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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】油中水型乳化物用液状油脂
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20240326BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20240326BHJP
   A21D 2/16 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
A23D7/00 500
A23D9/00 502
A21D2/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023557772
(86)(22)【出願日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2023006545
(87)【国際公開番号】W WO2023176353
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2022040965
(32)【優先日】2022-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高野 寛
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-178549(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156523(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/206467(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/075137(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)~(D)全てを満たし、かつS2U型トリグリセリドとSSS型トリグリセリドの含有量の合計が5~35重量%である、油中水型乳化物用液状油脂。
(A) 構成脂肪酸組成中、パルミチン酸とステアリン酸の含有量の合計が10~45重量%
(B) 構成脂肪酸組成中、オレイン酸とリノール酸の含有量の合計が55~80重量%
(C) ジグリセリドの含有量が8重量%以上
(D) SU2型トリグリセリドの含有量が30~70重量%
ただし、Sは炭素数16~22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数18の不飽和脂肪酸を、SU2型トリグリセリドはSが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリドを、S2U型トリグリセリドはSが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリドを、SSS型トリグリセリドはSが3分子結合しているトリグリセリドを示す。
【請求項2】
水溶性食物繊維及びレシチン以外の乳化剤を実質的に含まず、かつ請求項1記載の油中水型乳化物用液状油脂を5~50重量%含み、かつ水相の割合が25~70重量%である、油中水型乳化物。
【請求項3】
請求項2記載の油中水型乳化物であって、該油中水型乳化物用液状油脂を5~50重量%含み、かつ油相が以下(a)~(c)を全て満たすことを特徴とする、油中水型乳化物。
(a) 完全溶解後に0℃で5分保持することにより生成する固体脂含量が15~40%
(b) 完全溶解後に5℃で7日保持することにより生成する固体脂含量が25~55%
(c) (b)/(a)比が0.9~1.4
【請求項4】
炭素数14以下の脂肪酸を構成脂肪酸組成中に20重量%以上含む油脂を70重量%以下含有することを特徴とする、請求項3記載の油中水型乳化物。
【請求項5】
炭素数16以上の飽和脂肪酸を構成脂肪酸組成中に90重量%以上含む油脂を8重量%以下含有することを特徴とする、請求項3又は4記載の油中水型乳化物。
【請求項6】
シアオレインである、請求項1記載の油中水型乳化物用液状油脂。
【請求項7】
ランダムエステル交換により得られるエステル交換油を分別することにより得られる低融点部である、請求項1記載の油中水型乳化物用液状油脂。
【請求項8】
以下(A)~(D)全てを満たし、かつS2U型トリグリセリドとSSS型トリグリセリドの含有量の合計が5~35重量%である液状油脂を用いることによる、油中水型乳化物の離水を抑制する方法。
(A) 構成脂肪酸組成中、パルミチン酸とステアリン酸の含有量の合計が10~45重量

(B) 構成脂肪酸組成中、オレイン酸とリノール酸の含有量の合計が55~80重量%
(C) ジグリセリドの含有量が8重量%以上
(D) SU2型トリグリセリドの含有量が30~70重量%
ただし、Sは炭素数16~22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数18の不飽和脂肪酸を、S
U2型トリグリセリドはSが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリドを、S2U型トリグリセリドはSが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリドを、SSS型トリグリセリドはSが3分子結合しているトリグリセリドを示す。
【請求項9】
油中水型乳化物の水相の割合が25~70重量%である、請求項8記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油中水型乳化物用液状油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
油中水型乳化物の油相は、求められる物性調整の目的で複数の油脂から構成されることが一般的である。これらを油脂の融点に応じて、高融点油脂、中融点油脂、低融点油脂と便宜上大別した場合、高融点油脂は耐熱保形性、硬さの付与、中融点油脂は可塑性と硬さのバランス確保、低融点油脂は組織の柔軟性、なめらかさの付与がそれぞれの役割となる。油中水型乳化物として求められる物性や風味を考慮したうえで、各融点の油脂が選択される。
【0003】
油中水型乳化物は、成形のしやすさや保形性を確保するため、一定の硬さが必要となる。一方で、パンへの塗布や生地への練りこみなどの作業性を確保するためには、可塑性や柔軟性も必要となり、本用途において過度な硬さは好ましくない。そのため、幅広い用途で使用するため、油中水型乳化物の硬さを適切な範囲に収める範囲がある。
【0004】
油中水型乳化物は、硬さや耐熱性の要望を満たす為、一定量の固形脂の配合が必要とされる場面が多い。この場合、固形脂の存在により喫食時の油性感が強くみずみずしさに欠ける、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸という忌避すべき脂肪酸が多くなるといった課題がある。これらの課題を回避するには、油中水型乳化物に含まれる油相の割合を減らした上で水相の割合を増やすことが考えられるが、この場合は乳化安定性が低下するため離水が発生し食品として流通できる安全性を損なうといった課題がある。
【0005】
油中水型乳化物の水相の割合を増やすことにより発生する課題の解決案として、水溶性食物繊維を高配合することで低油分化する手法(特許文献1、特許文献2)、レシチン以外の乳化剤を多量に配合することで水分比を高める手法(特許文献2)などが広く提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-195427号公報
【文献】特開2016-158572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2の従来技術は、乳化性向上のために水溶性食物繊維やレシチン以外の乳化剤を用いることが必要であるため、これらに由来する風味をマスキングするための風味調整が必要であることや、過剰な食品添加物表示を忌避するという、昨今の消費者需要にそぐわないという課題があり、併せて低油分化に伴い、油中水型乳化物に求められる離水抑制効果が不足する、或いは求められる物性(硬さ)が得られないという課題も生じていた。
従い、油中水型乳化物中の水相割合を高くした場合であっても、水溶性食物繊維とレシチン以外の乳化剤といった成分を実質的に用いることなく、離水抑制効果と求められる硬さを兼ね備えた、油中水型乳化物の提供が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、意外にも、特定の構成脂肪酸組成、ジグリセリド含量、トリグリセリド含量が一定の範囲となる油中水型乳化物用液状油脂を用いることにより、水相割合が高く、かつ水溶性食物繊維とレシチン以外の乳化剤を実質的に含まない油中水型乳化物であっても、離水抑制効果を有し、かつ求められる硬さを有する油中水型乳化物が得られることから、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、下記の発明を包含するものである。
(1) (A)~(D)全てを満たす、油中水型乳化物用液状油脂。
(A) 構成脂肪酸組成中、パルミチン酸とステアリン酸の含有量の合計が10~45重量%
(B) 構成脂肪酸組成中、オレイン酸とリノール酸の含有量の合計が55~80重量%
(C) ジグリセリドの含有量が8重量%以上
(D) SU2型トリグリセリドの含有量が30~70重量%
ただし、Sは炭素数16~22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数18の不飽和脂肪酸を、SU2型トリグリセリドはSが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリドを示す。
(2) 水溶性食物繊維及びレシチン以外の乳化剤を実質的に含まず、かつ(1)の油中水型乳化物用液状油脂を少なくとも含み、かつ水相の割合が25~70重量%である、油中水型乳化物。
(3) 水溶性食物繊維及びレシチン以外の乳化剤を実質的に含まず、かつ(2)の油中水型乳化物用液状油脂を少なくとも含み、かつ水相の割合が30~60重量%である、油中水型乳化物。
(4) 水溶性食物繊維及びレシチン以外の乳化剤を実質的に含まず、かつ(3)の油中水型乳化物用液状油脂を少なくとも含み、かつ水相の割合が35~55重量%である、油中水型乳化物。
(5) (2)の油中水型乳化物であって、該油中水型乳化物用液状油脂を5~50重量%含み、かつ油相が以下(a)~(c)を全て満たすことを特徴とする、油中水型乳化物。
(a) 完全溶解後に0℃で5分保持することにより生成する固体脂含量が15~40%
(b) 完全溶解後に5℃で7日保持することにより生成する固体脂含量が25~55%
(c) (b)/(a)比が0.9~1.4
(6) (3)の油中水型乳化物であって、該油中水型乳化物用液状油脂を5~50重量%含み、かつ油相が以下(a)~(c)を全て満たすことを特徴とする、油中水型乳化物。
(a) 完全溶解後に0℃で5分保持することにより生成する固体脂含量が15~40%
(b) 完全溶解後に5℃で7日保持することにより生成する固体脂含量が25~55%
(c) (b)/(a)比が0.9~1.4
(7) (4)の油中水型乳化物であって、該油中水型乳化物用液状油脂を5~50重量%含み、かつ油相が以下(a)~(c)を全て満たすことを特徴とする、油中水型乳化物。
(a) 完全溶解後に0℃で5分保持することにより生成する固体脂含量が15~40%
(b) 完全溶解後に5℃で7日保持することにより生成する固体脂含量が25~55%
(c) (b)/(a)比が0.9~1.4
(8) 炭素数14以下の脂肪酸を構成脂肪酸組成中に20重量%以上含む油脂を70重量%以下含有することを特徴とする、(5)の油中水型乳化物。
(9) 炭素数14以下の脂肪酸を構成脂肪酸組成中に20重量%以上含む油脂を65重量%以下含有することを特徴とする、(6)の油中水型乳化物。
(10) 炭素数14以下の脂肪酸を構成脂肪酸組成中に20重量%以上含む油脂を60重量%以下含有することを特徴とする、(7)の油中水型乳化物。
(11) 炭素数16以上の飽和脂肪酸を構成脂肪酸組成中に90重量%以上含む油脂を8重量%以下含有することを特徴とする、(5)の油中水型乳化物。
(12) 炭素数16以上の飽和脂肪酸を構成脂肪酸組成中に90重量%以上含む油脂を8重量%以下含有することを特徴とする、(6)油中水型乳化物。
(13) 炭素数16以上の飽和脂肪酸を構成脂肪酸組成中に90重量%以上含む油脂を8重量%以下含有することを特徴とする、(7)の油中水型乳化物。
(14) 炭素数16以上の飽和脂肪酸を構成脂肪酸組成中に90重量%以上含む油脂を8重量%以下含有することを特徴とする、(8)の油中水型乳化物。
(15) 炭素数16以上の飽和脂肪酸を構成脂肪酸組成中に90重量%以上含む油脂を8重量%以下含有することを特徴とする、(9)の油中水型乳化物。
(16) 炭素数16以上の飽和脂肪酸を構成脂肪酸組成中に90重量%以上含む油脂を8重量%以下含有することを特徴とする、(10)の油中水型乳化物。
(17) シアオレインである、(1)の油中水型乳化物用液状油脂。
(18) ランダムエステル交換により得られるエステル交換油を分別することにより得られる低融点部である、(1)の油中水型乳化物用液状油脂。
(19) 以下(A)~(D)全てを満たす液状油脂を用いることによる、油中水型乳化物の離水を抑制する方法。
(A) 構成脂肪酸組成中、パルミチン酸とステアリン酸の含有量の合計が10~45重量%
(B) 構成脂肪酸組成中、オレイン酸とリノール酸の含有量の合計が55~80重量%
(C) ジグリセリドの含有量が8重量%以上
(D) SU2型トリグリセリドの含有量が30~70重量%
ただし、Sは炭素数16~22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数18の不飽和脂肪酸を、SU2型トリグリセリドはSが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリドを示す。
(20) 油中水型乳化物の水相の割合が25~70重量%である、(19)の方法。
(21) 油中水型乳化物の水相の割合が30~60重量%である、(19)の方法。
(22) 油中水型乳化物の水相の割合が35~55重量%である、(19)の方法。
換言すれば、本発明は、下記の発明を包含するものである。
(1) 水相の割合が25~70重量%であり、かつ水溶性食物繊維及びレシチン以外の乳化剤を実質的に含まない油中水型乳化物に使用する、(A)~(D)全てを満たす油中水型乳化物用液状油脂。
(A) 構成脂肪酸組成中、パルミチン酸とステアリン酸の含有量の合計が10~45重量%
(B) 構成脂肪酸組成中、オレイン酸とリノール酸の含有量の合計が55~80重量%
(C) ジグリセリドの含有量が8重量%以上
(D) SU2型トリグリセリドの含有量が30~70重量%
ただし、Sは炭素数16~22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数18の不飽和脂肪酸を、SU2型トリグリセリドはSが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリドを示す。
(2) (1)の油中水型乳化物用液状油脂を5~50重量%含む油中水型乳化物であって、油相が以下(a)~(c)を全て満たすことを特徴とする、水相の割合が25~70重量%であり、かつ水溶性食物繊維とレシチン以外の乳化剤を実質的に含まない油中水型乳化物。
(a) 完全溶解後に0℃で5分保持することにより生成する固体脂含量が15~40%
(b) 完全溶解後に5℃で7日保持することにより生成する固体脂含量が25~55%
(c) (b)/(a)比が0.9~1.4
(3) 炭素数14以下の脂肪酸を構成脂肪酸組成中に20重量%以上含む油脂を70重量%以下含有することを特徴とする、(2)の油中水型乳化物。
(4) 炭素数16以上の飽和脂肪酸を構成脂肪酸組成中に90重量%以上含む油脂を8重量%以下含有することを特徴とする、(2)又は(3)の油中水型乳化物。
(5) シアオレインである、(1)の油中水型乳化物用液状油脂。
(6) ランダムエステル交換により得られるエステル交換油を分別することにより得られる低融点部である、(1)の油中水型乳化物用液状油脂。
(7) (1)の油中水型乳化物用液状油脂を用いることによる油中水型乳化物の離水を抑制する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、水溶性食物繊維とレシチン以外の乳化剤を実質的に使用せずに、適切な液状油脂の配合することにより、離水抑制効果と求められる硬さを兼ね備えた、水相割合の高い油中水型乳化物の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂及び油中水型乳化物に含まれる油相に使用可能な油脂類は、ハイエルシン菜種油、菜種油(キャノーラ油)、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、中鎖脂肪酸結合トリグリセリド(MCT)、シア脂、サル脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂を挙げる事ができる。本発明においては、これらから選ばれる1以上の油脂を分別、硬化、エステル交換から選ばれる1以上の加工を施したものも使用することができる。
【0013】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂は、25℃の固体脂含量が7%以下であることが好ましい。より好ましくは、25℃の固体脂含量が3%以下である。
【0014】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂は、構成脂肪酸組成中、パルミチン酸とステアリン酸の含有量の合計が10~45重量%である必要があり、好ましくは、15~43重量%であり、より好ましくは20~40重量%である。パルミチン酸とステアリン酸の含有量の合計が45重量%を超えると油相が硬く強固になりすぎるため、油中水型乳化物が離水しやすくなる場合がある。一方、10重量%未満では、硬さが不足する場合がある。
【0015】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂は、構成脂肪酸組成中、オレイン酸とリノール酸の含有量の合計が55~80重量%である必要があり、好ましくは、57~78重量%であり、より好ましくは59~75重量%である。オレイン酸とリノール酸の含有量の合計が80重量%を超えると液油成分が多くなりすぎるため、油中水型乳化物が保形できなくなる場合がある。一方、55重量%未満では、油相が硬く強固になりすぎるため、油中水型乳化物が離水しやすくなる場合がある。
【0016】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂は、構成脂肪酸組成中、飽和脂肪酸の含有量の合計が15~50重量%であることが好ましく、より好ましくは18~45重量%であり、更に好ましくは20~40重量%である。飽和脂肪酸の含有量の合計が50重量%を超えると油相が硬く強固になりすぎるため、油中水型乳化物が離水しやすくなる場合がある。一方、15重量%未満では、硬さが不足する場合がある。
【0017】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂は、構成脂肪酸組成中、トランス脂肪酸の含有量の合計が2重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5重量%以下であり、更に好ましくは1重量%以下である。
【0018】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂は、ジグリセリドの含有量が8重量%以上である必要があり、好ましくは8~25重量%であり、より好ましくは9~22重量%、さらに好ましくは9.5~20重量%である。ジグリセリドの含有量が8重量%未満では、十分な乳化性が得られず、油中水型乳化物が離水する場合がある。
【0019】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂は、SU2型トリグリセリドの含有量が30~70重量%である必要があり、好ましくは30~65重量%、より好ましくは30~60重量%である。SU2型トリグリセリドの含有量が70重量%を超えると可塑性が悪くなる場合がある。一方、30重量%未満では、硬さが不足する場合がある。
尚、Sは炭素数16~22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数18の不飽和脂肪酸を示し、SU2型トリグリセリドはSが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリドを示す。
【0020】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂は、PO2型トリグリセリドが2~30重量%であることが好ましく、より好ましくは2.5~28重量%、更に好ましくは3~26重量%である。PO2型トリグリセリドの含有量が30重量%を超えると可塑性が悪くなる場合がある。一方、2重量%未満では、硬さが不足する場合がある。
【0021】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂は、StO2型トリグリセリドが50重量%未満であることが好ましく、より好ましくは2~48重量%、更に好ましくは3~45重量%である、最も好ましくは4~42重量%である。StO2型トリグリセリドの含有量が50重量%を超えると可塑性が悪くなる場合がある。
【0022】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂は、BO2型トリグリセリドが10重量%未満であることが好ましく、より好ましくは5重量%未満、更に好ましくは2重量%未満、最も好ましくは0.5重量%未満である。BO2型トリグリセリドの含有量が10重量%を超えると可塑性が悪くなる場合がある。
【0023】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂は、S2U型トリグリセリドとSSS型トリグリセリドの含有量の合計が5~35重量%であることが好ましく、より好ましくは7~30重量%、更に好ましくは10~25重量%である。S2U型トリグリセリドとSSS型トリグリセリドの含有量が35重量%を超えると、油相が硬く強固になりすぎるため、油中水型乳化物が離水しやすくなる場合がある。一方、5重量%未満では、硬さが不足する場合がある。
尚、Sは炭素数16~22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数18の不飽和脂肪酸を示し、S2U型トリグリセリドはSが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリドを、SSS型トリグリセリドはSが3分子結合しているトリグリセリドを示す。
【0024】
本発明の油中水型乳化物用液状油脂は、シア脂を分別して得られる液体部分(シアオレイン)或いは、ランダムエステル交換により得られるエステル交換油を分別することにより得られる低融点部であることが好ましい。より好ましくは、シア脂を分別して得られる液体部分(シアオレイン)或いは、ラウリン酸含量が2重量%以下である油脂原料のみを混合しランダムエステル交換により得られるエステル交換油を分別することにより得られる低融点部である。
【0025】
本発明の油中水型乳化物に含まれる油相は、前項までに延べた油中水型乳化物用液状油脂、及び後述する油脂に加え、必要に応じて色素、抗酸化剤、香料等の油溶性成分を添加、溶解/分散させ調製することができる。
【0026】
本発明の油中水型乳化物には、水溶性食物繊維を実質的に含まない。
本発明において水溶性食物繊維とは、食物に含まれ、かつヒトの消化器官で消化・吸収されにくい難消化性炭水化物のうち、水溶性のものをいう。具体的には、イヌリン、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、寒天、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、ビートファイバー、キサンタンガム、グァーガム、グァーガム酵素分解物、難消化性でんぷん、プルラン等の難消化性の多糖類や、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖等の難消化性オリゴ糖類等を例示することができる。
水溶性食物繊維を実質的に含まないとは、水溶性食物繊維の油中水型乳化物中の含量が0.05重量%以下であることが必要であり、好ましくは0.01重量%以下、更に好ましくは0.001重量%以下である。最も好ましくは水溶性食物繊維を含まないことである。
【0027】
本発明の油中水型乳化物には、レシチン以外の乳化剤を実質的に含まない。
本発明においてレシチン以外の乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリソルベート等を例示することができる。
レシチン以外の乳化剤を実質的に含まないとは、レシチン以外の乳化剤の油中水型乳化物中の含量が0.01重量%以下であることが必要であり、好ましくは0.005重量%以下、更に好ましくは0.001重量%以下である。最も好ましくはレシチン以外の乳化剤を含まないことである。
【0028】
本発明の油中水型乳化物は、水溶性食物繊維及びレシチン以外の乳化剤を実質的に含まないという条件を満たす限り、水又は温水に水溶性の乳成分、大豆、アーモンド、ココア、オーツ麦由来の成分を含む水溶液や粉末などの風味原料を、加えて必要に応じて食塩、粉乳、水不溶性食物繊維、糖類、増粘剤、無機塩類、保存料、日持ち向上剤、呈味剤、香料や色素など通常用いられる原材料を添加、溶解/分散させ調製することができる。
【0029】
本発明の油中水型乳化物に含まれる水相は、油中水型乳化物全体に対し25~70重量%であることが好ましく、より好ましくは30~60重量%、更に好ましくは35~55重量%である。油中水型乳化物全体に対する水相の割合が70重量%を超えると、油中水型乳化物の乳化が不安定になり離水しやすくなる場合がある。一方、25重量%未満では、本発明の課題と相反する。
【0030】
本発明の油中水型乳化物の製造法については、特に限定されないが、常法通り油相と水相とを予備乳化した後、パーフェクター、ボテーター、コンビネーターなどで急冷捏和することにより製造することができる。
【0031】
本発明の油中水型乳化物に占める油中水型乳化物用液状油脂の割合は、5~50重量%であることが好ましく、さらに好ましくは7~45重量%、最も好ましくは9~40重量%である。油中水型乳化物に占める油中水型乳化物用液状油脂の割合が50重量%を超えると、求められる硬さが得られない場合がある。一方5重量%未満では、油相が硬く強固になりすぎるため、油中水型乳化物が離水しやすくなる場合がある。
【0032】
本発明の油中水型乳化物の油相の、完全溶解後に0℃で5分保持することにより生成する固体脂含量が15~40%であることが好ましく、より好ましくは17~37%、さらに好ましくは20~35%である。完全溶解後に0℃で5分保持することにより生成する固体脂含量が40%を超えると、油相が硬く強固になりすぎるため、油中水型乳化物が離水しやすくなる場合がある。一方、15%未満では、硬さが不足する場合がある。
【0033】
本発明の油中水型乳化物の油相の、完全溶解後に5℃で7日保持することにより生成する固体脂含量は25~55%であることが好ましく、より好ましくは25~52%、さらに好ましくは25~50%である。完全溶解後に5℃で7日保持することにより生成する固体脂含量が55%を超えると、油相が硬く強固になりすぎるため、油中水型乳化物が離水しやすくなる場合がある。一方、25%未満では、硬さが不足する場合がある。
【0034】
本発明の油中水型乳化物の油相の、完全溶解後に0℃で5分保持することにより生成する固体脂含量に対する、完全溶解後に5℃で7日保持することにより生成する固体脂含量の比は0.9~1.4であることが好ましく、より好ましくは1~1.37、さらに好ましくは1~1.35である。完全溶解後に0℃で5分保持することにより生成する固体脂含量に対する、完全溶解後に5℃で7日保持することにより生成する固体脂含量の比が1.4を超えると、油相が硬く強固になりすぎるため、油中水型乳化物が離水しやすくなる場合がある。一方、0.9未満では、硬さが不足する場合がある。
【0035】
本発明の油中水型乳化物には、構成脂肪酸組成中に炭素数14以下の脂肪酸を20重量%以上含む油脂を用いることができる。本発明の油中水型乳化物に構成脂肪酸組成中に炭素数14以下の脂肪酸を20重量%以上含む油脂を用いる場合、油中水型乳化物全体に占める当該油脂の配合割合は70重量%以下であることが好ましく、より好ましくは20~65重量%であり、更に好ましくは40~60重量%である。油中水型乳化物全体に占める当該油脂の配合割合が70重量%を超えると、油中水型乳化物用液状油脂の配合量が十分でなく油相が硬く強固になりすぎるため、油中水型乳化物が離水しやすくなる場合がある。
【0036】
本発明の油中水型乳化物には、炭素数16以上の飽和脂肪酸を構成脂肪酸組成中に90重量%以上含む油脂を用いることができる。本発明の油中水型乳化物に炭素数16以上の飽和脂肪酸を構成脂肪酸組成中に90重量%以上含む油脂を用いる場合、油中水型乳化物全体に占める当該油脂の配合割合は8重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%であり、更に好ましくは3重量%である。油中水型乳化物全体に占める当該油脂の配合割合が8重量%を超えると、油相が硬く強固になりすぎるため、油中水型乳化物が離水しやすくなる場合がある。
【0037】
本発明の油中水型乳化物の5℃における硬さは、200~1500gfであることが好ましく、より好ましくは300~1200gf、さらに好ましくは300~900gfである。油中水型乳化物の5℃における硬さが1500gfを超えると、均一に塗布することや生地に練りこむことが難しくなる場合がある。一方、油中水型乳化物の5℃における硬さが200gfを下回ると、成形性や保形性を損なう場合がある。
【実施例
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、特に明示しない限り、数値は重量基準を意味する。
【0039】
(脂肪酸組成の測定方法)
油脂の構成脂肪酸組成は、基準油脂分析試験法2.4.2.1-2013により測定した。
(ジグリセリド、トリグリセリド(TG)組成の測定方法)
油脂のジグリセリド及びトリグリセリド(TG)組成は、基準油脂分析法2.4.6.2-2013に準拠して高速液体クロマトグラフ法により測定した。測定条件は、(カラム;ODS、溶離液;アセトン/アセトニトリル=80/20、液量;0.9ml/分、カラム温度;25℃、検出器;示差屈折計)にて実施した。既知である精製パーム油及びパームスーパーオレインの測定結果を基準とし、ジグリセリド及びトリグリセリド分子種の同定、定量を行った。
(固体脂含量)
分析装置はBruker社製“minispecmq20”を使用した。固体脂含量の測定は、IUPAC2.150A (Solid Content Determination in Fats by NMR)に準じて行った。但し、本発明特有の固体脂含量の測定法は、下記の通りとした。
完全溶解後に0℃で5分保持することにより生成する固体脂含量については、規定のSFCチューブに油脂を入れ、60℃にて30分間保持したのち、0℃5分保持したサンプルを分析することにより測定した。
完全溶解後に5℃で7日保持することにより生成する固体脂含量については、規定のSFCチューブに油脂を入れ、60℃にて30分間保持したのち、5℃7日保持したサンプルを分析することにより測定した。
【0040】
(液状油脂1)
シア脂20重量%とアセトン80重量%を混合し、27.5℃で30分間攪拌しながらガム質を析出させ、その後静置し、沈降してきたガム質を濾過して脱ガムシア脂を得た。続いて、脱ガムシア脂とアセトンがそれぞれ18.5重量%、81.5重量%となるように混合し、弱い攪拌を加えながら徐々に温度を下げ、2.5℃到達後30分程度一定温度で保持し、得られた混合液を濾過することで液体部分(シアオレイン)と固体部分(シアステアリン)を得た。液体部分(分別低融点部)のシアオレインを定法により脱色脱臭し、これを液状油脂1とした。液状油脂1の25℃における固体脂含量は0.5%であった。
【0041】
(液状油脂2)
パーム油、パーム分別高融点部、ハイオレイックヒマワリ極度硬化油、ハイオレイックヒマワリ油からなる配合油(主要な脂肪酸組成はC16=48.6重量%、C18=15.1重量%、C18:1c=28.7重量%、C18:2c=5.0重量%であった。)を、ナトリウムメチラートを用いてランダムエステル交換し、アセトンにより分別して得られた低融点部を定法により脱色脱臭を行い、これを液状油脂2とした。液状油脂2の25℃における固体脂含量は1.2%であった。
【0042】
(液状油脂3)
パームミッドフラクション(PMF)を、アセトンにより分別して得られた低融点部を定法により脱色脱臭を行い、これを液状油脂3とした。液状油脂3の25℃における固体脂含量は1.3%であった。
【0043】
(液状油脂4)
ハイオレイックヒマワリ油とステアリン酸を、1,3位特異性を有するリパーゼを用いてエステル交換し、ヘキサンにより分別して得られた低融点部を定法により脱色脱臭し、これを液状油脂4とした。液状油脂4の25℃における固体脂含量は0.1%であった。
【0044】
(液状油脂5)
ハイオレイックヒマワリ油とベヘン酸を、1,3位特異性を有するリパーゼを用いてエステル交換し、ヘキサンにより分別して得られた低融点部を定法により脱色脱臭し、これを液状油脂5とした。液状油脂4の25℃における固体脂含量は5.7%であった。
【0045】
(液状油脂6~9)
以上の植物油脂に加え、液状油脂6として精製菜種油(不二製油株式会社製)、液状油脂7として食用こめ油(不二製油株式会社製)、液状油脂8として精製ハイオレイックヒマワリ油 (不二製油株式会社製)、液状油脂9としてヨウ素価67のパームスーパーオレイン(不二製油株式会社製)を用いた。液状油脂6~9の25℃における固体脂含量はいずれも0.5%以下であった。
【0046】
液状油脂1~9を用い、表1及び表2の通り油中水型乳化物用液状油脂実施例1~10、油中水型乳化物用液状油脂比較例1~5を調製した。
【0047】
(表1)

【0048】
(表2)

【0049】
表1及び表2に示す油中水型乳化物用液状油脂実施例1~10、油中水型乳化物用液状油脂比較例1~5の脂肪酸組成、トリグリセリド組成を表3及び表4に示す。
尚、トリグリセリド組成の略号の示す構造は下記の通りである。
・PO2 Pが1分子、Oが2分子結合しているトリグリセリド。
・StO2 Stが1分子、Oが2分子結合しているトリグリセリド。
・BO2 Bが1分子、Oが2分子結合しているトリグリセリド。
ここで、トリグリセリドを構成する脂肪酸について、Pはパルミチン酸を、Stはステアリン酸を、Bはベヘン酸を、Oはオレイン酸を、Lはリノール酸を示すものとする。各脂肪酸が1位~3位のいずれに結合されているかについては、考慮しない。
【0050】
(表3)

【0051】
(表4)

【0052】
(組成分析値の評価)
下記(A)~(D)の数値で評価した。
(A) 構成脂肪酸組成中、パルミチン酸とステアリン酸の含有量の合計が10~40重量%
(B) 構成脂肪酸組成中、オレイン酸とリノール酸の含有量の合計が55~80重量%
(C) ジグリセリドの含有量が8重量%以上
(D) SU2型トリグリセリドの含有量が30~60重量%
【0053】
(表3及び表4の考察)
・油中水型乳化物用液状油脂実施例1~10は、前記(A)~(D)の数値範囲を全て満たした。
・油中水型乳化物用液状油脂比較例1は、前記(A)~(D)の数値範囲をいずれも満たさなかった。
・油中水型乳化物用液状油脂比較例2は、前記(C)の数値範囲を満たさなかった。
・油中水型乳化物用液状油脂比較例3は、前記(A)及び(B)の数値範囲を満たさなかった。
・油中水型乳化物用液状油脂比較例4は、前記(C)及び(D)の数値範囲を満たさなかった。
・油中水型乳化物用液状油脂比較例5は、前記(A)及び(C)の数値範囲を満たさなかった。
【0054】
(製造例1)
パーム油、パーム分別高融点部、パーム核分別低融点部からなる配合油(主要な脂肪酸組成はC12=15.6重量%、C16=33.8重量%、C18=4.0重量%、C18:1c=31.0重量%、C18:2c=6.7重量%であった。)を、ナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行い、常法により脱色脱臭を行い、固形油脂製造例1を得た。
【0055】
(製造例2)
パーム分別低融点部、パーム極度硬化油、パーム核分別低融点部、ハイオレイックひまわり油、ハイオレイックひまわり極度硬化油からなる配合油(主要な脂肪酸組成はC12=17.6重量%、C14=5.9重量%、C16=20.9重量%、C18=21.8重量%、C18:1c=24.9重量%、C18:2c=5.0重量%であった。)を、ナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行い、常法により脱色脱臭を行い、固形油脂製造例2を得た。
【0056】
植物油脂として、油中水型乳化物用液状油脂実施例1~10、油中水型乳化物用液状油脂比較例1~5、固形油脂製造例1~2の他、精製パーム核油(主要な脂肪酸組成としてC12=47.7重量%であった。不二製油株式会社製)、ハイエルシン酸菜種極度硬化油(構成脂肪酸組成中の炭素数16以上の飽和脂肪酸含量は99.7重量%であった。不二製油株式会社製)を用いた。また、動物油脂として、乳脂(バターオイル、Friesland Campina Butter製)を用いた。
下記表5~表7と「油中水型乳化物の調製方法」に従い、油中水型乳化物(油中水型乳化物実施例1~17、油中水型乳化物比較例1~9)を調製した。
【0057】
(表5)

【0058】
(表6)

【0059】
(表7)
【0060】
(油中水型乳化物の調製法)
1.油脂混合物を60~70℃で融解し油相を調製した。
2.攪拌中の油相へ水相を添加し、混合した。
3.混合液を撹拌しながら氷水にて急冷固化し、油中水型乳化物を得た。
【0061】
表5~表7に示す油中水型乳化物実施例1~17、油中水型乳化物比較例1~9の油相部分について別途調製し、完全溶解後に0℃で5分保持することにより生成する固体脂含量、完全溶解後に5℃で7日保持することにより生成する固体脂含量、及びこれらの比を測定し、併せて物性分析値の評価に従い、評価した。測定結果は表8~表10に示す。
【0062】
(物性分析値の評価)
油中水型乳化物の油相部分について、下記(a)~(c)の数値で評価した。
(a) 完全溶解後に0℃で5分保持することにより生成する固体脂含量が15~40%
(b) 完全溶解後に5℃で7日保持することにより生成する固体脂含量が25~55%
(c) (b)/(a)比が0.9~1.4
【0063】
表5~表7に示す油中水型乳化物実施例1~17、油中水型乳化物比較例1~9について、離水評価方法及び硬さの測定方法に従い、離水評価及び硬さを測定し、併せて離水評価基準、硬さの評価基準に従い、評価した。測定結果は表8~表10に示す。
【0064】
(離水評価方法)
得られた油中水型乳化物を5℃温調庫内で3日間静置した後、金属製ヘラで割断した表面の離水の有無、油中水型乳化物を押し潰したときの離水発生有無を目視確認した。
【0065】
(硬さの測定方法)
1.測定試料を縦5cm×横5cm×高さ5cmとなるように成型した。
2.5℃の温調庫へ移し、24時間~48時間放置した。
3.レオメーター(株式会社レオテック製、RTC-3002D)により、プランジャー径3mm、侵入速度5cm/minにて硬さを測定した。
【0066】
(離水評価基準)
評価は日々、油中水型乳化物の開発に従事し、油中水型乳化物の試作を行っているパネラー5名により下記の評価基準に基づき、実施した。パネラー5名による合議を経て8点以上を合格とした。
・10点:割断表面の水滴は全く見られず、押し潰しても離水は発生せず組織が均一。
・8点:割断表面の水滴は見られず押し潰しても離水は発生しないが、組織が不均一で離水しかけている箇所が一部みられる。
・6点:割断表面の水滴は見られないが、押し潰すと離水が発生する。
・4点:割断表面に少量の水滴が見られ、押し潰すと離水が発生する。
・2点:割断表面に滴るほどの多量の離水が見られ、押し潰すとさらに多量の離水が発生する。
【0067】
(硬さの評価基準)
得られた硬さについて、300gf~1200gfを良好な硬さ範囲とした。
【0068】
(表8)

【0069】
(表9)

【0070】
(表10)
【0071】
(表8~表10の油相部分の物性分析値の評価についての考察)
・油中水型乳化物実施例1~17は、前記(a)~(c)の数値範囲を全て満たした。
・油中水型乳化物比較例1、同比較例6は、前記(a)及び(b)の数値範囲を満たさなかった。
・油中水型乳化物比較例2~5、同比較例9は、前記(c)の数値範囲を満たさなかった。
・油中水型乳化物比較例7は、前記(a)~(c)の数値範囲を全て満たさなかった。
・油中水型乳化物比較例8は、前記(a)の数値範囲を満たさなかった。
【0072】
(表8~表10の油中水型乳化物の硬さ(gf)評価及び離水評価についての考察)
・油中水型乳化物実施例1~17は、硬さも良好な範囲であり、かつ離水評価も良好である好適な油中水型乳化物を得ることができた。
・油中水型乳化物比較例1、同比較例3は、硬さは良好な範囲であるものの、離水評価が不良であり、好適な油中水型乳化物を得ることができなかった。
・油中水型乳化物比較例2、同比較例4~9は、硬さは良好な範囲ではなく、かつ離水評価が不良であり、好適な油中水型乳化物を得ることができなかった。
【0073】
油中水型乳化物実施例3、同比較例1、同比較例2を対象とし、後述のパイロットスケールの油中水型乳化物の試作方法に基づき、パイロットスケールのマーガリン製造装置であるコンビネーターを用い、油中水型乳化物を試作する試験を行ったところ、先述のラボテストと同様の傾向を得ることができたことを確認できた。
【0074】
(パイロットスケールの油中水型乳化物の試作方法)
1.油脂混合物を60~70℃で融解し油相を調製した。
2.水に、水相原料に分類される原料を添加、溶解した。
3.攪拌中の油相へ水相を添加し、混合した。ここで得られる混合液を調合液と称する。
4.調合液をコンビネーターへ供して、油中水型乳化物を得た。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により、特定の構成脂肪酸組成、ジグリセリド含量、トリグリセリド含量が一定の範囲となる油中水型乳化物用液状油脂を用いることにより、水相割合が高く、かつ水溶性食物繊維及びレシチン以外の乳化剤を実質的に含まない油中水型乳化物であっても、離水抑制効果を有し、かつ求められる硬さを有する油中水型乳化物を得ることが可能となる。