不飽和脂肪酸であるリノレン酸の合計が5重量%以上であることが好ましい。この量は、より好ましくは8重量%以上、さらに好ましくは9重量%以上である。リノール酸とリノレン酸の合計が適当な範囲にあることで、簡便に畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の調製ができ、ジューシー感を付与することができる。なお、該不飽和脂肪酸は、共にシス体を指す。
【0015】
本発明のエステル交換油脂は、構成脂肪酸中の炭素数18の一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸の合計が55重量%以上であることが好ましい。この量は、より好ましくは58重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、オレイン酸とリノール酸とリノレン酸の合計が適当な範囲にあることで、簡便に畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の調製ができ、ジューシー感を付与することができる。
【0016】
本発明のエステル交換油脂は、構成脂肪酸中のオレイン酸/(リノール酸とリノレン酸の合計)の重量比(O/(Li+Ln)比)が15以下であることが好ましい。この比は、より好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下である。O/(Li+Ln)比が適当な範囲にあることで、簡便に畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の調製ができ、ジューシー感を付与することができる。
【0017】
本発明のエステル交換油脂は、構成脂肪酸中のステアリン酸が3~35重量%であることが好ましい。この量は、より好ましくは5~30重量%、さらに好ましくは10~30重量%である。ステアリン酸の含量が適当な範囲にあることで、簡便に畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の調製ができ、ジューシー感を付与することができる。
【0018】
本発明のエステル交換油脂は、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸の合計が10~45重量%であることが好ましい。この量は、より好ましくは15~40重量%、さらに好ましくは18~38重量%である。パルミチン酸とステアリン酸の合計量が適当な範囲にあることで、簡便に畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の調製ができ、ジューシー感を付与することができる。
【0019】
本発明のエステル交換油脂は、前記構成を満たせば、使用する油脂類に特に制限はないが、ステアリン酸を多く含有する油脂、及び10℃で液状の油脂を配合し、ランダムエステル交換したのちに精製工程を経て得られたエステル交換油脂であることが好ましい。なお、エステル交換の方法に特に制限はなく、例えば、触媒としてナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒、又はリパーゼなどの酵素を用いて反応させる方法が挙げられる。
【0020】
本発明において、ステアリン酸を多く含有する油脂とは、構成脂肪酸中にステアリン酸を25重量%以上含有する油脂である。具体的には、パーム油、菜種油(キャノーラ油)、大豆油、コーン油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、米油などの極度硬化油を使用することもできる。さらに、本発明の規定をすべて満たす範囲であれば、カカオバター、シア脂、サル脂、イリッペ脂、アランブラッキア脂、高ステアリン酸・高オレイン酸ひまわり油、その他カカオバター代用脂の製造に使用されるエステル交換油脂、及びこれらの分別油なども使用することができる。これら油脂類から選択される1種または2種以上を使用することができる。
【0021】
本発明において、10℃で液状の油脂とは、大豆油、菜種油、パーム油、パーム分別油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、紅花油、ヒマワリ油、ハイオレイックひまわり油、エゴマ油などを例示することができる。より好ましくは、リノール酸とリノレン酸の合計含量が構成脂肪酸中8重量%以上含有する油脂である、大豆油、菜種油、パーム油、パーム分別油であるパームスーパーオレイン、コーン油を使用することができ、大豆油、パームスーパーオレイン、菜種油が好適である。これら油脂類から選択される1種または2種以上を使用することができる。適当な油脂を使用することで、簡便に畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の調製ができ、ジューシー感を付与できるエステル交換油脂を提供できる。
【0022】
本発明において「ジューシー感」とは、畜肉や動物脂を含む加工食品を喫食した時に流出した肉汁やうま味等、畜肉や動物脂由来の風味を口腔内で感じて得られるものである。そして、植物性油脂で畜肉や動物脂と同様の風味が付与された場合に、動物脂様のジューシー感と表現する。本発明では、植物性蛋白質素材を加工食品に使用することができるが、このような加工食品はジューシー感が不足する場合がある。本発明のエステル交換油脂は、動物脂様のジューシー感を付与することができる。
【0023】
(畜肉加工食品または畜肉様加工食品)
本発明に係る畜肉加工食品及び畜肉様加工食品とは、次のように区別する。すなわち、本発明では、原料中における
「畜肉の使用量が加工食品中の30重量%以上」のものを畜肉加工食品、
「畜肉の使用量が加工食品中の30重量%未満」のものを畜肉様加工食品、とする。
畜肉の使用量が0重量%のものは、特にミートレスの畜肉様加工食品と呼ばれるが、これも本発明の畜肉様加工食品に含める。畜肉としては、牛、豚、鶏、馬、羊、鹿、猪、七面鳥、鴨、駝鳥、鯨などの鳥獣肉を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。ここでは鳥獣は陸上動物でも水生動物でも良いが、陸上動物が好ましい。また、該畜肉加工食品又は畜肉様加工食品のモデルとなる肉の種類や部位は、特に限定されない。畜肉の使用量は製品に求める品質やコンセプトに応じて適宜決定すればよく、例えばミートレス食品とするならば畜肉は全く使用しない。
【0024】
畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の具体例として、ハンバーグ、パティ、ミートボール、ナゲット、つくね、ハム、ソーゼージ、餃子、焼売、肉まん、メンチカツ、コロッケなどが挙げられる。
【0025】
本発明のエステル交換油脂を畜肉加工食品又は畜肉様加工食品に含有することができる。その際、チョッパーなどの裁断機で、事前に該エステル交換油脂を粒状などに細断しなくても良く、他の原材料と共に直接該エステル交換油脂を含有し、混練することができる。これにより、該エステル交換油脂が生地中に適当な大きさとなって分散することができ、本発明の効果を最大限に発揮することができる。なお、事前に裁断機などで該エステル交換油脂を細断して使用してもよい。また、畜肉加工食品又は畜肉様加工食品への該エステル交換油脂の使用量は、生地中1~40%が望ましい。
【0026】
本発明に係る畜肉加工食品又は畜肉様加工食品に、粒状植物性蛋白を使用することができる。該粒状植物性蛋白とは、大豆、大豆蛋白、小麦、小麦蛋白、エンドウ、エンドウ蛋白に例示される植物性の原材料を配合し、一軸又は二軸押出成形機(エクストルーダー)を用いて高温高圧下に組織化して得られるもので、粒状やフレーク状、スライス肉状などの形状がある。本発明には大豆を主原料とする粒状大豆蛋白が好適である。所望の商品形態に応じ、任意の形状や大きさの製品を適宜選択し使用することができる。
【0027】
本発明に係る畜肉加工食品又は畜肉様加工食品は、粉末状植物性蛋白を使用することができる。該粉末状植物性蛋白とは、大豆、小麦、エンドウなどに例示される植物性の原材料を粉末化したもので、蛋白質を脱脂後の固形分あたり50重量%以上含むものである。本発明には大豆が好適である。市販の粉末状植物性蛋白を適宜選択して使用することができる。また、粉末状植物性蛋白は、生地中での分散性を高めるために、あらかじめ油脂を添加して粉末化したものも使用することができる。
【0028】
(その他原料)
本発明に係る畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の種類により、公知の材料や食品添加物を利用することができる。例えば、野菜、豚脂などの獣脂、植物油、澱粉、調味料(塩、胡椒、砂糖、醤油など)、加工澱粉、卵黄、卵白、乳化剤、香辛料、香料、その他の公知の添加物などを、本発明の効果を妨げない範囲で、適宜使用することができる。
【0029】
(利用方法)
本発明の畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の製造方法について説明する。
本発明の畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の製造方法において、一般的に原材料をミキサー、ロボクープ、サイレントカッターなどの混練機で混練して生地を調製し、これを適当な大きさ、形状に成型し、蒸し、フライ、焼成などにより加熱し、ヒートセットさせて得られる方法が例示できる。得られた加工食品は冷蔵又は冷凍して流通させることができ、消費者が直接電子レンジ、煮込み、フライ、焼成、蒸しなどの調理を行うか、或いは小売業者や外食業者が間接的に調理を行い、提供される。
【0030】
本発明の畜肉加工食品又は畜肉様加工食品の製造方法において、該エステル交換油脂は、事前に細断しなくても原材料と共に混練しても良く、特に畜肉又は畜肉様の原料と共に混練することが好ましい。また、該エステル交換油脂は混練直前まで、冷蔵庫(2℃~8℃)で保管するのが望ましい。混練作業の温度には特に制限はないが、使用直前まで該エステル交換油脂を冷蔵庫で保管するのが望ましい。これら条件を満たすことで、混練後の生地中に油脂が1cm角未満の粒状で、均一に存在することができ、さらには、粒状の油脂が目視で確認されずに、均一に混練された状態にすることができ、本発明の効果を最大限に発揮することができる。逆に、混練後の生地に、5cm角以上のブロック状で、不均一に油脂が存在していると、加熱等調理時にドリップとして肉汁等が流れ出し、喫食時にジューシー感が得られにくくなる。
【0031】
本発明は、エステル交換油脂を含有し、混練する、畜肉又は畜肉様加工食品の風味付与方法ととらえることもできる。具体的には、構成脂肪酸中のパルミチン酸/ステアリン酸重量比が0.1~10、10℃でのSFCが5%以上、及び30℃でのSFCが25%以下であるエステル交換油脂を、畜肉又は畜肉様加工食品に使用する原材料に含有し、混練することで、該加工食品にジューシー感を付与することができる。
【0032】
さらに、本発明は該エステル交換油脂を含む、ジューシー感が付与された畜肉又は畜肉様加工食品を得ることができる。そのため、本発明のエステル交換油脂は動物脂代替用の油脂ととらえることもできる。具体的には、構成脂肪酸中のパルミチン酸/ステアリン酸重量比が0.1~10、10℃でのSFCが5%以上、及び30℃でのSFCが25%以下であるエステル交換油脂は、畜肉又は畜肉様加工食品に配合することで、動物脂様のジューシー感を付与することができる。特に畜肉の配合量が少ない、或いはない畜肉様加工食品で、本発明の効果を最大限発揮することができる。
【0033】
(実施例)
以降に本発明をより詳細に説明する。なお、文中「部」及び「%」は特に断りのない限り重量基準を意味する。
【0034】
<検討1>畜肉様加工食品の検討
(検討油脂の調製)
表1に示した油脂組成の検討油脂を調製した。なお、各検討油脂の脂肪酸組成分析はAOCS Official Method Ce 1h-05の方法に、SFCはIUPAC.2 150(a)Solid Content Determination In Fats By NMRの方法に、それぞれ準じて測定した。また、検討に用いた油脂はいずれも不二製油(株)社製のものを使用した。
検討油脂1はパームスーパーオレインを用いた。
検討油脂2はパームステアリン5部、大豆油76部、極度硬化菜種油19部を、検討油脂3はパームステアリン8部、菜種油17部、大豆油55部、極度硬化菜種油20部を、検討油脂4はパームステアリン12部、菜種油47部、大豆油20部、極度硬化菜種油21部を、検討油脂5はパームステアリン15部、菜種油64部、極度硬化菜種油21部を、検討油脂6はパームステアリン15部、ハイオレイックヒマワリ油65部、極度硬化菜種油20部を、それぞれ混合し、ケミカルエステル交換反応し、常法通り脱色、脱臭を行って得られた油脂を用いた。
検討油脂7は菜種油を用いた。
検討油脂8はシアオレイン10部、パームスーパーオレイン90部を、検討油脂9はシアオレイン30部、パームスーパーオレイン70部を、検討油脂10はシアオレイン50部、パームスーパーオレイン50部を、検討油脂11はシアオレイン70部、パームスーパーオレイン30部、検討油脂12はシアオレイン100部を、それぞれ混合し、ケミカルエステル交換反応し、常法通り脱色、脱臭を行って得られた油脂を用いた。
検討油脂13は菜種油70部、極度硬化菜種油10部、極度硬化パーム油20部を混合した油脂を用いた。
【0035】
【表1】
P:パルミチン酸、S:ステアリン酸、O:オレイン酸、Li:リノール酸、Ln:リノレン酸、U:オレイン酸とリノール酸とリノレン酸の合計
【0036】
(ミートレスハンバーグの調製)
畜肉様加工食品として、表2に示した配合のミートレスハンバーグを調製した。ミートレスハンバーグの調製方法は、ケンウッドミキサー(愛工舎製作所社製、攪拌速度140rpm)を使用し、加水した粒状大豆蛋白とエマルションカードをミキサーに入れて1分攪拌し、そこに検討油脂を加えて1分攪拌し、さらに調味料を加えて3分攪拌し、みじん切りしたタマネギを加えて1分攪拌し、乾燥パン粉(「W初雪」(富士パン粉工業(株)社製))及びα化澱粉(「パインソフトB」(松谷化学工業(株)社製))を加えて30秒攪拌した。攪拌した生地を1個55gに成型した。コンベクションオーブンにて200℃で8分間(中心温度80℃)焼き蒸し加熱を行い、ミートレスハンバーグを得た。焼き蒸し加熱が終わったハンバーグをショックフリーザーにて冷凍した。なお、検討油脂は1週間冷蔵庫にて保管したものを使用し、使用直前まで冷蔵庫に保管した。
また、ミートレスハンバーグに使用のエマルションカードは、水40.9部に粉末大豆蛋白(フジプロFR(不二製油(株)社製))9.1部、菜種油(不二製油(株)社製)9.1部、乾燥卵白(乾燥卵白Kタイプ(キユーピータマゴ(株)社製)9.1部、粒状大豆蛋白(アペックス950(不二製油(株)社製)を2.5倍加水した)31.8部を乳化機に順次加えて乳化したものを用いた(「ロボクープ」(エフ・エム・アイ(株)社製)、1500rpmで5分間攪拌)。
【0037】
【0038】
(評価方法)
評価は、作業性とジューシー感とし、下記のように実施した。両評価ともに2点以上のものを合格とした。
【0039】
○作業性の評価
原材料の混練終了後の生地に存在する油脂の状態を、目視で確認した。
0点:油脂が5cm角以上のブロック状で、不均一に存在する。
1点;油脂が1~5cm角の粒状で、不均一に存在する。
2点:油脂が1cm角未満の粒状で、均一に存在する。
3点:粒状の油脂が目視で確認されず、より均一に混練されている。
【0040】
○ジューシー感の評価
冷凍したハンバーグを電子レンジ(500ワット、2分間)で温めて、解凍及び加熱をしたものを用いた。パネラー5名で官能評価を行い、パネラーの合議で評価した。各評価結果を表3に記載した。
なお、ここで言うジューシー感とは、ハンバーグを噛んだ際に、ハンバーグから染み出てくる肉汁或いは肉汁感のことを指す。
0点:肉汁を感じず、パサパサしている。
1点;肉汁を感じにくく、少しパサパサしている。
2点:肉汁を適度に感じる。
3点:肉汁を強く感じる。
【0041】
【0042】
(結果)
P/S比、SFCなどに関する構成を満たす検討油脂を配合した実施例1~10において、生地中に検討油脂が粒状に存在し、さらには粒状の油脂が目視で確認されず、より均一に混練されており、ジューシー感も有することが確認された。一方で、比較例1や比較例2に使用の検討油脂は、生地中に混練することはできるものの、ジューシー感はなかった。また、比較例3に使用の検討油脂13は、生地中に5cm角以上のブロック状で不均一に存在し、またジューシー感もなかった。
【0043】
<検討2>畜肉加工食品の検討
(検討油脂の調製)
表4に示した油脂組成の検討油脂を調製した。なお、検討に用いた油脂はいずれも不二製油(株)社製のものを使用した。
検討油脂14はハイオレイックヒマワリ油とステアリン酸エチルの混合油をランダムエステル交換反応し、アセトンで溶剤分別で得られた高融点部の精製油30部、パームスーパーオレイン30部、菜種油40部を、検討油脂15はハイオレイックヒマワリ油とステアリン酸エチルの混合油をランダムエステル交換反応し、アセトンで溶剤分別で得られた高融点部の精製油20部、パームスーパーオレイン30部、菜種油50部を、それぞれ混合し、ケミカルエステル交換反応し、常法通り脱色、脱臭を行って得られた油脂を用いた。
【0044】
【0045】
(チキンハンバーグの調製)
畜肉加工食品として、表5に示した配合のチキンハンバーグを調製した。その調製方法は、鶏肉ミンチと検討油脂をケンウッドミキサー(愛工舎製作所社製、攪拌速度140rpm)に入れて2分攪拌し、そこに調味料を加えて1分半攪拌し、加水した粒状大豆蛋白を加えて30秒攪拌し、みじん切りしたタマネギを加えて30秒攪拌し、乾燥パン粉と片栗粉を入れて30秒攪拌した。攪拌後の生地を1個55gに成型した。コンベクションオーブンにて200℃で8分間(中心温度80℃)焼き蒸し加熱を行い、ミートレスハンバーグを得た。焼き蒸し加熱が終わったハンバーグをショックフリーザーにて冷凍した。なお、検討油脂は1週間冷蔵庫にて保管したものを使用し、使用直前まで冷蔵庫にて保管した。
【0046】
【0047】
(評価方法)
評価は検討1の評価方法を踏襲した。
【0048】
【0049】
(結果)
検討油脂14は、生地中の油脂が粒状で均一に存在し、ジューシー感を有することが確認された。また検討油脂15では、生地中の油脂が目視で確認されず、より好ましい状態であり、ジューシー感を有することも確認された。