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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】軸受けの検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20240326BHJP
   G01M 13/04 20190101ALI20240326BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240326BHJP
   G01M 7/02 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
G01H17/00 A
G01M13/04
G01M99/00 A
G01M7/02 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023541190
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 JP2021029757
(87)【国際公開番号】W WO2023017606
(87)【国際公開日】2023-02-16
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 龍
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-136776(JP,A)
【文献】特開2002-022617(JP,A)
【文献】特開平05-294573(JP,A)
【文献】特開昭62-000832(JP,A)
【文献】特開平11-094713(JP,A)
【文献】特開2017-181441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 17/00
G01M 13/04-13/045
G01M 99/00
G01M 7/02- 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸を支持する軸受けを検査するための方法であって、
前記軸又は前記軸とともに回転する部材の一方にローラを押し当てることにより、前記軸に第1荷重を付与する第1付与工程と、
前記軸が回転することによって振動が発生する部材にセンサを取り付ける取付工程と、
前記取付工程の後に前記軸を回転させながら前記センサによって振動を検出する検出工程と、
を備え、
前記検出工程は、前記第1付与工程が行われた後に行われ
前記第1付与工程において、前記ローラは前記一方に下方から押し当てられる軸受けの検査方法。
【請求項2】
前記一方に前記ローラを下方から押し当てることにより、前記第1荷重とは異なる第2荷重を前記軸に付与する第2付与工程を更に備え、
前記検出工程は、前記第1付与工程が行われた後及び前記第2付与工程が行われた後の双方で行われる請求項に記載の軸受けの検査方法。
【請求項3】
前記軸とともに回転するブレーキ部材に第1シューを押し当てるブレーキ工程を更に備え、
前記検出工程は、前記第1付与工程と前記ブレーキ工程とが行われた後に行われる請求項1又は請求項に記載の軸受けの検査方法。
【請求項4】
前記ブレーキ部材に対向する第2シューを前記第1シューに取り替える第1取替工程と、
前記ブレーキ部材に対向する前記第1シューを前記第2シューに取り替える第2取替工程と、
を更に備え、
前記第1取替工程は、前記ブレーキ工程が行われる前に行われ、
前記第2取替工程は、前記検出工程が行われた後に行われる請求項に記載の軸受けの検査方法。
【請求項5】
前記軸の回転速度が定格速度より大きくなるように設定する設定工程を更に備え、
前記検出工程は、前記第1付与工程と前記設定工程とが行われた後に行われる請求項1又は請求項に記載の軸受けの検査方法。
【請求項6】
前記軸受けのための潤滑油を抜き、前記軸受けに対して脱脂剤を注入する反潤滑工程を更に備え、
前記検出工程は、前記第1付与工程と前記反潤滑工程とが行われた後に行われる請求項1又は請求項に記載の軸受けの検査方法。
【請求項7】
軸を支持する軸受けを検査するための方法であって、
前記軸又は前記軸とともに回転する部材の一方にローラを押し当てることにより、前記軸に第1荷重を付与する第1付与工程と、
前記軸が回転することによって振動が発生する部材にセンサを取り付ける取付工程と、
前記取付工程の後に前記軸を回転させながら前記センサによって振動を検出する検出工程と、
前記軸とともに回転するブレーキ部材に第1シューを押し当てるブレーキ工程と、
を備え、
前記検出工程は、前記第1付与工程と前記ブレーキ工程とが行われた後に行われる軸受けの検査方法。
【請求項8】
軸を支持する軸受けを検査するための方法であって、
前記軸又は前記軸とともに回転する部材の一方にローラを押し当てることにより、前記軸に第1荷重を付与する第1付与工程と、
前記軸が回転することによって振動が発生する部材にセンサを取り付ける取付工程と、
前記取付工程の後に前記軸を回転させながら前記センサによって振動を検出する検出工程と、
前記軸受けのための潤滑油を抜き、前記軸受けに対して脱脂剤を注入する反潤滑工程と、
を備え、
前記検出工程は、前記第1付与工程と前記反潤滑工程とが行われた後に行われる軸受けの検査方法。
【請求項9】
軸を支持する軸受けを検査するための方法であって、
前記軸とともに回転するブレーキ部材に第1シューを押し当てるブレーキ工程と、
前記軸が回転することによって振動が発生する部材にセンサを取り付ける取付工程と、
前記取付工程の後に前記軸を回転させながら前記センサによって振動を検出する検出工程と、
を備え、
前記検出工程は、前記ブレーキ工程が行われた後に行われる軸受けの検査方法。
【請求項10】
軸を支持する軸受けを検査するための方法であって、
前記軸受けのための潤滑油を抜き、前記軸受けに対して脱脂剤を注入する反潤滑工程と、
前記軸が回転することによって振動が発生する部材にセンサを取り付ける取付工程と、
前記取付工程の後に前記軸を回転させながら前記センサによって振動を検出する検出工程と、
を備え、
前記検出工程は、前記反潤滑工程が行われた後に行われる軸受けの検査方法。
【請求項11】
前記軸に駆動綱車が設けられ、
前記駆動綱車に、エレベーターのかごを吊り下げるためのロープが巻き掛けられた請求項1から請求項10の何れか一項に記載の軸受けの検査方法。
【請求項12】
軸を支持する軸受けを検査するための方法であって、
前記軸の回転速度が定格速度より大きくなるように設定する設定工程と、
前記軸が回転することによって振動が発生する部材にセンサを取り付ける取付工程と、
前記取付工程の後に前記軸を回転させながら前記センサによって振動を検出する検出工程と、
を備え、
前記軸に駆動綱車が設けられ、
前記駆動綱車に、エレベーターのかごを吊り下げるためのロープが巻き掛けられ、
前記検出工程は、前記設定工程が行われた後に行われる軸受けの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軸を支持する軸受けを検査するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、軸受けの異常を検出するための装置が記載されている。特許文献1に記載された装置は、軸受けの機械的振動を電気信号に変換するための手段を備える。当該電気信号から振動波形が得られる。軸受けに傷があると、その傷に対応する周波数において振動波形にピークが現れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本特開平2-205727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸受けに存在する傷が小さいと、ノイズの影響によって、その傷に対応する周波数においてピークが現れない場合がある。このため、特許文献1に記載された装置では、軸受けに存在する初期段階の傷を検出することができないといった問題があった。
【0005】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされた。本開示の目的は、軸受けに存在する傷が小さい場合でも傷の存在を精度良く検出することができる軸受けの検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る軸受けの検査方法は、軸又は軸とともに回転する部材の一方にローラを押し当てることにより、軸に第1荷重を付与する第1付与工程と、軸が回転することによって振動が発生する部材にセンサを取り付ける取付工程と、取付工程の後に軸を回転させながらセンサによって振動を検出する検出工程と、を備える。検出工程は、第1付与工程が行われた後に行われる。第1付与工程において、ローラは一方に下方から押し当てられる。
本開示に係る軸受けの検査方法は、軸又は軸とともに回転する部材の一方にローラを押し当てることにより、軸に第1荷重を付与する第1付与工程と、軸が回転することによって振動が発生する部材にセンサを取り付ける取付工程と、取付工程の後に軸を回転させながらセンサによって振動を検出する検出工程と、軸とともに回転するブレーキ部材に第1シューを押し当てるブレーキ工程と、を備える。検出工程は、第1付与工程とブレーキ工程とが行われた後に行われる。
本開示に係る軸受けの検査方法は、軸又は軸とともに回転する部材の一方にローラを押し当てることにより、軸に第1荷重を付与する第1付与工程と、軸が回転することによって振動が発生する部材にセンサを取り付ける取付工程と、取付工程の後に軸を回転させながらセンサによって振動を検出する検出工程と、軸受けのための潤滑油を抜き、軸受けに対して脱脂剤を注入する反潤滑工程と、を備える。検出工程は、第1付与工程と反潤滑工程とが行われた後に行われる。
【0007】
本開示に係る軸受けの検査方法は、軸とともに回転するブレーキ部材に第1シューを押し当てるブレーキ工程と、軸が回転することによって振動が発生する部材にセンサを取り付ける取付工程と、取付工程の後に軸を回転させながらセンサによって振動を検出する検出工程と、を備える。検出工程は、ブレーキ工程が行われた後に行われる。
【0008】
本開示に係る軸受けの検査方法は、軸の回転速度が定格速度より大きくなるように設定する設定工程と、軸が回転することによって振動が発生する部材にセンサを取り付ける取付工程と、取付工程の後に軸を回転させながらセンサによって振動を検出する検出工程と、を備える。軸に駆動綱車が設けられる。駆動綱車に、エレベーターのかごを吊り下げるためのロープが巻き掛けられる。検出工程は、設定工程が行われた後に行われる。
【0009】
本開示に係る軸受けの検査方法は、軸受けのための潤滑油を抜き、軸受けに対して脱脂剤を注入する反潤滑工程と、軸が回転することによって振動が発生する部材にセンサを取り付ける取付工程と、取付工程の後に軸を回転させながらセンサによって振動を検出する検出工程と、を備える。検出工程は、反潤滑工程が行われた後に行われる。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る軸受けの検査方法であれば、軸受けに存在する傷が小さい場合でも傷の存在を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】エレベーター装置の例を示す図である。
図2】巻上機の例を示す図である。
図3】実施の形態1における軸受けの検査方法の例を示すフローチャートである。
図4】軸受けの検査方法を説明するための図である。
図5】加圧装置の例を示す図である。
図6】軸受けに作用する荷重の例を示す図である。
図7】付与工程の他の例を説明するための図である。
図8】軸受けに作用する荷重の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して詳細な説明を行う。重複する説明は、適宜簡略化或いは省略する。各図において、同一の符号は同一の部分又は相当する部分を示す。
【0013】
実施の形態1.
図1は、エレベーター装置の例を示す図である。先ず、図1を参照して、エレベーター装置について説明する。エレベーター装置は、かご1及びつり合いおもり2を備える。かご1は、昇降路3を上下に移動する。つり合いおもり2は、昇降路3を上下に移動する。かご1及びつり合いおもり2は、ロープ4によって昇降路3に吊り下げられる。図1は、1:1ローピング方式のエレベーター装置を一例として示している。
【0014】
巻上機5は、かご1を駆動する。制御装置6は、巻上機5を制御する。即ち、かご1の移動は、制御装置6によって制御される。図1は、巻上機5及び制御装置6が昇降路3の上方の機械室7に設けられる例を示す。巻上機5及び制御装置6は、昇降路3に設けられても良い。巻上機5は、昇降路3の頂部に設けられても良いし、昇降路3のピットに設けられても良い。
【0015】
図2は、巻上機5の例を示す図である。巻上機5は、モータ10(図2では図示せず)、軸11、軸受け12、軸受け台13、機械台14、駆動綱車15、及びブレーキ装置16を備える。
【0016】
モータ10は、軸11を回転させるための駆動力を発生させる。軸11は、軸受け12によって回転可能に支持される。図2に示す例では、軸11は、2つの軸受け12によって支持される。軸受け12は、軸受け台13に設けられる。即ち、軸11は、軸受け12を介して軸受け台13に回転可能に設けられる。軸受け台13は、機械台14に支持される。軸受け台13と機械台14との間に、防振部材が設けられても良い。
【0017】
軸11に、駆動綱車15が設けられる。駆動綱車15は、軸11とともに回転する。駆動綱車15に、ロープ4が巻き掛けられる。駆動綱車15が回転する、即ち軸11が回転すると、かご1は、駆動綱車15の回転方向に応じた方向に移動する。
【0018】
ブレーキ装置16は、駆動綱車15を静止保持する。エレベーターの通常運転では、ブレーキ装置16は、かご1を減速するために用いられない。通常運転は、エレベーターの利用者を目的階に運ぶための運転である。かご1の減速は、モータ10によって行われる。ブレーキ装置16は、かご1が停止すると、駆動綱車15を静止保持するための力を発生させる。
【0019】
ブレーキ装置16は、ブレーキディスク17、及びブレーキシュー18を備える。ブレーキディスク17は、軸11に設けられる。ブレーキディスク17は、駆動綱車15に設けられても良い。ブレーキディスク17は、軸11とともに回転する。ブレーキディスク17は、軸11とともに回転するブレーキ部材の一例である。
【0020】
ブレーキシュー18は、ブレーキディスク17に対向する。ブレーキシュー18は、ブレーキディスク17に接触及び離隔するように移動可能に設けられる。ブレーキシュー18がブレーキディスク17に押し当てられることによって、駆動綱車15に対する抵抗力、即ち駆動綱車15を静止保持するための力が発生する。
【0021】
軸受け12に発生した傷が成長すると、軸受け12の破損に繋がる。軸受け12が破損すると、軸受け12だけでなく、巻上機5に含まれる他の機器にも被害が及ぶ場合がある。このため、軸受け12に発生した傷は、早期に検出されることが好ましい。
【0022】
軸受け12に傷が発生していると、当該傷に対応する特定の振動成分が大きくなる。このため、軸11が回転している時に発生する振動から、軸受け12に生じた傷を検出することができる。しかし、軸11が回転している時に発生する振動を単に検出しただけでは、軸受け12に発生した傷が小さい間は、当該振動成分をノイズから分離することが難しい。そこで、本実施の形態に示す例では、軸受け12に発生した傷に対応する振動成分を一時的に増幅させることにより、当該傷の早期検出を実現する。以下においては、当該振動成分のことを特定振動成分ともいう。
【0023】
図3は、実施の形態1における軸受け12の検査方法の例を示すフローチャートである。図4は、軸受け12の検査方法を説明するための図である。
【0024】
エレベーターの保守員は、先ず、S101において、センサ20を取り付ける取付工程を行う。センサ20は、振動を検出する機能を有する。一例として、センサ20は加速度センサである。取付工程では、軸11が回転することによって振動が発生する部材にセンサ20が取り付けられる。図4は、センサ20が軸受け台13に取り付けられる例を示す。センサ20は、磁石によって軸受け台13に取り付けられても良い。
【0025】
次に、保守員は、S102において、特定振動成分を検査時のみ一時的に増幅させるための準備工程を行う。準備工程は、取付工程の前に行われても良い。準備工程の詳細については、後述する。
【0026】
次に、保守員は、S103において、軸受け12に発生した傷を検出するための検出工程を行う。検出工程は、取付工程及び準備工程の双方が行われた後に行われる。即ち、検出工程は、センサ20が軸受け台13に取り付けられ且つ特定振動成分を増幅させるための処置が行われた状態で実施される。
【0027】
検出工程では、モータ10によって軸11が駆動される。そして、軸11を回転させながらセンサ20による振動の検出が行われる。センサ20による振動の検出は、かご1が最下階の乗場と最上階の乗場とを1往復する間に行われることが好ましい。
【0028】
センサ20によって検出された振動の情報は、保守員が所持する端末19に送信される。端末19では、センサ20から受信した情報の解析処理が行われる。当該解析処理に、エンベロープ処理或いはFFT処理が含まれても良い。当該解析処理に、他の処理が含まれても良い。当該解析処理から得られた特定振動成分に関する値を基準値と比較することにより、軸受け12に傷が発生しているか否かが判定される。なお、端末19は、上記解析処理機能及び判定処理機能を備えず、センサ20から受信した情報を表示器に表示する機能を有していても良い。端末19は、上記表示機能を備えず、センサ20から受信した情報を保存する機能を有していても良い。
【0029】
次に、準備工程の具体例について説明する。図3は、準備工程に、付与工程、ブレーキ工程、設定工程、及び反潤滑工程の4つの工程が含まれる好適な例を示す。準備工程には、付与工程、ブレーキ工程、設定工程、及び反潤滑工程のうちの少なくとも1つが含まれていれば良い。例えば、準備工程に、付与工程のみが含まれても良い。準備工程に、付与工程、及びブレーキ工程のみが含まれても良い。上述したように、検出工程は、準備工程が行われた後に行われる。準備工程に付与工程とブレーキ工程とが含まれる場合、検出工程は、付与工程とブレーキ工程とが行われた後に行われる。
【0030】
1)付与工程
付与工程は、軸11に対して、軸11に直交する方向から荷重を付与するための工程である。軸受け12の検査は、かご1に誰も乗っていない状態、即ち無負荷状態で行われる。付与工程では、かご1に誰も乗っていない状態を基準にして、軸11に荷重が付与される。図4は、付与工程において、軸11に荷重を付与するために加圧装置21が用いられる例を示す。
【0031】
準備工程に付与工程が含まれる場合、検出工程では、加圧装置21による荷重が軸11に付与された状態で軸11が回転する。そして、当該状態でセンサ20による振動の検出が行われる。準備工程に付与工程を含めることにより、軸11に作用する荷重を強制的に変化させることができる。これにより、軸受け12に発生した傷に対応する振動成分を検査時のみ一時的に増幅させることができる。
【0032】
図5は、加圧装置21の例を示す図である。加圧装置21は、加圧部22とジャッキ部23とを備える。加圧部22は、ローラ24、軸25、支持台26、ガイド27、及びばね28を備える。ローラ24は、軸25を介して支持台26に回転可能に支持される。支持台26は、ガイド27に対してA方向に移動可能となるようにガイド27に支持される。A方向は、軸25に直交する特定の方向である。ばね28は、支持台26とガイド27との間に設けられる。ばね28は、支持台26をガイド27に対してA方向に押し付ける。
【0033】
ローラ24は、駆動綱車15の外周面に押し当てられる。本実施の形態に示す例では、軸11は水平に配置される。加圧部22は、軸25が軸11に対して平行になるように配置される。ローラ24が駆動綱車15に押し当てられることにより、軸11に対して荷重が付与される。駆動綱車15は、軸11とともに回転する部材の一例である。ローラ24は、駆動綱車15以外の当該部材に押し当てられても良い。ローラ24は、軸11に直接押し当てられても良い。
【0034】
加圧装置21が軸11に対して付与する荷重は、ジャッキ部23によって調整することができる。ジャッキ部23は、ハンドル29、ジャッキ機構30、及び押し付け部31を備える。図5は、ハンドル29が操作されることにより、ジャッキ機構30によって押し付け部31が変位する例を示す。ジャッキ部23は、押し付け部31が変位する方向がA方向に一致するように配置される。
【0035】
図6は、軸受け12に作用する荷重の例を示す図である。図6に示す縦軸は、軸受け12に作用する荷重を示す。図6に示す横軸は、押し付け部31の押し込み量を示す。図4に示す例では、ローラ24は、駆動綱車15に下方から押し当てられる。この状態で押し付け部31が上方に変位する、即ち押し込み量が大きくなると、ローラ24は駆動綱車15に強く押し当てられることになる。これにより、軸受け12に作用する荷重は、図6に示すように小さくなる。
【0036】
保守員は、軸受け12を検査する際に軸受け12に作用する荷重を複数の値に変化させ、その都度、振動の検出を行っても良い。例えば、保守員は、1回目の付与工程において、ローラ24を駆動綱車15に下方から押し当て、押し付け部31の押し込み量をP1に設定する。これにより、軸11に対して加圧装置21から第1荷重が付与される。また、軸受け12に荷重L1が作用する。保守員は、軸11に第1荷重を付与した状態で検出工程を行う。
【0037】
次に、保守員は、2回目の付与工程において、ローラ24を駆動綱車15に下方から押し当てたまま、押し付け部31の押し込み量をP2に設定する。これにより、軸11に対して加圧装置21から第2荷重が付与される。また、軸受け12に荷重L2が作用する。第2荷重は、第1荷重より大きい。保守員は、軸11に第2荷重を付与した状態で検出工程を行う。
【0038】
図6は、その後に3回目の付与工程及び4回目の付与工程を行う例を示す。3回目の付与工程では、押し込み量がP3に設定され、軸11に対して加圧装置21から第3荷重が付与される。第3荷重は、第2荷重より大きい。4回目の付与工程では、押し込み量がP4に設定され、軸11に対して加圧装置21から第4荷重が付与される。第4荷重は、第3荷重より大きい。検出工程は、3回目の付与工程が行われた後及び4回目の付与工程が行われた後の双方で行われる。
【0039】
図7は、付与工程の他の例を説明するための図である。図7は、ローラ24が駆動綱車15に対して上方から押し当てられる例を示す。図7に示す例においても、加圧部22は、軸25が軸11に対して平行になるように配置される。検出工程では、軸11に加圧装置21による荷重が付与された状態で軸11が回転する。そして、当該状態でセンサ20による振動の検出が行われる。
【0040】
図8は、軸受け12に作用する荷重の他の例を示す図である。ローラ24が駆動綱車15に上方から押し当てられた状態で押し付け部31が下方に変位する、即ち押し込み量が大きくなると、ローラ24は駆動綱車15に強く押し当てられることになる。これにより、軸受け12に作用する荷重は、図8に示すように大きくなる。
【0041】
保守員は、軸受け12を検査する際に軸受け12に作用する荷重を複数の値に変化させ、その都度、振動の検出を行っても良い。例えば、保守員は、1回目の付与工程において、ローラ24を駆動綱車15に上方から押し当て、押し付け部31の押し込み量をP1に設定する。これにより、軸11に対して加圧装置21から第1荷重が付与される。また、軸受け12に荷重L5が作用する。保守員は、軸11に第1荷重を付与した状態で検出工程を行う。
【0042】
次に、保守員は、2回目の付与工程において、ローラ24を駆動綱車15に上方から押し当てたまま、押し付け部31の押し込み量をP2に設定する。これにより、軸11に対して加圧装置21から第2荷重が付与される。また、軸受け12に荷重L6が作用する。上述したように、第2荷重は第1荷重より大きい。保守員は、軸11に第2荷重を付与した状態で検出工程を行う。
【0043】
図8は、その後に3回目の付与工程及び4回目の付与工程を行う例を示す。3回目の付与工程では、押し込み量がP3に設定され、軸11に対して加圧装置21から第3荷重が付与される。4回目の付与工程では、押し込み量がP4に設定され、軸11に対して加圧装置21から第4荷重が付与される。検出工程は、3回目の付与工程が行われた後及び4回目の付与工程が行われた後の双方で行われる。
【0044】
他の例として、保守員は、軸受け12を検査する際にローラ24を押し当てる方向を変え、その都度、振動の検出を行っても良い。例えば、保守員は、1回目の付与工程において、ローラ24を駆動綱車15に下方から押し当てる。その後、保守員は、ローラ24を駆動綱車15に下方から押し当てた状態で検出工程を行う。
【0045】
次に、保守員は、2回目の付与工程において、ローラ24を駆動綱車15に上方から押し当てる。その後、保守員は、ローラ24を駆動綱車15に上方から押し当てた状態で検出工程を行う。保守員は、1回目の付与工程においてローラ24を駆動綱車15に上方から押し当て、2回目の付与工程においてローラ24を駆動綱車15に下方から押し当てても良い。保守員は、ローラ24を駆動綱車15に下方から押し当てる際に、軸受け12に作用する荷重を複数の値に変化させ、その都度、振動の検出を行っても良い。保守員は、ローラ24を駆動綱車15に上方から押し当てる際に、軸受け12に作用する荷重を複数の値に変化させ、その都度、振動の検出を行っても良い。
【0046】
2)ブレーキ工程
ブレーキ工程は、軸11に作用する負荷トルクを大きくするための工程である。ブレーキ工程では、ブレーキディスク17にブレーキシュー32が押し当てられる。準備工程にブレーキ工程が含まれる場合、検出工程では、ブレーキディスク17にブレーキシュー32が押し当てられた状態で軸11が回転する。そして、当該状態でセンサ20による振動の検出が行われる。準備工程にブレーキ工程を含めることにより、軸11に作用する負荷トルクを強制的に変化させることができる。これにより、軸受け12に発生した傷に対応する振動成分を検査時のみ一時的に増幅させることができる。
【0047】
ブレーキ工程において、ブレーキディスク17にブレーキシュー18を押し当てても、軸11に作用する負荷トルクを大きくすることは可能である。しかし、ブレーキ装置16は、上述したように、駆動綱車15を静止保持するための装置である。このため、ブレーキシュー18をブレーキディスク17に押し当てた状態で軸11を回転させると、摩擦熱によってブレーキディスク17が破損する可能性がある。このため、準備工程にブレーキ工程を含める場合は、ブレーキシュー18の摩擦係数より小さい摩擦係数を有するブレーキシュー32をブレーキディスク17に押し当てることが好ましい。
【0048】
エレベーターの通常運転が行われている間、ブレーキディスク17にはブレーキシュー18が対向している。このため、保守員は、ブレーキ工程を行う前に、ブレーキシュー18をブレーキシュー32に取り替える第1取替工程を行う。これにより、ブレーキシュー18がブレーキ装置16から外され、ブレーキシュー32がブレーキディスク17に対向するように配置される。ブレーキ工程では、ブレーキシュー32がブレーキディスク17に押し当てられる。検出工程は、ブレーキ工程が行われた後に行われる。
【0049】
保守員は、検出工程を行うと、エレベーターの通常運転を開始する前にブレーキシュー32をブレーキシュー18に取り替える第2取替工程を行う。これにより、ブレーキシュー32がブレーキ装置16から外され、ブレーキシュー18がブレーキディスク17に対向するように配置される。エレベーターの通常運転では、ブレーキシュー18がブレーキディスク17に押し当てられ、必要な静止保持力が確保される。
【0050】
3)設定工程
設定工程は、軸11の回転速度を大きくするための工程である。エレベーターの通常運転では、軸11の回転速度は定格速度より大きくならない。設定工程では、軸11の回転速度が定格速度より大きくなるように設定される。一例として、設定工程において、軸11の回転速度が第1速度に設定される。第1速度は、定格速度より大きい速度である。なお、エレベーター装置では、軸11の回転速度が第2速度より大きくなると安全装置が働く。第1速度は、当該第2速度より小さい速度であることが好ましい。
【0051】
準備工程に設定工程が含まれる場合、設定工程の後に行われる検出工程では、軸11が第1速度で回転する。そして、軸11が第1速度で回転している状態でセンサ20による振動の検出が行われる。準備工程に設定工程を含めることにより、軸11の回転速度を強制的に変化させることができる。これにより、軸受け12に発生した傷に対応する振動成分を検査時のみ一時的に増幅させることができる。
【0052】
4)反潤滑工程
反潤滑工程は、軸受け12の潤滑性能を悪化させるための工程である。巻上機5には、軸受け12のための潤滑油が含まれる。反潤滑工程では、バルブを開くことによって軸受け12のための潤滑油が抜かれ、グリスニップルから軸受け12に対して脱脂剤が注入される。
【0053】
準備工程に反潤滑工程が含まれる場合、反潤滑工程の後に行われる検出工程では、潤滑油が抜かれ且つ脱脂剤が注入された状態で軸11が回転する。そして、当該状態でセンサ20による振動の検出が行われる。準備工程に反潤滑工程を含めることにより、軸受け12の潤滑性能を強制的に悪化させることができる。これにより、軸受け12に発生した傷に対応する振動成分を検査時のみ一時的に増幅させることができる。
【0054】
なお、準備工程に反潤滑工程が含まれる場合、保守員は、検出工程を行うと、エレベーターの通常運転を開始する前に軸受け12のための潤滑油を巻上機5に充填する充填工程を行う。これにより、エレベーターの通常運転において、軸11の円滑な回転が確保される。
【0055】
本実施の形態に示す例では、検出工程が行われる前に、特定振動成分を検査時のみ一時的に増幅させるための準備工程が行われる。このため、軸受け12に存在する傷が小さい場合でもこの傷の存在を精度よく検出することができる。
【0056】
本実施の形態では、エレベーター装置の巻上機5に備えられた軸受け12を検査する方法について説明した。これは一例である。エレベーター装置の他の機器に備えられた軸受けを検査する際に、上述した方法を採用しても良い。また、エレベーター装置以外の設備に備えられた軸受けを検査する際に、上述した方法を採用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本開示に係る検査方法は、軸を支持する軸受けを検査するために利用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 かご、 2 つり合いおもり、 3 昇降路、 4 ロープ、 5 巻上機、 6 制御装置、 7 機械室、 10 モータ、 11 軸、 12 軸受け、 13 軸受け台、 14 機械台、 15 駆動綱車、 16 ブレーキ装置、 17 ブレーキディスク、 18 ブレーキシュー、 19 端末、 20 センサ、 21 加圧装置、 22 加圧部、 23 ジャッキ部、 24 ローラ、 25 軸、 26 支持台、 27 ガイド、 28 ばね、 29 ハンドル、 30 ジャッキ機構、 31 押し付け部、 32 ブレーキシュー
図1
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