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特許7460019フィルムロールおよびフィルムロールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】フィルムロールおよびフィルムロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/00 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
B29C59/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023516341
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2022011635
(87)【国際公開番号】W WO2022224635
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2021073520
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中江 葉月
(72)【発明者】
【氏名】森井 里誌
(72)【発明者】
【氏名】南條 崇
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-114027(JP,A)
【文献】国際公開第2010/143524(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/145718(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/00
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムが巻き取られたフィルムロールであって、
前記フィルムの幅方向両端部に、前記フィルムの長さ方向に沿って並べられた複数の凸部を有し、
前記凸部の平面視形状は、涙滴形状であり、
前記涙滴形状の長軸方向は、前記フィルムの長さ方向に沿っており、
前記涙滴形状の長軸方向の最大幅をT2、及び短軸方向の最大幅をT1とした場合、以下式(1)を満たす
フィルムロール
式(1):1.15≦T2/T1≦1.90
【請求項2】
前記涙滴形状の長軸と短軸の交点Mは、前記長軸の中心からずれている、
請求項1に記載のフィルムロール
【請求項3】
平面視において、前記涙滴形状の長軸の中心を通り、かつ前記長軸と直交する中心線を介して、前記涙滴形状の前記長軸の一端側の領域の面積をSu、前記長軸の他端側の領域の面積をSdとしたとき、SuとSdとは異なる
請求項1又は2に記載のフィルムロール
【請求項4】
平面視において、前記涙滴形状の長軸の中心を通り、かつ前記長軸と直交する中心線を介して、前記涙滴形状の前記長軸の巻き取り方向上流側の領域の面積をSu、前記長軸の巻き取り方向下流側の領域の面積をSdとしたとき、SuはSdよりも大きい
請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルムロール。
【請求項5】
前記フィルムの長さ方向における前記複数の凸部間の平均距離をT3とした場合、T3およびT2は、下記式(2)を満たす
請求項1~4のいずれか一項に記載のフィルムロール
式(2):T3<T2
【請求項6】
前記フィルムの幅をXとした場合、下記式(3)および(4)を満たす
請求項1~5のいずれか一項に記載のフィルムロール
式(3):0.0003≦T1/X≦0.0063
式(4):2400mm≦X≦2950mm
【請求項7】
前記複数の凸部同士の平均間隔をT3、前記フィルムの長さをYとした場合、下記式(5)および(6)を満たす、
請求項1~6のいずれか一項に記載のフィルムロール
式(5):1.0×10≦Y/T3≦9.0×10
式(6):6000m≦Y≦9000m
【請求項8】
前記凸部の高さは、前記フィルムの厚みの1~30%である、
請求項1~7のいずれか一項に記載のフィルムロール
【請求項9】
前記涙滴形状の長軸と短軸の交点Mが、前記長軸の中心よりも巻取り方向上流側に位置する、
請求項1~8のいずれか一項に記載のフィルムロール。
【請求項10】
前記フィルムの厚みは、10~40μmである、
請求項1~9のいずれか一項に記載のフィルムロール
【請求項11】
前記フィルムは、光学フィルムである、
請求項1~10のいずれか一項に記載のフィルムロール
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のフィルムロールを製造する方法であって、
前記凸部が、樹脂組成物の液滴を付与して形成されている、
フィルムロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムおよびフィルムロール、フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロオレフィン系樹脂や(メタ)アクリル系樹脂などを主成分とする樹脂フィルムは、良好な透明性や寸法安定性を有することから、例えば偏光板保護フィルムなどの光学フィルムとして用いられている。光学フィルムは、取り扱い性や製造効率の観点から、通常、ロール状に巻き取られた状態で保管または輸送される。
【0003】
ところで、ロール状に巻き取られた状態で保管または輸送する際に、フィルムロールの変形や、フィルム同士の貼り付きや傷などが著しいと、フィルムの品質が低下し、偏光板製造工程における廃棄物の増加や、品質検査等の工数増加が製品価格の上昇につながる。
【0004】
このようなフィルムロールの変形などによる品質低下を抑制するために、通常、フィルムの幅方向両端部に、エンボス加工と呼ばれる凹凸加工が施される(例えば特許文献1参照)。一方で、エンボス加工によって形成されるエンボス部は潰れやすく、フィルム同士の貼り付きを十分には抑制できないことがあった。
【0005】
これに対し、フィルムの幅方向両端部に、塗布により凸部を形成する方法も知られている(例えば特許文献2および3参照)。具体的には、フィルムの両端部に流延製膜して角が立ち凸面積の大きいエンボスを形成する方法や(特許文献2参照)、インクジェットによりフィルムの両端部に凸状構造物を形成する方法(特許文献3参照)が知られている。塗布形成された凸部は、エンボス加工で形成された凹凸構造と比べて強度が高く、潰れにくいため、フィルム同士の貼りつきを良好に抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-89110号公報
【文献】特開2012-206312号公報
【文献】特開2010-58311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や2の方法では、フィルムロールの変形を十分に抑制できるものではなかった。また、特許文献3の方法でも、近年の8Kテレビ向けなどの高度の品質の要求を満たす観点では、さらなる改善が求められている。
【0008】
すなわち、フィルムロールの変形やフィルム同士の貼りつきは、表示装置などに用いられる偏光板保護フィルムなどでは光学特性のバラツキを増大させる原因となりやすく;光学特性のバラツキは、表示装置の黒表示の光漏れの原因となりやすい。特に、8Kなどの高解像度の表示装置などに使用される光学フィルムは、光学特性のバラツキがこれまで以上に少ないことが求められ、フィルムロールの変形やフィルム同士の貼りつきによる品質の低下をこれまで以上に抑制することが求められている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、例えば光学フィルムなどに使用されるフィルムロールの変形やフィルム同士の貼り付きを抑制し、光学特性のバラツキを低減しうるフィルムおよびフィルムロール、ならびにフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0011】
本発明のフィルムは、フィルム端部に複数の涙滴形状物を有するフィルムであって、前記涙滴形状物の長軸方向の最大幅をT2、及び短軸方向の最大幅をT1とした場合、以下式(1)を満たすことを特徴とする。
式(1):1.15≦T2/T1≦1.90
【0012】
本発明のフィルムロールは、フィルム端部に複数の涙滴形状物を有するフィルムが巻き取られたフィルムロールであって、前記涙滴形状物の長軸方向の最大幅をT2、短軸方向の最大幅をT1とした場合、以下式(1)を満たし、かつ前記涙滴形状物の長軸と短軸の交点Mが、前記長軸上の中心よりも巻取り方向上流側に位置することを特徴とする。
式(1):1.15≦T2/T1≦1.90
【0013】
本発明のフィルムの製造方法は、本発明のフィルムを製造するフィルムの製造方法であって、前記涙滴形状物が樹脂組成物の液滴を付与して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば光学フィルムなどのフィルムの保管時におけるブロッキングや巻き形状の低下を抑制し、光学特性のバラツキを低減しうるフィルムおよびフィルムロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1Aは、本実施の形態に係るフィルムの平面図であり、図1Bは、図1Aの1B-1B線断面図である。
図2図2Aは、図1Aの涙滴形状物の拡大平面図であり、図2Bは、図1Bの涙滴形状物の拡大断面図である。
図3図3は、図1Aの点線部分の拡大平面図である。
図4図4は、図1Aの涙滴形状物の拡大平面図である。
図5図5AおよびBは、変形例に係る涙滴形状物の平面図である。
図6図6Aは、他の変形例に係るフィルムの平面図であり、図6Bは、図6Aの点線部分の拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
従来の凸部(塗布型ナーリング部)ではフィルムロールの変形を十分には抑制できない理由を精査したところ、明らかではないが、巻き取り時に凸部にかかる力を十分には緩和できないまま、不均一に潰された状態で巻き取られることに起因すると考えられる。
【0017】
具体的には、巻き取る際、凸部に対して、フィルムの搬送による「フィルムの長さ方向の力」と、真上からフィルムが積層されることによる「上から押さえ付ける力」との合成力が「斜め方向の力」として作用し、凸部が、巻き取り方向(進行方向)前方から斜め方向の力を受けながら、フィルムが巻き取られる。その結果、凸部が、斜め方向の力を十分に緩和できないまま不均一に押し潰され、フィルムと不均一に接触した状態で巻き取られるため、フィルムロールの変形を生じると考えられる。このようなフィルムロールの変形は、特に剛性が低い薄膜フィルムにおいて生じやすい。
【0018】
当該推測に基づいて、本発明では、複数の凸部を列状に形成するとともに、巻き取り時の斜め方向からの作用する力を考慮して、複数の凸部のそれぞれの平面視形状を適度な偏心形状とする;具体的には、「巻き取り方向上流側(進行方向前方側)部分の大きさが、巻き取り方向下流側(進行方向後方側)部分の大きさよりも適度に大きい涙滴形状」とする。それにより、凸部が不均一に押し潰されることによるフィルム同士の接触不良、およびそれによるフィルムロールの変形を低減できる。具体的には、フィルムを巻き取る際に、斜め方向の力を、涙滴形状物の偏心部で先に受けることで、巻き取り時の斜め方向の力を十分に緩和しつつ、フィルムと均一に接触した状態で巻き取れるため(理想的な凸形状にてフィルムと接触するため)、エア量を均一に取り込みつつ、フィルムロールの変形を抑制できると考えられる。
【0019】
このような涙滴形状物は、フィルム本体(フィルム基部)に樹脂組成物の液滴を付与して形成されるため、従来のエンボス部などとは異なり、強度が高く、潰れにくい。そのため、フィルムロールの変形やフィルム同士の貼り付きを一層抑制しやすい。以下、本発明の構成について説明する。
【0020】
本発明のフィルムは、帯状のフィルムであってもよいし、枚葉状のフィルムであってもよい。また、帯状のフィルムは、ロール状に巻き取られてフィルムロールとされてもよい。以下の実施の形態では、帯状のフィルムの例で説明する。
【0021】
1.フィルム
図1Aは、本実施の形態に係る帯状のフィルムの平面図であり、図1Bは、図1Aの1B-1B線断面図である。図2Aは、図1Aの涙滴形状物12の拡大平面図であり、図2Bは、図1Bの涙滴形状物12の拡大断面図である。図3は、図1Aの点線部分の拡大平面図であり、図4は、図1Aの涙滴形状物12の拡大平面図である。なお、図1Bおよび2Bでは、見やすくするために、断面のハッチングは省略している。
【0022】
図1AおよびBに示されるように、本実施の形態に係る帯状のフィルム10は、フィルム基部11と、その表面上の幅方向両端部に配置(塗布形成)された複数の涙滴形状物12とを含む。
【0023】
1-1.フィルム基部11
フィルム基部11は、樹脂フィルム、好ましくは光学フィルムとして使用可能な樹脂フィルムでありうる。樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂を含む第1樹脂組成物を含む。
【0024】
(熱可塑性樹脂)
樹脂フィルムに含まれる熱可塑性樹脂は、光学フィルムに適したものであればよく、特に限定されないが、その例には、シクロオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド、セルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネートなどが含まれる。中でも、良好な透明性を有する観点では、シクロオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、セルロースエステルが好ましく、低い吸湿性(高い寸法安定性)をさらに有する観点では、シクロオレフィン系樹脂および(メタ)アクリル系樹脂がより好ましい。
【0025】
(シクロオレフィン系樹脂)
シクロオレフィン系樹脂は、ノルボルネン構造を有する単量体(ノルボルネン系単量体)に由来する構造単位を含む重合体である。ノルボルネン系単量体は、下記式(A)で表される。
【化1】
【0026】
式(A)のR~Rは、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、または極性基を表す。
【0027】
ハロゲン原子の例には、フッ素原子、塩素原子などが含まれる。
【0028】
炭化水素基は、炭素原子数が1~10、好ましくは1~4、より好ましくは1または2の炭化水素基である。炭化水素基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基が含まれる。炭化水素基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む連結基(例えばカルボニル基、イミノ基、エーテル結合、シリルエーテル結合、チオエーテル結合など)の2価の連結基をさらに有していてもよい。
【0029】
極性基の例には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、およびメチレン基などの連結基(-(CH-、nは1以上の整数)を介してこれらの基が結合した基が含まれる。中でも、アルコキシカルボニル基およびアリールオキシカルボニル基が好ましく、アルコキシカルボニル基がより好ましい。
【0030】
中でも、R~Rのうち少なくとも1つは、極性基であることが好ましい。極性基を有するノルボルネン系単量体に由来する構造単位を含むシクロオレフィン系樹脂は、例えば溶液流延法で製膜する際に、溶剤に溶解させやすく、得られるフィルムのガラス転移温度を高めやすい。一方、溶融製膜法では、極性基を有するノルボルネン系単量体に由来する構造単位を含まないシクロオレフィン系樹脂であってよい。
【0031】
また、R~Rのうち、RおよびRの両方(またはRおよびRの両方)は、水素原子であってもよい。
【0032】
式(A)のpは、0以上の整数を示し、好ましくは0または1である。mは、0~2の整数を示し、光学フィルムの耐熱性を高める観点では、好ましくは1~2である。
【0033】
式(A)で表されるノルボルネン系単量体のうち、極性基を有するノルボルネン系単量体の例には、以下のものが含まれる。
【0034】
【化2】
【0035】
極性基を有しないノルボルネン系単量体の例には、以下のものが含まれる。
【化3】
【0036】
ノルボルネン系単量体に由来する構造単位の含有量は、シクロオレフィン系樹脂を構成する全構造単位に対して50~100モル%でありうる。
【0037】
シクロオレフィン系樹脂は、ノルボルネン系単量体に由来する構造単位と共重合可能な他の単量体に由来する構造単位をさらに含んでいてもよい。共重合可能な他の単量体の例には、(上記ノルボルネン系単量体が極性基を有する場合は)極性基を有しないノルボルネン系単量体や、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、ジシクロペンタジエンなどのノルボルネン骨格を有しないシクロオレフィン系単量体が含まれる。
【0038】
シクロオレフィン系樹脂の重量平均分子量Mwは、特に制限されないが、2万~30万であることが好ましく、3万~25万であることがより好ましく、4万~20万であることがさらに好ましい。シクロオレフィン系樹脂のMwが上記範囲にあると、成形加工性を損なうことなく、フィルムの機械的特性を高めうる。
【0039】
シクロオレフィン系樹脂のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定することができる。具体的には、東ソー社製 HLC8220GPC)、カラム(東ソー社製 TSK-GEL G6000HXL-G5000HXL-G5000HXL-G4000HXL-G3000HXL 直列)を用いて測定することができる。
【0040】
シクロオレフィン系樹脂のガラス転移温度Tgは、通常、110℃以上であることが好ましく、110~350℃であることがより好ましく、120~250℃であることがより好ましい。シクロオレフィン系樹脂のTgが110℃以上であると、十分な耐熱性が得られやすく、350℃以下であると、成形加工時のシクロオレフィン系樹脂の熱劣化を抑制しうる。
【0041】
Tgは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121-2012またはASTM D 3418-82に準拠した方法で測定することができる。
【0042】
((メタ)アクリル系樹脂)
(メタ)アクリル系樹脂は、メチルメタクリレートに由来する構造単位を含む重合体であることが好ましい。当該重合体は、メチルメタクリレートと共重合可能なモノマーに由来する構造単位をさらに含んでもよい。
【0043】
メチルメタクリレートと共重合可能な他のモノマーの例には、2-エチルヘキシルメタクリレートなどのメチルメタクリレート以外の炭素原子数1~18のアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸などのα,β-不飽和酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸;スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン類;無水マレイン酸;マレイミド、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド類;グルタル酸無水物などが含まれる。
【0044】
メタクリル酸メチル由来の構造単位の含有量は、上記重合体を構成する全構造単位に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0045】
(メタ)アクリル系樹脂のMwは、40万~300万であることが好ましく、50万~200万であることがより好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のMwが上記範囲であると、フィルムに十分な機械的強度を付与しうる。(メタ)アクリル系樹脂のMwは、前述と同様の方法で測定されうる。
【0046】
(メタ)アクリル系樹脂のTgは、90℃以上であることが好ましく、100~150℃であることがより好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のTgが上記範囲内であると、光学フィルムの耐熱性を高めやすい。(メタ)アクリル系樹脂のTgは、前述と同様の方法で測定されうる。
【0047】
シクロオレフィン系樹脂または(メタ)アクリル系樹脂の含有量は、光学フィルムに対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0048】
(他の成分)
光学フィルムは、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、ゴム粒子、マット剤、酸化防止剤などが含まれる。
【0049】
ゴム粒子は、フィルムに可撓性を付与しうる。ゴム粒子は、ゴム状重合体(架橋重合体)を含むグラフト共重合体である。ゴム状重合体の例には、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、およびオルガノシロキサン系架橋重合体が含まれる。中でも、メタクリル系樹脂との屈折率差が小さく、光学フィルムの透明性が損なわれにくい観点では、(メタ)アクリル系架橋重合体が好ましく、アクリル系架橋重合体(アクリル系ゴム状重合体)がより好ましい。
【0050】
マット剤は、光学フィルムの表面に凹凸を形成し、滑り性を付与しうる。マット剤としては、無機粒子や樹脂粒子などでありうる。無機粒子の例には、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウムなどの微粒子が含まれ、好ましくは二酸化ケイ素粒子である。
【0051】
酸化防止剤は、特に制限されないが、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤などを用いることができる。
【0052】
[物性]
フィルム基部11は、エンボス加工やレーザー照射が施されていないため、エンボスローラで加熱押圧されたり、レーザー照射で溶融されたりして形成される肉薄部を有しない。すなわち、フィルム基部11の厚みは、一定である。フィルム基部11の厚み(フィルムの厚み)は、特に制限されないが、5~40μmであることが好ましく、10~40μmであることがより好ましく、15~40μmであることがさらに好ましい。
【0053】
フィルム基部11の幅X(フィルムの幅)は、1000~3200mmであることが好ましく、2400~2950mmであることがより好ましい。
【0054】
フィルム基部11の長さY(フィルムの長さ)は、特に制限されないが、3000~12000mであることが好ましく、6000~9000mであることがより好ましい。
【0055】
(位相差RoおよびRt)
フィルム基部11は、その用途に応じた位相差RoおよびRtを有しうる。例えば、フィルム基部11の測定波長590nm、23℃55%RHの環境下で測定される面内方向の位相差Roは、40nm≦Ro≦60nmを満たすことが好ましく、厚み方向の位相差Rtは、115nm≦Rt≦145nmを満たすことが好ましい。そのようなフィルム基部11は、例えばVA方式の液晶セルと組み合わされる位相差フィルムとして好適である。また、0nm≦Ro≦10nm、-20nm≦Rt≦20nmであると、IPS方式の液晶セルと組み合わされる位相差フィルムとして好適である。
【0056】
RoおよびRtは、それぞれ下記式で定義される。
Ro=(nx-ny)×d
Rt=((nx+ny)/2-nz)×d(式中、
nxは、フィルム基部11の面内遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率を表し、
nyは、フィルム基部11の面内遅相軸に直交する方向の屈折率を表し、
nzは、フィルム基部11の厚み方向の屈折率を表し、
dは、フィルム基部11の厚み(nm)を表す。)
【0057】
フィルム基部11の面内遅相軸は、自動複屈折率計アクソスキャン(Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)により確認することができる。
【0058】
RoおよびRtは、以下の方法で測定することができる。
1)フィルム基部11を23℃55%RHの環境下で24時間調湿する。このフィルム基部11の平均屈折率をアッベ屈折計で測定し、厚みdを市販のマイクロメーターを用いて測定する。
2)調湿後のフィルム基部11の、測定波長550nmにおける位相差RoおよびRtを、それぞれ自動複屈折率計アクソスキャン(Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)を用いて、23℃55%RHの環境下で測定する。
【0059】
1-2.涙滴形状物12
複数の涙滴形状物12は、フィルム基部11の表面の幅方向両端部に配置された、樹脂組成物の島状物である。複数の涙滴形状物12のそれぞれは、平面視したときの形状が涙滴形状である(図2A参照)。
【0060】
涙滴形状とは、長軸LAと短軸SAとを有し、かつ涙滴形状物12の長軸LAと短軸SAの交点Mが、長軸LAの中心からずれている(長軸LAの中心と重ならない)形状をいう(図2A参照)。長軸LAは、フィルム基部11の長さ方向(フィルムの長さ方向、y方向)に沿っていることが好ましく、フィルム基部11の長さ方向(y方向)と平行であることがより好ましい。短軸SAは、フィルム基部11の幅方向(フィルムの幅方向、x方向)に沿っていることが好ましく、フィルム基部11の幅方向(x方向)と平行であることがより好ましい。y方向は、巻き取り時のフィルムの搬送方向(進行方向)でもある。長軸LAと短軸SAは、互いに直交していることが好ましい。涙滴形状の輪郭は、直線であってもよいし、曲線であってもよいし、それらの組み合わせであってもよいが、好ましくは曲線である。
【0061】
本実施の形態では、複数の涙滴形状物12は、フィルム基部11の表面の幅方向両端部において、フィルム基部11の長さ方向に沿うように配置されている(図2A参照)。また、複数の涙滴形状物12のそれぞれは、その長軸LA方向が、フィルム基部11の長さ方向に沿うように配置されている(図2A参照)。なお、フィルムの表面の幅方向端部とは、フィルム基部11の幅方向のフィルム幅を100%としたとき、端からフィルム基部11の幅方向の10%以内、好ましくは5%以内の領域をいう。涙滴形状物12は、フィルム基部11と一体化していてもよいし、別体であってもよい。
【0062】
具体的には、涙滴形状物12は、長軸LA方向の最大幅をT2、短軸SA方向の最大幅をT1としたとき、下記式(1)を満たすことが好ましい。
式(1):1.15≦T2/T1≦1.90
【0063】
T2/T1が1.15以上であると、巻き取り時に前方から斜め方向の力が加わっても、巻き取り後に涙滴形状物12が均一にフィルムと接触しうるため、フィルムロールの変形などを抑制できる。T2/T1が1.9以下であると、均一にフィルムと接触することができるため、フィルムロールの抑制効果が損なわれにくい。同様の観点から、T2/T1は、1.3~1.6であることがより好ましい。
【0064】
T2/T1は、フィルムの搬送速度や乾燥条件(乾燥方法、乾燥温度)、(涙滴形状物を形成するための)第2樹脂組成物の樹脂濃度、滴下高さ、フィルムの表面状態などによって調整することができる。フィルムの搬送速度を大きくし、乾燥温度を低くし、乾燥方法を熱風乾燥とすることで、T2/T1を大きくすることができる。また、第2樹脂組成物の樹脂濃度を適度に低くし、滴下高さを高くすれば、T2/T1を大きくすることができる。
【0065】
T1は、特に制限されないが、例えば0.9~1.5mm、好ましくは1.0~1.2mmとしうる。
【0066】
フィルム基部11の長さ方向(y方向)における、複数の涙滴形状物12間の平均距離をT3としたとき、T3とT2は、下記式(2)を満たすことが好ましい(図3参照)。
式(2):T3<T2
【0067】
T3<T2であると、フィルムを搬送させながら巻き取る際に、涙滴形状物12の前方部(長軸LAと短軸SAの交点Mを中心とする領域)において、斜め方向の力を緩和する性能を高めることができるため、斜め方向の力によって涙滴形状物12が不均一に潰れるのをさらに抑制しうる。T2とT3の差(T2-T3)は、特に制限されないが、例えば0.1mm以上、好ましくは0.6mm以上でありうる。
【0068】
また、フィルム基部11の幅をXとしたとき、下記式(3)および(4)を満たすことがより好ましい。
式(3):0.0003≦T1/X≦0.0063
式(4):2400mm≦X≦2950mm
【0069】
フィルムロールの変形を抑制しやすくする観点では、T1/Xは大きいほうが好ましいまた、フィルムが広幅化した際には、従来よりもフィルム搬送時のフィルムばたつきが生じやすい。T1/Xが上記範囲内であると、T1が大きすぎないため、フィルムへの規制力が働きすぎることによるシワやロール擦り傷などの搬送傷が付くのを抑制しうる。同様の観点から、T1/Xは、0.0004~0.00051であることがより好ましい。
【0070】
また、フィルム基部11の長さ方向(y方向)における、複数の涙滴形状物12同士の平均間隔をT3、フィルム基部11の長さをYとしたとき、下記式(5)および(6)を満たすことがより好ましい。
式(5):1.0×10≦Y/T3≦9.0×10
式(6):6000m≦Y≦9000m
【0071】
フィルム同士の貼り付きを抑制しやすくする観点では、T3は小さいほうが好ましい(Y/T3が大きいほうが好ましい)一方、T3が小さすぎると、巻き形状の均一性が損なわれやすい。Y/T3が上記範囲内であると、巻き形状の均一性を保ちつつ、フィルム同士の貼り付き(接触)を高度に抑制しうる。同様の観点から、Y/T3は、3.0×10~8.0×10であることがより好ましい。
【0072】
フィルムの幅方向の長さXは、上記の通り、2000~3500mmであることが好ましく、2400~2950mmであることがより好ましい。フィルムの長さYは、上記の通り、500~15000mであることが好ましく、6000~9000mであることがより好ましい。
【0073】
フィルム基部11の長さ方向(y方向)における複数の涙滴形状物12の平均間隔T3は、上記比を満たす範囲であれば特に制限されないが、例えば0.5~4mmであることが好ましく、1~3mmであることがより好ましい。複数の涙滴形状物12の平均間隔T3が下限値以上であると、ロール状に巻き取る際に、フィルム同士の間に含まれるエア量を適切に調整しやすく、上限値以下であると、複数の涙滴形状物12の平均間隔T3が広すぎることによるフィルム同士の貼り付きをより抑制しやすい。複数の涙滴形状物12の平均間隔T3とは、フィルム基部11の長さ方向(y方向)において、隣り合う複数の涙滴形状物12の端部間の最小距離をいう。涙滴形状物12の端部とは、長軸LAの端部を意味する。
【0074】
フィルム基部11の幅方向(x方向)に沿った、涙滴形状物12の頂点(最も高い点)を通る断面において、涙滴形状物12の高さtは、0.5~3μmである(図2B参照)。涙滴形状物12の高さtが0.5μm以上であると、フィルム10をロール状に巻き取った際に、フィルム基部11同士の貼り付きを十分に抑制しうる。涙滴形状物12の高さtが3μm以下であると、フィルム10をロール状に巻き取った際に、涙滴形状物12の潰れる絶対量自体が少なく、フィルムロールを変形しにくくしうる。同様の観点から、涙滴形状物12の高さtは、1.0~2.0μmであることが好ましい。なお、涙滴形状物12の高さtは、フィルム基部11の表面から涙滴形状物12の頂点までの高さである。
【0075】
涙滴形状物12の高さtは、例えばフィルム基部11の厚みの1~30%であることが好ましく、2~10%であることがより好ましい。
【0076】
フィルム基部11の幅方向(x方向)に沿った、涙滴形状物12の頂点を通る断面において、涙滴形状物12の幅wは、特に制限されないが、500~2000μmであることが好ましい。涙滴形状物12の幅wが500μm以上であると、支持面積を大きくしうるため、涙滴形状物12が潰れにくく、2000μm以下であると、涙滴形状物12を溶液塗布にて形成する際には乾燥が進み易く、また、溶融形成する際には冷却が進み易いため、本発明のフィルムを効率的に生産しやすい。同様の観点から、涙滴形状物12の幅wは、700~1500μmであることがより好ましい。涙滴形状物12の幅wは、上記断面における涙滴形状物12の最大幅である。
【0077】
涙滴形状物12の高さtや幅wは、レーザー顕微鏡を用いて測定することができる。レーザー顕微鏡としては、例えばキーエンス社製laser Microscope VK-X1000を用いることができる。測定は、複数の涙滴形状物12が配置された領域において、フィルム基部11の長さ方向(y方向)に100mmの範囲について、涙滴形状物12の高さtおよび幅wを測定し、それらの平均値を「涙滴形状物12の高さtおよび幅w」とする。
【0078】
フィルム基部11の幅方向(x方向)に沿った、涙滴形状物12の頂点を通る断面において、涙滴形状物12の形状は、特に制限されないが、通常、弓形(circular segment)でありうる。弓形とは、円弧または楕円弧の両端部を直線で結んだ形状であり、その例には、半円形、半楕円形などが含まれる。
【0079】
複数の涙滴形状物12は、長軸LAと短軸SAの交点Mが、長軸LAの中心よりも巻取り方向上流側に位置するように配置されていることが好ましい(図1A参照)。それにより、涙滴形状物12に斜め方向の力がかかっても、複数の涙滴形状物12が不均一に潰れるのを抑制しうるため、フィルムロールの変形やフィルム同士の貼り付きを抑制できる。
【0080】
涙滴形状物12は、長軸LA上の中心Cを通り、かつ長軸LAに直交する中心線を挟んで、長軸LAの一端側の領域(巻き取り上流側の領域)の面積Suは、長軸LAの他端側の領域(巻き取り下流側の領域)の面積Sdとは異なる、具体的には、SuはSdよりも大きいことが好ましい(図4参照)。具体的には、Su/Sdの比は、1.2~2.0であることが好ましく、1.3~1.6であることがより好ましい。Su/Sdが下限値以上であると、斜め方向の力を十分に緩和しやすいため、フィルムロールの変形を抑制しやすく、上限値以下であると、フィルムの支持性が損なわれにくく、フィルム同士の貼り付きなどを抑制しやすい。Suは、例えば0.5~10mm、Sdは、例えば0.4~5.0mmでありうる。
【0081】
涙滴形状物12は、熱可塑性樹脂を含む第2樹脂組成物を含む。
【0082】
涙滴形状物12に含まれる熱可塑性樹脂は、フィルム基部11に含まれる熱可塑性樹脂と同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよいが、フィルム基部11との密着性を高める観点では、同じ種類であることが好ましい。例えば、フィルム基部11に含まれる熱可塑性樹脂がシクロオレフィン系樹脂である場合、涙滴形状物12に含まれる樹脂もシクロオレフィン系樹脂であることが好ましい。フィルム基部11に含まれる熱可塑性樹脂と、涙滴形状物12に含まれる熱可塑性樹脂とが同じ種類であると、涙滴形状物12とフィルム基部11との密着性を高めうる。
【0083】
同じ種類の熱可塑性樹脂とは、主成分モノマー(最も多く含まれる成分)が同じである熱可塑性樹脂をいい、共重合成分モノマーの種類や含有量、樹脂の重量平均分子量(Mw)やガラス転移温度(Tg)などの物性は異なってもよい。
【0084】
樹脂の含有量は、特に制限されないが、涙滴形状物12を構成する第2樹脂組成物に対して60質量%以上であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましい。
【0085】
涙滴形状物12は、必要に応じてフィルム基部11と同様の成分(例えば微粒子など)をさらに含んでもよい。ただし、フィルム10を巻き取った時に、涙滴形状物12とフィルム基部11の裏面との間で滑りにくくし、適度に密着させやすくする観点では、涙滴形状物12における微粒子の含有量は、フィルム基部11における微粒子の含有量よりも少ないことが好ましく、微粒子を含まないことがより好ましい。
【0086】
2.フィルムの製造方法
本発明のフィルムは、1)第1樹脂組成物を支持体上に流延して、帯状のフィルム基部11を得る工程と、2)帯状のフィルム基部11の表面の幅方向両端部に、第2樹脂組成物の液滴を付与(滴下)して、複数の涙滴形状物12を形成する工程とを経て得ることができる。
【0087】
1)フィルム基部11を得る工程について
第1樹脂組成物を流延して、帯状のフィルム基部11を得る。
【0088】
第1樹脂組成物の流延は、溶融流延法で行ってもよいし、溶液流延法で行ってもよい。中でも、高分子量の樹脂を使用できるなどの観点では、第1樹脂組成物の流延は、溶液流延法で行うことが好ましい。
【0089】
すなわち、フィルム基部11は、ドープ(第1樹脂組成物)を得る工程(ドープの調製)と、得られたドープを支持体上に流延した後、乾燥および剥離して、膜状物を得る工程(流延)と、得られた膜状物を乾燥および延伸する工程(乾燥・延伸)とを経て得ることができる。
【0090】
(ドープの調製)
樹脂を溶媒に溶解させて、第1樹脂組成物を調製する。
【0091】
用いられる溶媒は、少なくとも樹脂を溶解させうる有機溶媒(良溶媒)を含む。良溶媒の例には、ジクロロメタンなどの塩素系有機溶媒や;酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフランなどの非塩素系有機溶媒が含まれる。中でも、メチレンクロライドが好ましい。
【0092】
用いられる溶媒は、貧溶媒をさらに含んでいてもよい。貧溶媒の例には、炭素原子数1~4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールが含まれる。ドープ中のアルコールの比率が高くなると、膜状物がゲル化しやすく、金属支持体からの剥離が容易になりやすい。炭素原子数1~4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールを挙げることができる。中でも、安定性や乾燥性の観点から、メタノールおよびエタノールが好ましい。
【0093】
(流延)
次いで、得られた第1樹脂組成物を、支持体上に流延する。第1樹脂組成物の流延は、流延ダイから吐出させて行うことができる。流延時の第1樹脂組成物の温度は、通常、15~30℃であり、好ましくは室温(23℃)である。
【0094】
次いで、支持体上に流延された第1樹脂組成物中の溶媒を適度に蒸発させた後(乾燥させた後)、支持体から剥離して、膜状物を得る。
【0095】
剥離時の第1樹脂組成物の残留溶媒量は、例えば25質量%以上であることが好ましく、30~37質量%であることがより好ましく、30~35質量%であることがさらに好ましい。剥離時の残留溶媒量が25質量%以上であると、剥離後の膜状物から溶媒を一気に揮発させやすい。また、剥離時の残留溶媒量が37質量%以下であると、剥離による膜状物が伸びすぎるのを抑制できる。
【0096】
剥離時の第1樹脂組成物の残留溶媒量は、下記式で定義される。以下においても同様である。
残留溶媒量(質量%)=(第1樹脂組成物の加熱処理前質量-第1樹脂組成物の加熱処理後質量)/第1樹脂組成物の加熱処理後質量×100
なお、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、140℃15分の加熱処理をいう。
【0097】
(乾燥・延伸)
そして、得られた膜状物を乾燥させる。乾燥は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。また、乾燥は、必要に応じて延伸しながら行ってもよい。
【0098】
延伸は、求められる光学特性に応じて行えばよく、少なくとも一方の方向に延伸することが好ましく、互いに直交する二方向に延伸(例えば、膜状物の幅方向(x方向)と、それと直交する搬送方向(y方向)の二軸延伸)してもよい。
【0099】
延伸倍率は、例えば位相差フィルムとして用いる観点では、1.01~2倍とすることができる。延伸倍率は、(延伸後のフィルムの延伸方向大きさ)/(延伸前のフィルムの延伸方向大きさ)として定義される。なお、二軸延伸を行う場合は、x方向とy方向のそれぞれについて、上記延伸倍率とすることが好ましい。なお、フィルムの面内遅相軸方向(面内において屈折率が最大となる方向)は、通常、延伸倍率が最大となる方向である。
【0100】
延伸時の乾燥温度(延伸温度)は、樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg-65)℃~(Tg+60)℃であることが好ましく、(Tg-50)℃~(Tg+50)℃であることがより好ましい。延伸温度が一定以上であると、溶媒を適度に揮発させやすいため、延伸張力を適切な範囲に調整しやすく、一定以下であると、溶媒が揮発しすぎないため、延伸性が損なわれにくい。
【0101】
延伸開始時の膜状物中の残留溶媒量は、剥離時の膜状物中の残留溶媒量と同程度であることが好ましく、例えば20~30質量%であることが好ましく、25~30質量%であることがより好ましい。
【0102】
膜状物のx方向(TD方向)の延伸は、例えば膜状物の両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げる方法(テンター法)で行うことができる。膜状物のy方向(MD方向)の延伸は、例えば複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用する方法(ロール法)で行うことができる。
【0103】
残留溶媒量をより低減させる観点では、延伸後に得られた膜状物をさらに乾燥(後乾燥)させることが好ましい。例えば、延伸後に得られた膜状物を、ロールなどで(一定の張力を付与した状態で)搬送しながらさらに乾燥させることが好ましい。
【0104】
乾燥温度は、樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg-30)~(Tg+30)℃であることが好ましく、(Tg-20)~Tg℃であることがより好ましい。乾燥温度が一定以上であると、延伸後の膜状物から溶媒の揮発速度を高めやすいため、乾燥効率を高めやすく、一定以下であると、膜状物が伸びることによる変形などを抑制しやすい。
【0105】
2)涙滴形状物12を形成する工程について
次いで、得られたフィルム基部11の表面の幅方向両端部に、第2樹脂組成物の液滴を付与(滴下)して、複数の涙滴形状物12を形成する。
【0106】
第2樹脂組成物は、溶融物であってもよいし、溶液であってもよいが、形状や寸法を調整しやすい観点から、溶液であることが好ましい。
【0107】
すなわち、涙滴形状物12は、樹脂と溶媒とを含む第2樹脂組成物(ナーリング溶液)の液滴を、フィルム基部11の幅方向両端部に付与した後、乾燥させて形成することができる。
【0108】
(第2樹脂組成物)
第2樹脂組成物に含まれる樹脂は、ドープに含まれる樹脂と同じ種類である。
【0109】
第2樹脂組成物に含まれる溶媒は、少なくとも樹脂を溶解させうる有機溶媒(良溶媒)を含む。良溶媒の例には、メチレンクロライドなどの塩素系有機溶媒や;酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフラン、シクロペンタノン、トルエンなどの非塩素系有機溶媒が含まれる。中でも、シクロオレフィン系樹脂を溶解させやすい観点では、メチレンクロライド、シクロペンタノン、トルエンが好ましい。
【0110】
第2樹脂組成物に含まれる溶媒は、貧溶媒をさらに含んでいてもよい。貧溶媒としては、ドープに含まれる貧溶媒と同様のものを使用することができる。
【0111】
溶液流延法では、第2樹脂組成物の樹脂濃度は、第1樹脂組成物の樹脂濃度よりも低いことが好ましく、第1樹脂組成物の樹脂濃度の50質量%以下であることが好ましい。具体的には、第2樹脂組成物の樹脂濃度は、2質量%超10質量%以下であることが好ましく、3~7質量%であることがより好ましい。第2樹脂組成物の樹脂濃度を調整することで、涙滴形状物12の高さを調整することができる。例えば、第2樹脂組成物の樹脂濃度を高くすることで、涙滴形状物12の高さを高くすることができる。
【0112】
(付与)
第2樹脂組成物の付与は、任意の方法、例えばディスペンサー法またはインクジェット法で行うことができ、涙滴形状の調整がさらに行いやすい観点から、インクジェット法がより好ましい。
【0113】
流延時の第2樹脂組成物の温度は、例えば10~30℃であり、好ましくは室温(23℃)である。
【0114】
(乾燥)
第2樹脂組成物の乾燥は、任意の方法で行うことができ、例えば送風乾燥(温風乾燥を含む)や電磁波による加熱乾燥(例えば赤外線(IR)ヒーターによる加熱乾燥)などで行うことができる。中でも、涙滴形状物12のT2/T1を上記範囲に調整しやすくする観点では、温風乾燥で行うことが好ましい。また、送風乾燥(温風乾燥)の場合、涙滴形状物12のT2/T1を上記範囲に調整しやすくする観点では、送風方向は、フィルムの表面と平行な方向に行うことが好ましく、フィルムの搬送方向とは逆方向に行うことがより好ましい。
【0115】
乾燥温度は、涙滴形状物12のT2/T1を上記範囲に調整できる範囲であれば特に制限されない。乾燥温度は、T2/T1を大きくする観点では高いことが好ましく、具体的には、第2樹脂組成物に含まれる樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、40~(Tg-20)℃で行うことが好ましく、80~(Tg-10)℃で行うことがより好ましい。具体的には、40~115℃であることが好ましく、80~100℃であることがより好ましい。
【0116】
上記の通り、T2/T1は、フィルムの搬送速度や乾燥条件(乾燥方法、乾燥温度)、(涙滴形状物を形成するための)第2樹脂組成物の樹脂濃度、滴下高さ、フィルムの表面状態などによって調整することができる。フィルムの搬送速度を大きくし、乾燥温度を低くし、乾燥方法を熱風乾燥とすることで、T2/T1を大きくすることができる。また、第2樹脂組成物の樹脂濃度を適度に低くし、滴下高さを高くすれば、T2/T1を大きくすることができる。涙滴形状物の面積比Su/Sdも、同様の方法で調整することができる。
【0117】
複数の涙滴形状物同士の平均距離T3は、第2樹脂組成物の液滴の吐出周波数などにより調整することができる。涙滴形状物の高さは、例えば第2樹脂組成物の液滴量(吐出量)によって調整することができる。
【0118】
得られた帯状のフィルム10は、フィルムの長さ方向に沿ってロール状に巻き取ってもよい。
【0119】
3)巻き取り工程について
得られたフィルム基部11を、巻き取り機を用いて、フィルム10の長さ方向に巻き取る。それにより、帯状のフィルム10を、巻き芯の周りにロール状に巻き取ったフィルムロールを得ることができる。
【0120】
巻き取り方法は、特に制限されず、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法などでありうる。
【0121】
フィルム基部11を巻き取る際の巻き取り張力は、特に制限されないが、50~170N程度としうる。
【0122】
(作用)
上記の通り、本実施の形態に係るフィルムは、フィルムの幅方向両端部において、長軸LAと短軸SAの交点Mが巻き取り方向上流側に位置するように配置された複数の涙滴形状物12を有する。そして、複数の涙滴形状物12のそれぞれは、T2/T1が所定の範囲に調整されている。それにより、巻き取り時に、進行方向前方から斜め方向の力がかかっても、当該斜め方向の力を緩和しつつ、涙滴形状物12が不均一に潰れにくくしうるため、フィルムと均一に接触した状態で(理想的な凸形状にて)巻き取ることができる。そのため、エア量を均一に取り込みつつ、フィルムロールの変形を抑制できる。
【0123】
(用途)
得られるフィルム10は、使用時には、涙滴形状物12の形成部分が除去されて、液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置の光学フィルムとして用いられる。光学フィルムの例には、偏光板保護フィルム(位相差フィルムや輝度向上フィルムなどを含む)、透明基材フィルム、光拡散フィルムが含まれる。中でも、フィルム10は、偏光板保護フィルムとして用いられることが好ましい。
【0124】
[変形例]
なお、上記実施の形態では、涙滴形状物12が、図2Aに示されるような形状を有する例を示したが、これに限定されない。
【0125】
図5AおよびBは、変形例に係る涙滴形状物12の平面図である。液滴形状物12は、複数の突起形状を有するようなものであってもよいし(図5A参照)、打点が続くような形状(図5B参照)であってもよい。
【0126】
図6Aは、他の変形例に係るフィルムの平面図であり、図6Bは、図6Aの点線部分の拡大図である。図6AおよびBに示されるように、涙滴形状物12は、偏心した略三角形状を有してもよい。例えばフィルム搬送方向から垂直に温風を当てる(温風乾燥)ことで、略三角形状とすることができる。
【0127】
また、上記実施の形態では、涙滴形状物12が、フィルム基部11の一方の面のみに配置される例を示したが、これに限定されず、両方の面に配置されてもよい。
【0128】
また、上記実施の形態では、涙滴形状物12を形成するための第2樹脂組成物が、樹脂と溶媒とを含む溶液である例を示したが、これに限定されず、溶融物であってもよい。
【0129】
すなわち、溶融流延法では、ロール体は、1)溶融した第1樹脂組成物を流延した後、冷却固化して、帯状のフィルム基部11を得る工程と、2)帯状のフィルム基部11の幅方向両端部に、溶融した第2樹脂組成物の液滴を付与した後、冷却固化して、複数の涙滴形状物12を形成する工程とを経て得ることもできる。
【実施例
【0130】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0131】
1.フィルムロールの作製
<フィルムロール1の作製>
(製膜)
シクロオレフィン系樹脂G7810(JSR社製)(下記式で表されるノルボルネン系単量体に由来する構造単位を含むシクロオレフィン系樹脂(COP)、Tg:165℃)のペレットを、窒素雰囲気下で押出し機に供給し、溶融流延した。そして、溶融流延したフィルムを、冷却ロールで冷却した後、剥離して膜状物を得た。
【化4】
【0132】
得られた膜状物を、幅手方向に175℃で2倍に延伸した後、100℃で完全に乾燥するまで加熱しながら搬送し、端部をスリットして、厚み20μm、幅2260mm、長さ10000mのフィルムを得た。フィルムの搬送速度は、20m/分とした。
【0133】
(涙滴形状物用溶液の調製)
シクロオレフィン系樹脂G7810(JSR社製)の濃度が5質量%となるように溶剤に溶解させて、涙滴形状物用溶液を得た。溶剤は、ジクロロメタンを用いた。
【0134】
(涙滴形状物の形成)
上記フィルムの表面をコロナ処理およびプラズマ処理した後、当該フィルムの処理面上の幅方向両端部に、涙滴形状物用溶液を、ディスペンサーとして武蔵エンジニアリング社製SUPER HI JETを用いて付与した後、IRヒーターで、フィルム温度が80℃となるように乾燥させて、複数の涙滴形状物を形成した。フィルム温度は、サーモカメラにより確認した。それにより、フィルム表面の幅方向両端部に、高さ1.2μmの略丘状の複数の涙滴形状物を1列ずつ形成した。
【0135】
具体的には、涙滴形状物は、図2Aに示されるように、フィルムの幅方向(図2Aのx方向)において、フィルムの端縁から3mmの位置に形成した。涙滴形状物の平面視形状は、図2Aに示されるような形状であり、その短軸SAの最大幅T1は0.9mm、長軸LAの最大幅T2は1.2mm、T2/T1は1.33とした。また、複数の涙滴形状物の同士の平均距離T3は1.5mmとした。そして、涙滴形状物が形成されたフィルムをコアに巻き取り、フィルムロール1を得た。
【0136】
<フィルムロール2、3、23および24の作製>
複数の涙滴形状物間の平均距離(T3)およびT2/T1が表1に示される値となるように変更した以外はフィルムロール1と同様にしてフィルムロール2、3、23および24を得た。
なお、複数の涙滴形状物間の平均距離(T3)およびT2/T1は、乾燥条件(方式、温度)によって調整した。具体的には、フィルムロール2では、乾燥温度を100℃とし;フィルムロール3では、80℃の温風をフィルムの搬送方向とは逆方向(水平方向)に当てることによって乾燥を行い;フィルムロール23では、IRヒーターにより120℃(Tg-40℃)で加熱して乾燥を行い、フィルムロール24では、室温にて乾燥風を当てて乾燥を行った以外は、いずれもフィルムロール1と同様とした。
【0137】
<フィルムロール4の作製>
(ドープの調製)
まず、加圧溶解タンクにジクロロメタンを400kg/minの流量とエタノールを20kg/minの流量で添加した。溶媒の添加開始から3分後に、加圧溶解タンクに、環状ポリオレフィン樹脂を撹拌しながら投入した。次いで、溶媒投入開始後5分後に、微粒子添加液を投入して、これを60℃に加熱し、撹拌しながら、完全に溶解した。加熱温度は室温から5℃/minで昇温し、30分間で溶解した後、3℃/minで降温した。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244(濾過精度0.005mm)を使用して濾過流量300L/m・h、濾圧1.0×10Paにて濾過し、以下の組成のドープを調製した。
シクロオレフィン系樹脂G7810(JSR社製):100質量%
ジクロロメタン:380質量%
エタノール:20質量%
【0138】
(製膜)
次いで、得られたドープを、無端ベルト流延装置を用いて温度31℃、2300mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は、28℃に調整し、ステンレスベルトの搬送速度は、30m/minとした。ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したドープ中の残留溶媒量が30質量%になるまで溶媒を蒸発させた後、剥離張力110N/mでステンレスベルト支持体から剥離し、膜状物を得た。
得られた膜状物を、搬送ロールの周速差を利用するロール法にて、搬送方向(MD方向)に120℃に加熱しながら1.3倍延伸し、次いでテンター法によりTD方向に130℃に加熱しながら1.65倍延伸した。得られた膜状物を、70℃にて完全に乾燥するまで加熱しながら搬送し、端部をスリットして、厚み20μm、幅2260mm、長さ10000mのフィルムを得た。フィルムの搬送速度は、20m/分とした。
【0139】
得られたフィルムを用いた以外はフィルムロール1と同様にして、フィルムの幅方向両端部に複数の涙滴形状物を形成して、フィルムロール4を得た。
【0140】
<フィルムロール5および6の作製>
ドープの組成および涙滴形状物用溶液の組成の少なくとも一方を表1に示されるように変更した以外はフィルムロール4と同様にしてフィルムロール5および6を得た。なお、TACはセルローストリアセテートであり、R812はシリカ粒子である。
【0141】
<フィルムロール7の作製>
(微粒子分散液の調製)
下記成分を、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散させた。さらに、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるように、アトライターにて分散させた後、日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子分散液を調製した。
R972V(日本アエロジル社製):4質量%
ジクロロメタン:48質量%
エタノール:48質量%
【0142】
(ドープの調製および製膜)
シクロオレフィン系樹脂G7810(JSR社製)100質量%に対し、微粒子の配合量が0.2質量%となるように、上記微粒子分散液をさらに添加した以外はフィルムロール4と同様にしてドープを調製し、フィルムを得た。
【0143】
(涙滴形状物用溶液の調製および涙滴形状物の形成)
シクロオレフィン系樹脂G7810(JSR社製)100質量%に対し、微粒子の配合量が0.1質量%となるように、上記微粒子分散液をさらに添加した以外はフィルムロール4と同様にして涙滴形状物用溶液を調製後、涙滴形状物を形成して、フィルムロール7を得た。
【0144】
<フィルムロール8の作製>
涙滴形状物の高さを表1に示されるように変更した以外はフィルムロール1と同様にしてフィルムロール8を得た。涙滴形状物の高さは、吐出量により調整した。
【0145】
<フィルムロール9および10の作製>
フィルムの厚みまたは(片方の端部あたりの)涙滴形状物の列数を表1に示されるように変更した以外はフィルムロール8と同様にしてフィルムロール9および10を得た。
【0146】
<フィルムロール11~13の作製>
複数の涙滴形状物間の平均距離(T3)を表1に示されるように変更した以外はフィルムロール8と同様にしてフィルムロール11~13を得た。複数の涙滴形状物間の平均距離(T3)は、吐出周波数により調整した。
【0147】
<フィルムロール14~17の作製>
フィルムの幅Xを表1に示されるように変更した以外はフィルムロール8と同様にしてフィルムロール14~17を得た。なお、フィルム15については、吐出量を多くし、乾燥条件を調整して(温風温度を低くし、温風を当てる角度を小さくして)涙滴形状物の短軸SAの幅T1を表1に示されるようにさらに変更した。
【0148】
<フィルムロール18~21の作製>
フィルムの長さYを表1に示されるように変更した以外はフィルムロール8と同様にしてフィルムロール18~21を得た。なお、一部については、吐出周波数を調整して複数の涙滴形状物同士の平均間隔T3を表1に示されるようにさらに変更した。
【0149】
<フィルムロール22の作製>
涙滴形状物の平面視形状を図5に示されるように変更した以外はフィルムロール12と同様にしてフィルムロール22を得た。涙滴形状物の平面視形状は、乾燥条件(温風温度と温風を当てる角度)によって調整した。
【0150】
<評価>
また、得られたフィルムロール1~24の涙滴形状物の形状およびフィルムロールの変形などを、以下の方法で評価した。
【0151】
(1)涙滴形状物の寸法および形状(高さ、平面視形状など)
フィルムの幅方向断面における、涙滴形状物の高さt(最大高さ)、平面視したときの涙滴形状物のサイズ(T1、T2)および複数の涙滴形状物間の平均距離(T3)を、レーザー顕微鏡を用いて測定した。レーザー顕微鏡としては、キーエンス社製laser Microscope VK-X1000を用いた。具体的には、涙滴形状物が配置された領域において、フィルムの長さ方向に100mmの範囲について、涙滴形状物の高さtなどを測定し、それらの平均値を「涙滴形状物の高さt」とした。
【0152】
(2)巻き故障(フィルムロールの変形)
巻き取ったフィルムロールをポリエチレンシートで2重に包み、(巻き芯の軸方向が水平方向となるように)巻き芯の両端部を架台で支持した状態で、40℃、80%の条件下で5日間保存した。その後、ポリエチレンシートを開け、フィルムロール表面に対し、点灯している蛍光灯の管を反射させて映し、その歪みあるいは細かい乱れを観察した。そして、以下の基準に基づいて評価した。
◎:蛍光灯がまっすぐに見える
〇:蛍光灯が極僅かに曲がって見える所が、1箇所だけあるが実用上問題ない
○△:蛍光灯が極僅かに曲がって見える所が、2箇所だけあるが実用上問題ない
△:蛍光灯が極僅かに曲がって見える所が、3箇所だけあるが実用上問題ない
×:蛍光灯が明らかに曲がっている箇所や、まだらに映っている箇所があり、問題である
△以上であれば許容範囲とした。
【0153】
(3)8K液晶表示装置の表示品質
(偏光板の作製)
厚み100μmの非晶質ポリエステルフィルムの片面にコロナ処理を施し、当該処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業「ゴーセファイマーZ200」;重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上)を9:1の質量比で含む水溶液を、25℃で塗布および乾燥させて、非晶質ポリエステルフィルム基材と、厚み11μmのPVA系樹脂層とを含む積層体を得た。
【0154】
得られた積層体を、120℃のオーブン内での空中補助延伸により長さ方向に2.0倍に自由端一軸延伸した後、ロール搬送しながら、30℃の4%ホウ酸水溶液に30秒間、30℃の染色液(0.2%ヨウ素、1.0%ヨウ化カリウム水溶液)に60秒間、順次浸漬した。次いで、積層体をロール搬送しながら、30℃の架橋液(ヨウ化カリウムを3%、ホウ酸3%水溶液)に30秒間浸漬して架橋処理を行い、70℃のホウ酸4%、ヨウ化カリウム5%水溶液に浸漬しながら、総延伸倍率が5.5倍となるように長さ方向に自由端一軸延伸した。その後、積層体を30℃の洗浄液(4%ヨウ化カリウム水溶液)に浸漬して、非晶質ポリエステルフィルム基材と、厚み5μmのPVA系偏光子とを含む積層体を得た。
【0155】
(活性エネルギー線硬化型接着剤組成物の調製)
活性エネルギー線硬化型接着剤組成物として、以下の組成のものを準備した。
N-ヒドロキシエチルアクリルアミド:30質量部
アクリロイルモルホリン:65質量部
トリプロピレングリコールジアクリレート:5質量部
2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン(開始剤):1.4質量部
2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン:1.4質量部
上記硬化性接着剤組成物を、上記積層体の偏光子の表面に約1μmの厚みで塗布し、その上に、上記フィルムロールから巻き出したフィルムを貼り合わせ、積算光量1000mJ/cmの紫外線を照射して、接着剤を硬化させた。貼り合わせは、当該フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸が互いに直交するように行った。
【0156】
積層体から非晶質ポリエステルフィルム基材を剥離し、当該剥離したPVA樹脂層の表面に、上記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、フィルムを貼り合わせた後、紫外線を照射して接着剤を硬化させた。それにより、偏光子と、その両面に配置された偏光板保護フィルムとしての上記フィルムとを有する偏光板を得た。
【0157】
そして、得られた偏光板を、8Kの液晶表示パネルに使用し、黒表示時の光漏れのムラを目視にて評価した。具体的には、厚み20μmのアクリル系粘着シートを、ロールラミネータを用いて、上記偏光板の面のうち、偏光子の吸収軸に対して遅相軸を直交に貼り合わせた方のフィルムに貼り合わせて、粘着層付き偏光板を得た。
【0158】
(液晶表示装置の作製)
シャープ製60インチ液晶表示装置8T-C60BW1(VA方式)の、液晶セルの両面に貼り合わされていた偏光板を剥がした。上記作製した粘着シート付き偏光板の粘着層を、液晶セルの両面にそれぞれ貼り付けた。なお、上記フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸の向きは、元々貼り合わされていた偏光板における向きと一致するように行った。
【0159】
(黒表示時の光漏れ)
得られた8Kの液晶表示装置を暗室に設置し、パソコンからの外部入力により、全面黒表示とした。さらに、四辺の縁部は黒テープで目張りし、正面から見た際により確実に黒表示部分のみが露出する状態とした。この状態で、光漏れのムラを観察し、以下の基準に基づいて評価した。
◎:光漏れのムラがほとんどない
〇:光漏れのムラが極僅かにしかない
○△:光漏れのムラが少しあるが、実用上問題ない
△:光漏れのムラがあるが、実用上問題ない
×:光漏れのムラが多く、実用に耐えない
△×以上であれば許容範囲とした。
【0160】
フィルムロール1~24の作製条件および評価結果を、表1に示す。なお、フィルム1~3および13のSu/Sdの比は、それぞれ1.49、1.28、1.65および1.46であり、Sdは、それぞれ0.45mm、0.49mm、0.43mmおよび0.46mmであった。
【0161】
【表1】
【0162】
表1に示されるように、フィルムロール1~22では、涙滴形状物のT2/T1が所定の範囲にあることが確認された。また、涙滴形状物の面積Suは、Sdよりも大きいことも確認した。そして、涙滴形状物のT2/T1が所定の範囲にあるフィルムロール1~22は、いずれも巻き故障が少なく、得られるフィルムを用いた表示装置も光漏れが少ないことがわかる。
【0163】
特に、T3<T2を満たすことで、フィルムロールの変形をより抑制しうることがわかる(フィルム8と、フィルム10および111との対比)。
【0164】
また、式(3)と(4)を満たすことで、フィルムロールの変形をより抑制しうることがわかる(フィルム14または15と、フィルム16または17との対比)。また、式(5)と(6)を満たすことで、フィルムロールの変形をより抑制しうることがわかる(例えばフィルム19と20の対比など)。
【0165】
これに対し、T2/T1が所定の範囲にないフィルムロール23および24は、いずれも巻き故障を生じ、それにより、表示装置にしたときの光漏れも生じることがわかる。
【0166】
本出願は、2021年4月23日出願の特願2021-073520号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明によれば、例えば光学フィルムなどのフィルムの保管時におけるブロッキングや巻き形状の低下を抑制し、光学特性のバラツキを低減しうるフィルムおよびフィルムロールを提供することができる。
【符号の説明】
【0168】
10 帯状のフィルム(フィルムロール)
11 フィルム基部
12 涙滴形状物
図1
図2
図3
図4
図5
図6