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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】過給機
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/14 20060101AFI20240326BHJP
   F01D 25/16 20060101ALI20240326BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20240326BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F02B39/14 B
F01D25/16 D
F02B39/00 J
F16C19/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023516034
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2021046603
(87)【国際公開番号】W WO2022224492
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2021073665
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴大
(72)【発明者】
【氏名】上田 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】小島 英之
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-196248(JP,A)
【文献】特開2012-167606(JP,A)
【文献】特開2016-61381(JP,A)
【文献】実開昭58-108235(JP,U)
【文献】実開昭60-43137(JP,U)
【文献】実開平1-127939(JP,U)
【文献】国際公開第2020/021908(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0328273(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/16
F02B 39/00
F16C 19/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
前記シャフトに取り付けられる内輪と、前記内輪の周りに配置される外輪と、を有する転がり軸受と、
前記転がり軸受を収容する軸受孔を含むハウジングと、
前記軸受孔の外側において前記シャフトに設けられるコンプレッサインペラと、
前記シャフトの中心軸線方向において、前記軸受孔と前記コンプレッサインペラとの間に配置され、かつ、前記外輪の側面に対向する端面を含む円環状の軸受抑え板であって、前記端面は、前記シャフトの円周方向全体に沿って連続的に延びる円環状の円周油溝と、前記シャフトの径方向において前記円周油溝の内側に位置し、かつ、前記シャフトの前記中心軸線方向に突出する突起と、を含む、軸受抑え板と、
を備える、過給機。
【請求項2】
前記突起は、前記シャフトの中心軸線から上方に延びる鉛直軸に対して、前記シャフトの回転方向に-90度以上90度以下の範囲内のみに設けられる、請求項1に記載の過給機。
【請求項3】
前記軸受抑え板の前記端面は、前記シャフトの前記中心軸線方向から見て、前記外輪の前記側面の外側から内向きに延びかつ前記円周油溝に連結される案内油溝を含み、
前記円周油溝は、前記案内油溝よりも深い、請求項1または2に記載の過給機。
【請求項4】
前記案内油溝の全体が、前記シャフトの中心軸線から上方に延びる鉛直軸に対して、前記シャフトの回転方向に0度より大きく90度未満の範囲に位置する、請求項3に記載の過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、過給機に関する。本出願は2021年4月23日に提出された日本特許出願第2021-73665号に基づく優先権の利益を主張するものであり、その内容は本出願に援用される。
【背景技術】
【0002】
過給機は、シャフトを支持する転がり軸受を備え得る。例えば、特許文献1の過給機は、一対の転がり軸受を備える。一方の転がり軸受の外輪の側面は、ハウジングの側壁と対向する。ハウジングの側壁は、給油溝を有する。給油溝は、シャフトの径方向に沿って延び、シャフトから上方に延びる鉛直軸に対して傾いている。
【0003】
また、例えば、特許文献2の過給機は、一対の転がり軸受を備える。一方の転がり軸受の外輪の側面は、ダンパ抑えと対向する。ダンパ抑えは、概ね円環形状を有する。ただし、ダンパ抑えの下部分は、切り欠きを有し、円周方向に不連続である。ダンパ抑えは、給油溝を有する。給油溝は、概ね円弧状の溝を含む。円弧状の溝は、突起によって、ダンパ抑えの内周縁から離間されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/021908号
【文献】実開昭60-43137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
過給機では、例えば、小型化のために軸受孔とコンプレッサインペラとの間の距離が短縮化される場合がある。この場合、軸受孔からコンプレッサインペラの収容空間へのオイル漏れが問題になり得る。
【0006】
本開示は、上記のような課題を考慮して、オイル漏れを低減することができる過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る過給機は、シャフトと、シャフトに取り付けられる内輪と、内輪の周りに配置される外輪と、を有する転がり軸受と、転がり軸受を収容する軸受孔を含むハウジングと、軸受孔の外側においてシャフトに設けられるコンプレッサインペラと、シャフトの中心軸線方向において、軸受孔とコンプレッサインペラとの間に配置され、かつ、外輪の側面に対向する端面を含む円環状の軸受抑え板であって、端面は、シャフトの円周方向全体に沿って連続的に延びる円環状の円周油溝と、シャフトの径方向において円周油溝の内側に位置し、かつ、シャフトの中心軸線方向に突出する突起と、を含む、軸受抑え板と、を備える。
【0008】
突起は、シャフトの中心軸線から上方に延びる鉛直軸に対して、シャフトの回転方向に-90度以上90度以下の範囲内のみに設けられてもよい。
【0009】
軸受抑え板の端面は、シャフトの中心軸線方向から見て、外輪の側面の外側から内向きに延びかつ円周油溝に連結される案内油溝を含んでもよく、円周油溝は、案内油溝よりも深くてもよい。
【0010】
案内油溝の全体が、シャフトの中心軸線から上方に延びる鉛直軸に対して、シャフトの回転方向に0度より大きく90度未満の範囲に位置してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、オイル漏れを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係る過給機を示す概略的な断面図である。
図2図2は、図1中のA部の概略的な拡大断面図である。
図3図3は、軸受抑え板を示す概略的な平面図である。
図4図4は、図3中のIV-IV線に沿って得られる概略的な断面図である。
図5図5は、他の実施形態に係る軸受抑え板を示す概略的な平面図である。
図6図6は、オイル漏れの評価結果を示すグラフである。
図7図7は、さらに他の実施形態に係る軸受抑え板を示す概略的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料および数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、実施形態に係る過給機TCを示す概略的な断面図である。例えば、過給機TCは、エンジンに適用される。過給機TCは、ハウジング1と、シャフト7と、タービンインペラ8と、コンプレッサインペラ9と、を備える。
【0015】
過給機TCの方向に関して、本開示では、シャフト7の中心軸線方向、径方向および円周方向が、他に指示が無い限り、それぞれ単に「中心軸線方向」、「径方向」および「円周方向」と称され得る。
【0016】
ハウジング1は、ベアリングハウジング2と、タービンハウジング3と、コンプレッサハウジング4と、を含む。中心軸線方向において、ベアリングハウジング2の一方の端部は、Gカップリング等の締結機構21aによってタービンハウジング3に連結される。中心軸線方向において、ベアリングハウジング2の他方の端部は、締結ボルト等の締結機構21bによってコンプレッサハウジング4に連結される。
【0017】
ベアリングハウジング2は、軸受孔22を含む。軸受孔22は、ベアリングハウジング2内を中心軸線方向に延在する。中心軸線方向において、軸受孔22の一方の端部は、ベアリングハウジング2の側壁30によって規定される。側壁30は、中心軸線方向において、タービンインペラ8と軸受孔22との間に位置する。中心軸線方向において、軸受孔22の他方の端部は、軸受抑え板40によって規定される。軸受抑え板40は、中心軸線方向において、コンプレッサインペラ9と軸受孔22との間に位置する。
【0018】
側壁30は、軸受孔22の内周面に対して、径方向の内側に突出する。側壁30は、ベアリングハウジング2と一体である。しかしながら、他の実施形態では、側壁30は、ベアリングハウジング2と別体であってもよく、ベアリングハウジング2に取り付けられてもよい。側壁30は、端面31を含む。端面31は、中心軸線方向において、軸受孔22の一方の端部を規定する。
【0019】
軸受抑え板40は、ベアリングハウジング2とは別体であり、ベアリングハウジング2の表面24に取り付けられる。表面24は、軸受孔22の内周面に対して垂直に拡がる。例えば、軸受抑え板40は、ベアリングハウジング2に嵌合される。軸受抑え板40は、第1端面41を含む。第1端面41は、中心軸線方向において、軸受孔22の他方の端部を規定する。軸受抑え板40については、詳しくは後述する。
【0020】
軸受孔22は、一対の転がり軸受50,60を収容する。転がり軸受50,60は、シャフト7を回転可能に支持する。一対の転がり軸受50,60は、中心軸線方向に互いに離隔している。本開示において、側壁30に隣接する転がり軸受は、第1軸受50と称され得る。本開示において、軸受抑え板40に隣接する転がり軸受は、第2軸受60と称され得る。
【0021】
中心軸線方向において、シャフト7の第1の端部には、タービンインペラ8が設けられる。タービンインペラ8は、中心軸線方向において、軸受孔22の外側に位置する。タービンインペラ8は、タービンハウジング3に回転可能に収容される。中心軸線方向において、第1の端部とは反対側のシャフト7の第2の端部には、コンプレッサインペラ9が設けられる。コンプレッサインペラ9は、中心軸線方向において、軸受孔22の外側に位置する。コンプレッサインペラ9は、コンプレッサハウジング4に回転可能に収容される。
【0022】
コンプレッサハウジング4は、中心軸線方向においてベアリングハウジング2と反対側の端部に、吸気口10を含む。吸気口10は、不図示のエアクリーナに接続される。ベアリングハウジング2およびコンプレッサハウジング4は、それらの間にディフューザ流路11を規定する。ディフューザ流路11は、径方向の内側から外側に向けて拡がる。ディフューザ流路11は、環状形状を有する。ディフューザ流路11は、コンプレッサインペラ9を介して吸気口10に連通する。
【0023】
コンプレッサハウジング4は、コンプレッサスクロール流路12を含む。コンプレッサスクロール流路12は、コンプレッサインペラ9に対して径方向の外側に位置する。コンプレッサスクロール流路12は、ディフューザ流路11と連通する。また、コンプレッサスクロール流路12は、不図示のエンジンの吸気口と連通する。コンプレッサインペラ9が回転すると、吸気口10からコンプレッサハウジング4内に空気が吸気される。吸気は、コンプレッサインペラ9の翼の間の空間を通る間に、遠心力によって増速される。増速された空気は、ディフューザ流路11およびコンプレッサスクロール流路12で加圧される。加圧された空気は、不図示の吐出口から流出し、エンジンの吸気口に導かれる。
【0024】
タービンハウジング3は、中心軸線方向においてベアリングハウジング2と反対側の端部に、吐出口13を含む。吐出口13は、不図示の排気ガス浄化装置に接続される。タービンハウジング3は、流路14と、タービンスクロール流路15とを含む。タービンスクロール流路15は、タービンインペラ8に対して径方向の外側に位置する。流路14は、タービンインペラ8とタービンスクロール流路15との間に位置する。
【0025】
タービンスクロール流路15は、不図示のガス流入口と連通する。ガス流入口は、不図示のエンジンの排気マニホールドから排出される排気ガスを受け入れる。タービンスクロール流路15は、流路14と連通する。流路14は、タービンインペラ8を介して吐出口13に連通する。排気ガスは、ガス流入口からタービンスクロール流路15に導かれ、さらに、流路14およびタービンインペラ8を介して吐出口13に導かれる。排気ガスは、タービンインペラ8の翼の間の空間を通る間に、タービンインペラ8を回転させる。
【0026】
タービンインペラ8の回転力は、シャフト7を介してコンプレッサインペラ9に伝達される。コンプレッサインペラ9が回転すると、上記のとおりに空気が加圧される。こうして、加圧された空気がエンジンの吸気口に導かれる。
【0027】
図2は、図1中のA部の概略的な拡大断面図である。ベアリングハウジング2は、メイン油路23を含む。メイン油路23は、中心軸線方向に延在する。メイン油路23は、軸受孔22と平行に延在する。メイン油路23は、軸受孔22の上方に位置する。
【0028】
軸受孔22およびメイン油路23は、ベアリングハウジング2の表面24に開口する。上記のように、表面24には、軸受抑え板40が取り付けられる。軸受抑え板40は、メイン油路23の開口を閉じる。
【0029】
メイン油路23は、貫通孔25と連通する。貫通孔25は、ベアリングハウジング2に形成される。貫通孔25は、ベアリングハウジング2の外壁からメイン油路23まで延在する。オイルが、不図示のオイルポンプから貫通孔25を介してメイン油路23に供給される。
【0030】
ベアリングハウジング2は、第1油路26および第2油路27を含む。第1油路26および第2油路27の各々は、メイン油路23に開口する。また、第1油路26および第2油路27の各々は、軸受孔22に開口する。第1油路26および第2油路27の各々は、メイン油路23と軸受孔22とを接続する。第1油路26は、中心軸線方向において、第1軸受50に対応する位置に設けられ、第1軸受50に向かって開口する。第2油路27は、中心軸線方向において、第2軸受60に対応する位置に設けられ、第2軸受60に向かって開口する。
【0031】
ベアリングハウジング2は、下壁29を含む。下壁29は、径方向において、軸受孔22の下部を規定する。下壁29は、排油孔29aを含む。排油孔29aは、下壁29を鉛直方向に貫通する。例えば、中心軸線方向において、排油孔29aは、第1油路26と第2油路27との間に位置する。すなわち、排油孔29aは、中心軸線方向において、第1軸受50と第2軸受60との間に位置する。
【0032】
軸受孔22は、シャフト7の一部を収容する。シャフト7は、大径部7a、中径部7bおよび小径部7cを含む。中心軸線方向において、中径部7bは、側壁30と軸受抑え板40との間に位置する。中心軸線方向において、大径部7aは、シャフト7の第1の端部と中径部7bとの間に位置する。中心軸線方向において、小径部7cは、シャフト7の第2の端部と中径部7bとの間に位置する。中径部7bの外径は、大径部7aの外径よりも小さい。小径部7cの外径は、中径部7bの外径よりも小さい。
【0033】
シャフト7は、第1段差面7dおよび第2段差面7eを含む。中心軸線方向において、第1段差面7dは、大径部7aと中径部7bとの間に位置する。第1段差面7dは、大径部7aの外周面から中径部7bの外周面まで径方向に延在する。中心軸線方向において、第2段差面7eは、中径部7bと小径部7cとの間に位置する。第2段差面7eは、中径部7bの外周面から小径部7cの外周面まで径方向に延在する。
【0034】
第1軸受50は、内輪51と、外輪52と、複数の転動体53と、保持器54と、を含む。内輪51は、シャフト7の中径部7bの外周面に取り付けられる。内輪51は、シャフト7と一体回転する。外輪52は、内輪51に対して径方向の外側に設けられる。外輪52は、軸受孔22の内周面と対向する。内輪51と外輪52との間には、複数の転動体53が配置される。保持器54は、複数の転動体53を保持する。
【0035】
第2軸受60は、内輪61と、外輪62と、複数の転動体63と、保持器64と、を含む。内輪61は、シャフト7の中径部7bの外周面に取り付けられる。内輪61は、シャフト7と一体回転する。外輪62は、内輪61に対して径方向の外側に設けられる。外輪62は、軸受孔22の内周面と対向する。内輪61と外輪62との間には、複数の転動体63が配される。保持器64は、複数の転動体63を保持する。
【0036】
本開示において、第1軸受50の内輪51および第2軸受60の内輪61の側面51a,51b、61a,61bのうち、中心軸線方向において互いに対向する側面は、「内側面」51b、61bと称され得、内側面51b、61bと反対側の側面は、「外側面」51a,61aと称され得る。
【0037】
同様に、本開示において、第1軸受50の外輪52および第2軸受60の外輪62の側面52a,52b、62a,62bのうち、中心軸線方向において互いに対向する側面は、「内側面」52b、62bと称され得、内側面52b、62bと反対側の側面は、「外側面」52a,62aと称され得る。
【0038】
第1軸受50の内輪51の外側面51aは、中心軸線方向において、シャフト7の第1段差面7dに接触する。また、第1軸受50の外輪52の外側面52aは、中心軸線方向において、側壁30の端面31に対向する。
【0039】
シャフト7の中径部7bには、内輪51および内輪61の間にスペーサ70が設けられる。スペーサ70は概ね円筒形状を有する。スペーサ70には、シャフト7が挿入される。他の実施形態では、スペーサ70の代わりに、スプリングおよびスプリング受けが設けられてもよい。
【0040】
第1軸受50の内輪51の内側面51bは、中心軸線方向において、スペーサ70の一方の端部に接触する。第2軸受60の内輪61の内側面61bは、中心軸線方向において、スペーサ70の他方の端部に接触する。
【0041】
シャフト7の小径部7cには、油切り部材80が取り付けられる。油切り部材80は、オイルを径方向の外側に飛散させる。油切り部材80は、軸受抑え板40の径方向の内側に設けられる。油切り部材80および軸受抑え板40は、径方向に離間する。
【0042】
第2軸受60の内輪61の外側面61aは、中心軸線方向において、油切り部材80に接触する。また、第2軸受60の外輪62の外側面62aは、中心軸線方向において、軸受抑え板40に対向する。
【0043】
第1軸受50、スペーサ70、第2軸受60、油切り部材80およびコンプレッサインペラ9は、シャフト7のコンプレッサインペラ9側の端部から、この順にシャフト7に取り付けられる。シャフト7の第2端部に取り付けられる締結ボルトによって、これらの部材に中心軸線方向に圧縮応力が作用し、これによってシャフト7に軸力が加わる。第1軸受50の内輪51、スペーサ70、第2軸受60の内輪61、油切り部材80およびコンプレッサインペラ9は、シャフト7と一体回転する。
【0044】
第1軸受50の外輪52の外周面52cは、切り欠き55を含む。切り欠き55は、環状形状を有する。切り欠き55は、外側面52aに隣接する。外側面52aの外径は、切り欠き55の径方向の長さの分だけ、外周面52cの直径よりも小さい。
【0045】
第2軸受60の外輪62の外周面62cは、切り欠き65を含む。切り欠き65は、環状形状を有する。切り欠き65は、外側面62aに隣接する。外側面62aの外径は、切り欠き65の径方向の長さの分だけ、外周面62cの直径よりも小さい。
【0046】
シャフト7に対して、タービンインペラ8に向かうスラスト荷重が作用すると、第1軸受50の外輪52が側壁30を押圧する。したがって、側壁30は、外輪52の軸方向の移動を規制する規制部材として機能する。また、シャフト7に対して、コンプレッサインペラ9に向かうスラスト荷重が作用すると、第2軸受60の外輪62が軸受抑え板40を押圧する。したがって、軸受抑え板40は、外輪62の軸方向の移動を規制する規制部材として機能する。以上のような構成によれば、スラスト荷重によるシャフト7の移動は、側壁30および軸受抑え板40によって止められる。
【0047】
本実施形態では、過給機TCは、外輪52、62の回転止めを備えない。外輪52は、側壁30を押圧しないとき、ベアリングハウジング2に対して周方向に回転可能である。同様に、外輪62は、軸受抑え板40を押圧しないとき、ベアリングハウジング2に対して周方向に回転可能である。シャフト7が回転すると、内輪51、61は、シャフト7と一体回転する。転動体53、63は、内輪51、61の回転に伴って回転する。転動体53、63は、周方向に移動する。外輪52、62は、転動体53、63の回転および移動に伴って、または、オイルの流れに伴って、周方向に回転する。外輪52の回転速度は、内輪51の回転速度よりも遅い。また、本実施形態では、一対の転がり軸受50,60は、正面組合せである。そのため、外輪52と外輪62との間にスペーサが不要である。したがって、外輪52、62には予圧がかけられない。そのため、外輪52、62はベアリングハウジング2に対して回転し易い。
【0048】
続いて、軸受抑え板40について詳細に説明する。
【0049】
図3は、軸受抑え板40を示す概略的な平面図であり、軸受抑え板40を軸受孔22から中心軸線方向に見る。すなわち、図3は、図2中のIII-III線に沿って得られる。図3において、軸受孔22の内径が、破線で示される。また、第2軸受60の外側面62aの外径が、破線で示される。符号Zは、シャフト7の中心軸線から上方に延びる鉛直軸を示す。
【0050】
軸受抑え板40は、概ね円環形状またはディスク形状を有する。軸受抑え板40は、内周縁43と、外周縁44と、を含む。
【0051】
図2を参照して、例えば、内周縁43の直径は、第2軸受60の外輪62の最内径よりも小さく、かつ、油切り部材80の外径よりも大きい。また、例えば、外周縁44の直径は、軸受孔22の内径よりも大きい。軸受抑え板40は、中心軸線方向において、第1端面41と、第2端面42と、を含む。上記のように、第1端面41は、中心軸線方向において、軸受孔22の端部を規定する。第1端面41は、中心軸線方向において、外輪62の外側面62aに対向する。第2端面42は、第1端面41の反対側に位置する。
【0052】
図3を参照して、第1端面41は、案内油溝45と、円周油溝46と、排油面47と、突起48と、を含む。
【0053】
案内油溝45は、外輪62と軸受孔22との間の隙間と、円周油溝46とを接続し、この隙間のオイルを、円周油溝46に導く。案内油溝45は、中心軸線方向から見て、外輪62の外側面62aの外側から、径方向に沿って内向きに延在する。本実施形態では、案内油溝45は、径方向に沿って概ね直線形状を有する。本実施形態では、案内油溝45は、径方向に沿って延びる中心軸線45aを有する。本実施形態では、中心軸線45aは、鉛直軸Z上に位置する。他の実施形態では、案内油溝45は、側面62aの外側から内向きに延在する限りにおいて、径方向に沿わなくてもよい。すなわち、他の実施形態では、中心軸線45aが、シャフト7の中心軸線に向かって延在しなくてもよい。案内油溝45は、円周油溝46まで延在し、円周油溝46に連結される。
【0054】
径方向に垂直な断面において、案内油溝45は、半円形状、三角形状または四角形状等の様々な断面形状を有してよい。案内油溝45の幅および深さ等の寸法は、例えば、第2軸受60に供給されるオイルの流量等の因子に応じて決定される。
【0055】
円周油溝46は、案内油溝45からオイルを受け入れ、受け入れたオイルを円周方向に導く。円周油溝46は、径方向において案内油溝45の内側に位置する。円周油溝46は、案内油溝45に連結される。円周油溝46は、円周方向に沿って延びる。円周油溝46は、円周方向全体に連続しており、円環形状を有する。円周油溝46は、突起48によって内周縁43から離間される。円周油溝46は、下部では、排油面47と一体的に形成される。
【0056】
図2を参照して、本実施形態では、円周油溝46の外径は、外輪62の外側面62aの内径と同じまたは概ね同じである。他の実施形態では、円周油溝46の外径は、外側面62aの内径よりも小さくてもよく、または、大きくてもよい。
【0057】
図4は、図3中のIV-IV線に沿って得られる概略的な断面図である。本実施形態では、円周油溝46の深さd1は、案内油溝45の深さd2よりも深い。他の実施形態では、円周油溝46の深さd1は、案内油溝45の深さd2と同じであってもよい。
【0058】
円周方向に垂直な断面において、円周油溝46は、半円形状、三角形状または四角形状等の様々な断面形状を有してよい。円周油溝46の幅および深さ等の寸法は、例えば、第2軸受60に供給されるオイルの流量等の因子に応じて決定される。
【0059】
排油面47は、第1端面41の下部の領域に設けられる。排油面47は、シャフト7よりも下方のオイルを下壁29に向けて導く。排油面47は、円周油溝46に連続的に形成される。したがって、排油面47の深さは、円周油溝46の深さd2と同じである。
【0060】
図3を参照して、排油面47は、中心軸線方向から見て、シャフト7に同軸の扇型形状を有する。例えば、排油面47は、鉛直軸Zに対して、回転方向に90度以上270度以下の範囲内のみに設けられ得る。つまり、排油面47は、軸受抑え板40の下半分のみに設けられ得る。
【0061】
突起48は、径方向において円周油溝46の内側に位置する。本実施形態では、突起48は、円周方向全体に沿って連続的に延びる。すなわち、本実施形態では、突起48は、円環形状を有する。
【0062】
図4を参照して、突起48は、円周油溝46から第2軸受60に向かって、中心軸線方向に突出する。突起48の高さに関して、例えば、突起48は、第1端面41と面一であってもよい。
【0063】
図2を参照して、上記のような過給機TCでは、オイルが貫通孔25からメイン油路23に供給されると、オイルは、第2油路27から、第2軸受60の外輪62の外周面62cと、軸受孔22との間の隙間に流れる。オイルは、この隙間から、外側面62aおよび内側面62bを経由して、シャフト7周りの空間に供給される。このような構成によって、オイルが内輪61と外輪62との間の空間に供給される。
【0064】
図3を参照して、特に、外輪62の外側面62aが軸受抑え板40の第1端面41に接触する場合、オイルは、軸受抑え板40の案内油溝45を通って、円周油溝46に供給される。円周油溝46内のオイルは、突起48に沿って、円周方向に案内される。このような構成によれば、突起48の高さの分だけ、軸受抑え板40と油切り部材80との間の隙間の中心軸線方向における長さが増大されるため、軸受抑え板40の第2断面42へのオイル漏れを低減することができる。例えば、小型化のために軸受孔22とコンプレッサインペラ9との間の距離が短縮化される場合、軸受孔22からコンプレッサインペラ9の収容空間へのオイル漏れが問題になり得る。上記のような構成によれば、このようなオイル漏れを低減することができる。また、オイルは、突起48に沿って、中心軸線方向に内輪61と外輪62との間の空間に向かって案内される。したがって、オイルを内輪61と外輪62との間の空間に効率よく導くことができる。よって、第2軸受60の潤滑を向上することができる。
【0065】
図2を参照して、オイルが貫通孔25からメイン油路23に供給されると、オイルは、第1油路26から、第1軸受50の外輪52の外周面52cと、軸受孔22との間の隙間に流れる。オイルは、この隙間から、外側面52aおよび内側面52bを経由して、シャフト7周りの空間に流れる。このような構成によって、オイルが内輪51と外輪52との間の空間、および、側壁30とシャフト7の大径部7aとの間の空間に供給される。
【0066】
以上のような過給機TCは、シャフト7と、シャフト7に取り付けられる内輪61と、内輪61の周りに配置される外輪62と、を有する第2軸受60と、第2軸受60を収容する軸受孔22を含むベアリングハウジング2と、軸受孔22の外側においてシャフト7に設けられるコンプレッサインペラ9と、中心軸線方向において、軸受孔22とコンプレッサインペラ9との間に配置され、かつ、外輪62の外側面62aに対向する第1端面41を含む円環状の軸受抑え板40であって、第1端面41は、円周方向全体に沿って連続的に延びる円環状の円周油溝46と、径方向において円周油溝46の内側に位置し、かつ、中心軸線方向に突出する突起48と、を含む、軸受抑え板40と、を備える。このような構成によれば、上記のように、突起48の高さの分だけ、軸受抑え板40と油切り部材80との間の隙間の中心軸線方向における長さが増大されるため、軸受抑え板40の第2端面42へのオイル漏れを低減することができる。したがって、オイル漏れを低減することができる。また、このような構成によれば、オイルは、突起48に沿って、中心軸線方向に内輪61と外輪62との間の空間に向かって案内される。したがって、オイルを内輪61と外輪62との間の空間に効率よく導くことができる。よって、第2軸受60の潤滑を向上することができる。
【0067】
また、過給機TCでは、軸受抑え板40の第1端面41は、中心軸線方向から見て、外輪62の外側面62aの外側から内向きに延びかつ円周油溝46に連結される案内油溝45を含み、円周油溝46は、案内油溝45よりも深い。この場合、より多くのオイルが円周方向に沿って下方に案内されるため、オイルを効率よく排出方向に導くことができる。
【0068】
続いて、他の実施形態に係る軸受抑え板について説明する。
【0069】
図5は、他の実施形態に係る軸受抑え板90を示す概略的な平面図である。図5において、矢印Rは、シャフト7の回転方向を示す。符号Zは、シャフト7の中心軸線から上方に延びる鉛直軸を示す。軸受抑え板90は、案内油溝45がシャフト7の回転方向Rに傾けられる点で、上記の軸受抑え板40と異なる。他の点については、軸受抑え板90は、軸受抑え板40と同じであってもよい。
【0070】
本実施形態では、案内油溝45は、径方向の最も外側の部分および最も内側の部分を含めて、全体的に、鉛直軸Zに対して、回転方向Rに0度より大きく90度未満の範囲Arに位置する。図5において、クロスハッチングされた領域は、範囲Arを示す。本実施形態では、中心軸線45aが、鉛直軸Zに対して、回転方向Rに45度に位置する。すなわち、中心軸線45aと鉛直軸Zとの間の角度αは45度である。他の実施形態では、案内油溝45の全体が範囲Ar1に位置する限りにおいて、角度αは、0度より大きく90度未満であり得る。
【0071】
上記のような軸受抑え板90を備える過給機TCは、軸受抑え板40を備える過給機TCと概ね同じ効果を奏し得る。
【0072】
特に、軸受抑え板90では、案内油溝45の全体が、鉛直軸Zに対して、回転方向Rに0度より大きく90度未満の範囲に位置する。このような構成によれば、案内油溝45を通るオイルは、鉛直軸Zに対して、回転方向Rに0度より大きく90度未満の範囲Arにおいて、シャフト7周りの空間に供給される。この場合、重力およびシャフト7からの回転力の双方が、オイルに下向きに作用する。よって、オイルは、排油孔29aを含む下壁29に向かって、下方に素早く流れる。したがって、オイルを効率よく排出方向に導くことができる。また、軸受抑え板90と油切り部材80との間の隙間の周辺において、オイルが効率よく排出方向に導かれるため、軸受孔22から隙間へのオイル漏れが低減される。
【0073】
続いて、オイル漏れの評価について説明する。
【0074】
図6は、オイル漏れの評価結果を示すグラフである。図6の評価では、過給機TCにおいて、以下の4種類の軸受抑え板を使用した。
【0075】
比較例 :案内油溝45が鉛直軸Zに対して回転方向Rに0度に位置する。
すなわち、案内油溝45が鉛直軸Z上に位置する。
突起は設けられていない。
その他の点については、軸受抑え板40と同じである。
【0076】
実施例1:案内油溝45が鉛直軸Zに対して回転方向Rに0度に位置する。
すなわち、案内油溝45が鉛直軸Z上に位置する。
突起が設けられている。
【0077】
実施例2:案内油溝45が鉛直軸Zに対して回転方向Rに60度に位置する。
突起が設けられている。
【0078】
実施例3:案内油溝45が鉛直軸Zに対して回転方向Rに45度に位置する。
突起が設けられている。
【0079】
4種類の軸受抑え板の各々を使用して、以下のような評価を実施した。
【0080】
シャフト7を、複数の回転数で回転させた。複数の回転数の各々において、オイルポンプから過給機TCに、オイルを複数の流量で供給した。軸受抑え板と油切り部材との間の隙間からのオイル漏れが確認されたときの流量を測定した。各回転数におけるオイル漏れが確認されたときの流量について、比較例の流量に対する、4種類の軸受抑え板の各々の流量の割合を算出した。算出された値が、図8の縦軸の「改善率」として示される。改善率が1より大きい場合、比較例に対して、オイル漏れは低減される。対照的に、改善率が1より小さい場合、比較例に対して、オイル漏れは増大する。実線は、比較例に対する比較例の改善率を示し、したがって、常に1を示す。二点鎖線は、比較例に対する実施例1の改善率を示す。破線は、比較例に対する実施例2の改善率を示す。一点鎖線は比較例に対する、実施例3の改善率を示す。
【0081】
潤滑は、高回転数領域において問題となり得るため、オイル漏れも高回転数領域において問題となり得る。このため、高回転数領域における改善率について着目する。
【0082】
比較例および実施例1を比較することによって、突起がオイル漏れの低減に貢献するか否かがわかる。図8から明確にわかるように、実施例1の改善率は、1よりも大きい。したがって、突起がオイル漏れの低減に貢献することがわかる。
【0083】
実施例1、実施例2および実施例3を比較することによって、案内油溝45を回転方向に傾けることが、オイル漏れの低減に貢献するか否かがわかる。図8から明確にわかるように、実施例2の改善率は、実施例1の改善率よりも高い。また、実施例3の改善率は、実施例1の改善率よりも高い。したがって、案内油溝45を回転方向に傾けることが、オイル漏れの低減に貢献することがわかる。また、実施例3の改善率は、実施例2の改善率と略同じである。したがって、案内油溝45を45度より大きく傾けても、改善率は、案内油溝45を45度傾ける場合と略同じであることがわかる。よって、案内油溝45を45度傾ければ、オイル漏れを充分に低減し得ることがわかる。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0085】
例えば、上記の実施形態では、突起48は、円周方向全体に沿って連続的に延びる。しかしながら、他の実施形態では、突起48は、円周方向の一部にのみ設けられてもよい。例えば、図7は、さらに他の実施形態に係る軸受抑え板91を示す概略的な平面図である。軸受抑え板91は、突起48が、鉛直軸Zに対して、回転方向Rに-90度以上90度以下の範囲内のみに設けられる点で、上記の軸受抑え板40と異なる。他の点については、軸受抑え板91は、軸受抑え板40と同じでもよい。すなわち、軸受抑え板91では、突起48は、軸受抑え板91の上半分のみに設けられる。この場合、軸受抑え板91の重量を低減することができる。
【0086】
また、例えば、上記の実施形態では、過給機TCは、軸受孔22に、中心軸線方向に離隔して2つの転がり軸受50,60を備える。しかしながら、他の実施形態では、過給機TCは、3つ以上の転がり軸受を備えてもよい。
【0087】
上記の実施形態では、外輪52、62は、ベアリングハウジング2に対して回転可能である。しかしながら、他の実施形態では、外輪52、62は、ベアリングハウジング2に対して回転方向に固定されてもよい。
【0088】
上記の実施形態では、一対の転がり軸受50,60は、アンギュラベアリングであって、正面組み合わせである。しかしながら、他の実施形態では、転がり軸受は、アンギュラベアリング以外の転がり軸受(例えば、深溝玉軸受または自動調心玉軸受)であってもよい。また、一対の転がり軸受50,60は、背面組み合わせであってもよい。
【0089】
本開示は、吸気へのオイル漏れを低減して、排気ガスの清浄化を促進することができるので、国際連合が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0090】
2 ベアリングハウジング
7 シャフト
8 タービンインペラ
9 コンプレッサインペラ
22 軸受孔
40 軸受抑え板
41 第1端面
45 案内油溝
46 円周油溝
48 突起
50 第1軸受(転がり軸受)
51 内輪
52 外輪
52a 外側面(側面)
90 軸受抑え板
91 軸受抑え板
R 回転方向
TC 過給機
Z 鉛直軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7